(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104469
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】車両用周囲監視装置、車両用周囲監視方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
G08G1/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008684
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】322003857
【氏名又は名称】パナソニックオートモーティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 健生
(72)【発明者】
【氏名】中北 学
(72)【発明者】
【氏名】平井 義人
(72)【発明者】
【氏名】平田 航
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181CC11
5H181CC14
5H181LL01
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】車両の電源スイッチを切断した際に、過去に計測された周囲の障害物の位置に係る情報を、少ない記憶容量で記憶する車両用周囲監視装置、車両用周囲監視方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】車両用周囲監視装置は、送信波を出力した第1の時刻と、第1の時刻における車両の位置と、送信波の反射波を検出した第2の時刻と、第2の時刻における車両の位置とに基づいて、障害物の座標を計測する測距部と、車両の電源の状態を検出する車両状態検出部と、車両の電源が切断された際に、測距部が計測していた障害物の座標を、より分解能が低い情報に圧縮する情報圧縮部と、圧縮された座標を記憶装置に書き込む情報書込部と、車両の電源が投入された際に、記憶装置から、書き込まれた座標を読み出す情報読出部と、情報読出部が読み出した座標を用いて、車両と障害物との接触を判定する接触判定部とを備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されて、当該車両から周囲の障害物までの距離を監視する車両用周囲監視装置であって、
測距装置が送信波を出力した第1の時刻と、当該第1の時刻における前記車両の位置と、前記測距装置が、前記送信波の反射波を検出した第2の時刻と、当該第2の時刻における前記車両の位置とに基づいて、第1の座標系における前記障害物の座標を計測する測距回路と、
前記車両の電源の状態を検出する車両状態検出回路と、
前記車両状態検出回路が、前記車両の電源の切断を検出した際に、前記第1の座標系よりも分解能が低い第2の座標系における前記障害物の座標を、記憶装置に書き込む情報書込回路と、
前記車両状態検出回路が、前記車両の電源の投入を検出した際に、前記記憶装置から、前記情報書込回路が書き込んだ前記第2の座標系における前記障害物の座標を読み出す情報読出回路と、
前記情報読出回路が読み出した前記障害物の座標を用いて、前記車両と前記障害物とが接触する恐れがあるかを判定する接触判定回路と、を備える
車両周囲監視装置。
【請求項2】
前記車両の電源の切断の予兆を示すトリガ情報を検出した際に、前記第1の座標系における前記障害物の座標を、前記第2の座標系における前記障害物の座標に変換する情報圧縮回路を、更に備える、
請求項1に記載の車両周囲監視装置。
【請求項3】
前記第2の座標系は、前記第1の座標系に重畳させて設定したグリッドであって、前記第1の座標系における前記障害物の座標が属する前記グリッドの位置を、前記第2の座標系における前記障害物の座標とする、
請求項1または請求項2に記載の車両周囲監視装置。
【請求項4】
前記グリッドのサイズは、前記車両の近傍における、前記車両が停止した際の前記測距装置の測距範囲の外部において、より小さく設定される、
請求項3に記載の車両周囲監視装置。
【請求項5】
前記グリッドのサイズは、前記車両が停止した際の前記測距装置の測距範囲の内部において、より大きく設定される、
請求項3に記載の車両周囲監視装置。
【請求項6】
前記車両状態検出回路が、前記車両の電源の投入を検出した際に、前記情報読出回路が読み出した前記障害物の座標を有効にするか無効にするかを判断する有効性判断回路を更に備える、
請求項1に記載の車両周囲監視装置。
【請求項7】
前記有効性判断回路は、
前記車両状態検出回路が、前記車両の電源の投入を検出した際に、前記情報読出回路が読み出した前記障害物の座標と、前記測距装置の計測結果とに基づいて、前記情報読出回路が読み出した前記障害物の座標を有効にするか無効にするかを判断する、
請求項6に記載の車両周囲監視装置。
【請求項8】
車両において、当該車両から周囲の障害物までの距離を測定する車両用周囲監視方法であって、
測距装置が送信波を出力した第1の時刻と、当該第1の時刻における前記車両の位置と、前記測距装置が、前記送信波の反射波を検出した第2の時刻と、当該第2の時刻における前記車両の位置とに基づいて、第1の座標系における前記障害物の座標を計測する測距プロセスと、
前記車両の電源の状態を検出する車両状態検出プロセスと、
前記車両状態検出プロセスが、前記車両の電源の切断を検出した際に、前記第1の座標系よりも分解能が低い第2の座標系における前記障害物の座標を、記憶装置に書き込む情報書込プロセスと、
前記車両状態検出プロセスが、前記車両の電源の投入を検出した際に、前記記憶装置から、前記情報書込プロセスで書き込んだ前記第2の座標系における前記障害物の座標を読み出す情報読出プロセスと、
前記情報読出プロセスが読み出した前記障害物の座標を用いて、前記車両と前記障害物とが接触する恐れがあるかを判定する接触判定プロセスと、を備える
車両用周囲監視方法。
【請求項9】
車両に搭載されて、当該車両から周囲の障害物までの距離を測定する車両用周囲監視装置が備えるコンピュータを、
測距装置が送信波を出力した第1の時刻と、当該第1の時刻における前記車両の位置と、前記測距装置が、前記送信波の反射波を検出した第2の時刻と、当該第2の時刻における前記車両の位置とに基づいて、第1の座標系における前記障害物の座標を計測する測距回路と、
前記車両の電源の状態を検出する車両状態検出回路と、
前記車両状態検出回路が、前記車両の電源の切断を検出した際に、前記第1の座標系よりも分解能が低い第2の座標系における前記障害物の座標を、記憶装置に書き込む情報書込回路と、
