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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104400
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240729BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
B41J2/14
B41J2/16 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008584
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】片庭 勇一
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF72
2C057AG44
2C057AG77
2C057AP25
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】フィルター部材の接着性が悪くても、2つの流路部材に対するフィルター部材の接着強度を高める。
【解決手段】液体噴射ヘッドは、第1流路の第1開口が形成された第1面を有する第1流路部材と、第2流路の第2開口が形成された第2面を有する第2流路部材と、第1面と第2面との間に配置されたフィルター部材と、を備え、第2開口は、平面視において第1開口よりも大きく、フィルター部材は、平面視において、複数の第1孔が設けられた第1領域と、第1領域の周囲に位置し、複数の第2孔が設けられた第2領域と、を含み、第1領域は、第1開口と第2開口との間を仕切り、かつ、ノズルに供給される液体を通過させるフィルター領域を含み、第2領域は、第1面および第2面の双方に接触し、かつ、接着剤の付着した第1固定領域を含み、平面視において、複数の第2孔のそれぞれの面積は、複数の第1孔のそれぞれの面積よりも大きい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルと、
前記ノズルと連通する第1流路の第1開口が形成された第1面を有する第1流路部材と、
前記ノズルと連通するとともに前記第1流路と接続される第2流路の第2開口が形成された第2面を有する第2流路部材と、
前記第1面と前記第2面との間に配置されたフィルター部材と、を備え、
前記第2開口は、平面視において前記第1開口よりも大きく、
前記フィルター部材は、前記平面視において、複数の第1孔が設けられた第1領域と、前記第1領域の周囲に位置し、複数の第2孔が設けられた第2領域と、を含み、
前記第1領域は、前記第1開口と前記第2開口との間を仕切り、かつ、前記ノズルに供給される液体を通過させるフィルター領域を含み、
前記第2領域は、前記第1面および前記第2面の双方に接触し、かつ、接着剤の付着した第1固定領域を含み、
前記平面視において、前記複数の第2孔のそれぞれの面積は、前記複数の第1孔のそれぞれの面積よりも大きい、
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記複数の第2孔は、前記平面視において三角形、四角形および六角形のうちのいずれかの形状の孔を用いて構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記複数の第2孔は、前記平面視において正六角形の孔を用いて構成される、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記複数の第2孔の一辺の長さをHとし、前記複数の第2孔のうちの隣り合う2つの第2孔の間の距離をGとしたとき、
G<H/31/2の関係を満たす、
ことを特徴とする請求項3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記フィルター部材は、電鋳部品である、
ことを特徴とする請求項3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記第1領域は、前記平面視において、前記フィルター領域の周囲に位置するとともに前記第1面に重なり、かつ、前記第2開口に露出された第1露出領域を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記第2領域は、前記平面視において、前記第1固定領域と前記フィルター領域との間に位置するとともに前記第1面に重なり、かつ、前記第2開口に露出された第2露出領域を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記第1領域は、前記第1固定領域と前記第1露出領域との間に位置し、かつ、前記第1面および前記第2面の双方に接触するとともに前記接着剤が付着する第2固定領域を含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記フィルター領域は、第1軸に沿って延びる形状をなしており、
前記第1軸に直交する断面において、前記第1固定領域の幅は、前記第2固定領域の幅よりも長い、
ことを特徴とする請求項8に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記複数の第2孔のうち前記第1固定領域に設けられる少なくとも1つの第2孔の全部分は、前記第1面および前記第2面によって閉塞される、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項11】
前記第2領域における開口率は、前記第1領域における開口率よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項12】
前記第2領域における開口率と前記第1領域における開口率との差は、5%以上である、
ことを特徴とする請求項11に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項13】
前記平面視において、前記複数の第1孔のそれぞれの内接円の直径は、前記複数のノズルのそれぞれの内接円の直径よりも小さい、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項14】
前記平面視において、前記複数の第1孔のそれぞれの形状は、円形である、
