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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104408
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】焙煎装置
(51)【国際特許分類】
   A23N 12/08 20060101AFI20240729BHJP
   G05D 23/19 20060101ALI20240729BHJP
   A23F 5/04 20060101ALN20240729BHJP
【FI】
A23N12/08 A
G05D23/19 Z
A23F5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008594
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000109026
【氏名又は名称】ダイニチ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大塚 優吾
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 允
(72)【発明者】
【氏名】生田 竜晟
【テーマコード(参考)】
4B027
4B061
5H323
【Fターム(参考)】
4B027FC10
4B027FQ02
4B061AA01
4B061AB02
4B061AB08
4B061BA09
4B061CD01
5H323AA21
5H323CA06
5H323CB01
5H323DA01
5H323EE04
5H323FF02
5H323FF04
(57)【要約】
【課題】得られる焙煎物の味の再現性を向上させた焙煎装置を提供することを目的とする。
【解決手段】加熱部14で熱せられた空気により被焙煎物を焙煎する焙煎釜15と、加熱部14より下流に設けられ、焙煎温度を検知する温度検知部51と、加熱部14に通電して焙煎制御を実行する制御部18とを備えた焙煎装置であって、焙煎制御18は、第一工程と第二工程を含んでおり、制御部18は、第一工程において、温度検知部51の検知温度に応じて予め設定された第一加算値を積算し、積算した値が積算終了値に達したら第一工程を終了し、第二工程を開始する。これにより、電源電圧や焙煎装置1に吸気される空気の温度の影響で、焙煎温度の上がりやすさにばらつきが生じても、実際の焙煎温度に応じて工程の遷移を判断することができ、得られる焙煎物の味の再現性をよくすることができる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口から排気口に至る空気流を発生させる送風機と、
空気を加熱する加熱部と、
加熱された空気を取り入れて被焙煎物を焙煎する焙煎釜と、
前記加熱部より下流に設けられ、被焙煎物が焙煎される焙煎温度を検知する温度検知部と、
前記加熱部に通電し、被焙煎物を焙煎する焙煎制御を実行する制御部と、を備え、
前記焙煎制御は、第一工程と、前記第一工程の終了後に開始される第二工程を含んでおり、
前記制御部は、前記第一工程において、
前記温度検知部の検知温度に応じて予め設定された第一加算値を積算し、前記第一加算値を積算した値が積算終了値に達したら前記第一工程を終了し、前記第二工程を開始する焙煎装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第一工程において第一目標温度を設定し、焙煎温度が前記第一目標温度になるように温調する請求項1記載の焙煎装置。
【請求項3】
前記第一目標温度が、第一範囲内の温度に設定された場合、
前記第一加算値は、前記第一範囲において最大値が設定され、前記第一範囲から温度が離れるほど小さい値が設定されている請求項2記載の焙煎装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第二工程において、前記第一範囲よりも高い第二範囲内に第二目標温度を設定するとともに、前記温度検知部の検知温度に応じて予め設定された第二加算値を積算して、前記第二加算値を積算した値が積算終了値に達したら前記第二工程を終了し、
