(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104388
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】サスペンションアーム
(51)【国際特許分類】
B60G 7/00 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
B60G7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008562
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000241496
【氏名又は名称】豊田鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 稔也
(72)【発明者】
【氏名】神谷 啓介
(72)【発明者】
【氏名】鈴森 理生
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA77
3D301AA78
3D301AA89
3D301CA11
3D301DA08
3D301DA89
3D301DA94
3D301DB13
3D301DB20
3D301DB22
(57)【要約】
【課題】空力特性を向上できるサスペンションアームを提供する。
【解決手段】ロアアーム30は、底壁31と、底壁31から上方に突出するとともに互いに対向する第1側壁32A及び第2側壁32Bと、第1側壁32Aから第2側壁32Bとは反対側に延びる整流部70とを有している。整流部70は、第1側壁32Aの突出方向における基端部と先端部との間の部分から延びている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁と、前記底壁から上方に突出するとともに互いに対向する第1側壁及び第2側壁と、前記第1側壁から前記第2側壁とは反対側に延びる整流部と、を有するサスペンションアームであって、
前記整流部は、前記第1側壁の突出方向における基端部と先端部との間の部分から延びている、
サスペンションアーム。
【請求項2】
本体側底壁と、前記本体側底壁から上方に突出するとともに互いに対向する本体側第1側壁及び本体側第2側壁と、を有するアーム本体と、
前記アーム本体をインサートして成形される樹脂成形部と、を備え、
前記樹脂成形部は、前記本体側第1側壁の外方側の面を被覆する被覆部を有しており、
前記底壁は、前記本体側底壁を含み、前記第1側壁は、前記本体側第1側壁と前記被覆部とを含み、前記第2側壁は、前記本体側第2側壁を含み、
前記整流部は、前記被覆部に一体に設けられている、
請求項1に記載のサスペンションアーム。
【請求項3】
前記被覆部は、前記本体側第1側壁の突出方向における先端部に係合する係合部を有している、
請求項2に記載のサスペンションアーム。
【請求項4】
前記第1側壁と前記第2側壁とが対向する方向を第1方向とし、前記第1側壁が突出する方向を第2方向とし、前記第1方向と前記第2方向との双方に直交する方向を第3方向とするとき、
前記第1側壁は、前記第3方向に延びており、
前記整流部は、前記第1側壁に沿って前記第3方向に延びる長尺状をなしている、
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のサスペンションアーム。
【請求項5】
前記整流部の前記第3方向における両端部には、前記第3方向において外側に向かうほど前記第1側壁からの長さが徐々に小さくなるように湾曲した湾曲部が設けられている、
請求項4に記載のサスペンションアーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンションアームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両は、車体と車輪とを連結するサスペンションアームを備えている。
