(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104247
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】生食用冷凍魚介類食品の製造方法及び生食用冷凍魚介類食品の変質防止方法
(51)【国際特許分類】
A23B 4/06 20060101AFI20240726BHJP
A23L 17/00 20160101ALI20240726BHJP
A23L 3/37 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
A23B4/06 501B
A23L17/00 Z
A23L3/37 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008394
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003274
【氏名又は名称】マルハニチロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇根 雄太
(72)【発明者】
【氏名】下平 潤
(72)【発明者】
【氏名】外川 理絵
【テーマコード(参考)】
4B022
4B042
【Fターム(参考)】
4B022LA06
4B022LB01
4B022LJ04
4B022LJ06
4B042AC06
4B042AD39
4B042AE05
4B042AG16
4B042AK04
4B042AK05
4B042AP18
4B042AP24
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】解凍後の日持ちが良好な生食用冷凍魚介類食品を提供する。
【解決手段】生食用魚介類と、該魚介類に対する重量が0.2~0.5倍の量の調味液とを容器に封入して真空包装する工程と、真空包装後の魚介類入り容器を冷凍する工程とを有する、生食用冷凍魚介類食品の製造方法であって、
前記調味液が酢酸ナトリウムを含有し、該調味液と前記魚介類との接触から冷凍開始までを130分以内で行う、生食用冷凍魚介類食品の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生食用魚介類と、該魚介類に対する重量が0.2~0.5倍の量の調味液とを容器に封入して真空包装する工程と、真空包装後の魚介類を冷凍する工程とを有する、生食用冷凍魚介類食品の製造方法であって、
前記調味液が酢酸ナトリウムを含有し、該調味液と前記魚介類との接触から冷凍開始までを130分以内で行う、生食用冷凍魚介類食品の製造方法。
【請求項2】
前記の調味液と前記魚介類との接触から冷凍開始までを40分以内で行う、請求項1に記載の生食用冷凍魚介類食品の製造方法。
【請求項3】
前記調味液における酢酸ナトリウムの量が5.0質量%以上15.0質量%以下である、請求項1又は2に記載の生食用冷凍魚介類食品の製造方法。
【請求項4】
前記調味液の10℃のpHが5.5~7.0である、請求項1又は2に記載の生食用冷凍魚介類食品の製造方法。
【請求項5】
前記冷凍する工程において、冷凍速度が-0.25℃/分以上であり、冷凍温度が-15℃~-40℃である、請求項1又は2に記載の生食用冷凍魚介類食品の製造方法。
【請求項6】
前記魚介類が鮭である、請求項1~5の何れか1項に記載の生食用冷凍魚介類食品の製造方法。
【請求項7】
生食用魚介類と、該魚介類に対する重量が0.2~0.5倍の量の調味液とを容器に封入して真空包装する工程と、真空包装後の魚介類を冷凍する工程とを有する、生食用冷凍魚介類食品の変質防止方法であって、
