(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104386
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】回転鋸
(51)【国際特許分類】
B23D 61/04 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
B23D61/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008558
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】507351850
【氏名又は名称】育良精機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000216209
【氏名又は名称】天龍製鋸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100171619
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 顕雄
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 清
(72)【発明者】
【氏名】曽根 栄二
(72)【発明者】
【氏名】宮地 祐介
(72)【発明者】
【氏名】村松 慎吾
(57)【要約】
【課題】チップの寿命を効果的に延ばす。
【解決手段】外周部に複数の刃台22が形成された円板状の台金20と、複数の刃台22にそれぞれ固定された複数のチップ30A,30B,30Cと、を備える回転鋸10であって、複数のチップ30A,30B,30Cは、台金20の径方向に延びるすくい面31A,31B,31Cと、台金20の周方向に延びる逃げ面34A,34B,34Cとを含み、逃げ面34Aは、互いに逃げ角が異なる少なくとも二以上の面部35A1,35A2,36A1,36A2,37A1,37A2を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部に複数の刃台が形成された円板状の台金と、複数の前記刃台にそれぞれ固定された複数のチップと、を備える回転鋸であって、
複数の前記チップは、前記台金の径方向に延びるすくい面と、前記台金の周方向に延びる逃げ面とを含み、
前記逃げ面は、互いに逃げ角が異なる少なくとも二以上の面部を備える
ことを特徴とする回転鋸。
【請求項2】
請求項1に記載の回転鋸であって、
複数の前記チップは、互いに高さが異なるチップを含んで構成されており、
複数の前記チップのうち、他のチップよりも高さが高いチップの逃げ面に前記面部を設けた
ことを特徴とする回転鋸。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回転鋸であって、
前記逃げ面は、前記面部として、前記すくい面側に設けられた第1面部と、該第1面部に対して前記すくい面とは反対側に設けられた第2面部とを含み、
前記第2面部の逃げ角が、前記第1面部の逃げ角よりも大きい角度で設定されている
ことを特徴とする回転鋸。
【請求項4】
請求項3に記載の回転鋸であって、
複数の前記チップは、前記面部が、すくい面視にて、左右方向の中心に位置する平坦面部と、前記平坦面部の右側に位置する右斜面部と、前記平坦面部の左側に位置する左斜面部とを有する山刃を含んで構成されており、
前記第1面部及び、前記第2面部が、前記平坦面部と、前記右斜面部と、前記左斜面部とにそれぞれ設けられている
ことを特徴とする回転鋸。
【請求項5】
請求項3に記載の回転鋸であって、
前記第1面部の逃げ角は、5°から20°の範囲であり、
前記第2面部の逃げ角は、10°から45°の範囲である
ことを特徴とする回転鋸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被削材の切断や切削等を行うために使用される回転鋸(丸鋸刃)に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転鋸は、円板状の台金の外周部に複数のチップを周方向に所定ピッチで配設することにより構成される。チップは、略直方体をなしており、台金の径方向に延びるすくい面と、台金の周方向に延びる逃げ面とを有する。
【0003】