特許文献1に記載のサスペンションアームは、本体部と、本体部に加硫接着されたカバーとを備えている。本体部は、底壁と、底壁から突出するとともに対向する一対の側壁とを有している。カバーは、底壁の外方側の面と、一対の側壁の各々における外方側の面とを覆っている。カバーの一部は、一方の側壁の基端部における外方側の面から他方の側壁とは反対側に延びるとともに、走行風の空気抵抗を減少させる整流部材として機能している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1では、カバーの形状がサスペンションアームの空力特性に与える影響については具体的に言及されていない。このため、サスペンションアームの空力特性を向上する上では、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのサスペンションアームは、底壁と、前記底壁から上方に突出するとともに互いに対向する第1側壁及び第2側壁と、前記第1側壁から前記第2側壁とは反対側に延びる整流部と、を有するサスペンションアームであって、前記整流部は、前記第1側壁の突出方向における基端部と先端部との間の部分から延びている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、サスペンションアームの一実施形態であるロアアームの斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のロアアームが適用される車両の懸架装置を示す概略図である。
【
図3】
図3は、
図1のロアアームを構成するアーム本体と補強部材とを分離して示す分解斜視図である。
【
図6】
図6は、シミュレーションにおける空力特性の評価指標を説明するためのロアアームの断面図である。
【
図7】
図7は、ロアアームにおける整流部の長さ比とCd値との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、ロアアームにおける整流部の長さ比とCl値との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、ロアアームにおける整流部の高さ比とCd値との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、ロアアームにおける整流部の高さ比とCl値との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、ロアアームにおける整流部の整流部角度とCd値との関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、ロアアームにおける整流部の整流部角度とCl値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、
図1~
図12を参照して、サスペンションアームを懸架装置のロアアームとして具体化した一実施形態について説明する。
(懸架装置10)
図2に示すように、懸架装置10は、車体100と車輪110との間に配置されるとともに、車体100に対して車輪110を揺動自在に支持している。懸架装置10は、路面から車輪110を介して車体100に伝達される衝撃を緩和するとともに、路面に対して車輪110を押し付けるように構成されている。
【0008】
懸架装置10は、アッパーアーム20と、ロアアーム30と、サスペンションスプリング80とを備えている。
アッパーアーム20及びロアアーム30は、車幅方向に延びている。アッパーアーム20は、ロアアーム30の上方に配置されている。アッパーアーム20及びロアアーム30は、車体100のフレーム101と、車輪110を支持する支持部材111とを連結している。
【0009】
サスペンションスプリング80は、上下方向に延びている。サスペンションスプリング80の下端部は、ロアアーム30に支持されている。
(ロアアーム30)
図1に示すように、ロアアーム30は、底壁31と、第1側壁32Aと、第2側壁32Bと、整流部70とを有している。底壁31は、車幅方向に延びる長尺状をなしている。第1側壁32A及び第2側壁32Bは、底壁31の両端縁から上方に突出するとともに互いに対向している。整流部70は、第1側壁32Aから第2側壁32Bとは反対側に延びている。
【0010】
ロアアーム30は、第2側壁32B及び第1側壁32Aが車両の前方及び後方にそれぞれ位置するように配置される。したがって、整流部70は、第1側壁32Aから車両の後方に延びている。
【0011】
以降において、底壁31が延びる方向をX軸方向と称する。また、第1側壁32Aと第2側壁32Bとが対向する方向をY軸方向と称する。また、X軸方向とY軸方向との双方に直交する方向であって、第1側壁32A及び第2側壁32Bが突出する方向をZ軸方向と称する。X軸方向は、車幅方向と一致する方向であって、「第3方向」に相当する。Y軸方向は、車両の前後方向と一致する方向であって、「第1方向」に相当する。Z軸方向は、上下方向と一致する方向であって、「第2方向」に相当する。
