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  • 特開-ポリオレフィン微多孔膜の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104359
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】ポリオレフィン微多孔膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/417 20210101AFI20240729BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20240729BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20240729BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20240729BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240729BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240729BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240729BHJP
【FI】
H01M50/417
H01M50/449
H01M50/403 E
H01M50/414
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/446
H01M50/403 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008514
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松本 徹
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021BB12
5H021CC02
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE04
5H021EE21
5H021HH00
(57)【要約】
【課題】本発明は、コロナ処理によるポリオレフィン微多孔膜の耐電圧性向上によって、リチウムイオン二次電池作成時の歩留まり改善を可能にするポリオレフィン微多孔膜の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面を、電圧印加の正負で対になる電極それぞれを誘電体で覆うコロナ放電により表面処理し、前記表面処理における放電電力が50W・min/m以上150W・min/m以下である、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面を、電圧印加の正負で対になる電極それぞれを誘電体で覆うコロナ放電により表面処理し、前記表面処理における放電電力が50W・min/m以上150W・min/m以下である、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により得られたポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に、機能層を設ける工程を有するセパレータフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記機能層が無機粒子およびバインダ樹脂を含む、請求項2に記載のセパレータフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学素子であるリチウムイオン二次電池のような二次電池は、スマートフォン、タブレット、ノートパソコンのような携帯機器のみならず、電動工具、電動アシスト補助自転車などのポータブル機器用途、さらに大電力を要する電気自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車などの自動車用途などに、幅広く利用されるようになってきている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、一般的に、正極活物質を正極集電体に積層した正極と、負極活物質を負極集電体に積層した負極との間に、リチウムイオン二次電池用セパレータフィルムと電解質が介在する構成を有し、その中で正極と負極の間に介在するセパレータとして、例えば厚さが5~20μm程度のポリオレフィン微多孔膜が好適に使用されている。セパレータフィルムの機能の一つには、電池の熱暴走温度以下でセパレータフィルムの構成樹脂を溶融させて空孔を閉塞させ、これにより電池の内部における電気伝導物質移動の遮断、すなわち電池の内部抵抗を上昇させて短絡の際などに電池の安全性を向上させる所謂シャットダウン効果があり、この機能の要請に応じてポリオレフィン微多孔膜が、適宜選択され適用されている。
【0004】
セパレータフィルムには、さらに、正極活物質を正極集電体に積層した正極と、負極活物質を負極集電体に積層した負極との導通を電気的に遮断する機能も求められている。
【0005】
