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特開2024-104323デュアルインターフェースICカード
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104323
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】デュアルインターフェースICカード
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/077 20060101AFI20240729BHJP
   H01Q 7/00 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G06K19/077 244
G06K19/077 196
G06K19/077 272
G06K19/077 296
H01Q7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008463
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122529
【弁理士】
【氏名又は名称】藤枡 裕実
(74)【代理人】
【識別番号】100135954
【弁理士】
【氏名又は名称】深町 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100119057
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英生
(74)【代理人】
【識別番号】100131369
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100171859
【弁理士】
【氏名又は名称】立石 英之
(72)【発明者】
【氏名】秋山 知哉
(72)【発明者】
【氏名】島田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大杉 慧
(72)【発明者】
【氏名】藤原 真彦
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ICモジュール側の第1結合コイルとカード基体側の第2結合コイルとが良好に電磁結合し、第2結合コイルの配置や凹部位置の変動に対し第2結合コイルの断線を抑制するデュアルインターフェースICカードを提供する。
【解決手段】ICカード1は、基板、外部接続端子71、ICチップ及び第1結合コイル110を有するICモジュール7と、カード基体2と、第1結合コイル110と離間、かつ、対向配置される第2結合コイル120及び外部通信アンテナ80と、を備える。ICモジュールは、外部接続端子71が露出するように凹部に配置される。凹部は、基板搭載用の第1凹部と、ICチップ7収納用の、第1凹部よりも小さい第2凹部と、から構成される。ICカードはさらに、第2結合コイルの最内周よりも内側に、厚さ方向に離間、かつ、対向配置される容量部121を備え、第2結合コイル、容量部及び外部通信アンテナが閉回路を形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部機器との接触通信および非接触通信が可能なデュアルインターフェースICカードであって、
基板、当該基板の一方の面に形成された外部接続端子、他方の面に配置されたICチップ、および当該ICチップと閉回路を構成するように電気的に接続された第1結合コイル、を有するICモジュールと、
カード基体と、
前記カード基体の内部に配置され、前記第1結合コイルと離間かつ対向して配置される第2結合コイルおよび当該第2結合コイルと直列的に接続された外部通信アンテナと、を備え、
前記ICモジュールは、その外部接続端子が露出するように前記カード基体に設けられた凹部に配置され、
前記凹部は、前記基板が搭載される第1凹部と、前記ICチップが収納され、前記カード基体の平面視において前記第1凹部よりも小さい第2凹部と、から構成され、
前記平面視において、前記第2結合コイルの最内周よりも内側には、厚さ方向に互いに離間かつ対向して配置される導電要素から構成される容量部を備え、
前記第2結合コイル、前記容量部および前記外部通信アンテナが閉回路を形成する、デュアルインターフェースICカード。
【請求項2】
前記カード基体の前記外部接続端子が露出する側の面には、加熱により形成される付加要素をさらに備え、前記平面視において前記第2結合コイルが、前記付加要素よりも1.0mm以上離間して配置されている、請求項1に記載のデュアルインターフェースICカード。
【請求項3】
前記平面視において、前記第2結合コイルが、前記第2凹部よりも外側に向けて2.0mm以上、5.0mm以下で離間して配置され、かつ前記第2結合コイルが、前記第1凹部よりも0.0mm以上、6.5mm以下となるよう外側に至るまで配置されている、請求項1に記載のデュアルインターフェースICカード。
【請求項4】
前記平面視において、前記第1結合コイルの最内周の部分が、前記第2結合コイルの最内周および最外周の部分の間に含まれ、
前記第2結合コイルの最内周の部分が前記第1結合コイルの最内周の部分に対して内側にはみ出す距離を第1距離とし、前記第2結合コイルの最外周の部分が前記第1結合コイルの最外周の部分に対して外側にはみ出す距離を第2距離とするとき、
前記第1距離は0.5mm以上、3.5mm以下であり、かつ前記第2距離は-1.0mm以上、1.0mm以下である、請求項1に記載のデュアルインターフェースICカード。
【請求項5】
前記平面視において、前記第2結合コイルのインダクタンスは前記第1結合コイルのインダクタンスよりも大きい、請求項1に記載のデュアルインターフェースICカード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部機器との接触通信および非接触通信が可能なデュアルインターフェースICカードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ICカードとして、カード表面の外部接続端子を通じて電気信号の入出力を行う接触ICカードや、アンテナを介して電磁誘導等により電気信号の入出力を行う非接触ICカードが用いられている。また、これらに加えて、カードが備える単一のICチップにより、接触ICカードの機能と非接触ICカードの機能とのいずれをも実現できる接触および非接触共用ICカード、すなわちデュアルインターフェースICカードも用いられている。中でも、デュアルインターフェースICカードは、金融決済時には入出力データの外部漏洩の抑制に効果的な接触ICカードとして使用でき、部屋への入退室時や駅の改札機等に対しては近接状態でデータのやり取りを行う利便性の高い非接触ICカードとして使用できる。このため、デュアルインターフェースICカードについても、市場での普及が進んでいる。
【0003】
ところで、デュアルインターフェースICカードの製造は以下のようにして行われる。まず、特許文献1に記載されるように、1または複数のコアシートを含むカード基材を形成し、当該カード基材の表面から、ICモジュールを埋め込む埋め込み予定領域を切削する。そして、当該ICモジュールを、埋め込み予定領域に埋め込む。ここで1または複数のコアシートのうちの1つに導線が配置されており、導線が、前記非接触通信機能を提供するための巻線アンテナ部、およびICモジュールの端子と電気的に接触している接触端子部を形成しており、その接触端子部は、例示的にはメアンダ型状に配置されている。
【0004】
ここで、特許文献1では、ICモジュールを埋め込む埋め込み予定領域を切削する際、ICモジュールの外周を載置するための第1の凹部の一部に、これよりも深い接点開口部を設けて、当該接点開口部においてのみ巻線アンテナ部の接触端子部が露出するようにしている。このため、接点開口部にはICモジュールの端子と接触端子部とを電気的に接続するために液状の導電接着剤を充填する。このように、当該製造方法では、ICモジュールと巻線アンテナとが導電ペーストを介して電気的に接続するため、巻線アンテナ部の接触端子部の露出度合いの条件や、導電ペーストの塗布条件等により、ICモジュールと巻線アンテナとの電気的接続の信頼性が変動する可能性がある。
【0005】
一方、特許文献2には、通信端子を有した非接触通信部、および、接触通信部を備えるICチップと、前記通信端子に接続された第1結合コイルとを備えるICモジュールを備えた通信媒体が記載されている。当該通信媒体は、さらに第1結合コイルとの電磁結合が可能に第1結合コイルの外側に配置されて第1結合コイルよりも小さいインダクタンスを有する第2結合コイルと、第2結合コイルと直列に接続されたアンテナとを備えてICモジュールが搭載された基体と、を備える。このような構成により、当該通信媒体はICモジュールと巻線アンテナとが導電ペーストを介することなく、第1結合コイルと第2結合コイルとの電磁結合により電気的に接合できる。その結果、曲げ等の外力負荷や環境負荷による断線等のリスクが低減された信頼性の高いデュアルインターフェースICカードを提供できる。
