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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104529
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】光選択透過フィルター
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20240729BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20240729BHJP
   C09B 23/01 20060101ALI20240729BHJP
   C09B 23/08 20060101ALI20240729BHJP
   C09B 23/14 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B1/115
C09B23/01
C09B23/08
C09B23/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008792
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】持松 拓途
(72)【発明者】
【氏名】久野 美輝
【テーマコード(参考)】
2H148
2K009
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA12
2H148CA13
2H148CA24
2H148CA27
2K009AA08
2K009BB11
2K009CC03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】近赤外領域の光を広範囲にわたってカットできる光選択透過フィルターを提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるシアニン化合物とシアニン化合物以外の近赤外線吸収色素を含有する吸収層を有する光選択透過フィルターであって、吸収層は、(a)波長690nm~800nmの範囲において、透過率が連続して3%以下となる波長帯の幅が35nm以上、(b)透過率が50%となる波長λ50が620nm~650nmの範囲に存在する、との特性を有する。

【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるシアニン化合物と、前記シアニン化合物以外の近赤外線吸収色素を含有する吸収層を有し、
【化1】
[式(1)中、
~Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、または置換基を有していてもよいアルキルチオ基を表すか、RとR、RとR、RとR、RとRは互いに連結して環を形成していてもよく、
は、酸素原子、硫黄原子、NR11、またはCR1112を表すか、Xは炭素原子または窒素原子を表し、Rと連結して環を形成していてもよく、
11とR12はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、または置換基を有していてもよいアリール基を表すか、R11とR12は互いに連結して環を形成していてもよく、
~R10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、または置換基を有していてもよいアルキルチオ基を表すか、RとR、RとR、RとR、RとR10は互いに連結して環を形成していてもよく、
は、酸素原子、硫黄原子、NR13、またはCR1314を表すか、Xは炭素原子または窒素原子を表し、R10と連結して環を形成していてもよく、
13とR14はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、または置換基を有していてもよいアリール基を表すか、R13とR14は互いに連結して環を形成していてもよく、
とR、RとR、RとR、RとR、RとX、RとR、RとR、RとR、RとR10、R10とXが連結して形成される環は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭化水素環、または置換基を有していてもよい複素環であり、
Lは、炭素数5以上9以下のメチン鎖を表し、当該メチン鎖に含まれるメチン基はそれぞれ独立して置換基を有していてもよく、当該置換基は互いに連結していてもよい。]
前記吸収層は、下記(a)および(b)を満たすことを特徴とする光選択透過フィルター。
(a)波長690nm~800nmの範囲において、透過率が連続して3%以下となる波長帯の幅が35nm以上
(b)透過率が50%となる波長λ50が620nm~650nmの範囲に存在する
【請求項2】
前記吸収層は、さらに下記(c)を満たす請求項1に記載の光選択透過フィルター。
(c)波長500nm~550nmの範囲の平均透過率が80%以上
【請求項3】
前記吸収層は紫外線吸収色素を含有し、さらに下記(d)を満たす請求項1に記載の光選択透過フィルター。
(d)波長350nm~395nmの範囲において、透過率が連続して5%以下となる波長帯の幅が10nm以上
【請求項4】
前記吸収層は、さらに下記(e)を満たす請求項3に記載の光選択透過フィルター。
(e)透過率が50%となる波長λ50が400nm~430nmの範囲に存在する
【請求項5】
前記吸収層は樹脂を含有する請求項1に記載の光選択透過フィルター。
【請求項6】
前記吸収層は、前記近赤外線吸収色素としてスクアリリウム化合物を含有する請求項1に記載の光選択透過フィルター。
【請求項7】
前記シアニン化合物は、下記式(2)で表されるシアニン化合物、および/または、下記式(3)で表されるシアニン化合物である請求項1に記載の光選択透過フィルター。
【化2】
[式(2)中、
およびRはそれぞれ独立して、炭素数3以上のアルキル基を表し、
、R、R、R、R11~R14およびLは、上記と同じ意味を表し(ただし、RとR、RとRは互いに連結して環を形成しない)、
a1およびRa2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、複数のRa1は互いに同一または異なっていてもよく、複数のRa2は互いに同一または異なっていてもよい。]
【化3】
[式(3)中、
およびRはそれぞれ独立して、炭素数3以上のアルキル基を表し、
およびRはそれぞれ独立して、炭素数4以上のアルキル基または炭素数3以上のアルコキシ基を表し、
、R、R、RおよびLは、上記と同じ意味を表し(ただし、RとR、RとRは互いに連結して環を形成しない)、
b1およびRb2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、複数のRb1は互いに同一または異なっていてもよく、複数のRb2は互いに同一または異なっていてもよい。]
【請求項8】
さらに透明基板を有する請求項1~7のいずれか一項に記載の光選択透過フィルター。
【請求項9】
さらに誘電体膜を有する請求項1~7のいずれか一項に記載の光選択透過フィルター。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の光選択透過フィルターを有する撮像素子。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載の吸収層を形成するための樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光選択透過フィルターに関し、特に近赤外領域の光をカットすることができる光選択透過フィルターに関する。本発明はまた、本発明の光選択透過フィルターを有する撮像素子と、本発明の光選択透過フィルターの吸収層を形成するための樹脂組成物も提供する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、ビデオカメラ、表示素子(LED等)等の撮像装置には、被写体の光を電気信号等に変換して出力する撮像素子が通常使用されている。このような撮像素子は、例えばCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等の検出素子(センサー)およびレンズを備えるとともに、高性能化のため、画像処理等の妨げとなる光学ノイズ(例えばゴーストやフレア)を除去するための近赤外線カットフィルターを備える場合がある。このような近赤外線カットフィルターには通常、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体(多層)膜が設けられており、誘電体膜は、高屈折率材料層と低屈折率材料層の各層の厚みや層数を調整することにより、所望の波長領域の光の入射をカットすることができる。
【0003】
ところで、誘電体膜は入射角によってカット波長域あるいは透過波長域が変化し、入射角が垂直方向から斜め方向に変化すると、カット波長域あるいは透過波長域が短波長側にシフトする。そのため誘電体多層膜では、斜め方向の入射光に対しては、近赤外領域の光を十分にカットできなかったり、あるいは可視光領域の光もカットして色味が変化する事態が生じうる。そこで、光学特性の入射角依存性を低減するために、近赤外線カットフィルターに近赤外線吸収色素を含有する吸収層を設けることがなされている。近赤外吸収色素としてはシアニン化合物やスクアリリウム化合物等が知られており、例えば特許文献1,2には、シアニン化合物やスクアリリウム化合物を含有する吸収層を備えた近赤外線カットフィルター(光選択透過フィルター)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/022069号
【特許文献2】国際公開第2019/168090号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、従来、近赤外線吸収色素を含有する吸収層を備えた光選択透過フィルターが様々検討されているが、吸収層の高機能化が求められている。具体的には、吸収層がより広範囲の近赤外領域の光を選択的に吸収できるようにして、光学特性の角度依存性や光学ノイズを低減できる光選択透過フィルターが求められている。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、近赤外領域の光を広範囲にわたってカットすることができる吸収層を備えた光選択透過フィルターを提供することにある。本発明はまた、本発明の光選択透過フィルターを有する撮像素子と、本発明の光選択透過フィルターの吸収層を形成するための樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決することができた本発明の光選択透過フィルター、撮像素子および樹脂組成物は下記の通りである。
[1] 下記式(1)で表されるシアニン化合物と、前記シアニン化合物以外の近赤外線吸収色素を含有する吸収層を有し、
【化1】

[式(1)中、
~Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、または置換基を有していてもよいアルキルチオ基を表すか、RとR、RとR、RとR、RとRは互いに連結して環を形成していてもよく、
は、酸素原子、硫黄原子、NR11、またはCR1112を表すか、Xは炭素原子または窒素原子を表し、Rと連結して環を形成していてもよく、
11とR12はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、または置換基を有していてもよいアリール基を表すか、R11とR12は互いに連結して環を形成していてもよく、
~R10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、または置換基を有していてもよいアルキルチオ基を表すか、RとR、RとR、RとR、RとR10は互いに連結して環を形成していてもよく、
は、酸素原子、硫黄原子、NR13、またはCR1314を表すか、Xは炭素原子または窒素原子を表し、R10と連結して環を形成していてもよく、
13とR14はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、または置換基を有していてもよいアリール基を表すか、R13とR14は互いに連結して環を形成していてもよく、
とR、RとR、RとR、RとR、RとX、RとR、RとR、RとR、RとR10、R10とXが連結して形成される環は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭化水素環、または置換基を有していてもよい複素環であり、
Lは、炭素数5以上9以下のメチン鎖を表し、当該メチン鎖に含まれるメチン基はそれぞれ独立して置換基を有していてもよく、当該置換基は互いに連結していてもよい。]
前記吸収層は、下記(a)および(b)を満たすことを特徴とする光選択透過フィルター。
(a)波長690nm~800nmの範囲において、透過率が連続して3%以下となる波長帯の幅が35nm以上
(b)透過率が50%となる波長λ50が620nm~650nmの範囲に存在する
[2] 前記吸収層は、さらに下記(c)を満たす[1]に記載の光選択透過フィルター。
(c)波長500nm~550nmの範囲の平均透過率が80%以上
[3] 前記吸収層は紫外線吸収色素を含有し、さらに下記(d)を満たす[1]または[2]に記載の光選択透過フィルター。
(d)波長350nm~395nmの範囲において、透過率が連続して5%以下となる波長帯の幅が10nm以上
[4] 前記吸収層は、さらに下記(e)を満たす[3]に記載の光選択透過フィルター。
(e)透過率が50%となる波長λ50が400nm~430nmの範囲に存在する
[5] 前記吸収層は樹脂を含有する[1]~[4]のいずれかに記載の光選択透過フィルター。
[6] 前記吸収層は、前記近赤外線吸収色素としてスクアリリウム化合物を含有する[1]~[5]のいずれかに記載の光選択透過フィルター。
[7] 前記シアニン化合物は、下記式(2)で表されるシアニン化合物、および/または、下記式(3)で表されるシアニン化合物である[1]~[6]のいずれかに記載の光選択透過フィルター。
【化2】

[式(2)中、
およびRはそれぞれ独立して、炭素数3以上のアルキル基を表し、
、R、R、R、R11~R14およびLは、上記と同じ意味を表し(ただし、RとR、RとRは互いに連結して環を形成しない)、
a1およびRa2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、複数のRa1は互いに同一または異なっていてもよく、複数のRa2は互いに同一または異なっていてもよい。]
【化3】

[式(3)中、
およびRはそれぞれ独立して、炭素数3以上のアルキル基を表し、
およびRはそれぞれ独立して、炭素数4以上のアルキル基または炭素数3以上のアルコキシ基を表し、
、R、R、RおよびLは、上記と同じ意味を表し(ただし、RとR、RとRは互いに連結して環を形成しない)、
b1およびRb2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、複数のRb1は互いに同一または異なっていてもよく、複数のRb2は互いに同一または異なっていてもよい。]
[8] さらに透明基板を有する[1]~[7]のいずれかに記載の光選択透過フィルター。
[9] さらに誘電体膜を有する[1]~[8]のいずれかに記載の光選択透過フィルター。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の光選択透過フィルターを有する撮像素子。
[11] [1]~[9]のいずれかに記載の吸収層を形成するための樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の光選択透過フィルターは、近赤外領域の光を広範囲にわたってカットすることができる。特に式(1)で表されるシアニン化合物は、耐熱性に優れることから、吸収層の形成の際にシアニン化合物の分解を抑えることができ、あるいは高温下で光選択透過フィルターを使用してもシアニン化合物の分解を抑えることができる。そのため、本発明の光選択透過フィルターは、シアニン化合物に由来する吸収特性を示す好適に示すものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例で作製した樹脂積層基板1の吸収層の吸収スペクトルを表す。
図2】実施例で作製した樹脂積層基板2の吸収層の吸収スペクトルを表す。
図3】実施例で作製した樹脂積層基板3の吸収層の吸収スペクトルを表す。
図4】実施例で作製した樹脂積層基板4の吸収層の吸収スペクトルを表す。