このセパレータフィルムに用いられるポリオレフィン微多孔膜の表面改質の方法として、従来からセパレータ用途に限ることなく、コロナ処理、プラズマ処理、あるいはフレーム処理などは広く用いられている(特許文献1、2)。上記特許文献に代表される従来技術は、主として濡れ性の向上、表面張力の改善、密着性の向上および微細加工、等を目的として行われており、本発明が課題とする耐電圧性の向上を記載するものではない。
【0006】
なお、コロナ処理を含む従来から用いられている技術においては、(特許文献3,4)に示すように被処理物であるセパレータフィルム、あるいはその他の被処理物に、表面処理がダメージを与えることが言及されており、局所的な樹脂の溶解や劣化としてフィルム強度に低下を生じることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-182712号公報
【特許文献2】国際公開第2020/230825号
【特許文献3】国際公開第2008/044761号
【特許文献4】国際公開第2011/129169号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の通り、セパレータフィルムには、正極と負極との導通を電気的に遮断する機能が求められる。
【0009】
特に電池内部において、例えばセパレータフィルムとして用いられるポリオレフィン微多孔膜に導電性異物が接触した状態で電池として組み立てられた場合には、組み立てによりポリオレフィン微多孔膜・正極・負極に掛かる圧力によって導電性異物がポリオレフィン微多孔膜にめり込み、ポリオレフィン微多孔膜の実質的な厚みが減少する可能性がある。この場合、導電性異物が存在しない正常部では十分であったポリオレフィン微多孔膜の耐電圧性は、実質的な厚みの減少に伴い、通常要求されるよりも更に高い耐電圧性が要求される。このようなセパレータを挟む正負極間において発生し得る導電性異物として、リチウムイオン二次電池の構成物に由来するリチウムがデンドライトの形で電極表面に析出する現象が知られている。
【0010】
ポリオレフィン微多孔膜の耐電圧性は、上記現象も考慮すると、上限を設けず高いほど好ましい。しかしながら、ポリオレフィン微多孔膜をむやみに厚くして耐電圧値を追求することは電池設計の点から受け入れられず、また、ポリオレフィン微多孔膜の構成物質の耐電圧性のみに着目して耐電圧値を追求した場合、先に述べたポリオレフィン微多孔膜のシャットダウン機能との両立が困難となる可能性がある。
【0011】
以上より、ポリオレフィン微多孔膜の厚みを主とする形状、およびポリオレフィン微多孔膜の構成物質を変えることなく耐電圧性を向上させることは、リチウムイオン二次電池作成時の歩留まり改善に大きな役割を果たす。
【0012】
本発明は、上述した課題を解消し、コロナ処理によるポリオレフィン微多孔膜の耐電圧性向上によって、リチウムイオン二次電池作成時の歩留まり改善を可能にするポリオレフィン微多孔膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、従来の技術を鑑み、鋭意検討し、以下の構成により、本課題を解決することを見出した。
(1)ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面を、電圧印加の正負で対になる電極それぞれを誘電体で覆うコロナ放電により表面処理し、前記表面処理における放電電力が50W・min/m以上150W・min/m以下である、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
(2)(1)に記載の製造方法により得られたポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に、機能層を設けるセパレータフィルムの製造方法。
(3)前記機能層が無機粒子およびバインダ樹脂を含む、(2)に記載のセパレータフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法を用いることで、ポリオレフィン微多孔膜の耐電圧性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に記載する耐電圧測定の実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。本明細書に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されるべきものではなく、本発明の技術的思想に符合する意味と概念に沿って解釈されるべきものである。
【0017】
(ポリオレフィン微多孔膜)
本発明のポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル1-ペンテン、1-ヘキセンなどを重合した単独重合体、2 段階重合体、共重合体またはこれらの混合物等が挙げられる。単一物又は2種以上の異なるポリオレフィン樹脂の混合物、例えば、ポリエチレンとポリプロピレンの混合物であってもよいし、異なるオレフィンの共重合体でもよい。特に、シャットダウン特性の観点からポリエチレンが好ましく、ポリエチレンの融点(軟化点)は70~150℃であることがより好ましい。
【0018】
ポリオレフィン微多孔膜の厚みは、3μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以上30μm以下である。ポリオレフィン微多孔膜の厚みを50μm以下とすることでポリオレフィン微多孔膜の内部抵抗が高くなることを抑制できるとともにリチウムイオン二次電池内部セパレータを多数枚配置することができ、電池の容積効率が高められる。また、ポリオレフィン微多孔膜の厚みを3μm以上とすることで製造が容易となり、また十分な力学特性を得ることができ、さらに十分な絶縁耐力を得ることもできる。ポリオレフィン微多孔膜に存在する細孔のサイズは0.01~50μmが好ましい。
