(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104603
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】連続鋳造用ノズル
(51)【国際特許分類】
B22D 11/10 20060101AFI20240729BHJP
B22D 11/18 20060101ALI20240729BHJP
B22D 41/54 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
B22D11/10 320D
B22D11/18 K
B22D41/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008913
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 昭成
(72)【発明者】
【氏名】井川 裕二
【テーマコード(参考)】
4E004
4E014
【Fターム(参考)】
4E004FA00
4E004MD10
4E014DA00
(57)【要約】
【課題】1300℃以上の高温下など厳しい予熱条件下でも、ストッパーと連続鋳造用ノズルとの融着を防止できる技術を提供する。
【解決手段】【請求項1】
溶鋼の連続鋳造において溶鋼の流量を制御するストッパー2と嵌合する連続鋳造用ノズル1において、ストッパー2との接触部11を含む上端部に配置された耐火物12と、耐火物12の表面を被覆する酸化防止剤14と、酸化防止剤14の表面側に接触部11を含むように配置された反応防止剤15と、反応防止剤15の表面側に接触部11を含むように配置された融着防止材16とを設けた。酸化防止剤14は、SiO
2成分を50質量%以上85質量%以下、B
2O
3成分を1質量%以上20質量%以下含有し、Na
2O成分、K
2O成分及びP
2O
5成分の含有率が合計で10質量%以下(0を含む。)である。反応防止剤15は炭素質である。融着防止材16は、アルミナ繊維及びアルミナ-シリカ繊維の少なくとも一種からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼の連続鋳造において溶鋼の流量を制御するストッパーと嵌合する連続鋳造用ノズルであって、
前記ストッパーとの接触部を含む上端部に配置された耐火物と、前記耐火物の表面を被覆する酸化防止剤と、前記酸化防止剤の表面側に前記接触部を含むように配置された反応防止剤と、前記反応防止剤の表面側に前記接触部を含むように配置された融着防止材とを備え、
前記酸化防止剤は、SiO2成分を50質量%以上85質量%以下、B2O3成分を1質量%以上20質量%以下含有し、Na2O成分、K2O成分及びP2O5成分の含有率が合計で10質量%以下(0を含む。)であり、
前記反応防止剤は炭素質であり、
前記融着防止材は、アルミナ繊維及びアルミナ-シリカ繊維の少なくとも一種からなる、連続鋳造用ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼の連続鋳造において、溶鋼の流量を制御するストッパーと嵌合する連続鋳造用ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼の連続鋳造では、取鍋からタンディッシュ内に供給された約1500~1550℃の溶鋼を、浸漬ノズル(連続鋳造用ノズルの一例)を介して鋳型に注湯しており、その際、溶鋼の流量を制御するためにストッパーを使用する場合がある。この場合、ストッパー及び浸漬ノズルは使用前に予熱されるが、その予熱中に、ストッパー及び浸漬ノズルの表面に被覆してある酸化防止剤が溶融してストッパーと浸漬ノズルとの融着をひき起こすことがあり、従前より融着を防止するための技術が検討されている。
【0003】
例えば特許文献1には、浸漬ノズルと接触するストッパーの先端部分に、セラミックファイバー成形体でなるキャップを装着する技術が開示されている。また特許文献2には、融点又は凝固点が700~950℃の範囲内にある酸化防止剤を使用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実願昭58-141928号(実開昭60-52052号)のマイクロフィルム
【特許文献2】特公平6-20620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らによる試験及び検討の結果、これら従来の技術をもってしても、特に1300℃以上の高温下など厳しい予熱条件下では融着を防止することは困難であることがわかった。
すなわち、特許文献1の技術のようにストッパーの先端部分にセラミックファイバー製のキャップを装着しても、現実の予熱ではストッパーの先端部分には、連続鋳造用ノズルを予熱するためにそのノズル孔に挿入されたバーナー等からの直火や高温の熱風が直撃するため、セラミックファイバーであったとしても溶融し結果として融着が発生する。また、特許文献2のように融点又は凝固点が700~950℃の酸化防止剤を使用したとしても、1300℃以上の高温下では融着が発生する。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、1300℃以上の高温下など厳しい予熱条件下でも、ストッパーと連続鋳造用ノズルとの融着を防止できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上述した現実の予熱時の状況を踏まえ、ストッパーと連続鋳造用ノズルとの融着を防止するには連続鋳造用ノズル側に融着防止手段を講じることが必要であるとの思想の下、その具体的手段について鋭意研究した結果、本発明に想到するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一観点によれば次の連続鋳造用ノズルが提供される。
