(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104354
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】基準電流回路
(51)【国際特許分類】
G05F 3/26 20060101AFI20240729BHJP
H01L 21/8236 20060101ALI20240729BHJP
H01L 21/8234 20060101ALI20240729BHJP
H01L 21/822 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G05F3/26
H01L27/088 311A
H01L27/088 J
H01L27/088 C
H01L27/04 B
H01L27/04 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008507
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】715010864
【氏名又は名称】エイブリック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上島 康博
【テーマコード(参考)】
5F038
5F048
5H420
【Fターム(参考)】
5F038AV13
5F038AV16
5F038AV18
5F038BB02
5F038BB05
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5F048BF16
5H420BB04
5H420BB13
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5H420EA12
5H420EA15
5H420EA16
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5H420EB37
5H420LL07
5H420NA28
5H420NB03
5H420NB12
5H420NB36
5H420NC02
5H420NC14
5H420NC23
5H420NE23
(57)【要約】
【課題】温度変化に対し安定した基準電流を高精度で供給でき、面積を低減できる基準電流回路の提供。
【解決手段】基準電流回路100は、Iinに基づくIoutを供給するカレントミラー回路110と、Ioutが供給されるドレイン130Dにゲート130Gが接続され、ソース130Sが接地されているE型MOS130と、E型MOS130とゲート端子同士が接続され、Vrefを発生させるD型MOS140と、Vrefの分圧電圧Vdivを出力する分圧回路150と、Vdivに応じたIinを供給するD型MOS160とを有する。E型MOS130は、D型MOS130のチャネルの導電型及び不純物濃度が同一、かつD型MOS130とはゲート電極のフェルミレベルが異なる。分圧回路150は、D型MOS160のしきい値電圧よりも高くクロスポイントXよりも低いVdivをD型MOS160のゲート端子に出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート端子同士が接続されているMOSトランジスタ対で形成され、一方のMOSトランジスタに入力された入力電流に基づく出力電流を他方のMOSトランジスタから供給するカレントミラー回路と、
前記MOSトランジスタ対の前記ゲート端子の電圧に応じた基準電流を供給する出力MOSトランジスタと、
前記カレントミラー回路から前記出力電流が供給されるドレイン端子にゲート端子が接続され、ソース端子が接地されているエンハンス型MOSトランジスタと、
前記エンハンス型MOSトランジスタとゲート端子同士が接続され、前記エンハンス型MOSトランジスタのソース端子の電圧と前記第1のデプレッション型MOSトランジスタのソース端子の電圧との差異による基準電圧を発生させる第1のデプレッション型MOSトランジスタと、
前記第1のデプレッション型MOSトランジスタのソース端子に接続され、前記基準電圧の分圧電圧を出力する分圧回路と、
