(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104497
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】茸類栽培施設
(51)【国際特許分類】
A01G 18/62 20180101AFI20240729BHJP
A01G 18/69 20180101ALI20240729BHJP
【FI】
A01G18/62
A01G18/69
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008729
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】513144453
【氏名又は名称】藤原 慶太
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤原 慶太
【テーマコード(参考)】
2B011
【Fターム(参考)】
2B011AA04
2B011CA01
2B011CA10
2B011CA12
2B011GA03
(57)【要約】
【課題】冷房装置の稼働によるランニングコストを大幅に削減し、環境への負担を軽減できる茸類栽培施設を提供する。
【解決手段】茸類を栽培する栽培室2aを有する茸類栽培施設1は、栽培室2a内の上方に滞留する空気を、栽培室2aの室外へ排出する空気排出部4と、栽培室の室外の空気を空気供給駆動機構の駆動により吸引し、栽培室2a内へ供給する空気供給部5を備え、空気排出部4は、栽培室2aの空気を吸引して室外へ送る空気排出駆動機構4aを備え、空気供給部5は、一部が冷却タンク5c内に配設され、室外から供給する空気を冷却して室内へ供給する冷却配管5bと、栽培室2aの室外の空気を吸引して冷却配管5bに送る空気供給駆動機構5aを備え、排出駆動機構及び空気供給駆動機構の駆動を制御する制御装置8が、栽培室2a内の温度が基準温度以上であるときに、空気供給駆動機構を駆動制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
茸類を栽培するための栽培室を有する茸類栽培施設であって、
前記栽培室内の上方に滞留する空気を、前記栽培室の室外へ排出する空気排出部と、
前記栽培室の室外の空気を、空気供給駆動機構の駆動により吸引し、前記栽培室の室内へ供給する空気供給部とを備え、
前記空気排出部は、駆動により前記栽培室の室内の空気を吸引して室外へと送り出す空気排出駆動機構を備え、
前記空気供給部は、
冷媒が収容された冷却タンクと、管路の一部が前記冷却タンク内に配設されて、前記栽培室の室外から供給する空気を冷却して室内へと供給する冷却配管と、駆動により前記栽培室の室外の空気を吸引して前記冷却配管に送り込む空気供給駆動機構とを備え、
前記茸類栽培施設は、さらに、前記排出駆動機構及び前記空気供給駆動機構の駆動を制御する制御装置と、前記栽培室の室内の栽培環境に関する情報を検出する検出手段とを備え、
前記制御装置は、前記検出手段の検出情報を取得し、前記栽培室内の温度が予め設定された基準温度以上であることを条件として、前記空気供給駆動機構を駆動制御するよう構成されたことを特徴とする茸類栽培施設。
【請求項2】
前記栽培室内を冷却する冷房装置を備え、
前記冷房装置は、前記栽培室内に霧状の水を噴霧する噴霧装置を備え、
前記冷却タンクは、前記噴霧装置により噴霧される水を、前記冷媒として収容するととともに、前記噴霧装置に供給可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の茸類栽培施設。
【請求項3】
前記栽培室は、内側遮光フィルムと、その上方に位置する外側遮光フィルムとを天井部に備え、前記内側遮光フィルムと前記外側遮光フィルムとの間に、空気を含む断熱層が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の茸類栽培施設。
【請求項4】
駆動により前記栽培室内の空気を換気する換気扇をさらに備え、
前記検出手段は、二酸化炭素濃度を検出する二酸化炭素センサを備え、
前記制御装置は、前記換気扇の駆動を制御可能に構成され、