【0006】
ところで、このようなデュアルインターフェースICカードを製造する際に、カード基体にICモジュールを収納するための凹部を切削加工等により形成する必要がある。しかし、ICモジュール側の第1結合コイルとの良好な電磁結合を得るためには、カード基体の凹部に近接する位置に第2結合コイルを設けることが必要である。しかし、第2結合コイルの配置や切削位置の微妙なずれにより、第2結合コイルが断線してしまい、正常な非接触通信ができなくなるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-219732号公報
【特許文献2】特開2016-12255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示はこのような状況に鑑みてなされたものであり、ICモジュール側の第1結合コイルとカード基体側の第2結合コイルとが良好に電磁結合でき、第2結合コイルの配置や凹部形成位置の変動に対して第2結合コイルの断線を抑制できるデュアルインターフェースICカードを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施の形態による、外部機器との接触通信および非接触通信が可能なデュアルインターフェースICカードの第1の構成は、基板、当該基板の一方の面に形成された外部接続端子、他方の面に配置されたICチップ、および当該ICチップと閉回路を構成するように電気的に接続された第1結合コイル、を有するICモジュールと、カード基体と、前記カード基体の内部に配置され、前記第1結合コイルと離間かつ対向して配置される第2結合コイルおよび当該第2結合コイルと直列的に接続された外部通信アンテナと、を備え、 前記ICモジュールは、その外部接続端子が露出するように前記カード基体に設けられた凹部に配置され、前記凹部は、前記基板が搭載される第1凹部と、前記ICチップが収納され、前記カード基体の平面視において前記第1凹部よりも小さい第2凹部と、から構成され、前記平面視において、前記第2結合コイルの最内周よりも内側には、厚さ方向に互いに離間かつ対向して配置される導電要素から構成される容量部を備え、前記第2結合コイル、前記容量部および前記外部通信アンテナが閉回路を形成する。
【0010】
また、本実施の別の形態による、デュアルインターフェースICカードの第2の構成は、上記の第1の構成において、前記カード基体の前記外部接続端子が露出する側の面には、加熱により形成される付加要素をさらに備え、前記平面視において前記第2結合コイルが、前記付加要素よりも1.0mm以上離間して配置されていてもよい。
【0011】
また、本実施の別の形態による、デュアルインターフェースICカードの第3の構成は、上記の第1の構成または第2の構成に関し、前記平面視において、前記第2結合コイルが、前記第2凹部よりも外側に向けて2.0mm以上、5.0mm以下で離間して配置され、かつ前記第2結合コイルが、前記第1凹部よりも0.0mm以上、6.5mm以下となるよう外側に至るまで配置されていてもよい。
【0012】
また、本実施の別の形態による、デュアルインターフェースICカードの第4の構成は、上記の第1の構成または第2の構成に関し、前記平面視において、前記第1結合コイルの最内周の部分が、前記第2結合コイルの最内周および最外周の部分の間に含まれ、前記第2結合コイルの最内周の部分が前記第1結合コイルの最内周の部分に対して内側にはみ出す距離を第1距離とし、前記第2結合コイルの最外周の部分が前記第1結合コイルの最外周の部分に対して外側にはみ出す距離を第2距離とするとき、前記第1距離は0.5mm以上、3.5mm以下であり、かつ前記第2距離は-1.0mm以上、1.0mm以下であってもよい。
【0013】
また、本実施の別の形態によるデュアルインターフェースICカードの第5の構成は、上記の第1の構成乃至第4の構成に関し、前記平面視において、前記第2結合コイルのインダクタンスは前記第1結合コイルのインダクタンスよりも大きくてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本実施の形態によれば、ICモジュール側の第1結合コイルとカード基体側の第2結合コイルとが良好に電磁結合でき、第2結合コイルの配置や凹部形成位置の変動に対して第2結合コイルの断線を抑制できるデュアルインターフェースICカードを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係るデュアルインターフェースICカードの構造を説明する平面図である。
図2】ICモジュールの構成を説明する図である。
図3図1(a)においてA-A線で切った断面を示す断面図である。
図4】デュアルインターフェースICカードの等価回路を示す概略の回路図である。
図5】第2実施形態に係るデュアルインターフェースICカードの構造を説明する図1に対応する平面図である。
図6図5(a)においてB-B線で切った断面を示す図3に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面等を参照して、本開示のデュアルインターフェースICカードの一例について説明する。ただし、本開示のデュアルインターフェースICカードは、以下に説明する実施形態や実施例には限定されない。
【0017】
なお、以下に示す各図は、模式的に示したものである。そのため、各部の大きさ、形状は理解を容易にするために、適宜誇張している。また、各図において、部材の断面を示すハッチングを適宜省略する。本明細書中に記載する各部材の寸法等の数値および材料名は、実施形態としての一例であり、これに限定されるものではなく、適宜選択して使用することができる。本明細書において、形状や幾何学的条件を特定する用語、例えば平行や直交、垂直等の用語については、厳密に意味するところに加え、実質的に同じ状態も含むものとする。
【0018】
1.第1実施形態
本開示のデュアルインターフェースICカードの第1実施形態の一例について説明する。ここで、説明の便宜上、ICカード1についてXYZ座標系を設定する。ICカード1はデュアルインターフェースICカードである。図1(a)や図3等に示すように、ICカード1の主面の法線方向にZ軸をとる。そして、ICモジュール7の外部接続端子71が配置されていない側の主面から、当該外部接続端子71が配置されている側の主面に向かう方向を+Z方向または厚さ方向の上方とし、その反対方向を-Z方向または厚さ方向の下方とする。
【0019】
また、ICカード1を+Z方向から見たとき、ICカード1の両短辺およびZ軸に垂直な直線をX軸とし、外部接続端子71に近い側の一の短辺から他の短辺に向かう方向を+X方向または右方向とし、その反対方向を-X方向または左方向とする。さらに、X軸およびZ軸に垂直な軸をY軸とし、外部接続端子71から遠い側の一の長辺から他の長辺に向かう方向を+Y方向または上方とし、その反対方向を-Y向または下方とする。
【0020】
ここで、図1(a)は、ICカード1を+Z方向から見た平面図であり、図1(b)は、図1(a)のICカード1のうち、第2結合コイル120および外部通信アンテナ80を含むアンテナ8の構成を説明するコア層5の部分のみを抜き出した図である。図1(b)は、コア層5の+Z方向側の面に配置されているアンテナ8の要素のみを表示している。一方、図1(c)は、同様のコア層5の部分のみを抜き出した図であるが、コア層5の-Z方向側の面に配置されているアンテナ8の要素のみを表示するものである。また、図1(d)は、図1(a)のICカード1のうち、ICモジュール7のみを抽出した図である。
【0021】
図2(a)は、図1(d)に示すICモジュール7の構成を示す拡大図であり、図2(b)は、図2(a)のICモジュール7を反対側から見た図、すなわちY軸に対して180°回転した図である。また、図3は、図1(a)のICカード1について、ICモジュール7付近のX軸に沿ったA-A線に沿って切った断面を-Y方向側から見た断面図である。図4は、ICカード1の概略の等価回路を示す図である。
【0022】