前記分圧電圧に応じた電流を前記入力電流として前記カレントミラー回路に供給する第2のデプレッション型MOSトランジスタと、
を有し、
前記エンハンス型MOSトランジスタは、前記第1のデプレッション型MOSトランジスタにおけるチャネルの導電型及び不純物濃度が同一であり、かつ前記第1のデプレッション型MOSトランジスタとはゲート電極のフェルミレベルが異なり、
前記分圧回路は、前記第2のデプレッション型MOSトランジスタのしきい値電圧よりも高く、かつ前記第2のデプレッション型MOSトランジスタのゲート電圧-ドレイン電流特性が温度に依存しないクロスポイントよりも低い電圧範囲の前記分圧電圧を前記第2のデプレッション型MOSトランジスタのゲート端子に出力することを特徴とする基準電流回路。
【請求項2】
前記エンハンス型MOSトランジスタ及び前記第1のデプレッション型MOSトランジスのチャネル長が前記第2のデプレッション型MOSトランジスタよりもそれぞれ短い、請求項1に記載の基準電流回路。
【請求項3】
前記第1のデプレッション型MOSトランジスタに流れる電流は、しきい値電圧よりも高く、かつ0Vよりも低い電圧範囲内で流れる電流であり、
前記エンハンス型MOSトランジスタに流れる電流は、前記第1のデプレッション型MOSトランジスタに流れる電流と同程度である、請求項2に記載の基準電流回路。
【請求項4】
前記分圧回路は、前記分圧電圧を調整可能なトリミング回路を備えている、請求項1から3のいずれかに記載の基準電流回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基準電流回路に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル機器、ウェアラブル機器などは、様々な場所や気候で使用されるため、使用環境の変化に対し安定した動作が求められている。また、これらの機器は、小型化が進んでおり、搭載される半導体チップなどの部品についても小型化が求められている。
このような機器に搭載される半導体チップの多くはアナログ回路を備えており、アナログ回路には基準電流源から出力された基準電流がバイアス電流として供給される。
【0003】
基準電流回路には、基準電圧回路が発生した基準電圧を、精度の良い抵抗素子により電流変換して基準電流を供給するものがある。このような基準電流回路について、安定した基準電流を供給することを目的として様々な提案がされている。
【0004】
たとえば、周囲温度の変化に対する基準電圧の変動を抑制できる基準電圧回路についても多く提案されている。
一例として、周囲温度の変化に影響する素子の構造を共通化することにより、製造上のばらつきを低減することができる基準電圧回路が挙げられる。具体的には、フェルミレベルの異なるゲートと、同一の導電型及び同一の不純物濃度を有するチャネルと、を備えているペアトランジスタを有することにより、チャネルにおける導電係数の変化の影響を相殺する基準電圧回路が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一つの側面では、周囲温度の変化に対し安定した基準電流を高い精度で供給することができるとともに、レイアウト面積を低減することができる基準電流回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態における基準電流回路は、
ゲート端子同士が接続されているMOSトランジスタ対で形成され、一方のMOSトランジスタに入力された入力電流に基づく出力電流を他方のMOSトランジスタから供給するカレントミラー回路と、
前記MOSトランジスタ対の前記ゲート端子の電圧に応じた基準電流を供給する出力MOSトランジスタと、
前記カレントミラー回路から前記出力電流が供給されるドレイン端子にゲート端子が接続され、ソース端子が接地されているエンハンス型MOSトランジスタと、
前記エンハンス型MOSトランジスタとゲート端子同士が接続され、前記エンハンス型MOSトランジスタのソース端子の電圧と前記第1のデプレッション型MOSトランジスタのソース端子の電圧との差異による基準電圧を発生させる第1のデプレッション型MOSトランジスタと、
前記第1のデプレッション型MOSトランジスタのソース端子に接続され、前記基準電圧の分圧電圧を出力する分圧回路と、