前記第二加算値は、前記温度検知部の検知温度が高いほど大きい値が設定されている請求項3記載の焙煎装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー豆などを焙煎する焙煎装置の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、吸気口から排気口に至る送風路と、被焙煎物を収容する焙煎釜と、送風路を通過する空気を熱する加熱部を備え、加熱部で熱せられた空気の熱で被焙煎物を焙煎する焙煎装置が知られている。このような焙煎装置では、特許文献1のように、焙煎を複数のステップに分け、被焙煎物の焙煎温度が所定温度に達すると、ステップを遷移する焙煎制御が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2018-536408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、焙煎装置では、電源電圧や焙煎装置内に吸気される空気の温度によって、焙煎温度の上がりやすさにばらつきが生じる。焙煎の過程では、焙煎温度に応じて様々な化学反応が進行し、被焙煎物の味が作り上げられるため、所定温度に達するまでの焙煎温度の上がり方の違いによって、得られる焙煎物の味の再現性が低下するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためのもので、得られる焙煎物の味の再現性を向上させた焙煎装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
吸気口から排気口に至る空気流を発生させる送風機と、
空気を加熱する加熱部と、
加熱された空気を取り入れて被焙煎物を焙煎する焙煎釜と、
前記加熱部より下流に設けられ、被焙煎物が焙煎される焙煎温度を検知する温度検知部と、
前記加熱部に通電し、被焙煎物を焙煎する焙煎制御を実行する制御部と、を備え、
前記焙煎制御は、第一工程と、前記第一工程の終了後に開始される第二工程を含んでおり、
前記制御部は、前記第一工程において、
前記温度検知部の検知温度に応じて予め設定された加算値を積算し、前記加算値を積算した値が積算終了値に達したら前記第一工程を終了し、前記第二工程を開始する焙煎装置である。
【発明の効果】
【0007】
上述のように構成することにより、実際の焙煎温度に応じて工程の遷移を判断することができ、得られる焙煎物の味の再現性をよくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の焙煎装置の一例であるコーヒー豆焙煎装置の外観斜視図である。
図2】本実施形態の焙煎装置の一例であるコーヒー豆焙煎装置の断面構成図である。
図3】本実施形態の焙煎装置の一例であるコーヒー豆焙煎装置のブロック図である。
図4】本実施形態における焙煎運転全体の構成を示す図である。
図5】第一制御の各工程および第二制御の積算終了値、目標温度、加算値を示す表である。
図6】本実施形態における第一制御のフローチャートである。
図7】本実施形態における第二制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
好適と考える本発明の実施形態を、本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0010】
本発明は、吸気口から排気口に至る空気流を発生させる送風機と、空気を加熱する加熱部と、加熱された空気を取り入れて被焙煎物を焙煎する焙煎釜と、加熱部より下流に設けられ、被焙煎物が焙煎される焙煎温度を検知する温度検知部と、加熱部に通電し、被焙煎物を焙煎する焙煎制御を実行する制御部とを備え、焙煎制御は、第一工程と、第一工程の終了後に開始される第二工程を含んでおり、制御部は、第一工程において、温度検知部の検知温度に応じて予め設定された第一加算値を積算し、積算した値が積算終了値に達したら第一工程を終了し、第二工程を開始する。積算した値から第一工程の終了を判断することで、電源電圧や焙煎装置内に吸気される空気の温度の影響により焙煎温度の上がりやすさにばらつきが生じたとしても、実際の焙煎温度に応じて第一工程の実行時間を調節することができる。これにより、焙煎温度のばらつきに影響されることなく、得られる焙煎物の味の再現性をよくすることができる。
【0011】
また、制御部は、第一工程において第一目標温度を設定し、焙煎温度が第一目標温度になるように温調する。特定の化学反応が進行しやすい温度を第一目標温度とし、その第一目標温度を維持するように温調することで、短時間で化学反応を進行させることができる。
【0012】
また、第一目標温度が、第一範囲内の温度に設定された場合、第一加算値は、第一範囲において最大値が設定され、第一範囲から温度が離れるほど小さい値が設定される。化学反応は、第一範囲内の温度において最も進行しやすく、焙煎温度が第一範囲から離れるほど進行しにくくなるため、実際の焙煎温度が第一範囲から離れるほど焙煎時間を長くして、化学反応の反応時間を長くすることで、得られる焙煎物の味の再現性をよくすることができる。
