(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104490
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】抗ウイルス材料
(51)【国際特許分類】
A01N 59/16 20060101AFI20240729BHJP
C01G 9/02 20060101ALI20240729BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
A01N59/16 Z
C01G9/02 A
A01P1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008720
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】石川 桃子
(72)【発明者】
【氏名】芦田 拓郎
【テーマコード(参考)】
4G047
4H011
【Fターム(参考)】
4G047AA04
4G047AB01
4G047AC03
4G047AD03
4H011AA04
4H011BB18
(57)【要約】
【課題】抗菌、抗ウイルス効果の少なくとも一方において従来の酸化亜鉛よりも高い活性を有する酸化亜鉛を提供する。
【解決手段】酸化亜鉛を含む抗ウイルス材料であって、該酸化亜鉛は、一部の酸素が欠損し、マグネシウムが酸化亜鉛格子内に存在する酸化亜鉛を含むことを特徴とする抗ウイルス材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛を含む抗ウイルス材料であって、
該酸化亜鉛は、一部の酸素が欠損し、マグネシウムが酸化亜鉛格子内に存在する酸化亜鉛を含む
ことを特徴とする抗ウイルス材料。
【請求項2】
前記酸化亜鉛は、平均粒子径が0.5~10μmであることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス材料。
【請求項3】
前記酸化亜鉛は、比表面積が0.5m2/g以上であることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の抗ウイルス材料を含むことを特徴とする抗ウイルス剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、清潔志向の高まりや、ウイルス等への感染防止等の観点から抗菌、抗ウイルス効果を有する材料への関心が高まっており、研究開発も活発に行われている。
従来より抗菌、抗ウイルス効果を有することが知られている材料として酸化亜鉛があり、所定の平均粒子径の一次粒子が面状に集合したものであって、光の透過率についての所定の条件を満たす酸化亜鉛又はその凝集体を有効成分とする抗菌防黴剤(特許文献1参照)や、基粉体と、酸化亜鉛及び/又は塩基性炭酸亜鉛と、アルカリ金属塩とが複合化された抗菌防カビ効果を有する複合粉体(特許文献2参照)等が開示されている。また酸化亜鉛以外の無機抗菌/ウイルス材料として銀、酸化チタンが知られており、所定の粒子径の金属銀微粒子を含有する無機粉体である抗菌剤(特許文献3参照)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-281518号公報
【特許文献2】国際公開第03/082229号
【特許文献3】特開平10-120518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおり、抗菌、抗ウイルス効果を有することが知られている材料として酸化亜鉛、酸化チタン、及び、銀が知られているが、銀系材料は少量で効果が有るものの、pHなどの環境雰囲気により黒色などに変色しやすいという欠点がある。また酸化チタンは紫外線などを照射して発生したラジカルで効果を出しているため、暗所においてはその性能が著しく劣るという欠点がある。一方、酸化亜鉛は極端に高いまたは低いpH領域では溶解する欠点があるものの、変色の問題は起こらず、暗所でも活性が維持されるという点で酸化チタンや銀よりも優れている。しかし従来の酸化亜鉛の抗菌、抗ウイルス効果が十分に高いとはいえず、抗菌、抗ウイルス効果の少なくとも一方において従来のものよりも高い活性を有する酸化亜鉛が望まれていた。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、抗菌、抗ウイルス効果の少なくとも一方において従来の酸化亜鉛よりも高い活性を有する酸化亜鉛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、抗菌、抗ウイルス効果の少なくとも一方において従来の酸化亜鉛よりも優れる酸化亜鉛について検討し、一部の酸素が欠損し、マグネシウムが酸化亜鉛格子内に存在する酸化亜鉛が、従来の酸化亜鉛に比べて高い抗ウイルス活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1]酸化亜鉛を含む抗ウイルス材料であって、
