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  • 特開-零相変流器 図1
  • 特開-零相変流器 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104571
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】零相変流器
(51)【国際特許分類】
   H01F 38/32 20060101AFI20240729BHJP
   H01F 38/30 20060101ALI20240729BHJP
   H01H 83/02 20060101ALN20240729BHJP
【FI】
H01F38/32
H01F38/30
H01H83/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008861
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】508296738
【氏名又は名称】富士電機機器制御株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 藤一郎
(72)【発明者】
【氏名】山内 芳准
(72)【発明者】
【氏名】栗原 晋
(72)【発明者】
【氏名】谷 敏明
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貴
【テーマコード(参考)】
5E081
5G030
【Fターム(参考)】
5E081AA06
5E081BB03
5E081CC05
5E081DD11
5E081EE03
5E081GG05
5G030YY13
(57)【要約】
【課題】漏電の誤検出を防止することのできる零相変流器を提供する。
【解決手段】零相変流器10は、磁性材で形成された円環状のコア16と、コア16の中空部22を通り三相電流が流れる3本の一次導線18r,18s,18tと、コア16に巻回される3つの二次巻線20r,20s,20tと、3つの二次巻線20r,20s,20tのそれぞれの両端に発生する誘導起電力Vr,Vs,Vtが入力される演算部14とを有する。3本の一次導線18r,18s,18tのそれぞれの中心とコア16の中心とを通る直線24r,24s,24t上に3本の二次巻線20r,20s,20tが配置されている。演算部14は、3本の一次導線18r,18s,18tに平衡電流が流れているときに、入力される3つの誘導起電力Vr,Vs,Vtに基づく出力が0となるように調整可能な可変抵抗32r,32s,32tを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材で形成された円環状のコアと、
前記コアの中空部を通り三相電流が流れる3本の一次導線と、
前記コアに巻回される3つの二次巻線と、
3つの前記二次巻線のそれぞれの両端に発生する誘導起電力が入力される演算部と、
を有し、
3本の前記一次導線のそれぞれの中心と前記コアの中心とを通る直線上を含む位置に3本の前記二次巻線がそれぞれ配置されており、
前記演算部は、3本の前記一次導線に平衡電流が流れているときに、入力される3つの前記誘導起電力に基づく出力が0となるように調整可能な調整部を備える
ことを特徴とする零相変流器。
【請求項2】
前記演算部は、
入力される3つの前記誘導起電力をそれぞれ増幅する3つの増幅回路と、
3つの前記増幅回路の出力を加算する加算回路と、
を有し、
前記調整部は3つの前記増幅回路の増幅率をそれぞれ調整可能に構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の零相変流器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、零相変流器に関する。
【背景技術】
【0002】
零相変流器は漏電遮断器などに用いられており三相交流が通電される電路に対して漏電を検出する。零相変流器は、例えば特許文献1に示されるように磁性材の円環状コアと、該円環状コアに対してトロイダル状に巻回される二次巻線と、円環状コアの中空部を通り三相電流が流れる3本の一次導線とを有している。この零相変流器では、一次導体に三相電流が印加されたときに生じる磁束が円環状コアに鎖交することによって二次巻線に発生する誘導起電力を所定の漏電電流検出部で測定し漏電を検出する。そして、平衡電流が流れているときのみ円環状コアの磁束を打ち消し、二次巻線の出力を抑制することで平衡電流による漏電誤検出を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-150898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、円環状コアには場所によって透磁率のばらつきがある。従来の零相変流器では透磁率のばらつきがある場合は一次導体に平衡電流が流れていても円環状コア内に磁束が残ってしまい漏電を誤検出してしまう懸念がある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、漏電の誤検出を防止することのできる零相変流器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる零相変流器は、磁性材で形成された円環状のコアと、前記コアの中空部を通り三相電流が流れる3本の一次導線と、前記コアに巻回される3つの二次巻線と、3つの前記二次巻線のそれぞれの両端に発生する誘導起電力が入力される演算部と、を有し、3本の前記一次導線のそれぞれの中心と前記コアの中心とを通る直線上を含む位置に3本の前記二次巻線がそれぞれ配置されており、前記演算部は、3本の前記一次導線に平衡電流が流れているときに、入力される3つの前記誘導起電力に基づく出力が0となるように調整可能な調整部を備えることを特徴とする。これにより、漏電の誤検出を防止することができる。
