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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104634
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ及び眼鏡
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/10 20060101AFI20240729BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G02C7/10
G02B5/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008958
(22)【出願日】2023-01-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第1 刊行物(リーフレット) (1)発行日 2022年7月 (2)公開手法 リーフレットの配布 第2 販売 (1)公開日 2022年7月より (2)公開手法 サングラスの販売 第3 日本眼科学会総会での展示 (1)集会名 第126回日本眼科学会総会 (2)開催日 2022年4月14日~17日 第4 日本ロービジョン学会学術総会での展示 (1)集会名 第23回日本ロービジョン学会学術総会 (2)開催日 2022年5月20日~22日 第5 日本弱視斜視学会総会での展示 (1)集会名 第78回日本弱視斜視学会総会 (2)開催日 2022年6月17日~18日 第6 日本臨床眼科学会での展示 (1)集会名 第76回日本臨床眼科学会 (2)開催日 2022年10月13日~16日 第7 日本視能矯正学会での展示 (1)集会名 第63回日本視能矯正学会 (2)開催日 2022年10月22日~23日
(71)【出願人】
【識別番号】322010534
【氏名又は名称】東海光学ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 栄二
【テーマコード(参考)】
2H006
2H148
【Fターム(参考)】
2H006BE00
2H148CA04
2H148CA15
2H148CA20
(57)【要約】
【課題】装用時に視認される対象物の3原色の彩度を向上させる眼鏡レンズ,眼鏡を提供する。
【解決手段】眼鏡レンズ1の基材2は、当該基材2の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第1の色素と、当該基材2の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第2の色素と、を含んでいる。第1の色素は、500nm以上510nm以下の波長域において極大吸収波長を有するモノアゾ系ニッケル錯体を含有する色素である。第2の色素は、590nm以上600nm以下の波長域において極大吸収波長を有するテトラアザポルフィリン銅錯体を含有する色素である。眼鏡レンズ1において、D65光源からの光の透過光に係るLab表色系のa値及びb値は、何れも10以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック製の基材を有する眼鏡レンズであって、
前記基材は、当該基材の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第1の色素と、当該基材の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第2の色素と、を含んでおり、
前記第1の色素は、500nm以上510nm以下の波長域において極大吸収波長を有するモノアゾ系ニッケル錯体を含有する色素であり、
前記第2の色素は、590nm以上600nm以下の波長域において極大吸収波長を有するテトラアザポルフィリン銅錯体を含有する色素であり、
D65光源からの光の透過光に係るLab表色系のa値及びb値が、何れも10以下である
ことを特徴とする眼鏡レンズ。
【請求項2】
プラスチック製の基材を有する眼鏡レンズであって、
前記基材は、当該基材の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第1の色素と、当該基材の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第2の色素と、を含んでおり、
前記第1の色素は、500nm以上510nm以下の波長域において極大吸収波長を有するモノアゾ系ニッケル錯体を含有する色素であり、
前記第2の色素は、590nm以上600nm以下の波長域において極大吸収波長を有するテトラアザポルフィリン銅錯体を含有する色素であり、
透過率分布において、650nmでの透過率が、415nm以上435nm以下の波長域での極大値に対して-10ポイントとなる値を超えて+10ポイントとなる値未満となり、且つ、525nm以上545nm以下の波長域での極大値に対して-10ポイントとなる値を超えて+10ポイントとなる値未満となる
ことを特徴とする眼鏡レンズ。
【請求項3】
プラスチック製の基材を有する眼鏡レンズであって、
前記基材は、当該基材の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第1の色素と、当該基材の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第2の色素と、前記第1の色素又は前記第2の色素に係る質量の0.25倍以上0.75倍以下の範囲内の質量の染料と、を含んでおり、
前記第1の色素は、500nm以上510nm以下の波長域において極大吸収波長を有するモノアゾ系ニッケル錯体を含有する色素であり、
