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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104409
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】焙煎装置
(51)【国際特許分類】
   A23N 12/08 20060101AFI20240729BHJP
   G05D 23/19 20060101ALI20240729BHJP
   A23F 5/04 20060101ALN20240729BHJP
【FI】
A23N12/08 A
G05D23/19 Z
A23F5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008595
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000109026
【氏名又は名称】ダイニチ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大塚 優吾
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 允
(72)【発明者】
【氏名】生田 竜晟
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 玲
(72)【発明者】
【氏名】上田 昌史
【テーマコード(参考)】
4B027
4B061
5H323
【Fターム(参考)】
4B027FC10
4B027FQ02
4B061AA01
4B061AA03
4B061AB02
4B061AB08
4B061AB10
4B061BA09
4B061CD01
5H323AA21
5H323CA06
5H323CB01
5H323DA01
5H323EE04
5H323FF01
5H323FF04
(57)【要約】
【課題】簡単に風味の良い焙煎物を得ることができ、使い勝手に優れた焙煎装置を提供すること。
【解決手段】複数の焙煎レベルから1つを選択するレベルスイッチを備え、制御装置は、被焙煎物を加熱する温度とその温度を維持する時間との組み合わせにより規定される焙煎プロファイルを焙煎レベル毎に有している。焙煎プロファイルを構成する温度には選択可能な複数の設定温度が存在し、設定温度の中から2つ以上が選択されて前記焙煎プロファイルが構成されている。これにより、焙煎レベルを選択するだけで自動的に焙煎度に応じた焙煎プロファイルが設定されるので、簡単に焙煎を行うことができる。そして焙煎プロファイルは、設定温度を維持することで被焙煎物に狙いの風味を付加するとともに、2つ以上の設定温度から構成されることで焙煎レベルに合った風味の良い焙煎物を得ることができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の焙煎レベルから1つを選択するレベルスイッチと、
前記レベルスイッチで選択した前記焙煎レベルに基づき焙煎動作を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、被焙煎物を加熱する温度とその温度を維持する時間との組み合わせにより規定される焙煎プロファイルを前記焙煎レベル毎に有しており、
前記焙煎プロファイルを構成する温度には選択可能な複数の設定温度が存在し、
前記設定温度の中から2つ以上が選択されて前記焙煎プロファイルが構成されている焙煎装置。
【請求項2】
前記設定温度は、メイラード反応が起こる温度域内の第一設定温度と、加水分解反応が起こる温度域内の第二設定温度と、カラメル化が起こる温度域内の第三設定温度と、前記第三設定温度より高い温度域内の第四設定温度と、を含む請求項1記載の焙煎装置。
【請求項3】
すべての前記焙煎プロファイルが前記第四設定温度を含んで構成される請求項2記載の焙煎装置。
【請求項4】
前記第四設定温度は、前記焙煎レベルに応じて異なる温度に設定される請求項3記載の焙煎装置。
【請求項5】
前記焙煎レベルのうち、浅い焙煎度が選択されたときに実行される前記焙煎プロファイルには前記第二設定温度が含まれ、
前記第二設定温度を維持する時間が当該焙煎プロファイルの実行時間の中で最も長く設定されている請求項4記載の焙煎装置。
【請求項6】
前記焙煎レベルのうち、深い焙煎度が選択されたときに実行される前記焙煎プロファイルには前記第三設定温度が含まれ、