図1(a)に示すように、ICカード1は、+Z方向側からの平面視において、4隅に丸みを備えた略矩形状の薄板の形態を有する。また、デュアルインターフェースICカードの+Z方向側の表面には、中心よりもやや左上、すなわち中心よりも-X方向寄りでありかつ+Y方向寄りに外部接続端子71を含むICモジュール7が配置される。ICモジュール7は、図1(a)や図3に示すように、カード基体2に形成された凹部9の中に埋設され、外部接続端子71の+Z方向側の表面がカード基体2の+Z方向側の表面と略同一面となるように配置されている。このようなICカード1の形態は、ICカードの国際規格であるISO/IEC7816に準拠している。
【0023】
図3に示すように、ICカード1のカード本体を構成するカード基体2は、-Z方向側から見て順に、オーバーシート層6、コア層5、コア層4およびオーバーシート層3が積層されて一体化したものである。典型的には、オーバーシート層6および3が透明色の基材であり、コア層5および4が白色の基材であるが、これには限定されない。また、コア層5および4の間には、アンテナ8を構成するアンテナ線83が両者に挟まれるように配置されている。
【0024】
このアンテナ線83によって構成されるアンテナ8は、図1(b)に示すように、カード基体2の外周に沿って略矩形のループ状に巻かれる外部通信アンテナ80と、外部通信アンテナ80よりも小径の略矩形のループ状に巻かれる第2結合コイル120と、容量部121と、を含む。外部通信アンテナ80および第2結合コイル120は、互いに直列的に接続されている。
【0025】
ここで、外部通信アンテナ80および第2結合コイル120は、図1(b)に示すように、カード基体2の中のコア層5の一方の面、すなわち+Z方向側の面に配置される。また、第2結合コイル120のループを形成するアンテナ線83の内側の先端には、平面視で略C字型または略コの字型の平板状の導電要素121aが接続されている。また、外部通信アンテナ80のループを形成するアンテナ線83の内側の先端は表裏導通部84を経由して、コア層5の裏面側に通じている。
【0026】
すなわち、図1(c)に示すように、コア層5の他方の面、すなわち-Z方向側の面には、表裏導通部84から所定距離のリード線85を経てその先端が上述した導電要素121aと同様の形状の平板状の導電要素121bに接続されている。リード線85は、例えばアンテナ線83であってもよい。また、表裏導通部84は、例えばコア層5に貫通孔が形成され、その貫通孔の側面に金属メッキ等の導通処理がされたスルーホールであってもよい。導電要素121aおよび121bは、図3に示すように、コア層5の厚さ分を隔てて、カード基体2の厚さ方向に互いに離間かつ対向して配置され、コンデンサを構成する容量部121を形成する。
【0027】
これより、アンテナ8は、コア層5の一方の面に形成される外部通信アンテナ80および第2結合コイル120と、カード基体2の厚さ方向に互いに離間かつ対向して配置される導電要素121aおよび121bから構成される容量部121と、が互いに直列的に接続され、ひとつの閉回路を形成している。導電要素121aおよび121bは、コア層5の表裏面に跨って形成される。容量部121は、第2結合コイル120の最内周よりも内側に設けられている。よって、凹部9を形成する際の切削加工時に、容量部121の一部が切削されたとしてもアンテナ8の閉回路がすぐに断線することを抑制できる。容量部121には、導電要素121aや121bとしてある程度の幅が設けられているため、これらが完全に切削されて消失しない限り、容量部121としての機能がなくなることはなく、第2結合コイル120等の良好な通信が確保できる。
【0028】
一方、ICモジュール7は、図1(a)、図1(d)、図2(a)および図2(b)に示すように、平板状の基板72と、当該基板72の+Z方向側の面に形成された外部接続端子71と、を備える。また、ICモジュール7は、基板72の-Z方向側の面に配置されたICチップ74aと、当該ICチップ74aと閉回路を構成するように電気的に接続された、略矩形のループ状に巻かれる第1結合コイル110と、を備える。外部通信アンテナ80とともにカード基体2の内部に配置された第2結合コイル120は、第1結合コイル110と離間かつ対向して配置されている。ICカード1の概略の回路構成を等価回路に置き換えると、例えば図4のようになる。
【0029】
ここで、コイルL3である外部通信アンテナ80に外部装置から所定波長の電磁波が受信されたとすると、コイルL2、L3および容量C2によって構成される閉回路に、その誘導起電力による電流が流れ、コイルL2である第2結合コイル120に磁界が発生する。よって、これと対向配置されたコイルL1である第1結合コイル110にも同様の磁界が発生し、その結果、ICチップ74aの容量C1、抵抗R1およびコイルL1によって構成される閉回路に、その誘導起電力による電流が流れ、ICチップ74aの動作に必要な電力が供給される。
【0030】
ここで、図4の等価回路におけるコイルL2、コイルL3および容量C2は、それぞれカード基体2に形成された第2結合コイル120、外部通信アンテナ80および容量部121が形成するコイルおよび容量を示す。第2結合コイル120であるコイルL2、外部通信アンテナ80であるL3および容量部121である容量C2によって構成される閉回路には、所定のインダクタンスおよび容量によって定まる共振周波数において、通信強度が最大化する。例えば、13.56MHzでの非接触通信を想定する場合には、当該閉回路の共振周波数が13.56MHzとなるように容量部121である容量C2を設定すればよい。
【0031】
また、外部通信アンテナ80が外部装置から受信する所定波長の電磁波は、後述するような非接触ICカードや通信媒体に関する規格に準拠した信号として入力されるため、最終的には、ICチップ74aへの電力供給だけではなく、所定のデータの入力も可能となる。また、その反対に、ICチップ74aから所定のデータを、外部通信アンテナ80を介して外部装置に向けて送信することも可能である。
【0032】
このように、ICモジュール7側に設けられた第1結合コイル110と、カード基体2側にこれと離間かつ対向して設けられた第2結合コイル120とが、互いに電磁結合することによって、必要な電力供給およびやデータの送受信が行える。これにより、ICモジュール7と外部通信アンテナ80とが導電ペースト等の導電接着剤を介して物理的に接続される方式と比べて、以下の点で有利である。すなわち、ICカード1の曲げやねじれといった外力負荷や、温湿度等の環境負荷によってICモジュール7と外部通信アンテナ80との電気的接続の信頼性が低下することが抑制できる。
【0033】
また、本実施形態のICカード1において、ICモジュール7は、図3に示すように、その外部接続端子71が+Z方向側の表面に露出するようにカード基体2に設けられた凹部9に配置される。さらに、凹部9は、基板72が搭載される第1凹部91と、ICチップ74aを含むICチップ体74が収納され、カード基体2のZ軸方向に沿った平面視において第1凹部91よりも小さい第2凹部92と、から構成される。
【0034】
ここで、当該平面視において、第2結合コイル120の最内周よりも内側には、厚さ方向に互いに離間かつ対向して配置される導電要素121aおよび121bから構成される容量部121を備える。これにより、第2結合コイル120、容量部121および外部通信アンテナ80から構成されるアンテナ8はひとつの閉回路を形成する。
【0035】
一般的に、カード基体2にICモジュール7の埋設用の凹部9を切削加工等で形成する際、第2結合コイル120の配置や切削位置が設計値よりもずれている場合に、以下のような問題が起き得る。すなわち、凹部9の切削により、第2結合コイル120を損傷したり、アンテナ線83を断線させてしまい、良好な非接触通信ができなくなる可能性が考えられる。しかし、本実施形態のICカード1では、第2結合コイル120の最内周よりも内側に容量部121が設けられており、切削加工時に、容量部121の一部が切削されたとしてもアンテナ8の閉回路がすぐに断線することはない。容量部121には、導電要素121aや121bとしてある程度の幅が設けられているため、これらが完全に切削されて消失しない限り、容量部121としての機能がなくなることはなく、第2結合コイル120等の通信も正常にできる。
【0036】
また、切削加工時に容量部121の一部が切削された場合は、その程度にもよるが、導電要素121aおよび121bの面積の減少として容量に変化が生じ、共振周波数等が変化する。その結果、製造されたICカード1の共振周波数の変化をモニタリングすれば、第2結合コイル120の配置や切削位置が設計値に対してどの程度ずれているかを推定することができ、アンテナ8の断線等の不具合を予防しつつ、製造条件や製品品質の安定性を検査することが可能となる。
【0037】
上記より、本実施形態では、ICモジュール側の第1結合コイルとカード基体側の第2結合コイルとが良好に電磁結合でき、第2結合コイルの配置や凹部形成位置の変動に対して第2結合コイルの断線を抑制できるデュアルインターフェースICカードを提供することができる。以下に、本実施形態のICカード1の構成およびその製造方法の詳細を説明する。