前記調味液が酢酸ナトリウムを含有し、該調味液と前記魚介類との接触から冷凍開始までを130分以内で行う、生食用冷凍魚介類食品の変質防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生食用冷凍魚介類食品の製造方法及び生食用冷凍魚介類食品の変質防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品の日持ちに関する要求はますます高まっている。特に傷みやすい生食用魚介類に関し、その要求は強い。生食用魚介類について日持ち剤である酢酸ナトリウムで処理して日持ちさせる例としては、例えば下記特許文献1がある。特許文献1の実施例1では、酢酸ナトリウムを20質量%含有する浸漬液にマグロ等の魚介類の切り身を1分間浸漬し、液切り後、72時間までの保存試験を行っているが冷凍及び解凍後の評価は行っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生食用魚介類は広く好まれる食材であり、魚介類を冷凍し、解凍後にも日持ちさせて生食として喫食可能とする需要は強い。
一方で、魚介類は冷凍及び解凍を経ることでドリップが生じ、魚介類表面の水分活性が上がり、微生物が繁殖しやすくなることが知られている。このため魚介類を冷凍及び解凍を経た後にも生食用として喫食可能とすることは従来難しく、まして解凍後の魚介類を生食用として日持ちさせることが難しかった。
【0005】
本発明の課題は、生食用魚介類について、冷凍及び解凍を経ても良好な日持ち効果が得られる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するために見出されたものであり、生食用魚介類と、該魚介類に対する重量が0.2~0.5倍の量の調味液とを容器に封入して真空包装する工程と、真空包装後の魚介類入り容器を冷凍する工程とを有する、生食用冷凍魚介類食品の製造方法であって、
前記調味液が酢酸ナトリウムを含有し、該調味液と前記魚介類との接触から冷凍開始までを130分以内で行う、生食用冷凍魚介類食品の製造方法を提供するものである。
【0007】
また本発明は、生食用魚介類と、該魚介類に対する重量が0.2~0.5倍の量の調味液とを容器に封入して真空包装する工程と、真空包装後の魚介類入り容器を冷凍する工程とを有する、生食用冷凍魚介類食品の変質防止方法であって、
前記調味液が酢酸ナトリウムを含有し、該調味液と前記魚介類との接触から冷凍開始までを130分以内で行う、生食用冷凍魚介類食品の変質防止方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、解凍後の日持ち効果が良好な生食用冷凍魚介類食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明は、生食用魚介類と、該魚介類に対する重量が0.2~0.5倍の量の調味液とを容器に封入して真空包装する工程と、真空包装後の魚介類入り容器を冷凍する工程とを有する、生食用冷凍魚介類食品の製造方法であって、
前記調味液が酢酸ナトリウムを含有し、該調味液と前記魚介類との接触から冷凍開始までを130分以内で行う、生食用冷凍魚介類食品の製造方法である。
【0010】
生食用の魚介類としては、魚類、貝類、甲殻類、頭足類等が挙げられる。魚類としては、特に、アイナメ、アカハタ、アカウオ、アジ、アナゴ、アユ、アンコウ、イサキ、イトヨリ、イワシ、イワナ、ウナギ、エイ、エソ、オコゼ、カイワリ、カサゴ、カジカ、カジキ、カツオ、カトラ、カマス、カレイ、カワハギ、カンパチ、キス、キンキ、キビナゴ、グチ、コチ、コクレン、サケ(アトランティックサーモン、トラウトサーモン、ギンザケを含む)、サバ、サメ、サンマ、サワラ、サヨリ、ソウギョ、ハクレン、パンガシウス、ヒラメ、ドジョウ、スズキ、タラ、タイ、タチウオ、トビウオ、ドジョウ、ナイルテラピア、ナマズ、ニシン、ニジマス、ハゼ、ハタ、ハモ、ヒラメ、ヒラマサ、フグ、フナ、ブリ(ハマチ、イナダ、メジロ等の成長名・季節名を含む)、ホッケ、ホキ、ムツ、マグロ、マゴイ、ミルクフィッシュ、メバル、ママカリ、ヤマトゴイ、ロフーなどが挙げられる。貝類としては、カキ、シジミ、アサリ、ホタテガイ、アカガイ等が挙げられる。甲殻類としては、エビ、カニ、シャコが挙げられる。頭足類としてはイカやタコが挙げられる。
【0011】
中でも本発明では、生食用として需要の多い魚類が好ましく、アジ、イワシ、カツオ、カレイ、サケ、サバ、ヒラメ、タイ、タチウオ、ニシン、ヒラメ、ハマチ、マグロ、ブリ等がより好ましく、とりわけ、アジ、カツオ、サケ、サバ、タイ、ブリ、ハマチ、マグロが特に好ましく、本発明を適用したときの色味の効果に優れることからサケが最も好ましい。