前記車両状態検出回路が、前記車両の電源の投入を検出した際に、前記記憶装置から、前記情報書込回路が書き込んだ前記第2の座標系における前記障害物の座標を読み出す情報読出回路と、
前記情報読出回路が読み出した前記障害物の座標を用いて、前記車両と前記障害物とが接触する恐れがあるかを判定する接触判定回路と、
して機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用周囲監視装置、車両用周囲監視方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の電源スイッチを切断した際に、過去に超音波センサで検出した車両周囲の障害物の位置を記憶して、電源スイッチを再度投入した際に、記憶された障害物の位置に基づいて、都度、報知や制御を行う車両用周囲監視装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような既存の技術による車両用周囲監視装置にあっては、車両の電源スイッチを切断した際に、過去に計測した車両の周囲の障害物の存在位置に係る多くの位置情報を記憶するため、車両に記憶容量の大きい記憶装置の設置を検討する必要がある。そのため、コストが増大するおそれがある。また、車両の電源スイッチが切断された後で、情報の記憶を完了するまでの間、ECU(Electronic Control Unit)に通電しておくため、ハードウエア構成に対する工夫が望まれる。特許文献1では、このような位置情報の具体的な記憶方法について言及していない。
【0005】
本開示の目的は、車両の電源スイッチを切断した際に、過去に計測された周囲の障害物の位置に係る情報を、少ない記憶容量で記憶する車両用周囲監視装置、車両用周囲監視方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る車両用周囲監視装置は、車両に搭載されて、当該車両から周囲の障害物までの距離を監視するものであって、測距装置が送信波を出力した第1の時刻と、当該第1の時刻における前記車両の位置と、前記測距装置が、前記送信波の反射波を検出した第2の時刻と、当該第2の時刻における前記車両の位置とに基づいて、第1の座標系における前記障害物の座標を計測する測距回路と、前記車両の電源の状態を検出する車両状態検出回路と、前記車両状態検出回路が、前記車両の電源の切断を検出した際に、前記第1の座標系よりも分解能が低い第2の座標系における前記障害物の座標を、記憶装置に書き込む情報書込回路と、前記車両状態検出回路が、前記車両の電源の投入を検出した際に、前記記憶装置から、前記情報書込回路が書き込んだ前記第2の座標系における前記障害物の座標を読み出す情報読出回路と、前記情報読出回路が読み出した前記障害物の座標を用いて、前記車両と障害物とが接触する恐れがあるかを判定する接触判定回路と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る車両用周囲監視装置によれば、車両の電源スイッチを切断した際に、過去に計測された周囲の障害物の位置に係る情報を、少ない記憶容量で記憶することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、既存の技術による車両用周囲監視装置を説明する第1の図である。
【
図2】
図2は、既存の技術による車両用周囲監視装置を説明する第2の図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係る車両用周囲監視装置が備える測距センサの出力に基づく測距方法を説明する図である。
【
図4A】
図4Aは、実施の形態に係る車両用周囲監視装置における物標の位置情報の記憶方法を説明する第1の図である。
【
図4B】
図4Bは、実施の形態に係る車両用周囲監視装置における物標の位置情報の記憶方法を説明する第2の図である。
【
図5A】
図5Aは、グリッドサイズの決定方法について説明する図である。
【
図5B】
図5Bは、車両の出発時に物標の検知が困難な領域について説明する図である。
【
図5C】
図5Cは、車両を駐車した際に、出発時に物標の検知が困難な位置に物標が検知された状態の一例を示す図である。
【
図5D】
図5Dは、車両と物標との間のクリアランス距離について説明する図である。
【
図6】
図6は、記憶した物標の位置情報の有効性について説明する図である。
【
図7】
図7は、実施の形態に係る車両用周囲監視装置のハードウエア構成の一例を示すハードウエアブロック図である。
【
図8】
図8は、実施の形態に係る車両用周囲監視装置の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図9】
図9は、実施の形態に係る車両用周囲監視装置が行う位置情報の書込処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、実施の形態に係る車両用周囲監視装置が行う位置情報の読出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施の形態)
以下、図面を参照しながら、本開示に係る車両用周囲監視装置の実施の形態について説明する。
【0010】
(既存の技術による車両用周囲監視装置)
図1と
図2を用いて、既存の技術による車両用周囲監視装置を説明する。
【0011】
車両用周囲監視装置は、車両10の周囲に、外側を向いて設置された複数の測距センサ12a,12bを備える。測距センサ12a,12bは、例えば超音波センサやミリ波レーダ等である。測距センサ12は、超音波や電磁波を放射して、車両10の周囲の障害物からの反射波を検出することによって、車両10から障害物までの距離と障害物の位置とを検出する。
【0012】
例えば、
図1の例において、車両10の右側方には、2個の測距センサ12a,12bが間隔をあけて設置されている。測距センサ12a,12bは、例えば超音波センサである。測距センサ12aは、測距範囲13aの範囲に超音波を放射して、障害物からの反射波を受信する。測距センサ12bは、測距範囲13bの範囲に超音波を放射して、障害物からの反射波を受信する。
【0013】
このとき、例えば、測距センサ12aは広い測距範囲13aを有するため、障害物の正確な位置を特定することは困難である。そのため、車両10は、移動しながら、異なる時刻において、測距センサ12aの複数の出力を取得する。車両10の移動量と、測距センサ12aの複数の出力とを用いて、障害物の正確な位置を特定することができる。詳しくは後述する(