【0007】
前記演算部は、入力される3つの前記誘導起電力をそれぞれ増幅する3つの増幅回路と、3つの前記増幅回路の出力を加算する加算回路と、を有し、前記調整部は3つの前記増幅回路の増幅率をそれぞれ調整可能に構成されていてもよい。このように増幅回路の増幅率をそれぞれ調整可能に構成することで調整が容易になる。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる零相変流器では、コアの場所による透磁率のばらつきに基づき一次導体に平衡電流が流れていても誘導起電力の1つ以上が0でない場合に、調整部の調整により出力としての加算回路の加算結果を0にすることができる。これにより、漏電の誤検出を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施の形態にかかる零相変流器を示すブロック回路図である。
図2図2は、零相変流器における演算部の概略回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明にかかる零相変流器の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明の実施形態にかかる零相変流器10を示すブロック図である。零相変流器10は、例えば漏電遮断器などに組み込まれており三相回路の漏電を検出する。漏電遮断器には過電流や地絡電流を検出する機能が含まれていてもよい。漏電遮断器では、零相変流器10が異常電流を検出すると回路遮断などの操作を行う。零相変流器10は機構部12と、演算部14とを有する。以下の説明では三相に対応する構成要素には符号にアルファベットr,s,tの添え字を付すが、構成要素の代表的な記載では添え字を省略することがある。まず機構部12について説明する。
【0012】
機構部12は、コア16と、3本の一次導線18r,18s,18tと、3つの二次巻線20r,20s,20tとを有する。コア16は円環状であって磁性材によって形成されている。コア16は突起や窪みがないほぼ真円状であり製造が容易である。
【0013】
一次導線18r,18s,18tは漏電遮断器における漏電の検出および遮断の対象となる三相交流の電路であり、コア16の中空部22を通っている。一次導線18r,18s,18tは、互いにやや接近して設けられ仮想線で示す正三角形の頂点を形成するように配置されている。一次導線18r,18s,18tが形成する正三角形の重心はコア16の中心Oと一致している。ただし、該正三角形の形状やその重心位置には多少誤差があってもよい。
【0014】
二次巻線20r,20s,20tはコア16に対して同じ巻き数、同じ方向に巻回されている。二次巻線20r,20s,20tは3本の一次導線18r,18s,18tのそれぞれの中心とコア16の中心Oとを通る直線24r,24s,24tの線上を含む位置(具体的には、直線24r,24s,24tを中心として対称に)で、120度間隔で設けられている。二次巻線20r,20s,20tは適度に離れており互いに重なることがない。二次巻線20r,20s,20tは多少の位置ずれは演算部14の調整機能により許容されるようになっている。
【0015】
二次巻線20を配置する場所を直線24上とするのは、二次巻線20の誘導起電力Vr,Vs,Vtの差を小さくするためである。原理としては、一次導体18に電流を印加すると図1の円弧矢印の様に一次導体18とコア16とが近い部分での磁束が大きくなり、両者が離れている部分は磁束が小さくなる。そのため、コア16の場所による透磁率のばらつきによって磁束は変化してしまうが、二次巻線20の受ける一次導体18からの磁束は一定にすることができる。
【0016】
中心Oを基準として、一次導線18rおよび二次巻線20rは12時の方向に設けられており、一次導線18sおよび二次巻線20sは4時の方向に設けられており、一次導線18tおよび二次巻線20tは8時の方向に設けられている。
【0017】
一次導線18r,18s,18tは、直線24r,24d,24tを中心として図1の円弧矢印で模式的に示す範囲に特に大きい磁束密度を生じさせ、二次巻線20r,20s,20tはこれらの箇所に合うように巻回されている。
【0018】
コア16の透磁率は全周に亘って均一であることが望ましいが、実際には製造誤差により場所によって透磁率のばらつきや偏りがある。本実施例におけるコア16では、11時から4時に亘る範囲16aでは透磁率が高く、4時から7時に亘る範囲16bでは透磁率が中程度であり、7時から9時に亘る範囲16cでは透磁率が低く、9時から12時に亘る範囲16dでは透磁率が中程度であるものとする。図1では、透磁率が高い範囲を濃いドット地で示し、低い範囲を薄いドット地で示し、中程度の範囲をその中間のドット地で示している。
【0019】
図2は、零相変流器10における演算部14の概略回路図である。図2では機構部12の一部についても模式的に示している。
【0020】
演算部14について図2に基づいて説明する。演算部14は入力ポート26r,26s,26tに対する入力に基づいて出力ポート36から出力電圧Voを出力するものである。
【0021】
演算部14は入力ポート26r,26s,26t、入力抵抗28r,28s,28t、増幅回路30r,30s,30t、可変抵抗(調整部)32r,32s,32t、加算回路34および出力ポート36を有する。