溶鋼の連続鋳造において溶鋼の流量を制御するストッパーと嵌合する連続鋳造用ノズルであって、
前記ストッパーとの接触部を含む上端部に配置された耐火物と、前記耐火物の表面を被覆する酸化防止剤と、前記酸化防止剤の表面側に前記接触部を含むように配置された反応防止剤と、前記反応防止剤の表面側に前記接触部を含むように配置された融着防止材とを備え、
前記酸化防止剤は、SiO2成分を50質量%以上85質量%以下、B2O3成分を1質量%以上20質量%以下含有し、Na2O成分、K2O成分及びP2O5成分の含有率が合計で10質量%以下(0を含む。)であり、
前記反応防止剤は炭素質であり、
前記融着防止材は、アルミナ繊維及びアルミナ-シリカ繊維の少なくとも一種からなる、連続鋳造用ノズル。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、1300℃以上の高温下など厳しい予熱条件下でも、ストッパーと連続鋳造用ノズルとの融着を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態である連続鋳造用ノズルの上端部をストッパーの先端部と共に示す概念的な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、本発明の一実施形態である連続鋳造用ノズルの上端部をストッパーの先端部と共に概念的に断面で示している。
同図に示す連続鋳造用ノズル1は浸漬ノズルであり、溶鋼の連続鋳造においてタンディッシュ内の溶鋼を鋳型に注湯するものである。浸漬ノズル1の上方にはストッパー2が配置され、このストッパー2を昇降させて浸漬ノズル1との嵌合の程度を調整することで、溶鋼の流量を制御する。具体的には、同図に一点鎖線で示しているようにストッパー2を浸漬ノズル1と完全に嵌合する位置まで下降させると溶鋼の流量はゼロとなり、この位置からストッパー2を上昇させるとその上昇の程度に応じて溶鋼の流量が変化する。
【0012】
このように浸漬ノズル1は、溶鋼の連続鋳造において溶鋼の流量を制御するストッパー2と嵌合するものであり、ストッパー2との接触部11を含む上端部には、上端部用の耐火物12が配置されている。また上端部用の耐火物12の下方には本体部用の耐火物13が配置されている。上端部用の耐火物12の材質は例えばジルコニア-黒鉛質、本体部用の耐火物13の材質は例えばアルミナ-黒鉛質とすることができ、これらは一体成形により一体的に形成することができるし、個別に成形後、接合することにより形成することもできる。なお、上端部用の耐火物12と本体部用の耐火物13の材質は同じとすることもでき、この場合、浸漬ノズル1の全体を例えばアルミナ-黒鉛質とすることもできる。
【0013】
上端部用の耐火物12を始めとして浸漬ノズル1を構成する耐火物の表面は、酸化防止剤14によって被覆されている。そして、酸化防止剤14の表面側にはストッパー2との接触部11を含むように反応防止剤15が配置され、反応防止剤15の表面側にはストッパー2との接触部11を含むように融着防止材16が配置されている。
【0014】
酸化防止剤14は、予熱中の耐火物の酸化による劣化を防止するためのもので、本発明ではSiO
2成分を50質量%以上85質量%以下、B
2O
3成分を1質量%以上20質量%以下含有すると共に、Na
2O成分、K
2O成分及びP
2O
5成分の含有率が合計で10質量%以下(0を含む。)のものを使用している。
酸化防止剤中のSiO
2成分の含有率が50質量%未満であると、酸化防止に寄与するSiO
2成分が少ないため、十分な酸化防止機能を発揮することができない。一方、SiO
2成分の含有率が85質量%超であると、酸化防止剤の融点(ガラス転移温度)が高くなるため、予熱中にガラス転移することができず十分な酸化防止機能を発揮することができない。また、酸化防止剤中のB
2O
3成分の含有率が1質量%未満であると、酸化防止に寄与するB
2O
3成分が少ないため、十分な酸化防止機能を発揮することができない。一方、B
2O
3成分の含有率が20質量%超であると、酸化防止剤の融点(ガラス転移温度)が低下することで溶融(ガラス化)が過剰に進行し、酸化防止剤としての維持が困難になるため、十分な酸化防止機能を発揮することができない。また、Na
2O成分、K
2O成分及びP
2O
5成分の含有率が合計で10質量%超であると、同様に酸化防止剤の融点(ガラス転移温度)が低下することで溶融(ガラス化)が過剰に進行すると共に、酸化防止剤14の表面側にある反応防止剤15及び融着防止材16との反応も過剰に進行するため、十分な酸化防止機能を発揮することができない。なお、酸化防止剤14は、上述の成分のほか、Al
2O
3成分、ZrO
2成分等のその他の成分を適宜含有することができる。