【0012】
本発明では、生食用の魚介類は真空包装前に喫食されやすい形状とされていることが好ましい。その様な形状としては、例えば、刺身状、スライス状、ダイス状、一口カット状、その他の切り身状等が挙げられる。一片の大きさは特に限定されるものではないが、例えば1.0~20.0gであることが、喫食のされやすさや本発明の効果に優れる点で好ましく、1.0~15.0gであることが、特に好ましく、1.0~10.0gであることが更に一層好ましい。
【0013】
生食用の魚介類は酢酸ナトリウムを含む調味液とともに真空包装する。当該処理の前に、魚介類を次亜塩素酸ナトリウムを含有する水溶液にて処理すると、一層日持ち向上効果が高まるため好ましい。この場合の次亜塩素酸ナトリウム含有水溶液における次亜塩素酸ナトリウムの濃度は質量基準にて30.0~250.0ppmであることが好ましく、50.0~200.0ppmであることがより好ましい。また次亜塩素酸ナトリウム含有水溶液への浸漬時間は5.0~60.0秒が好ましく、10.0~30.0秒がより好ましい。当該浸漬処理は次亜塩素酸ナトリウム水溶液の水温が1.0~15.0℃となる温度で好適に行うことができる。
【0014】
生食用の魚介類は酢酸ナトリウムを含む調味液とともに真空包装する。ここで後述する実施例3に示す通り、調味液における酢酸ナトリウムの濃度は、例えば、0.9質量%程度であっても一定の日持ち効果を発揮する。しかし特に解凍後に優れた日持ち効果を発揮する点からは調味液中の酢酸ナトリウムの量が5.0質量%以上であることが好ましく、6.0質量%以上であることがより好ましく、7.0質量%以上であることが更に一層好ましく、8.0質量%以上であることが特に好ましい。また、調味液において、酢酸ナトリウムの量は15.0質量%以下であることが酸味の低減の点で好ましく、14.0質量%以下であることがより好ましく、13.0質量%以下であることが更に一層好ましく、12.0質量%以下であることが特に好ましく、11.5質量%以下であることが最も好ましい。
【0015】
本発明で用いる調味液は、10℃のpHが5.5~7.0であることが好ましく、6.0~7.0であることが特に好ましい。調味液の10℃のpHが5.5以上、特に6.0以上であることで、食味が良好なものとなり、身の食感等の品質が維持されやすい。また調味液の10℃のpHが7.0以下であることで、魚介類の退色を防止できる利点がある。
【0016】
本発明で用いる調味液は、酢酸ナトリウム以外に調味料をいずれか一種以上含有するものである。当該調味料としては、食塩等、本技術分野で通常使用されるものが挙げられる。
また、調味液は、有機酸又は酸性塩を含有していてもよい。これらはpHを所望の範囲内とする機能を有するほか、調味料としても機能する。有機酸又は酸性塩としては、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酒石酸水素カリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、アジピン酸、乳酸、アスコルビン酸、フィチン酸、グルコン酸(グルコノデルタラクトンを含む)、酢酸(氷酢酸を含む)、醸造酢等が挙げられる。中でもフマル酸一ナトリウム、クエン酸一カリウム、酢酸を用いることが、汎用性及び調味性の点で好ましい。調味液が有機酸又は酸性塩を用いる場合は、その量は、例えば酢酸ナトリウム100質量部に対し、5.0~300質量部となる量が通常好適に挙げられ、5.0~25.0質量部となる量がより好ましく、10.0~20.0質量部となる量が更に一層好ましい。
【0017】
調味液における調味料としては、上記の食塩並びに有機酸又は有機酸の酸性塩のほか、コハク酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム等の有機酸の正塩(酢酸ナトリウム以外の正塩)が挙げられる。中でも本発明では、コハク酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム等から選ばれる少なくとも一種を含有することが、酸味料やうま味調味料等として、得られる生食用冷凍魚介類食品の食味が良好になる点で好ましい。
