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特開2024-10433被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼
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  • 特開-被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010433
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240117BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240117BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240117BHJP
   C21D 8/00 20060101ALN20240117BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20240117BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20240117BHJP
【FI】
C22C38/00 303S
C22C38/60
H01F1/147
C21D8/00 E
C21D9/00 S
C21D6/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111765
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000222048
【氏名又は名称】東北特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 将仁
(72)【発明者】
【氏名】宮野 卓誠
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 達也
(72)【発明者】
【氏名】尾張 尚幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武信
(72)【発明者】
【氏名】江幡 貴司
【テーマコード(参考)】
4K032
4K042
5E041
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA03
4K032AA04
4K032AA13
4K032AA14
4K032AA15
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA20
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA24
4K032AA26
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA32
4K032AA35
4K032AA39
4K032AA40
4K032BA01
4K032BA02
4K032BA03
4K032CA02
4K032CF02
4K032CF03
4K032CG01
4K032CH04
4K032CH05
4K032CH06
4K032CL02
4K042AA23
4K042AA25
4K042BA03
4K042BA05
4K042BA06
4K042BA12
4K042CA02
4K042CA05
4K042CA07
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA14
4K042CA16
4K042DA03
4K042DA05
4K042DA06
4K042DB07
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
4K042DD05
4K042DE02
5E041AA11
5E041NN01
(57)【要約】
【課題】軟磁気特性、時効硬さおよび耐食性に優れるとともに被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼を提供する。
【解決手段】被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼であり、質量%で、C:0.1%以下(0%を含まない)、Si:0.01~2.5%、Mn:0.5%以下(0%を含まない)、S:0.1%以下(0%を含まない)、Cr:12.0~19.0%、Ni:1.0~4.0%、Al:0.5~3.0%並びにTi:0.05~0.5%及びZr:0.05~0.3%未満のうち少なくとも一種を含有するとともに、Bi:0.02~0.5%を含有し、残部は不可避的不純物及び実質的にFeの組成になり、かつ、溶体化処理と時効処理を行った後の組織が実質的にフェライト相であって、時効処理後の硬さが300Hv以上である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.1%以下(0%を含まない)、
