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  • 特開-固定陽極型X線管 図1
  • 特開-固定陽極型X線管 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104424
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】固定陽極型X線管
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/12 20060101AFI20240729BHJP
   H01J 35/08 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
H01J35/12
H01J35/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008619
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長尾 拓磨
(57)【要約】
【課題】 陽極を部分的に加工できる固定陽極型X線管を提供する。
【解決手段】 真空外囲器内に配置された陰極と陽極とを備える固定陽極型X線であって、陽極は、ターゲットを有し前記真空外囲器内に露出される真空側陽極部分と、電源に接続されて大気又は冷却液に露出される大気側陽極部分とを備え、真空側陽極部分と大気側陽極部分とを結合して構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空外囲器内に配置された陰極と陽極とを備え、
前記陽極は、ターゲットを有し前記真空外囲器内に露出される真空側陽極部分と、電源に接続されて大気又は冷却液に露出される大気側陽極部分とを備え、前記真空側陽極部分と前記大気側陽極部分とを結合して成る固定陽極型X線管。
【請求項2】
前記大気側陽極部分は銅製であり、表面に厚みが10μm~30μmの酸化第2銅(CuO)の膜が形成されている請求項1に記載の固定陽極型X線管。
【請求項3】
真空外囲器内に露出するように、真空側陽極部分を前記真空外囲器に取り付ける真空側陽極部分取り付け工程と、
前記真空側陽極部分取り付け工程の後に、前記真空外囲器を加熱しつつ真空引きする真空引き工程と、
真空引き工程の後に、前記真空側陽極部分の大気に露出する側に大気側陽極部分を結合する大気側陽極部分結合工程と、を備える固定陽極型X線管の製造方法。
【請求項4】
前記大気側陽極部分結合工程は、冷しばめによる結合である請求項3に記載の固定陽極型X線管。
【請求項5】
前記大気側陽極部分は銅製であり、前記大気側陽極部分を大気中で400℃~450℃に加熱して、表面に酸化第2銅(CuO)の酸化膜を形成する酸化膜付け工程を備える請求項3に記載の固定陽極型X線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、固定陽極型X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
固定陽極型X線管は、主に陽極、陰極、真空外囲器で構成されている。陽極は本体とターゲットで構成され、本体には銅(Cu)が広く用いられている。
固定陽極型X線管の使用時には、陽極は、冷却の為(熱を電気絶縁油に逃がす為)、一部を電気絶縁油に露出しているのが一般的である。
固定陽極型X線管の製造時には、真空外囲器内は、X線の発生効率を落とさないために、高真空が要求されているので、真空外囲器内を真空引きする際、陽極の吸蔵ガスを排出するため、陽極全体を例えば500℃以上の高温に加熱する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭62-100676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、陽極全体を高温に加熱すると、大気側に露出している陽極表面の銅(Cu)が過度に酸化されて、陽極の表面に酸化第2銅(CuO)の厚い膜が形成されるという問題があった。この酸化第2銅(CuO)の厚い膜は、剥がれて落ちやすい為、固定陽極型X線管の使用時に、陽極を冷却の為(熱を電気絶縁油に逃がす為)、油浸した際、剥がれ落ちた酸化膜が電気絶縁油中に漂い、X線管の耐電性を損なう等のX線管の機能の低下を招く問題がある。
この為、陽極に加熱等の加工をするときに、部分的に加工できることが望まれていた。
【0005】