【0019】
リチウムイオン二次電池内部においてリチウムイオンを含む電解液の通り道となる細孔は、電池の内部抵抗を決める主要な項目の一つである。細孔が大きいほどリチウムイオンは電池内部を移動しやすいため電池の内部抵抗は小さく、リチウムイオン二次電池の容量効率を高めることができる。一方、細孔が大きいことは、セパレータの機械的強度低下するリスク等が増大する。
【0020】
ここから、細孔のサイズは0.01~50μmが好ましく、また細孔サイズから決まる
多孔質膜基材の空孔率は10~95%であることが好ましい。
【0021】
このような厚み、細孔のサイズ、空孔率を有することにより、十分なイオン電導性が得られ、また十分な機械的強度と絶縁性を得ることが出来る。
【0022】
ここで細孔のサイズとは、JISK3832:1990やASTMF316-86に記載のあるバブルポイント法(ハーフドライ法) に準じて測定された貫通孔径である。
【0023】
また、ここで空孔率とは、構成材料がa、b・・・、nからなり、構成材料の質量がWa、Wb ・・・、Wn(g・cm) であり、それぞれの真密度がda 、db ・・・、dn(g/cm)で、着目する膜厚をt(cm)としたとき、次式(1)で求められる値(ε(%))である。
ε = { 1 - ( W a / d a + W b / d b + ・・・+ W n / d n ) / t } × 1 0 0 ・・・( 1)
(ポリオレフィン微多孔膜の製造方法)
次いで、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法について説明する。
【0024】
ポリオレフィン微多孔膜の製造方法としては、乾式法(成形用溶剤を用いず結晶核剤や粒子を用いて多孔化する方法(延伸開孔法ともいう))、湿式法(相分離法) があり、微細孔の均一化や平面性の観点から湿式法が好ましい。湿式法による製造方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂と成形用溶剤とを加熱溶融混練し、得られた樹脂溶液をダイより押出し、冷却することにより未延伸ゲル状シートを形成し、得られた未延伸ゲル状シートに対して少なくとも一軸方向に延伸を実施し、前記成形用溶剤を除去し、乾燥することによって微多孔膜を得る方法などが挙げられる。ポリオレフィン微多孔膜は単層膜であってもよいし、分子量あるいは平均細孔径の異なる二層以上からなる多層膜であってもよい。
【0025】
二層以上からなる多層ポリオレフィン微多孔膜の製造方法としては、例えば、a層及びb層を構成する各ポリオレフィン樹脂を成形用溶剤と加熱溶融混練し、得られた各樹脂溶液をそれぞれの押出機から1つのダイに供給し、一体化させて共押出する方法や各層を重ね合わせて熱融着する方法のいずれでも作製できる。特に共押出法が、層間の接着強度を得やすく、層間に連通孔を形成しやすいため高い透過性を維持しやすく、生産性にも優れているため好ましい。
【0026】
本発明において、ポリオレフィン微多孔膜の製膜する方向に平行な方向を製膜方向、長手方向あるいはMD(Machine Direction)と称し、ポリオレフィン微多孔膜面内で製膜方向に直交する方向を幅方向あるいはTD(Transverse Direction)と称する。
【0027】
本発明では、未延伸ゲル状シートをロール法、テンター法もしくはこれらの方法の組み合わせにより、MDおよび/またはTDに所定の倍率で延伸する。延伸はMDおよびTDに順次行う、逐次二軸延伸法と、MD及びTDに同時に行う同時二軸延伸法の2種類あるが、本発明においては延伸法を問わない。
【0028】
本発明に用いるポリオレフィン微多孔膜の製造方法は以下の( a ) ~ ( e ) の工程を含むものである。
( a ) ポリオレフィン樹脂と成形用溶剤とを溶融混練し、ポリオレフィン樹脂溶液を調製する工程
( b ) 前記ポリオレフィン樹脂溶液を押出し、冷却し、未延伸ゲル状シートを形成する工程
( c ) 前記のゲル状シートを延伸する延伸工程
( d ) 前記二軸延伸ゲル状シートから成形用溶剤を除去し、乾燥する工程
( e ) 前記乾燥後のシートを熱処理してポリオレフィン微多孔膜を得る工程
以下、各工程について説明する。
【0029】
( a ) ポリオレフィン樹脂溶液の調製工程
ポリオレフィン樹脂溶液は、ポリオレフィン樹脂に成形用溶剤を添加した後、溶融混練し、ポリオレフィン樹脂溶液を調製する。溶融混練方法として、例えば、特公平06-104736号公報および日本国特許第3347835号公報に記載の二軸押出機を用いる方法を利用することができる。
【0030】
成形用溶剤としては、ポリオレフィンを十分に溶解できるものであれば特に限定されない。例えば、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィンなどの脂肪族または環式の炭化水素、あるいは沸点がこれらに対応する鉱油留分などがあげられるが、流動パラフィンのような不揮発性の溶剤が好ましい。
【0031】