Si:0.01~2.5%、
Mn:0.5%以下(0%を含まない)、
S :0.1%以下(0%を含まない)、
Cr:12.0~19.0%、
Ni:1.0~4.0%、
Al:0.5~3.0%並びに
Ti:0.05~0.5%及びZr:0.05~0.3%未満のうち少なくとも一種を含有するとともに、
Bi:0.02~0.5%を含有し、
残部は不可避的不純物及び実質的にFeの組成になり、かつ、溶体化処理と時効処理を行った後の組織が実質的にフェライト相であって、時効処理後の硬さが300Hv以上であることを特徴とする被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼。
【請求項2】
質量%で、
C :0.1%以下(0%を含まない)、
Si:0.01~2.5%、
Mn:0.5%以下(0%を含まない)、
S :0.1%以下(0%を含まない)、
Cr:12.0~19.0%、
Ni:1.0~4.0%、
Al:0.5~3.0%並びに
Ti:0.05~0.5%及びZr:0.05~0.3%未満のうち少なくとも一種を含有するとともに、
Bi:0.02~0.5%を含有し、
さらに、Nb:1.0%以下、Mo:4.0%以下、Cu:2.0%以下、B:0.01%以下及びREM:0.1以下のうち少なくとも一種を含有し、
残部は不可避的不純物及び実質的にFeの組成になり、かつ、溶体化処理と時効処理を行った後の組織が実質的にフェライト相であって、時効処理後の硬さが300Hv以上であることを特徴とする被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼に関し、より詳細には、軟磁気特性及び耐食性に優れるだけでなく、被削性も良好な析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電磁弁、電子制御燃料噴射装置等の磁芯材料として、磁気特性や耐食性に対する要求から軟磁性フェライト系ステンレス鋼が多用されており、本出願人により装置の摺動部や衝突部の耐摩耗性および耐座屈性を向上させる目的で析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼が開発されている(特許文献1参照)。この析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼は、溶体化状態でもNi、Al、Siなどの固溶強化作用により200Hv以上の硬さがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3550132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼は、切削加工性(切粉破砕性を含む)が悪いという問題があり、それが部品加工におけるコストアップ要因となっていた。このため、軟磁気特性、時効硬さおよび耐食性の特長は失わずに、被削性を向上させた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼が要望されていた。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、軟磁気特性、時効硬さおよび耐食性に優れるとともに被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
被削性向上の添加物としてはいくつかの添加物が知られているが、Biは軟磁気特性の劣化や耐食性の低下を招くことから、業界では軟磁性フェライト系ステンレス鋼の被削性向上のための添加物としては考慮されていなかった。本発明者等は、適量のBiを添加することにより、軟磁気特性、時効硬さおよび耐食性を劣化させずに、被削性が向上することを見出し、本願発明に至った。
【0007】
すなわち、第1の本発明に係る被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.1%以下(0%を含まない)、Si:0.01~2.5%、Mn:0.5%以下(0%を含まない)、S:0.1%以下(0%を含まない)、Cr:12.0~19.0%、Ni:1.0~4.0%、Al:0.5~3.0%並びにTi:0.05~0.5%及びZr:0.05~0.3%未満のうち少なくとも一種を含有するとともに、Bi:0.02~0.5%を含有し、残部は不可避的不純物及び実質的にFeの組成になり、かつ、溶体化処理と時効処理を行った後の組織が実質的にフェライト相であって、時効処理後の硬さが300Hv以上であることを特徴とする。
【0008】
