(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104277
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】アウターロータ型モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 5/167 20060101AFI20240726BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20240726BHJP
F16N 9/00 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
H02K5/167 A
F16C17/02 A
F16N9/00
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023186376
(22)【出願日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2023007740
(32)【優先日】2023-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000106944
【氏名又は名称】シナノケンシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇仁 真彦
【テーマコード(参考)】
3J011
5H605
【Fターム(参考)】
3J011AA07
3J011BA02
3J011CA02
3J011JA02
3J011KA02
3J011MA23
3J011RA03
5H605CC04
5H605CC05
5H605EB06
5H605EB21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】焼結含油軸受と共に補油部材を用いても、軸受の機械的強度を失うことなく、しかも小型で油膜切れが生じないアウターロータ型モータを提供する。
【解決手段】焼結含油軸受8に挿入された回転子軸3cを中心に回転子3が回転可能に支持されるアウターロータ型モータMであって、固定子ハウジング6の外周に組み付けられた固定子コア7と径方向に重ならない範囲で焼結含油軸受8の軸方向一端側外周に、当該焼結含油軸受8に潤滑油を補給する多孔質金属製の焼結フェルト9が同心状に嵌め込まれて固定子ハウジング6内に収容されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の固定子ハウジングの外周に固定子コアが組み付けられ当該固定子ハウジングの内周に多孔質焼結金属製の焼結含油軸受が同心状に組み付けられた固定子と、前記焼結含油軸受に挿入された回転子軸を中心に回転子が回転可能に支持されたアウターロータ型モータであって、
前記固定子ハウジングの外周に組み付けられた固定子コアと径方向に重ならない範囲で前記焼結含油軸受の軸方向一端側外周に、当該焼結含油軸受に潤滑油を補給する多孔質焼結金属製の環状の補油部材が同心状に嵌め込まれて前記固定子ハウジング内に収容されていることを特徴とするアウターロータ型モータ。
【請求項2】
前記固定子ハウジングの前記補油部材が設けられていない軸方向他端側は前記固定子コアが組み付けられた前記固定子ハウジングの外径よりさらに小径に成形されており、前記焼結含油軸受の外周と前記固定子ハウジングの内周との間に空間部が設けられており、前記空間部は軸方向の長さが1.5mm以上であれば径方向に0.05mm以上0.3mm以下の幅が設けられ、軸方向の長さが1.0mm以上であれば径方向に0.05mm以上0.2mm以下の幅が設けられている請求項1記載のアウターロータ型モータ。
【請求項3】
前記補油部材の外周面と前記固定子ハウジングの内周面との隙間の大きさは、径方向に0.05mm以上0.5mm以下であって、軸方向に5.0mm以上である請求項1記載のアウターロータ型モータ。
【請求項4】
