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特開2024-104639複合材料、切削インサート、および切削工具
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  • 特開-複合材料、切削インサート、および切削工具 図1
  • 特開-複合材料、切削インサート、および切削工具 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104639
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】複合材料、切削インサート、および切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20240729BHJP
   C04B 35/56 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
B23B27/14 B
B23B27/14 A
C04B35/56 260
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008964
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】523194617
【氏名又は名称】NTKカッティングツールズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】茂木 淳
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046FF03
3C046FF10
3C046FF13
3C046FF32
3C046FF38
3C046FF42
3C046FF51
3C046FF52
(57)【要約】
【課題】高強度かつ高熱伝導性であり、高温下での耐反応性および耐塑性変形性を有する切削工具を提供する。
【解決手段】切削工具に用いられる複合材料は、炭化タングステンと、酸化物と、を含み、炭化タングステンは、95vol%よりも多く、かつ、炭化一タングステン(WC)と、炭化二タングステン(W2C)との両方を含んでいる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具に用いられる複合材料であって、
炭化タングステンと、
酸化物と、
を含み、
前記炭化タングステンは、95vol%よりも多く、かつ、炭化一タングステン(WC)と、炭化二タングステン(W2C)との両方を含んでいることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
請求項1に記載の複合材料であって、
前記複合材料に含まれる前記炭化一タングステンの体積をV1とし、前記炭化二タングステンの体積をV2とした場合に、体積V1と体積V2とが下記関係式を満たすことを特徴とする複合材料。
【数7】
【請求項3】
請求項2に記載の複合材料であって、
前記体積V1と前記体積V2とが下記関係式を満たすことを特徴とする複合材料。
【数8】
【請求項4】
請求項3に記載の複合材料であって、さらに、
アルミナと、ジルコニアと、3族元素の内の少なくとも1つを含む酸化物とから選ばれる少なくとも1つの酸化物を含むことを特徴とする複合材料。
【請求項5】
切削インサートであって、
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の複合材料により基体が形成されていることを特徴とする切削インサート。
【請求項6】
切削工具であって、
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の複合材料により形成されている基体と、
前記基体の表面に形成された表面被覆層と、
を含み、
前記表面被覆層は、チタンと、クロムと、アルミニウムから選ばれる元素を含む複合物であって、炭化物と、窒化物と、炭窒化物と、酸化物との少なくとも1つから成る複合物を含むことをと特徴とする切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料、切削インサート、および切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
切削インサートとして様々な加工に用いられる超硬合金が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献1には、チタン合金を切削する切削工具として、金属タングステンと、六方晶炭化二タングステンとから成る層を有する切削工具が開示されている。この切削工具は、特に、チタン合金の旋削加工時のような熱負荷の高い環境下においても長い工具寿命を有している。
