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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104239
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20240726BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240726BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
H01L29/78 652E
H01L29/78 652T
H01L29/78 652K
H01L29/78 652F
H01L29/78 658F
H01L29/78 658E
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008375
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剣
(72)【発明者】
【氏名】上野 勝典
(57)【要約】
【課題】しきい値の負電圧側へのシフトを抑制しつつ、移動度を向上させることが可能なトランジスタを備える窒化物半導体装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】窒化物半導体装置は、第1主面と、第1主面の反対側に位置する第2主面とを有するGaN層と、GaN層にチャネル領域を有するトランジスタと、を備える。トランジスタは、GaN層の第1主面側に設けられたゲート絶縁膜と、GaN層とゲート絶縁膜との間に設けられたアモルファス層と、を有する。アモルファス層は、Al、Ga、O及びNの各元素を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面と、前記第1主面の反対側に位置する第2主面とを有するGaN層と、
前記GaN層にチャネル領域を有するトランジスタと、を備え、
前記トランジスタは、
前記GaN層の前記第1主面側に設けられたゲート絶縁膜と、
前記GaN層と前記ゲート絶縁膜との間に設けられたアモルファス層と、を有し、
前記アモルファス層は、Al、Ga、O及びNの各元素を含む、窒化物半導体装置。
【請求項2】
前記アモルファス層は、Al及びOを主に含む化合物で、かつGaとNが混合したアモルファスAlGaON層である、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項3】
前記ゲート絶縁膜は、SiO膜、Al膜、SiON膜、AlSiO膜、AlON膜のいずれか1つ以上を含む、請求項1又は2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項4】
前記トランジスタは、
前記ゲート絶縁膜上に設けられたゲート電極と、
前記GaN層に設けられた第1導電型のソース領域と、
前記GaN層上に設けられ、前記ソース領域と接するソース電極と、
前記GaN層に設けられ、前記ゲート絶縁膜と向かい合い、かつ前記ソース領域に隣接する第2導電型のウェル領域とを有し、
前記アモルファス層は、前記ウェル領域と前記ゲート絶縁膜との間に配置されている請求項1又は2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項5】
前記GaN層は、
第1導電型の第1GaN層と、
前記第1GaN層上に設けられた第2導電型の第2GaN層とを有し、
前記ソース領域は前記第2GaN層に設けられている、請求項4に記載の窒化物半導体装置。
【請求項6】
前記トランジスタは、
前記GaN層の前記第2主面側に設けられたドレイン電極を有する、請求項4に記載の窒化物半導体装置。
【請求項7】
前記アモルファス層の深さ方向におけるO元素の平均濃度は、10原子%以上30原子%以下である、請求項1又は2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項8】
前記アモルファス層の厚さは、0.25nm以上2nm以下である請求項1又は2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項9】
GaN層の第1主面にGaOx層を形成する工程と、
前記GaOx層上にAlxGa(1-x)N層(0<x≦1)を形成する工程と、
前記AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)、前記GaOx層及び前記GaN層に最高温度が1100℃以上1400℃以下である第1熱処理を施し、前記AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)、前記GaOx層及び前記GaN層を互いに反応させて、Al、Ga、O及びNの各元素を含むアモルファス層を形成する工程と、
前記第1熱処理で前記GaOx層及び前記GaN層と反応しなかった未反応AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)を前記アモルファス層上から除去する工程とを含む、窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記GaOx層を形成する工程では、酸素を含む雰囲気中で前記GaN層に最高温度が600℃以上1000℃以下の熱処理を施すことによって前記GaOx層を形成する、請求項9に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記GaOx層を形成する工程では、CVD法又はスパッタ法で前記GaOx層を形成する、請求項9に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記GaOx層を形成する工程では、酸素プラズマの照射によって前記GaOx層を形成する、請求項9に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記GaOx層を形成する工程では、前記GaOx層を0.2nm以上1nm以下の厚さに形成する、請求項9から12のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)を形成する工程では、前記AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)をALD法、スパッタ法又はCVD法で形成する、請求項9から12のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記第1熱処理は、酸素及び窒素の少なくとも一方を含む雰囲気中で行う、請求項9から12のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記アモルファス層を形成する前に、前記GaN層に第1導電型の不純物をイオン注入する工程をさらに含み、
前記アモルファス層を形成する工程では、前記第1熱処理により前記不純物が活性化されて前記GaN層にトランジスタのソース領域が形成される、請求項9から12のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記アモルファス層を形成した後で、前記GaN層に第1導電型の不純物をイオン注入する工程と、
前記不純物がイオン注入された前記GaN層に第2熱処理を施し前記不純物を活性化させて、前記GaN層にトランジスタのソース領域を形成する工程と、をさらに含み、
前記第1熱処理の最高温度は、前記第2熱処理の最高温度よりも高い、請求項9から12のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項18】
前記第1熱処理の処理条件と、前記アモルファス層のAl濃度との第1の関係を予め調査するとともに、
前記アモルファス層の前記Al濃度と、前記GaN層にチャネル領域が形成されるトランジスタの電気的特性との第2の関係を予め調査しておき、
前記アモルファス層を形成する工程では、
前記第1の関係及び前記第2の関係に基づいて、前記電気的特性が所望の値となるように、前記処理条件を設定する、請求項9から12のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項19】
前記電気的特性は、前記トランジスタのしきい値及び移動度であり、
前記処理条件は、前記第1熱処理の最高温度及び前記最高温度での処理時間である、請求項18に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、窒化ガリウム(GaN)を用いた縦型MOSFETが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、III族窒化物系化合物の表面上に、Alを組成に含みスピネル構造をもつ酸化物が形成された半導体装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-188687号公報
【特許文献2】特開2010-45308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
