(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104513
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】空気二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 12/08 20060101AFI20240729BHJP
H01M 10/24 20060101ALI20240729BHJP
H01M 4/24 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
H01M12/08 K
H01M10/24
H01M4/24 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008764
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】夘野木 昇平
(72)【発明者】
【氏名】西 実紀
(72)【発明者】
【氏名】荻原 克幸
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
【テーマコード(参考)】
5H028
5H032
5H050
【Fターム(参考)】
5H028AA05
5H028CC08
5H028HH09
5H032AA02
5H032AS01
5H032HH05
5H032HH06
5H050AA08
5H050BA14
5H050CA12
5H050CB17
5H050DA03
5H050FA08
5H050HA12
5H050HA15
(57)【要約】
【課題】 充電受入性の低下が抑制される水素空気二次電池及びその製造方法を提供する
【解決手段】 空気二次電池1は、空気中の酸素を正極活物質とする空気極40と、水素吸蔵合金を負極活物質として含む負極60とを備える。負極は、空気極と対向する第1領域61と、負極の厚み方向において空気極に対し第1領域よりも離れて位置する第2領域62とを有する。第2領域の水素吸蔵平衡圧が、第1領域の水素吸蔵平衡圧よりも低くなるように負極は形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中の酸素を正極活物質とする空気極と、
水素吸蔵合金を負極活物質として含む負極と、
を備える空気二次電池であって、
前記負極は、前記空気極と対向する第1領域と、前記負極の厚み方向において前記空気極に対し第1領域よりも離れて位置する第2領域とを有し、
前記第2領域の水素吸蔵平衡圧は、前記第1領域の水素吸蔵平衡圧よりも低い、ことを特徴とする空気二次電池。
【請求項2】
前記負極は、厚み方向に積層された近位負極板及び遠位負極板を有し、
前記近位負極板は前記第1領域を含み、前記遠位負極板は前記第2領域を含む、請求項1記載の空気二次電池。
【請求項3】
さらに、前記負極に対し前記空気極の反対側に前記空気極とは別の第2空気極を有し、
前記負極は、さらに、前記負極の厚み方向において前記第2領域に対し前記第1領域とは反対側に、前記第2空気極と対向する第3領域を有し、
前記第3領域の水素吸蔵平衡圧は、前記第1領域の水素吸蔵平衡圧と等しい、請求項1記載の空気二次電池。
【請求項4】
空気二次電池を製造する方法であって、
第1水素吸蔵合金を含む第1負極板を形成する工程と、
第2水素吸蔵合金を含む第2負極板を形成する工程と、
前記第2負極板に前記第1負極板を重ね合わせて負極を形成する工程と、
空気極に対し、前記第1負極板が前記第2負極板よりも近接するように前記負極を配置して電極群を作製する工程と、
を含み、