【0038】
(a)カード基体
カード基体2は、ICカード1を構成する、ICモジュール7を除くカード本体を指す。カード基体2は、前述したとおり、典型的には厚さ方向の-Z方向側の一端からオーバーシート層6、コア層5、コア層4およびオーバーシート層3がこの順に積層された構成を有している。また、コア層5およびコア層4の間には、カードの外周に沿って略矩形のループ形状に巻かれた外部通信アンテナ80と、これよりも一回り小さい略矩形のループ形状に巻かれた第2結合コイル120と、を含む、被覆導線等から形成されたアンテナ8が配置されている。アンテナ8は、これ以外にも容量部121を備えている。カード基体2は、凹部9が形成される前のもの、および凹部9の形成後のものの両方を指すことがあり、アンテナ8を含まないもの、およびこれを含むものの両方を指す場合がある。
【0039】
ただし、カード基体2の層構成は、これに限らず、オーバーシート層、コア層、オーバーシート層の3層構成、コア層、コア層の2層構成、または、オーバーシート層、コア層、アンテナを挟み込む一対のアンテナ保持層、コア層、オーバーシート層の5層構成等であってもよい。また、カード基体2のオーバーシート層3または6のコア層4または5とは反対側の表面に印刷や磁気ストライプの埋め込みがされていてもよく、コア層4または5のオーバーシート層3または6との隣接表面に印刷がされていてもよい。
【0040】
なお、本実施形態のICカード1は、図1(a)や図3に示すように、カード基体2の+Z方向側の表面、すなわち外部接続端子71が露出する側の面には、印刷や転写等で形成される付加要素200をさらに備えている。付加要素200は、例示的にはサーマルヘッドを用いて、インクリボンの染料系インクをカード基体2の表面に熱転写、昇華転写またはインクジェット印刷等によって文字やデザイン、顔写真等のパターン等を形成したものが含まれる。また、連続フィルムに形成されたホログラム箔や金属箔をカード基体2の表面に熱転写したものが含まれる。付加要素200は、特に個人情報や固有番号等を示す文字、記号、顔写真等の印字がされるものや、ホログラム等のセキュリティ要素を、カード基体2の+Z方向側または-Z方向側のいずれかの表面に印刷や転写により形成したものを含む。
【0041】
カード基体2の厚さは、ISO/IEC7816等の規格に準拠する観点からは、0.76mm以上、0.84mm以下であることが好ましいが、この範囲外であってもよい。
【0042】
(i)コア層
コア層4および5としては、白色または着色された各種のプラスチックシートを幅広く使用することができ、以下にあげる単独のフィルムあるいはそれらの複合フィルムを使用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PET-G(テレフタル酸-シクロヘキサンジメタノール-エチレングリコール共重合体)、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、ポリスチレン系、ABS、ポリアクリル酸エステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、等である。コアシートの厚さは、カードの全体厚さを勘案して適宜に選択することができるが、例えば、0.25mm以上、0.38mm以下程度とすることができる。なお、後述するように、コア層4または5のいずれかの表面上に、両コア層に挟まれる位置関係となるように容量部121を除くアンテナ8を配置する必要がある。
【0043】
(ii)オーバーシート層
オーバーシート層3および6としては、通常、コア層と同質の材料を使用するが、厚さが0.05mm以上、0.10mm以下程度の透明材料が使用されることが多い。コア層およびオーバーシート層の積層体を熱プレス等で一体化する際のカールの発生を防止する観点からは、オーバーシート層3および6の厚さが同一であることが好ましいが、必ずしも同一でなくてもよい。
【0044】
オーバーシート層の材料は、熱により接着性を有するものであればよいが、オーバーシート層自体が熱による接着性を有しない場合でも、熱等により接着力を発生させる公知の接着剤の層をコア層およびオーバーシート層の間に追加形成することで両者を一体化できる。また、ICカード1を磁気カードとして使用する場合には、オーバーシート層3および6のいずれかまたは両方について、コア層4および5とは反対の主面側に磁気ストライプを熱転写等によりあらかじめ埋め込んでおいてもよい。なお、前述したとおり、オーバーシート層は所定波長のレーザ光の照射によって黒色、または他の有彩色に発色する発色層を備えていてもよい。
【0045】
(iii)アンテナシート
本実施形態では、後述するように、コア層5の一方の面には、カードの外周に沿って略矩形のループ形状に巻かれた外部通信アンテナ80と、これよりも一回り小さい略矩形のループ形状に巻かれた第2結合コイル120と、を含むアンテナ8が形成される。このようなコア層5へのアンテナ8の形成は、アンテナ線83に対して所定の熱圧を掛け、コア層5およびアンテナ線83の被覆物を溶融しながらアンテナ線83をコア層5に埋め込むことによって行う。ただし、アンテナ線83同士が交差する箇所においては、いずれか一方のアンテナ線83はコア層5には埋め込まれない。
【0046】
アンテナ線83をコア層5に埋め込む前に、コア層5の所定位置に、表裏導通部84と、リード線85と、コア層5の表裏の対向位置に容量部121を構成する平板状の導電要素121aおよび121bを形成しておく。表裏導通部84は、前述したように、コア層5に貫通孔を形成し、その貫通孔の側面に金属メッキ等の導通処理がされたスルーホールとするものでもよい。また、リード線85や導電要素121aおよび121bは、導電インキによる印刷方式で形成してもよい。本実施形態ではいわゆる一筆書きとなっていて、1本のアンテナ線83を引き回して、表裏導通部84を始点とし、導電要素121aを終点として、コア層5の一方の面に外部通信アンテナ80および第2結合コイル120を描画、埋め込みする。アンテナ線83の導電要素121aへの結線は、はんだ等を介する溶接としてもよく、導電接着剤等を介して接着させてもよい。
【0047】
その結果、コア層5の一方の面に形成された表裏導通部84,外部通信アンテナ80、第2結合コイル120および導電要素121aと、他方の面に形成された導電要素121b、リード線85および表裏導通部84とが電気的に接続される。導電要素121aおよび121bが容量部121を構成することで、これらのアンテナ8がひとつの閉じた回路を形成する。
【0048】
このような、アンテナ8がコア層5に埋め込まれた中間生成物をアンテナシート12と称することがある。アンテナシート12は、それのみでICカード1を製造するための部品として市場に流通させることができ、あるいは、コア層5等のシート材を加工業者に供給し、これを当該加工業者がアンテナシート12に加工して供給元に納品する、という商形態が存在し得る。
【0049】
アンテナシート12の形成方法の詳細は後述するが、概略として以下のようになる。まず、上述したように、あらかじめ表裏導通部84、リード線85および容量部121が形成されたコア層5の表面に、絶縁体部材で被覆された被覆導線を、表裏導通部84を始点とし、導電要素121aを終点として、巻き線形成機により埋め込む。すなわち、コア層5に対して所定の熱圧を加えながら、図1(b)に示すような大小二つのループ形状にアンテナ供給ヘッドを描画させる。そして、外部通信アンテナ80および第2結合コイル120を形成するように当該アンテナ供給ヘッドから供給されたアンテナ線83をコア層5に順次、埋め込む。その後、アンテナ線83の始点および終点を結線して埋め込みを完了する。このようにしてアンテナ8が形成されたコア層5(アンテナシート12)を得る。
【0050】
(iv)アンテナ
コア層5に形成されたアンテナ8は、これを形成するアンテナ線83の始点および終点が結線されて閉じた回路を形成するものである。アンテナ8は、カードの外周に沿って略矩形のループ形状に巻かれた外部通信アンテナ80と、これよりも一回り小さい略矩形のループ形状に巻かれた第2結合コイル120と、を含み、外部通信アンテナ80と第2結合コイル120とは互いに直列的に接続している。アンテナ8の第2結合コイル120は、ICモジュール7側に形成された第1結合コイル110と離間かつ対向する位置関係にある。そして、第1結合コイル110と第2結合コイル120とが電磁結合することにより、ICモジュール7が備えるICチップ74aおよび外部通信アンテナ80が非接触通信の通信回路を構成する。
【0051】
