(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104254
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】電動弁
(51)【国際特許分類】
F16K 31/04 20060101AFI20240726BHJP
【FI】
F16K31/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008404
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小城 力樹
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 威
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 秀
(72)【発明者】
【氏名】湊 祐介
【テーマコード(参考)】
3H062
【Fターム(参考)】
3H062AA02
3H062BB33
3H062CC02
3H062DD05
3H062HH04
3H062HH08
3H062HH09
(57)【要約】
【課題】本開示は、上記の懸念を解消するため、減速装置として複数の遊星歯車機構を有する電動弁において、送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構を負荷に応じて組み換え可能とした電動弁の技術の提供を目的とする。
【解決手段】電動弁10は、送りねじ機構24と、キャン48の内周部に回転自在に支持され、キャン48の外周部に配置されるステータ36によって回転駆動されるロータ42と、軸方向に並んで配置され固定要素がいずれも同じ要素である複数の遊星歯車機構52を有し、第一遊星歯車機構52Aから第三遊星歯車機構52Cへ順にトルクを伝達し、ロータ42の回転速度を減速して送りねじ機構24にトルクを伝達する減速装置50であって、複数の遊星歯車機構52のうち、第三遊星歯車機構52Cと軸方向に隣り合う第二遊星歯車機構52Bとが分離可能に構成されている減速装置50と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁室と弁座とを有する弁本体と、
軸方向に延びる円筒状とされ、前記弁本体における前記軸方向の一方側に配置されたキャンと、
前記弁室内に配置された弁体と、
前記弁体を前記弁座に対し前記軸方向に進退させる送りねじ機構と、
前記キャンの内周部に回転自在に支持されたロータと、
前記軸方向に並んで配置され固定要素がいずれも同じ要素である複数の遊星歯車機構を有し、前記送りねじ機構から遠い側の前記遊星歯車機構から前記送りねじ機構に近い側の前記遊星歯車機構へ順にトルクを伝達し、前記ロータの回転速度を減速して前記送りねじ機構にトルクを伝達する減速装置であって、前記複数の遊星歯車機構のうち、前記送りねじ機構に最も近い遊星歯車機構と軸方向に隣り合う遊星歯車機構とが分離可能に構成されている減速装置と、
を備えた、電動弁。
【請求項2】
前記固定要素である歯車は、内歯車であり、
それぞれの前記遊星歯車機構における前記内歯車を軸方向に一体化する一体化部材をさらに備えた、
請求項1に記載の電動弁。
【請求項3】
それぞれの前記遊星歯車機構における前記内歯車は、前記軸方向の端面に係合部を有しており、前記軸方向に隣り合う遊星歯車機構における前記内歯車同士が係合部で係合する、
請求項2に記載の、電動弁。
【請求項4】
前記一体化部材は、前記送りねじ機構に最も遠い側の前記内歯車に形成された当接部と、前記送りねじ機構に最も近い側の内歯車に形成された当接部とに当接して一体化させるかしめ部材である、
請求項3に記載の、電動弁。
【請求項5】
前記複数の遊星歯車機構のうち、前記送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構の歯車に作用する圧力を低減する低減手段と、
をさらに備えた請求項1に記載の、電動弁。
【請求項6】
前記複数の遊星歯車機構のうち、前記送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構の太陽歯車は、他の遊星歯車機構の太陽歯車よりも縦弾性係数が大きい材料で形成されているか又は他の遊星歯車機構の太陽歯車よりも硬い、
請求項1に記載の電動弁。
【請求項7】
前記複数の遊星歯車機構のうち、前記送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構の太陽歯車の歯は、他の遊星歯車機構の太陽歯車の材料よりも縦弾性係数が大きいか又は硬い表面処理層を有する、
請求項1に記載の電動弁。
【請求項8】
前記キャンの外周部に配置され、前記ロータを回転駆動するステータを備えた、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の電動弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動弁に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されている減速装置付電動弁は、電動弁本体内には弁体を有する弁棒が挿入される。本体側に固着されるキャン内にはロータが装備され、ロータの内側に減速装置が収容される。ロータの出力はサンギヤに入力し、プラネタリギヤに伝達される。プラネタリギヤは同時に固定ギヤと出力ギヤに噛み合って出力ギヤが大減速比で減速駆動される。出力ギヤの出力はドライバを介してねじ軸に伝達され、直線運動に変換されて弁棒に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
送りねじ機構にトルクを伝達する減速装置として複数の遊星歯車機構を有する電動弁では、送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構の歯車が破損する懸念がある。
【0005】