この種の回転鋸の一例が、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1記載の回転鋸は、複数のチップとして、すくい面視で逃げ面の平坦面部が刃厚方向の中心に位置する山刃と、すくい面視で逃げ面の平坦面部が刃厚方向の中心よりも左側にオフセットされた左刃と、すくい面視で逃げ面の平坦面部が刃厚方向の中心よりも右側にオフセットされた右刃とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の回転鋸では、各チップが互いに異なる高さで形成されている。具体的には、山刃の高さが左刃及び、右刃の高さよりも高く形成されている。このような構成において、被削材の切断又は切削に伴い、山刃の摩耗が進展し、山刃が左刃や右刃と略等しい高さになると、山刃が被削材に食い込み難くなる。その結果、山刃に平坦面部が残存していたとしても、被削材を切断又は切削できなくなるといった課題がある。すなわち、山刃であるチップの寿命に改善の余地があるといえる。このような課題は、複数のチップが同じ高さのチップで構成されていたとしても、各チップの摩耗に偏りが生じた場合には起こり得る課題である。
【0006】
本開示の技術は、上記事情に鑑みてなされたものであり、チップの寿命を効果的に延ばすことができる回転鋸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の回転鋸(10)は、
外周部に複数の刃台(22)が形成された円板状の台金(20)と、複数の前記刃台(22)にそれぞれ固定された複数のチップ(30A,30B,30C)と、を備える回転鋸(10)であって、
複数の前記チップ(30A,30B,30C)は、前記台金(20)の径方向に延びるすくい面(31A,31B,31C)と、前記台金(20)の周方向に延びる逃げ面(34A,34B,34C)とを含み、
前記逃げ面(34A)は、互いに逃げ角が異なる少なくとも二以上の面部(35A1,35A2,36A1,36A2,37A1,37A2)を備える
ことを特徴とする。
【0008】
本開示の他の態様の回転鋸(10)において、
複数の前記チップ(30A,30B,30C)は、互いに高さが異なるチップを含んで構成されており、
複数の前記チップ(30A,30B,30C)のうち、他のチップよりも高さが高いチップ(30A)の逃げ面(34A)に前記面部(35A1,35A2,36A1,36A2,37A1,37A2)を設けた
ことを特徴とする
【0009】
本開示の他の態様の回転鋸(10)において、
前記逃げ面(34A)は、前記面部として、前記すくい面側に設けられた第1面部(35A1,36A1,37A1)と、該第1面部(35A1,36A1,37A1)に対して前記すくい面(31A)とは反対側に設けられた第2面部(35A2,36A2,37A2)とを含み、
前記第2面部(35A2,36A2,37A2)の逃げ角が、前記第1面部(35A1,36A1,37A1)の逃げ角よりも大きい角度で設定されている
ことを特徴とする。
【0010】
本開示の他の態様の回転鋸において、
複数の前記チップ(30A,30B,30C)は、前記面部が、すくい面視にて、左右方向の中心に位置する平坦面部(35A)と、前記平坦面部(35A)の右側に位置する右斜面部(36A)と、前記平坦面部(35A)の左側に位置する左斜面部(37A)とを有する山刃を含んで構成されており、
前記第1面部(35A1,36A1,37A1)及び、前記第2面部(35A2,36A2,37A2)が、前記平坦面部(35A)と、前記右斜面部(36A)と、前記左斜面部(37A)とにそれぞれ設けられている
ことを特徴とする。
【0011】
本開示の他の態様の回転鋸において、
前記第1面部(35A1,36A1,37A1)の逃げ角(θ1A)は、5°から20°の範囲であり、
前記第2面部(35A2,36A2,37A2)の逃げ角(θ2A)は、10°から45°の範囲である
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示の回転鋸によれば、チップの寿命を効果的に延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る回転鋸を回転軸方向から視た模式的な側面図である。
【
図2】
図1に示す回転鋸の一部を拡大した模式的な側面図である。
【
図3】