図5】実施例で作製した樹脂積層基板5の吸収層の吸収スペクトルを表す。
図6】実施例で作製した樹脂積層基板6の吸収層の吸収スペクトルを表す。
図7】実施例で作製した比較樹脂積層基板1の吸収層の吸収スペクトルを表す。
図8】実施例で作製した比較樹脂積層基板2の吸収層の吸収スペクトルを表す。
図9】実施例で作製した樹脂積層基板6と光学フィルター1の透過スペクトルを表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の光選択透過フィルターは、特定のシアニン化合物と、特定のシアニン化合物以外の近赤外線吸収色素を含有する吸収層を有し、吸収層が、(a)波長690nm~800nmの範囲において、透過率が連続して3%以下となる波長帯の幅が35nm以上、(b)透過率が50%となる波長λ50が620nm~650nmの範囲に存在する、との特性を満たすものである。なお本明細書において、「a~b」との記載は、「a以上b以下」を意味する。
【0011】
吸収層は、波長690nm~800nmの範囲において、透過率が連続して3%以下となる波長帯(以下、「近赤外吸収波長帯」と称する場合がある)の幅が35nm以上となる吸収特性を有するため、近赤外領域において幅広い吸収帯を有するものとなる。これにより、近赤外領域の光を効果的にカットすることができ、撮像素子において画像処理の妨げとなる光学ノイズを好適に除去することができる。例えば、吸収層上に誘電体膜を設けた場合の光学特性の入射角依存性、具体的には、可視光領域の長波長側における入射角依存性を大きく低減することができ、従来よりも大きい入射角に対しても、所望の波長範囲の近赤外線をカットしたり、あるいは透過光の色味の変化を抑えることができる。あるいは、誘電体膜を設けなくても、近赤外領域の光を広い波長範囲にわたってカットすることができ、この場合は、可視光領域の長波長側における入射角依存性をほぼなくすことができる。
【0012】
吸収層は、近赤外吸収波長帯よりも短波長側で透過率50%となる波長λ50が620nm~650nmの範囲となる吸収特性を有する。吸収層の波長λ50が620nm~650nmの範囲に存在すれば、近赤外領域の光を選択的にカットしつつ、赤色領域の可視光を高い透過率で透過させることができ、透過光の色味を実際のものに近付けることができる。なお、波長λ50およびその前後では、吸収層は吸収極大ピークを有しないことが好ましく、ショルダーピークが認められないことが好ましい。例えば、波長600nm~680nmの範囲において、吸収層の透過率(透過スペクトル)は単調減少に推移することが好ましい。
【0013】
シアニン化合物は近赤外領域に吸収域を有するため、吸収層には、少なくとも2種類の近赤外吸収色素が含まれることとなる。近赤外吸収波長帯は、特定のシアニン化合物によって形成されてもよく、特定のシアニン化合物以外の近赤外線吸収色素によって形成されてもよく、その両方によって形成されてもよい。なお、近赤外吸収波長帯は、少なくとも特定のシアニン化合物以外の近赤外線吸収色素によって形成されることが好ましい。シアニン化合物は近赤外領域の比較的長波長側の波長域の光を吸収することができるため、近赤外吸収波長帯が特定のシアニン化合物以外の近赤外線吸収色素によって形成されることによって、吸収層が近赤外領域の幅広い波長域の光を吸収するものとなる。例えば近赤外カットフィルターでは、層構造の1つとしてブルーガラスが設けられる場合があり、これにより近赤外領域の比較的長波長側の光の透過を抑えて光学ノイズを低減することができるが、ブルーガラスは割れやすいため薄型化には限界がある。しかしながら、本発明の光選択透過フィルターによれば、吸収層に特定のシアニン化合物が含まれることによって、吸収層にブルーガラスの代替機能を担わせることが可能となる。
【0014】
近赤外吸収波長帯の幅は、光学特性の入射角依存性をより低減する点から、40nm以上が好ましく、45nm以上がより好ましく、50nm以上がさらに好ましい。なお、近赤外吸収波長帯が、特定のシアニン化合物と、特定のシアニン化合物以外の近赤外線吸収色素によって形成される場合は、近赤外吸収波長帯をより広く形成することが可能となる。例えば、近赤外吸収波長帯の幅は、60nm以上、70nm以上、80nm以上、または90nm以上であってもよい。近赤外吸収波長帯の幅の上限は特に限定されず、例えば、250nm以下、200nm以下、150nm以下、120nm以下、100nm以下、または80nm以下であってもよい。
【0015】
近赤外吸収波長帯の短波長側の境界、すなわち近赤外吸収波長帯において透過率が3%以下となる最も短い波長は720nm以下であることが好ましく、715nm以下がより好ましく、710nm以下がさらに好ましい。近赤外吸収波長帯の短波長側の境界がこのような波長域に形成されていれば、入射角によらず、画像処理における光学ノイズを好適に除去しやすくなる。近赤外吸収波長帯の短波長側の境界の下限値としては、可視光領域の光の透過率を高める点から、675nm以上が好ましく、680nm以上がより好ましい。一方、近赤外吸収波長帯の長波長側の境界、すなわち近赤外吸収波長帯において透過率が3%以下となる最も長い波長は745nm以上であることが好ましく、750nm以上がより好ましい。近赤外吸収波長帯の長波長側の境界がこのような波長域に形成されていれば、より大きい入射角であっても色味の変化を抑えることができる。近赤外吸収波長帯の長波長側の境界の上限値は特に限定されず、800nmであってもよく、それよりも短波長または長波長であってもよい。
【0016】
特定のシアニン化合物に由来する吸収ピークは、近赤外吸収波長帯に含まれてもよく、近赤外吸収波長帯のショルダーピーク(吸収極大を示さないピーク)として形成されてもよく、近赤外吸収波長帯の長波長側に吸収極大を示すピークとして形成されてもよい。特定のシアニン化合物に由来する吸収ピークが近赤外吸収波長帯に含まれる場合は、近赤外吸収波長帯の幅をより広く形成することが容易になり、光学特性の入射角依存性をより低減することができる。特定のシアニン化合物に由来する吸収ピークが近赤外吸収波長帯の長波長側に吸収極大を示すピークとして形成される場合は、吸収層は、波長800nm~1100nmの範囲(より好ましくは800nm~1000nmの範囲)に1つ以上の吸収極大を有することが好ましい。これにより、吸収層にブルーガラスの代替機能を担わせることが容易になる。
【0017】
吸収層は、波長500nm~550nmの範囲の平均透過率が80%以上となることが好ましい。これにより、吸収層が可視光領域の光を高い透過率で透過するものとなる。吸収層の波長500nm~550nmの範囲の平均透過率は、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0018】
吸収層はさらに紫外線吸収色素を含有し、近紫外(UVA)~紫色領域に吸収波長域を有するものであってもよい。この場合、吸収層は、波長350nm~395nmの範囲において、透過率が連続して5%以下となる波長帯(以下、「近紫外吸収波長帯」と称する場合がある)の幅が10nm以上、との特性を満たすことが好ましい。このように構成された光選択透過フィルターは、近赤外領域と近紫外領域の光をカットするものとなるため、可視光領域の長波長側における入射角依存性とともに、可視光領域の短波長側における入射角依存性も低減できるものとなる。
【0019】
近紫外吸収波長帯の長波長側の境界、すなわち近紫外吸収波長帯において透過率が5%以下となる最も長い波長は373nm以上であることが好ましく、375nm以上がより好ましく、378nm以上がさらに好ましい。近紫外吸収波長帯の長波長側の境界がこのような波長域に形成されていれば、入射角によらず、画像処理における光学ノイズを好適に除去しやすくなる。近紫外吸収波長帯の長波長側の境界の下限値としては、可視光領域の光線透過率を高める点から、395nm以下が好ましい。一方、近紫外吸収波長帯の短波長側の境界、すなわち近紫外吸収波長帯において透過率が5%以下となる最も短い波長は368nm以下であることが好ましく、365nm以下がより好ましい。近紫外吸収波長帯の短波長側の境界がこのような波長域に形成されていれば、より大きい入射角であっても色味の変化を抑えることができる。近紫外吸収波長帯の短波長側の境界の下限値は特に限定されず、350nmであってもよく、それよりも短波長または長波長にあってもよい。
【0020】
吸収層が近紫外吸収波長帯を有する場合、透過率が50%となる波長λ50が400nm~430nmの範囲に存在することが好ましい。吸収層の波長λ50が400nm~430nmの範囲に存在すれば、近紫外領域の光を選択的にカットしつつ、紫色領域の可視光を高い透過率で透過させることができ、透過光の色味を実際のものに近付けることができる。なお、波長λ50およびその前後では、吸収層は吸収極大ピークを有しないことが好ましく、ショルダーピークが認められないことが好ましい。例えば、波長400nm~430nmの範囲において、吸収層の透過率(透過スペクトル)は単調増加に推移することが好ましい。
【0021】
本発明の光選択透過フィルターは、例えば赤色~近赤外領域における入射角依存性を、入射角0°のときに透過率50%となる波長と入射角70°のときに透過率50%となる波長の差を30nm以下、あるいは20nm以下にすることができる。吸収層がさらに紫外線吸収色素を含有する場合は、光選択透過フィルターの紫外~紫色領域における入射角依存性を、入射角0°のときに透過率50%となる波長と入射角70°のときに透過率50%となる波長の差を15nm以下、あるいは10nm以下にすることができる。
【0022】
吸収層の透過スペクトルは、波長300nm~1100nmの範囲で測定ピッチ1nmごとに透過率を測定することにより求める。測定ピッチ(1nm)未満における波長の透過率の値は、1nmピッチの透過率の測定値から線形補間することにより算出する。
【0023】
吸収層に含まれる特定のシアニン化合物としては、下記式(1)で表されるシアニン化合物が用いられる。下記式(1)で表されるシアニン化合物を用いることにより、近赤外領域のより長波長側の波長域の光を吸収することが可能となり、吸収層に特定のシアニン化合物以外の近赤外線吸収色素が含まれることと相まって、吸収層が近赤外領域の広い波長域の光を吸収するものとなる。また、対アニオンとしてB(C を有し、塩形成しているため、式(1)で表されるシアニン化合物は、耐熱性に優れるものとなる。その結果、シアニン化合物を樹脂に配合して加熱成形したり加熱硬化する際など、シアニン化合物の分解を抑えることができ、シアニン化合物に由来する吸収特性を示す吸収層を備えた光選択透過フィルターを製造することが容易になる。
【0024】
【化4】
【0025】
上記式(1)において、R~Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、または置換基を有していてもよいアルキルチオ基を表すか、RとR、RとR、RとR、RとRの少なくとも1つは互いに連結して環を形成していてもよく、Xは、酸素原子、硫黄原子、NR11、またはCR1112を表すか、Xは炭素原子または窒素原子を表し、Rと連結して環を形成していてもよく、XがNR11またはCR1112である場合、R11とR12はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、または置換基を有していてもよいアリール基を表すか、R11とR12が互いに連結して環を形成していてもよく、R~R10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、または置換基を有していてもよいアルキルチオ基を表すか、RとR、RとR、RとR、RとR10の少なくとも1つは互いに連結して環を形成していてもよく、Xは、酸素原子、硫黄原子、NR13、またはCR1314を表すか、Xは炭素原子または窒素原子を表し、R10と連結して環を形成していてもよく、XがNR13またはCR1314である場合、R13とR14はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、または置換基を有していてもよいアリール基を表すか、R13とR14が互いに連結して環を形成していてもよく、RとR、RとR、RとR、RとR、RとX、RとR、RとR、RとR、RとR10、R10とXが連結して形成される環は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭化水素環、または置換基を有していてもよい複素環であり、Lは、炭素数5以上9以下のメチン鎖を表し、当該メチン鎖に含まれるメチン基はそれぞれ独立して置換基を有していてもよく、当該置換基は互いに連結していてもよい。なお、シアニン化合物には、共鳴関係にある化合物が存在する場合があるが、式(1)のシアニン化合物には共鳴関係にある化合物も含まれる。
【0026】
~R14のハロゲン原子としては、フッ素原子(フルオロ基)、塩素原子(クロロ基)、臭素原子(ブロモ基)、ヨウ素原子(ヨード基)等が挙げられる。
【0027】
~R14のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等の直鎖状または分岐状のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等の環状(脂環式)アルキル基等が挙げられる。アルキル基は置換基を有していてもよく、アルキル基が有する置換基としては、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲノ基、水酸基、カルボキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基等が挙げられる。ハロゲノ基を有するアルキル基としては、モノハロゲノアルキル基、ジハロゲノアルキル基、トリハロメチル単位を有するアルキル基、パーハロゲノアルキル基等が挙げられる。ハロゲノ基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、特にフッ素原子が好ましい。アルキル基の炭素数(置換基を除く炭素数)は1~20が好ましく、具体的には、直鎖状または分岐状のアルキル基であれば炭素数1~20が好ましく、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1~6であり、環状のアルキル基であれば炭素数4~10が好ましく、5~8がより好ましい。
【0028】
~R10のアルコキシ基、アルキルチオ基に含まれるアルキル基の具体例は、上記のアルキル基に関する説明が参照される。
【0029】
11~R14のアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、インデニル基等が挙げられる。アリール基は置換基を有していてもよく、アリール基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ヘテロアリール基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。アリール基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、6~20が好ましく、より好ましくは6~12である。
【0030】
とR、RとR、RとR、RとR、RとX、RとR、RとR、RとR、RとR10、R10とXが連結して形成される環(以下、「環R」と称する)は炭化水素環または複素環を表し、これらの環構造は芳香族性を有していても有していなくてもよい。環Rとしては、芳香族炭化水素環、芳香族複素環、非芳香族炭化水素環、非芳香族複素環が挙げられる。環Rの環員数は、5~8であることが好ましく、5~7がより好ましく、5または6がさらに好ましい。
【0031】
環Rの芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環、フルオランテン環等が挙げられる。芳香族炭化水素環は、環構造を1個のみ有するものであってもよく、2個以上の環構造が縮合したものであってもよい。
【0032】
環Rの芳香族複素環としては、N(窒素原子)、O(酸素原子)およびS(硫黄原子)から選ばれる1種以上の原子を環構造に含み、芳香族性を有するものであれば特に限定されず、例えば、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、プリン環、プテリジン環等が挙げられる。芳香族複素環は、環構造を1個のみ有するものであってもよく、2個以上の環構造が縮合したものであってもよい。
【0033】