ことを特徴とする請求項13に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドを備える、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式のプリンターに代表される液体噴射装置では、インク等の液体を噴射するノズルに向かう液体の流路の途中に異物を捕捉するためのフィルターを設ける場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のインクジェットヘッドは、流路部材と、インク供給口を有するヘッドユニットと、当該流路部材と当該ヘッドユニットとの間に配置されるフィルターと、を備える。当該フィルターは、当該インク供給口に対応するフィルター領域と、当該フィルター領域の外周に設けられる固着領域と、を有する。当該フィルターには、複数のフィルター孔が設けられており、当該複数のフィルター孔のうち、一部のフィルター孔が当該フィルター領域に設けられ、残部のフィルター孔が当該固着領域に設けられる。当該固着領域では、当該流路部材と当該ヘッドユニットと当該フィルターとが互いに接着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-15506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のインクジェットヘッドでは、固着領域のフィルター孔のサイズがフィルター領域のフィルター孔のサイズと同じである。ここで、異物によるノズル詰まりを防止する観点から、フィルター領域のフィルター孔のサイズをノズルのサイズよりも小さくする必要がある。このため、固着領域のフィルター孔を介して流路部材とヘッドユニットとを互いに接着するための接着面積が小さくなってしまい、流路部材とヘッドユニットとを十分な接着強度で接着することができない虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、本開示の好適な態様に係る液体噴射ヘッドは、液体を噴射するノズルと、前記ノズルと連通する第1流路の第1開口が形成された第1面を有する第1流路部材と、前記ノズルと連通するとともに前記第1流路に接続される第2流路の第2開口が形成された第2面を有する第2流路部材と、前記第1面と前記第2面との間に配置されたフィルター部材と、を備え、前記第2開口は、平面視において前記第1開口よりも大きく、前記フィルター部材は、前記平面視において、複数の第1孔が設けられた第1領域と、前記第1領域の周囲に位置し、複数の第2孔が設けられた第2領域と、を含み、前記第1領域は、前記第1開口と前記第2開口との間を仕切り、かつ、前記ノズルに供給される液体を通過させるフィルター領域を含み、前記第2領域は、前記第1面および前記第2面の双方に接触し、かつ、接着剤の付着した第1固定領域を含み、前記平面視において、前記複数の第2孔のそれぞれの面積は、前記複数の第1孔のそれぞれの面積よりも大きい。
【0007】
本開示の好適な態様に係る液体噴射装置は、前述の態様の液体噴射ヘッドを備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る液体噴射装置の構成例を示す概略図である。
図2】液体噴射ヘッドの分解斜視図である。
図3】ヘッドチップの構成例を示す断面図である。
図4】第1実施形態における第1開口と第2開口とフィルター部材との位置関係を示す平面図である。
図5図4中のB-B線断面図である。
図6】フィルター部材の一部の平面図である。
図7】第1流路部材と第2流路部材との接着方法を説明するための図である。
図8】第2実施形態における第1開口と第2開口とフィルター部材との位置関係を示す平面図である。
図9図8中のB-B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本開示に係る好適な実施形態を説明する。なお、図面において各部の寸法および縮尺は実際と適宜に異なり、理解を容易にするために模式的に示している部分もある。また、本開示の範囲は、以下の説明において特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
【0010】
なお、以下の説明は、便宜上、互いに交差するX軸、Y軸およびZ軸を適宜に用いて行う。Y軸は、「第1軸」の一例である。また、以下では、X軸に沿う一方向がX1方向であり、X1方向と反対の方向がX2方向である。同様に、Y軸に沿って互いに反対の方向がY1方向およびY2方向である。また、Z軸に沿って互いに反対の方向がZ1方向およびZ2方向である。Z1方向またはZ2方向は、「第1流路部材」と「フィルター部材」と「第2流路部材」との積層方向に相当する。以下では、Z1方向またはZ2方向にみることを「平面視」という場合がある。
【0011】
ここで、典型的には、Z軸が鉛直な軸であり、Z2方向が鉛直方向での下方向に相当する。ただし、Z軸は、鉛直な軸でなくともよい。また、X軸、Y軸およびZ軸は、典型的には互いに直交するが、これに限定されず、例えば、80°以上100°以下の範囲内の角度で交差すればよい。
【0012】
A:第1実施形態
A1:液体噴射装置の全体構成
図1は、第1実施形態に係る液体噴射装置100の構成例を示す概略図である。液体噴射装置100は、「液体」の一例であるインクを液滴として記録媒体Mに向けて噴射するインクジェット方式の印刷装置である。記録媒体Mは、例えば、印刷用紙である。なお、記録媒体Mは、印刷用紙に限定されず、例えば、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の材質の印刷対象であってもよい。
【0013】
液体噴射装置100は、図1に示すように、液体容器10と制御モジュール20と搬送機構30と移動機構40と液体噴射ヘッド50とを備える。
【0014】
液体容器10は、インクを貯留する。液体容器10の具体的な態様としては、例えば、液体噴射装置100に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで構成される袋状のインクパック、および、インクを補充可能なインクタンクが挙げられる。なお、液体容器10に貯留されるインクの種類は任意である。
【0015】
制御モジュール20は、液体噴射装置100の各要素の動作を制御する。制御モジュール20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリー等の記憶回路とを含む。ここで、制御モジュール20は、液体噴射ヘッド50を駆動するための駆動信号Comと、液体噴射ヘッド50の駆動を制御するための制御信号SIと、を出力する。
【0016】
搬送機構30は、制御モジュール20による制御のもとで、記録媒体MをY軸に沿って搬送する。
【0017】
移動機構40は、制御モジュール20による制御のもとで、液体噴射ヘッド50をX軸に沿って往復させる。移動機構40は、液体噴射ヘッド50を収容するキャリッジと称される略箱型の搬送体41と、搬送体41が固定される無端の搬送ベルト42と、を有する。なお、搬送体41に搭載される液体噴射ヘッド50の数は、1個に限定されず、複数個でもよい。また、搬送体41には、液体噴射ヘッド50のほかに、前述の液体容器10が搭載されてもよい。
【0018】
液体噴射ヘッド50は、制御モジュール20による制御のもと、液体容器10から供給されるインクを複数のノズルのそれぞれから記録媒体Mに噴射する。この噴射が搬送機構30による記録媒体Mの搬送と移動機構40による液体噴射ヘッド50の往復移動とに並行して行われることにより、記録媒体Mの表面にインクによる画像が形成される。
【0019】
図1に示す例では、液体噴射ヘッド50が複数のヘッドチップ51を備える。ヘッドチップ51は、インクを噴射する複数のノズルNを有する。ヘッドチップ51の構成例については、後に図2および図3に基づいて説明する。なお、液体噴射ヘッド50の有するヘッドチップ51の数は、図1に示す例に限定されず、1個以上3個以下であってもよいし、5個以上でもよい。
【0020】
A2:液体噴射ヘッド
