(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104572
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法
(51)【国際特許分類】
B21J 5/02 20060101AFI20240729BHJP
B21J 13/02 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
B21J5/02 C
B21J13/02 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008864
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉孝
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA10
4E087CA14
4E087EA11
4E087EC12
4E087EC43
4E087EC51
4E087HA25
(57)【要約】 (修正有)
【課題】設備の簡素化、設備コストを抑え、扁平な素材の使用で鍛造性を向上し、難加工形状の成形品が得られる等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法を提供する。
【解決手段】トラック溝が継手の軸線に対して周方向に傾斜し、傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝で互いに反対方向に形成された内側継手部材の鍛造において、内端にトラック溝成形面を有し、半径方向に移動可能な複数の分割ダイスと、分割ダイスを半径方向および周方向に位置決めするためのダイスベースと、素材を軸方向に加圧する一対のパンチを備えた金型を用いる成形工程を有し、分割ダイスを同方向に傾斜するトラック溝成形面を有する第1グループと第2グループに区分し、半径方向外側へ開く移動距離を同一とし、第1グループの分割ダイスの半径方向外側へ開く移動距離を第2グループより短くし、素材を投入する際、第1グループの分割ダイスの内端で素材W1をガイドしたことを特徴とする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラック溝が継手の軸線に対して周方向に傾斜すると共に、その傾斜方向が周方向に隣り合う前記トラック溝で互いに反対方向に形成された等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法であって、
内端に前記トラック溝を成形するためのトラック溝成形面を有し、半径方向に移動可能な複数の分割ダイスと、前記分割ダイスを半径方向および周方向に位置決めするためのダイスベースと、素材を軸方向に加圧する一対のパンチを備えた金型を用い、
前記複数の分割ダイスが半径方向外側に開いた状態で、前記分割ダイスの内側に前記素材を投入し、その後、前記ダイスベースにより前記分割ダイスを半径方向および周方向に位置決めすると共に前記一対のパンチで加圧することにより、前記分割ダイスと前記一対のパンチにより形成される成形空間に前記素材を塑性流動で充足させる成形工程を有する等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法において、
前記複数の分割ダイスを第1グループと第2グループに区分し、各グループ内の分割ダイスが同方向に傾斜するトラック溝成形面を有すると共に、前記各グループ内の分割ダイスの半径方向外側へ開く移動距離を同一とし、
前記第1グループの分割ダイスの半径方向外側へ開く移動距離を前記第2グループの分割ダイスの半径方向外側へ開く移動距離より短くし、
前記素材を投入する際、前記第1グループの分割ダイスの内端で前記素材をガイドしたことを特徴とする等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法。
【請求項2】
前記複数の分割ダイスの半径方向外側へ開く移動距離がストッパ面で規定されていることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法。
【請求項3】
前記成形工程後、前記複数の分割ダイスが半径方向外側に開いた状態で、成形品が排出されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法。
【請求項4】
前記複数の分割ダイスの数が8個であること特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法。
【請求項5】
前記内側継手部材のトラック溝の軌道中心線が継手中心を曲率中心とする円弧状部分を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法。
【請求項6】
