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  • 特開-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104618
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/70 20140101AFI20240729BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20240729BHJP
【FI】
B23K26/70
B23K26/38 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008936
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中井 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 孝一
(72)【発明者】
【氏名】和田 克彦
(72)【発明者】
【氏名】熊野 智允
(72)【発明者】
【氏名】氷見 太
(72)【発明者】
【氏名】湯谷 太一
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168CA06
4E168CB03
4E168CB08
4E168CB22
4E168EA17
4E168FC00
(57)【要約】
【課題】レーザ加工により生じた溶融物を効率的に除去可能なレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供する。
【解決手段】収束したレーザ光を生成して加工対象物に照射するレーザ部と、レーザ部からのレーザ光により加工対象物に生成された加工部に、爆発誘発剤を供給する爆発誘発剤供給部と、レーザ部からのレーザ光と爆発誘発剤供給部からの爆発誘発剤を制御する制御部を備え、加工部に生成された溶融物に爆発誘発剤を供給したことにより生じる爆発により溶融物を除去することを特徴とするレーザ加工装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
収束したレーザ光を生成して加工対象物に照射するレーザ部と、前記レーザ部からのレーザ光により加工対象物に生成された加工部に、爆発誘発剤を供給する爆発誘発剤供給部と、前記レーザ部からのレーザ光と前記爆発誘発剤供給部からの爆発誘発剤を制御する制御部を備え、前記加工部に生成された溶融物に爆発誘発剤を供給したことにより生じる爆発により前記溶融物を除去することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ加工装置であって、
前記制御部は、前記レーザ部からのレーザ光の強度と照射時間、並びに前記爆発誘発剤供給部からの爆発誘発剤の供給量と時間を制御することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項3】
収束したレーザ光を加工対象物に照射するとともに、レーザ光により加工対象物に生成された溶融物に、爆発誘発剤を供給し、前記加工対象物に生成された溶融物に爆発誘発剤を供給したことにより生じる爆発により前記溶融物を除去することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項4】
請求項3に記載のレーザ加工方法であって、
前記爆発誘発剤は、可燃性の粉塵を含む酸素ガスであり、粉塵と酸素が溶融物の熱により小規模な粉塵爆発を生じさせることを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項5】
請求項3に記載のレーザ加工方法であって、
前記爆発誘発剤は、ドライアイスであり、ドライアイスが溶融物の熱により急激に気化膨張させることを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項6】
請求項3に記載のレーザ加工方法であって、
前記爆発誘発剤は、水であり、加工対象物に生成された切断溝内の溶融物が水で覆われるとともに、溶融物を覆う水が溶融物の熱伝導により界面に水蒸気化し、水蒸気の圧力が増大することによる水蒸気爆発を発生させることを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項7】
請求項3に記載のレーザ加工方法であって、
前記爆発誘発剤は、氷であり、加工対象物に生成された切断溝内の溶融物内部に水蒸気層を形成するとともに、溶融物内部の水蒸気層が溶融物の熱伝導により圧力が増大することによる水蒸気爆発を発生させることを特徴とするレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ加工装置及びレーザ加工方法に係り、特にレーザ切断により生じた溶融物を効率的に除去可能なレーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料、セラミック、繊維強化プラスチック(FRP)材など幅広い材料の加工、例えば、穴あけ、切断、ガウジングにおいて、レーザ加工法にて溶融させた被加工物の溶融物に対し、活性ガス或いは不活性ガスなどのガスジェットを吹き付け、溶融物を排除する方法が広く用いられている。
【0003】
また、レーザ光の照射により溶融された被加工物の溶融物に対し、高圧水であるウォータージェット(WJ)を噴射し当該溶融物を除去するものとして、例えば、特許文献1に記載される技術が知られている。
