(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104573
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法
(51)【国際特許分類】
B21J 5/02 20060101AFI20240729BHJP
B21J 13/02 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
B21J5/02 C
B21J13/02 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008865
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】夏目 練二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉孝
(72)【発明者】
【氏名】藤田 拓也
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA04
4E087CA14
4E087EA11
4E087EC12
4E087EC43
4E087EC51
4E087HA25
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コスト増加がなく、捲れ込みおよびヒケの発生を解消し、難加工形状が既存設備で生産可能な等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法を提供する。
【解決手段】トラック溝が継手の軸線に対して周方向に傾斜し、傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝で互いに反対方向に形成された内側継手部材において、内端にトラック溝成形面を有し、半径方向に移動可能な複数の分割ダイスと、分割ダイスを位置決めするダイスベースと、素材を軸方向に加圧する一対のパンチを備えた金型を用い、分割ダイスと一対のパンチにより形成する内側継手部材の鍛造方法において、センターパンチの先端部の横断面形状を、トラック溝の数の半数からなり周方向に等間隔で形成された円弧状凸部と、この円弧状凸部の間を接続する縮径部とから構成し、内側継手部材の軸方向端面において周方向に隣り合う前記トラック溝間の狭い側の球面幅部の位相に円弧状凸部を配置して加圧する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラック溝が継手の軸線に対して周方向に傾斜すると共に、その傾斜方向が周方向に隣り合う前記トラック溝で互いに反対方向に形成された等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法であって、
内端に前記トラック溝を成形するためのトラック溝成形面を有し、半径方向に移動可能な複数の分割ダイスと、前記分割ダイスを半径方向および周方向に位置決めするためのダイスベースと、素材を軸方向に加圧する一対のパンチを備えた金型を用い、
前記複数の分割ダイスが半径方向外側に開いた状態で、前記分割ダイスの内側に前記素材を投入し、その後、前記ダイスベースにより前記分割ダイスを半径方向および周方向に位置決めすると共に前記一対のパンチで加圧することにより、前記分割ダイスと前記一対のパンチにより形成される成形空間に前記素材を塑性流動で充足させる成形工程を有する等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法において、
前記パンチの一部を構成するセンターパンチの先端部の横断面形状を、前記トラック溝の数の半数からなり周方向に等間隔で形成された円弧状凸部と、この円弧状凸部の間を接続する縮径部とから構成し、
前記内側継手部材の軸方向端面において周方向に隣り合う前記トラック溝間の狭い側の球面幅部の位相に前記円弧状凸部を配置して加圧することを特徴とする等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法。
【請求項2】
前記センターパンチの先端面と前記円弧状凸部および前記縮径部とを一様な曲率半径のコーナ部により接続したことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法。
【請求項3】
前記センターパンチの円弧状凸部の数が3個であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法。
【請求項4】
前記内側継手部材のトラック溝の軌道中心線が継手中心を曲率中心とする円弧状部分を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法。
【請求項5】
