(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104215
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】垂直離着陸機の位置制御システム、垂直離着陸機及び垂直離着陸機の位置制御方法
(51)【国際特許分類】
B64C 29/00 20060101AFI20240726BHJP
B64U 10/20 20230101ALI20240726BHJP
B64U 70/80 20230101ALI20240726BHJP
B64C 13/18 20060101ALI20240726BHJP
B64F 1/12 20060101ALI20240726BHJP
B64C 25/04 20060101ALI20240726BHJP
G05D 1/46 20240101ALI20240726BHJP
G08G 5/02 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
B64C29/00 A
B64U10/20
B64U70/80
B64C13/18 F
B64C13/18 E
B64F1/12
B64C25/04
G05D1/10
G08G5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008332
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 啓貴
【テーマコード(参考)】
5H181
5H301
【Fターム(参考)】
5H181AA26
5H181BB04
5H181CC04
5H181CC12
5H181FF04
5H181FF05
5H181LL09
5H301AA07
5H301BB14
5H301BB20
5H301CC04
5H301CC07
5H301CC10
5H301DD08
5H301DD17
5H301FF11
5H301GG09
5H301GG14
(57)【要約】
【課題】垂直離着陸機の位置制御システム、垂直離着陸機及び垂直離着陸機の位置制御方法において、垂直離着陸機と着陸目標点との間の相対高度が変動しても、垂直離着陸機を着陸目標点に好適に追従させることができる。
【解決手段】垂直離着陸機と着陸目標点との間の相対位置に基づいて相対速度を取得する相対速度取得部と、垂直離着陸機と着陸目標点との間の相対位置に基づいて相対高度を取得する相対高度取得部と、相対速度と相対高度とに基づいて垂直離着陸機と着陸目標点との接触を判定する接触判定部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直離着陸機と着陸目標点との間の相対位置に基づいて相対速度を取得する相対速度取得部と、
前記垂直離着陸機と前記着陸目標点との間の相対位置に基づいて相対高度を取得する相対高度取得部と、
前記相対速度と前記相対高度とに基づいて前記垂直離着陸機と前記着陸目標点との接触を判定する接触判定部と、
を備える垂直離着陸機の位置制御システム。
【請求項2】
前記接触判定部は、前記垂直離着陸機が前記着陸目標点に対する接触を回避するための上昇が必要か否かを判定する、
請求項1に記載の垂直離着陸機の位置制御システム。
【請求項3】
前記接触判定部は、前記相対速度に対する前記相対高度に制限値を設定し、前記制限値は、前記相対速度の増加に応じて増加する制限値として設定され、前記相対速度に対する前記相対高度が前記制限値を下回ると前記垂直離着陸機と前記着陸目標点との接触を回避するための上昇が必要であると判定する、
請求項1に記載の垂直離着陸機の位置制御システム。
【請求項4】
前記接触判定部は、前記垂直離着陸機と前記着陸目標点との接触を回避するための上昇が必要であると判定したとき、前記垂直離着陸機を特定の速度で上昇させる信号を出力する、
請求項1または請求項2に記載の垂直離着陸機の位置制御システム。
【請求項5】
前記接触判定部は、前記垂直離着陸機と前記着陸目標点との接触を回避するための上昇が必要であると判定した後に前記着陸目標点の動揺が収束すると、前記垂直離着陸機を上昇前の高度まで下降させる信号を出力する、
請求項4に記載の垂直離着陸機の位置制御システム。
【請求項6】
前記相対高度と前記垂直離着陸機の垂直加速度とに基づいて着陸目標点の動揺量を推定する動揺量推定処理部と、前記動揺量に基づいて前記垂直離着陸機と前記着陸目標点との間の目標となる目標相対高度を算出する目標情報生成部と、予め設定された目標相対高度を前記目標情報生成部の算出値により補正する補正部とを有する、
請求項1に記載の垂直離着陸機の位置制御システム。
【請求項7】
垂直離着陸機と着陸目標点との間の相対位置に基づいて相対速度を取得する相対速度取得部と、
前記垂直離着陸機と前記着陸目標点との間の相対位置に基づいて相対高度を取得する相対高度取得部と、
前記相対高度と前記垂直離着陸機の垂直加速度とに基づいて着陸目標点の動揺量を推定する動揺量推定処理部と、
前記動揺量に基づいて前記垂直離着陸機と前記着陸目標点との間の目標となる目標相対高度を算出する目標情報生成部と、
を備える垂直離着陸機の位置制御システム。
【請求項8】
請求項1に記載の垂直離着陸機の位置制御システムを備える垂直離着陸機。
【請求項9】
垂直離着陸機と着陸目標点との間の相対位置に基づいて相対速度を取得するステップと、
前記垂直離着陸機と前記着陸目標点との間の相対位置に基づいて相対高度を取得するステップと、
前記相対速度と前記相対高度とに基づいて前記垂直離着陸機と前記着陸目標点との接触を判定するステップと、
