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特開2024-104291二次電池用支持体、固体電解質シート、及び、二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104291
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】二次電池用支持体、固体電解質シート、及び、二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20240726BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240726BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024004127
(22)【出願日】2024-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2023008121
(32)【優先日】2023-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390032230
【氏名又は名称】ニッポン高度紙工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 健太
(72)【発明者】
【氏名】小川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 正寛
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029EJ12
5H029HJ00
5H029HJ04
5H029HJ07
(57)【要約】
【課題】固体電解質層の内部抵抗を低減することが可能な支持体を提供する。
【解決手段】二次電池の固体電解質を保持するための支持体であって、実質的に非フィブリル化繊維を含まない、紙及び不織布から選ばれる少なくとも1種からなり、厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率が1~15%である二次電池用支持体を構成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の固体電解質を保持するための支持体であって、
実質的に非フィブリル化繊維を含まない、紙及び不織布から選ばれる少なくとも1種からなり、
厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率が1~15%である
二次電池用支持体。
【請求項2】
前記紙及び前記不織布がフィブリル化繊維を含む
請求項1に記載の二次電池用支持体。
【請求項3】
前記フィブリル化繊維のCSF値が0~400mlである
請求項2に記載の二次電池用支持体。
【請求項4】
前記フィブリル化繊維の繊維長が0.1~2mmである
請求項2に記載の二次電池用支持体。
【請求項5】
実質的に非フィブリル化繊維を含まない、紙及び不織布から選ばれる少なくとも1種からなる薄膜状の支持体に固体電解質が保持された固体電解質シートであって、
前記支持体の厚さ方向におけるパーフルオロポリエーテルに対する透過率が1~15%である
固体電解質シート。
【請求項6】
正極層、負極層、及び、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質シートを備える二次電池であって、
前記固体電解質シートは、
実質的に非フィブリル化繊維を含まない、紙及び不織布から選ばれる少なくとも1種からなり、厚さ方向におけるパーフルオロポリエーテルに対する透過率が1~15%である支持体と、
前記支持体に保持された固体電解質と、を備える
二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質を保持する二次電池用支持体、固体電解質シート、及び、この支持体を備える二次電池に係わる。
【背景技術】
【0002】
エネルギー密度の高い二次電池として、液体の電解質(以下、電解液)を用いたリチウムイオン二次電池が用いられている。電解液を用いたリチウムイオン二次電池は、正極と負極との間にセパレータを介在させ、セパレータに電解液を保持させた構成を有している。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、電解液として、主に有機系電解液が使用されている。有機系電解液は、液体であるための液漏れや、可燃性に起因する問題が懸念される。そのため、リチウムイオン二次電池の安全性を高めるために、電解液ではなく、固体電解質を用いた二次電池(以下、全固体電池)が開発されている。全固体電池は、当然ながら、電解質が固体であるため、液漏れもなく、かつ電解液と比較して難燃性で耐熱性も高いことから、安全性に優れた二次電池として注目されている。全固体電池は、高い安全性を有することから、肌身に直接触れるウエアラブル機器向け等、小型の全固体電池が量産されている。
【0004】
また、全固体電池は、電解液を用いるリチウムイオン二次電池と異なり、高温での特性劣化が小さい電池であることから、冷却装置が不要となり、電池パックの体積当たりのエネルギー密度の向上に対しても有利な二次電池である。全固体電池は、体積エネルギー密度の高い二次電池として有利な点から、電気自動車向け等、さらなる大型化が期待されている。
【0005】
全固体電池は、正極と負極との間に電解液を用いた二次電池と異なり、電解液を保持させたセパレータではなく、固体電解質層が介在する。例えば、リチウムイオン全固体電池の場合、充電時には、リチウムイオンが正極から固体電解質層を通り、負極まで達する。一方、放電時には、リチウムイオンが負極から固体電解質層を通り、正極まで達する。このように、正極-負極間を伝導するイオン(以下、キャリアイオン)種として、全固体電池の場合、リチウムイオンはもちろん、資源の安定供給問題回避の観点等からナトリウムイオンといった様々なイオン種が検討されている。このキャリアイオンは固体電解質層を通じて正極、負極間を行き来するために、固体電解質層の厚さ方向に対して、キャリアイオンのパスラインを形成する必要がある。
【0006】
つまり、全固体電池の正極と負極との間に介在する固体電解質層には、キャリアイオンが正極-負極間をイオン伝導する機能と、正極活物質と負極活物質との短絡を防止する機能とが求められる。加えて、体積エネルギー密度に優れ、かつ内部抵抗を低くするために、固体電解質層の厚さは薄いことが求められる。
【0007】
