(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104373
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】運行管理システム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
G08G1/00 D
G08G1/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008531
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高島 亨
(72)【発明者】
【氏名】岡野 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】溝尾 駿
(72)【発明者】
【氏名】野澤 優介
(72)【発明者】
【氏名】長川 研太
(72)【発明者】
【氏名】平中 貴士
(72)【発明者】
【氏名】小西 翔太
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA03
5H181AA07
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181EE12
5H181FF04
5H181FF10
5H181LL09
5H181MB03
5H181MC16
5H181MC19
(57)【要約】
【課題】路面又は先行モビリティに対するメンテナンスの優先度を適切に設定することができる運行管理システムを提供する。
【解決手段】本発明は、自モビリティに搭載され、自モビリティの前方にある物体と自モビリティとの距離を検出する周辺監視装置2と、自モビリティに搭載され、自モビリティの位置を検出する位置検出装置3と、位置検出装置3及び周辺監視装置2の検出結果に基づいて、自モビリティの自動運転を制御するコントローラ4と、を備え、コントローラ4は、周辺監視装置2の検出結果に基づいて、自モビリティの前方に対して周辺監視装置2が物体を検出可能な範囲の最大値である視界限界距離を演算し、視界限界距離に基づいて、路面又は自モビリティの前を走行する先行モビリティに対するメンテナンスの優先度を設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自モビリティに搭載され、前記自モビリティの前方にある物体と前記自モビリティとの距離を検出する周辺監視装置と、
前記自モビリティに搭載され、前記自モビリティの位置を検出する位置検出装置と、
前記位置検出装置及び前記周辺監視装置の検出結果に基づいて、前記自モビリティの自動運転を制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記周辺監視装置の検出結果に基づいて、前記自モビリティの前方に対して前記周辺監視装置が物体を検出可能な範囲の最大値である視界限界距離を演算し、
前記視界限界距離に基づいて、路面又は前記自モビリティの前を走行する先行モビリティに対するメンテナンスの優先度を設定する、
運行管理システム。
【請求項2】
前記コントローラは、前記視界限界距離が小さいほど、前記路面又は前記先行モビリティに対するメンテナンスの優先度を高くする、
請求項1に記載の運行管理システム。
【請求項3】
前記コントローラは、
複数のモビリティの運行を管理する管制システムを構成する管制コンピュータと、
前記自モビリティに搭載され、前記自モビリティの自動運転を制御する搭載コンピュータと、
を含んで構成され、
前記搭載コンピュータは、前記視界限界距離を演算して前記管制コンピュータに送信し、
前記管制コンピュータは、前記視界限界距離に基づいて、前記路面又は前記先行モビリティに対するメンテナンスの優先度を設定する、
請求項1又は2に記載の運行管理システム。
【請求項4】
前記管制コンピュータは、前後のモビリティ間の距離であるモビリティ間距離の目標値を前記搭載コンピュータに送信し、
前記搭載コンピュータは、
前記モビリティ間距離が前記目標値に近づくように、前記自モビリティの走行速度を調整する基本制御を実行するとともに、
前記視界限界距離が前記自モビリティの制動距離以上で維持されるように、前記自モビリティの走行速度を調整する視界維持制御を実行し、
前記管制コンピュータは、
前記視界維持制御によって前記モビリティ間距離が前記目標値よりも大きい拡大離間距離で維持された場合、前記目標値を前記拡大離間距離に更新する、
請求項3に記載の運行管理システム。
【請求項5】
前記管制コンピュータは、前記目標値の更新により、任意の走行速度に対する前記目標値が大きくなるほど、前記路面又は前記先行モビリティに対するメンテナンスの優先度を高くする、