図2は、液体噴射ヘッド50の分解斜視図である。図3は、ヘッドチップ51の構成例を示す断面図である。なお、図3は、図2中のA-A線断面図である。
【0021】
図2および図3に示すように、ヘッドチップ51は、Y軸に沿う方向に配列される複数のノズルNを有する。
【0022】
ヘッドチップ51の有する複数のノズルNは、X軸に沿う方向に互いに間隔をあけて並ぶ第1ノズル列Ln1と第2ノズル列Ln2とに区分される。第1ノズル列Ln1および第2ノズル列Ln2のそれぞれは、Y軸に沿う方向に直線状に配列される複数のノズルNの集合である。
【0023】
ヘッドチップ51は、X軸に沿う方向で互いに略対称な構成である。ただし、第1ノズル列Ln1の複数のノズルNと第2ノズル列Ln2の複数のノズルNとのY軸に沿う方向での位置は、互いに一致してもよいし異なってもよい。図2および図3では、第1ノズル列Ln1の複数のノズルNと第2ノズル列Ln2の複数のノズルNとのY軸に沿う方向での位置が互いに一致する構成が例示される。
【0024】
図2および図3に示すように、ヘッドチップ51は、「第1流路部材」の一例である流路基板510と、圧力室基板520と、ノズル基板530と、吸振体540と、振動板550と、複数の圧電素子560と、保護基板570と、「第2流路部材」の一例であるケース580と、配線基板590と、2個のフィルター部材600と、を有する。
【0025】
流路基板510および圧力室基板520は、この順でZ1方向に積層されており、複数のノズルNにインクを供給するための流路を形成する。流路基板510および圧力室基板520からなる積層体よりもZ1方向に位置する領域には、振動板550と複数の圧電素子560と保護基板570とケース580と配線基板590と2個のフィルター部材600と駆動回路52とが設置される。他方、当該積層体よりもZ2方向に位置する領域には、ノズル基板530と吸振体540とが設置される。ヘッドチップ51の各要素は、概略的にはY方向に長尺な板状部材であり、例えば接着剤により、互いに接合される。以下、ヘッドチップ51の各要素を順に説明する。
【0026】
ノズル基板530は、第1ノズル列Ln1および第2ノズル列Ln2のそれぞれの複数のノズルNが設けられた板状部材である。複数のノズルNのそれぞれは、インクを通過させる貫通孔である。ここで、ノズル基板530のZ2方向を向く面がノズル面FNである。ノズル基板530は、例えば、ドライエッチングまたはウェットエッチング等の加工技術を用いる半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、ノズル基板530の製造には、他の公知の方法および材料が適宜に用いられてもよい。また、ノズルNの断面形状は、典型的には円形状であるが、これに限定されず、例えば、多角形または楕円形等の非円形状であってもよい。
【0027】
流路基板510には、第1ノズル列Ln1および第2ノズル列Ln2のそれぞれについて、第1流路R1と複数の供給流路Raと複数の連通流路Naとが設けられる。第1流路R1は、ノズルNと連通するとともにノズルNよりも上流の流路であり、Z軸に沿う方向でみた平面視でY軸に沿う方向に延びる長尺状の孔で構成される。当該孔のZ1方向での端は、流路基板510のZ1方向を向く面である第1面F1に形成される第1開口511を構成する。供給流路Raおよび連通流路Naのそれぞれは、ノズルNごとに形成された貫通孔である。各供給流路Raは、第1流路R1に連通する。
【0028】
圧力室基板520は、第1ノズル列Ln1および第2ノズル列Ln2のそれぞれについて、キャビティと称される複数の圧力室Cが設けられた板状部材である。複数の圧力室Cは、Y軸に沿う方向に配列される。各圧力室Cは、ノズルNごとに形成され、平面視でX軸に沿う方向に延びる長尺状の空間である。
【0029】
流路基板510および圧力室基板520それぞれは、前述のノズル基板530と同様に、例えば、半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、流路基板510および圧力室基板520のそれぞれの製造には、他の公知の方法および材料が適宜に用いられてもよい。
【0030】
圧力室Cは、流路基板510と振動板550との間に位置する。第1ノズル列Ln1および第2ノズル列Ln2のそれぞれについて、複数の圧力室CがY軸に沿う方向に配列される。また、圧力室Cは、連通流路Naおよび供給流路Raのそれぞれに連通する。したがって、圧力室Cは、連通流路Naを介してノズルNに連通し、かつ、供給流路Raを介して第1流路R1に連通する。
【0031】
圧力室基板520のZ1方向を向く面には、振動板550が配置される。振動板550は、弾性的に振動可能な板状部材である。図示しないが、振動板550は、例えば、弾性膜と絶縁膜とを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。当該弾性膜は、例えば、酸化シリコン(SiO)で構成されており、シリコン単結晶基板の一方の面を熱酸化することにより形成される。当該絶縁膜は、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)で構成されており、スパッタ法によりジルコニウムの層を形成し、当該層を熱酸化することにより形成される。
【0032】
なお、振動板550は、前述の弾性膜および絶縁膜の積層による構成に限定されず、例えば、単層で構成されてもよいし、3層以上で構成されてもよい。また、振動板550を構成する各層の材料は、前述の材料に限定されず、例えば、シリコンまたは窒化ケイ素等であってもよい。
【0033】
振動板550のZ1方向を向く面には、第1ノズル列Ln1および第2ノズル列Ln2のそれぞれについて、互いにノズルNに対応する複数の圧電素子560が配置される。各圧電素子560は、駆動信号Comに応じた電位の供給により変形する受動素子であり、圧力室C内のインクに圧力変動を生じさせる。各圧電素子560は、平面視でX軸に沿う方向に延びる長尺状をなす。複数の圧電素子560は、複数の圧力室Cに対応するようにY軸に沿う方向に配列される。圧電素子560は、平面視で圧力室Cに重なる。
【0034】
図示しないが、各圧電素子560は、第1電極と圧電体と第2電極とを有し、この順でこれらがZ1方向に積層される。当該第1電極は、圧電素子560ごとに互いに離間して配置される個別電極である。当該第1電極には、駆動信号Comに応じた電位が供給される。当該第2電極は、複数の圧電素子560にわたり連続するようにY軸に沿う方向に延びる帯状の共通電極である。当該第2電極には、例えば、定電位が供給される。これらの電極の金属材料としては、例えば、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、金(Au)、銅(Cu)等の金属材料が挙げられ、これらのうち、1種を単独でまたは2種以上を合金または積層等の態様で組み合わせて用いることができる。当該圧電体は、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)等の圧電材料で構成される。以上の圧電素子560では、当該第1電極と当該第2電極との間に電圧が印加されることにより、当該圧電体が逆圧電効果により変形する。この変形に連動して振動板550が振動すると、圧力室C内の圧力が変動することにより、インクがノズルNから噴射される。