固体電解質層を形成する方法としては、固体電解質とバインダーとを混合し、加熱下で圧延してシート状に形成する方法や、固体電解質スラリーを電極上に塗工、乾燥する方法等が採用されている。
【0008】
しかしながら、電気自動車向け等、大型の電池に使用する全固体電池用固体電解質層を形成する場合、例えば、加熱下で圧延してシート状に形成する方法で得られる固体電解質層は、取り扱い時に割れやクラックが生じてしまう。また、固体電解質を含むスラリーを電極上に塗工、乾燥する方法を用いると、乾燥時に固体電解質層にひずみが生じ、クラックが生じてしまう。そのため、安定して薄く、均一な固体電解質層を形成することが困難である。安定して薄く、均一な固体電解質層を形成できなければ、イオン伝導の悪化や、更には短絡が生じてしまう。
一方、短絡を防止するために、固体電解質層の厚さを厚くすることもできるが、厚さが厚い場合、体積エネルギー密度の低下や、極間距離が長くなり、内部抵抗が高くなってしまう。
【0009】
以上の問題を解決するために、薄膜状シート(以下、支持体)に固体電解質を含ませ、固体電解質と支持体とが一体化した固体電解質シートを全固体電池に用いることが提案されている。そして、全固体電池用支持体とリチウム二次電池セパレータ用不織布基材とに関する種々の構成が提案されている。
【0010】
例えば、支持体となるフィルムをエッチング処理することによって形成した、複数の貫通孔を有する固体電解質シートに関する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、エッチング処理によって形成された貫通孔に固体電解質を充填することにより、エネルギー密度、出力特性に優れた全固体電池を構成している。
【0011】
また、空隙率が60%以上95%以下、かつ厚みが5μm以上20μm未満である支持体を用いた固体電解質シートに関する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。この固体電解質シートは、厚さが薄いながらも自立性を有することが開示されている。
【0012】
更に、バインダー繊維として、未延伸ポリエステル繊維と湿熱接着性繊維とを含有する、リチウム二次電池セパレータ用不織布基材に関する技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。この技術では、未延伸ポリエステル繊維は、カレンダー等の熱圧処理によって軟化又は溶融してその他繊維と強固に接着し、湿熱接着性繊維は、湿潤状態において流動又は容易に変形して接着機能を発現することが開示されている。不織布基材に、これらバインダーを含有することで、引張強度が高く、生産性の高いリチウム二次電池セパレータ用不織布基材を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2017-103146号公報
【特許文献2】特開2020-77488号公報
【特許文献3】特開2020-161243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、固体電解質シートを作製する場合、固体電解質を貫通孔に充填するため、形成された貫通孔の内部にのみ固体電解質が充填される。そのため、貫通孔以外は絶縁物であるフィルム部が残存し、正極及び負極とフィルム部とにキャリアイオンを通さない界面が生じてしまう。この結果、固体電解質シートと、正極及び負極との界面抵抗が高くなりやすく、この支持体を用いた全固体電池の抵抗が高くなる。
【0015】
また、特許文献2に記載の技術では、支持体は、十分な空隙を有した支持体であるものの、支持体構成材料に細い繊維を含む場合、緻密な構造の支持体となる。その結果、支持体の内部に固体電解質スラリーを浸透させることや、厚さ方向に透過させることが困難となる。このため、固体電解質シートの厚さ方向に対するキャリアイオンのパスラインの形成が不十分となり、内部抵抗が高い固体電解質シートとなってしまう。
また、特許文献2に記載の技術では、支持体は、支持体構成材料である繊維の本数が少ない場合、支持体の厚さ方向に対する固体電解質スラリーの透過性が高くなりすぎるため、固体電解質スラリーの保持性に懸念がある。その結果、支持体に固体電解質スラリーが留まることができず、支持体による固体電解質の保持効果を十分に得られずに抵抗が高くなる。
【0016】
更に、特許文献3に記載の技術では、不織布基材に含まれる湿熱接着性繊維は、上述の通り、接着機能発現に際して流動又は変形を経るため、繊維状態を維持できずに不織布基材内部の空隙を埋めてしまう場合がある。更に、繊維形状を保持できないバインダー繊維を多く含むと、密度が高くなってしまう。その結果、固体電解質スラリーの不織布基材内部への浸透性や不織布基材の厚さ方向に対する透過性が不十分となる。このため、固体電解質シート内部に形成されるキャリアイオンのパスラインの形成量が少なくなり、全固体電池の抵抗が高くなる。
【0017】
上述した問題の解決のため、本発明においては、固体電解質層の内部抵抗を低減することが可能な二次電池用支持体、この支持体を用いた固体電解質シート、及び、この支持体を用いた二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の二次電池用支持体は、二次電池の固体電解質を保持するための支持体であって、実質的に非フィブリル化繊維を含まない、紙及び不織布から選ばれる少なくとも1種からなり、厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率が1~15%である。
【0019】
また、本発明の固体電解質シートは、実質的に非フィブリル化繊維を含まない、紙及び不織布から選ばれる少なくとも1種からなる薄膜状の支持体に固体電解質が保持され、支持体の厚さ方向におけるパーフルオロポリエーテルに対する透過率が1~15%である。
【0020】
また、本発明の二次電池は、正極層、負極層、及び、正極層と負極層との間に配置された固体電解質層を備える。この二次電池において、固体電解質層は、支持体に固体電解質が保持された固体電解質シートとして構成されている。固体電解質シートは、実質的に非フィブリル化繊維を含まない、紙及び不織布から選ばれる少なくとも1種からなり、厚さ方向におけるパーフルオロポリエーテルに対する透過率が1~15%である支持体と、支持体に保持された固体電解質とを備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、固体電解質層の内部抵抗を低減することが可能な二次電池用支持体、この支持体を用いた固体電解質シート、及び、この二次電池用支持体を用いた二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.二次電池用支持体の実施形態(第1実施形態)