【0012】
ロアアーム30は、アーム本体40と、補強部材50と、樹脂成形部60とを有している。
(アーム本体40)
図3に示すように、アーム本体40は、本体側底壁41と、本体側第1側壁42Aと、本体側第2側壁42Bとを有している。本体側底壁41は、X軸方向に延びる長尺状をなしている。本体側第1側壁42A及び本体側第2側壁42Bは、本体側底壁41のY軸方向における両端縁から上方に突出するとともに互いに対向している。アーム本体40は上方に開口している。
【0013】
アーム本体40は、例えば、金属板をプレス加工することにより成形されている。アーム本体40の材料としては、高張力鋼などの金属材料が挙げられる。
本体側底壁41のX軸方向における中間部41aは、その他の部分よりもY軸方向における幅が大きい。中間部41aのY軸方向における幅は、X軸方向における両側の部分ほど徐々に小さくなっている。本体側底壁41の中間部41aは、Z軸方向から視て紡錘状をなしている。
【0014】
本体側底壁41のうちX軸方向の両側において中間部41aに隣り合う部分は、X軸方向において直線状に延びている。
本体側第1側壁42A及び本体側第2側壁42Bは、Y軸方向において対称な形状をなしている。このため、以降では、本体側第1側壁42Aの構成について説明することで、本体側第2側壁42Bの構成についての説明を省略することがある。
【0015】
本体側第1側壁42Aは、本体側底壁41のX軸方向における全体にわたって延びている。本体側第1側壁42AのX軸方向における一端部であって、後述する第1連結部47を構成する部分は、本体側底壁41よりもX軸方向に突出している。
【0016】
図5に示すように、本体側第1側壁42Aのうち中間部41aから突出する部分は、本体側底壁41に連なる傾斜部43と、傾斜部43に連なる直線部44とを有している。
傾斜部43は、上方に向かうほどY軸方向において本体側第2側壁42Bから離れるように傾斜している。傾斜部43は、本体側第1側壁42Aの突出方向における基端部を含む。
【0017】
直線部44は、Z軸方向において直線状に延びている。本体側第1側壁42Aの直線部44及び本体側第2側壁42Bの直線部44は、平行に延びている。
図3に示すように、本体側第1側壁42A及び本体側第2側壁42Bは、第1フランジ45A及び第2フランジ45Bをそれぞれ有している。第1フランジ45Aは、本体側第1側壁42Aにおける本体側底壁41とは反対側の端部からY軸方向において本体側第2側壁42Bとは反対側に突出している。第1フランジ45A及び第2フランジ45Bは、Y軸方向において互いに反対側に突出している。第1フランジ45Aは、本体側第1側壁42Aの突出方向における先端部を構成している。第1フランジ45Aは、本体側第1側壁42AのX軸方向における全体にわたって延びている。
【0018】
アーム本体40は、スプリング収容部46と、第1連結部47と、第2連結部48とを有している。スプリング収容部46は、アーム本体40のX軸方向における中央部を構成している。第1連結部47及び第2連結部48は、スプリング収容部46のX軸方向における両端にそれぞれ連なっている。
【0019】
(スプリング収容部46)
スプリング収容部46は、中間部41aと、本体側第1側壁42Aと、本体側第2側壁42Bとによって、サスペンションスプリング80の下端部が収容される収容空間を形成している。
【0020】
スプリング収容部46における本体側第1側壁42A及び本体側第2側壁42Bは、Y軸方向において互いに反対側に膨出している。
スプリング収容部46の底部、すなわち中間部41aには、Z軸方向に貫通する貫通孔46aが設けられている。貫通孔46aは、円形状をなしている。
【0021】
(第1連結部47)
第1連結部47は、アーム本体40における車体100に連結される部分である。第1連結部47における本体側第1側壁42A及び本体側第2側壁42Bは、X軸方向において平行に延びている。第1連結部47における本体側第1側壁42A及び本体側第2側壁42Bは、本体側底壁41のX軸方向における端縁よりもX軸方向に突出している。
【0022】