該酸化亜鉛は、一部の酸素が欠損し、マグネシウムが酸化亜鉛格子内に存在する酸化亜鉛を含むことを特徴とする抗ウイルス材料。
【0008】
[2]前記酸化亜鉛は、平均粒子径が0.5~10μmであることを特徴とする[1]に記載の抗ウイルス材料。
【0009】
[3]前記酸化亜鉛は、比表面積が0.5m2/g以上であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の抗ウイルス材料。
【0010】
[4][1]~[3]のいずれかに記載の抗ウイルス材料を含むことを特徴とする抗ウイルス剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗ウイルス材料は、変色の問題がなく、暗所でも活性が維持される酸化亜鉛を用い、高い抗ウイルス活性を有する有用な材料である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0013】
1.抗ウイルス材料
本発明の抗ウイルス材料は、一部の酸素が欠損し、マグネシウムが酸化亜鉛格子内に存在する酸化亜鉛(以下、マグネシウム固溶還元型酸化亜鉛とも記載する)を含む。一部の酸素が欠損している酸化亜鉛はZn1+zO又はZnO1-xの平均組成式(0<z、0<x<1)で表されると考えられる。
一部の酸素が欠損した酸化亜鉛を含むことで、欠損のない酸化亜鉛に比べて高い抗ウイルス性を発揮する材料となり、マグネシウムが酸化亜鉛格子内に存在することで更に高いウイルス性を発揮する材料となる。
本発明の抗ウイルス材料は、マグネシウム固溶還元型酸化亜鉛の他、不可避成分として、酸素欠損のない酸化亜鉛や、マグネシウムが酸化亜鉛格子内に存在しない酸化亜鉛を含んでいてもよい。
本発明の抗ウイルス材料に含まれる酸化亜鉛の一部の酸素が欠損していること及びマグネシウムが酸化亜鉛格子内に存在していることは、後述の実施例に記載の方法で確認することができる。
【0014】
本発明の抗ウイルス材料が含む酸化亜鉛は、酸化亜鉛中の亜鉛元素100モル%に対してマグネシウム元素を1~75モル%有するものであることが好ましい。このような割合でマグネシウムを有するものであると、酸化亜鉛がより優れた抗ウイルス性を発揮するものとなる。より好ましくは、酸化亜鉛中の亜鉛元素100モル%に対してマグネシウム元素を5~70モル%有するものであり、更に好ましくは、酸化亜鉛中の亜鉛元素100モル%に対してマグネシウム元素を10~60モル%有するものである。
【0015】
本発明の抗ウイルス材料が含む酸化亜鉛は、平均粒子径が0.5~10μmであることが好ましい。このような平均粒子径であると、酸化亜鉛がより高い抗ウイルス活性を発揮するものとなる。酸化亜鉛の平均粒子径は、より好ましくは、1~8μmであり、更に好ましくは、2~7μmである。
なお、ここでいう平均粒子径とは、粒度分布測定装置で測定したメディアン径のことである。
酸化亜鉛の平均粒子径は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0016】
上記抗ウイルス材料が含む酸化亜鉛は、比表面積が0.5m2/g以上であることが好ましい。このような比表面積であると、酸化亜鉛がより高い抗ウイルス活性を発揮するものとなる。酸化亜鉛の比表面積は、より好ましくは、0.5~25m2/gであり、更に好ましくは、0.6~20m2/gである。
酸化亜鉛の比表面積は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0017】
2.マグネシウム固溶還元型酸化亜鉛の製造方法
本発明の抗ウイルス材料が含むマグネシウム固溶還元型酸化亜鉛を製造する方法は特に制限されないが、例えば、酸化亜鉛とマグネシウム原料と還元促進剤とを含む原料を還元雰囲気で焼成する工程を含む方法を用いることができる。