環Rの非芳香族炭化水素環としては脂肪族炭化水素環が挙げられ、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の炭素数3~10の単環のシクロアルカン;シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン(例えば、1,3-シクロヘキサジエン)、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン等の炭素数3~10の単環のシクロアルケン等が挙げられる。
【0034】
環Rの非芳香族複素環としては、上記の脂肪族炭化水素環の環を構成する炭素原子の1個以上が、N(窒素原子)、S(硫黄原子)およびO(酸素原子)から選ばれる少なくとも1種以上の原子に置き換わった環が挙げられる。非芳香族複素環としては、例えば、ピロリジン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロチオフェン環、ピペリジン環、テトラヒドロピラン環、テトラヒドロチオピラン環、モルホリン環、ヘキサメチレンイミン環、ヘキサメチレンオキシド環、ヘキサメチレンスルフィド環、ヘプタメチレンイミン環等が挙げられる。
【0035】
環Rは他の環と縮環した縮合環構造を有していてもよく、そのような環構造としては、例えば、インデン環、フルオレン環、ベンゾフルオレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、ベンゾピラン環、アクリジン環、キサンテン環、カルバゾール環、プリン環、プテリジン環等が挙げられる。
【0036】
環Rとしては、芳香族炭化水素環または芳香族複素環が好ましい。環Rが芳香族炭化水素環または芳香族複素環であれば、π電子系がシアニン化合物の広範囲に広がり、吸収波長の長波長化を図ることができる。環Rは、芳香族炭化水素環がより好ましく、ベンゼン環がさらに好ましい。
【0037】
環Rは、置換基(以下、「置換基P」と称する)を有していてもよい。置換基Pとしては有機基およびハロゲノ基(ハロゲン原子)が挙げられる。有機基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールオキシカルボニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基、ヘテロアリール基、アミノ基、アミド基、スルホンアミド基、カルボキシ基(カルボン酸基)、シアノ基等が挙げられる。環Rが複数の置換基Pを有する場合は、複数の置換基Pは同一であっても異なっていてもよい。
【0038】
置換基Pのアルキル基、および置換基Pのアルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基に含まれるアルキル基の具体例は、上記のR~R14のアルキル基に関する説明が参照される。
【0039】
置換基Pのアリール基、および置換基Pのアリールオキシ基、アリールチオ基、アリールオキシカルボニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基に含まれるアリール基の具体例は、上記のR11~R14のアリール基に関する説明が参照される。
【0040】
置換基Pのアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。アラルキル基は置換基を有していてもよく、アラルキル基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シアノ基、ニトロ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。アラルキル基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、7~25が好ましく、より好ましくは7~15である。
【0041】
置換基Pのヘテロアリール基としては、例えば、チエニル基、チオピラニル基、イソチオクロメニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピラリジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フラニル基、ピラニル基等が挙げられる。ヘテロアリール基は置換基を有していてもよく、ヘテロアリール基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、水酸基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。ヘテロアリール基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、2~20が好ましく、より好ましくは3~15である。
【0042】
置換基Pのアミノ基としては、式:-NRc1c2で表され、Rc1およびRc2がそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるもの等が挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基の具体例は、上記のこれらの基の説明が参照され、アルケニル基とアルキニル基としては、上記に例示したアルキル基の炭素-炭素単結合の一部が二重結合または三重結合に置き換わった基が挙げられる。Rc1とRc2は互いに連結して環を形成していてもよい。
【0043】
置換基Pのアミド基としては、式:-NH-C(=O)-Rc3で表され、Rc3がアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるもの等が挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基の具体例は、上記のこれらの基の説明が参照される。
【0044】
置換基Pのスルホンアミド基としては、式:-NH-SO-Rc4で表され、Rc4がアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるもの等が挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基の具体例は、上記のこれらの基の説明が参照される。
【0045】
置換基Pのハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。
【0046】
置換基Pとしては、上記の中でも、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、ハロゲノ基が好ましく、アルキル基、アルコキシ基およびハロゲノ基がより好ましい。この場合のアルキル基、アルコキシ基の炭素数は1~8が好ましく、より好ましくは1~5であり、さらに好ましくは1~3であり、アリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましく、アラルキル基の炭素数は7~13が好ましく、7~11がより好ましい。環Rは置換基Pを有しないことも好ましい。
【0047】
とRは環を形成せず独立した基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましい。アルキル基としては、直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられる。これにより、シアニン化合物の有機溶媒への溶解性を高めることができる。この場合のRとRのアルキル基は無置換であることが好ましい。RとRのアルキル基の炭素数は1~20が好ましく、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1~6である。RとRのアルキル基の炭素数は3以上であってもよく、4以上であってもよく、これによりシアニン化合物の耐熱性をさらに高めることができる。同様の観点から、RとRのアルキル基は直鎖状であることがより好ましい。
【0048】
~RおよびR~R10が環を形成せず独立した基である場合、R~RおよびR~R10は水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、ハロゲノ基が好ましく、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲノ基がより好ましい。この場合のアルキル基、アルコキシ基の炭素数は1~8が好ましく、より好ましくは1~5であり、さらに好ましくは1~3であり、アリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましく、アラルキル基の炭素数は7~13が好ましく、7~11がより好ましい。R~RおよびR~R10は水素原子であることも好ましい。
【0049】
~R、R~R10、XおよびXが互いに連結して環を形成する場合、RとRが連結して環を形成し、RとR10が連結して環を形成することが好ましく、あるいは、RとXが連結して環を形成し、R10とXが連結して環を形成することが好ましい。このとき形成される環としては、芳香族炭化水素環または芳香族複素環が好ましく、芳香族炭化水素環がより好ましく、ベンゼン環がさらに好ましい。
【0050】
がRと環を形成せず、XがR10と環を形成しない場合、XはNR11またはCR1112であることが好ましく、CR1112であることがより好ましく、XはNR13またはCR1314であることが好ましく、CR1314であることがより好ましい。R11~R14はアルキル基であるか、R11とR12が互いに連結して環を形成し、R13とR14が互いに連結して環を形成していることが好ましい。これにより、シアニン化合物の有機溶媒への溶解性を高めることができる。
【0051】
11~R14がアルキル基である場合、アルキル基としては、直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられる。アルキル基は無置換であることが好ましい。R11~R14のアルキル基の炭素数は1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1または2がさらに好ましい。
【0052】
11とR12が互いに連結して環を形成する場合、および、R13とR14が互いに連結して環を形成する場合、当該環(以下、「環S」と称する)としては炭化水素環および複素環が挙げられ、これらの詳細は上記の環Rの説明が参照される。環Sは縮合環構造を有していてもよく、置換基を有していてもよい。環Sが有していてもよい置換基としては、上記の置換基Pの説明が参照される。R11とR12またはR13とR14が互いに連結して形成された環Sは、式(1)の構造式中のピロール環、すなわちメチン鎖Lが結合しているピロール環とスピロ結合することとなる。その結果、環Sは、ピロール環に対してツイストして結合する形となり、シアニン化合物の分子歪みが生じ、バンドギャップに影響を与え、吸収波長の長波長化を図ることができる。また、シアニン化合物の会合や凝集が抑制され、有機溶媒に対する溶解性を高めることができる。
【0053】
式(1)中、Lは炭素数5以上9以下のメチン鎖を表し、すなわち、5以上9以下のメチン基(-CH=)が共役二重結合を形成して結合されたメチン鎖を表す。メチン鎖に含まれるメチン基はそれぞれ独立して置換基を有していてもよく、すなわち、メチン基上の水素原子はそれぞれ独立して置換基で置換されていてもよい。また、当該置換基は互いに連結していてもよい。メチン基が有していてもよい置換基としては、有機基および極性官能基が挙げられる。有機基の詳細は上記の置換基Pの有機基の説明が参照され、極性官能基としては、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基、スルホ基(スルホン酸基)等が挙げられる。なお、メチン鎖の炭素数は、メチン鎖に含まれるメチン基が置換基を有する場合は、置換基を除く炭素数を意味する。
【0054】
メチン鎖Lは奇数個のメチン基が繋がったものであることが好ましく、従って、メチン鎖は炭素数5、7または9であることが好ましく、5、7または9のメチン基が繋がったものであることが好ましい。この場合、式(1)で表されるシアニン化合物は、下記式(1-1)~式(1-3)で表されるものとなる。式(1-1)~式(1-3)において、R21~R29はそれぞれ独立して、水素原子、有機基または極性官能基を表す。
【0055】
【化5】
【0056】
メチン基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、ハロゲノ基が好ましく、アルキル基、アリール基、アミノ基、ハロゲノ基がより好ましい。この場合のアルキル基、アルコキシ基の炭素数は1~8が好ましく、より好ましくは1~5であり、さらに好ましくは1~3であり、アリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましく、アラルキル基の炭素数は7~13が好ましく、7~11がより好ましい。アミノ基は、式:-NRc1c2で表され、Rc1およびRc2がそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基またはアリール基であるものが好ましく、当該アルキル基の炭素数は1~5が好ましく、1~3がより好ましく、当該アリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましい。アミノ基は、式:-NRc1c2で表され、Rc1とRc2が連結して環を形成したものであってもよく、当該環の環員数は5または6が好ましく、当該環の構成原子は、窒素原子以外は炭素原子、酸素原子、硫黄原子が好ましい。
【0057】
メチン基の有する置換基が互いに連結する場合、2つ隣のメチン基の有する置換基が互いに連結して環を形成することが好ましい。式(1-1)~式(1-3)においては、R21とR23、R22とR24、R23とR25、R24とR26、R25とR27、R26とR28またはR27とR29が互いに連結して環を形成することが好ましい。
【0058】
メチン基の有する置換基が互いに連結して形成された環は、5~8員環であることが好ましく、5~7員環であることがより好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。メチン基の有する置換基が互いに連結して形成された環は、メチン鎖と一部共有して形成されるが、メチン鎖と共有する部分以外に不飽和結合を有していてもよく、有していなくてもよい。好ましくは、メチン基の有する置換基が互いに連結して形成された環は、メチン鎖と共有する部分以外に不飽和結合を有しない。
【0059】
メチン基の有する置換基が互いに連結して形成された環は置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、有機基および極性官能基が挙げられる。これらの有機基と極性官能基の詳細は、上記の説明が参照される。中でも、当該置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、ハロゲノ基が好ましい。この場合のアルキル基、アルコキシ基の炭素数は1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1または2がさらに好ましく、アリール基の炭素数は6~12が好ましい。アミノ基は、式:-NRc1c2で表され、Rc1およびRc2がそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基またはアリール基であるものが好ましく、当該アルキル基の炭素数は1~5が好ましく、1~3がより好ましく、当該アリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましい。
【0060】
メチン基が有していてもよい置換基は、メソ位(中央)またはその隣のメチン基に結合していることが好ましく、それ以外のメチン基は置換基を有しないことが好ましい。式(1-1)では、R22~R24が水素原子、有機基または極性官能基であってもよく、R21とR25が水素原子であることが好ましい。式(2-2)では、R23~R25が水素原子、有機基または極性官能基であってもよく、R21、R22、R26、R27が水素原子であることが好ましい。式(2-3)では、R24~R26が水素原子、有機基または極性官能基であってもよく、R21~R23、R27~R29が水素原子であることが好ましい。より好ましくは、連結して環を形成しない置換基はメソ位のメチン基に結合し、連結して環を形成する置換基は、メソ位の隣のメチン基に結合し、互いに連結している。メチン鎖Lはまた、置換基を有しないことも好ましい。
【0061】