前記分圧電圧に応じた電流を前記入力電流として前記カレントミラー回路に供給する第2のデプレッション型MOSトランジスタと、
を有し、
前記エンハンス型MOSトランジスタは、前記第1のデプレッション型MOSトランジスタにおけるチャネルの導電型及び不純物濃度が同一であり、かつ前記第1のデプレッション型MOSトランジスタとはゲート電極のフェルミレベルが異なり、
前記分圧回路は、前記第2のデプレッション型MOSトランジスタのしきい値電圧よりも高く、かつ前記第2のデプレッション型MOSトランジスタのゲート電圧-ドレイン電流特性が温度に依存しないクロスポイントよりも低い電圧範囲の前記分圧電圧を前記第2のデプレッション型MOSトランジスタのゲート端子に出力する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一つの側面によれば、周囲温度の変化に対し安定した基準電流を高い精度で供給することができるとともに、レイアウト面積を低減することができる基準電流回路を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態における基準電流回路を示す回路図である。
【
図2】
図2は、本実施形態においてペアトランジスタによる基準電圧源の動作を示す説明図である。
【
図3A】
図3Aは、
図1で示したエンハンス型MOSトランジスタを示す概略断面図である。
【
図3B】
図3Bは、
図1で示した第1のデプレッション型MOSトランジスタを示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、シリコンにおけるフェルミレベルの温度及び不純物濃度に対する依存性を示すバンド図である。
【
図5】
図5は、本実施形態における基準電圧源が発生する基準電圧の温度特性を示すグラフである。
【
図6】
図6は、本実施形態において定電流源として用いるデプレッション型MOSトランジスタのゲート電圧-ドレイン電流特性を示すグラフである。
【
図7】
図7は、本実施形態におけるデプレッション型MOSトランジスタが供給する入力電流の温度特性を示す説明図である。
【
図8】
図8は、
図1で示した分圧回路の変形例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための一形態について詳細に説明する。
なお、図面においては、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
また、図面に示すX軸、Y軸及びZ軸は互いに直交するものとする。X軸方向を「幅方向」、Y軸方向を「奥行き方向」、Z軸方向を「高さ方向」又は「厚さ方向」と称する場合がある。各膜の+Z方向側の面を「表面」又は「上面」、-Z方向側の面を「裏面」又は「下面」と称する場合がある。
さらに、図面は模式的なものであり、幅、奥行き及び厚さの比率などは示したとおりではない。複数の膜若しくは層、又はこれらを構造的に組み合わせて得られる半導体素子の数量、位置、形状、構造、大きさなどは、以下に示す実施形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数量、位置、形状、構造、大きさなどにすることができる。
【0011】
図1は、本実施形態における基準電流回路を示す回路図である。
図1に示すように、基準電流回路100は、カレントミラー回路110と、出力MOSトランジスタ120と、エンハンス型MOSトランジスタ130と、デプレッション型MOSトランジスタ140、160と、分圧回路150とを有する。
【0012】
カレントミラー回路110は、デプレッション型MOSトランジスタ160から供給される入力電流Iinに基づき、出力電流Ioutを供給する。このカレントミラー回路110は、ゲート端子同士が接続されているMOSトランジスタ対であるMOSトランジスタ111、112により形成されている。
【0013】
MOSトランジスタ111は、PチャネルMOSトランジスタであり、ゲート端子がドレイン端子と接続され、ソース端子が電源端子と接続されている。このMOSトランジスタ111は、ドレイン端子がデプレッション型MOSトランジスタ160と接続されており、ソース・ドレイン間にデプレッション型MOSトランジスタ160による入力電流Iinが流れる。