前記内側継手部材のトラック溝の軌道中心線が直線状であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラック溝が継手の軸線に対して周方向に傾斜すると共に、その傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝で互いに反対方向に形成された等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直線状のトラック溝が継手の軸線に対して周方向に傾斜すると共に、その傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝で互いに反対方向に形成された従来のクロスグルーブ型等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法として、例えば、特許文献1が提案されている。この鍛造方法は、内端に内側継手部材のトラック溝を成形するためのトラック溝成形面を設けた半径方向に移動可能な複数の分割ダイスを、分割ダイスの外端と係合して分割ダイスを半径方向に位置決めするためのダイスベースに収めて素材を鍛造加工するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、等速自在継手の内側継手部材を量産する冷間鍛造工程において、素材(ワーク)を押し出し変形させる上下センターパンチ先端にはワークの食いつきおよび金型寿命を考慮し単純な形状のものを適用していた。
【0005】
ところが、従来よりも外周面の形状が厳しい仕様の内側継手部材の成形テストを行う際、特許文献1の鍛造方法を適用しても、従来形状のセンターパンチを用いて成形テストを行うと、内側継手部材の鍛造完了品の外径面に捲れ込みおよび内径面にヒケが発生することが判明した。捲れ込みおよびヒケが発生すると、切り欠き効果により強度の低下が懸念される。捲れ込みを回避するために外径側に余分な肉を付ける考えも案としてあるが、次工程で切削する体積が増加することになり、結果として、歩留まりが悪化し、コスト増となる結論に至った。
【0006】
以上の問題に鑑みて、本発明は、コストの増加がなく、成形品の外径面の捲れ込みおよび内径面のヒケの発生を解消し、難加工形状の成形品が既存設備で生産可能な等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前述した問題について種々検討した結果、難加工形状の成形品に対して、センターパンチの先端形状に着目し、センターパンチの先端形状を、意図的に材料を流動させる箇所と流動させない箇所から構成するという着想により、本発明に至った。
【0008】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、トラック溝が継手の軸線に対して周方向に傾斜すると共に、その傾斜方向が周方向に隣り合う前記トラック溝で互いに反対方向に形成された等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法であって、内端に前記トラック溝を成形するためのトラック溝成形面を有し、半径方向に移動可能な複数の分割ダイスと、前記分割ダイスを半径方向および周方向に位置決めするためのダイスベースと、素材を軸方向に加圧する一対のパンチを備えた金型を用い、前記複数の分割ダイスが半径方向外側に開いた状態で、前記分割ダイスの内側に前記素材を投入し、その後、前記ダイスベースにより前記分割ダイスを半径方向および周方向に位置決めすると共に前記一対のパンチで加圧することにより、前記分割ダイスと前記一対のパンチにより形成される成形空間に前記素材を塑性流動で充足させる成形工程を有する等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法において、前記パンチの一部を構成するセンターパンチの先端部の横断面形状を、前記トラック溝の数の半数からなり周方向に等間隔で形成された円弧状凸部と、この円弧状凸部の間を接続する縮径部とから構成し、前記内側継手部材の軸方向端面において周方向に隣り合う前記トラック溝間の狭い側の球面幅部の位相に前記円弧状凸部を配置して加圧することを特徴とする。
【0009】
上記の構成により、コストの増加がなく、成形品の外径面の捲れ込みおよび内径面のヒケの発生を解消し、難加工形状の成形品が既存設備で生産可能な等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法を実現することができる。
【0010】
具体的には、上記のセンターパンチの先端面と円弧状凸部および縮径部とを一様な曲率半径のコーナ部により接続したことにより、難加工形状の成形品の外径面の捲れ込みおよび内径面のヒケの発生を解消し、かつ、金型寿命を確保できる。