前記第2の色素は、590nm以上600nm以下の波長域において極大吸収波長を有するテトラアザポルフィリン銅錯体を含有する色素であり、
前記染料は、640nm以上660nm以下の波長域において極大吸収波長を有するソルベントタイプ染料である
ことを特徴とする眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記基材は、チオウレタン系樹脂を含む
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の眼鏡レンズ。
【請求項5】
請求項1から請求項3の何れかに記載の眼鏡レンズが用いられている
ことを特徴とする眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズ(サングラスレンズを含む)、及び当該眼鏡レンズを用いた眼鏡(サングラスを含む)に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第5985167号公報(特許文献1)に記載された防眩光学要素が知られている。
この防眩光学要素の透過率曲線は、60%以下で隣接極大透過率と20%以上の差を有する第一バレー極小を450~500nm(ナノメートル)において備え、60%以下で隣接極大透過率と20%以上の差を有する第二バレー極小を550~630nmにおいて備えている。又、防眩光学要素の400~700nmの波長域における全体平均透過率は、35%以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5985167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記防眩光学要素では、装用時に視認される対象物の3原色の彩度に、向上の余地がある。
そこで、本開示の主な目的は、装用時に視認される対象物の3原色の彩度を向上させる眼鏡レンズ,眼鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書は、眼鏡レンズを開示する。この眼鏡レンズは、プラスチック製の基材を有しても良い。基材は、当該基材の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第1の色素を含んでも良い。基材は、当該基材の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第2の色素と、を含んでも良い。第1の色素は、500nm以上510nm以下の波長域において極大吸収波長を有するモノアゾ系ニッケル錯体を含有する色素であっても良い。第2の色素は、590nm以上600nm以下の波長域において極大吸収波長を有するテトラアザポルフィリン銅錯体を含有する色素であっても良い。眼鏡レンズは、D65光源からの光の透過光に係るLab表色系のa値及びb値が、何れも10以下であっても良い。
又、本明細書は、眼鏡レンズを開示する。この眼鏡レンズは、プラスチック製の基材を有しても良い。基材は、当該基材の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第1の色素を含んでも良い。基材は、当該基材の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第2の色素と、を含んでも良い。第1の色素は、500nm以上510nm以下の波長域において極大吸収波長を有するモノアゾ系ニッケル錯体を含有する色素であっても良い。第2の色素は、590nm以上600nm以下の波長域において極大吸収波長を有するテトラアザポルフィリン銅錯体を含有する色素であっても良い。眼鏡レンズの透過率分布において、650nmでの透過率が、415nm以上435nm以下の波長域での極大値に対して-10ポイントとなる値を超えて+10ポイントとなる値未満となり、且つ、525nm以上545nm以下の波長域での極大値に対して-10ポイントとなる値を超えて+10ポイントとなる値未満となっても良い。
更に、本明細書は、眼鏡レンズを開示する。この眼鏡レンズは、プラスチック製の基材を有しても良い。基材は、当該基材の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第1の色素を含んでも良い。基材は、当該基材の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第2の色素を含んでも良い。基材は、第1の色素又は第2の色素に係る質量の0.25倍以上0.75倍以下の範囲内の質量の染料と、を含んでも良い。第1の色素は、500nm以上510nm以下の波長域において極大吸収波長を有するモノアゾ系ニッケル錯体を含有する色素であっても良い。第2の色素は、590nm以上600nm以下の波長域において極大吸収波長を有するテトラアザポルフィリン銅錯体を含有する色素であっても良い。染料は、640nm以上660nm以下の波長域において極大吸収波長を有するソルベントタイプ染料であっても良い。
又、本明細書は、眼鏡を開示する。この眼鏡は、上述の眼鏡レンズを有していても良い。
【発明の効果】
【0006】
本開示の主な効果は、装用時に視認される対象物の3原色の彩度を向上させる眼鏡レンズ,眼鏡が提供されることにある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の眼鏡レンズの模式的な断面図である。
図2】XYZ表色系における等色関数を示すグラフである。
図3】XYZ表色系における等色関数、及び検討例15の分光透過率分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示に係る実施の形態の例が説明される。本開示の形態は、以下の例に限定されない。
【0009】
本開示に係る眼鏡レンズ1は、図1に示されるように、基材2を有する。基材2は、好ましくはプラスチック製である。
