(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104456
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】靴の中底と靴
(51)【国際特許分類】
A43B 13/38 20060101AFI20240729BHJP
A43B 13/30 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
A43B13/38 Z
A43B13/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008668
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】510056113
【氏名又は名称】株式会社フォーカルワークス
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】宍田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】向田 稔
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA02
4F050BA02
4F050BA54
4F050LA05
(57)【要約】
【課題】靴はサイズごとに製造、流通、販売、利用が必要で無駄が多い。
【解決手段】
中底1000は、利用者の体重を支える足裏部分の骨格構造で、靴底と側壁は含まない。中底1000は5層構造で、靴底に近い方から、ベース下層11、ベース上層12、4枚からできた第1可動層15、2枚からできた第2可動層13、カバー層10をもつ。第2可動層13と第1可動層15を併せて可動層17である。調整ダイヤル34により中底1000は前後方向、左右方向にサイズが変わる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴において利用者の足裏を受け止めて支える中底であって、
ベース層と、
可動層と、
可動層をベース層に固定する固定機構と、
を有し、
可動層は靴の長さ方向と幅方向に可動域を有し、
固定機構は利用者の所望する位置にて可動層をベース層に固定する靴の中底。
【請求項2】
請求項1に記載の靴の中底において、中底はさらにカバー層を有し、
利用者が履いたとき、カバー層、可動層、ベース層はこの順に利用者の足裏に近い方から並ぶ靴の中底。
【請求項3】
請求項1に記載の靴の中底において、可動層を動かす調整機構を備え、この調整機構は可動層を靴の長さ方向と幅方向の両方向に連動して動かす靴の中底。
【請求項4】
請求項3に記載の靴の中底において、可動層は靴の長さ方向に可動域をもつ第2可動層と靴の幅方向に可動域をもつ第1可動層を有する靴の中底。
【請求項5】
請求項4に記載の靴の中底において、調整機構は第1または第2可動層の一方を動かし、その動きにより他方が動く靴の中底。
【請求項6】
請求項4に記載の靴の中底において、第2可動層は、
a)つま先側の部材
b)踵側の部材
の分離した2部材をもつ靴の中底。
【請求項7】
請求項4に記載の靴の中底において、第1可動層は、
a1)つま先側でかつ足の内側の部材
a2)つま先側でかつ足の外側の部材
b1)踵側でかつ足の内側の部材
b2)踵側でかつ足の外側の部材
の分離した4部材をもつ靴の中底。
【請求項8】
靴において利用者の足裏を受け止めて支える中底であって、
ベース層と、
靴の長さ方向に可動域を有する可動層と、
可動層をベース層に固定する固定機構と、
外部から回転させることで可動層を動かす構造を有する調整機構と、
を有する靴の中底。
【請求項9】
靴において利用者の足裏を受け止めて支える中底であって、
ベース層と
カバー層と、
それら二層に挟まれて固定され、複数の部材をもつ可動層と、
調整機構と、
を有し、調整機構は可動層の各部材をベース層に対して相対的に動かすことにより、靴の長さ方向および幅方向が変化する靴の中底。
【請求項10】
利用者の足を包み固定するアッパーと、
長さ方向および幅方向が変化する機構をもつ中底と、
中底の下方に設けられ地面に接する本底と、
を有する靴。
【請求項11】
請求項10に記載の靴において、
側壁は靴の側方のいずれかの箇所で途切れている靴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は靴を履いたときその人の体重を受け止める靴の中底と、その中底を用いた靴に関する。
【背景技術】
【0002】
