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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104523
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】ポリイソオレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/16 20060101AFI20240729BHJP
   C08F 10/10 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
C08F4/16
C08F10/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008784
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】吉満 隼人
【テーマコード(参考)】
4J015
4J100
【Fターム(参考)】
4J015DA16
4J015DA33
4J100AA06P
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA08
4J100FA12
4J100FA19
4J100FA28
4J100GA06
4J100GC16
4J100GC25
(57)【要約】
【課題】省エネルギー化を図りつつ、カチオン重合におけるβ-プロトン脱離反応を抑えたポリイソオレフィンの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリイソオレフィンの製造方法であって、イソオレフィン系化合物を含むモノマー成分を塩化チタン(IV)及びアミン系化合物の存在下で重合する工程を含み、重合反応溶液において、アミン系化合物の濃度が3~25mM、かつ、塩化チタン(IV)の濃度はアミン系化合物の濃度より15~40mM高く、重合温度がマイナス60~マイナス40℃であることを特徴とするポリイソオレフィンの製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソオレフィンの製造方法であって、
イソオレフィン系化合物を含むモノマー成分を塩化チタン(IV)及びアミン系化合物の存在下で重合する工程を含み、
重合反応溶液において、アミン系化合物の濃度が3~25mM、かつ、塩化チタン(IV)の濃度はアミン系化合物の濃度より15~40mM高く、
重合温度がマイナス60~マイナス40℃であることを特徴とするポリイソオレフィンの製造方法。
【請求項2】
イソオレフィン系化合物がイソブチレンである、請求項1に記載のポリイソオレフィンの製造方法。
【請求項3】
モノマー成分の重合は、さらに下記一般式(1)で表される化合物の存在下で行なわれる、請求項1又は2に記載のポリイソオレフィンの製造方法。
【化2】
(但し、前記一般式(1)において、複数のR1は同一又は異なってもよく、水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基を示し、R2は1価若しくは多価の芳香族炭化水素基又は1価若しくは多価の脂肪族炭化水素基を示し、X1はハロゲン原子、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数1~6のアシロキシ基(アシルオキシ基)を示し、nは1~6の整数を表し、X1が複数存在する時、それらは同一であっても異なってもよい。)
【請求項4】
前記一般式(1)で表される化合物におけるX1の数nと、ポリイソオレフィン中のイソプロペニル基の1分子当たりの平均個数mが、2m/n<0.27を満たす、請求項1~3のいずれかに記載のポリイソオレフィンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソオレフィン系化合物をモノマーとして用いたポリイソオレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソオレフィン系化合物をモノマーとするポリイソオレフィンとしては、ポリイソブチレン(以下、PIBとも記す。)が知られている。ポリイソブチレンは、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック重合体(以下、SIBSとも記す。)等の前駆体として広く用いられている。SIBSの前駆体として用いるポリイソブチレンは、イソブチレンをカチオン重合することで得ることができるが、カチオン重合では、活性種であるカチオンが不安定な状態であるため、β-プロトン脱離による連鎖移動等の副反応が起こりやすい。β-プロトン脱離反応は重合温度が低い程、抑えられることが知られている。例えば、特許文献1には、SIBSの製造時に、イソブチレンをマイナス70℃でカチオン重合することが記載されている。
