(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001046
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】レーザパワー制御装置、レーザ加工装置及びレーザパワー制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20231226BHJP
H01L 21/268 20060101ALI20231226BHJP
B23K 26/03 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
B23K26/00 N
H01L21/268 T
B23K26/03
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023152302
(22)【出願日】2023-09-20
(62)【分割の表示】P 2020506459の分割
【原出願日】2019-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2018044860
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】相場 健
(57)【要約】
【課題】レーザ光のパワーの測定にかかる時間を短縮できるレーザパワー制御装置、レーザ加工装置及びレーザパワー制御方法を提供する。
【解決手段】このレーザ加工装置(1)及びレーザパワー制御装置(10)は、レーザ加工装置からレーザ光が照射された照射対象物(42)の熱輻射を測定する熱輻射センサ(27)の測定値と、レーザ加工装置の加工面におけるレーザ光のパワー値とを対応づける関係データを記憶する記憶部(12)を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工装置からレーザ光が照射された照射対象物の熱輻射の強度を検出する熱輻射センサの測定値と、前記レーザ加工装置の加工面におけるレーザ光のパワー値とを対応づける関係データを記憶する記憶部を備えるレーザパワー制御装置。
【請求項2】
前記熱輻射センサの測定値と前記記憶部に記憶された前記関係データとに基づいて前記加工面におけるレーザ光のパワーを推定する推定部を更に備える、
請求項1記載のレーザパワー制御装置。
【請求項3】
前記推定部の推定結果に基づいて前記加工面におけるレーザ光のパワーを調整する調整部を更に備える、
請求項2記載のレーザパワー制御装置。
【請求項4】
前記推定部により推定されたレーザ光のパワーあるいは前記調整部により調整されたレーザ光のパワーを表示する表示部を更に備える、
請求項3記載のレーザパワー制御装置。
【請求項5】
加工対象物へのレーザ光の照射中に得られた前記熱輻射センサの測定値と前記関係データとに基づいてレーザ光のパワーの調整の要否を判定する要否判定部を更に備える、
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のレーザパワー制御装置。
【請求項6】
加工対象物にレーザ光を照射する光学系と、
前記光学系によりレーザ光が照射された照射対象物の熱輻射を測定する熱輻射センサと、
前記熱輻射センサの測定値と加工面におけるレーザ光のパワー値とを対応づける関係データを記憶する記憶部と、
を備えるレーザ加工装置。
【請求項7】
レーザ加工装置からレーザ光が照射された照射対象物の熱輻射を測定し、
測定された熱輻射の値から前記レーザ加工装置の加工面におけるレーザ光のパワー値を推定し、
推定されたパワー値に基づいて前記加工面におけるレーザ光のパワーを調整する、
レーザパワー制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザパワー制御装置、レーザ加工装置及びレーザパワー制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハを加工対象物として、加工対象物にレーザ光を照射してアニール処理を行うレーザアニール装置がある。レーザアニール装置は、一般に、加工面におけるレーザ光のパワーを測定するパワーメータを備える。そして、装置の稼働開始前又は1枚もしくは複数枚の加工対象物を処理するごとに、パワーメータによりレーザ光のパワーが測定され、その後のアニール処理で加工面に照射するレーザ光のパワーが調整される。