本発明の実施形態は、陽極を部分的に加工できる固定陽極型X線管を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態は、真空外囲器内に配置された陰極と陽極とを備え、前記陽極は、ターゲットを有し前記真空外囲器内に露出される真空側陽極部分と、電源に接続されて大気又は冷却液に露出される大気側陽極部分とを備え、前記真空側陽極部分と前記大気側陽極部分とを結合して成る固定陽極型X線管である。
【0007】
他の実施形態は、真空外囲器内に露出するように、真空側陽極部分を前記真空外囲器に取り付ける真空側陽極部分取り付け工程と、前記真空側陽極部分取り付け工程の後に、前記真空外囲器を加熱しつつ真空引きする真空引き工程と、前記真空引き工程の後に、前記真空側陽極部分の大気に露出する側に大気側陽極部分を結合する大気側陽極部分結合工程と、を備える固定陽極型X線管の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る固定陽極型X線管の使用状態を示す断面図である。
図2図2は、図1に示す固定陽極型X線管の製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図面を参照しながら、一実施形態に係る固定陽極型X線管及び固定陽極型X線管の製造方法について詳細に説明する。なお、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べて、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を適宜省略することがある。
【0010】
図1及び図2を参照して、実施形態に係る固定転陽極型X線管1について説明する。
図1に示すように、実施形態に係る固定転陽極型X線管1は、真空外囲器3と、真空外囲器3に配置された陽極5及び陰極7とを備えている。
【0011】
図2に示すように、陽極5は、真空外囲器3内に露出する真空側陽極部分5aと、製造時に大気に露出される大気側陽極部分5bとを備えている。真空側陽極部分5aと大気側陽極部分5bとは、それぞれ別体に製造されており、陽極5は、真空側陽極部分5aと大気側陽極部分5bとを結合して製造されている。真空側陽極部分5aと大気側陽極部分5bとは共に銅(Cu)製であり、それぞれ略円柱状に形成されている。
【0012】
真空側陽極部分5aは真空外囲器内に位置する先端には、陰極7から照射された電子ビームを受けてX線を発生するターゲット5cが設けられている。
真空側陽極部分5aは大気側に露出される側に大気側陽極部分5bの連結部9(後述する)が挿入される挿入穴15が形成されている。
【0013】
大気側陽極部分5bは、真空側陽極部分5aに連結される小径の連結部9と電源11が接続される大径の電源接続部13とを備えている。
連結部9は円柱形状であり、挿入穴15は連結部9と略同寸法の円筒形状であり、真空側陽極部分5aの挿入穴15に大気側陽極部分5bの連結部9が挿入されて、冷やしばめ(後述する)により結合している。
【0014】
大気側陽極部分5bには、その表面に酸化第2銅(CuO)の膜が形成されている。酸化第2銅(CuO)の膜は剥がれ落ちない程度の薄い膜であり、好ましくは10μm~30μmの膜厚である。
【0015】
陰極7は、ターゲット5cを囲むように設けられ、ターゲット5cに照射する電子を放出する電子放出源としてのフィラメント7aを有している。また、陰極7には、電源に接続される端子17が設けられている。
【0016】
真空外囲器3は、円筒状に形成されている。真空外囲器3は、ガラス又は金属で形成されており、内部は真空としてある。
図1に示すように、真空外囲器3は、使用時には、冷却液としての電気絶縁油19が充填された筐体20内に収容されている。したがって、大気側陽極部分5bは使用時には冷却液に露出されている。
次に、固定陽極型X線管1の製造方法について、説明する。
(1)真空側陽極部分取り付け工程
図2に示すように、真空外囲器3内に陰極7を設けると共に、陰極7に対向する位置に真空外囲器3の部分に真空側陽極部分5aを取り付ける。取り付けは挿入穴15を大気側に向けた状態で取り付ける。取り付けは、例えば、ろう付け又は溶接にて行うことができる。
【0017】
(2)真空引き工程
真空側陽極部分5aを取り付けた状態の真空外囲器3を加熱炉に配置して、その真空外囲器3に真空ポンプの排気管を接続して、真空引きする。
真空引きでは、真空側陽極部分5aの吸蔵ガスを排出する為に加熱して行なう。加熱は、大気中で真空側陽極部分5aが、500℃未満、好ましくは400℃~450℃の温度で行う。