前記二酸化炭素センサにより検出された二酸化炭素濃度が所定の基準値以上である場合、前記換気扇を駆動制御し、前記栽培室内の空気を換気するよう構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の茸類栽培施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茸類を通年で栽培するための茸類栽培施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、椎茸などの茸類を、ビニルハウス等の屋内施設で栽培することが行われている。しかしながら、施設内の温度は上昇し易いため、特に、夏場に茸類を栽培するときは温度調節が肝要となる。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、ヒートポンプ式の冷房装置を用いて施設内の温度を調節し、椎茸などの茸類を、夏場を含めて通年で栽培することができる茸類の栽培施設が開示されている。さらに、特許文献1に開示された栽培施設においては、側壁と天井部(上壁)に断熱材が設けられており、これにより、冷房装置の稼働を抑え、ランニングコストを低減できるよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、断熱材により栽培施設の断熱性能を高めても、断熱による施設内の温度調節には限界があるため、特に、夏場など、冷房装置の稼働によるランニングコストの負担は依然として無視できないほど大きな問題である。また、環境への負担も増加するものである。
そこで、本発明は、冷房装置の稼働によるランニングコストを大幅に削減し、環境への負担を軽減できる茸類栽培施設を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のかかる目的は、
茸類を栽培するための栽培室を有する茸類栽培施設であって、
前記栽培室内の上方に滞留する空気を、前記栽培室の室外へ排出する空気排出部と、
前記栽培室の室外の空気を、空気供給駆動機構の駆動により吸引し、前記栽培室の室内へ供給する空気供給部とを備え、
前記空気排出部は、駆動により前記栽培室の室内の空気を吸引して室外へと送り出す空気排出駆動機構を備え、
前記空気供給部は、
冷媒が収容された冷却タンクと、管路の一部が前記冷却タンク内に配設されて、前記栽培室の室外から供給する空気を冷却して室内へと供給する冷却配管と、駆動により前記栽培室の室外の空気を吸引して前記冷却配管に送り込む空気供給駆動機構とを備え、
前記茸類栽培施設は、さらに、前記排出駆動機構及び前記空気供給駆動機構の駆動を制御する制御装置と、前記栽培室の室内の栽培環境に関する情報を検出する検出手段とを備え、
前記制御装置は、前記検出手段の検出情報を取得し、前記栽培室内の温度が予め設定された基準温度以上であることを条件として、前記空気供給駆動機構を駆動制御するよう構成されたことを特徴とする茸類栽培施設によって達成される。
【0007】
本発明によれば、栽培室内の暖められた空気を、空気排出部を用いて外部に排出できるとともに、管路の一部が冷却タンク内に配設された冷却配管内を移送される間に冷却された外部の空気を、空気供給駆動機構を用いて栽培室に送ることができるから、栽培室内の温度を下げることができ、冷房装置の稼働によるランニングコストを大幅に削減できる。
【0008】
さらに、本発明によれば、空気排出部及び空気供給部を用いて栽培室内の温度を下げることができるから、冷房能力の比較的低い安価な冷房装置を用いることができ、ランニングコストに加えて設備コストも抑えることができる。加えて、環境への負荷も低減できる。
【0009】
本発明の好ましい実施形態においては、
前記栽培室内を冷却する冷房装置を備え、
前記冷房装置は、前記栽培室内に霧状の水を噴霧する噴霧装置を備え、
前記冷却タンクは、前記噴霧装置により噴霧される水を、前記冷媒として収容するととともに、前記噴霧装置に供給可能に構成されたことを特徴とする。
【0010】
本発明のこの好ましい実施形態によれば、噴霧装置用のタンクが、栽培室に供給される空気を冷却する冷却タンクを兼ねているから、栽培室に供給する空気を冷却する冷却タンクを別途用意する必要がなく、省エネ効果を発揮できるとともに、設備コストを削減できる。
【0011】
本発明のさらに好ましい実施形態においては、
