(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010439
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】可動式通路
(51)【国際特許分類】
B61B 1/02 20060101AFI20240117BHJP
【FI】
B61B1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111774
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】青木 優介
(72)【発明者】
【氏名】増田 良夫
(72)【発明者】
【氏名】井本 清紀
(72)【発明者】
【氏名】佐野 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】堂城 昌宏
【テーマコード(参考)】
3D101
【Fターム(参考)】
3D101AA18
3D101AA24
3D101AC10
(57)【要約】
【課題】外側通路と内側通路との間をシールするシール部材を摩耗し難くできる可動式通路を提供すること。
【解決手段】固定通路20(外側通路)に対する先端通路30(内側通路)の張出量L1を大きくした伸長状態において、給排部70によりシール部材50を膨張させることで、固定通路20の内周面と先端通路30の外周面との間がシールされる。給排部70により膨張中のシール部材50を収縮させることで、固定通路20と先端通路30との間のシールが解除される。固定通路20に対し先端通路30を前後方向に移動させるときに、シール部材50によるシールを解除しておくことで、固定通路20や先端通路30とシール部材50とを擦れ難くでき、シール部材50の摩耗を抑制できる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸長状態と、その伸長状態に対し短縮した短縮状態と、を切り換えて前後方向に伸縮する可動式通路であって、
前後方向に延びた筒状の外側通路と、
その外側通路の内側に挿入されて前記外側通路に対し前後方向に相対移動する筒状の内側通路と、
その相対移動によって前記外側通路に対する前記内側通路の張出量を大きくすることで前記短縮状態から前記伸長状態へ切り換える駆動機構と、
前記内側通路の外周面と前記外側通路の内周面との間に全周に亘って配置され少なくとも径方向に膨張または収縮可能な環状のシール部材と、
そのシール部材に流体を供給することで前記シール部材を膨張させる供給部と、
前記シール部材から流体を排出することで前記シール部材を収縮させる排出部と、を備え、
前記伸長状態において前記供給部により膨張した前記シール部材で前記内側通路の外周面と前記外側通路の内周面との間がシールされ、膨張中の前記シール部材を前記排出部により収縮させることで前記内側通路と前記外側通路との間のシールが解除されることを特徴とする可動式通路。
【請求項2】
前記内側通路は、前記伸長状態において前記シール部材でシールされる位置の外周面をその前後方向の外周面に対して径方向外側に配置した当接部を備えることを特徴とする請求項1記載の可動式通路。
【請求項3】
前記可動式通路は、前記伸長状態において第1部と第2部とを繋ぐものであり、
前記駆動機構は、前記第1部から前記第2部までの距離に応じて前記伸長状態における前記張出量が調整されることを特徴とする請求項1記載の可動式通路。
【請求項4】
前記可動式通路は、前記伸長状態において第1部と第2部とを繋ぎ、その第1部に固定されるものであり、
前記外側通路は、前記第1部に固定され、
前記シール部材は、前記外側通路に取り付けられ、膨張した場合に前記内側通路に密着することを特徴とする請求項1記載の可動式通路。
【請求項5】
前記排出部は、膨張中の前記シール部材を収縮させるとき、前記シール部材の内部の流体圧が大気圧よりも低くなるように流体を排出することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の可動式通路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外側通路に内側通路が挿入された可動式通路に関し、特に外側通路と内側通路との間をシールするシール部材を摩耗し難くできる可動式通路に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば駅のホームに取り付けられる可動式通路には、筒状の外側通路に対する筒状の内側通路の前後方向の張出量を変化させて伸縮可能としたものがある(特許文献1)。この可動式通路は、外側通路に対し内側通路を前後方向に張り出させて伸長状態とされ、外側通路に内側通路を入り込ませることで短縮状態とされる。伸長状態の可動式通路はホームに停車した車両の乗降口に接続され、この可動式通路を通ってホームと車両との間で乗客が乗降する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