前記内側継手部材のトラック溝の軌道中心線が直線状であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラック溝が継手の軸線に対して周方向に傾斜すると共に、その傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝で互いに反対方向に形成された等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直線状のトラック溝が継手の軸線に対して周方向に傾斜すると共に、その傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝で互いに反対方向に形成された従来のクロスグルーブ型等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法として、例えば、特許文献1が提案されている。この鍛造方法は、内端に内側継手部材のトラック溝を成形するためのトラック溝成形面を設けた半径方向に移動可能な複数の分割ダイスを、分割ダイスの外端と係合して分割ダイスを半径方向に位置決めするためのダイスベースに収めて素材を鍛造加工するものである。
【0003】
従来の鍛造方法の工程では、成形完了後の成形品排出時に成形品と分割ダイスが接触しないように、成形時以外のタイミングでは分割ダイスは、スプリングで常に半径方向外側に開いている。そのため、素材と分割ダイスの間には空間があり、素材投入時から成形開始までに素材が倒れることを防止するために、分割ダイスの下にビレットガイドを配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1では、分割ダイスに下に配置したビレットガイドにより素材が倒れることを防止するものであるので、次のような問題が判明した。すなわち、素材を分割ダイスの上部から投入する構造のため、トランスファー方式で搬送爪によって素材の外径面を両側から把持し、素材をビレットガイド上に配置するためには、分割ダイスの厚みよりも長い素材を使用する必要があり、それよりも扁平な素材は使用できなかった。
【0006】
また、素材(ビレット)は、成形品の鍛造重量に基づいてバー材を切断して製作するが、長い素材を使用すると、鍛造性が低下し、難加工形状の鍛造が難しいことが考えられる。
【0007】
さらに、設備面では、複数の分割ダイスを半径方向に駆動する駆動機構および制御機構を付設して位置を制御することも考えられるが、設備が複雑化し、設備コストも高騰することに着目した。
【0008】
以上の問題に鑑みて、本発明は、設備の簡素化、設備コストの抑制を図りつつ、扁平な素材の使用により鍛造性を向上し、安定した稼働状態で難加工形状の成形品が得られる等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前述した問題について種々検討した結果、複数の分割ダイスを2つのグループに分け、各グループの分割ダイスの半径方向外側へ開く移動距離に差を設けて、移動距離の短いグループの分割ダイスにより素材をガイドするという着想により、本発明に至った。
【0010】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、トラック溝が継手の軸線に対して周方向に傾斜すると共に、その傾斜方向が周方向に隣り合う前記トラック溝で互いに反対方向に形成された等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法であって、内端に前記トラック溝を成形するためのトラック溝成形面を有し、半径方向に移動可能な複数の分割ダイスと、前記分割ダイスを半径方向および周方向に位置決めするためのダイスベースと、素材を軸方向に加圧する一対のパンチを備えた金型を用い、前記複数の分割ダイスが半径方向外側に開いた状態で、前記分割ダイスの内側に前記素材を投入し、その後、前記ダイスベースにより前記分割ダイスを半径方向および周方向に位置決めすると共に前記一対のパンチで加圧することにより、前記分割ダイスと前記一対のパンチにより形成される成形空間に前記素材を塑性流動で充足させる成形工程を有する等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法において、前記複数の分割ダイスを第1グループと第2グループに区分し、各グループ内の分割ダイスが同方向に傾斜するトラック溝成形面を有すると共に、前記各グループ内の分割ダイスの半径方向外側へ開く移動距離を同一とし、前記第1グループの分割ダイスの半径方向外側へ開く移動距離を前記第2グループの分割ダイスの半径方向外側へ開く移動距離より短くし、前記素材を投入する際、前記第1グループの分割ダイスの内端で前記素材をガイドしたことを特徴とする。
【0011】
上記の構成により、設備の簡素化、設備コストの抑制を図りつつ、扁平な素材の使用により鍛造性を向上し、安定した稼働状態で難加工形状の成形品が得られる等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法を実現することができる。
【0012】
上記の複数の分割ダイスの半径方向外側へ開く移動距離をストッパ面で規定することにより、設備の簡素化、設備コストの抑制を図りつつ、安定した稼働状態を確保することができる。
【0013】
上記の成形工程後、複数の分割ダイスが半径方向外側に開いた状態で、成形品が排出されることにより、設備の簡素化、設備コストの抑制を図りつつ、安定した稼働状態を確保することができる。
【0014】
上記の複数の分割ダイスの数が8個であることにより、半数の第1グループの分割ダイスの内端で素材を確実にガイドすることができる。