請求項4に記載の運行管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運行管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
モビリティの適切な運転制御を実行するために、モビリティの運行を管理するシステムが開発されている。例えば、特開2022-96071号公報には、自動車の走行を阻止する可能性があるリスクをリアルタイムで評価するリスク管理システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダート路などの未舗装路をモビリティが走行すると、砂埃が発生するため、後続のモビリティの視界が悪化する。例えば、自動運転されているモビリティでは、カメラ等の周辺監視装置の視界が悪化することになる。鉱山では、モビリティの走行により砂埃が発生することを想定して、モビリティの自動運転制御において、前後のモビリティ間に予め十分な離間距離を設定すること、及び/又は走行速度を低くして砂埃の発生を抑制することが実行される。しかしながら、この制御によれば、作業効率が低下する。作業効率を向上させるには、乾いた路面に対して散水車により散水する必要がある。つまり、モビリティを効率的に走行させるために、砂埃が発生しやすい路面(エリア)に対して、メンテナンスを実行することが有効である。
【0005】
また、前方の視界不良の原因は、砂埃だけでなく、自モビリティの前を走行する先行モビリティの排気ガスである場合も考えられる。先行モビリティの異常等により、有色の排気ガスが大量に排出されている場合、後続のモビリティの視界は悪化する。
【0006】
本発明の目的は、路面又は先行モビリティに対するメンテナンスの優先度を適切に設定することができる運行管理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の運行管理システムは、自モビリティに搭載され、前記自モビリティの前方にある物体と前記自モビリティとの距離を検出する周辺監視装置と、前記自モビリティに搭載され、前記自モビリティの位置を検出する位置検出装置と、前記位置検出装置及び前記周辺監視装置の検出結果に基づいて、前記自モビリティの自動運転を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記周辺監視装置の検出結果に基づいて、前記自モビリティの前方に対して前記周辺監視装置が物体を検出可能な範囲の最大値である視界限界距離を演算し、前記視界限界距離に基づいて、路面又は前記自モビリティの前を走行する先行モビリティに対するメンテナンスの優先度を設定する。
【発明の効果】
【0008】
視界良好である場合、視界限界距離は、周辺監視装置の性能や設定により予め決まっている設定値となる。自モビリティの前方で、砂埃又は異常な排気ガスが発生している場合、視界限界距離は設定値より小さくなる。例えば、前後2台のモビリティが一定のモビリティ間距離(車間距離)で走行している場合、先行モビリティの走行による砂埃が大きくなるほど、後続モビリティの視界は悪化し、視界限界距離は小さくなる。砂埃は路面(ダート路)の乾燥度が高いほど大きくなり、異常な排気ガスは先行モビリティが異常である場合に発生する。この原理に鑑みれば、視界限界距離に応じて、路面の乾燥度又は先行モビリティの異常度を推定することができる。本発明によれば、演算された視界限界距離に基づいてメンテナンスの優先度が設定されるため、現場の状況に応じた適切な優先度設定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の運行管理システムの構成図である。
【
図2】本実施形態のエリアを説明するための概念図である。
【
図3】本実施形態の視界限界距離を説明するための概念図である。
【
図4】本実施形態の走行速度と目標値の関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の一実施形態である運行管理システム1を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。本実施形態では、ほとんどの道が未舗装路(ダート路)である鉱山で使用される運行管理システム1を例に、構成を説明する。
【0011】