【0014】
MOSトランジスタ112は、PチャネルMOSトランジスタであり、ゲート端子がMOSトランジスタ111のゲート端子と接続され、ソース端子が電源端子と接続されている。このMOSトランジスタ112は、ドレイン端子から出力電流Ioutをエンハンス型MOSトランジスタ130に供給する。
また、MOSトランジスタ112は、ゲート端子が出力MOSトランジスタ120のゲート端子に接続されている。
【0015】
出力MOSトランジスタ120は、PチャネルMOSトランジスタであり、ソース端子が電源端子に接続されている。この出力MOSトランジスタ120は、ゲート端子がMOSトランジスタ112のゲート端子と接続されていることから、MOSトランジスタ112のゲート端子の電圧に応じた基準電流Irefを供給する。
【0016】
なお、MOSトランジスタ111、112及び出力MOSトランジスタ120は、同じプロセスで形成されている。このため、出力電流Ioutはカレントミラー回路110により入力電流Iinと同じ電流値になり、基準電流Irefは出力電流Ioutと同じ電流値になる。
【0017】
エンハンス型MOSトランジスタ130は、NチャネルMOSトランジスタであり、カレントミラー回路110から出力電流Ioutが供給されるドレイン端子130Dにゲート端子130Gが接続されている。また、エンハンス型MOSトランジスタ130は、ゲート端子130Gがデプレッション型MOSトランジスタ140のゲート端子140Gに接続され、ソース端子130Sが接地されている。
なお、エンハンス型MOSトランジスタ130のバックゲートは、ソース端子130Sに接続されて接地されている。
【0018】
第1のデプレッション型MOSトランジスタとしてのデプレッション型MOSトランジスタ140は、NチャネルMOSトランジスタである。また、デプレッション型MOSトランジスタ140は、エンハンス型MOSトランジスタ130とゲート端子同士が接続され、ソース端子140Sが分圧回路150に接続されている。
【0019】
このように結線されているエンハンス型MOSトランジスタ130及びデプレッション型MOSトランジスタ140のペアトランジスタは、デプレッション型MOSトランジスタ140のソース端子140Sに基準電圧Vrefを発生させることができる。基準電圧Vrefは、エンハンス型MOSトランジスタ130に流れる電流に合わせてデプレッション型MOSトランジスタ140に流れる電流を同程度にすると、次式、Vref=Vtne+|Vtnd|、に近くなる。ただし、Vtneはエンハンス型MOSトランジスタ130のしきい値電圧とし、Vtndはデプレッション型MOSトランジスタ140のしきい値電圧とする。
なお、この基準電圧源として用いるペアトランジスタの動作、構造及び温度特性については後述する。
【0020】
また、デプレッション型MOSトランジスタ140は、ドレイン端子140Dが電源端子に接続され、ソース端子140Sが分圧回路150に接続されている。このため、デプレッション型MOSトランジスタ140は、ソースフォロワでありバッファとして機能することから、広いレイアウト面積が必要な差動増幅器によるバッファが不要となり、レイアウト面積を低減できる。
本実施形態では、ドレイン端子140Dが電源端子に直接接続されているとしたが、これに限ることなく、例えば、スイッチング素子、ESD保護抵抗などが直列に接続されていてもよい。
【0021】
分圧回路150は、抵抗151、152を直列に接続して組み合わせ、その抵抗値の比による所定の分圧比が設定されている。分圧回路150は、デプレッション型MOSトランジスタ140のソース端子140Sから基準電圧Vrefが印加されると、基準電圧Vrefを分圧した分圧電圧Vdivをデプレッション型MOSトランジスタ160のゲート端子に出力する。
なお、分圧回路150は、分圧比を微調整できるようにヒューズなどを用いたトリミング回路を備えるようにしてもよい。
【0022】
第2のデプレッション型MOSトランジスタとしてのデプレッション型MOSトランジスタ160は、NチャネルMOSトランジスタである。このデプレッション型MOSトランジスタ160は、ドレイン端子がカレントミラー回路110のMOSトランジスタ111に接続され、ソース端子が接地されている。