本開示は、上記の懸念を解消するため、減速装置として複数の遊星歯車機構を有する電動弁において、送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構を負荷に応じて組み換え可能とした電動弁の技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一態様の電動弁は、弁室と弁座とを有する弁本体と、軸方向に延びる円筒状とされ、前記弁本体における前記軸方向の一方側に配置されたキャンと、前記弁室内に配置された弁体と、前記弁体を前記弁座に対し前記軸方向に進退させる送りねじ機構と、前記キャンの内周部に回転自在に支持されたロータと、前記軸方向に並んで配置され固定要素がいずれも同じ要素である複数の遊星歯車機構を有し、前記送りねじ機構から遠い側の前記遊星歯車機構から前記送りねじ機構に近い側の前記遊星歯車機構へ順にトルクを伝達し、前記ロータの回転速度を減速して前記送りねじ機構にトルクを伝達する減速装置であって、前記複数の遊星歯車機構のうち、前記送りねじ機構に最も近い遊星歯車機構と軸方向に隣り合う遊星歯車機構とが分離可能に構成されている減速装置と、を備える。
【0007】
複数の遊星歯車機構を複数有する減速装置を備えた電動弁においては、一般的に送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構の歯車に最も大きなトルクが加わる。この電動弁は、複数の遊星歯車機構を有する電動弁において、複数の遊星歯車機構のうち、送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構を、軸方向に隣り合う遊星歯車機構と分離可能とされている。このため、この電動弁は、減速装置を構成する複数の遊星歯車機構について、負荷に応じて送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構を組み換えることが可能となる。これにより、この電動弁によれば、複数の遊星歯車機構を有する減速装置における、送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構が、軸方向に隣り合う遊星歯車機構と一体的に形成されている場合と比べて、減速装置の破損が抑制された電動弁が提供される。
【0008】
第二態様の電動弁は、第一態様に記載の電動弁において、前記固定要素である歯車は、内歯車であり、それぞれの前記遊星歯車機構における前記内歯車を軸方向に一体化する一体化部材をさらに備える。
【0009】
この電動弁は、太陽歯車、及び内歯車のそれぞれが軸方向に並んで配置され、内歯車が固定要素とされた複数の遊星歯車機構を有し、それぞれの遊星歯車機構における内歯車が一体化部材により軸方向に一体化される。したがって、この電動弁によれば、複数の内歯車を弁本体に対して一体的に固定することが可能となる。
【0010】
第三態様の電動弁は、第二態様に記載の電動弁において、それぞれの前記遊星歯車機構における前記内歯車は、前記軸方向の端面に係合部を有しており、前記軸方向に隣り合う遊星歯車機構における前記内歯車同士が係合部で係合する。
【0011】
この電動弁は、それぞれの遊星歯車機構における内歯車は、軸方向の端面に係合部を有しており、隣り合う遊星歯車機構における内歯車同士が係合部で係合するため、係合部が係合することで互いに回転が規制される。したがって、この電動弁によれば、一体化部材のみで内歯車同士を一体化する電動弁と比べて、内歯車同士の周方向への回転を規制する機能を内歯車に分担させることができる。
【0012】
第四態様の電動弁は、第三態様に記載の電動弁において、前記一体化部材は、前記送りねじ機構に最も遠い側の前記内歯車に形成された当接部と、前記送りねじ機構に最も近い側の内歯車に形成された当接部とに当接して一体化させるかしめ部材である。
【0013】
この電動弁は、一体化部材がそれぞれの遊星歯車機構を軸方向にかしめることで一体化させるかしめ部材である。したがって、この電動弁によれば、製造工程において、予め複数の遊星歯車機構を軸方向にかしめて一体化させることができる。
【0014】
第五態様の電動弁は、第一態様から第四態様のいずれか一態様に記載の電動弁において、前記複数の遊星歯車機構のうち、前記送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構の歯車に作用する圧力を低減する低減手段と、をさらに備える。
【0015】
複数の遊星歯車機構を複数有する減速装置を備えた電動弁においては、一般的に送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構の歯車に最も大きなトルクが加わる。この電動弁は、複数の遊星歯車機構を有する電動弁において、複数の遊星歯車機構のうち、送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構の圧力を低減する低減手段を備えている。これにより、この電動弁によれば、複数の遊星歯車機構を有する減速装置における、送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構が、他の遊星歯車機構と同様である場合と比べて、減速装置の破損を抑制させた電動弁が提供される。
【0016】
第六態様の電動弁は、第一態様から第五態様のいずれか一態様に記載の電動弁において、前記複数の遊星歯車機構のうち、前記送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構の太陽歯車は、他の遊星歯車機構の太陽歯車の材料よりも縦弾性係数が大きい材料で形成されているか、又は他の遊星歯車機構の太陽歯車よりも硬い。
【0017】
この電動弁は、複数の遊星歯車機構を有する電動弁において、複数の遊星歯車機構のうち、送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構の太陽歯車の材料が、他の遊星歯車機構の太陽歯車の材料よりも縦弾性係数が大きい材料で形成されているか又は他の遊星歯車機構の太陽歯車よりも硬い。これにより、この電動弁によれば、複数の遊星歯車機構を有する減速装置における、送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構の太陽歯車が、他の遊星歯車機構の太陽歯車と同じ材料である場合と比べて、減速装置の破損を抑制させた電動弁が提供される。
【0018】