前記第三設定温度を維持する時間が当該焙煎プロファイルの実行時間の中で最も長く設定されている請求項4または5記載の焙煎装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー豆等の被焙煎物を焙煎する焙煎装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コーヒーの生豆等の被焙煎物を焙煎する装置があり、ガスを利用して焙煎を行うガス式焙煎装置、ヒータを発熱させてその熱で焙煎を行う電気加熱式焙煎装置、ヒータで加熱した空気によって焙煎を行う熱風式焙煎装置など、様々な方式のものが知られている。また、一般の家庭でも使用できるような小型の焙煎装置も開発されており、家庭に居ながら焙煎したての豆から淹れたコーヒーを楽しむことができる(例えば、特許文献1)。
【0003】
なお、いずれの方式においても、焙煎は焙煎プロファイルと呼ばれる熱対時間曲線を被焙煎物に適用することによって行われる(例えば、特許文献2)。焙煎装置においては、被焙煎物または焙煎室の温度を検知するための温度センサが設けられており、センサの検知温度が焙煎プロファイルにおいて指定された温度となるように火力やヒータの出力を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6664535号公報
【特許文献2】特開2018-113958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コーヒー豆を焙煎する際には、好みに応じて浅煎り~深煎りまで複数段のレベルに分けて焙煎を行うこともある。この場合、焙煎レベルごとに異なるプロファイルが存在するため、焙煎装置には焙煎レベルに応じて適切なプロファイルが設定されるようになっていると大変使い勝手がよい。特に、一般の家庭で焙煎装置を使用する場合には、風味の良さはもとより、手間をかけず簡単に焙煎物が得られることも求められる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためのもので、焙煎レベルを選択するだけで簡単に風味の良い焙煎物を得ることができ、使い勝手に優れた焙煎装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の焙煎レベルから1つを選択するレベルスイッチと、
前記レベルスイッチで選択した前記焙煎レベルに基づき焙煎動作を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、被焙煎物を加熱する温度とその温度を維持する時間との組み合わせにより規定される焙煎プロファイルを前記焙煎レベル毎に有しており、
前記焙煎プロファイルを構成する温度には選択可能な複数の設定温度が存在し、
前記設定温度の中から2つ以上が選択されて前記焙煎プロファイルが構成されている焙煎装置である。
【発明の効果】
【0008】
上述のように構成することにより、焙煎レベルを選択するだけで適切なプロファイルが設定されるので、簡単に風味の良い焙煎物を得ることができ、使い勝手に優れた焙煎装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の焙煎装置の断面図である。
図2】本実施形態の焙煎装置における焙煎プロファイルの一例を示すグラフである。
図3】本実施形態の焙煎装置における制御装置のブロック図である。
図4】本実施形態の焙煎装置における、焙煎プロファイルと設定温度の組み合わせの一例を示す図である。
図5】本実施形態の焙煎装置における、焙煎レベルと設定される焙煎プロファイルの組み合わせの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
好適と考える本発明の実施形態を、本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0011】
本発明は、複数の焙煎レベルから1つを選択するレベルスイッチを備えた焙煎装置であって、焙煎動作を制御する制御装置は、被焙煎物を加熱する温度とその温度を維持する時間との組み合わせにより規定される焙煎プロファイルを焙煎レベル毎に有しており、焙煎プロファイルを構成する温度には選択可能な複数の設定温度が存在し、設定温度の中から2つ以上が選択されて前記焙煎プロファイルが構成されている。これにより、使用者が焙煎レベルを選択するだけで自動的に焙煎度に応じた焙煎プロファイルが設定されるので、簡単に焙煎を行うことができる。そして焙煎プロファイルは、設定温度を維持することで被焙煎物に狙いの風味を付加するとともに、2つ以上の設定温度から構成されることで焙煎レベルに合った風味の良い焙煎物を得ることができる。
【0012】