前記固定子ハウジングの前記補油部材が設けられていない軸方向他端側は前記固定子コアが組み付けられた前記固定子ハウジングの外径よりさらに小径に成形されており、前記焼結含油軸受の外周と前記固定子ハウジングの内周との間に空間部が設けられており、前記空間部は軸方向の長さが1.5mm以上であれば径方向に0.05mm以上0.3mm以下の幅が設けられ、軸方向の長さが1.0mm以上であれば径方向に0.05mm以上0.2mm以下の幅が設けられており、前記補油部材の外周面と前記固定子ハウジングの内周面との隙間の大きさは、径方向に0.05mm以上0.5mm以下であって、軸方向に5.0mm以上である請求項1記載のアウターロータ型モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばシート空調用或いはHVAC(暖房、換気及び空調:Heating, Ventilation, and Air Conditioning)機器などの駆動源に用いられるアウターロータ型モータに関する。
【背景技術】
【0002】
回転子軸の回転を支持する軸受として転がり軸受より製造コストを抑えられる焼結含油軸受が用いられる。焼結含油軸受は、多孔質焼結金属材(例えば鉄材と銅材を焼き固めたもの)が用いられ、内部に潤滑油を含浸させたものが用いられる。
【0003】
焼結含油軸受を用いる場合、内部に含浸させた潤滑油が不足すると、回転子軸と軸受との摺動部分に存在した油膜がなくなり焼きついたり、振動やノイズが発生したりするおそれがある。また潤滑油の量を増やすとすれば、焼結含油軸受が大型化し、潤滑油の漏れを発生するおそれがある。
【0004】
含油軸受の潤滑油保持量を増加させ、かつ、含油軸受からの潤滑剤の漏れ、及び蒸発を防止するため以下の含油軸受機構が提案されている。略中空円筒形状の潤滑油を含む多孔質材料製の内側軸受と外側軸受を同心状に備え、内側軸受の外周面と外側軸受の内周面との間には、外部と連通し、内側軸受の外周面の一部と外側軸受の内周面の一部とによって形成される複数の連通溝が形成され、 該連通溝は、内側軸受の軸方向一端側の空間と軸方向他端側の空間とを連通するようになっている(特開2009-85355号公報;特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の含油軸受は、中空円筒形状の潤滑油を含む多孔質金属材料製の内側軸受と外側軸受を同心状に備えているため、含油率を増やそうとすると径方向の寸法が大きくなる。また、外側軸受の内周面に軸方向に沿って複数箇所で凹部を形成するため、加工費用が嵩む。
【0007】
これに対して、潤滑剤を含む焼結含油軸受(多孔質金属材:含油率15~30vol%)を内側軸受として用い、補油機構付焼結含油軸受(焼結フェルト:含油率30vol%以上)を外側軸受として同心状に配置したフェルトメタルが使用されている。
焼結含油軸受と焼結フェルトとは組成的には互いに類似している(鉄材と銅材を主とする混合材)が、空間密度は焼結フェルトのほうが焼結含油軸受より疎となるように互いに異なっている。よって、潤滑油を蓄える能力(単位体積当たりの潤滑油含有量)は焼結含油軸受より焼結フェルトのほうが多い。
しかしながら、焼結フェルトは、焼結含油軸受と同様の多孔質焼結金属製ではあるが、機械的な特性としては塑性変形する固いスポンジ状の部材であり、一般の金属材のように応力をかけることができない。
即ち、焼結含油軸受の外周に焼結フェルトを圧入(参考圧入力:20N~50N)し、焼結フェルトを介して焼結含油軸受を固定子ハウジングに圧入(参考圧入力:200N~300N)してモータベース側に固定されるため、例えば焼結フェルトを軸受外径側に圧入してその焼結フェルト外径を固定子ハウジング内径に圧入する構造とすると焼結含油軸受の固定子ハウジングに対する固定力が弱くなるおそれがある。
【0008】
また、回転子軸と軸受の微小な隙間に作用する毛細管現象と回転子軸の回転により発生するポンプ効果によって焼結含油軸受内部の潤滑油は回転子軸と軸受の摺動部分近傍に油膜を形成する。更に焼結含油軸受より潤滑油の方が膨張係数は大きい。そのため、例えば-30℃のような低温となると、軸受より潤滑油の方が収縮するので上記の摺動部分に存在していた潤滑油が不足して回転子軸と焼結含油軸受との間に形成される油膜が油膜切れを生じ、異音(ノイズ)が発生するおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、焼結含油軸受と共に補油部材を用いても、軸受の機械的強度を失うことなく、しかも小型で油膜切れが生じないアウターロータ型モータを提供することにある。