【0003】
特許文献2には、工具基体の表面に被覆層が形成された切削工具が開示されている。この被覆層は、チタン(Ti)と、ランタノイドとの複合硼化物層を含んでいるため、Ti基合金等の難削材の高速高能率切削加工に供しても、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-095116号公報
【特許文献2】特開2022-126379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
難削材であるチタン合金は、他の金属と比べてすぐれた比強度、耐食性、および生態適合性を有し、航空機、化学プラント、および医療・スポーツなどの幅広い分野で使用されている。チタン合金の運用拡大が進む中で、チタン合金の切削加工の高能率化が求められている。チタン合金の切削抵抗は非常に高いため、高切込みや高送りによる装置負荷の高い高能率化ではなく、高速化による高能率化が現実的である。しかしながら、切削加工の高速化は、工具刃先の高温化を招き、工具欠損および工具の摩耗増大を引き起こすおそれがある。また、超硬合金は、バインダーとしてコバルト(Co)やニッケル(Ni)などの金属を含むため、高速の切削加工では金属バインダーの軟化により工具が塑性変形するおそれがある。そのため、特許文献1,2に記載された切削工具に対して、高温での安定性としての耐反応性および耐塑性変形性をさらに向上させることが望まれていた。
【0006】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、高強度かつ高熱伝導性であり、高温下での耐反応性および耐塑性変形性を有する切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、切削工具に用いられる複合材料が提供される。この複合材料は、炭化タングステンと、酸化物と、を含み、前記炭化タングステンは、95vol%よりも多く、かつ、炭化一タングステン(WC)と、炭化二タングステン(W2C)との両方を含む。
【0009】
この構成によれば、炭化タングステン量が95vol%よりも多いため、複合材料の強度が高くなる、すなわち、高い耐欠損性を有する。また、炭化タングステンの含有量が95vol%よりも多いため、複合材料の熱伝導が高くなる。そのため、複合材料により形成される工具の刃先が高温化しても刃先の熱逃げが良好となり、刃先の強度を維持できる。また、酸化物が含まれることによって、ピンニング効果が効果的に働き、セラミックスの微細組織化によって複合材料の強度が向上する。WCとW2Cとは難焼結物質であるが、本構成では、共存することによって焼結性が向上し、強固なセラミックス焼結体が得られる。さらに、また、WCとW2Cとのそれぞれは、互いに粒成長抑制の効果を有するため、組織微細化により複合材料の強度が向上する。すなわち、本構成の複合材料は、高強度で、高い熱伝導性を有するため、高温下での複合材料の耐反応性および耐欠損性が向上する。
【0010】
(2)上記形態(1)に記載の複合材料において、前記複合材料に含まれる前記炭化一タングステンの体積をV1とし、前記炭化二タングステンの体積をV2とした場合に、体積V1と体積V2とが下記関係式を満たしていてもよい。
【数1】

この構成によれば、W2CはWCの焼結助剤として作用するため、焼成時に複合材料をより緻密化する。一方で、W2CはWCに対して低強度・低熱伝導であり、W2Cの成分量が多いと複合材料で形成された切削工具の低強度化・低熱伝導化を招くおそれがある。それに対し、本構成では、W2Cの成分量が上記式(1)の範囲で制御されているため、焼結性の向上と、高強度化・高熱伝導化との実現ができる。
【0011】
(3)上記形態(1)または形態(2)に記載の複合材料において、前記体積V1と前記体積V2とが下記関係式を満たしていてもよい。
【数2】
この構成によれば、W2Cの成分量が上記式(1)よりも好ましい範囲に制御されるため、焼結性の向上と、高強度化・高熱伝導化との効果を更に向上させることができる。
【0012】
(4)上記形態(1)から形態(3)までのいずれか一項に記載の複合材料において、さらに、アルミナと、ジルコニアと、3族元素の内の少なくとも1つを含む酸化物とから選ばれる少なくとも1つの酸化物を含んでいてもよい。
この構成によれば、アルミナと、ジルコニアと、3族元素の内の少なくとも1つを含む酸化物はWCおよびW2Cと反応しにくいため、ピンニング効果がさら効果的に働く。この結果、複合材料の強度がさらに向上する。
【0013】
(5)本発明のその他の一形態によれば、切削インサートが提供される。この切削インサートは、上記形態(1)から形態(4)までのいずれか一項に記載の複合材料により基体が形成されている。