近年、環境問題等から、エネルギー消費の低減が進められている。例えば、特許文献2には、イソブチレンをマイナス50℃で重合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-349648号公報
【特許文献2】特開2009-126889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2に記載のように、マイナス50℃で、イソブチレンを重合した場合、β-プロトン脱離が多発する結果、末端に多量のイソプロぺニル基を有するPIBが生成することが知られている。末端に多量のイソプロぺニル基を有するPIBは、末端にスチレンをブロック重合することが困難であり、SIBSの前駆体として用いることが望ましくない。
【0005】
本発明は、従来の課題を解決するため、省エネルギー化を図りつつ、カチオン重合におけるβ―プロトン脱離反応を抑えたポリイソオレフィンの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリイソオレフィンの製造方法であって、イソオレフィン系化合物を含むモノマー成分を塩化チタン(IV)及びアミン系化合物の存在下で重合する工程を含み、重合反応溶液において、アミン系化合物の濃度が3~25mM、かつ、塩化チタン(IV)の濃度はアミン系化合物の濃度より15~40mM高く、重合温度がマイナス60~マイナス40℃であることを特徴とするポリイソオレフィンの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、省エネルギー化を図りつつ、カチオン重合におけるβ-プロトン脱離反応を抑えたポリイソオレフィンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、イソオレフィン系化合物を重合する際に、重合反応溶液におけるアミン系化合物の濃度、及び塩化チタン(IV)とアミン系化合物の濃度差を所定の範囲にしつつ、より高い温度、具体的には、マイナス60~マイナス40℃にて重合反応を行うことで、重合反応に必要なエネルギーを削減しつつ、カチオン重合におけるβ-プロトン脱離反応を抑制し得ることを見出した。
【0009】
本明細書において、数値範囲が「~」で示されている場合、該数値範囲は両端値(上限及び下限)を含む。例えば、「A~B」という数値範囲は、A及びBという両端値を含む範囲となり、「A以上B以下」と同じ範囲となる。また、本明細書において、数値範囲が複数記載されている場合、異なる数値範囲の上限及び下限を適宜組み合わせた数値範囲を含むものとする。
【0010】
ポリイソオレフィンは、イソオレフィン系化合物を含むモノマー成分を塩化チタン(IV)及びアミン系化合物の存在下で重合することで製造することができる。
【0011】
ポリイソオレフィンは、イソオレフィン系化合物のみを重合した重合体でもよく、イソオレフィン系化合物と他のモノマーを共重合した重合体でもよい。具体的には、ポリイソオレフィンは、バランスの取れた物性の観点から、イソオレフィン系化合物由来の単位を60モル%以上100モル%以下含むことが好ましく、70モル%以上100モル%以下含むことがより好ましく、80モル%以上100モル%以下含むことがさらに好ましく、90モル%以上100モル%以下含むことがさらにより好ましく、95モル%以上100モル%以下含むことがさらにより好ましく、100モル%からなるものでもよい。ポリイソオレフィンは、他のモノマーを40モル%以下、30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下、又は5モル%以下含んでもよい。
【0012】
イソオレフィン系化合物とは、二重結合を一つのみ有しており、二重結合を形成する二つの炭素原子のうち一つの炭素原子に二つのアルキル基が結合している化合物、あるいは二重結合を一つのみ有しており、二重結合を形成する二つの炭素原子のそれぞれに二つのアルキル基が結合している化合物を意味する。
【0013】
イソオレフィン系化合物としては、特に限定されないが、例えば、炭素数4~7のイソオレフィン(例えば、イソブチレン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン等)等が挙げられる。中でも、ポリイソオレフィンがSIBSの前駆体として好適に用いる観点から、イソオレフィン系化合物はイソブチレンであることが好ましい。イソオレフィン系化合物は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0014】