第1連結部47における本体側第1側壁42A及び本体側第2側壁42Bには、Y軸方向に貫通する第1連結孔47aがそれぞれ設けられている。第1連結部47は、第1連結孔47aに挿入された図示しない回転軸を介して車体100のフレーム101に対して回転可能に連結される。
【0023】
(第2連結部48)
第2連結部48は、アーム本体40における車輪110に連結される部分である。第2連結部48における本体側第1側壁42A及び本体側第2側壁42Bは、X軸方向において平行に延びている。
【0024】
第2連結部48における本体側第1側壁42A及び本体側第2側壁42Bには、Y軸方向に貫通する第2連結孔48aがそれぞれ設けられている。第2連結部48は、第2連結孔48aに挿入された図示しない回転軸を介して車輪110の支持部材111に対して回転可能に連結される。
【0025】
(補強部材50)
補強部材50は、平板状をなしている。補強部材50は、スプリング収容部46を上方から覆っている。補強部材50は、Z軸方向から視て紡錘状をなしている。
【0026】
補強部材50の材料としては、高張力鋼などの金属材料が挙げられる。
補強部材50は、スプリング収容部46における第1フランジ45A及び第2フランジ45Bの上面に対して、例えば溶接により接合されている。
【0027】
図4に示すように、補強部材50のY軸方向における両端縁は、スプリング収容部46における第1フランジ45A及び第2フランジ45BのY軸方向における端縁よりも内側に位置している。
【0028】
補強部材50には、サスペンションスプリング80が挿入される挿入孔50aが設けられている。挿入孔50aは、スプリング収容部46の収容空間に連通している。
(樹脂成形部60)
図1及び
図4に示すように、樹脂成形部60は、アーム本体40及び補強部材50をインサートして成形されている。樹脂成形部60は、補強部材50が接合されたアーム本体40が図示しない金型装置の内部にインサート品として配置された後、当該金型装置の内部に樹脂が充填されることにより成形されている。
【0029】
樹脂成形部60の材料としては、例えば、熱可塑性の樹脂材料が挙げられる。
樹脂成形部60は、第1被覆部61と、第2被覆部64と、第3被覆部67とを有している。
【0030】
(第1被覆部61)
図5に示すように、第1被覆部61は、本体側第1側壁42Aの外方側の面を被覆している。より詳しくは、第1被覆部61は、本体側第1側壁42Aの外方側の面のうち第1連結孔47a及び第2連結孔48aのそれぞれの周囲を除く部分を被覆している。本体側第1側壁42Aの外方側の面は、本体側第1側壁42Aにおける本体側第2側壁42Bに対向する面とは反対側の面である。第1被覆部61は、「被覆部」に相当する。
【0031】
第1被覆部61は、本体側第1側壁42Aの傾斜部43を被覆する傾斜被覆部61aと、本体側第1側壁42Aの直線部44を被覆する直線被覆部61bとを有している。傾斜被覆部61aは、本体側第1側壁42Aの傾斜部43における外方側の面に沿って延びている。直線被覆部61bは、本体側第1側壁42Aの直線部44における外方側の面に沿って延びている。
【0032】
図1に示すように、第1被覆部61は、本体側第1側壁42AのX軸方向における両端部にそれぞれ係合する2つの係合部62と、第1フランジ45Aの先端部に係合する係合部63とを有している。係合部63は、「係合部」に相当する。
【0033】
各係合部62は、本体側第1側壁42AのX軸方向における一端部をY軸方向における両側、及びX軸方向における一方側から被覆している。各係合部62は、本体側第1側壁42Aの上記一端部に対してZ軸方向における全体にわたって係合している。
【0034】
図5に示すように、係合部63は、第1フランジ45Aの先端部をZ軸方向における両側、及びY軸方向における一方側から被覆している。係合部63は、第1フランジ45Aの先端部に対してX軸方向における全体にわたって係合している。
【0035】
スプリング収容部46においては、係合部63は、第1フランジ45Aの先端部に加えて、第1フランジ45Aと補強部材50との接合部分を被覆している。
(第2被覆部64)
図5に示すように、第2被覆部64は、本体側第2側壁42Bの外方側の面を被覆している。より詳しくは、第2被覆部64は、本体側第2側壁42Bの外方側の面のうち第1連結孔47a及び第2連結孔48aのそれぞれの周囲を除く部分を被覆している。本体側第2側壁42Bの外方側の面は、本体側第2側壁42Bにおける本体側第1側壁42Aに対向する面とは反対側の面である。
【0036】