【0035】
保護基板570は、振動板550のZ1方向を向く面に設置される板状部材であり、複数の圧電素子560を保護するとともに振動板550の機械的な強度を補強する。ここで、保護基板570と振動板550との間の空間Sには、複数の圧電素子560が収容される。保護基板570は、例えば、樹脂材料で構成される。
【0036】
ケース580は、複数の圧力室Cに供給されるインクを貯留するためのケースである。ケース580は、例えば、樹脂材料で構成される。ケース580には、第1ノズル列Ln1および第2ノズル列Ln2のそれぞれについて、第2流路R2が設けられる。第2流路R2は、前述の第1流路R1に接続される空間であり、Z軸に沿う方向でみた平面視でY軸に沿う方向に延びる長尺状の孔で構成される。当該孔のZ2方向での端は、ケース580のZ2方向を向く面である第2面F2に形成される第2開口581を構成する。第2流路R2は、ノズルNと連通しており、第1流路R1とともに、複数の圧力室Cに供給されるインクを貯留するリザーバーRとして機能する。ケース580には、各リザーバーRにインクを供給するための導入口HLが設けられる。各リザーバーR内のインクは、各供給流路Raを介して圧力室Cに供給される。なお、各リザーバーRに対する導入口HLの位置および数等の態様は、図2および図3の例に限定されず、任意である。
【0037】
各リザーバーRには、フィルター部材600が設けられる。フィルター部材600は、インクの通過を許容しつつ、ノズルNに向かう異物を捕捉する部材である。図2および図3に示す例では、フィルター部材600は、リザーバーRを第1流路R1aと第2流路R2aとに区分するように配置される。ここで、フィルター部材600は、流路基板510とケース580との間に介在しており、流路基板510およびケース580に対して接着される。フィルター部材600は、例えば、NiPd等の金属で構成されており、電鋳法により製造される。なお、フィルター部材600の製造方法は、電鋳法に限定されず、例えば、エッチングを用いた方法等であってもよい。また、2個のフィルター部材600が互いに連結することにより枠状をなす構成であってもよい。フィルター部材600の詳細については、後に図4から図6に基づいて説明する。
【0038】
吸振体540は、コンプライアンス基板とも称され、リザーバーRの壁面を構成する可撓性の樹脂フィルムであり、リザーバーR内のインクの圧力変動を吸収する。なお、吸振体540は、金属製の可撓性を有する薄板であってもよい。吸振体540のZ1方向を向く面は、流路基板510に接着剤等により接合される。
【0039】
配線基板590は、振動板550のZ1方向を向く面に実装されており、制御モジュール20とヘッドチップ51とを電気的に接続するための実装部品である。配線基板590は、例えば、COF(Chip On Film)、FPC(Flexible Printed Circuit)またはFFC(Flexible Flat Cable)等の可撓性の配線基板である。本実施形態の配線基板590には、駆動回路52が実装される。駆動回路52は、制御モジュール20による制御のもと、ヘッドチップ51の有する複数の圧電素子560のそれぞれについて、制御モジュール20から出力される駆動信号Comに含まれるパルスを供給するか否かを切り替える。なお、配線基板590は、リジッド基板でもよい。この場合、当該リジッド基板上または当該リジッド基板に接続されるフレキシブル基板上に駆動回路52が実装される。
【0040】
A3:フィルター部材
図4は、第1実施形態における第1開口511と第2開口581とフィルター部材600との位置関係を示す平面図である。図5は、図4中のB-B線断面図である。図4および図5では、流路基板510とケース580とフィルター部材600との接着に関する構成が模式的に示される。
【0041】
図5に示すように、流路基板510の第1面F1には、第1流路R1の開口である第1開口511が形成される。一方、ケース580の第2面F2には、第2流路R2の開口である第2開口581が形成される。
【0042】
図4に示すように、平面視において、第1開口511は、第2開口581の内側に位置する。したがって、第2開口581は、平面視において第1開口511よりも大きい。このため、第1流路R1と第2流路R2との間のインクの流路抵抗は、第1開口511により規定される。また、このように第1開口511および第2開口581の大きさが互いに異なることにより、流路基板510およびケース580のZ軸に直交する方向での位置決めに多少のずれが生じても、当該流路抵抗の変動を低減することができる。
【0043】
図5に示すように、フィルター部材600は、第1面F1と第2面F2との間に配置されるシート状の部材である。フィルター部材600の厚さは、特に限定されないが、例えば、4μm以上50μm以下の範囲内であり、好ましくは、4μm以上30μm以下の範囲内である。本実施形態におけるフィルター部材600の厚さは、6μmである。
【0044】
ここで、フィルター部材600は、第1面F1および第2面F2に対して接着剤ADによる接着により固定される。図4および図5に示す例では、平面視でフィルター部材600の外周縁が第2面F2の外周縁582よりも外側に位置する。
【0045】
フィルター部材600は、第1領域RE1と、平面視において第1領域RE1の周囲に位置する第2領域RE2と、を含む。図4では、第1領域RE1および第2領域RE2が互いに異なる濃さのグレースケールで表示される。図4に示す例では、第2領域RE2が第1領域RE1の全周にわたり設けられる。
【0046】
なお、第2領域RE2の形状および大きさ等の態様は、図4に示す例に限定されない。例えば、第2領域RE2の形状は、第1領域RE1の全周にわたる形状に限定されず、第1領域RE1の周方向での一部に設けられる形状でもよい。また、第1領域RE1の一部が後述の固定領域FXに設けられてもよい。
【0047】
第1領域RE1には、複数の第1孔610が形成される。各第1孔610は、フィルター部材600を厚さ方向に貫通する孔である。ここで、各第1孔610の大きさは、例えば、ノズルNの詰まりの原因となる異物を捕捉可能な大きさである。第1孔610の詳細については、後に図6に基づいて説明する。
【0048】
図5に示す例では、第1領域RE1がフィルター領域FRと第1露出領域EX1とを含む。
【0049】
フィルター領域FRは、第1開口511と第2開口581との間を仕切っており、フィルター領域FRには、ノズルNに供給されるインクを通過させる複数の第1孔610が形成される。ここで、フィルター領域FRは、平面視で第1領域RE1における第1開口511の内側の領域である。また、フィルター領域FRは、第1開口511および第2開口581の平面視形状に対応して、Y軸に沿って延びる形状をなす。
【0050】
第1露出領域EX1は、平面視において、フィルター領域FRの周囲に位置するとともに第1面F1に重なり、かつ、第2開口581に露出される。ここで、第1露出領域EX1は、平面視で第1領域RE1における第1開口511の外側の領域である。第1露出領域EX1には、複数の第1孔610が形成されるが、当該複数の第1孔610は、第1面F1により実質的に塞がれる。なお、第1露出領域EX1には、接着剤ADの一部が付着する場合がある。