この構成によれば、高い耐塑性変形性および高い熱伝導性を有し、かつ強固なセラミック焼結体である複合材料により切削インサートの基体が形成される。そのため、本構成の切削インサートは、高強度かつ高熱伝導性であり、高温下での耐反応性および耐塑性変形性を有している。
【0014】
(6)本発明のその他の一形態によれば、切削工具が提供される。この切削工具は、切削工具であって、上記形態(1)から形態(4)までのいずれか一項に記載の複合材料により形成されている基体と、前記基体の表面に形成された表面被覆層と、を含み、前記表面被覆層は、チタンと、クロムと、アルミニウムから選ばれる元素を含む複合物であって、炭化物と、窒化物と、炭窒化物と、酸化物との少なくとも1つから成る複合物を含む。
この構成によれば、基体がチタンと、クロムと、アルミニウムから選ばれる元素を含む複合物であって、炭化物と、窒化物と、炭窒化物と、酸化物との少なくとも1つから成る複合物を含む表面被覆層により被覆されている。被覆層により基体と被削材との反応が抑制されるため、基体の摩耗が抑制される。
【0015】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、複合材料、基体材料、切削インサート、切削工具、摩擦撹拌接合工具およびこれらを備えるシステム等、複合材料の製造方法およびこれらを備えるシステム等の形態で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態の複合材料により構成されている切削インサートの概略斜視図である。
図2】実施例1~14の切削インサートと比較例1~3の切削インサートとの複合材料の各パラメータを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施形態:
図1は、本発明の実施形態の複合材料により構成されている切削インサート10の概略斜視図である。切削インサート10は、炭化タングステン(WC,W2C)と、酸化物とを含む複合材料で構成される基体4により形成されている。基体4を構成する複合材料では、炭化タングステンが95vol%よりも多く、かつ、炭化一タングステン(WC)と、炭化二タングステン(W2C)との両方を含んでいる。切削インサート10がこれらの複合材料で構成されているため、切削インサート10は、高い強度および高い熱伝導性を有している。また、高温下での切削インサート10の耐反応性、耐塑性変形性、および耐欠損性が向上する。なお、本明細書における「炭化タングステン」は、炭化一タングステン(WC)と、炭化二タングステン(W2C)との両方を含んでいる。
【0018】
図1に示されるように、切削インサート10は、略三角柱状の形状を有している。なお、切削インサート10の形状は、タンガロイ社の型番TNGA160404と同じ形状である。切削インサート10は、略三角柱状の基体4と、基体4の底面1A,1B側の面をコーティングしている被覆層(表面被覆層)5と、を備えている。被覆層5の成分として、TiC,TiCN,TiN,TiAlN,CrAlN,TiSiN,Al23などが用いられる。被覆層5の形成方法として、物理蒸着法や化学蒸着法などが用いられる。
【0019】
切削インサート10の表面は、2つの底面1A,1Bと、底面1Aと底面1Bとを接続する側面2とで形成されている。底面1A,1Bと側面2との境界である刃部3が、切削インサート10により切削される被削材に接触することで、被削材を切削する。なお、切削インサート10は、切削工具とも換言できる。
【0020】
切削インサート10の基体4を形成する複合材料は、95vol%よりも多い炭化タングステン(WC,W2C)と、酸化物(例えば、アルミナ)と、を含んでいる。また、本実施形態の複合材料に含まれるWCの体積をV1とし、複合材料に含まれるW2Cの体積をV2とした場合に、基体4を形成する複合材料では、体積V1と、体積V2とが下記関係式(1)を満たしている。
【0021】
【数3】
【0022】
また、本実施形態の複合材料では、体積V1と、体積V2とが上記関係式(1)に加えて、さらに、下記関係式(2)を満たしている。
【数4】
【0023】
また、本実施形態の複合材料では、アルミナ(Al23)と、ジルコニア(ZrO2)と、3族元素の内の少なくとも1つを含む酸化物とから選ばれる少なくとも1つの酸化物を含んでいる。
【0024】
製造方法:
本実施形態の基体4を形成する複合材料の製造方法では、用意した原料粉末にアセトンを加えてポット内で粉砕混合する。粉砕混合により得られた混合スラリーを流動乾燥機によって乾燥させて、乾燥混合粉を作製する。作製した混合粉に、タングステン粉末を加えてホットプレス法により、還元雰囲気下で焼成した。
【0025】
ここで、摂氏1750度(℃)以上の高温下では、下記反応式(3)で表される分解反応により、遊離炭素(C)が焼結体中に発生する。