前記第2負極板の水素吸蔵平衡圧は、前記第1負極板の水素吸蔵平衡圧よりも低い、ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気電池において、負極に水素吸蔵合金を用いる水素空気二次電池は、正極活物質が空気中の酸素であることから、正極活物質を電池容器内に充填する必要が無く、その結果、電池容器内により多くの負極活物質を充填できるため、高エネルギー密度を実現される。水素吸蔵合金を負極活物質として用いる負極は、単位面積当たりの電気容量を高めると共に、水素ガス発生による負極活物質の負極芯体からの粉落ちを抑制するために、水素吸蔵合金は発泡金属からなる負極板に充填される。例えば、水素吸蔵合金粉末、ケッチェンブラック及び結着剤を含むスラリーをニッケルフォームに充填して負極板を作製し、乾燥後に負極板を圧延して負極板内における負極活物質の密度を高めて使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電気容量を増やすために負極板の厚みを増加させると、水素空気二次電池の充電時に副反応として水素ガスが発生しやすくなるので充電受入性が低下する。これらは、電池容量の低下や、負極板の膨張又は粉落ちによる劣化、充放電サイクル寿命の短縮につながる。また、厚みの厚い負極板は、曲げ半径が大きくなるため、電池の製造にも影響を与えていた。
【0005】
そこで、本発明の目的は、負極の全領域に亘りその厚みに拘らず充電受入性の低下が抑制される水素空気二次電池及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の空気二次電池は、空気中の酸素を正極活物質とする空気極と、水素吸蔵合金を負極活物質として含む負極と、を備える空気二次電池であって、前記負極は、前記空気極と対向する第1領域と、前記負極の厚み方向において前記空気極に対し第1領域よりも離れて位置する第2領域とを有し、前記第2領域の水素吸蔵平衡圧は、前記第1領域の水素吸蔵平衡圧よりも低い、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気二次電池によれば、充電時に水の電気化学的還元反応で生成した水素原子は、負極板において拡散され、水素吸蔵平衡圧の高い第1領域よりも、空気極から離れて位置する水素吸蔵平衡圧の低い第2領域から先に吸蔵される。このように、充電反応が進みにくい空気極から離れた領域から水素を吸収させることによって、吸蔵されなかった水素原子が水素ガスとして電池の外に抜けてしまうことで容量が低下することを抑制でき、充電受入性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る空気二次電池を示す断面図である。
【
図2】
図1に示す空気二次電池の電極群の断面図である。
【
図3】(a)は水素吸蔵合金AのPCT特性曲線を示し、(b)は水素吸蔵合金BのPCT特性曲線を示すグラフである。
【
図4】空気二次電池の負極の製造工程を示すフローチャートである。
【
図5】第2実施形態に係る空気二次電池を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態に係る水素空気二次電池(以下、電池と称す場合も含む)を、図面を参照して説明する。
1.水素空気二次電池の構成
図1に、第1実施形態に係る水素空気二次電池の断面図を示す。水素空気二次電池1は、空気二次電池セルからなり、電池ケース10に収容されている。電池ケース10では、正極側から負極側に向けて、順に、流路板20、撥水膜30、空気極(正極)40、セパレータ50、負極60が配列される。空気極40は、セパレータ50を介して負極60と対向する。
【0010】
流路板20は、導電性を呈する矩形の平板からなり、空気極40に対向する一方の主面21に、空気極40と反応する空気が面内方向に沿って流れる通気路22と、通気路22に外部から空気を導入する導入路23と、通気路22を流れた空気を外部に導出する導出路24とが形成されている。導入路23及び導出路24は、それぞれ流路として、流路板20を厚み方向に貫通する。
【0011】
さらに、撥水膜30が、流路板20の主面21に対し、矩形の枠体32によってガス拡散膜31を介して固定される。撥水膜30は、通気路22の主面21上の開口を閉塞しながらも、導入路23及び導出路24を被覆せずに流路板20に固定される。
【0012】
通気路22は、流路板20の主面21において、一端部から空気が通過する方向に他端部まで延びる溝として形成され、平面視形状が1本のサーペンタイン形状をなす。通気路22は、放電時に空気極40へ空気中の酸素を供給するとともに、充電時に空気極40から生じた酸素を外部へ排出する。通気路22は、空気極40に向けて開口し、空気の通過方向に交差する方向の断面は、矩形などの適宜の形状に形成されている。