【0010】
本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。
筒状の固定子ハウジングの外周に固定子コアが組み付けられ当該固定子ハウジングの内周に多孔質焼結金属製の焼結含油軸受が同心状に組み付けられた固定子と、前記焼結含油軸受に挿入された回転子軸を中心に回転子が回転可能に支持されたアウターロータ型モータであって、前記固定子ハウジングの外周に組み付けられた固定子コアと径方向に重ならない範囲で前記焼結含油軸受の軸方向一端側外周に、当該焼結含油軸受に潤滑油を補給する多孔質焼結金属製の環状の補油部材が同心状に嵌め込まれて前記固定子ハウジング内に収容されていることを特徴とする。
これにより、回転子軸が焼結含油軸受と摺動しながら回転すると、多孔質焼結金属製の焼結含油軸受内の潤滑油が回転子軸との摺動部分に移動し多孔質焼結金属製の補油部材から潤滑油が焼結含油軸受内に移動することで、回転子軸の焼結含油軸受との摺動部分の油膜切れを防ぐことができる。回転子軸の回転が停止すると、摺動部分の潤滑油が焼結含油軸受内にもどり、焼結含油軸受内の潤滑油が補油部材へ戻る。このように補油部材が焼結含油軸受の潤滑油のバッファとして機能する。
また、補油部材は、焼結含油軸受の軸方向一端側外周に固定子ハウジングの外周に組み付けられた固定子コアと径方向に重ならない範囲で同心状に嵌め込まれているため、焼結含油軸受の外径は必要以上に大きくならず、焼結含油軸受の軸方向一端側に部分的重ね合わせて嵌め込まれているので、焼結含油軸受が軸方向に大型化することもなく、しかも固定子コアの内周側には固定子ハウジングと焼結含油軸受のみが存在するので、固定子コアの中心孔を小径としてモータの小型化を図ること図ることができる。また、固定子コアの固定子ハウジングへの組み付けに際して補油部材が変形したりすることがないので、機械的強度が損なわれることもない。
【0011】
前記固定子ハウジングの前記補油部材が設けられていない軸方向他端側は前記固定子コアが組み付けられた前記固定子ハウジングの外径よりさらに小径に成形されており、前記焼結含油軸受の外周と前記固定子ハウジングの内周との間に空間部が設けられており、前記空間部は軸方向の長さが1.5mm以上であれば径方向に0.05mm以上0.3mm以下の幅が設けられ、軸方向の長さが1.0mm以上であれば径方向に0.05mm以上0.2mm以下の幅が設けられていてもよい。
これにより、焼結含油軸受の軸方向で補油部材が設けられていない軸方向他端側には固定子ハウジングの内周面と焼結含油軸受の外周面との間の空間部を潤滑油のバッファ空間として使用することができる。
【0012】
前記補油部材の外周面と前記固定子ハウジングの内周面との隙間の大きさは、径方向に0.05mm以上0.5mm以下であって、軸方向に5.0mm以上であってもよい。
これにより、回転子軸が停止している間は、補油部材の外周面と固定子ハウジングの内周面との隙間を潤滑油の更なるバッファとして使用できるので、補油部材を小型にしても潤滑油の十分な補給を行うことができる。また、補油部材を焼結含油軸受に組み付ける際に固定子ハウジングとの干渉を回避することができる。
【0013】
前記固定子ハウジングの前記補油部材が設けられていない軸方向他端側は前記固定子コアが組み付けられた前記固定子ハウジングの外径よりさらに小径に成形されており、前記焼結含油軸受の外周と前記固定子ハウジングの内周との間に空間部が設けられており、前記空間部は軸方向の長さが1.5mm以上であれば径方向に0.05mm以上0.3mm以下の幅が設けられ、軸方向の長さが1.0mm以上であれば径方向に0.05mm以上0.2mm以下の幅が設けられており、前記補油部材の外周面と前記固定子ハウジングの内周面との隙間の大きさは、径方向に0.05mm以上0.5mm以下であって、軸方向に5.0mm以上であってもよい。
これにより、回転子軸が停止している間は、補油部材の外周面と固定子ハウジングの内周面との隙間を潤滑油の更なるバッファとして使用できるので、補油部材を小型にしても潤滑油の十分な補給を行うことができるうえに、焼結含油軸受の軸方向で補油部材が設けられていない軸方向他端側には固定子ハウジングの内周面と焼結含油軸受の外周面との間の空間部を潤滑油のバッファ空間として使用することができる。