【0018】
上記マグネシウム原料としては、マグネシウムの単体又は化合物を用いることができる。マグネシウム化合物としては、例えば、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0019】
上記マグネシウム原料の使用量は、原料が含む酸化亜鉛100モル%に対して、マグネシウム原料に含まれるマグネシウム元素が1~75モル%となる割合であることが好ましい。マグネシウム原料をこのような割合で使用することで、酸化亜鉛の抗ウイルス性を阻害することなく、酸化亜鉛に十分な量のマグネシウムを固溶することができる。マグネシウム原料の使用量は、より好ましくは、原料が含む酸化亜鉛100モル%に対して、5~70モル%であり、更に好ましくは、10~60モル%である。
【0020】
上記還元促進剤としては、硫黄、硫化亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0021】
上記還元促進剤の使用量は、酸化亜鉛が十分に還元される限り特に制限されないが、原料が含む酸化亜鉛100質量%に対して、0.01~10質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.015~3質量%であり、更に好ましくは、0.02~2質量%である。
【0022】
上記原料は、更にフラックス剤を含んでいてもよい。フラックス剤を含むことで粒子径の均一なマグネシウム固溶還元型酸化亜鉛を得ることができる。
フラックス剤としては特に限定されず、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化アンモニウム、臭化カルシウム、臭化アンモニウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
上記フラックス剤を使用する場合、その使用量は適宜設定すればよく特に限定されないが、例えば、原料が含む酸化亜鉛100モル%に対し、0~20モル%であることが好ましい。より好ましくは、0.02~10モル%であり、更に好ましくは、0.03~5モル%である。
【0024】
上記マグネシウム原料、還元促進剤やフラックス剤を酸化亜鉛と混合する方法は特に制限されず、乾式混合であっても、湿式混合であってもよいが、焼成工程を容易にする観点から、乾式混合であることが好ましい。乾式混合では、ボールミルやブレンダー等を使用してもよい。
【0025】
上記還元雰囲気としては、例えば、水素と窒素との混合ガス雰囲気、一酸化炭素と窒素との混合ガス雰囲気等が挙げられる。中でも、安全性やコスト面から、水素と窒素との混合ガス雰囲気が好ましく、この場合、酸化亜鉛の還元を進めることと、マグネシウムの固溶を進めることとを考慮すると、混合ガス中の水素の割合を0.1~20体積%とすることが好ましい。より好ましくは1~10体積%であり、更に好ましくは、3~7体積%である。混合ガス中の水素の割合は、得られる酸化亜鉛の酸素欠損量、マグネシウムの固溶量にも影響し、混合ガス中の水素の割合が少ないと、酸素欠損量が少なくなり、マグネシウムの固溶量も少なくなる。一方で混合ガス中の水素の割合が多くなると、酸素欠損量が多くなり、亜鉛金属の割合が高い酸化亜鉛となる傾向にあるため、所望の酸素欠損量の酸化亜鉛が得られるよう、還元雰囲気のガスは適宜調整して用いることが好ましい。
【0026】
上記酸化亜鉛とマグネシウム原料と還元促進剤とを含む原料を還元雰囲気で焼成する際の焼成温度は、500~1000℃であることが好ましい。このような焼成温度で焼成することで、酸化亜鉛を十分に還元することができ、またマグネシウムを酸化亜鉛中に十分に固溶することができる。還元雰囲気で焼成する際の焼成温度は、より好ましくは、600~950℃であり、更に好ましくは、700~900℃である。焼成温度が低くなると酸化亜鉛の酸素欠損量が少なくなる傾向にあり、且つ酸化亜鉛格子内へのMgの固溶が進まない傾向にあるため、焼成は所望の酸素欠損量の酸化亜鉛が得られるよう、温度を適宜調整して行われることが好ましい。