前記栽培室は、内側遮光フィルムと、その上方に位置する外側遮光フィルムとを天井部に備え、前記内側遮光フィルムと前記外側遮光フィルムとの間に、空気を含む断熱層が形成されている。
【0012】
本発明のこの好ましい実施形態によれば、栽培室の上方を覆う内側遮光フィルムと外側遮光フィルムとの間に、空気を含む断熱層が形成されているから、断熱材を設けた場合よりも、外部から伝搬する熱を効果的に遮断し、栽培室内の温度上昇を抑制できる。したがって、冷房装置のランニングコストをより一層削減することができる。
【0013】
本発明のさらに好ましい実施形態においては、
駆動により前記栽培室内の空気を換気する換気扇をさらに備え、
前記検出手段は、二酸化炭素濃度を検出する二酸化炭素センサを備え、
前記制御装置は、前記換気扇の駆動を制御可能に構成され、
前記二酸化炭素センサにより検出された二酸化炭素濃度が所定の基準値以上である場合、前記換気扇を駆動制御し、前記栽培室内の空気を換気するよう構成されている。
【0014】
本発明のこの好ましい実施形態によれば、茸類や、茸類の収穫作業を行う収穫作業者の呼吸によって、栽培室内の二酸化炭素濃度が基準値以上に高まった場合、換気扇により自動的に栽培室内の空気が換気されるから、収穫作業者の安全性を向上できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、冷房装置の稼働によるランニングコストを大幅に削減するとともに、環境への負荷を低減することができる茸類栽培施設を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい実施形態にかかる栽培施設の内部を示す模式的平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示された栽培施設の栽培室内の状態を示す模式的正面図である。
【
図3】
図3は、空気供給部の供給管の配策状態を示す模式的平面図である。
【
図4】
図4は、冷却タンクの近傍の部分縦断面図である。
【
図5】
図5は、
図1に示された栽培施設の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に基づいて、本発明の好ましい実施形態につき、詳細に説明を加える。
【0018】
図1は、本発明の好ましい実施形態にかかる栽培施設1の内部を示す模式的平面図であり、
図2は、
図1に示された栽培施設1の栽培室内の状態を示す模式的正面図である。
【0019】
栽培施設1は、椎茸やキクラゲ等の茸類9を栽培する施設であり、仕切り部材10によって、茸類9を栽培する栽培室2a(2a1~2a4)と前室2bとに仕切られた連棟式の4つのハウス2と、栽培室2a内の上方に滞留する空気を、栽培室2a内の上方に滞留する空気を室外へ排出する空気排出部4と、栽培室の室外の空気を吸引し、前記栽培室の室内へ供給する空気供給部5と、栽培室2a(2a1~2a4)内を冷却する冷房手段として、冷房装置3,6を備えている。栽培施設1の4つの側壁2c1~2c4には遮光性のプレートが用いられている。
【0020】
本明細書においては、仕切り部材10を基準としたときの前室2b側を「前」、その反対側を「後」といい、前側に向いた状態での左側を「左」、その反対側を「右」という。また、以下において、栽培施設1を単に「施設」ともいう。
【0021】
栽培室2aは、透明な仕切り用フィルム21によって、左右に並ぶハウス2ごとに4つに仕切られており、栽培室2a1~2a4ごとに、異なる種類の茸が栽培されている。仕切り部材10には、収穫作業者が各ハウス2の栽培室2a1~2a4に出入りするための開閉式の扉(不図示)が各々設けられており、出入り時以外は扉は閉じられている。これにより、エネルギー効率を高めることができる。また、前室2bの前面、すなわち施設1の前側の側壁2c1には、収穫作業者が施設1に出入りするための図示しない出入口が左右に2箇所形成されている。
【0022】
各栽培室2aには、茸類9の菌種を含む菌床15が載置された栽培棚30と、栽培室2aを冷却する冷房装置の一つであるヒートポンプ式の冷房装置3と、冷房装置の他の一つである細霧冷房装置6の移送管6a及びノズル6bと、後ろ側の側壁2c3に配置された第1換気扇11と、低照度のLED照明16が配設されている。
【0023】