また、図3に示すように、Z軸に沿った平面視において、第2結合コイル120の最内周よりも内側には、コア層5の厚さ方向に互いに離間かつ対向して配置される導電要素121aおよび121bから構成される容量部121を備える。例示的には、導電要素121aおよび121bは、コア層5の表裏面にそれぞれ設けられる。表裏導通部84を介して、第2結合コイル120、容量部121および外部通信アンテナ80が閉回路である非接触通信の通信回路を構成する。容量部121は、第2結合コイル120や外部通信アンテナ80のインダクタンスと対応して、通信回路が所定の共振周波数で通信できるようにその容量が定められる。
【0052】
当該通信回路は、例えば、ISO/IEC18092やISO/IEC144443等で規定される13.56MHzのHF周波数帯域を用いて近接通信を行うものでもよい。または、それ以外の、例えば920MHzのUHF周波数帯域や125KHzのLF周波数帯域、マイクロ波の2.45GHzの周波数帯を用いて通信を行うものでもよい。本実施形態では、13.56MHzのHF周波数帯域を用いて近接通信を行うものを想定し、第1結合コイル110、第2結合コイル120および外部通信アンテナ80は、いずれもループコイルの形状を有している。
【0053】
外部機器であるリーダライタ等にICカード1をかざしたときに、当該通信回路にはリーダライタが形成する磁界等により起電力や電流が発生して、ICチップ74aに電力を供給する。これにより、ICチップ74aは駆動可能となり、リーダライタと非接触による情報の送受信が可能であり、メモリに対する情報の読み出しや書き換え等を行なう。
【0054】
アンテナ8を構成するアンテナ線83は、典型的には、銅線の周囲が絶縁体部材で被覆された被覆導線により形成される。なお、これ以外にも、Cu-Ni、Cu-Cr、Cu-Zn、Cu-Sn、Cu-Be等の銅合金線、または鉄、ステンレス、アルミ等の種々の金属線、金属合金線を選択することもできる。ICカード1は、被覆導線を用いることにより、例えば銅箔エッチング方式等に比較して安価に製造できる。
【0055】
アンテナ線83の直径は、非接触の通信回路としての特性を確保できる限りにおいて、特段の制限はないが、例えば、0.03mm以上、0.30mm以下とすることができ、好ましくは、0.05mm以上、0.15mm以下とすることができる。後者の範囲とすることで、埋め込み加工による熱圧や切削加工による外力への耐久性が向上でき、良好な通信特性を確保できる。
【0056】
第2結合コイル120の自己インダクタンスは、0.5μH以上、10μH以下であることが好ましい。なお、第2結合コイル120の自己インダクタンスは、後述する第1結合コイル110の自己インダクタンスよりも大きいことが好ましい。これにより、第2結合コイル120側の誘導起電力の変動に対する第1結合コイル110側の誘導起電力の変動の程度を小さくでき、ICチップ74aに対する供給電力の安定化が図れる。
【0057】
容量部121を構成する導電要素121aおよび121bは、例示的には導電インキによる印刷方式で平板状のパターンを形成することが可能である。またその他の方法として、平板状の金属箔や金属板を貼り付ける方法や、スパッタリングにて金属蒸着膜を形成する方法としてもよい。さらには、アンテナ線83自体を略平板状となるように、コア層5の表裏面の対向位置に密に配列し、これを容量部121としてもよい。こうすることにより、別個の部材を用いることなく、アンテナ線83の形成のみで容量部121を形成できるため、部材の種類や作業工程の削減が容易となる。アンテナ線83自体を略平板状となるように配列して容量部121とする場合、アンテナ線83の配置間隔を0.5mm以下とすることが好ましい。これにより、平板状となる面積を小さくしながら必要な容量を確保できる。
【0058】
容量部121を構成する導電要素121aおよび121bは、Z軸に沿った平面視で略C字型、U字型または略コの字型の平板状部位である。しかし、導電要素121aおよび121bの形状はこれに限らず、直線型、略L字型、略円弧型でもよく、略四角形の輪郭状であってもよい。その面積や幅は、必要な共振周波数の調整可能な範囲として任意に設定できるが、切削加工時における第2結合コイル120の損傷抑止の観点からは、0.5mm以上、2.5mm以下であることが好ましい。
【0059】
また、表裏導通部84は、例示的にはコア層5に貫通孔を形成し、その貫通孔の側面に金属メッキ等の導通処理がされたスルーホールとすることができる。またその他の方法として、中空または中実の金属部材をコア層5の表裏に跨るように貫通させて配置する方法としてもよい。リード線85は、導電要素121aおよび121bと同様に導電インキ等で形成してもよく、アンテナ線83にて形成してもよい。
【0060】
(b)ICモジュール
次に、ICモジュール7の主要な構成要素の各部について、主に図1(a)、図2(a)、図2(b)や図3に基づいて説明する。ICモジュール7は、その外部接続端子71が+Z方向側のカード基体2の表面に露出するように、カード基体2に対して形成された凹部9に埋設される。ICモジュール7は、基板72と、当該基板72の+Z方向側の面に形成された外部接続端子71と、-Z方向側の面に配置されたICチップ74aを含んだICチップ体74と、当該ICチップ74aと閉回路を構成するように電気的に接続された第1結合コイル110と、を有する。
【0061】
ICチップ74aと第1結合コイル110とが閉回路を構成し、これが非接触通信の通信回路を形成する。一方、ICモジュール7が備える外部接続端子71を通じて、接触式リーダライタ等と接触通信を行うこともできる。
【0062】
基板72はガラスエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の可撓性を有する絶縁性の樹脂フィルムの表裏に銅箔が接着剤を介して貼り込まれ、当該樹脂フィルムの表裏面に貼り込まれた銅箔を、所定のパターンを形成するように残存させたものである。具体的には、当該樹脂フィルムの一方の銅箔面に外部接続端子71を、他方の銅箔面に第1結合コイル110およびリード部77を形成するように、感光材の塗付、所定パターンが形成されたフィルム版の載置、露光、非感光部位のエッチング除去、を順次行う。これにより、当該樹脂フィルムの表裏面に所定のパターンの銅箔が一部残存した基板72が形成される。また、基板72にはあらかじめ、外部接続端子71へのワイヤボンディングのための貫通孔であるボンディングホール76が複数箇所、設けられている。
【0063】
外部接続端子71には、図2(a)に示すように、ISO/IEC7816―2規格で定められた、外部端子の各区画が画定されている。これらの各区画とICチップ74aのパッド74pとは、図2(b)に示すように、基板72に設けられた上述のボンディングホール76を通じて、金ワイヤ等のワイヤ75によって結線されている。また、第1結合コイルの始点および終点には、それぞれ導電部分であるリード部77が設けられている。例えば図2(b)では、第1結合コイル110の最外周の先端が横長の略矩形のリード部77と接続している。また、第1結合コイル110の最内周の先端が略円形のリード部77と接続している。第1結合コイル110とこれらのリード部77とは、一体に形成されていてもよい。
【0064】
このような構成であることにより、ICチップ74aの通信用電極である、各々のパッド74pは、外部接続端子71の各端子と、第1結合コイル110の始点および終点と、電気的に接続している。これらのボンディングホール76やリード部77の一部、およびワイヤ75は、モールド部74bによって被覆保護されている。
【0065】
基板72の、外部接続端子71の形成面とは反対側の面に、ICチップ体74が配置されている。ICチップ体74は、基板72に接着剤を介して接着、固定されたICチップ74aと、結線のためのボンディング用のワイヤ75と、これらを保護するための封止樹脂であるモールド部74bとから構成される。ICチップ74aは、接触通信、非接触通信の両方の動作を制御するためのCPUと、RAMやROM、EEPROM、フラッシュメモリー等の記憶装置と、接触通信および非接触通信の入力信号解読と出力信号生成を行うインターフェース回路や電力発生回路等の各種回路と、を備えている。なお、各種回路はICチップ74aとは別個の素子として設けられていてもよい。
【0066】
モールド部74bは、ICチップ74aやワイヤ75を外力負荷や環境負荷から保護するために、これらを被覆する突起状部位として設けられる。モールド部74bとして、紫外線硬化性樹脂または熱硬化性樹脂等が使用される。
【0067】