【0018】
(3)大気側陽極部分結合工程
真空引き工程後、真空外囲器3に固定された真空側陽極部分5aに大気側陽極部分5bを冷やしばめにより結合する。
冷やしばめは、金属の温度が下がることで金属が収縮する原理を利用して金属を結合させる加工方法である。具体的には、大気側陽極部分5bを液体窒素等の冷却剤で冷却することで、収縮させ、常温の真空側陽極部分5aの挿入穴内に、大気側陽極部分5bの連結部9を挿入する。
そして、全体が常温になったところで、大気側陽極部分5bの連結部9が膨張して真空側陽極部分5aの挿入穴15に嵌り込んで、真空側陽極部分5aと大気側陽極部分5bとが結合する。
【0019】
次に、実施形態に係る固定陽極型X線管の作用について、説明する。
図1に示すように、固定陽極型X線管1の使用状態では、陰極7に相対的に負の電圧が印加され、陽極5のターゲット5cに相対的に正の電圧が印加される。
これにより、陰極7及びターゲット5c間に電位差が生じる。このため、陰極7のフィラメント7aは、電子を放出すると、この電子は、加速され、ターゲット5cに衝突する。これにより、ターゲット5cは、電子と衝突するときにX線を放出し、放出されたX線は真空外囲器3を透過して放出される。
【0020】
X線放出時に、電子衝撃によりターゲット5cでは高熱を発生する。
電子衝撃によりターゲット5cに発生する熱は、真空側陽極部分5aを介して大気側陽極部分5bに伝搬され、冷却液としての電気絶縁油19に熱を逃がして冷却される。
【0021】
次に、実施形態に係る固定陽極型X線管1の効果について、説明する。
本実施形態によれば、陽極5は、真空外囲器3内に露出される真空側陽極部分5aと、電源に接続されて大気又は冷却液に露出される大気側陽極部分5bとを備えており、真空側陽極部分5aと大気側陽極部分5bとを結合して構成されているから、陽極5について、大気側陽極部分5bと、真空側陽極部分5aとを個別に加工できる。
【0022】
例えば、X線管の内部を真空引きする際、真空側陽極部分5aの吸蔵ガスを排出するため、真空側陽極部分5aを大気中500℃以上の高温に加熱(加工)する一方で、大気側陽極部分5bを500℃未満に加熱(加工)することで、これらを個別に加熱(加工)できるので、大気側陽極部分5bの表面に酸化第二銅の薄い膜(10μm~30μmの厚みの膜)を形成できる。
これにより、大気側に露出している陽極5の銅(Cu)が過度に酸化され、大気側の表面に(酸化第二銅)の厚い酸化膜が形成されるのを防止できる。厚い酸化膜は剥がれ落ちやすい為、電気絶縁油(冷却液)19に油浸した際、剥がれ落ちた酸化膜が電気絶縁油19中に漂い、X線管の耐電性を損なうことが防止できる。
また、従来のように陽極全体を大気中500℃以上の高温に加熱して膜厚の厚い酸化膜を形成した場合に、厚い酸化膜をホーニング加工等で取り除いて、下地の銅(Cu)を露出する場合もある。しかし、この場合には、電気絶縁油19の成分の1つとして硫黄(S)が挙げられるが、電気絶縁油19中の硫黄(S)が銅(Cu)と反応し、導電性の硫化銅(CuS)が生成されて析出し、絶縁破壊を引き起こして機器が故障する不都合があるが、本実施形態では、大気側陽極部分5bに膜厚の厚い酸化膜は形成されないから、そのような不都合を防止できる。
【0023】
真空側陽極部分5aと大気側陽極部分5bとの結合は冷しばめによる結合としているので、簡単に且つ確実に固定できる。
即ち、冷しばめは、温度が下がると金属が収縮する原理を利用して金属を結合させているので、大気側陽極部分5bを冷却して収縮させ、常温の真空側陽極部分5aに挿入することで容易に且つ確実に結合することができる。
更に、本実施形態では、真空側陽極部分5aと大気側陽極部分5bとは、共に銅製であり、熱膨張係数が等しい為、加熱・冷却を繰り返しても結合部分でガタつきが発生し難い。
【0024】
上述した一実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、真空側陽極部分5aと大気側陽極部分5bとの結合は、一方に雌ネジ他方に雄ネジを形成して互いに螺合して固定するネジ固定でもよいし、真空側陽極部分5aの挿入穴15と大気側陽極部分5bの連結部9との間に楔等を嵌め入れて固定しても良い。また、冷やしばめに限らず、金属の温度が上がると金属が膨張する原理を利用した焼きばめであっても良い。
【符号の説明】
【0025】
1…固定陽極型X線管、3…真空外囲器、5…陽極、5a…真空側陽極部分、5b…大気側陽極部分、7…陰極、9…連結部、15…挿入穴。
図1
図2