を有する垂直離着陸機の位置制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、垂直離着陸機の位置制御システム、垂直離着陸機及び垂直離着陸機の位置制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、垂直離着陸機を目標地点へと誘導するための技術が知られている。このような技術として、例えば、特許文献1に記載されたものがある。特許文献1の垂直離着陸機の位置制御システムは、垂直離着陸機と着陸目標点との間の相対位置とに基づいて着陸目標点の動揺量を推定し、動揺量に基づいて垂直離着陸機と前記着陸目標点との目標相対位置と目標相対速度を算出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の垂直離着陸機の位置制御システムは、垂直離着陸機と着陸目標点との間における水平方向の相対位置に基づいて動揺量を推定し、動揺量に基づいて目標相対位置と目標相対速度を算出している。垂直離着陸機が目標地点へ着陸するとき、船舶の揺動などにより垂直離着陸機と目標地点との相対高度が変動することから、垂直離着陸機と目標地点との接触を考慮する必要がある。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、垂直離着陸機と着陸目標点との間の相対高度が変動しても、垂直離着陸機を着陸目標点に好適に追従させることができる垂直離着陸機の位置制御システムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本開示の垂直離着陸機の位置制御システムは、垂直離着陸機と着陸目標点との間の相対位置に基づいて相対速度を取得する相対速度取得部と、前記垂直離着陸機と前記着陸目標点との間の相対位置に基づいて相対高度を取得する相対高度取得部と、前記相対速度と前記相対高度とに基づいて前記垂直離着陸機と前記着陸目標点との接触を判定する接触判定部と、を備える。
【0007】
また、本開示の垂直離着陸機は、垂直離着陸機の位置制御システムを備える。
【0008】
また、本開示の垂直離着陸機の位置制御方法は、垂直離着陸機と着陸目標点との間の相対位置に基づいて相対速度を取得するステップと、前記垂直離着陸機と前記着陸目標点との間の相対位置に基づいて相対高度を取得するステップと、前記相対速度と前記相対高度とに基づいて前記垂直離着陸機と前記着陸目標点との接触を判定するステップと、を有する垂直離着陸機の位置制御方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示の垂直離着陸機の位置制御システム、垂直離着陸機及び垂直離着陸機の位置制御方法によれば、垂直離着陸機と着陸目標点との間の相対高度が変動しても、垂直離着陸機を着陸目標点に好適に追従させることができることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態にかかる垂直離着陸機の位置制御システムの一例を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、本実施形態にかかる垂直離着陸機が着陸目標点に向かう様子を示す説明図である。
【
図3】
図3は、着陸目標点に設けられるマーカーの一例を示す説明図である。
【
図4】
図4は、本実施形態にかかる垂直離着陸機の着陸制御方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本実施形態にかかる垂直離着陸機の着陸動作を示す説明図である。
【
図6】
図6は、動揺する着陸目標点に垂直離着陸機を追従させる水平位置制御の一例のブロック図である。
【
図7】
図7は、動揺する着陸目標点に垂直離着陸機を追従させる鉛直位置制御の一例のブロック図である。
【
図8】
図8は、垂直離着陸機と着陸目標点との接触判定を説明するための説明図である。
【
図9】
図9は、衝突回避領域の設定方法を説明するための説明図である。
【
図10】
図10は、動揺量推定処理及び目標情報生成処理の一例を示すブロック図である。
【
図11】
図11は、垂直離着陸機の着陸時における目標高度と着陸目標点と相対高度との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照して、本開示の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0012】
[実施形態]
図1は、本実施形態にかかる垂直離着陸機の位置制御システムの一例を示す概略構成図であり、
図2は、本実施形態にかかる垂直離着陸機が着陸目標点に向かう様子を示す説明図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の垂直離着陸機1は、回転翼機としての飛行体(例えば、ヘリコプタ、ドローン等)である。本実施形態において、垂直離着陸機1は、無人機である。なお、垂直離着陸機1は、前進、後進、横進、旋回、ホバリングが可能な飛行体であればよく、有人機であってもよい。垂直離着陸機1は、位置制御システム100を搭載しており、位置制御システム100により飛行が制御され、
図2に示す着陸目標点2に着地する。
【0014】
(着陸目標点)
図2に示すように、着陸目標点2は、船舶5上に設けられている。このため、垂直離着陸機1は、水上を移動する移動体としての船舶5に着地(着船)する。なお、船舶5には、図示省略するが、着陸目標点2に垂直離着陸機1を着地させた際に、垂直離着陸機1を拘束するための拘束装置が設けられている。ただし、着陸目標点2は、船舶5に限らず、地上を移動する移動体としての車両等に設けられてもよいし、移動しない設備、地面に設けられてもよい。
【0015】
着陸目標点2は、垂直離着陸機1が着陸目標点2の位置を捕捉するためのマーカー7が設けられている。
図3は、着陸目標点に設けられるマーカーの一例を示す説明図である。
図3に示すように、マーカー7は、例えば、白黒の2色で色分けされたARマーカーであり、正方形状のマーカーである。なお、マーカー7は、ARマーカーに限らず、画像処理により着陸目標点2の位置を捕捉することができるマーカーであればよく、例えば、ヘリポートの着地点を示すHマーク、Rマーク等であってもよい。また、マーカー7は、船舶5に異なる形状のマーカーが複数設けられてもよく、垂直離着陸機1は、異なるマーカー7のいずれかに対応した着陸目標点2に誘導されるものであってもよい。また、本実施形態では、着陸目標点2の位置を捕捉するために、船舶5にマーカー7を設けたが、着陸目標点2の位置を取得可能な構成であれば、特に限定されない。
【0016】
(位置制御システム)
図1に示すように、垂直離着陸機1の位置制御システム100は、飛行中の垂直離着陸機1を着陸目標点2に着地させるために、垂直離着陸機1の位置を制御するシステムである。位置制御システム100は、垂直離着陸機1に搭載される。位置制御システム100は、カメラ10と、航法装置20と、制御部30とを備える。なお、位置制御システム100は、制御装置であり、制御装置は、コントローラであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などにより、記憶部に記憶されている各種プログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。
【0017】