ポリオレフィン樹脂溶液中のポリオレフィン樹脂濃度は、ポリオレフィン樹脂と成形用溶剤の合計を100質量部として、25~40質量部であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂濃度が上記範囲であると、ポリオレフィン樹脂溶液を押し出す際のダイ出口でスウェルやネックインを防止でき、ゲル状シートの成形性及び自己支持性が維持される。
【0032】
( b ) 未延伸ゲル状シートを成形する工程
未延伸ゲル状シートを成形する工程としては、ポリオレフィン樹脂溶液を押出機から直接的に又は別の押出機を介してダイに送給し、シート状に押し出し、冷却して未延伸ゲル状シートを成形する。同一または異なる組成の複数のポリオレフィン溶液を、押出機から一つのダイに送給し、そこで層状に積層し、シート状に押出してもよい。
【0033】
押出方法はフラットダイ法及びインフレーション法のいずれでもよい。押出し温度は140~250℃ が好ましく、押出速度は0.2~15m/分が好ましい。ポリオレフィン溶液の各押出量を調節することにより、膜厚を調節することができる。押出方法としては、例えば、特公平06-104736号公報および日本国特許第3347835号公報に開示の方法を利用することができる。
【0034】
シート状に押し出されたポリオレフィン樹脂溶液を冷却することによりゲル状シートを形成する。冷却方法としては冷風、冷却水等の冷媒に接触させる方法、冷却ロールに接触させる方法等を用いることができるが、冷媒で冷却したロールに接触させて冷却させることが好ましい。例えば、冷媒で表面温度20℃から40℃に設定した回転する冷却ロールにシート状に押し出されたポリオレフィン樹脂溶液を接触させることにより未延伸ゲル状シートを形成することができる。押出されたポリオレフィン樹脂溶液は25℃以下まで冷却するのが好ましい。
【0035】
( c )延伸工程
次に、得られたゲル状シートを少なくとも一軸方向に延伸する。ゲル状シートは成膜用溶剤を含むので、均一に延伸することができる。ゲル状シートは、加熱後、テンター法、ロール法、インフレーション法、またはこれらの組合せにより、所定の倍率で延伸することが好ましい。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、二軸延伸が好ましく用いられる。二軸延伸の場合、同時二軸延伸、逐次延伸および多段延伸(例えば、同時二軸延伸及び逐次延伸の組合せ)のいずれも用いることができる。
【0036】
この延伸工程における延伸倍率(面積延伸倍率)は、9倍以上が好ましく、16倍以上がより好ましく、25倍以上が特に好ましい態様である。また、MDおよびTDでの延伸倍率は、互いに同じでも異なってもよい。この延伸工程における延伸倍率とは、延伸工程直前のゲル状シートを基準として、次工程に供される直前の微多孔性基材の面積延伸倍率のことをいう。
【0037】
この延伸工程の延伸温度は、ポリオレフィンの結晶分散温度(Tcd)~Tcd+30℃の範囲内にすることが好ましく、Tcd+5℃~Tcd+28℃の範囲内にすることがより好ましく、Tcd+10℃~Tcd+26℃の範囲内にすることが特に好ましい態様である。例えば、ポリエチレンの場合は、延伸温度を90~140℃とすることが好ましく、より好ましくは100~130℃にする。結晶分散温度(Tcd)は、ASTM D4065-2020による動的粘弾性の温度特性測定により求められる。
【0038】
以上のような延伸により、例えばポリオレフィンとしてポリエチレンを用いた場合、ポリエチレンラメラ間に開裂が起こり、ポリエチレン相が微細化し、多数のフィブリルが形成される。フィブリルは三次元的に不規則に連結した網目構造を形成し、ゲル状シートは微多孔質基材となる。延伸により機械的強度が向上するとともに細孔が拡大するが、適切な条件で延伸を行うことにより、貫通孔径を制御し、さらに薄い膜厚でも高い空孔率を有することが可能となる。
【0039】
所望の物性に応じて、膜厚方向に温度分布を設けて延伸することができ、これにより機械的強度に優れた微多孔性基材が得られる。その方法の詳細は、日本国特許第334785 4号公報に記載されている。
【0040】
( d ) 二軸延伸ゲル状シートから成形用溶剤を除去し、乾燥する工程
二軸延伸ゲル状シートから洗浄溶剤を用いて成形用溶剤を除去(洗浄) し、乾燥する。洗浄溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素などの塩素化炭化水素、三フッ化エタンなどのフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類などの易揮発性のものを用いることができる。これらの洗浄溶剤はポリオレフィンの溶解に用いた成形用溶剤に応じて適宜選択し、単独もしくは混合して用いる。洗浄方法は、洗浄溶剤に浸漬し抽出する方法、洗浄溶剤をシャワーする方法、洗浄溶剤をシートの反対側から吸引する方法、またはこれらの組合せによる方法などにより行うことができる。上述のような洗浄は、シートの残留溶剤が1質量%未満になるまで行う。その後、シートを乾燥するが、乾燥方法は加熱乾燥、風乾などの方法で行うことができる。
【0041】
( e ) 乾燥後のシートを熱処理してポリオレフィン微多孔膜を得る工程
乾燥後のシートを熱処理してポリオレフィン微多孔膜を得る。熱処理は熱収縮率及び透気抵抗度の観点から90~150℃の範囲内の温度で行うのが好ましい。熱処理工程の滞留時間は、特に限定されることはないが、通常は1 秒以上10 分以下、好ましくは3 秒から2分以下で行われる。熱処理はテンター方式、ロール方式、圧延方式、フリー方式のいずれも採用できる。