【0011】
上記のセンターパンチの円弧状凸部の数が3個であることが望ましい。これにより、6個のトラック溝を有する難加工形状の成形品を生産性よく鍛造することができる。
【0012】
上記の内側継手部材のトラック溝の軌道中心線が継手中心を曲率中心とする円弧状部分を有することが望ましい。これにより、トルク伝達効率および耐久性に優れた固定式等速自在継手の内側継手部材を生産性よく鍛造することができる。
【0013】
上記の内側継手部材のトラック溝の軌道中心線が直線状であることが望ましい。これにより、従来のクロスグルーブ型等速自在継手の内側継手部材を一層生産性よく鍛造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コストの増加がなく、成形品の外径面の捲れ込みおよび内径面のヒケの発生を解消し、難加工形状の成形品が既存設備で生産可能な等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)図は、本発明の一実施形態に係る鍛造方法に基づいて製造された内側継手部材を組み込んだ等速自在継手の縦断面図で、(b)図は、(a)図の右側面図である。
【
図2】(a)図は、
図1(a)の内側継手部材の外周面を示す図で、(b)図は、(a)図の右側面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る鍛造方法の素材投入前の状態を示す要部縦断面図である。
【
図5】(a)図は、
図3のダイスベースを下から見た平面図で、(b)図は、
図3の分割ダイスを上から見た平面図で、(c)図は分割ダイスの概要斜視図である。
【
図6】1つの分割ダイスを内径側から見た拡大斜視図である。
【
図7】本実施形態の鍛造方法における素材投入直後の状態を示す要部縦断面図である。
【
図8】プレススライドが下降し、分割ダイスが位置決めされた状態を示す要部縦断面図である。
【
図10】
図9における分割ダイスの配置状態を示す平面図である。
【
図12】成形品の排出状態を示す要部縦断面図である。
【
図13】(a)図は、センターパンチの先端側から見た平面図、(b)図は、(a)図のB-B線で矢視した縦断面図で、(c)図は斜視図である。
【
図14】本実施形態の鍛造方法における内側継手部材の鍛造完了状態を示し、(a)は、成形品の上端面側から見た平面図で、(b)図は、金型の要部と成形品の縦断面図で、(c)図は、成形品の下端面側から見た平面図である。
【
図15】開発過程でテストした内側継手部材の鍛造完了状態を示し、(a)は、成形品の上端面側から見た平面図で、(b)図は、金型の要部と成形品の縦断面図で、(c)図は、成形品の下端面側から見た平面図である。
【
図16】本実施形態に係る鍛造方法の金型等を適宜修正して適用される内側継手部材を組み込んだ別形態の等速自在継手の縦断面図である。
【
図17】(a)図は、
図16の内側継手部材の縦断面図で、(b)図は、(a)図の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る内側継手部材の鍛造方法を図面に基づいて説明する。本実施形態に係る鍛造方法に基づいて製造された内側継手部材を組み込んだ等速自在継手および内側継手部材を
図1、
図2に示し、その鍛造方法を
図3~14に示す。本実施形態の鍛造方法の特徴的な構成を説明する前に、鍛造方法の対象となる内側継手部材、鍛造方法に用いる金型および成形工程についての全体的な概要を説明する。
【0017】
まず、対象となる等速自在継手およびその内側継手部材を説明する。
図1(a)は、等速自在継手の縦断面図で、
図1(b)は、
図1(a)の側面図である。
図2(a)は、
図1(a)の内側継手部材の外周面を示す図で、
図2(b)は、
図2(a)の右側面図である。
図1(a)、
図1(b)に示す等速自在継手1は、固定式等速自在継手であり、外側継手部材2および内側継手部材3と、両継手部材2、3間に配置された6個のトルク伝達ボール(以下、単にボールともいう)4と、ボール4を保持する保持器5とを主な構成とする。
図1(b)に示すように、外側継手部材2および内側継手部材3のトラック溝7、9は、継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝7A、7Bおよび9A、9Bで互いに反対方向に形成されている。
【0018】
ここで、トラック溝の符号について補足する。内側継手部材3のトラック溝全体を指す場合は符号9を付し、傾斜方向の違うトラック溝を区別する場合には符号9A、9Bを付す。外側継手部材2のトラック溝7についても、同様の要領で符号を付す。
【0019】