カメラ10は、垂直離着陸機1に図示しないジンバルを介して搭載された撮影装置である。カメラ10は、マーカー7を撮影することができれば、単眼カメラ、複眼カメラ、赤外線カメラ等であってもよい。カメラ10は、垂直離着陸機1から着陸目標点2に設けられたマーカー7を撮影するために設けられる。カメラ10は、図示しないジンバルを介して撮影方向を調整可能とされている。本実施形態において、カメラ10は、その撮影範囲B(
図2参照)が、一例として、鉛直方向の真下を向くように制御部30によって制御される。なお、カメラ10は、撮影範囲Bが、鉛直方向に対して斜め前方側を向くように制御部30によって制御されてもよい。また、カメラ10は、ジンバルを省いてもよく、撮影方向が鉛直方向の下方側を向くように、垂直離着陸機1の機体直下に固定してもよい。
【0018】
航法装置20は、例えば、慣性航法装置(Inertial Navigation System)である。なお、本実施形態において、航法装置20は、慣性航法装置に適用して説明するが、特に限定されず、いずれの航法装置20を用いてもよい。また、航法装置20は、位置の計測精度を向上させるために、GPS(Global Positioning System)を含んだ慣性航法装置としてもよい。本実施形態では、GPSを含んだ慣性航法装置に適用して説明するが、GPSに特に限定されず、精度よく位置を計測可能な位置計測部であればよく、例えば、準天頂衛星システムを用いたものであってもよいし、航法装置20のみで精度よく位置を計測可能であれば、GPS等の位置計測部を省いた構成であってもよい。
【0019】
GPSを含んだ航法装置20は、垂直離着陸機1のロール方向、ヨー方向およびピッチ方向の姿勢角、垂直離着陸機1の機体速度、慣性速度、機体加速度、機首方位および地球座標系における位置座標等を取得する。なお、航法装置20は、垂直離着陸機1の姿勢角を検出する姿勢角センサ、垂直離着陸機1の機体速度を検出する速度センサ、垂直離着陸機1の機体加速度を検出する加速度センサ、垂直離着陸機1の機首方位を検出するセンサを有するものであってもよい。航法装置20は、取得した垂直離着陸機1の姿勢角、機体速度、慣性速度、機体加速度、機首方位および位置座標を、制御部30に出力する。このように、航法装置20は、垂直離着陸機1の加速度を取得する加速度取得部、垂直離着陸機1の姿勢を取得する姿勢取得部、垂直離着陸機1の慣性速度を取得する慣性速度取得部として機能している。
【0020】
また、位置制御システム100は、垂直離着陸機1の地表面または水面からの高度を検出する高度センサ25を備えている。高度センサ25は、例えば、レーザ高度計であり、垂直離着陸機1から着陸目標点2までの相対高度Δh(
図2参照)を計測している。なお、高度センサ25としては、電波高度計を用いてもよいし、気圧高度計を用いてもよく、いずれの高度計を用いてもよい。また、これらの高度計を、使用環境に応じて、すなわち地表面からの高度、海面からの高度を計測するために、適宜組み合わせて適用してもよい。高度センサ25は、検出した垂直離着陸機1の相対高度Δhを制御部30に出力する。なお、高度センサ25は、垂直離着陸機1の高度を計測して制御部30に出力し、制御部30は、後述する誘導演算部34において、垂直離着陸機1の高度に基づいて、着陸目標点2までの相対高度Δhを算出するものであってもよい。また、位置制御システム100は、高度センサ25に限らず、後述する画像処理部32において、カメラ10で撮影したマーカー7を含む画像に画像処理を施すことで、垂直離着陸機1と船舶5との相対高度Δhを算出するものであってもよい。
【0021】
(制御部)
制御部30は、画像処理部32と、誘導演算部34と、飛行制御部36とを有する。なお、制御部30は、垂直離着陸機1に設けられた図示しないジンバルを介して、カメラ10の撮影方向を制御する図示しない撮影制御部を備えている。本実施形態では、上述したように、カメラ10の撮影範囲Bが鉛直方向の真下を向くように調整される。なお、本開示の垂直離着陸機の位置制御システムは、垂直離着陸機1の垂直方向における制御を目的とするものであり、この制御では、カメラ10や画像処理部32が不要となる。
【0022】
(画像処理部)
画像処理部32は、カメラ10で撮影された画像に画像処理を施して、マーカー7すなわち着陸目標点2の中心(Cx、Cy)(
図3参照)を算出する。ここでの中心(Cx、Cy)は、カメラ10で撮影された画像の中心を原点とするカメラ固定座標系における座標点であり、画像中心からの画素数により算出することができる。具体的に、画像処理部32は、
図3に示すように、画像処理によってマーカー7の角部同士の間を延びる対角線Ldを2つ特定し、特定した2つの対角線Ldの交点をマーカー7の中心(Cx、Cy)とする。なお、着陸目標点2は、マーカー7の中心(Cx、Cy)に限定されず、マーカー7の四隅のいずれかであってもよいし、マーカー7の中心からオフセットした位置であってもよい。画像処理部32は、算出したマーカー7の中心(Cx、Cy)を誘導演算部34に出力する。なお、画像処理部32は、着陸目標点2の中心(Cx、Cy、Cz)を算出して誘導演算部34に出力してもよい。
【0023】
また、画像処理部32は、カメラ10で撮影したマーカー7を含む画像に画像処理を施すことで、マーカー7の向きを特定し、航法装置20で取得される垂直離着陸機1の機首方位と対応づけることで、船舶5の船首方位を算出してもよい。なお、画像処理部32は、上述したように、カメラ10で撮影したマーカー7を含む画像に画像処理を施すことで、垂直離着陸機1と船舶5との相対高度Δhを算出するものであってもよい。
【0024】
(誘導演算部)
図1に示すように、誘導演算部34は、垂直離着陸機1を着陸目標点2に誘導するための垂直離着陸機1の制御量を算出する。制御量は、垂直離着陸機1の機体速度、姿勢角、姿勢角の変化レート等を調整するための制御量である。誘導演算部34は、制御量を算出するために、垂直離着陸機1と着陸目標点2との相対座標位置を算出する。具体的に、誘導演算部34は、相対座標位置として、垂直離着陸機1と着陸目標点2との相対位置(X、Y)、垂直離着陸機1と着陸目標点2との相対高度Δhを算出する。また、誘導演算部34は、垂直離着陸機1と着陸目標点2との相対速度等を算出する。相対位置(X、Y)は、水平方向における垂直離着陸機1と着陸目標点2との距離となる。相対高度Δhは、鉛直方向における垂直離着陸機1と着陸目標点2との距離となる。
【0025】