また、第2の本発明に係る被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.1%以下(0%を含まない)、Si:0.01~2.5%、Mn:0.5%以下(0%を含まない)、S:0.1%以下(0%を含まない)、Cr:12.0~19.0%、Ni:1.0~4.0%、Al:0.5~3.0%並びにTi:0.05~0.5%及びZr:0.05~0.3%未満のうち少なくとも一種を含有するとともに、Bi:0.02~0.5%を含有し、さらに、Nb:1.0%以下、Mo:4.0%以下、Cu:2.0%以下、B:0.01%以下及びREM:0.1以下のうち少なくとも一種を含有し、残部は不可避的不純物及び実質的にFeの組成になり、かつ、溶体化処理と時効処理を行った後の組織が実質的にフェライト相であって、時効処理後の硬さが300Hv以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軟磁気特性、時効硬さおよび耐食性に優れるとともに被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例の切削抵抗試験方法を示す説明図である。
図2】本発明の実施例の切粉破砕試験による切粉の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明において、鋼中の成分組成を請求範囲に限定した理由を説明する。なお、本明細書において単に「%」と記載したときは「質量%」を意味する。
【0012】
C :0.1%以下(0%を含まない)
Cは、フェライト相をベースとする鋼組織を生成するのを阻害するオーステナイト安定化元素であり、また、磁気特性に悪影響を及ぼす元素であるから、C含有量はできるだけ少なくする方が望ましく、Cは、Ti、Zr、Nbにより炭化物や炭硫化物として固定されること、及び製造性を考慮して、C含有量を0.1%以下とした。
【0013】
Si:0.01~2.5%
Siは、フェライト安定化元素であり、保磁力の低下等により軟磁気特性を向上に寄与し、電気比抵抗を増加させて高周波応答性の改善にも有効である。また、ステンレス鋼の製造にあたっては、脱酸剤としても有用であるので、0.01%以上とした。しかしながら、含有量3%近辺になると、冷間工程での塑性加工性の阻害要因となるので、2.5%以下とした。
【0014】
Mn:0.5%以下(0%を含まない)
Mnは、ステンレス鋼中にあって脱酸剤として有用な元素であり、Sを硫化物として固定し更に被削性を向上させる効果もある。しかしながら、Mnは、オーステナイト安定化元素なので0.5%を超える過剰な添加はフェライト相を不安定化し、更に磁気特性や耐食性の阻害するため、Mn含有量を0.5%以下とした。なお、Mn含有量の下限は、特に制限しないが、上記効果を顕著に発揮させるため、0.05%以上とすることが好ましい。
【0015】
S :0.1%以下(0%を含まない)
Sは、Mn等と硫化物を生成して被削性を向上させる効果もあるが、同時に軟磁気特性を悪化させるので、本発明ではその効果が顕著になるほどの量の添加は行わず、できるだけ少なくするものとするが、Mn、Ti、Zrによる固定効果もあるので0.01%以上含まれていてもよく、0.1%以下とした。
【0016】
Cr:12.0~19.0%
Crは、フェライト系ステンレス鋼における主要成分の一つであり、フェライト相を安定化するとともに、耐食性の向上及び比抵抗の増加にも効果的な元素であるが、12%に満たないとそれらの効果に乏しく、19%を超えてくると軟磁気特性を阻害する影響が大きくなってくるため、12.0~19.0%とした。
【0017】
Ni:1.0~4.0%
Niは、Alとともに時効熱処理によって、金属間化合物として鋼中に析出することによって硬さを上昇させる。かかる効果を発揮させるには、1.0%以上にする必要があるが、過度の添加は、マルテンサイト相やオーステナイト相の生成を招き易くなるので、1.0~4.0%とした。
【0018】
Al:0.5~3.0%
Alは、Niとともに金属間化合物として鋼中に析出することによって、硬さを上昇させるだけでなく、脱酸剤としても有用な元素であり、さらにフェライト安定化作用もある。また、Niとともに金属間化合物を形成するよりも多く添加したAlは、保磁力の低下、さらに比抵抗の増加に寄与して高周波応答性を改善する効果もあるので、0.5%以上とした。しかしながら、過剰な添加は、冷間加工性を阻害し、酸化物系介在物の増大も招くので、上限を3.0%とした。
【0019】
Ti:0.05~0.5%未満及びZr:0.05~0.3%未満のうち少なくとも一種を含有すること
Ti及びZrは、C及びSを固定することによって磁気特性や耐食性を高めるのに有効に作用する元素であるが、過剰な添加は冷間加工性を低下させるので、Ti含有量を0.05~0.5%未満、Zr含有量を0.05~0.3%未満とした。
【0020】