【0042】
熱処理工程ではMD及びTDの両方向の固定を行いながら、MD及びTDの少なくとも一方向に収縮させるのが好ましい。熱処理工程によってポリオレフィン微多孔膜の残留歪の除去を行うことができる。熱処理工程におけるMDまたはTDの収縮率は、熱収縮率及び透気抵抗度の観点から0.01 ~ 50 % が好ましく、より好ましくは3 ~ 20 % である。さらに、機械的強度向上のために再加熱し、再延伸してもよい。再延伸工程は延伸ロール式もしくはテンター式のいずれでもよい。
【0043】
(コロナ処理)
本発明では、上記方法で得られたポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に、コロナ処理を行う。コロナ処理は、前記( e )工程から連続して行ってもよいし、( e )工程後一旦巻き取ったフィルムに対し、独立してコロナ処理を行う工程を設けてもよい。さらに、( e )工程の後にコーティング層を設ける様態の場合には、コーティングを行うラインに組み込んで行ってもよい。
【0044】
コロナ処理に供する装置は、少なくとも以下を有する。
【0045】
(1)コロナ放電電源
(2)コロナ電極およびコロナ電極を覆う誘電体
(3)ポリオレフィン微多孔膜搬送部
ここで、コロナ放電電源は、電極を誘電体で覆うことから電極間に交流を印加できる電源が必要である。周波数は5kHz以上が好ましく、20kHz以上であることはさらに好ましい。電圧波形はパルス状などを用いてもよい。本発明では、設定35kHzの高周波電圧を印加した(実際の印加周波数は、放電空間のインピーダンスに従いコロナ放電電源が自動調整する)。
【0046】
コロナ電極は、コロナ放電が行える形状のものであるならば、特定の材質・形状である必要はない。例えば、ステンレス製のワイヤー状電極とステンレス製の搬送ロールを電極とする組み合わせが挙げられる。コロナ電極を覆う誘電体は必ずしも高い誘電率である必要はなく、コロナ放電が支障なく行える程度の誘電率でよい。ただし、誘電体には、コロナ放電空間において絶縁破壊を引き起こさない絶縁破壊耐性が必要である。このような誘電体はセラミックや樹脂が好ましい。好ましいセラミックにはアルミナなど、樹脂ではシリコンゴムなどが挙げられる。
【0047】
ポリオレフィン微多孔膜搬送部については、先に述べたように既存の工程に組み込む場合には既存の搬送部が利用できる。
ただし、この場合でも片側のコロナ電極は、コロナ放電に際してポリオレフィン微多孔膜と密着していることが要求されるため、コロナ電極はフィルム搬送と同調して回転するフィルム搬送ロールとしても使用できるものを用いることが好ましい。
【0048】
本発明による、電圧印加の正負で対になる電極それぞれを誘電体で覆うコロナ処理によって、ポリオレフィン微多孔膜は、従来技術に報告されているポリオレフィン微多孔膜表面の濡れ性向上に加えて、耐電圧特性を向上する効果が得られる。
【0049】
コロナ処理の処理強度は、表面処理において電極間に印加する電力をポリオレフィン微多孔膜搬送速度(長さ)とコロナ処理の有効な電極の幅(幅)から求まる面積で割った値である放電電力によって表すことができる。
【0050】
電圧印加の正負で対になる電極それぞれを誘電体で覆うコロナ処理の処理強度は、処理における放電電力が50W・min/m以上150W・min/m以下であることが好ましい。より好ましくは100W・min/m以上150W・min/m以下である。
【0051】
電圧印加の正負で対になる電極それぞれを誘電体で覆うコロナ処理の放電電力を50W・min/m以上にすることで、ポリオレフィン微多孔膜の耐電圧値が十分に向上する効果が得られ、好適となる。また、ポリオレフィン微多孔膜表面に十分な極性基も生成でき、濡れ性も好適となる。
【0052】
放電電力が150W・min/m以下であることで、コロナ放電によるダメージを抑制しつつ、ポリオレフィン微多孔膜の耐電圧値が未処理の状態から向上し、好適となる。
【0053】
濡れ性向上は、特許文献1、2に知られている、コロナ処理によって疎水性を有するポリオレフィン微多孔膜表面に極性基を生成し、親水性を付与することによるものである。
【0054】
耐電圧性の向上効果が得られる理由は明らかになっているわけではないが、コロナ処理が、ポリマー繊維が凝集した塊状集合体の外表部に突出しているフィブリル繊維を破壊することにより、ポリオレフィン微多孔膜の電圧破壊の開始点が除去されることで、本効果が得られていると推定している。また、電圧印加の正負で対になる電極それぞれを誘電体で覆うコロナ処理により、ポリオレフィン微多孔膜に貫通孔のようなダメージ箇所が生成されないものと推定している。
【0055】
(機能層)
機能層は、ポリオレフィン微多孔膜の表面(表/裏面の、いずれか/両方を問わない)に、何らかのコーティング手段によって、所望の機能を発揮する目的で塗膜を付与することにより設けられる。
【0056】
塗膜を設ける方法は、本発明において限定されるものではなく、ダブルロールコーターやリバースロールコーターなどのロールコーターやグラビアコーター、コンマコーター、エクストルージョンダイコーター、ダイレクトメタリングコーター、またスリットダイコーター等が挙げられる。所望する塗布幅や塗工厚みに対する精度、可能な塗工速度、また塗工のムラなど、所望に応じて選択することができる。これらの中でもグラビアコーターやワイヤーバーコーターは比較的高速な塗布速度において高い塗工精度を持つ方式であり、バッテリーセパレータフィルム用途のコーティングにおいて好適に用いられている。