停車した車両とホームとを繋いだ伸長状態の可動式通路の外部では、駅を他の車両が通過すること等に起因して気圧が変化することがある。そこで、この気圧の変化が可動式通路の外部から内部へ伝播することを抑制するために、外側通路と内側通路との間をシールすることが考えられる。また、例えば建築物間を繋ぐ可動式通路でも同様に、外側通路と内側通路との間をシールして気密性を確保することが求められる。
【0005】
しかし、外側通路の内周面と内側通路の外周面との間で径方向にシール部材を挟むと、外側通路に対する内側通路の張出量を変化させるときにシール部材が擦れ、シール部材が摩耗し易くなるおそれがある。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、外側通路と内側通路との間をシールするシール部材を摩耗し難くできる可動式通路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明の可動式通路は、伸長状態と、その伸長状態に対し短縮した短縮状態と、を切り換えて前後方向に伸縮する可動式通路であって、前後方向に延びた筒状の外側通路と、その外側通路の内側に挿入されて前記外側通路に対し前後方向に相対移動する筒状の内側通路と、その相対移動によって前記外側通路に対する前記内側通路の張出量を大きくすることで前記短縮状態から前記伸長状態へ切り換える駆動機構と、前記内側通路の外周面と前記外側通路の内周面との間に全周に亘って配置され少なくとも径方向に膨張または収縮可能な環状のシール部材と、そのシール部材に流体を供給することで前記シール部材を膨張させる供給部と、前記シール部材から流体を排出することで前記シール部材を収縮させる排出部と、を備え、前記伸長状態において前記供給部により膨張した前記シール部材で前記内側通路の外周面と前記外側通路の内周面との間がシールされ、膨張中の前記シール部材を前記排出部により収縮させることで前記内側通路と前記外側通路との間のシールが解除される。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の可動式通路によれば、前後方向に延びた筒状の外側通路の内側に筒状の内側通路が挿入され、駆動機構によって外側通路に対する内側通路の前後方向の張出量を大きくすることで可動式通路が短縮状態から伸長状態へ切り換えられる。内側通路の外周面と外側通路の内周面との間には、全周に亘って環状のシール部材が配置される。伸長状態において供給部によりシール部材に流体を供給してシール部材を径方向に膨張させることで、内側通路の外周面と外側通路の内周面との間がシールされる。
【0009】
排出部によりシール部材から流体を排出して膨張中のシール部材を収縮させることで、内側通路と外側通路との間のシールが解除される。外側通路に対し内側通路を前後方向に移動させるときに、シール部材によるシールを解除しておくことで、外側通路や内側通路とシール部材とを擦れ難くでき、シール部材の摩耗を抑制できる。
【0010】
なお、「排出部」としては、流体を強制的に排出させるポンプや、流体を自然に排出させるために大気開放するバルブ等が例示される。
【0011】
請求項2記載の可動式通路によれば、請求項1記載の可動式通路の奏する効果に加え、次の効果を奏する。内側通路は、伸長状態においてシール部材でシールされる位置の外周面をその前後方向の外周面に対して径方向外側に配置した当接部を備える。これにより、シール部材でシールされない位置であって当接部の前後方向における内側通路の外周面を、外側通路の内周面から径方向に離し易くできる。よって、外側通路と内側通路とを接触させないために、外側通路の内周面に対する高い加工精度が必要となる部分を当接部の外周面などの少ない範囲に限定でき、内側通路を製造し易くできる。
【0012】
請求項3記載の可動式通路によれば、請求項1記載の可動式通路の奏する効果に加え、次の効果を奏する。可動式通路は、伸長状態において第1部と第2部とを繋ぐものである。駆動機構は、第1部から第2部までの距離に応じて伸長状態における張出量が調整される。これにより、第1部から第2部までの前後方向の距離が変動する場合に、外側通路に対する内側通路の張出量を調整することで、第1部と第2部とを繋ぐ伸長状態の可動式通路の長さを調整できる。更に、シール部材は、内側通路の外周面と外側通路の内周面との間に配置されているので、伸長状態における張出量に応じて内側通路と外側通路との相対位置がずれても、それらの間をシールできる。
【0013】