【0003】
特許文献1には、レーザアニール装置において、アニール処理の間にレーザビームの漏れ光を監視し、レーザ光のエネルギー密度が低下した等の異常を速やかに検知する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザ光のパワーを測定するパワーメータは、照射されたレーザ光を熱に変換する受光面を備え、受光面の温度を電圧に変換することで、レーザ光のパワー値を得る。このようなパワーメータでは、レーザ光の照射による受光面への入熱と受光面からの放熱とが平衡状態に達して測定値が安定する。このため、安定した測定値が得られるまでに、長い時間を要するという課題がある。例えば、レーザアニール装置に要求される測定精度を満たすには、1分程度の測定時間を要する。このような長い測定時間は、レーザアニール装置のスループットを大幅に低減する要因となる。
【0006】
本発明は、レーザ光のパワーの調整にかかる時間を短縮できるレーザパワー制御装置、レーザ加工装置及びレーザパワー制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るレーザ制御装置は、
レーザ加工装置からレーザ光が照射された照射対象物の熱輻射の強度を検出する熱輻射センサの測定値と、前記レーザ加工装置の加工面におけるレーザ光のパワー値とを対応づける関係データを記憶する記憶部を備える構成とした。
【0008】
本発明に係るレーザ加工装置は、
加工対象物にレーザ光を照射する光学系と、
前記光学系によりレーザ光が照射された照射対象物の熱輻射を測定する熱輻射センサと、
前記熱輻射センサの測定値と加工面におけるレーザ光のパワー値とを対応づける関係データを記憶する記憶部と、
を備える構成とした。
【0009】
本発明に係るレーザ制御方法は、
レーザ加工装置からレーザ光が照射された照射対象物の熱輻射を測定し、
測定された熱輻射の値から前記レーザ加工装置の加工面におけるレーザ光のパワー値を推定し、
推定されたパワー値に基づいて前記加工面におけるレーザ光のパワーを調整するレーザ制御方法とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レーザ光のパワーの調整にかかる時間を短縮できるレーザパワー制御装置、レーザ加工装置及びレーザパワー制御方法を提供できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態のレーザ加工装置を示す構成図である。
【
図2】作成処理部により実行される関係データの作成処理を示すフローチャートである。
【
図3】制御装置により実行されるレーザ光のパワーの調整処理を示すフローチャートである。
【
図4】要否判定部により実行されるパワー調整の要否判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態のレーザ加工装置を示す構成図である。
図1中、レーザ光の光路を一点鎖線及び二点鎖線で示し、熱輻射を破線で示し、信号線を実線で示す。
【0014】
本発明の実施形態に係るレーザ加工装置1は、半導体素子材料のウェハを加工対象物(ワーク)41として、加工対象物41にレーザ光を照射してアニール処理を行うレーザアニール装置である。レーザ加工装置1は、制御装置10、レーザ光源21、減衰光学系22、ダイクロイックミラー24、レンズ25、26、熱輻射センサ27、パワーメータ29、ステージ31、全反射ミラー33及び照射対象物42を備える。このうち、制御装置10のレーザ光のパワーを制御する構成が、本発明に係るレーザパワー制御装置の一例に相当する。
【0015】
レーザ光源21は、例えばYAGレーザ等の固体レーザ、CO2レーザ等のガスレーザ又はLD(Laser Diode)等の半導体レーザであり、加工対象物41に照射されて加工対象物41を高温に加熱するレーザ光を出力する。レーザ光源21は、制御装置10によりレーザ光の出力と停止とが制御される。レーザ光源21はレーザ発振器と呼んでもよい。
【0016】