GaNを用いたMOSFETにおいて、GaNの表面上に格子整合させたAlGaNを形成すると、移動度は向上するが、しきい値が負電圧側にシフトしノーマリオン動作に近づく。パワーデバイスでは、信頼性を担保するためにノーマリオフ動作であることが求められる。本開示は、しきい値の負電圧側へのシフトを抑制しつつ、移動度を向上させることが可能な窒化物半導体装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る窒化物半導体装置は、第1主面と、前記第1主面の反対側に位置する第2主面とを有するGaN層と、前記GaN層にチャネル領域を有するトランジスタと、を備える。前記トランジスタは、前記GaN層の前記第1主面側に設けられたゲート絶縁膜と、前記GaN層と前記ゲート絶縁膜との間に設けられたアモルファス層と、を有する。前記アモルファス層は、Al、Ga、O及びNの各元素を含む。
【0006】
本開示の一態様に係る窒化物半導体装置の製造方法は、GaN層の第1主面にGaOx層を形成する工程と、前記GaOx層上にAlxGa(1-x)N層(0<x≦1)を形成する工程と、前記AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)、前記GaOx層及び前記GaN層に最高温度が1100℃以上1400℃以下である第1熱処理を施し、前記AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)、前記GaOx層及び前記GaN層を互いに反応させて、Al、Ga、O及びNの各元素を含むアモルファス層を形成する工程と、前記第1熱処理で前記GaOx層及び前記GaN層と反応しなかった未反応AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)を前記アモルファス層上から除去する工程とを含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、しきい値の負電圧側へのシフトを抑制しつつ、移動度を向上させることが可能なトランジスタを備える窒化物半導体装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態1に係るGaN半導体装置の構成例を示す平面図である。
図2図2は、実施形態1に係るGaN半導体装置の構成例を示す断面図である。
図3図3は、実施形態1に係る縦型MOSFETの製造方法を工程順に示す断面図である。
図4図4は、実施形態1に係る縦型MOSFETの製造方法を工程順に示す断面図である。
図5図5は、実施形態1に係る縦型MOSFETの製造方法を工程順に示す断面図である。
図6図6は、図3のステップST2、ST3で予め設定した条件で基板全体に熱処理を施してアモルファス層31を形成したときの、アモルファス層31及びGaN層12の深さ方向における組成分布を分析した結果を示すグラフである。
図7A図7Aは、本開示の実施例において、ゲート絶縁膜(SiO)、アモルファス層(AlGaON)及びGaN層(GaN)の深さ方向における組成分布を分析した結果を示すグラフである。
図7B図7Bは、本開示の実施例において、ゲート絶縁膜(SiO)、アモルファス層(AlGaON)及びGaN層(GaN)の深さ方向における組成分布を分析した結果を示すグラフである。
図8A図8Aは、本開示の比較例において、ゲート絶縁膜(SiO)、酸化ガリウム層(GaOx)及びGaN層(GaN)の深さ方向における組成分布を分析した結果を示すグラフである。
図8B図8Bは、本開示の比較例において、ゲート絶縁膜(SiO)、酸化ガリウム層(GaOx)及びGaN層(GaN)の深さ方向における組成分布を分析した結果を示すグラフである。
図9図9は、本開示の実施例と比較例の電界効果移動度を比較したグラフである。
図10図10は、ゲート絶縁膜とGaN層との間に位置するアモルファス層の表面のAl濃度と、MOSFETの移動度及びしきい値との関係を示すグラフである。
図11図11は、アモルファス層を形成する際の熱処理の最高温度と、アモルファス層の表面Al濃度との関係を示すグラフである。
図12図12は、アモルファス層を形成する際の最高温度での熱処理時間と、アモルファス層の表面Al濃度との関係を示すグラフである。
図13図13は、実施形態2に係る縦型MOSFETの製造方法を工程順に示す断面図である。
図14図14は、実施形態2に係る縦型MOSFETの製造方法を工程順に示す断面図である。
図15図15は、実施形態2に係る縦型MOSFETの製造方法を工程順に示す断面図である。
図16図16は、実施形態3に係る横型MOSFETの製造方法を工程順に示す断面図である。
図17図17は、実施形態3に係る横型MOSFETの製造方法を工程順に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本開示の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0010】
以下の説明では、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の文言を用いて、方向を説明する場合がある。例えば、X軸方向及びY軸方向は、GaN基板10の表面10aに平行な方向である。X軸方向及びY軸方向を水平方向ともいう。Z軸方向は、GaN基板10の表面10aの法線方向である。X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は、互いに直交する。
【0011】
以下の説明では、Z軸の矢印方向を「上」と称し、Z軸の矢印の反対方向を「下」と称する場合がある。「上」及び「下」は、必ずしも地面に対する鉛直方向を意味しない。つまり、「上」及び「下」の方向は、重力方向に限定されない。「上」及び「下」は、領域、層、膜及び基板等における相対的な位置関係を特定する便宜的な表現に過ぎず、本開示の技術的思想を限定するものではない。例えば、紙面を180度回転すれば「上」が「下」に、「下」が「上」になることは勿論である。
【0012】
以下の説明では、半導体領域の導電型を示すPやNに付す+や-は、+及び-が付記されていない半導体領域に比して、それぞれ相対的に不純物濃度が高い又は低い半導体領域であることを意味する。但し、同じPとP(または、NとN)とが付された半導体領域であっても、それぞれの半導体領域の不純物濃度が厳密に同じであることを意味するものではない。
【0013】
<実施形態1>
(構成例)
図1は、実施形態1に係るGaN(窒化ガリウム)半導体装置100(本開示の「窒化物半導体装置」の一例)の構成例を示す平面図である。図2は、実施形態1に係るGaN半導体装置100の構成例を示す断面図である。図2は、図1の平面図をA-A´線で切断した断面を示している。
【0014】
図1及び図2に示すGaN半導体装置100は、パワーデバイスである。図1及び図2に示すように、GaN半導体装置100は、表面10a及び裏面10bを有するGaN基板10と、GaN基板10に設けられた複数の縦型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)1とを備える。
【0015】
GaN基板10は、本開示の「GaN層」の一例である。GaN基板10の表面10aが本開示の「第1主面」の一例であり、表面10aの反対側に位置する裏面10bが本開示の「第2主面」の一例である。縦型MOSFET1は、本開示の「トランジスタ」の一例である。例えば、複数の縦型MOSFET1は、一方向(例えば、X軸方向)に繰り返し設けられている。1つの縦型MOSFET1が繰り返しの単位構造であり、この単位構造が一方向に並んで配置されている。
【0016】
図2に示すように、GaN基板10は、N+型のGaN単結晶基板11と、GaN単結晶基板11上に設けられたN-型のGaN層12と、を有する。
【0017】
GaN単結晶基板11は、例えばN+型のc面GaN単結晶基板である。GaN単結晶基板11に含まれるN型不純物は、Si(シリコン)、O(酸素)及びGe(ゲルマニウム)のうちの一種類以上である。一例を挙げると、GaN単結晶基板11はN型不純物としてSiを含み、GaN単結晶基板11におけるSiの不純物濃度は5×1017cm-3以上である。
【0018】
GaN単結晶基板11は、転位密度が1×10cm-2未満の低転位自立基板であってもよい。GaN単結晶基板11が低転位自立基板であることにより、GaN単結晶基板11上に形成されるGaN層12の転位密度も低くなる。また、低転位自立基板を用いることで、GaN基板10に大面積のパワーデバイスが形成される場合でも、パワーデバイスにおけるリーク電流を少なくすることができる。これにより、製造装置は、パワーデバイスを高い良品率で製造することができる。また、熱処理において、イオン注入された不純物が転位に沿って深く拡散することを防ぐことができる。
【0019】
GaN層12は、GaN単結晶基板11の表面上にエピタキシャル成長された単結晶GaN層である。GaN層12は、エピタキシャル成長の過程でN型不純物がドープされることにより形成される。N型不純物は、例えばSiである。GaN層12は、N型不純物として例えばSiを1×1015cm-3以上5×1016cm-3以下の濃度で含む。
【0020】
縦型MOSFET1は、GaN基板10の表面10a(すなわち、N-型のGaN層12の表面)側に設けられたP型のウェル領域13、P+型のコンタクト領域15とを有する。また、縦型MOSFET1は、GaN基板10の表面10a側に設けられたゲート絶縁膜21と、ゲート絶縁膜21上に設けられたゲート電極22と、GaN基板10の表面10a側に設けられてソース領域23及びコンタクト領域15と接するソース電極25と、GaN基板10の裏面10b側に設けられてN+型のGaN単結晶基板11と接するドレイン電極26とを備える。さらに、縦型MOSFET1は、GaN基板10とゲート絶縁膜21との間に設けられたアモルファス層31を有する。