図1に示す回転鋸の一部を拡大した模式的な斜視図である。
【
図4】(A)は第1チップの正面図(すくい面視の図)、(B)は第1チップの側面図、(C)は第1チップの上面図、(D)は、(C)のA-A線断面図である。
【
図5】(A)は第2チップの正面図(すくい面視の図)、(B)は第2チップの側面図、(C)は第2チップの上面図である。
【
図6】(A)は第3チップの正面図(すくい面視の図)、(B)は第3チップの側面図、(C)は第3チップの上面図である。
【
図9】変形例の回転鋸の一部を拡大した模式的な斜視図である。
【
図10】変形例の回転鋸の一部を拡大した模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に基づいて、本実施形態に係る回転鋸について説明する。
【0015】
[全体構成]
図1は、本実施形態に係る回転鋸10を回転軸方向から視た模式的な側面図である。回転鋸10は、図示しない電動工具や切断機等の回転支軸に組み付けられる。回転鋸10は、
図1において、例えば、反時計周り(左回り)に回転することにより、被削材(例えば、金属材等)を切断及び/又は切削する。
【0016】
なお、以下の説明では、回転鋸10が被削材を切断又は切削する際に回転する方向を「順回転方向」、順回転方向と反対の回転方向を「逆回転方向」と称する。また、順回転方向側を「前側」、逆回転方向側を「後側」と称する。また、回転鋸10の回転軸方向を「左右方向、幅方向、刃厚方向」と称する。
図1の紙面表側は右側と称され、紙面裏側は左側と称される。
【0017】
回転鋸10は、台金20と、複数のチップ30(30A,30B,30C)とを備えている。台金20は、略円形状の鋼板である。台金20を形成する材料は特に限定されないが、例えば、SK85、SKS5、SAE1074、DIN75Cr1等の炭素鋼又は合金工具鋼を用いることができる。台金20の回転中心部には、電動工具や切断機等の回転軸に回転鋸10を組み付け固定するための円孔状の軸孔23が形成されている。軸孔23の軸心は、回転鋸10の回転軸心A1と同軸である。
【0018】
図1の一点鎖線LRは、回転鋸10の半径を表している。半径は、各チップ30(本実施形態では、他のチップ30B,30Cよりも高さが高い第1チップ30A)の最も外周側に突出した点を結んだ仮想外周円CRの半径である。回転鋸10の半径は、例えば、約205mmである。なお、回転鋸10の半径は特に制限されず、被削材の種類等に応じた適宜の値とすることができる。
【0019】
図2は、
図1に示す回転鋸10の一部を拡大した模式図である。
図2に示されるように、台金20の外周側の部分には、複数の歯室21が周方向に所定のピッチで設けられている。歯室21は、側面視において、台金20の外周側の部分を径方向内側に略U字状に切り欠くことにより形成されている。歯室21の径方向内側に最も窪んだ部分が歯底21Aである。刃台22は、互いに周方向に隣接する一対の歯室21の間に形成されている。すなわち、台金20の外周側には、複数の刃台22が周方向に所定のピッチで設けられている。
【0020】
複数の刃台22には、側面視において、刃台22の前端部を略L字状に切り欠くことにより形成したチップ固定部24が設けられている。チップ固定部24は、台金20の径方向に延びる前面部24Aと、台金20の径方向外側に臨む外面部24Bとを含む。複数のチップ固定部24には、各チップ30が、例えば、ろう付け等によってそれぞれ固定される。具体的には、チップ固定部24の前面部24Aにチップ30の背面が固定され、チップ固定部24の外面部24Bにチップ30の底面が固定される。
【0021】
刃台22の外周部25は、チップ固定部24から後方に向かって径方向内側に傾斜して延びるとともに、後端側に向かうに従い径方向外側に傾斜しながら延びる。すなわち、刃台22の後端部は、側面視において径方向外側に突出する。以下では、この外側に突出した部分を「制限刃LS」と称する。制限刃LSは、例えば、回転鋸10による被削材の過剰な切り込みを防止しつつ、回転鋸10の直進性を安定させるように機能する。
【0022】
複数の刃台22は、第1刃台22A、第2刃台22B及び、第3刃台22Cをそれぞれ備えている。また、複数のチップ30は、第1チップ30A、第2チップ30B及び、第3チップ30Cを備えている。第1刃台22Aには第1チップ30Aが固定されている。第2刃台22Bには第2チップ30Bが固定されている。第3刃台22Cには第3チップ30Cが固定されている。