減衰光学系22は、レーザ光源21から出射されたレーザ光を減衰させて通過させる。減衰光学系22は、レーザ光の減衰比が変更可能であり、制御装置10によって減衰比が制御される。
【0017】
ダイクロイックミラー24は、レーザ光源21の出力波長の光を反射し、熱輻射を含む赤外領域の光を透過する。
【0018】
レンズ25は、所定の照射位置P0へレーザ光を収束させる。また、レンズ25は、レーザ光の照射位置P0の周辺から放射される熱輻射を集光する。
【0019】
レンズ26は、レンズ25により集光され、ダイクロイックミラー24を通過した熱輻射を熱輻射センサ27へ収束させる。
【0020】
熱輻射センサ27は、例えば赤外線センサであり、受光部に入力された熱輻射の強度を測定する。
【0021】
ステージ31は、加工対象物41を保持する台であり、レーザ光の光軸と交差する2方向へ移動可能に構成されている。ステージ31は、加工対象物41を保持する領域W1と、レーザパワーの推定に使用する照射対象物42を保持する領域W2と、全反射ミラー33を搭載する領域W3とを有する。ステージ31を駆動することで、レーザ光の照射位置P0に領域W1、W2、W3の各々を合わせることができる。照射位置P0に領域W1があるとき、領域W1に配置された加工対象物41の上面部が加工面となる。領域W1と領域W2とは、同じ高さに設けられている。
図1では、二点鎖線により全反射ミラー33がレーザ光の照射位置P0に移動したときのレーザ光の光路を示している。
【0022】
全反射ミラー33は、ステージ31の駆動により、レーザ光の照射位置P0の延長上に移動したときに、レンズ25を介して照射されるレーザ光をパワーメータ29の方へ反射させる。
【0023】
パワーメータ29は、レーザ光を受光してレーザ光のパワーを測定する。パワーとは、レーザ光の単位時間当たりのエネルギーを意味し、パワーの単位は、例えばJ(ジュール)/秒、W(ワット)などである。また、エネルギーを熱量に換算し、パワーを熱量の単位を用いて表してもよい。パワーメータ29は、入射されたレーザ光を熱に変換する受光面と、受光面の温度を電圧に変換するセンサ部とを有する。受光面は、レーザ光の入射により入熱されて温度が上昇する一方、温度の上昇により放熱がなされ、入熱と放熱とが平衡状態に達すると、センサ部の出力が安定する。パワーメータ29は、このような構成のため、アニール処理に必要な精度でレーザ光のパワーを測定するのに60秒程度の時間を要する。
【0024】
照射対象物42は、熱輻射センサ27の測定結果からレーザ光のパワーを推定する際にレーザ光が照射されて熱輻射を発生させる材料である。照射対象物42は、例えば加工対象物41と同じ素材であってもよいし、金属素材など熱が分散しやすい材料であってもよい。照射対象物42は、基準ワークと呼んでもよい。
【0025】
制御装置10は、CPU(Central Processing Unit)、CPUが実行する制御プログラム及び制御データを記憶した記憶装置、並びに、各部の信号を入出力するインターフェースを備えたコンピュータである。制御装置10は、熱輻射とレーザ光のパワーとを対応づける関係データを作成する関係データの作成処理部11と、関係データを記憶する関係データ記憶部12と、レーザ光のパワーを推定する推定部13とを備える。さらに、制御装置10は、レーザ光のパワーを調整する調整部14と、パワーの調整の要否を判定する要否判定部15と、画像又は文字の出力が可能な表示部16とを備える。関係データの作成処理部11、推定部13、調整部14及び要否判定部15は、CPUが制御プログラムを実行することで機能する機能モジュールである。関係データ記憶部12は、記憶領域の中で、予め関係データが格納されるように設定された領域であり、本発明に係る記憶部の一例に相当する。
【0026】
レーザ光のパワーの推定に使用される関係データは、熱輻射センサ27の測定値と、パワーメータ29の測定値との対応関係を示すデータテーブル又は関係式等のデータである。関係データに示される熱輻射センサ27の測定値は、照射位置P0に照射対象物42が配置されてレーザ光が照射されたときに得られる熱輻射センサ27の測定値である。また、これに対応付けられるパワーメータ29の測定値は、熱輻射を測定したときとレーザ光のパワーが変更されない状態で、照射位置P0の延長上に全反射ミラー33が配置されて得られるパワーメータ29の測定値である。