【0015】
上記の内側継手部材のトラック溝の軌道中心線が継手中心を曲率中心とする円弧状部分を有することが望ましい。これにより、難加工形状の成形品を生産性よく鍛造することができる。
【0016】
上記の内側継手部材のトラック溝の軌道中心線が直線状であることが望ましい。これにより、難加工形状の成形品を生産性よく鍛造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、設備の簡素化、設備コストの抑制を図りつつ、扁平な素材の使用により鍛造性を向上し、安定した稼働状態で難加工形状の成形品が得られる等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(a)図は、本発明の一実施形態に係る鍛造方法に基づいて製造された内側継手部材を組み込んだ等速自在継手の部分縦断面図で、(b)図は、(a)図の側面図である。
【
図2】
図1(a)の内側継手部材を示し、(a)図は、(b)図の左側面図で、(b)図は内側継手部材の外周面を示す図で、(c)図は、(b)図の右側面図である。
【
図3】内側継手部材のトラック溝の詳細を示す縦断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る鍛造方法の素材投入状態を示す要部縦断面図である。
【
図6】
図5のダイスベースを下から見た平面図である。
【
図7】
図5の分割ダイスを上から見た平面図である。
【
図8】1つの分割ダイスを内径側から見た斜視図である。
【
図9】プレススライドの下降途中状態を示す要部縦断面図である。
【
図10】
図9における分割ダイスの配置状態を示す平面図である。
【
図11】プレススライドの下降完了状態を示す要部縦断面図である。
【
図12】
図11における分割ダイスの配置状態を示す平面図である。
【
図14】
図13における分割ダイスの配置状態を示す平面図である。
【
図15】成形品の排出状態を示す要部縦断面図である。
【
図16】
図15における分割ダイスの配置状態を示す平面図である。
【
図17】(a)図は、本実施形態に係る鍛造方法の金型等を適宜修正して適用される内側継手部材を組み込んだ別形態の等速自在継手の縦断面図で、(b)図は、(a)図の側面図である。
【
図18】(a)図は、
図17(a)の内側継手部材の外周面を示す図で、(b)図は、(a)図の右側面図である。
【
図19】本実施形態に係る鍛造方法の金型等を適宜修正して適用される内側継手部材を組み込んださらに別形態の等速自在継手の縦断面図である。
【
図20】(a)図は、
図19の内側継手部材の縦断面図で、(b)図は、(a)図の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る内側継手部材の鍛造方法を図面に基づいて説明する。本実施形態に係る鍛造方法に基づいて製造された内側継手部材を組み込んだ等速自在継手および内側継手部材を
図1~4に示し、その鍛造方法を
図5~16に示す。
【0020】
まず、対象となる等速自在継手およびその内側継手部材を説明する。
図1(a)は、前記等速自在継手の部分縦断面図で、
図1(b)は、
図1(a)の側面図である。等速自在継手1は、固定式等速自在継手であり、外側継手部材2、内側継手部材3、トルクを伝達するボール4および保持器5を主な構成とする。外側継手部材2の球状内周面6には8本のトラック溝7が形成され、内側継手部材3の球状外周面8には、外側継手部材2のトラック溝7と対向する8本のトラック溝9が形成されている。外側継手部材2の球状内周面6と内側継手部材3の球状外周面8との間に、ボール4を保持する保持器5が配置されている。保持器5の球状外周面12は外側継手部材2の球状内周面6に摺動自在に嵌合し、保持器5の球状内周面13は内側継手部材3の球状外周面8に摺動自在に嵌合している。
【0021】
外側継手部材2の球状内周面6と内側継手部材3の球状外周面8の曲率中心は、それぞれ継手中心Oに形成され、外側継手部材2の球状内周面6と内側継手部材3の球状外周面8にそれぞれ嵌合する保持器5の球状外周面12と球状内周面13の曲率中心も、それぞれ継手中心Oに位置する。
【0022】
図1(a)、
図1(b)に示すように、外側継手部材2および内側継手部材3のそれぞれ8本のトラック溝7、9は、継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝7A、7Bおよび9A、9Bで互いに反対方向に形成されている。そして、外側継手部材2および内側継手部材3の対となるトラック溝7A、9Aおよび7B、9Bはそれぞれ互いに反対方向(相反)に傾斜し、その各交差部に8個のボール4が配置されている。
【0023】
軸方向に延びるトラック溝の傾斜状態や湾曲状態などの形態、形状を的確に示すために、本明細書では、軌道中心線という用語を用いて説明する。ここで、軌道中心線とは、トラック溝に配置されたボールがトラック溝に沿って移動するときのボールの中心が描く軌跡を意味する。
【0024】