請求項4記載の可動式通路によれば、請求項1記載の可動式通路の奏する効果に加え、次の効果を奏する。可動式通路は、伸長状態において第1部と第2部とを繋ぎ、その第1部に固定されるものである。この第1部に固定される外側通路にシール部材が取り付けられ、シール部材が膨張した場合に内側通路に密着する。これにより、駆動機構により張出量を変化させるときに、シール部材の内部へ流体を供給するための供給部の少なくとも一部を内側通路と一緒に移動させるための機構を不要にでき、供給部を簡素化できる。更に、駆動機構によって供給部の一部を内側通路と一緒に移動させる場合と比べて、内側通路の移動に必要な力を小さくできるので、駆動機構を小型化できる。
【0014】
請求項5記載の可動式通路によれば、請求項1から4のいずれかに記載の可動式通路の奏する効果に加え、次の効果を奏する。排出部は、膨張中のシール部材を収縮させるとき、シール部材の内部の流体圧が大気圧よりも低くなるように流体を排出する。これにより、排出部によってシール部材の内部を大気圧に開放するだけの場合と比べ、膨張中のシール部材が密着した部分からシール部材を離し易くできる。その結果、外側通路や内側通路とシール部材とをより擦れ難くでき、シール部材の摩耗をより抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態における可動式通路の斜視図である。
【
図3】
図2のIII部分を拡大した可動式通路の部分拡大断面図である。
【
図4】(a)は
図3の状態からシール部材を膨張させた状態を示す可動式通路の部分拡大断面図であり、(b)は
図4(a)の状態からシール部材を収縮させた状態を示す可動式通路の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。まず
図1を参照して、一実施形態における可動式通路10の全体構成について説明する。
図1は、可動式通路10の斜視図である。なお、
図1では、可動式通路10を最大まで伸長した状態を図示すると共に、可動式通路10の一部(例えば側壁22の上端同士を繋ぐ天井24等)を省略して模式的に図示している。
【0017】
また、
図1を含む各図面の矢印F-Bは、可動式通路10の伸縮方向を示しており、矢印F側が伸縮方向における前方側であり、矢印B側が伸縮方向における後方側である。また、矢印L-Rは、可動式通路10の伸縮方向と垂直な水平方向を示し、矢印U-Dは、伸縮方向および水平方向と垂直な可動式通路10の上下方向を示している。また、以下の説明においては、可動式通路10の伸縮方向を単に「前後方向」と記載して説明する。
【0018】
図1に示す通り、可動式通路10は、駅のホーム2に固定される固定通路20と、その固定通路20から前方(矢印F方向)へ張り出す先端通路30と、固定通路20に対する先端通路30の前後方向の張出量L1を変化させる駆動機構40と、を備える可動式の通路である。
【0019】
駆動機構40によって張出量L1を大きくすることで可動式通路10が伸長状態となり、ホーム2の前方に停車した車両4(
図2参照)の乗降口に先端通路30の先端部34が接続される。これにより、伸長状態の可動式通路10を通ってホーム2と車両4との間で客の乗降が可能になる。
【0020】
一方、駆動機構40によって張出量L1が最小となるように、可動式通路10をホーム2側へ短縮させた状態が短縮状態である。ホーム2の前方を車両4が走行するときは、可動式通路10が短縮状態となっている。
【0021】
固定通路20には左右方向(矢印L-R方向)に延びる仕切壁21が形成され、この仕切壁21によってホーム2側と車両4の走行路側とが仕切られる。仕切壁21は、固定通路20の前方側の先端部を構成し、略矩形の開口21aが形成されている。この開口21aから先端通路30が前方へ張り出す。
【0022】
仕切壁21の後面から後方側へ延びている側壁22は、開口21aを挟んで左右一対に設けられる。これら一対の側壁22の各々の内面(先端通路30側を向く壁面)には、前後方向に延びるレール23が固定される。
【0023】
一対の側壁22の上端同士は天井24(
図2参照)によって繋がれ、その天井24と一対の側壁22とホーム2とによって固定通路20が前後方向に延びた四角筒状に形成される。なお、固定通路20の下部はホーム2に限らず、ホーム2上に固定した別部材から構成しても良い。
【0024】
先端通路30は、固定通路20の開口21aに挿入される通路である。先端通路30は、下面を構成する床部31と、左右両面をそれぞれ構成する一対の壁部32と、上面を構成する天部33とによって、前後両側にそれぞれ開口した四角筒状に形成されている。
【0025】
駆動機構40は、シリンダ41に対しピストンロッド42を出没させることで伸縮するエアシリンダである。その伸縮方向を前後方向に向けた状態で、シリンダ41が固定通路20の仕切壁21を貫通しつつ仕切壁21に取り付けられ、ピストンロッド42の先端が先端通路30の先端部34近傍に取り付けられる。なお、駆動機構40は、可動式通路10の左右両側にそれぞれ対称に配置される。