【0057】
電池の高性能化に伴い電池は発熱しやすくなり、ポリオレフィン微多孔膜をセパレータとして用いる場合、各種特性の向上が求められるようになった。
【0058】
これに対して、微多孔性フィルムに無機粒子からなる機能層を設ける技術が提案されている。
【0059】
また、二次電池を使用している際に電池に異常が発生し熱暴走により電池が爆発する事例が発生している。これに対して、電池の安全機能として上述のシャットダウン性の付与が検討されている。シャットダウン性を発現させるためにポリオレフィン微多孔膜の表面に低融点の樹脂を主成分とする有機粒子をコーティングする技術が提案されている。また、これら以外の機能に寄与できる機能層をポリオレフィン微多孔膜に付加的に設けることもできる。
【0060】
以下では微多孔性フィルムに無機粒子からなる機能層を設ける技術について説明するが、本願の機能層はこれに限定されるものではない。
【0061】
機能層を構成するための塗材は、溶剤、スラリー固形成分およびスラリー樹脂成分からなる。
【0062】
溶剤の種類は特に限定されず、後述するスラリーの樹脂分を溶解可能であり、また固形分を分散できるものであれば、特に限定されない。機能層に使用する溶剤は、溶材を含む塗材をポリオレフィン微多孔膜に塗工した後、乾燥工程を経てバッテリーセパレータフィルムとして使用することから、乾燥速度が速く、かつ、乾燥に際して爆発下限界が高くかつ爆発範囲が狭い溶剤であることが好ましい。また、原材料以外にも工程洗浄等に使用可能であることが工程内における使用物質の種類を極小化することに寄与するため、特に水、メチルエチルケトン、アセトンが好ましい。
【0063】
スラリーに含まれる固形分は、最終製品であるバッテリー状態において、バッテリー性能や要望事項を阻害する材料でなければ特に限定されない。本発明に使用する固形粉末は、最終製品であるバッテリーを製造した後に、バッテリーの構成の一部となる可燃性液体である電解液に対し腐食されず、さらにバッテリーセパレータフィルムの短絡等を生じる際に絶縁防壁として機能し、また固形分自体がバッテリーセパレータフィルム欠陥の原因にならないよう異物等が含まれないことが好ましい。また、熱に対し安定な材料であることが好ましい。固形分の形態としては、無機粒子状が好ましく、セラミック、特に二酸化チタン、アルミナ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウムが好ましい。
【0064】
スラリーに含まれる樹脂分は、最終製品であるバッテリー状態において、バッテリー性能や要望事項を阻害する材料でなければ特に限定されない。本発明に使用する樹脂は、溶剤に溶解し、かつバッテリーセパレータフィルムにおいて必要となる塗工膜が基材フィルムからはがれないように塗膜と基材界面に接着力を付与できる材料であることが好ましい。また、塗膜表面にも接着力を付与できる材料であることが好ましい。さらに、樹脂は熱に対し安定な材料であることが好ましく、特にフッ素含有樹脂が好ましい。また、分散材の使用は無機粒子の分散性向上に寄与するため、好ましい。
【0065】
スラリーに要求される性質としては、密度、粘度などが挙げられるが、所望の機能を備えリチウムイオン二次電池に用いるセパレータフィルムに使用できる機能層が形成できるものであれば特に限定されない。
【0066】
機能層を形成する装置は、基材を巻き出し、スラリーを塗工装置により基材に塗工・乾燥し、さらに塗工・乾燥済みの基材を巻き取る機構等から構成される。
【0067】
また、セパレータフィルムの巻き出し、搬送、巻取り、など搬送にかかる工程において、搬送のための張力を付与する工程、付与した張力を測定し所定の値にコントロールする工程、フィルムに付着している異物を除去するクリーニング工程、コロナ処理前/後さらにセパレータフィルムの巻き出しから巻取りまでの間の状態におけるセパレータフィルムの帯電を除去する工程、基材および/またはコーティングの良否を判定する検査工程、搬送などにより生じるシワを伸ばすための工程、コーティング膜の厚みを測定する工程、巻き出し・巻取りロールを交換する間の運転を保証する貯留工程、機能層の乾燥工程、などを適宜必要とされる場所に付加することができる。
【実施例0068】
本発明の実施態様とその効果を実施例により説明する。なお、本発明の態様はこれに限定されるものではない。本実施例で用いた評価方法を以下に示す。
【0069】
(耐電圧性の評価)
本発明では、以下に示す方法で耐電圧の向上効果ΔE(kV)を測定した。
【0070】
なお、本発明では作成したポリオレフィン微多孔膜厚み12μmあたりの耐電圧測定結果により評価を行ったが、正確なポリオレフィン微多孔膜厚みが得られる場合には、厚み当たりの耐電圧(kV/μmやkV/cm、など)に換算してもよい。
【0071】
耐電圧の向上効果ΔE(kV)は、対象とするサンプルを電極で挟み、サンプルに次第に大きくなる電圧を印加し、サンプルが絶縁破壊を起こした時点の電圧を耐電圧値とし、コロナ処理前後のポリオレフィン微多孔膜の耐電圧値を測定して、以下の手順で算出した。
【0072】
まず、ポリオレフィン微多孔膜とコロナ処理後のポリオレフィン微多孔膜の耐電圧を以下の様にして測定する。
【0073】
