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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104406
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】焙煎装置
(51)【国際特許分類】
   A23N 12/08 20060101AFI20240729BHJP
   G05D 23/19 20060101ALI20240729BHJP
   A23F 5/04 20060101ALN20240729BHJP
【FI】
A23N12/08 A
G05D23/19 Z
A23F5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008592
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000109026
【氏名又は名称】ダイニチ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大塚 優吾
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 允
(72)【発明者】
【氏名】生田 竜晟
【テーマコード(参考)】
4B027
4B061
5H323
【Fターム(参考)】
4B027FC10
4B027FQ02
4B061AA01
4B061AB02
4B061AB08
4B061BA09
4B061CD01
5H323AA21
5H323BB17
5H323CA06
5H323CB01
5H323DA01
5H323EE05
5H323FF01
5H323FF04
(57)【要約】
【課題】筐体のばらつきがあったとしても焙煎釜の温度を目標温度に維持し、焙煎物の品質を一定に保つことのできる焙煎装置を提供すること。
【解決手段】ヒータ51で加熱した空気を焙煎釜70に取り入れて被焙煎物を焙煎する焙煎装置であって、焙煎釜70に流入する空気の温度を検知する第一温度検知手段62と、焙煎釜70内の温度を検知する第二温度検知手段73と、焙煎釜70内の温度を目標温度に制御する温調制御を行う制御装置80と、を備え、制御装置80は温調制御において、目標温度よりも所定値低い温度を基準温度に設定し、第一温度検知手段62が検知する温度が基準温度となるようにヒータの通電を制御し、目標温度と第二温度検知手段73が検知する温度から補正値を算出し、補正値に基づき基準温度を更新する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気流を発生させるファンと、
空気を加熱するヒータと、
加熱された空気を取り入れて被焙煎物を焙煎する焙煎釜と、
前記焙煎釜に流入する空気の温度を検知する第一温度検知手段と、
前記焙煎釜内の温度を検知する第二温度検知手段と、
前記焙煎釜内の温度を目標温度に制御する温調制御を行う制御装置と、を備え
前記制御装置は、前記温調制御において、前記目標温度よりも所定値低い温度を基準温度に設定し、前記第一温度検知手段が検知する温度が前記基準温度となるように前記ヒータの通電を制御し、前記目標温度と前記第二温度検知手段が検知する温度から補正値を算出し、前記補正値に基づき前記基準温度を更新する焙煎装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記基準温度を設定もしくは更新した後、前記第二温度検知手段が検知する温度が安定したと判断した場合に前記補正値の算出を行う請求項1記載の焙煎装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記基準温度を設定もしくは更新した後、所定時間は前記補正値の算出を行わない請求項2記載の焙煎装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記目標温度と前記第二温度検知手段が検知する温度との差に係数K(0<K<1)を乗じて前記補正値を算出し、前記基準温度に前記補正値を加えることで前記基準温度を更新する請求項1から3のいずれかに記載の焙煎装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱された空気を用いてコーヒー豆等の被焙煎物を焙煎する焙煎装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コーヒーの生豆等の被焙煎物を焙煎する装置として、加熱された空気を用いる熱風式の焙煎装置が知られている。熱風式の焙煎装置は、たとえば特許文献1に示すように、空気流を発生させるファンと、空気を加熱するヒータを備えるヒータアッセンブリと、被焙煎物を焙煎する焙煎室と、を備えて構成されている。