【0021】
GaN基板10の表面10a(すなわち、N-型のGaN層12の表面)側には、P-型のウェル領域13(本開示の「窒化ガリウム層」の一例)と、N+型のソース領域23と、P+型のコンタクト領域15とが設けられている。以下、P型のウェル領域13を、P型のGaN層ともいう。
【0022】
ウェル領域13は、GaN基板10の表面10a側にMg等のP型不純物がイオン注入され、熱処理により活性化されて形成されたP型層である。ウェル領域13は、P型不純物として例えばMgを1×1017cm-3以上3×1018cm-3以下の濃度で含む。ウェル領域13は、GaN基板10の表面10aに面している。ウェル領域13の表面は、アモルファス層31と接している。アモルファス層31と接しているウェル領域13の表面及びその近傍が、縦型MOSFET1のチャネル領域となる。
【0023】
ソース領域23は、GaN基板10の表面10a側にSi又はO等のN型不純物がイオン注入され、熱処理により活性化されて形成されたN+型層である。ソース領域23は、N型不純物として例えばSiを1×1019cm-3以上5×1020cm-3以下の濃度で含む。ソース領域23は、ゲート電極22の両側下のウェル領域13に設けられており、GaN基板10の表面10a(すなわち、ウェル領域13の表面)に面している。ソース領域23は、ウェル領域13の内側に位置し、ウェル領域13と接している。
【0024】
コンタクト領域15は、GaN基板10の表面10a側にMg等のP型不純物がイオン注入され、熱処理により活性化されて形成されたP+型層である。コンタクト領域15は、P型不純物として例えばMgを1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下の濃度で含む。コンタクト領域15は、GaN基板10の表面10aに面している。コンタクト領域15は、ウェル領域13の内側に位置し、ウェル領域13と接している。また、コンタクト領域15はソース領域23と隣接している。コンタクト領域15は、ソース領域23とも接している。
【0025】
コンタクト領域15を介して、ウェル領域13はソース電極25に接続している。これにより、ウェル領域13の電位は、ソース電極25の電位(例えば、接地電位(GND)等の基準電位)に固定される。
【0026】
ゲート絶縁膜21は、例えばSiO膜である。また、ゲート絶縁膜21は、Al膜、SiON膜、AlSiO膜、AlON膜のいずれか1つを含む単層膜であってもよいし、SiO膜、Al膜、SiON膜、AlSiO膜、AlON膜のいずれか1つ以上を含む積層膜であってもよい。ゲート絶縁膜21の厚さは、例えば50nm以上150nm以下であり、一例を挙げると100nmである。
【0027】
ゲート電極22は、ゲート絶縁膜21を介してチャネル領域と隣り合っている。ゲート電極22は、Al、Ti、Ni、Wなどの金属又は不純物をドープしたポリシリコンで構成されている。また、ゲート電極22は、WSi、NiSiなどのシリサイドで構成されていてもよい。
【0028】
ソース電極25及びドレイン電極26は、Al又はAl-Siの合金、Ni、Ni合金、Ti-Al合金、Ni-Au合金などで構成されている。また、ソース電極25は、ソース領域23との間にバリアメタル層を有してもよい。ドレイン電極26は、N+型のGaN単結晶基板11との間にバリアメタル層を有してもよい。バリアメタル層はTi(チタン)で構成されていてもよい。
【0029】
すなわち、ソース電極25及びドレイン電極26は、Ti層及びAl層の積層、又は、Ti層及びAl-Siの合金層の積層であってもよい。ソース電極25は、図示しないソースパッドを兼ねた電極であってもよいし、ソースパッドとは別に設けられた電極であってもよい。ドレイン電極26は、図示しないドレインパッドを兼ねた電極であってもよいし、ドレインパッドとは別に設けられた電極であってもよい。
【0030】
上述したように、アモルファス層31は、GaN基板10とゲート絶縁膜21との間に設けられている。より具体的に説明すると、アモルファス層31は、GaN基板10の表面10aであってソース領域23との間に位置する領域(ウェル領域13を含む)と、ゲート絶縁膜21との間に配置されている。アモルファス層31は、ソース領域23及びコンタクト領域15とソース電極25との間には配置されていないが、必ずしもアモルファス層31を除去する必要はない。
【0031】
アモルファス層31は、Al、Ga、O及びNの各元素を含む。例えば、アモルファス層31は、Al及びOを主に含む化合物で、かつGaとNが混合したアモルファスなAlGaON層である。アモルファス層31の厚さは、例えば0.25nm以上2nm以下である。
【0032】
アモルファス層31の深さ方向におけるO元素の平均濃度は、例えば10原子%以上30原子%以下である。ここで、アモルファス層31の表面とは、アモルファス層31の最表面(すなわち、アモルファス層31とゲート絶縁膜21との界面)を除いた面を意味する。例えばアモルファス層31の表面とは、アモルファス層31の最表面から0.1nmの深さに位置する面を、より好ましくは、アモルファス層31の最表面から0.25nmの深さに位置する面(例えば、後述の図6参照)を意味する。最表面を除く理由は、最表面に付着した付着物の影響を平均濃度の計算から除外するためである。なお、以下の説明では、原子%をat%と記載する。
【0033】
(製造方法)
次に、縦型MOSFET1を備えるGaN半導体装置100の製造方法について説明する。図3から図5は、実施形態1に係る縦型MOSFET1の製造方法を工程順に示す断面図である。GaN半導体装置100は、レジスト塗布装置、露光装置、エッチング装置、イオン注入装置、熱処理装置、成膜装置、CMP(Chemical Mechanical Polishing)装置など、各種の装置によって製造される。以下、これらの装置を製造装置と総称する。
【0034】
図3のステップST1において、製造装置は、GaN単結晶基板11上に、SiがドープされたGaN層12をエピタキシャル成長させる。Siは、エピタキシャル成長の過程でGaN層12にドープされる。GaN層12の厚さは、例えば0.5μm以上1μm以下である。また、GaN層12におけるSi濃度は、例えば1×1015cm-3以上5×1016cm-3以下である。
【0035】
次に、製造装置は、O(酸素)を含む雰囲気中で、GaN基板10に熱処理を施して、GaN基板10の表面10a(すなわち、GaN層12の表面)にGaOx(酸化ガリウム)層16を形成する。すなわち、GaN基板10を熱酸化して、GaOx層16を形成する。この熱処理(熱酸化)の最高温度は600℃以上1000℃以下である。一例を挙げると、この熱処理(熱酸化)は、N(窒素)とO(酸素)とを含み、Oの濃度が25%の雰囲気中で、最高温度は800℃、最高温度での熱処理時間は30分で行う。これにより、GaN基板10の表面10aが熱酸化され、GaOx層16が形成される。GaOx層16は、例えば0.2nm以上1nm以下の厚さに形成され、より好ましくは0.2nm以上0.5nm以下の厚さに形成される。
【0036】
なお、GaOx層16の形成方法は、熱処理(熱酸化)に限定されず、CVD法又はスパッタ法であってもよい。また、GaOx層16は、酸素プラズマの照射によって形成してもよい。
【0037】
次に、図3のステップST2に示すように、製造装置は、GaOx層16上にAlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30を形成する。例えば、AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30の厚さは200nmである。AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30は、ALD(Atomic Layer Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法又はスパッタ法で形成される。AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30の結晶構造は、多結晶又はアモルファスである。
【0038】
次に、製造装置は、例えばN及びOの少なくとも一方を含む雰囲気中でAlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30、GaOx層16及びGaN層12を含む基板全体に熱処理(本開示の「第1熱処理」の一例)を施して、AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30、GaOx層16及びGaN層12を互いに反応させる。この熱処理の最高温度は1100℃以上1400℃以下である。例えば、この熱処理の雰囲気はN、最高温度は1300℃、最高温度の熱処理時間は300秒である。
【0039】