図3参照)。測距センサ12bも同様にして、障害物の正確な位置を特定する。
【0014】
車両10は、前進した状態で、
図1の状態Saに至ったとする。そして、このとき、車両の右側方に、物標20が検出されたものとする。
【0015】
車両10の運転者は、この状態で車両10の電源スイッチを切断する。車両の電源スイッチとは、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンを搭載した非電動車両の場合はイグニッションスイッチであり、電気自動車やハイブリッド車のような電動車両の場合はパワースイッチである。
【0016】
車両10の電源スイッチが切断されて状態Sbに遷移すると、状態Saで検出された物標20の情報は破棄される。
【0017】
そして、再び車両10の電源スイッチが投入されると、状態Scに遷移する。このとき、測距センサ12a,12bが動作を開始するため、測距範囲13a,13bの範囲内に障害物が存在するか否かの判断は行われる。しかしながら、車両10が停止しているため、測距範囲13a,13bを外れた位置にある物標20を検出することは困難である。
【0018】
運転者が物標20の存在に気付いていない場合、状態Sdに示すように、運転者は車両10を前進させるため、車両10と物標20とが接触する可能性があった。
【0019】
このために、車両10の電源スイッチを切断した際に、物標20の位置を記憶しておくのが望ましい。そして、特許文献1においては、車両10の電源スイッチを切断した際に、そのときに計測されている障害物の位置座標を記憶している。
【0020】
しかしながら、実際には、
図2に示すように、物標20の位置情報が多数検出される。車両10の電源スイッチを切断した際に、これらの全ての物標20の位置情報を記憶するためには、ハードウエアの性能向上と記憶容量の増大とが望ましい。そして、特許文献1には、これらに対する具体的な方策は言及されていない。
【0021】
例えば、車両10の電源スイッチを切断した際に、車両10の周囲に存在する物標20の位置情報を400点記憶することを想定する。1点の座標を記憶するために8バイト使用する場合、400点の座標を記憶するためには3200バイトの記憶容量を使用する。4バイトの情報を不揮発メモリに記憶するために60μsecかかる場合、3200バイトの情報を不揮発メモリに記憶するためには、約48msecかかる。既存の技術によるマイコンを用いたシステムの場合、電源スイッチを切断してからCPUのリセットがかかるまでの時間は約6msec程度であるため、他の施策をとらない限り、400点の座標を全て記憶するには時間が不足する。
【0022】
以下に説明する実施の形態の車両用周囲監視装置5は、車両10の電源スイッチを切断した際に、過去に計測された周囲の障害物の位置に係る情報を、少ない記憶容量で記憶することができるものである。
【0023】
(車両用周囲監視装置が行う測距方法)
図3を用いて、本開示に係る車両用周囲監視装置5が行う測距方法を説明する。
【0024】
図3は、測距センサ12aを異なる2点、例えば点Aと点Bにおいて、物標20の測距を行った例を示す。このとき、測距センサ12aは、測距範囲13aの内部に超音波を放射している。
【0025】
車両用周囲監視装置5は、点Aにおいて、測距値d1を得たとする。また、車両用周囲監視装置5は、点Bにおいて、測距値d2を得たとする。また、車両用周囲監視装置5は、点Aと点Bとの距離Wを計測したとする。
【0026】
このとき、点Aにおける測距値d1と、点Bにおける測距値d2とが、物標20の同じ反射点Pにおける反射波によって得られたと仮定すると、
図3において、三角形PABの形状が一意に決定する。例えば、三角測量によって、反射点Pの座標を得ることができる。このように、車両用周囲監視装置5は、車両10を移動させて、三角形PABを形成することによって、物標20までの距離を計測する。このようにして物標20までの距離を計測することを、以下の説明で三点測定と呼ぶ。
【0027】
(障害物の位置情報の記憶方法)
図4Aと
図4Bを用いて、実施の形態の車両用周囲監視装置5が、物標の位置情報を記憶する方法を説明する。
【0028】
車両用周囲監視装置5は、車両10の周囲に、
図4Aに示すようなグリッド15を設定する。グリッド15は、X軸とY軸に沿って形成されて、例えば縦横とも同サイズの単位グリッド16aから形成される。
【0029】
例えば、車両用周囲監視装置5は、車両10の全長が5mである場合に、車両10の左右近傍に、1辺が10cmの単位グリッド16aからなるグリッド15を設定する。具体的には、車両10の前後方向、例えばX軸に沿って、左右各50個の単位グリッド16aを形成する。また、車両10の左右方向、例えばY軸に沿って、左右各15個の単位グリッド16aを形成する。
【0030】
車両用周囲監視装置5は、計測された物標20の位置情報が属する単位グリッド16aを決定する。近接する複数の物標20の位置情報が同じ単位グリッド16aに属する場合、これらの近接した複数の物標20の位置情報が、物標20aの位置情報として1つの単位グリッド16aに圧縮されるため、記憶する情報量が低減される。
【0031】
そして、車両用周囲監視装置5は、
図4Bに示すように、車両10から横方向(Ya軸方向)に最も近い単位グリッド16aの位置を特定する。これは、車両10から同じ側の同じXa位置において複数の物標20の位置情報(X,Y)が計測された場合、車両10との接触可能性を判定するために使用する情報は、車両10から最も近い物標20の位置情報であるためである。このように、車両用周囲監視装置5は、グリッド15を設定することによって、XY座標系における物標20の位置情報を、より分解能が低い、XaYa座標系における物標20aの位置情報に再標本化(再サンプリング)する。例えば、
図4Aに示す物標20の位置情報(X,Y)は、
図4Bに示す物標20aの位置情報(Xa,Ya)に再標本化される。なお、XY座標系は、本開示における第1の座標系の一例である。また、XaYa座標系は、本開示における第2の座標系の一例である。
【0032】
前述した単位グリッド16aの設定条件の場合、1つの単位グリッド16aの位置を特定するために使用するメモリサイズは、車両10の左右それぞれ4ビット(0.5バイト)である。したがって、車両10の左右合計100個の単位グリッド16aの全てで物標20aが計測された場合であっても、50バイトのメモリがあればよい。そして、前述したように、4バイトの情報を不揮発メモリに記憶するために60μsecかかる場合、50バイトの情報を不揮発メモリに記憶するためには、約0.75msecかかる。この時間は、前述した、既存の技術によるマイコンを用いたシステムにおける、電源スイッチを切断してからCPUのリセットがかかるまでの時間である約6msecを下回っている。したがって、車両10の電源スイッチを切断した際に、物標20aの位置情報を全て記憶することができる。