第七態様の電動弁は、第一態様から第六態様のいずれか一態様に記載の電動弁において、前記複数の遊星歯車機構のうち、前記送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構の太陽歯車の歯は、他の遊星歯車機構の太陽歯車の材料よりも縦弾性係数が大きいか又は硬い表面処理層を有する。
【0019】
この電動弁は、複数の遊星歯車機構を有する電動弁において、複数の遊星歯車機構のうち、送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構の太陽歯車が、他の遊星歯車機構の太陽歯車を形成する材料よりも縦弾性係数が大きいか又は硬い表面処理層を有する。これにより、この電動弁によれば、複数の遊星歯車機構を有する減速装置における、送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構の太陽歯車が、他の遊星歯車機構の太陽歯車を形成する材料と縦弾性係数又は硬さが同様である場合と比べて、減速装置の破損を抑制させた電動弁が提供される。
【0020】
第八態様の電動弁は、第一態様から第七態様のいずれか一態様に記載の電動弁において、前記キャンの外周部に配置され、前記ロータを回転駆動するステータを備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば減速装置として複数の遊星歯車機構を有する電動弁において、送りねじ機構に最も近い側に配置された遊星歯車機構を負荷に応じて組み換え可能と電動弁の技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本開示の第一の例に係る電動弁を説明する断面図である。
【
図2】本開示の第一の例に係る電動弁における減速装置の拡大図である。
【
図3】本開示の第一の例に係る電動弁が有する減速装置の内歯車の斜視図である。
【
図4】本開示の第二の例に係る電動弁における減速装置の拡大図である。
【
図5】本開示の第三の例に係る電動弁における減速装置の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[本開示の第一の例]
(構成)
図1から
図3を参照して、本開示の第一の例に係る電動弁10を説明する。電動弁10は、一例として、空気調和機の冷凍サイクル等において、流体(冷媒)の流量を調節するために使用される。
図1及び
図2に示されるように、本開示の第一の例に係る電動弁10は、弁本体14に接続された流入口11から、流出口12に流れる流体の流量を、開口18の開き量で調節する。本開示の第一の例に係る電動弁10は、弁本体14と、弁体22と、調節機構21と、駆動機構33と、を有している。
【0024】
(弁本体14)
弁本体14は、
図1に示されるように側方に流入口11が形成された略円筒型の筒体である。軸方向の一方側(
図1における図面上側)に弁体22を駆動させる上述の各種構成要素が、軸方向の他方側(
図1における図面下側)の流出口12に流出管82が接続されている。また、弁本体14の径方向の一方(
図1における図面左側)には流入口11が形成され、流入口11には流入管80が接続されている。弁本体14の内部に形成された空間である弁室16には、弁体22が駆動機構33により軸方向に駆動可能とされて収容されている。弁室16と流出口12の間には、流出口12よりも小径とされた開口18が形成されている。開口18の周囲は、後述する弁体22が接触する弁座20とされており、後述するように弁体22によって開口18の開き量(流体が流れる流路面積)が調整される。
【0025】
(調節機構21)
調節機構21は、弁室16に配置され、開口18の開き量を調節する弁体22と、弁体22を案内するガイド部23と、弁体22の軸方向の一方側に接続されたプランジャ30と、プランジャ30の軸方向の一方側に配置された送りねじ機構24と、を有している。
【0026】
弁体22は、
図1に示されるように、軸方向に延びる略円柱型の部材であり、軸方向の他方側の外径が開口18の内径よりも大きく、軸方向の他方側の部分が弁座20にあたって開口18を塞ぐことによって、弁室16と流出口12とを仕切る。すなわち、弁体22は、開口18を開閉可能に配置されている。
【0027】
ガイド部23は、
図1に示されるように、軸方向の他方側が縮径された段付き円筒状の部材であり、弁本体14における弁室16の軸方向の一方側に固定されている。ガイド部23は、縮径された部分の内周面で弁体22と接触し、弁体22の軸方向への移動を案内する。また、ガイド部23における縮径された部分の軸方向における一方側には、圧縮コイルバネ32が収容されており、圧縮コイルバネ32における軸方向の他方側を支持する。
【0028】
プランジャ30は、軸方向の他方側で弁体22の軸方向一方側を把持する部材であり、径方向の外側に配置された圧縮コイルバネ32によって、ガイド部23に対し軸方向一方側に向かって付勢されている。また、プランジャ30は、軸方向の一方側で後述するよう送りねじ機構24のスピンドル26とボールを介して接触している。
【0029】
送りねじ機構24は、後述するように弁本体14の軸方向の一方側に配置された駆動機構33が有する減速装置50から出力されるトルクを、軸方向の直動運動へ変換する。
図1に示されるように、送りねじ機構24は、弁本体14に対して固定されたナット28と、ナット28の径方向内側に配置され、軸方向の一方側で減速装置50から出力されたトルクを受けるスピンドル26と、を有している。
【0030】
ナット28は、
図1に示されるように、径方向の内側の内周面に雌ネジが形成された略円筒型の部材であり、雌ネジにはスピンドル26が回転可能に接触している。
【0031】
スピンドル26は、軸方向に延び、軸方向の他方側にナット28の雌ネジと噛合う雄ねじが形成された略円柱型の部材である。スピンドル26は、軸方向の一方側からトルクを受けることで、軸体44の中心軸Oを中心として回転した場合には、ナット28の雌ネジに案内されつつ軸方向に直動運動する。また、スピンドル26は、軸方向の他方側でボールを介してプランジャ30と接触することによってプランジャ30に直動運動を伝える。なお、スピンドル26は、減速装置50から出力されたトルクを受けると共に、軸方向に移動可能とされていれば、特に形状を限定されないが、本開示の第一の例では一例として、軸方向一方側の端部にセレーション加工が施されている。