2.二次電池の実施形態(第2実施形態)
【0023】
〈1.二次電池用支持体の実施形態(第1実施形態)〉
以下、二次電池用支持体の具体的な実施の形態について説明する。
本形態の二次電池用支持体(以下、単に支持体とも表記する。)は、二次電池において、正極-負極間に介在する固体電解質層を形成するために用いられる。支持体は、二次電池の固体電解質を保持するためのものであって、紙及び不織布から選ばれる少なくとも1種からなり、厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率が1~15%である。なお、本開示において「~」で示す数値範囲は、上限及び下限として示す数値を含む。
【0024】
正極-負極間に介在する固体電解質層は、充放電時にキャリアイオンが正極-負極間を伝導することが要求される。この為には、キャリアイオンが正極-固体電解質層間、固体電解質層内部、固体電解質層-負極間にキャリアイオンのパスラインが形成されている必要がある。つまり、正極-固体電解質層間、固体電解質層-負極間の界面抵抗の低減及び、固体電解質層内部の抵抗を低減できれば、全固体電池の抵抗を低くできる。
【0025】
本願発明者等は、固体電解質シートの内部抵抗の更なる低減を阻害する一要因として、支持体の厚さ方向に対する液体の透過性が影響していることを見出した。このため、本形態による支持体では、従来の気体による透過性とは異なり、実際の塗工時と同様に、液体を用いることで、固体電解質スラリーの支持体内部への拡散の評価、及び、支持体による液体の保持性を評価する。
【0026】
支持体の厚さ方向に対する液体の透過性が低すぎると、固体電解質シート内部に形成されるキャリアイオンのパスラインが少なくなる。一方、支持体の厚さ方向に対する液体の透過性が高すぎると、支持体による固体電解質スラリーの保持性が低く、支持体に留まる固体電解質スラリーが少なくなってしまい、固体電解質シート内部に形成されるキャリアイオンのパスラインが少なくなる。その結果、上述したどちらの場合でも得られる固体電解質シートの抵抗が高くなってしまう。
そこで、支持体の厚さ方向に対する液体の透過性を最適化することで、固体電解質シート内部に形成されるキャリアイオンのパスラインを多くすることができる。その結果、固体電解質層の抵抗の低減が可能となる。
【0027】
本実施形態では、支持体の厚さ方向に対する液体の透過性を測る指標として、厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率を採用した。パーフルオロポリエーテルは、化学的に不活性で、かつ表面張力が低い、常温で液体の物質であるため、支持体の内部構造による厚さ方向に対する透過性を評価できる液体である。
【0028】
例えば、水で同様の評価を行った場合、支持体の親水性が高い場合、水の影響を受け、支持体構成繊維が膨潤してしまい支持体の内部構造が変化してしまう。また、支持体の親水性が低い場合、支持体への濡れ性が低いため、支持体内部への浸透性が低下してしまい、支持体の構造による浸透性・透過性を正確に把握できない。加えて、水は、表面張力が高いため、支持体内部への水の浸透や透過を阻害してしまい、支持体内部の構造の影響を正確に評価できない。また、例えば、一般的な有機溶媒で同様の評価を行った場合には、有機溶媒は、蒸気圧が低いために、試験中に有機溶媒が蒸発してしまい、正確な透過量を把握できない。
【0029】
つまり、パーフルオロポリエーテルは、その他液体と比較して、支持体との相互作用が小さいため、測定液による支持体を構成する繊維への影響が軽微なため、繊維の種類が異なる支持体に対して、支持体本来の特性を正確に評価することができる。なお、本願では、パーフルオロポリエーテルとして、Propene,1,1,2,3,3-Hexafluoro,oxidized,Polymerized(表面張力16mN/m)を用いる。
【0030】
厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過量は、支持体の表面に、パーフルオロポリエーテルを所定量滴下し、支持体内部を浸透、拡散し、支持体の裏面まで透過したパーフルオロポリエーテルの質量である。
厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率は、厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過量を、滴下したパーフルオロポリエーテルの質量で割り、百分率とすることで算出した。つまり、パーフルオロポリエーテルの透過率を把握することで、支持体の厚さ方向に対する固体電解質スラリーの透過性を把握できる。
【0031】
厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率が低ければ、支持体の厚さ方向に対する固体電解質スラリーの透過性が低いことを示す。一方、厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率が高ければ、支持体内部への固体電解質スラリーの透過性が高すぎるため、支持体への固体電解質スラリーの保持性が低いこととなる。
【0032】
支持体は、厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率を1~15%の範囲に制御したものである。
上記範囲の厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率を有する支持体は、支持体の厚さ方向に対する固体電解質スラリーの透過性、保持性に優れるため、支持体内部に固体電解質スラリーを必要量、均一に含浸することができる。その結果、得られる固体電解質シート内部には、キャリアイオンのパスラインを必要量形成できる。以上の効果により、固体電解質層の内部抵抗を低減できる。つまり、この支持体を用いることで、全固体電池の抵抗を低くすることができる。
また、支持体の固体電解質スラリーに対する透過性、保持性の観点から、支持体の厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率は、3~13%の範囲とするとより好ましい。
【0033】
支持体の厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率が上記範囲未満であると、支持体の厚さ方向に対する固体電解質スラリーの透過量が乏しいため、固体電解質シート内部の厚さ方向に形成されるキャリアイオンのパスラインが少なくなってしまう。