なお、デプレッション型MOSトランジスタ160のバックゲートは、ソース端子に接続されて接地されている。
【0023】
デプレッション型MOSトランジスタ160は、分圧回路150からゲート端子に印加された分圧電圧Vdivに応じた電流を入力電流Iinとしてカレントミラー回路110に供給する定電流源として機能する。
デプレッション型MOSトランジスタ160の温度特性を考慮して、ゲート端子に分圧回路150が所定の電圧範囲の分圧電圧Vdivを印加することにより、基準電流回路100は、周囲温度の変化に対し安定した基準電流Irefを高い精度で供給することができる。この基準電流Irefの温度特性の調整については後述する。
【0024】
-基準電圧源の動作及び構造-
次に、エンハンス型MOSトランジスタ130及びデプレッション型MOSトランジスタ140のペアトランジスタによる基準電圧源について説明する。
図2は、本実施形態においてペアトランジスタによる基準電圧源の動作を示す説明図である。
図2に示すように、デプレッション型MOSトランジスタ140にはエンハンス型MOSトランジスタ130に流れる電流Ie(出力電流Iout)と同程度の電流Idが流れるように、分圧回路150の合成抵抗値をあらかじめ調整する。このペアトランジスタは、ゲート端子同士が接続され、エンハンス型MOSトランジスタ130のソース端子130Sが接地されていることから、デプレッション型MOSトランジスタ140のソース端子140Sに基準電圧Vrefを発生させることができる。
【0025】
また、エンハンス型MOSトランジスタ130は、デプレッション型MOSトランジスタ140におけるチャネルの導電型及び不純物濃度が同一であり、かつデプレッション型MOSトランジスタ140とはゲート電極のフェルミレベルが異なる。つまり、エンハンス型MOSトランジスタ130は、ゲート電極のフェルミレベルが異なる部分以外はデプレッション型MOSトランジスタ140と同じプロセスで形成できる。
これにより、エンハンス型MOSトランジスタ130及びデプレッション型MOSトランジスタ140の各チャネルにおける製造上のばらつきを相殺でき、高い精度で基準電圧Vrefを発生させることができる。すると、分圧電圧Vdivのばらつきを低減できることから、基準電流回路100は、基準電流Irefを高い精度で供給することができる。
【0026】
具体的には、エンハンス型MOSトランジスタ130及びデプレッション型MOSトランジスタ140の構造について、
図3A、
図3B及び
図4を参照しながら説明する。
図3Aは、
図1で示したエンハンス型MOSトランジスタを示す概略断面図である。
図3Aに示すように、エンハンス型MOSトランジスタ130は、ゲート電極130g、ドレイン領域130d及びソース領域130sが、
図1で示したゲート端子130G、ドレイン端子130D及びソース端子130Sとそれぞれ接続されている。
【0027】
ゲート電極130gは、ボロンが高濃度に注入されたP+型であり、
図4のバンド図において価電子帯に近いフェルミレベルを有する。ゲート電極130gの下方に位置するチャネル130cは、N-型の導電型であり、P型のシリコン基板130bの表面にリンを低濃度に注入して形成されている。このチャネル130cは、ゲート電極130gのフェルミレベルが価電子帯に近いため、フェルミレベルが価電子帯側に引き上げられて空乏化する。
これにより、例えばゲート・ソース間の電位差が0Vの場合には、このN-型のチャネル130cには、同じ導電型のN+型のドレイン領域130dとN+型のソース領域130sの間であっても電流経路が形成されない。この点で、エンハンス型MOSトランジスタ130は、チャネルに不純物が注入されていない一般的なエンハンス型MOSトランジスタとは異なる。
【0028】
図3Bは、
図1で示した第1のデプレッション型MOSトランジスタを示す概略断面図である。
図3Bに示すように、デプレッション型MOSトランジスタ140は、ゲート電極140g、ドレイン領域140d及びソース領域140sが、
図1で示したゲート端子140G、ドレイン端子140D及びソース端子140Sとそれぞれ接続されている。