本実施形態の運行管理システム1は、位置情報を取得可能に構成された複数の登録モビリティの運行を管理するように、各登録モビリティと通信可能に構成されたシステムである。登録モビリティは、予め運行管理システム1に登録されているモビリティである。モビリティは、路面を走行する移動体である。本実施形態において、登録モビリティとして、例えば、複数のライトビークルと、複数の大型ダンプトラック(大型重機)とが登録されている。ライトビークルは、例えば、ピックアップトラックである。登録モビリティの各種情報(例えば諸元等)は、後述するメモリ4bに記憶されている。
【0012】
運行管理システム1は、種類又は型が異なるモビリティを含む複数の登録モビリティの運行を管理する。運行管理システム1の機能は、管制システム9及び登録モビリティ内のシステムの少なくとも一方に搭載される。本実施形態の運行管理システム1の一部の機能は、モビリティ外に設置された管制システム9にて実行される。管制システム9は、無線通信装置を持つ施設に設置されている。
【0013】
より具体的に、運行管理システム1は、周辺監視装置2と、位置検出装置3と、コントローラ4と、を備えている。周辺監視装置2は、自モビリティに搭載され、自モビリティの前方にある物体と自モビリティとの距離を検出する装置である。周辺監視装置2は距離センサとも呼ばれる。周辺監視装置2は、自モビリティの周辺を監視(認識)する装置である。周辺監視装置2は、例えば、カメラ、ライダー(LiDAR:Light Detection and Ranging, or Laser Imaging Detection and Ranging)、及び/又はミリ波レーダを含んで構成されている。例えばステレオカメラのように、複数のカメラの撮像結果により、前方の物体までの距離は演算可能である。周辺監視装置2の検出結果と3次元地図データとに基づいて、精度の良い周辺状況及び自己位置の認識が可能となる。運行管理システム1は、周辺監視装置2の検出結果に基づいて、局所的な目標ルートの修正を実行可能に構成されている。
【0014】
位置検出装置3は、自モビリティに搭載され、自モビリティの位置を検出する装置である。位置検出装置3は、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)の受信機を含んで構成されている。運行管理システム1は、受信機で演算されたGNSSの測位データに基づく位置情報を取得することができる。
【0015】
コントローラ4は、位置検出装置及び周辺監視装置の検出結果に基づいて、自モビリティの自動運転を制御する装置である。コントローラ4は、1つ以上のコンピュータにより構成されている。本実施形態において、コントローラ4は、管制コンピュータ41と、搭載コンピュータ42と、を含んで構成されている。管制コンピュータ41及び搭載コンピュータ42は、それぞれ、1つ以上のプロセッサ4aと、1つ以上のメモリ4bと、を備えている。各コンピュータ41、42において、プロセッサ4aは、メモリ4bに記憶されたプログラムに従って、各種処理を実行する。メモリ4bは、コンピュータ41、42の内部又は外部に配置されている。コンピュータ41、42は、電子制御ユニット(ECU)とも呼ばれてもよい。
【0016】
管制コンピュータ41は、複数のモビリティの運行を管理する管制システム9を構成している。つまり、管制コンピュータ41は、管制システム9の少なくとも一部である。管制コンピュータ41は、各登録モビリティの目的地及び現在地等に基づいて、各登録モビリティの目標ルートを演算し、各登録モビリティに目標ルートの情報を送信する。また、管制コンピュータ41は、各登録モビリティの自動運転における走行速度及びモビリティ間距離(車間距離)に関する指令を各登録モビリティに送信する。
【0017】
搭載コンピュータ42は、自モビリティに搭載され、自モビリティの自動運転を制御する。つまり、搭載コンピュータ42は、各登録モビリティに搭載されている。搭載コンピュータ42は、管制コンピュータ41からの指令(目標ルート等)、位置検出装置3の検出結果、及び周辺監視装置2の検出結果に基づいて、自モビリティの駆動力、制動力、及び転舵角等を制御する。搭載コンピュータ42は、自動運転において、駆動力を制御するECU、制動力を制御するECU、及び転舵角を制御するECUに制御目標値を送信する。なお、各登録モビリティに搭載されるセンサは、例えば、車輪速度センサ、前後加速度センサ、上下加速度センサ、横加速度センサ、ヨーレートセンサ、ピッチレートセンサ、ロールレートセンサ、及び車高センサ等である。走行速度は、例えば車輪速度から演算できる。また、モビリティ内の通信は、例えば、CAN(car area network or controllable area network)によって行われる。
【0018】