図1(a)に示すように、外側継手部材2のトラック溝7は軌道中心線Xを有し、トラック溝7は、継手中心Oを曲率中心とする円弧状の軌道中心線Xaを有する第1のトラック溝部7aと、直線状の軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7bとからなり、第1のトラック溝部7aの軌道中心線Xaに第2のトラック溝部7bの軌道中心線Xbが接線として滑らかに接続されている。一方、内側継手部材3のトラック溝9は軌道中心線Yを有し、トラック溝9は、継手中心Oを曲率中心とする円弧状の軌道中心線Yaを有する第1のトラック溝部9aと、直線状の軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部9bとからなり、第1のトラック溝部9aの軌道中心線Yaに第2のトラック溝部9bの軌道中心線Ybが接線として滑らかに接続されている。
【0025】
トラック溝7、9の横断面形状は、楕円形状やゴシックアーチ形状に形成されており、トラック溝7、9とボール4は、接触角(30°~45°程度)をもって接触する、所謂、アンギュラコンタクトとなっている。したがって、ボール4は、トラック溝7、9の溝底より少し離れたトラック溝7、9の側面側で接触している。
【0026】
図2に基づき、内側継手部材3のトラック溝9が継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜している状態を説明する。
図2(b)は内側継手部材3の外周面を示し、
図2(a)は内側継手部材3の左側面を、
図2(c)は右側面を示す。内側継手部材3のトラック溝9は、その傾斜方向の違いから、トラック溝9A、9Bの符号を付す。
図2(b)に示すように、トラック溝9Aの軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qは、継手の軸線N-Nに対して周方向に角度γだけ傾斜している。そして、トラック溝9Aに周方向に隣り合うトラック溝9Bは、図示は省略するが、トラック溝9Bの軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qが、継手の軸線N-Nに対して、トラック溝9Aの傾斜方向とは反対方向に角度γだけ傾斜している。傾斜角γは、等速自在継手1の作動性および内側継手部材3のトラック溝の最も接近した側の球面幅Fを考慮し、4°~12°に設定されている。内側継手部材3のトラック溝9の軌道中心線Yは、作動角0°の状態で継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pを基準として、外側継手部材2の対となるトラック溝7の軌道中心線Xと鏡像対称に形成されている。
【0027】
ここで、トラック溝の符号について補足する。内側継手部材3のトラック溝全体を指す場合は符号9を付し、その第1のトラック溝部に符号9a、第2のトラック溝部に符号9bを付す。さらに、傾斜方向の違うトラック溝を区別する場合には符号9A、9Bを付し、それぞれの第1のトラック溝部に符号9Aa、9Ba、第2のトラック溝部に符号9Ab、9Bbを付す。外側継手部材2のトラック溝7についても、同様の要領で符号を付す。
【0028】
図3に基づいて、内側継手部材3の縦断面よりトラック溝の詳細を説明する。
図3の縦断面は、前述した
図2(b)のトラック溝9Aの軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qで見た断面図である。したがって、厳密には、継手の軸線N-Nを含む平面における縦断面図ではなく、角度γだけ傾斜したN’-N’線を含む断面を示している。
図3には、内側継手部材3のトラック溝9Aが示されているが、トラック溝9Bは、傾斜方向がトラック溝9Aとは反対方向であるだけで、その他の構成はトラック溝9Aと同じであるので、説明は省略する。内側継手部材3の球状外周面8にはトラック溝9Aが概ね軸方向に沿って形成されている。
【0029】
トラック溝9Aは軌道中心線Yを有し、トラック溝9Aは、継手中心Oを曲率中心(軸方向のオフセットがない)とする円弧状の軌道中心線Yaを有する第1のトラック溝部9Aaと、直線状の軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部9Abとからなる。そして、第1のトラック溝部9Aaの軌道中心線Yaの奥側の端部Bにおいて、第2のトラック溝部9Abの軌道中心線Ybが接線として滑らかに接続されている。端部Bは継手中心Oよりも奥側に位置するので、第1のトラック溝部9Aaの軌道中心線Yaの奥側の端部Bにおいて接線として接続される第2のトラック溝部9Abの直線状の軌道中心線Ybは、奥側に行くにつれて継手の軸線N-N〔
図1(a)参照〕に接近するように形成されている。これにより、最大作動角時の有効トラック長さを確保すると共にくさび角が過大になるのを抑制することができる。
【0030】
端部Bと継手中心Oとを結ぶ直線Rが、作動角0°の状態で継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pに対して、継手の軸線N-N方向になす角度βは、継手の常用角を考慮して、3°~10°に設定されている。内側継手部材3の第1のトラック溝部9Aaの軌道中心線Yaの端部Bは、使用頻度が多い常用角時に軸方向に沿って最も奥側に移動したときのボールの中心位置となる。
【0031】