基材2の重合完了時(組成)における主な材料(質量比で過半数を超える材料)である、モノマー(重合性化合物)の重合により形成される樹脂として、好ましくは熱硬化性樹脂が用いられ、例えばポリウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、ウレタン-ウレア樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ4-メチルペンテン-1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂、あるいはこれらの組合せが用いられる。又、基材2の主な材料として、熱可塑性樹脂が用いられても良い。
又、基材2の材料として、チオウレタン樹脂及びエピスルフィド樹脂の少なくとも一方が用いられれば、基材2の屈折率が比較的に高くなり、視力矯正時に薄型化が容易となる。
他方、基材2の材料として、熱可塑性樹脂が用いられれば、丈夫な基材2が簡単に形成可能である。
【0010】
基材2の材料として、チオウレタン系熱硬化性樹脂が用いられることが、特に好ましい。
この場合、例えば、3種のモノマーが用いられる。
即ち、第1のモノマーとして、2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタンが用いられる。
又、第2のモノマーとして、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)が用いられる。
更に、第3のモノマーとして、1,2-ビス[(2-メルカプトエチル)チオ]-3-メルカプトプロパンが用いられる。
【0011】
チオウレタン系熱硬化性樹脂の重合に際し、これらモノマーに加え、離型材及び触媒の少なくとも一方が用いられても良い。
例えば、触媒として、ジブチル錫ジクロリドが用いられても良い。
【0012】
基材2には、3種の色に関する材料が含まれる。これらの色に関する材料は、好ましくは、モノマーに混合され、重合により基材2に取り込まれる。
【0013】
即ち、第1の色に関する材料として、モノアゾニッケル錯体を含有する色素が用いられる。第1の色素は、可視域の波長を有する光である可視光の一部を吸収する。ここで、可視域は、380nm以上780nm以下とする。第1の色素は、可視域において、吸収率の分布を有する。
第1の色素は、好ましくは、500nm以上510nm以下の波長域において極大吸収波長を有する。即ち、第1の色素の吸収波長分布は、好ましくは、500nm以上510nm以下の波長域内に極大値を有する。かような吸収率の極大値を有する色素により、3原色のうち青と緑との分離がより良好となり、青及び緑の彩度が向上する。
第1の色素の極大吸収波長が500nm未満となり、あるいは510nmを超えると、青と緑との見分けがつき難くなり、青及び緑の彩度向上が抑制される。
第1の色素は、十分な青及び緑の彩度向上効果を得る観点から、基材2又はその材料の総質量に対して、0.004%以上の質量を有することが好ましい。
【0014】
又、第2の色に関する材料として、テトラアザポルフィリン銅錯体を含有する色素(第2の色素)が用いられる。第2の色素は、可視域の波長を有する光である可視光の一部を吸収する。第2の色素は、可視域において、吸収率の分布を有する。
第2の色素は、好ましくは、590nm以上600nm以下の波長域において極大吸収波長を有する。即ち、第2の色素の吸収波長分布は、好ましくは、590nm以上600nm以下の波長域内に極大値を有する。かような吸収率の極大値を有する色素により、3原色のうち緑と赤との分離がより良好となり、緑及び赤の彩度が向上する。
第2の色素の極大吸収波長が590nm未満となり、あるいは600nmを超えると、緑と赤との見分けがつき難くなり、緑及び赤の彩度向上が抑制される。
第2の色素は、十分な緑及び赤の彩度向上効果を得る観点から、基材2又はその材料の総質量に対して、0.004%以上の質量を有することが好ましい。
【0015】
更に、第3の色に関する材料として、ソルベントタイプ染料が用いられる。この染料は、可視域において、吸収率の分布を有する。
この染料は、好ましくは、640nm以上660nm以下の波長域において極大吸収波長を有する。即ち、この染料の吸収波長分布は、好ましくは、640nm以上660nm以下の波長域内に極大値を有する。かような吸収率の極大値を有する染料により、第1の色素及び第2の色素の添加に基づき発生する赤みを抑制することができる。
この染料の極大吸収波長が640nm未満となり、あるいは660nmを超えると、第1の色素及び第2の色素によりもたらされる赤みの抑制効果が十分に発揮されず、又第1の色素及び第2の色素による3原色の彩度向上効果をより阻害することになる。
この染料は、3原色の彩度向上効果の阻害を抑制しつつ、十分な赤み抑制効果を得る観点から、第1の色素の質量又は第2の色素の質量に対して、0.25倍となる質量以上0.75倍となる質量以下という範囲内の質量において添加されることが好ましい。
【0016】
この染料の添加に基づく赤みの抑制により、基材2は透明あるいはグレーの無彩色に近づき、3原色の彩度向上効果を助長する。
例えば、D65光源からの光を入射光とし、その入射光が眼鏡レンズ1あるいは基材2を透過した後の光である透過光の、Lab表色系におけるa値及びb値が、何れも10以下となる。