【0034】
一方、支持体の厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率が上記範囲超の場合、支持体が保持できる固体電解質スラリーの量が少ない。その結果、固体電解質シート内部の厚さ方向に形成されるキャリアイオンのパスラインが少なくなってしまい、固体電解質シートの内部抵抗が高くなってしまう。
【0035】
支持体は、パーフルオロポリエーテルの透過率が上記範囲内であれば、厚さ、坪量、密度、空隙率、引張強さ等のその他の構成は特に限定されない。パーフルオロポリエーテルの透過率が上記範囲であれば、支持体の構成に限定されず、固体電解質シート内にキャリアイオンのパスラインが十分に形成されることを評価でき、固体電解質シートの内部抵抗を低減、全固体電池の抵抗を低くすることができる。支持体の固体電解質スラリーに対する透過性、保持性、引張強さの観点から、支持体の坪量は、1.0~15.0g/mの範囲とするとより好ましい。
【0036】
支持体は、紙及び不織布から選ばれる少なくとも1種からなる。好ましくは、支持体は、紙及び不織布の少なくともいずれか一方のみからなる。それは、以下の理由による。
紙は、植物繊維、その他の繊維を膠着させて製造したものを指す。また、不織布は、織機を使わずに、天然、再生、合成繊維など各種の繊維ウェブを機械的、化学的、熱的、またはそれらの組合せによって処理し、接着剤又は繊維自体の接着力によって構成繊維を互いに接合して作ったシート状材料を指す。
つまり、紙及び不織布は、繊維がランダムに配置された構成であるので、その内部に、様々な大きさの空隙や、様々な大きさの貫通孔を無数有している。そのため、塗工された固体電解質スラリーは、厚さ方向だけでなく、面方向に対しても広がることができる。つまり、塗工された固体電解質は、支持体表面に留まるもの、支持体内部に留まるもの、表面側から貫通孔を通り抜けて裏面側まで達するものが存在する。
【0037】
そのため、紙及び不織布の少なくともいずれか一方を支持体として用いて作製された固体電解質シートは、固体電解質が支持体の表面はもちろん、支持体内部にも充填されており、良好なキャリアイオンのパスラインを形成できる。その結果、固体電解質シートの内部抵抗の低減とともに、固体電解質シートと、正極もしくは負極との界面抵抗を低くできる。結果として、全固体電池の抵抗の低減につなげることができる。
【0038】
支持体を構成する材料として用いることのできる材料は、固体電解質スラリーをはじかないものであって、物理的、化学的に固体電解質に悪影響を与えない繊維であれば、特に限定はなく、例えば、セルロース繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維といった有機繊維や、ガラス繊維、アルミナ繊維といった無機繊維等が挙げられる。また、これら繊維から選択される、一種以上の繊維を使用することができる。これらの繊維を用いることで、固体電解質の充填性に優れた支持体を得ることができる。
【0039】
更に、支持体の形態維持、及び引張強さの観点から、支持体には接着力を有する繊維を含有することが望ましい。接着力を有する繊維として、繊維表面にフィブリルを有した繊維(以下、フィブリル化繊維)、合成樹脂バインダー繊維等が挙げられる。
【0040】
例えば、フィブリル化セルロース繊維の接着力は、セルロース繊維同士の交絡による物理結合と、セルロースが有する水酸基の水素結合による化学結合とがある。また、フィブリル化ポリアミド繊維、フィブリル化アクリル繊維の接着力は、繊維同士の交絡による物理結合がある。いずれの繊維による結合も支持体の形態維持や、引張強さの発現に寄与するので好ましい。
なお、支持体は、繊維表面にフィブリルを有していない繊維(以下、非フィブリル化繊維)を実質的に含まないことが好ましい。非フィブリル化繊維を実質的に含まないとは、支持体を構成する全繊維中の非フィブリル化繊維の含有量が1質量%未満であることをいう。
【0041】
合成樹脂バインダー繊維には、支持体を形成した状態で、繊維状態を保持しているものと、繊維状態を保持できず、例えば膜状になったものとが挙げられる。支持体を形成した状態で、繊維状態を保持しているバインダー繊維は、浸透性・透過性を阻害しにくく、かつ支持体の引張強さを向上できる点で好ましい。
支持体を形成した状態で、繊維形状を保持しているバインダー繊維は、繊維交絡点を熱接着することによって、接着力を発現する。そのため、支持体の構成材料として繊維状態を保持したバインダー繊維は、物理的衝撃に対する破断等を低減でき、かつ繊維接点のみで接着するため、固体電解質シートを形成する際、支持体内部への固体電解質スラリーの浸透・透過を阻害しにくい。
一方、支持体を形成した状態で繊維状態を保持できない合成樹脂バインダー繊維は、支持体製造工程で、繊維が熱で膜状に変化し、繊維を構成する樹脂の融点、または軟化点近傍の熱が加えられることで樹脂が溶融し、繊維の交絡点で融着する。つまり、支持体を形成した状態において、繊維状態ではないバインダーを用いた場合、バインダー機能発現にあたり、バインダー成分が支持体の繊維間隙にフィルム層を形成し、空隙を埋めてしまう。その結果、固体電解質の支持体内部への浸透・透過を阻害してしまう場合があり、使用する場合には、含有割合に注意が必要である。
【0042】
接着力を有する繊維形状を保持する合成樹脂バインダー繊維として用いることができる材料は、固体電解質スラリーをはじかないものであって、物理的、化学的に固体電解質に悪影響を与えない繊維であれば、特に限定はなく、例えば、叩解したセルロース繊維、叩解したポリアミド繊維、叩解したアクリル繊維等のフィブリル化繊維、ポリアミドバインダー繊維、ポリエステルバインダー繊維、ポリエチレンバインダー繊維、ポリプロピレン-ポリエチレン芯鞘型バインダー繊維等が挙げられる。また、これら繊維から選択される、一種以上の繊維を使用することができる。
【0043】
支持体において、厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率を1~15%の範囲にする方法としては、例えば、フィブリル化繊維の場合、繊維長を0.1~2mmに制御すればよい。繊維長0.1~2mmのフィブリル化繊維を得るためには、例えばCSF(“Canadian Standard” freeness)値が0~400mlまで叩解する方法が挙げられる。なお、厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率を1~15%の範囲にすることができれば、この限りではない。
【0044】