図4に内側継手部材3の斜視図を示す。この斜視図は、これまで説明したトラック溝を立体的に示している。内側継手部材3の球状外周面8には、継手の軸線(図示省略)に対して周方向に傾斜したトラック溝9A、9Bが交互に形成され、その傾斜方向は交互に反対方向に形成されている。トラック溝9A、9Bは、それぞれ第1のトラック溝部9Aa、9Baと第2のトラック溝部9Ab、9Bbとからなる。
【0032】
使用頻度が多い常用角の範囲では、ボール4は、外側継手部材2および内側継手部材3の第1のトラック溝部7a、9aに位置するので、保持器5の周方向に隣り合うポケット部5aにボール4から相反する方向の力が作用し、保持器5は継手中心Oの位置で安定する〔
図1(a)参照〕。このため、保持器5の球状外周面12と外側継手部材2の球状内周面6との接触力、および保持器5の球状内周面13と内側継手部材3の球状外周面8との接触力が抑制され、高負荷時や高速回転時に継手が円滑に作動し、トルク損失や発熱が抑えられ、耐久性が向上する。
【0033】
高作動角の範囲では、周方向に配置されたボール4が第1のトラック溝部7a、9aと第2のトラック溝部7b、9bに一時的に分かれて位置する。これに伴い、保持器5の各ポケット部5aにボール4から作用する力の釣り合いが若干崩れ、保持器5と外側継手部材2との球面接触部12、6および保持器5と内側継手部材3との球面接触部13、8の接触力が発生するが、高作動角の範囲は使用頻度が少ないこともあり、この等速自在継手1は、総合的にみるとトルク損失や発熱を抑制できる。したがって、トルク損失および発熱が少なく高効率で、高作動角時の強度や耐久性にも優れたコンパクトな固定式等速自在継手を実現することができる。
【0034】
次に、本実施形態に係る内側継手部材の鍛造方法を
図5~16に基づいて説明する。本実施形態の鍛造方法に用いる主な鍛造金型を
図5に基づいて説明する。
図5は本実施形態に係る鍛造方法の素材投入状態を示す要部縦断面図である。鍛造金型は上型30と下型31で構成され、上型30は、上プレート32、上パンチ33、上パンチガイド34およびダイスベース35を主な構成とする。下型31は、下パッド36、下パンチ37、下パンチガイド38、分割ダイス39およびダイスハンガ40を主な構成とする。
【0035】
上型30は、プレススライドにより昇降可能となっている。また、上型30には、上パンチ33の荷重を受けるボス部42が収容される孔部41が形成され、上パンチ33は、上カウンターパンチ33aと、この上カウンターパンチ33aの外周に嵌合する上リングパンチ33bとからなっている。
【0036】
下型31には、下パンチ37が摺動可能に収容される孔部43が形成され、下パンチ37は、スプリング(図示省略)により常に上側に押されている。下パンチ37は、下カウンターパンチ37aとこの下カウンターパンチ37aの外周に嵌合する下リングパンチ37bとからなり、これらを受けるボス部44が設けられている。
【0037】
複数の分割ダイス39はダイスハンガ40と連結されている。ダイスハンガ40は、下パッド36に設けられた溝に摺動自在に嵌合され、複数の分割ダイス39は半径方向に移動可能となっている。下パッド36とダイスハンガ40の間に装着されたスプリング45により、分割ダイス39が常に半径方向外側へ開くように付勢されている。分割ダイス39の半径方向外側へ開く移動距離は下パッド36に設けられたストッパ面Sで規定される。
図5に示すように、分割ダイス39が半径方向外側へ開いた状態で、素材W1が投入される。
【0038】
図5、
図6に基づいて、上型30のダイスベース35を説明する。
図6は、
図5のダイスベース35を下から見た平面図である。ダイスベース35は、下端面に開口したすり鉢状の形態で、略円錐台形状の空間46と、内周面の円周方向に等間隔に配置された凹部47とを備える。凹部47の数は、分割ダイス39の数に対応し、図示した実施形態では8本であり、全体として星形を呈している。各凹部47の形状は、後述する分割ダイス39の外端の側面の形状を転写したものに相当する。すなわち、凹部47は、ダイスベース35の内径側から外径側に向かって先細となった一対の側壁面47aを有する。また、側壁面47aは、ダイスベース35の開口端面から奥側に向かっても先細となっている。後述するように、側壁面47aと分割ダイス39の後端48の側面48a(
図7参照)とが係合するため、凹部47の外端面47bは、分割ダイス39の後端面48bと干渉しないように凹円弧状に逃がしてある。
【0039】
図5、
図7、
図8に基づいて、下型31の分割ダイス39を説明する。
図7は、
図5の分割ダイス39を上から見た平面図で、
図8は1つの分割ダイス39を内径側から見た斜視図である。内側継手部材3のトラック溝9の数に対応する数の分割ダイス39が円周方向に放射状に配置されている。各分割ダイス39は、
図7に示すように、内端49側にトラック溝9を成形するためのトラック溝成形面49aを備えている。前述したように、内側継手部材3のトラック溝9は、交互に反対方向に傾斜していることから、周方向に隣り合う分割ダイス39では、トラック溝成形面49aの傾斜方向が互いに反対方向となっている。
【0040】