電極には、厚み2mm、寸法210mm×297mmのアルミニウム(板)と、厚さ12μm、寸法55mm×35mmのPETフィルムに厚み0.5μm以下のアルミニウム(膜)を設けたものを使用した。アルミニウム(板)上に、順に、測定サンプル、サンプル側にアルミニウム(膜)が接触する向きのアルミニウム(膜)を設けたPETフィルム、一番上に重り(500g)を乗せて保持した。
【0074】
サンプルに印加する電圧は、菊水電子工業株式会社製TOS9201によって発生させ、0.1kV/秒で段階的に昇圧する電圧をアルミニウム(膜)側に印加した。アルミニウム(板)側はアースに接続した。段階的に昇圧する電圧印加に対して、サンプルを流れる電流が0.05mAになった時点で印加電圧に対するサンプルの絶縁破壊と判定した。本発明に記載する耐電圧測定の実施形態を図1に示す。
【0075】
このような構成でサンプルの耐電圧測定を実施することによって、自己回復機能として知られている動作が利用でき、電極であるアルミニウム(膜)の寸法55mm×35mmの範囲に対し、測定を複数回行える。
【0076】
得られる測定データは、線状に並ぶデータ(集団)と散発的に集団より外れる外れ値からなる。散発的に集団より外れる測定値が発生することを踏まえ、全60回測定を行い、測定値を以下の手順で処理し、耐電圧性の向上効果△E(kV)を算出した。
【0077】
(a)コロナ処理前のポリオレフィン微多孔膜の測定結果EA
コロナ処理前のポリオレフィン微多孔膜を用いて、上記構成により耐電圧測定を60回実施した。得られた耐電圧値の測定データは測定順に10個ずつ1グループとし、グループ内の下位4個の値を外れ値とし、残りの6個の平均値を代表値とした。得られた6個の代表値を、コロナ処理前のポリオレフィン微多孔膜の耐電圧値EA1、EA2、・・・、EA6とした。
【0078】
(b)コロナ処理後のポリオレフィン微多孔膜の測定結果EB
コロナ処理後のポリオレフィン微多孔膜を用いて、上記構成により耐電圧測定を60回実施した。得られた耐電圧値の測定データは測定順に10個ずつ1グループとし、グループ内の下位4個の値を外れ値とし、残りの6個の平均値を代表値とした。得られた6個の代表値を、コロナ処理後のポリオレフィン微多孔膜の耐電圧値EB1、EB2、・・・、EB6とした。
【0079】
(c)耐電圧性向上効果ΔEの算出
算出したコロナ処理前のポリオレフィン微多孔膜の耐電圧値EA1、EA2、・・・、EA6およびコロナ処理後のポリオレフィン微多孔膜の耐電圧値EB1、EB2、・・・、EB6から、
式:ΔEn=EBn(kV)-EAn(kV) n=1、2、・・・、6
を用いて、EB1、EB2、・・・、EB6とEA1、EA2、・・・、EA6の差分ΔE1=(EB1-EA1)、ΔE2=(EB2-EA2)、・・・、ΔE6=(EB6-EA6)を求め、得られた6点の差分ΔE1、・・・、ΔE6の内、最大値と最小値の中間値をコロナ処理による耐電圧の向上効果ΔE(kV)とした。
【0080】
コロナ処理による耐電圧の向上効果ΔE(kV)は下記3段階にて評価を行った。
(評価基準)
A(良):0.2kV以上
B(可):0.1kV以上0.2kV未満
C(不可):0.1kV未満
(濡れ性評価)
コロナ処理の結果、ポリオレフィン微多孔膜表面が改質される効果の一つとして、濡れ性の評価を行った。
【0081】
濡れ性の評価は、JIS K 6768:1999 プラスチック-フィルム及びシート-ぬれ張力試験方法、等に規定されている。ポリオレフィン微多孔膜のコロナ処理面に所定の濡れ試薬を塗布し、塗布の2秒後に塗布形状から試薬がはじかれていく形状にもとづき濡れ性(mN/m)を判断する。
【0082】
富士フィルム和光純薬(株)製の濡れ張力試験用混合液を用い、JIS K 6768:1999 プラスチック-フィルム及びシート-ぬれ張力試験方法に準じて評価を行った。綿棒を用いてフィルム表面に長さ約5cm×幅約1cmの帯状に濡れ張力試験用混合液を塗布し、塗布形状から試薬がはじかれていく形状を2秒後に観察し、はじかれなかった試薬の濡れ性表記値の中で最も大きな値を濡れ性評価値とした。
【0083】
濡れ性の向上効果ΔN(mN/m)は、コロナ処理前後のポリオレフィン微多孔膜を測定した結果を基に、次式から算出した。
式:△N=N-N
ここで、コロナ処理前のポリオレフィン微多孔膜を用いた測定結果をN、コロナ処理後のポリオレフィン微多孔膜を用いた測定結果をNとした。
濡れ性の向上効果ΔN(mN/m)は、下記2段階にて評価を行った。
(評価基準)
A(良):20mN/m以上
B(不可):20mN/m未満
(ピンホール評価)
コロナ処理によってポリオレフィン微多孔膜が受けたダメージを確認するために、ポリオレフィン微多孔膜のピンホール数の測定を行った。
【0084】
ポリオレフィン微多孔膜を挟む両側に平板電極を配置して電極間にポリオレフィン微多孔膜の耐電圧未満かつ電極間ギャップの絶縁破壊電圧を超える電圧を印加すると、ポリオレフィン微多孔膜における孔部は電極間に空気層しか存在しないため、電極間に放電を生じる。これを利用して電極間の放電発生数をポリオレフィン微多孔膜のピンホール数と定義した。
【0085】
ピンホール数の測定は次の通り行った。ステンレス製の300mmΦ金属ロールを、正極(アース)および負極とし、電極間の距離は100μmに設定して対抗して配置する。正極側金属ロールは、負極側金属ロールと対抗する面側にピンホール数の測定を行うポリオレフィン微多孔膜を密着させる。負極側金属ロールは、正極側金属ロールに対抗する面側で正極側ポリオレフィン微多孔膜領域と対抗する領域以外を、ポリオレフィン微多孔膜よりも耐電圧が高い絶縁フィルムを用いて覆う。正極側のポリオレフィン微多孔膜領域と負極側の絶縁フィルムを合わせて、電極の金属ロールはポリオレフィン微多孔膜または絶縁フィルムで覆われた状態で対抗するように配置する。