【0018】
また、本発明においてコハク酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、乳酸ナトリウムから選ばれる少なくとも一種を用いることは、pH調整剤又は緩衝剤として得られる魚介類の品質を維持する点や食味の点でも好ましい。
【0019】
これらの点から、特に本発明では、コハク酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、乳酸ナトリウムから選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましく、コハク酸二ナトリウム及び/又はクエン酸三ナトリウムを含むことが特に好ましい。
【0020】
本発明で用いる調味液が、コハク酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸ナト リウム、乳酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも一種を含有する場合、上記の食味改善効果を一層高める点から、その量は、合計で調味液中、0.05質量%以上が好ましく、0.08質量%以上がより好ましく、0.5~3.0質量%が更に好ましく、1.0~2.0質量%が更に一層好ましい。また、本発明で用いる調味液が、コハク酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、乳酸ナトリウムから選ばれる少なくとも一種を含有する場合も、その量は、合計で調味液中、0.05質量%以上が好ましく、0.08質量%以上がより好ましく、0.5~3.0質量%が更に好ましく、1.0~2.0質量%が更に一層好ましい。
同様に、本発明で用いる調味液が、コハク酸二ナトリウム及び/又はクエン酸三ナトリウムを含有する場合も、その量は、合計で調味液中、0.05質量%以上が好ましく、0.08質量%以上がより好ましく、0.5~3.0質量%が更に好ましく、1.0~2.0質量%が更に一層好ましい。
【0021】
中でも、本発明で用いる調味液が、クエン酸三ナトリウムを含有する場合、上記の食味改善効果及び品質保持効果を一層高める点から、その量は調味液中、0.5~3.0質量%が好ましく、1.0~2.0質量%がより好ましい。
【0022】
更に、本発明で用いる調味液が、コハク酸二ナトリウムを含有する場合、上記の食味改善効果及び品質保持効果を一層高める点から、その量は特に、調味液中、0.05~0.3質量%が好ましく、0.08~0.2質量%がより好ましい。
【0023】
本発明で用いる調味液は、乳化剤を含有することが、日持ち効果の点等で好ましい。乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンが挙げられる。ここで、グリセリン脂肪酸エステルには、グリセリンと脂肪酸のエステルの外、グリセリン酢酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン縮合リシノール酸エステルが含まれる。またレシチンには、分別レシチン、酵素分解レシチン、酵素処理レシチンが含まれる。中でも本発明では、グリセリン脂肪酸エステルを用いることが好ましい。
【0024】
本発明で用いる調味液が、乳化剤を含有する場合、その量は、乳化剤を用いることによる上記の効果を高める点から、調味液中、0.01~1.0質量%が好ましく、0.1~0.5質量%がより好ましく、0.1~0.3質量%が最も好ましい。
【0025】
上記調味液は食塩を含有する場合、食塩の量が0.5~3.0質量%であることが食味、溶液の浸漬効率の点で好ましい。この観点から、食塩の量が1.0~2.0質量%であることがより好ましい。
【0026】
本発明において、食味及び食感、色味、日持ち効果を一層効果的に発揮する点から、調味液中、水、酢酸ナトリウム、有機酸又はその酸性塩若しくは正塩、乳化剤及び食塩以外の成分の量は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に一層好ましく、2質量%以下であることが最も好ましい。