【0026】
次いで
図2及び
図3を参照し、可動式通路10の各部について更に詳しく説明する。
図2は可動式通路10の断面図である。
図3は
図2のIII部分を拡大した可動式通路10の部分拡大断面図である。なお
図2及び
図3では、
図1の左右方向と直交する平面であって、可動式通路10の左右方向の略中央で切断した断面を図示すると共に、固定通路20に対する先端通路30の張出量L1を最大にした状態を図示している。また、
図2及び
図3では、シール部材50の内部の空洞56を大気圧と同一にした状態を図示している。
【0027】
図2及び
図3に示す通り、先端通路30の後端部35は、床部31、壁部32及び天部33に対し径方向外側へフランジ状に張り出している。この後端部35の左右両縁の上部が側壁22のレール23にスライド可能に係合している。これにより、固定通路20に対する先端通路30の前後方向の移動がガイドされる。
【0028】
後端部35の前面からは、先端通路30の全周に亘って環状の当接部36が突出している。当接部36の下部は先端通路30の床部31と重なって一体化され、当接部36の上部および側部は天部33及び壁部32と径方向に隔てて配置される。更に、可動式通路10の伸長状態において、当接部36と、仕切壁21の開口21aの縁との間は全周に亘り径方向に、一定の距離と輪郭度を持って隔てられ対向している。
【0029】
この当接部36の外周面(先端通路30の外周面)と開口21aの縁(固定通路20の内周面)との間には、全周に亘って環状のシール部材50が配置されている。シール部材50は、いわゆるインフレートシールであり、少なくとも径方向に膨張または収縮可能なゴム等の弾性体からなる。シール部材50は、開口21aの縁の全周から径方向(上下方向および左右方向)の内側へ突出する。
【0030】
シール部材50は、開口21aの縁に密着する底部51と、その底部51と径方向に対向して当接部36に面する押付部52と、その押付部52と底部51とを径方向に繋いで互いに前後方向に対向する一対の側部53と、を備える。シール部材50は、底部51と押付部52と一対の側部53とで囲まれた空洞56を有して中空に形成されている。
【0031】
底部51は、板状の部位であり、開口21aの縁に設けた溝21bに嵌めることで前後方向に位置決めされる。この溝21bは、開口21aの縁の一部を段差状に凹ませて形成されている。但し、前後方向に隔てたライナを開口21aの縁にそれぞれ固定することでライナの間に溝21bを形成しても良く、段差とライナとを組み合わせて溝21bを形成しても良い。
【0032】
底部51は、一対の側部53から前後方向の外側へ一部が張り出す。この底部51の張り出した部分が、開口21aの縁に固定した固定板60と、溝21bの底との間で挟まれることによって、開口21aの縁に底部51が固定される。
【0033】
一対の側部53は、径方向の中央部分が互いに向かって折れ曲がった断面に形成されている。押付部52は、前後方向の両縁が側部53に連なる板状に形成され、当接部36に向かって複数の突起54が突出している。
【0034】
シール部材50の前後両側に配置される固定板60のうちシール部材50側の縁からは、垂直に規制壁61が立ち上がる。この規制壁61の径方向内側の先端は、当接部36と非接触であって、シール部材50の空洞56(内部)を大気圧と同一にした状態の突起54の先端と同じ高さに位置する。
【0035】
図1及び
図3に示す通り、このシール部材50の空洞56に対し空気を供給または排出するための給排部70が固定通路20に設けられている。給排部70は、配管71とポンプ72とタンク73とバルブ74とを備える。
【0036】
配管71は、シール部材50が取り付けられる仕切壁21の内部にシール部材50に沿って通されている。この配管71から分岐した分岐管71aは、仕切壁21の開口21a側の壁面とシール部材50の底部51とを貫通し、シール部材50の空洞56に連通する。なお、分岐管71aは、シール部材50の周方向の複数か所に接続される。
【0037】
仕切壁21から外側に出た配管71は、ホーム2に固定されたタンク73にバルブ74を介して繋がっている。タンク73は、ポンプ72により空気を給排することで、内部の空気が加圧または減圧される。バルブ74は、配管71とタンク73との間を開閉すると共に、配管71内を大気開放可能な三方バルブである。
【0038】
シール部材50が固定通路20に取り付けられているため、シール部材50の空洞56の空気を給排する給排部70を固定通路20又はホーム2に配置できる。そのため、駆動機構40で張出量L1を変化させるときに、給排部70の少なくとも一部を先端通路30と一緒に移動させるための機構を不要にでき、給排部70を簡素化できる。更に、駆動機構40によって給排部70の一部を先端通路30と一緒に移動させる場合と比べて、先端通路30の移動に必要な駆動機構40の力を小さくできるので、駆動機構40を小型化できる。