図8に示すように、分割ダイス39の内端49に形成されたトラック溝成形面49aの円周方向両側には、トラック溝チャンファ成形面49bが形成されている。これにより、本実施形態の鍛造方法では、トラック溝9とトラック溝チャンファが同時に成形され、チャンファの機械加工を省略できる。分割ダイス39には貫通孔50が設けられており、貫通孔50にボルトを挿通してダイスハンガ40に締結される。この分割ダイス39のトラック溝成形面49aの傾斜方向は、
図2(b)の継手の軸線N-Nに対して反時計方向である。すなわち、トラック溝9Aを成形するトラック溝成形面49aを有している。
【0041】
図7に示すように、分割ダイス39の後端48は、円周方向に傾斜状態で面した側面48aと、外径方向に面した外端面48bとを有し、側面48aが、分割ダイス39の内端49側から外端48側に向かって先細となり、かつ、底面側から頂点側に向かって先細となるテーパ面となっている。
【0042】
本実施形態の鍛造方法に用いる金型の全体的な構成は以上のとおりであるが、本実施形態の鍛造方法の特徴的な構成は次のとおりである。
(1)複数の分割ダイスを第1グループと第2グループに区分し、各グループ内の分割ダイスが同方向に傾斜するトラック溝成形面を有すると共に、各グループ内の分割ダイスの半径方向外側へ開く移動距離を同一とし、
(2)第1グループの分割ダイスの半径方向外側へ開く移動距離を第2グループの分割ダイスの半径方向外側へ開く移動距離より短くし、
(3)素材を投入する際、第1グループの分割ダイスの内端で素材をガイドしたことである。
【0043】
図7に基づいて、上記の特徴的な構成を具体的に説明する。複数の分割ダイス39は、第1グループの分割ダイス39
1と第2グループの分割ダイス39
2とで構成されている。第1グループの各分割ダイス39
1は、トラック溝成形面49aが同方向に傾斜している。その傾斜方向は、
図2(b)の継手の軸線N-Nに対して反時計方向である。すなわち、第1グループの各分割ダイス39
1は、トラック溝9Aを成形するトラック溝成形面49aを有し、その数は半数の4個である。一方、第2グループの各分割ダイス39
2は、トラック溝成形面49aが同方向に傾斜し、その傾斜方向が、
図2(b)の継手の軸線N-Nに対して時計方向である。すなわち、第2グループの各分割ダイス39
2は、トラック溝9Bを成形するトラック溝成形面49aを有し、その数は残りの4個である。
【0044】
第1グループの分割ダイス391が半径方向外側へ開いた時の内端49の内接円はC1であり、第2グループの分割ダイス392が半径方向外側へ開いた時の内端49の内接円はC2である。このように、第1グループ内の分割ダイス391の半径方向外側へ開く移動距離は、内端49の内接円がC1で同一とされている。また、第2グループの分割ダイス392の半径方向外側へ開く移動距離は、内端49の内接円がC2で同一とされている。
【0045】
内端49の内接円C
1は内接円C
2より小さくされている。すなわち、第1グループの分割ダイス39
1の半径方向外側へ開く移動距離を第2グループの分割ダイス39
2の半径方向外側へ開く移動距離より短くされている。分割ダイス39
1、39
2の半径方向外側へ開く移動距離は、それぞれ、
図5に示すストッパ面S
1、S
2で規定される。
【0046】
そして、素材W1を投入する際、第1グループの分割ダイス391の内端49の内接円C1で素材W1をガイドする。すなわち、半径方向外側へ開く移動距離が短い第1グループの分割ダイス391の内端49で素材をガイドする。
【0047】
特許請求の範囲における「前記複数の分割ダイスを第1グループと第2グループに区分し、各グループ内の分割ダイスが同方向に傾斜するトラック溝成形面を有すると共に、前記各グループ内の分割ダイスの半径方向外側へ開く移動距離を同一とし、」、「前記第1グループの分割ダイスの半径方向外側へ開く移動距離を前記第2グループの分割ダイスの半径方向外側へ開く移動距離より短くし、」および「前記素材を投入する際、前記第1グループの分割ダイスの内端で前記素材をガイドしたこと」は、上記の意味を有する。
【0048】
本実施形態では、8個の分割ダイス39の半数(4個)の分割ダイス391の内端49で素材W1をガイドするので、安定したガイドが可能になる。また、分割ダイス39の下に配置したビレットガイドで素材の倒れ防止を行う構造ではなく、第1グループの分割ダイス391の内端49の上部を素材が通過した時点でガイド可能であるので、扁平な素材も使用可能となる。さらに、設備面では、複数の分割ダイス39を半径方向に駆動する駆動機構および制御機構を付設して位置を制御するものではないので、設備の簡素化、設備コストの抑制を図りつつ、安定した稼働状態を実現できる。
【0049】
なお、
図7に示す分割ダイス39
1、39
2の内端49の内接円C
3は、後述する
図11~
図14に示すように分割ダイス39
1、39
2がダイスベース35により位置決めが完了したときの内接円である。
【0050】
次に、本実施形態の鍛造方法の成形過程を
図5~
図16に基づいて説明する。
図5、
図7に示すように、素材投入時は、上型30が上昇し、分割ダイス39が半径方向外側へ開いた状態で、第1グループの分割ダイス39
1の内端49で素材W1をガイドしながら、下カウンターパンチ37aの上に供給する。
図5は、
図7のA-N-A線に沿った縦断面図である。下カウンターパンチ37aおよび下リングパンチ37bは、スプリング(図示省略)により常に上側に押されている。この状態で、上型30が下降する。