これにより、図3のステップST3に示すように、AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30とGaN層12との間に、アモルファス層31が形成される。上述したように、アモルファス層31は、Al及びOを主に含む化合物で、かつGaとNが混合したアモルファスなAlGaON層である。アモルファス層31の厚さは、例えば0.25nm以上2nm以下である。
【0040】
次に、図4のステップST4に示すように、製造装置は、AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30のうち、上記の熱処理でGaOx層16及びGaN層12と反応しなかった未反応AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)32をアモルファス層31上から除去する。未反応AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)32の除去は、例えば、アルカリ液を用いたウェットエッチングで行ってもよいし、CMP等の表面ポリッシュで行ってもよい。アルカリ液として、KOH(水酸化カリウム)を含む水溶液が例示される。未反応AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)32を除去した後は、GaN層12上にアモルファス層31が残される。
【0041】
次に、図4のステップST5に示すように、製造装置は、GaN層12において、ウェル領域13が形成される領域(以下、ウェル形成領域)13´にP型不純物をイオン注入する。例えば、製造装置はアモルファス層31上にマスクM1を形成する。マスクM1は、フォトレジスト、SiO膜又はAl膜で構成されている。マスクM1は、ウェル形成領域13´の上方を開口し、他の領域の上方を覆う形状を有する。製造装置は、マスクM1が形成されたGaN層12にMgをイオン注入する。イオン注入により、ウェル形成領域13´におけるMg濃度は、例えば1×1017cm-3となる。イオン注入後、製造装置は、アモルファス層31上からマスクM1を除去する。
【0042】
次に、製造装置は、例えばN雰囲気中で、GaN層12を含む基板全体に熱処理を施す。この熱処理により、ウェル形成領域13´にイオン注入されたP型不純物が活性化されて、ウェル形成領域13´はP型のウェル領域13となる。また、この熱処理により、ウェル領域13において、P型不純物のイオン注入により生じた欠陥をある程度回復することができる。
【0043】
次に、図4のステップST6に示すように、製造装置は、GaN層12において、コンタクト領域15が形成される領域(以下、コンタクト形成領域)15´にP型不純物をイオン注入する。例えば、製造装置はアモルファス層31上にマスクM2を形成する。マスクM2は、フォトレジスト、SiO膜又はAl膜で構成されている。マスクM2は、コンタクト形成領域15´の上方を開口し、他の領域の上方を覆う形状を有する。製造装置は、マスクM2が形成されたGaN層12にMgをイオン注入する。イオン注入により、コンタクト形成領域15´におけるMg濃度は、例えば1×1019cm-3となる。イオン注入後、製造装置は、アモルファス層31上からマスクM2を除去する。
【0044】
次に、図5のステップST7に示すように、製造装置は、GaN層12において、ソースが形成される領域(以下、ソース形成領域)23´にN型不純物をイオン注入する。例えば、製造装置は、GaN層12上にマスクM3を形成する。マスクM3は、フォトレジスト、SiO膜又はAl膜で構成されている。マスクM3は、ソース形成領域23´の上方を開口し、他の領域の上方を覆う形状を有する。製造装置は、マスクM3が形成されたGaN層12にSiをイオン注入する。イオン注入により、ソース形成領域23´におけるSi濃度は、例えば1×1019cm-3となる。イオン注入後、製造装置は、GaN層12上からマスクM3を除去する。
【0045】
次に、製造装置は、例えばN雰囲気中で、GaN層12を含む基板全体に熱処理(本開示の「第2熱処理」の一例)を施す。図5のステップST8に示すように、この熱処理により、コンタクト形成領域15´にイオン注入されたP型不純物が活性化されて、コンタクト形成領域15´はP型のコンタクト領域15となる。また、この熱処理により、ソース形成領域23´にイオン注入されたN型不純物が活性化されて、ソース形成領域23´はN+型のソース領域23となる。さらに、この熱処理により、コンタクト領域15及びソース領域23において、P型不純物又はN型不純物のイオン注入により生じた欠陥をある程度回復することができる。
【0046】
なお、この例では、アモルファス層31を形成するための熱処理(第1熱処理)を行った後で、コンタクト領域15及びソース領域23を形成するための熱処理(第2熱処理)を行っている。これにより、第1熱処理の最高温度を第2熱処理の最高温度よりも高く設定することが可能である。
【0047】
次に、製造装置は、プラズマCVD法により、アモルファス層31上にゲート絶縁膜21を形成する。ゲート絶縁膜21は、例えばSiOであり、その厚さは100nmである。次に、製造装置は、ゲート絶縁膜21及びアモルファス層31を部分的にエッチングする。例えば、ゲート絶縁膜21のエッチングはレジストパターンをマスクに用いて行う。アモルファス層31のエッチングは、パターニング後(すなわち、レジストパターンをマスクに用いてエッチングした後)のゲート絶縁膜21をマスクに用いて行う。これにより、製造装置は、縦型MOSFET1のゲートとなる領域とその周辺とにゲート絶縁膜21及びアモルファス層31を残し、それ以外の領域からゲート絶縁膜21及びアモルファス層31を除去する。なお、アモルファス層31は必ずしも除去する必要はない。そのようにしてもアモルファス層31は非常に薄いため、ソース領域23とソース電極25(図5のステップST9参照)とのコンタクトへの支障はなく、コンタクト領域15とソース電極25とのコンタクトへの支障もない。アモルファス層31を除去しない場合は、コンタクトへの支障はなく、エッチング除去の工程が少なくなるため、工程短縮になる。
【0048】
次に、図5のステップST9に示すように、製造装置は、GaN層12の上方に金属膜を形成し、形成された金属膜をパターニングして、ゲート電極22及びソース電極25を形成する。また、ゲート電極22及びソース電極25の形成工程とは別工程で、GaN基板10の裏面10b側に金属膜を形成し、形成された金属膜を必要に応じてパターニングしてドレイン電極26を形成する。ゲート電極22、ソース電極25及びドレイン電極26を構成する金属膜の形成は、蒸着又はスパッタリング等で行う。金属膜のパターニングは、ドライエッチング又はリフトオフ法で行う。なお、ゲート電極22の形成工程とソース電極25の形成工程は同時に行わず、例えば絶縁膜の形成工程等を挟んで別々に行ってもよい。以上の工程を経て、図2に示した縦型MOSFET1が完成する。
【0049】
(実験及びその結果)
(1)組成分析の結果1
図6は、図3のステップST2、ST3で予め設定した条件で基板全体に熱処理を施してアモルファス層31を形成したときの、アモルファス層31及びGaN層12の深さ方向における組成分布を分析した結果を示すグラフである。図6の横軸はアモルファス層の表面からの深さ(nm)を示し、図6の縦軸は元素(原子)濃度(at%)を示す。図6において、AlGaONはアモルファス層31を示し、GaNはGaN層12を示す。また、予め設定した条件とは、熱処理雰囲気はN、最高温度は1300℃、最高温度での熱処理時間は15分である。
【0050】
図6に示すように、上記の熱処理条件により、アモルファス層31は2nmの厚さに形成された。図6に示すように、アモルファス層31におけるO濃度は、アモルファス層31の表面で最大となり、GaN層12に近づくにしたがって減少し、アモルファス層31とGaN層12との界面付近で検出限界に近い最小値となった。以下の表1は、図7に示すO濃度の数値データであり、詳しくは、アモルファス層31の表面から2.0nmまでの各距離(深さ)でのO濃度を示す。表1に示すように、アモルファス層31の表面(0.25nm)から2.0nmまでの深さにおけるO濃度の平均は16at%であった。なお、最表面(0nm)のO濃度は60at%であったが、最表面のO濃度は付着物の影響を受けるため、平均濃度の計算から除外した。
【0051】
【表1】
【0052】
(2)組成分析の結果2
本開示者は、ゲート絶縁膜(SiO)とGaN層との間にアモルファス層(AlGaON)を有するMOSFETと、ゲート絶縁膜(SiO)とGaN層との間にAlGaONではなく、GaOxを有する比較例とを作製した。そして、実施例及び比較例について、それぞれ組成分析を行った。
【0053】
(2.1)実施例
図7A及び図7Bは、本開示の実施例において、ゲート絶縁膜(SiO)、アモルファス層(AlGaON)及びGaN層(GaN)の深さ方向における組成分布を分析した結果を示すグラフである。図7AはGa、Nの分布を示すデータであり、図7BはSi、O、Alの分布を示すデータである。図7A及び図7Bの各グラフにおいて、横軸は深さ方向における位置を示し、縦軸は元素(原子)濃度を示す。図7A及び図7Bの各グラフに示すデータは、TEM画像のEDXのラインスキャンで得たものである。
【0054】
図3から5を参照しながら説明した製造方法で製造したMOSFETでは、ゲート絶縁膜21とGaN層12との間にアモルファス層31が形成される。このアモルファス層31は、図7A及び図7Bに示すように、Al、Ga、O、Nの各元素を含むAlGaONであることが確認された。