【0013】
ガス拡散膜31は、例えば多孔質基材からなり、空気極40の充放電反応に必要な空気と水素とを、効率良く拡散させる機能を備える。
【0014】
撥水膜30は、液密通気膜として、微多孔性樹脂フィルムからなり、通気路22を流れる空気を空気極40へ通過させると共に、空気極40側に存在する電解液の通気路22への漏出を防止する。撥水膜30は、通気路22の開口を、一端部から空気流の通過方向に沿う他端部までの全長を閉塞しながらも、導入路23及び導出路24を閉塞しない形状及び大きさを有する。
【0015】
枠体32は、導電性材料にて矩形に形成され、撥水膜30に対向する枠面34が平面状であり、撥水膜30を流路板20に固定すると共に、枠体32の内側に空気極40を包囲する。
【0016】
空気極40は、多数の空孔を有する導電性の空気極芯体と、空孔内及び空気極芯体の表面に保持される空気極合剤(正極合剤)とからなる。空気極合剤は、酸化還元触媒、導電剤及びフッ素樹脂を含む。酸化還元触媒としては、酸化還元の二元機能を有するものであれば特に限定されない。酸化還元触媒として、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物を用いるのが好ましい。空気極40の作製については後述する。
【0017】
セパレータ50は、空気極40及び負極60の間に配置されて空気極40及び負極60を電気的に絶縁する。セパレータ50は、例えば、ポリアミド繊維製の不織布又はポリオレフィン繊維製の不織布にて作成され、KOH溶液などのアルカリ電解液を内部に含む。本実施形態において、セパレータ50は、全体として矩形状をなし、平面視形状は、空気極40の平面視形状及び負極60の平面視形状よりも大きく形成されている。
【0018】
負極60は、
図2に示すように、空気極40に対向する近位負極板61と、近位負極板よりは空気極40から離れて位置する遠位負極板62とからなり、近位負極板61と遠位負極板62とは負極60の厚み方向に重ねあわされている。近位負極板61と遠位負極板62とは、それぞれ、多数の空孔を有する導電性の負極芯体と、負極芯体の空孔内及び表面に保持される負極合剤とからなる。負極芯体としては、例えば、発泡ニッケルが用いられる。負極合剤は、負極活物質としての水素吸蔵合金粉末と、導電剤と、結着剤とを含む。水素吸蔵合金粉末は、近位負極板61と遠位負極板62とでは組成が異なるものが用いられる。遠位負極板62には、近位負極板61に充填される水素吸蔵合金粉末よりも水素吸蔵平衡圧が低い水素吸蔵合金粉末が充填される。導電剤としては、黒鉛、カーボンブラック等を用いることができる。負極60の作製については後述する。近位負極板61は第1領域または第1負極板の一例であり、遠位負極板62は第2領域または第2負極板の一例である。
【0019】
空気極40、セパレータ50及び負極60は、電極群100を構成し、電池ケース10の空気極対向壁16と負極対向壁26との間に配置される。セパレータ50の縁部は、空気極対向壁16と負極対向壁26との間の側壁に挟み込まれて固定される。
【0020】
2.水素空気二次電池の製造
水素空気二次電池1の製造について以下に説明する。
【0021】
(1)空気極の作製
最初に空気極合剤の製造について説明する。Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oをモル濃度比で0.75:1.00となるように75℃の希硝酸水溶液中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調整した。この混合水溶液に、2mol/LのNaOH水溶液を加え、温度を75℃にして酸素バブリングを行いながら撹拌した。この操作によって生じた沈殿物を吸引ろ過にて回収し、乾燥させて前駆体粉末を得た。前駆体粉末を、空気雰囲気内で540℃に加熱して3時間保持する熱処理を行い焼成物を得た。焼成物は、75℃の蒸留水、2mol/Lの硝酸水溶液、75℃の蒸留水の順の吸引ろ過にて副生成物を洗浄除去した。吸引ろ過で回収した焼成物を、120℃に加熱して乾燥させて、水素空気二次電池用のビスマスルテニウム酸化物触媒(パイロクロア型複合酸化物触媒)を得た。SEMにより観察した一次粒子径は10~50nmであった。