誘導演算部34は、画像処理部32で算出されたマーカー7の中心(Cx、Cy)と、カメラ10の方位すなわち垂直離着陸機1の機首方位と、垂直離着陸機1の高度(着陸目標点2に対する相対高度Δh)とに基づいて、垂直離着陸機1と着陸目標点2との相対位置(X、Y)を算出する。なお、本実施形態では、カメラ10の方位と垂直離着陸機1の機首方位とを一致させているが、特に限定されず、カメラ10の方位と垂直離着陸機1の機首方位とを一致させなくてもよい。このように、画像処理部32および誘導演算部34は、垂直離着陸機1と着陸目標点2との相対位置を取得する。
【0026】
また、誘導演算部34は、高度センサ25で検出された垂直離着陸機1の高度に基づいて、着陸目標点2までの相対高度Δhを算出する。したがって、高度センサ25および誘導演算部34は、垂直離着陸機1と着陸目標点2との相対高度Δhを取得する。なお、画像処理部32において、カメラ10で撮影したマーカー7を含む画像に画像処理を施すことで、垂直離着陸機1と船舶5との相対高度Δhを算出してもよい。
【0027】
また、誘導演算部34は、垂直離着陸機1と着陸目標点2との相対速度を算出する。したがって、誘導演算部34は、垂直離着陸機1と着陸目標点2との相対速度を取得する。より詳細には、誘導演算部34は、相対位置(X、Y)と機体速度(Vx、Vy)とに基づいて、垂直離着陸機1と着陸目標点2との相対速度(ΔVx、ΔVy)を算出する相対速度推定処理を実行する。また、高度センサ25で検出された垂直離着陸機1の高度に基づいて相対垂直速度(ΔVz)を算出する推定処理を実行する。したがって、誘導演算部34は、垂直離着陸機1と着陸目標点2との相対速度(ΔVx、ΔVy、ΔVz)を取得する。
【0028】
そして、誘導演算部34は、相対位置(X、Y)、相対高度Δh、相対速度(ΔVx、ΔVy、ΔVz)および機体加速度に基づいて、垂直離着陸機1の安定化、姿勢や高度の保持及び着陸目標点2への誘導等のフィードバック制御(例えばPID制御)を行うための制御量を算出する。なお、フィードバック制御は、PID制御に限らず、P制御、PI制御、PD制御等であってもよい。誘導演算部34は、算出した制御量C(
図6参照)を飛行制御部36に出力する。
【0029】
(飛行制御部)
飛行制御部36は、誘導演算部34で算出された制御量にしたがって、垂直離着陸機1の各構成要素を制御して垂直離着陸機1を飛行させる。飛行制御部36は、制御量にしたがって各回転翼のブレードピッチ角、回転数等を制御し、垂直離着陸機1の機体速度、姿勢角、姿勢角の変化レート等を調整する。それにより、垂直離着陸機1は、着陸目標点2へと誘導される。なお、本実施形態では、画像処理部32および誘導演算部34を飛行制御部36とは別の機能部として説明するが、飛行制御部36、画像処理部32および誘導演算部34は、一体の機能部であってもよい。すなわち、飛行制御部36において画像処理部32および誘導演算部34の処理を行ってもよい。
【0030】
(垂直離着陸機の着陸制御方法)
次に、本実施形態にかかる垂直離着陸機の着陸制御方法として、制御部30により垂直離着陸機1を着陸目標点2へと誘導して着陸させるための手順について説明する。
図4は、本実施形態にかかる垂直離着陸機の着陸制御方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図5は、本実施形態にかかる垂直離着陸機の着陸動作を示す説明図である。
【0031】
先ず、
図4及び
図5に示すように、垂直離着陸機1は、飛行状態から、船舶5に着陸(着船)する一連の着陸動作において、複数の制御モードを実行する。具体的に、垂直離着陸機1は、アプローチモードを実行するステップS1と、高高度ホバリングモードを実行するステップS2と、低高度ホバリングモードを実行するステップS3と、着陸モードを実行するステップS4とを順に行うことで、一連の着陸動作を行っている。また、垂直離着陸機1は、高高度ホバリングモード、及び低高度ホバリングモードの実行を中断して、着陸動作を中断する非常モードを実行するステップを行っている。
【0032】
図5に示すように、アプローチモードは、船舶5からの指令により、垂直離着陸機1を船舶5の甲板上に進入させ、着陸目標点2となるマーカー7上において、垂直離着陸機1をホバリングさせるモードとなっている。高高度ホバリングモードは、垂直離着陸機1が、甲板上のマーカー7をカメラ10により捕捉し、マーカー7の中心となる着陸目標点2がカメラ10の撮影範囲(画角)Bの中心にくるように、ホバリングするモードとなっている。低高度ホバリングモードは、垂直離着陸機1が降下を行い、高高度ホバリングモードよりも低高度でホバリングを行うモードとなっている。着陸モードは、垂直離着陸機1が着陸目標点2に着陸するモードとなっている。非常モードは、船舶5への垂直離着陸機1の着陸動作を中断して上昇するモードとなっている。
【0033】
(垂直離着陸機の水平位置制御)
図6は、動揺する着陸目標点に垂直離着陸機を追従させる水平位置制御の一例のブロック図である。
【0034】
図6に示すように、垂直離着陸機1の水平位置制御では、低高度ホバリングモードにて、誘導演算部34が、動揺による着陸目標点2の動きに合わせて、垂直離着陸機1の水平位置を追従させる目標点追従ホバリングに関する水平位置制御を行っている。このため、誘導演算部34は、目標点追従ホバリングを実行するための垂直離着陸機1の制御量Cを算出している。なお、
図6では、ピッチ軸の方向となるX方向の成分と、ロール軸の方向となるY方向の成分とを併記して図示しており、誘導演算部34により各成分の制御量をそれぞれ算出している。
【0035】
(相対位置に関する目標点追従ホバリング)
図6では、垂直離着陸機1が動揺により変化する着陸目標点2に追従するように、目標点追従ホバリングに関する水平位置制御を実行している。誘導演算部34は、加速度補正処理部41と、平滑化処理部43と、カルマンフィルタ46と、相対速度推定処理部47と、動揺量推定処理部51と、目標情報生成処理部52と、切替スイッチ53と、減算回路部54と、フィードバック制御部55とを備えている。なお、加速度補正処理部41、平滑化処理部43、カルマンフィルタ46、相対速度推定処理部47、動揺量推定処理部51、目標情報生成処理部52、切替スイッチ53、減算回路部54及びフィードバック制御部55は、誘導演算部34により実現されていてもよいし、誘導演算部34とは別体の処理部によって実現されていてもよいし、それらの組み合わせによって実現されていてもよく、特に限定されない。
【0036】