フィブリル化繊維は、繊維表面に枝葉状のフィブリルを有していることから、固体電解質を支持できる繊維本数が多い。このため、固体電解質を支持体に浸透させる際に、支持体はフィブリルによって固体電解質を保持できる。すなわち、支持体は、多くの固体電解質を支持できるため、得られる固体電解質シートの内部のクラック発生を抑制できる。この結果、得られる固体電解質シートの抵抗を低減することが可能となる。
【0045】
支持体の製造方法には特に限定はなく、乾式法、湿式法で製造可能であるが、好ましくは、水中に分散させた繊維をワイヤー上に堆積させ、脱水、乾燥して抄き上げる抄紙法が、支持体の地合等の均質性の観点から好ましい。支持体の抄紙形式は、厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率を満足することができれば、特に限定はなく、長網抄紙や短網抄紙、円網抄紙といった抄紙形式が採用でき、またこれらの抄紙法によって形成された層を複数合わせたものであってもよい。また、抄紙に際しては、分散剤や消泡剤、紙力増強剤等の添加剤を加えてもよく、紙層形成後に紙力増強加工、親液加工、カレンダー加工、熱カレンダー加工、エンボス加工等の後加工を施してもよい。
【0046】
〈2.二次電池の実施形態(第2実施形態)〉
次に、上述の支持体を用いた二次電池の実施形態について説明する。二次電池は、例えば、正極、負極、及び、固体電解質層を備える全固体電池である。この場合、固体電解質層は正極と負極との間に介在するように配置される。固体電解質層は、支持体に固体電解質が保持された固体電解質シートとして構成されている。固体電解質シートは、二次電池用の支持体と固体電解質とを備え、固体電解質が支持体に保持され、固体電解質と支持体とが一体化した構成を有する。
【0047】
全固体電池に使用される正極、負極の種類は特に限定されない。例えば、全固体電池では、公知の正極、負極で構成されていてもよいが、これらに限定されるものではない。
また、全固体電池の種類は特に限定されず、全固体電池を構成する材料の選定によって、例えば、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池等に形成することができる。
上記全固体電池は、例えば、移動体通信機器、携帯用電子機器、電気自転車、電動二輪車、電気自動車、家庭用小型電力貯蔵装置等の蓄電池として使用することができる。
【0048】
[正極、負極]
二次電池において、正極層に用いられる正極活物質、及び負極層に用いられる負極活物質は、特に限定されるものではなく、各種キャリアイオンに応じた全固体電池の正極及び負極として機能するものであればよい。
【0049】
正極は、正極活物質含有層と、正極集電体とを有して形成される。例えば、全固体電池がリチウムイオン二次電池であれば、正極は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料で構成されている必要がある。
【0050】
正極集電体としては、例えば、アルミニウム等を用いることができる。
正極活物質としては、例えば、硫化物系では、硫化チタン(TiS)、硫化モリブデン(MoS)、硫化鉄(FeS、FeS)、硫化銅(CuS)及び硫化ニッケル(Ni)等を挙げることができる。また、酸化物系では、酸化ビスマス(Bi)、鉛酸ビスマス(BiPb)、酸化銅(CuO)、酸化バナジウム(V13)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、Li(NiCoMn)O、Li(NiCoAl)O、Li(NiCo)O等を挙げることができる。また、これらを混合して用いることも可能である。
【0051】
また、負極は、負極集電体と、負極活物質含有層とを有して形成される。例えば、全固体電池がリチウムイオン二次電池であれば、負極活物質として、金属リチウム、金属インジウムまたはリチウムイオンを吸蔵、放出できる物質を使用できる。
【0052】
負極集電体としては、例えば、銅等を用いることができる。
負極活物質としては、例えば、炭素材料、具体的には、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素等が挙げられる。あるいは、これらの混合物でもあってもよい。また、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミニウム、または金属ケイ素等の金属自体、またはこれらの金属と他の元素または化合物とを組み合わせた合金が挙げられる。
【0053】
全固体電池を構成する正極及び負極は、電極を構成することのできる材料から2種類を選択し、2種類の化合物の充放電電位を比較して、貴な電位を示すものを正極に、卑な電位を示すものを負極に用いて、任意の電池を構成する。
【0054】
[固体電解質層]
全固体電池において、固体電解質層は、支持体に固体電解質が保持された固体電解質シートとして構成されている。固体電解質シートを構成する固体電解質の種類は特に限定されず、例えば、全固体電池の固体電解質として利用可能な公知の材料を用いることができる。
また、固体電解質は、特に限定されるものではなく、正極と負極との間でキャリアイオン伝導が可能なものであればよい。例えば、酸化物系固体電解質や硫化物系固体電解質等が挙げられる。また、必要に応じて、バインダー等その他の成分を添加してもよい。
【0055】
例えば、リチウムイオン伝導可能な硫化物系固体電解質として、硫化物系非晶質固体電解質と硫化物系結晶性固体電解質とが挙げられる。硫化物系非晶質固体電解質の具体例として、LiS-SiS、LiS-GeS、Li、S-P、LiS-B、LiS-SiS-LiPO、LiS-S、iS-LiSO、LiS-P-LiI、LiS-P-P-、LiI、LiS-B-LiI、LiS-P-LiO-LiI、Li、S-SiS-B-LiI等が挙げられる。
なお、硫化物系非晶質固体電解質は、他の元素を含んでいてもよい。
また、硫化物系結晶性固体電解質の具体例として、Li3.25Ge0.250.75、Li10GeP12、LiPSCl等が挙げられるが、硫化物系結晶性固体電解質がこれらの元素組成に限定されるわけではない。
【0056】
固体電解質は、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質以外であってもよく、その他の例として、キャリアイオンを含むポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリフッ化ビニリデン、またはポリアクリロニトリル等の半固体のポリマー電解質も例示される。固体電解質は、ポリエチレンオキサイド系の高分子、ポリオルガノシロキサン鎖及びポリオキシアルキレン鎖から選ばれる少なくとも1種以上を含む高分子等の高分子固体電解質に電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプの電解質であってもよい。