【0033】
(グリッドサイズの決定方法)
図5Aから
図5Dを用いて、単位グリッド16aのサイズを決定する方法を説明する。
【0034】
測距センサ12aまたは測距センサ12bによって計測された物標20の位置情報(X,Y)は、グリッド15の位置情報(Xa,Ya)に再標本化されるため、位置情報の誤差が発生する。例えば、
図5Aに示すように、単位グリッド16aの一辺のサイズをEとすると、物標20の位置情報(X,Y)と単位グリッド16aの位置情報(Xa,Ya)との間には、最大誤差F=E/√2が発生する。例えば、単位グリッド16aのサイズが大きくなるほど、物標20と物標20aとの最大誤差Fは大きくなる。
【0035】
例えば、車両用周囲監視装置5を用いて、車両10と物標20とが接触する可能性がある場合に、車両10のブレーキを作動させる緊急自動ブレーキ機能を実装した場合を想定する。車両用周囲監視装置5が計測した物標20までの距離が15cmであり、その計測誤差が5cmであったとすると、単位グリッド16aへの再標本化による最大誤差Fは10cmまで許容される。したがって、単位グリッド16aの一辺のグリッドサイズEは、最大で、10√2=約14cmとなるため、一辺のグリッドサイズEが14cm以下の単位グリッド16aを用いて再標本化すれば、元々の計測精度を維持したまま、緊急自動ブレーキ機能を実現することができる。より詳しくは、
図5Dで説明する。
【0036】
また、単位グリッド16aのグリッドサイズEは、不揮発メモリの記憶容量と不揮発メモリへの書込時間にも影響するため、車両用周囲監視装置5に使用するマイコンの仕様と不揮発メモリの記憶容量を考慮して決定することが望まれる。
【0037】
このように、単位グリッド16aのサイズは、車両用周囲監視装置5に許容される計測誤差と、使用するハードウエアの仕様とを考慮して決定する。
【0038】
図5Bは、車両10が出発時に、物標20を検知することが困難な単位グリッド16bの領域を示す。これらの単位グリッド16bは、
図4Aに示したグリッド15において、車両用周囲監視装置5が、車両10の出発時に、測距センサ12aによる三点測定を行うのが困難な領域を示す。測距センサ12aの測距範囲の外側のグリッド15が、出発時に物標20の検知が困難な単位グリッド16bに相当する。
【0039】
車両10の出発時に物標20の検知が困難なグリッド(
図5Dにおける単位グリッド16a)の位置に、駐車時に物標20b(星印)を検知した場合に、出発時における、車両10と物標20bとの間のクリアランス距離について、
図5C、
図5Dを用いて説明する。
【0040】
図5Cでは、測距センサ12aが、車両の先頭右側の単位グリッド16aに、駐車時に物標20bを検知している。このグリッド内での物標20bの位置は、左上に位置する。このため、車両用周囲監視装置5は、
図5Dに示すように、物標20bの位置を、物標20aの位置に再標本化する。
【0041】
ここで、車両用周囲監視装置5は、車両10が出発し、物標20bに対して測距センサ12aにより三点測定が実施されていなくても、物標20bに対して、
図5Dに示す車両10aの位置で緊急自動ブレーキを動作させたい。
【0042】
このとき、車両用周囲監視装置5は、物標までの距離の計測誤差が5cmであるため、物標20bとの実際のクリアランス距離Cbが少なくとも5cm以上の位置において、緊急自動ブレーキを動作させるように制御する。
【0043】
車両用周囲監視装置5は、計測誤差5cm、グリッドサイズEが14cmである場合、最大誤差Fは10cmであるため、車両10に対して緊急自動ブレーキを作動させる条件として、物標20aまでのクリアランス距離Caを15cmと設定することで、車両10aの位置、例えば、物標20bに対する実際のクリアランス距離Cbが、計測誤差5cmと同じ距離になる位置において、車両10の緊急自動ブレーキの制御が可能となる。
【0044】
なお、車両用周囲監視装置5は、クリアランス距離Caに応じて、グリッドサイズEを決定してもよい。なお、クリアランス距離Ca,Cbは、車両10が、
図5Dにおける車両10aの位置にある場合の、当該車両10aの側面に垂直な方向における、測距センサ12aと物標との距離である。
【0045】
(記憶した物標の位置情報の有効性の判断)
図6を用いて、車両用周囲監視装置5が記憶した物標の位置情報の有効性について説明する。
【0046】
実施の形態の車両用周囲監視装置5が実装された車両10の電源スイッチを切断した後で、再度電源スイッチを投入した場合を想定する。このとき、電源スイッチの投入前後で、車両10の周辺の障害物の配置に変化がない場合、電源スイッチ切断時に記憶した物標20aの位置情報を用いて、電源スイッチが投入された際の車両10の制御(緊急自動ブレーキ、自動出庫、障害物報知等)を行うことができる。しかし、電源スイッチ切断時の障害物の配置と、電源スイッチ投入時の障害物の配置とが異なる場合も発生する。例えば、駐車した際には存在した隣接車両が、出庫時にはなくなっているような場合である。
【0047】
実施の形態の車両用周囲監視装置5は、このように、電源スイッチ切断時と電源スイッチ投入時とで、自車両の周囲の測距情報が異なっている場合に、電源スイッチ切断時に記憶した物標20aの位置情報を無効にする機能を備える。
【0048】
図6は、電源スイッチ切断時と電源スイッチ投入時とにおいて発生する、車両10の周囲の物標20aの位置情報の変化状態を一望したものである。
【0049】
なお、電源スイッチ投入時には、車両10は静止しているため、
図3で説明したように、物標の3次元位置を特定することは困難である。したがって、
図6に示す電源スイッチ投入時の測距センサの出力は、単に、測距センサの測距範囲内に物標が存在するか否かを示す。
【0050】
図6に示すパターン1は、車両10の側方に設置された2つの測距センサの出力が、ともに、電源スイッチ切断時(OFF時)と電源スイッチ投入時(ON時)とで変化しない場合を示している。このようなパターンは、例えば、パターン例1に示すように、電源OFF時に自車の隣に駐車していた車両が、電源ON時にもそのまま駐車している場合である。このような場合、車両用周囲監視装置5は、電源OFF時に記憶した物標20aの位置情報を有効なものとして、電源ON時に使用する。また、パターン例2は、2つの測距センサの測距範囲には障害物が存在しないが、2つの測距センサの測距範囲外に、ポールのような障害物が存在する場合を示す。このような場合には、電源スイッチOFF時と電源スイッチON時とで、測距センサの出力自体は変化しないが、2つの測距センサの測距範囲外に障害物が検出されているため、車両用周囲監視装置5は、電源OFF時に記憶した物標20aの位置情報を有効なものとして、電源ON時に使用する。