【0022】
ビスマスルテニウム酸化物触媒を、湿式ビーズミル(アシザワファインテック製、ラボスターミニ、DMS65)を用いて粉砕した。ビスマスルテニウム酸化物触媒の重量あたりの固形分比が20wt%となるようにイオン交換水を添加し、更に触媒重量に対して2wt%の分散剤(サンノプコ社、SNディスパーサント5468)を添加して触媒分散液を作製した。この触媒分散液を、ポンプを用いて所定流量でビーズミル装置内に送液し、ジルコニア製のビーズ(ビーズ径0.1mm)と共に周速8m/sで粉砕した。そして、排出された処理液を再び装置内に送液し、粉砕と排出とを合計5回繰り返して(5パス)、ビスマスルテニウム酸化物濃度20wt.%の分散液を得た。
【0023】
この分散液を、ビスマスルテニウム酸化物の重量で50質量部となるように秤量し、そこに炭素材料として高純度天然黒鉛(SECカーボン株式会社製、SNO-1T、平均粒子径1~2μm)を30質量部、フッ素樹脂としてFEPディスパージョン(三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社製、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、120-JRB、平均粒子径0.2μm)を固形分比率換算で30質量部、粘度調整材としてヒドロキシプロピルセルロース(HPC)1質量部を容器に投入し、更に粘度調整を目的としてイオン交換水を追加した。この時、スラリー全体の水分量は、追加したイオン交換水に加えて、分散液に含まれるイオン交換水とFEPディスパージョンに含まれる水分量との合算となる。すなわち、その合計は385質量部であった。
【0024】
これらを自転公転ミキサーで混合・撹拌した結果、空気極合剤としてのスラリーが得られる。スラリーのイオン交換水及びFEPディスパージョンに含まれる水分量を除いた固形物の重量比は、スラリー全体の21.4%であった。また、固形物に含まれるビスマスルテニウム酸化物、黒鉛、フッ素樹脂、HPC及び分散剤の重量比率は、それぞれ44.9%、26.9%、26.9%、0.9%、0.4%であった。
【0025】
シート状の発泡ニッケル(厚み1.6mm、平均孔径580μm、目付575g/m2)をロール圧延により厚みを0.45mmに調整し、空気極芯体とした。この空気極芯体に上記スラリーを充填した。その後、スラリーが充填された空気極芯体を60℃で1時間乾燥させ、ロール圧延で0.25mmに圧延し、電極面積が40mm×40mmとなるように裁断した。裁断した電極を、電気炉にて1L/minの流量で窒素ガスをフローさせながら250℃で13分間焼成して空気極40を得た。得られた空気極40の重量と空気極芯体である発泡ニッケルの重量との差から、空気極芯体に充填された空気極合剤(スラリー)の重量を算出し、更に投入した空気極合剤の重量割合からビスマスルテニウム酸化物の単位面積あたりの触媒量を求めた。その結果、この空気極40の触媒量は7.5mg/cm2であった。
【0026】
(2)負極の作製
近位負極板61に充填される水素吸蔵合金粉末A、遠位負極板62に充填される水素吸蔵合金粉末Bの製造について説明する。
【0027】
(2-1)水素吸蔵合金Aの作製
La,Nd,Mg,Ni,Al,Crの各金属材料を混合した後、高周波誘導溶解炉に投入してアルゴンガス雰囲気下にて溶解する。得られた溶湯を鋳型に流し込み、25℃の室温まで冷却してインゴットを製造した。なお、上記各金属材料の組成により、水素吸蔵平衡圧は調整される。水素空気二次電池の負極として使用するに適切な水素吸蔵平衡圧は、本試験条件H/M=0.4において0.04~0.2MPaである。水素吸蔵平衡圧が上記値より低い場合は、電池電圧が下がりすぎることや容量が低下してしまう問題がある。逆に、水素吸蔵平衡圧が上記値より高い場合は、水素ガスの発生により充電受け入れ性が低下する問題がある。
【0028】