【0029】
ゲート電極140gは、リンが高濃度に注入されたN+型であり、
図4のバンド図において伝導帯に近いフェルミレベルを有する。ゲート電極140gの下方に位置するチャネル140cは、N-型の導電型であり、エンハンス型MOSトランジスタ130のチャネル130cと同じプロセスで、P型のシリコン基板140bの表面にリンを低濃度に注入して形成されている。
これにより、例えばゲート・ソース間の電位差が0Vの場合であっても、このN-型のチャネル140cには、これと同じ導電型のN+型のドレイン領域140d及びN+型のソース領域140sの間に電流経路が形成される。
【0030】
このように、チャネル130cは、チャネル140cと同一の導電係数及びその導電係数の温度係数であることから、チャネル130c及びチャネル140cの導電型及び不純物濃度に基づくばらつきの要因を抑制できる。したがって、エンハンス型MOSトランジスタ130及びデプレッション型MOSトランジスタ140のペアトランジスタは、高い精度で基準電圧Vrefを発生させることができる。これにより、分圧電圧Vdivのばらつきを低減できるため、基準電流回路100は、基準電流Irefを高い精度で供給することができる。
【0031】
また、半導体チップにおいて低消費電流化を実現するには、各素子に流れる電流を低減する必要がある。
たとえば、特許文献1に記載の基準電圧源では、デプレッション型MOSトランジスタは、ソースとゲートが接続されていることから、その電流を低減するためにはチャネル長を長くする必要がある。また、製造上のばらつきを低減させて高い精度の基準電圧を発生させるために、ペアとなるエンハンス型MOSトランジスタも同様にチャネル長を長くする必要がある。このように、この基準電圧源は、各チャネル長を同じように長くする必要があるため、レイアウト面積が大きくなってしまう。
【0032】
この点、本実施形態の基準電圧源では、エンハンス型MOSトランジスタ130に流れる電流は出力電流Ioutで制限され、デプレッション型MOSトランジスタ140に流れる電流は分圧回路150の合成抵抗で制限される。このため、エンハンス型MOSトランジスタ130及びデプレッション型MOSトランジスタ140のチャネル長は、プロセスが許す最小のサイズにすることができ、少なくともデプレッション型MOSトランジスタ160のチャネル長よりもそれぞれ短くすることできる。
これにより、基準電流回路100は、基準電圧源のペアトランジスタの各チャネル長を短くすることができるため、レイアウト面積を低減することができる。
【0033】
さらに、低消費電流化の観点から、デプレッション型MOSトランジスタ140に流れる電流は、デプレッション型MOSトランジスタ140のゲート電圧がしきい値電圧の場合に流れる電流よりも多く、かつデプレッション型MOSトランジスタ140のゲート電圧がソース電圧と同電位の場合に流れる電流よりも小さいことが好ましい。また、エンハンス型MOSトランジスタ130に流れる電流は、デプレッション型MOSトランジスタ140に流れる小さい電流と同程度にすることが好ましい。
デプレッション型MOSトランジスタ140に流れる電流は、分圧回路150の合成抵抗で調整することができる。また、エンハンス型MOSトランジスタ130に流れる電流は、例えば、カレントミラー回路110の比率を変更したり、入力電流Iinを調整したりすることで、カレントミラー回路110から出力される出力電流Ioutで調整できる。
【0034】
-基準電圧源の温度特性-
図5は、本実施形態における基準電圧源が発生する基準電圧の温度特性を示すグラフである。
図5に示すように、基準電圧Vrefは、周囲温度が上昇すると低くなる温度特性となる。これは、デプレッション型MOSトランジスタ140は、
図4に示したバンド図のように、周囲温度が上昇するとゲート電極140gのフェルミレベルが低下するため、しきい値電圧Vtndが高くなり(プラス方向)、しきい値電圧の絶対値|Vtnd|が小さくなる。また、エンハンス型MOSトランジスタ130は、周囲温度が上昇するとゲート電極130gのフェルミレベルが上昇するため、しきい値電圧Vtneが低くなる(マイナス方向)。エンハンス型MOSトランジスタ130に流れる電流に合わせてデプレッション型MOSトランジスタ140に流れる電流を同程度にすると、基準電圧Vrefは、次式、Vref=|Vtnd|+Vtne、に近くなり、周囲温度が上昇すると低くなる温度特性となる。