ランニングシューズのようにつま先から踵(かかと)まで、足を包む「アッパー」と呼ばれる部分が大きな靴は、多少サイズが大きくても簡単に脱げることはない。しかし、アッパーが比較的小さい女性のパンプスの場合、サイズがわずかに大きいだけでも、歩行中脱げてしまうことがある。逆にワンサイズ小さいものを履くと、窮屈で指が痛んだり、靴擦れを起こすともある。
【0003】
日本で販売される靴は一般に、5mm刻みで商品がラインナップされている。ある民間企業によるアンケート調査では、婦人用の場合、利用者が買うサイズの分布は以下のとおりである。
22.5cm以下……15%
23.0cm ……22%
23.5cm ……27%
24.0cm ……17%
24.5cm ……14%
25.0cm ……3%
とくにアッパーが硬い革でできた婦人靴の場合、足と完全にフィットしないと上述の問題が起きやすい。市販の靴の5mmの刻みは、最適なサイズを見つけるうえで、かなり大きな刻みと言える。大きい靴に別売りの中敷きを追加してサイズダウンする方法もあるが、対応に限界もある。
【0004】
一方、靴を提供する側は、ひとつの商品でも複数サイズの違うものを作る必要があり、大きなコストとなっている。上述の調査結果を踏まえれば、利用者の8~9割の要望を満たすには、22.5、23、23.5、24、24.5cmの5サイズが必要になる。販売現場もこうしたサイズ違いの在庫をもたざるをえず、場所もとる。しかも、たまたま買いたい人のサイズだけが欠品していたら、ほかのサイズがあっても売れない。みすみす売上を逃すことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サイズ違いの靴を揃えることは、作る側、売る側のコストを上げている。それでも利用者には最適なサイズが見つかる保証もない。仮に購入現場ではサイズがぴったりだったとしても、からだのむくみは足のサイズにも影響する。朝は脱げそうなぐらい余裕のあったパンプスが、仕事の後や飲酒後、痛いぐらいきつくなることもある。
【0007】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、サイズ調整が容易な靴の中底、およびそれを利用した靴の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、靴において利用者の足裏を受け止めて支える中底であって、ベース層と、可動層と、可動層をベース層に固定する固定機構とを有し、可動層は靴の長さ方向と幅方向に可動域を有し、固定機構は利用者の所望する位置にて可動層をベース層に固定する。
【0009】
本発明の中底の別の態様は、ベース層と、靴の長さ方向に可動域を有する可動層と、可動層をベース層に固定する固定機構と、外部から回転させることで可動層を動かす構造を有する調整機構とを有する。
【0010】
本発明の中底のさらに別の態様は、ベース層と、カバー層と、それら二層に挟まれて固定され、複数の部材をもつ可動層と、調整機構とを有し、調整機構は可動層の各部材をベース層に対して相対的に動かすことにより、靴の長さ方向および幅方向が変化する。
【0011】
本発明の靴は、利用者の足を包むアッパーと、長さ方向および幅方向が変化する機構をもつ中底と、中底の下方で地面に接する本底とを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば容易にサイズ調整の可能な靴を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態1に係る靴の中底で、靴を最小サイズにする状態の分解図である。
【
図2】実施の形態1に係る靴の中底で、靴を最小サイズにする状態の平面図である。
【
図3】実施の形態1に係る靴の中底で、靴を最小サイズにする状態の斜視図である。
【
図6】実施の形態1に係る靴の中底で、靴を最大サイズにする状態の分解図である。
【
図7】実施の形態1に係る靴の中底で、靴を最大サイズにする状態の平面図である。
【
図8】実施の形態1に係る靴の中底で、靴を最大サイズにする状態の斜視図である。
【
図11】実施の形態2に係る靴の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、各図面において同一または同等の構成要素、部材には同一の符号を付し、適宜重複する説明は省略する。
【0015】
実施の形態1
図1は実施の形態に係る靴の中底1000を示す。ここでは靴のサイズが最小のときを示している。中底1000は、利用者の体重を支える足裏部分の骨格構造で、靴底と側壁は含まない。中底1000は利用者の左足用であり、右足はそれと対称に作ればよい。図の手前側が足の内側(親指側)である。