【0032】
(駆動機構33)
駆動機構33は、
図1及び
図2に示されるように、カバー46と、キャン48と、モータ34と、軸体44と、減速装置50と、を有している。
【0033】
カバー46は、弁本体14の軸方向の一方側に配置され、後述するようにモータ34と、キャン48と、減速装置50を覆う部材である。
【0034】
図1及び
図2に示されるように、キャン48は、軸方向に延びる円筒状の部材であり、後述するロータ42と、軸支持部材45と、軸体44と、減速装置50と、を内部に収容し、軸方向の他方側では、接合材49を用いて弁本体14に接合されている。キャン48の軸方向の一方側は袋状に綴じており、本開示の第一の例ではキャン48は、軸方向の一方側から弁本体14を覆う部材でもある。なお、キャン48は、磁界を遮蔽しない材料であればどのような材料で形成されていてもよいが、一例として、アルミニウム合金で形成されている。
【0035】
軸支持部材45は、
図1及び
図2に示されるように、キャン48の内部における軸方向の一方側において該キャン48に固定されている。軸支持部材45は、駆動機構33の軸方向の一方側から他方側まで延びている軸体の軸方向に一端を回転不能に支持している。軸体44は、モータ34と、減速装置50の回転軸芯を定める部材である。本開示の第一の例における軸体44は、送りねじ機構24のスピンドル26も回転可能に支持している。
【0036】
モータ34は、一例として図示しないドライバにより回転角度及び速度を制御される、クローポール型のステッピングモータである。モータ34は、キャン48の外側に配置されたステータ36と、キャン48よりも内側に配置されたロータ42とにより構成されている。
【0037】
なお、
図1の電動弁10は、ステータ36がキャン48の外側に配置された状態として図示されているが、ステータ36は、キャン48に対して取付け及び取外しが容易であり、ステータ36を取り外した状態で電動弁10として取引されることも多い。そのため、本開示における電動弁10は、ステータ36を備えていない状態及びステータ36を備えている状態のいずれも含むものとする。
【0038】
ステータ36は、ロータ42を回転駆動する、本開示に係る回転手段の一例であり、
図1に示されるように、A相ステータ36Aと、B相ステータ36Bとを有し、互いに同軸とされながらキャン48の外周部において軸方向に並んで配置されている。なお、ステータ36が有するコイルの個数は、電動弁10、及びモータ34としての仕様により適宜決定される。また、本実施形態におけるステータ36は、キャン48と分離可能に構成されていてもよい。すなわち、本開示における電動弁10はステータ36を含まない構成であってもよい。このような構成では、例えば、電動弁10におけるステータ36を除く部分とステータ36とを個別に出荷し、使用先にて電動弁10として組み立てることが可能である。また、このような構成では、例えば、ステータ36を異なる仕様のものに組換えることも可能である。
【0039】
ロータ42は、回転手段により回転駆動される部材であり、軸方向に延びると共に周方向にS極とN極とが交互に並んだ複数の永久磁石41を有し、キャン48の内周部においてステータ36に対して径方向の内側に軸体44に対して回転自在に配置されている。また、永久磁石41は、径方向の内側で、後述する減速装置50におけるトルクの入力側である第一太陽歯車54Aを介して軸体44に対して回転自在に固定されている。ロータ42の径方向内側には、後述する第一太陽歯車54Aのセレーション加工部分と噛み合う溝が形成された孔を有している。A相ステータ36A及びB相ステータ36Bの各コイルが励磁することにより、ロータ42に配置されたそれぞれの永久磁石41が、各コイルに吸引又は反発して周方向に回転駆動する。
【0040】
(減速装置50)
減速装置50は、
図1に示されるようにロータ42と同軸とされ、軸方向に配置された複数の遊星歯車機構52を有し、ロータ42の回転速度を減速して送りねじ機構24にトルクを伝達する部品である。本開示の第一の例では軸方向に隣り合う第一遊星歯車機構52A、第二遊星歯車機構52B、及び第三遊星歯車機構52Cの3つの遊星歯車機構52を有している。言い換えれば、第一遊星歯車機構52Aは、本開示における「送りねじ機構24に遠い側の遊星歯車機構52」の一例であり、第三遊星歯車機構52Cは、「送りねじ機構24に最も近い側の遊星歯車機構52」の一例である。また言い換えれば、第二遊星歯車機構52Bは、第三遊星歯車機構52Cに対する「送りねじ機構24に最も近い遊星歯車機構52と軸方向に隣り合う遊星歯車機構52」の一例である。
【0041】
本開示の第一の例における説明では、それぞれの遊星歯車機構52を区別して説明する場合は、符号の末尾にそれぞれ、A、B、又はCを付して区別する。第一遊星歯車機構52A、第二遊星歯車機構52B、及び第三遊星歯車機構52Cは、それぞれ太陽歯車54、遊星歯車56、遊星キャリア58、及び内歯車60を有している。同様に、それぞれの遊星歯車機構52における各構成を、特に区別する場合は、同様に符号の末尾にそれぞれ、A、B、又はCを付して区別する。なお、本開示の第一の例における遊星歯車機構52は、いずれも2K-H型の歯車機構である。
【0042】
また、太陽歯車54は、軸体44に回転可能に支持されている。遊星歯車56は、太陽歯車54及び内歯車60に噛み合っており、周方向に複数設けられている。これら複数の遊星歯車56は、遊星キャリア58に回転可能に支持されている。また、第一太陽歯車54Aは、軸方向の一方側にスピンドル26と同等のセレーション加工が施されており、ロータ42(軸体44に支持される軸方向一方側の平板上の軸受け部分)の径方向内側の孔に形成された溝と噛合うことでトルクを伝達可能とされている。また、第二太陽歯車54B及び第三太陽歯車54Cについても同様に、軸方向の一方側にセレーション加工が施されている。なお、
図1及び
図2に示されるように、遊星キャリア58には一例として3個の遊星歯車56が設けられている。
図1及び
図2では、遊星キャリア58及び遊星歯車56を回転断面図で示しており、実際とは異なる。