【0051】
図6に示すパターン2は、車両10の側方に設置された2つの測距センサの出力のうち、リア側の測距センサの出力が、電源スイッチ切断時(OFF時)と電源スイッチ投入時(ON時)とで変化した場合を示している。このようなパターンは、例えば、パターン例1に示すように、電源OFF時に自車の隣に駐車していた車両が、電源ON時に、全長が短い別の車両に変化した場合である。このような場合、車両用周囲監視装置5は、アプリケーションの内容に応じて、電源OFF時に記憶した物標20aの位置情報を有効にするか、無効にするかを判断する。具体的には、車両10が緊急自動ブレーキ機能を備える場合には、電源OFF時に記憶した物標20aの位置情報を無効にして、電源ON時に取得した測距情報、および、車両10が動き出してから計測された測距情報に基づいて、アプリケーションを動作させるのが望ましい。一方、車両10が、自ら自律的に走行して、駐車場から車両を出庫させる自動出庫機能を備える場合には、最悪の場合を想定して、電源OFF時に記憶した物標20aの位置情報を有効にして、自動出庫機能の動作を開始させるのが望ましい。
【0052】
また、パターン例2は、電源OFF時に、2つの測距センサの測距範囲には障害物が存在せず、2つの測距センサの測距範囲外に障害物が検出されて、電源ON時に、2つの測距センサの測距範囲外に障害物がなくなって、リア側の測距センサが障害物を検出した場合である。このような場合も、車両用周囲監視装置5は、アプリケーションの内容に応じて、電源OFF時に記憶した物標20aの位置情報を有効にするか、無効にするかを判断する。具体的には、車両10が緊急自動ブレーキ機能を備える場合には、電源OFF時に記憶した物標20aの位置情報を無効にして、電源ON時に取得した測距情報、および、車両10が動き出してから計測された測距情報に基づいて、アプリケーションを動作させるのが望ましい。一方、車両10が、自動出庫機能を備える場合には、最悪の場合を想定して、電源OFF時に記憶した物標20aの位置情報を有効にして、自動出庫機能の動作を開始させるのが望ましい。
【0053】
図6に示すパターン3は、車両10の側方に設置された2つの測距センサの出力のうち、フロント側の測距センサの出力が、電源スイッチ切断時(OFF時)と電源スイッチ投入時(ON時)とで変化した場合を示している。このときも、前述したパターン2と同様に、車両用周囲監視装置5が動作させるアプリケーションの内容に応じて、電源OFF時に記憶した物標20aの位置情報を有効にするか、無効にするかを判断すればよい。
【0054】
図6に示すパターン4は、車両10の側方に設置された2つの測距センサの出力が、ともに、電源スイッチ切断時(OFF時)と電源スイッチ投入時(ON時)とで変化した場合を示している。例えば、パターン例1に示すように、電源OFF時に自車の隣に駐車していた車両が、電源ON時には出庫している場合である。このような場合、車両用周囲監視装置5は、電源OFF時に記憶した物標20aの位置情報を無効なものとして、電源ON時に検知した情報に基づいて、アプリケーションの動作を開始させる。また、パターン例2は、電源OFF時には、2つの測距センサの測距範囲には障害物が存在せず、2つの測距センサの測距範囲外に、ポールのような障害物が存在している場合であって、電源ON時には、2つの測距センサが、ともに障害物を検知した場合である。このような場合、車両用周囲監視装置5は、電源OFF時に記憶した物標20aの位置情報を無効なものとして、電源ON時に検知した情報に基づいて、アプリケーションの動作を開始させる。
【0055】
なお、車両用周囲監視装置5は、最悪の場合を想定して、電源スイッチ切断時に検知された障害物は、電源スイッチ投入時にも引き続き存在しているものとして、前記したアプリケーションを動作させてもよい。車両10が動き出すと、
図3で説明した方法で測距が行われるため、実際には障害物が存在しないことが分かった時点で、電源スイッチ切断時に記憶した物標20aの位置情報は破棄されて、新しい情報に更新される。
【0056】
(車両用周囲監視装置のハードウエア構成)
図7を用いて、実施の形態の車両用周囲監視装置5のハードウエア構成を説明する。
【0057】
車両用周囲監視装置5は、測距センサ12、ECU31、不揮発メモリ36、および、揮発メモリ37を含む構成である。
【0058】
車両用周囲監視装置5は、当該車両用周囲監視装置5の各部を制御するためのECU31を備える。ECU31は、非図示のCPU(Central Prоcessing Unit)を備える。
【0059】
ECU31には、測距センサ12と、入力デバイスとしての電源スイッチ32と、車速センサ33と、操舵角センサ34と、シフトポジションセンサ35等の各種センサが接続される。
【0060】
測距センサ12は、車両10の周囲に設置される、前述した複数の測距センサ12a,12b,…である。実施の形態において、測距センサ12は、車両10の側方に設置されるものとして説明するが、測距センサ12は、車両10の前方や後方に設置されてもよい。また、ここでは、測距センサ12は超音波センサであるとして説明するが、測距センサ12は、例えばミリ波レーダであってもよい。なお、測距センサ12は、本開示における測距装置の一例である。
【0061】
電源スイッチ32は、車両10の駆動源の動作を可能とするスイッチである。電源スイッチ32は、例えば、非電動車両におけるイグニッションスイッチであり、電動車両におけるパワースイッチである。
【0062】
車速センサ33は、車両10の車速を検出するセンサである。
【0063】
操舵角センサ34は、車両10の操舵角を検出するセンサである。
【0064】
シフトポジションセンサ35は、車両10のシフトポジションを検出するセンサである。
【0065】
また、ECU31には、記憶装置として、不揮発メモリ36と、揮発メモリ37とが接続される。
【0066】
不揮発メモリ36は、電源を切断しても記憶情報が保持される記憶装置である。不揮発メモリ36は、例えば、ROMやフラッシュメモリ等である。不揮発メモリ36は、車両用周囲監視装置5が利用する各種パラメータや制御プログラムを記憶する。また、不揮発メモリ36は、車両10の電源スイッチ32が切断された際に、測距センサ12の測距結果を記憶する。なお、不揮発メモリ36は、本開示における記憶装置の一例である。