また、設定温度は、メイラード反応が起こる温度域内の第一設定温度と、加水分解反応が起こる温度域内の第二設定温度と、カラメル化が起こる温度域内の第三設定温度と、この第三設定温度より高い温度域内の第四設定温度と、を含む。ここで規定される設定温度は、それぞれが被焙煎物に対して相異なる作用を有している。よって、この設定温度に基づいてプロファイルを構成することで、焙煎レベルによる風味の違いを明確にすることができる。
【0013】
また、すべての焙煎プロファイルが第四設定温度を含んで構成される。第四設定温度は被焙煎物の色の変化への影響が大きいので、第四設定温度で加熱する工程を経ることで焙煎物の見た目における焙煎レベル毎の違いを明確にすることができる。
【0014】
また、第四設定温度は、焙煎レベルに応じて異なる温度に設定される。焙煎レベルの高いものほど第四設定温度を高くすることで、第四設定温度で加熱する工程にかかる時間を、焙煎レベルによらず一定にすることができる。
【0015】
また、焙煎レベルのうち、浅い焙煎度が選択されたときに実行される焙煎プロファイルには第二設定温度が含まれ、第二設定温度を維持する時間が焙煎プロファイルの実行時間の中で最も長く設定されている。加水分解反応は被焙煎物に酸味を付加する反応である。よって、加水分解反応の起こる第二設定温度を維持する時間を長くすることで、浅煎りの特徴を引き立てた焙煎物を得ることができる。
【0016】
また、焙煎レベルのうち、深い焙煎度が選択されたときに実行される焙煎プロファイルには第三設定温度が含まれ、第三設定温度を維持する時間が焙煎プロファイルの実行時間の中で最も長く設定されている。カラメル化は被焙煎物に旨味と苦味を付加する反応である。よって、カラメル化の起こる第三設定温度を維持する時間を長くすることで、深煎りの特徴を引き立てた焙煎物を得ることができる。
【実施例0017】
以下、本発明の一実施例を図面により説明する。
【0018】
図1は、本実施形態の焙煎装置の断面図である。本実施形態の焙煎装置1は、主としてコーヒー豆の焙煎に用いられる装置であって、被焙煎物であるコーヒー豆を焙煎する本体部10と、焙煎の過程で剥がれたコーヒー豆の薄皮を回収するためのチャフケース20とを備えて構成されている。チャフケース20は本体部10の上方に着脱自在に設けられている。
【0019】
本体部10は、外装を形成する略円筒状の外装ケース30内に、空気流を発生させるファン40と、ファン40を回転させるモータ41と、ファン40の回転により発生した空気流を整流するファンケース42と、ファン40の下流に設けられて空気を加熱するヒータユニット50と、ヒータユニット50を収容するヒータケース60と、ヒータユニット50で加熱された空気を取り入れて被焙煎物を焙煎する焙煎釜70と、が収容されて構成されている。
【0020】
外装ケース30の上部と底部には、本体部10内に空気を取り入れる吸気口31が設けられていて、ファン40が回転することによって吸気口31から本体部10内に空気が流入する。上部の吸気口31から取り入れられた空気は、外装ケース30に沿って下方に流れて本体部10の底部に向かう。この空気流は、ヒータユニット50から発せられる熱が外装ケース30に伝わることを抑制し、外装ケース30の表面温度が上昇することを防いでいる。そして、吸気口31から本体部10内に流入した空気は、ファンケース42によって整流されてヒータユニット50へ向かう。
【0021】
ヒータユニット50は、熱を発生するヒータ51を備えている。そして、ヒータユニット50の底面には空気取入口521が設けられており、ファン40から送風された空気は、この空気取入口521からヒータユニット50に流入し、ヒータ51が発する熱を受けることで加熱されて熱風となる。熱風はヒータユニット50の外周を通ってヒータケース60内に流入した後、焙煎釜70内に供給されるようになっており、焙煎釜70内のコーヒー豆は熱風で加熱されることにより焙煎される。
【0022】
焙煎釜70は、上部が開口した有底筒形の形状であって、熱伝導性の高いアルミなどの材料から構成されている。ヒータケース60の上面には、焙煎釜70の底部が挿入される挿入口61が設けられており、焙煎釜70はこの挿入口61から挿入されて、その筒状の下方部分の一部がヒータケース60内に収容されている。また、焙煎釜70の側壁の所定位置には、外周方向に張り出すフランジ71が形成されていて、このフランジ71がヒータケース60の上面と当接することで所定の位置に配置されるようになっている。フランジ部は、ヒータケース60の上面とで熱風の流路をシールするように設けられていて、これにより熱風の流路が形成される。
【0023】