このインゴットを温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間保持した後、25℃の室温まで冷却した。冷却されたインゴットをアルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末を得た。得られた希土類-Mg.-Ni系水素吸蔵合金粉末の体積平均粒径(MV)を、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により測定すると、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末の体積平均粒径(MV)は35μmであった。
【0029】
この水素吸蔵合金粉末の組成を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析したところ、組成は、
(La0.1Nd0.9)0.91Mg0.09Ni3.52Al0.17Cr0.01であった。
【0030】
得られた水素吸蔵合金を、PCT水素化特性評価装置を用いて温度80℃にて最大水素圧1MPaになるまで水素化した後に脱水素化して活性化する。その後、温度80℃での最大水素圧1MPaまでに測定した水素吸蔵合金AのPCT特性曲線を
図3(a)に示す。
図3(a)において、H/Mは、金属原子1個(M)に対する水素原子の数(H)を表す。H/M=0.4における水素吸蔵平衡圧は0.20MPa,放出圧は0.15MPaであった。
【0031】
上記水素吸蔵合金Aの電気化学的容量を測定するために以下の電池を試験的に作製した。水素吸蔵合金粉末0.25gとニッケル粉末0.75gとを混合して成型し、10mmφのペレット電極を負極として作製した。円筒形の容器内に、8mol/LのKOH水溶液100mLと、中央部にペレット電極と酸化水銀参照電極とを挿入し、容器の縁に合わせて負極に対し容量が十分に大きい水酸化ニッケル対極を配置した。この負極容量規制の電池にて、合金容量を300mAh/gと仮定して計算した負極容量を1Itとして0.5It×200分の充電と、0.5Itにて酸化水銀参照電極に対して負極電位が-0.3Vまで放電させる充放電試験を実施し、電気化学容量を求めた。得られた電気化学容量は353mAh/gであった。
【0032】
(2-2)水素吸蔵合金Bの作製
合金Bとして、水素吸蔵合金Aと同様の方法で希土類-Mg-Ni系の水素吸蔵合金の粉末を得た。その組成は(La
0.2Nd
0.8)
0.89Mg
0.11Ni
3.42Al
0.17Cr
0.01であった。得られた水素吸蔵合金Bを、PCT水素化特性評価装置を用いて水素吸蔵合金Aと同じ条件で活性化し、温度80℃での最大水素圧1MPaまでに測定したPCT特性曲線を
図3(b)に示す。
図3(b)を参照すると、H/M=0.4における水素吸蔵平衡圧は0.13MPa,放出圧は0.08MPaであった。また電気化学容量は357mAh/gであった。
【0033】
(2-3)負極の作製
水素吸蔵合金Aに対し、得られた粉末100重量部に、ポリアクリル酸ナトリウム0.2質量部、カルボキシメチルセルロース0.04質量部、カーボンブラック0.3重量部、および水22.4重量部を添加して混練し、負極合剤のペーストを調製した。
【0034】
このペーストを負極芯体としてのシート状のニッケルフォームに充填した。このニッケルフォームの厚みは1.7mm、目付は300g/m2であった。負極合剤が充填された負極芯体を乾燥させ、ロール圧延して体積当たりの水素吸蔵合金量を高めた。その後、40mm×40mmに裁断して合金A負極板を得た(
図4、ステップS1)。水素吸蔵合金Bを、水素吸蔵合金Aと同様に負極芯体に充填し、乾燥、ロール圧延及び裁断を経て合金B負極板を得た(ステップS2)。また、本実施形態において、合金A負極板と合金B負極板とは、共に電気容量が2500mAhとなるよう負極合剤の負極芯体への充填量を調整した。
【0035】
(3)空気二次電池の作製