又、基材2の赤色域内の特定波長(例えば650nm)での透過率(%)が、青色域の極大透過波長での透過率(%)に対して-10ポイントとなる値を超えて+10ポイントとなる値未満となる。青色域の極大透過波長は、第1の色素の特性等に照らし、415nm以上435nm以下の波長域に属する。あるいは、基材2の赤色域内の特定波長での透過率(%)が、緑色域の極大透過波長での透過率(%)に対して-10ポイントとなる値を超えて+10ポイントとなる値未満となる。緑色域の極大透過波長は、第2の色素の特性等に照らし、525nm以上545nm以下の波長域に属する。又は、基材2の赤色域内の特定波長での透過率が、青色域の極大透過波長での透過率に対して-10ポイントとなる値を超えて+10ポイントとなる値未満となり、且つ、緑色域の極大透過波長での透過率に対して-10ポイントとなる値を超えて+10ポイントとなる値未満となる。これらの極大吸収波長での透過率即ち透過率の極大値の少なくとも何れかは、当該波長域における透過率の最大値であっても良い。
【0017】
又、基材2には、視認性を確保しながら眼を保護し更にレンズの劣化を防止する観点から、好ましくは紫外線吸収剤が添加され、より好ましくは吸収ピーク波長が380nm未満である紫外線吸収剤が添加される。かような紫外線吸収剤の添加量は、上述の観点から調整される。
基材2の厚みは、特に限定されないが、厚みが増すほど、内部透過率が比例的に上昇し、又眼鏡レンズとしての見栄え及び質量が比較的に悪化することから、好ましくは4mm(ミリメートル)以下とされる。
【0018】
プラスチック眼鏡レンズは、基材2のみから構成されても良いところ、基材2の少なくとも片面に、ハードコート膜が形成されていても良い。
ハードコート膜は、好適には基材2の表面にハードコート液を均一に施すことで形成される。
又、ハードコート膜として、好ましくは無機酸化物微粒子を含むオルガノシロキサン系樹脂を用いることができる。オルガノシロキサン系樹脂は、アルコキシシランを加水分解し縮合させることで得られるものが好ましい。又、オルガノシロキサン系樹脂の具体例として、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルシリケート、又はこれらの組合せが挙げられる。これらアルコキシシランの加水分解縮合物は、当該アルコキシシラン化合物あるいはそれらの組合せを、塩酸等の酸性水溶液で加水分解することにより製造される。
一方、無機酸化物微粒子の材質の具体例として、酸化亜鉛、二酸化ケイ素(シリカ微粒子)、酸化アルミニウム、酸化チタン(チタニア微粒子)、酸化ジルコニウム(ジルコニア微粒子)、酸化スズ、酸化ベリリウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化セリウムの各ゾルを単独であるいは何れか2種以上を混晶化したものが挙げられる。無機酸化物微粒子の直径は、ハードコート膜の透明性確保の観点から、1nm以上100nm以下であることが好ましく、1nm以上50nm以下であるとより好ましい。又、無機酸化物微粒子の配合量(濃度)は、ハードコート膜における硬度及び強靱性の適切な度合での確保という観点から、ハードコート膜の全成分中の40質量%(質量パーセント,wt%)以上60質量%以下を占めることが好ましい。加えて、ハードコート液には、硬化触媒としてアセチルアセトン金属塩、及びエチレンジアミン四酢酸金属塩の少なくとも一方等を付加することができ、更に基材2に対する密着性確保、形成の容易化、所望の(半)透明色の付与等の必要に応じて界面活性剤、着色剤、溶媒等を添加することができる。
無機酸化物微粒子における無機酸化物(金属酸化物)は、可視域でなるべく吸収を行わないものを選択して、可視域全域にわたる透過率を確保し、第1の色素及び第2の色素等による基材2の透過率分布の阻害を抑制する観点から、Ti,Ceを除く1種以上の金属の酸化物であることが好ましい。Ti(チタン)の酸化物及びCe(セリウム)の酸化物は、可視域(特に短波長側)で吸収を行うことから、これらは好ましい金属酸化物から除外される。かような好ましい金属酸化物の例として、Sb(アンチモン),Zr(亜鉛),Sn(スズ),Si(ケイ素),Al(アルミニウム),Ta(タンタル),La(ランタン),Fe(鉄),Zn(亜鉛),W(タングステン),Zr(ジルコニウム),In(インジウム)の酸化物のうちの何れか、あるいはこれらの組合せが挙げられる。
ハードコート膜の物理膜厚は、0.5μm(マイクロメートル)以上4.0μm以下とすると好ましい。この膜厚範囲の下限については、これより薄いと充分な硬度を得難いことから定まる。一方、上限については、これより厚くするとクラック及び脆さの発生等、物性に関する問題の生ずる可能性が飛躍的に高まり、又無機酸化物微粒子による可視域への吸収(透過率減少)の影響が高まることから定まる。
更に、ハードコート膜と基材2表面の間に、ハードコート膜の密着性を向上する観点からプライマー膜を付加しても良い。プライマー膜の材質として、例えばポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル樹脂、有機ケイ素系樹脂、又はこれらの組合せが挙げられる。プライマー膜は、好適には基材2の表面にプライマー液を均一に施すことで形成される。プライマー液は、水又はアルコール系の溶媒に上記の樹脂材料と無機酸化物微粒子を混合させた液である。
【0019】
プラスチック眼鏡レンズには、光学多層膜が付加されていても良い。光学多層膜は、基材2に対して形成されても良いところ、好ましくはハードコート膜の上に形成される。光学多層膜は、基材2の少なくとも片面に対して形成され、両面に形成される場合、好ましくは何れの膜も同一の積層構造となるようにする。
光学多層膜は、反射防止機能を確保する観点から(反射防止膜)、好ましくは可視域全域に亘り平坦で高い透過率分布を有するように形成される。
光学多層膜は、反射防止機能を確保する観点から、好ましくは、低屈折率層と高屈折率層を交互に積層して形成され、又好ましくは全体として奇数層(全5層,全7層等)を有する構造である。更に好ましくは、最も基材2側の層(基材2に最も近い層)を1層目とすると、奇数層目が低屈折率層であり、偶数層目が高屈折率層である。