焙煎釜70の側面には、ヒータユニット50で発生した熱風を取り入れる熱風流入口72が設けられている。熱風流入口72は、斜め方向に伸びるスリット形状であって、側面の周方向に一定の間隔を空けて並んで設けられる。熱風流入口72を通過した熱風は、この斜めの形状に沿って焙煎釜70内に流入し、焙煎釜70内で旋回流を発生させる。コーヒー豆はこの旋回流によって撹拌され、焙煎釜70内を回転しながら徐々に水分が蒸発していき、焙煎されたコーヒー豆となる。このように、旋回流によってコーヒー豆が撹拌されることで、煎りムラを生じさせることなく短時間で均一にコーヒー豆を焙煎することができる。
【0024】
コーヒー豆を通過した後の熱風は、焙煎釜70上部の開口から排出される。また、焙煎の過程でコーヒー豆から剥がれた薄皮(チャフ)は、この熱風とともに開口から排出されて、本体部10の上方に設けられたチャフケース20に回収される。チャフケース20には排気口21が設けられており、チャフが回収されたあとの熱風だけがこの排気口21から装置外に排出される。
【0025】
ヒータケース60の内部には、第一温度検知手段としてヒータケースサーミスタ62が設けられている。ヒータケースサーミスタ62は、焙煎釜70内に流入する熱風の温度を検知する温度センサであり、熱風流入口72の近傍に配設される。
【0026】
焙煎釜70の内部には、第二温度検知手段として釜サーミスタ73が設けられている。釜サーミスタ73は、焙煎釜70内のコーヒー豆の温度を検知する温度センサであり、直接コーヒー豆の温度を検知してもよいし、焙煎釜70内の空気の温度を検知してももよい。本実施形態の焙煎装置1では、コーヒー豆はおおよそフランジの高さまで投入されることを想定しており、釜サーミスタ73はコーヒー豆の高さよりも上方に設置され焙煎釜70内の空気の温度を検出する。
【0027】
焙煎装置1を構成する部品には個体差があるため、焙煎釜70の温度の上がり易さには筐体によるばらつきが生じる。また、使用場所の温度も、焙煎釜70の温度の上がり易さに影響を与えるため、温度の上がりやすい条件が揃ってしまうと、容易に焙煎釜70の温度が目標温度を超えてしまい、焙煎物の品質を一定に保つことができなくなってしまう。そこで、本実施形態の焙煎装置1は、ヒータケースサーミスタ62と釜サーミスタ73の2つの温度センサを用いてヒータ51の通電を制御することで、焙煎釜70を目標温度に維持している。
【0028】
具体的には、ヒータケースサーミスタ62が検知する温度によってヒータ51の通電量を決定する。これにより、焙煎釜70に流入する熱風の温度が狙った温度になるよう調整される。そして、釜サーミスタ73が検知する温度から目標温度の補正値を算出する。これにより、筐体のばらつきや使用場所の温度による焙煎釜70の温度のずれが修正されるため、焙煎釜70の温度を目標温度に維持することができる。
【0029】
上述のように構成される焙煎装置1において、焙煎は、焙煎プロファイルと呼ばれる熱対時間曲線を被焙煎物に適用することによって行われる。図2は、本実施形態の焙煎装置における焙煎プロファイルの一例を示したものである。図に示すように、焙煎プロファイルは、被焙煎物を加熱する温度とその温度を維持する時間との組み合わせにより規定され、温度は時間の経過とともに段階的に上昇する。コーヒー豆を特定の温度で加熱することで、コーヒー豆に含まれる糖やアミノ酸などが化学反応を起こし、酸味や旨味、コクといった風味を加えることができる。コーヒー豆における上記反応の主なものとしては、「加水分解」、「メイラード反応」、「カラメル化」などがあり、各反応は特定の温度帯で活性化することが知られている。そのため、特定の温度を維持することで狙った味覚成分を効果的に被焙煎物に付加することができる。
【0030】
なお、本発明における焙煎プロファイルとは、縦軸を温度、横軸を時間としたグラフによって表され、特定の温度帯において平坦な部分を備える曲線のことを指す。よって、ここで言う「温度を維持する時間」とは、時間の単位(秒や分)で設定される所定の時間に限定されるものではく、温度に関連する数値に何らかの演算処理を行うことで代用したり、温度によってその長さを調整したりしてもよい。
【0031】
焙煎装置1には、複数の焙煎レベルが設けられている。使用者は、本体部10に設けられたレベルスイッチ11(図3参照)を操作して焙煎レベルを選択することができ、選択された焙煎レベルになるよう焙煎が実行される。この焙煎レベルには大きく分けると、浅煎り、中煎り、深煎りの3段階があり、また一般的には、浅煎りから深煎りまでを、ライトロースト、シナモンロースト、ミディアムロースト、ハイロースト、シティロースト、フルシティロースト、フレンチロースト、イタリアンロースト、の8段階に分けている。よって、焙煎レベルは3から8段階の間で設定するとよい。そして、この焙煎レベルに応じて異なる焙煎プロファイルが設定されている。
【0032】