中でも、本発明において食味及び食感、色味、日持ち効果を一層効果的に発揮する点から、調味液中、水、酢酸ナトリウム、有機酸の正塩、乳化剤及び食塩以外の成分の量が20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に一層好ましく、2質量%以下であることが最も好ましい。
【0027】
本発明では、上記調味液を生食用魚介類とともに真空包装する。真空包装に用いる調味液は生食用魚介類に対する重量が0.2倍以上0.5倍以下である。真空包装に用いる調味液は、生食用魚介類に対する重量が0.2倍以上であることで、日持ちの向上効果に優れる且つ調味料にまんべんなく触れるものとなる。また真空包装に用いる調味液は、生食用魚介類に対する重量が0.5倍以下であることで、製品重量を軽減できる利点がある。この観点から、真空包装に用いる調味液は生食用魚介類に対する重量が0.2倍以上0.4倍以下がより好適であり、0.2倍超であることが更に好適である。
【0028】
本発明では、真空包装の際に、上記調味液が生食用魚介類と接触してから、凍結開始に至るまでの時間も重要である。凍結開始とは、通常、真空包装してなる生食用魚介類食品を冷凍庫に入れる時点をいう。この時間が長すぎると、ドリップが生じやすくなり、得られる魚介類表面の水分活性が高まり、日持ち向上効果が得られない。また、食味の点でも、この時間が長すぎると得られる魚介類において調味液の味が強くなり、商品価値が低下してしまう。また色味の点でもこの時間が短いことが望ましい。これらの点から、本発明において、上記調味液が生食用魚介類と接触してから、凍結開始に至るまでの時間は130分以下であり、70分以下が好ましく、40分以下が特に好ましい。特に、上記調味液が生食用魚介類と接触してから、凍結開始に至るまでの時間は27分以下であることが魚介類の色味を良好とする点で好ましく、22分以下であることがとりわけ好ましく、17分以下であることが最も好ましい。
なお、本発明では、上記調味液が生食用魚介類と接触してから、真空包装前に予備冷凍(例えば-20℃以下の予備冷凍)を行う必要はない。
【0029】
日持ちの点から、魚介類と接触する時点における調味液の温度は、0℃超15℃以下が好適であり、0℃超12℃以下が更に一層好ましい。
【0030】
また、上記調味液が生食用魚介類と接触してから、凍結開始に至るまでの時間は30秒以上であることが日持ち向上効果の点で好ましく、3分以上であることが更に一層好ましい。
【0031】
本実施形態で用いる包装材料は、魚介類の身および調味液を包装することができ、かつ 真空包装に用いることのできるガスバリア性を有する材料であれば、特に限定されない。 通常はプラスチックフィルムが用いられ、その材質としては、合成樹脂フィルムが挙げられ、例えば、VDC/MA(塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体)、HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PA(ポリアミド)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)、PET(ポリエチレンテフタレート樹脂)及びこれらの1又は2以上の複合材が挙げられ、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリプロピレン又はこれらの複合材であることが破れにくさや保存性等の点で好ましい。
【0032】
本実施形態においては、上記魚介類と、上記調味液とを、包装材料に収容し、真空包装する。
収容する順序としては、上記魚介類と上記調味液のうち、魚介類を先に収容し、その次に調味液を収容すると、調味液が飛散しない利点がある。
魚介類および調味液を収容したら、真空ポンプにより包装材料の内部を吸引排気し、ヒートシール等により包装材料を密封する。
【0033】
上記真空包装において、真空度は、絶対真空が100%、大気圧が0%である場合に、85~99%の範囲内となることが日持ちしやすさの点や酸化防止の点で好ましく、90~99%の範囲内であることがより好ましく、95~99%の範囲内が最も好ましい。
【0034】