また、還元雰囲気で焼成する際の焼成時間は、0.5~12時間であることが好ましい。このような焼成時間とすることで、酸化亜鉛を十分に還元することができ、またマグネシウムを酸化亜鉛中に十分に固溶することができる。還元雰囲気で焼成する際の焼成時間は、より好ましくは、1~10時間であり、更に好ましくは、1.5~8時間である。焼成時間は得られる酸化亜鉛の酸素欠損量やマグネシウムの固溶量にも影響し、時間が長くなると、酸素欠損量が多くなり、亜鉛金属の割合が高い酸化亜鉛となる傾向にあるため、焼成は所望の酸素欠損量の酸化亜鉛が得られるよう、時間を適宜調整して行われることが好ましい。
【0027】
上記マグネシウム固溶還元型酸化亜鉛を製造する方法は、還元雰囲気で焼成した後の酸化亜鉛を更に大気雰囲気下で焼成する工程を含むことが好ましい。このような工程を含むことで、残留している還元促進剤やフラックス剤を除去することができる。
還元雰囲気で焼成した後の酸化亜鉛を更に大気雰囲気下で焼成する際の焼成温度は、500~900℃であることが好ましい。焼成温度が500℃未満であると還元促進剤やフラックス剤を十分に除去できないおそれがあり、焼成温度が900℃より高いと、還元型酸化亜鉛が酸化されてしまい、還元度が低下するおそれがある。大気雰囲気下での焼成温度は、より好ましくは、550~850℃であり、更に好ましくは、600~800℃である。
また、還元雰囲気で焼成した後の酸化亜鉛を更に大気雰囲気下で焼成する際の焼成時間は、0.5~12時間であることが好ましい。このような焼成時間とすることで、還元促進剤やフラックス剤を十分に除去することができる。大気雰囲気下で焼成する際の焼成時間は、より好ましくは、1~8時間であり、更に好ましくは、2~5時間である。
【0028】
上記還元型酸化亜鉛を製造する方法は、その他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、焼成した酸化亜鉛を解砕する工程、焼成後の酸化亜鉛の粉体を洗浄する工程、洗浄後の酸化亜鉛の粉体を乾燥する工程、粒子サイズによって分級する工程等が挙げられる。
【0029】
3.抗ウイルス剤
本発明の抗ウイルス材料は例えば、溶媒と混合して、塗布や噴霧が可能な抗ウイルス剤として使用することができる。
溶媒としては、本発明の抗ウイルス材料を分散させることができるものであれば特に制限されず、例えば、水、アルコールやその他の有機溶剤を使用することができるが、アルコールが好ましい。
アルコールは消毒成分として作用するため、溶媒としてアルコールを用いることで本発明の抗ウイルス剤が更に優れた抗ウイルス効果を発揮することができる。
【0030】
上記アルコールとしては特に制限されないが、1atm下、室温程度の温度で揮発するものが好ましく、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコールであることが好ましい。より好ましくは、エタノールである。
【0031】
本発明の抗ウイルス剤が、本発明の抗ウイルス材料を溶媒に分散させたものである場合、抗ウイルス材料の含有量は特に制限されないが、抗ウイルス剤全体の1~20質量%であることが好ましい。より好ましくは、1.5~10質量%であり、更に好ましくは、2~7質量%である。
【0032】
本発明の抗ウイルス剤は、増粘剤を含むものであってもよい。
増粘剤としては、抗ウイルス剤を増粘させることができるものである限り特に制限されないが、ポリアクリル酸系増粘剤、メチルセルロースやヒドロキシアルキルセルロースといったセルロース系増粘剤、ポリビニルアルコール、アルギン酸及びその塩、カラギーナン、キサンタンガム、グアガムからなる群より選択される少なくとも1種類を使用することが好ましく、2種類以上を組み合わせて使用しても良い。
【0033】
本発明の抗ウイルス剤が、増粘剤を含むものである場合、増粘剤の含有量は特に制限されないが、抗ウイルス剤全体の0.2~10質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.5~8質量%であり、更に好ましくは、1~5質量%である。
【0034】
本発明の抗ウイルス剤は、上述した成分以外のその他の成分を含むものであってもよい。その他の成分としては、香料、防腐剤、保湿剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0035】
上記その他の成分の含有量は、抗ウイルス剤全体の2質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、1.5質量%以下であり、更に好ましくは、1質量%以下である。