【数5】
【0026】
遊離炭素が焼結体に含まれると、遊離炭素が破壊起点となって焼結体の強度を低下させる原因となる。これに対して、本実施形態では、調合時にタングステン粉末を加えることにより、上記反応式(3)により発生する遊離炭素を、下記反応式(4)を発生させてW2Cへと変化させる。
【0027】
【数6】
【0028】
2CはWCの焼結助剤として作用するため、焼成による緻密化に寄与し、かつ、W2CがWCの粒成長を抑制する。すなわち、タングステン粉末を加えて上記反応式(4)を発生させることにより、遊離炭素を発生させることなく、強固なセラミックス焼結体を生成できる。
【0029】
製造後の複合材料の特性は、焼結体に含まれるWC,W2C,酸化物、およびその他の成分の成分量に応じて変化する。変化する複合材料の特性としては、曲げ強度および熱伝導率などがある。これらの特性に応じて複合材料により基体4が形成された切削インサート10の寿命などが変化する。
【0030】
評価試験:
図2に示す表は、実施例1~14の切削インサートと比較例1~3の切削インサートとの基体を形成する複合材料の各パラメータを示す図である。サンプルとしての実施例1~14の複合材料の製造方法では、原料としてのWCと、Wと、Al23と、酸化ジルコニウム(ZrO2)と、酸化イットリウム(Y23)とを、各焼結体成分量となるように秤量し、下記の条件でボールミルにより粉砕混合した。なお、WCと、Wと、Al23との原料粉末の平均粒径は0.5μmであった。ZrO2と、Y23との原料粉末の平均粒径は0.7μmであった。
<粉砕混合の条件>
・ポット材質:Al23
・球石:YSZ(Y23部分安定化ジルコニア)
・溶剤:アセトン
・回転条件:80rpm、48時間(hour)
【0031】
粉砕混合により得られた混合スラリーを流動乾燥器によって乾燥させて乾燥混合粉を作製した。
<焼成条件>
・焼結法:ホットプレス
・型:カーボン製
・最高温度:1800~1900℃/1hr
・圧力:30MPa
・雰囲気:Ar,1atm
焼成時の最高温度は、例えば、1850℃で1時間の保持など、混合分に応じて異なる温度で1時間保持したことを表している。なお、焼成雰囲気は、還元雰囲気であればよく、Arガス以外に窒素ガスなどが用いられてもよい。
【0032】
焼成により得られた各サンプルの焼結体を所定の形状に加工して、下記5つの分析・試験を行った。
1.EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)による焼結体成分の定量
2.相対密度の評価
3.曲げ強度試験
4.熱伝導率の評価
5.切削試験
【0033】
EPMAによる焼結体成分の定量では、各焼結体の観察試験片を準備し、観察面を鏡面研磨した。得られた各試験片に対して1万倍の視野画像を取得し、視野中の走査により各成分の定量分析を行った。定量分析により、実施例1~14および比較例1~3の複合材料の成分が判明した。図2に示す表には、実施例1~14および比較例1~3の複合材料について、焼成時の最高温度(℃)と、EPMAにより得られたWCの含有量(vol%)と、W2Cの含有量(vol%)と、WCの含有量とW2Cの含有量との合計(vol%)と、WCとW2Cとの合計に対するW2Cの割合と、Al23の含有量(vol%)と、ZrO2の含有量(vol%)と、Y23の含有量(vol%)と、その他成分の含有量(vol%)と、が示されている。なお、比較例3は市販の超硬合金の切削インサートであるため、比較例3の焼成温度は図2に示す表に示されていない。図2に示す表に示されるWCとW2Cとの合計に対するW2Cの割合は、上記関係式(1),(2)に示されるV2/(V1+V2)としても表現できる。複合材料を構成する各成分の割合は、EPMAにより求められた各成分の面積比率から求められる。
【0034】
相対密度の評価では、JISR1634に即して、実施例1~14および比較例1~3の焼結体の密度を測定し、EPMAにより求められた成分量から導かれる理論密度を用いて比較することにより、焼結体の相対密度を評価した。焼結体の測定密度が、理論密度の99.5%以上100%以下である場合に「緻密化」と評価し、測定密度が理論密度の99.5%未満の場合には「×(緻密化せず)」と評価した。
【0035】
曲げ強度試験では、JISR1601に即して、各焼結体を厚さ3mm、幅4mmに加工して、スパン30mm・3点曲げにて実施例1~14および比較例1~3の曲げ強度を測定した。全てのサンプルに対してn=6で曲げ強度試験を行い、6個の測定値の平均値で各サンプルを比較した。曲げ強度の数値が高いほど、各サンプルの複合材料により基体4が形成された切削インサートの耐欠損性が向上する。
【0036】