他のモノマーとしては、カチオン重合可能なモノマーであれば特に制限はないが、例えば、脂肪族オレフィン系モノマー、芳香族ビニル系モノマー、ジエン系モノマー、ビニルエーテル系モノマー、シラン系モノマー、ビニルカルバゾール、β-ピネン、アセナフチレン等が挙げられる。これらは1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0015】
イソオレフィン系化合物を60モル%以上100モル%以下含むモノマー成分を重合することで、イソオレフィン系化合物由来の単位を60モル%以上100モル%以下含むポリイソオレフィンを得ることができる。モノマー成分は、イソオレフィン系化合物を70モル%以上100モル%以下含むことが好ましく、80モル%以上100モル%以下含むことがより好ましく、90モル%以上100モル%以下含むことがさらに好ましく、95モル%以上100モル%以下含むことがさらにより好ましく、100モル%からなるものでもよい。
【0016】
アミン系化合物は、電子供与体として機能するものであり、カチオン重合に際して、成長炭素カチオンを安定化させることができる。重合反応溶液(重合用組成物とも称される。)におけるアミン系化合物の濃度は3~25mMであることにより、より高い温度、具体的には、マイナス60~マイナス40℃にて重合反応を行う場合でも、重合速度を適度に調整し、カチオン重合におけるβ-プロトン脱離反応を抑制することができる。アミン系化合物の濃度が3mM未満であると、マイナス60~マイナス40℃にて重合反応を行う際、重合速度の調整作用が弱く、イソオレフィン系化合物のカチオン重合におけるβ-プロトン脱離反応を抑制することができない。アミン系化合物の濃度が25mMを超えると、重合速度が遅くなりすぎ、重合に時間がかかるため、エネルギーコストが増えてしまう。重合反応溶液におけるアミン系化合物の濃度は4~23mMであることが好ましく、5~20mMであることがより好ましい。
【0017】
本明細書において、重合反応溶液中のアミン系化合物の濃度は、イソオレフィン系化合物の重合反応終了時の「重合反応溶液の体積」と「アミン系化合物のモル数」に基づいて、下記数式(1)で算出する。下記数式(1)において、「重合反応溶液の体積」は、「重合反応に用いた全ての物質(モノマー、触媒、溶媒などを含む。)の体積の総和」である。
【0018】
[数式1]
[重合反応溶液中のアミン系化合物の濃度]=「アミン系化合物のモル数」(mmol)
/「重合反応溶液の体積」(L)
【0019】
アミン系化合物としては、例えば、ピリジン系化合物を好適に用いることができる。ピリジン系化合物としては、例えば、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、3、5-ジメチルピリジン、2,6-ジメチルピリジン、2,6-ジ-tert-ブチルピリジン、2-tert-ブチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン等が挙げられる。ピリジン系化合物以外のアミン系化合物としては、例えば、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、1-メチルピドリジン、1-メチルピペリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、N,N,N’,N’-テトラアセチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン等が挙げられる。アミン系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
重合の際、本発明の効果を阻害しない範囲内で、アミン系化合物に加えて、エーテル系化合物、エステル系化合物、及びアミド系化合物等の他の電子供与体を用いてもよい。
【0021】
塩化チタン(IV)は、ルイス酸の一種であり、重合触媒として機能する、重合反応溶液において、塩化チタン(IV)の濃度がアミン系化合物の濃度より15~40mM高いことにより、より高い温度、具体的には、マイナス60~マイナス40℃にて重合反応を行う場合でも、重合速度を適度に調整し、カチオン重合におけるβ-プロトン脱離反応を効果的に抑制することができる。塩化チタン(IV)とアミン系化合物の濃度差が15mM未満であると、重合速度が遅くなりすぎ、重合に時間がかかるため、エネルギーコストが増えてしまう。塩化チタン(IV)とアミン系化合物の濃度差が40mMを超えると、マイナス60~マイナス40℃にて重合反応を行う際、アミン系化合物による重合速度の調整作用が弱く、カチオン重合におけるβ-プロトン脱離反応を抑制することができない。重合反応溶液において、塩化チタン(IV)の濃度がアミン系化合物の濃度より、17~35mM高いことが好ましく、18~30mM高いことがより好ましい。
【0022】