【0036】
また、本発明の抗ウイルス材料は例えば、樹脂に配合し繊維状とし、抗ウイルス性を有する繊維材料として使用することができる。
樹脂としては特に制限されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ナイロン、アラミド、ビニロン、ビニリデン、アクリル、ポリクラール、ポリ乳酸が挙げられる。
本発明の繊維材料が含む樹脂はこれらのいずれのものであってもよく、またこれらの1種を含むものであっても、2種以上を含むものであってもよい。
【実施例0037】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」及び「wt%」とは「重量%(質量%)」を意味する。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
<平均粒子径D50>
マイクロトラック(レーザー回折・散乱法)により測定し、体積基準粒度分布曲線において、積算値が50%となるときの粒径値を平均粒子径とした。
<比表面積>
(1)以下の条件によりBET比表面積(SSA)の測定を行った。
-測定条件-
使用機:マウンテック社製、Macsorb Model HM-1220
雰囲気:窒素ガス(N2)
外部脱気装置の脱気条件:230℃-30分
比表面積測定装置本体の脱気条件:230℃-5分
<格子体積>
粉末X線回折パターン(単にX線回折パターンともいう)を用いた。測定は、RINT-UltimaIII(リガク社製)を使用し、平行光学系を用い、ステップ幅:0.02°、測定範囲2θ=10~60°の条件で行った。得られた結果を解析ソフト「PDXL2」にて格子体積を得た。
<結晶相>
粉末X線回折パターン(単にX線回折パターンともいう)を用いた。測定は、RINT-UltimaIII(リガク社製)を使用し、平行光学系を用い、ステップ幅:0.02°、測定範囲2θ=10~60°の条件で行った。得られた結果を解析ソフト「PDXL2」にて結晶相を同定した。
【0038】
<マグネシウム固溶型酸化亜鉛の同定方法>
マグネシウムが酸化亜鉛の結晶格子内に存在する場合、得られるX線回折パターンは、亜鉛とマグネシウムの比率に応じて、亜鉛とマグネシウムの化合物の単相又は酸化亜鉛の単相、もしくはこれらが混合した相になると考えられる。更に、マグネシウムのイオン半径が亜鉛よりも小さいことにより、結晶格子内に存在していない酸化亜鉛と比較して、格子体積の値が小さくなると考えられる。以上より、得られたX線回折パターンが亜鉛とマグネシウムの化合物の単相もしくは酸化亜鉛単相もしくはこれらの混合した相であることに加え、格子体積が小さくなることにより、マグネシウムが酸化亜鉛の結晶格子内に存在するかどうかを判断した。
<X線光電子光分析(XPS)>
X線光電子分光分析装置として、PHYSICAL ELECTRONICS社製PHI5700ESCA SYSTEMを用いて、亜鉛2p、酸素1sのスペクトルを測定した。X線源には、単色化AlKα線を用い、測定の条件として、スポットサイズを800μmとした。得られたXPSスペクトルについて、解析ソフトMultiPakを用い、亜鉛と酸素のatomic%を算出した。炭素1sスペクトルにおいて表面汚染炭化水素に帰属されるピークを284.8eVとして帯電補正した。
【0039】
実施例1
酸化亜鉛(堺化学工業社製、微細酸化亜鉛、D50=0.37μm)10g、硫黄(富士フイルム和光純薬株式会社製、化学用)0.0195g、炭酸マグネシウム(神島化学工業社製、GP-30N)11.7g(酸化亜鉛に含まれる亜鉛に対して50モル%)を秤量し、30分間かけて充分に乾式混合を行った。得られた原料混合粉をアルミナ坩堝に全量充填し、5体積%H2/N2雰囲気中で200℃/時にて900℃まで昇温し、そのまま5時間保持した後、200℃/時で降温した。
こうして得られた焼成物を乳鉢で解砕し、アルミナ坩堝に全量充填した後、大気雰囲気にて200℃/時で700℃まで昇温し、そのまま2時間保持後、200℃/時で降温した。その後、得られた粉体を水洗、ろ過した。得られたケーキを130℃の乾燥機で一晩乾燥することにより、マグネシウム固溶還元性酸化亜鉛を得た。この酸化亜鉛粉体のD50は5.2μmであり、比表面積は2.2m2/gであった。また格子体積は47.624Å3であり、結晶相は単相であった。