【0035】
このように、基準電圧Vrefは、周囲温度が上昇すると低くなる温度特性を有する。この基準電圧Vrefは、分圧回路150で分圧されて分圧電圧Vdivとなり、デプレッション型MOSトランジスタ160のゲート端子に印加される(
図1参照)。つまり、分圧電圧Vdivは、基準電圧Vrefの温度特性と同様に周囲温度が上昇すると低くなる温度特性を有する。
【0036】
次に、デプレッション型MOSトランジスタ160の温度特性を利用して分圧電圧Vdivの温度特性を打ち消すことにより、基準電流Irefを周囲温度の変化に対し安定させることについて説明する。
【0037】
-デプレッション型MOSトランジスタの温度特性-
図6は、本実施形態において定電流源として用いるデプレッション型MOSトランジスタのゲート電圧-ドレイン電流特性を示すグラフである。
図6に示すように、デプレッション型MOSトランジスタ160は、一般的なMOSトランジスタと同様に、ゲート電圧がしきい値電圧Vth以下の場合にはドレイン電流が流れず、ゲート電圧がしきい値電圧Vthを超えた場合には導電係数に基づく傾きのドレイン電流が流れる。また、周囲温度が上昇すると、しきい値電圧Vth及び導電係数が低くなり、ゲート電圧-ドレイン電流特性の傾きが小さくなる。このため、ゲート電圧-ドレイン電流特性が温度特性を示さないクロスポイントXが存在する。
クロスポイントX以下となるゲート電圧を印加した場合には、周囲温度が上昇するとドレイン電流が増加し、クロスポイントXを超えるゲート電圧を印加した場合には周囲温度が上昇するとドレイン電流が減少する。
【0038】
本実施態様では、周囲温度が上昇すると分圧電圧Vdivが低くなるのに対し、デプレッション型MOSトランジスタ160においてしきい値電圧よりも高くクロスポイントXよりも低いゲート電圧(つまり、分圧電圧Vdiv)を印加する。
これにより、デプレッション型MOSトランジスタ160は、周囲温度の変化に対し安定した入力電流Iinをカレントミラー回路110に供給することができる。
【0039】
図7は、本実施形態におけるデプレッション型MOSトランジスタが供給する入力電流の温度特性を示す説明図である。
図7において、左のグラフは、
図5に示した基準電圧Vrefを分圧回路150で分圧した分圧電圧Vdivの温度特性である。また、右のグラフは、
図6に示したゲート電圧-ドレイン電流特性の縦軸及び横軸を入れ替えてクロスポイントXの近傍を拡大したデプレッション型MOSトランジスタ160の温度特性である。この
図7は、分圧回路150から出力される分圧電圧Vdivの温度特性と、この分圧電圧Vdivがデプレッション型MOSトランジスタ160のゲート端子に印加された際の入力電流Iinの温度特性との関係を示している。
【0040】
図7に示すように、基準電流回路100においては、分圧回路150の分圧比を調整し、
図6で示したクロスポイントXよりも低いゲート電圧(分圧電圧Vdiv)をデプレッション型MOSトランジスタ160のゲート端子に印加するように設定する。
これにより、周囲温度が上昇すると分圧電圧Vdivが低くなるが、デプレッション型MOSトランジスタ160の温度特性によりドレイン電流がその分増加するため、結果として入力電流Iinを周囲温度の変化に対し安定させることができる。また、分圧比の設定により分圧電圧Vdivを調整できることから、デプレッション型MOSトランジスタ160のしきい値電圧をより深く調整する不純物注入工程が不要となる。
よって、基準電流回路100は、入力電流Iinを入力されるカレントミラー回路110を介し、周囲温度の変化に対し安定した基準電流Irefを供給することができる。
【0041】
このように、この基準電流回路100は、周囲温度が上昇し、分圧電圧Vdivが低くなってもデプレッション型MOSトランジスタ160のドレイン電流が増加するため、周囲温度の変化に対し安定した基準電流Irefを高い精度で供給することができる。また、基準電流回路100は、デプレッション型MOSトランジスタ140がソースフォロワでありバッファとして機能することから、広いレイアウト面積が必要な差動増幅器によるバッファが不要となり、レイアウト面積を低減できる。