【0023】
各チップ30は、例えば、サーメットチップである。サーメットチップは、チタン及びタンタル等を主成分とするチップであり、主に、炭化チタン(TiC)、炭窒化チタン(TiCN)等のチタン化合物をニッケル(Ni)やコバルト(Co)を用いて結合させることにより形成される。なお、チップ30はサーメットチップに限定されず、超硬合金等であってもよい。
【0024】
各チップ30は、順回転方向に第1チップ30A、第2チップ30B及び、第3チップ30Cの順となるように刃台22A,22B,22Cに配置される。すなわち、回転鋸10が被削材を切削する場合、各チップ30は、第1チップ30A、第2チップ30B及び、第3チップ30Cの順に繰り返し被削材と当接することにより、被削材を切断又は切削する。本実施形態において、回転鋸10の歯数は、例えば48個である。つまり、回転鋸10は、第1チップ30A、第2チップ30B及び、第3チップ30Cを一組のチップ群と定義すると、16組のチップ群を備えている。なお、歯数は48個に限定されず、被削材の種類等に応じた適宜の歯数とすることができる。
【0025】
各チップ30A,30B,30Cは、台金20の径方向に延び、チップ30A,30B,30Cの前面を形成するすくい面31A,31B,31Cを有する。以下では、すくい面31A,31B,31Cの最も外周側に位置する端部を「外周端部40A,40B,40C」と称する。
【0026】
第1チップ30Aの基準面Lr1は、回転軸心A1(
図1参照)及び第1チップ30Aの外周端部40Aを通る。第2チップ30Bの基準面Lr2は、回転軸心A1(
図1参照)及び第2チップ30Bの外周端部40Bを通る。第3チップ30Cの基準面Lr3は、回転軸心A1(
図1参照)及び第3チップ30Cの外周端部40Cを通る。
【0027】
本実施形態において、第2チップ30Bの外周端部40Bの径方向の高さH2と、第3チップ30Cの外周端部40Cの径方向の高さH3とは、互いに略等しい(H2=H3)。また、第1チップ30Aの外周端部40Aの径方向の高さH1は、第2チップ30B及び、第3チップ30Cの径方向の高さH2,H3よりも高い(H1>H2=H3)。また、制限刃LSの径方向の高さH0は、第1チップ30Aの径方向の高さH1、第2チップ30Bの径方向の高さH2及び、第3チップ30Cの径方向の高さH3のそれぞれよりも低い(H1>H2=H3>H0)。なお、上記高さH0、H1、H2及びH3は、回転軸心A1を中心として外周が歯底21Aを通る円の外周O1を基準とする径方向の長さである。
【0028】
[チップ30A,30B,30C]
次に、第1チップ30A、第2チップ30B及び第3チップ30Cの具体的な形状についての詳細を説明する。
【0029】
図3は、各チップ30A,30B,30Cの模式的な斜視図である。
図4は、第1チップ30Aの詳細を説明する図である。
図5は、第2チップ30Bの詳細を説明する図である。
図6は、第3チップ30Cの詳細を説明する図である。
【0030】
[第2チップ30B]
先ず、
図3及び
図5に基づいて、第2チップ30Bの詳細から説明する。第2チップ30Bは、略直方体状をなしており、すくい面(前面)31B、逃げ面34B、右側面38B及び、左側面39Bを有する。
【0031】
すくい面31Bは、径方向内側の第1すくい面32Bと、径方向外側の第2すくい面33Bとを含む。第2すくい面33Bの径方向外側の端部は、逃げ面34Bの前端に連接する。第2すくい面33Bは、第1すくい面32Bに対して所定の角度で傾斜する。第1すくい面32Bと、第2すくい面33Bとがなす角度θ3B(
図5(B)参照)は、特に制限されないが、本実施形態では、例えば約10°である。
【0032】
逃げ面34Bは、台金20の板厚方向と略平行な平坦面35Bと、右斜面36Bを含んでいる。右斜面36Bは、平坦面35Bの右端部に連続するように形成された面である。右斜面36Bは、上面(平坦面35Bと同一の仮想平面)と右側面38Bとの交差部分である右交差部が面取りされることにより形成された面である。すなわち、第2チップ30Bは、逃げ面34Bの平坦面35Bが、台金20の板厚方向の左側にオフセットされた所謂「左刃」である。右斜面36Bの平坦面35Bに対する傾斜角θ4B(