【0055】
図7Aに示すように、AlGaONにおいてGa濃度は、AlGaONの表面(すなわち、SiOとAlGaONとの界面付近)では検出限界に近い最小値であり、GaNに近づくにしたがって増加し、AlGaONとGaNとの界面付近で最大値となることが確認された。AlGaONにおけるNの分布も、Gaの分布と同様の傾向を有することが確認された。
【0056】
図7Bに示すように、AlGaONにおいてO濃度は、AlGaONの表面(すなわち、SiOとAlGaONとの界面付近)で最大となり、GaN層12に近づくにしたがって減少し、アモルファス層31とGaN層12との界面付近で検出限界に近い最小値となることが確認された。また、AlGaONにおけるSiの分布も、Oの分布と同様の傾向を有することが確認された。なお、図7Bでは、GaNでO、Si、Alが低濃度検出されているが、これはバックグラウンド及び隣接ピークの裾の影響で生じたノイズである。
【0057】
さらに、図7Bに示すように、SiO、AlGaON及びGaNにおいて、Al濃度が最大となるAl濃度ピークは、AlGaONに存在することが確認された。この実施例では、Al濃度ピークが、AlGaONの厚さ方向における途中位置に存在することが確認された。
【0058】
図7Bに示すように、AlGaONにおいてAl濃度ピークは、SiとOのプロファイルがずれている領域と重なるように存在することが確認された。AlGaONは、Al、O、Ga、Nが混ざったAl含有層である。このAl含有層は、図2等に示したアモルファス層31に相当する。このAl含有層によって、SiOとGaNとの界面ではGaOxの形成が抑制されているものと考えられる。SiOとGaNとの界面は、GaOxの形成が抑制されることによって、後述するようにMOSFETの移動度が高くなる理想界面に近づくと考えられる。
【0059】
(2.2)比較例
図8A及び図8Bは、本開示の比較例において、ゲート絶縁膜(SiO)、酸化ガリウム層(GaOx)及びGaN層(GaN)の深さ方向における組成分布を分析した結果を示すグラフである。図8AはGa、Nの分布を示すデータであり、図8BはSi、O、Alの分布を示すデータである。図8A及び図8Bの各グラフにおいて、横軸は深さ方向における位置を示し、縦軸は元素(原子)濃度を示す。図8A及び図8Bの各グラフに示すデータは、TEM画像のEDXのラインスキャンで得たものである。
【0060】
比較例では、図3のステップST1からST3を参照しながら説明した、AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30、GaOx層16及びGaN層12を含む基板全体に熱処理を施してアモルファス層(AlGaON)31を形成する工程がない。比較例では、GaN上にAlGaONを介することなく、SiOを直接形成する。このような方法で製造したMOSFETでは、SiOとGaN層との間にGaOxが形成される。このGaOxは、図8A及び図8Bに示すように、Ga、N、Oの各元素を含むが、Alは含まない。Alを含まないGaOxは、SiとOのプロファイルのずれており、OとGa、Nが混ざったような層となっている。なお、図7Bと同様に、図8Bにおいても、GaNでO、Si、Alが低濃度検出されているが、これはバックグラウンド及び隣接ピークの裾の影響で生じたノイズである。
【0061】
(3)電界効果移動度について
図9は、本開示の実施例と比較例の電界効果移動度を比較したグラフである。図9の横軸はゲート電圧Vg(V)を示し、縦軸は電界効果移動度μFE(cm/Vs)を示す。また、実施例は、図7A及び図7Bに示した組成を有するMOSFETである。比較例は、図8A及び図8Bに示した組成を有するMOSFETである。上述したように、比較例は、ゲート絶縁膜(SiO)とGaN層との間にアモルファス層(AlGaON)ではなく、酸化ガリウム層(GaOx)を有する。
【0062】
図9に示すように、実施例は、比較例と比べて、しきい値の低下を抑えつつ(すなわち、実施例と比較例のしきい値の差ΔVthを小さく抑えつつ)、電界効果移動度μFEを増加させることができることが確認された。この実験結果では、実施例の電界効果移動度μFEは最大で330cm/Vsであり、比較例の電界効果移動度μFEは最大で105cm/Vsであった。実施例のように、しきい値の低下を抑えつつ移動度を増加させることによって、デバイスのオン抵抗のうち大きな割合を占めるチャネル抵抗が減少し、低オン抵抗なMOSFETが実現可能となる。
【0063】
(4)アモルファス層の表面Al濃度と、MOSFETの移動度及びしきい値の関係
図10は、ゲート絶縁膜とGaN層との間に位置するアモルファス層の表面のAl濃度と、MOSFETの移動度及びしきい値との関係を示すグラフである。図10の横軸は、アモルファス層の表面のAl濃度(以下、表面Al濃度)(at%)を示す。図10の左側の縦軸は電界効果移動度の最大値(以下、ピーク移動度)(cm/Vs)示し、右側の縦軸はしきい値(V)を示す。
【0064】
図10に示すように、アモルファス層の表面Al濃度が高くなるほど、MOSFETのピーク移動度は増加し、しきい値は低下する傾向があることが確認された。この結果から、アモルファス層のAl濃度によって、MOSFETの電気的特性を制御できることが確認された。
【0065】
(5)アモルファス層を形成する際の熱処理条件と表面Al濃度との関係
図11は、アモルファス層を形成する際の熱処理の最高温度と、アモルファス層の表面Al濃度との関係を示すグラフである。図11の横軸は熱処理の最高温度(℃)を示し、縦軸はアモルファス層の表面Al濃度(at%)を示す。なお、この実験では、最高温度での熱処理時間を5分に設定した。図11に示すように、熱処理時間が5分に設定されている場合は、熱処理の最高温度が高いほど表面Al濃度が高くなることが確認された。
【0066】
図12は、アモルファス層を形成する際の最高温度での熱処理時間と、アモルファス層の表面Al濃度との関係を示すグラフである。図12の横軸は最高温度での熱処理時間(分)を示し、縦軸はアモルファス層の表面Al濃度(at%)を示す。なお、この実験では、熱処理の最高温度を1300(℃)に設定した。図12に示すように、最高温度が1300℃に設定されている場合は、熱処理時間が高いほど表面Al濃度が高くなることが確認された。
【0067】
図11及び図12の結果から、アモルファス層を形成する際の熱処理温度と、熱処理時間をそれぞれ変えることで、アモルファス層の表面Al濃度を制御できることが確認された。
【0068】
(実施形態1の効果)
以上説明したように、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置100は、表面10aと、10aの反対側に位置する裏面10bとを有するGaN基板10と、GaN基板10にチャネル領域を有する縦型MOSFET1と、を備える。縦型MOSFET1は、GaN基板10の表面10a側に設けられたゲート絶縁膜21と、GaN基板10とゲート絶縁膜21との間に設けられたアモルファス層31と、を有する。アモルファス層31は、Al、Ga、O及びNの各元素を含む。例えば、アモルファス層31は、Al及びOを主に含む化合物で、かつGaとNが混合したアモルファスAlGaON層である。
【0069】
これによれば、アモルファス層31はAlを含有するため、例えば図10に示したように、トランジスタの移動度を向上させることができる。移動度の向上により、トランジスタのオン抵抗のうち大きな割合を占めるチャネル抵抗を低減することができる。
【0070】
また、アモルファス層31はGaN基板10と格子整合しないため、アモルファス層31に歪みは導入されず、ピエゾ分極及び自発分極は生じない。これにより、GaN基板10とゲート絶縁膜21との間の分極電荷密度を小さくできるため、トランジスタのしきい値が負電圧側にシフトすることを抑制することができる。
【0071】
すなわち、GaNを用いたMOSFETにおいて、GaN基板の表面上に格子整合させたAlGaNを形成することで、移動度の向上が可能である。しかし、この構造をそのままパワーデバイスに適用すると、しきい値が負電圧側にシフトし、ノーマリオンに近づく。これは、格子整合したGaN/AlGaN界面ではAlGaNの格子歪みに起因したピエゾ分極が大きく、自発分極とピエゾ分極の総和である分極も大きいからである。分極に伴い界面に誘起される分極電荷密度が大きく、結果的にトランジスタのしきい値は負電圧側へ大きくシフトする。これに対して、AlGaNにOが加わったAlGaONはアモルファスであり、GaNと格子整合しない。つまりAlGaONに歪みは導入されず、ピエゾ分極及び自発分極はない。したがって、GaN/AlGaON界面では、分極電荷密度は小さく、しきい値の負電圧側へのシフトが抑制される。
【0072】
さらに、GaN基板10とゲート絶縁膜21との間にアモルファス層31が設けられることにより、GaN基板10の表面10aに形成される酸化ガリウム層を低減する効果が期待できる。これは、AlGaONを形成するための熱処理中に酸化ガリウム層が分解されてAlN層と反応し、AlGaONになると推測される。これにより、GaN基板10とゲート絶縁膜21との間をキャリアトラップの少ない理想界面に近づけることができる。
【0073】
以上から、トランジスタのしきい値の負電圧側へのシフトを抑制しつつ、トランジスタの移動度を向上させることができる。ノーマリオフであり、移動度が高く、低オン抵抗なトランジスタ(例えば、縦型MOSFET1)が実現可能である。