【0057】
[固体電解質シートの製造方法]
固体電解質シートの製造方法は、特に限定されるものではなく、本技術分野における通常の方法を適用することができる。
例えば、固体電解質を溶媒に分散させたスラリーを調製し、調製したスラリーを支持体に塗布して乾燥する方法が挙げられる。固体電解質のスラリーの調製に用いる溶媒は、固体電解質の性能に悪影響を与えないものであれば、特に限定されない。例えば、非水系溶媒が挙げられる。
【0058】
固体電解質を含むスラリーを、支持体の両面または片面に塗布する塗布方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、スライドダイコート、コンマダイコート、コンマリバースコート、グラビアコート、グラビアリバースコート等を挙げることができる。
固体電解質を含むスラリーを塗布後に行う乾燥は、例えば、熱風、ヒーター、高周波等を用いた乾燥装置によって行うことができる。
【0059】
なお、固体電解質シートは、乾燥したシートそのままでもよいが、さらに加圧して機械的強度や密度を上昇させることもできる。加圧の方法としては、例えば、シートプレスやロールプレス等を挙げることができる。
【0060】
[全固体電池の製造方法]
全固体電池は、固体電解質シートを含む固体電解質層を、上記した正極層と負極層との間に配置し、これらを貼り合せて接合することで製造できる。接合する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、各シートを積層し、加圧・圧着する方法や、2つのロール間を通して加圧する方法(roll to roll)等が挙げられる。
なお、固体電解質層と正極層または負極層との密着性を向上させる目的で、接合界面に、イオン伝導性を有する活物質や、イオン伝導性を阻害しない接着物質を配置してもよい。
【実施例0061】
以下、本発明の実施の形態に係る支持体の具体的な実施例等について説明する。
まず、下記の方法によって実施例1~5、及び、比較例1~6の支持体を作製した。なお、支持体は、比較例3を除き、抄紙法を用いて形成した紙、又は、湿式不織布を作製した。
【0062】
〔実施例1〕
CSF値10ml、平均繊維長1.0mmのセルロース繊維を用いて、長網抄紙した。得られた紙にカレンダー加工を行い、厚さ5μm、坪量4.0g/m、密度0.80g/cmの支持体を得た。
【0063】
〔実施例2〕
CSF値0ml、平均繊維長0.2mmのポリアミド繊維を用いて、長網抄紙し、厚さ22μm、坪量15.0g/m、密度0.69g/cmの支持体を得た。
【0064】
〔実施例3〕
CSF値390ml、平均繊維長2mmのセルロース繊維50質量%と、CSF値5ml、平均繊維長0.5mmのポリアミド繊維50質量%とを混合した原料を用いて、円網抄紙し、厚さ8μm、坪量1.4g/m、密度0.18g/cmの支持体を得た。
【0065】
〔実施例4〕
CSF値100ml、平均繊維長1.1mmのセルロース繊維を用いて、短網抄紙し、厚さ15μm、坪量3.0g/m、密度0.20g/cmの支持体を得た。
【0066】
〔実施例5〕
CSF値3ml、平均繊維長0.5mmのセルロース繊維70質量%と、CSF値120ml、平均繊維長1.5mmのポリアミド繊維30質量%とを混合した原料を用いて、短網抄紙し、厚さ40μm、坪量10.0g/m、密度0.25g/cmの支持体を得た。
【0067】
〔比較例1〕
平均繊維径16μm、平均繊維長5mmのポリエステル繊維15質量%と、平均繊維径4μm、平均繊維長3mmのポリエステルバインダー繊維85質量%とを混合した原料を用いて、特許文献2の実施例1に記載の支持体の製造方法を参考に、円網抄紙し、厚さ19μm、坪量3.8g/m、密度0.20g/cmの支持体を得た。
【0068】
〔比較例2〕
平均繊維径2.3μm、平均繊維長3mmのポリエステル繊維40質量%と、平均繊維径4.2μm、平均繊維長3mmのポリエステルバインダー繊維50質量%と、平均繊維径7.2μm、平均繊維長5mmのエチレン-ビニルアルコール繊維10質量%とを混合した原料を用いて、特許文献3の実施例1に記載の支持体の製造方法を参考に、短網抄紙、熱カレンダー加工し、厚さ12μm、坪量7.0g/m、密度0.58g/cmの支持体を得た。
【0069】
〔比較例3〕
特許文献1の実施例2に記載の方法と同様の方法で製造した支持体を作製し、比較例3の支持体を得た。比較例3では、ポリイミドフィルムをエッチング処理して、200μm角の穴を形成して、厚さ30μm、坪量8.8g/m、密度0.29g/cmの支持体を得た。
【0070】
〔比較例4〕
CSF値0ml、平均繊維長0.1mmのポリアミド繊維を用いて、長網抄紙し、厚さ18μm、坪量16.0g/m、密度0.89g/cmの支持体を得た。
【0071】
〔比較例5〕
CSF値410ml、平均繊維長2.5mmのセルロース繊維70質量%と、CSF値100ml、平均繊維長0.7mmのポリアミド繊維30質量%とを混合した原料を用いて、短網抄紙し、厚さ15μm、坪量2.3g/m、密度0.15g/cmの支持体を得た。
【0072】
〔比較例6〕
CSF値0ml、平均繊維長0.04mmのセルロース繊維を用いて、短網抄紙したが、紙層を形成することができず、支持体を得ることができなかった。
【0073】
[全固体電池の作製]
次に、上記実施例及び比較例の支持体を用いて全固体電池を作製した。具体的な作製方法は、以下の通りである。
(正極構造体)
正極活物質としてLiNiCoAlO三元系粉末を、硫化物系固体電解質としてLiS-P非晶質粉末を、導電助剤として炭素繊維を、それぞれ用いて混合した。この混合粉末に、結着剤としてSBR(スチレンブタジエンゴム)を溶解させた脱水キシレン溶液を混合し、正極塗工液を作製した。正極集電体であるアルミ箔集電体に、正極塗工液を塗工、乾燥し、更に圧延することで、正極構造体を得た。
【0074】
(負極構造体)
負極活物質として黒鉛を、硫化物系固体電解質としてLiS-P非晶質粉末を、結着剤としてPVdF(ポリフッ化ビニリデン)を、溶媒としてNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を、それぞれ用いて混合し、負極塗工液を作製した。負極集電体である銅箔集電体に、負極塗工液を塗工、乾燥し、更に圧延することで、負極構造体を得た。
【0075】
(固体電解質シート)
硫化物系固体電解質としてLiS-P非晶質粉末を、結着剤としてSBRを、溶媒としてキシレンを、それぞれ用いて混合し、固体電解質スラリーを作製した。