【0013】
また、制御部は、第二工程において、第一範囲よりも高い第二範囲内に第二目標温度を設定するとともに、温度検知部の検知温度に応じて予め設定された第二加算値を積算して、第二加算値を積算した値が積算終了値に達したら第二工程を終了し、第二加算値は、温度検知部の検知温度が高いほど大きい値が設定される。第一範囲よりも高い第二範囲内の温度において進行する化学反応は、焙煎温度が高いほど反応が進みやすいため、実際の焙煎温度が高いほど積算される第二加算値が大きくして、第二加算値を積算した値から第二工程の終了を判断することで、得られる焙煎物の味の再現性をよくすることができる。
【実施例0014】
以下、本発明の一実施例を図面により説明する。なお、本実施形態では被焙煎物を煎る焙煎装置の一例として、コーヒー豆焙煎装置を例に説明する。
【0015】
図1は本実施形態の焙煎装置の一例であるコーヒー豆焙煎装置の外観斜視図、図2は本実施形態の焙煎装置の一例であるコーヒー豆焙煎装置の断面構成図である。
【0016】
焙煎装置1は、焙煎部2とチャフコンテナ3からなる。本実施形態では、コーヒー豆が被焙煎物であるため、焙煎が進むにつれてコーヒー豆から剥がれる殻を収集するチャフコンテナ3を備えており、チャフコンテナ3は、殻を収集するチャフケース3aと、チャフケース3aに取り付けられるフタ3bからなる。また、チャフコンテナ3は、外装をなすチャフコンテナ側ケーシング30を有し、チャフコンテナ側ケーシング30の上面と側面には排気口31が設けられている。
【0017】
焙煎部2は、外装をなす焙煎部側ケーシング20を有している。焙煎部側ケーシング20には、側面に第一吸気口21と焙煎装置1の運転を指示する操作部60が設けられており、底面に第二吸気口22が設けられている。なお、第一吸気口21は、後述するヒータケースよりも上方に位置するよう設けられる。そして、焙煎装置1は、焙煎部側ケーシング20とチャフコンテナ側ケーシング30からなるケーシング40を有している。
【0018】
さらに、焙煎部側ケーシング20の上面には、焙煎部側連通孔23が設けられ、チャフコンテナ側ケーシング30の底面には、チャフコンテナ側連通孔33が設けられている。本実施形態のコーヒー豆焙煎装置は、焙煎部2の上にチャフコンテナ3が載置された状態で使用され、焙煎部側連通孔23からチャフコンテナ側連通孔33へ空気が流れることで、第一吸気口21および第二吸気口22から排気口31に至る送風路が形成される。
【0019】
焙煎部2の内部には、空気流方向上流から順に、ファン11とモータ12からなり、送風路を通過する空気流を発生させる送風機13、空気を熱するヒータ14、有底筒状で内部に被焙煎物を収容する焙煎釜15が設けられている。焙煎釜15の側面には、焙煎釜15内の温度を検知する釜サーミスタ51が設けられ、この釜サーミスタ51の下方にはヒータ14で熱せられた空気を焙煎釜15内に取り込む開口16が複数設けられており、取り込まれた空気によって被焙煎物は攪拌されながら焙煎される。なお、本実施形態では、開口16は側面に設けられているが、底面に設けたり、側面と底面の両方に設けることもできる。
【0020】
さらに、焙煎部2の内部には、ファン11を内部に収容するファンケース110と、ヒータ14および焙煎釜15の下部を内部に収容するヒータケース140が設けられている。なお、焙煎釜15の下部とは、底面から開口16よりも上方の高さまでのことを指す。
【0021】
ファンケース110は、上面が開口した円形の椀形状となっており、中央に送風機13のモータ12が取り付けられ、モータ12が取り付けられた部分の周りにはファンケース110内に空気を取り込む流入口111が設けられている。
【0022】
ヒータケース140は、側面と上面を備える有天筒形状の金属製部品であり、上面の中央には、焙煎釜15が嵌め込まれる取付孔141が設けられている。さらに、ヒータケース140の上面には、ヒータ14で熱せられた空気の温度を検知するヒータケースサーミスタ50が取り付けられており、ヒータケースサーミスタ50は焙煎釜15に取り込まれる前の空気温度を検知している。
【0023】
また、ファンケース110は椀形状の上端部分に第一鍔部112を備え、ヒータケース140は側面の下端に第二鍔部142を備えている。ファンケース110とヒータケース140は、鍔部同士を当接させて組み立てられて焙煎部2内に配置され、送風路の外郭の一部を形成しており、ファンケース110とヒータケース140の内側は送風路の一部となる。