【0067】
揮発メモリ37は、電源を切断すると記憶情報が消去される記憶装置である。揮発メモリ37は、例えばDRAMやSRAM等である。揮発メモリ37は、ECU31が各種処理を行う際に、ワークメモリとして使用される。例えば、揮発メモリ37は、ECU31の主記憶領域を形成する。
【0068】
更に、ECU31には、出力デバイスとして、ブレーキアクチュエータ38と、表示デバイス39と、スピーカ40とが接続される。
【0069】
ブレーキアクチュエータ38は、車両10のブレーキを制御するアクチュエータである。
【0070】
表示デバイス39は、車両10の運転者に対して、車両用周囲監視装置5に係る各種視覚情報を表示する、液晶パネルやELパネル等のデバイスである。
【0071】
スピーカ40は、車両10の運転者に対して、車両用周囲監視装置5に係る各種聴覚情報を表示する。
【0072】
(車両用周囲監視装置の機能構成)
図8を用いて、実施の形態の車両用周囲監視装置5の機能構成を説明する。
【0073】
車両用周囲監視装置5のECU31は、
図8に示す車両状態検出部41と、測距部42と、座標生成部43と、有効性判断部44と、情報圧縮部45と、情報読出部46と、情報書込部47と、座標情報更新部48と、接触判定部49とを機能部として実現する。
【0074】
車両状態検出部41は、電源スイッチ32の状態を取得することによって、車両10の電源の状態を検出する。なお、車両状態検出部41は、本開示における車両状態検出回路の一例である。
【0075】
測距部42は、測距センサ12の出力と、車速センサ33と操舵角センサ34の出力に基づく車両10の移動情報とから、車両10の周囲の障害物の座標を計測する。より具体的には、測距部42は、測距センサ12が送信波を出力した第1の時刻と、第1の時刻における車両10の位置と、測距センサ12が送信波の反射波を検出した第2の時刻と、第2の時刻における車両10の位置とに基づいて、車両10の周囲における障害物の位置を特定する。なお、測距部42は、本開示における測距回路の一例である。
【0076】
座標生成部43は、測距部42の測距結果に基づいて、その時点における車両10の周囲の障害物のXY座標系(第1の座標系)における位置情報(X,Y)を生成する。また、座標生成部43は、生成した位置情報(X,Y)を揮発メモリ37に記憶する。
【0077】
有効性判断部44は、車両状態検出部41が、車両10の電源の投入を検出した際に、情報読出部46が読み出した障害物の座標を有効にするか無効にするかを判断する。より具体的には、有効性判断部44は、車両状態検出部41が、車両10の電源の投入を検出した際に、情報読出部46が読み出した障害物の位置情報(Xa,Ya)と、その時点における測距センサ12の計測結果とに基づいて、障害物の位置情報(Xa,Ya)を有効にするか無効にするかを判断する。なお、有効性判断部44は、本開示における有効性判断回路の一例である。
【0078】
情報圧縮部45は、車両10の電源の切断の予兆を示すトリガ情報を検出した際に、揮発メモリ37から読み出したXY座標系(第1の座標系)における物標20の位置情報(X,Y)を、XaYa座標系(第2の座標系)における物標20aの位置情報(Xa,Ya)に変換する。なお、車両10の電源の切断の予兆を示すトリガ情報とは、当該トリガ情報が発生した際には、それに続いて、車両10の電源が切断される可能性が高いことを示す情報である。具体的には、「車両10のシフトポジションがPレンジ(パーキングレンジ)に入ったこと」が、トリガ情報の一例である。なお、車両10のサイドブレーキが作動したことをトリガ情報としてもよいし、シフトポジションがPレンジに入って、尚且つサイドブレーキが作動したことを、トリガ情報としてもよい。なお、情報圧縮部45は、本開示における情報圧縮回路の一例である。
【0079】
情報読出部46は、車両状態検出部41が、車両10の電源の投入を検出した際に、情報書込部47が書き込んだXaYa座標系(第2の座標系)における物標20aの位置情報(Xa,Ya)を、不揮発メモリ36(記憶装置)から読み出す。なお、情報読出部46は、本開示における情報読出回路の一例である。
【0080】
情報書込部47は、車両状態検出部41が、車両10の電源の切断を検出した際に、XY座標系(第1の座標系)よりも分解能が低いXaYa座標系(第2の座標系)における障害物の位置情報(Xa,Ya)を、不揮発メモリ36(記憶装置)に書き込む。なお、情報書込部47は、本開示における情報書込回路の一例である。
【0081】
座標情報更新部48は、過去の障害物の位置情報(X,Y)に、その時点で計測された障害物の位置情報(X,Y)を上書きすることによって、障害物の位置情報(X,Y)を更新する。
【0082】
接触判定部49は、情報読出部46が読み出した障害物の座標を用いて、車両10と障害物とが接触する恐れがあるかを判定する。また、接触判定部49は、判定結果に基づいてブレーキアクチュエータ38を制御することによって、車両10を停止させる。また、接触判定部49は、判定結果を表示デバイス39やスピーカ40を介して、車両10の運転者に伝達する。なお、接触判定部49は、本開示における接触判定回路の一例である。
【0083】
(車両用周囲監視装置が行う位置情報の書込処理の流れ)
図9を用いて、車両用周囲監視装置5が行う位置情報の書込処理の流れを説明する。
【0084】
情報圧縮部45は、シフトポジションセンサ35の出力を取得して、車両10のシフトポジションがPレンジであるかを判定する(ステップS11)。シフトポジションがPレンジであると判定される(ステップS11:Yes)とステップS12に進む。一方、シフトポジションがPレンジであると判定されない(ステップS11:No)と、ステップS11を繰り返す。
【0085】
ステップS11において、シフトポジションがPレンジであると判定されると、情報圧縮部45は、揮発メモリ37から、測距部42および座標生成部43が生成した、その時点における測距情報(障害物の位置情報(X,Y))を取得する(ステップS12)。
【0086】
次に、情報圧縮部45は、ステップS12で取得した障害物の位置情報(X,Y)を、グリッド15における位置情報(Xa,Ya)に変換することによって、車両10の電源スイッチが切断された際に記憶する記憶情報を生成する(ステップS13)。
【0087】