上記各実施例、及び、各比較例の支持体に、固体電解質スラリーを塗工して、乾燥し、固体電解質シートを得た。
【0076】
〔全固体電池の製造〕
大きさ88mm×58mmの負極構造体、大きさ92mm×62mmの固体電解質シート、大きさ87mm×57mmの正極構造体を積層し、ドライラミネート加工を行い、貼り合わせることにより、全固体電池の単セルを得た。
得られた単セルを、端子を取り付けたアルミニウムラミネートフィルムに入れ、脱気、ヒートシールを行いパックした。
【0077】
[支持体及び全固体電池の特性の測定方法]
作製した支持体及び全固体電池の特性の測定は、以下の条件及び方法で行った。
〔CSF値〕
「JIS P8121-2『パルプ-ろ水度試験法-第2部:カナダ標準ろ水度法』(ISO5267-2『Pulps-Determination of drainability-Part2:“Canadian Standard”freeness method』)」に従って、CSF値を測定した。
【0078】
〔平均繊維長〕
〔繊維の繊維長〕
「JIS P 8226-2『パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法-第2部:非偏光法』」(ISO16065-2『Pulps-Determination of Fibre length by automated optical analysis-Part2:Unpolarized light method』)に記載された装置、ここではFiber Tester PLUS(Lorentzen&Wettre製)を用いて測定し、長さ荷重平均繊維長を繊維の繊維長とした。
【0079】
〔ポリエステル繊維、ポリエステルバインダー繊維の繊維長〕
ポリエステル繊維、ポリエステルバインダー繊維は、光学的に透明なため、繊維を正確に画像で認識できないため、上記の光学的自動分析法による繊維長測定を正確に行うことができなかった。そのため、ポリエステル繊維及びポリエステルバインダー繊維について、下記方法にて繊維長を測定した。
無作為に繊維を分散させたプレパラートを作製した。プレパラート上の繊維の繊維長を、直接スケールを用いて測定した。
【0080】
〔厚さ〕
「JIS C 2300-2 『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 5.1 厚さ」に規定された、「5.1.1 測定器及び測定方法 a外側マイクロメータを用いる場合」に記載のマイクロメータの測定力を1.5N、加圧面の直径を14.3mmφに変更したものを用いて、「5.1.3 紙を折り重ねて厚さを測る場合」の10枚に折り重ねる方法で、支持体の厚さを測定した。
【0081】
〔坪量〕
「JIS C 2300-2 『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 6 坪量」に規定された方法で、絶乾状態の支持体の坪量を測定した。
【0082】
〔密度〕
以下の式を用いて、支持体の密度を計算した。
密度(g/cm)=W/T
W:坪量(g/m)、T:厚さ(μm)
【0083】
〔空隙率〕
以下の式を用いて、支持体の空隙率を計算した。なお、支持体を構成する材料を複数混用している場合には、混用率に比例した計算を行って構成繊維の平均比重を求めてから、算出した。
空隙率(%)=(1-(D/S))×100
D:支持体密度(g/cm)、S:構成繊維の比重(g/cm
【0084】
〔厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率〕
50mm×50mmに切り取った試験片を、内径の直径が12mm、外径の直径が15mmの円筒の底に固定した。試験片のついた円筒を、試験片とガラス板とが接するよう置いた。0.1mlのパーフルオロポリエーテルを円筒内部に滴下し、滴下したパーフルオロポリエーテルの質量を測定した。パーフルオロポリエーテルを滴下後1分間放置し、試験片のついた円筒を取り除いた。円筒内部から支持体を浸透・透過し、ガラス板に付着したパーフルオロポリエーテルの質量を測定した。以下の式を用いて支持体の厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率を算出した。
【0085】
透過率(%)=w2/w1×100
w1:滴下したパーフルオロポリエーテルの質量(g)
w2:透過したパーフルオロポリエーテルの質量(g)
【0086】
〔引張強さ〕
「JIS P 8113 『紙及び板紙-引張特性の試験方法-第2部:定速伸張法』」(ISO1924-2『Paper and board-Determination of tensile properties-Part2:Constant rate of elongati on method』)に規定された方法で、試験幅15mmで、支持体の縦方向(製造方向)の最大引張荷重を測定し、支持体の引張強さとした。
【0087】
〔自立性の評価〕
作製したそれぞれの固体電解質シートについて、自立性の評価を行った。
作製した大きさ92mm×62mmの固体電解質シートを、短辺側の端部を保持した状態で持ち上げた際に、目視にて固体電解質シートに割れやクラックが見られなかった場合を〇として、持ち上げた際に、目視にて固体電解質シートに割れやクラックが見られた場合を×とした。
【0088】
〔固体電解質シートの内部抵抗〕
全固体電池に対して、25℃の環境下で0.1Cの電流密度で4.0Vまで充電を行い、LCRメーターを用いて、周波数0.1Hz~1MHzの範囲のインピーダンスを測定した。得られたコールコールプロットの円弧部分を、x軸を底辺とした半円の形にフィッティングし、半円の右端とx軸とが交わる部分の数値を抵抗値とした。
【0089】
〔固体電解質シートの放電容量〕
全固体電池に対して、25℃の環境下で0.1Cの電流密度で4.0Vまで充電を行い、その後0.1Cの電流密度で2.5Vまで放電し、その時の放電容量を測定した。
【0090】
以上に記載した実施例1~実施例5、及び、比較例1~比較例6の各支持体の配合繊維名と配合率について、表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表2は、以上に説明した各実施例、及び、各比較例の各支持体の特性、固体電解質シートの自立性、電池特性の評価結果を示す。
【0093】
【表2】
【0094】
以下、各実施例、及び、各比較例の支持体を用いた、全固体電池の評価結果を詳細に説明する。
各実施例の支持体を用いた固体電解質シートは、自立性を有した固体電解質シートを形成できた。