【0016】
中底1000は5層構造で、靴底に近い方から、1枚の金属または硬質な樹脂でできたベース下層11、ベース上層12、同様に4枚からできた第1可動層15、2枚からできた第2可動層13、1枚からできたカバー層10をもつ。第2可動層13と第1可動層15を併せて可動層17と呼ぶ。ベース下層11とベース上層12は製造のしやすさのために分けているが、原理的にはひとつにできるため併せてベース層と呼ぶ。
【0017】
第2可動層13はつま先側の前方部材14と踵側の後方部材16をもつ。交換可能なヒール64は後方部材16に固定される。第1可動層15はつま先側かつ足の内側の前右部材18、同外側の前左部材20、踵側かつ足の内側の後右部材22、同外側の後左部材24をもつ。前右部材18、前左部材20、後右部材22、後左部材24それぞれの外端に立てられた側壁18w、20w、22w、24wは図示しないアッパーを固着するための糊代として機能する。
【0018】
以上の5層は符号「B」(Boss)で示すボスとその頂部のねじ穴に嵌合する「S」(Screw)で示すねじにより一体化される。図中「H」(Hall)はねじが通る孔、またはねじ山を避ける凹部を指す。「C」(Convex)は他の部材とかみ合う凸部である。「LH」は長孔でボスの胴や凸部が自由に移動できる。なお、ボスのねじ穴は図の煩瑣を避けるため基本的に図示しない。
なお、5層を樹脂で製作する場合、ボスは5層のいずれかの板と一体成形できる。金属の場合は図のごとく別部材のほうが一般に作りやすい。
【0019】
中底1000は調整ダイヤル34をもつ。調整ダイヤル34の天面にはコイン(図示せず)が嵌まる溝が切ってある。調整ダイヤル34の下には円形バネ36があり、取付ピン38とナットN1により、ベース上層12の溝42に取り付けられる。後述する靴のサイズ変更時には、調整ダイヤル34はピニオンとして後方部材16のラック50とかみ合い、後方部材16を動かす。サイズ変更が終了し、押さえつけていたコインが離れると、調整ダイヤル34は円形バネ36の作用によって上昇し、カバー層10の内歯ギアGH1とかみ合い、調整ダイヤル34の回転が阻止される。ベース下層11にはベース上層12の凹部42に対応する位置に凹部46が掘ってある。その凹部46は裏側に貫通せず、靴底からの浸水を防止する。
【0020】
中底1000はさらに、第1可動層15と同層の位置に連動用スライダ32をもつ。連動用スライダ32は右側から右(足の内側)へ伸びる第1長孔a、それと45度程度の角度で右下へ連なる第2長孔b、第2長孔bの真ん中から左へ伸びる第3長孔c、第3長孔cの下で左下へ伸びる第4長孔dをもつ一部材である。
【0021】
後述するが、これが靴のサイズ変更時に靴の幅方向にスライドし、その長孔に嵌まるボスの胴部や凸部を移動させ、それらが取り付けられている可動層17のいずれかの部材を移動させる。その移動は連動用スライダ32によって連動し、靴の長さ方向と幅方向が同時に変化する。靴が長くなるときは幅も広がり、逆なら狭まる。長さと幅は利用者の足の平均的な長さと幅の比率が維持されるよう、連動用スライダ32の各長孔の角度が定められる。
【0022】
以下、まずカバー層10に固定されるボスを起点とする接続を示す。
ボスB100の胴は前方部材14の長孔LH20と前右部材18の長孔LH12とを自由に貫通する。ねじS140はベース上層12の孔H40を通り、ボスB100のねじ穴に留められる。ねじS140の頂部はベース下層11の凹部H100に嵌まる。カバー層10とベース上層12はこの箇所で相互に動かないよう固定される。以下、多くの箇所でカバー層10とベース上層12は相互に固定される。
ボスB101の胴は前方部材14の長孔LH25と連動用スライダ32の第1長孔aを自由に貫通する。ねじS141はベース上層12の孔H41を通り、ボスB101のねじ穴に留められる。ねじS141の頂部はベース下層11の凹部H105に嵌まる。
【0023】
ボスB102の胴は連動用スライダ32の第3長孔cを自由に貫通する。ねじS142はベース上層12の孔H43を通り、ボスB102のねじ穴に留められる。ねじS142の頂部はベース下層11の凹部H107に嵌まる。
ボスB103の胴は前方部材14の長孔LH26と前右部材18の長孔LH11とを自由に貫通する。ねじS144はベース上層12の孔H44を通り、ボスB103のねじ穴に留められる。ねじS144の頂部はベース下層11の凹部H104に嵌まる。
【0024】