【0024】
図3は、本実施形態の焙煎装置の一例であるコーヒー豆焙煎装置のブロック図である。制御部18には、操作部60から焙煎装置1の運転に関する指示が入力される。操作部60には使用者が操作する各種スイッチが設けられており、本実施形態では、焙煎装置1の電源のオン・オフを切り替える電源スイッチ61、焙煎度を設定する焙煎度選択スイッチ62、被焙煎物を焙煎する焙煎運転を開始する焙煎運転スイッチ63を備えている。なお、焙煎度とは焙煎の程度を指し、本実施形態では、焙煎度をレベル1からレベル5の5段階から選択可能としており、選択されるレベルが高いほど深い焙煎度となるように焙煎されるが、焙煎度の段階数は特に限定されない。
【0025】
さらに、制御部18には各種センサからの情報が入力される。各種センサとして、本実施形態では、焙煎釜15に取り込まれる前の空気の温度を検知するヒータケースサーミスタ50と、焙煎釜15内の温度を検知する釜サーミスタ51を備えている。なお、本実施形態においては、釜サーミスタ51の検知温度を焙煎温度とするが、ヒータケースサーミスタ50の検知温度を焙煎温度としてもよい。
【0026】
また、制御部18の出力側には、モータ12、ヒータ14、焙煎度表示部70、焙煎運転ランプ71が接続されている。制御部18は入力された運転に関する指示や情報に基づいて、モータ12とヒータ14への通電を制御して、焙煎運転を行う。また、焙煎度表示部70には焙煎度選択スイッチ62により選択された焙煎度を表示し、焙煎運転ランプ71は焙煎装置が焙煎運転中であるときに点灯する。
【0027】
上述の焙煎装置1において、電源スイッチ61を押下すると、焙煎装置1の電源が入り、焙煎度選択スイッチ62から任意の焙煎度を選択可能となる。任意の焙煎度が選択された後、焙煎運転スイッチ63を押下すると、焙煎運転が開始する。
【0028】
図4は、本実施形態における焙煎運転全体の構成を示す図である。焙煎運転は、モータ12とヒータ14へ通電して、被焙煎物を焙煎する焙煎制御と、モータ12へは通電し、ヒータ14へは通電しない冷却制御からなる。冷却制御は、焙煎制御終了後に実行される制御であり、焙煎物を冷却して、予熱により焙煎が進まないようにしている。
【0029】
また、焙煎制御は、被焙煎物の味を作り上げる第一制御と、被焙煎物に色付けをして仕上げる第二制御からなる。
【0030】
第一制御は、異なる焙煎温度を目標温度とする複数の工程からなり、選択された焙煎度に応じてこれらの工程の中から1ないし複数が実行される。本実施形態では、焙煎温度が低い方から順に工程A、工程B、工程Cの3つの工程があり、第一制御で複数の工程が実行される場合には、焙煎温度が低い方から実行される。第一制御の各工程の終了は、釜サーミスタ51の検知温度に対応した加算値を積算した値が、積算終了値に達したか否かで判定される。第一制御の全工程が終了すると第二制御が開始される。
【0031】
第二制御は、第一制御終了後に実行される制御であり、選択されている焙煎度に応じて、異なる温度を焙煎温度の目標温度として設定し、焙煎が行われる。なお、第二制御は、焙煎制御の最終工程として実行される制御であり、第二制御が終了すると焙煎制御も終了する。第二制御の終了は、釜サーミスタ51の検知温度に対応した加算値を積算した値が、積算終了値に達したか否かで判定される。
【0032】
図5は、第一制御の各工程および第二制御の積算終了値、目標温度、加算値を示す表である。表には、左から順に、積算終了値、焙煎温度の目標温度、所定の焙煎温度範囲ごとに割り振られた加算値が示されており、第一制御の各工程および第二制御において各値が予め設定されている。
【0033】
まず、第一制御の各値について説明する。第一制御は、各工程で被焙煎物の味作りに関わる化学反応を進行させることを目的としており、目的とする化学反応に応じて焙煎温度の目標温度や加算値が設定されている。
【0034】
工程Aは、メイラード反応を進行させるための工程であり、本実施形態では、焙煎温度の目標温度が140度に設定されている。メイラード反応を起こすことで、旨味やコクを作り出すことができる。また、加算値は、目標温度が含まれる温度範囲である138度から142度において最大値が設定され、その温度範囲から離れるほど加算値が小さくなっており、積算終了値は500が設定されている。
【0035】