【発明の効果】
【0014】
補油部材を用いても、軸受の機械的強度を失うことなく、しかも小型で油膜切れが生じない焼結含油軸受を備えたアウターロータ型モータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】
図1の遠心ファン及びモータの部分断面図である。
【
図3】第一実施例に係るアウターロータ型モータの垂直断面図である。
【
図4】第二実施例に係るアウターロータ型モータの垂直断面図である。
【
図5】焼結含油軸受と固定子ハウジングとのギャップにおける潤滑油の保持状態を確認するための実験説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第一実施例]
以下、本発明に係るアウターロータ型モータの一実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。先ず、アウターロータ型モータの概略構成について
図1乃至
図3を参照して説明する。本実施例では遠心送風機の駆動源として用いたアウターロータ型モータを例示して説明するものとする。
【0017】
図1に示すように、遠心送風機1は、遠心ファン2と回転子3(
図2参照)が一体に組み付けられ、これらを回転駆動するアウターロータ型モータMがケース体4内に収容されている。ケース体4の軸方向中央部上方より吸気し、ケース体4内で遠心加圧された圧縮空気をケース体4の外周側面に設けられた排気口から排気するものである。
【0018】
図2及び
図3を参照してアウターロータ型モータMの構成について説明する。
回転子3は、カップ状に形成された回転子ヨーク3aのハブ3bに回転子軸3cの一端が圧入、接着、焼き嵌めなどのいずれか或いはこれらの組み合わせで一体に組み付けられている。回転子ヨーク3aの内周面には、N極S極交互に着磁された環状の回転子マグネット3dが組み付けられている。回転子ヨーク3aは、遠心ファン2とともにインサート成形されていてもよい。
【0019】
固定子5は、筒状に成形された固定子ハウジング6の軸方向中央部外周に固定子コア7が接着固定されている。固定子コア7は環状のコアバック部7aの中心孔に固定子ハウジング6を挿通して組み付けられる。固定子コア7は固定子ハウジング6に設けられた段付き部6gに突き当てられて軸方向に位置決めされて組み付けられる。固定子コア7はコアバック部7aより径方向外側に向かって複数の極歯7bが突設されている。極歯7bの周囲はインシュレータ7cに覆われており、モータコイル7dが巻き付けられている。
【0020】
また、固定子ハウジング6の内部には、筒状に成形された多孔質焼結金属製の焼結含油軸受8が圧入されている。焼結含油軸受8には潤滑油が含浸されている。焼結含油軸受8の回転子ヨーク3aとは反対側に延設された軸方向一端側(下端側)外周には、当該焼結含油軸受に潤滑油を補給する多孔質金属製の焼結フェルト9(補油部材)が軸方向に部分的重なり合うように同心状に嵌め込まれている。焼結フェルト9の外周面と固定子ハウジング6の内周面との間には、0.05mm以上~0.5mm以下の隙間10が設けられて、固定子ハウジング6の筒孔内に収容されている。
【0021】
これにより、回転子軸3cが停止している間は、焼結フェルト9の外周面と固定子ハウジング6の内周面との隙間10を潤滑油の更なるバッファとして使用できるので、焼結フェルト9を小型にしても潤滑油の十分な補給を行うことができる。また、機械的強度の弱い焼結フェルト9を焼結含油軸受8に組み付ける際に固定子ハウジング6との干渉を回避することができる。
【0022】
回転子軸3cは、固定子ハウジング6の筒孔6aに挿入され、固定ハウジング6内に圧入された焼結含油軸受8の筒孔8aに圧入される。回転子軸3cの挿入端部は、固定子ハウジング6の筒孔6aを閉止する閉止部材6bに支持されたスラスト受け6cに突き当てられて支持される。閉止部材6bは固定子ハウジング6の凹部6dに突き当てられて一体に組み付けられる。また、回転子軸3cの挿入端部近傍には、抜け止めワッシャ6eが嵌め込まれて、回転子軸3cが軸方向に抜け止めとされる。閉止部材6bは、固定子ハウジング6の凹部6dに充填される封止材6fによって封止される。
【0023】