本発明では、真空包装の際に、上記調味液が生食用魚介類と接触してから真空包装完了までにかかる時間は通常、10分以下が好適であり、5分以下がより好適であり、4分以下が更に一層好適であり、3分以下が特に好適である。
【0035】
本発明では、真空包装完了から、凍結開始に至るまでの時間が短いことが日持ち向上効果及び食味、色味の点から好ましい。この点から、本発明において、真空包装完了から、凍結開始に至るまでの時間は2時間以下であることが好ましく、1時間以下が好ましく、30分以下がより好ましく、25分以下であることが更に一層好ましく、20分以下であることが特に好ましく、15分以下であることが最も好ましい。
【0036】
真空包装完了から、凍結開始に至るまでの魚介類の温度は、通常、0℃超15℃以下であり、0℃超12℃以下がより好ましく、0℃超10℃以下が更に好ましい。
【0037】
また、真空包装完了してから、凍結開始に至るまでの時間は20秒以上であることが日持ち向上効果の点で好ましく、2分以上であることが更に一層好ましい。
【0038】
凍結温度としては、微生物増殖抑制の点で、‐15℃~‐40℃が好適である。また、上記凍結は急速凍結であることが好ましい。急速凍結の例としては、冷凍速度が上記の目標凍結温度まで60分~10分で到達する速度であることが微生物増殖抑制の点で好ましく40分~10分で到達することがより好ましい。従って、-0.25℃/分以上の冷凍速度であることが好ましく、-0.375℃/分~-4℃/分がより好ましい。
【実施例0039】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。なお、表1に記載の「%」は特に断らない場合「質量%」を意味する。
【0040】
(実施例1)
生鮭(サーモントラウトスライス、1枚約8g、約160g)を200ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液(15℃)に常温(20℃)下で10秒間浸漬させた。
製剤1として、酢酸ナトリウム80.6質量%、クエン酸三ナトリウム10.9質量%、グリセリン脂肪酸エステル2.2質量%及びコハク酸二ナトリウム0.8質量%を含有する製剤を用いた。当該製剤1 13.3質量部、食塩1.6質量部及び水85.1質量部を合わせ、調味液(10℃、10℃のpHが6.7)とした。
真空包装用袋として、福助工業社製 ナイロンポリ新Lタイプ(サイズ 180mmx300mm)を用いた。この包装用袋に、生鮭と生鮭100質量部に対して30質量部の調味液とを投入して真空包装した。真空包装装置としてはホシザキ社製真空包装機 HPS-300A-HPを用い、真空度が95.0~99.0%となるように脱気した。真空包装作業は常温下で行った。魚介類の調味液との接触開始から真空包装完了までの時間は120秒であった。真空包装した魚介類は、真空包装完了から10分後に、冷凍装置として、-30℃の冷凍庫に投入して冷凍速度-30℃/30分にて冷凍させ、生食用冷凍魚介類食品を得た。真空包装完了から冷凍庫への投入までは冷蔵庫(0℃超10℃以下、以下同様)で保管した。
【0041】
(実施例2)
真空包装完了から真空包装体の冷凍までの時間を、実施例1の10分から30分に変更した。それ以外は実施例1と同様にして、生食用冷凍魚介類食品を得た。
【0042】
(実施例3)
真空包装完了から真空包装体の冷凍までの時間を、実施例1の10分から2時間に変更した。それ以外は実施例1と同様にして、生食用冷凍魚介類食品を得た。
【0043】
(実施例4)
製剤1の代わりに製剤2(組成:酢酸ナトリウムが7.2質量%、フマル酸一ナトリウム0.9質量%、その他pH調整剤、調味料(有機酸)含有)を用いた以外は実施例1と同様にして、生食用冷凍魚介類食品を得た。調味液の10℃のpHは4.1であった。
【0044】
(実施例5)
製剤1の代わりに製剤3(組成:酢酸ナトリウムが64質量%、フマル酸一ナトリウム10質量%、グリセリン脂肪酸エステル1質量%を含有)を用いた以外は実施例1と同様にして、生食用冷凍魚介類食品を得た。調味液の10℃のpHは5.7であった。