熱伝導率の評価では、JISR1611に即して、焼結体を厚さ1mmに加工して、レーザーフラッシュ法にて熱伝導率を測定した。全てのサンプルに対してn=3で熱伝導率を測定し、3個の測定値の平均値で各サンプルを比較した。熱伝導率が高いほど、切削インサートを用いた高速切削時に刃先温度を下げることができる。この結果、熱伝導率が高いほど、切削インサートの耐反応性および耐欠損性が向上する。
【0037】
切削試験では、下記条件によってチタン合金の旋削試験を行うことにより、実施例1~14および比較例1~3の各焼結体で基体4が形成されている切削インサートを評価した。
<切削試験条件>
・被削材:Ti-6Al-4V
・切削方式:旋削
・工具形状:TNGA160404(図1
・切削速度:200~1000m/min
・切込み:0.2mm
・送り:0.01mm
・クーラント:ドライ(Dry)
切削試験では、切削速度を200m/minから100m/minずつ速度を上げていき、欠損または摩耗が発生した時点の各サンプルの旋削速度を工具寿命の判定基準として比較した。寿命要因として、逃げ面摩耗が0.3mmを超えた場合に「摩耗」と判断し、欠損が出た場合に「欠損」と判断した。
【0038】
図2に示す表には、実施例1~14および比較例1~3の相対密度の評価結果と、曲げ強度(MPa)と、熱伝導率(W/(m・K))と、工具寿命と判定された際の切削試験時の切削速度(m/min)と、切削試験の寿命要因とが示されている。
【0039】
図2に示す表に示されるように、実施例1~14の複合材料は、WCおよびW2Cを含んでいる。さらに、実施例1~10の複合材料は、酸化物としてのAl23およびZrO2を含んでいる。実施例11の複合材料は、酸化物としてAl23およびY23を含んでいる。実施例12の複合材料は、酸化物としてZrO2およびY23を含んでいる。実施例13の複合材料は、酸化物としてY23を含んでいる。実施例14の複合材料は、酸化物としてTiO2を含んでいる。実施例1~14の複合材料に含まれるWCの成分量とW2Cの成分量との合計は、95vol%よりも多い。
【0040】
また、実施例1~9,11~14の複合材料におけるW2Cの割合は、上記関係式(1)に示されるように、0.001よりも高く、かつ、0.5よりも低い。さらに、実施例6,7,14の複合材料におけるW2Cの割合は、上記関係式(2)に示されるように、0.1よりも高く、かつ、0.25よりも低い。
【0041】
また、実施例1~13の複合材料は、Al23と、ZrO2と、3族元素の内の少なくとも1つを含む酸化物(例えば、Y23)とから選ばれる少なくとも1つの酸化物を含んでいる。
【0042】
それに対して、比較例2,3の複合材料は、WCを含んでいるものの、W2Cを含んでいない。比較例1の複合材料はWCおよびW2Cを含むものの、WCの成分量とW2Cの成分量とが、85.4vol%であり、95vol%以下である。
【0043】
図2に示す表に示されるように、実施例1~14の複合材料の相対密度は、全て緻密化している。一方で、比較例2では、W2Cが含まれていないため、複合材料が難焼結化して緻密化できなかった。なお、緻密化していない比較例2のサンプルに対しては、他のサンプルよりも評価結果が劣るため、図2に示す表に示されるように、曲げ強度試験、熱伝導率の測定、および切削試験を行わなかった。
【0044】
実施例1~14の曲げ強度は、1650MPa以上であり、比較例1の曲げ強度1350MPaよりも高い。特に、Al23と、ZrO2と、3族元素の内の少なくとも1つを含む酸化物(例えば、Y23)とから選ばれる少なくとも1つの酸化物を含む実施例1~13の曲げ強度は、1700MPa以上である。実施例1~13の中で、さらに、上記関係式(2)を満たす実施例6,7の曲げ強度は、2200MPa以上と他のサンプルよりも高い。
【0045】
実施例1~14の熱伝導率は、62W/(m・K)以上であり、比較例1の熱伝導率60W/(m・K)よりも高い。特に、上記関係式(2)を満たす実施例6,7,14の熱伝導率は、75W/(m・K)以上であり、いずれの比較例よりも高い。
【0046】
切削試験の評価では、実施例1~14の切削速度が450m/min以上であり、比較例1,3の300m/minよりも速い。すなわち、実施例1~14は、比較例1~3と比較して耐欠損性が高い。また、Al23と、ZrO2と、3族元素の内の少なくとも1つを含む酸化物(例えば、Y23)とから選ばれる少なくとも1つの酸化物を含む実施例1~13の評価時の切削速度は500m/min以上であり、実施例1~13の耐欠損性は更に高い。また、実施例1~13の中で、さらに、上記関係式(2)を満たす実施例6,7の切削速度は800m/minであり、評価したサンプルの中で実施例6,7の耐欠損性は最も高い。
【0047】