工程Bは、加水分解反応を進行させるための工程であり、本実施形態では、焙煎温度の目標温度が155度に設定されている。加水分解反応を起こすことで、浅煎りの焙煎物の特徴とされる酸味を増やすことができる。そのため、浅い焙煎度が設定されている場合に工程Bを行うことで、酸味を引き立たせた焙煎物を得ることができる。また、加算値は、目標温度が含まれる温度範囲である153度から157度において最大値が設定され、その温度範囲から離れるほど加算値が小さくなっており、積算終了値は5000が設定されている。
【0036】
工程Cは、カラメル化を進行させるための工程であり、本実施形態では、焙煎温度の目標温度が170度に設定されている。カラメル化を起こすことで、旨味やコクに加えて、深煎りの焙煎物の特徴とされる苦みを付けることができる。そのため、深い焙煎度が設定されている場合に工程Cを行うことで、焙煎物に適度な苦みを持たせることができる。また、加算値は焙煎温度が高いほど大きい値が設定されており、積算終了値は4000が設定されている。
【0037】
第一制御では、釜サーミスタ51の検知温度に応じて上述した加算値を積算し、積算した値が積算終了値に達すると工程を終了しており、実際の焙煎温度に応じて工程の実行時間が調節される。焙煎装置1では、電源電圧や焙煎装置1内に吸気される空気の温度などの影響で、焙煎温度の上がりやすさにばらつきが生じるが、実際の焙煎温度に応じて工程の実行時間を調節することで、焙煎温度のばらつきに影響されることなく工程の遷移を判断することができ、得られる焙煎物の味の再現性をよくすることができる。
【0038】
なお、各工程において、焙煎温度が目標温度を維持するように温調されるのが望ましい。目標温度を維持することで、実行中の工程で目的とする化学反応を進行させることができる。また、目標温度を設定して温調することで、焙煎温度の上がりやすさに違いがあったとしても、焙煎温度を一定の温度域内に収めることができる。よって、一定の温度域内に設定されている加算値が積算されるため、積算終了値に達するまでの時間を揃えることができる。
【0039】
また、各工程の目標温度と加算値の関係を見ると、工程Aおよび工程Bでは、目標温度が含まれる第一範囲(工程Aにおいては138度から142度、工程Bにおいては153度から157度)の加算値が最大となり、目標温度が含まれる温度範囲から温度が離れるほど加算値が小さくなるよう設定されている。工程Aで進行するメイラード反応や、工程Bで進行する加水分解反応は、温度が高いほど反応が進むわけではなく、速やかに反応が進行する温度範囲があることが知られている。この温度範囲を、最大の加算値が割り振られる第一範囲とし、第一範囲から温度が離れるほど加算値を小さくすることで、実際の焙煎温度が第一範囲から離れるほど焙煎時間を長くして、反応を進行させることができる。これにより、焙煎温度が第一範囲に収まらなくても、メイラード反応および加水分解反応より生じる味の再現性をよくすることができる。
【0040】
工程Cでは、工程Aや工程Bよりも高い第二範囲(168度から172度)内の温度が目標温度とされており、加算値は温度が高いほど大きくなるよう設定されている。工程Cにおいて反応が進行するカラメル化では、温度が高いほど反応速度が速くなる。そのため、焙煎温度が上がりにくい場合には反応が進みにくくなり、逆に焙煎温度が上がりやすい場合には反応が進みやすくなる。そこで、釜サーミスタ51の検知温度が高いほど大きい加算値が積算されるようにすることで焙煎時間を調節し、カラメル化により生じる味の再現性をよくすることができる。
【0041】
次に、第二制御について説明する。第二制御では、工程Cよりも高い温度範囲において、焙煎度のレベルが高いほど目標温度が高く設定されており、本実施形態では、レベル1では180度、レベル2では190度、レベル3では200度、レベル4では210度、レベル5では220度に設定されている。深い焙煎度が選択されている場合であっても、目標温度を高く設定することで、短時間で選択された焙煎度へと仕上げることができる。また、加算値は焙煎温度が高いほど大きい値が設定されており、積算終了値は焙煎レベルが高いほど大きい値が設定されている。
【0042】
第一制御と同様に、第二制御においても釜サーミスタ51の検知温度に応じて上述した加算値を積算し、積算した値が積算終了値に達したら第二制御を終了しており、これにより、実際の焙煎温度に応じて焙煎時間を調節することができる。よって、焙煎装置1において、電源電圧や焙煎装置1内に吸気される空気の温度により焙煎温度の上がりやすさにばらつきが生じても、そのばらつきに影響されることなく、被焙煎物を目標とする焙煎度に精度よく仕上げることができる。
【0043】
なお、第二制御を焙煎制御の最終工程において実行される制御として、積算によりその終了を判定することで、より精度よく被焙煎物を目標とする焙煎度に仕上げることができる。