第2被覆部64は、本体側第2側壁42Bの傾斜部43を被覆する傾斜被覆部64aと、本体側第2側壁42Bの直線部44を被覆する直線被覆部64bとを有している。傾斜被覆部64aは、本体側第2側壁42Bの傾斜部43における外方側の面に沿って延びている。直線被覆部64bは、本体側第2側壁42Bの直線部44における外方側の面に沿って延びている。
【0037】
図1に示すように、第2被覆部64は、本体側第2側壁42BのX軸方向における両端部にそれぞれ係合する2つの係合部65と、第2フランジ45Bの先端部に係合する係合部66とを有している。
【0038】
各係合部65は、本体側第2側壁42BのX軸方向における一端部をY軸方向における両側、及びX軸方向における一方側から被覆している。各係合部65は、本体側第2側壁42Bの上記一端部に対してZ軸方向における全体にわたって係合している。
【0039】
図5に示すように、係合部66は、第2フランジ45Bの先端部をZ軸方向における両側、及びY軸方向における一方側から被覆している。係合部66は、第2フランジ45Bの先端部に対してX軸方向における全体にわたって係合している。
【0040】
スプリング収容部46においては、係合部66は、第2フランジ45Bの先端部に加えて、第2フランジ45Bと補強部材50との接合部分を被覆している。
(第3被覆部67)
図5に示すように、第3被覆部67は、本体側底壁41の外方側の面の全体を被覆している。本体側底壁41の外方側の面は、本体側底壁41の下面である。
【0041】
図4に示すように、第3被覆部67は、本体側底壁41のX軸方向における両端部にそれぞれ係合する2つの係合部68と、貫通孔46aの周縁部に係合する係合部69とを有している。
【0042】
各係合部68は、本体側底壁41のX軸方向における一端部をZ軸方向における両側、及びX軸方向における一方側から被覆している。各係合部68は、本体側底壁41の上記一端部に対してY軸方向における全体にわたって係合している。
【0043】
図5に示すように、係合部69は、貫通孔46aの周縁部をZ軸方向における両側、及び貫通孔46aの内面側から被覆している。係合部69は、貫通孔46aの周縁部に対して周方向の全体にわたって係合している。
【0044】
ロアアーム30の底壁31は、本体側底壁41と第3被覆部67とを含んでいる。ロアアーム30の第1側壁32Aは、本体側第1側壁42Aと第1被覆部61とを含んでいる。ロアアーム30の第2側壁32Bは、本体側第2側壁42Bと第2被覆部64とを含んでいる。
【0045】
(整流部70)
整流部70は、第1被覆部61のうちスプリング収容部46における本体側第1側壁42Aの外方側の面を被覆する部分から、第2側壁32Bとは反対側に延びている。整流部70は、第1被覆部61と一体に設けられている。
【0046】
整流部70は、薄板状をなしている。整流部70は、第1側壁32Aの突出方向における基端部と先端部との間の部分から延びている。第1側壁32Aの基端部は、第1側壁32Aのうち底壁31に連なる部分である。
【0047】
整流部70は、例えば、第1被覆部61における直線被覆部61bの下端部であって、傾斜被覆部61aに連なる部分から延びている。整流部70は、例えば、Y軸方向において第1側壁32Aから離れるほど下方に位置するように水平方向に対して傾斜している。
【0048】
図4に示すように、整流部70は、第1側壁32Aに沿ってX軸方向に延びる長尺状をなしている。整流部70は、スプリング収容部46における第1側壁32AのX軸方向における全体にわたって延びている。
【0049】
整流部70のX軸方向における両端部には、湾曲部71が設けられている。湾曲部71は、X軸方向において外側に向かうほど第1側壁32Aからの長さが徐々に小さくなるように湾曲している。各湾曲部71のX軸方向における端部は、第1被覆部61の外面と段差無く連なっている。
【0050】
整流部70のうち湾曲部71を除く部分は、スプリング収容部46における第1側壁32Aの外面に沿って湾曲している。
図6に示すように、整流部70の第1側壁32Aからの長さである整流部長さlは、第1側壁32Aの外方側の面と第2側壁32Bの外方側の面との距離である側壁幅aよりも小さい。側壁幅aは、第1被覆部61における直線被覆部61bの下端部と、第2被覆部64における直線被覆部64bの下端部との距離である。
【0051】