【0074】
本開示の実施形態に係るGaN半導体装置100の製造方法は、GaN基板10の表面10aにGaOx層16を形成する工程と、GaOx層16上にAlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30を形成する工程と、AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)、GaOx層16及びGaN基板10に最高温度が1100℃以上1400℃以下である熱処理を施し、AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30、GaOx層16及びGaN基板10を互いに反応させて、Al、Ga、O及びNの各元素を含むアモルファス層31を形成する工程と、上記の熱処理でGaOx層16及びGaN基板10と反応しなかった未反応AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)32をアモルファス層31上から除去する工程とを含む。
【0075】
これによれば、しきい値の負電圧側へのシフトを抑制しつつ、移動度を向上させることが可能なトランジスタ(例えば、縦型MOSFET1)を備えるGaN半導体装置100を製造することができる。
【0076】
なお、上記の製造方法では、アモルファス層31を形成する工程の熱処理の処理条件(例えば、熱処理の最高温度と、最高温度での処理時間)と、アモルファス層31のAl濃度との第1の関係(例えば、図11及び図12参照)を予め調査しておくことが好ましい。また、アモルファス層31のAl濃度と、GaN基板10にチャネル領域が形成されるトランジスタの電気的特性(例えば、しきい値及び移動度)との第2の関係を予め調査しておくことが好ましい。そして、アモルファス層31を形成する工程では、第1の関係及び第2の関係に基づいて、電気的特性が所望の値となるように、熱処理の処理条件を設定することが好ましい。
【0077】
これにより、例えば、縦型MOSFET1の電気的特性を熱処理の処理条件で制御することができる。所望のしきい値と所望の移動度とを有する縦型MOSFET1を実現することが容易となる。
【0078】
<実施形態2>
上記の実施形態1では、AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30、GaOx層16及びGaN層12に熱処理(「第1熱処理」の一例)を施して、Al、Ga、O及びNの各元素を含むアモルファス層31を形成する工程と、N不純物がイオン注入されたGaN層12に熱処理(「第2熱処理」の一例)を施しN型不純物を活性化させて、GaN層12にソース領域23を形成する工程と、を別々に行うことを説明した。しかしながら、本開示の実施形態はこれに限定されない。本開示の実施形態では、第1熱処理と第2熱処理とを同時に行ってもよい。すなわち、第1熱処理及び第2熱処理を兼用熱処理としてもよい。
【0079】
図13から図15は、実施形態2に係る縦型MOSFET1の製造方法を工程順に示す断面図である。図13のステップST11において、製造装置は、GaN単結晶基板11上に、SiがドープされたGaN層12をエピタキシャル成長させる。次に、製造装置は、GaN層12におけるウェル形成領域13´にP型不純物をイオン注入する。例えば、製造装置はGaN層12上にマスクM11を形成する。マスクM11は、フォトレジスト、SiO膜又はAl膜で構成されている。マスクM11は、ウェル形成領域13´の上方を開口し、他の領域の上方を覆う形状を有する。製造装置は、マスクM11が形成されたGaN層12にMgをイオン注入する。イオン注入により、ウェル形成領域13´におけるMg濃度は、例えば1×1017cm-3となる。イオン注入後、製造装置は、アモルファス層31上からマスクM11を除去する。
【0080】
次に、製造装置は、例えばN雰囲気中で、GaN層12を含む基板全体に熱処理を施す。この熱処理により、ウェル形成領域13´にイオン注入されたP型不純物が活性化されて、ウェル形成領域13´はP型のウェル領域13となる。また、この熱処理により、ウェル領域13において、P型不純物のイオン注入により生じた欠陥をある程度回復することができる。
【0081】
次に、図13のステップST12に示すように、製造装置は、GaN層12のコンタクト形成領域15´にP型不純物をイオン注入する。例えば、製造装置はアモルファス層31上にマスクM12を形成する。マスクM12は、フォトレジスト、SiO膜又はAl膜で構成されている。マスクM12は、コンタクト形成領域15´の上方を開口し、他の領域の上方を覆う形状を有する。製造装置は、マスクM12が形成されたGaN層12にMgをイオン注入する。イオン注入により、コンタクト形成領域15´におけるMg濃度は、例えば1×1019cm-3となる。イオン注入後、製造装置は、アモルファス層31上からマスクM12を除去する。
【0082】
次に、図13のステップST13に示すように、製造装置は、GaN層12のソース形成領域23´にN型不純物をイオン注入する。例えば、製造装置は、GaN層12上にマスクM13を形成する。マスクM13は、フォトレジスト、SiO膜又はAl膜で構成されている。マスクM13は、ソース形成領域23´の上方を開口し、他の領域の上方を覆う形状を有する。製造装置は、マスクM13が形成されたGaN層12にSiをイオン注入する。イオン注入により、ソース形成領域23´におけるSi濃度は、例えば1×1019cm-3となる。イオン注入後、製造装置は、GaN層12上からマスクM13を除去する。
【0083】
次に、製造装置は、Oを含む雰囲気中で、GaN基板10に熱処理を施して、GaN基板10の表面10a(すなわち、GaN層12の表面)にGaOx層16を形成する。例えば、この熱処理(熱酸化)は、NとOとを含み、Oの濃度が25%の雰囲気中で、最高温度は800℃、最高温度での熱処理時間は30分で行う。これにより、図14のステップST14に示すように、GaN基板10の表面10aが熱酸化され、GaOx層16が形成される。
【0084】
次に、製造装置は、GaOx層16上にAlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30を形成する。例えば、AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30の厚さは200nmである。AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30は、ALD法、スパッタ法又はCVD法で形成される。AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30の結晶構造は、多結晶又はアモルファスである。
【0085】
次に、製造装置は、例えばN及びOの少なくとも一方を含む雰囲気中でAlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30、GaOx層16及びGaN層12を含む基板全体に熱処理(本開示の「第1熱処理」の一例)を施して、AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30、GaOx層16及びGaN層12を互いに反応させる。この熱処理の最高温度は1100℃以上1400℃以下である。例えば、この熱処理の雰囲気はN、最高温度は1300℃、最高温度の熱処理時間は300秒である。
【0086】
これにより、図14のステップST15に示すように、未反応のAlxGa(1-x)N層32とGaN層12との間に、アモルファス層31が形成される。上述したように、アモルファス層31は、Al及びOを主に含む化合物で、かつGaとNが混合したアモルファスなAlGaON層である。アモルファス層31の厚さは、例えば0.25nm以上2nm以下である。
【0087】
また、アモルファス層31が形成される熱処理により、コンタクト形成領域15´にイオン注入されたP型不純物が活性化されて、コンタクト形成領域15´はP型のコンタクト領域15となる。また、この熱処理により、ソース形成領域23´にイオン注入されたN型不純物が活性化されて、ソース形成領域23´はN+型のソース領域23となる。さらに、この熱処理により、コンタクト領域15及びソース領域23において、P型不純物又はN型不純物のイオン注入により生じた欠陥をある程度回復することができる。
【0088】
次に、製造装置は、未反応AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)32をアモルファス層31上から除去する。未反応AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)32の除去は、例えば、アルカリ液を用いたウェットエッチングで行ってもよいし、CMP等の表面ポリッシュで行ってもよい。アルカリ液として、KOH(水酸化カリウム)を含む水溶液が例示される。未反応AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)32を除去した後は、GaN層12上にアモルファス層31が残される。
【0089】