式(1)で表されるシアニン化合物としては、例えば、下記式(2)~式(5)で表されるシアニン化合物を好適に用いることができる。下記式(2)~式(5)で表されるシアニン化合物は、有機溶媒への溶解性に優れ、樹脂組成物中にシアニン化合物を高濃度に含有させることができる。そのため、当該樹脂組成物から吸収層を形成すると、厚みを薄く形成しても、シアニン化合物に由来して近赤外領域の光を好適に吸収させることができる。また、耐熱性に優れることから、例えば熱可塑性樹脂や熱硬化樹脂に配合して、これを加熱成形したり熱硬化させた場合でも、シアニン化合物に由来して近赤外領域の光を好適に吸収することができる吸収層(樹脂層)を好適に得ることができる。
【0062】
下記式(2)で表されるシアニン化合物は、式(1)のシアニン化合物において、RとRが炭素数3以上のアルキル基であり、RとRが互いに連結してベンゼン環を形成し、RとR10が互いに連結してベンゼン環を形成し、R、R、R、Rが環を形成していないものである。すなわち、式(2)中、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数3以上のアルキル基を表し、R、R、R、R、R11~R14およびLは、上記と同じ意味を表し(ただし、RとR、RとRは互いに連結して環を形成しない)、Ra1およびRa2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、複数のRa1は互いに同一または異なっていてもよく、複数のRa2は互いに同一または異なっていてもよい。Ra1とRa2の有機基としては、上記の置換基Pの有機基が挙げられる。式(2)において、R11とR12、R13とR14は互いに連結して環を形成しないものであってもよい。
【0063】
【化6】
【0064】
式(2)において、RとRのアルキル基は、直鎖状または分岐状が好ましく、直鎖状がより好ましい。RとRのアルキル基の炭素数は4以上が好ましく、また12以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0065】
式(2)において、R、R、R、R、R11~R14、Ra1およびRa2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはアミノ基であることが好ましく、水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基がより好ましい。この場合のアルキル基、アルコキシ基の炭素数は1~8が好ましく、より好ましくは1~5であり、さらに好ましくは1~3であり、アリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましく、アラルキル基の炭素数は7~13が好ましく、7~11がより好ましい。R、R、R、R、Ra1およびRa2は、水素原子であることが特に好ましい。R11~R14は、アルキル基であることが好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましく、メチル基またはエチル基であることがさらに好ましい。
【0066】
下記式(3)で表されるシアニン化合物は、式(1)のシアニン化合物において、RとRが炭素数3以上のアルキル基であり、RとRが炭素数4以上のアルキル基または炭素数3以上のアルコキシ基であり、RとXが互いに連結してベンゼン環を形成し、R10とXが互いに連結してベンゼン環を形成し、R、R、R、Rが環を形成していないものである。すなわち、式(3)中、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数3以上のアルキル基を表し、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数4以上のアルキル基または炭素数3以上のアルコキシ基を表し、R、R、R、RおよびLは、上記と同じ意味を表し(ただし、RとR、RとRは互いに連結して環を形成しない)、Rb1およびRb2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、複数のRb1は互いに同一または異なっていてもよく、複数のRb2は互いに同一または異なっていてもよい。Rb1とRb2の有機基としては、上記の置換基Pの有機基が挙げられる。
【0067】
【化7】
【0068】
式(3)において、RとRのアルキル基は、直鎖状または分岐状が好ましく、直鎖状がより好ましい。RとRのアルキル基の炭素数は4以上が好ましく、また12以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0069】
式(3)において、RとRのアルキル基の炭素数は4以上であってもよく、5以上であってもよく、RとRのアルコキシ基の炭素数は3以上であってもよく、4以上であってもよく、これによりシアニン化合物の耐熱性を高めることが容易になる。同様の観点から、RとRのアルキル基、RとRのアルコキシ基に含まれるアルキル基は、直鎖状であることがより好ましい。
【0070】
式(3)において、R、R、R、R、Rb1およびRb2は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはアミノ基が好ましく、水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基がより好ましい。この場合のアルキル基、アルコキシ基の炭素数は1~8が好ましく、より好ましくは1~5であり、さらに好ましくは1~3であり、アリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましく、アラルキル基の炭素数は7~13が好ましく、7~11がより好ましい。R、R、R、R、Rb1およびRb2は、水素原子であることが特に好ましい。
【0071】
下記式(4)で表されるシアニン化合物は、式(1)のシアニン化合物において、R、R、R11~R14がアルキル基であり、R~R、R~R10が環を形成していないものである。すなわち、式(4)中、R、R、R11~R14はそれぞれ独立してアルキル基を表し、R~R、R~R10およびLは、上記と同じ意味を表す(ただし、R~R、R~R10は互いに連結して環を形成しない)。
【0072】
【化8】
【0073】
式(4)において、R、R、R11~R14のアルキル基は、直鎖状または分岐状が好ましく、直鎖状がより好ましい。R、R、R11~R14のアルキル基の炭素数は1~8が好ましく、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~3であり、R、R、R11~R14はメチル基またはエチル基であることが特に好ましい。
【0074】
式(4)において、R~R、R~R10は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはアミノ基が好ましく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはアルコキシ基がより好ましい。この場合のアルキル基、アルコキシ基の炭素数は1~8が好ましく、より好ましくは1~5であり、さらに好ましくは1~3であり、アリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましく、アラルキル基の炭素数は7~13が好ましく、7~11がより好ましい。R~R、R~R10は、水素原子であることが特に好ましい。
【0075】
下記式(5)で表されるシアニン化合物は、式(1)のシアニン化合物において、R11とR12が互いに連結して環を形成し、R13とR14が互いに連結して環を形成し、RとRがアルキル基であるものである。すなわち、式(5)中、RおよびRはそれぞれ独立してアルキル基を表し、R~R、R~R10およびLは、上記と同じ意味を表し、環Sと環Sは、置換基および/または縮合環構造を有していてもよい炭化水素環、または、置換基および/または縮合環構造を有していてもよい複素環を表す。環Sと環Sの詳細は上記の環Sの説明が参照され、以下の説明において、環Sと環Sをまとめて環Sと称する。
【0076】
【化9】
【0077】
式(5)において、RとRのアルキル基は、直鎖状または分岐状が好ましく、直鎖状がより好ましい。RとRのアルキル基の炭素数は1~8が好ましく、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~3であり、RとRはメチル基またはエチル基であることが特に好ましい。
【0078】
式(5)において、R~R、R~R10は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはアミノ基が好ましく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはアルコキシ基がより好ましい。この場合のアルキル基、アルコキシ基の炭素数は1~8が好ましく、より好ましくは1~5であり、さらに好ましくは1~3であり、アリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましく、アラルキル基の炭素数は7~13が好ましく、7~11がより好ましい。R~R、R~R10は、水素原子であることが特に好ましい。
【0079】
式(5)において、環Sの環員数は特に限定されないが、ピロール環とスピロ結合している炭化水素環または複素環の環員数は5~8が好ましく、5~7がより好ましく、5または6がさらに好ましい。これにより、環Sと環Sがピロール環に対してより大きい角度(90°に近い角度)でツイストしやすくなり、シアニン化合物の分子歪みを大きくすることができる。
【0080】
環Sは、ピロール環とスピロ結合している炭化水素環または複素環がπ結合を有することが好ましい。これにより、環Sの全体がピロール環に対してツイストした配置をとりやすくなり、シアニン化合物の分子歪みを大きくすることができる。この場合、ピロール環とスピロ結合している炭素の1つ隣の原子と2つ隣の原子がπ結合で繋がっていることが好ましい。当該π結合としては二重結合が挙げられ、例えば、炭素原子と炭素原子の二重結合、炭素原子と窒素原子の二重結合、窒素原子と窒素原子の二重結合等が挙げられる。環Sの隣接するピロール環とスピロ結合している炭化水素環または複素環のπ結合は、縮合環と一部を共有するものであってもよい。
【0081】
環Sの隣接するピロール環とスピロ結合している炭化水素環または複素環は、環員数が5または6であり、かつ二重結合を有することが好ましい。そのような環としては、シクロペンテン環、シクロペンタジエン環、シクロヘキセン環、シクロヘキサジエン環、2-ピロリン環、3-ピロリン環、2H-ピロール環、2-ピラゾリン環、2-イミダゾリジン環、ピペラジン環、2H-ピラン環、4H-ピラン環、2H-チオピラン環、4H-チオピラン環、4H-1,2-オキサジン環、6H-1,2-オキサジン環、4H-1,3-オキサジン環、2H-1,3-オキサジン環、6H-1,3-オキサジン環、2H-1,4-オキサジン環、6H-1,2-チアジン環、2H-1,4-チアジン環等が挙げられる。
【0082】
環Sは、縮合環構造を有する炭化水素環、または、縮合環構造を有する複素環であることが好ましい。これにより、環Sがピロール環に対してツイストした状態で嵩高く形成され、シアニン化合物の分子歪みを大きくすることができる。この場合、環Sにおいて、縮合環は、ピロール環とスピロ結合している炭素の1つ隣の原子と2つ隣の原子との結合を共有するように形成されることが好ましい。これにより、ピロール環の平面方向とは垂直方向に環Sがより遠くまで広がり、シアニン化合物の分子歪みをより大きくすることができる。
【0083】
環Sは、下記式(6-1)~式(6-4)で表される炭化水素環または複素環であることが特に好ましい。下記式(6-1)~式(6-4)中、環C~環Cはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭化水素環を表し、Yは、-CH-、-NH-、-O-または-S-を表し、Y~Yはそれぞれ独立して、-CH-、-CH=、-NH-、-N=、-O-または-S-を表し、*は、隣接するピロール環とスピロ結合する部位を表す。環C~環Cが有していてもよい置換基としては、上記の環Rが有していてもよい置換基Pの説明が参照される。
【0084】
【化10】
【0085】
環Sが、上記式(6-1)~式(6-4)で表される炭化水素環または複素環であれば、環Sは、隣接するピロール環とスピロ結合している炭素の1つ隣の原子と2つ隣の原子がπ結合(二重結合)を有し、かつ当該π結合と一部を共有した縮合環構造を有するものとなる。そのため、環Sの全体ピロール環に対してツイストした配置をとりやすくなり、また環Sがピロール環の平面方向の垂直方向により遠くまで広がり、シアニン化合物の分子歪みを大きくすることができる。
【0086】
環C~環Cの炭化水素環としては、芳香族炭化水素環や脂肪族炭化水素環が挙げられ、これらの芳香族炭化水素環と脂肪族炭化水素環の詳細は、上記の環Rの芳香族炭化水素環と脂肪族炭化水素環の説明が参照される。環C~環Cは単環であることが好ましく、具体的には、炭素数3~10(好ましくは炭素数5~8)の単環のシクロアルケンまたはベンゼン環であることが好ましく、ベンゼン環(具体的には、*位でスピロ結合している5員環または6員環と縮環しているベンゼン環)であることがより好ましい。
【0087】
吸収層に含まれる近赤外線吸収色素について説明する。吸収層に含まれる近赤外線吸収色素は、有機色素であっても、無機色素であっても、有機無機複合色素(例えば、金属原子またはイオンが配位した有機化合物)であっても、特に限定されない。近赤外吸収色素としては、例えば、スクアリリウム系色素、クロコニウム系色素、中心金属イオンとして銅(例えば、Cu(II))や亜鉛(例えば、Zn(II))等を有していてもよい環状テトラピロール系色素(ポルフィリン類、クロリン類、フタロシアニン類、ナフタロシアニン類、コリン類等)、特定のシアニン化合物以外のシアニン系色素、アゾ系色素、キノン系色素、キサンテン系色素、インドリン系色素、アリールメタン系色素、クアテリレン系色素、ジイモニウム系色素、ペリレン系色素、キナクドリン系色素、オキサジン系色素、ジピロメテン系色素、ニッケル錯体系色素、銅イオン系色素等が挙げられる。これらの色素は、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0088】
近赤外線吸収色素としては、例えば、波長670nm~730nmの範囲に吸収極大を有する化合物(以下、「化合物A」と称する)を用いることが好ましい。近赤外線吸収色素として化合物Aを用いることにより、吸収層に上記(b)の特性を付与することが容易になる。この場合、特定のシアニン化合物は、化合物Aよりも長波長側に吸収極大を有することが好ましい。
【0089】
近赤外線吸収色素としては、上記の化合物Aとともに、化合物Aよりも長波長側であって波長710nm~760nmの範囲に吸収極大を有する化合物(以下、「化合物B」と称する)を用いることも好ましい。このように吸収層に2種類以上の近赤外線吸収色素を含ませることにより、可視光領域の光の透過率を高く維持しつつ、波長690nm~740nmの範囲を含む近赤外領域に幅広い吸収波長域を形成することが容易になる。この場合、特定のシアニン化合物は、化合物Aと化合物Bよりも長波長側に吸収極大を有することが好ましい。
【0090】
化合物Aの吸収極大波長は、好ましくは675nm以上であり、より好ましくは680nm以上であり、また720nm未満が好ましく、715nm未満がより好ましい。化合物Bの吸収極大波長は、好ましくは715nm以上であり、720nm以上がより好ましく、また755nm以下が好ましく、750nm以下がより好ましい。また、化合物Aの吸収極大波長と化合物Bの吸収極大波長の差は、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、30nm以上がさらに好ましく、また80nm以下が好ましく、70nm以下がより好ましく、60nm以下がさらに好ましい。
【0091】
吸収層に含まれる近赤外線吸収色素としては、所望の光学特性が発揮されるように分子設計することが容易な点から、有機色素または有機無機複合色素を用いることが好ましく、近赤外領域の光を効果的に吸収し、可視光透過率を高めることが容易な点から、スクアリリウム化合物を用いることが好ましい。
【0092】