合金A負極板と合金B負極板とを互いに膜厚方向に接触させて負極60を作製した(ステップS3)。次に、負極60と、不織布からなるセパレータ50と、空気極40と、撥水膜30としてのPTFE微多孔膜(45mm×45mm、厚さ0.1mm)と、不織布拡散紙(40mm×40mm、厚さ0.2mm、不図示)とを重ねて電池ケース10内に配置し、通気路22(断面1mm×1mmのサーペンタイン構造)を有する流路板20を取付けた。電池ケース10内では、負極60のうち、合金A負極板が近位負極板61として空気極に対向するように、合金B負極板が遠位負極板62として空気極に対し近位負極板61よりも離れた場所に位置するように配置した(ステップS4)。そして、電池ケース10内に5mol/LのKOH水溶液を注液した。電池の充放電のいずれにおいても、導入路23から空気を通気路22に導き、導出路24から空気を排出するようにし、通気路22には50mL/minの空気を常時供給した。
【0036】
上記工程を経て水素空気二次電池1は製造される。
【0037】
(実施例1)
上記工程により製造された水素空気二次電池を実施例1とする。すなわち、実施例1の電池において、近位負極板61は水吸蔵平衡圧の高い合金粉末Aを含み、遠位負極板62は水吸蔵平衡圧の低い合金粉末Bを含む。
【0038】
(比較例1)
実施例1と同じ水素空気二次電池において、実施例1の負極60に代えて、近位負極板61及び遠位負極板62のいずれも合金B負極板を用いて重ね合わせて負極を作製した。
【0039】
(比較例2)
実施例1と同じ水素空気二次電池において、実施例1の負極60に代えて、近位負極板61及び遠位負極板62のいずれも合金A負極板を用いて重ね合わせて負極を作製した。
【0040】
(比較例3)
実施例1と同じ水素空気二次電池において、合金B負極板を近位負極板61として、合金A負極板を遠位負極板62として重ね合わせて負極を作製した。すなわち、空気極40に対向する負極板の一方の面には、水素吸蔵平衡圧の低い合金B粉末が充填され、空気極40から離れて位置する他方の面には、水素吸蔵平衡圧の高い合金A粉末が充填されている。
3.電池特性の評価
【0041】
(3-1)評価方法
実施例1及び比較例1-3の各々の水素空気二次電池を60℃にて12時間エージングを行った後、室温まで冷却する。そして、負極設計容量の80%に相当する4000mAhを1Itとし、0.05It×20時間の充電と、0.05Itの放電(放電終止電圧E.V.=0.4V)とを1サイクルとして繰り返し実施し、3サイクル目の放電容量を求めた。このときの放電容量を、充電容量4000mAh(負極設計容量の80%)で割った値をAh容量効率として算出した。
【0042】
(3-2)結果
実施例1および比較例1~3の負極構成と電池特性の結果とを表1に示す。
【0043】
【0044】
放電容量は、実施例1が3974mAh、比較例1が3957mAh、比較例2が3934mAh、比較例3が3915mAhとなり、実施例1の水素空気二次電池からは一番高い電池容量が得られた。ここで、各電池の電池容量を比較すると、以下の2点が分かる。まず、同じ合金からなる負極板を2枚重ねて負極とする場合(比較例1,2)、平衡圧が低い水素吸蔵合金Bで負極60を構成した水素空気二次電池の方が放電容量は高くなる。次に、異なる2種類の合金からなる負極板を重ねて負極とする場合(実施例、比較例3)、重ね合わせる順番を入れ替えると、同じ合金の負極板2枚を重ねて負極とする場合よりも電池容量は小さくなる。すなわち、水素吸蔵平衡圧の大小に加え、各負極板の正極からの距離も影響することが分かる。
【0045】
負極を構成する合金の種類を1つにする場合、合金の水素吸蔵平衡圧が低い方が、水素原子が生成して合金に吸蔵される充電反応時と副反応である水素ガス発生時との電位に差があるため、充電反応が優先的に進行しやすく容量効率が高くなる。しかしながら、合金の水素吸蔵平衡圧を下げ過ぎると放電時の電圧(出力)を低下させる原因にもなる。
【0046】
一方、実施例1のように、水素吸蔵平衡圧が低い合金からなる負極板と高い合金からなる負極板とを組み合わせて負極を構成することで、さらに高い放電容量が得られた。すなわち、空気極に近い近位負極板に水素吸蔵平衡圧が合金Bよりも高い合金A、空気極からは近位負極板よりも離れた遠位負極板に合金Aよりも水素吸蔵平衡圧の低い合金Bを、それぞれ負極合剤として用いて負極板を作製することで、水素空気二次電池の充電時の副反応により生じる水素を、負極において、イオン拡散抵抗が高く充電反応が進行しにくく且つ空気極から離れた部位から吸収を開始させることができる。したがって、負極全体を効率良く水素の吸蔵に用いることができる。