【0004】
特許文献1では、「少なくとも、レーザ光を被加工物の加工対象箇所に照射し、レーザ光照射部を溶融するレーザヘッドと、前記レーザ光照射部と所定の距離離間する位置に液体を噴射し、流動性の液膜を前記被加工物の表面に形成する液体供給ノズルと、制御部と、を備え、前記レーザ光照射部の溶融物を前記液体供給ノズルから噴射される液体により除去し、前記制御部は、所定の周期で断続的に、前記被加工物へ液体を噴射するように、前記液体供給ノズルを制御すること」ことを提案している
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-8277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、切断対象物表面に液膜を形成し、液膜の気化圧により溶融物を除去する方式の場合、ウォータジェットの供給量が多くなり、切断対象物を過剰に冷却してレーザ入熱を阻害する。他方においてウォータジェットの衝撃力により溶融物を排出する方式の場合、切断溝が深くなった際にウォータジェットの衝撃力が弱まり、溶融物の排出能力が低下する。
【0007】
このことから本発明においては、レーザ加工により生じた溶融物を効率的に除去可能なレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のことから本発明においては、「収束したレーザ光を生成して加工対象物に照射するレーザ部と、レーザ部からのレーザ光により加工対象物に生成された加工部に、爆発誘発剤を供給する爆発誘発剤供給部と、レーザ部からのレーザ光と爆発誘発剤供給部からの爆発誘発剤を制御する制御部を備え、加工部に生成された溶融物に爆発誘発剤を供給したことにより生じる爆発により溶融物を除去することを特徴とするレーザ加工装置」としたものである。
【0009】
また本発明においては、「収束したレーザ光を加工対象物に照射するとともに、レーザ光により加工対象物に生成された溶融物に、爆発誘発剤を供給し、加工対象物に生成された溶融物に爆発誘発剤を供給したことにより生じる爆発により溶融物を除去することを特徴とするレーザ加工方法」としたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加工対象物の冷却が少ない技術で溶融物を除去し、レーザのエネルギーを効率的に利用して金属の加工が可能である。また本発明の実施例によれば、深い切断溝であっても、爆発現象の衝撃力により溶融物を切断溝外へ排出可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例1に係るレーザ加工装置の構成例を示す図。
図2】爆発誘発剤が水である場合の加工部分の状態を示す図。
図3】実施例3に係るレーザ加工装置の構成例を示す図。
図4】実施例6の場合の加工部分2aの状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下,本発明の実施例について、図面を用いて説明する。
【実施例0013】
図1は、本発明の実施例1に係るレーザ加工装置の構成例を示す図である。図1のレーザ加工装置1は、レーザ部3と爆発誘発剤供給部4と制御部5により構成されており、レーザ部3からのレーザ光3dにより加工対象物2を加工(例えば切断)し、加工により生じた溶融物2bを爆発誘発剤供給部4が与える爆発誘発剤4aを用いて生じた爆発力により除去するものである。
【0014】
このうちレーザ部3は、レーザ光3dを被加工物である加工対象物2に集光して溶融させるレーザヘッド3a、レーザ発振器3b、レーザ発振器3bにより発せられたレーザ光をレーザヘッド3aへ伝搬する光ファイバ3cを備えている。
【0015】
爆発誘発剤供給部4は、レーザにより形成された加工対象物2の加工部分2aに向けて爆発誘発剤4aを供給する。ここで本発明における爆発とは、「レーザ光3dの照射を受ける一定エリア(加工部分2a)内に維持されている圧力の開放」であり、圧力の開放のために化学的事象を利用する場合と物理的事象を利用する場合とがある。
【0016】
また本発明における爆発誘発剤4aとは、爆発誘発剤4aが加工対象物2の加工部分2aに供給されることで、爆発の発生を促す部材のことであり、以下の実施例2,3,4に例示する部材がこれに該当する。いずれの場合にも、爆発誘発剤4aが加工対象物2の加工部分2aに供給されることで、加工部分2aの圧力が解放されたことによる爆発力により溶融物2bを加工部分2aから除去することができる。
【0017】
制御部5は、計算機装置を用いて構成されており、レーザ部3と爆発誘発剤供給部4を制御することにより加工と爆発誘発剤供給のための制御を実行している。制御部5における処理の一例は、具体的には例えば加工のための位置制御である。レーザ加工装置1は、レーザヘッド3a及び/又は爆発誘発剤供給部4を3次元的に移動させることが可能な3次元移動機構を備えている。ここで、3次元移動機構として、例えば、X軸、Y軸、及びZ軸に沿った所望量の移動或いは、これら軸を中心とした所望量の回転(ヨーイング、ピッチング、ローリング)を可能とする3軸ロボット等が用いられる。
【0018】
また制御部5は、加工対象物2の特に加工部分2aを監視するためのカメラ7からの画像を入力して、加工場所の位置確認、加工状況の確認を行い、レーザ部3のレーザ照射時間、照射量の制御、爆発誘発剤供給部4の爆発誘発剤供給時間、供給量の制御などを行う。また適宜の制御を行うために入出力装置6を介してユーザからの指示を受け、且つ加工状況を可視化してユーザに提示する。また、各種処理に応じて適宜のセンサなどを備えてより高精度な制御に反映することができる。