図5(A)参照)は、特に制限されないが、本実施形態では、例えば約30°である。また、基準面Lr2と直交する線D2と平坦面35Bとがなす角である先端逃げ角θ1B(
図5(B)参照)は、特に制限されないが、本実施形態では、例えば約13°である。
【0033】
[第3チップ30C]
次に、
図3及び
図6に基づいて、第3チップ30Cの詳細について説明する。第3チップ30Cは、略直方体状をなしており、すくい面(前面)31C、逃げ面34C、右側面38C及び、左側面39Cを有する。
【0034】
すくい面31Cは、径方向内側の第1すくい面32Cと、径方向外側の第2すくい面33Cとを含む。第2すくい面33Cの径方向外側の端部は、逃げ面34Cの前端に連接する。第2すくい面33Cは、第1すくい面32Cに対して所定の角度で傾斜する。第1すくい面32Cと、第2すくい面33Cとがなす角度θ3C(
図6(B)参照)は、特に制限されないが、本実施形態では、例えば約10°である。
【0035】
逃げ面34Cは、台金20の板厚方向と略平行な平坦面35Cと、左斜面37Cを含んでいる。左斜面37Cは、平坦面35Cの左端部に連続するように形成された面である。左斜面37Cは、上面(平坦面35Cと同一の仮想平面)と左側面39Cとの交差部分である左交差部が面取りされることにより形成された面である。すなわち、第3チップ30Cは、逃げ面34Cの平坦面35Cが、台金20の板厚方向の右側にオフセットされた所謂「右刃」である。左斜面37Cの平坦面35Cに対する傾斜角θ5C(
図6(A)参照)は、特に制限されないが、本実施形態では、例えば約30°である。また、基準面Lr3と直交する線D3と平坦面35Cとがなす角である先端逃げ角θ1C(
図6(B)参照)は、特に制限されないが、本実施形態では、例えば約13°である。
【0036】
[第1チップ30A]
次に、
図3及び
図4に基づいて、第1チップ30Aの詳細について説明する。第1チップ30Aは、略直方体状をなしており、すくい面(前面)31A、逃げ面34A、右側面38A及び、左側面39Aを有する。
【0037】
すくい面31Aは、径方向内側の第1すくい面32Aと、径方向外側の第2すくい面33Aとを含む。第2すくい面33Aの径方向外側の端部は、逃げ面34Aの前端に連接する。第2すくい面33Aは、第1すくい面32Aに対して所定の角度で傾斜する。第1すくい面32Aと、第2すくい面33Aとがなす角度θ3A(
図4(B)参照)は、特に制限されないが、本実施形態では、例えば約10°である。
【0038】
逃げ面34Aは、台金20の板厚方向と略平行な平坦面35Aと、右斜面36Aと、左斜面37Aを含んでいる。右斜面36Aは、平坦面35Aの右端部に連続するように形成された面である。右斜面36Aは、上面(平坦面35Aと同一の仮想平面)と右側面38Aとの交差部分である右交差部が面取りされることにより形成された面である。左斜面37Aは、平坦面35Aの左端部に連続するように形成された面である。左斜面37Aは、上面(平坦面35Aと同一の仮想平面)と左側面39Aとの交差部分である左交差部が面取りされることにより形成された面である。すなわち、第1チップ30Aは、逃げ面34Aの平坦面35Aが、台金20の板厚方向の中心に位置し、且つ、逃げ面34Aの右斜面36Aが平坦面35Aの右側に位置し、且つ、逃げ面34Aの左斜面37Aが平坦面35Aの左側に位置する所謂「山刃」である。基準面Lr1と直交する線D1と平坦面35Aとがなす角である先端逃げ角θ1A(
図4(B)参照)は、特に制限されないが、本実施形態では、例えば約13°である。
【0039】
ここで、
図7に基づき、第1チップ300Aの平坦面350Aが、先端側から後端側に亘って単一の平面で形成されている場合の比較例を説明する。
図7に示す比較例において、第1チップ300Aは、例えば山刃であり、第2チップ300Bは、例えば左刃であり、第3チップ300Cは、例えば右刃である。第1チップ300Aの高さは、第2チップ300B及び、第3チップ300Cの高さよりも高く形成されているものとする。
【0040】
図7に示されるような構成において、被削材の切断や切削に伴い、第1チップ300A,第2チップ300B及び、第3チップ300Cの摩耗が進展すると、第1チップ300Aは、第2チップ300Bや第3チップ300Cよりも早く摩耗するため、