低屈折率層及び高屈折率層は、真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法等により形成される。低屈折率層及び高屈折率層は、より容易に製造する観点から、好ましくは同じ製法により形成されるところ、それぞれにおいて異なる製法で形成されても良い。
【0020】
本開示の眼鏡レンズ1において、光学多層膜と基材2の間及び光学多層膜の表面の少なくとも一方に、ハードコート膜以外の中間膜、及び防汚膜(撥水膜・撥油膜)の少なくとも一方等の別種の膜が付加されても良い。光学多層膜を両面に形成する場合には、付加する別種の膜の種類が互いに変えられたり、膜の有無が互いに変えられたりしても良い。
眼鏡レンズ1は、視力矯正用の度数を有していても良いし、視力矯正用の度数を有していなくても良い。
【0021】
更に、上記の眼鏡レンズ1を用いて、装用時に視認される対象物の3原色の彩度を向上させる眼鏡が作製される。
【実施例0022】
次いで、本開示の実施例等が、適宜図面を用いて説明される。尚、本開示は、以下の実施例に限定されない。又、本開示の捉え方により、実施例が本開示に属さない比較例となることがある。
【0023】
装用時に視認される対象物の3原色の彩度が十分に向上する眼鏡レンズの検討のため、以下に示されるような種々の検討例が作成された。
図2は、XYZ表色系における等色関数を示すグラフである。図2において、赤を感知するL錯体の感度分布に係る関数はx(λ)とされ、緑を感知するM錯体の感度分布に係る関数はy(λ)とされ、青を感知するS錯体の感度分布に係る関数はz(λ)とされる。ここで、λは波長(nm)である。又、図2の縦軸は、相対感度である。
【0024】
まず、z(λ)及びy(λ)の双方で感度を有する波長域をカットする色素である第1の色素の選定に係る検討がなされる。各検討例では、基材2がチオウレタン系樹脂製とされる。
かような第1の色素の候補は、図2から、(1-1)470nm以上510nm以下の波長域に極大吸収波長を有するものとする。又、第1の色素は、(2)チオウレタン系樹脂を形成するモノマーに可溶であるものとする。
【0025】
上記条件(1-1)及び(2)を満たす第1の色素の候補として、次の4つの染料が見出された。
即ち、第1の色素の候補として見出された染料は、山田化学工業株式会社製YAZ28(吸収極大波長505nm)、同社製IMM-1(同473nm)、同社製DAA95(同504nm)、山本化成株式会社製SD3201(同479nm)である。尚、これらの染料における具体的な化学式、添加物の有無並びに有る場合の種類及び分量等は、化学メーカーのノウハウであるために出願人には認知しようがなく、又分析器の導入等を行って調べ尽くすことは、多大な労力をかけたとしても行えない可能性がある。かような性質は、以下の色素等において同様に妥当する。
これらの染料をそれぞれ用いて、順に検討例1~4のチオウレタン系樹脂製の基材2を有する眼鏡レンズが作成された。又、作成された検討例1~4は、キセノンウェザーメーターにより、300nm以上400nm以下の波長域における強度が180W/mである紫外線に40時間晒されることで、耐光退色の度合を試された。
【0026】
すると、IMM-1に係る検討例2において、若干の退色が認められた(△)。又、DAA95に係る検討例3及びSD3201に係る検討例4において、透過率が10ポイント以上変化する程度の多大な耐光退色が認められた(×)。これらに対し、YAZ28に係る検討例1では、耐光退色は見受けられなかった(◎)。
又、検討例2において、眼鏡レンズの形成直後から蛍光発光が認められた。
よって、検討例1に鑑み、第1の色素としてYAZ28が選定された。YAZ28は、モノアゾニッケル錯体を含有する色素である。
かような第1の色素に係る検討例1~4が、次の表1にまとめられる。
【0027】
【表1】
【0028】
次に、y(λ)及びx(λ)の双方で相対的に大きな感度を有する波長域をカットする色素である第2の色素の選定に係る検討がなされる。
かような第2の色素の候補は、図2から、(1-2)570nm以上600nm以下の波長域に極大吸収波長を有するものとする。又、第2の色素は、(2)チオウレタン系樹脂を形成するモノマーに可溶であるものとする。
【0029】
上記条件(1-2)及び(2)を満たす第2の色素の候補として、次の2つの染料が見出された。
即ち、第2の色素の候補として見出された染料は、山田化学工業株式会社製TAP45(吸収極大波長585nm)、同社製TAP18(同596nm)である。
【0030】
これらの染料をそれぞれ用いて、順に検討例5,6のチオウレタン系樹脂製の基材2を有する眼鏡レンズが作成された。検討例5,6では、当該染料がそれぞれ基材2(の材料)の総質量の0.005%に相当する質量において添加され、又第1の色素であるYAZ28がそれぞれ基材2(の材料)の総質量の0.005%に相当する質量において合わせて添加された。又、作成された検討例5,6は、検討例1~4と同様に、耐光退色の度合を試された。更に、作成された検討例5,6のLab表色系における色調が測定された。この測定は、D65光源からの光が、検討例5,6を通過した後の光の分光スペクトルを用いて計算される。尚、Lab表色系において、a値及びb値の双方が0に近い程、白、グレーあるいは黒といった無彩色に近くなる。
【0031】
すると、検討例5,6の双方において、耐光退色は認められなかった。
他方、検討例5の色調が、a=31.6,b=3.0となり、検討例5に赤みが見受けられた。よって、検討例5では、赤みにより彩度向上効果が阻害された。
これに対し、検討例6の色調は、a=13.4,b=2.3となり、無彩色に極めて近くなった。よって、検討例6では、自身の色調による彩度向上効果の阻害が抑制された。
よって、検討例6に鑑み、第2の色素としてTAP18が選定された。TAP18は、テトラアザポルフィリン銅錯体を含有する色素である。