なお、本実施形態では、ICモジュール7において、外部接続端子71の各区画とICチップ74aの各パッド74pとが、基板72に設けられたボンディングホール76を通じて、ワイヤ75で結線されているものとして例示した。ICモジュール7の構成はこれに限らず、ICチップ74aがフリップチップ方式で搭載されたものとしてもよい。すなわち、基板72のICチップ74aの搭載面には、複数の銅箔等のリード部が設けられ、フェイスダウンで搭載されたICチップ74aの各パッド74pが直接、リード部の一端と当接する構成としてもよい。
【0068】
このとき、リード部の他端は、スルーホールを介して外部接続端子71の各区画と導通し、あるいは第1結合コイル110の始点および終点と電気的に接合している。このように、ワイヤ75を用いずにICチップ74aと各区画および第1結合コイル110との電気的接続を図ることにより、第1結合コイル110の配置可能領域をICチップ74a側に向けて拡張できる。
【0069】
第1結合コイル110の自己インダクタンスは、0.1μH以上、8.0μH以下であることが好ましい。なお、第1結合コイル110の自己インダクタンスは、前述した第2結合コイル120の自己インダクタンスよりも小さいことが好ましい。
【0070】
(c)接着層
カード基体2に対してICモジュール7を埋設するための凹部9を、エンドミルによる切削加工等によって形成した後、ICモジュール7を当該凹部9に埋設固定する接着層11について説明する。接着層11は、図3に示すように、アンテナ線83の一部が切削されて底面91aに露出している部分のコア層5と、ICモジュール7の基板72とに挟まれるように配置される、液状またはテープ状の部材である。接着層11は、あらかじめ、ICモジュール7の基板72の外部接続端子71とは反対側の面に塗付、貼付されていてもよく、カード基体2の凹部9の切削後の底面91a上に塗付、貼付されてもよい。
【0071】
典型的な接着層11は、ICモジュール7の基板72の裏面の全面または凹部9のうちの第1凹部91に対応する部位に塗付、貼付されていてもよい。接着層11としては熱可塑性樹脂を含有する接着剤として、例えば塩化ビニル系、酢酸ビニル系、アクリル系の接着剤や、ホットメルト系接着剤、ゴム系接着剤を選択できる。また、熱硬化性樹脂を含有する接着剤として、ポリエステル樹脂系、フェノール樹脂系、ポリウレタン樹脂系エポキシ樹脂系の接着剤を選択できる。
【0072】
(c)凹部、ICモジュール、第1結合コイルおよび第2結合コイルの位置関係
次に、ICカード1のカード基体2に形成される凹部9および第2結合コイル120と、凹部9に埋設されたICモジュール7およびこれの第1結合コイル110との好ましい位置関係について説明する。図3の示すように、ICカード1の-Y方向側から見た断面図において、第1結合コイル110の最内周の部分同士の間隔、すなわち第1結合コイル110が形成する開口部の距離をDCとする。また、第1結合コイル110の最外周の部分同士の間隔、すなわち第1結合コイル110の最大幅の距離をDBとする。
【0073】
同様に、第2結合コイル120の最内周の部分同士の間隔、すなわち第2結合コイル120が形成する開口部の距離をDDとし、第2結合コイル120の最外周の部分同士の間隔、すなわち第2結合コイル120の最大幅の距離をDAとする。また、容量部121の最内周の部分同士の間隔、すなわち容量部121の開口部の距離をDEとする。また、第2凹部92の側面同士の距離、すなわち第2凹部92の幅の距離をDFとする。さらに、第1凹部91の外周の側面と第2結合コイル120の最外周の部分との間隔、すなわち第2結合コイル120の第1凹部91から外側に離間する距離をDGとする。また、第2凹部92の外周の側面と容量部121との間隔をDHとする。
【0074】
一方、第2結合コイル120の最外周の部分と付加要素200の端部との距離、すなわち第2結合コイル120と付加要素200との離間距離をDIとする。なお、距離DA、DB、DC、DD、DE、DF、DG、DHおよびDIは、いずれもZ軸方向に沿った平面視における距離を指す。また、距離DA、DB、DC、DD、DE、DF、DG、DHおよびDIは、-Y方向側から見た断面についてのみ規定されるものではなく、Z軸に沿った軸回りに切ったいずれの断面に対しても適用される。
【0075】
ここで、Z軸に沿った平面視において、容量部121が第2凹部92よりも外側に向けて0.5mm以上、2.5mm以下で離間して配置されていることが好ましい。言い換えると、DHが0.5mm以上、2.5mm以下であることが好ましく、0.75mm以上、2.0mm以下であることがさらに好ましい。前者の条件において、第2結合コイルの配置領域を確保しつつ、カード基体2への凹部9の切削加工時に、第2凹部92の大きさや位置がある程度、変動したり、容量部121の配置がずれたとしても、容量部121の切削による容量変動のリスクが低減できる。また、後者の条件において、容量変動のリスクが一層、低減できる。
【0076】
また、第2結合コイル120が、第1凹部91よりも0.0mm以上、6.5mm以下で外側に至るまで配置されていることが好ましい。言い換えると、DGが0.0mm以上、6.5mm以下であることが好ましく、0.5mm以上、6.0mm以上であることがさらに好ましい。なお、第2結合コイル120が、第1凹部91よりも0.0mm外側に至るまで配置されている、とは、第2結合コイル120の外縁が、第1凹部91の外縁と略一致することを意味する。前者の条件において、第1結合コイル110が基板72の最外周まで配置された場合でも、不必要な領域への第2結合コイルの配置を抑制しつつ、第1結合コイル110が第2結合コイル120と重畳しなくなり、結合が弱まってしまうリスクが低減できる。また、後者の条件において、第1結合コイル110が第2結合コイル120と重畳しなくなり、結合が弱まるリスクを一層下げることができる。
【0077】
一般的に、カード基体2への凹部9の形成時における、第1凹部91や第2凹部92の大きさの変動や位置ずれの範囲は、およそ±0.1mm以内である。このため、DGやDHが上記野範囲であれば、容量部121の切削による容量変動や、第1結合コイル110と第2結合コイル120との重畳面積の変動等が極力抑制できる。
【0078】
また、ICカード1のカード基体2の外部接続端子71が露出する側の面、すなわち+Z方向側の表面には、加熱により形成される付加要素200をさらに備えてもよい。この場合、Z軸に沿った平面視において、第2結合コイル120が、付加要素200よりも1.0mm以上離間して配置されていることが好ましい。言い換えると、DIが1.0mm以上であることが好ましい。付加要素200は、インクジェット印刷機、サーマルヘッドまたはホットスタンプ等の印刷または転写手段を用いてカード基体2の表面に形成される。一方、第2結合コイル120は、カード基体2の内部に埋め込まれた形態であるため、そのアンテナ線83に対応した凹凸が、熱プレスによる積層形成時に、カード基体2の表面に出現する。すなわち、カード基体2の+Z方向側もしくは-Z方向側の表面、またはその両方の表面に凹凸が浮き出してしまう。
【0079】
このとき、第2結合コイル120と付加要素200との離間距離DIが小さいと、付加要素200の形成領域のカード基体2の表面に凹凸が生じ、かすれや印字抜け等により、良好な付加要素200の形成が阻害され得る。また、付加要素200が形成できたとしても、カード基体2の表面の凹凸の影響で、付加要素200の文字、記号、顔写真等にゆがみが生じ、これらの情報を良好に視認できないおそれがある。また、付加要素200が熱転写で形成されるホログラムラベル等である場合は、カード基体2の表面の凹凸により、密着不良のおそれがある。
【0080】
しかし、本実施形態では、第2結合コイル120が、付加要素200よりも1.0mm以上離間して配置されているため、第2結合コイル120に起因するカード基体2の表面の凹凸が抑制されている。このため、付加要素200がカード基体2の表面に良好に形成でき、付加要素200の文字、記号、顔写真等が良好に視認できる。
【0081】
また、Z軸に沿った平面視において、第1結合コイル110の最内周の部分が、第2結合コイル120の最内周および最外周の部分の間に含まれ、第2結合コイル120の最内周の部分が第1結合コイル110の最内周の部分に対して内側にはみ出す距離を第1距離とする。また、第2結合コイル120の最外周の部分が第1結合コイル110の最外周の部分に対して外側にはみ出す距離を第2距離とする。このとき、第1距離は0.5mm以上、3.5mm以下であり、かつ第2距離は-1.0mm以上、1.0mm以下であることが好ましい。なお、第2距離にマイナスが付く場合、当該第2距離の値の絶対値の距離分だけ、第1結合コイル110の最外周の部分が第2結合コイル120の最外周の部分に対して内側にはみ出すことを意味する。さらには、第1結合コイル110の最内周および最外周の部分が、第2結合コイル120の最内周および最外周の部分の間に含まれ、第1距離が0.5mm以上、3.5mm以下であり、かつ第2距離が0.1mm以上、1.0mm以下であることがさらに好ましい。第1結合コイル110と第2結合コイル120との相対的な位置ずれに対しても、第1結合コイル110が第2結合コイル120の最内周の内側や最外周の外側にはみ出ることが抑制され、磁界強度の低下が抑止されるからである。