【0022】
入力ポート26r,26s,26tには3つの二次巻線20r,20s,20tのそれぞれの両端が接続され、各両端部に生じる誘導起電力Vr,Vs,Vtが入力される。二次巻線20r,20s,20tの各両端部には入力抵抗28r,28s,28tが直列に挿入されており、これらの両端に誘導起電力Vr,Vs,Vtが生じるようになっている。誘導起電力Vr,Vs,Vtは120度位相の交流電圧である。なお物理学上で通称されているのと同様に、本願の誘導起電力Vは電力[W]ではなく、電圧[V]とする。
【0023】
なお、コア16の透磁率が場所によらず均一な理想状態では一次導線18に三相交流を印加した時は電流によって発生した磁束はコア16内で打ち消されるため、誘導起電力Vr,Vs,Vtはそれぞれ0となるが、実際には透磁率の偏りによりコア16内で磁束が打ち消されずV≠0となってしまう。
【0024】
入力ポート26r,26s,26tに入力された誘導起電力Vr,Vs,Vtは増幅回路30r,30s,30tで増幅される。増幅回路30r,30s,30tには可変抵抗(調整部)32r,32s,32tが設けられており、それぞれ増幅率αr,αs,αtが調整可能になっている。増幅回路30r,30s,30tはオペアンプおよび抵抗による非反転増幅回路や反転増幅回路などによって構成されている。増幅回路30r,30s,30tの前段にはバッファ回路などを設けてもよい。増幅された増幅回路30r,30s,30tの出力はチェックピン38r,38s,38tで計測できるようになっている。
【0025】
増幅回路30r,30s,30tの出力αr・Vr,αs・Vs,αt・Vtは加算回路によって加算されて出力電圧Vo=αr・Vr+αs・Vs+αt・Vtとして出力ポート36から出力される。増幅回路30r,30s,30tはオペアンプおよび抵抗によって構成されている。出力電圧Voは出力ポート36で計測できるようになっている。漏電遮断器では出力電圧Voに基づき所定の閾値を超えたときに漏電リレーを切り替えるなどの操作が行われる。
【0026】
次に、零相変流器10の作用について説明する。コア16が場所により透磁率のばらつきがあることから一次導線18に平衡電流が流れていても二次巻線20で生じる誘導起電力Vr,Vs,Vtの和が0にならない場合がある。つまり上記の例において、二次巻線20rは、主に透磁率の高い部分16aに巻回されており誘導起電力Vrが相対的に高くなる傾向があり、二次巻線20sは、主に透磁率が中程度の部分16bに巻回されており誘導起電力Vsが中程度となる傾向があり、二次巻線20tは、主に透磁率の低い部分16cに巻回されており誘導起電力Vtが相対的に小さくなる傾向がある。また、誘導起電力Vは中空部22内における一次導線18の位置誤差や二次巻線20の配置誤差の影響も受ける。
【0027】
したがって、誘導起電力Vr,Vs,Vtを単純に定数倍して加算すると0にはならずに誤差が生じ、漏電の誤検出が発生する懸念がある。誤検出を防止するためには判断の閾値を大きく設定すればよいが、低電流漏電に対する検出精度が低下する。
【0028】
本実施の形態にかかる零相変流器10では、これに対応するために3本の一次導線18に平衡電流が流れているときに、3つの誘導起電力Vr,Vs,Vtに基づき出力ポート36からの出力電圧Voが0となるように可変抵抗32r,32s,32tによって調整可能に構成されている。
【0029】
つまり、上記の例で誘導起電力Vrが比較的大きければ可変抵抗32rの調整によって増幅器30rの増幅率を減少させ、誘導起電力Vsが中程度であれば可変抵抗32sの調整によって増幅器30sの増幅率を中程度とし、誘導起電力Vtが相対的に小さければ可変抵抗32tの調整によって増幅器30rの増幅率を増大させ、結果的にαr・Vr,αs・Vs,αt・Vtが同じゲインになるようにする。すなわち、ゲインを全て同じにして足し合わせるので、大きい電圧は小さくして、小さい電圧は大きくなるようにする。増幅器30の出力はチェックピン38を参照しながら調整するとよい。そして、最終的に、出力ポート36の出力電圧Voが0であることを確認する。
【0030】
このように、零相変流器10では、コア16の場所による透磁率のばらつきに基づき一次導体18に平衡電流が流れていても誘導起電力Vr,Vs,Vtの1つ以上が0でない場合に、可変抵抗32の調整によりαr・Vr,αs・Vs,αt・Vtの加算結果として出力電圧Voを0にすることができる。これにより、漏電の誤検出を防止することができるとともに、漏電検出の精度を向上させることができる。また、コア16には透磁率のばらつきが許容されるため、製造段階で基本的に選別の必要がなく歩留まりを向上させて製品コストを抑制することができる。
【0031】
なお、演算部14は漏電遮断器の本体筐体の内部に設けてもよいし外部に設けてもよい。演算部14はアナログ回路で構成されているがその一部またはほぼ全部をデジタル回路で構成してもよい。
【0032】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0033】
10 零相変流器
12 機構部
14 演算部
16 コア
18r,18s,18t 一次導線
20r,20s,20t 二次巻線
22 中空部
24r,24s,24t 直線
26r,26s,26t 入力ポート
28r,28s,28t 入力抵抗
30r,30s,30t 増幅回路
32r,32s,32t 可変抵抗(調整部)
34 加算回路
36 出力ポート
Vo 出力電圧
Vr,Vs,Vt 誘導起電力
O 中心
図1
図2