搭載コンピュータ42は、周辺監視装置2の検出結果に基づいて、自モビリティの前方に対して周辺監視装置2の視界限界距離を演算する。視界限界距離は、周辺監視装置2が物体を検出可能な範囲の最大値である。換言すると、視界限界距離は、周辺監視装置2が物体を検出することができる前方への最大距離である。さらに換言すると、視界限界距離は、認識限界距離ともいえ、周辺監視装置2が前方の路面上に物体があると認識できる範囲の最大値である。視界限界距離は、有効レンジとも呼ばれる。
【0019】
前方に視界悪化要因がない場合、視界限界距離は、周辺監視装置2の性能等に応じて予め設定された設定値となる。周辺監視装置2の検出可能範囲内において、砂埃や異常な排気ガスなどの視界悪化要因により前方の視界が塞がれた場合、自モビリティから視界悪化要因までの距離が視界限界距離となる。つまり、視界限界距離が設定値よりも小さくなった場合、周辺監視装置2の検出可能範囲内で視界悪化要因が発生したと推定できる。視界悪化要因は、認識外乱要因とも呼ばれる。搭載コンピュータ42は、視界限界距離を演算して管制コンピュータ41に送信する。
【0020】
本実施形態のコントローラ4は、自モビリティの前方の大気中にある視界悪化要因(空間障害物ともいえる)を検出する。コントローラ4は、鉱山では、視界悪化要因と判定する対象を大気中のもの(例えば砂埃、排気ガス)に限定して、視界限界距離を演算してもよい。また、一般道では、コントローラ4は、他の視界悪化要因を考慮して、予め設定された場合分けにより、視界悪化要因を判定してもよい。例えば、認識対象物体(例えば先行モビリティ)と周辺監視装置2との間の空間において、砂埃又は有色の排気ガスにより認識対象物体の認識が厳しくなった場合、例えば周辺監視装置2が認識対象物体からの信号を受信しにくく、SN比が大きく変化する。
【0021】
コントローラ4は、例えば、周辺監視装置2を用いたToF(Time of Flight)技術により、自モビリティと視界悪化要因との距離を測定する。前方空間に砂埃や有色の排気ガスが存在する場合、周辺監視装置2から照射した光は散乱し、光が反射して戻ってくるまでの時間は変化する。視界限界距離は、例えば光の散乱パターンや光の飛行時間(ToF)に基づいて演算されてもよい。また、コントローラ4は、前方に視界悪化要因があると判定した場合、例えば、前方にあると認識した物体のうち最も遠い物体(例えば路面や路面の凹凸)と自モビリティとの距離を演算し、当該距離を視界限界距離と推定してもよい。また、コントローラ4は、前方のうち認識領域(例えば撮像された画像のうちの認識可能な部分の面積)が閾値未満になっている前方位置と自モビリティとの距離を、視界限界距離と推定してもよい。視界限界距離の演算方法は、公知の方法を利用することができる。
【0022】
(メンテナンスの優先度)
管制コンピュータ41は、視界限界距離に基づいて、路面又は自モビリティの前を走行する先行モビリティに対するメンテナンスの優先度を設定する。換言すると、管制コンピュータ41は、搭載コンピュータ42から送信された視界限界距離の情報に基づいて、路面又は先行モビリティに対するメンテナンスの優先度をメモリ4bに記憶する。管制コンピュータ41は、視界限界距離が小さいほど、メンテナンスの優先度を高くする。砂埃又は排気ガスにより視界限界距離が小さくなると、その路面への散水(メンテナンス)の優先度、又は先行モビリティの排気機構に対するメンテナンスの優先度は高くなる。
【0023】
管制コンピュータ41に記憶されている地図データでは、道路が複数のエリアに区画されている。エリアは、例えば所定間隔の格子状の直線で区切られており、グリッド又はセルともいえる。エリアは、地図データ全体に設定されてもよいし、地図データのうち道路が存在する部分に対してのみ設定されてもよい。エリアの特性(大きさ、形、数等)は、地図データに対して適宜設定可能である。
【0024】
管制コンピュータ41は、エリア毎にメンテナンスの優先度を記憶する。つまり、管制コンピュータ41は、エリアとメンテナンスの優先度とを関連付けて記憶する。例えば、エリアX1において視界限界距離が所定値より小さくなった場合、エリアX1における路面のメンテナンスの優先度が高くなる。この場合、管制コンピュータ41は、そのメンテナンス情報(優先度が高いこと)をエリアX1に関連付けて記憶する。以下、メンテナンスの優先度は、メンテナンス情報ともいう。
【0025】
管制コンピュータ41は、視界限界距離に基づいて、まずはメンテナンス対象を路面として、メンテナンス情報を各エリアに記憶する。このことについて、