【0040】
実施例2、5~7
炭酸マグネシウムの使用量を表1のように変更した以外は実施例1と同様にしてマグネシウム固溶還元性酸化亜鉛を製造した。
実施例2、5~7で得られたマグネシウム固溶還元性酸化亜鉛の平均粒子径D50、比表面積、格子体積を測定し、結晶相を確認した。これらの結果を表1に示す。
【0041】
実施例3
酸化亜鉛(堺化学工業社製、微細酸化亜鉛、D50=0.37μm)10g、硫黄(富士フイルム和光純薬株式会社製、化学用)0.0195g、炭酸マグネシウム(神島化学工業社製、GP-30N)11.7g(酸化亜鉛に含まれる亜鉛に対して50モル%)を秤量し、30分間かけて充分に乾式混合を行った。得られた原料混合粉をアルミナ坩堝に全量充填し、5体積%H2/N2雰囲気中で200℃/時にて600℃まで昇温し、そのまま5時間保持した後、200℃/時で降温した。
こうして得られた焼成物を乳鉢で解砕し、アルミナ坩堝に全量充填した後、大気雰囲気にて200℃/時で700℃まで昇温し、そのまま2時間保持後、200℃/時で降温した。その後、得られた粉体を水洗、ろ過した。得られたケーキを130℃の乾燥機で一晩乾燥することにより、マグネシウム固溶還元性酸化亜鉛を得た。この酸化亜鉛粉体のD50は3.6μmであり、比表面積は16.8m2/gあった。また格子体積は47.628Å3であり、結晶相は単相であった。
【0042】
実施例4
炭酸マグネシウムの使用量を表1のように変更した以外は実施例3と同様にしてマグネシウム固溶還元性酸化亜鉛を製造した。
実施例3、4で得られたマグネシウム固溶還元性酸化亜鉛のD50、比表面積、格子体積を測定し、結晶相を確認した。これらの結果を表1に示す。
【0043】
比較例1
炭酸マグネシウムに代えて、酸化亜鉛に対するカルシウム元素のモル割合が50モル%になる量の炭酸カルシウムを使用した以外は実施例1と同様にして還元性酸化亜鉛を得た。得られた還元性酸化亜鉛のD50、比表面積、格子体積を測定し、結晶相を確認した。これらの結果を表1に示す。
【0044】
比較例2
炭酸マグネシウムに代えて、酸化亜鉛に対するナトリウム元素のモル割合が50モル%になる量の炭酸ナトリウムを使用した以外は実施例1と同様にして還元性酸化亜鉛を得た。得られた還元性酸化亜鉛のD50、比表面積、格子体積を測定し、結晶相を確認した。これらの結果を表1に示す。
【0045】
比較例3
炭酸マグネシウムに代えて、酸化亜鉛に対するストロンチウム元素のモル割合が50モル%になる量の炭酸ストロンチウムを使用した以外は実施例1と同様にして還元性酸化亜鉛を得た。得られた還元性酸化亜鉛のD50、比表面積、格子体積を測定し、結晶相を確認した。これらの結果を表1に示す。
【0046】
比較例4
炭酸マグネシウムを使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして一部の酸素が欠損した還元性酸化亜鉛を得た。
得られた還元性酸化亜鉛に対し、亜鉛元素に対するマグネシウム元素のモル割合が50モル%となる量の酸化マグネシウムを添加して乾式混合し、焼成せずに粉体を得た。
得られた粉体のD50、比表面積、格子体積を測定し、結晶相を確認した。これらの結果を表1に示す。
【0047】
比較例5
酸化亜鉛(堺化学工業社製、微細酸化亜鉛、D50=0.37μm)10g、硫黄(富士フイルム和光純薬株式会社製、化学用)0.0195g、炭酸マグネシウム(神島化学工業社製、GP-30N)2.1g(酸化亜鉛に含まれる亜鉛に対して15モル%)を秤量し、30分間かけて充分に乾式混合を行った。得られた原料混合粉をアルミナ坩堝に全量充填し、大気雰囲気中で200℃/時にて900℃まで昇温し、そのまま5時間保持した後、200℃/時で降温した。その後、得られた粉体を水洗、ろ過した。得られたケーキを130℃の乾燥機で一晩乾燥することにより、マグネシウム固溶酸化亜鉛を得た。
得られた粉体のD50、比表面積、格子体積を測定し、結晶相を確認した。これらの結果を表1に示す。
【0048】
比較例6
酸化亜鉛を使用しない酸化マグネシウムのみの粉体についてD50、比表面積、格子体積を測定し、結晶相を確認した。これらの結果を表1に示す。
【0049】
比較例7
炭酸マグネシウムに代えて、酸化亜鉛に対するマグネシウム元素のモル割合が50モル%になる量のフッ化マグネシウムを使用したこと以外は実施例1と同様にして生成物を得た。
