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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104465
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】シリカ膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20240729BHJP
   C01B 33/12 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
H01L21/316 C
C01B33/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008679
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒池 耕平
【テーマコード(参考)】
4G072
5F058
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072BB09
4G072FF07
4G072GG03
4G072HH28
4G072JJ26
4G072MM36
4G072NN21
4G072RR21
4G072UU01
4G072UU30
5F058BB05
5F058BB06
5F058BB07
5F058BC02
5F058BF46
5F058BH03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低温下において、簡便な手法により樹脂などのフレキシブル基板に絶縁性、耐久性、耐溶剤性等に優れるシリカ膜を製造できるシリカ膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】基板上にシリカ膜を製造する方法であって、ポリシラザンを基板に塗布する工程と、樹脂が変形しない140℃以下の温度で飽和水蒸気庄下にてアニール処理する工程と、を有し、耐久性、耐溶剤性等に優れるシリカ膜を製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にシリカ膜を製造する方法であって、
ポリシラザンを基板に塗布する工程と、飽和水蒸気庄下にてアニール処理する工程と、を有することを特徴とするシリカ膜の製造方法。
【請求項2】
前記アニール処理における加熱温度が、450℃未満である請求項1に記載のシリカ膜の製造方法。
【請求項3】
前記アニール処理における加熱温度が、100℃~140℃である請求項1または2に記載のシリカ膜の製造方法。
【請求項4】
前記飽和水蒸気圧が、0.1MPa~0.3MPaである請求項1又は2に記載のシリカ膜の製造方法。
【請求項5】
前記基板の材質が、樹脂である請求項1又は2に記載のシリカ膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキシブル・ストレッチャブルセンサのような次世代フレキシブルデバイスが注目されている。次世代フレキシブルデバイスは、例えば、プラスチック製の基板に高性能センサや電子デバイスを実装したものである。次世代フレキシブルデバイスの開発において、高性能センサや電子デバイスを相互接続する際に、配線と基板との間、又は配線と配線との間を絶縁する層間絶縁膜を設けることがある。
【0003】
層間絶縁膜に用いられる絶縁膜は、これまでに様々な材料が提案されており、そのうちの一つに絶縁性、耐久性、耐溶剤性等に優れるシリカ(SiO)により製造された膜がある。シリカ膜の製造方法は、例えば、真空装置を用いたCVD法(化学気相成長法)がある(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-306906号公報
【特許文献2】特開平9-102491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のCVD法によるシリカ膜の製造方法では、大型の装置が必要となり、シリカ膜の製造装置にコストがかかり、その結果として、シリカ膜を安価に製造することが難しくなっていた。
そこで、真空下ではない状態において、シリカ膜を製造する方法として、シリカに転化する性質を有するポリシラザンを用いた方法が注目されるようになった。通常、ポリシラザンからシリカに転化させるには、450℃以上、かつ60分間以上の高温エネルギーが必要とされている。一方、フレキシブルデバイスに用いられる樹脂製の基板の耐熱温度は低い(約140℃)。したがって、樹脂製の基板を使用する場合に、ポリシラザンを用いてシリカ膜を製造することは難しかった。
【0006】
140℃以下において、ポリシラザンをシリカに転化させる方法の開発が試みられており、例えば、過酸化水素を用いて加水分解反応を起こして転化させる方法、オゾンを用いて酸化反応を起こして転化させる方法などが挙げられる。
しかしながら、過酸化水素水を用いた転化法では、低温におけるシリカ転化が可能となった反面、得られたシリカ膜中及びシリカ膜表面に多くのOH結合を有することが知られている。このOH結合は、電気絶縁性を劣化させる原因となるため、フレキシブルデバイスに用いることは難しい。
その一方で、オゾンを用いた転化は、OH結合を多くは有さない膜を得ることができるが、複雑な工程を経る必要があり、応用がきかない。