図2に示すように、第1モビリティM1(先頭)、第2モビリティM2、及び第3モビリティM3(最後尾)の3台の同型のモビリティが、同じ走行速度で隊列走行している場合を例にして説明する。エリアX1において、第2モビリティM2の視界限界距離が閾値より小さくなると、エリアX1のメンテナンス情報が更新され、エリアX1における路面のメンテナンスの優先度が高くなる。続いて、エリアX1を走行する第3モビリティM3の視界限界距離が所定値以上であった場合、第2モビリティM2の視界不良はエリアX1の路面の乾燥による砂埃ではなく、例えば第1モビリティM1の排気ガス異常によるものと推定できる。この場合、管制コンピュータ41は、エリアX1のメンテナンス情報を更新前の情報に戻し、第1モビリティM1に対するメンテナンス情報を更新する。つまり、管制コンピュータ41は、各登録モビリティに関連付けてメンテナンス情報を記憶する。
【0026】
一方、エリアX1を走行する第3モビリティM3の視界限界距離が第2モビリティM2同様に所定値より小さくなった場合、エリアX1のメンテナンス対象は路面と判定し、エリアX1のメンテナンス情報を維持する。このように、所定時間内に同じエリアを走行する複数のモビリティから送信される情報に基づいて、メンテナンス対象が判定される。管制コンピュータ41は、優先度が高いエリアから順にメンテナンスに関する処理を実行してもよい。メンテナンスに関する処理は、例えば、散水車への指示、ユーザへの指示・警告、地図データ上での表示、又はメンテナンス計画の作成等である。
【0027】
(視界限界距離が小さくなった場合の制御)
搭載コンピュータ42は、視界限界距離が自モビリティの制動距離未満にならないように、自モビリティの走行速度を調整する。制動距離は、自モビリティがブレーキをかけてから自モビリティが完全に停止するまでの距離である。制動距離は、制動性能や走行速度に基づいて算出される。
図3に示すように、本実施形態の搭載コンピュータ42は、視界限界距離が制動距離未満になった場合、視界限界距離が所定距離となるように、自モビリティの走行速度を先行モビリティに対して相対的に低くする。所定距離は、制動距離と所定のマージンαとの和である。マージンαがあることで、制御のハンチングが防止される。視界限界距離が所定距離で維持されている状態は、視界限界距離が小さい状態である。したがって、そのエリア又は先行モビリティに関連付けて記憶されるメンテナンスの優先度は高くなる。
【0028】
管制コンピュータ41は、各登録モビリティに対して、モビリティ間距離の目標値を指令する。搭載コンピュータ42は、モビリティ間距離が目標値となるように、自モビリティの走行速度を制御する。以下、この制御を基本制御とも称する。搭載コンピュータ42は、例えば視界限界距離が制動距離未満又は設定値未満となった場合に、視界限界距離が所定距離となるように自モビリティの走行速度を調整する。以下、この制御を視界維持制御とも称する。視界維持制御により、視界限界距離が制動距離以上に保たれる。これにより、砂埃で前方に障害物が隠れている場合でも、搭載コンピュータ42は、障害物を認識してから停止や回避等の衝突回避処理を実行することができる。
【0029】
搭載コンピュータ42は、視界維持制御を優先的に実行しつつ、基本制御によりモビリティ間距離を目標値に近づける。したがって、砂埃又は排気ガスが大きい場合、視界維持制御により、モビリティ間距離は目標値よりも大きくなることがある。以下、視界維持制御によって目標値よりも大きくなったモビリティ間距離を、拡大離間距離とも称する。
【0030】
砂煙が大きくなるほど、視界限界距離を所定距離で保つために自モビリティの走行速度が低くなり、モビリティ間距離は大きくなる。つまり、視界維持制御によれば、砂煙の規模が大きいほど、モビリティ間距離は大きくなる。搭載コンピュータ42は、視界維持制御により変更されたモビリティ間距離を演算し、管制コンピュータ41に変更後のモビリティ間距離の情報を送信してもよい。搭載コンピュータ42は、例えば先行モビリティに対する自モビリティの相対速度の変化と走行時間に基づいて、視界維持制御後のモビリティ間距離(拡大離間距離)を演算することができる。
【0031】
管制コンピュータ41は、各登録モビリティの位置情報を各登録モビリティから取得している。管制コンピュータ41は、収集した位置情報に基づいて、各モビリティ間距離を把握することができる。また、管制コンピュータ41は、搭載コンピュータ42から送信されたモビリティ間距離の情報により、モビリティ間距離を把握することもできる。
【0032】
管制コンピュータ41は、各エリアの目標のモビリティ間距離を目標値(指令値)として送信する。目標値はエリア毎に記憶されている。目標値は、先行モビリティの走行速度によって変化する。走行速度と目標値とは比例関係にある。つまり、先行モビリティの走行速度が高いほど、モビリティ間距離の目標値は大きくなる。視界が良好である場合、各登録モビリティの搭載コンピュータ42は、モビリティ間距離が目標値となるように、自動運転を制御する。