【0039】
次に
図3に加えて
図4(a)及び
図4(b)を参照し、可動式通路10を伸縮させるときのシール部材50の動作について説明する。
図4(a)は
図3の状態からシール部材50を膨張させた状態を示す可動式通路10の部分拡大断面図である。
図4(b)は
図4(a)の状態からシール部材50を収縮させた状態を示す可動式通路10の部分拡大断面図である。なお、
図4(a)及び
図4(b)では、バルブ74側の配管71の一部、ポンプ72、タンク73、バルブ74を模式的に図示している。
【0040】
まず、固定通路20に対する先端通路30の張出量L1を最小にして可動式通路10をホーム2側へ短縮させた短縮状態では、バルブ74によって配管71が大気圧に開放され、配管71及びシール部材50の空洞56が大気圧と同一となっている。更に、バルブ74によって配管71とタンク73との間が遮断されている。この状態で、ポンプ72を作動してタンク73内の空気を圧縮しておく。
【0041】
次いで、ホーム2の前に車両4が停車したら駆動機構40によって張出量L1を大きくし、先端通路30を車両4に接続して可動式通路10を伸長状態とする。なお、ホーム2の形状や車両4の幅などに応じてホーム2から車両4までの前後方向(車両4の幅方向)の距離が変動することがある。また、車両4の空気ばね(図示せず)の影響により、停車時においても車両4が幅方向(可動式通路10の前後方向)に揺動することがある。
【0042】
このホーム2から車両4までの距離に応じて、駆動機構40による張出量L1を調整することで、ホーム2と車両4とを繋ぐ伸長状態の可動式通路10の前後方向の長さを調整できる。例えば張出量L1を大きくしながら先端通路30が車両4に接触したことをセンサで検出し、その検出したタイミングで張出量L1の変化を止めても良い。また、図示しない軌道に設置したセンサによって、ホーム2から車両4までの前後方向(車両4の幅方向)の距離を検出し、その検出結果に応じて張出量L1を決めても良い。
【0043】
ホーム2から車両4までの距離が変化し得る範囲の全域(張出量L1が変化し得る全範囲)において、仕切壁21の開口21aの縁に取り付けたシール部材50が、先端通路30の当接部36と径方向に対向するように、後端部35から当接部36の前端までの前後方向の寸法が設定されている。
【0044】
伸長状態においてシール部材50と当接部36とが対向したら、バルブ74によって配管71とタンク73とを連通させる。これにより、
図4(a)に示す通り、タンク73内の圧縮空気が配管71及び分岐管71aからシール部材50の空洞56へ送り込まれ、シール部材50が膨張する。なお、シール部材50の膨張が完了したらバルブ74を閉じて配管71とタンク73との間を遮断する。
【0045】
給排部70によってシール部材50が膨張すると、押付部52が当接部36の外周面に押し付けられて密着する。これにより、固定通路20と先端通路30との間がシール部材50によって全周に亘りシールされる。
【0046】
ここで、ホーム2と車両4とを繋いだ伸長状態の可動式通路10の外部では、駅を他の車両が通過すること等に起因して気圧が変化することがある。この気圧の変化が可動式通路10の外部から内部へ固定通路20と先端通路30との間を介して伝播することを、シール部材50によって抑制できる。
【0047】
なお、この気圧の変化を乗客に感じさせ難くするため、シール部材50の膨張が完了してから乗客に対し可動式通路10の通行を許可する。シール部材50の空洞56へポンプ72から空気を直接供給する場合と比べ、予め圧縮したおいた空気をタンク73から空洞56へ供給することで、シール部材50を素早く膨張させることができ、車両4の停車から可動式通路10の通行を許可するまでの時間を短くできる。
【0048】
更に、分岐管71aがシール部材50の周方向の複数か所に接続されているので、シール部材50をより素早く膨張させることができ、車両4の停車から可動式通路10の通行許可までの時間をより短くできる。また、素早い膨張によって押付部52が当接部36に接触するが、押付部52に設けた複数の突起54(
図3参照)によって、その接触時の衝撃を緩和でき、衝突音を緩和できる。
【0049】
また、固定通路20と先端通路30との間でシール部材を前後方向に挟んでシールする場合、伸長状態において固定通路20に対する先端通路30の張出量L1(固定通路20と先端通路30との相対位置)が最大まで伸長されていないと、このシール部材を挟めないおそれがある。
【0050】