【0045】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で次亜塩素酸ナトリウム水溶液処理した生鮭(サーモントラウトスライス、1枚約8g、約160g)を、製剤1の4質量部、食塩0.5質量部及び水95.5質量部を混合してなる、生鮭と同質量の調味液(10℃)に浸漬させ、その状態にて冷蔵庫で2時間保管した後、液切りして包装用袋(福助工業社製ナイロンポリ新Lタイプ(サイズ180mmx300mm))に入れ、実施例1と同じ真空包装の条件にて真空包装した後、実施例1と同じ温度の冷凍庫に入れて実施例1と同じ冷凍速度で冷凍し、生食用冷凍魚介類食品を得た。調味液の10℃のpHは6.7であった。
【0046】
(比較例2)
本比較例は特許文献1の実施例1と同様の高濃度の酢酸ナトリウム水溶液に短時間浸漬させた例である。
実施例1と同様の方法で次亜塩素酸ナトリウム水溶液処理した生鮭(サーモントラウトスライス、1枚約8g、約160g)を、酢酸ナトリウム20質量部及び水80質量部を混合してなる、生鮭と同質量の浸漬液160g(10℃)に浸漬させ、その状態にて冷蔵庫で1分間保管した後、液切りして包装用袋(福助工業社製ナイロンポリ新Lタイプ(サイズ180mmx300mm))に入れ、実施例1と同じ真空包装の条件にて真空包装した後、実施例1と同じ温度の冷凍庫に入れて実施例1と同じ冷凍速度で冷凍し、生食用冷凍魚介類食品を得た。浸漬液の10℃のpHは8.4であった。
【0047】
解凍後の生食用冷凍魚介類食品について、以下の方法にて日持ちを評価した。結果を表1に示す。なお、菌数の単位はcfu/gである。
【0048】
<日持ちの評価方法>
包装体入り生食用冷凍魚介類食品を包装越しに流水を20分間かけて解凍して開封し、滅菌袋に移し替えた状態で10℃に保持した。開封時点及び、10℃での上記状態で96時間、120時間保持された食品の生菌数を以下の方法で調べた。
食品サンプルの一般生菌数を食品衛生検査指針が定める一般生菌数検査により、生菌数を求めた。具体的には、食品サンプル中において、複数個所から少しずつ切り取った合計25gを量り採り、ストマッカー処理用の滅菌袋などに移した。希釈水としてリン酸緩衝液を用い、この希釈水225mlを加え、ストマッキングした。ストマッキング後の試料液を試料源液として、順次10倍段階希釈液を調製した。調製した試料液1mlに標準寒天培地15-20mlを入れて混釈し、インキュベーターで、35±1℃、48時間まで培養して生菌数をカウントした。
(評価基準)
◎:開封時点、96時間経過後、120時間経過後のいずれの菌数も3000cfu/g未満
〇:開封時点、96時間経過後、120時間経過後のうち最も多い菌数が3000cfu/g以上6000cfu/g未満
△:開封時点、96時間経過後、120時間経過後のうち最も多い菌数が6000cfu/g以上10000cfu/g未満
×:開封時点、96時間経過後、120時間経過後のうち最も多い菌数が10000cfu/g以上
【0049】
上記のように解凍した生食用冷凍魚介類食品について更に、4名のパネラーにて以下の評価基準にて、解凍後の色を目視にて評価するとともに、喫食して、酸味、食感及び風味を評価した。評価方法としては、最も選択者の多い評価を選択した。なお、色、酸味、食感及び風味の評価に関し、パネラーの各評価は一致していた。食感及び風味についてはパネラーのコメントを合わせて表1に示す。
【0050】
(評価)
<色の評価>
4:魚本来の色調を維持している。
3:若干の退色がみられるが、商品として問題なし。
2:退色がみられる。
1:著しい退色がみられる。
【0051】
<酸味の評価>
3:酸味をほとんど感じない。
2:酸味を少し感じる。
1:酸味を感じるか酸味が強い。
【0052】
<食感及び風味の評価>
3:良好であり、問題ない。
2:概ね問題ないが、若干気になる点がある。
1:問題ありと感じる。
【0053】
【0054】
生食用冷凍魚介類食品における食品衛生法上の一般生菌数の上限は10万/gであるが、時間経過に関係なく、10,000を超えないことが望ましい。本発明では、開封から120時間経過まで安定的に低い生菌数で推移しており、従来技術に比して優れた効果があることが判る。
前記冷凍する工程において、冷凍速度が-0.25℃/分以上であり、冷凍温度が-15℃~-40℃である、請求項1又は2に記載の生食用冷凍魚介類食品の製造方法。