【0047】
これに対し、比較例3は、近位負極板61の合金Bの水素吸蔵平衡圧が遠位負極板62の合金Aの水素吸蔵平衡圧よりも低いために、近位負極板61の合金Bから先に水素の吸収が開始される。従って、空気極に対し近位負極板よりも離れた遠位負極板は、イオン拡散抵抗が高く且つ水素吸蔵平衡圧が高いこともあり水素を吸収しにくくなる。この結果、比較例3は、副反応である水素ガスの発生が起こりやすく、また、実施例や比較例1,2に比べ放電容量が低くなった。
【0048】
また、Ah容量効率は、実施例1が99.4%、比較例1が98.9%、比較例2が98.3%、比較例3が97.8%となり、実施例1のAh容量効率が一番多かった。
【0049】
上記のように、負極において、空気極に近い領域、すなわち空気極と対向する面に充填される水素吸蔵合金として、水素吸蔵平衡圧の高い合金を使用し、対向面から負極の厚み方向に沿って空気極から離れた領域に水素吸蔵平衡圧の低い合金を充填することによって、充電時に発生する水素の吸収を負極全体を使用して効率良く行うことができるので、副反応に伴う容量効率の低下を抑制でき、水素空気二次電池の放電容量を高くすることが出来る。
【0050】
また、負極の厚みが厚い場合、空気極から離れた遠位負極板ではイオン拡散抵抗が高いために充電反応は進行しにくい。しかし、負極における遠位負極板は、合金Bの水素平衡圧が低いため、近位負極板の合金Aよりも先に水素を吸収できる。このため、負極の厚い厚さを有効に使用することができる。
【0051】
なお、上記実施形態では、2枚の負極板を重ね合わせて負極を作製したが、例えばダイコートにより、単一の負極芯体において空気極と対向する一方の面に水素吸蔵平衡圧の高い合金Aを充填し、厚み方向に反対側となる他方の面に合金Aよりも水素吸蔵平衡圧の低い合金Bを充填した構成でも、同様な効果を奏する。
【0052】
次に、第2実施形態の水素空気二次電池1’について
図5を参照して以下に説明する。電池ケース10’に収容された電極群100’は、A方向において、第1空気極40A、負極60’、及び第2空気極40Bの順に配列される。空気極40Aは、セパレータ50Aを介して負極60’と対向する。空気極40Bは、セパレータ50Bを介して空気極40Aとは反対側から負極60’と対向する。すなわち、
図6に示す空気二次電池は、負極60’を共有する2つの電池セルが電気的に並列接続された構成と等価であると考えられる。そこで、負極60’についてのみ以下に記載する。
【0053】
負極60’は、厚み方向に互いに重ね合わせた3枚の負極板、すなわち、第1空気極40に対向する第1近位負極板61Aと、第2空気極40に対向する第2近位負極板61Bと、第1近位負極板61A及び第2近位負極板61Bの間に配置される中間負極板62’とからなる。各負極板61A、61B、62’は、多数の空孔を有する導電性の負極芯体と、負極芯体の空孔内及び表面に保持される負極合剤とからなる。
図1に示す実施形態と同様に、第1及び第2近位負極板61A、61Bは、水素吸蔵平衡圧の高い合金A粉末を用いて作製される。一方、中間負極板62’は、水素吸蔵平衡圧の低い合金B粉末を用いて作製される。各負極板61A、61B、62’の作製後、第1近位負極板61A、中間負極板62’、第2近位負極板61Bの順に重ね合わせ、ロール圧延を経て負極60’を作製する。第2近位負極板61Bは、第3領域の一例である。
【0054】
そして、中間負極板62’を介して重ね合わされた第1近位負極板61Aには第1空気極板40Aが対向するように、第2近位負極板61Bには第2空気極板が対向するようにして電極群100’を作製し、電極群100’を電池ケース10’内に収容して水素空気二次電池1’を作製する。
【0055】
本実施形態の電池においても、イオン拡散抵抗の問題から充電反応が進みにくく且つ空気極より離れた負極の厚さ方向中央部分の合金の水素吸蔵平衡圧が低いことで、負極の厚み方向における中心部分から順に水素が吸蔵される。したがって、負極の全領域を水素吸蔵のために効率良く使用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 空気二次電池
10 電池ケース
40 空気極
60 負極
61 第1領域
62 第2領域