【0043】
また、第一遊星キャリア58Aは、軸方向の他方側において、径方向の内側で第二太陽歯車54Bと噛み合う溝が形成された孔を有しており、第一遊星キャリア58Aと第二太陽歯車54Bとが噛合うことでトルクを伝達可能とされている。第二遊星キャリア58Bは、軸方向の他方側において、径方向の内側で第三太陽歯車54Cと噛み合う溝が形成された孔を有しており、第二遊星キャリア58Bと第三太陽歯車54Cとが噛合うことでトルクを伝達可能とされている。第三遊星キャリア58Cは、軸方向の他方側において、径方向の内側でスピンドル26(セレーション加工部分)と噛み合う溝が形成された孔を有しており、第三遊星キャリア58Cとスピンドル26とが噛合うことでトルクを伝達可能とされている。すなわち、本開示の第一の例では、太陽歯車54は、遊星歯車機構52にトルクを入力する要素であり、遊星キャリア58は、遊星歯車機構52の出力要素である。
【0044】
なお、本開示の第一の例では、遊星キャリア58及びロータ42に形成された孔の溝は、いずれも同等の形状とされている。言い換えれば、複数の遊星キャリア58は、孔の溝に対応するセレーション加工が施された太陽歯車54と接続、分離可能な構成とされている。
【0045】
また、本開示の第一の例では、後述するようにいずれも内歯車60が弁本体14に対して回転が規制されている。すなわち、本開示の第一の例では、減速装置50が有する遊星歯車機構52における固定要素は、いずれも同じであるといえる。
【0046】
また、本開示の第一の例においては、内歯車60は、
図1及び
図2に示されるように、軸方向に分割されると共に、一体化部材の一例であるかしめ部材62によって軸方向に一体化されている。また、本開示における第一内歯車60A、第二内歯車60B、及び第三内歯車60Cには、係合部66の一例として凸部66M又は凹部66Fを有している。
【0047】
図3に示されるように、第一内歯車60Aには、軸方向の他方側の端面に凹部66Fが形成されている。また、第二内歯車60Bには、軸方向の一方側及び他方側の端面にそれぞれ凸部66Mと凹部66Fが形成されている。また、第三内歯車60Cには、軸方向の一方側の端面に凸部66Mが形成されている。凸部66Mは、それぞれの内歯車60における軸方向一方側の面から、突出して形成されている。凹部66Fは、隣り合う内歯車60における凸部66Mが嵌る凹みとして形成されている。凸部66Mが凹部66Fに嵌ることによって、それぞれの内歯車60同士が係合する。
【0048】
なお、この凸部66M及び凹部66Fは、互いに嵌まった状態でそれぞれの内歯車60が周方向に回転しない形状とされていれば、具体的な形状及び個数は、限定されない。本開示の第一の例においては一例として、
図3に示されるように、凸部66M及び凹部66Fはそれぞれ周方向に4つずつ形成されている。
【0049】
また、本開示の第一の例においては、第一内歯車60Aにおける軸方向の一方側の端面には、当接部64の一例として軸方向の他方側に向かって凹む第一当接部64Aが形成されている。また同様に、第三内歯車60Cにおける軸方向の他方側の端面には、当接部64の一例として軸方向の一方側に向かって凹む第二当接部64Bが形成されている。本開示の第一の例においては、第一内歯車60Aの第一当接部64A及び第三内歯車60Cの第二当接部64Bは、
図3に示されるように、それぞれの内歯車60が係合された状態で、周方向における同じ位置に形成されている。
【0050】
かしめ部材62は、一例として、
図1及び
図2に示されるように、軸方向に延びると共に、軸方向の両端が第一当接部64A及び第二当接部64Bにそれぞれ嵌まるように折り曲げられた棒状の部材である。そして、
図2に示されるように、第一当接部64A及び第二当接部64Bにかしめ部材62の両端が掛かるように圧着される(かしめられる)ことによって第一内歯車60A、第二内歯車60B、及び第三内歯車60Cは、軸方向に一体化される。言い換えれば、かしめ部材62は、第一内歯車60Aに形成された第一当接部64Aと、第三内歯車60Cに形成された第二当接部64Bとに当接して内歯車60を一体化させる。
【0051】
また、本開示の第一の例では、第二遊星歯車機構52Bにおける固定要素である第二内歯車60Bと第三遊星歯車機構52Cにおける固定要素である第三内歯車60Cを接続及び分離可能に構成されている。また、本開示の第一の例では、第二遊星歯車機構52Bにおける出力要素である第二遊星キャリア58Bと、第三遊星歯車機構52Cにおける入力要素である第三太陽歯車54Cとが接続、分離可能である。このように、本開示における「遊星歯車機構が分離可能」とは、隣り合う遊星歯車機構52の固定要素同士が接続及び分離可能であり、かつ、隣り合う一方の遊星歯車機構52の出力要素と他方の遊星歯車機構52の入力要素とが接続及び分離可能であることを指す。第二遊星歯車機構52Bと第三遊星歯車機構52Cとは、本開示における「送りねじ機構に最も近い遊星歯車機構と軸方向に隣り合う遊星歯車機構が分離可能とされている」構成の一例である。
【0052】
なお、第一当接部64A及び第二当接部64Bは、かしめ部材62がかしめられた状態でそれぞれの内歯車60が周方向に回転しない形状とされていれば、具体的な形状及び個数は、限定されない。本開示の第一の例においては一例として、
図3に示されるように、当接部64は、周方向に並んで4つずつ形成されている。また、かしめ部材62は、第一内歯車60A、第二内歯車60B、及び第三内歯車60Cを軸方向に一体化することを可能としていれば、その具体的な形状及び材料については、限定されない。本開示の第一の例においては一例として、かしめ部材62は、鋼等の材料で形成される。
【0053】
また、内歯車60は、キャン48及び弁本体14に対して周方向への回転が規制されている。この回転の規制の方法については特に限定されないが、本開示の第一の例では一例として、内歯車60は、軸方向の他方側が接合材49によりキャン48及び、弁本体14に接合されている。
【0054】
なお、本実施形態においては、遊星歯車機構52を構成する各部品の材料は、特に限定されない。一例として、太陽歯車54、遊星キャリア58、及び内歯車60が合成樹脂で形成され、遊星歯車56は、金属等の硬質性材料で形成される。すなわち、遊星歯車56は、太陽歯車54及び内歯車60と異なる材料で形成されている。なお、本開示の第一の例では、遊星歯車56は、太陽歯車54及び内歯車60における歯の形状は、平歯車とされている。
