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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104642
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】ロータリコンプレッサ
(51)【国際特許分類】
   F04C 29/04 20060101AFI20240729BHJP
   F04B 39/06 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
F04C29/04 L
F04B39/06 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008968
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】517403558
【氏名又は名称】瀋陽中航機電三洋制冷設備有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100186060
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松崎 章
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝
【テーマコード(参考)】
3H003
3H129
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB04
3H003AC03
3H003BE10
3H003CD03
3H129AA04
3H129AA13
3H129AB03
3H129BB16
3H129BB43
3H129CC03
3H129CC24
(57)【要約】
【課題】冷媒インジェクションを行なうロータリコンプレッサにおいて、冷媒インジェクション流路と吸引ポートとが連通しないロータリコンプレッサを提供する。
【解決手段】シリンダ室7の吸引側空間に出入りしてローラ14に摺接する仕切り板24を備え、吸引ポート11が連続するローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26とに仕切った。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に、電動要素とこの電動要素で駆動される回転圧縮要素とを収容していて、
前記回転圧縮要素は、
シリンダ室で偏心回転するローラとローラに摺接して摺接部分側のシリンダ室を吸引側空間と吐出側空間とに仕切るベーンとを有したシリンダを備えており、
前記シリンダは、
ローラの偏心回転によって吸引側空間が拡大する吸引行程で、吸引側空間に臨む吸引ポートから冷媒を吸引し、ローラの偏心回転によって吐出側空間が縮小する圧縮行程で、吐出側空間に臨む吐出ポートから冷媒を密閉容器内に吐出するものであり、
密閉容器外の冷凍サイクルからの冷媒を通す冷媒インジェクション流路が、シリンダ室に達していて、偏心回転するローラで冷媒インジェクション流路を開閉するロータリコンプレッサにおいて、
シリンダ室の吸引側空間に出入りしてローラに摺接する仕切り板を備え、
前記仕切り板は、
仕切り板摺接位置を境にして吸引側空間を、吸引ポートが連続するローラ回転方向上流側空間と、このローラ回転方向上流側空間に対してローラの偏心回転方向での下流側となるローラ回転方向下流側空間とに仕切るものであることを特徴とするロータリコンプレッサ。
【請求項2】
仕切り板には、冷媒インジェクション流路の閉鎖状態時に、ローラ回転方向上流側空間とローラ回転方向下流側空間とを連通させる通路孔が設けられている請求項1に記載のロータリコンプレッサ。
【請求項3】
シリンダ内に、冷媒インジェクション流路のインジェクション孔が臨んでいて、偏心回転するローラがインジェクション孔を開閉しており、
ローラが前記インジェクション孔を開いて冷媒インジェクション流路がシリンダ室に連通するときに、仕切り板の突出先端がローラに摺接していて、
この仕切り板の突出先端は、ローラ回転方向上流側空間とローラ回転方向下流側空間とを連通不能にする遮断部である請求項1に記載のロータリコンプレッサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクルから冷媒をバイパスさせて送り込む冷媒インジェクションの経路を備えるようにしたロータリコンプレッサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、放熱器である凝縮器aと吸熱器である蒸発器bと圧縮機cの役割を行なうロータリコンプレッサ1とを、冷媒を通す配管で接続した冷凍サイクルAにおいて、蒸発器bでの吸熱作用に寄与しない冷媒をロータリコンプレッサ1に向けて流すバイパスを設けるようにした仕組みがある。そして、パイパスする冷媒を送り込む冷媒インジェクションの経路を備えるロータリコンプレッサが従来から用いられている。
【0003】