加速度補正処理部41は、垂直離着陸機1の加速度と垂直離着陸機1の姿勢とに基づいて、垂直離着陸機1の加速度を補正した姿勢補正加速度を出力している。姿勢補正加速度とは、機体軸座標系の加速度を、垂直離着陸機1の姿勢角に基づいて座標変換を行い、慣性空間座標系の加速度に変換したものである。具体的に、加速度補正処理部41には、航法装置20において取得された垂直離着陸機1の加速度が入力され、また、航法装置20において取得された垂直離着陸機1の姿勢角が入力される。入力される加速度としては、縦方向(機体座標系における前後方向)、横方向(機体座標系における左右方向)、及び垂直方向(機体座標系における上下方向)の加速度である。また、入力される姿勢角としては、ピッチ軸、ロール軸及びヨー軸における姿勢角である。加速度補正処理部41は、垂直離着陸機1の加速度と垂直離着陸機1の姿勢角とが入力されると、縦方向及び横方向における垂直離着陸機1の加速度を補正した姿勢補正加速度を算出する。加速度補正処理部41は、算出した姿勢補正加速度を平滑化処理部43、動揺量推定処理部51及びフィードバック制御部55へ向けて出力する。
【0037】
カルマンフィルタ46は、相対位置(X,Y)に基づく推定を行い、推定後の推定相対位置(X,Y)を出力している。具体的に、カルマンフィルタ46には、誘導演算部34により算出された相対位置(X,Y)が入力される。カルマンフィルタ46は、相対位置(X,Y)が入力されると、相対位置(X,Y)の時間変化を推定することで、推定相対位置(X,Y)を算出する。カルマンフィルタ46は、算出した推定相対位置(X,Y)を平滑化処理部43へ向けて出力する。
【0038】
平滑化処理部43は、着陸目標点2が動揺により変化する場合であっても、平均的な相対位置である平滑化相対位置を算出するための処理を行っている。平滑化処理部43は、姿勢補正加速度と、推定相対位置(X,Y)とに基づいて、推定相対位置(X,Y)を平滑化した平滑化相対位置(X,Y)を出力している。具体的に、平滑化処理部43は、加速度補正処理部41から出力された姿勢補正加速度が入力され、また、カルマンフィルタ46により算出された推定相対位置(X,Y)が入力される。平滑化処理部43は、姿勢補正加速度と推定相対位置(X,Y)とが入力されると、平滑化相対位置(X,Y)を算出する。そして、平滑化処理部43は、算出した平滑化相対位置(X,Y)を減算回路部54へ向けて出力する。
【0039】
相対速度推定処理部47は、相対位置(X,Y)と垂直離着陸機1の機体速度とに基づいて、推定相対速度を出力している。具体的に、相対速度推定処理部47には、誘導演算部34により算出された相対位置(X,Y)が入力され、また、航法装置20において取得された縦方向及び横方向における垂直離着陸機1の機体速度が入力される。相対速度推定処理部47は、入力された相対位置(X,Y)と機体速度とから、相対速度を推定し、推定相対速度として後述する減算回路部54へ向けて出力する。
【0040】
動揺量推定処理部51は、動揺により変化する着陸目標点2の動揺量を推定するための処理を行っている。動揺量推定処理部51は、姿勢補正加速度と、相対位置(X,Y)とに基づいて、動揺量を推定している。動揺量推定処理部51は、入力信号にゲインをかけて出力信号を増幅している。入力信号は、推定相対位置(X,Y)であり、出力信号は、動揺量(推定値)である。
【0041】
目標情報生成処理部52は、動揺量に基づいて、垂直離着陸機1と着陸目標点2との間の目標となる目標相対位置と、垂直離着陸機1と着陸目標点2との間の目標となる目標相対速度とを出力する。
【0042】
減算回路部54は、平滑化処理部43から入力される平滑化相対位置(X,Y)と、目標情報生成処理部52から入力される目標相対位置との位置差分を算出する。そして、減算回路部54は、算出した位置差分をフィードバック制御部55へ向けて出力する。また、減算回路部54は、相対速度推定処理部47から入力される推定相対速度と、目標情報生成処理部52から入力される目標相対速度との速度差分を算出する。そして、減算回路部54は、算出した速度差分をフィードバック制御部55へ向けて出力する。
【0043】
フィードバック制御部55は、減算回路部54から入力された位置差分及び速度差分と、加速度補正処理部41から入力された姿勢補正加速度とに基づいて、制御量Cを算出する。そして、フィードバック制御部55は、算出した制御量Cを飛行制御部36へ向けて出力する。
【0044】
飛行制御部36は、制御量Cに基づいて飛行制御を実行する。なお、飛行制御部36による飛行制御の一例として、垂直離着陸機1がヘリコプタである場合、ヘリコプタのメインロータを縦方向及び横方向に傾ける飛行制御を行うことで、目標点追従ホバリングを実行する。
【0045】
切替スイッチ53は、目標点追従ホバリングの実行の有無を切り替えている。具体的に、切替スイッチ53は、減算回路部54への目標相対位置及び目標相対速度の入力の有無を切り替える。切替スイッチ53は、減算回路部54へ目標相対位置及び目標相対速度の入力を許容することで、目標点追従ホバリングの実行を可能とする。一方で、切替スイッチ53は、減算回路部54へ目標相対位置及び目標相対速度の入力を遮断することで、目標点追従ホバリングの実行を不能とし、空間安定ホバリングの実行を可能とする。空間安定ホバリングは、平滑化相対位置に基づく飛行制御であり、着陸目標点2に対して、空間上の目標相対位置に垂直離着陸機1を保持させる空間安定ホバリングに関する位置制御である。切替スイッチ53により、減算回路部54へ目標相対位置及び目標相対速度の入力を遮断すると、飛行制御部36には、平滑化相対位置(X,Y)が入力されることから、飛行制御部36は、空間安定ホバリングの飛行制御を実行する。
【0046】
ここで、切替スイッチ53による切替制御は、例えば、動揺量または高度を用いて、切替を行ってもよい。切替制御では、動揺量を用いる場合、動揺量が、予め設定されたしきい値以上であれば空間安定ホバリングの飛行制御を実行し、しきい値よりも小さければ目標点追従ホバリングの飛行制御を実行するように、切り替えを行ってもよい。また、切替制御では、高度を用いる場合、高度が、予め設定されたしきい値以上であれば空間安定ホバリングの飛行制御を実行し、しきい値よりも小さければ目標点追従ホバリングの飛行制御を実行するように、切り替えを行ってもよい。
【0047】
(垂直離着陸機の鉛直位置制御)
図7は、動揺する着陸目標点に垂直離着陸機を追従させる鉛直位置制御の一例のブロック図である。
【0048】
図7に示すように、垂直離着陸機1の鉛直位置制御では、低高度ホバリングモードにて、誘導演算部34が、動揺による着陸目標点2の動きに合わせて、垂直離着陸機1の鉛直位置を追従させる目標点追従ホバリングに関する鉛直位置制御を行っている。このため、誘導演算部34は、目標点追従ホバリングを実行するための垂直離着陸機1の制御量Cを算出している。