側壁幅aに対する整流部長さlの割合は、整流部70のX軸方向における両端部を除く部分において、例えば、30%~60%の範囲内となるように設定されている。側壁幅aに対する整流部長さlの割合は、整流部70のX軸方向における中央部から湾曲部71に向かうほど徐々に大きくなっている。整流部70のX軸方向における中央部では、側壁幅aに対する整流部長さlの割合が、例えば、30%程度に設定されている。整流部70のうち、側壁幅aに対する整流部長さlの割合が30%~60%の範囲内となる部分のX軸方向における長さは、例えば、第1側壁32AのX軸方向における長さの半分以上である。
【0052】
(シミュレーション結果)
整流部70の整流部長さl、整流部高さh、及び整流部角度θを変化させた場合のロアアーム30の空力特性について、シミュレーション結果を用いて説明する。
【0053】
図6に示すように、本シミュレーションにおける整流部長さlは、整流部70のうち第1側壁32AのX軸方向における中央から延びる部分の長さである。整流部高さhは、底壁31の下面から整流部70の基端までの高さである。整流部角度θは、X軸方向から整流部70を視たときに、Y軸方向に延びる仮想軸線Vと整流部70とがなす角度である。整流部70が斜め上方に延びる場合は、整流部角度θは正の値となる。整流部70が斜め下方に延びる場合は、整流部角度θは負の値となる。
【0054】
本シミュレーションでは、整流部長さl及び整流部高さhを変化させた場合のロアアーム30の空力特性を評価する指標として、長さ比R1及び高さ比R2が用いられる。長さ比R1は、側壁幅aに対する整流部長さlの比(l/a)である。高さ比R2は、ロアアーム30の高さbに対する整流部高さhの比(h/b)である。ロアアーム30の高さbは、底壁31の下面から第1側壁32A及び第2側壁32Bの上面までの高さである。
【0055】
図7は、整流部角度θが0°の場合において長さ比R1を0.06~0.4まで変化させた際のロアアーム30の抗力係数であるCd値(以下、単にCd値という)の変化を示すグラフである。
図7の実線は、高さ比R2が0.2の場合のグラフであり、
図7の二点鎖線は、高さ比R2が0.3の場合のグラフである。
【0056】
図7に示すように、高さ比R2が0.2の場合及び高さ比R2が0.3の場合では、長さ比R1が大きくなるほど、すなわち、整流部長さlが長くなるほどCd値が低減されることが確認された。本シミュレーションでは、長さ比R1が0.4の場合にCd値が最も小さくなった。長さ比R1が0.4のとき、高さ比R2が0.3の場合のCd値よりも高さ比R2が0.2の場合のCd値が小さくなった。
【0057】
図8は、整流部角度θが0°の場合において長さ比R1を0.06~0.4まで変化させた際のロアアーム30の揚力係数であるCl値(以下、単にCl値という)の変化を示すグラフである。
図8の実線は、高さ比R2が0.2の場合のグラフであり、
図8の二点鎖線は、高さ比R2が0.3の場合のグラフである。
【0058】
図8に示すように、高さ比R2が0.2の場合及び高さ比R2が0.3の場合では、長さ比R1が大きくなるほど、すなわち、整流部長さlが長くなるほどCl値が低減されることが確認された。本シミュレーションでは、長さ比R1が0.4の場合にCl値が最も小さくなった。長さ比R1が0.4のとき、高さ比R2が0.3の場合のCl値よりも高さ比R2が0.2の場合のCl値が小さくなった。
【0059】
図9は、整流部角度θが0°の場合において高さ比R2を0~0.3まで変化させた際のCd値の変化を示すグラフである。
図9の実線は、長さ比R1が0.2の場合のグラフであり、
図9の二点鎖線は、長さ比R1が0.4の場合のグラフである。
【0060】
図9に示すように、長さ比R1が0.2の場合及び長さ比R1が0.4の場合では、高さ比R2が0から0.2に近付くほどCd値が低減され、高さ比R2が0.2より大きくなるほどCd値が増加することが確認された。本シミュレーションでは、高さ比R2が0.2の場合にCd値が最も小さくなった。高さ比R2が0.2のとき、長さ比R1が0.2の場合のCd値よりも長さ比R1が0.4の場合のCd値が小さくなった。なお、高さ比R2が0.2のときの整流部70は、傾斜被覆部61aから延びるものである。高さ比R2が0.3のときの整流部70は、直線被覆部61bから延びるものである。
【0061】
図10は、整流部角度θが0°の場合において高さ比R2を0~0.3まで変化させた際のCl値の変化を示すグラフである。
図10の実線は、長さ比R1が0.2の場合のグラフであり、