【0027】
照射対象物42に高周波パルスのレーザ光を照射すると、熱輻射センサ27からはレーザ光のパルスに応じた周波数でピークが繰り返す測定結果が得られるなど、レーザ光が照射されてから、それに応じた熱輻射が発生するまでの応答性は非常に高い。また、レーザ光を同一点に連続して長い時間照射しなければ、レーザ光のパワーと照射対象物42の熱輻射のピーク値とはほぼ一定の関係を有する。例えば、照射対象物42の室温の箇所にレーザ光を所定数パルス(例えば10パルス)照射した直後の熱輻射のピーク値は、レーザ光のパワーを精度良く反映した値となる。このように得られた値が、関係データの熱輻射センサ27の測定値として使用される。
【0028】
パワーメータ29の測定値は、前述したように、安定した値が得られるまでに、60秒などの長い時間を要する。関係データに示されるパワーの測定値は、このように長い時間をかけてパワーメータ29から得られた安定した測定値に相当する。
【0029】
関係データの作成処理部11は、後述する関係データ作成処理を実行して、上述の関係データを作成する。
【0030】
関係データ記憶部12は、作成処理部11が作成した関係データを記憶する。あるいは、関係データ記憶部12は、別の装置等で作成された関係データを予め記憶していてもよい。
【0031】
推定部13は、レーザ光が照射された照射対象物42の熱輻射の強度と、関係データ記憶部12に記憶されている関係データとから、照射位置P0におけるレーザ光のパワーを推定する。
【0032】
調整部14は、レーザ加工装置の稼働開始前あるいはレーザ光のパワーに一定以上の変動が生じた際に実施される調整工程において、推定部13が推定したレーザ光のパワーに基づき、減衰光学系22を制御して、照射位置P0におけるレーザ光のパワーを調整する。
【0033】
要否判定部15は、後述する要否判定処理を実行し、レーザ加工装置1の稼動中に、レーザ光のパワーの再調整が必要となるタイミングを判定する。照射位置P0におけるレーザ光のパワーは、レーザ加工装置1の稼動中、各部の温度ドリフト等により僅かに変動する。従来の装置では、このようなパワーの変動に対処するため、アニール処理の回数が所定回数となるごとに、レーザ光のパワーの再調整を実施していた。しかし、この方法では、歩留まりが低下しないよう、パワーの変動が十分に小さいときにパワーが再調整されるよう、再調整を行う間隔が決められ、これにより、再調整の頻度が高くなり、アニール処理の効率の低下を招くことがあった。要否判定部15は、歩留まりが低下しない範囲にレーザ光のパワーの変動を抑えつつ、パワーの再調整の頻度が高くならないように、パワーの再調整の要否を判定する。
【0034】
表示部16は、推定部13が推定したレーザ光のパワー値と、調整処理中に調整されたレーザ光のパワー値などを表示する(
図5を参照)。
【0035】
<関係データ作成処理>
次に、レーザ光のパワーの推定に使用される関係データの作成処理について説明する。
図2は、作成処理部が実行する関係データの作成処理を示すフローチャートである。
【0036】
関係データの作成処理は、レーザ加工装置1の初期設定時あるいは劣化等により照射対象物42を交換した際などに、オペレータの指示によりあるいは自動的に作成部処理部11により実行される。
【0037】
関係データの作成処理が開始されると、作成処理部11は、ステージ31を駆動して、照射対象物42をレーザ光の照射位置P0へ移動する(ステップS1)。次に、作成処理部11は、所定ショット数のレーザ光を照射位置P0へ照射させ(ステップS2)、熱輻射センサ27の測定値を入力する(ステップS3)。ここで、作成処理部11は、所定ショット数のレーザ光の照射に対応する熱輻射測定値のピーク値の平均値を、熱輻射の測定値として採用すればよい。レーザ光の照射は、レーザ光源21の動作のオン・オフの切替えにより実施してもよいし、レーザ光源21から出射されたレーザ光を光学素子により透過又は遮断して切り替えることにより実施してもよい。
【0038】