スクアリリウム化合物としては、下記式(7)または式(8)で表されるスクアリリウム化合物が好適に用いられる。下記式(7)で表されるスクアリリウム化合物は、赤色~近赤外領域の吸収ピークが幅広に形成され、比較的広い波長域の光をカットすることができる。一方、下記式(8)で表されるスクアリリウム化合物は、赤色~近赤外領域の吸収ピークがシャープに形成されるため、この吸収ピークに対応した波長域の光を選択的にカットすることが可能となる。また、下記式(7)と下記式(8)で表されるスクアリリウム化合物は耐熱性にも優れるものとなる。吸収層は、近赤外線吸収色素として、下記式(7)で表されるスクアリリウム化合物と下記式(8)で表されるスクアリリウム化合物の両方を含むことがより好ましい。下記式(7)で表されるスクアリリウム化合物は、例えば上記の化合物Bであることが好ましく、下記式(8)で表されるスクアリリウム化合物は、例えば上記の化合物Aであることが好ましい。これにより、吸収層に上記(a)と(b)の特性を付与することが容易になる。
【0093】
【化11】
【0094】
【化12】
【0095】
式(7)中、環Aおよび環Aは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環を表し、R31~R36はそれぞれ独立して、水素原子、有機基または極性官能基を表し、R32とR33は互いに連結して環を形成してもよく、R35とR36は互いに連結して環を形成してもよい。式(8)中、R41~R50はそれぞれ独立して、水素原子、有機基または極性官能基を表し、R41とR42、R42とR43、R43とR44、R44とR45、R46とR47、R47とR48、R48とR49、R49とR50はそれぞれ、互いに連結して環を形成していてもよい。スクアリリウム化合物には共鳴関係にある化合物が存在している場合があるが、上記式(7)で表されるスクアリリウム化合物と上記式(8)で表されるスクアリリウム化合物には、これらの共鳴関係にある化合物も含まれる。
【0096】
31~R46、R41~R50の有機基の詳細は、上記の置換基Pの有機基の説明が参照される。R31~R46、R41~R50の極性官能基としては、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基、スルホ基(スルホン酸基)等が挙げられる。環Aと環Aの詳細は、上記の環Rの芳香族炭化水素環と芳香族複素環の説明が参照される。R32とR33、R35とR36、R41~R45、R46~R50から形成される各環としては、炭化水素環や複素環が挙げられ、これらの環の詳細は上記の環Rの説明が参照される。
【0097】
式(7)においてR31~R36が独立した基である場合、R31~R36はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、またはアラルキル基であることが好ましく、水素原子、アルキル基、またはアリール基がより好ましい。R31~R36のアルキル基とアリール基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基等が好ましく挙げられる。
【0098】
式(7)において、R32とR33またはR35とR36が連結して形成される環としては、4~9員の不飽和炭化水素環であることが好ましく、なかでもシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のシクロアルカンモノエンがより好ましい。このように式(7)のスクアリリウム化合物が構成されていれば、赤色~近赤外領域の吸収波形のショルダーピークが低減され、吸収ピークがシャープなものとなる。
【0099】
式(8)においてR41~R50が独立した基である場合、R41~R50はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アミド基、または水酸基であることが好ましい。R41~R50を適宜選択することで、スクアリリウム化合物の吸収極大波長を所望の値に制御することが可能となる。なかでも、スクアリリウム化合物の安定性や製造容易性の点から、R41~R50はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアミド基であることが好ましい。この場合のアルキル基は、直鎖状または分岐状であることが好ましく、またその炭素数は1~6が好ましく、1~4がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
【0100】
式(8)において、R42とR43および/またはR43とR44は連結して環を形成していることが好ましい、あるいは、R47とR48および/またはR48とR49は連結して環を形成していることが好ましい。このように式(8)の基が構成されていれば、赤色~近赤外領域の吸収ピークがシャープなものとなる。なお、R42とR43、R43とR44、R47とR48、R48とR49から形成される環の環員数は5以上が好ましく、6以上がより好ましく、また10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。
【0101】
式(8)において、R43はアミノ基であるか、アミノ基であるR43がR42および/またはR44と連結して環を形成していることが好ましく、R48はアミノ基であるか、アミノ基であるR48がR47および/またはR49と連結して環を形成していることが好ましい。この場合、吸収極大波長が長波長側(例えば685nm以上)にシフトして、赤色領域の光の透過率を高めて、透過光の色味を実際のものに近付けることができる。また、同様の観点から、R41またはR45がアミド基であり、R46またはR50がアミド基であることが好ましい。
【0102】
式(8)で表されるスクアリリウム化合物は、下記式(8-1)で表されるものであることが好ましい。式(8-1)において、R41、R42、R45、R46、R47、R50は上記と同じ意味を表し、それぞれ独立した基であることが好ましい。環Bおよび環Bは含窒素複素環を表し、R51およびR52はアルキル基を表す。環Bおよび環Bは、環を構成するヘテロ原子として少なくとも窒素原子(具体的には、環Bと環Bが縮環するベンゼン環の炭素原子に結合した窒素原子)を1つ有しており、この窒素原子にR51またはR52のアルキル基が結合している。R51とR52のアルキル基の具体例は、上記の置換基Pのアルキル基の説明が参照される。
【0103】
【化13】
【0104】
環Bと環Bの含窒素複素環は、環構成原子として、ヘテロ原子を窒素原子1つのみを有していてもよく、ヘテロ原子を2つ以上有していてもよい。なお、環Bと環Bの含窒素複素環は、環を構成するヘテロ原子として窒素原子を1つのみ有することが好ましい。また、環Bと環Bは、非芳香族含窒素複素環であることが好ましく、ベンゼン環と縮環した炭素-炭素結合以外は、単結合により炭素原子と窒素原子または炭素原子どうしが結合して環形成していることがより好ましい。
【0105】
51またはR52のアルキル基は、分岐状アルキル基であることが好ましい。これにより、スクアリリウム化合物の樹脂への溶解性を高めることができる。R51またはR52の分岐状アルキル基は、炭素数が3以上であることが好ましく、また10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0106】
環Bと環Bの環員数は5以上が好ましく、6以上がより好ましく、また10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。環Bと環Bの含窒素複素環は、R51とR52以外に置換基を有していてもよい。そのような置換基としては、上記に説明した有機基や極性官能基が挙げられる。なかでも、R51とR52以外の環Bと環Bが有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、水酸基が好ましく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲノアルキル基がより好ましい。環Bと環Bは、R51とR52以外に置換基を有していなくてもよい。
【0107】
式(8-1)において、R41とR46は、式:-NH-C(=O)-Rc3で表されるアミド基であることが好ましく、当該アミド基に含まれるRc3は炭素数3以上のアルキル基であることが好ましい。これにより、スクアリリウム化合物の樹脂や有機溶媒への溶解性を高めることができる。Rc3のアルキル基の炭素数は、6以上が好ましく、7以上がより好ましく、8以上がさらに好ましい。Rc3のアルキル基の炭素数の上限は特に限定されないが、30以下が好ましく、25以下がより好ましく、20以下がさらに好ましく、15以下がさらにより好ましい。Rc3のアルキル基は直鎖状であることが好ましい。Rc3が直鎖状アルキル基であれば、スクアリリウム化合物の耐熱性が高まる傾向となり、スクアリリウム化合物を樹脂に配合して加熱成形したり加熱硬化する際など、スクアリリウム化合物の分解を抑えやすくなる。そのため、加熱を経た樹脂硬化物中においても、スクアリリウム化合物を高濃度に存在させることが可能となる。なお、式(8-1)において、R42、R45、R47、R50はアミド基でないことが好ましく、例えば、水素原子またはアルキル基であることが好ましい。
【0108】
吸収層はさらに紫外線吸収色素を含有していてもよく、その場合の紫外線吸収色素としては、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾエート系化合物、トリアゾール系化合物、トリアジン系化合物等を用いることができる。紫外線吸収色素は、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。紫外線吸収色素は、市販の物質を用いてもよく、例えば、ADEKA社製のアデカスタブ(登録商標)シリーズや、BASF社製のチヌビン(登録商標)シリーズ等を用いてもよい。
【0109】
紫外線吸収色素としては、下記式(9)で表されるスチレン構造を有する化合物(以下、「スチレン系化合物」と称する)を用いることも好ましい。下記式(9)で表されるスチレン系化合物は、波長350nm~395nmの範囲に吸収波長域を形成するとともに、当該吸収波長域の長波長側では、吸収波長域と透過波長域との境目をシャープに形成することができる。また、耐熱性に優れるため、スチレン系化合物を樹脂に配合して加熱成形したり加熱硬化する際など、スチレン系化合物の分解を抑えることができる。
【0110】
【化14】
【0111】
上記式(9)において、R61はシアノ基、アシル基、カルボン酸エステル基またはアミド基を表し、R62は水素原子、シアノ基、アシル基、カルボン酸エステル基、アミド基、炭化水素基またはヘテロアリール基を表し、R61とR62がともにアシル基、カルボン酸エステル基またはアミドである場合、R61とR62は互いに連結して環を形成していてもよく、R63は水素原子またはアルキル基を表し、R64は水素原子、有機基または極性官能基を表し、複数のR64は互いに同一または異なっていてもよく、Zは硫黄原子または酸素原子を表し、Kは水素原子または2価以上の連結基を表し、aは1以上の整数を表し、aが2以上である場合、Kに結合する複数の基は互いに同一または異なっていてもよい。式(9)中、R61(またはR62)はR63に対して、シス位にあってもよく、トランス位にあってもよい。
【0112】
61とR62のアシル基(アルカノイル基)としては、メタノイル基、エタノイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ペンタデカノイル基、ヘキサデカノイル基、ヘプタデカノイル基、オクタデカノイル基、ノナデカノイル基、エイコサノイル基等が挙げられる。アシル基は、水素原子の一部が、アリール基、アルコキシ基、ハロゲノ基、水酸基等で置換されていてもよい。前記アシル基中のアルキル基は、直鎖状であってもよく分岐状であってもよい。アシル基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、2~21が好ましく、より好ましくは2~11であり、さらに好ましくは2~6である。
【0113】
61とR62のカルボン酸エステル基としては、式:-C(=O)-O-Rd1で表され、Rd1がアルキル基、アリール基、アラルキル基であるものが挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基の具体例は、上記のR~R14および置換基Pのこれらの基の説明が参照される。
【0114】
61とR62のアミド基としては、式:-C(=O)-NRd2d3で表され、Rd2が水素原子またはアルキル基であり、Rd3がアルキル基、アシル基、アリール基またはアラルキル基であるものが挙げられる。Rd2とRd3のアルキル基、アリール基、アラルキル基の具体例は、上記のR~R14および置換基Pのこれらの基の説明が参照され、Rd3のアシル基の具体例は、上記のR61とR62のアシル基の説明が参照される。
【0115】
61とR62がともにアシル基であって、互いに連結して環を形成する場合のR61とR62から形成される基としては、式:-C(=O)-Rd4-C(=O)-で表される基が示される。R61とR62がともにカルボン酸エステル基であって、互いに連結して環を形成する場合のR61とR62から形成される基としては、式:-C(=O)-O-Rd5-O-C(=O)-で表される基が示される。R61とR62がともにアミド基であって、互いに連結して環を形成する場合のR61とR62から形成される基としては、式:-C(=O)-NRd6-Rd7-NRd8-C(=O)-で表される基が示される。これらの式中、Rd4、Rd5およびRd7はそれぞれ独立して、直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し、Rd6とRd8はそれぞれ独立して、水素原子または炭化水素基を表し、これらの式に示された構造の両末端のカルボニル基の炭素原子は式(9)のエチレン二重結合の炭素原子に結合する。Rd4、Rd5およびRd7のアルキレン基は、水素原子の一部が、アリール基、アルコキシ基、シアノ基、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基等で置換されていてもよい。Rd4、Rd5およびRd7のアルキレン基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、2~10が好ましく、3~8がより好ましい。Rd6とRd8の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基またはアラルキル基が好ましく挙げられ、これらの基の具体例は、上記のR~R14および置換基Pのアルキル基、アリール基およびアラルキル基の説明が参照される。
【0116】
式(9)のR63は水素原子またはアルキル基を表し、アルキル基の具体例は、上記のR~R14のアルキル基に関する説明が参照される。R63のアルキル基は、好ましくは炭素数1~3であり、より好ましくは炭素数1~2である。R63としては水素原子が特に好ましい。
【0117】
式(9)のR64の有機基と極性官能基の詳細は、上記の有機基と極性官能基の説明が参照される。R64としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アラルキル基、アリールオキシ基およびアリールチオ基から選ばれる1種以上であることが好ましく、水素原子またはアルキル基であることが好ましい。当該アルキル基の炭素数は、1~4が好ましく、1~3がより好ましい。なかでも、式(9)のベンゼン環に結合する4つのR64のうち、2以上が水素原子であることが好ましく、3以上が水素原子であることがより好ましく、4つ全てが水素原子であることが特に好ましい。
【0118】
式(9)において、Zは、R61~R63を含むエチレン構造部に対して、オルト位に結合していてもよく、メタ位に結合していてもよく、パラ位に結合していてもよい。なお、スチレン系化合物の製造容易性の観点からは、Zはエチレン構造部に対してパラ位に結合していることが好ましい。
【0119】
式(9)において、Kが2価以上の連結基である場合、当該連結基としては、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、-O-、-CO-、-S-、-SO-、-SO-、-NH-等の2価の連結基;アルキル基で置換されていてもよいメチン基(-CH<)、-N<等の3価の連結基;>C<等の4価の連結基;およびこれらを組み合わせた連結基が挙げられる。アルキレン基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。また、アルキレン基とアリーレン基は、水酸基および/またはチオール基を有していてもよい。
【0120】