各栽培室2a(2a1~2a4)は、その天井部17に、内側フレーム17cにより支持された内側遮光フィルム17aと、外側フレーム17dにより支持された外側遮光フィルム17bを備えている。外側遮光フィルム17bは内側遮光フィルム17aの外側(=上方)に配置されており、内側遮光フィルム17aと外側遮光フィルム17bとの間には、空気を含む断熱層17eが形成されている。このため、各栽培室2a内に入射する太陽光を遮断できるとともに、外部からの熱の伝搬を遮断でき、栽培室2a内の温度上昇を効果的に抑制できる。内側遮光フィルム17aの下方にはさらに、カーテン支持フレーム19により支持された開閉式の遮光カーテン18が設けられており、より一層温度上昇を抑制できるとともに、冬場には栽培棚30の近傍を保温することができる。
【0024】
各冷房装置3には、互いに向きを異にする3つの蛇腹状のダクト20が接続されており、栽培室2a内に冷風を隈なく供給できる。
【0025】
各栽培室2aに設置された第1換気扇11は、制御装置8の制御信号に基づいて作動したときに、設置された栽培室2a(2a1~2a4)内に外気を導入し、供給可能に構成されている。第1換気扇11は、施設1の外部と、各栽培室2a内との連通状態を切り換えるシャッター(不図示)を備えており、作動時にのみ、当該シャッターが連動して開かれて、設置された栽培室2aと施設1の外部が連通する状態となる。
【0026】
一方、前室2bには、各栽培室2a内の空気を吸引して室外へ送出する空気排出部4の真空ポンプ4aと、細霧冷房装置6のノズル6bへ供給される水を冷媒として収容する冷却タンク5cと、4つの第2換気扇12と、前室2b内の空気を排出する第3換気扇13と、栽培室2aの外部の空気を栽培室2aに供給する空気供給部5のエアコンプレッサ5aと、施設1全体を制御する制御装置8が配設されている。ここで、「栽培室2aの外部の空気」とは、前室2bの空気、又は施設1の外部の空気を指す。
【0027】
空気排出部4は、本発明の「空気排出駆動機構」の一例である真空ポンプ4aと、真空ポンプ4aの吸気口に接続された第1排出管4bと、真空ポンプ4aの排出口に接続されるとともに、施設1の外部へ延びる第2排出管(不図示)を備えている。
【0028】
第1排出管4bは、
図1に示されるように、仕切り部材10を貫通し、枝分かれして栽培室2aの各栽培棚30の直ぐ上方を延びている。第1排出管4bのうち、各栽培室2a内に位置する部分で、且つ、第1排出管4bに装着された排出電磁弁28(28a~28d)より後ろ側の部分は、管の内部と外部とを連通する多数の孔が外周面に形成されたポーラスパイプにより構成されている。第1排出管4bは、各栽培室2a内で各栽培棚30に枝分かれするとともに、前室2b内で1本に集約された状態で真空ポンプ4aに接続されている。
【0029】
真空ポンプ4aは、制御装置8の制御に基づき駆動し、栽培室2a内の上部に配設された第1排出管4bの多数の孔から、栽培室2a内の上部の空気を吸引し、吸引した空気を、第2排出管を通じて施設1の外部へ送出する。このように、第1排出管4bを各栽培室2aの上部に配置することで、栽培室2a内の比較的温度の高い空気を施設1の外部に排出できるから、栽培室2a内の温度を低下させることができるとともに、各栽培室2aにおいて茸類9又は収穫作業者の呼吸により二酸化炭素濃度が高まった空気を外部に排出できる。なお、栽培室2a内から取り出された空気を、施設1の外部に代えて、前室2b内に排出するよう構成してもよい。また、真空ポンプ4aに代えて、ブロワ等を用いることも可能である。
【0030】
細霧冷房装置6は、冷却タンク5cに収容された水を、
図1、
図4等に示される冷却タンク5cの上方に設けられたポンプ6dの駆動により移送管6a内を移送した後、
図2に示されるノズル6bで細かい霧状にして栽培室2a内に供給するよう構成されている。すなわち、冷却タンク5cは、その内部の水をポンプ6dによりノズル6bへ供給可能に構成されている。ノズル6bは、本発明の「霧状の水を噴霧する噴霧装置」に相当する。細霧冷房装置6は栽培室2a内を冷却する目的に加え、栽培室2a内の湿度を上昇させる目的で設置されている。また、このように、冷却タンク5cに収容された水は、冷却及び噴霧用の水として利用されるため、省エネ効果を発揮できる。
【0031】
図1及び