【0007】
本発明は、低温下において、簡便な手法により基板にシリカ膜を製造できるシリカ膜の製造方法の提供を目的とする。
低温とは、基板に用いられる樹脂が変形しない温度を指し、その温度は約140℃以下である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明に係るシリカ膜の製造方法は、ポリシラザンを基板に塗布する工程と、飽和水蒸気庄下にてアニール処理する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低温下において、簡便な手法により基板にシリカ膜を製造できるシリカ膜の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例におけるシリカ膜のFT-IR測定結果を示した図である。
図2図2は、実施例におけるシリカ膜のFT-IR測定結果を示した図である。
図3図3は、実施例におけるシリカ膜のFT-IR測定結果を示した図である。
図4図4は、図3の一部を拡大した図である。
図5図5は、実施例におけるリーク電流特性の測定結果を示した図である。
図6図6は、図5の一部を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(シリカ膜の製造方法)
本発明の絶縁膜の製造方法は、ポリシラザンを基板に塗布する工程と、飽和水蒸気庄下にてアニール処理する工程と、を有し、更に必要に応じてその他の工程を有する。
【0012】
<ポリシラザンを基板に塗布する工程>
<<基板>>
基板は、通常のプリント配線基板に用いられる基板であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、リジット基板であっても、フレキシブル基板であってもよい。
リジット基板の材質は、例えば、紙、ガラス布、アルミニウム、アルミナ(セラミックス)、ガラスセラミックなどが挙げられる。
フレキシブル基板の材質は、例えば、シリコン、ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタラート(PET)などの樹脂が挙げられる。
基板の大きさ、形状、及び厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
【0013】
<<ポリシラザン>>
ポリシラザンは、ケイ素(Si)、窒素(N)、及び水素(H)を基本骨格に有するポリマーである。ポリシラザンは、水と反応してシリル基を導入させ、アンモニアを発生させながらシリカ(二酸化ケイ素)のガラス状被膜に転化する性質がある(下記の式参照)。
ポリシラザンは無機ポリシラザン(PHPS)と有機ポリシラザン(OPSZ)とがある。これらは、1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0014】
【化1】
【0015】
ポリシラザンは適宜合成したものでも、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、Durazane(登録商標)2000シリーズ(メルク社製)などが挙げられる。
【0016】
ポリシラザンを基板に塗布する方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ディッピング法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スピンコート法などが挙げられる。
【0017】
ポリシラザンを塗布する際のポリシラザンの厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
【0018】
<飽和水蒸気庄下にてアニール処理する工程>
アニール処理は、熱を加えて、材料の残留応力を取り除く処理をいう。本発明においては、アニール処理をすることにより、ポリシラザンがシリカに転化する。
【0019】
アニール処理の際の加熱温度は、450℃未満が好ましく、100℃~140℃がより好ましく、100℃~120℃が更に好ましい。加熱温度が、この数値範囲であると、基板が樹脂製であっても、シリカ膜を製造する際に基板が曲がるなどの不具合を防止できる。
【0020】
飽和水蒸気庄は、空気中の水蒸気が飽和したときの水蒸気庄である。具体的には、0.1MPa~0.3MPaが好ましい。この圧力は、100℃付近における飽和水蒸気庄である。
【0021】
その他の工程は、本発明の効果を阻害しない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、ポリシラザンを塗布する工程とアニール処理する工程との間に水を添加する工程が挙げられる。
【0022】
<<水>>
水は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、蒸留水、RO水、純水などが挙げられる。これらは1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0023】
水とポリシラザンとの比は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。また、大気中の水分も水として用いることができる。
【実施例0024】