【0051】
上型30が下降すると、
図9に示すように、ダイスベース35の側壁面47a(
図5、
図6参照)が分割ダイス39の後端48の側面48aに係合し、分割ダイス39が半径方向内側へ押され、半径方向および周方向の位置決めが行われる。
図9は、
図10のA-N-A線に沿った縦断面図である。そして、下降の途中段階で、
図10に示すように、第1グループの分割ダイス39
1と第2グループの分割ダイス39
2の内端49のすべてによって素材W1をガイドする。
【0052】
その後、上型30の下降が進み、
図11に示すように、上パンチガイド34が分割ダイス39に接触し、上カウンターパンチ33が素材W2を加圧すると共に、分割ダイス39により素材W2の上側を加圧する。そして、
図12に示すように分割ダイス39の位置決めが完了し、分割ダイス39の内端49の内接円はC3となる。
図11は、
図12のA-N-A線に沿った縦断面図である。これに伴い、分割ダイス39、上下のカウンターパンチ33aおよび上下のリングパンチ33bにより、内側継手部材3のトラック溝9および上下の端面に対応した成形空間が形成される。
【0053】
さらに上型30が下降すると、
図13、
図14に示すように、上下のカウンターパンチ33a、37aと上下のリングパンチ33b、37bによって、素材W2に加圧力が加わり、塑性流動して、上型30の下死点で上記成形空間を充足することで内側継手部材3の成形品W3が得られる。
図13は、
図14のA-N-A線に沿った縦断面図である。
【0054】
その後、
図15に示すように、プレススライドが上昇し上型30が下型31から離れると共に、分割ダイス39が半径方向外側へ開き、ノックアウト機構(下カウンターパンチ37a、下リングパンチ37b)により成形品W3を取り出す。
図15は、
図16のA-N-A線に沿った縦断面図である。このとき、
図16に示すように、第1グループの分割ダイス39
1の内端49の内接円はC
1であり、第2グループの分割ダイス39
2の内端49の内接円はC
2である。このように、第1グループの分割ダイス39
1と第2グループの分割ダイス39
2の半径方向外側へ開く移動距離に差を持たせて分割ダイス39を配置したので、成形品W3を排出できる。
【0055】
成形品W3の排出時に、垂直方向に真っ直ぐ排出すると成形品W3と第1グループの分割ダイス391が接触する場合は、成形品W3が回転しながら排出することで、成形品W3のトラック溝が第1グループの分割ダイス391のトラック溝成形面49aを回避することができる。
【0056】
本実施形態では、第1グループの分割ダイス391を継手の軸線N-Nに対して反時計方向に傾斜したトラック溝9Aを成形するトラック溝成形面49aを有するものとし、第2グループの分割ダイス392を継手の軸線N-Nに対して時計方向に傾斜したトラック溝9Bを成形するトラック溝成形面49aを有するものとしたが、第1グループの分割ダイス391と第2グループの分割ダイス392が有するトラック溝成形面49aの傾斜方向を逆にしてもよい。
【0057】
次に、本実施形態の鍛造方法の金型等を適宜修正して適用される別形態の等速自在継手の内側継手部材を
図17、
図18に基づいて説明する。
図17(a)は、別形態の等速自在継手の縦断面図で、
図17(b)は、
図17(a)の側面図である。
図18(a)は、
図17(a)の内側継手部材の外周面を示す図で、
図18(b)は、
図18(a)の右側面図である。
【0058】
図17(a)、
図17(b)に示す等速自在継手101は、固定式等速自在継手であり、外側継手部材102および内側継手部材103と、両継手部材102、103間に配置された6個のボール104と、ボール104を保持する保持器105とを主な構成とする。
図17(b)に示すように、外側継手部材102および内側継手部材103のトラック溝107、109は、継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝107A、107Bおよび109A、109Bで互いに反対方向に形成されている。
【0059】
図17(a)に示すように、外側継手部材102のトラック溝107の軌道中心線X1および内側継手部材103のトラック溝109の軌道中心線Y1は、いずれも、継手中心Oを曲率中心とした単一の円弧状で全長にわたって形成されている。保持器105の球状外周面112は外側継手部材102の球状内周面106に摺動自在に嵌合し、保持器105の球状内周面113は内側継手部材103の球状外周面108に摺動自在に嵌合している。外側継手部材102の球状内周面106と内側継手部材103の球状外周面108の曲率中心は、それぞれ継手中心Oに形成され、外側継手部材102の球状内周面106と内側継手部材103の球状外周面108にそれぞれ嵌合する保持器105の球状外周面112と球状内周面113の曲率中心も、それぞれ継手中心Oに位置する。
【0060】
図18(a)、
図18(b)に示すように、内側継手部材103の各トラック溝109は、継手の軸線N-Nに対して周方向に角度γ傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝109A、109Bで互いに反対方向に形成されている。詳述すると、