スチレン系化合物の耐熱性を高める観点からは、aは2以上の整数であり、Kは2価以上の連結基を表すことが好ましい。また、連結基Kは、水素原子の一部が水酸基および/またはチオール基で置き換えられていてもよいアルキレン基、水素原子の一部が水酸基および/またはチオール基で置き換えられていてもよいアリーレン基、-O-、-S-、およびこれらの基を組み合わせた連結基が好ましい(ただし、エーテル結合およびチオエーテル結合は連続しない)。直鎖状または分岐状のアルキレン基の炭素数(連続する炭素数)は6以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。環状のアルキレン基であれば、炭素数は4以上が好ましく、5以上がより好ましく、また10以下が好ましく、8以下がより好ましい。アリーレン基の炭素数は、5以上が好ましく、6以上がより好ましく、また10以下が好ましく、8以下がより好ましい。
【0121】
スチレン系化合物としては、下記式(9-1)に示されるスチレン系化合物が特に好ましく示される。このようなスチレン系化合物は、近紫外(UVA)~紫色領域の光を効果的に吸収できるとともに、安定性に優れるものとなり、製造が容易になる。下記式(9-1)において、R61aとR61bの説明は上記のR61の説明が参照され、R62aとR62bの説明は上記のR62の説明が参照され、R63aとR63bの説明は上記のR63の説明が参照され、ZとZの説明は上記のZの説明が参照される。
【0122】
【化15】
【0123】
吸収層は特定のシアニン化合物と近赤外線吸収色素のみから構成されていてもよく、樹脂等のマトリックスに特定のシアニン化合物と近赤外線吸収色素が配合されて形成されてもよい。なお、吸収層は後者のように構成されることが好ましく、具体的には吸収層は特定のシアニン化合物と近赤外線吸収色素と樹脂を含有することが好ましい。吸収層が紫外線吸収色素をも含有する場合は、吸収層は特定のシアニン化合物と近赤外線吸収色素と紫外線吸収色素と樹脂とを含有することが好ましい。従って、吸収層は、特定のシアニン化合物と近赤外線吸収色素を含有する樹脂組成物から形成されることが好ましく、本発明は、吸収層を形成するための樹脂組成物も提供することができる。
【0124】
吸収層中の色素の含有量は、光選択透過フィルターの所望の光学性能に応じて適宜調整すればよいが、吸収層100質量%中、色素の含有量は0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、また25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。なお、色素には、特定のシアニン化合物と近赤外線吸収色素が含まれ、さらに紫外線吸収色素が含まれていてもよい。このように吸収層中の色素の含有量を調整することにより、近赤外領域に幅広い吸収波長域を形成しつつ、可視光領域の光の透過率を高めることが容易になる。なお後述するように、吸収層を透明基板上に形成するような場合は、樹脂層を薄く形成することができるため、吸収層中の色素の含有量をある程度高くすることが好ましく、例えば、吸収層中の色素の含有量を1質量%以上とすることが好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。
【0125】
吸収層を形成する樹脂組成物は、加熱(軟化)および冷却することによって硬化するものであってもよく、樹脂成分の反応(例えば、重合反応や架橋反応)によって硬化するものであってもよく、樹脂組成物に含まれる溶媒が除去されて硬化するものであってもよい。樹脂組成物としては、例えば、射出成形や押出成形等により成形することができる熱可塑性樹脂組成物や、スピンコート法、溶媒キャスト法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法等により塗工できるよう塗料化された樹脂組成物を用いることができる。
【0126】
樹脂組成物が熱可塑性樹脂組成物である場合は、当該樹脂組成物を、射出成形、押出成形、真空成形、圧縮成形、ブロー成形等をすることにより吸収層を形成することができる。この方法では、熱可塑性樹脂に色素等を配合し、加熱成形することにより吸収層を形成することができる。例えば、ベース樹脂の粉体またはペレットに色素等を添加し、150℃~350℃程度に加熱し、溶解させた後、成形するとよい。
【0127】
樹脂組成物が塗料化された樹脂組成物である場合は、液状またはペースト状の樹脂組成物を基板(例えば、樹脂板、フィルム、ガラス板等)上に塗工することで、厚さ200μm以下のフィルム状や、厚さ200μm超のシート状の吸収層を形成することができる。このようにして得られた吸収層は、基板から剥離してフィルムやシートとして取り扱うこともできるし、基板と一体化して取り扱うこともできる。
【0128】
樹脂は、透明性が高いものであることが好ましい。吸収層を構成する樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、(メタ)アクリルウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂)、シクロオレフィン系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、スチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン)、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂(例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリアリレート樹脂等)、ポリスルホン樹脂、ブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル系樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合体)、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂(例えば、(メタ)アクリルシリコーン系樹脂、アルキルポリシロキサン系樹脂、シリコーンウレタン樹脂、シリコーンポリエステル樹脂、シリコーンアクリル樹脂等)、フッ素系樹脂(例えば、フッ素化芳香族ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、フッ素化ポリアリールエーテルケトン(FPEK)、フッ素化ポリイミド(FPI)、フッ素化ポリアミド酸(FPAA)、フッ素化ポリエーテルニトリル(FPEN)等)等が挙げられる。これらの中でも、透明性や耐熱性に優れる観点から、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、フッ素化芳香族ポリマーが好ましい。
【0129】
ポリイミド樹脂は、主鎖の繰り返し単位にイミド結合を含む重合体であり、例えば、テトラカルボン酸2無水物とジアミンとを縮重合させてポリアミド酸を得て、これを脱水・環化(イミド化)させることにより製造することができる。ポリイミド樹脂としては、芳香族環がイミド結合で連結された芳香族ポリイミドを用いることが好ましい。ポリイミド樹脂は、例えば、三菱ガス化学社製のネオプリム(登録商標)、デュポン社製のカプトン(登録商標)、三井化学社製のオーラム(登録商標)、サンゴバン社製のメルディン(登録商標)、東レプラスチック精工社製のTPS(登録商標)TI3000シリーズ等を用いることができる。
【0130】
ポリアミドイミド樹脂は、主鎖の繰り返し単位にアミド結合とイミド結合を含む重合体である。ポリアミドイミド樹脂は、例えば、ソルベイアドバンストポリマーズ社製のトーロン(登録商標)、東洋紡社製のバイロマックス(登録商標)、東レプラスチック精工社製のTPS(登録商標)TI5000シリーズ等を用いることができる。
【0131】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸またはその誘導体由来の繰り返し単位を有する重合体であり、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂等の(メタ)アクリル酸エステル由来の繰り返し単位を有する樹脂が好ましく用いられる。(メタ)アクリル系樹脂は主鎖に環構造を有するものも好ましく、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、無水マレイン酸構造、マレイミド環構造等のカルボニル基含有環構造;オキセタン環構造、アゼチジン環構造、テトラヒドロフラン環構造、ピロリジン環構造、テトラヒドロピラン環構造、ピペリジン環構造等のカルボニル基非含有環構造が挙げられる。なお、カルボニル基含有環構造には、イミド基などのカルボニル基誘導体基を含有する構造も含む。カルボニル基含有環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、例えば、特開2004-168882号公報、特開2008-179677号公報、国際公開第2005/54311号、特開2007-31537号公報等に記載されたものを用いることができる。
【0132】
シクロオレフィン系樹脂は、モノマー成分の少なくとも一部としてシクロオレフィンを用い、これを重合して得られる重合体であり、主鎖の一部に脂環構造を有するものであれば特に限定されない。シクロオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプラスチック社製のトパス(登録商標)、三井化学社製のアペル(登録商標)、日本ゼオン社製のゼオネックス(登録商標)およびゼオノア(登録商標)、JSR社製のアートン(登録商標)等を用いることができる。
【0133】
エポキシ樹脂は、エポキシ化合物(プレポリマー)を硬化剤や硬化触媒の存在下で架橋化することで硬化させることができる樹脂である。エポキシ化合物としては、芳香族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、水添エポキシ化合物等が挙げられ、例えば、大阪ガスケミカル社製のフルオレンエポキシ(オグソール(登録商標)PG-100)、三菱化学社製のビスフェノールA型エポキシ化合物(JER(登録商標)828EL)や水添ビスフェノールA型エポキシ化合物(JER(登録商標)YX8000)、ダイセル社製の脂環式液状エポキシ化合物(セロキサイド(登録商標)2021P)等を用いることができる。
【0134】
ポリエステル樹脂は、主鎖の繰り返し単位にエステル結合を含む重合体であり、例えば、多価カルボン酸(ジカルボン酸)とポリアルコール(ジオール)とを縮重合させることにより得ることができる。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、例えば、大阪ガスケミカル社製のOKPシリーズ、帝人社製のTRNシリーズ、テオネックス(登録商標)、デュポン社製のライナイト(登録商標)、三菱化学社製のノバペックス(登録商標)、三菱エンジニアリングプラスチックス社製のノバデュラン(登録商標)、東レ社製のルミラー(登録商標)、トレコン(登録商標)、ユニチカ社製のエリーテル(登録商標)等を用いることができる。
【0135】
ポリアリレート樹脂は、2価フェノール化合物と2塩基酸(例えば、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸)とを重縮合して得られる重合体であり、主鎖の繰り返し単位に芳香族環とエステル結合とを含む繰り返し単位を有する。ポリアリレート樹脂は、例えば、クラレ社製のベクトラン(登録商標)、ユニチカ社製のUポリマー(登録商標)やユニファイナー(登録商標)等を用いることができる。
【0136】
ポリアミド樹脂は、主鎖の繰り返し単位にアミド結合を含む重合体であり、例えば、ジアミンとジカルボン酸とを縮重合させることにより得ることができる。ポリアミド樹脂は主鎖に脂肪族骨格を有するものであってもよく、このようなアミド樹脂として、例えばナイロンを用いることができる。ポリアミド樹脂は芳香族骨格を有するものであってもよく、このようなポリアミド樹脂としてアラミド樹脂が知られている。アラミド樹脂は、耐熱性に優れ、強い機械強度を有する点から好ましく用いられ、例えば、帝人社製のトワロン(登録商標)、コーネックス(登録商標)、デュポン社製のケブラー(登録商標)、ノーメックス(登録商標)等を用いることができる。
【0137】
ポリカーボネート樹脂は、主鎖の繰り返し単位にカーボネート基(-O-(C=O)-O-)を含む重合体である。ポリカーボネート樹脂としては、帝人社製のパンライト(登録商標)、三菱エンジニアリングプラスチック社製のユーピロン(登録商標)、ノバレックス(登録商標)、ザンター(登録商標)、住化スタイロンポリカーボネート社製のSDポリカ(登録商標)等を用いることができる。
【0138】
ポリスルホン樹脂は、芳香族環とスルホニル基(-SO-)と酸素原子とを含む繰り返し単位を有する重合体である。ポリスルホン樹脂は、例えば、住友化学社製のスミカエクセル(登録商標)PES3600PやPES4100P、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製のUDEL(登録商標)P-1700等を用いることができる。
【0139】
フッ素化芳香族ポリマーは、1以上のフッ素原子を有する芳香族環と、エーテル結合、ケトン結合、スルホン結合、アミド結合、イミド結合およびエステル結合よりなる群から選ばれる少なくとも1つの結合とを含む繰り返し単位を有する重合体であり、これらの中でも、1以上のフッ素原子を有する芳香族環とエーテル結合とを含む繰り返し単位を必須的に含む重合体であることが好ましい。フッ素化芳香族ポリマーは、例えば、特開2008-181121号公報に記載されたものを用いることができる。
【0140】
樹脂は透明性が高いことが好ましく、これにより樹脂組成物を光学用途に好適に適用しやすくなる。樹脂は、例えば、厚さ0.1mmでの全光線透過率が75%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましい。樹脂の全光線透過率の上限は特に限定されず、全光線透過率は100%以下であればよいが、例えば95%以下であってもよい。全光線透過率は、JIS K 7105に基づき測定する。
【0141】
樹脂はガラス転移温度(Tg)が高いことが好ましく、これにより、吸収層の耐熱性を高めることができる。樹脂のガラス転移温度は、例えば、110℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。樹脂のガラス転移温度の上限は特に限定されないが、樹脂組成物の成形加工性を確保する点から、例えば380℃以下が好ましい。
【0142】
樹脂組成物は、溶媒を含有するものであってもよい。塗料化された樹脂組成物は、溶媒を含むことにより樹脂組成物の塗工が容易になる。塗料化された樹脂組成物は、例えば、色素を、樹脂を含む溶媒に溶解させたり、色素を、樹脂を含む溶媒(分散媒)に分散させることにより得ることができる。溶媒は、色素の溶媒(溶剤)として機能するものであっても、分散媒として機能するものであってもよい。溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;PGMEA(2-アセトキシ-1-メトキシプロパン)、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体類(エーテル化合物、エステル化合物、エーテルエステル化合物等);N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;N-メチル-ピロリドン(具体的には、1-メチル-2-ピロリドン等)等のピロリドン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類;等が挙げられる。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0143】
溶媒の含有量としては、樹脂組成物100質量%中、例えば50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、また100質量%未満が好ましく、95質量%以下がより好ましい。溶媒の含有量をこのような範囲内に調整することにより、色素濃度の高い樹脂組成物を得ることが容易になる。
【0144】