次に、本発明者らが行った試験により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0025】
n-Si基板(6インチシリコンウエハー、キャノシス株式会社製、厚み:625±25μm、1Ω・cm~100Ω・cm)を1.5cm×1.5cmの大きさに切断した。得られたSi基板をRCA洗浄を行い、Si基板表面上の自然酸化膜を除去した。
次に、スピンコーターにより(回転数:4,600rpm、時間:1分間)ポリシラザン(サンセラザン、ANN120-10、サンワ化学株式会社製)をSi基板上に約0.1μmの厚みになるように成膜した。
成膜したポリシラザンを密閉容器に入れ、その密閉容器内に純水を80μL入れ、103℃に加熱し、0.1MPaの条件下(飽和蒸気圧下)にして、1時間アニール処理を行い、ポリシラザンをシリカ転化した。
【0026】
得られたシリカ(シリカ膜)は、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)測定を行って評価した。測定結果を図1に示す。
図1は、(a)ポリシラザンを飽和水蒸気圧下において1時間アニール処理してシリカ転化させて得られたシリカ膜(図1中のHO Vaper)、(b)ポリシラザンにHを塗布してシリカ転化させて得られたシリカ膜(図1中のH only)のFT-IRスペクトルである。(b)のシリカ膜では3,500cm-1付近にOH結合に起因するピークが強く表れているのに対し、(a)のシリカ膜はOH結合に起因するピークが極めて小さいことがわかる。
【0027】
図2は、(a) ポリシラザンを飽和水蒸気圧下において1時間アニール処理してシリカ転化させて得られたシリカ膜、(b)ポリシラザンを大気圧下において電気炉103℃で1時間アニール処理してシリカ転化させて得られたシリカ膜のFT-IRスペクトルである。(a)のシリカ膜は、1,075cm-1付近に急峻なSi-O-Si結合に起因するピークが確認でき、完全にシリカ転化しているのに対し、(b)のシリカ膜は、1,075cm-1付近のSi-O-Si結合に起因するピークが僅かに確認できるものの、ポリシラザン由来の結合(3,400cm-1、2,100cm-1、1,200cm-1)が多く残留しており、シリカ転化途中であることが明らかになった。
【0028】
図3及び図4は、(a)ポリシラザンを大気圧下において電気炉450℃で1時間アニール処理してシリカ転化させて得られたシリカ膜、(b)ポリシラザンを飽和水蒸気圧下において1時間アニール処理してシリカ転化させて得られたシリカ膜、(c)熱酸化させて得られたシリカ膜(THOXと略記される。従来の手法により得られたシリカ膜。層間絶縁膜として用いることができる)のFT-IRスペクトルである。図4は、図3の一部(900cm-1~1,400cm-1)を拡大したFT-IRスペクトルである。
図4から、(b)のシリカ膜と(c)のシリカ膜とはピークポジションがどちらも1,075cm-1であり同一であった。また、図4のスペクトルから、半値幅を算出し、その結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表1の結果から、(b)のシリカ膜は、半値幅が57cm-1であった。この値を(a)のシリカ膜の半値幅である86cm-1と、(c)のシリカ膜の半値幅である72cm-1とにより比較すると、(c)のシリカ膜の半値幅の方が近い。これは、(b)ポリシラザンを飽和水蒸気圧下において1時間アニール処理してシリカ転化させて得られたシリカ膜の組成が(c)熱酸化させて得られたシリカ膜の組成に近いことを示している。これは、エネルギー要素として「圧力」を加えることで、ポリシラザンを450℃未満の低温でもシリカ転化してシリカ膜を製造できることを示している。
【0031】
次に、(a)シリカ転化前の膜(ポリシラザン膜)、(b)飽和水蒸気圧下において1時間アニール処理してシリカ転化させて得られたシリカ膜、(c)熱酸化させて得られたシリカ膜のそれぞれについて、MОSキャパシタ(Metal-Oxide-Semiconductor、金属-酸化物-半導体構造を持つダイオード)を作製し、電界強度に対するリーク電流特性を半導体パラメータアナライザ(HP 4145B)にて測定した。結果を図5に示した。
(b)のシリカ膜は、約7MV/cmで絶縁破壊が起こることが確認でき、(c)のシリカ膜は8MV/cmで絶縁破壊が起こることが確認できる。
また、図6は、図5における(b)のシリカ膜について、電界強度0MV/cmから0.5MV/cmを拡大した図である。ここで、使用電圧が5V、絶縁膜の厚みが0.1μmから1μmを想定した場合、層間絶縁膜として必要な電界強度は0.05MV/cmから0.5MV/cmである。このとき(b)のシリカ膜の電流密度は、10-7A/cm以下であることから、層間絶縁膜として十分な特性を持っていることがわかる。
従って、飽和水蒸気圧下においてアニール処理してシリカ転化させて得られたシリカ膜は層間絶縁膜として用いることができることが明らかになった。
【0032】
以上の結果から、ポリシラザンを100℃程度の飽和水蒸気圧下においてアニール処理するという簡便な方法によりシリカ膜を製造できることが明らかになり、かつこのシリカ膜は層間絶縁膜として用いることができることが明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6