かような第2の色素に係る検討例5~6が、次の表2にまとめられる。
【0032】
【表2】
【0033】
続いて、第1の色素及び第2の色素の各添加量が検討される。
YAZ28の色調及びTAP18の色調は互いに補色の関係にあり、YAZ28とTAP18とが同量程度添加されることで、グレーにより近い眼鏡レンズが得られる。
検討例7として、第1の色素であるYAZ28及び第2の色素であるTAP18が、それぞれ眼鏡レンズ(の全ての材料)に対して0.002質量%となる状態で添加されたものが形成された。又、検討例8として、YAZ28及びTAP18が、それぞれ眼鏡レンズ(の全ての材料)に対して0.004質量%となる状態で添加されたものが形成された。更に、検討例9として、YAZ28及びTAP18が、それぞれ眼鏡レンズ(の全ての材料)に対して0.006質量%となる状態で添加されたものが形成された。
そして、検討例7~9のそれぞれの視感透過率が測定された。又、10人(n=10)の試験者が検討例7~9をそれぞれ装用し、彩度向上効果を確認した。試験者が彩度向上効果を認識できなかった場合、彩度向上効果が「×」と評価され、試験者が彩度向上効果を僅かに認識できた場合、彩度向上効果が「△」と評価され、試験者が彩度向上効果を認識できた場合、彩度向上効果が「○」と評価され、試験者が彩度向上効果を強く認識できた場合、彩度向上効果が「◎」と評価された。
【0034】
検討例7~9において、視感透過率は、順に56.3%,39.2%,29.1%となり、何れもサングラスに適したものとなった。又、10人の主観的な彩度向上効果は、検討例7(全員「×」)より検討例8(一部「○」他「△」)が良好で、検討例8より検討例9(全員「◎」)が更に良好であった。
かような測定及び試験の結果により、第1の色素及び第2の色素の各添加量は、0.004質量%以上であることが好ましい。
かような検討例7~9が、次の表3にまとめられる。
【0035】
【表3】
【0036】
次いで、第3の色に関する材料であるソルベントタイプ染料に関し検討された。
即ち、第1の色素であるYAZ28及び第2の色素であるTAP18の各添加量が、眼鏡レンズ(の全ての材料)に対して0.065質量%に固定された場合におけるソルベントタイプ染料の添加量等について検討された。
YAZ28及びTAP18の各添加量が0.065質量%であって、ソルベントタイプ染料が添加されない場合、眼鏡レンズの色調は赤みを帯び、その装用者の視界は赤みを帯びる。かような赤みが抑制されれば、眼鏡レンズの外観及び視認性がより一層良好になる。よって、赤色域に極大吸収波長を有する色素の添加が有効である。又、ソルベントタイプ染料の添加によって、YAZ28及びTAP18によりもたらされる分光的特徴(赤みを除く)がなるべく阻害されないようにすることが好ましい。これらの観点から、ここでは、650nmにおいて極大吸収波長を有するソルベントタイプ染料である、オリエント化学工業株式会社製「OPLAS GREEN533」が用いられた。
【0037】
検討例10として、ソルベントタイプ染料が添加されない眼鏡レンズ、即ちソルベントタイプ染料の添加量が眼鏡レンズ(の全ての材料)に対して0質量%である眼鏡レンズが形成された。検討例11として、ソルベントタイプ染料の添加量が眼鏡レンズ(の全ての材料)に対して0.016質量%である眼鏡レンズが形成された。検討例12として、ソルベントタイプ染料の添加量が眼鏡レンズ(の全ての材料)に対して0.032質量%である眼鏡レンズが形成された。検討例13として、ソルベントタイプ染料の添加量が眼鏡レンズ(の全ての材料)に対して0.048質量%である眼鏡レンズが形成された。検討例14として、ソルベントタイプ染料の添加量が眼鏡レンズ(の全ての材料)に対して0.064質量%である眼鏡レンズが形成された。
そして、検討例10~14のそれぞれの透過光のLab表色系におけるa値及びb値が測定された。又、検討例10~14のそれぞれの外観の色名が認識された。更に、検討例10~14に係る、青色域内の特定波長(424nm)、緑色域内の特定波長(532nm)、及び赤色域内の特定波長(650nm)における各透過率が測定された。加えて、上記と同様に、検討例10~14の彩度向上効果が確認された。ここでの青色域内の特定波長(424nm)は、青色域での透過率分布の極大値即ち極大透過波長に相当する。又、緑色域内の特定波長(532nm)は、緑色域での極大透過波長に相当する。尚、第1の色素及び第2の色素の各吸収特性を考慮すると、青色域での極大透過波長は、415nm以上435nm以下の波長域内に存在し得る。又、第1の色素及び第2の色素の各吸収特性を考慮すると、緑色域での極大透過波長は、525nm以上545nm以下の波長域内に存在し得る。
【0038】
検討例10~14において、眼鏡レンズのa値、b値は、順に(a,b)=(16.6,3.1),(10.8,1.9),(5.7,0.8),(1.1,0.0),(-2.9,-0.6)となった。又、検討例10~14において、外観の色名は、順に赤、赤紫、グレー、グレー、グレーとなった。更に、検討例10~14において、424nmでの透過率は、順に57%,50%,44%,39%,34%となった。又更に、検討例10~14において、532nmでの透過率は、順に50%,47%,44%,41%,38%となった。又、検討例10~14において、650nmでの透過率は、順に86%,65%,49%,37%,28%となった。加えて、彩度向上効果について、検討例10では10人全員において視界の赤みが確認され、検討例11,13で良好(全員「○」)、検討例12で極めて良好(全員「◎」)であり、検討例14では10人全員において赤の彩度の低下が確認された。
かような検討例10~14が、次の表4にまとめられる。
【0039】
【表4】
【0040】
以上の測定及び試験の結果を踏まえ、次のことが言える。
【0041】