ボスB104の凸部は前方部材14の長孔LH27を自由に貫通し、前右部材18に触れないよう前右部材18の切り欠きUを通る。ねじS145はベース上層12の孔H43を通り、ボスB104のねじ穴に留められる。ねじS145の頂部はベース下層11の凹部H103に嵌まる。
ボスB105の胴は前方部材14の長孔LH28と前右部材18の長孔LH10とを自由に貫通する。ねじS143はベース上層12の孔H42を通り、ボスB105のねじ穴に留められる。ねじS143の頂部はベース下層11の凹部H102に嵌まる。
【0025】
ボスB106の胴は可動層17には触れない。ねじS147はベース上層12の孔H45を通り、ボスB106のねじ穴に留められる。ねじS147の頂部はベース下層11の凹部H109に嵌まる。
ボスB107の胴は可動層17には触れない。ねじS146はベース上層12の孔H46を通り、ボスB107のねじ穴に留められる。ねじS146の頂部はベース下層11の凹部H108に嵌まる。
ボスB108の胴は前方部材14の長孔LH34と前右部材18の長孔LH13とを自由に貫通する。ねじS149はベース上層12の孔H49を通り、ボスB108のねじ穴に留められる。ねじS149の頂部はベース下層11の凹部H113に嵌まる。
【0026】
ボスB109の胴は前方部材14の長孔LH35と前右部材18の長孔LH14とを自由に貫通する。ねじS148はベース上層12の孔H48を通り、ボスB109のねじ穴に留められる。ねじS148の頂部はベース下層11の凹部H111に嵌まる。
ボスB110の胴は前方部材14の長孔LH37と前右部材18の長孔LH16とを自由に貫通する。ねじS150はベース上層12の孔H50を通り、ボスB110のねじ穴に留められる。ねじS150の頂部はベース下層11の凹部H116に嵌まる。
ボスB111の胴は前方部材14の長孔LH36と前右部材18の長孔LH15とを自由に貫通する。ねじS151はベース上層12の孔H51を通り、ボスB111のねじ穴に留められる。ねじS151の頂部はベース下層11の凹部H115に嵌まる。
以上がカバー層10のボスを起点とする接続である。
【0027】
つぎに第2可動層13のボスを起点とする接続は以下のとおりである。
前方部材14のボスB120の凸部は連動用スライダ32の第2長孔bに移動可能に入る。
後方部材16のボスB121の凸部は連動用スライダ32の第4長孔dを移動可能に入る。
【0028】
つぎに第1可動層15の凸部を起点とする接続は以下のとおりである。
前右部材18の凸部C110は前方部材14の長孔LH22に入る。
前右部材18の凸部C111は前方部材14の長孔LH24に入る。
前左部材20の凸部C112は前方部材14の長孔LH21に入る。
前左部材20の凸部C113は前方部材14の長孔LH23に入る。
後右部材22の凸部C114は後方部材16の長孔LH30に入る。
後左部材24の凸部C115は後方部材16の長孔LH31に入る。
後右部材22の凸部C116は後方部材16の長孔LH33に入る。
後左部材24の凸部C117は後方部材16の長孔LH32に入る。
【0029】
つぎにベース下層11のボスを起点とするベース上層12との接続は以下のとおりである。
ボスB130は孔H101を通りねじS160とつながれる。
ボスB131は孔H106を通りねじS161とつながれる。
ボスB132は孔H110を通りねじS162とつながれる。
ボスB133は孔H112を通りねじS163とつながれる。
ボスB134は孔H114を通りねじS164とつながれる。
ボスB135は孔H117を通りねじS165とつながれる。
最後にヒール64の接続は以下のとおりである。
ねじS100は後方部材16の孔H160とヒール64の凹部H163をつなぐ。
ねじS102は後方部材16の孔H161とヒール64の凹部H164をつなぐ。
ヒール64は後方部材16と一体になり、ほかの層には触れない。
【0030】
なお、後述する靴のサイズ変更は各部材を靴の長さ方向と幅方向に平行移動するため、以下の長孔どうしはそれぞれ平行に開けておく。
長孔LH10と長孔LH12
長孔LH13と長孔LH15
長孔LH14と長孔LH16
長孔LH21と長孔LH23
長孔LH22と長孔LH24
長孔LH31と長孔LH32
長孔LH30と長孔LH33
長孔LH34と長孔LH35と長孔LH36と長孔LH37(靴の変化する長さ方向)
連動用スライダの第1長孔32aと第3長孔32c(靴の変化する幅方向)
長孔LH20と長孔LH25と長孔LH26と長孔LH27と長孔LH28(靴の変化する長さ方向)
【0031】