Bi:0.02~0.5%
Biは、鋼中に分散して、軟磁気特性、時効硬さ、耐食性をほとんど劣化させることなく、溶体化処理後の切削抵抗を低下させ、切粉破砕性も改善することにより、被削性を向上させる効果を有するので、0.02%以上とした。過剰な添加は、軟磁気特性を劣化や耐食性の低下を招くので、上限を0.5%とした。
【0021】
残部は不可避的不純物及び実質的にFeの組成になり、残部のFeを70~80質量%含むことが好ましい。また、不可避的不純物は、0.1質量%以下であることが好ましく、特に0.05質量%以下であることが好ましい。不可避的不純物としては、P、N、Oなどが挙げられる。
【0022】
さらに、Nb:1.0%以下、Mo:4.0%以下、Cu:2.0%以下、B:0.01%以下及びREM:0.1以下のうち少なくとも一種を含有してもよい。
【0023】
Nb:1.0%以下
Nbは、Cを固定して軟磁気特性、耐食性を高めるのに有効な元素であり、含有する場合、0.001~1.0%が好ましい。過剰な添加は、かえって軟磁気特性を阻害するので、上限を1.0%以下とした。
【0024】
Mo:4.0%以下
Moは、耐食性の改善に有効な元素であり、含有する場合、0.05~4.0%が好ましい。過剰な添加は、冷間加工性を阻害するので、上限を4.0%とした。
【0025】
Cu:2.0%以下
Cuは、耐食性の改善に有効な元素であるとともに、時効効果にも寄与し、含有する場合、0.05~2.0%が好ましい。過剰な添加は、材料の脆化を招き、冷間加工性を阻害するので、上限を2.0%とした。
【0026】
B:0.01%以下
Bは、冷間加工性の向上に寄与し、含有する場合、0.001~0.01%が好ましい。過剰な添加は、かえって冷間加工性を阻害するので、上限を0.01%とした。
【0027】
REM:0.1%以下
REMは、冷間加工性の向上に寄与し、含有する場合、0.001~0.1%が好ましい。過剰な添加は、かえって冷間加工性を阻害するので、上限を0.1%とした。
【0028】
次に、この発明に従う被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼の製造方法の一例を説明する。
まず、上記成分組成の鋼素材を、例えば誘導溶解炉にて、アルゴン雰囲気中で溶解したのち、造塊し、次いで、1000~1150℃で分塊後、グラインダーで酸化スケールを除去しながら鋼片として整備し、1000~1150℃に加熱した後、熱間圧延して、線、棒、または板形状の素材とする。熱間圧延後は応力除去またはミクロ組織調整のために、750~1050℃の焼鈍または溶体化熱処理を行ってもよい。
【0029】
次に、線材素材の場合には、10~30%の減面率で冷間伸線と曲り矯正を行い、900~1050℃で溶体化処理を行う。この際の熱処理は主に材料の加工歪を除去することが目的である。棒、板材素材の場合には、素材表面の切削加工を行った後、冷間で曲り矯正を行い、部品加工用の素材として供す。
【0030】
部品加工は、切削か或いは切削前に冷間プレス加工を行ってもよい。加工後に時効硬化処理を行うが、部品の軟磁気特性をより良くするために、時効硬化処理前に焼鈍または溶体化処理を行ってもよい。
【実施例0031】
表1に示す種々の成分組成を含む鋼素材を、Ar気流中で7kg溶製し、金型に鋳込むことによって、80mmφの鋳塊を製作した。次に、各鋳塊を1000~1150℃で熱間鍛造して16mmφの丸棒とし、外周旋削によって外径を13mmφまで加工を行い、950℃、10minの低温溶体化処理を行って試料を作製し種々の試験に供した。
得られた試料(実施例:試料No.1~7、比較例:試料No.8~12)の、硬さ、磁気特性、耐食性、切削抵抗、切粉破砕性について調べた結果を表2に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
なお、磁気特性は、外径13mm、内径5.85mm、厚さ5mmのリング試料を作製し、真空炉にて1050℃で2時間加熱した後、窒素ガス急冷による溶体化処理を行い、引き続き550℃で3時間の時効処理を行った後、B-Hループトレーサーを用いて測定した。更に同じ試料を用いて硬さも測定した。
【0035】
耐食性は、12.4mmφ、長さ35mmの丸棒を磁気特性評価試料と同様の熱処理を行い、#800番エメリー紙で研磨した試料に対して、5%NaCl水溶液を35℃で48時間噴霧した後、試料表面の発銹の程度により評価した。なお、耐食性の評価は、錆び発生が無いかあっても丸棒端部の角部等に局所的に薄く発錆している場合を「〇」、それ以外で錆び発生が明らかな場合を「×」とする2段階で行った。
【0036】