図1(a)に示すように、外側継手部材2のトラック溝7の軌道中心線Xおよび内側継手部材3のトラック溝9の軌道中心線Yは、いずれも、継手中心Oを曲率中心とした単一の円弧状で全長にわたって形成されている。保持器5の球状外周面12は外側継手部材2の球状内周面6に摺動自在に嵌合し、保持器5の球状内周面13は内側継手部材3の球状外周面8に摺動自在に嵌合している。外側継手部材2の球状内周面6と内側継手部材3の球状外周面8の曲率中心は、それぞれ継手中心Oに形成され、外側継手部材2の球状内周面6と内側継手部材3の球状外周面8にそれぞれ嵌合する保持器5の球状外周面12と球状内周面13の曲率中心も、それぞれ継手中心Oに位置する。
【0020】
軸方向に延びるトラック溝の傾斜状態や湾曲状態などの形態、形状を的確に示すために、本明細書では、軌道中心線という用語を用いて説明する。ここで、軌道中心線とは、トラック溝に配置されたボールがトラック溝に沿って移動するときのボールの中心が描く軌跡を意味する。
【0021】
図2(a)、
図2(b)に示すように、内側継手部材3の各トラック溝9は、継手の軸線N-Nに対して周方向に角度γ傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝9A、9Bで互いに反対方向に形成されている。詳述すると、
図2(a)に示すように、トラック溝9Aの軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qは、継手の軸線N-Nに対して周方向一方側に角度γ傾斜している。また、トラック溝9Aと周方向に隣り合うトラック溝9Bの軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qは、継手の軸線N-Nに対して周方向他方側に角度γ傾斜している。傾斜角γは、等速自在継手1の作動性および内側継手部材3のトラック溝9の最も接近した側の球面幅Fを考慮し、4°~12°に設定されている。内側継手部材3のトラック溝9の軌道中心線Yは、作動角0°の状態で継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pを基準として、外側継手部材2の対となるトラック溝7の軌道中心線Xと鏡像対称に形成されている。なお、
図1(a)に示すトラック溝7、9は、それぞれ、傾斜角γ=0°まで回転させた状態で図示している。
【0022】
内側継手部材3は、各トラック溝9が、外側継手部材2の対となるトラック溝7と交差するように外側継手部材2の内周に組み込まれている。したがって、この等速自在継手1は、球状面同士の接触に起因したトルク損失や発熱が効果的に抑制され、トルク伝達効率および耐久性に優れた等速自在継手を実現できる。
【0023】
トラック溝7、9の横断面形状は、楕円形状やゴシックアーチ形状に形成されており、トラック溝7、9とボール4は、接触角(30°~45°程度)をもって接触する、所謂、アンギュラコンタクトとなっている。したがって、ボール4は、トラック溝7、9の溝底より少し離れたトラック溝7、9の側面側で接触している。
【0024】
次に、本実施形態に係る内側継手部材の鍛造方法を
図3~14に基づいて説明する。本実施形態の鍛造方法に用いる主な鍛造金型を
図3に基づいて説明する。
図3は本実施形態に係る鍛造方法の素材投入前の状態を示す要部縦断面図である。鍛造金型は上型30と下型31で構成され、上型30は、上プレート32、上パンチ33、上パンチガイド34およびダイスベース35を主な構成とする。下型31は、下パッド36、下パンチ37、下パンチガイド38、分割ダイス39およびダイスハンガ40を主な構成とする。
【0025】
上型30は、プレススライドにより昇降可能となっている。また、上型30には、上パンチ33の荷重を受けるボス部42が収容される孔部41が形成され、上パンチ33は、上センターパンチ33aと、この上センターパンチ33aの外周に嵌合する上リングパンチ33bとからなっている。上センターパンチ33aと上リングパンチ33bとは一体構造とすることもできる。特許請求の範囲におけるセンターパンチは、上センターパンチ33aと上リングパンチ33bとを一体構造としたものも含むものとし、後述する下センターパンチ37a、下リングパンチ37bも同様とする。
【0026】
下型31には、下パンチ37が摺動可能に収容される孔部43が形成され、下パンチ37は、スプリング(図示省略)により常に上側に押されている。下パンチ37は、下センターパンチ37aとこの下センターパンチ37aの外周に嵌合する下リングパンチ37bとからなり、これらを受けるボス部44が設けられている。
【0027】
複数の分割ダイス39はダイスハンガ40と連結されている。ダイスハンガ40は、下パッド36に設けられた溝に摺動自在に嵌合され、複数の分割ダイス39は半径方向に移動可能となっている。具体的には、
図3のA部の拡大図である