【0051】
本実施形態では、第1露出領域EX1がフィルター領域FRの周方向での全域にわたり設けられる。なお、第1露出領域EX1がフィルター領域FRの周方向での一部のみにわたり設けられてもよい。
【0052】
第2領域RE2には、複数の第2孔620が形成される。各第2孔620は、フィルター部材600を厚さ方向に貫通する孔である。ただし、平面視において、各第2孔620の面積は、各第1孔610の面積よりも大きい。第2孔620の詳細については、後に図6に基づいて説明する。
【0053】
図5に示す例では、第2領域RE2が第1固定領域FX1と第2露出領域EX2と外周領域PEとを含む。
【0054】
第1固定領域FX1は、第1面F1および第2面F2の双方に接触する。図5に示す例では、第1固定領域FX1は、平面視で第2領域RE2における第2開口581の外側かつ第2面F2の外周縁582の内側の領域である。すなわち、第1固定領域FX1は、平面視で第1面F1および第2面F2の双方に重なる固定領域FXを構成する。なお、本明細書において、「接触」とは、対象となる2つの部材の間に隙間が存在しない場合のほか、当該2つの部材の間に厚さ10μ以下の接着剤が介在する場合を含む。
【0055】
第1固定領域FX1には、接着剤ADが付着する。ここで、前述のように、第2領域RE2に複数の第2孔620が設けられるので、第1固定領域FX1に付着した接着剤ADが各第2孔620を通じて第1面F1および第2面F2の両方に接触する。これにより、フィルター部材600が第1固定領域FX1において第1面F1および第2面F2のそれぞれに接着される。
【0056】
接着剤ADは、第1面F1および第2面F2のそれぞれに接着性を有する接着剤であればよく、特に限定されないが、例えば、エポキシ系接着剤またはシリコーン系接着剤である。なお、接着剤ADは、シリカ粉末またはアルミナ粉末等の無機粉末を含んでもよい。
【0057】
第2露出領域EX2は、平面視において、第1固定領域FX1とフィルター領域FRとの間に位置しており、第1面F1に重なる。ここで、第2露出領域EX2は、平面視で第2領域RE2における第2開口581の内側の領域である。第2露出領域EX2は、前述の第1露出領域EX1とともに、平面視で第2面F2に重ならずに第1面F1に重なる露出領域EXを構成する。このように、本実施形態では、第1領域RE1と第2領域RE2との間の境界BDが第2面F2に重ならずに第1面F1に重なることにより、露出領域EXが第1露出領域EX1および第2露出領域EX2で構成される。なお、第2露出領域EX2には、接着剤ADの一部が付着する場合がある。
【0058】
外周領域PEは、平面視において、固定領域FXの周囲に位置するとともに第1面F1に重なり、かつ、第2面F2に重ならない。ここで、外周領域PEは、平面視で第2領域RE2における外周縁582の外側の領域である。外周領域PEには、複数の第2孔620が形成される。このような外周領域PEを第2領域RE2に設けることにより、フィルター部材600の位置ずれが生じても、第1面F1および第2面F2に対するフィルター部材600の接着面性の変動を低減することができる。なお、外周領域PEには、接着剤ADの一部が付着する場合がある。
【0059】
本実施形態では、外周領域PEが固定領域FXの周方向での全域にわたり設けられる。なお、外周領域PEが固定領域FXの周方向での一部のみにわたり設けられてもよい。また、外周領域PEは、必要に応じて設けられ、省略されてもよい。言い換えると、外周縁582は、フィルター部材600または第2領域RE2の外周よりも外側に位置してもよい。
【0060】
図6は、フィルター部材600の一部の平面図である。図6に示すように、第1領域RE1には、複数の第1孔610が形成される。図6に示す例では、複数の第1孔610が平面視で千鳥状に規則的に配置される。また、平面視において、複数の第1孔610のそれぞれの形状は、円形である。さらに、複数の第1孔610の平面視での形状および大きさが互いに等しい。
【0061】
なお、複数の第1孔610の配置は、図6に示す例に限定されず、例えば、格子状であってもよいし、ランダムであってもよい。また、複数の第1孔610の平面視形状は、図6に示す例に限定されず、例えば、楕円形であってもよいし、三角形、四角形または六角形等の多角形であってもよい。また、複数の第1孔610は、平面視での形状または大きさの互いに異なる2種以上の孔で構成されてもよい。
【0062】
複数の第1孔610による第1領域RE1の開口率は、特に限定されないが、例えば、30%以上60%以下の範囲内である。第1領域RE1の開口率とは、平面視において、第1領域RE1の面積に対して複数の第1孔610が占める割合である。これに対し、当該開口率が小さすぎると、フィルター領域FRにインクを通過させる際の圧力損失が過大になる場合がある。一方、当該開口率が大きすぎると、フィルター部材600の厚さまたは第1孔610の形状等によっては、フィルター領域FRに必要な機械的強度を確保することが難しい。
【0063】
一方、第2領域RE2には、複数の第2孔620が形成される。図6に示す例では、複数の第2孔620が平面視で千鳥状に規則的に配置される。また、平面視において、複数の第2孔620のそれぞれの形状は、正六角形である。さらに、複数の第2孔620の平面視での形状および大きさが互いに等しい。ただし、第1領域RE1と第2領域RE2との境界BD付近において、第2孔620の平面視形状が六角形の一部を欠損した形状である。なお、このような欠損した形状の第2孔620は、必要に応じて設けられ、欠損した形状の第2孔620を含む全ての第2孔620の数の半分未満であってもよく、省略されてもよい。
【0064】
ここで、平面視において、複数の第2孔620のそれぞれの面積は、複数の第1孔610のそれぞれの面積よりも大きい。言い換えると、平面視において、複数の第1孔610のそれぞれの内接円CR1の直径WH1は、複数の第2孔620のそれぞれの内接円CR2の直径WH2よりも小さい。ここで、内接円CR1は、第1孔610の内側に配置され、且つ、第1孔610の内縁に接する最大の円と換言できる。同様に、内接円CR2は、第2孔620の内側に配置され、且つ、第2孔620の内縁に接する最大の円と換言できる。これにより、接着剤ADの各第2孔620を通じた第1面F1および第2面F2に対する接着面積を大きくすることができる。
【0065】
具体的な直径WH1は、特に限定されないが、例えば、0.01mm以上0.03mm以下の範囲内である。ただし、ノズル詰まりを好適に防止する観点から、直径WH1は、ノズルNの内接円の直径NRよりも小さいことが好ましい。ここで、ノズルNの内接円は、ノズルNの内側に配置され、且つ、ノズルNの内縁に接する最大の円と換言できる。具体的な直径WH2は、特に限定されないが、直径WH1よりも大きいことが好ましく、例えば、0.03mm以上0.15mm以下の範囲内である。なお、ノズルNの直径NRは、特に限定されないが、例えば、0.02mm以上0.04mm以下の範囲内である。
【0066】