樹脂組成物は表面調整剤を含んでいてもよく、これにより、樹脂組成物を硬化して吸収層を形成した際に、吸収層にストライエーションや凹み等の外観上の欠陥を生じることを抑制することができる。表面調整剤の種類は特に限定されず、シロキサン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル系レベリング剤などを用いることができる。表面調整剤としては、例えば、ビックケミー社製のBYK(登録商標)シリーズや信越化学工業社製のKFシリーズ等を用いることができる。
【0145】
樹脂組成物は分散剤を含んでいてもよく、これにより、樹脂組成物中での色素の一部が分散状態で存在しても、分散性を安定化され、色素の再凝集を抑制することができる。分散剤の種類は特に限定されず、エフカアディティブズ社製のEFKAシリーズ、ビックケミー社製のBYK(登録商標)シリーズ、日本ルーブリゾール社製のソルスパース(登録商標)シリーズ、楠本化成社製のディスパロン(登録商標)シリーズ、味の素ファインテクノ社製のアジスパー(登録商標)シリーズ、信越化学工業社製のKPシリーズ、共栄社化学社製のポリフローシリーズ、ディーアイシー社製のメガファック(登録商標)シリーズ、サンノプコ社製のディスパーエイドシリーズ等を用いることができる。
【0146】
樹脂組成物は、シランカップリング剤やその加水分解物あるいは加水分解縮合物を含んでいてもよく、これにより樹脂組成物を基板上で硬化させて樹脂層を形成した場合に、樹脂層の基板への密着性を高めることができる。
【0147】
樹脂組成物には、必要に応じて、可塑剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、比抵抗調整剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0148】
樹脂組成物は、厚みの薄い吸収層を形成することが容易な点から、塗料化されたものが好ましい。また、薄くて高強度の光選択透過フィルターを得ることが容易な点から、吸収層は透明基板上に設けられることが好ましい。このような光選択透過フィルターは、樹脂組成物を透明基板上(または、透明基板と吸収層との間にバインダー層等の他の層を有する場合は、当該他の層上)にスピンコート法や溶媒キャスト法により塗布し、乾燥または硬化することにより形成することができる。
【0149】
吸収層の厚さは特に限定されないが、所望の光学特性を確保する点から、例えば0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、2μm以上がさらに好ましく、また1mm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。透明基板上に塗料化された樹脂組成物を塗工するなどして吸収層を形成する場合は、基板によってフィルターの強度を確保することができるため、吸収層の厚さをさらに薄くすることができる。基板上に吸収層を形成する場合の吸収層の厚さは、例えば、50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましく、5μm以下が特に好ましい。
【0150】
透明基板は、可視光線透過性を有するものであれば制限なく用いることができる。透明基板は、例えば波長400nm~750nmの範囲の平均透過率が85%以上であることが好ましく、88%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。また、当該波長範囲は、下限が370nm以上であることがより好ましく、350nm以上がさらに好ましく、上限は850nm以下がより好ましく、1000nm以下がさらに好ましい。
【0151】
透明基板としては、樹脂板、樹脂フィルム、ガラス板等が好ましく用いられる。透明基板に用いられる樹脂板または樹脂フィルムは、例えば、上記に説明した樹脂成分から形成されたものが好ましく用いられる。光選択透過フィルターの耐熱性を高める観点からは、透明基板としてガラス基板を用いることが好ましく、このように形成された光選択透過フィルターは、例えば、半田リフローにより電子部品に実装することが可能となり、電子部品の小型化を図ることができる。またガラス基板は、高温にさらされても割れや反りが起こりにくいため、吸収層との密着性を確保しやすくなる。
【0152】
ガラス基板に用いられるガラスは、ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、ホウ酸ガラス、リン酸ガラス等の公知のガラスを用いることができる。これらのガラスは、ケイ素原子、ホウ素原子またはリン原子が、酸素原子と網目構造を形成してガラスの主骨格を形成しており、ガラス中には、これらの原子以外にナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アルミニウム、鉄、銀、銅、コバルト、ニッケル、鉛、亜鉛、フッ素等の原子またはイオンが存在していてもよい。
【0153】
透明基板の厚みは、例えば、強度を確保する点から、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、また薄型化の点から、0.4mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましい。
【0154】
吸収層が透明基板上に形成される場合、吸収層は、透明基板の片面のみに設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。また、透明基板の一方面に近赤外線吸収色素を含有する吸収層を設け、他方面に紫外線吸収色素を含有する第2の吸収層を設けてもよく、透明基板の一方面に、近赤外線吸収色素を含有する吸収層と紫外線吸収色素を含有する第2の吸収層を積層して設けてもよい。
【0155】
透明基板と吸収層の間には別の層が設けられていてもよく、当該別の層としては、吸収層と透明基板との密着性を高めるためのバインダー層等が挙げられる。透明基板としてガラス基板を用いる場合は、バインダー層がケイ素化合物(例えば、シランカップリング剤やその加水分解物、酸化ケイ素等)を含有することが好ましく、これによりガラス基板と吸収層を構成する樹脂との密着性を高めることができる。
【0156】
吸収層が透明基板上に設けられる場合、吸収層の透過率は、吸収層単体の透過スペクトルを測定することにより求めてもよいし、透明基板上に吸収層を形成した吸収層積層基板の透過スペクトルと透明基板の透過スペクトルをそれぞれ測り、吸収層積層基板の透過スペクトルを透明基板の透過スペクトルで補正することにより、吸収層の正味の透過スペクトルを求めてもよい。後者の場合、吸収層積層基板の透過スペクトルと透明基板の透過スペクトルをそれぞれ対数(log10)変換し、その差分を指数変換することにより、吸収層の正味の透過スペクトルを求めることができ、具体的には次式に基づき吸収層の透過率を求めることができる:吸収層の透過率(%)=10^[log10(吸収層積層透明基板の透過率)-log10(透明基板の透過率)]×100。
【0157】
光選択透過フィルターは、反射防止層を有することが好ましい。光選択透過フィルターに反射防止層を設けることにより、蛍光灯等の映り込みを低減する反射防止性や防眩性を付与することができる。特に吸収層に屈折率が高い樹脂を用いた場合は、空気との屈折率差により可視光透過性が低下するので、吸収層の表面(吸収層と空気の界面)に反射防止層を設けることが好ましい。
【0158】
光選択透過フィルターは、近赤外線反射層(例えば、700nm~1200nmの波長域の反射膜層)を有していてもよい。光選択透過フィルターに近赤外線反射層が設けられていれば、光選択透過フィルターの透過光から近赤外領域の光をよりカットすることができる。なお、近赤外線反射層は、紫外線反射機能を兼ね備えるものであってもよい。
【0159】
このような反射防止層や近赤外線反射層や紫外線反射層を吸収層の上に設けることで、吸収層と空気との屈折率差で生じる反射による透過率の低下を抑えることができる。例えば吸収層の屈折率が1.6である場合、吸収層と空気との界面で約5%の反射が生じ、可視光透過率が低下するところ、反射防止層等を設けることにより、透過率を例えば5%程度高めることができる。吸収層の裏面あるいは透明基板と空気との界面にも反射防止層等を設置することで、可視光透過率をさらに4~5%高めることができる。光選択透過フィルターの空気との両界面(すなわち光選択透過フィルターの一方面と他方面の両面)に反射防止層等を設けた場合は、当該層の光学設計を最適化することにより、約10%の反射を排除し、光選択透過フィルターの波長500nm~550nmの範囲の平均透過率を限りなく100%に近づけることも可能である。屈折率の高い樹脂からなる吸収層をガラス基板上に形成した場合は、吸収層とガラス基板の反射光の相互作用で生じるリップル(吸収波形の波うち)を低減することも可能となる。
【0160】
近赤外線反射層や反射防止層(可視光反射防止層)は、誘電体膜から構成することができる。誘電体膜は、通常、高屈折率材料層と低屈折率材料層とが交互に積層した誘電体多層膜として構成されるが、高屈折率材料層と低屈折率材料層の一方のみから構成されてもよい。高屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、屈折率の範囲が1.7以上2.5以下の材料が選択されることが好ましく、当該屈折率の範囲は1.8以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。高屈折率材料層を構成する材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化錫、酸化ビスマス等の酸化物;窒化ケイ素等の窒化物;前記酸化物や前記窒化物の混合物やそれらにアルミニウムや銅等の金属や炭素を含有ドープしたもの(例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO))等が挙げられる。低屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.7未満の材料を用いることができ、屈折率の範囲が1.2~1.6の材料が選択されることが好ましく、1.3~1.5の材料が選択されることがより好ましい。低屈折率材料層を構成する材料としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ、SiOx(x=1~2))、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、六フッ化アルミニウムナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、高屈折率材料層は酸化チタンから構成されることが好ましく、低屈折率材料層は酸化ケイ素から構成されることが好ましい。
【0161】
高屈折率材料層と低屈折率材料層の各厚みは、遮断しようとする光の波長λ(nm)の0.1λ~0.5λの範囲に調整することが好ましく、0.2λ~0.3λの範囲に調整することがより好ましい。このように誘電体膜を形成することにより、所望の波長域の光を選択的に反射させることができ、誘電体膜によって、近赤外線反射膜、紫外線反射膜、反射防止膜(可視光反射防止膜)等を形成することができる。紫外線反射膜と近赤外線反射膜は、1つで紫外線反射機能と近赤外線反射機能を有するものであってもよい。
【0162】
誘電体膜の層数は1層以上であれば特に限定されないが、近赤外線反射膜、紫外線反射膜、反射防止膜等としての所望の光学性能を発揮させる観点から、例えば2層~80層であることが好ましい。誘電体膜の層数は、5層以上、10層以上または20層以上であってもよく、また70層以下または60層以下であってもよい。誘電体膜の厚みは特に限定されず、例えば0.01μm~10μmの範囲であればよいが、所望の波長域の光の入射を十分にカットする観点から、0.02μm以上が好ましく、0.03μm以上がさらに好ましく、また薄型化の観点から、5μm以下が好ましく、3μm以下がさらに好ましい。
【0163】
光選択透過フィルターは、アルミ蒸着膜、貴金属薄膜、酸化インジウムを主成分とし酸化スズを少量含有させた金属酸化物微粒子を分散させた樹脂膜層を有していてもよい。
【0164】
光選択透過フィルターの厚みは、例えば、1mm以下であることが好ましい。これにより、例えば、撮像素子の小型化への要請に十分に応えることができる。光選択透過フィルターの厚みは、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下、さらにより好ましくは150μm以下であり、また30μm以上が好ましく、50μm以上がさらに好ましい。
【0165】
光選択透過フィルターは、イメージセンサー(撮像素子)、照度センサー、近接センサー等のセンサーの構成部材の一つとして用いることができる。例えばイメージセンサーは、被写体の光を電気信号等に変換して出力する電子部品として用いられ、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等が挙げられる。イメージセンサーは、携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)、近赤外~赤外領域の特定波長を感知するセンサー等に用いることができる。センサーは、上記の光選択透過フィルターを1または2以上含み、必要に応じて、さらに他のフィルター(例えば、可視光線カットフィルター、赤外線カットフィルター、紫外線カットフィルター等)やレンズを有していてもよい。
【実施例0166】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0167】
(1)化合物の合成
(1-1)合成例1:シアニン化合物1の合成
原料シアニン化合物として3-ブチル-2-(2-[3-[2-(3-ブチル-1,1-ジメチル-1,3-ジヒドロベンゾ[e]インドール-2-イリデン)エチリデン]-2-クロロ-シクロヘキサ-1-エニル]ビニル)-1,1-ジメチル-1H-ベンゾ[e]インドリウム ヘキサフルオロホスフェート(Few Chemicals社製、S0712、表1に示す比較シアニン化合物1)を用い、当該原料シアニン化合物50.0mg(0.06mmоl)をアセトン5gに溶解させ、ここに40℃に加熱した10.5%テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム水溶液0.45g(0.07mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。次いで、溶媒を留去し、得られた固体をイオン交換水で洗浄し、再結晶(溶媒:クロロホルム、メタノール)させることで、シアニン化合物1を73.5mg得た(収率:86.1%)。
【0168】
(1-2)合成例2:シアニン化合物2の合成
合成例1において、原料シアニン化合物として6-ブトキシ-2-[5-(6-ブトキシ-1-ブチル-1H-ベンゾ[cd]インドール-2-イリデン)-ペンタ-1,3-ジエニル]-1-ブチル-ベンゾ[cd]インドリウム テトラフルオロボレート(Few Chemicals社製、S2437、表1に示す比較シアニン化合物2)を用いたこと以外は、合成例1と同様にしてシアニン化合物2を85.0mg得た(収率:89.8%)。
【0169】
(1-3)合成例3:シアニン化合物3の合成
合成例1において、原料シアニン化合物として1,1’-ジブチル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドトリカルボシアニン ヘキサフルオロホスフェート(東京化成工業社製、D5013)を用いたこと以外は、合成例1と同様にしてシアニン化合物3を40.4mg得た(収率:43.7%)。
【0170】
(1-4)合成例4:シアニン化合物4の合成
合成例1において、原料シアニン化合物として2-[2-[2-クロロ-3-[2-(1,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-2H-インドール-2-イリデン)エチリデン]-1-シクロヘキセン-1-イル]エテニル]-1,3,3-トリメチル-3H-インドリウムクロリド(東京化成工業社製、IR775クロリド)を用いたこと以外は、合成例1と同様にしてシアニン化合物4を36.5mg得た(収率:30.3%)。
【0171】
(1-5)合成例5:アニリン塩酸塩の合成
Bioconjugate Chemistry,29(11),p.3886-3895(2018)に記載の方法に従い、N-((E)-(6-((E)-(フェニルイミノ)メチル)-4,5-ジヒドロ-[1,1’-ビフェニル-2(3H)イリデン)メチル)アニリン塩酸塩を合成した。
【0172】
(1-6)合成例6:アセチル化合物1の合成