図3に示される4つの第2換気扇12は、各ハウス2の長手方向(=前後方向)において、4つの第1換気扇11に対向する位置に配置されている。各第2換気扇12には、対応する(=その前側に位置する)栽培室2aの上部に一端部が接続された配管14の他端部が接続されており、制御装置8の制御により各第2換気扇12が作動すると、各栽培室2a内の空気が、各配管14を通じて外部に排出される。第2換気扇12の排出能力は、空気排出部4よりも高いものである。第2換気扇12は、配管14の内部の空間と、施設1の外部との連通状態を切り換えるシャッター(不図示)を備えている。制御装置8の制御信号に基づく第2換気扇12の作動時、より詳細には第2換気扇12の羽根部材の回転時にのみ、当該シャッターが連動して開かれて、栽培室2a、配管14の内部の空間、及び施設1の外部が連通する状態となる。なお、上述の「出入口」は、4つある第2換気扇12のうち、左右外側の2つの第2換気扇12の下方に設けられている。
【0032】
図3は、空気供給部5の供給管5bの配策状態を示す模式的平面図であり、
図4は、冷却タンク5cの近傍の部分縦断面図である。
図3には、
図1に示された各栽培棚30が占める領域が一点鎖線により示されており、
図4には、冷却タンク5c内における供給管5bの配策状態が示されている。
【0033】
空気供給部5は、エアコンプレッサ5aと、エアコンプレッサ5aの排気口に接続され、各栽培室2aの各栽培棚30の下部を延びる供給管5bと、栽培室2aに供給する空気を冷却する冷却タンク5cを備えている。供給管5bは、栽培室2aにて、各栽培棚30へ向けて多数に枝分かれするとともに、前室2bにて、1本に集約された状態でエアコンプレッサ5aに接続されている。供給管5bのうち、各栽培室2a内に位置する部分で、且つ、供給電磁弁29(29a~29d)より後ろ側の部分は、第1排出管4bと同様にポーラスパイプにより構成されている。エアコンプレッサ5aは、制御装置8の制御信号に基づき駆動し、設置場所である前室2bの空気を取り込んで圧縮し、供給管5bを通じて各栽培室2aの栽培棚30の近傍に供給する。供給管5bは、本発明の「冷却配管」に相当し、エアコンプレッサ5aは、駆動により栽培室2aの室外の空気を吸引して供給管5bに送り込む「空気供給駆動機構」の一例である。
【0034】
ここで、供給管5bは、冷却タンク5cの蓋部5c1を、往復2回にわたり貫通し、管路の一部が、冷却タンク5cに収容された水の中を、螺旋状に延びるように配設されており、供給管5b内を移送される空気が、冷却タンク5c内を通過する間に冷却される。供給管5bのうち、冷却タンク5c内に位置する冷却部5b1は、樹脂等に比して熱伝導率の高い金属により形成されており、冷却部5b1内を通過する空気を効率的に冷却できる。
【0035】
このように、前室2b内の空気を冷却して、各栽培室2aに供給することで、栽培室2a内の温度を下げることができ、したがって、冷房装置3のランニングコストを削減できる。さらに、栽培室2aに供給する空気を冷却するのに、細霧冷房装置6のノズル6bに供給される水が収容された冷却タンク5cを用いることで、別途冷却タンクを用意する必要がなく、設備コストを削減できる。加えて、前室2b内の空気を栽培室2aに供給することで、栽培室2a内の二酸化炭素濃度を低下させることができる。なお、エアコンプレッサ5aの吸気口に別途配管を接続させ、当該配管を施設1の外部へ延ばし、(前室2bの空気に代えて)外部の空気を圧縮して各栽培室2aに供給するよう構成してもよい。また、エアコンプレッサ5aに代えて、ブロワや真空ポンプ等を用いることも可能である。
【0036】
図5は、
図1に示された栽培施設1の制御ブロック図である。
制御装置8は、CPU等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成された情報処理装置である。
【0037】
制御装置8の入力側には、栽培室2aの室内の栽培環境に関する情報を検出する検出手段と、ユーザーが各栽培室2aに関する各種基準値(後に詳述する基準温度等)を入力するための入力装置31が接続されている。
【0038】
検出手段は、各栽培室2aの温度及び湿度を検出する温湿度センサ26と、各栽培室2aの二酸化炭素濃度を検出する二酸化炭素センサ32を備えている。
【0039】