【0003】
上述のように構成される焙煎装置では、ファンの回転によって発生した空気流は、下流のヒータアッセンブリに流入し、ここでヒータからの熱を受けて加熱され熱風となる。熱風はさらに下流の焙煎室内に供給され、焙煎室内の非焙煎物は熱風により加熱されることで焙煎される。
【0004】
また、焙煎は、焙煎プロファイルと呼ばれる熱対時間曲線を被焙煎物に適用することによって行われる。焙煎装置においては、焙煎室の温度を焙煎プロファイルにおいて指定された温度に維持するため、被焙煎物または焙煎室の温度を検知するための温度センサが設けられ、この温度センサの検知結果によってヒータの出力が制御されている。温度センサを設置する位置は、焙煎装置によって様々であり、特許文献1では、装置に流入する空気の温度を検知するセンサ、焙煎室に入る空気の温度を検知するセンサ、焙煎室を出る空気の温度を検知するセンサ、の3つのセンサから2つを組み合わせて複数箇所の温度を検知することができるようにした例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007-514418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プロファイルを実行して焙煎物を得るためには、焙煎室の温度をいかに指定された温度に保持するかが重要となる。したがって、温度センサで検知した温度に基づいて、適切にヒータの出力を制御する必要がある。しかしながら、焙煎装置を構成する部品には個体差があるため、焙煎室の温度の上がり易さには筐体によってばらつきが生じる。また、温度の上がり易さは使用環境(室温)によっても左右されるため、温度の上がりやすい条件が揃ってしまうと、焙煎室の温度が指定の温度を超えてしまい、焙煎物の品質を一定に保つことができなくなるという問題が生じてしまっていた。この問題を解決するため、ヒータの制御には改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためのもので、ヒータを適切に制御することで、筐体によってばらつきがあったとしても焙煎室の温度を目標温度に維持し、焙煎物の品質を一定に保つことのできる焙煎装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、空気流を発生させるファンと、
空気を加熱するヒータと、
加熱された空気を取り入れて被焙煎物を焙煎する焙煎釜と、
前記焙煎釜に流入する空気の温度を検知する第一温度検知手段と、
前記焙煎釜内の温度を検知する第二温度検知手段と、
前記焙煎釜内の温度を目標温度に制御する温調制御を行う制御装置と、を備え
前記制御装置は、前記温調制御において、前記目標温度よりも所定値低い温度を基準温度に設定し、前記第一温度検知手段が検知する温度が前記基準温度となるように前記ヒータの通電を制御し、前記目標温度と前記第二温度検知手段が検知する温度から補正値を算出し、前記補正値に基づき前記基準温度を更新する焙煎装置である。
【発明の効果】
【0009】
上述のように構成することにより、焙煎釜の温度を目標温度に維持して、焙煎物の品質を一定に保つことのできる焙煎装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の焙煎装置の断面図である。
図2】焙煎プロファイルの一例を示すグラフである。
図3】本実施形態の焙煎装置における制御装置のブロック図である。
図4】本実施形態の焙煎装置における温調制御のフローチャートである。
図5】温調制御における、基準温度と焙煎釜内の温度の変化を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
好適と考える本発明の実施形態を、本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0012】