本明細書において、重合反応溶液中の塩化チタン(IV)の濃度は、イソオレフィン系化合物の重合反応終了時の「重合反応溶液の体積」と「塩化チタン(IV)のモル数」に基づいて、下記数式(2)で算出する。下記数式(2)において、「重合反応溶液の体積」は、「重合反応に用いた全ての物質(モノマー、触媒、溶媒などを含む。)の体積の総和」である。
【0023】
[数式2]
[重合反応溶液中の塩化チタン(IV)濃度]=「塩化チタン(IV)のモル数」(mmol)/「重合反応溶液の体積」(L)
【0024】
モノマー成分の重合は、さらに下記一般式(1)で表される化合物の存在下で行なわれることが好ましい。
【0025】
【化1】
【0026】
但し、前記一般式(1)において、複数のR1は同一又は異なってもよく、水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基を示し、R2は1価若しくは多価の芳香族炭化水素基又は1価若しくは多価の脂肪族炭化水素基を示し、X1はハロゲン原子、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数1~6のアシロキシ基(アシルオキシ基)を示し、nは1~6の整数を表し、X1が複数存在する時、それらは同一であっても異なってもよい。
【0027】
上記一般式(1)で表される化合物は、重合開始剤として機能するものであり、ルイス酸、すなわち塩化チタン(IV)の存在下炭素カチオンを生成し、カチオン重合の開始点になると考えられる。
【0028】
上記一般式(1)で表される化合物としては、例えば、(1-クロル-1-メチルエチル)ベンゼン[C65C(CH32Cl]、1,4-ビス(1-クロル-1-メチルエチル)ベンゼン[1,4-Cl(CH32CC64C(CH32Cl]、1,3-ビス(1-クロル-1-メチルエチル)ベンゼン[1,3-Cl(CH32CC64C(CH32Cl]、1,3,5-トリス(1-クロル-1-メチルエチル)ベンゼン[1,3,5-(ClC(CH32363]、1,3-ビス(1-クロル-1-メチルエチル)-5-(tert-ブチル)ベンゼン[1,3-(C(CH32Cl)2-5-(C(CH33)C63]等が挙げられる。中でも、1,4-ビス(1-クロル-1-メチルエチル)ベンゼン、1,3-ビス(1-クロル-1-メチルエチル)ベンゼン及び1,3-ビス(1-クロル-1-メチルエチル)-5-(tert-ブチル)ベンゼンからなる群から選ばれる一つ以上が好ましく、1,4-ビス(1-クロル-1-メチルエチル)ベンゼン及び1,3-ビス(1-クロル-1-メチルエチル)ベンゼンからなる群から選ばれる一つ以上のビス(1-クロル-1-メチルエチル)ベンゼンがより好ましい。なお、ビス(1-クロル-1-メチルエチル)ベンゼンは、ビス(α-クロロイソプロピル)ベンゼン、ビス(2-クロロ-2-プロピル)ベンゼンあるいはジクミルクロライドとも称され、1,4-ビス(1-クロル-1-メチルエチル)ベンゼンはp-ジクミルクロライドとも称される。
【0029】
前記一般式(1)で表される化合物におけるX1の数nと、ポリイソオレフィン中のイソプロペニル基の1分子当たりの平均個数mの関係式2m/nは、0.27未満であることが好ましく、0.25以下であることが好ましく、0.24以下であることがより好ましい。このようなポリイソオレフィンは、X1末端が多いことから、スチレンとブロック重合しやすく、SIBSの前駆体として好適に用いることができる。
【0030】
重合反応溶液は、さらに有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒としては、カチオン重合で一般的に使用される有機溶媒であれば特に限定されず、ハロゲン化炭化水素;脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素等の非ハロゲン化炭化水素;又はこれらの混合物等を用いることができる。
【0031】
ハロゲン化炭化水素としては、例えば、塩化メチル、塩化メチレン、クロロエタン、ジクロロエタン、1-クロロプロパン、1-クロロ-2-メチルプロパン、1-クロロブタン(塩化ブチルとも称される。)、1-クロロ-2-メチルブタン、1-クロロ-3-メチルブタン、1-クロロ-2,2-ジメチルブタン、1-クロロ-3,3-ジメチルブタン、1-クロロ-2,3-ジメチルブタン、1-クロロペンタン、1-クロロ-2-メチルペンタン、1-クロロ-3-メチルペンタン、1-クロロ-4-メチルペンタン、1-クロロヘキサン、1-クロロ-2-メチルヘキサン、1-クロロ-3-メチルヘキサン、1-クロロ-4-メチルヘキサン、1-クロロ-5-メチルヘキサン、1-クロロヘプタン、1-クロロオクタン、2-クロロプロパン、2-クロロブタン、2-クロロペンタン、2-クロロヘキサン、2-クロロヘプタン、2-クロロオクタン、及びクロロベンゼン等が使用できる。これらは1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0032】