制御装置8の出力側には、冷房装置3と、遮光カーテン18を開閉する開閉モータ25と、栽培室2a内の空気を排出する真空ポンプ4aと、栽培室2aに室外の空気を供給するエアコンプレッサ5aと、後ろ側の側壁2c3に配置された各第1換気扇11の羽根部材を回転駆動する4つの第1駆動モータ33と、前側の側壁2c1に配置された各第2換気扇12の羽根部材を回転駆動する4つの第2駆動モータ34と、左右の側壁2c2に配置された各第3換気扇13の羽根部材を回転駆動する2つの第3駆動モータ35と、細霧冷房装置6による各栽培室2aへのミストの供給状態(=供給するか否か)を切り換える細霧電磁弁27と、真空ポンプ4aによる各栽培室2aからの空気の排出状態(=排出するか否か)を切り換える排出電磁弁28(28a~28d)と、エアコンプレッサ5aによる各栽培室2aへの空気の供給状態(=供給するか否か)を切り換える供給電磁弁29(29a~29d)が接続されている。
【0040】
以上のように構成された栽培施設1において、制御装置8は、4つの栽培室2aごとに独立して、冷却を行う冷却制御と、加湿を行う加湿制御と、二酸化炭素濃度を低下させる換気制御を行う。
【0041】
冷却制御において、制御装置8は、各栽培室2aの温度の検出結果を温湿度センサ26から取得し、栽培室2aの温度がユーザーにより予め設定された基準温度以上であることを条件として、当該条件を満たした栽培室2aについて、冷房装置3、ポンプ6d、真空ポンプ4a及びエアコンプレッサ5aを駆動制御するとともに、細霧電磁弁27、排出電磁弁28、及び供給電磁弁29を開制御して冷却を行う。このように、4つの栽培室2aごとに、独立して冷却制御を行うことで、エネルギー効率を向上できる。なお、上記の基準温度の値は、各栽培室2aで栽培される茸の種類に応じて設定することが望ましい。
【0042】
加湿制御において、制御装置8は、各栽培室2aの湿度の検出結果を温湿度センサ26から取得し、検出された湿度が、ユーザーにより予め設定された基準湿度以下である栽培室2aに対し、細霧電磁弁27を開閉制御してミスト(=細霧)を供給する。なお、基準湿度の値は、各栽培室2aで栽培される茸の種類に応じて設定することが望ましい。
【0043】
換気制御において、制御装置8は、二酸化炭素センサ32から各栽培室2aの検出結果を取得し、空気排出部4による排出では追い付かず、ユーザーにより予め設定された基準値以上となった栽培室2aに対応する第1、第2換気扇11,12を作動(=駆動)させる。
【0044】
例えば、左から2番目の栽培室2a内の二酸化炭素濃度が所定の基準値以上となった場合、制御装置8は、左から2番目の第1換気扇11及び(それに対向する)左から2番目の第2換気扇12を作動させる。その結果、施設1の後ろ側から前室2b側への空気の流れが形成されて左から2番目の栽培室2a内の換気が速やかに行われるため、二酸化炭素濃度を短時間で大幅に下げることができる。すなわち、制御装置8は、第1、第2換気扇11,12の駆動を制御可能に構成されている。なお、二酸化炭素濃度の基準値は、建築基準法等に定められた1000ppmか、又はそれ以下の値に設計されることが望ましい。
【0045】
<本実施形態の技術的意義>
図1にないし
図5に示された本実施形態によれば、栽培室2a(2a1~2a4)内の暖められた空気を、空気排出部4を用いて外部に排出できるとともに、冷却タンク5c(
図4参照)内に収容された水の中を通過する供給管5b内を移送される間に冷却された前室2bの空気を、空気供給部5を用いて栽培室2aに送ることができるから、栽培室2a内の温度を下げることができ、ヒートポンプ式の冷房装置3の稼働によるランニングコストを大幅に削減できる。
【0046】
さらに、本実施形態によれば、空気排出部4及び空気供給部5を用いて栽培室2a内の温度を下げることができるから、冷房能力の比較的低い安価な冷房装置を用いることができ、ランニングコストに加えて設備コストも抑えることができるとともに、環境への負荷も低減できる。
【0047】
加えて、本実施形態によれば、夏場でも茸類9の栽培が可能であるから、収穫作業者の雇用を1年を通して維持することができる。
【0048】
また、本実施形態において、栽培施設1は、栽培室2aを冷却する冷房装置として、ヒートポンプ式の冷房装置3に加え、細霧冷房装置6を備えており、細霧冷房用の冷却タンク5cが、栽培室2aに供給される空気を冷却するタンクを兼ねているから、栽培室2aに供給する空気を冷却する冷却タンクを別途用意する必要がなく、設備コストを削減できる。
【0049】