図4に示すように、下パッド36とダイスハンガ40の間に分割ダイス39の往復動機構Mが設けられている。往復動機構Mは、シリンダ機構M1から構成されている。シリンダ機構M1は、シリンダ62と、このシリンダ62に嵌入されたピストン61と、シリンダ62内に収容された圧縮スプリング45とを備えた単動シリンダである。
【0028】
シリンダ62には、第1室63と第2室64とが設けられている。シリンダ62は、有底円筒状の本体部62aと、この本体部62aの開口に設けられた蓋部材62bとを備え、本体部62aの底部62a1に凹部が設けられ、この凹部とピストン61との間に第1室63が形成される。シリンダ62の内周面と蓋部材62bとピストン61との間に第2室64が形成される。
【0029】
ピストン61は、ピストン部61aと軸部61bとからなり、軸部61bが蓋部材62bの貫通孔から外部に突出する。ピストン部61aと蓋部材62bとの間に圧縮スプリング45が組み込まれている。ピストン61の軸部61bの端部は、連結部材65を介してダイスリンガ40に連結されている。第1室63の油圧を抜いた場合は、圧縮スプリング45の付勢力により、ピストン61aは、
図4に示すように、シリンダ62の肩部62a2に当接した状態になる。この状態でダイスリンガ40に連結された複数の分割ダイス39は、半径方向外側に開いた位置となり、素材投入前の分割ダイス39の半径方向位置となる。
【0030】
一方、第1室63に油圧をかけた場合は、ピストン61は、圧縮スプリング45の付勢力に打ち勝って
図4の右方向に移動し、ピストン61の軸部61bの端部に取り付けられた連結部材65が、下パッド36の肩部36aに当接するまで移動する。これに伴い、ダイスリンガ40、分割ダイス39が半径方向内側に移動し、この状態で、素材投入直後の分割ダイス39の半径方向位置となる(
図7参照)。分割ダイス39の往復動機構Mの構成および作動は以上のとおりである。
【0031】
図3、
図5に基づいて、上型30のダイスベース35を説明する。
図5(a)は、
図3のダイスベース35を下から見た平面図である。ダイスベース35は、下端面に開口したすり鉢状の形態で、略円錐台形状の空間46と、内周面の円周方向に等間隔に配置された凹部47とを備える。凹部47の数は、分割ダイス39の数に対応し、図示した実施形態では6本であり、全体として星形を呈している。各凹部47の形状は、後述する分割ダイス39の外端の側面の形状を転写したものに相当する。すなわち、凹部47は、ダイスベース35の内径側から外径側に向かって先細となった一対の側壁面47aを有する。また、側壁面47aは、ダイスベース35の開口端面から奥側に向かっても先細となっている。後述するように、ダイスベース35の側壁面47aと分割ダイス39の後端48の側面48aとが係合するため、凹部47の外端面47bは、分割ダイス39の後端面48bと干渉しないように凹円弧状に逃がしてある〔
図5(a)、
図5(b)参照〕。
【0032】
図3、
図5(b)、
図5(c)、
図6に基づいて、下型31の分割ダイス39を説明する。
図5(b)は、
図3の分割ダイス39を上から見た平面図で、
図5(c)は分割ダイス概要斜視図で、
図6は1つの分割ダイス39を内径側から見た拡大斜視図である。内側継手部材3のトラック溝9の数に対応する数の分割ダイス39が円周方向に放射状に配置されている。各分割ダイス39は、
図5(b)に示すように、内端49側にトラック溝9を成形するためのトラック溝成形面49aを備えている。前述したように、内側継手部材3のトラック溝9は、交互に反対方向に傾斜していることから、周方向に隣り合う分割ダイス39では、トラック溝成形面49aの傾斜方向が互いに反対方向となっている。
【0033】
図6に示すように、分割ダイス39の内端49に形成されたトラック溝成形面49aの円周方向両側には、トラック溝チャンファ成形面49bが形成されている。これにより、本実施形態の鍛造方法では、トラック溝9とトラック溝チャンファが同時に成形され、チャンファの機械加工を省略できる。分割ダイス39には貫通孔50が設けられており、貫通孔50にボルトを挿通してダイスハンガ40に締結される。この分割ダイス39のトラック溝成形面49aの傾斜方向は、
図2(b)の継手の軸線N-Nに対して反時計方向である。すなわち、トラック溝9Aを成形するトラック溝成形面49aを有している。
【0034】
図5(b)に示すように、分割ダイス39の後端48は、円周方向に傾斜状態で面した側面48aと、外径方向に面した外端面48bとを有し、側面48aが、分割ダイス39の内端49側から外端48側に向かって先細となり、かつ、底面側から頂点側に向かって先細となるテーパ面となっている。
【0035】
図5(a)に示す二点鎖線は上リングパンチ33bの外周輪郭であり、その中心に配置されているのが上センターパンチ33aである。同様に、
図5(b)に示す二点鎖線は下リングパンチ37bの外周輪郭であり、その中心に配置されているのが下センターパンチ37aである。