【0086】
電極間に春日電機株式会社製直流高圧安定化電源を用いて1.6kVを印加し、正極側金属ロールの負極側と対抗する面側にポリオレフィン微多孔膜が密着した状態で、幅0.5mのポリオレフィン微多孔膜を移動速度250mm/秒で走行させ、走行中の電極間の放電回数をカウントし、ピンホール個数とした。評価面積は、ピンホールがm当り数個以上のように多数発生する場合には3mとしたが、それ以下の場合は約30m以上を観察した。
【0087】
ピンホール数は、ポリオレフィン微多孔膜1m当たりのカウント数としてコロナ処理の効果を評価した。
【0088】
(ポリオレフィン微多孔膜の作製)
重量平均分子量2.7×10の超高分子量ポリエチレン40質量%と重量平均分子量2.6×10の高密度ポリエチレン60質量%とからなる組成物100質量部に、テトラキス[メチレン‐3‐(3,5‐ジターシャリーブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)‐プロピオネート]メタン0.375質量部をドライブレンドし、ポリエチレン組成物を作成した。得られたポリエチレン組成物23質量部を二軸押出機に投入した。さらに、流動パラフィン77質量部を二軸押出機のサイドフィーダーから供給し、溶融混練して、押出機中にてポリエチレン樹脂溶液を調製した。続いて、この押出機の先端に設置されたダイから190℃でポリエチレン樹脂溶液を押し出し、内部冷却水温度を25℃に保った冷却ロールで引き取りながら未延伸ゲル状シートを成形した。
【0089】
得られた未延伸ゲル状シートを逐次二軸延伸機に導入し、MD及びTDにそれぞれ5×5倍に延伸を行った。この時、予熱/延伸/熱固定の温度を115/115/100℃ に調整した。得られた二軸延伸ゲル状シートを30℃まで冷却し、25℃に温調した塩化メチレンの洗浄槽内にて流動パラフィンを除去し、60℃に調整された乾燥炉で乾燥し、厚み12μmのポリオレフィン微多孔膜を得た。
【0090】
(実施例1)
春日電機株式会社製コロナ処理装置によって、誘電体である酸化アルミを主体とするセラミックパイプ(20mmΦ)の中に断面が矩形のアルミニウム線を挿入した電極と、ステンレス製の金属ロールの表面を誘電体であるシリコンゴムで被覆した電極の間に、昇圧トランスを経由して設定35kHzの高周波電圧を印加した(ただし実際の印加周波数はコロナ放電電源により自動調整)。作製した厚み12μmのポリオレフィン微多孔膜を電極の間に搬送し、コロナ処理を行った。コロナ処理条件は、ポリオレフィン微多孔膜の搬送速度と電極幅(750mm)から求まる面積で割った放電電力が100W・min/mとなる様、電極間の印加電力750W、ポリオレフィン微多孔膜搬送速度10m/minに調整した。
【0091】
(実施例2)
実施例1と同様のポリオレフィン微多孔膜、および電極構成にて、コロナ処理を行った。
コロナ処理条件は、ポリオレフィン微多孔膜の搬送速度と電極幅(750mm)から求まる面積で割った放電電力が50W・min/mとなる様、電極間の印加電力750W、ポリオレフィン微多孔膜搬送速度20m/minに調整した。
【0092】
(比較例1)
誘電体である酸化アルミを主体とするセラミックパイプ(20mmΦ)の中に断面が矩形のアルミニウム線を挿入した電極と、ステンレス製の金属ロールの電極の間に、昇圧トランスを経由して35kHzの高周波電圧を印加した(ただし実際の印加周波数はコロナ放電電源により自動調整)。作製した厚み12μmのポリオレフィン微多孔膜を電極の間に搬送し、コロナ処理を行った。コロナ処理条件は、ポリオレフィン微多孔膜の搬送速度と電極幅(750mm)から求まる面積で割った放電電力が100W・min/mとなる様、電極間の印加電力750W、ポリオレフィン微多孔膜搬送速度10m/minに調整した。
【0093】
(比較例2)
誘電体である酸化アルミを主体とするセラミックパイプ(20mmΦ)の中に断面が矩形のアルミニウム線を挿入した電極と、ステンレス製の金属ロールの表面を誘電体であるシリコンゴムで被覆した電極の間に、昇圧トランスを経由して設定35kHzの高周波電圧を印加した(ただし実際の印加周波数はコロナ放電電源により自動調整)。作製した厚み12μmのポリオレフィン微多孔膜を電極の間に搬送し、コロナ処理を行った。コロナ処理条件は、ポリオレフィン微多孔膜の搬送速度と電極幅(750mm)から求まる面積で割った放電電力が10W・min/mとなる様、電極間の印加電力375W、ポリオレフィン微多孔膜搬送速度50m/minに調整した。
【0094】
実施例および比較例の条件で得たコロナ処理済のポリオレフィン微多孔膜について、評価を行った。
【0095】
結果、実施例の条件にて作成したコロナ処理済ポリオレフィン微多孔膜は、耐電圧性能が向上する結果が得られた。なお、濡れ性(mN/m)およびピンホール数(個/m)についても良好な結果が得られた。一方、比較例の条件にて作成したコロナ処理済ポリオレフィン微多孔膜は、実施例に比べ耐電圧の改善効果が劣る結果であった。なお、濡れ性(mN/m)およびピンホール数(個/m)についても一部あるいは両方が不適当であった。
【0096】
【表1】
【符号の説明】
【0097】
1 アルミニウム(板)
2 アルミニウム(膜)
3 ポリオレフィン微多孔膜
図1