さらに、本実施形態によれば、栽培室2aの上方を覆う内側遮光フィルム17aと外側遮光フィルム17bとの間に、空気を含む断熱層17eが形成されているから、断熱材を設けた場合よりも、外部から伝搬する熱を効果的に遮断し、栽培室2a内の温度上昇を抑制できる。したがって、冷房装置3のランニングコストをより一層削減できる。
【0050】
加えて、本実施形態によれば、茸類9や、茸類9の収穫作業を行う収穫作業者の呼吸によって、何れかの栽培室2a1~2a4内の二酸化炭素濃度が基準値以上に高まった場合、当該栽培室2a内の空気が、第1、第2換気扇11,12により自動的に換気されるから、収穫作業者の安全性を向上することができる。
【0051】
本発明は、以上の実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0052】
例えば、
図1ないし
図5に示された前記実施形態においては、空気排出部4により各栽培室2aから取り出した空気を施設1の外部に排出するよう構成されているが、各栽培室2aから取り出した空気を、施設1の近くの植物の栽培施設に供給するよう構成してもよい。このように構成することで、茸類9又は収穫作業者の呼吸により二酸化炭素を高濃度に含む空気を植物の光合成に用いることができ、二酸化炭素の排出量を削減できる。
また、前記実施形態においては、種々の電磁弁27~29が用いられているが、電磁弁に代えて、電動弁等の他の機構による開閉弁を用いてもよい。
【0053】
加えて、前記実施形態においては、冷装置3に接続された3本のダクト20が互いに異なる方向に向けられていることで、各栽培室2aを隈なく冷却できるようになっているが、各栽培室2aの多数の場所に温湿度センサを設けるとともに、各栽培室2aにおいて、冷房装置3から出される冷気の供給先を、多数の配管及び開閉弁等を用いて細かく調節可能に構成してもよい。また、各栽培室2a内に、多数の供給電磁弁29を設け、栽培室2a内の各場所の温度に応じて、空気供給部5による冷風の供給先を変更可能に構成してもよい。これにより、エネルギー効率をさらに向上することができる。また、各栽培室2aにおいて、多数の開閉弁を用いて空気供給部5による冷風の供給先を変更可能とするとともに、サーモグラフィーカメラを各栽培室2a内に配置して各栽培室2a内の各場所の温度を検出可能とし、各栽培室2a内の何れかの場所で基準温度以上となったときに、当該場所に対してのみ、冷房装置3による冷却風、又は/及び空気供給部5による冷却風を供給するよう構成してもよい。同様に、各栽培室2a内の各場所において、多数の開閉弁を用いて、細霧冷房装置6によるミストの供給先を細かく制御可能に構成してもよい。
【0054】
さらに、前記実施形態においては、冷房能力を備えたヒートポンプ式の冷房装置3が用いられているが、冷房機能と暖房機能の両方を備えた冷暖房装置を用いてもよい。
【0055】
また、前記実施形態においては、冷却タンク5cが前室2bに設置されているが、冷却タンク5cの配置位置は、栽培室2aの外部であればよく、設置場所はこれに限られない。したがって、ハウス2の外部に配置してもよい。
【0056】
さらに、前記実施形態においては、冷却タンク5c内に、冷媒の一例として水が収容されているが、栽培室2aに供給する空気を冷却する冷媒の種類は水に限定されず、例えばドライアイスや液体窒素等であってもよい。
【0057】
加えて、前記実施形態においては、各栽培室2aについて、茸の種類に応じて設定された温度及び湿度に制御可能となっているが、さらに、茸の種類に応じてLED照明16による各栽培室2a内の照度を制御可能としてもよい。これにより、栽培される茸に最適な環境を実現できる。
【符号の説明】
【0058】
1 栽培施設
2 ハウス
3 ヒートポンプ式冷房装置
4 空気排出部
5 空気供給部
6 細霧冷房装置
8 制御装置
9 茸類
10 仕切り部材
11 第1換気扇
12 第2換気扇
13 第3換気扇
14 配管
15 菌床
16 LED照明
17 天井部
18 遮光カーテン
19 カーテン支持フレーム
20 ダクト
21 仕切り用フィルム
25 開閉モータ
26 温湿度センサ
27 細霧電磁弁
28 排出電磁弁
29 供給電磁弁
30 栽培棚
31 入力装置
32 二酸化炭素センサ
33 第1駆動モータ
34 第2駆動モータ
35 第3駆動モータ