続いて、情報圧縮部45は、ステップS13で生成した記憶情報を、揮発メモリ37が形成する主記憶領域に一時的に記憶する(ステップS14)。なお、ステップS11からステップS14までが、圧縮された位置情報(Xa,Ya)を不揮発メモリ36に記憶するための準備段階である。
【0088】
車両状態検出部41は、車両10の電源スイッチ32が切断されたかを判定する(ステップS15)。車両10の電源スイッチ32が切断されたと判定される(ステップS15:Yes)とステップS16に進む。一方、車両10の電源スイッチ32が切断されたと判定されない(ステップS15:No)と判定されると、ステップS15を繰り返す。
【0089】
ステップS15において、車両10の電源スイッチ32が切断されたと判定されると、情報書込部47は、ステップS13で生成された位置情報(Xa,Ya)を、不揮発メモリ36に書き込む(ステップS16)。
【0090】
その後、車両10の電源スイッチ32が切断されてから所定の時間が経過すると、ECU31の電源が切断される(ステップS17)。その後、車両用周囲監視装置5は、
図9の処理を終了する。なお、ステップS15からステップS17までが、圧縮された位置情報(Xa,Ya)を不揮発メモリ36に書き込む段階である。
【0091】
(車両用周囲監視装置が行う位置情報の読出処理の流れ)
図10を用いて、車両用周囲監視装置5が行う位置情報の読出処理の流れを説明する。
【0092】
車両10の電源スイッチ32が投入されて、ECU31にリセットがかかると、情報読出部46は、不揮発メモリ36から位置情報(Xa,Ya)を読み出す(ステップS21)。
【0093】
続いて、有効性判断部44は、測距部42が計測した測距情報を取得する(ステップS22)。なお、ここで取得される測距情報は、障害物の正確な位置を示すものではなく、各々の測距センサ12a,12b,…の測距範囲の中に障害物があるか否かを示す情報である。
【0094】
有効性判断部44は、ステップS21で読み出した位置情報(Xa,Ya)と、ステップS22で取得した測距情報とを照らし合わせることによって、位置情報(Xa,Ya)の有効性を判断する(ステップS23)。
【0095】
有効性判断部44は、ステップS23の判断を行うことによって、ステップS21で読み出した位置情報(Xa,Ya)が無効であるかを判定する(ステップS24)。位置情報(Xa,Ya)が無効であると判定される(ステップS24:Yes)とステップS25に進む。一方、位置情報(Xa,Ya)が無効であると判定されない(ステップS24:No)と、車両用周囲監視装置5は、位置情報(Xa,Ya)が有効なものであると判断して、
図10の処理を終了する。その後、車両用周囲監視装置5は、位置情報(Xa,Ya)と、現時点で取得した測距情報とを用いて、車両10と周囲の障害物との接触判定を行う。
【0096】
ステップS24において、位置情報(Xa,Ya)が無効であると判定されると、有効性判断部44は、ステップS21で読み出した位置情報(Xa,Ya)を破棄する(ステップS25)。そして、車両用周囲監視装置5は、
図10の処理を終了する。その後、車両用周囲監視装置5は、現時点で取得した測距情報を用いて、車両10と周囲の障害物との接触判定を行う。
【0097】
(実施の形態の作用効果)
以上説明したように、実施の形態に係る車両用周囲監視装置5は、車両10に搭載されて、当該車両10から周囲の障害物までの距離を監視する車両用周囲監視装置であって、測距センサ12(測距装置)が送信波を出力した第1の時刻と、第1の時刻における車両10の位置と、測距センサ12が、送信波の反射波を検出した第2の時刻と、第2の時刻における車両10の位置とに基づいて、XY座標系(第1の座標系)における障害物の座標を計測する測距部42(測距回路)と、車両10の電源の状態を検出する車両状態検出部41(車両状態検出回路)と、車両状態検出部41が、車両10の電源の切断を検出した際に、XY座標系よりも分解能が低いXaYa座標系(第2の座標系)における障害物の座標を、不揮発メモリ36(記憶装置)に書き込む情報書込部47(情報書込回路)と、車両状態検出部41が、車両10の電源の投入を検出した際に、不揮発メモリ36から、情報書込部47が書き込んだXaYa座標系における障害物の座標を読み出す情報読出部46(情報読出回路)と、情報読出部46が読み出した障害物の座標を用いて、車両10と障害物とが接触する恐れがあるかを判定する接触判定部49(接触判定回路)と、を備える。したがって、車両10の電源スイッチ32を切断した際に、過去に計測された周囲の障害物の位置に係る情報を、少ない記憶容量で記憶することができる。
【0098】
また、実施の形態に係る車両用周囲監視装置5は、車両10の電源の切断の予兆を示すトリガ情報を検出した際に、XY座標系(第1の座標系)における障害物の座標を、XaYa座標系(第2の座標系)における障害物の座標に変換する情報圧縮部45(情報圧縮回路)を、更に備える。したがって、電源スイッチ32の切断に先立って、圧縮された障害物の座標を生成することができる。
【0099】
また、実施の形態に係る車両用周囲監視装置5において、XaYa座標系(第2の座標系)は、XY座標系(第1の座標系)に重畳させて設定したグリッド15であって、XY座標系における障害物の座標が属するグリッド15の位置を、XaYa座標系における障害物の座標とする。したがって、簡単な演算で、障害物の座標のデータ量を圧縮することができる。
【0100】
また、実施の形態に係る車両用周囲監視装置5は、車両状態検出部41が、車両10の電源の投入を検出した際に、情報読出部46が読み出した障害物の座標を有効にするか無効にするかを判断する有効性判断部44を更に備える。したがって、車両10の電源スイッチ32を切断したときと、電源スイッチ32を投入したときとで、車両10の周囲の障害物の状態が変化している場合であっても、即座に周囲の障害物との正確な接触判定を行うことができる。
【0101】
また、実施の形態に係る車両用周囲監視装置5において、有効性判断部44は、車両状態検出部41が、車両10の電源の投入を検出した際に、情報読出部46が読み出した障害物の座標と、測距センサ12(測距装置)の計測結果とに基づいて、情報読出部46が読み出した障害物の座標を有効にするか無効にするかを判断する。したがって、車両10の電源スイッチ32を切断したときと、電源スイッチ32を投入したときとで、車両10の周囲の障害物の状態が変化している場合であっても、即座に周囲の障害物との正確な接触判定を行うことができる。
【0102】
(実施の形態の変形例)
以下、
図11Aと