固定子ハウジング6は、モータ底部を覆う板金状のベースプレート11と固定されて一体に組み付けられている。ベースプレート11上には、モータ基板12が基板貫通孔12aに固定子ハウジング6を挿通させた状態で重ねて組み付けられる。モータ基板12には通電回路が形成されており、モータコイル7dのコイルリードが端子部に電気的に接続されている。
【0024】
図2で示すように、回転子軸3cと焼結含油軸受8は、当該焼結含油軸受8の軸方向両端部(長円Aが示す上端部及び長円Bが示す下端部)の箇所で摺動している。この焼結含油軸受8の軸方向両端部は、固定子ハウジング6の内壁との間に隙間が形成されている。しかも焼結含油軸受8の軸方向下端部外周には焼結フェルト9が圧入されている。よって、回転子軸3cが焼結含油軸受8と摺動しながら回転すると、多孔質焼結金属製の焼結含油軸受8内の潤滑油が摺動部分に移動し、移動した潤滑油を補うように多孔質金属製の焼結フェルト9から潤滑油が焼結含油軸受8内に移動する。このようにして、回転子軸3cの焼結含油軸受8との摺動部分の油膜切れを防ぐことができる。回転子軸3cの回転が停止すると、摺動部分の潤滑油が焼結含油軸受8内にもどり、焼結含油軸受8内で溢れた潤滑油を受け止めるように潤滑油が焼結フェルト9へ戻る。このように、焼結フェルト9が焼結含油軸受8の潤滑油のバッファとして機能する。
【0025】
また、焼結フェルト9は、焼結含油軸受8の軸方向下端側で部分的重なり合うように同心状に圧入されている。このため、
図2の長円Cで示すように、焼結含油軸受8と径方向に直接重なる固定子ハウジング6の外周に固定子コア7が組み付けられる。即ち、焼結フェルト9は固定子ハウジング6の外周に組み付けられた固定子コア7と径方向に重ならない範囲で固定子コア7の径方向寸法に影響しない位置に配置されている。このため、固定子コアの内周側には固定子ハウジングと焼結含油軸受のみが存在するので、固定子コア7の中心孔を小径としてモータの小型化を図ること図ることができる。また、固定子コア7の固定子ハウジング6への組み付けに際して焼結フェルト9が変形したりすることがないので、機械的強度が損なわれることもない。
また、焼結フェルト9は固定子ハウジング6の内壁との間に隙間10が設けられて収容されているので、隙間10を潤滑油のバッファとして用いることができ、焼結フェルト9も小径にすることができる。
【0026】
上述したアウターロータ型モータMを組み立てるには、
図3に示すように、焼結含油軸受8を、固定子ハウジング6の筒孔6aに圧入固定する。そして、焼結含油軸受8の筒孔8aの内径をそろえるサイジング加工を行う。
【0027】
次に焼結含油軸受8の一端側(下端側)外周に焼結フェルト9を重ね合わせて圧入する。焼結フェルト9は、固定子ハウジング6の筒孔6aに隙間10を形成して収容される。
【0028】
次に、ベースプレート11の底面に固定子ハウジング6のフランジ部を重ね合わせて抵抗溶接して一体に組み付ける。次いでモータ基板12を基板貫通孔12aに固定子ハウジング6を挿通させてベースプレート11上に重ね合わせ、ベースプレート11に設けられた突起がかしめられて組み付けられる。
【0029】
固定子コア7をコアバック部7aの中心孔に固定子ハウジング6を挿通して接着固定される。固定子コア7は固定子ハウジング6の段付き部6gにより軸方向に位置決めされて組み付けられる。固定子コア7の極歯7bに巻き付けられたモータコイル7dより引き出されたコイルリードは、モータ基板12の端子部とはんだ付けされて電気的に接続される。
【0030】
次に遠心ファン2と一体となった回転子3の回転子軸3cを固定子ハウジング6の筒孔に挿入し、焼結含油軸受8の筒孔8aに圧入する。焼結含油軸受8より露出した回転子軸3cの挿入端部に抜け止めワッシャ6eを組み付けて抜け止めする。閉止部材6bに支持されたスラスト受け6cを回転子軸3cの端部に突き当たるように重ね合わせ、閉止部材6bを覆って凹部6d内に封止材6f(接着剤などの樹脂材)が充填されて封止される。
【0031】
実験によれば、低温駆動時の焼結含油軸受8の異音発生に対する効果は以下の通りである。85℃環境下でアウターロータ型モータMを30分駆動し、30分停止を繰り返し、合計1000時間の耐久試験を実施した。
焼結フェルト9を組み付けない製品では、耐久試験前は-30℃以上で異音なく、耐久試験後において0℃以上で異音無しの結果が得られた。