なお、複数の第2孔620の配置は、図6に示す例に限定されず、例えば、格子状であってもよいし、ランダムであってもよいが、平面充填することが好ましい。また、複数の第2孔620の平面視形状は、図6に示す例に限定されず、例えば、円形または楕円形であってもよいし、三角形または四角形等の他の多角形であってもよい。当該三角形には、正三角形のほか、正三角形以外の三角形が含まれる。当該四角形には、正方形のほか、長方形、平行四辺形、ひし形、台形等を含む。当該六角形には、正六角形のほか、平行六角形等を含む。ただし、フィルター部材600の機械的強度の確保と開口率の向上との両立の観点から、第2孔620の平面視形状として三角形、四角形または六角形を用いる場合、正三角形、正方形または正六角形を用いることが好ましい。さらに、第2孔620を正三角形、正方形および正六角形の何れかの形状としたうえで、複数の第2孔620を正平面充填することがより好ましい。また、複数の第2孔620は、平面視での形状または大きさの互いに異なる2種以上の孔で構成されてもよい。
【0067】
ただし、複数の第2孔620による第2領域RE2の開口率を効率的に高める観点から、図6に示すように、平面視において三角形、四角形および六角形のうちのいずれかの形状の孔を用いて複数の第2孔620を構成することが好ましい。また、平面視において三角形、四角形および六角形のうちのいずれかの形状の孔を、平面充填することがより好ましい。
【0068】
複数の第2孔620による第2領域RE2の開口率は、特に限定されないが、例えば、50%以上75%以下の範囲内である。第2領域RE2の開口率とは、平面視において、第2領域RE2の面積に対して複数の第2孔620が占める割合である。これに対し、当該開口率が小さすぎると、第2孔620の大きさ等によっては、第2孔620による接着強度の向上効果が十分に得られない場合がある。一方、当該開口率が大きすぎると、フィルター部材600の厚さまたは第2孔620の形状等によっては、第2領域RE2に必要な機械的強度を確保することが難しい。
【0069】
ただし、接着剤ADの各第2孔620を通じた第1面F1および第2面F2に対する接着面積を大きくする観点から、複数の第2孔620による第2領域RE2の開口率は、複数の第1孔610による第1領域RE1の開口率よりも大きいことが好ましい。より好ましくは、第2領域RE2における開口率と第1領域RE1における開口率との差は、5%以上である。但し、フィルター領域FRの圧力損失が増大し過ぎないように、当該差は、40%以下であるのが好ましい。さらに好ましくは、フィルター領域FRの性能とのバランスの観点から、当該差は、10%以上20%以下の範囲内である。
【0070】
例えば、図6に示すような、円形である複数の第1孔610のうち隣り合う3つの第1孔610の各中心を結ぶ線分が正三角形となるように、複数の第1孔610を平面充填したとき、第1領域RE1の開口率は、90.6×WH1/P1で求められる。なお、ピッチP1は、隣り合う第1孔610の各中心同士を結ぶ距離である。第1孔610の直径WH1を0.017mmとし、隣り合う第1孔610の距離g(換言すれば、第1孔610を構成するための枠の幅)を0.006mm(6μm)とした場合、第1孔610のピッチP1は0.023mmであり、第1領域RE1の開口率は、約49.496%である。また、第1孔610の直径WH1を0.014mmとし、隣り合う第1孔610の距離g(換言すれば、第1孔610を構成するための枠の幅)を0.006mm(6μm)とした場合、第1孔610のピッチP1を0.02mmとした場合、第1領域RE1の開口率は、44.394%である。なお、隣り合う第1孔610の距離gは、フィルター部材600のフィルター領域FRの機械的強度を確保するため、フィルター部材600の厚さ以上であることが好ましく、本実施形態ではフィルター部材600の厚さである6μmと同じにしている。
【0071】
図6に示すような正六角形である第2孔620を正平面充填する場合において、第2孔620の1辺の長さをHとし、第2孔620のピッチをP2としたとき、第2領域RE2の開口率は、H/P2×100で求められる。なお、ピッチP2は、隣り合う第2孔620の各中心同士を結ぶ距離である。例えば、第2孔620の1辺の長さHを0.035mmとし、隣り合う第2孔620の距離G(換言すれば、第2孔620を構成するための枠の幅)を0.02mmとした場合、第2孔620の直径WH2は約0.061mmであり、第2孔620のピッチP2は0.081mmであり、第2領域RE2の開口率は、約56.539%である。また、例えば、長さHを0.045mmとし、距離Gを0.02mmとした場合、直径WH2は約0.061mmであり、ピッチP2は0.081mmであり、第2領域RE2の開口率は、約63.329%である。
【0072】
複数の第2孔620の一辺の長さをHとし、複数の第2孔620のうちの隣り合う2つの第2孔620の間の距離をGとしたとき、複数の第2孔620による第2領域RE2の開口率を大きくする観点から、G<H/31/2の関係を満たすことが好ましい。距離Gは、第2領域RE2の機械的強度を確保するため、フィルター部材600の厚みより大きいことが好ましい。
【0073】
A4:第1流路部材と第2流路部材との接着方法
図7は、「第1流路部材」の一例である流路基板510と「第2流路部材」の一例であるケース580との接着方法を説明するための図である。図7では、流路基板510とケース580との接着方法の一例が示される。当該接着方法は、液体噴射ヘッド50の製造方法の一部の工程である。
【0074】
図7に示す接着方法は、まず、図7中の上段に示すように、ケース580の第2面F2に未硬化の接着剤ADがディスペンサー等により付与される。一方、流路基板510の第1面F1上には、第2領域RE2が重なるように、フィルター部材600が載置される。
【0075】
そして、未硬化の接着剤ADの付着した第2面F2を第2領域RE2を介して第1面F1に貼り合せることにより、図7中の下段に示すように、未硬化の接着剤ADが第2領域RE2に付着するとともに第2孔620を通じて第1面F1に付着する。このため、接着剤ADが流路基板510、ケース580およびフィルター部材600のそれぞれに付着する。ここで、フィルター部材600と流路基板510との間の微小な隙間、および、フィルター部材600とケース580との間の微小な隙間にも、未硬化の接着剤ADが進入する。
【0076】
このように接着剤ADを流路基板510、ケース580およびフィルター部材600に付着させた状態で硬化させることにより、流路基板510およびケース580がフィルター部材600を介して接着剤ADにより接着される。
【0077】
以上の接着方法によれば、1回の接着工程で、流路基板510、ケース580およびフィルター部材600を同時に接着することができる。これに対し、仮に第2孔620を省略した場合、フィルター部材600と流路基板510とを接着する工程と、フィルター部材600とケース580とを接着する工程と、の2回の接着工程が必要となる。また、第2孔620を省略した場合、第2孔620による接着剤のアンカー効果等が生じないため、接着強度が劣る場合がある。
【0078】
なお、図7に示す接着方法では、第2面F2に未硬化の接着剤ADを付与した態様が例示されるが、この態様に限定されず、第1面F1または第2領域RE2に未硬化の接着剤ADを付与しても、前述と同様に、1回の接着工程で、流路基板510、ケース580およびフィルター部材600を同時に接着することができる。