酸化防止剤14は、浸漬(どぶ漬け)、塗布(はけ塗り)等の方法により設けることができ、その厚みは、0.4~0.8mm程度とすることができる。
なお、
図1に示しているようにストッパー2の先端部にも酸化防止剤21を設けているが、この酸化防止剤21は上述の酸化防止剤14と同じものとすることができる。
【0015】
反応防止剤15は、酸化防止剤14と融着防止材16との反応を防止するためのもので、本発明では炭素質である。すなわち、炭素質の反応防止剤15は溶融(ガラス化)した酸化防止剤14を弾く性質を有するため、酸化防止剤14の融着防止材16への浸透を防ぐことができ、これにより、酸化防止剤14と融着防止材16とが反応し、融着防止材16が溶融することを防止することができる。
反応防止剤15は炭素質の耐火材料として黒鉛を含むことが好ましい。すなわち、反応防止剤15が黒鉛を含むことで、酸化防止剤14と融着防止材16との間に層状に配置されやすくなり、これにより反応防止機能が向上する。なお、反応防止剤15は炭素質の耐火材料としてカーボンブラック等の他の炭素質の耐火材料を、黒鉛に代えて又は黒鉛と共に含むことができる。ただし、上述の理由から、反応防止剤15は炭素質の耐火材料として黒鉛を含むことが好ましく、炭素質の耐火材料としては黒鉛のみを含むことがより好ましい。
このように炭素質の耐火材料を含む反応防止剤15は、酸化防止剤14の表面に塗布することで設けることができる。このとき、炭素質の耐火材料を分散させる溶媒として液状の有機バインダーを用いることができる。液状の有機バインダーを用いることで、塗布作業が容易になると共に、炭素質の耐火材料を含む反応防止剤15を酸化防止剤14の表面に均一に設けることができる。また、液状の有機バインダーは炭素質であるので、乾燥すると炭素質の反応防止剤15の構成成分となる。ここで、液状の有機バインダーとしては、液状のフェノール樹脂を用いることが好ましい。フェノール樹脂は高い耐熱性を有するからである。
反応防止剤15の厚みは、0.2~1.0mm程度とすることができる。この厚みは、塗布の回数により制御することができる。
【0016】
融着防止材16は、浸漬ノズル1の上端部とストッパー2の先端部との融着を防止するためもので、本発明ではアルミナ繊維及びアルミナ-シリカ繊維の少なくとも一種からなり、典型的にはアルミナ繊維をシート化したアルミナ繊維シート又はアルミナ-シリカ繊維をシート化したアルミナ-シリカ繊維からなる。アルミナ繊維及びアルミナ-シリカ繊維はいずれも融点が高いから、上述の反応防止剤15による反応防止効果と相まって、浸漬ノズル1の上端部とストッパー2の先端部との融着を防止することができる。融着防止材16の厚みは、1~3mm程度とすることができる。
【0017】
以上の通り、浸漬ノズル1は、上端部用の耐火物12の表面を被覆する酸化防止剤14と、酸化防止剤14の表面側に配置された反応防止剤15と、反応防止剤15の表面側に配置された融着防止材16とを備えるが、浸漬ノズル1の上端部とストッパー2の先端部との融着を防止するという目的からして、反応防止剤15は酸化防止剤14の表面側においてストッパー2との接触部11を含むように配置すればよい。すなわち、反応防止剤15は酸化防止剤14の表面全体に配置する必要はなく、少なくともストッパー2との接触部11を含むように、例えば
図1に示している範囲に配置すればよい。また、融着防止材16も反応防止剤15の表面全体に配置する必要はなく、少なくともストッパー2との接触部11を含むように、例えば
図1に示している範囲に配置すればよい。
【実施例0018】
図1に示した浸漬ノズル1の上端部用の耐火物12を模した耐火物の試験体を複数準備し、その表面にそれぞれ表1に示した通り融着防止手段を施し、各例の試験体を加熱試験に供した。加熱試験では、各例の試験体を常温の炉内に入れ、その炉内を1500℃まで加熱し同温度で90分間維持し、その後、炉内を常温まで戻した。加熱試験後、各例の試験体を炉内から取り出し、融着防止手段、特に融着防止材の溶融の有無を調査した。融着防止材の溶融が「無し」であれば、融着防止材が有効に機能するということであり、ストッパーとの融着を防止できると判断される。なお、加熱試験では炉内を1500℃に加熱しているが、これは1300℃以上の高温下での予熱を想定したものである。
また、各例の試験体において酸化防止剤及び融着防止材の厚みは、それぞれ0.6mm及び2mmであり、比較例4以外で使用した反応防止剤の厚みは0.6mmである。なお、反応防止剤は黒鉛を含むものであり、具体的には液状のフェノール樹脂に黒鉛を分散させて、これを塗布することにより形成したものである。
【0019】
【0020】
表1中、実施例1~3は、本発明で規定した所定の酸化防止剤、反応防止剤及び融着防止材を備えるもので、融着防止材の溶融は「無し」であり、ストッパーとの融着を防止できると判断された。
これに対して、比較例1及び比較例2は酸化防止剤の成分が本発明の範囲外の例であり、酸化防止剤の融点(ガラス転移温度)が低下して酸化防止剤自体が溶融しやすくなることに伴い融着防止材も溶融しやすくなり、その結果、融着防止材の溶融が「有り」となった。
比較例3は融着防止材としてシリカ-ライム繊維を用いた例であり、融着防止材自体が溶融しやすくなり、その結果、融着防止材の溶融が「有り」となった。
比較例4は反応防止剤を備えない例で、酸化防止剤が融着防止材側へ浸透しやすくなり、その結果、融着防止材の溶融が「有り」となった。