本発明は、空気流を発生させるファンと、空気を加熱するヒータと、加熱された空気を取り入れて被焙煎物を焙煎する焙煎釜と、焙煎釜に流入する空気の温度を検知する第一温度検知手段と、焙煎釜内の温度を検知する第二温度検知手段と、焙煎釜内の温度を目標温度に制御する温調制御を行う制御装置と、を備えた焙煎装置であって、制御装置は温調制御において、目標温度よりも所定値低い温度を基準温度に設定し、第一温度検知手段が検知する温度が基準温度となるようにヒータの通電を制御し、目標温度と第二温度検知手段が検知する温度から補正値を算出し、補正値に基づき基準温度を更新する。つまり、目標温度よりも低く設定した基準温度で温調制御を開始した後、目標温度と焙煎釜の温度差から基準温度を補正することで、部品に個体差があったとしても焙煎釜の温度が目標温度以上となってしまうことを抑制する。そして、温度検知手段のうち、ヒータに近い第一温度検知手段でヒータの通電を制御することで、温度変化をリニアに制御することができるため、焙煎釜の温度を目標温度に維持することができる。
【0013】
また、制御装置は、基準温度を設定もしくは更新した後、第二温度検知手段が検知する温度が安定したと判断した場合に補正値の算出を行う。例えば、焙煎釜の温度が上昇中であったり、温度の調整中で焙煎釜の温度が上下しているときには、補正値を適切に取得することができないため補正を実施しない。これにより、不要な補正を実施することを防止して、より確実に焙煎釜の温度を目標温度に維持することができる。
【0014】
また、制御装置は、前記基準温度を設定もしくは更新した後、所定時間は前記補正値の算出を行わない。基準温度を設定または更新したとしても、すぐに焙煎釜の温度が上昇するわけではなく、温度が上昇するまでにはタイムラグが発生する。このタイムラグを温度が安定したと誤検知してしまうと、適切にヒータを制御することができなくおそれがある。そこで、所定時間は補正値の算出を行わないことにより、このような誤検知を防止することができる。
【0015】
また、制御装置は、目標温度と第二温度検知手段が検知する温度との差に係数K(0<K<1)を乗じて補正値を算出し、基準温度に補正値を加えることで基準温度を更新する。これにより、補正値を適切に設定することができるため、より確実に焙煎釜の温度を目標温度に維持することができる。
【実施例0016】
以下、本発明の一実施例を図面により説明する。
【0017】
図1は、本実施形態の焙煎装置の断面図である。本実施形態の焙煎装置1は、主としてコーヒー豆の焙煎に用いられる装置であって、被焙煎物であるコーヒー豆を焙煎する本体部10と、焙煎の過程で剥がれたコーヒー豆の薄皮を回収するためのチャフケース20とを備えて構成されている。チャフケース20は本体部10の上方に着脱自在に設けられている。
【0018】
本体部10は、外装を形成する略円筒状の外装ケース30内に、空気流を発生させるファン40と、ファン40を回転させるモータ41と、ファン40の回転により発生した空気流を整流するファンケース42と、ファン40の下流に設けられて空気を加熱するヒータユニット50と、ヒータユニット50を収容するヒータケース60と、ヒータユニット50で加熱された空気を取り入れて被焙煎物を焙煎する焙煎釜70と、が収容されて構成されている。
【0019】
外装ケース30の上部と底部には、本体部10内に空気を取り入れる吸気口31が設けられていて、ファン40が回転することによって吸気口31から本体部10内に空気が流入する。上部の吸気口31から取り入れられた空気は、外装ケース30に沿って下方に流れて本体部10の底部に向かう。この空気流は、ヒータユニット50から発せられる熱が外装ケース30に伝わることを抑制し、外装ケース30の表面温度が上昇することを防いでいる。そして、吸気口31から本体部10内に流入した空気は、ファンケース42によって整流されてヒータユニット50へ向かう。
【0020】
ヒータユニット50は、熱を発生するヒータ51を備えている。そして、ヒータユニット50の底面には空気取入口521が設けられており、ファン40から送風された空気は、この空気取入口521からヒータユニット50に流入し、ヒータ51が発する熱を受けることで加熱されて熱風となる。熱風はヒータユニット50の外周を通ってヒータケース60内に流入した後、焙煎釜70内に供給されるようになっており、焙煎釜70内のコーヒー豆は熱風で加熱されることにより焙煎される。
【0021】
焙煎釜70は、上部が開口した有底筒形の形状であって、熱伝導性の高いアルミなどの材料から構成されている。ヒータケース60の上面には、焙煎釜70の底部が挿入される挿入口61が設けられており、焙煎釜70はこの挿入口61から挿入されて、その筒状の下方部分の一部がヒータケース60内に収容されている。また、焙煎釜70の側壁の所定位置には、外周方向に張り出すフランジ71が形成されていて、このフランジ71がヒータケース60の上面と当接することで所定の位置に配置されるようになっている。フランジ部は、ヒータケース60の上面とで熱風の流路をシールするように設けられていて、これにより熱風の流路が形成される。