切削抵抗は、12.6mmφ、長さ55mmの試料を作製し、突出し量を35mmに設定、幅10mmの切削によって評価した。切削加工は横型のCNC旋盤によって行い、刃物はタンガロイ製(TNMG331-SSAH310)を用い、鉱物油による潤滑下で行った。切削条件については、切削速度を150[mm/min]、送り量0.15[mm/rev]、切込み量は0.5[mm]とした。切削抵抗は図1に示す様、被削材の外周旋削を行った際に生じる「背分力、送り分力、主分力」の合力とした。比較材である表1の試料No.12の結果を「100」として各試料との相対評価を行った。
【0037】
切粉破砕性は、切削抵抗試験において発生する切粉が、長さ25mm未満で途切れる場合を「〇」、それ以上の長さになる場合を「×」とする2段階で評価した。切削で生じた切粉の外観例を図2に示す。
【0038】
表2に示す結果から、実施例の試料No.1~7はいずれも切削性と耐食性に優れ、時効処理後の硬さが310HV5以上であり、磁気特性も良好であることを確認できた。実施例の切削抵抗は比較例よりも若干の良化が見られた。図2および表2に示すように、実施例の切粉破砕性については顕著な良化を確認できた。
【0039】
一方、比較例の試料No.8とNo.11はNiおよびAlの含有量が低く、時効による硬化が殆ど確認できなかった。また、比較例のNo.9は、磁束密度B25が1テスラよりも小さく、保磁力も高いため磁性材料としての特性に劣る。これはNiの含有量が多過ぎるためであり、オーステナイト安定化元素の影響が大きい。比較例No.10は被削性、硬さ、磁気特性とも優れているが、TiやZrなどCやSを強力に固定する元素が添加されていないため、耐食性に劣る。比較例No.12は特性を満足していたが、Biを添加していないため切粉の破砕性が悪かった。
【0040】
かくしてこの発明によれば、従来の析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼よりも、切削時における高い切粉破砕性を有している材料の提供が可能である。硬さ、磁気特性、耐食性においては、従来材と同等の特性を有し、各種電磁弁、電子式燃料噴射装置等の磁芯材料に好適に適用することが可能である。切粉処理性付与による生産性の向上は、製造コストの低減に繋がるため、産業界に貢献するところが大である。
【符号の説明】
【0041】
1 切削抵抗、2 背分力、3 送り分力、4 主分力
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-10-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.1%以下(0%を含まない)、
Si:0.01~2.5%、
Mn:0.5%以下(0%を含まない)、
S :0.1%以下(0%を含まない)、
Cr:12.0~19.0%、
Ni:1.0~4.0%、
Al:0.5~3.0%並びに
Ti:0.05~0.5%及びZr:0.05~0.3%未満のうち少なくとも一種を含有するとともに、
Bi:0.02~0.5%を含有し、
残部はFe及び不可避的不純物の組成になり、かつ、溶体化処理と時効処理を行う事により、組織がフェライト相であると共に、時効処理後の硬さが300Hv以上であることを特徴とする被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼。
【請求項2】
質量%で、
C :0.1%以下(0%を含まない)、
Si:0.01~2.5%、
Mn:0.5%以下(0%を含まない)、
S :0.1%以下(0%を含まない)、
Cr:12.0~19.0%、
Ni:1.0~4.0%、
Al:0.5~3.0%並びに
Ti:0.05~0.5%及びZr:0.05~0.3%未満のうち少なくとも一種を含有するとともに、
Bi:0.02~0.5%を含有し、
さらに、Nb:1.0%以下、Mo:4.0%以下、Cu:2.0%以下、B:0.01%以下及びREM:0.1以下のうち少なくとも一種を含有し、
残部はFe及び不可避的不純物の組成になり、かつ、溶体化処理と時効処理を行う事により、組織がフェライト相であると共に、時効処理後の硬さが300Hv以上であることを特徴とする被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
すなわち、第1の本発明に係る被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.1%以下(0%を含まない)、Si:0.01~2.5%、Mn:0.5%以下(0%を含まない)、S:0.1%以下(0%を含まない)、Cr:12.0~19.0%、Ni:1.0~4.0%、Al:0.5~3.0%並びにTi:0.05~0.5%及びZr:0.05~0.3%未満のうち少なくとも一種を含有するとともに、Bi:0.02~0.5%を含有し、残部はFe及び不可避的不純物の組成になり、かつ、溶体化処理と時効処理を行う事により、組織がフェライト相であると共に、時効処理後の硬さが300Hv以上であることを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