図2は中底1000の平面図で、各部材の位置関係を示す。靴のサイズが最小のときは
図2の位置関係になるよう設計するものとする。
図3は同斜視図である。
図4は
図3においてカバー層10だけを分解した状態を示す。
図5は
図4の状態からさらに可動層17を分解した状態を示す。以下の説明で靴が最小のときは
図1から
図5を総合的に参照する。
【0032】
一方、
図6から
図10は靴のサイズが最大のときの中底1000の状態を示す。
図6~10はそれぞれ
図1~5に対応する。靴のサイズが最大のときは
図7の位置関係になるよう設計するものとする。以下の説明で靴が最大のときは
図6から
図10を総合的に参照する。
いずれの図についても
図1と同じ部材には同じ符号を付し、煩瑣を避けるため説明に必要な最小限のものだけを示す。
【0033】
靴のサイズの変更
利用者が靴を最小から最大へ変更するものとする。すなわち、靴は
図1~5の状態から
図6~10の状態へと変化する。
靴が最小のとき、後方部材16の非平行なふたつの長孔LH30、LH31のそれぞれにある凸部C114、C115は、長孔LH30と長孔LH31の距離が最短になる踵寄りの一端にあり、それらの間隔は移動しうる範囲の中で最も近い。もうひと組の長孔LH32、LH33の凸部C117、C116も同様である。
この状態から利用者がコイン(図示せず)を利用し、調整ダイヤル34を図の上から見て反時計回りに回すことで以下の各動作が開始する。
【0034】
1.靴のうしろ側において靴の長さが伸びる動き
コインの回転により、調整ダイヤル34のピニオンと後方部材16のラック50により、後方部材16が踵の方向(以下「後方」)へ移動する。このため、靴のうしろ側が
図2の状態から
図7の状態のごとく伸びる。
【0035】
2.靴のうしろ側において靴の幅が広がる動き
2-1.第1の動き
後方部材16の移動に伴い、第1可動層15の凸部C114、C115はそれぞれ長孔LH30、LH31の溝に従って距離を広げていこうとする。第1可動層15の凸部C116、C117も同様である。その結果、第1可動層15は
図2の位置から
図7の位置まで移動し、靴のうしろ側において幅方向のサイズが大きくなる。
【0036】
2-2.第2の動き
第1の動きと同時に別の動きがある。後方部材16の長孔LH34も後方へ移動する。ここに嵌まっているボスB108は、長孔LH34と後左部材24の長孔LH13の交点にいつづけなければならないため、ボスB108は長孔LH13の幅が狭い側へ相対的に移動する。ボスB108の位置自体はカバー層10において固定されているため、長孔LH13のある後左部材24が幅方向に広がる。ほかのボスB109、B110、B111についても同様で、第1可動層15が幅方向に広がる。第1と第2の動きの両方により、第1可動層15は靴の幅方向に一様に広がる。
【0037】
3.靴の前側において靴の長さが伸びる動き
コインの回転により後方部材16が後方へ移動すると、後方部材16のボスB121も後方へ移動する。ボスB121は連動用スライダ32の第4長孔dの中にいつづけるため、結果として連動用スライダ32全体が足の内側方向へ移動する。この移動は靴の幅方向への平行移動となる。
前方部材14のボスB120は連動用スライダ32の第2長孔bの中にいつづけるため、後方部材16のボスB121と第2可動層13のボスB120の距離が開いていく。これにより第2可動層13が靴の前方に伸びる。
【0038】
4.靴の前側において靴の幅が広がる動き
ボスB103は前方部材14の長孔LH26と前左部材20の長孔LH11の交点にいつづける。第2可動層13の前方への移動に伴い、ボスB103は長孔LH11のより靴中央側へ移動するため、長孔LH11のある前左部材20は逆に靴の外側へ押し出される。凸部C113と凸部C112についても同様であり、結果として前左部材20は平行移動し、小指側において靴の幅が広がる。
ほかのボスB100、B105、凸部C110、C111も同様で、前右部材18が平行移動し、親指側において靴の幅が広がる。
なお、カバー層10のボスB104はこの動きの邪魔はしないものの、積極的には関与せず、全体構造の強度を高める役割をもつ。
【0039】
以上が靴のサイズの変化である。その間の変化は無段階であり、一般の靴のサイズが5mm刻みしか提供されない問題を解消できる。
本実施の形態では、コインにより、靴の長さ方向と幅方向を簡単に連動して調節できる。
図1の実寸の試作により、靴の長さ方向に約20mm、幅方向に約10mmの調整ができている。仮に最小状態を22.5cm、最大状態を24.5cmとすれば、この靴ひとつで利用者の8~9割の要望を満たすことができる。