【0022】
焙煎釜70の側面には、ヒータユニット50で発生した熱風を取り入れる熱風流入口72が設けられている。熱風流入口72は、斜め方向に伸びるスリット形状であって、側面の周方向に一定の間隔を空けて並んで設けられる。熱風流入口72を通過した熱風は、この斜めの形状に沿って焙煎釜70内に流入し、焙煎釜70内で旋回流を発生させる。コーヒー豆はこの旋回流によって撹拌され、焙煎釜70内を回転しながら徐々に水分が蒸発していき、焙煎されたコーヒー豆となる。このように、旋回流によってコーヒー豆が撹拌されることで、煎りムラを生じさせることなく短時間で均一にコーヒー豆を焙煎することができる。
【0023】
ヒータケース60の内部には、第一温度検知手段としてヒータケースサーミスタ62が設けられている。ヒータケースサーミスタ62は、焙煎釜70内に流入する熱風の温度を検知する温度センサであり、熱風流入口72の近傍に配設される。
【0024】
焙煎釜70の内部には、第二温度検知手段として釜サーミスタ73が設けられている。釜サーミスタ73は、焙煎釜70内のコーヒー豆の温度を検知する温度センサであり、直接コーヒー豆の温度を検知してもよいし、焙煎釜70内の空気の温度を検知してももよい。本実施形態の焙煎装置1では、コーヒー豆はおおよそフランジの高さまで投入されることを想定しており、釜サーミスタ73はコーヒー豆の高さよりも上方に設置され焙煎釜70内の空気の温度を検出する。
【0025】
焙煎は、焙煎プロファイルと呼ばれる熱対時間曲線を被焙煎物に適用することによって行われる。図2は、焙煎プロファイルの一例を示したものである。コーヒー豆を特定の温度で加熱することで、コーヒー豆に含まれる糖やアミノ酸などが化学反応を起こし、酸味や旨味、コクといった風味を加えることができる。コーヒー豆における上記反応の主なものとしては、酸味を発生させる「加水分解」、糖とアミノ酸が結合することで旨味やコクを発生させて褐色物質を生成する「メイラード反応」、糖の反応により旨味やコクに加えて苦み成分を生成する「カラメル化」などがあり、各反応は特定の温度帯で活性化することが知られている。
【0026】
また、焙煎装置1には、複数の焙煎レベルが設定されており、使用者が本体部10に設けられた焙煎レベルスイッチ(図示せず)を操作して、焙煎レベルを選択することによって好みに応じた焙煎度合いになるよう焙煎が実行される。焙煎レベルによって異なるプロファイルを設定することができる。
【0027】
コーヒー豆を通過した後の熱風は、焙煎釜70上部の開口から排出される。また、焙煎の過程でコーヒー豆から剥がれた薄皮(チャフ)は、この熱風とともに開口から排出されて、本体部10の上方に設けられたチャフケース20に回収される。チャフケース20には排気口21が設けられており、チャフが回収されたあとの熱風だけがこの排気口21から装置外に排出される。
【0028】
焙煎装置1の動作は、制御装置80(図3参照)によって制御される。制御装置80はヒータ51の通電を制御して、焙煎釜70の温度を焙煎プロファイルで設定された目標温度に維持する温調制御をおこなう。
【0029】
焙煎装置1を構成する部品には個体差があるため、焙煎釜70の温度の上がり易さには筐体によるばらつきが生じる。また、使用場所の温度も、焙煎釜70の温度の上がり易さに影響を与えるため、温度の上がりやすい条件が揃ってしまうと、容易に焙煎釜70の温度が目標温度を超えてしまい、焙煎物の品質を一定に保つことができなくなってしまう。そこで、本実施形態の制御装置80は、ヒータケースサーミスタ62と釜サーミスタ73の2つの温度センサを用いてヒータ51の通電を制御する。
【0030】
具体的には、目標温度よりも所定値低い温度を基準温度に設定し、ヒータケースサーミスタ62が検知する温度が基準温度となるようにヒータ51の通電を制御する。そして、目標温度と釜サーミスタ73が検知する温度から補正値を算出し、補正値に基づき基準温度を更新する。目標温度よりも低く設定した基準温度で温調制御を開始した後、目標温度と焙煎釜70内の温度差から基準温度を補正することで、部品に個体差があったとしても焙煎釜70の温度が目標温度以上となってしまうことを抑制する。そして、温度センサのうち、ヒータ51に近いヒータケースサーミスタ62でヒータ51の通電を制御することで、温度変化をリニアに制御することができるため、装置の個体差によらず焙煎釜70の温度を目標温度に維持することができる。
【0031】