水浴中に設置した500mLの四口フラスコに、窒素流通下(10mL/min)、発熱に注意しながらカリウムtert-ブトキシド21.9g(0.195mol)、超脱水テトラヒドロフラン98.1g、フルオレン10.8g(0.065mol)、酢酸エチル11.5g(0.13mol)を順に加えた後、水浴で加熱しながら還流条件にて3時間撹拌した。得られた反応液を冷却後、希塩酸でクエンチした後、酢酸エチルで抽出し、ブラインにて3回洗浄した。得られた有機相を硫酸マグネシウムで脱水し、エバポレーターで濃縮した後、得られた固形物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)により精製して、9-アセチル-9H-フルオレンを12.5g得た(収率:92.4%)。
【0173】
(1-7)合成例7:シアニン化合物5の合成
500mLのセパラブルフラスコに、合成例6で得たアセチル化合物1を4.2g(0.017mol)、1-フェニルヒドラジン塩酸塩を2.5g(0.017mol)、溶媒としてtert-アミルアルコールを66.8g仕込み、窒素流通下(10mL/min)で撹拌しながら、90℃にて4時間反応させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、水100gでクエンチし、酢酸エチル100gで抽出を行った。得られた有機相を硫酸マグネシウムで脱水し、エバポレーターで濃縮した後、得られた固形物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)により精製し、インドレニン化合物1を1.84g得た(収率:61.3%)。
【0174】
次いで、100mLの四口フラスコに、上記で得たインドレニン化合物1を1.6g(0.006mol)、ヨードメタンを16.1g(0.114mol)、アセトニトリルを26.6g仕込み、窒素流通下(5mL/min)、80℃にて6時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応液をトルエン300gに沈殿させ、析出した固体をろ別することにより、インドレニウム塩1を1.9g得た(収率:72.8%)。
【0175】
【化16】
【0176】
100mLの四口フラスコに、上記で得たインドレニウム塩1を1.5g(0.0031mol)、合成例5で得たアニリン塩酸塩0.71g(0.0018mol)、酢酸ナトリウム0.47g(0.006mol)、酢酸24.8gおよび無水酢酸25.5gを加え、100℃で8時間撹拌した。反応液を室温まで冷却し、そこに水150gを加え、析出した固体をろ取した。この固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)で精製し、シアニン化合物ヨウ素塩を0.58g得た(収率:22.5%)。
【0177】
【化17】
【0178】
上記で得たシアニン化合物ヨウ素塩0.50g(0.50mmol)をアセトン20mLに溶解させ、10.5%のテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム水溶液(日本触媒社製)を6.7g(0.10mmol)加え、室温で一晩撹拌した。反応液をエバポレーターで濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)で精製し、表1に示すシアニン化合物5を0.58g得た(収率:65.2%)。
【0179】
【化18】
【0180】
【表1】
【0181】
(1-8)合成例8:近赤外線吸収色素Aの合成
特開2016-74649号公報の実施例1-18に記載の方法に従い、表2に示す近赤外線吸収色素Aを合成した。
【0182】
(1-9)合成例9:近赤外線吸収色素Bの合成
特開2020-132699号公報の合成例2に従い、表2に示す近赤外線吸収色素Bを合成した。
【0183】
(1-10)合成例10:紫外線吸収色素Aの合成
200mLの4口フラスコに、4-フルオロベンズアルデヒド4.98g(0.039mol)、エチレングリコールビス(2-メルカプトエチル)エーテル3.57g(0.020mol)、炭酸カリウム10.86g(0.079mol)、アセトニトリル74gを仕込み、窒素流通下(10mL/min)、撹拌羽を用いて撹拌しながら60℃で12時間反応させた。反応終了後、減圧ろ過によって不溶分をろ別した後、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた濃縮物を200mLの4口フラスコに入れ、そこにシアノ酢酸イソブチル11.09g(0.079mol)、ピペリジン3.32g(0.039mol)、メタノール68gを加え、還流条件下で4時間反応させた。反応終了後、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた濃縮物をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)によって精製を行い、表2に示す紫外線吸収色素Aを得た。紫外線吸収色素Aのトルエン中の透過スペクトルを測定したところ、吸収極大波長は364nmであった。
【0184】
【表2】
【0185】
(2)シアニン化合物溶液の調製
(2-1)溶解性
10mLガラス製サンプル瓶に入れたトルエンに、表1に示したシアニン化合物1~5、比較シアニン化合物1~2を所定量加えて、25℃で撹拌した。シアニン化合物は、濃度が0.1質量%または0.5質量%となるようにトルエンに加え、得られた溶液の不溶分(濁り)の有無を目視にて確認した。濃度0.1質量%で不溶分が認められたときの評価をCとし、濃度0.1質量%で不溶分が認められず濃度0.5質量%で不溶分が認められたときの評価をBとし、濃度0.5質量%で不溶分が認められなかったときの評価をAとした。結果を表3に示す。なお、比較シアニン化合物1はFew Chemicals社から入手した品番S0712のシアニン化合物であり、比較シアニン化合物2はFew Chemicals社から入手した品番S2437のシアニン化合物である。シアニン化合物1~5は、トルエンに対して高い溶解性を示した。
【0186】
(2-2)分光測定
シアニン化合物1~5、比較シアニン化合物1~2のトルエン溶液を調製し、波長300nm~1100nmにおける吸収スペクトルを測定した。シアニン化合物のトルエン溶液は、極大吸収波長における透過率が10%(±0.05%)となるように濃度を調整し、分光光度計(島津製作所社製、UV-1800)を用いて、測定ピッチ1nmで光線透過率を測定し、波長300nm~1100nmの範囲で吸収が最大となる波長(極大吸収波長λmax)を求めた。結果を表3に示す。
【0187】
【表3】
【0188】
(3)樹脂積層基板の作製
(3-1)ポリアリレート樹脂の合成
撹拌翼を備えた容量2Lの反応容器に、2,2’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン10.0g(0.044mol)、水酸化ナトリウム3.6g(0.090mol)、イオン交換水300gを仕込み、溶解させた後、そこにトリエチルアミン0.89g(0.009mol)を加えて溶解させた。テレフタル酸ジクロリド3.6g(0.021mol)とイソフタル酸ジクロリド3.6g(0.021mol)を500gの塩化メチレンに溶解させた溶液を滴下漏斗に入れ、これを前記反応容器に取り付けた。反応容器中の溶液を20℃に保ちながら撹拌し、滴下漏斗から塩化メチレン溶液を60分間かけて滴下した。さらにそこに、塩化ベンゾイル0.71g(0.005mol)を10gの塩化メチレンに溶解させた溶液を添加し、60分間撹拌した。得られた反応液に酢酸水溶液を加えて中和して、水相のpHを7にしてから分液漏斗を用いて油相と水相を分離した。得られた油相を、撹拌下、メタノールに滴下してポリマーを再沈させ、沈殿をろ過により回収し、80℃オーブンで乾燥して白色固体のポリアリレート樹脂を得た。収量は11.5gであった。得られたポリアリレート樹脂の重量平均分子量(Mw)は33,780、数平均分子量(Mn)は8,130であった。ポリアリレート樹脂の重量平均分子量と数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により求めたポリスチレン換算の値である。
【0189】
(3-2)製造例1:樹脂積層基板1の作製
トルエン277質量部と1,2,4-トリメチルベンゼン593質量部の混合溶媒にポリアリレート樹脂を99質量部加え、そこに近赤外線吸収色素Aを6.2質量部、近赤外線吸収色素Bを2.5質量部、紫外線吸収色素Aを11質量部、シアニン化合物1を1.0質量部加え、40℃で1時間撹拌した。次いで、さらにそこに表面調整剤としてビックケミー社製BYK-310(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)を0.30質量部加え、25℃で均一に混合した。これを孔径0.1μmのフィルター(GLサイエンス社製、非水系13N)でろ過して異物を取り除き、樹脂組成物1を得た。樹脂組成物1を、ガラス基板(Schott社製、D263Teco)上に2cc垂らした後、スピンコーター(ミカサ社製、1H-D7)を用いてガラス基板上に樹脂組成物1を成膜した。樹脂組成物1を成膜したガラス基板を、イナートオーブン(ヤマト科学社製、DN610I)を用いて190℃の窒素雰囲気下で1時間乾燥させることにより、ガラス基板上に樹脂層を形成した。樹脂層をガラス面から剥離することにより、樹脂積層基板1を得た。樹脂層の厚みは約2μmであった。
【0190】
(3-3)製造例2:樹脂積層基板2の作製
製造例1において、シアニン化合物1の代わりにシアニン化合物2を用いたこと以外は、製造例1と同様にして樹脂積層基板2を作製した。
【0191】
(3-4)製造例3:樹脂積層基板3の作製
製造例1において、シアニン化合物1の代わりにシアニン化合物3を用いたこと以外は、製造例1と同様にして樹脂積層基板3を作製した。
【0192】
(3-5)製造例4:樹脂積層基板4の作製
製造例1において、シアニン化合物1の代わりにシアニン化合物4を用いたこと以外は、製造例1と同様にして樹脂積層基板4を作製した。
【0193】
(3-6)製造例5:樹脂積層基板5の作製
製造例1において、シアニン化合物1の代わりにシアニン化合物5を用いたこと以外は、製造例1と同様にして樹脂積層基板5を作製した。
【0194】
(3-7)製造例6:樹脂積層基板6の作製
製造例1において、シアニン化合物1に加えてシアニン化合物2を用いたこと以外は、製造例1と同様にして樹脂積層基板6を作製した。
【0195】
(3-8)製造例7:比較樹脂積層基板1の作製
製造例1において、シアニン化合物1の代わりに比較シアニン化合物1を用いたこと以外は、製造例1と同様にして比較樹脂積層基板1を作製した。なお、製造例7では、トルエンとポリアリレート樹脂と比較シアニン化合物1とを混合して得られた混合液に不溶分が認められ、不溶分を含む混合液を孔径0.1μmのフィルターでろ過して不溶分を取り除き、得られた樹脂組成物を使うことで、比較樹脂積層基板1を作製した。
【0196】
(3-9)製造例8:比較樹脂積層基板2の作製
製造例7において、比較シアニン化合物1の代わりに比較シアニン化合物2を用いたこと以外は、製造例7と同様にして比較樹脂積層基板2を作製した。
【0197】
(3-10)分光測定
各樹脂積層基板について、分光光度計(島津製作所社製、UV-1800)を用いて透過スペクトルを測定ピッチ1nmで測定し、波長300nm~1100nmにおける光の透過率を求めた。これとは別に、ガラス基板の波長300nm~1100nmにおける透過率を測定し、樹脂積層基板の透過率との差分から(具体的には樹脂積層基板とガラス基板の透過率の値をそれぞれ対数(log10)変換し、その差分を指数変換することにより)、吸収層(樹脂層)の波長300nm~1100nmにおける透過率を求めた。結果を図1図8に示す。
【0198】
樹脂積層基板1の吸収層は、近赤外線吸収色素A,Bに由来して波長699nm~753nmの範囲の透過率が3%以下となる吸収波長帯を示すとともに、シアニン化合物1に由来して835nmに吸収極大を有する吸収ピークを示した。樹脂積層基板1の吸収層はさらに、紫外線吸収色素Aに由来して波長365nm~379nmの範囲の透過率が5%以下となる吸収波長帯を示した。
【0199】
樹脂積層基板2の吸収層は、近赤外線吸収色素A,Bに由来して波長699nm~753nmの範囲の透過率が3%以下となる吸収波長帯を示すとともに、シアニン化合物2に由来して953nmに吸収極大を有する吸収ピークを示した。樹脂積層基板2の吸収層はさらに、紫外線吸収色素Aに由来して波長364nm~380nmの範囲の透過率が5%以下となる吸収波長帯を示した。
【0200】
樹脂積層基板3の吸収層は、近赤外線吸収色素A,Bおよびシアニン化合物3に由来して波長683nm~781nmの範囲の透過率が3%以下となる吸収波長帯を示した。樹脂積層基板3の吸収層はさらに、紫外線吸収色素Aに由来して波長351nm~390nmの範囲の透過率が5%以下、波長359nm~385nmの範囲の透過率が3%以下となる吸収波長帯を示した。
【0201】
樹脂積層基板4の吸収層は、波長690nm~758nmの範囲の透過率が3%以下となる吸収波長帯を示すとともに、当該吸収波長帯の長波長側のショルダーピークとして、シアニン化合物4に由来する795nmに吸収を有する吸収波形を示した。樹脂積層基板4の吸収層はさらに、紫外線吸収色素Aに由来して波長352nm~390nmの範囲の透過率が5%以下、波長359nm~385nmの範囲の透過率が3%以下となる吸収波長帯を示した。
【0202】
樹脂積層基板5の吸収層は、波長685nm~760nmの範囲の透過率が3%以下となる吸収波長帯を示すとともに、当該吸収波長帯の長波長側に重なってシアニン化合物5に由来する806nmに吸収を有する吸収波形を示した。樹脂積層基板5の吸収層はさらに、紫外線吸収色素Aに由来して波長347nm~392nmの範囲の透過率が5%以下、波長354nm~388nmの範囲の透過率が3%以下となる吸収波長帯を示した。
【0203】
樹脂積層基板6の吸収層は、波長694nm~756nmの範囲の透過率が3%以下となる吸収波長帯を示すとともに、シアニン化合物1,2に由来する吸収極大を有する吸収波形を示した。樹脂積層基板6の吸収層はさらに、紫外線吸収色素Aに由来して波長355nm~388nmの範囲の透過率が5%以下、波長365nm~378nmの範囲の透過率が3%以下となる吸収波長帯を示した。
【0204】
樹脂積層基板1~6の吸収層はシアニン化合物1~5を含有しており、シアニン化合物1~5はトルエンとポリアリレート樹脂に対する溶解性が高く、耐熱性に優れるものであった。同様に、樹脂積層基板1~6の吸収層に含まれる近赤外線吸収色素A,Bと紫外線吸収色素Aも、トルエンとポリアリレート樹脂に対する溶解性が高く、耐熱性に優れるものであった。その結果、樹脂積層基板1~6の吸収層は、シアニン化合物1~5と近赤外線吸収色素A,Bと紫外線吸収色素Aに由来する吸収ピークを好適に示すものとなった。
【0205】
一方、比較樹脂積層基板1,2の吸収層は、波長800nm~1000nmの範囲に比較シアニン化合物1,2に由来する吸収ピークを確認することができなかった。比較シアニン化合物1,2は、トルエンとポリアリレート樹脂に対する溶解性が低く、樹脂組成物中に低濃度でしか存在させることができず、また耐熱性が低いものであったため、ガラス基板上に成膜して190℃で乾燥させると分解し、その結果、得られた吸収層は、比較シアニン化合物1,2に由来する吸収ピークを示さないものとなった。
【0206】
(4)光学フィルターの作製
(4-1)反射防止膜の蒸着
樹脂積層基板6の樹脂層側に蒸着法により反射防止膜を積層(TiO膜とSiO膜を交互に5層積層)することにより、光学フィルター1を作製した。
【0207】
(4-2)分光測定
樹脂積層基板6と光学フィルター1に対し、分光光度計(島津製作所社製、UV-1800)を用いて透過スペクトルを測定ピッチ1nmで測定し、波長300nm~1100nmにおける光の透過率を求めた。結果を図9に示す。光学フィルター1は、反射防止膜の蒸着後においても、樹脂積層基板6の近赤外線領域の吸収を維持し、また樹脂積層基板6と比べて高い可視光透過性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0208】
本発明の光選択透過フィルターは、表示素子や撮像素子等の光学デバイス等、種々の分野において用いることが可能である。例えば、携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等の電子部品に使用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9