【0033】
管制コンピュータ41は、搭載コンピュータ42の視界維持制御によりモビリティ間距離が目標値よりも大きくなった場合、対応するエリアに関連付けられた目標値を大きくする。このように、管制コンピュータ41は、所定条件が満たされると、目標値を更新する。所定条件は、例えば、「視界維持制御によりモビリティ間距離が目標値よりも大きく、且つモビリティ間距離の変動が所定範囲内に収まっている時間が所定時間を超えること」である。所定条件が満たされると、管制コンピュータ41は、目標値を現在のモビリティ間距離(拡大離間距離)に更新する。より詳細に、
図4に示すように、管制コンピュータ41は、上記所定条件が満たされた場合、走行速度の単位変化当たりの目標値の変化量を示す「目標値の傾き」を大きくする。
【0034】
管制コンピュータ41は、例えば、エリアX1に対応する目標値を更新すると、エリアX1を走行する登録モビリティに対して、更新後の目標値を送信する。これにより、目標値が更新された後にエリアX1を走行する登録モビリティのモビリティ間距離は、視界維持制御を実行することなく大きくなる。エリアX1のモビリティ間距離は、視界限界距離が制動距離よりも大きい状態で維持される。
【0035】
モビリティ間距離の目標値とメンテナンスの優先度とは対応関係にある。目標値の傾き(目標値/走行速度)が大きいほど、メンテナンスの優先度が高い。管制コンピュータ41は、目標値の傾きとメンテナンスの優先度とを関連付けて記憶する。管制コンピュータ41は、目標値の傾きが初期設定値よりも大きいエリアを、メンテナンスの優先度が高いエリアとして記憶する。路面のメンテナンスの優先度に応じて、散水の実行順序が設定される。
【0036】
管制コンピュータ41は、メンテナンスの優先度が表示された地図データを、ディスプレイ等に表示することができる。ユーザは、表示画面により各エリアのメンテナンス情報を把握することができる。また、管制コンピュータ41は、複数のエリアに対して、路面のメンテナンスの実行順序を優先度に応じて決定することができる。
【0037】
砂煙の出やすさは、例えば、路面の乾燥度、先行モビリティの大きさ、及び先行モビリティの走行速度により変化する。路面の乾燥度が高いほど、砂煙が出やすい。先行モビリティが大きいほど(例えばタイヤの接地面が大きいほど)、砂煙が出やすい。先行モビリティの走行速度が高いほど、砂煙が出やすい。コントローラ4は、これらの要因を考慮して各エリアの優先度を設定する。例えば、互いに異なるエリアを同じ走行速度で走行する大型ダンプトラックとライトビークルに対して、各エリアで同じ大きさの砂煙が発生した場合、ライトビークルが走行したエリアのほうが、大型ダンプトラックが走行したエリアよりも、路面の乾燥度が高いと判定できる。つまり、この場合、ライトビークルが走行したエリアのほうが、大型ダンプトラックが走行したエリアよりも、メンテナンスの優先度が高くなる。コントローラ4は、モビリティ間距離だけでなく、先行モビリティの大きさや走行速度に基づいて、メンテナンスの優先度を設定する。
【0038】
また、管制コンピュータ41は、メンテナンス(散水)が実行されたエリアのメンテナンス情報を、初期値に戻す。また、管制コンピュータ41は、メンテナンス情報が更新されたエリアにおいて、複数の登録モビリティの視界が良好であった場合、すなわち視界限界距離が設定値であった場合、当該エリアのメンテナンス情報を初期値に戻す。
【0039】
上記のように、管制コンピュータ41は、前後のモビリティ間の距離であるモビリティ間距離の目標値を搭載コンピュータ42に送信する。搭載コンピュータ42は、モビリティ間距離が目標値に近づくように、自モビリティの走行速度を調整する基本制御を実行する。また同時に、搭載コンピュータ42は、視界限界距離が自モビリティの制動距離以上で維持されるように、自モビリティの走行速度を調整する視界維持制御を実行する。つまり、搭載コンピュータ42は、基本制御を実行しつつ、視界維持制御を実行する。管制コンピュータ41は、視界維持制御によってモビリティ間距離が目標値よりも大きい拡大離間距離で維持された場合、目標値を拡大離間距離に更新する。管制コンピュータ41は、目標値の更新により、任意の走行速度に対する目標値が大きくなるほど、路面又は先行モビリティに対するメンテナンスの優先度を高くする。
【0040】
(本実施形態の効果)