図3は、本実施形態の焙煎装置における制御装置のブロック図である。制御装置80は、プロファイル記憶部81と、基準温度設定部82と、ヒータ制御部83と、補正値算出部84と、基準温度更新部85と、計時部86と、判定部87と、を含んで構成され、焙煎釜70内の温度を目標温度に制御する温調制御を行う。
【0032】
プロファイル記憶部81は、焙煎プロファイルを実現するための焙煎釜70の目標温度Taと、目標温度Taを維持する時間のデータを保存している。基準温度設定部82は、プロファイル記憶部81に記憶された焙煎釜70の目標温度Taを読み出し、この目標温度Taよりも所定値低い温度を基準温度Tsに設定する。なお、基準温度はプロファイル記憶部81に保存してもよく、その場合、基準温度設定部82はプロファイル記憶部81から基準温度を読み出して基準温度Tsに設定する。
【0033】
ヒータ制御部83は、ヒータケースサーミスタ62が検知する熱風の温度が、基準温度Tsになるようにヒータ51の通電を制御する。ヒータ51は、例えば100%または50%のいずれかで通電されるように構成され、ヒータ51の通電を切り替えることで熱風温度を基準温度Ts付近に維持する。
【0034】
補正値算出部84は、プロファイル記憶部81に記憶されている目標温度Taと、釜サーミスタ73が検知する焙煎釜70内の温度Tmとから補正値Tcを算出する。補正値Tcの算出は、焙煎釜70内の温度が安定したときに実施される。補正値Tcは、目標温度Taと釜サーミスタ73の検知温度Tmとの差を求め、この差に係数Kを乗じることで算出することができる。係数Kは、0<K<1を満たす値であればよい。また、温調制御においてKは一定値である必要はないので、例えば、ある条件を満たしたときと満たしていないときとでKの値が異なるようにしてもよい。
【0035】
基準温度更新部85は、補正値算出部84で算出された補正値Tcに基づいて、基準温度Tsを更新する。具体的には、基準温度更新部85は、現在の基準温度Tsに補正値Tcを加えることで基準温度Tsを更新し、基準温度Tsが更新されると、その後はヒータケースサーミスタ62の検知温度が、更新された基準温度Tsとなるようにヒータ51の通電が制御される。
【0036】
なお、基準温度Tsが更新されてから所定時間は、上述した補正値Tcの算出は行われない。計時部86は、基準温度Tsが更新されると計時を開始し、計時した時間が所定時間以上となっているかを判定する。
【0037】
判定部87は、焙煎釜70内の温度が安定したかを判定する。具体的には、釜サーミスタ73の検知する温度Tmを所定期間ごとにサンプリングし、サンプリングした値の変動が殆どなければ安定と判定し、変動している場合には安定していないと判定する。例えば、1秒ごとに釜サーミスタ73の検知温度Tmをサンプリングし、10回のサンプリング値の最大値と最小値の差が1℃以内であったときに安定と判定する。
【0038】
なお、プロファイルにおいて目標温度Taが複数設けられている場合には、目標温度Taが変更されたときには補正値Tcの算出を行わないこととしてもよい。例えば、補正開始条件を設けて、条件を満たしたときに補正値Tcの算出を開始する。補正開始条件としては、ある温度以上を連続して検知したときとすることができる。補正開始条件を満たしているかは、判定部87で判定することができる。
【0039】
次に、本実施形態の焙煎装置の温調制御の動作について、図4のフローチャートを用いて説明する。
【0040】
制御装置80は、焙煎開始の指示を受けると温調制御を開始する。温調制御が開始されると、基準温度設定部82は基準温度Tsを設定する(ステップ1)。基準温度設定部82は、プロファイル記憶部81に記憶された焙煎釜70の目標温度Taを読み出し、この目標温度Taよりも所定値低い温度を基準温度Tsに設定する。
【0041】
基準温度Tsが設定されると、ヒータ制御部83はヒータ51の通電を開始して焙煎釜70に流入する空気を加熱する。そして、ヒータケースサーミスタ62が検知する熱風の温度が、基準温度Tsになるようにヒータ51の通電を制御する(ステップ2)。
【0042】
ヒータ51の通電が開始されると、計時部86は計時を開始し(ステップ3)、計時した時間が所定時間t1経過したかを判定する(ステップ4)。所定時間t1が経過していない場合は、所定時間がt1が経過するまでヒータ51の通電制御を行いながら判定を繰り返す。
【0043】