図5(a)は、
図3のダイスベース35を下から見た平面図であり、
図5(b)は、
図3の分割ダイス39を上から見た平面図であり、両図は見る方向が上下逆に図示されているので、
図5(a)のa-b-c-d線と
図5(b)のa-b-c-d線は同じ縦断面である。
図3は、前記のa-b-c-d線における縦断面が図示されている。この縦断面は、以降の
図7~
図9、
図11および
図12も同様である。本実施形態の鍛造方法に用いる金型の全体的な構成は以上のとおりである。
【0036】
次に、本実施形態の鍛造方法の成形工程を
図3~
図14に基づいて説明する。
図3に示すように、素材投入前は、上型30が上昇し、
図4で前述したように、シリンダ機構M1のシリンダ62の第1室63の油圧をかけない状態であるので、分割ダイス39が半径方向外側に開いた状態である。この状態で、素材が分割ダイス39の内部に投入され、下パンチガイド38の上に載置される。
【0037】
その後、第1室63に油圧をかけ、ピストン61の軸部61bの端部に取り付けられた連結部材65が、下パッド36の肩部に当接するまで移動する。これに伴い、
図7に示すように、ダイスリンガ40、分割ダイス39が半径方向内側に移動し、素材W1をガイドする。この状態で、次に上型30が下降する。
【0038】
上型30が下降すると、
図8に示すように、ダイスベース35の側壁面47a(
図5参照)が分割ダイス39の後端48の側面48aに係合し、分割ダイス39が半径方向内側へ押され、半径方向および周方向の位置決めが行われる。そして、上センターパンチ33aと下センターパンチ37aが素材W1の上端面、下端面に当接する。下センターパンチ37aおよび下リングパンチ37bは、スプリング(図示省略)により常に上側に押されている。
【0039】
上型30の下降が進み、
図9に示すように、上下のセンターパンチ33a、37aが素材W1を加圧し成形が開始すると共に、
図10に示すように、分割ダイス39の位置決めが完了する。これに伴い、分割ダイス39、上下のセンターパンチ33a、37aおよび上下のリングパンチ33b、37bにより、内側継手部材3のトラック溝9および上下の端面に対応した成形空間51が形成される。
【0040】
さらに上型30が下降すると、
図11に示すように、上下のセンターパンチ33a、37aと上下のリングパンチ33b、37bによって、素材W1に加圧力が加わり、塑性流動して、上型30の下死点で成形空間51に充足することで内側継手部材3の成形品(鍛造完了品ともいう)W2が得られる。
【0041】
その後、
図12に示すように、プレススライドが上昇し上型30が下型31から離れると共に、分割ダイス39が半径方向外側に開き、ノックアウト機構(下センターパンチ37a、下リングパンチ37b)により、成形品W2を取り出す。成形工程の概要は以上のとおりである。
【0042】
本実施形態の鍛造方法の対象となる内側継手部材、鍛造方法に用いる金型および成形工程についての全体的な概要は以上のとおりである。次に、本実施形態の鍛造方法の特徴的な構成を説明する。難加工形状の内側継手部材の成形品に対して成形テストを実施し種々検討した結果、センターパンチの先端形状に着目し、センターパンチの先端形状を、意図的に材料を流動させる箇所と流動させない箇所から構成するという着想により、以下の特徴的な構成に至った。
【0043】
本実施形態の特徴的な構成は、分割ダイスと一対のパンチにより形成される成形空間に素材を塑性流動で充足させる成形工程を有する等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法において、(1)パンチの一部を構成するセンターパンチの先端部の横断面形状を、トラック溝の数の半数からなり周方向に等間隔で形成した円弧状凸部と、この円弧状凸部の間を接続する縮径部とから構成し、(2)内側継手部材の軸方向端面において周方向に隣り合うトラック溝間の狭い側の球面幅部の位相に前記円弧状凸部を配置して加圧することである。上記の構成により、コストの増加がなく、成形品の外径面の捲れ込みおよび内径面のヒケの発生を解消し、難加工形状の成形品が既存設備で生産可能な等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法を実現することができる。
【0044】
まず、開発過程における成形テストを
図15に基づいて説明する。
図15(a)は、成形品の上端面側から見た平面図で、
図15(b)は、金型の要部と成形品の縦断面図で、
図15(c)は、成形品の下端面側から見た平面図である。
図15(b)は、前述した本実施形態の成形工程における
図11の工程に対応する金型の要部と成形品の縦断面図であり、
図15(a)および
図15(c)におけるe-f線の縦断面図である。