一方、焼結フェルト9を組み付けた製品では、耐久試験前は-40℃以上で異音なく、耐久試験後において-30℃以上で異音無しの結果が得られた。
このように、アウターロータ型モータMの低温環境下における耐久性が向上することが判明した。
【0032】
以上説明したように、回転子軸3cが焼結含油軸受8と摺動しながら回転すると、多孔質焼結金属製の焼結含油軸受8内の潤滑油が
図2に示す摺動部分A,Bに移動し多孔質金属製の焼結フェルト9から潤滑油が焼結含油軸受8内に移動することで、回転子軸3cの焼結含油軸受8との摺動部分A,Bの油膜切れを防ぐことができる。回転子軸3cの回転が停止すると、摺動部分A,Bの潤滑油が焼結含油軸受8内に戻り、焼結含油軸受8内の溢れた潤滑油が焼結フェルト9へ戻る。このように焼結フェルト9が焼結含油軸受8の潤滑油のバッファとして機能する。
また、焼結フェルト9は、焼結含油軸受8の軸方向一端側外周に部分的に重ね合わせて同心状に嵌め込まれているため、焼結含油軸受8の外径は必要以上に大きくならず、焼結含油軸受8が軸方向に大型化することもない。
また、焼結フェルト9は固定子ハウジング6の内壁と隙間10を設けて筒孔6aに収容されているので、焼結含油軸受8の機械的強度が損なわれることもなく、隙間10を潤滑油のバッファとして用いることができ、焼結フェルト9も小径にすることができる。
【0033】
[第二実施例]
次にアウターロータ型モータの他例について
図4を参照して説明する。
第一実施例と同一部材には同一の番号を付して説明を援用するものとし、異なる構成を中心に説明する。固定子ハウジング6の外径は、焼結フェルト9(補油部材)が設けられていない軸方向他端側(回転子3側)は固定子コア7が組み付けられる外径よりさらに小径に成形されており、焼結含油軸受8の先端付近との間に空間部13が設けられている。この空間部13は少なくても径方向に0.05mm以上0.3mm以下の隙間が設けられており、該隙間に潤滑油を保持可能としている。
これにより、焼結含油軸受8の軸方向で焼結フェルト9が設けられていない軸方向他端側に固定子ハウジング6の内周面と焼結含油軸受8との間に形成された空間部13を潤滑油のバッファ空間として使用することができる。
【0034】
環境温度等に対してロバスト性を担保し、焼結含油軸受8の性能を長期にわたって安定的に発揮させるためには、焼結含油軸受8および焼結フェルト9(補油部材)の周囲に余剰な潤滑油を存在させることが望ましく、またその余剰な潤滑油が漏れないようにする必要がある。
本発明では前述したように、「焼結フェルト9と固定子ハウジング6との隙間10」および「焼結含油軸受8と固定子ハウジング6との空間部13」が余剰な潤滑油を保持する機能を有する。
「焼結フェルト9(補油部材)と固定子ハウジング6との隙間10」および「焼結含油軸受8と固定子ハウジング6との空間部13」をギャップとみたて、潤滑油を保持できるかを確認する実験を行った。
【0035】
まず、潤滑油を保持するギャップは、
図5A,Bにあるように、焼結含油軸受8と固定子ハウジング6の離間距離である「ギャップ幅W」と、ギャップの焼結含油軸受8の円筒長手方向の距離である「ギャップ長L」と、で定義した。補油部材を用いる場合については後述する。複数のギャップ幅Wおよび複数のギャップ長Lの数値を選択し、それぞれに応じた内側の寸法となる固定子ハウジング6とほぼ同一形状の実験部材を複数作成した。実験部材は透明な樹脂を採用し、潤滑油の保持状態を観察しやすくした。
これら複数の実験部材に焼結含油軸受8を嵌め合わせ、焼結含油軸受8に使用する潤滑油を滴下し、焼結含油軸受8と固定子ハウジング6の間のギャップが潤滑油を保持することができるか否か、実力を検証した。
【0036】
以下に示す表1は、滴下実験に用いた潤滑油の温度変化に対する動粘度の変化を示すものである。
【表1】
実験部材を、焼結含油軸受8の円筒長手方向で空間部13がある側を先端とみた場合、先端側を下にし、焼結含油軸受8の後端(
図5Aの上方)から潤滑油を滴下し(
図5A矢印参照)、潤滑油がギャップ(空間部13)より先(下方)へ漏れ出てくるか否かを確認した。潤滑油の滴下量は、使用する焼結含油軸受8での標準量である50μLとした。実験環境は、常温(20℃)および80℃とした。
なお実験時、焼結含油軸受8には回転子軸3cを挿入し、焼結含油軸受8の内周側を介しての潤滑油漏れが起きない状況にて検証を行った(