図11Bを用いて、本開示に係る車両用周囲監視装置5の変形例について説明する。前述した実施の形態において、車両用周囲監視装置5は、車両10の周囲に均一なサイズのグリッドを設定したが、ここで説明する車両用周囲監視装置5は、車両10の周囲に設定するグリッドのサイズを、場所に応じて変更する。
【0103】
図11Aは、測距センサ12aの測距範囲13aの内部、および測距センサ12bの測距範囲13bの内部において、それ以外の場所で設定する単位グリッド16aよりも分解能が低い、例えば、より広いサイズの単位グリッド16bを設定した例である。
【0104】
単位グリッド16aのサイズは、前述した通り、許容される計測誤差を超えないサイズとされる。一方、単位グリッド16bのサイズは、前述した、許容される計測誤差を超えても構わない。これは、測距範囲13a、13bの内部では、車両10が移動を開始すると、物標の位置情報(X,Y)が高い精度で計測されて、単位グリッド16bが示す位置情報(Xa,Ya)が、より精度が高い位置情報(X,Y)に更新されるためである。
【0105】
なお、グリッドサイズの設定は、前述した情報圧縮部45(
図8参照)が行う。このように、単位グリッド16aよりも広いサイズの単位グリッド16bを設定することによって、車両用周囲監視装置5が記憶する情報量を更に低減させることができる。
【0106】
図11Bは、測距センサ12aの測距範囲13aの外部、および測距センサ12bの測距範囲13bの外部に対して、それ以外の場所で設定する単位グリッド16aよりも分解能が高い、例えば、より狭いサイズの単位グリッド16cを設定した例である。
【0107】
このような単位グリッド16cを設定することによって、測距範囲13a,13bの外部における物標20aの位置情報(Xa,Ya)を、より高い精度で記憶することができる。なお、単位グリッド16cを設定することによって、均一な単位グリッド16aを設定した場合と比べて、記憶する情報量が増加するため、単位グリッド16cのサイズは、車両10の電源スイッチ32を切断した際に、位置情報(Xa,Ya)の記憶動作が間に合うように設定される。
【0108】
なお、図示はしないが、
図11Aと
図11Bとを組み合わせて、測距範囲13a、13bの内部には広い単位グリッド16bを設定して、測距範囲13a、13bの内部には狭い単位グリッド16cを設定する構成であってもよい。
【0109】
(実施の形態の変形例の作用効果)
以上説明したように、実施の形態の変形例に係る車両用周囲監視装置5において、グリッド15のサイズは、車両10の近傍における、車両10が停止した際の測距センサ12(測距装置)の測距範囲の外部において、より小さく設定される。このため、車両10の電源スイッチ32を投入した際に、測距センサ12の測距範囲外となる領域における物標20aの位置情報をより高い分解能で記憶することができる。
【0110】
また、実施の形態の変形例に係る車両用周囲監視装置5において、グリッド15のサイズは、車両10が停止した際の測距センサ12(測距装置)の測距範囲の内部において、より大きく設定される。したがって、車両10の電源スイッチ32を投入した際に、測距センサ12の測距範囲内となる領域における物標20aの位置情報をより低い分解能で記憶することによって、記憶容量を更に低減させることができる。
【0111】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上述した実施の形態は、例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能である。また、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。また、この実施の形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0112】
上述の実施の形態においては、各構成要素に用いる「・・・部」という表記は、「・・・回路(Circuitry)」、「・・・アッセンブリ」、「・・・デバイス」、「・・・ユニット」、または、「・・・モジュール」といった他の表記に置換されてもよい。
【0113】
以上、図面を参照しながら実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかである。そのような変更例または修正例についても、本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、実施の形態における各構成要素は任意に組み合わされてよい。
【0114】
本開示はソフトウエア、ハードウエア、または、ハードウエアと連携したソフトウエアで実現することが可能である。上記実施の形態の説明に用いた各機能ブロックは、部分的にまたは全体的に、集積回路であるLSIとして実現され、上記実施の形態で説明した各プロセスは、部分的にまたは全体的に、一つのLSIまたはLSIの組み合わせによって制御されてもよい。LSIは個々のチップから構成されてもよいし、機能ブロックの一部または全てを含むように一つのチップから構成されてもよい。LSIはデータの入力と出力を備えてもよい。LSIは、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
【0115】
集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路、汎用プロセッサーまたは専用プロセッサーで実現してもよい。また、LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Prоgrammable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサーを利用してもよい。本開示は、デジタル処理またはアナログ処理として実現されてもよい。
【0116】
さらには、半導体技術の進歩または派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。バイオ技術の適用等が可能性としてありえる。
【符号の説明】
【0117】
5 車両用周囲監視装置
10,10a 車両
12,12a,12b 測距センサ(測距装置)
13a,13b 測距範囲
15 グリッド
16a,16b,16c 単位グリッド
20,20a 物標
32 電源スイッチ
36 不揮発メモリ(記憶装置)
37 揮発メモリ
41 車両状態検出部(車両状態検出回路)
42 測距部(測距回路)
43 座標生成部
44 有効性判断部(有効性判断回路)
45 情報圧縮部(情報圧縮回路)
46 情報読出部(情報読出回路)
47 情報書込部(情報書込回路)
48 座標情報更新部
49 接触判定部(接触判定回路)