図7中に一点鎖線で示すように、第1チップ300Aの高さが、第2チップ300B及び、第3チップ300Cの高さと略等しくなる。この際、第1チップ300Aの平坦面350Aには、後端側に摩耗していない非摩耗部Xが残る。しかしながら、第1チップ300Aの高さが、第2チップ300B及び、第3チップ300Cの高さと等しくなり、さらには、非摩耗部Xの逃げ角が非常に小さな角度となることから、第1チップ300Aは被削材に食い込み難くなり、非摩耗部Xでは被削材を切断又は切削できなくなる。すなわち、第1チップ300Aの平坦面350Aに非摩耗部Xが残っていたとしても、被削材を切断又は切削することができず、第1チップ300Aの寿命に改善の余地があるといえる。
【0041】
そこで、本実施形態では、
図3及び
図4に示されるように、第1チップ30Aの逃げ面34Aの平坦面35A,右斜面36A及び、左斜面37Aを、前端側と後端側とで逃げ角が異なる二段傾斜面とした。
【0042】
具体的には、平坦面35Aは、すくい面側(前端側)の第1平坦面部35A1と、第1平坦面35A1に対してすくい面とは反対側(後端側)の第2平坦面部35A2とを備えている。右斜面36Aは、すくい面側(前端側)の第1右斜面部36A1と、第1右斜面部36A1に対してすくい面とは反対側(後端側)の第2右斜面部36A2とを備えている。左斜面37Aは、すくい面側(前端側)の第1左斜面部37A1と、第1左斜面部37A1に対してすくい面とは反対側(後端側)の第2左斜面部37A2とを備えている。第1右斜面部36A1の第1平坦面部35A1に対する傾斜角θ4A1(
図4(A)参照)及び、第1左斜面部37A1の第1平坦面35A1に対する傾斜角θ5A1(
図4(A)参照)は、特に制限されないが、本実施形態では、例えば約45°である。また、第2右斜面部36A2の第2平坦面部35A2に対する傾斜角θ4A2(
図4(D)参照)及び、第2左斜面部37A2の第2平坦面35A2に対する傾斜角θ5A2(
図4(D)参照)は、特に制限されないが、本実施形態では、例えば約45°である。
【0043】
第1平坦面部35A1と第2平坦面部35A2との周方向の長さの比、及び、第1右斜面部36A1と第2右斜面部36A2との周方向の長さの比、及び、第1左斜面部37A1と第2左斜面部37A2との周方向の長さの比は、本実施形態では、例えば1:1である。なお、これらの周方向の長さの比は、特に制限されず、各チップ30A,30B,30Cの高さH1,H2,H3やピッチ、被削材の種類などに応じて適宜に設定することができる。以下では、第1平坦面部35A1と第2平坦面部35A2とが交わる部分を、「平坦面頂部」と称する。
【0044】
図4に示すように、第1平坦面部35A1の逃げ角は、前述の先端逃げ角θ1Aであって、基準面Lr1と直交する線D1と第1平坦面部35A1とがなす角である。本実施形態では、第1平坦面部35A1の逃げ角θ1Aは、例えば約13°である。以下では、第1平坦面部35A1の逃げ角θ1Aを「第1平坦面逃げ角」と称する。なお、第1平坦面逃げ角θ1Aは、約13°に限定されず、各チップ30A,30B,30Cの高さH1,H2,H3やピッチ、被削材の種類などに応じた適宜の角度(例えば、5°~20°)とすることができる。また、図面による詳細な説明は省略するが、以下では、第1右斜面部36A1の逃げ角を「第1右斜面逃げ角」、第1左斜面部37A1の逃げ角を「第1左斜面逃げ角」と称する。
【0045】
第2平坦面部35A2の逃げ角θ2Aは、回転軸心A1(
図1参照)及び平坦面35Aの頂部を通る基準面Lr4(
図4(B)参照)に直交する線D4と、第2平坦面部35A2とがなす角である。以下では、第2平坦面部35A2の逃げ角θ2Aを「第2平坦面逃げ角」と称する。第2平坦面逃げ角θ2Aは、第1平坦面逃げ角θ1Aよりも大きい角度で設定される(θ2A>θ1A)。すなわち、基準面Lr4に対して、第2平坦面部35A2が第1平坦面部35A1よりも大きく傾斜するように構成されている。本実施形態では、第2逃げ角θ2Aは、例えば約20°である。なお、第2逃げ角θ2Aは、約20°に限定されず、少なくとも第1逃げ角θ1Aよりも大きく、且つ、90°よりも小さい角度の範囲(例えば、10°~45°)にて、各チップ30A,30B,30Cの高さH1,H2,H3やピッチ、被削材の種類などに応じた適宜の角度とすることができる。また、図面による詳細な説明は省略するが、以下では、第2右斜面部36A2の逃げ角を「第2右斜面逃げ角」、第2左斜面部37A2の逃げ角を「第2左斜面逃げ角」と称する。第2右斜面逃げ角は、第1右斜面逃げ角よりも大きい角度で設定される。第2左斜面逃げ角は、第1左斜面逃げ角よりも大きい角度で設定される。