実施例5,10,14は、他の実施例1~4,6~9,11~13よりも摩耗または欠損時の切削速度が小さかった。実施例5では、W2Cの含有量が少なく、曲げ強度が他の実施例よりも低かったため、寿命の切削速度が500m/minであった。また、実施例10では、W2Cの含有量が多く、熱伝導率が他の実施例よりも低かっため、寿命の切削速度が500m/minであった。実施例14では、酸化物としてのTiO2の一部が焼成過程でTiCに変化し、TiCがWC中に固有する等の理由により、複合材料の強度が低下し、曲げ強度が小さく、欠損により寿命が早かった。比較例1の複合材料では、WCおよびW2Cの合計の炭化タングステンの含有量が少なく、曲げ強度および熱伝導率が低く、比較例1の切削インサートは、切削試験時に早期に欠損した。比較例3では、曲げ強度および熱伝導率が高いが、切削中の発熱に伴って含有されているCoが被削材と反応することにより摩耗が進行して、切削試験時に寿命と判断される摩耗量に早期に達した。
【0048】
以上のように、切削インサート10の基体4を形成する実施例1~14の複合材料は、95vol%よりも多い炭化タングステン(WC,W2C)と、酸化物と、を含んでいる。実施例1~14に含まれる炭化タングステン量が95vol%よりも多いため、複合材料の強度が高くなる、すなわち、高い耐欠損性を有する。また、炭化タングステンの含有量が95vol%よりも多いため、複合材料の熱伝導が高くなる。そのため、複合材料により形成される切削インサート10の刃先が高温化しても刃先の熱逃げが良好となり、刃先の強度を維持できる。また、酸化物が含まれることによって、ピンニング効果が効果的に働き、セラミックスの微細組織化によって複合材料の強度が向上する。WCとW2Cとは難焼結物質であるが、実施例1~14の複合材料では、共存することによって焼結性が向上し、強固なセラミックス焼結体が得られる。さらに、また、WCとW2Cとのそれぞれは、互いに粒成長抑制の効果を有するため、組織微細化により複合材料の強度が向上する。すなわち、実施例1~14の複合材料は、高強度、かつ、高い熱伝導性を有するため、高温下での複合材料の耐反応性および耐欠損性が向上する。
【0049】
また、本実施形態の複合材料に含まれるWCの体積をV1とし、複合材料に含まれるW2Cの体積をV2とした場合に、実施例1~9,11~14の複合材料では、体積V1と、体積V2とが上記関係式(1)を満たしている。W2CはWCの焼結助剤として作用するため、焼成時に複合材料をより緻密化する。一方で、W2CはWCに対して低強度・低熱伝導であり、W2Cの成分量が多いと複合材料で形成された切削工具の低強度化・低熱伝導化を招くおそれがある。それに対し、実施例1~9,11~14では、W2Cの成分量が上記関係式(1)の範囲で制御されているため、焼結性の向上と、高強度化・高熱伝導化との実現できる。
【0050】
また、実施例6,7,14の複合材料では、体積V1と、体積V2とが上記関係式(2)を満たしている。実施例6,7,14によれば、W2Cの成分量が上記関係式(1)よりも好ましい上記関係式(2)の範囲に制御されるため、焼結性の向上と、高強度化・高熱伝導化との効果を更に向上させることができる。
【0051】
また、実施例1~13の複合材料では、Al23と、ZrO2と、3族元素であるYを含む酸化物であるY23とから選ばれる少なくとも1つの酸化物を含んでいる。Al23と、ZrO2と、Y23とのそれぞれは、WCおよびW2Cと反応しにくいため、ピンニング効果がさら効果的に働く。この結果、実施例1~13の複合材料の強度がさらに向上する。
【0052】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0053】
実施例1~14は、切削インサート10の基体4を形成する複合材料の一例であって、複合材料については、WCおよびW2Cと、酸化物とを含み、かつ、WCとW2Cとの合計の含有量が95vol%よりも多い範囲で変形可能である。例えば、炭化タングステン(WC,W2C)の体積(V1+V2)に対するW2Cの体積V2の割合が、上記関係式(1)の範囲から外れて、0.001以下であってもよいし、実施例10のように0.5以上であってもよい。また、複合材料に含まれる酸化物は、実施例14のように、Al23と、ZrO2と、3族元素を含む酸化物を含んでいない代わりに、他の酸化物を含んでいてもよい。3族元素を含む酸化物は、Y以外の元素の3族元素を含む酸化物であってもよい。複合材料の製造方法の原料粉末として、ZrO2を用いたが、ZrO2の代わりに、Y23等で部分安定化されたZrO2の原料粉末が用いられてもよい。
【0054】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0055】
1A…底面
1B…底面
2…側面
3…刃部
4…基体
5…被覆層
10…切削インサート
V1…WCの体積
V2…W2C体積
図1
図2