焙煎装置1の動作は、後述する制御装置80によって制御される。制御装置80は、焙煎プロファイルに基づいて、焙煎釜70の温度を目標温度に維持するようヒータ51の通電を制御する。
【0033】
図3は、本実施形態の焙煎装置における制御装置のブロック図である。制御装置80は、プロファイル記憶部81と、運転制御部82と、ヒータ制御部83と、を含んで構成され、レベルスイッチ11で選択した焙煎レベルに基づいて焙煎動作を制御する。
【0034】
プロファイル記憶部81は、被焙煎物を加熱する温度と、その温度を維持する時間のデータを保存している。本実施形態において、被焙煎物を加熱する温度とは、釜サーミスタ73が検知する焙煎釜70の温度である。また、温度を維持する時間のデータは、前述したように所定の時間に限るものではない。そして、焙煎プロファイルは、焙煎レベル毎に設定されて保存されている。
【0035】
運転制御部82は、レベルスイッチ11で選択した焙煎レベルに基づき、プロファイル記憶部81に記憶された温度と時間のデータを読み出して焙煎制御における各部の動作を制御する。また、焙煎釜70の温度を目標温度に維持するため、ヒータケースサーミスタ62と釜サーミスタ73の検知温度からヒータ51の通電量を調整する。
【0036】
ヒータ制御部83は、運転制御部82からの指示に基づいてヒータ51の通電を制御する。ヒータ51は、例えば100%または50%のいずれかで通電されるように構成され、運転制御部82からの指示に応じてヒータ51の通電を切り替える。
【0037】
次に、本実施形態の焙煎プロファイルについて詳細に説明する。
【0038】
焙煎プロファイルは、被焙煎物を加熱する温度とその温度を維持する時間との組み合わせにより規定される。そして、焙煎プロファイルを構成する温度には選択可能な複数の設定温度が存在しており、各焙煎プロファイルはこの設定温度の中から2つ以上を選択することで構成されている。つまり、焙煎プロファイルは図2に示すようなグラフに表すと、少なくとも2箇所の平坦部を備えた曲線となる。
【0039】
このように、焙煎プロファイルを焙煎レベル毎に設定し、各プロファイルにおいては設定温度を維持する時間を設けることで、コーヒー豆に対して狙いの風味を付加することができる。コーヒー豆の焙煎においては特定の温度帯で反応が活性化するから、コーヒー豆を加熱する温度をその温度帯で維持することにより反応の活性化を促して、酸味や旨味、コクといった風味を効果的に付加することができる。加えて、設定温度には2つ以上を選択して焙煎プロファイルを構成することで、焙煎レベルに合った風味の良い焙煎物を得ることができる。
【0040】
本実施形態の焙煎装置1では、レベルスイッチ11を操作して焙煎レベルを選択するだけで、自動的に焙煎レベルに応じた焙煎プロファイルが設定されるので、誰でも簡単に焙煎を行うことができ、使い勝手にも優れる。
【0041】
なお、選択可能な設定温度としては、低い方から順に、第一設定温度、第二設定温度、第三設定温度、第四設定温度、の少なくとも4種類の温度が用意されている。具体的には、第一設定温度は、メイラード反応が起こる温度域内の温度である。メイラード反応では、糖とアミノ酸が結合することで旨味やコクを発生させて褐色物質を生成する。第二設定温度は、加水分解反応が起こる温度域内の温度である。加水分解反応では、コーヒー豆に含まれる成分が加熱により分解されて、酸味を発生させる。第三設定温度は、カラメル化が起こる温度域内の温度である。カラメル化では、糖の反応により旨味やコクに加えて苦み成分を生成する。第四設定温度は、第三設定温度より高い温度域内の温度である。第四設定温度では、主としてコーヒー豆の色に変化を与える。
【0042】
ここで規定された4種類の設定温度は、それぞれが被焙煎物に対して相異なる作用を有している。よって、この設定温度に基づいてプロファイルを構成することで、焙煎レベルによる風味の違いを明確にすることができる。
【0043】
また、すべての焙煎プロファイルは、第四設定温度を含むように構成してもよい。第四設定温度は主として被焙煎物の色に変化を与える温度域内の温度であるから、第四設定温度で加熱する工程を経ることで焙煎物の見た目における焙煎レベル毎の違いを明確にすることができる。
【0044】
上述の設定温度のうち、第一設定温度、第二設定温度、第三設定温度は、選択された焙煎レベルに依らず常に同じ値である。つまり、第一から第三までの設定温度は、各反応が活性化する温度に設定されているので、焙煎レベルが異なったとしてもその温度は変わらない。一方で第四設定温度は、焙煎レベルに応じて異なる温度に設定することができる。焙煎レベルが高い(深煎り)ほど、焙煎後のコーヒー豆の色は濃いものとなる。そして、第四設定温度の値が高いほど色づきの進行が早い。よって、焙煎レベルの高いものほど第四設定温度を高くすることで、第四設定温度で加熱する工程にかかる時間を、焙煎レベルによらず同等にすることができる。