【0045】
図15(b)に示すように、成形テストに用いた主な金型は、分割ダイス39、上センターパンチ33a’、上リングパンチ33b、下センターパンチ37a’、下リングパンチ37bから構成される。上下のセンターパンチ33a’、37a’は、従来形状のもので、その先端部が真円形状(円柱形状)に形成され、先端面33a’1、37a’1と円柱面33a’2、37a’2とを適宜の曲率半径を有するコーナ部33a’3、37a’3で接続されている。ただし、実際には、鍛造性や離型性を考慮して、先端部の円柱面33a’2、37a’2に極わずかな逃げ角を設け、先細りのテーパ状に形成してもよい。上下のセンターパンチ33a’、37a’は、その先端へのワークの食いつきおよび金型寿命を考慮し、従来から適用していた単純な形状のものとした。上下のセンターパンチ33a’、37a’を除く、分割ダイス39、上リングパンチ33b、下リングパンチ37bは、本実施形態のものと同じである。
【0046】
そして、本実施形態の鍛造方法と同じ成形工程で成形テストを実施した。その結果、従来よりも外周面の形状が厳しい仕様の内側継手部材では、
図15(b)に示すように、鍛造完了品W2’の外径面に捲れ込みIおよび内径面にヒケHが発生することが判明した。
【0047】
捲れ込みIおよびヒケHが発生すると、切り欠き効果により強度の低下が懸念される。捲れ込みIを回避するために外径側に余分な肉を付ける考えも案としてあるが、次工程で切削する体積が増加することになり、結果として、歩留まりが悪化し、コスト増となる。成形テストの結果から、鍛造完了品W2’の外径面の捲れ込みIは、
図15(a)、
図15(c)の内側継手部材の軸方向端面において周方向に隣り合うトラック溝間の狭い側の球面幅部(厚肉部ともいう)Gに発生し、内径面のヒケHは、内側継手部材の軸方向端面において周方向に隣り合うトラック溝間の狭い側の球面幅部(薄肉部ともいう)Fに発生することが判明した。
【0048】
上記の結果を考察する中で、難加工形状の内側継手部材の成形品に対して、センターパンチの先端形状に着目し、センターパンチの先端形状を、意図的に材料を流動させる箇所と流動させない箇所から構成するという着想により、(1)センターパンチの先端部の横断面形状を、トラック溝の数の半数からなり周方向に等間隔で形成した円弧状凸部と、この円弧状凸部の間を接続する縮径部とから構成すること、(2)内側継手部材の軸方向端面において周方向に隣り合うトラック溝間の狭い側の球面幅部の位相に前記円弧状凸部を配置して加圧するという本実施形態の特徴的な構成に至った。
【0049】
上記の特徴的な構成を
図13、
図14に基づいて具体的に説明する。
図13(a)は、センターパンチの先端側から見た平面図、
図13(b)は、
図13(a)のB-B線で矢視した縦断面図で、
図13(c)は斜視図である。
図14(a)は、本実施形態の鍛造方法における内側継手部材の鍛造完了状態を示し、成形品の上端面側から見た平面図で、
図14(b)は、金型の要部と成形品の縦断面図で、
図14(c)は、成形品の下端面側から見た平面図である。
【0050】
図13(a)、
図13(b)、
図13(c)に示すように、上センターパンチ33a、下センターパンチ37aは、その先端部の横断面形状が周方向に等間隔で形成された円弧状凸部33a2、37a2と、この円弧状凸部33a2、37a2の間を接続する縮径部33a3、37a3とから構成されている。上センターパンチ33a、下センターパンチ37aの先端部の形状は同じであるので、
図13(a)、
図13(b)、
図13(c)では、上下センターパンチの対応部位の符号を併記する。
【0051】
円弧状凸部33a2、37a2はトラック溝9の数の半数の3つ形成されている。円弧状凸部33a2、37a2の母線33a4、37a4および縮径部33a3、37a3の母線33a5、37a5は、いずれも、センターパンチ33a、37aの軸線と平行に形成されている。ただし、実際には、鍛造性や離型性を考慮して、円弧状凸部33a2、37a2の母線33a4、37a4および縮径部33a3、37a3の母線33a5、37a5に極わずかな逃げ角を設け、先細りのテーパ状に形成してもよい。
【0052】
センターパンチ33a、37aの先端面33a6、37a6と円弧状凸部33a2、37a2の母線33a4、37a4および縮径部33a3、37a3の母線33a5、37a5とは一様な曲率半径のコーナ部33a7、37a7により接続されている。また、縮径部33a3、37a3の母線33a5、37a5とセンターパンチ33a、37aの外周面33a1、37a1とは円弧状凹面からなるコーナ部33a8、37a8により接続されている。コーナ部33a7、37a7および33a8、37a8を
図13(c)に散点模様で示す。
【0053】
以上に説明した上下のセンターパンチ33a、37aを用いた本実施形態の鍛造完了状態を