また、各実施例の支持体を用いた全固体電池は、比較例1~5の支持体を用いた全固体電池と比較して、抵抗が低く、放電容量が高かった。
【0095】
比較例6は支持体を得ることができなかった。比較例6の支持体に用いた繊維は、繊維長が0.04mmと短かったため、製造工程に耐えられる強度がなかったと考えられる。すなわち、各実施例と比較例6との比較から、支持体に用いる繊維の繊維長は0.1mm以上が好ましい。
【0096】
比較例1、及び、比較例5の支持体を用いた全固体電池は、各実施例の支持体を用いた全固体電池と比較して、抵抗が高く、放電容量が低い。また、比較例1、及び、比較例5の支持体は、各実施例の支持体と比較して、厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率が高い。
比較例1、及び、比較例5の支持体は厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率が46.0%、15.6%と高いため、支持体が保持できる固体電解質スラリー量が少なかった。その結果、固体電解質シート内部に形成される厚さ方向のキャリアイオンのパスラインが少なくなってしまったと考えられる。
比較例5の支持体には、各実施例と比較して、CSF値が410mlと高く、繊維長が2.5mmと長い繊維が用いられている。その結果、得られた支持体内部の空間が大きく、厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率が高くなり、支持体が保持できるパーフルオロポリエーテルの量が少なくなってしまったと考えられる。
つまり、各実施例と比較例1、及び、比較例5との比較から、支持体の厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率は15%以下が好ましいと分かる。また、各実施例と比較例5との比較から、支持体に用いる繊維のCSF値は400ml以下、繊維長は2mm以下が好ましいと分かる。
【0097】
比較例2、及び、比較例4の支持体を用いた全固体電池は、各実施例の支持体を用いた全固体電池と比較して、抵抗が高く、放電容量が低い。比較例2の支持体には、湿熱による形状変化が生じるエチレン-ビニルアルコール繊維が10質量%含まれている。そのため、支持体を形成した状態において、繊維状態ではなく、支持体内部にフィルム層を形成してしまい、繊維間隙を埋めてしまっている。そのため、固体電解質スラリーの支持体内部への浸透を阻害してしまっていると考えられる。また、比較例4の支持体は、坪量が16.0g/mと高いため、支持体内部の繊維数が多く、所定量のパーフルオロポリエーテルを滴下した際に、パーフルオロポリエーテルの支持体の厚さ方向への浸透・透過を阻害してしまっていると考えられる。
【0098】
比較例2、及び、比較例4の支持体は、各実施例の支持体と比較して、厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率が共に0.4%と低いため、支持体の厚さ方向への固体電解質スラリーの透過量が乏しかった。その結果、固体電解質シート内部に形成される厚さ方向のキャリアイオンのパスラインが少なくなってしまったと考えられる。
つまり、各実施例と比較例2との比較から、繊維状態を保持できない合成樹脂バインダー繊維の配合量は10質量%未満が好ましいと分かる。また、各実施例と比較例4との比較から、坪量は15.0g/m以下がより好ましいと分かる。加えて、各実施例と比較例2、及び、比較例4との比較から、支持体の厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率は1%以上が好ましいと分かる。
【0099】
実施例3の支持体を用いた全固体電池は、実施例4の支持体を用いた全固体電池と比較して、抵抗が高く、放電容量が低い。また、実施例3の支持体は、実施例4の支持体と比較して、厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率が高い。厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテル透過率は、実施例3の支持体が14.8%であり、実施例4の支持体の12.6%と比較して高い。
また、実施例2の支持体を用いた全固体電池は、実施例5の支持体を用いた全固体電池と比較して、抵抗が高く、放電容量が低い。また、実施例2の支持体は、実施例5の支持体と比較して、厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率が低い。厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテル透過率は、実施例2の支持体が1.2%であり、実施例5の支持体の2.3%と比較して低い。
つまり、実施例2、3と実施例4、5との比較から、支持体の厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率は、2~13%がより好ましいと分かる。
【0100】
比較例3の支持体は、各実施例の紙もしくは不織布である支持体と異なり、フィルムに貫通孔を形成した支持体である。比較例3の支持体の貫通孔には固体電解質を充填できるが、形成された貫通孔の内部にしか固体電解質を充填できない。また、比較例3の支持体からなる固体電解質シートは、正極もしくは負極と固体電解質シートとの界面において、絶縁物であるフィルムと、正極もしくは負極との界面が存在していると考えられる。その結果、比較例3の支持体を用いた全固体電池は、各実施例の支持体を用いた全固体電池と比較して、抵抗が高く、放電容量が低かったと考えられる。
各実施例と比較例3との比較から、全固体電池の抵抗を低減するためには、支持体として、紙及び不織布が適していることが分かる。
【0101】
上述した実施の形態例は、あくまで一例であって、例えば、キャリアイオン、固体電解質、正極、負極の組成等は、当業者が適宜変更することができる。
以上説明したように、厚さ方向に対するパーフルオロポリエーテルの透過率を1~15%とした紙及び不織布とすることで、支持体への固体電解質スラリーの透過性に優れた支持体を得ることができる。その結果、支持体の厚さ方向に対するキャリアイオンのパスラインを必要量形成することができる。この支持体を使用することで、抵抗の低い全固体電池を得ることができる。
【0102】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明の構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。