図5A参照)。
また、
図5Cに示すように、焼結含油軸受8の外周面には、空気抜き用の溝8aが複数設けられているので、滴下された潤滑油は直後にギャップ(空間部13)まで下がってくることになる。
【0037】
以下に示す表2,表3はギャップ幅Wとギャップ長Lを変化させた場合における滴下実験の結果である。ギャップにおいてさらに下部への漏れが無いもの(ギャップにおいて潤滑油を保持しているもの)が望ましい状態であるのでOKと表記し、下部への漏れがあるものは望ましくないためNGと表記している。
【表2】
【表3】
【0038】
この実験結果より、ギャップ長Lが1.5mm以上であればギャップ幅Wは0.3mm以下とすることで潤滑油の漏れが生じず、ギャップ長Lが1.0mm以上であればギャップ幅Wは0.2mm以下とすることで潤滑油の漏れが生じないことが判った。ギャップにおける潤滑油のバッファ(保持空間)として有効に機能させられることが確認された。
また、ギャップ長Lとギャップ幅Wについて、実験結果より「ギャップ幅W≦ (1/5)ギャップ長L」の関係であればギャップにおいて潤滑油の保持能力があると見受けられる。
本実験のギャップを焼結含油軸受8の外周と固定子ハウジング6の内周との空間部13に当てはめると、「径方向に0.05mm以上0.3mm以下、軸方向に1.5mm以上」あるいは「径方向に0.05mm以上0.2mm以下、軸方向に1.0mm以上」となる。尚、径方向のギャップ幅の最小値0.05mmは、部品の加工精度に基づく許容公差である。
【0039】
本発明において補油部材(焼結フェルト9;
図3参照)の軸方向の長さは5.0mmを採用している。また、焼結含油軸受と補油部材とでは含油能力が異なるため、安全率として2.0を乗じることとした。よって、前述の「ギャップ幅W≦(1/5)ギャップ長L」の関係より、補油部材の外周面と固定子ハウジング6の内周面との隙間10の大きさは、本実験のギャップの大きさに当てはめると、「径方向に0.05mm以上0.5mm以下、軸方向に5.0mm以上」となる。尚、径方向のギャップ幅の最小値0.05mmは、部品の加工精度に基づく許容公差である。
前述の通り、焼結含油軸受8と補油部材では含油能力が異なるため、安全率2.0を乗じ、ギャップ幅Wを「1.0mm以下」ではなく「0.5mm以下」とした。補油部材の軸方向の長さを5.0mm以外とする場合、「ギャップ幅W≦(1/5)ギャップ長L×(1/安全率)」の関係を満たすギャップ幅Wを選択することも可能である。
【0040】
上記アウターロータ型モータの実施形態は、車載用シート空調を例示して説明したが、これに限らずHVAC(暖房、換気及び空調)用の遠心送風機等に用いてもよい。車両以外の、余剰空間が少なく従来の空調用送風機を配置する空間が確保困難な場所であっても、本発明は同様に効果があることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0041】
1 遠心送風機 2 遠心ファン 3 回転子 3a 回転子ヨーク 3b ハブ 3c 回転子軸 3d 回転子マグネット M アウターロータ型モータ 4 ケース体 5 固定子 6 固定子ハウジング 6a,8a 筒孔 6b 閉止部材 6c スラスト受け 6d 凹部 6e 抜け止めワッシャ 6f 封止材 6g 段付き部 7 固定子コア 7a コアバック部 7b 極歯 7c インシュレータ 7d モータコイル 8 焼結含油軸受 9 焼結フェルト 10 隙間 11 ベースプレート 12 モータ基板 12a 基板貫通孔 13 空間部
【手続補正書】
【提出日】2023-12-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。
筒状の固定子ハウジングの外周に固定子コアが組み付けられ当該固定子ハウジングの内周に多孔質焼結金属製の焼結含油軸受が同心状に組み付けられた固定子と、前記焼結含油軸受に挿入された回転子軸を中心に回転子が回転可能に支持されたアウターロータ型モータであって、前記固定子ハウジングの外周に組み付けられた固定子コアと径方向に重ならない範囲で前記焼結含油軸受の軸方向一端側外周に、当該焼結含油軸受に潤滑油を補給する多孔質焼結金属製の環状の補油部材が同心状に嵌め込まれて前記固定子ハウジング内に収容されていることを特徴とする。