図10の二点鎖線は、長さ比R1が0.4の場合のグラフである。
【0062】
図10に示すように、長さ比R1が0.2の場合及び長さ比R1が0.4の場合では、高さ比R2が0から0.2に近付くほどCl値が低減され、高さ比R2が0.2より大きくなるほどCl値が増加することが確認された。本シミュレーションでは、高さ比R2が0.2の場合にCl値が最も小さくなった。高さ比R2が0.2のとき、長さ比R1が0.2の場合のCl値よりも長さ比R1が0.4の場合のCl値が小さくなった。
【0063】
高さ比R2が0の場合の整流部70は、第1側壁32Aの突出方向における基端部から延びるものである。したがって、
図9及び
図10に示すように、高さ比R2が0より大きい場合、すなわち、整流部70が第1側壁32Aの突出方向における基端部と先端部との間の部分から延びるものである場合、ロアアーム30の空力特性が向上することが確認された。
【0064】
図11は、長さ比R1が0.4の場合において整流部角度θを-20°~20°まで変化させた際のCd値の変化を示すグラフである。
図11の実線は、高さ比R2が0.2の場合のグラフであり、
図11の二点鎖線は、高さ比R2が0.3の場合のグラフである。
【0065】
図11に示すように、高さ比R2が0.2の場合では、整流部角度θが-20°から0°に近付くほどCd値が低減され、整流部角度θが0°より大きくなるほどCd値が増加することが確認された。高さ比R2が0.3の場合では、整流部角度θが-20°から-10°に近付くほどCd値が低減され、整流部角度θが-10°より大きくなるほどCd値が増加することが確認された。
【0066】
図12は、長さ比R1が0.4の場合において整流部角度θを-20°~20°まで変化させた際のCl値の変化を示すグラフである。
図12の実線は、高さ比R2が0.2の場合のグラフであり、
図12の二点鎖線は、高さ比R2が0.3の場合のグラフである。
【0067】
図12に示すように、高さ比R2が0.2の場合では、整流部角度θが-20°から0°に近付くほどCl値が低減され、整流部角度θが0°より大きくなるほどCl値が増加することが確認された。高さ比R2が0.3の場合では、整流部角度θが-20°から-5°に近付くほどCl値が低減され、整流部角度θが-5°より大きくなるほどCl値が増加することが確認された。
【0068】
Cl値が過度に負の値となる場合、車両の転がり抵抗が増加する要因となるため、Cl値は概ね0であることが好ましい。高さ比R2が0.2の場合では、整流部角度θが0°のときにCl値が概ね0となった。高さ比R2が0.3の場合では、整流部角度θが-10°から0°のときにCl値が概ね0となった。
【0069】
以上のことから、長さ比R1を0.4、高さ比R2を0.2、整流部角度θを-10°から0°に設定することにより、ロアアーム30の空力特性を効果的に向上できることが分かる。
【0070】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)ロアアーム30は、底壁31と、底壁31から上方に突出するとともに互いに対向する第1側壁32A及び第2側壁32Bと、第1側壁32Aから第2側壁32Bとは反対側に延びる整流部70とを有している。整流部70は、第1側壁32Aの突出方向における基端部と先端部との間の部分から延びている。
【0071】
こうした構成によれば、第2側壁32Bから第1側壁32Aに向かって空気が流れる際に、整流部70によって空気が整流されるため、ロアアーム30に生じる抗力が低減される。
【0072】
また、整流部70が第1側壁32Aの基端部から第2側壁32Bとは反対側に延びる場合と比較して、整流部70を挟んで互いに反対側に位置する空間における空気の流速の差が大きくなる。より詳しくは、整流部70の上方において整流部70と第1側壁32Aとにより囲まれる上方空間における流速が、整流部70の下方において整流部70と第1側壁32Aとにより囲まれる下方空間における流速よりも遅くなる。このため、上方空間における空気の圧力が、下方空間における空気の圧力よりも高くなる。こうした圧力差によって、ロアアーム30に生じる揚力の増加が抑制される。以上のことから、ロアアーム30における空力特性を向上できる。
【0073】