【0082】
言い換えると、第1距離である(DA-DB)/2と、第2距離である(DC-DD)/2との間に、(DA-DB)/2が0.5mm以上、3.5mm以下であり、(DC-DD)/2が-1.0mm以上、1.0mm以下であることが好ましい。ただし、この条件は、第1結合コイル110および第2結合コイルが、ICモジュール7を搭載したときのICモジュール7の中心から等距離に最内周および最外周が配置されている場合に限る。なお、第2距離にマイナスが付く場合、当該第2距離の値の絶対値の距離分だけ、第2結合コイル120の最外周の部分が第1結合コイル110の最外周の部分に対して内側にはみ出すことを意味する。
【0083】
このような条件であることにより、第1結合コイル110は、第2結合コイル120との相対的な位置ずれ量が第1距離および第2距離のいずれか小さい方の値を上回らない限り、第1結合コイル110および第2結合コイル120の重畳面積がほぼ一定に維持できる。このため、不必要な領域への第2結合コイルの配置を抑制しつつ、比較的、安定した電磁結合と通信特性が維持できるので、ICカード1の品質保証が一層容易となる。
【0084】
(d)デュアルインターフェースICカードの製造方法
次に、上述したカード基体2、ICモジュール7および接着層11を用いた、デュアルインターフェースICカードであるICカード1の製造方法の一例を説明する。
【0085】
まず、オーバーシート層6または3とは隣接しない側の、あらかじめ表裏導通部84、リード線85および容量部121が形成されたコア層5等の表面に、絶縁体部材で被覆された被覆導線であるアンテナ線83を、巻き線形成機により埋め込む。埋め込みの始点は表裏導通部84であり、終点は導電要素121aである。表裏導通部84は、コア層5に貫通孔を形成し、金属メッキ等の導通処理によりスルーホールとする。また、リード線85や導電要素121a、121bは、導電インキによる印刷方式で形成する。このようなコア層5について、アンテナ線83を引き回して、始点から終点に至るまで、外部通信アンテナ80および第2結合コイル120を描画、埋め込みする。その後、供給部がアンテナ線83を切断することにより、コア層5等へのアンテナ8の埋め込みが完了する。
【0086】
次に、図3のカード基体2の積層構成に示すとおり、厚さ方向の下側からオーバーシート層6、コア層5、コア層4およびオーバーシート層3をこの順に重ねる。その後、カードが縦横に多面付けで配置された大判シートの積層体の単位で、厚さ方向の上下からステンレス板で挟み込み、当該ステンレス板を介して、当該積層体に対して熱圧を加える。このとき、コア層5には上述したように、事前に容量部121を含むアンテナ8が形成されている。
【0087】
このような熱プレス工程を経ることにより、積層体の各層が一体化した大判シート単位のカード基体を得ることができる。また、オーバーシート層、コア層のいずれかが、所定温度で熱融着しない耐熱性を有する場合には、各層間に所定温度で熱融着する接着シートを挟み、あるいは、接着剤を塗付した上で、これらを熱プレス工程に掛けることにより、一体化した大判シート単位のカード基体を得る。
【0088】
上記により得られた、カードが縦横に多面付けで配置された大判シート単位のカード基体を、打ち抜き機によりISO/IEC7816のカードサイズであるカード基体2として打ち抜く。また、当該カード基体2にICモジュール7を埋設するための凹部9を、エンドミルによる切削加工にて形成する。これにより、切削済みのカード基体2が得られる。凹部9は、基板72が搭載される第1凹部91と、ICチップ74aが収納され、カード基体2の平面視において第1凹部91よりも小さい第2凹部92と、から構成される。
【0089】
凹部9は、外部接続端子71の表面が、カード基体2の非切削領域の表面と略同一面となるような深さに形成される。ここで、ICモジュール7の基板72の厚さは0.07mm以上、0.2mm以下程度であり、ICチップ体74の厚さは0.45mm以上、0.75mm以下程度である。また、接着層11の厚さは通常0.03mm以上、0.2mm以下程度である。これらを考慮して、第1凹部91の深さは通常0.1mm以上、0.4mm以下程度であり、第2凹部92の深さは通常0.48mm以上、0.78mm以下程度となる。なお、第2凹部92の深さは、第1凹部91の深さよりも深い。
【0090】
一方、カード基体2の製造および凹部9を形成するための切削加工とは別に、ICモジュール7への接着層11の貼り付けを行う。ICモジュール7は、前述したように、基板72と、当該基板72の一方の面に形成された外部接続端子71と、他方の面に配置されたICチップ74aと、当該ICチップ74aと閉回路を構成するように電気的に接続された第1結合コイル110と、を有する。ICモジュール7としては、通常、1列取りまたは2列取りで連続的に長尺のテープに当該ICモジュール7が形成されているモジュールテープを使用する。このモジュールテープの外部接続端子71の形成面とは反対側の面に、テープ状の接着層11を一定の熱圧を加えながら貼り込んでいく。その後、接着層11が貼り込まれたモジュールテープを、角に丸みを有する略矩形のICモジュール7として打ち抜き機で打ち抜くことで、接着層11の貼り付けがされたICモジュール7を得る。
【0091】
その後、凹部9が形成されたカード基体2に対し、接着層11が貼り付けられたICモジュール7を埋設し、外部接続端子71に所定のヒートブロックを押し当てて、カード基体2側に向けて所定時間、所定の熱圧を加える。これにより、接着層11を溶融させることにより、ICモジュール7とカード基体2との接着および固定を図る。接着層11は、その品種や組成により、加える時間や熱圧条件に差異はあるが、一例としては、時間を0.5秒以上、10.0秒以下、温度を150℃以上、250℃以下、圧力を20MPa以上、100MPa以下とすることができる。
【0092】
(e)第1実施形態のデュアルインターフェースICカードについて
以上をまとめると、第1実施形態のICカード1は、外部機器との接触通信および非接触通信が可能なデュアルインターフェースICカードである。ICカード1は、基板72、当該基板72の一方の面に形成された外部接続端子71、他方の面に配置されたICチップ74a、および当該ICチップ74aと閉回路を構成するように電気的に接続された第1結合コイル110、を有するICモジュール7を備える。また、ICカード1は、カード基体2と、カード基体2の内部に配置され、第1結合コイル110と離間かつ対向して配置される第2結合コイル120および当該第2結合コイル120と直列的に接続された外部通信アンテナ80と、を備える。第2結合コイル120および外部通信アンテナ80は、アンテナ8を構成する。
【0093】
ICモジュール7は、その外部接続端子71が露出するようにカード基体2に設けられた凹部9に配置される。また、凹部9は、基板72が搭載される第1凹部91と、ICチップ74aが収納され、カード基体2の平面視において第1凹部91よりも小さい第2凹部92と、から構成される。このとき、当該平面視において、第2結合コイル120の最内周よりも内側には、厚さ方向に互いに離間かつ対向して配置される導電要素121a、121bから構成される容量部121を備える。そして、第2結合コイル120、容量部121および外部通信アンテナ80から構成されるアンテナ8は、ひとつの閉回路を形成する。
【0094】
これにより、本実施形態のICカード1では、第2結合コイル120の最内周よりも内側に容量部121が設けられているため、切削加工時に、容量部121の一部が切削されたとしてもアンテナ8の閉回路がすぐに断線することが抑制できる。容量部121には、導電要素121aや121bとしてある程度の幅が設けられているため、これらが完全に切削されて消失しない限り、容量部121としての機能がなくなることはなく、第2結合コイル120等の通信も正常にできる。
【0095】
また、切削加工時に容量部121の一部が切削された場合は、その程度にもよるが、導電要素121aおよび121bの面積の減少として容量に変化が生じ、共振周波数等が変化する。その結果、製造されたICカード1の共振周波数の変化をモニタリングすれば、第2結合コイル120の配置や切削位置が設計値に対してどの程度ずれているかを推定することができ、アンテナ8の断線等の不具合を予防しつつ、製造条件や製品品質の安定性を検査することが可能となる。