これに対し、シール部材50は、径方向に重なり合う固定通路20の内周面(開口21aの縁)と先端通路30の外周面(当接部36の外周面)との間を径方向に塞いでシールするので、固定通路20と先端通路30との相対位置がずれても、それらの間をシールし易い。特に、伸長状態の張出量L1が変化し得る全範囲において、シール部材50が当接部36と対向するように当接部36の前後方向の寸法を設定しているので、張出量L1に関わらず固定通路20と先端通路30との間を確実にシールできる。
【0051】
更に、シール部材50でシールされる当接部36の外周面は、その部分よりも前方の先端通路30の外周面に対して径方向外側に配置されている。同様に、開口21aの縁は、その部分よりも後方の固定通路20の内周面に対し径方向内側へ配置されている。これらの結果、シール部材50でシールされない位置の固定通路20の内周面と先端通路30の外周面とを互いに径方向に離し易くできる。よって、固定通路20と先端通路30とを接触させないために、径方向に対向する相手に対し高い加工精度が必要となる部分を、当接部36の外周面および開口21aの縁などの少ない範囲に限定でき、固定通路20及び先端通路30を製造し易くできる。
【0052】
シール部材50の一対の側部53は、径方向の中央部分が互いに向かって折れ曲がっていた
図3に示す膨張前の状態に対し、
図4(a)に示す膨張時にはこの折れ曲がりが開くように側部53が径方向に真っ直ぐ伸びる。これにより、シール部材50を径方向に膨張し易くでき、膨張前のシール部材50を当接部36から離し易くできる。その結果、膨張中以外のシール部材50が当接部36に当たらないように必要な、当接部36の外周面と開口21aの縁との間の寸法精度を低くでき、固定通路20及び先端通路30をより製造し易くできる。
【0053】
また、シール部材50の前後両側の規制壁61によって、シール部材50の膨張方向が径方向に規制されるので、シール部材50の膨張方向を分散させること無く、より強い力で当接部36にシール部材50を押し付けることができる。これにより、シール部材50によるシール性能を向上できる。
【0054】
次いで、
図4(b)に示す通り、車両4を発車させるために伸長状態の可動式通路10を短縮状態に切り換える場合、まず、膨張中のシール部材50の空洞56の空気を給排部70によって排出する。これにより、シール部材50を収縮させて当接部36から離し、固定通路20と先端通路30との間のシールを解除する。その後、駆動機構40によって固定通路20に対し先端通路30を後方へ移動させ、張出量L1を最小まで小さくして可動式通路10を短縮状態とする。
【0055】
この張出量L1を小さくするときに、シール部材50によるシールを解除しておくことで、当接部36とシール部材50とを擦れ難くできる。加えて、次に張出量L1を大きくするときにもシール部材50によるシールが解除されているので、当接部36とシール部材50とを擦れ難くできる。これらの結果、シール部材50の摩耗を抑制できる。
【0056】
なお、シール部材50が膨張している間には、配管71とタンク73との間をバルブ74で遮断し、ポンプ72によってタンク73内の空気を予め減圧しておく。この状態からバルブ74によって配管71とタンク73とを連通することで、シール部材50の空洞56の空気が配管71を通ってタンク73へ素早く排出されるので、膨張中のシール部材50を素早く収縮させることができる。
【0057】
更に、分岐管71aがシール部材50の周方向の複数か所に接続されているので、シール部材50をより素早く収縮させることができる。これらの結果、可動式通路10を短縮状態に切り換えて車両4が発車するまでの時間を短くできる。
【0058】
シール部材50の収縮時には、空洞56を大気圧に開放するのではなく減圧し、空洞56が大気圧よりも低くなるように空気を排出する。これにより、バルブ74によって配管71及びシール部材50の空洞56を大気圧に開放するだけの場合と比べ、膨張により密着したシール部材50を、その密着している部分から離し易くできる。その結果、シール部材50と当接部36とをより擦れ難くでき、シール部材50の摩耗をより抑制できる。
【0059】
更に、可動式通路10が短縮状態となるまで、シール部材50の空洞56を大気圧に対し減圧したままにすることで、先端通路30とシール部材50とをより擦れ難くできる。可動式通路10を短縮状態とした後は、固定通路20に対する先端通路30の移動が終了しているので、バルブ74によって配管71及びシール部材50の空洞56を大気圧に開放する。これにより、シール部材50の空洞56を減圧したまま維持する場合と比べ、次にシール部材50を膨張させるときにかかる時間を短くできる。
【0060】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0061】