【0046】
以上のように構成された本実施形態に係る第1チップ30Aの作用効果を、
図8に基づいて説明する。
図8に破線で示すように、被削材の切断や切削に伴い、第1チップ30A、第2チップ30B及び、第3チップ30Cの摩耗が進展すると、第1チップ30Aは、第2チップ30Bや第3チップ30Cよりも早く摩耗する。ここで、第1チップ30A、第2チップ30B及び、第3チップ30Cの摩耗が、
図8中に一点鎖線で示すレベルまで進展したとする。この際、第1チップ30Aの逃げ面34Aには、第2平坦面部35A2、第2右斜面部36A2及び、第2左斜面部37A2が残されている。第2平坦面部35A2は、第1平坦面部35A1よりも大きな逃げ角で形成されており、第2右斜面部36A2は、第1右斜面部36A1よりも大きな逃げ角で形成されており、第2左斜面部37A2は、第1左斜面部37A1よりも大きな逃げ角で形成されている。すなわち、第2平坦面部35A2、第2右斜面部36A2及び、第2左斜面部37A2が被削材に当接する際は、
図7に示す比較例よりも逃げ角を確実に確保できるようになっている。
【0047】
これにより、各チップ30A,30B,30Cの摩耗が
図8中に一点鎖線で示すレベルまで進展した際には、第2チップ30B(左刃)及び、第3チップ30C(右刃)の高さが、第1チップ30A(山刃)よりも高くなり、これら第2チップ30B及び、第3チップ30Cが被削材に食い込み易くなる。すなわち、第1チップ30Aの第2平坦面部35A2、第2右斜面部36A2及び、第2左斜面部37A2が被削材に当接し始めると、第2チップ30B及び、第3チップ30Cが被削材に食い込み易くなることで、これら第2チップ30B及び、第3チップ30Cを主とし、第1チップ30Aを従として、被削材の切断や切削に有効に機能させることが可能になる。その結果、第1チップ30Aの寿命を効果的に改善することができ、回転鋸10の製品寿命を確実に延ばすことが可能になる。
【0048】
[その他]
なお、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
【0049】
例えば、平坦面35Aには、第1平坦面部35A1及び、第2平坦面部35A2の二個の面部、右斜面部36Aには、第1右斜面部36A1及び、第2右斜面部36A2の二個の面部、左斜面部37Aには、第1左斜面部37A1及び、第2左斜面部37A2の二個の面部が設けられるものとして説明したが、それら逃げ角が異なる面部をそれぞれ三個以上設けることも可能である。
【0050】
また、
図9に示すように、複数のチップ30は、全てを山刃としてもよい。この場合、全ての山刃を、平坦面35Aが第1平坦面部35A1と第2平坦面部35A2とを有し、且つ、右斜面部36Aが第1右斜面部36A1と第2右斜面部36A2とを有し、且つ、左斜面部37Aが第1左斜面部37A1と第2左斜面部37A2とを有する第1チップ30Aとしてもよく、或は、他の山刃よりも高い山刃のみを第1チップ30Aとしてもよい。
【0051】
また、
図10に示すように、山刃である第1チップ30Aのみならず、左刃である第2チップ30Bの平坦面35Bに第1平坦面部35B1と第2平坦面部35B2、右斜面部36Bに第1右斜面部36B1と第2右斜面部36B2をそれぞれ設け、右刃である第3チップ30Cの平坦面35Cに第1平坦面部35C1と第2平坦面部35C2、左斜面部37Cに第1左斜面部37C1と第2左斜面部37C2をそれぞれ設けて構成することも可能である。
【符号の説明】
【0052】
10…回転鋸,20…台金,21…歯室,21A歯底,22A…第1刃台,22B…第2刃台,22C…第3刃台,23…軸孔,24…チップ固定部,25…外周部,LS…制限刃,30A…第1チップ,30B…第2チップ,30C…第3チップ,31A~31C…すくい面,32A~32C…第1すくい面,33A~33C…第2すくい面,34A~34C…逃げ面,35A~35C…平坦面,35A1…第1平坦面部,35A2…第2平坦面部,36A,36B…右斜面,36A1…第1右斜面部,36A2…第2右斜面部,37A,37C…左斜面,37A1…第1左斜面部,37A2…第2左斜面部,38A~38C…右側面,39A~39C…左側面,θ1A…第1平坦面逃げ角,θ2A…第2平坦面逃げ角