得られた生成物は塊になっており、粒子径、比表面積等の分析ができなかった。
【0050】
比較例8
炭酸マグネシウムを使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして一部の酸素が欠損した還元性酸化亜鉛を得た。
得られた還元性酸化亜鉛のD50、比表面積、格子体積を測定し、結晶相を確認した。これらの結果を表1に示す。
【0051】
実施例1~7及び比較例1~8について、X線光電子光分析の亜鉛2pと酸素1sのatomic%面積比より、亜鉛より酸素が少ない組成のものを酸素欠損あり、亜鉛と酸素が等量組成となるものを酸素欠損なしとし、還元の有無を判断した。これらの結果を表1に示す。
【0052】
実施例1~7で製造したマグネシウム固溶還元型酸化亜鉛の粉体、及び、比較例1~6、8で製造した粉体を用いて、以下の方法により抗ウイルス評価した。比較のため、酸化亜鉛を使用しないブランクの場合(比較例9)についても同様の評価を行った。
これらの結果を表1に示す。
<抗ウイルス活性評価方法>
1.粉体0.01gを15mL樹脂製チューブに入れ、1×105PFUのSARS-CoV-2(OMC-510株)を含む5mlのウイルス液(無血清DMEMにて調製)を添加後、チューブの蓋をする。
2.バイアル瓶を室温で1時間振盪インキュベーションする。
3.処理液を感染価測定用試料の原液とする。また算出可能なプラーク数を得るために、原液を無血清のDMEMで10~1,000倍希釈したものも用意し、ウイルス感染価を測定する。
4.処理液中に残存するウイルスの感染価を定量するために、前日に24ウエルプレートに単層培養したVeroE6/TMPRSS2細胞(1ウェルあたり150,000細胞)の培養上清を除き、感染価測定用試料(原液および希釈液)200uLを接種し、37℃、5%CO2の条件で培養する。2時間後、各培養ウェルのウイルス溶液を取り除き、メチルセルロース粘性培地を500uL加え、37℃、5%CO2の条件でさらに3日間培養する。各培養ウェルは3.7%ホルムアルデヒドで2時間以上固定し、水洗後、1%クリスタルバイオレット溶液で染色する。形成されたプラーク数をもとにウイルス感染価(PFU/mL)を算出後、各試験における感染価の平均値を求める。
【0053】
【0054】
実施例1~7で得られた粉体は、結晶相が亜鉛とマグネシウムの化合物の単相もしくは、これらが混合した相であった。さらに、添加元素を使用しなかった比較例8の酸化亜鉛に比べて格子体積が小さくなっていた。結晶相及び格子体積の値から、マグネシウムが酸化亜鉛の格子内に導入されていることが確認された。一方、比較例1~3では、酸化亜鉛と酸化マグネシウムを混合しただけの比較例4と同様に、添加元素の化合物の結晶相と酸化亜鉛の結晶相の2相の混相になっており、添加元素が酸化亜鉛の格子内に導入された物質とは異なる生成物となっていた。このことから、カルシウム、ナトリウム、ストロンチウムでは、添加元素が酸化亜鉛の格子内に導入されないことが確認された。比較例5では、実施例7と同様に亜鉛とマグネシウムの組成比が異なる2つの生成物が確認された。
実施例1~7と比較例8との比較から、酸化亜鉛格子内にマグネシウムが存在することで一部の酸素が欠損した酸化亜鉛に比べてより抗ウイルス活性に優れたものとなることが確認された。更に実施例1~7と比較例5、6、8との比較から、一部の酸素が欠損した酸化亜鉛とマグネシウムと組み合わせることに意義があること、及び、酸化亜鉛を一部の酸素が欠損したものとすることとマグネシウムを酸化亜鉛格子内に固溶させることとによって、相乗的に抗ウイルス活性を高める効果が得られることが確認された。
また実施例1~7と比較例4との比較から、一部の酸素が欠損した酸化亜鉛と酸化マグネシウムを混合しただけでは酸化亜鉛の抗ウイルス活性を更に向上する効果は得られず、マグネシウムが酸化亜鉛格子内に存在することが重要であることが確認された。
比較例7から、フラックスとして一般に使用されるフッ化マグネシウムをマグネシウム原料として使用した場合にはマグネシウム固溶還元性酸化亜鉛の粉体は得られず、本発明のマグネシウム固溶還元性酸化亜鉛は、従来のフラックスとしてフッ化マグネシウム使用して製造した酸化亜鉛とは異なるものであることが確認された。
以上より、一部の酸素が欠損した酸化亜鉛に対して、マグネシウムを酸化亜鉛格子内に存在させることで優れた抗ウイルス活性を発揮することが確認された。