即ち、無彩色への十分な接近を考慮して、a値及びb値が共に10以下であるとの好ましい条件が設定された場合、当該条件には検討例12,13が該当する。
検討例12,13における第1の色素及び第2の色素の各質量は、基材2の総質量に対して、0.004%以上である0.0065%に相当する質量を有する。
又、検討例12におけるソルベントタイプ染料の質量は、基材2の総質量に対して0.0032%であり、第1の色素の質量(基材2の総質量に対して0.0065%)に対して0.25以上0.75以下である0.492となり、第2の色素の質量(基材2の総質量に対して0.0065%)に対して0.25以上0.75以下である0.492となる。即ち、ソルベントタイプ染料の質量/第1の色素の質量=0.492となり、ソルベントタイプ染料の質量/第2の色素の質量=0.492となる。尚、検討例11において、ソルベントタイプ染料の質量/第1の色素の質量=0.246となり、ソルベントタイプ染料の質量/第2の色素の質量=0.246となる。又、検討例14において、ソルベントタイプ染料の質量/第1の色素の質量=0.985となり、ソルベントタイプ染料の質量/第2の色素の質量=0.985となる。
他方、検討例13におけるソルベントタイプ染料の質量は、基材2の総質量に対して0.0048%であり、第1の色素の質量(基材2の総質量に対して0.0065%)に対して0.738となり、第2の色素の質量(基材2の総質量に対して0.0065%)に対して0.738となる。即ち、ソルベントタイプ染料の質量/第1の色素の質量=0.49となり、ソルベントタイプ染料の質量/第2の色素の質量=0.49となる。
【0042】
又、無彩色への十分な接近を考慮して、赤色域(ここでは650nm)での透過率が、青色域の極大透過波長(ここでは424nm)での透過率に対して-10ポイントとなる値を超えて+10ポイントとなる値未満となることが好ましい。更に、赤色域での透過率が、緑色域の極大透過波長(ここでは532nm)での透過率に対して-10ポイントとなる値を超えて+10ポイントとなる値未満となることが好ましい。又更に、赤色域での透過率が、青色域の極大透過波長での透過率に対して-10ポイントとなる値を超えて+10ポイントとなる値未満となり、且つ、緑色域の極大透過波長での透過率に対して-10ポイントとなる値を超えて+10ポイントとなる値未満となることが、より好ましい。
これら3つの条件のうち、3番目の条件を満たすものは、検討例12,13となる。尚、検討例11において、赤色域での透過率が、緑色域の極大透過波長での透過率に対して+18ポイントとなっている。又、検討例14において、赤色域での透過率が、緑色域の極大透過波長での透過率に対して-10ポイントとなっている。
少なくとも、検討例12,13は、本開示の実施例となる。
【0043】
更に、検討例12を微調整した検討例15が形成された。検討例15は、検討例12に対し、第1の色素の分量のみ相違する。検討例15における第1の色素の分量は、検討例12における第1の色素の分量(基材2の総質量に対して0.0065質量%)と異なり、基材2の総質量に対して0.0067質量%とされている。
【0044】
以下、検討例15の形成が詳述される。尚、検討例11~14は、それぞれ検討例15と分量を除き同様に形成される。又、他の検討例の基材2は、検討例15の基材2と同様に形成される。
【0045】
即ち、予め次の染料希釈液A1~A3が調製された。
A1液として、モノアゾ系ニッケル錯体を99%以上含有する色素(山田化学工業株式会社製YAZ28)0.05g(グラム)が、2,5ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタン及び2,6ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタンの混合物50gに常温で溶解されたものが調製された。A2液として、テトラアザポルフィリン銅錯体を99%以上含有する色素(山田化学工業株式会社製TAP-18)0.05gが、2,5ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタン及び2,6ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタンの混合物50gに常温で溶解されたものが調製された。
A3液として、ソルベントタイプ染料(オリエント化学社製OPLAS GREEN533)0.2gが、2,5ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタン及び2,6ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタンの混合物50gに常温で溶解されたものが調製された。
【0046】
次に、A1液6.7g、A2液6.5g、A3液3.2g、ステファン製ゼレックUN0.1g及び ジブチル錫ジクロリド0.04gが、2,5ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタン及び2,6ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタンの混合物34.4gと共に容器に入れられ、25℃で1時間撹拌されて完全に溶解された。
続いて、この混合液に、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)22.4g、及び1,2-ビス[(2-メルカプトエチル)チオ]-3-メルカプトプロパン26.8gが添加され、25℃で30分撹拌することで調合した。
【0047】
この調合液が、0.3mmHg以下で1時間脱泡され、5μm(マイクロメートル)PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルタにより濾過されて、モールド型に注入された。モールド型は、内部空間の中心厚が2.0mm、直径が80mmである平板用ガラス型と、テープとを有している。