【0049】
(相対位置に関する目標点追従ホバリング)
図7では、垂直離着陸機1が動揺により変化する着陸目標点2に追従するように、目標点追従ホバリングに関する鉛直位置制御を実行している。誘導演算部34は、平滑化処理部61と、カルマンフィルタ62と、目標垂直速度演算部(接触判定部)63と、切替スイッチ(切替部)64と、減算回路部65と、積分器66と、加算回路部67と、動揺量推定処理部71と、目標情報生成部72と、減算回路部(補正部)73と、フィードバック制御部74と、加算回路部75とを備えている。なお、平滑化処理部61、カルマンフィルタ62、目標垂直速度演算部63、切替スイッチ64、減算回路部65、積分器66、加算回路部67、動揺量推定処理部71、目標情報生成部72、減算回路部73、フィードバック制御部74、加算回路部75は、誘導演算部34により実現されていてもよいし、誘導演算部34とは別体の処理部によって実現されていてもよいし、それらの組み合わせによって実現されていてもよく、特に限定されない。
【0050】
平滑化処理部61は、着陸目標点2が動揺により変化する場合であっても、平均的な相対位置である平滑化相対高度を算出するための処理を行っている。平滑化処理部61は、高度と垂直加速度とに基づいて、高度を平滑化した平滑化相対高度を出力している。具体的に、平滑化処理部61には、高度センサ25が計測した高度(または、相対高度)と、加速度補正処理部41が処理した姿勢補正加速度、つまり、航法装置20が取得した垂直離着陸機1の加速度を姿勢角で補正した垂直加速度が入力される。平滑化処理部61は、高度と垂直加速度とが入力されると、平滑化相対高度を算出する。そして、平滑化処理部61は、算出した平滑化相対高度を減算回路部73へ向けて出力する。
【0051】
カルマンフィルタ62は、高度から相対高度と相対速度を算出する。なお、相対高度は、高度センサ25が計測した相対高度Δhであってもよい。
【0052】
目標垂直速度演算部(接触判定部)63は、相対速度と相対高度に基づいて、垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触判定を行う。すなわち、目標垂直速度演算部63は、垂直離着陸機1が着陸目標点2との接触を回避するために上昇が必要かどうかを判定する。目標垂直速度演算部63は、垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を回避するため、相対高度と相対速度に応じた制限値を設定する。目標垂直速度演算部63は、垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を回避するため相対速度に対する相対高度の制限値を設定することで、後述する回避領域と高度保持領域を、相対速度および相対高度を軸とする制御空間において区画する。
【0053】
図8は、垂直離着陸機と着陸目標点との接触判定を説明するための説明図であり、
図9は、衝突回避領域の設定方法を説明するための説明図である。
【0054】
図8に示すように、相対速度と相対高度との関係において、垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を回避するための制限値が設定される。制限値は、相対速度が0に対して、相対速度が低下する側で相対高度が一定であり、相対速度が増加する側で相対高度が漸次大きくなるように設定される。制限値により、相対速度と相対高度との関係における回避領域および高度保持領域が区画される。ここで、相対速度に対する相対高度の制限値以下の領域が回避領域であり、制限値を上回る領域が高度保持領域である。目標垂直速度演算部63は、相対速度と相対高度との関係が回避領域に入ると、垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を回避するための上昇が必要であると判定する。
【0055】
図8および
図9に示すように、船舶5(着陸目標点2)が動揺するとき、動揺を所定の正弦波と仮定してモデル化する。そして、動揺の正弦波を直線近似して直線近似値を求める。直線近似値にて、正弦波Asin(ωt+φ)を、垂直離着陸機1と着陸目標点2とが接触する可能性が最も高くなる条件として、最大の傾き(変化率)Aωが時間2/ω継続して両振幅分の変動が生じることを仮定する。そして、直線近似値の傾きAωの最大値が継続時間2/ωだけ継続した場合に、垂直離着陸機1と着陸目標点2とが接触しない相対速度と相対高度との関係である制限値を設定する。相対速度が大きくなったとき、垂直離着陸機1と着陸目標点2との間に十分な距離(高度差)がないと、接触する可能性が高いことから、相対速度が増加するに伴って相対高度が大きくなる領域へ回避領域が拡大されればよい。但し、回避領域の設定方法は、動揺の正弦波近似、正弦波の直線近似を行う方法に限定されるものではない。
【0056】
図7に示すように、目標垂直速度演算部63は、垂直離着陸機1と着陸目標点2とが接触しないと判定したとき、高度保持状態を維持する。一方、目標垂直速度演算部63は、垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を回避するための上昇が必要であると判定したとき、算出した目標垂直速度(上昇コマンド)を加算回路部75へ向けて出力する。目標垂直速度演算部63が出力する目標垂直速度は、垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を回避するための特定の速度である。なお、目標垂直速度は、予め設定した速度でもよいし、相対速度や相対高度に応じて変動する速度としてもよい。目標垂直速度演算部63は、その後、垂直離着陸機1が上昇し、垂直離着陸機1と着陸目標点2とが接触しない、つまり、高度保持領域にあると判定したとき、上昇コマンドの出力をやめる。
【0057】
切替スイッチ64は、目標降下率が入力されると共に、垂直離着陸機1の降下リコメンド(降下指令)が入力される。目標垂直速度演算部63が垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を回避するための上昇が必要であるか否かを判定し、垂直離着陸機1が低高度ホバリングから上昇した後、船舶5の揺動が収束したか否かを判定する。ここで、船舶5の揺動が収束したと判定すると、切替スイッチ64へ向けて垂直離着陸機1の降下指令が入力される。切替スイッチ64は、垂直離着陸機1の降下指令が入力すると、切断(オフ)状態から接続(オン)状態に切替え、入力した目標降下率を減算回路部65へ向けて出力する。なお、垂直離着陸機1と着陸目標点2とが接触しないと判定したときは、高度保持状態を維持する。