【0079】
以上のように、液体噴射ヘッド50は、液体を噴射するノズルNと、「第1流路部材」の一例である流路基板510と、「第2流路部材」の一例であるケース580と、フィルター部材600と、を備える。流路基板510は、第1面F1を有する。第1面F1には、第1流路R1の第1開口511が形成される。第1流路R1は、「液体」の一例であるインクを噴射するノズルNと連通している。ケース580は、第2面F2を有する。第2面F2には、第2流路R2の第2開口581が形成される。第2流路R2は、ノズルNと連通しており、第1流路R1と接続される。このような第1面F1と第2面F2との間には、フィルター部材600が配置される。
【0080】
前述のように、第2開口581は、平面視において第1開口511よりも大きい。また、フィルター部材600は、複数の第1孔610が設けられた第1領域RE1と、複数の第2孔620が設けられた第2領域RE2と、を含む。第2領域RE2は、平面視において、第1領域RE1の周囲に位置する。
【0081】
第1領域RE1は、フィルター領域FRを含む。フィルター領域FRは、第1開口511と第2開口581との間を仕切り、かつ、ノズルNに供給されるインクを通過させる。一方、第2領域RE2は、第1固定領域FX1を含む。第1固定領域FX1は、第1面F1および第2面F2の双方に接触しており、第1固定領域FX1には、接着剤ADが付着する。しかも、平面視において、複数の第2孔620のそれぞれの面積は、複数の第1孔610のそれぞれの面積よりも大きい。
【0082】
以上の液体噴射ヘッド50では、第1固定領域FX1が接着剤ADの付着した状態で第1面F1および第2面F2の双方に接触するので、フィルター部材600が第1固定領域FX1において第1面F1および第2面F2のそれぞれに接着される。ここで、第1固定領域FX1を含む第2領域RE2に複数の第2孔620が設けられるので、各第2孔620を通じた接着剤ADにより第1面F1および第2面F2を直接的に接着することができる。このため、フィルター部材600に対する接着剤ADの接着性が良くなくても、第2孔620を省略した態様に比べて、第1面F1および第2面F2に対するフィルター部材600の接着強度を高める効果が得られる。そのうえ、平面視において複数の第2孔620のそれぞれの面積が複数の第1孔610のそれぞれの面積よりも大きいので、当該効果を高めることができ、第1面F1および第2面F2に対してフィルター部材600を強固に接着することができる。
【0083】
なお、平面視において、第2孔620の面積は、第1孔610の面積の5倍以上大きいことが好ましい。
【0084】
本実施形態では、前述のように、複数の第2孔620は、平面視において正六角形の孔を用いて構成される。このため、第2領域RE2の必要な機械的強度を確保しつつ、第2領域RE2における開口率を最も大きくすることができる。特に、フィルター部材600に加わった応力を分散させやすいので、第2領域RE2の損傷を好適に低減することができる。
【0085】
なお、平面視において三角形、四角形および六角形のうちのいずれかの形状の孔を用いて複数の第2孔620を構成することにより、第2孔620の平面視形状が円形である態様に比べて、第2領域RE2の必要な機械的強度を確保しつつ、第2領域RE2における開口率を大きくすることができる。この結果、第1面F1および第2面F2に対するフィルター部材600の接着強度を高めることができる。
【0086】
また、前述のように、複数の第2孔620の一辺の長さをHとし、複数の第2孔620のうちの隣り合う2つの第2孔620の間の距離をGとしたとき、G<H/31/2の関係を満たすことが好ましい。この場合、第2領域RE2における開口率を大きくすることができる。
【0087】
さらに、前述のように、フィルター部材600が電鋳部品、すなわち電鋳法により製造される部品である場合、高精度な第1孔610および第2孔620を有するフィルター部材600を得ることができる。また、電鋳法でフィルター部材600を製造することによりフィルター部材600の厚さを極めて薄くすることができる。このため、フィルター領域FRに液体を通過させる際の圧力損失を低減することができる。ここで、フィルター部材600の厚さが極めて薄くても、ハニカム構造を採用することにより、フィルター部材600の必要な機械的強度を確保することができる。また、電鋳部品は、NiPd等の接着性に劣る材料で構成されることが一般的である。このような接着性に劣る材料でフィルター部材600が構成されても、前述のように、第1面F1および第2面F2に対してフィルター部材600を強固に接着することができる。
【0088】
また、前述のように、第1領域RE1は、第1露出領域EX1を含む。第1露出領域EX1は、平面視において、フィルター領域FRの周囲に位置するとともに第1面F1に重なり、かつ、第2開口581に露出される。このため、フィルター部材600および流路基板510の互いの位置決めに多少のずれが生じても、第2孔620が第1開口511に重なることを低減することができる。この結果、異物が第2孔620を通過する可能性が低減される。
【0089】
さらに、前述のように、第2領域RE2は、第2露出領域EX2を含む。第2露出領域EX2は、平面視において、第1固定領域FX1とフィルター領域FRとの間に位置するとともに第1面F1に重なり、かつ、第2開口581に露出される。このため、フィルター部材600およびケース580の互いの位置決めに多少のずれが生じても、第1孔610が第1面F1と第2面F2との間に介在することを低減することができる。この結果、第1面F1および第2面F2に対するフィルター部材600の接着強度のバラツキを低減することができる。また、第2露出領域EX2を第1面F1に対するフィルター部材600の接着に寄与させることができる。この結果、第1面F1および第2面F2に対するフィルター部材600の接着強度の向上を図ることもできる。
【0090】
また、前述のように、複数の第2孔620のうち第1固定領域FX1に設けられる少なくとも1つの第2孔620の全部分は、第1面F1および第2面F2によって閉塞される。このため、当該少なくとも1つの第2孔620の全部分が第1面F1および第2面F2によって閉塞されない態様に比べて、第1面F1および第2面F2に対するフィルター部材600の接着強度を高めることができる。
【0091】
さらに、前述のように、第2領域RE2における開口率は、第1領域RE1における開口率よりも大きいことが好ましい。この場合、第2領域RE2における開口率が第1領域RE1における開口率よりも小さい態様に比べて、第1面F1および第2面F2に対するフィルター部材600の接着強度を高めることができる。
【0092】
また、前述のように、第2領域RE2における開口率と第1領域RE1における開口率との差は、5%以上であることが好ましい。この場合、第1面F1および第2面F2に対するフィルター部材600の接着強度を好適に高めることができる。
【0093】
さらに、前述のように、平面視において、複数の第1孔610のそれぞれの内接円の直径WH1は、複数のノズルNのそれぞれの内接円の直径NRよりも小さい。このため、ノズルNのノズル詰まりを生じさせるような異物が第1孔610を通過することが防止される。