次に、図14のステップST16に示すように、製造装置は、プラズマCVD法により、アモルファス層31上にゲート絶縁膜21を形成する。ゲート絶縁膜21は、例えばSiOであり、その厚さは100nmである。次に、製造装置は、ゲート絶縁膜21及びアモルファス層31を部分的にエッチングする。例えば、ゲート絶縁膜21のエッチングはレジストパターンをマスクに用いて行う。アモルファス層31のエッチングは、パターニング後のゲート絶縁膜21をマスクに用いて行う。これにより、製造装置は、縦型MOSFET1のゲートとなる領域とその周辺とにゲート絶縁膜21及びアモルファス層31を残し、それ以外の領域からゲート絶縁膜21及びアモルファス層31を除去する。なお、アモルファス層31は必ずしも除去する必要はない。そのようにしてもアモルファス層31は非常に薄いため、ソース領域23とソース電極25(図15のステップST17参照)とのコンタクトへの支障はなく、コンタクト領域15とソース電極25とのコンタクトへの支障もない。アモルファス層31を除去しない場合は、コンタクトへの支障はなく、エッチング除去の工程が少なくなるため、工程短縮になる。
【0090】
次に、図15のステップST17に示すように、製造装置は、GaN層12の上方に金属膜を形成し、形成された金属膜をパターニングして、ゲート電極22、ソース電極25を形成する。また、ゲート電極22及びソース電極25の形成工程とは別工程で、GaN基板10の裏面10b側に金属膜を形成し、形成された金属膜を必要に応じてパターニングしてドレイン電極26を形成する。ゲート電極22、ソース電極25及びドレイン電極26を構成する金属膜の形成は、蒸着又はスパッタリング等で行う。金属膜のパターニングは、ドライエッチング又はリフトオフ法で行う。なお、ゲート電極22の形成工程とソース電極25の形成工程は同時に行わず、例えば絶縁膜の形成工程等を挟んで別々に行ってもよい。以上の工程を経て、図2に示した縦型MOSFET1が完成する。
【0091】
本開示の実施形態2に係る製造方法によれば、実施形態1に係る製造方法と同様に、図2に示した縦型MOSFETを製造することができる。また、実施形態1に係る製造方法と比べて、アモルファス層31を形成するための熱処理を、コンタクト領域15及びソース領域23を形成するための熱処理と兼用で行う。これにより、縦型MOSFET1の製造工程の短縮が可能であり、製造コストの低減が可能である。
【0092】
<実施形態3>
上記の実施形態では、N型のGaN層12にP型不純物をイオン注入し、熱処理を行うことによって、N-型のGaN層12にP型のウェル領域13を形成することを説明した。しかしながら、本開示の実施形態において、P型のウェル領域の形成方法はこれに限定されない。P型のウェル領域は、イオン注入ではなく、エピタキシャル成長法で形成してもよい。また、上記の実施形態では、GaN半導体装置100が縦型MOSFET1を備えることを説明した。しかしながら、本開示の実施形態において、GaN半導体装置100が備えるMOSFETは縦型MOSFETに限定されず、横型MOSFETであってもよい。
【0093】
図16及び図17は、実施形態3に係る横型MOSFET1Aの製造方法を工程順に示す断面図である。図16のステップST21において、製造装置は、GaN単結晶基板11上に、SiがドープされたN-型のGaN層12(本開示の「第1GaN層」の一例)をエピタキシャル成長させる。続いて、製造装置は、N-型のGaN層12上にMgがドープされたP型のGaN層13A(本開示の「第1GaN層」の一例)をエピタキシャル成長させる。N-型のGaN層12とP型のGaN層13Aは、途中で大気開放することなく、同一チャンバ内で連続してエピタキシャル成長させる。実施形態3では、P型のGaN層13Aが、P型のウェル領域となる。P型のGaN層13A(すなわち、P型のウェル領域)におけるMg濃度は、例えば1×1017cm-3以上1×1018cm-3以下である。
【0094】
次に、製造装置は、GaN層12のコンタクト形成領域15´にP型不純物をイオン注入する。例えば、製造装置はアモルファス層31上にマスクM21を形成する。マスクM21は、フォトレジスト、SiO膜又はAl膜で構成されている。マスクM21は、コンタクト形成領域15´の上方を開口し、他の領域の上方を覆う形状を有する。製造装置は、マスクM21が形成されたGaN層12にMgをイオン注入する。イオン注入後、製造装置は、アモルファス層31上からマスクM12を除去する。
【0095】
次に、図16のステップST22に示すように、製造装置は、GaN層12のソース形成領域23´及びドレインが形成される領域(以下、ドレイン形成領域)24´にN型不純物をイオン注入する。例えば、製造装置は、GaN層12上にマスクM22を形成する。マスクM22は、フォトレジスト、SiO膜又はAl膜で構成されている。マスクM22は、ソース形成領域23´及びドレイン形成領域24´の上方を開口し、他の領域の上方を覆う形状を有する。製造装置は、マスクM22が形成されたGaN層12にSiをイオン注入する。イオン注入後、製造装置は、GaN層12上からマスクM22を除去する。
【0096】
次に、製造装置は、Oを含む雰囲気中で、GaN基板10に熱処理を施して、GaN基板10の表面10a(すなわち、GaN層12の表面)にGaOx層16を形成する。一例を挙げると、この熱処理(熱酸化)は、NとOとを含み、Oの濃度が25%の雰囲気中で、最高温度は800℃、最高温度での熱処理時間は30分で行う。これにより、図16のステップST23に示すように、GaN基板10の表面10aが熱酸化され、GaOx層16が形成される。
【0097】
次に、製造装置は、GaOx層16上にAlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30を形成する。例えば、AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30の厚さは200nmである。AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30は、ALD法、スパッタ法又はCVD法で形成される。AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30の結晶構造は、多結晶又はアモルファスである。
【0098】
次に、製造装置は、例えばN及びOの少なくとも一方を含む雰囲気中でAlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30、GaOx層16及びGaN層12を含む基板全体に熱処理(本開示の「第1熱処理」の一例)を施して、AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)30、GaOx層16及びGaN層12を互いに反応させる。この熱処理の最高温度は1100℃以上1400℃以下である。例えば、この熱処理の雰囲気はN、最高温度は1300℃、最高温度の熱処理時間は300秒である。
【0099】
これにより、図17のステップST24に示すように、未反応のAlxGa(1-x)N層32とGaN層12との間に、アモルファス層31が形成される。上述したように、アモルファス層31は、Al及びOを主に含む化合物で、かつGaとNが混合したアモルファスなAlGaON層である。アモルファス層31の厚さは、例えば0.25nm以上2nm以下である。
【0100】
また、上記の熱処理により、GaN層12にイオン注入されたP型不純物及びN型不純物がそれぞれ活性化されて、P型のコンタクト領域15、N+型のソース領域23及びN+型のドレイン領域24がそれぞれ形成される。
【0101】
次に、製造装置は、未反応AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)32をアモルファス層31上から除去する。未反応AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)32を除去した後は、GaN層12上にアモルファス層31が残される。
【0102】
次に、図17のステップST25に示すように、製造装置は、プラズマCVD法により、アモルファス層31上にゲート絶縁膜21を形成する。次に、製造装置は、ゲート絶縁膜21及びアモルファス層31を部分的にエッチングする。これにより、製造装置は、横型MOSFET1Aのゲートとなる領域とその周辺とにゲート絶縁膜21及びアモルファス層31を残し、それ以外の領域からゲート絶縁膜21及びアモルファス層31を除去する。なお、アモルファス層31は必ずしも除去する必要はない。そのようにしてもアモルファス層31は非常に薄いため、ソース領域23とソース電極25(図17のステップST26参照)とのコンタクトへの支障はなく、コンタクト領域15とソース電極25とのコンタクトへの支障もない。アモルファス層31を除去しない場合は、コンタクトへの支障はなく、エッチング除去の工程が少なくなるため、工程短縮になる。
【0103】
次に、図17のステップST26に示すように、製造装置は、GaN層12の上方に金属膜を形成し、形成された金属膜をパターニングして、ゲート電極22、ソース電極25及びドレイン電極26を形成する。以上の工程を経て、エピタキシャル成長法で形成されたP型のGaN層13Aをウェル領域とする横型MOSFET1Aが完成する。
【0104】
本開示の実施形態3に係る横型MOSFET1Aは、GaN層12に設けられたP型のウェル領域13とゲート絶縁膜21との間に、Al、Ga、O及びNの各元素を含むアモルファス層31を有する。これにより、縦型MOSFET1の場合と同様に、横型MOSFET1Aは、しきい値の負電圧側へのシフトを抑制しつつ、移動度を向上させることができる。