【0019】
以上述べたように、本発明の基本思想においては、レーザ照射により加工部分2aに溶融物2bが形成された状態で、爆発現象を引き起こす物質(爆発誘発剤4a)を加工部分2aに投入し、爆発現象の衝撃力によって溶融物2bを切断溝(加工部分2a)より除去する。加工部分2aに爆発現象を引き起こす物質が届けば溶融物を除去可能であるため、切断溝の深さによる溶融物除去能力への影響を抑制可能である。
【実施例0020】
実施例2から実施例4では、爆発誘発剤4aの具体事例について説明する。実施例2では、爆発誘発剤4aは500μm以下の粒径の可燃性の粉塵(Cr、Zr、Al、Mg、Ti,Si)を含む酸素ガスである。なお一般的に粉塵爆発は、500μm以下の粒径の個体により発生することが知られている。可燃性の粉塵については、適宜のものが採用可能である。
【0021】
可燃性の粉塵(Cr、Zr、Al、Mg、Ti,Si)は、加工部分2aにおける切断溝内に間欠的に噴射され、切断溝を可燃性の粉塵と酸素で満たす。このとき溶融物2bの熱により小規模な粉塵爆発が発生し、切断溝中の溶融物2bが衝撃力により切断溝外へ排出される。
【0022】
実施例2の場合、制御部5は、酸素ガスと可燃性の粉塵4aが切断溝2aの奥に達するよう、酸素ガスの噴射圧力を調整するように作動させるのがよい。
【0023】
実施例2によれば、酸素ガスと可燃性の粉塵のみの噴射であるため、加工対象物2の温度低下には寄与しないので、加工効率を上げることができる。
【実施例0024】
実施例3では爆発誘発剤4aは、切断溝に収まる程度のドライアイスである。切断溝に収まる程度のドライアイス(個体)を溶融池(溶融物2b)中に間欠的に射出すると、ドライアイスが溶融池の熱により急激に気化膨張し、その衝撃力により溶融物が切断溝外へ排出される。
【0025】
実施例3の場合、制御部5は、溶融物を除去できる最小限のドライアイス投入量とすることで、切断対象物2の冷却を抑制できるように制御するのがよい。また制御部5は、ドライアイスが溶融池2aに到達するように、エアの噴射とともにドライアイスを送り出すように制御するのがよい。
【実施例0026】
実施例4では爆発誘発剤4aは、水である。図2は、この場合の加工部分2aの状態を示す図である。図2において爆発誘発剤4aである水は、いわゆるウォータジェットである。
【0027】
図2に示すように、加工部分2aの溝内にウォータジェット4a投入前の状態では、加工部分2aの溝内には溶融物2bが存在している。これに対し、ウォータジェット4aを投入すると溶融物2bの上部が水4aで覆われ、溶融物2bに水4aで蓋をする形になる。
【0028】
この実施例4の場合制御部5は、切断溝中に間欠的に水を噴射し、溶融池2aに蓋をすることを実現するために、溶融池2aに蓋をできる最小限の水量とすることで切断対象物2の冷却を抑制するように制御するのがよい。
【0029】
このとき溶融物2bを覆う水4aは、溶融池2aからの熱伝導により界面に水蒸気層4bが形成され、その後も溶融物2bから水蒸気層4bに熱伝導が起こることで水蒸気層4bの圧力が増大する。そして、水蒸気層2bの圧力が一定以上に増大した時、水蒸気爆発が発生し、溶融物2bを衝撃力により切断溝外へ排出する。
【0030】
この実施例4の場合制御部5は、水4aが切断溝の奥に到達するよう、水の噴射圧力を調整するように制御するのがよい。
【実施例0031】
実施例5では、爆発誘発剤4aを水とする場合に、切断溝の端に水の流入を阻害されないように工夫した構成を示すものである。ここでは、可能な限りレーザと同軸に噴射する、もしくは切断溝幅を広く確保する。
【0032】
図3は、実施例3に係るレーザ加工装置1の構成例を示す図である。図3のレーザ加工装置1は、レーザ部3と爆発誘発剤供給部4が一体に構成されたレーザヘッド3a´とすることで、同一方向に配置され可能な限りレーザと同軸に噴射する構成としている。
【0033】
一体に構成されたレーザヘッド3a´は、中央部にレーザ光3dを生成し、その周囲にウォータジェット4aを形成している。これにより切断溝の端に水の流入を阻害されないようにすることができる。
【実施例0034】
実施例6では爆発誘発剤4aは、切断溝に収まる程度の氷である。図4は、この場合の加工部分2aの状態を示す図である。切断溝に収まる程度の氷(個体)を溶融池(溶融物2b)中に間欠的に射出すると、氷が溶融池の熱により急激に気化し、水蒸気層4bが形成され、その後も溶融物2bから水蒸気層4bに熱伝導が起こることで水蒸気層4bの圧力が増大する。そして、水蒸気層4bの圧力が一定以上に増大した時、水蒸気爆発が発生し、溶融物2bを衝撃力により切断溝外へ排出する。
【0035】
実施例6の場合、制御部5は、溶融物を除去できる最小限の氷投入量とすることで、切断対象物2の冷却を抑制できるように制御するのがよい。また制御部5は、氷が溶融池2aに到達するように、エアの噴射とともにドライアイスを送り出すように制御するのがよい。
【符号の説明】
【0036】
1:レーザ加工装置
2:加工対象物
2b:溶融物
3:レーザ部
3a:レーザヘッド
3a´:一体に構成されたレーザヘッド
3b:レーザ発振器
3c:光ファイバ
3d:レーザ光
4:爆発誘発剤供給部
4a:爆発誘発剤
5:制御部
図1
図2
図3
図4