図18(a)に示すように、トラック溝109Aの軌道中心線Y1と継手中心Oを含む平面Qは、継手の軸線N-Nに対して周方向一方側に角度γ傾斜している。また、トラック溝109Aと周方向に隣り合うトラック溝109Bの軌道中心線Y1と継手中心Oを含む平面Qは、継手の軸線N-Nに対して周方向他方側に角度γ傾斜している。内側継手部材103のトラック溝109の軌道中心線Y1は、作動角0°の状態で継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pを基準として、外側継手部材102の対となるトラック溝107の軌道中心線X1と鏡像対称に形成されている。なお、
図17(a)に示すトラック溝7、9は、それぞれ、傾斜角γ=0°まで回転させた状態で示している。
【0061】
内側継手部材103は、各トラック溝109が、外側継手部材102の対となるトラック溝107と交差するように外側継手部材102の内周に組み込まれている。したがって、この等速自在継手101でも、球状面同士の接触に起因したトルク損失や発熱が効果的に抑制され、トルク伝達効率および耐久性に優れた等速自在継手を実現できる。
【0062】
上述した内側継手部材103の場合にも、前述した実施形態に係る鍛造方法に用いた金型を適宜修正することにより、適用できる。例えば、分割ダイスの数を内側継手部材103のトラック溝109の数(6個)とし、分割ダイスの内端のトラック溝成形面をトラック溝109の単一の円弧形状に対応させると共に、この修正に対応してダイスベース等を修正することにより適宜実施することができる。したがって、前述した実施形態の金型構成、鍛造方法、加工工程などの説明内容を準用し、説明を省略する。
【0063】
さらに、本実施形態の鍛造方法の金型等を適宜修正して適用される別形態の等速自在継手の内側継手部材を
図19、
図20に基づいて説明する。
図19は、さらに別形態の等速自在継手の縦断面図である。
図20(a)は、
図19の内側継手部材の縦断面図で、
図20(b)は、
図20(a)の右側面図である。
【0064】
図19に示す等速自在継手201は、クロスグルーブ型と称される摺動式等速自在継手である。この等速自在継手201は、外側継手部材202、内側継手部材203、ボール204および保持器205を主な構成とする。外側継手部材202は、その内周面に複数(例えば、6本)の直線状の軌道中心線X2を有するトラック溝207が概ね軸方向に形成されている。内側継手部材203は、その外周面に、外側継手部材202のトラック溝207に対向して、直線状の軌道中心線Y2を有するトラック溝209が概ね軸方向に形成されている。外側継手部材202と内側継手部材203の間に保持器205が配置され、ボール204が保持器のポケット205aに収容されている。保持器205の球状外周面212と外側継手部材202の内周面206とは摺動自在に嵌合し、保持器205の球状内周面213と内側継手部材203の外周面208との間には隙間が設けられ、相対移動可能となっている。これにより、摺動式等速自在継手を構成する。
【0065】
図19、
図20(b)に示すように、外側継手部材202のトラック溝207と内側継手部材203のトラック溝209は、継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝207A、207B(図示省略)および209A、209Bで互いに反対方向に形成されている。対となる外側継手部材202のトラック溝207と内側継手部材203のトラック溝209との交差部にボール204が組み込まれている。
【0066】
上述した内側継手部材203の場合にも、前述した実施形態に係る鍛造方法に用いた金型を適宜修正することにより、適用できる。例えば、分割ダイスの数を内側継手部材203のトラック溝209の数(例えば、6個)とし、分割ダイスの内端のトラック溝成形面をトラック溝209の直線状に対応させると共に、この修正に対応してダイスベース等を修正することにより適宜実施することができる。したがって、前述した実施形態の金型構成、鍛造方法、加工工程などの説明内容を準用し、説明を省略する。
【0067】
以上の説明では、内側継手部材のトラック溝の数を6本、8本のものを例示したが、トラック溝が継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝で互いに反対方向に形成されている難加工形状で、トラック溝の数が10本以上の内側継手部材にも効果的に適用できる。
【0068】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0069】
1、101、201 等速自在継手
2、102、202 外側継手部材
3、103、203 内側継手部材
4、104、204 ボール
5、105、205 保持器
33 上パンチ
33a 上カウンターパンチ
33b 上リングパンチ
35 ダイスベース
36 下パッド
37 下パンチ
37a 下カウンターパンチ
37b 下カウンターパンチ
39 分割ダイス
391 第1グループの分割ダイス
392 第2グループの分割ダイス
40 ダイスハンガ
49 内端
49a トラック溝成形面
51 成形空間
N 継手の軸線
S ストッパ面
W1、W2 素材