調合液が注入されたモールド型は、25℃から130℃まで徐々に昇温され、130℃で2時間保温された後、室温まで冷却された。モールド型の昇温開始から冷却完了までの時間は、18時間であった。かようなモールド型の加熱及び冷却により、型内でモノマーが重合し、プラスチック製の眼鏡レンズとなる成形体が成形された。重合終了後、成形体が離型され、130℃の環境に2時間置かれてアニールされた。
【0048】
モノアゾ系ニッケル錯体を99%以上含有する色素は、基材2の質量総和に対して0.0067wt%を占める。
テトラアザポルフィリン銅錯体を99%以上含有する色素は、質量総和に対して0.0065wt%を占める。
ソルベント染料は、基材2の質量総和に対して0.0032wt%を占める。
【0049】
図3は、検討例15の分光透過率分布を、等色関数と合わせて示すグラフである。
検討例15の分光透過率分布において、z(λ)及びy(λ)が重畳する波長域の透過率が低くなっている。特に、z(λ)及びy(λ)の交点を含む波長500nm及びその前後で隣接する波長域の透過率が10%以下となっている。よって、検討例15では、青と緑の区別が良好となり、彩度が向上する。
又、検討例15の分光透過率分布において、y(λ)及びx(λ)が重畳する波長域の透過率が低くなっている。特に、x(λ)の極大波長の長波長側に隣接する波長域である595nm以上605nm以下の波長域の透過率が10%以下となっている。よって、検討例15では、緑と赤の区別が良好となり、彩度が向上する。
更に、検討例15の分光透過率分布において、青色域における極大値と、緑色域における極大値が、共に45%程度の同様な値となっている。よって、検討例15の色調は、無彩色に近く、彩度向上効果を妨げ難い。
【0050】
検討例15の性質が、以下詳述される。
検討例15の視感透過率は、25%である。
検討例15の色度は、XYZ表色系における(x、y)=(0.32,0.32)であり、Lab表色系における(a,b)=(6.5,-0.6)である。
検討例15の可視域での透過率分布において、2つの極小値が存在する。それらのうち短波長側の極小値は、波長504nmにおいて存在し、3%である。又、長波長側の極小値は、波長596nmにおいて存在し、0.3%である。
検討例15の可視域での透過率分布において、3つの極大値が存在する。それらのうち最も短波長側の極大値は、波長424nmにおいて存在し、41%である。又、中間の波長の極大値は、波長533nmにおいて存在し、44%である。更に、最も長波長側の極大値は、波長750nmにおいて存在し、90%である。
【0051】
そして、少なくとも検討例12,13,15における基材2は、当該基材2の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第1の色素と、当該基材2の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第2の色素と、を含んでいる。第1の色素は、500nm以上510nm以下の波長域において極大吸収波長を有するモノアゾ系ニッケル錯体を含有する色素である。第2の色素は、590nm以上600nm以下の波長域において極大吸収波長を有するテトラアザポルフィリン銅錯体を含有する色素である。眼鏡レンズ1において、D65光源からの光の透過光に係るLab表色系のa値及びb値は、何れも10以下である。
よって、装用時に視認される対象物の3原色の彩度を向上させる眼鏡レンズ1が提供される。
【0052】
又、少なくとも検討例12,13,15における基材2は、当該基材2の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第1の色素と、当該基材2の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第2の色素と、を含んでいる。第1の色素は、500nm以上510nm以下の波長域において極大吸収波長を有するモノアゾ系ニッケル錯体を含有する色素である。第2の色素は、590nm以上600nm以下の波長域において極大吸収波長を有するテトラアザポルフィリン銅錯体を含有する色素である。眼鏡レンズ1の透過率分布において、650nmでの透過率が、415nm以上435nm以下の波長域での極大値に対して-10ポイントとなる値を超えて+10ポイントとなる値未満となり、且つ、525nm以上545nm以下の波長域での極大値に対して-10ポイントとなる値を超えて+10ポイントとなる値未満となる。
よって、装用時に視認される対象物の3原色の彩度を向上させる眼鏡レンズ1が提供される。
【0053】
更に、少なくとも検討例12,13,15における基材2は、当該基材2の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第1の色素と、当該基材2の質量の0.004質量%に相当する質量以上の第2の色素と、第1の色素又は第2の色素に係る質量の0.25倍以上0.75倍以下の範囲内の質量の染料と、を含んでいる。第1の色素は、500nm以上510nm以下の波長域において極大吸収波長を有するモノアゾ系ニッケル錯体を含有する色素である。第2の色素は、590nm以上600nm以下の波長域において極大吸収波長を有するテトラアザポルフィリン銅錯体を含有する色素である。染料は、640nm以上660nm以下の波長域において極大吸収波長を有するソルベントタイプ染料である。
よって、主に第1の色素及び第2の色素により3原色の区別がつき易くなり、ソルベントタイプ染料によって無彩色に一層近づけられる。従って、装用時に視認される対象物の3原色の彩度を向上させる眼鏡レンズ1が提供される。
図1
図2
図3