【0058】
減算回路部65は、切替スイッチ64から入力した目標降下率と、目標垂直速度演算部63から入力した上昇率とに基づいて目標上昇率を補正する。つまり、減算回路部65は、降下時に正の値をとる降下率と、上昇時に正の値をとる上昇率の合算をするため、降下率を減算することで上昇率を補正している。減算回路部65は、算出した目標上昇率を積分器66へ向けて出力する。積分器66は、入力した目標上昇率を積分処理することで、高度差分を算出する。積分器66は、算出した高度差分を加算回路部67に出力する。加算回路部67は、目標高度に積分器は66から入力した高度差分を加算して相対高度を補正する。加算回路部67は、補正した目標高度を減算回路部73へ向けて出力する。
【0059】
動揺量推定処理部71は、船舶5の動揺により変化する着陸目標点2の動揺量を推定するための処理を行っている。動揺量推定処理部71は、相対高度と垂直加速度とに基づいて、動揺量を推定している。動揺量推定処理部71は、入力信号にゲインをかけて出力信号を増幅している。入力信号は、相対高度であり、出力信号は、動揺量(推定値)である。目標情報生成部72は、動揺量に基づいて、垂直離着陸機1と着陸目標点2との間の目標となる目標相対高度を出力する。
【0060】
すなわち、平滑化処理部61は、相対高度と垂直加速度とに基づいて平滑化相対高度を算出するものである。このとき、垂直離着陸機1は、
図8に示すように、所定の軌跡に沿って飛行する。垂直離着陸機1が低高度ホバリングモードにあるとき、垂直離着陸機1における相対速度と相対高度とによる垂直離着陸機1の位置の変動を小さくしたい。垂直離着陸機1の位置の変動が小さくなると、垂直離着陸機1における相対速度と相対高度との関係が制限値を超えて回避領域に移行することがない。そのため、垂直離着陸機1が船舶5に接触しない相対速度と相対高度の関係の設計領域が設定される。設計領域は、低高度ホバリングモードにて、垂直離着陸機1を所定の相対高度に維持すると共に、着陸モードに移行することができる相対高度に維持するものである。目標情報生成部72は、相対速度と相対高度の関係が設計領域に維持される目標相対高度を算出する。
【0061】
図7に示すように、減算回路部73は、平滑化処理部61から入力される平滑化相対高度と加算回路部67から入力される目標高度との差分である高度差分を算出し、目標情報生成部72から入力される目標相対高度に高度差分を加算して目標相対高度を算出する。そして、減算回路部73は、算出した目標相対高度をフィードバック制御部74へ向けて出力する。フィードバック制御部74は、減算回路部73から入力された目標相対高度に基づいて制御量Cを算出する。フィードバック制御部74は、算出した制御量Cを加算回路部75へ向けて出力する。加算回路部75は、フィードバック制御部74から入力される制御量Cと、目標垂直速度演算部63から入力される目標垂直速度を飛行制御部36へ向けて出力する。飛行制御部36は、制御量Cと目標垂直速度に基づいて垂直離着陸機1を上昇させる。
【0062】
図10は、動揺量推定処理及び目標情報生成処理の一例を示すブロック図である。
【0063】
動揺量推定処理部71は、カルマンフィルタ81と、平滑化処理部82と、ローパスフィルタ83と、減算回路部84とを含んでいる。
【0064】
カルマンフィルタ81は、相対高度に基づく推定を行い、推定後の推定相対高度を出力している。具体的に、カルマンフィルタ81は、相対高度が入力されると、相対高度の時間変化を推定することで、推定相対高度を算出する。カルマンフィルタ81は、算出した推定相対高度を平滑化処理部82及び減算回路部84へ向けて出力する。
【0065】
平滑化処理部82は、着陸目標点2が動揺により変化する場合であっても、平均的な相対高度である平滑化相対高度を算出するための処理を行っている。平滑化処理部82は、姿勢補正加速度と、推定相対高度とに基づいて、推定相対高度を平滑化した平滑化相対高度を出力している。そして、平滑化処理部82は、算出した平滑化相対高度を減算回路部84へ向けて出力する。
【0066】
減算回路部84は、推定相対高度と、平滑化相対高度とに基づいて、動揺量を出力している。具体的に、減算回路部84は、推定相対高度と、平滑化相対高度との差分をとり、その差分を動揺量として算出している。そして、減算回路部84は、算出した動揺量をローパスフィルタ83へ向けて出力する。ローパスフィルタ83は、減算回路部84から入力される動揺量に対し、所定のカットオフ周波数以上の周波数を減衰させるフィルタである。ローパスフィルタ83は、動揺量の高周波成分を除去し、動揺量に含まれる低周波成分を目標情報生成部72へ向けて出力する。
【0067】
目標情報生成部72は、ハイパスフィルタ85を含んでいる。ハイパスフィルタ85は、動揺量を、目標相対高度に変換して出力するフィルタとなっている。目標相対高度は、動揺量にハイパスフィルタ85を乗算することで導出される。ハイパスフィルタ85は、算出した目標相対高度を減算回路部73へ向けて出力する。
【0068】
(垂直位置制御による効果)
図11は、垂直離着陸機の着陸時における目標高度と着陸目標点と相対高度との関係を表すグラフである。なお、
図10のグラフは、シミュレーション結果である。
【0069】
図11に示すように、本実施形態の位置制御システム100により垂直離着陸機1の垂直位置制御にて、目標高度が設定され、船舶5(着陸目標点)2が動揺しているとき、
図10に実線で表す相対高度が本実施形態の垂直位置制御であり、点線で表す相対高度が従来の垂直位置制御である。従来の垂直位置制御では、複数の時点で相対高度が0となり、垂直離着陸機1と船舶5の接触が発生する。一方、本実施形態の垂直位置制御では、相対高度が0となることがなく、垂直離着陸機1と船舶5の接触が回避される。
【0070】
[本実施形態の作用効果]
第1の態様に係る垂直離着陸機の位置制御システムは、垂直離着陸機1と着陸目標点2との間の相対位置に基づいて相対速度を取得する相対速度取得部と、垂直離着陸機1と着陸目標点2との間の相対位置に基づいて相対高度を取得する相対高度取得部と、相対速度と相対高度とに基づいて垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を判定する目標垂直速度演算部(接触判定部)63とを備える。
【0071】