【0055】
減速装置50は、前述したロータ42の回転動作により第一遊星歯車機構52A、第二遊星歯車機構52B、第三遊星歯車機構52Cの順にトルクが伝わり、第三遊星歯車機構52Cからトルクが出力されることによって、減速装置として機能する。また言い換えれば、第三遊星歯車機構52Cにおける遊星キャリア58が送りねじ機構24のスピンドル26へトルクを伝えることにより、減速装置50は、送りねじ機構24にトルクを入力する。
【0056】
また、本開示の第一の例において、第一太陽歯車54Aと、第二太陽歯車54B、及び第三太陽歯車54Cは、軸方向の長さ、モジュール、歯数等の諸元についていずれも同様である。また、第一遊星歯車56Aと、第二遊星歯車56B、及び第三遊星歯車56Cは、軸方向の長さ、モジュール、端数等の諸元についていずれも同様である。また、第一内歯車60A、第二内歯車60B、及び第三内歯車60Cは、軸方向の長さ、モジュール、端数等の諸元についていずれも同様である。言い換えれば、第一遊星歯車機構52Aにおける歯車の諸元、第二遊星歯車機構52Bの歯車における諸元、及び第三遊星歯車機構52Cの歯車における緒元は、いずれも同様である。
【0057】
なお、上述の説明においては、遊星歯車機構52を構成する各部品の材料は特に限定しないとしたが、遊星歯車機構52の歯車のうち最も負荷の高い遊星歯車機構52の太陽歯車54を、他の遊星歯車機構52の太陽歯車54よりも耐久性の高い材料で形成してもよい。例えば、本実施形態における最も負荷の高い遊星歯車機構52は、複数の遊星歯車機構52のうち送りねじ機構24に最も近い第三遊星歯車機構52Cであり、第三太陽歯車54Cを他の太陽歯車54よりも耐久性の高い材料で形成してもよい。
【0058】
具体的には、第三太陽歯車54Cを他の遊星歯車機構52の太陽歯車54よりも縦弾性係数(ヤング率ともいう)が大きい材料で形成するか又は他の遊星歯車機構52の太陽歯車54より硬くすることが挙げられる。また、第三太陽歯車54Cの歯にメッキや蒸着等の表面処理を行い、他の遊星歯車機構52の太陽歯車54よりも縦弾性係数が大きいか又は硬い表面処理層を有する部材とすることが挙げられる。
【0059】
なお、減速比が1未満の遊星歯車機構52が含まれる場合には、送りねじ機構24に最も近い遊星歯車機構52の太陽歯車54以外の太陽歯車54が、最も負荷の高い遊星歯車機構52の太陽歯車54となる場合がある。この場合においても、最も負荷の高い遊星歯車機構52の太陽歯車54の材料(表面処理層も含む)を、他の遊星歯車機構52の太陽歯車54の材料よりも縦弾性係数が大きいか又は硬い材料とすることで減速装置50の耐久性が向上される。
【0060】
なお、「硬さ」とは、一例としてJIS Z 2244-1に規定の方法で測定されたビッカース硬さを指す。
【0061】
このように最も負荷の高い遊星歯車機構52の太陽歯車54を、他の遊星歯車機構52の太陽歯車54よりも耐久性の高い部材とすることで減速装置50の耐久性を向上することができる。特に、弁体22が弁座20にあたる際の衝撃による歯元破断や歯面摩耗を抑制することができる。
【0062】
ここで、上述の説明のように、本開示における第三遊星歯車機構52Cは、第二遊星歯車機構52Bから分離し、異なる仕様のものと組み換えることが可能である。
図4及び
図5を適宜参照しながら、第三遊星歯車機構52Cを組み換えた電動弁10である第二の例、及び第三の例について説明する。
【0063】
[本開示の第二の例]
本開示における遊星歯車機構52のうち、第三遊星歯車機構52Cを組み換えた第二の例について、
図4を適宜参照しながら説明する。なお、本開示の第二の例に係る電動弁10において、本開示の第一の例に係る電動弁10と同様の構成については、本開示の第一の例と同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0064】
(構成)
本開示の第一の例に係る電動弁10に対して、
図4に示されるように、本開示の第二の例に係る第三太陽歯車154Cは、第一太陽歯車54Aと歯数が等しいものの、第一太陽歯車54Aと比べて、モジュールが大きい。言い換えれば、第三太陽歯車154Cは、第一太陽歯車54Aと比べて、直径が大きい。同様に、第三遊星歯車156Cは、第一遊星歯車56Aと歯数が等しいものの、第一遊星歯車56Aと比べて、モジュールが大きく、第三内歯車160Cは、第一内歯車60Aと歯数が等しいものの、第一内歯車60Aと比べて、モジュールが大きい。また、第三太陽歯車154Cの形状に合わせて、第三遊星キャリア158Cは、第一遊星キャリア58Aと比べて径方向の外側で第三遊星歯車156Cを回転可能に支持する。
【0065】
なお、その他の第三遊星歯車機構152Cにおける歯車の諸元は、第一遊星歯車機構52A及び第二遊星歯車機構52Bと等しい。また、その他の構成は、本開示の第一の例に係る電動弁10の構成と同様である。
【0066】
[本開示の第三の例]
続いて、本開示における遊星歯車機構52のうち、第三遊星歯車機構52Cを組み換えた第三の例について、
図5を適宜参照しながら説明する。なお、本開示の第三の例に係る電動弁10において、本開示の第一の例に係る電動弁10と同様の構成については、本開示の第一の例と同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0067】
(構成)
図5に示されるように、本開示の第三の例においては、第三遊星キャリア258Cは、軸方向の一方側にスピンドル26と同様のセレーション加工分を有し、第二遊星キャリア58Bと噛み合っている。また、第三太陽歯車254Cは、径方向の内側でスピンドル26と噛み合う溝が形成された孔を有している。言い換えれば、本開示の第三の例の第三遊星歯車機構252Cでは、第三遊星キャリア258Cに第二遊星歯車機構52Bから出力されたトルクを入力され、第三太陽歯車254Cが、軸方向他方側にトルクを出力する。また、第三内歯車260Cは、第一内歯車60A及び第二内歯車60Bと同様に、固定されている。すなわち、本開示の第三の例では、第三遊星キャリア258Cは、第三遊星歯車機構252Cにトルクを入力する要素であり、第二遊星キャリア58Bは、第二遊星歯車機構52Bの出力要素である。トルクを出力する。言い換えれば、本開示の第三の例における減速装置250は、第一遊星歯車機構52A及び第二遊星歯車機構52Bが減速機構とされ、第三遊星歯車機構252Cが増速機構とされている。ただし、減速装置50は、全体としては入力された回転数よりも出力する回転数のほうが少なくなるように減速する装置である。