続いて、作成処理部11は、ステージ31を駆動して全反射ミラー33をレーザ光の照射位置P0の延長上へ移動する(ステップS4)。そして、作成処理部11は、レーザ光を照射位置P0へ照射させ(ステップS5)、パワーメータ29の測定値を入力し(ステップS6)、安定した測定値が得られたらレーザ光の照射を停止する(ステップS7)。そして、作成処理部11は、ステップS3の測定値とステップS6の測定値とを対応づけて記憶する(ステップS8)。
【0039】
次に、作成処理部11は、レーザ光のパワー設定を所定の複数段階に変更したか判別し(ステップS9)、未だであれば、減衰光学系22を制御してパワー設定を1段階変更する(ステップS10)。そして、処理をステップS1に戻して、ステップS1~S8の処理を繰り返す。このステップS1からステップS10のループ処理が繰り返されることで、複数のパワー設定の各々で、熱輻射の測定値とこれに対応したレーザ光のパワーの測定値との組み合わせのデータが得られる。
【0040】
そして、ステップS9の判別で、完了と判別されたら、ステップS8で記憶されたデータを用いて、熱輻射の測定値とレーザ光のパワー値とを対応づける関係データを更新し、関係データ記憶部12に記憶する(ステップS11)。そして、関係データ作成処理が終了する。
【0041】
以上のような関係データ作成処理により、熱輻射の測定値とパワーメータ29の測定値とを対応づける関係データを自動的に作成することができる。なお、人間の操作により
図2と同様の処理を行うことで、関係データを作成してもよい。
【0042】
<調整処理>
次に、レーザ光のパワーを調整する調整処理について説明する。
図3は、制御装置により実行されるレーザ光のパワーの調整処理を示すフローチャートである。この調整処理は、本発明に係るレーザパワーの制御方法の一例に相当する。
【0043】
レーザ光のパワーの調整処理は、レーザ加工装置1の稼動開始前、稼動中にレーザ光のパワーが所定量変動した場合、あるいは、オペレータの指示があった場合に、その後の調整工程において実行される。
【0044】
調整処理が開始されると、制御装置10は、ステージ31を駆動して照射対象物42を照射位置P0に移動する(ステップS21)。次に、制御装置10は、所定ショット数のレーザ光を照射位置P0へ照射させ(ステップS22)、熱輻射センサ27の測定値を入力する(ステップS23)。ここで、制御装置10は、所定ショット数のレーザ光の照射に対応する熱輻射測定値のピーク値の平均値を、熱輻射の測定値として採用すればよい。
【0045】
次に、制御装置10の推定部13は、関係データ記憶部12に記憶されている関係データと、ステップS23で取得された熱輻射の測定値とに基づいて、照射位置P0におけるレーザ光のパワーを推定する(ステップS24)。ここで、関係データには、熱輻射の測定値とこれに対応するレーザ光のパワーの測定値とが対応付けられているので、推定部13は、この対応関係に従ってレーザ光のパワーを推定する。
【0046】
レーザ光のパワーが推定されたら、制御装置10は、表示部16にパワーの推定値を表示する(ステップS25、
図5を参照)。なお、繰り返し実行されるステップS22~S26の途中で表示されるパワーの推定値は、調整後のレーザ光のパワーを表わす調整値に相当する。続いて、制御装置10の調整部14は、パワーが指定範囲内であるか判別し(ステップS26)、範囲外であれば調整部14は、減衰光学系22を制御して、パワーが範囲内に入るように調整する(ステップS27)。そして、制御装置10は、処理をステップS22に戻して、ステップS22~S26の処理を再度実行する。ここで、パワーの指定範囲とは、レーザアニール処理で加工対象物41に照射すべきレーザ光のパワーに相当する。
【0047】
一方、ステップS26の判別で、パワーが指定範囲内にあると判別されたら、制御装置10は調整処理を終了する。このような調整処理により、速やかにかつ高い精度でレーザ光のパワーを指定範囲内に調整することができる。
【0048】
なお、本実施形態では、レーザ光のパワーの推定(ステップS24)から、減衰光学系22を制御してレーザ光のパワーを調整する処理(ステップS27)まで、装置内の機能モジュールが実行する例を示した。しかし、これらの処理の一部又は全部は、人が手動で行ってもよい。例えば、熱輻射の測定値を表示部16に出力させ、人がその値と関係データとを参照してパワーを推定し、さらに、人がつまみ操作により減衰光学系22の減衰量を調整することで、パワーが指定範囲内になるように操作してもよい。