【0105】
実施形態3に係る製造方法によれば、しきい値の負電圧側へのシフトを抑制しつつ、移動度を向上させることが可能な横型MOSFET1Aを備えるGaN半導体装置100を製造することができる。また、横型MOSFET1Aのチャネル領域(P型のGaN層13Aのうち、アモルファス層31を介してゲート絶縁膜21と向かい合う領域)にイオン注入領域が含まれないため、結晶欠陥が少なく、移動度のさらなる向上を見込むことができる。
【0106】
<その他の実施形態>
上記のように、本開示は実施形態及び変形例によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本開示を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、変形例が明らかとなろう。本開示はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。上述した実施形態及び変形例の要旨を逸脱しない範囲で、構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。また、本明細書に記載された効果はあくまでも例示であって限定されるものでは無く、また他の効果があってもよい。本開示の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【0107】
なお、本開示は以下のような構成も取ることができる。
(1)
第1主面と、前記第1主面の反対側に位置する第2主面とを有するGaN層と、
前記GaN層にチャネル領域を有するトランジスタと、を備え、
前記トランジスタは、
前記GaN層の前記第1主面側に設けられたゲート絶縁膜と、
前記GaN層と前記ゲート絶縁膜との間に設けられたアモルファス層と、を有し、
前記アモルファス層は、Al、Ga、O及びNの各元素を含む、窒化物半導体装置。
(2)
前記アモルファス層は、Al及びOを主に含む化合物で、かつGaとNが混合したアモルファスAlGaON層である、前記(1)に記載の窒化物半導体装置。
(3)
前記ゲート絶縁膜は、SiO膜、Al膜、SiON膜、AlSiO膜、AlON膜のいずれか1つ以上を含む、前記(1)又は(2)に記載の窒化物半導体装置。
(4)
前記トランジスタは、
前記ゲート絶縁膜上に設けられたゲート電極と、
前記GaN層に設けられた第1導電型のソース領域と、
前記GaN層上に設けられ、前記ソース領域と接するソース電極と、
前記GaN層に設けられ、前記ゲート絶縁膜と向かい合い、かつ前記ソース領域に隣接する第2導電型のウェル領域とを有し、
前記アモルファス層は、前記ウェル領域と前記ゲート絶縁膜との間に配置される、前記(1)から(3)のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
(5)
前記GaN層は、
第1導電型の第1GaN層と、
前記第1GaN層上に設けられた第2導電型の第2GaN層とを有し、
前記ソース領域は前記第2GaN層に設けられている、前記(4)に記載の窒化物半導体装置。
(6)
前記トランジスタは、
前記GaN層の前記第2主面側に設けられたドレイン電極を有する、前記(4)に記載の窒化物半導体装置。
(7)
前記アモルファス層の深さ方向におけるO元素の平均濃度は、10原子%以上30原子%以下である、前記(1)から(6)のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
(8)
前記アモルファス層の厚さは、0.25nm以上2nm以下である前記(1)から(7)のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
(9)
GaN層の第1主面にGaOx層を形成する工程と、
前記GaOx層上にAlxGa(1-x)N層(0<x≦1)を形成する工程と、
前記AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)、前記GaOx層及び前記GaN層に最高温度が1100℃以上1400℃以下である第1熱処理を施し、前記AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)、前記GaOx層及び前記GaN層を互いに反応させて、Al、Ga、O及びNの各元素を含むアモルファス層を形成する工程と、
前記第1熱処理で前記GaOx層及び前記GaN層と反応しなかった未反応AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)を前記アモルファス層上から除去する工程とを含む、窒化物半導体装置の製造方法。
(10)
前記GaOx層を形成する工程では、酸素を含む雰囲気中で前記GaN層に最高温度が600℃以上1000℃以下の熱処理を施すことによって前記GaOx層を形成する、前記(9)に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
(11)
前記GaOx層を形成する工程では、CVD法又はスパッタ法で前記GaOx層を形成する、前記(9)に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
(12)
前記GaOx層を形成する工程では、酸素プラズマの照射によって前記GaOx層を形成する、前記(9)に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
(13)
前記GaOx層を形成する工程では、前記GaOx層を0.2nm以上1nm以下の厚さに形成する、前記(9)から(12)のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
(14)
前記AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)を形成する工程では、前記AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)をALD法、スパッタ法又はCVD法で形成する、前記(9)から(13)のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
(15)
前記第1熱処理は、酸素及び窒素の少なくとも一方を含む雰囲気中で行う、前記(9)から(14)のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
(16)
前記アモルファス層を形成する前に、前記GaN層に第1導電型の不純物をイオン注入する工程をさらに含み、
前記アモルファス層を形成する工程では、前記第1熱処理により前記不純物が活性化されて前記GaN層にトランジスタのソース領域が形成される、前記(9)から(15)のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
(17)
前記アモルファス層を形成した後で、前記GaN層に第1導電型の不純物をイオン注入する工程と、
前記不純物がイオン注入された前記GaN層に第2熱処理を施し前記不純物を活性化させて、前記GaN層にトランジスタのソース領域を形成する工程と、をさらに含み、
前記第1熱処理の最高温度は、前記第2熱処理の最高温度よりも高い、前記(9)から(15)のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
(18)
前記第1熱処理の処理条件と、前記アモルファス層のAl濃度との第1の関係を予め調査するとともに、
前記アモルファス層の前記Al濃度と、前記GaN層にチャネル領域が形成されるトランジスタの電気的特性との第2の関係を予め調査しておき、
前記アモルファス層を形成する工程では、
前記第1の関係及び前記第2の関係に基づいて、前記電気的特性が所望の値となるように、前記処理条件を設定する、前記(9)から(17)のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
(19)
前記電気的特性は、前記トランジスタのしきい値及び移動度であり、
前記処理条件は、前記第1熱処理の最高温度及び前記最高温度での処理時間である、前記(18)に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【符号の説明】
【0108】
1 縦型MOSFET
1A 横型MOSFET
10 GaN基板
10a 表面
10b 裏面
11 GaN単結晶基板
12、13A GaN層
13 ウェル領域
13´ ウェル形成領域
15 コンタクト領域
15´ コンタクト形成領域
16 GaOx層
21 ゲート絶縁膜
22 ゲート電極
23 ソース領域
23´ ソース形成領域
24 ドレイン領域
24´ ドレイン形成領域
25 ソース電極
26 ドレイン電極
30 AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)
31 アモルファス層(AlGaON)
32 未反応AlxGa(1-x)N層(0<x≦1)
100 GaN半導体装置
M1、M2、M3、M11、M12、M13、M21、M22 マスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17