上記実施形態では、固定通路20に対する先端通路30の前方への張出量L1を変化させる駆動機構40がエアシリンダである場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、駆動機構40は、エアシリンダに限らず油圧シリンダや電動シリンダ等で構成しても良い。更に、回転運動を直線運動に変換して張出量L1を変化させる機構など、その他の既知のアクチュエータで駆動機構40を構成しても良い。また、駆動機構40による伸長状態の張出量L1を調整可能にする場合に限らず、伸長状態の張出量L1を最大などの所定量に固定しても良い。
【0062】
先端通路30の内側に固定通路20を挿入するように、これらの通路の大小関係を変更しても良い。この場合でも、固定通路20に対する先端通路30の張出量L1は固定通路20の前端から先端通路30の前端までを指す。なお、固定通路20に対する先端通路30の前方への張出量L1を変化させることは、先端通路30に対する固定通路20の後方への張出量を変化させることと同義である。
【0063】
上記実施形態では、固定通路20と先端通路30とが入れ子構造となって1段階に伸縮可能な可動式通路10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、固定通路20と先端通路30との間に、入れ子構造となるように1又は複数の筒状の中間通路を設けることにより、可動式通路10の伸縮を2段階以上にしても良い。各通路を伸縮(通路同士の張出量を変化)させる駆動機構40は、エアシリンダに限らず上述した通り適宜変更しても良い。また、通路同士の張出量を伸長状態で固定しても調整可能にしても良い。
【0064】
上記実施形態では、シール部材50を固定通路20に取り付ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、シール部材50を先端通路30(当接部36)に取り付けても良い。また、可動式通路10が複数か所で伸縮する場合、その少なくとも1か所にシール部材50を設け、その他の通路同士の間を別のシール機構によってシールしても良い。
【0065】
上記実施形態では、シール部材50の空洞56の空気を給排部70によって給排する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、空洞56へ空気を供給する供給部と、空洞56から空気を排出する排出部とを別々に設けても良い。また、給排部70(供給部および排出部)によって空気を給排する場合に限らず、空気以外の気体や液体などの流体を給排しても良い。
【0066】
給排部70(排出部)は、シールを解除するためにポンプ72等で大気圧に対し空洞56を減圧する場合に限らず、ポンプ72等を用いずに、膨張中のシール部材50の空洞56を大気圧に開放してゴムの復元力により自然に流体を排出しても良い。また、給排部70からタンク73を省略し、空洞56に対しポンプ72によって流体を直接給排しても良い。
【0067】
上記実施形態では、シール部材50でシールされる当接部36の外周面が、その部分よりも前方の先端通路30の外周面に対して径方向外側に配置される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば当接部36を省略し、前後方向に関し略フラットな先端通路30の外周面にシール部材50を密着させても良い。
【0068】
また、当接部36を後端部35から前方へ突出させる場合に限らず、先端通路30の外周面のうち前後方向の一部を径方向に張り出させることで当接部36を形成しても良い。なお、固定通路20が先端通路30の内側に挿入される場合には、固定通路20の外周面の一部をその前後方向に対し径方向外側に配置することで、シール部材50が密着する当接部36を固定通路20に形成しても良い。
【0069】
上記実施形態では、シール部材50が中空に形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、底部51を省略して底面が開放されたシール部材50と、固定通路20(開口21aの縁)又は先端通路30(当接部36)とで空洞56を形成しても良い。
【0070】
上記実施形態では、可動式通路10がホーム2と車両4とを繋ぐものである場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば可動式通路10は、第1部と第2部との間を繋ぎ、第1部に固定されるものであれば良い。この第1部や第2部としては、建築物、自動車、航空機、船舶、地面などが挙げられる。なお、第1部と第2部とが同種のものでも良い。
【符号の説明】
【0071】
2 ホーム(第1部)
4 車両(第2部)
10 可動式通路
20 固定通路(外側通路)
30 先端通路(内側通路)
36 当接部
40 駆動機構
50 シール部材
70 給排部(供給部および排出部)
L1 張出量