また、第2の本発明に係る被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.1%以下(0%を含まない)、Si:0.01~2.5%、Mn:0.5%以下(0%を含まない)、S:0.1%以下(0%を含まない)、Cr:12.0~19.0%、Ni:1.0~4.0%、Al:0.5~3.0%並びにTi:0.05~0.5%及びZr:0.05~0.3%未満のうち少なくとも一種を含有するとともに、Bi:0.02~0.5%を含有し、さらに、Nb:1.0%以下、Mo:4.0%以下、Cu:2.0%以下、B:0.01%以下及びREM:0.1以下のうち少なくとも一種を含有し、残部はFe及び不可避的不純物の組成になり、かつ、溶体化処理と時効処理を行う事により、組織がフェライト相であると共に、時効処理後の硬さが300Hv以上であることを特徴とする。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.1%以下(0%を含まない)、
Si:0.01~2.5%、
Mn:0.5%以下(0%を含まない)、
S :0.1%以下(0%を含まない)、
Cr:12.0~19.0%、
Ni:1.0~4.0%、
Al:0.5~3.0%並びに
Ti:0.05~0.5%及びZr:0.05~0.3%未満のうち少なくとも一種を含有するとともに、
Bi:0.02~0.5%を含有し、
残部はFe及び不可避的不純物の組成になり、かつ、真空炉にて1050℃で2時間加熱した後、窒素ガス急冷による溶体化処理を行い、引き続き550℃で3時間の時効処理を行った後に、組織がフェライト相であり且つ硬さが300Hv以上となることを特徴とする被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼。
【請求項2】
質量%で、
C :0.1%以下(0%を含まない)、
Si:0.01~2.5%、
Mn:0.5%以下(0%を含まない)、
S :0.1%以下(0%を含まない)、
Cr:12.0~19.0%、
Ni:1.0~4.0%、
Al:0.5~3.0%並びに
Ti:0.05~0.5%及びZr:0.05~0.3%未満のうち少なくとも一種を含有するとともに、
Bi:0.02~0.5%を含有し、
さらに、Nb:1.0%以下、Mo:4.0%以下、Cu:2.0%以下、B:0.01%以下及びREM:0.1以下のうち少なくとも一種を含有し、
残部はFe及び不可避的不純物の組成になり、かつ、真空炉にて1050℃で2時間加熱した後、窒素ガス急冷による溶体化処理を行い、引き続き550℃で3時間の時効処理を行った後に、組織がフェライト相であり且つ硬さが300Hv以上となることを特徴とする被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
すなわち、第1の本発明に係る被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.1%以下(0%を含まない)、Si:0.01~2.5%、Mn:0.5%以下(0%を含まない)、S:0.1%以下(0%を含まない)、Cr:12.0~19.0%、Ni:1.0~4.0%、Al:0.5~3.0%並びにTi:0.05~0.5%及びZr:0.05~0.3%未満のうち少なくとも一種を含有するとともに、Bi:0.02~0.5%を含有し、残部はFe及び不可避的不純物の組成になり、かつ、真空炉にて1050℃で2時間加熱した後、窒素ガス急冷による溶体化処理を行い、引き続き550℃で3時間の時効処理を行った後に、組織がフェライト相であり且つ硬さが300Hv以上となることを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
また、第2の本発明に係る被削性に優れた析出硬化型軟磁性フェライト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.1%以下(0%を含まない)、Si:0.01~2.5%、Mn:0.5%以下(0%を含まない)、S:0.1%以下(0%を含まない)、Cr:12.0~19.0%、Ni:1.0~4.0%、Al:0.5~3.0%並びにTi:0.05~0.5%及びZr:0.05~0.3%未満のうち少なくとも一種を含有するとともに、Bi:0.02~0.5%を含有し、さらに、Nb:1.0%以下、Mo:4.0%以下、Cu:2.0%以下、B:0.01%以下及びREM:0.1以下のうち少なくとも一種を含有し、残部はFe及び不可避的不純物の組成になり、かつ、真空炉にて1050℃で2時間加熱した後、窒素ガス急冷による溶体化処理を行い、引き続き550℃で3時間の時効処理を行った後に、組織がフェライト相であり且つ硬さが300Hv以上となることを特徴とする。