図14に基づいて説明する。
図14(a)は、成形品の上端面側から見た平面図で、
図14(b)は、金型の要部と成形品の縦断面図で、
図14(c)は、成形品の下端面側から見た平面図である。
図13(b)は、前述した本実施形態の成形工程における
図11の工程に対応する金型の要部と成形品の縦断面図であり、
図14(a)および
図14(c)におけるg-h線の縦断面図である。
【0054】
図14(a)および
図14(c)に示すように、上下のセンターパンチ33a、37aの円弧状凸部33a2、37a2は、内側継手部材3の軸方向端面において周方向に隣り合うトラック溝9間の狭い側の球面幅部(薄肉部ともいう)Fの位相に配置し加圧する。これにより、薄肉部Fの材料の流動が促進され、成形品W2の外径面の捲れ込みが解消される。
【0055】
一方、上下のセンターパンチ33a、37aの縮径部33a3、37a3は、内側継手部材3の軸方向端面において周方向に隣り合うトラック溝9間の広い側の球面幅部(厚肉部ともいう)Gの位相に配置し加圧する。これにより、厚肉部Gの材料の流動が抑制され、成形品W2の内径面のヒケが解消される。
【0056】
次に、本実施形態の鍛造方法の金型等を適宜修正して適用される別形態の等速自在継手の内側継手部材を
図16、
図17に基づいて説明する。
図16は、別形態の等速自在継手の縦断面図で、
図17(a)は、
図16の内側継手部材の縦断面図で、
図17(b)は、
図17(a)の右側面図である。
【0057】
図16に示す等速自在継手101は、クロスグルーブ型と称される摺動式等速自在継手である。この等速自在継手101は、外側継手部材102、内側継手部材103、ボール104および保持器105を主な構成とする。外側継手部材102は、その内周面に複数(例えば、6本)の直線状の軌道中心線X1を有するトラック溝107が概ね軸方向に形成されている。内側継手部材103は、その外周面に、外側継手部材102のトラック溝107に対向して、直線状の軌道中心線Y1を有するトラック溝109が概ね軸方向に形成されている。外側継手部材102と内側継手部材103の間に保持器105が配置され、ボール104が保持器のポケット105aに収容されている。保持器105の球状外周面112と外側継手部材102の内周面106とは摺動自在に嵌合し、保持器105の球状内周面113と内側継手部材103の外周面108との間には隙間が設けられ、相対移動可能となっている。これにより、摺動式等速自在継手を構成する。
【0058】
図16、
図27(b)に示すように、外側継手部材102のトラック溝107と内側継手部材103のトラック溝109は、継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝107A、107B(図示省略)および109A、109Bで互いに反対方向に形成されている。対となる外側継手部材102のトラック溝107と内側継手部材103のトラック溝109との交差部にボール104が組み込まれている。
【0059】
上述した内側継手部材103の場合にも、前述した実施形態に係る鍛造方法に用いた金型を適宜修正することにより、適用できる。例えば、分割ダイスの内端のトラック溝成形面をトラック溝109の直線状に対応させることにより適宜実施することができる。したがって、前述した実施形態の金型構成、鍛造方法、成形工程などの説明内容を準用し、説明を省略する。
【0060】
以上の説明では、内側継手部材のトラック溝の数を6本のものを例示したが、トラック溝が継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝で互いに反対方向に形成されている難加工形状で、トラック溝の数が8本以上の内側継手部材にも効果的に適用できる。
【0061】
以上説明した実施形態では、コストの増加がなく、成形品の外径面の捲れ込みおよび内径面のヒケの発生を解消し、難加工形状の成形品が既存設備で生産可能な等速自在継手の内側継手部材の鍛造方法を実現することができる。
【0062】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0063】
1、101 等速自在継手
2、102 外側継手部材
3、103 内側継手部材
4、104 ボール
5、105 保持器
33 上パンチ
33a 上センターパンチ
33a2 円弧状凸部
33a3 縮径部
33a7 コーナ部
33b 上リングパンチ
35 ダイスベース
36 下パッド
37 下パンチ
37a 下センターパンチ
37a2 円弧状凸部
37a3 縮径部
37a7 コーナ部
37b 下リングパンチ
39 分割ダイス
40 ダイスハンガ
49 内端
49a トラック溝成形面
51 成形空間
F 狭い側の球面幅部
N 継手の軸線
W1 素材
W2 成形品
Y、Y1 軌道中心線