【0096】
上記より、本実施形態では、ICモジュール側の第1結合コイルとカード基体側の第2結合コイルとが良好に電磁結合でき、第2結合コイルの配置や凹部形成位置の変動に対して第2結合コイルの断線を抑制できるデュアルインターフェースICカードを提供することができる。
【0097】
2.第2実施形態
次に、本開示のデュアルインターフェースICカードの第2実施形態の一例について説明する。図5(a)、図5(b)、図5(c)および図5(d)は、それぞれ、第1実施形態の図1(a)、図1(b)、図1(c)および図1(d)に対応する第2実施形態のICカード1aの平面図等である。また、図6は、図5(a)のICカード1aについて、ICモジュール7付近のX軸に沿ったB-B線に沿って切った断面を-Y方向側から見た、図3に対応する断面図である。
【0098】
第1実施形態のICカード1では、Z軸に沿った平面視において、第2結合コイル120の最内周よりも内側に、厚さ方向に互いに離間かつ対向して配置される導電要素121a、121bから構成される容量部121を備えている。これに対して、第2実施形態のICカード1aは、第2結合コイル120の最外周よりも外側に、厚さ方向に互いに離間かつ対向して配置される導電要素122a、122bから構成される容量部122を備える点が、ICカード1とは異なる。なお、第2結合コイル120、容量部122および外部通信アンテナ80がアンテナ8aを構成し、ひとつの閉回路を形成する点は、ICカード1と同様である。また、容量部122の配置が異なる点以外については、ICカード1aの構成はICカード1と同様である。
【0099】
第2結合コイル120のループを形成するアンテナ線83の外側には、平面視で略C字型または略コの字型の平板状の導電要素122aが接続されている。また、第2結合コイル120のループの内側の先端は、第2結合コイル120のループを跨いでこれの最外周の外側に配置される導電要素122aと電気的に接続している。一方、外部通信アンテナ80のループを形成するアンテナ線83の内側の先端は表裏導通部84を経由して、コア層5の裏面側に通じている。
【0100】
すなわち、図5(c)に示すように、コア層5の他方の面、すなわち-Z方向側の面には、表裏導通部84から所定距離のリード線85を経てその先端が上述した導電要素122aと同様の形状の平板状の導電要素122bに接続されている。導電要素122aおよび122bは、コア層5の厚さ分を隔てて互いに対向して配置され、コンデンサである容量部122を形成する。
【0101】
これより、アンテナ8aは、コア層5の一方の面に形成される外部通信アンテナ80および第2結合コイル120と、コア層5の表裏面に跨って形成される容量部122と、が互いに直列的に接続され、ひとつの閉回路を形成している。
【0102】
本実施形態のICカード1aは、カード基体2にICモジュール7の埋設用の凹部9を切削加工等で形成する際、以下のようなことが起き得る。すなわち、第2結合コイル120の配置や切削位置が設計値よりもずれている場合には、切削により、第2結合コイル120を損傷したり、アンテナ線83を断線させてしまい、良好な非接触通信ができなくなる可能性がある。しかし、所定周波数での良好な通信を図るために容量調整部位として設けている容量部122は、第2結合コイル120の最外周の外側に配置されているため、容量部122を損傷することで共振周波数が変動することが抑制できる。
【0103】
また、第1実施形態のICカード1とは異なり、切削加工時に、第2結合コイル120の最内周の部分が切削されてアンテナ線83が断線すると、ただちにICカード1aは非接触通信ができなくなる。このため、製造されたICカード1aの良否判定は、非接触通信の有無によって容易に判別でき、これが不良品として出荷される等の不具合を抑制できる。
【0104】
なお、第1実施形態の図3に基づいて説明した、距離DA、DB、DC、DD、DE、DF、DGおよびDHについては、第2実施形態のICカード1aについても共通する。一方、Z軸に沿った平面視において、容量部122が、付加要素200よりも1.0mm以上離間して配置されていることが好ましい。言い換えると、DJが1.0mm以上であることが好ましい。これにより、第2結合コイル120に起因するカード基体2の表面の凹凸が抑制されている。このため、付加要素200がカード基体2の表面に良好に形成でき、付加要素200の文字、記号、顔写真等が良好に視認できる。
【実施例0105】
次に、実施例を挙げて、第1実施形態について本開示を具体的に説明する。
【0106】
(a)ICモジュール
ICモジュール7について、ガラスエポキシ基材の表裏に銅箔を貼り付け、エッチングプロセスを経て一方の面側には外部接続端子71のパターンが形成され、他方の面側には第1結合コイル110およびリード部77のパターンが形成されている。また、それぞれの銅箔パターンにニッケルメッキおよび金メッキが施されてきる。他方の面側にはリード部77とパッド74pとが当接するようにICチップ74aがフェイスダウンで接着剤を介して搭載され、周囲がエポキシ樹脂のモールド樹脂74bで封止されている。
【0107】
第1結合コイル110の線幅は0.12mm、巻き数は8であり、図1(a)のXZ平面で切った断面でのDB=12.3mm、DC=8.0mmであった。また、これとは垂直なYZ平面で切った断面でのDB=11.1mm、DC=7.0mmであった。一方、第1結合コイル110の自己インダクタンスは、1.0μHであった。
【0108】
(b)カード基体およびアンテナ
コア層4、5およびオーバーシート層3、6として、PET-G基材を使用し、カード基体2の総厚が0.80mmとなるように、熱プレスにて積層一体化した。その後これをカードサイズに打ち抜き、ICモジュール7を収納するための凹部9を形成し、その後、接着層11を介してICモジュール7をカード基体2の凹部9に収納し固定した。さらには、カード基体2の+Z方向側の表面の所定位置に、付加要素200として、カード基体2の長辺方向に沿った幅が20mm、短辺方向に沿った幅が20mmのホログラムラベルをホットスタンプによる熱転写で形成した。ホットスタンプの加熱温度は120℃であり、転写時間は1.5秒であった。
【0109】
アンテナ線83は銅線を被覆した直径0.08mmの被覆導線を使用し、外部通信アンテナ80の巻き数は3、であり、開口部面積は約3500mm2あった。一方、第2結合コイル120については、図1(a)のXZ平面で切った断面でのDA=17.5mm、DD=8.0mm、DE=6.0mm、DF=4.0mm、DG=3.0mm、DH=0.5mm、DI=1.0mm、であった。また、これとは垂直なYZ平面で切った断面でのDA=17.5mm、DD=9.0mm、DE=7.0mm、DF=5.0mm、DG=4.0mm、DH=0.5mm、DI=1.0mm、であった。なお、第2結合コイル120の自己インダクタンスは、4.0μHであり、外部通信アンテナ80の自己インダクタンスは、1.5μHであった。
【0110】
ここで、第2結合コイル120の形状は変えずに、カード基体2への凹部9およびICモジュール7の搭載位置を変更することによって、DFやDG、第1結合コイル110と第2結合コイル120との位置関係を変化させるサンプルを作成した。これらのサンプルの仕様は以下の表1のとおりである。
【0111】
【表1】
【0112】
(c)読み取り試験結果
上記サンプルA~Fを各5枚ずつ作成し、それぞれについて、所定の非接触式リーダライタによる、ICカード1との距離および読み取り結果についてまとめたものを以下の表2に示す。リーダライタは富士フイルム株式会社製の型式ICT-3192を使用した。また、DIを変えたサンプルにより、付加要素200の歪み量を測定した結果を表3に示す。さらには、DHを段階的に変化させたC1~C3のサンプルについて、共振周波数を測定した。
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
【表4】
【符号の説明】
【0116】
1、1a ICカード
2 カード基体
3、6 オーバーシート層
4、5 コア層
7 ICモジュール
8、8a アンテナ
9 凹部
11 接着層
12 アンテナシート
71 外部接続端子
72 基板
74 ICチップ体
74a ICチップ
74b モールド部
74p パッド
75 ワイヤ
76 ボンディングホール
77 リード部
80 外部通信アンテナ
83 アンテナ線
84 表裏導通部
85 リード線
91 第1凹部
91a 底面
92 第2凹部
110 第1結合コイル
120 第2結合コイル
121、122 容量部
121a、122a 導電要素
121b、122b 導電要素
200 付加要素
図1
図2
図3
図4
図5
図6