脂肪族炭化水素としては、例えば、n-ブタン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、2-メチルプロパン、2-メチルブタン、2,3,3-トリメチルペンタン、2,2,5-トリメチルヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、パラフィン油等が挙げられる。これらは1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0033】
芳香族系炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等が挙げられる。これらは1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0034】
中でも、溶解性及び経済性の点から炭素数3~5のハロゲン化炭化水素と脂肪族炭化水素との混合有機溶媒を用いることが好ましく、1-クロロプロパン、1-クロロブタン、及び1-クロロペンタンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化炭化水素と、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、及びエチルシクロヘキサンからなる群から選択される1種以上の非ハロゲン化炭化水素との組み合わせが溶解性、経済性、反応性、及び後処理工程での蒸留のしやすさの点から特に好ましい。
【0035】
有機溶媒は、重合体の溶液の粘度及び除熱の容易さを考慮して、得られる重合体の濃度が1~50重量%となるように設定するのが好ましく、1~30重量%となるように設定することがより好ましい。
【0036】
重合工程は、上述した塩化チタン(IV)、アミン系化合物、一般式(1)で表される化合物、及び有機溶媒を共存させた条件下で行うことが好ましい。
【0037】
重合工程は、エネルギーコスト削減及び得られるポリイソオレフィンの物性の観点から、より高い温度、具体的には、マイナス60~マイナス40℃の範囲で行う。マイナス55~マイナス45℃の範囲で行うことが好ましい。具体的には、塩化チタン(IV)以外の重合に用いる各成分をマイナス60~マイナス40℃の範囲内の温度まで冷却した後に、塩化チタン(IV)を加えて重合を開始することができる。重合反応溶液に水やメタノール等を加えることで重合を終了することができる。なお、上述した塩化チタン(IV)及びアミン系化合物の濃度を算出する際の重合反応溶液の体積は、重合を終了させるために添加した水等の体積は含まない。
【0038】
重合時間は特に限定されないが、例えば、生産性の観点で、1分~48時間が好ましく、10分~36時間がより好ましく、30分~24時間がさらに好ましい。
【0039】
ポリイソオレフィンの製造方法は、重合工程に加えて、他の工程を含んでもよい。他の工程としては、例えば、重合工程で得られた重合体溶液(ドープ)から有機溶媒や水等を除去する工程等が挙げられる。ドープから有機溶媒や水を除去する方法は、特に限定されず、公知乃至慣用の方法を選択して実施できる。除去した有機溶媒は、適宜精製してもよい。
重合に使用される有機溶媒をより高度に精製する方法としては、蒸留による方法が挙げられる。蒸留であれば、沸点に差異のある不純物はほぼ除去することが可能である。蒸留はバッチ蒸留でもよいし連続蒸留でもよい。例えば、バッチ蒸留の場合には、蒸留初期の塔頂留出液を抜き出すことにより低沸点不純物を除去し、かつ蒸留後の塔底残存液を抜き出すことにより高沸点不純物を除去することができる。連続蒸留の場合には、除去対象不純物の種類によって、1本又は複数本の蒸留塔により不純物が除去可能である。
【0040】
ポリイソオレフィンは、分子量分布が狭い観点から、分子量分布(Mw/Mn)が1.45以下であることが好ましく、1.40以下であることがより好ましく、1.35以下であることがさらに好ましい。分子量分布(Mw/Mn)の下限は、特に限定されないが、例えば、1.05以上であってもよい。具体的には、ポリイソオレフィンの分子量分布は、1.05~1.45であってもよい。本明細書において、重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いた標準ポリスチレン換算法にて測定算出することができる。
【0041】
ポリイソオレフィンの用途は特に限定されないが、本発明の1以上の実施形態の製造方法では、β-プロトン脱離反応を抑えられていることから、得られたポリイソブチレンは末端イソプロぺニル基が少なく、SIBSの前駆体として好適に用いることができる。
【実施例0042】