【0068】
なお、第三遊星歯車機構252Cにおけるその他の歯車の諸元は、第一遊星歯車機構52A及び第二遊星歯車機構52Bと等しい。また、その他の構成は、本開示の第一の例に係る電動弁10の構成と同様である。
【0069】
次に、本開示に係る電動弁10による作用及び効果を説明する。
【0070】
(作用及び効果)
複数の遊星歯車機構52を複数有する減速装置50を備えた電動弁10においては、一般的に第三遊星歯車機構52Cの歯車に最も大きなトルクが加わる。この電動弁10は、複数の遊星歯車機構52を有する電動弁10において、複数の遊星歯車機構52のうち、第三遊星歯車機構52Cを、第二遊星歯車機構52Bと分離可能とされている。このため、この電動弁10は、複数の遊星歯車機構52を有する減速装置50について、負荷に応じて所望の性能を満たすように送りねじ機構24に最も近い側に配置された遊星歯車機構52を組み換えることが可能である。これにより、この電動弁10によれば、複数の遊星歯車機構52を有する減速装置50における、第三遊星歯車機構52Cが、第二遊星歯車機構52Bと一体的に形成されている場合と比べて、減速装置50の破損が抑制される仕様を選択することが容易である。
【0071】
また、第一の例における電動弁10による作用及び効果を説明する。
【0072】
減速装置50に複数の遊星歯車機構52が一体化されている電動弁10において、複数の遊星歯車機構52のそれぞれを組み合わせ可能とした場合、固定要素の歯車を弁本体14に対して固定するための手間がかかる。本開示の第一の例に係る電動弁10によれば、太陽歯車54、遊星歯車56、及び内歯車60のそれぞれが軸方向に並んで配置され、内歯車60が固定要素とされた複数の遊星歯車機構52を有する。また、本開示の第一の例に係る電動弁10によれば、それぞれの遊星歯車機構52における内歯車60が一体化部材により軸方向に一体化される。したがって、この電動弁10によれば、複数の内歯車60を弁本体14に対して一体的に固定することが可能となる。
【0073】
また、本開示の第一の例に係る電動弁10によれば、それぞれの遊星歯車機構52における内歯車60は、軸方向の端面に係合部66を有しており、隣り合う遊星歯車機構52における内歯車60同士が係合部66で係合する。このため本開示の第一の例に係る電動弁10の遊星歯車機構52における内歯車60は、係合部66が係合することで互いに回転が規制される。したがって、この電動弁10によれば、一体化部材のみで内歯車60同士を軸方向に一体化する電動弁10と比べて、内歯車60同士の周方向への回転を規制する機能を内歯車60に分担させることができる。
【0074】
また、本開示の第一の例に係る電動弁10によれば、かしめ部材62がそれぞれの遊星歯車機構52を軸方向にかしめることで一体化させている。したがって、この電動弁10によれば、製造工程において、予め複数の遊星歯車機構52を軸方向にかしめて一体化させることができる。
【0075】
また、多数の遊星歯車機構52による減速機構を有する電動弁10では、遊星歯車機構52を構成する歯車である太陽歯車54、遊星歯車56、遊星キャリア58及び内歯車60を、キャン48に対して順番に挿入する。この場合、電動弁10の組立工程においてこれらの歯車を全て組み込むため、電動弁10の製造工程において製造時間の増加を招いていた。上述のように本開示の第一の例における電動弁10によれば、予め複数の遊星歯車機構52を軸方向にかしめることができるため、組立工程の設計の自由度を向上させることができる。
【0076】
また、第二の例における電動弁10による作用及び効果を説明する。
【0077】
駆動機構33を駆動させて開口18の開き量を調節する際に、弁体22が弁座20に当たり、又は弁体22の進退速度を急激に変化させることにより、調節機構21に衝撃が発生する場合がある。この衝撃は、調節機構21を介して、減速装置150におけるトルクを出力する遊星歯車機構152の歯車に伝わる。このため、複数の遊星歯車機構152を有する電動弁10においては、最も送りねじ機構24に近い側の遊星歯車機構152の歯車が破損しやすくなる。
【0078】
ここで、本開示の第二の例における第三遊星歯車機構152Cでは、第三太陽歯車154C、第三遊星歯車156C及び第三固定歯車のモジュールは、第一太陽歯車54A、第一遊星歯車56A、及び第一固定歯車のモジュールよりも大きい。このため、第三遊星歯車機構152Cの歯車が、第一遊星歯車機構52Aの歯車と同様の形状である場合と比べて第三遊星歯車機構152Cの歯車における歯厚が大きくなり、第三遊星歯車機構152Cの耐衝撃性が大きくなる。また、歯車のモジュールを大きくすることにより、第三太陽歯車154Cと第三遊星歯車156Cの歯車における歯面の接触面積は、大きくなる。すなわち、本開示の第二の例における低減手段は、第三遊星歯車機構152Cの歯車のモジュールを大きくすることにより、第三遊星歯車機構152Cの歯車の表面に負荷される圧力(単位面積当たりの荷重)を低減する。
【0079】
そして、この電動弁10によれば、第三遊星歯車機構152Cの歯車が、第一遊星歯車機構52Aの歯車と同様の形状である場合と比べて、第三遊星歯車機構152Cの歯車の耐久性が大きくなるため、第三遊星歯車機構152Cの破損が抑制される。また言い換えれば、本開示の第二の例による電動弁10によれば、第三遊星歯車機構152Cの歯車の圧力が低下するため、減速装置150の破損が抑制される。
【0080】
本開示に係る電動弁10では、本開示の第二の例のように、複数の遊星歯車機構152を有する減速装置50のうち、いずれかの遊星歯車機構152の諸元を変更することが可能である。
【0081】
また、第三の例における電動弁10による作用及び効果を説明する。
【0082】