【0049】
また、本実施形態では、照射対象物42にレーザ光を照射したときの熱輻射の測定値に基づいて、レーザ光のパワーを調整する処理を示した。しかし、照射対象物42と加工対象物41とが同質の材料である場合には、加工対象物41を照射対象物42として利用し加工対象物41の一部にレーザ光を照射して、このときの熱輻射の測定値を用いて、レーザ光のパワーの推定及び調整を行ってもよい。
【0050】
<加工処理>
加工工程は、加工対象物41に加工処理(アニール処理)を行う工程であり、照射位置P0に照射されるレーザ光のパワーが調整された状態で移行される。加工工程では、制御装置10が、ステージを駆動させるかあるいは光学系を駆動して、照射位置P0が加工対象物41の処理対象の領域の各箇所をなぞるように、照射位置P0と加工対象物41との相対位置を変化させる。さらに、制御装置10は、照射位置P0を移動させつつ、レーザ光を照射位置P0に照射して、加工対象物41に熱処理を加えていく。1枚の加工対象物41の処理対象の領域の全てについて熱処理が完了したら、1枚の加工対象物41についての加工処理が完了する。
【0051】
<パワー調整の要否判定処理>
続いて、レーザ光のパワー調整の要否判定処理について説明する。
図4は、要否判定部により実行されるパワー調整の要否判定処理を示すフローチャートである。
【0052】
要否判定処理は、レーザ加工装置1の稼動中、複数の加工対象物41に対して順次アニール処理を行っている際、要否判定部15により実行される。要否判定処理が開始されると、要否判定部15は、1枚の加工対象物41のアニール処理が開始されたか否かを判別し(ステップS31)、開始されたら処理を次に進める。すると、要否判定部15は、加工対象物41へのレーザ光の照射中に熱輻射センサ27の測定値を入力及び記録し(ステップS32)、1枚の加工対象物41のアニール処理が完了したか判別する(ステップS33)。そして、アニール処理の完了まで、測定値の入力と記録とを繰り返す。これにより、加工対象物41の処理対象の領域の各箇所にレーザ光が照射されたときの熱輻射の各測定値が蓄積される。
【0053】
1枚の加工対象物41のアニール処理が完了すると、要否判定部15は、アニール処理中に記録された熱輻射の複数の測定値に対して、平均的な熱輻射を示す統計値を計算する(ステップS34)。統計値は、単純に複数の測定値の平均であってもよいし、アニール領域の周縁部の熱輻射の測定値を除いた範囲の平均値であってもよい。あるいは、要否判定部15は、熱輻射の分散値を統計値として計算してもよい。
【0054】
次に、要否判定部15は、ステップS34で計算した統計値と、関係データ記憶部12に記憶されている関係データとから、レーザ光のパワーの変動量を推定する(ステップS35)。関係データにおいて熱輻射の測定値を得るときの測定条件は、加工対象物41をアニール処理しているときと異なるため、アニール処理中の熱輻射の値から関係データを用いてレーザ光のパワーを正確に取得することはできない。しかし、関係データからは、レーザ光のパワーの変化量に対する熱輻射の変化量の比率を求めることができ、この比率と、アニール処理の際のパワーの変化量に対する熱輻射の変化量の比率とには相関関係がある。要否判定部15には、この相関関係が予め与えられ、要否判定部15は、この相関関係と関係データから得られる比率とから、1回のアニール処理ごとの熱輻射の値の変化量に対するレーザ光のパワーの変化量との比率を計算できる。ステップS35において、要否判定部15は、前のステップS34で計算された統計値から、1回のアニール処理ごとに各回の熱輻射の変化量を計算し、上記の相関関係と関係データとから計算した比率を乗じて、レーザ光のパワーの変動量を推定する。
【0055】
レーザ光のパワーの変動量を推定したら、要否判定部15は、変動量が閾値を超えたか判別し(ステップS36)、超えていなければ、ステップS31に処理を戻して、要否判定処理を継続する。一方、閾値を超えていれば、次のアニール処理の前に、レーザ光のパワーを再調整する調整処理へ処理を移行する。閾値は、アニール処理の歩留まりが低下せず、かつ、パワーの再調整の頻度を低くおさえることのできる値に設定される。