【0044】
さらに、第二制御において、焙煎温度が目標温度を維持するように温調されるのが望ましい。これにより、焙煎温度の上がりやすさに違いがあったとしても、焙煎温度を目標温度に近い一定の温度域内に収めることができる。よって、一定の温度域内に設定されている加算値が積算されるため、積算終了値に達するまでの時間を揃えることができる。
【0045】
また、第二制御における加算値の値を見ると、釜サーミスタ51の検知温度が高いほど大きい値となるように設定されている。焙煎温度の上がりやすさにばらつきがあると、同じ時間焙煎を行ったとしても、焙煎温度が上がりにくい場合には浅煎りになり、逆に焙煎温度が上がりやすい場合には深煎りになる。そのため、釜サーミスタ51の検知温度が高いほど加算値を大きい値とすることで、温度の上がりやすさに応じて焙煎時間が調節されるため、実際の焙煎温度をもとに焙煎制御の終了を正確に判断することができる。
【0046】
なお、本実施形態の焙煎制御において、第一制御の各工程のうち、目標温度が第一範囲内の温度に設定される工程Aと工程Bが本発明の第一工程にあたり、第一範囲よりも高い第二範囲内の温度が目標温度に設定される工程Cが本発明の第二工程にあたる。第一制御で工程Cが実行されない場合には、工程Cよりも高い温度範囲に目標温度が設定される第二制御が本発明の第二工程にあたる。ただし、第一制御において、工程Aと工程Bがどちらも実行される場合には、後に工程Cまたは第二制御が続く工程Bが第一工程となる。
【0047】
以下で、第一制御の各工程および第二制御の終了を判定する流れについて説明する。
【0048】
図6は、本実施形態における第一制御のフローチャートである。制御部18は、第一制御が開始されると、工程A、工程B、工程Cのうち、設定されている焙煎度に応じた工程を開始し、その工程の目標温度を設定する(ステップ1)。
【0049】
次いで、釜サーミスタ51の検知温度を1秒ごとに取得し(ステップ2)、検知温度に応じて予め設定されている加算値を積算する(ステップ3)。その後、積算した値が積算終了値に達しているか否かを判定する終了判定を行う(ステップ4)。積算終了値に達していなかったら(ステップ4でNo)、ステップ2に戻り、積算終了値に達していたら(ステップ4でYes)、積算値をリセットして、実行している工程を終了する(ステップ5)。
【0050】
実行している工程を終了した後、選択された焙煎度において実行する工程が、すべて終了しているか否かを判定する(ステップ6)。第一制御において、複数の工程を実行する場合であって、まだ終了していない工程があれば(ステップ6でNo)、ステップ1へ戻り、未実行の工程を実行する。一方、すべての工程が終了していたら(ステップ6でYes)、第一制御を終了する。
【0051】
図7は、本実施形態における第二制御のフローチャートである。第二制御は第一制御終了後に開始され、まず選択されている焙煎度に応じた目標温度を設定する(ステップ10)。
【0052】
次いで、釜サーミスタ51の検知温度を1秒ごとに取得し(ステップ11)、検知温度に応じて予め設定されている加算値を積算する(ステップ12)。その後、積算値が積算終了値に達しているか判定する終了判定を行う(ステップ13)。加算値を積算した値が積算終了値に達していなかったら(ステップ13でNo)、ステップ11に戻り、積算終了値に達していたら(ステップ13でYes)、第二制御を終了して、焙煎制御を終了する。
【0053】
以上に説明したように、本発明の焙煎制御では、第一工程における加算値(第一加算値)を積算した値から第一工程の終了を判断することで、焙煎温度のばらつきに影響されることなく第一工程の終了を判断し、第二工程に遷移することができるため、得られる焙煎物の味の再現性をよくすることができる。なお、本実施形態における加算値、積算終了値は一例であり、その値には任意の数値を設定することができる。また、目標温度、第一範囲、第二範囲についても任意の数値を設定することができるが、本実施形態のように、メイラード反応、加水分解反応、カラメル化が進行する温度に合わせて数値を設定することが好ましい。これにより、各化学反応で生じる味・風味により、被焙煎物の味を作り上げることができる。
【符号の説明】
【0054】
21 第一吸気口(吸気口)
22 第二吸気口(吸気口)
31 排気口
13 送風機
14 ヒータ(加熱部)
15 焙煎釜
18 制御部
51 釜サーミスタ(温度検知部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7