第1の態様に係る垂直離着陸機の位置制御システムによれば、相対速度と相対高度とに基づいて垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を回避する上昇の要否を判定することから、船舶5の揺動などにより垂直離着陸機1と着陸目標点2との間の相対高度が変動しても、垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を回避して好適に追従させることができる。
【0072】
第2の態様に係る垂直離着陸機の位置制御システムは、第1の態様に係る垂直離着陸機の位置制御システムであって、目標垂直速度演算部63は、垂直離着陸機1が着陸目標点2に対する接触を回避するための上昇が必要か否かを判定する。これにより、垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触の可能性による垂直離着陸機1の上昇の可否を容易に処理することができる。
【0073】
第3の態様に係る垂直離着陸機の位置制御システムは、第1の態様または第2の態様に係る垂直離着陸機の位置制御システムであって、さらに、目標垂直速度演算部63は、相対速度に対する相対高度に制限値を設定し、制限値は、相対速度の増加に応じて増加する制限値として設定され、相対速度に対する相対高度が前記制限値を下回ると垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を回避するための上昇が必要であると判定する。これにより、垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触判定を容易に処理することができる。
【0074】
第4の態様に係る垂直離着陸機の位置制御システムは、第1の態様から第3態様のいずれか一つに係る垂直離着陸機の位置制御システムであって、さらに、目標垂直速度演算部63は、垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を回避するための上昇が必要であると判定したとき、垂直離着陸機1を特定の速度で上昇させる信号を出力する。これにより、垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を未然に防止することができる。
【0075】
第5の態様に係る垂直離着陸機の位置制御システムは、第4の態様に係る垂直離着陸機の位置制御システムであって、さらに、目標垂直速度演算部63は、垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を回避するための上昇が必要であると判定した後に着陸目標点2の動揺が収束すると、垂直離着陸機1を上昇前の高度まで下降させる信号を出力する。これにより、垂直離着陸機1は、早期に低高度ホバリングモードに戻ることができ、着陸目標点2への着陸態勢を整えることができる。
【0076】
第6の態様に係る垂直離着陸機の位置制御システムは、第1の態様から第5の態様のいずれか一つに係る垂直離着陸機の位置制御システムであって、さらに、相対高度と垂直離着陸機の垂直加速度とに基づいて着陸目標点2の動揺量を推定する動揺量推定処理部71と、動揺量に基づいて垂直離着陸機1と着陸目標点2との間の目標となる目標相対高度を算出する目標情報生成部72と、予め設定された目標相対高度を目標情報生成部72の算出値により補正する減算回路部(補正部)73とを有する。これにより、着陸目標点2が動揺しても、動揺による着陸目標点2の動きに合わせて垂直離着陸機1を好適に追従させることができる。
【0077】
第7の態様に係る垂直離着陸機の位置制御システムは、垂直離着陸機1と着陸目標点2との間の相対位置に基づいて相対速度を取得する相対速度取得部と、垂直離着陸機1と着陸目標点2との間の相対位置に基づいて相対高度を取得する相対高度取得部と、相対高度と垂直加速度とに基づいて着陸目標点2の動揺量を推定する動揺量推定処理部71と、動揺量に基づいて垂直離着陸機1と着陸目標点2との間の目標となる目標相対高度を算出する目標情報生成部72とを備える。これにより、着陸目標点2が動揺しても、動揺による着陸目標点2の動きに合わせて垂直離着陸機1を好適に追従させることができる。垂直離着陸機1を着陸目標点2に追従させることができることから、垂直離着陸機1が安定していれば、任意のタイミングで垂直離着陸機1を船舶5に着陸させることができる。
【0078】
第8の態様に係る垂直離着陸機は、垂直離着陸機1の位置制御システム100を備える。これにより、船舶5の揺動などにより垂直離着陸機1と着陸目標点2との間の相対高度が変動しても、垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を回避して好適に追従させることができる。
【0079】
第9の態様に係る垂直離着陸機の位置制御方法は、垂直離着陸機1と着陸目標点2との間の相対位置に基づいて相対速度を取得するステップと、垂直離着陸機1と着陸目標点2との間の相対位置に基づいて相対高度を取得するステップと、相対速度と相対高度とに基づいて垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を判定するステップとを有する。これにより、相対速度と相対高度とに基づいて垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を判定することから、船舶5の揺動などにより垂直離着陸機1と着陸目標点2との間の相対高度が変動しても、垂直離着陸機1と着陸目標点2との接触を回避して好適に追従させることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 垂直離着陸機
2 着陸目標点
5 船舶
7 マーカー
10 カメラ
20 航法装置
30 制御部
32 画像処理部
34 誘導演算部
36 飛行制御部
41 加速度補正処理部
43 平滑化処理部
46 カルマンフィルタ
47 相対速度推定処理部
51 動揺量推定処理部
52 目標情報生成処理部
53 切替スイッチ
54 減算回路部
61 平滑化処理部
62 カルマンフィルタ(相対速度取得部、相対高度取得部)
63 目標垂直速度演算部(接触判定部)
64 切替スイッチ(切替部)
65 減算回路部
66 積分器
67 加算回路部
71 動揺量推定処理部
72 目標情報生成部
73 減算回路部
74 フィードバック制御部
75 加算回路部(補正部)
81 カルマンフィルタ
82 平滑化処理部
83 ローパスフィルタ
84 減算回路部
85 ハイパスフィルタ
100 位置制御システム