【0056】
このような要否判定処理により、レーザ光のパワーの調整が必要なときにのみ再調整が実行され、これにより、より効率的な加工対象物41のアニール処理を実現できる。
【0057】
なお、上記の要否判定処理では、関係データと熱輻射の測定値とを用いて、レーザ光のパワーの変動量を推定し、パワーの再調整の要否を判定する例を示した。しかし、加工処理中の加工対象物41の熱輻射の値と、レーザ光のパワー値とには、相関関係がある。したがって、要否判定部15は、関係データを用いずに、加工処理中の熱輻射の測定値の統計値と閾値とを比較して、パワーの再調整の要否を判定してもよい。あるいは、要否判定部は、複数の加工対象物41の加工処理の過程で、前回又は前々回からの上記統計値の変動量に基づいて、パワーの再調整の要否を判定してもよい。
【0058】
以上のように、本実施形態のレーザ加工装置1及びパワー制御装置によれば、レーザ光を照射対象物42に照射したときの熱輻射の測定値と、パワーメータ29により計測された照射位置P0におけるレーザ光のパワーとを対応づける関係データが記憶されている。したがって、関係データと熱輻射の測定値とから、照射位置P0におけるレーザ光のパワーを推定することができる。そして、このレーザ光のパワー推定の結果を利用することで、パワーメータ29により長い時間をかけてパワーの測定を毎回行うことなく、熱輻射の測定に基づいて時間をかけずに正確にレーザ光のパワーを推定し、その調整を行うことができる。これにより、加工処理のスループットの向上を図ることができる。なお、本実施形態においては、レーザ光のパワーの推定と、パワーの調整は、人がマニュアルで行ってもよい。
【0059】
また、本実施形態のレーザ加工装置1及びパワー制御装置によれば、熱輻射の測定値と関係データとからレーザ光のパワーを推定する推定部13が設けられている。したがって、レーザ光のパワーの推定を、推定部13により装置内で実行することができ、人がマニュアルで行う場合と比較して、人の煩雑な作業を省略でき、間違いの少ない推定結果を得ることができる。
【0060】
また、本実施形態のレーザ加工装置1及びパワー制御装置によれば、パワーの推定結果に基づいて、照射位置P0におけるレーザ光のパワーを調整する調整部14が設けられている。したがって、レーザ光のパワー調整を、調整部14により装置内で遂行することができ、人がマニュアルで行う場合と比較して、人の煩雑な作業を省略でき、正確で速やかなパワーの調整を行うことができる。
【0061】
また、本実施形態のレーザ加工装置1及びパワー制御装置によれば、関係データと、加工処理中の熱輻射の測定結果とに基づいて、照射位置P0におけるレーザ光のパワー調整の要否を判定する要否判定部15が設けられている。したがって、複数枚の加工対象物41の加工処理を継続する間、要否判定部15の判定により、次にパワーの再調整を行うタイミングを適切に決定できる。例えば、レーザ加工装置1の歩留まりが低下しない範囲にレーザ光のパワーの変動を抑えつつ、パワーの再調整の頻度が高くならないように、パワーの再調整を行う適切なタイミングを決定できる。これにより、レーザ加工装置の加工処理のスループットを向上できる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、レーザ加工装置にパワーメータが設けられた例を示したが、レーザ加工装置しては、熱輻射の測定値とレーザ光のパワー値とを対応づける関係データが装置の外部から与えられ、パワーメータを有さない構成が採用されてもよい。また、上記の実施形態では、レーザ加工装置がレーザアニール装置である場合を示したが、レーザ加工装置としては、レーザ光により配線基板に貫通孔あるいは非貫通穴を設けるレーザドリル装置、レーザ光により溶接を行うレーザ溶接装置などが適用されてもよい。その他、レーザ光源から加工対象物までの光路中に、種々の機能を及ぼす様々な光学系が追加されてもよいし、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、レーザパワー制御装置、レーザ加工装置及びレーザパワー制御方法に利用できる。
【符号の説明】
【0064】
1 レーザ加工装置
10 制御装置
11 作成処理部
12 関係データ記憶部