【0040】
実施の形態2
図11は実施の形態1の中底1000を利用した靴2000の外観を示す。ただし、以下のものは理解が容易なため図示していない。
・中底1000の上に敷かれ、利用者の足裏に接する緩衝層である中敷き。
・中底1000の下に貼られ、地面と接する靴裏。
【0041】
靴2000は中底1000とそれを支える交換可能なヒール64と、利用者の足の甲を包み固定する前方アッパー306と、同じく踵を包み固定する後方アッパー310を備える。前方アッパー306は親指に近い側の第1領域300と小指に近い側の第2領域302に分割されており、それぞれの下端が前左部材20の側壁20w、前右部材18の側壁18wに接着剤等で固定されている。第1領域300と第2領域302は中央でオーバーラップし、その部分で両者は面ファスナー304により固着される。したがって、アッパーも利用者に併せてサイズを変更することができる。
【0042】
後方アッパー310は左右の下端が後右部材22の側壁22w、後左部材24の側壁24wに固定される。後方アッパー310は靴の幅方向に数ミリ広がる設計のため、前方アッパー306同様、二分割して面ファスナーで留めてもよい(図示せず)。または、多少伸縮する素材で作ることもできる。
【0043】
後方アッパー310は補助バンド312をもち、これにより利用者のくるぶしが固定される。補助バンド312はベルト314により、サイズ変更可能に後方アッパー310に固定される。
【0044】
以上この実施の形態によれば、中底1000のサイズ変更だけでなく、アッパーのサイズ変更もでき、さまざまな利用者の足の形に合わせることができる。
なお、本実施の形態ではアッパーを前後で分割した。このタイプであれば、中底1000のサイズ変更の際、アッパーが影響を受けにくいため、靴への応用が容易である。
【0045】
一方、靴全体でアッパーが連続する一枚物の場合、以下の実施例が可能である。
1.
図11の前方アッパー306と後方アッパー310を靴の両サイドまで伸ばし、その部分でオーバーラップさせ、面ファスナー等の固定部材で固定する。
2.アッパー自体を伸縮性のあるもので作る。
【0046】
以上の実施の形態によれば、靴のサイズが縦方向、横方向ともに調整できるため、以下の効果を生む。
製造段階では従来のように多数のサイズの靴を作る必要がなく、製造コストの大幅削減、利益率の改善につながる。
【0047】
流通段階では多数のサイズの靴を保管するスペースが数分の一になり、かつ在庫管理も容易となる。大幅なコストダウンにつながる。廃棄処分も減る。
【0048】
購入段階ではユーザはあまりサイズを気にしなくてよい。実店舗だけでなく、靴には難しいとされるオンラインショッピングにも容易に展開できる。また、従来の靴のサイズ展開は一般に5ミリ刻みで、完全にはフィットしない場合があるが、本実施の形態によるサイズ調整は無段階なためその心配もない。
【0049】
利用段階では日々の体調に合わせて靴のサイズを微調整できる。とりわけ、足のむくみを気にする女性には最適である。わずかなサイズの違いで靴が脱げ、または足が痛くなるリスクも減る。同じ靴を足のサイズが違う姉妹で使うこともできる。
【0050】
なお、実施の形態は以下のように概括することができる。
総括1
多層構造の中底1000であって、靴底に近い方から、ベース層11、12、可動層17、カバー層10をもち、可動層17には連動用スライダ32が併設され、中底1000のサイズ変更指示動作に伴って連動用スライダ32がスライドし、そのスライド動作により、可動層17の対応部材を移動させ、中底1000の長さ方向と幅方向が同時に変化する。
【0051】
総括2
総括1において、対応部材は中底1000の長さを変化させるために複数に分割された部材群1と、幅を変化させるために複数に分割された部材群2を含み、連動用スライダ32のスライド動作により部材群1、部材群2の一方の動きが発生し、発生した動きにより他方の部材群の動きが発生する。
【0052】
総括3
総括1、2において、中底1000の長さ方向が伸びるときは幅方向も伸び、縮むときは縮む。
【0053】
総括4
総括3において、長さ方向の変化量と幅方向の変化量は、利用者の足の平均的な長さと幅の比率がおよそ維持されるよう連動用スライダ32が構成されている。
【符号の説明】
【0054】
B ボス
S ネジ
10 カバー層
11 ベース下層
12 ベース上層
13 第2可動層
15 第1可動層
17 可動層
34 調整ダイヤル
306 前方アッパー
310 後方アッパー
1000 中底
2000 靴