(2)ロアアーム30は、アーム本体40と、アーム本体40をインサートして成形される樹脂成形部60とを備えている。アーム本体40は、本体側底壁41と、本体側底壁41から上方に突出するとともに互いに対向する本体側第1側壁42A及び本体側第2側壁42Bとを有している。樹脂成形部60は、本体側第1側壁42Aの外方側の面を被覆する第1被覆部61を有している。整流部70は、第1被覆部61に一体に設けられている。
【0074】
こうした構成によれば、アーム本体40をインサートして成形される樹脂成形部60の一部として整流部70を成形することができる。これにより、アーム本体40とは別体の整流部70をアーム本体40に対して後付けする場合と比較して、ロアアーム30の部品点数の増加及び組付工数の増加を抑制できる。また、アーム本体40と整流部70との位置合わせが不要となる。
【0075】
(3)第1被覆部61は、本体側第1側壁42Aの突出方向における先端部である第1フランジ45Aに係合する係合部63を有している。
こうした構成によれば、係合部63が第1フランジ45Aに係合する。これにより、本体側第1側壁42Aと第1被覆部61との位置ずれ、ひいては、アーム本体40と整流部70との位置ずれを抑制できる。したがって、整流部70による空力特性の向上効果が発揮されやすくなる。
【0076】
(4)整流部70は、第1側壁32Aに沿ってX軸方向に延びる長尺状をなしている。
こうした構成によれば、整流部70による空力特性の向上効果が発揮される範囲をX軸方向において広げることができる。
【0077】
また、整流部70のX軸方向における両端部が整流部70の全体に占める割合が小さくなる。これにより、整流部70のX軸方向における両端部の下面から上面に向かって流れる空気の渦によって整流部70に生じる抗力の影響を小さくできる。したがって、ロアアーム30における空力特性を向上できる。
【0078】
(5)整流部70のX軸方向における両端部には、X軸方向において外側に向かうほど第1側壁32Aからの長さが徐々に小さくなるように湾曲した湾曲部71が設けられている。
【0079】
こうした構成によれば、整流部70のX軸方向における両端部の下面から上面に向かって流れる渦の発生を抑制しやすくなるため、当該両端部における抗力を低減できる。したがって、ロアアーム30における空力特性を向上できる。
【0080】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0081】
・整流部70から湾曲部71が省略されてもよい。この場合、整流部70のX軸方向における両端部は、第1被覆部61の外面と段差を介して連なっていてもよい。
・整流部長さlは、X軸方向において一定であってもよい。
【0082】
・整流部70は、Z軸方向から視て、Y軸方向に長い長尺状をなすものであってもよい。
・樹脂成形部60から係合部62,63,65,66,68,69のうち少なくとも1つが省略されてもよい。
【0083】
・ロアアーム30から補強部材50が省略されてもよい。この場合、本体側第1側壁42A及び本体側第2側壁42Bは、第1フランジ45A及び第2フランジ45Bをそれぞれ有するものでなくてもよい。この場合、係合部63及び係合部66は、本体側第1側壁42Aの先端部及び本体側第2側壁42Bの先端部に係合していることが好ましい。
【0084】
・整流部70は、樹脂成形部60に対して着脱可能に構成されていてもよい。
・ロアアーム30から樹脂成形部60が省略されてもよい。この場合、整流部70は、本体側第1側壁42Aに溶接などにより固定されるものであってもよいし、本体側第1側壁42Aに対して着脱可能に構成されていてもよい。
【0085】
・ロアアーム30は、懸架装置10のアッパーアーム20に対して適用されてもよい。
【符号の説明】
【0086】
10…懸架装置
20…アッパーアーム
30…ロアアーム
31…底壁
32A…第1側壁
32B…第2側壁
40…アーム本体
41…本体側底壁
41a…中間部
42A…本体側第1側壁
42B…本体側第2側壁
43…傾斜部
44…直線部
45A…第1フランジ
45B…第2フランジ
46…スプリング収容部
46a…貫通孔
47…第1連結部
47a…第1連結孔
48…第2連結部
48a…第2連結孔
50…補強部材
50a…挿入孔
60…樹脂成形部
61…第1被覆部
61a,64a…傾斜被覆部
61b,64b…直線被覆部
62,63,65,66,68,69…係合部
64…第2被覆部
67…第3被覆部
70…整流部
71…湾曲部
80…サスペンションスプリング
100…車体
101…フレーム
110…車輪
111…支持部材