13 推定部
14 調整部
15 要否判定部
16 表示部
21 レーザ光源
22 減衰光学系
24 ダイクロイックミラー
25、26 レンズ
27 熱輻射センサ
29 パワーメータ
31 ステージ
33 全反射ミラー
P0 照射位置(加工面)
【手続補正書】
【提出日】2023-10-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明に係るレーザ制御装置は、
レーザ加工装置からレーザ光が照射された照射対象物の熱輻射の強度を検出する熱輻射センサの測定値と、前記照射対象物の加工面における前記レーザ光のパワー値とを対応づける関係データを記憶する記憶部を備え、
前記関係データは、初期設定時および照射対象物が変更になったときに作成される構成とした。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明に係るレーザ加工装置は、
加工対象物にレーザ光を照射する光学系と、
前記光学系によりレーザ光が照射された照射対象物の熱輻射を測定する熱輻射センサと、
前記熱輻射センサの測定値と加工面におけるレーザ光のパワー値とを対応づける関係データを記憶する記憶部と、
を備え、
前記関係データは、初期設定時および照射対象物が変更になったときに作成される構成とした。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本発明に係るレーザパワー制御方法は、
レーザ加工装置からレーザ光が照射された照射対象物の熱輻射を測定し、
測定された熱輻射の値から前記照射対象物の加工面における前記レーザ光のパワー値を推定し、
推定されたパワー値に基づいて前記加工面におけるレーザ光のパワーを調整するレーザパワー制御方法であって、
前記熱輻射の値と前記レーザ光のパワー値とを対応づける関係データを有し、前記関係データは、初期設定時および照射対象物が変更になったときに作成されるようにした。
【手続補正4】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工装置からレーザ光が照射された照射対象物の熱輻射の強度を検出する熱輻射センサの測定値と、前記照射対象物の加工面における前記レーザ光のパワー値とを対応づける関係データを記憶する記憶部を備え、
前記関係データは、初期設定時および照射対象物が変更になったときに作成されるレーザパワー制御装置。
【請求項2】
前記熱輻射センサの測定値と前記記憶部に記憶された前記関係データとに基づいて前記加工面におけるレーザ光のパワーを推定する推定部を更に備える、
請求項1記載のレーザパワー制御装置。
【請求項3】
前記推定部の推定結果に基づいて前記加工面におけるレーザ光のパワーを調整する調整部を更に備える、
請求項2記載のレーザパワー制御装置。
【請求項4】
前記推定部により推定されたレーザ光のパワーあるいは前記調整部により調整されたレーザ光のパワーを表示する表示部を更に備える、
請求項3記載のレーザパワー制御装置。
【請求項5】
加工対象物へのレーザ光の照射中に得られた前記熱輻射センサの測定値と前記関係データとに基づいてレーザ光のパワーの調整の要否を判定する要否判定部を更に備える、
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のレーザパワー制御装置。
【請求項6】
加工対象物にレーザ光を照射する光学系と、
前記光学系によりレーザ光が照射された照射対象物の熱輻射を測定する熱輻射センサと、
前記熱輻射センサの測定値と加工面におけるレーザ光のパワー値とを対応づける関係データを記憶する記憶部と、
を備え、
前記関係データは、初期設定時および照射対象物が変更になったときに作成されるレーザ加工装置。
【請求項7】
レーザ加工装置からレーザ光が照射された照射対象物の熱輻射を測定し、
測定された熱輻射の値から前記照射対象物の加工面における前記レーザ光のパワー値を推定し、
推定されたパワー値に基づいて前記加工面におけるレーザ光のパワーを調整するレーザパワー制御方法であって、
前記熱輻射の値と前記レーザ光のパワー値とを対応づける関係データを有し、前記関係データは、初期設定時および照射対象物が変更になったときに作成される、
レーザパワー制御方法。