上述のように、複数の遊星歯車機構252を有する電動弁10においては、最も送りねじ機構24に近い側の遊星歯車機構252の歯車が破損しやすくなる。
【0083】
ここで、本開示の第三の例における第三遊星歯車機構252Cでは、第三遊星キャリア258Cがトルクを入力し、第三態様歯車がトルクを出力するため、第三遊星歯車機構252Cとしては増速機構である。言い換えれば、本開示の第三の例における電動弁10では、第三遊星歯車機構252Cが第一遊星歯車機構52A及び第二遊星歯車機構52Bと同様に減速機構とされている場合と比べて、歯車に加わるトルクが低減される。言い換えれば、本開示の第三の例における低減手段は、第三遊星歯車機構252Cを増速機構とすることにより、第三遊星歯車機構252Cの圧力を低減する。
【0084】
そして、この電動弁10によれば、第三遊星歯車機構252Cの歯車が、第一遊星歯車機構52Aの歯車と同様の減速機構である場合と比べて、第三遊星歯車機構252Cの歯車に係るトルクが低減される。また言い換えれば、本開示の第三の例による電動弁10によれば、遊星歯車機構252が破損する確率が、第三遊星歯車機構252Cと第二遊星歯車機構52Bとに分散される。したがって、本開示の第三の例における電動弁10によれば、第三遊星歯車機構252Cが、第一遊星歯車機構52Aと同様の遊星歯車機構52である場合と比べて、第三遊星歯車機構252Cの破損が抑制される。また言い換えれば、本開示の第三の例による電動弁10によれば、減速装置250の破損が抑制される。
【0085】
本開示に係る電動弁10では、本開示の第三の例のように、複数の遊星歯車機構252を有する減速装置50のうち、いずれかの遊星歯車機構252を増速機構に変更することが可能である。
【0086】
(変形例)
なお、上述の説明では、3個の遊星歯車機構52は、いずれも軸方向の長さが同等とされていたが、減速装置50の内部における軸方向の長さの範囲に収まれば、軸方向の長さが他の遊星歯車機構52と異なる一の遊星歯車機構52と組み換えてもよい。また、上述の説明では、減速装置50は、いずれも3個の遊星歯車機構52を有していたが、減速装置50の内部における軸方向の長さの範囲に収まれば、遊星歯車機構52の個数は、4個以上とされていてもよく、また2個とされていてもよい。
【0087】
また、上述の説明では、減速装置50は、3個の遊星歯車機構52のうち、第三遊星歯車機構52Cを組み換える例について説明したが、本開示に係る技術はこれに限られない。例えば、第一遊星歯車機構52A、又は第二遊星歯車機構52Bを組み換えてもよい。
【0088】
また、上述の説明では、第一内歯車60A、第二内歯車60B、及び第三内歯車60Cは、それぞれが別の部品とされていたが、本開示における内歯車60の形状は、これに限られない。例えば、第二内歯車60Bと、第一内歯車60A又は第三内歯車60Cのうちいずれか一方とが、一体化された部品とされていてもよい。この場合においても、本開示における本開示の第一の例に係る電動弁10と同様の効果を得ることができる。
【0089】
また、上述の説明では、第一内歯車60A、第二内歯車60B、及び第三内歯車60Cのそれぞれに係合部66が形成されていたが、本開示における内歯車60の形状は、これに限られない。例えばかしめ部材62により軸方向に一体化した状態で、それぞれの内歯車60同士の摩擦により内歯車60の周方向への回転を規制することが可能とされていれば、係合部66を有していない構成とされていてもよい。
【0090】
また、上述の説明では、一体化部材は、内歯車60を軸方向にかしめるかしめ部材62としていたが、本開示における一体化部材は、これに限られない。例えば、第一内歯車60Aから第三内歯車60Cまで延びるピンを一体化部材としてもよい。この場合、第一内歯車60A、第二内歯車60B、及び第三内歯車60Cを軸方向に貫通する貫通孔を設け、該貫通孔にピンを圧入することによって内歯車60が一体化される。また、その他の一体化の方法としては、接着剤を用いた接着、ねじによる螺合などがあり、これらの方法により一体化してもよい。
【0091】
(その他の変形例)
また、上述の説明では、減速装置50は、3個の遊星歯車機構52を有していたが、本開示に係る電動弁10における遊星歯車機構52の個数は、これに限られない。遊星歯車機構52の個数は、4個以上とされていてもよく、また2個とされていてもよい。
【0092】
また、上述の説明では、減速装置50の遊星歯車機構52は、それぞれ3個の遊星歯車56を有していたが、本開示に係る遊星歯車56の個数は、これに限られない。例えば、第三遊星歯車機構52Cにおいて、第三遊星歯車56Cの個数を4個以上としてもよい。
【0093】
また上述の説明では、歯車の諸元のうち、歯幅及び、モジュールについて説明したが、本開示において、それぞれの遊星歯車機構52において異ならせる諸元は、歯車同士の接触面積を大きくするのであればこれに限られない。例えば、歯車の歯の形状を斜めにした斜歯車を用いることによって、歯車同士の接触面積を大きくし、遊星歯車機構52の圧力を低減してもよい。
【0094】
また、上述の各実施形態において、遊星歯車機構52の歯車のうち最も負荷の高い遊星歯車機構52の太陽歯車54を他の遊星歯車機構52の太陽歯車54よりも耐久性の高い部材にすることで耐久性を向上してもよい。
【0095】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態を説明したが、本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は応用例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0096】
10 電動弁
11 流入口
12 流出口
14 弁本体
16 弁室
18 開口
20 弁座
21 調節機構
22 弁体
23 ガイド部
24 送りねじ機構
26 スピンドル
28 ナット
30 プランジャ
32 コイルバネ
33 駆動機構
34 モータ
36 ステータ
40 ボビン
41 永久磁石
42 ロータ
44 軸体
45 軸支持部材
46 カバー
48 キャン
49 結合材
50 減速装置
52 遊星歯車機構
54 太陽歯車
56 遊星歯車
58 キャリア
60 内歯車
62 かしめ部材
64 当接部
66 係合部