さらに、基準電流回路100は、基準電圧源のペアトランジスタの各チャネル長を短くすることができるため、レイアウト面積を更に低減することができる。
【0042】
(変形例)
分圧回路150は、分圧電圧Vdivを合わせやすくすることができるように、分圧電圧Vdivを調整可能なトリミング回路を備えてもよい。
具体的には、
図8に示すように、分圧回路250は、第1の抵抗部250Aと、第2の抵抗部250Bと、第3の抵抗部250Cと、第4の抵抗部250Dとを備えている。第1の抵抗部250A、第2の抵抗部250B及び第3の抵抗部250Cは、直列に接続されている。第4の抵抗部250Dは、第3の抵抗部250Cに対して並列に接続されている。
【0043】
第1の抵抗部250Aは、直列に接続された複数の抵抗素子と、複数の抵抗素子の各ノードに接続するスイッチング素子とを備える。この第1の抵抗部250Aは、スイッチング素子を選択的にオンさせることにより、分圧電圧Vdivの粗調整を行う。
第4の抵抗部250Dは、直列に接続された複数の抵抗素子と、複数の抵抗素子の各ノードに接続するスイッチング素子とを備える。この第4の抵抗部250Dは、複数の抵抗素子により、第4の抵抗部250Dでの電位差を微小なステップに分割し、スイッチング素を選択的にオンにすることにより、分圧電圧Vdivを微調整してOUT端子から出力する。
【0044】
このように、分圧回路250は、トリミング回路を備えることにより分圧電圧Vdivを微調整することができるため、周囲温度の変化に対し安定した基準電流Irefを高い精度で供給することができる。
【0045】
以上説明したように、本発明の一実施形態における基準電流回路は、ゲート端子同士が接続されているMOSトランジスタ対で形成され、入力電流に基づく出力電流を供給するカレントミラー回路と、MOSトランジスタ対のゲート端子の電圧に応じた基準電流を供給する出力MOSトランジスタと、を有する。
また、この基準電流回路は、エンハンス型MOSトランジスタ及び第1のデプレッション型MOSトランジスタのペアトランジスタを有し、基準電圧源として機能する。エンハンス型MOSトランジスタは、カレントミラー回路から出力電流が供給されるドレイン端子にゲート端子が接続され、ソース端子が接地されている。このエンハンス型MOSトランジスタは、第1のデプレッション型MOSトランジスタにおけるチャネルの導電型及び不純物濃度が同一であり、かつ第1のデプレッション型MOSトランジスタとはゲート電極のフェルミレベルが異なる。第1のデプレッション型MOSトランジスタは、エンハンス型MOSトランジスタとゲート端子同士が接続され、エンハンス型MOSトランジスタのソース端子の電圧と第1のデプレッション型MOSトランジスタのソース端子の電圧との差異による基準電圧を発生させる。
さらに、この基準電流回路は、第1のデプレッション型MOSトランジスタのソース端子に接続され、基準電圧の分圧電圧を出力する分圧回路と、分圧電圧に応じた電流を入力電流としてカレントミラー回路に供給する第2のデプレッション型MOSトランジスタと、を有する。
分圧回路は、第2のデプレッション型MOSトランジスタのしきい値電圧よりも高く、かつ第2のデプレッション型MOSトランジスタのゲート電圧-ドレイン電流特性が温度に依存しないクロスポイントよりも低い電圧範囲の分圧電圧を第2のデプレッション型MOSトランジスタのゲート端子に出力する。
【0046】
これにより、この基準電流回路は、周囲温度の変化に対し安定した基準電流Irefを高い精度で供給することができるとともに、レイアウト面積を低減することができる。
【符号の説明】
【0047】
100 基準電流回路
110 カレントミラー回路
111、112 MOSトランジスタ
120 出力MOSトランジスタ
130 エンハンス型MOSトランジスタ
140 (第1の)デプレッション型MOSトランジスタ
150、250 分圧回路
160 (第2の)デプレッション型MOSトランジスタ
Iin 入力電流
Iout 出力電流
Iref 基準電流
Vdiv 分圧電圧
Vref 基準電圧