【0094】
また、前述のように、平面視において、複数の第1孔610のそれぞれの形状は、円形である。このため、第1孔610の平面視形状が多角形である態様に比べて、第1孔610に異物が引っ掛かり難い、第1孔610が拡大し難い、第1孔610にクラックが生じ難い等の効果が得られる。
【0095】
B:第2実施形態
以下、本開示の第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0096】
図8は、第2実施形態における第1開口511と第2開口581とフィルター部材600Aとの位置関係を示す平面図である。図9は、図8中のB-B線断面図である。本実施形態は、フィルター部材600に代えてフィルター部材600Aを用いること以外は、前述の第1実施形態と同様である。フィルター部材600Aは、第1領域RE1と第2領域RE2との面積比が異なること以外は、第1実施形態のフィルター部材600と同様に構成される。
【0097】
本実施形態では、第1領域RE1と第2領域RE2との間の境界BDが第1面F1および第2面F2の両方に重なる。このため、露出領域EXが第1露出領域EX1で構成されるとともに、固定領域FXが第1固定領域FX1および第2固定領域FX2で構成される。ここで、本実施形態では、第1領域RE1がフィルター領域FRと第1露出領域EX1と第2固定領域FX2とを含むとともに、第2領域RE2が第1固定領域FX1と外周領域PEとを含む。
【0098】
本実施形態の露出領域EXは、第2露出領域EX2を省略したこと以外は、第1実施形態の露出領域EXと同様に構成される。また、本実施形態の固定領域FXは、第2固定領域FX2を追加したこと以外は、第1実施形態の固定領域FXと同様に構成される。
【0099】
第2固定領域FX2は、第1固定領域FX1と第1露出領域EX1との間に位置し、かつ、第1面F1および第2面F2の双方に接触する。第2固定領域FX2には、接着剤ADが付着する。ここで、前述のように、第1領域RE1に複数の第1孔610が設けられるので、第2固定領域FX2に付着した接着剤ADが各第1孔610を通じて第1面F1および第2面F2の両方に接触する。これにより、フィルター部材600が第2固定領域FX2においても第1面F1および第2面F2のそれぞれに接着される。
【0100】
本実施形態では、第2固定領域FX2が第1領域RE1の周方向での全域にわたり設けられる。なお、第2固定領域FX2が第1領域RE1の周方向での一部のみにわたり設けられてもよい。
【0101】
第1固定領域FX1の幅WF1は、第2固定領域FX2の幅WF2よりも長いことが好ましい。この場合、幅WF1が幅WF2よりも短い態様に比べて、第1面F1および第2面F2に対するフィルター部材600Aの接着強度を高めることができる。
【0102】
以上の第2実施形態によっても、流路基板510およびケース580に対するフィルター部材600Aの接着強度を高めることができる。本実施形態では、前述のように、第1領域RE1は、第2固定領域FX2を含む。第2固定領域FX2は、第1固定領域FX1と第1露出領域EX1との間に位置し、かつ、第1面F1および第2面F2の双方に接触しており、第2固定領域FX2には、接着剤が付着する。このため、第2孔620が第2開口581に露出することが防止されるので、万一、接着剤ADによる第1露出領域EX1と流路基板510との接着不良等によってフィルター部材600Aの第1領域RE1が第2流路R2側へ撓むことで流路基板510の第1面F1と第1露出領域EX1との間に隙間が生じてしまっても、異物が第2孔620を通過する可能性が低減される。この結果、フィルター部材600Aのフィルター性能のバラツキを低減することができる。
【0103】
また、前述のように、フィルター領域FRは、「第1軸」の一例であるY軸に沿って延びる形状をなす。Y軸に直交する断面において、第1固定領域FX1の幅WF1は、第2固定領域FX2の幅WF2よりも長いことにより、第1面F1および第2面F2に対するフィルター部材600Aの接着強度を高めることができる。
【0104】
C:変形例
以上に例示される各形態は、多様に変形され得る。前述の各形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択される態様は、互いに矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0105】
C1:変形例1
前述の各形態では、第2流路R2は、第1流路R1よりも上流に設けられていたが、第2流路R2は、第1流路R1よりも下流に設けられていてもよい。
【0106】
C2:変形例2
前述の各形態では、ヘッドチップ51を搭載した搬送体41を往復させるシリアル方式の液体噴射装置100を例示したが、複数のノズルNが記録媒体Mの全幅にわたり分布するライン方式の液体噴射装置にも本開示は適用される。
【0107】
C3:変形例3
前述の形態で例示した液体噴射装置100は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置やコピー機等の各種の機器に採用されてもよく、本開示の用途は特に限定されない。もっとも、液体噴射装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を噴射する液体噴射装置は、液晶表示パネル等の表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を噴出する液体噴射装置は、配線基板の配線や電極を形成する製造装置として利用される。また、生体に関する有機物の溶液を噴出する液体噴射装置は、例えばバイオチップを製造する製造装置として利用される。
【符号の説明】
【0108】
10…液体容器、20…制御モジュール、30…搬送機構、40…移動機構、41…搬送体、42…搬送ベルト、50…液体噴射ヘッド、51…ヘッドチップ、52…駆動回路、100…液体噴射装置、510…流路基板(第1流路部材)、511…第1開口、520…圧力室基板、530…ノズル基板、540…吸振体、550…振動板、560…圧電素子、570…保護基板、580…ケース(第2流路部材)、581…第2開口、582…外周縁、590…配線基板、600…フィルター部材、600A…フィルター部材、610…第1孔、620…第2孔、AD…接着剤、BD…境界、C…圧力室、CR1…内接円、CR2…内接円、Com…駆動信号、EX…露出領域、EX1…第1露出領域、EX2…第2露出領域、F1…第1面、F2…第2面、FN…ノズル面、FR…フィルター領域、FX…固定領域、FX1…第1固定領域、FX2…第2固定領域、HL…導入口、Ln1…第1ノズル列、Ln2…第2ノズル列、M…記録媒体、N…ノズル、Na…連通流路、NR…直径、PE…外周領域、R…リザーバー、R1…第1流路、R1a…第1流路、R2…第2流路、R2a…第2流路、RE1…第1領域、RE2…第2領域、Ra…供給流路、S…空間、SI…制御信号、WF1…幅、WF2…幅、WH1…直径、WH2…直径。
図1
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図9