所定時間t1が経過した場合は(ステップ4でYes)、次に判定部87で釜サーミスタ73が検知する焙煎釜70内の温度Tmが安定したかを判定する(ステップ5)。釜サーミスタ73の検知温度Tmが上昇中であったり、上下を繰り返すなどして安定していない場合は(ステップ5でNo)、ヒータ51の通電制御を継続し検知温度Tmが安定するまで待機する。検知温度Tmが安定したと判定した場合は(ステップ5でYes)、ステップ6へ進む。
【0044】
補正値算出部84では、プロファイル記憶部81に記憶されている目標温度Taと、釜サーミスタ73が検知する焙煎釜70内の温度とから補正値Tcを算出する(ステップ6)。補正値Tcは、目標温度Taと釜サーミスタ73の検知温度Tmとの差を求め、差に係数Kを乗じることで算出することができる。つまり、補正値Tc=K*(Ta-Tm)となる。
【0045】
基準温度更新部85は、基準温度Tsに補正値Tcを加えることで基準温度Tsを更新する(ステップ7)。基準温度Tsが更新されると、計時部86の計時がリセットされる(ステップ8)。その後はステップ3に戻り、更新された基準温度Tsとなるようにヒータ51の通電が制御される。
【0046】
制御装置では、図4で示した温調制御の他に、温調制御の終了を判定する終了判定制御も実行している。この終了判定制御で温調制御の終了指示があるとフローチャートは終了する。その後、新たに目標温度が設定された場合には、温調制御が再度実行される。
【0047】
図5は、温調制御における、基準温度と焙煎釜内の温度の変化を表したグラフである。グラフは、係数K=0.5(=1/2)として補正値Tcを算出した場合のものであって、基準温度Tsを破線、釜サーミスタ73の検知温度Tmを実線で示している。時刻0で基準温度Tsを設定し、ヒータ51の通電を開始する。
【0048】
時刻aにおいて釜サーミスタ73の検知温度Tmが安定したため、1回目の温度補正を行っている。目標温度Taと釜サーミスタ73の検知温度Tmの差をDa(黒矢印)とすると、補正値TcはDa/2(白抜き矢印)であるから、あらたな基準温度Tsは、元の基準温度TsにDa/2を加えた温度となる。
【0049】
次いで、時刻bにおいて焙煎釜の温度が安定したため、2回目の温度補正を行っている。目標温度Taと釜サーミスタ73の検知温度Tmの差をDbとすると、補正値TcはDb/2であり、新たな基準温度Tsは、元の基準温度TsにDb/2を加えた温度となる。以降は、時刻c、時刻dでも同様に温度補正を実施しており、釜サーミスタ73の検知温度Tmは徐々に目標温度Taに近づくことになる。仮に、焙煎釜70の加熱途中で基準温度Tsよりも釜サーミスタ73の検知温度Tmが高くなってしまったとしても、その時点でヒータ51を制御することで、焙煎釜70が目標温度Ta以上になってしまうのを抑えることができる。
【0050】
このように、本実施形態の焙煎装置1では、温調制御の基準となる基準温度Tsを目標温度Taよりも低く設定することで、焙煎釜70の温度を徐々に上昇させることができるため、温度の上がりやすい筐体であっても焙煎釜70の温度が目標温度Taを超えて上昇することを抑えることができる。そして、2つある温度センサのうち、ヒータ51に近いヒータケースサーミスタ62でヒータ51の通電を制御することで、温度変化をリニアに制御することができるため、筐体の個体差によらず焙煎釜70の温度を目標温度Taに維持することができる。
【0051】
また、基準温度Tsを設定もしくは更新した後は、釜サーミスタ73の検知温度Tmが安定したときに補正値Tcの算出を行うことで、不要な補正を行うことを防止して、より確実に焙煎釜70の温度を目標温度Taに維持することができる。
【0052】
また、基準温度Tsを設定または更新したとしても、すぐに焙煎釜70の温度が上昇するわけではなく、温度が上昇するまでにはタイムラグが発生する。このタイムラグを温度が安定したと誤検知してしまうと、適切にヒータ51を制御することができなくなるおそれがある。そこで、所定時間t1は補正値Tcの算出を行わないことにより、このような誤検知を防止することができる。
【0053】
また、補正値Tcは、目標温度Taと釜サーミスタの検知温度Tmとの差に係数K(0<K<1)を乗じて算出し、基準温度Tsに補正値Tcを加えることで基準温度Tsを更新する。これにより、補正値Tcを適切に設定し、より確実に焙煎釜70の温度を目標温度Taに維持することができる。
【符号の説明】
【0054】
40 ファン
51 ヒータ
62 ヒータケースサーミスタ(第一温度検知手段)
70 焙煎釜
73 釜サーミスタ(第二温度検知手段)
80 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5