【0045】
次に、焙煎プロファイルと焙煎レベルとの関連について具体例に基づいて説明する。
【0046】
図4は、本実施形態の焙煎装置における、焙煎プロファイルと設定温度の組み合わせの一例を示す図である。本実施形態において、焙煎プロファイルには、タイプA~タイプCの3種類が設定されている。また、設定温度としては、メイラード反応を起こすための第一設定温度を150℃、加水分解反応を起こすための第二設定温度を165℃、カラメル化を起こすための第三設定温度を180℃としている。そして、コーヒー豆の色に変化を与えるための第四設定温度には190℃~230℃の温度範囲を設け、焙煎レベルに応じて異なる温度が設定されるように構成した。本図では、各プロファイルにおいて選択される設定温度に黒丸を付しており、カッコ内にはその温度を維持する目安の時間を数値(単位:分)で記載している。
【0047】
一般的には、浅煎りでは酸味を強調し、中煎りでは酸味、旨味、苦味をバランス良く組み合わせ、深煎りでは苦味を強調するような焙煎が行われる。よって、第二設定温度が選択されているタイプAは浅煎りに適した焙煎プロファイルであり、第一設定温度と第三設定温度が選択されているタイプBとタイプCは中煎り~深煎りに適した焙煎プロファイルであるといえる。どの設定温度を選択するかによって、焙煎レベルに合うプロファイルを設定することができる。
【0048】
また、選択する設定温度の組み合わせが同じであっても、それを維持する時間の長短によって、酸味、旨味、苦味のバランスを調整し、コーヒー豆に異なる風味を付与することができる。例えば、タイプBとタイプCは、どちらも第一設定温度、第三設定温度、第四設定温度が選択されているが、タイプCの方が第三設定温度を維持する時間が長くなっている。第三設定温度ではカラメル化が進行するので、タイプCの方がより苦味を感じられるコーヒー豆となる。
【0049】
図5は、本実施形態の焙煎装置における、焙煎レベルと設定される焙煎プロファイルの組み合わせの一例を示す図である。焙煎装置1では、レベル1~レベル5の5段階から焙煎レベルを選択することができ、焙煎度が深くなるにしたがってレベルの数値が上昇する。そして、第四設定温度には、焙煎レベルによって異なる値が設定されており、レベルが高いほど温度も高くなっている。
【0050】
この5段階の焙煎レベルのうち、浅煎りのレベル1とレベル2には、酸味を付加するタイプAが設定されている。中煎り~深煎りのレベル3とレベル4には、旨味と苦味をバランスよく調節したタイプBが設定されている。そして、深煎りのレベル5には、タイプBよりもより苦味が感じられるタイプCが設定されている。よって、使用者はレベルスイッチ11を操作して好みの焙煎レベルを選択するだけで、自動的に焙煎レベルに合った焙煎を実行することができる。
【0051】
浅煎りの焙煎レベルで実行されるタイプAは、加水分解反応の起こる第二設定温度を維持する時間が最も長く設定されている。これにより、浅煎りの特徴を引き立てた焙煎物を得ることができる。
【0052】
深煎りの焙煎レベルで実行されるタイプCは、カラメル化の起こる第三設定温度を維持する時間が最も長く設定されている。これにより、深煎りの特徴を引き立てた焙煎物を得ることができる。
【0053】
以上に説明したように、本発明の焙煎装置1は、焙煎プロファイルを焙煎レベル毎に有しており、各プロファイルにおいては設定温度を維持する時間を設けているため、被焙煎物に対して狙いの風味を付加することができる。そして、焙煎プロファイルは、予め用意された設定温度の中から2つ以上を選択して構成することで、焙煎レベルに合った風味の良い焙煎物を得ることができる。使用者は、レベルスイッチ11を操作して好みの焙煎レベルを選択するだけで、自動的に焙煎レベルに応じた焙煎プロファイルが設定されるので、誰でも簡単に焙煎を行うことができ、使い勝手にも優れる。
【0054】
なお、設定温度の具体的な数値は、温度検知手段の配置場所や焙煎釜70の構造によって変わるので、実施形態の説明において例示した温度はあくまで一例に過ぎず、装置の構造に応じて適宜設定されるものである。また、焙煎プロファイルや焙煎レベルに関しても、ここで挙げたものはあくまで一例に過ぎないから、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0055】
11 レベルスイッチ
80 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5