これにより、回転子軸が焼結含油軸受と摺動しながら回転すると、多孔質焼結金属製の焼結含油軸受内の潤滑油が回転子軸との摺動部分に移動し多孔質焼結金属製の補油部材から潤滑油が焼結含油軸受内に移動することで、回転子軸の焼結含油軸受との摺動部分の油膜切れを防ぐことができる。回転子軸の回転が停止すると、摺動部分の潤滑油が焼結含油軸受内にもどり、焼結含油軸受内の潤滑油が補油部材へ戻る。このように補油部材が焼結含油軸受の潤滑油のバッファとして機能する。
また、補油部材は、焼結含油軸受の軸方向一端側外周に固定子ハウジングの外周に組み付けられた固定子コアと径方向に重ならない範囲で同心状に嵌め込まれているため、焼結含油軸受の外径は必要以上に大きくならず、焼結含油軸受の軸方向一端側に部分的重ね合わせて嵌め込まれているので、焼結含油軸受が軸方向に大型化することもなく、しかも固定子コアの内周側には固定子ハウジングと焼結含油軸受のみが存在するので、固定子コアの中心孔を小径としてモータの小型化を図ることができる。また、固定子コアの固定子ハウジングへの組み付けに際して補油部材が変形したりすることがないので、機械的強度が損なわれることもない。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
回転子軸3cは、固定子ハウジング6の筒孔6aに挿入され、固定子ハウジング6内に圧入された焼結含油軸受8の筒孔8aに圧入される。回転子軸3cの挿入端部は、固定子ハウジング6の筒孔6aを閉止する閉止部材6bに支持されたスラスト受け6cに突き当てられて支持される。閉止部材6bは固定子ハウジング6の凹部6dに突き当てられて一体に組み付けられる。また、回転子軸3cの挿入端部近傍には、抜け止めワッシャ6eが嵌め込まれて、回転子軸3cが軸方向に抜け止めとされる。閉止部材6bは、固定子ハウジング6の凹部6dに充填される封止材6fによって封止される。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
また、焼結フェルト9は、焼結含油軸受8の軸方向下端側で部分的重なり合うように同心状に圧入されている。このため、
図2の長円Cで示すように、焼結含油軸受8と径方向に直接重なる固定子ハウジング6の外周に固定子コア7が組み付けられる。即ち、焼結フェルト9は固定子ハウジング6の外周に組み付けられた固定子コア7と径方向に重ならない範囲で固定子コア7の径方向寸法に影響しない位置に配置されている。このため、固定子コアの内周側には固定子ハウジングと焼結含油軸受のみが存在するので、固定子コア7の中心孔を小径としてモータの小型化
を図ることができる。また、固定子コア7の固定子ハウジング6への組み付けに際して焼結フェルト9が変形したりすることがないので、機械的強度が損なわれることもない。
また、焼結フェルト9は固定子ハウジング6の内壁との間に隙間10が設けられて収容されているので、隙間10を潤滑油のバッファとして用いることができ、焼結フェルト9も小径にすることができる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0036
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0036】
以下に示す表1は、滴下実験に用いた潤滑油の温度変化に対する動粘度の変化を示すものである。
【表1】
実験部材を、焼結含油軸受8の円筒長手方向で空間部13がある側を先端とみた場合、先端側を下にし、焼結含油軸受8の後端(
図5Aの上方)から潤滑油を滴下し(
図5A矢印参照)、潤滑油がギャップ(空間部13)より先(下方)へ漏れ出てくるか否かを確認した。潤滑油の滴下量は、使用する焼結含油軸受8での標準量である50μLとした。実験環境は、常温(20℃)および80℃とした。
なお実験時、焼結含油軸受8には回転子軸3cを挿入し、焼結含油軸受8の内周側を介しての潤滑油漏れが起きない状況にて検証を行った(
図5A参照)。
また、
図5Cに示すように、焼結含油軸受8の外周面には、空気抜き用の溝
8bが複数設けられているので、滴下された潤滑油は直後にギャップ(空間部13)まで下がってくることになる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】