視界良好である場合、視界限界距離は、周辺監視装置2の性能や設定により予め決まっている設定値となる。自モビリティの前方で、砂埃又は異常な排気ガスが発生している場合、視界限界距離は設定値より小さくなる。例えば、前後2台のモビリティが一定のモビリティ間距離(車間距離)で走行している場合、先行モビリティの走行による砂埃が大きくなるほど、後続モビリティの視界は悪化し、視界限界距離は小さくなる。砂埃は路面(ダート路)の乾燥度が高いほど大きくなり、異常な排気ガスは先行モビリティが異常である場合に発生する。この原理に鑑みれば、視界限界距離に応じて、路面の乾燥度又は先行モビリティの異常度を推定することができる。本実施形態によれば、演算された視界限界距離に基づいてメンテナンスの優先度が設定されるため、現場の状況に応じた適切な優先度設定が可能となる。
【0041】
また、管制コンピュータ41は、拡大離間距離(すなわち砂埃の大きさ、路面の乾燥度)に応じてモビリティ間距離の目標値を更新する。このため、更新後の目標値を受信した登録モビリティは、視界維持制御を実行することなく、路面状態に応じた適切なモビリティ間距離を実現することができる。
【0042】
(その他)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、コントローラ4は、自モビリティに搭載された搭載コンピュータ42のみで構成されてもよい。この場合、搭載コンピュータ42は、周辺監視装置2の検出結果に基づいて視界限界距離を演算し、視界限界距離に基づいて、路面又は先行モビリティに対するメンテナンスの優先度を設定するように構成される。搭載コンピュータ42は、例えば、自モビリティの後続のモビリティから視界限界距離の情報を受信し、自身が演算した視界限界距離と比較し、比較結果に基づいてメンテナンス対象が路面か先行モビリティかを判定してもよい。例えば、後続モビリティで演算された視界限界距離が自モビリティで演算された視界限界距離と同じような値であれば、メンテナンス対象は路面であると判定できる。また、後続モビリティで演算された視界限界距離が視界良好時と同様の値であり、自モビリティで演算された視界限界距離のみが小さい場合、メンテナンス対象は先行モビリティであると判定できる。このように、メンテナンス情報の設定は、管制システム9によらず、自モビリティのシステムで実行することができる。
【0043】
また、自モビリティの前方に、管制コンピュータ41からの目標値よりも大きなモビリティ間距離が存在している場合、搭載コンピュータ42は、モビリティ間距離が目標値に近づくように、自モビリティの走行速度を先行モビリティに対して相対的に高くする。そして、搭載コンピュータ42は、モビリティ間距離を目標値に近づけている最中に、視界限界を検出した場合すなわち視界限界距離が設定値未満になった場合、視界限界距離が所定距離となるように走行速度を調整する(
図3参照)。
【0044】
ここで、搭載コンピュータ42は、視界限界の精度良い検出の観点で、一時的に周辺監視装置2の感度を上げてもよい。搭載コンピュータ42は、感度を上げた状態で、モビリティ間距離を小さくし、視界限界距離を再度演算する。これにより、搭載コンピュータ42は、より精度良く視界限界距離を確定することができる。搭載コンピュータ42は、確定した視界限界距離に基づき、視界限界距離が所定距離となるように、自モビリティの走行速度を制御する。視界限界距離の確定後、周辺監視装置2の感度は初期値に戻される。なお、モビリティ間距離の調整は、先行モビリティの走行速度の制御により実現されてもよい。ただし、先行モビリティの走行速度を変更すると、砂煙の出方等が変わる可能性があるため、自モビリティの走行速度を調整することが好ましい。
【0045】
また、コントローラ4が設定するメンテナンス対象の1つとして、自モビリティの周辺監視装置2が含まれてもよい。例えば、先行モビリティが複数回交代しても、複数エリアにわたって継続的に、自モビリティの視界限界距離のみが小さい場合、自モビリティの周辺監視装置2に異常があると判定できる。異常原因としては、例えばカメラレンズの曇りやカメラレンズに泥が付着している等が考えられる。また、本開示の技術は、一般道でも利用できる。メンテナンスの優先度は、メンテナンスの必要性と言い換えることができる。また、メンテナンスの優先度を設定する処理は、ユーザ又は管制コンピュータ41にメンテナンスを促す処理と言い換えることができる。
【0046】
また、位置検出装置3及び地図データは、ナビゲーション装置の一部としてモビリティに搭載されてもよい。また、視界維持制御は、視界限界距離が所定閾値未満になった場合に実行されてもよい。この所定閾値は、例えば、視界良好時の周辺監視装置2の視界限界距離(設定値)、又は自モビリティの制動距離などに設定されてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…運行管理システム、2…周辺監視装置、3…位置検出装置、4…コントローラ、41…管制コンピュータ、42…搭載コンピュータ、9…管制システム。