以下、実施例にて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例によって本発明はなんら限定されるものではない。
【0043】
実施例及び比較例で用いた測定・評価方法は以下のとおりである。
【0044】
(分子量測定)
重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いた標準ポリスチレン換算法により測定・算出した。測定装置としては東ソー社製HLC-8320型GPCシステムを用いて、クロロホルムを移動相とし、カラム温度40℃の条件下にて、重合体濃度が1mg/mLである試料溶液を注入することで測定した。
【0045】
(イソプロペニル基の数)
得られる重合体中のイソプロペニル基の1分子当たりの平均個数mは、得られた重合体の1H NMRを測定し算出した。測定装置としてはBrucker社製Avance III 400を用いて、得られた重合体の四塩化炭素溶液に重アセトンを適量加え、これをサンプルとして測定した。開始剤由来のピーク(7.19ppm)及びイソプロペニル基由来のピーク(4.80ppm)の積分値(それぞれA、B)を求め、m=4×B/Aで求めた。
【0046】
(実施例1)
重合容器として500mLのセパラブルフラスコを用い、重合容器内を窒素置換した後、重合容器内に、注射器を用いて塩化ブチルとn-ヘキサンを体積比9:1で混合した混合有機溶媒61mLを加えた。次に、重合容器をマイナス50℃のドライアイス/エキネン中に浸して冷却した後、イソブチレン20.0mL(0.212mol)を加えた。次に、2-メチルピリジン0.043g(0.46mmol)、及び塩化ブチルとn-ヘキサンを体積比9:1で混合した混合有機溶媒1.00mLを加えた。次に、15重量%のp-ジクミルクロライドの塩化ブチル溶液0.47g(p-ジクミルクロライド:0.30mmol)、及び塩化ブチルとn-ヘキサンを体積比9:1で混合した混合有機溶媒10mLを加えた。次に、重合容器中の溶液がマイナス50℃まで冷却されていることを確認した後、塩化チタン(IV)0.16mL(1.5mmol)を加えることで重合反応を開始させた。重合反応開始時における重合容器中の溶液(重合反応溶液)の温度はマイナス53℃であった。
反応中は随時重合溶液を抜き取り、イソブチレンの消費率をガスクロマトグラフィーにより測定した。塩化チタン(IV)を投入してから20分後に、さらに塩化チタン(IV)を0.16mL(1.5mmol)追加した。最初に塩化チタン(IV)を投入してから80分後には、イソブチレンの100モル%が消費されていることを確認した。次に、メタノールを添加し、メタノールから再沈殿することで反応を終了させ、ポリイソブチレンを得た。
【0047】
(実施例2)
2-メチルピリジンの使用量を0.111g(1.19mmol)とすること以外は実施例1と同様に重合反応を開始させた。重合反応開始時における重合反応溶液の温度はマイナス51℃であった。
反応中は随時重合溶液を抜き取り、イソブチレンの消費率をガスクロマトグラフィーにより測定した。塩化チタン(IV)を投入してから20分後に、さらに塩化チタン(IV)を0.16mL(1.5mmol)追加した。最初に塩化チタン(IV)を投入してから135分後には、イソブチレンの99モル%が消費されていることを確認した。次に、メタノールを添加し、メタノールから再沈殿することで反応を終了させ、ポリイソブチレンを得た。
【0048】
(比較例1)
2-メチルピリジンの使用量を0.016g(0.17mmol)とすること以外は実施例1と同様に重合反応を開始させた。重合反応開始時における重合反応溶液の温度はマイナス53℃であった。
反応中は随時重合溶液を抜き取り、イソブチレンの消費率をガスクロマトグラフィーにより測定した。塩化チタン(IV)を投入してから20分後に、さらに塩化チタン(IV)を0.08mL(0.8mmol)追加した。最初に塩化チタン(IV)を投入してから90分後には、イソブチレンの100モル%が消費されていることを確認した。次に、メタノールを添加し、メタノールから再沈殿することで反応を終了させ、ポリイソブチレンを得た。
【0049】
実施例及び比較例で得られた重合体(ポリイソブチレン)の分子量及びイソプロペニル基の数を上述したとおりに測定し、その結果を下記表1に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
上記表1の結果から分かるように、実施例では、重合反応溶液中のアミン系化合物の濃度を3~25mMとし、塩化チタン(IV)の濃度をアミン系化合物の濃度より15~40mM高くすることで、マイナス70℃より高い温度、具体的にはマイナス60~マイナス40℃において、エネルギー消費を抑制しつつ、カチオン重合におけるβ-プロトン脱離反応を抑えることができ、イソプロペニル基の数が少ないポリイソブチレンを得ることができた。