図1で示す冷凍サイクルAにおいて、dとeは減圧機構である。この図1中で表しているように、この冷凍サイクルAでの圧縮機c(ロータリコンプレッサ1)から送り出される冷媒の圧力は高圧PHであり、バイパスされて圧縮機cに送り込まれる冷媒の圧力は中圧PMであり、蒸発器bから圧縮機cに送り込まれる冷媒の圧力は低圧PLである。
冷媒の圧力の関係は、PL<PM<PHとなり、中圧PMは必ずしも高圧PHと低圧PLの間の中央値でなくてもよいものである。
【0004】
上記圧縮機として用いられる従来のロータリコンプレッサは、密閉容器内に電動要素と前記電動要素で駆動される回転圧縮要素とを収容している。
そして回転圧縮要素を、ローラが偏心回転するシリンダを備えているものとするロータリコンプレッサがある。
【0005】
このロータリコンプレッサにおけるシリンダの圧縮室であるシリンダ室に、上記冷媒を送り込む冷媒インジェクションを行なう場合、シリンダに設けた接続孔に密閉容器外からのインジェクション管を接続し、シリンダ室を覆う閉鎖板(軸受け板など)にシリンダ室に臨むように設けたインジェクション孔から冷媒を送り込むことができるようにしていた。
【0006】
この冷媒インジェクションでは、偏心回転するローラによってインジェクション孔を開閉することで冷媒インジェクション流路の開閉を行なっている。
【0007】
例えば、特許文献1では、シリンダのシリンダ室に重なる一方の軸受け部材に接続孔を設けてインジェクション管を接続している。
そして、前記接続孔からシリンダ室側の側面に位置するインジェクション孔に亘る通路を形成し、インジェクション孔を通して冷媒をシリンダ室内に送り込む冷媒インジェクション流路を備える点が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6978359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1中で示された回転圧縮要素の圧縮方法自体は従来から知られているもので、回転軸の軸受けを重ねて閉じたシリンダのシリンダ室にローラが配置されていて、回転軸の偏心部分に装着されているローラがシリンダ室内で偏心回転するように設けられている。
【0010】
また、シリンダ室内は、前記ローラに向けて突出するように付勢されてローラに摺接するシリンダ室に出入り可能なベーンを有して、このベーンによって摺接部分側のシリンダ室が吸引側空間と吐出側空間とに仕切られている。
【0011】
シリンダ室内では、偏心回転するローラの移動に伴って吸引側空間が拡大する吸引行程と同じく偏心回転するローラの移動に伴って吐出側空間が縮小する圧縮行程とが、上記ベーンを境にして進行する。
【0012】
吸引側空間でのベーンが出入りする部分に近接した位置に、アキュムレータからの冷媒が送り込まれてくる吸引ポートが開口していて、吸引行程で吸引側空間が拡大することで冷媒をシリンダ室内に吸引する。
【0013】
また、吐出側空間でのベーンが出入りする部分に近接した位置に、密閉容器内に連通する吐出ポートが開口していて、圧縮行程で吐出側空間が、偏心回転するローラの移動に伴って縮小し、この縮小によって昇圧した高圧状態の冷媒が吐出ポートから密閉容器内に吐出する。
【0014】
さらに、上記冷媒インジェクション流路は上述したように中圧状態の冷媒が流れる流路であり、軸受け部材のシリンダ室側に位置して開口しているインジェクション孔が偏心回転するローラで覆われていないときに、前記中圧状態の冷媒がシリンダ室内に送り込まれるようにしている。
【0015】
前記冷媒インジェクション流路からの冷媒の送り込みは、インジェクション孔が位置している箇所を含む領域であって、ローラとシリンダ室内面とベーンとシリンダ室に重なる閉鎖板部分(例として軸受け部材)とで囲まれた部分の圧力が、冷媒インジェクション流路の冷媒の圧力より低いときに、中圧状態の冷媒がシリンダ室に送り込まれるようにしている。
【0016】
そして、圧縮行程では冷媒インジェクション流路からの冷媒を含んで冷媒を昇圧し、上述のように吐出ポートから密閉容器内へと吐出する。
【0017】
(不具合の例)
冷媒インジェクションを備えるロータリコンプレッサにおいて、冷媒インジェクションを行なう冷媒の流量を増加させたいとの要望が挙げられるようになってきた。
【0018】
そして、上記要望に応じるために、上記インジェクション孔の開口径を大きくしたり、インジェクション孔の位置をクランク角度(ローラの位置を角度にて表す場合に用いる角度)で手前側のクランク角度の位置に設定したりすることが検討される。
【0019】
しかしながら、インジェクション孔の径を大きくした場合、吸引行程の始めの段階であって、ローラで閉じられていないインジェクション孔から中圧状態の冷媒がシリンダ室に送り込まれるようになる。
【0020】
また、同様に、インジェクション孔の位置を上記クランク角度で浅い角度側に設定した場合、吸引行程の始めの段階で、ローラで閉じられていないインジェクション孔から中圧状態の冷媒がシリンダ室に送り込まれるようになる。
【0021】
そのため、上記の何れの場合でも、インジェクション孔から送り込まれた冷媒が、吸引側空間のベーン側にある吸引ポートに流れ込んでしまう。
即ち、冷媒インジェクション流路と吸引ポートとがシリンダ室の空間を介して連通して冷媒の戻りを生じさせてしまう。
その結果、シリンダで冷媒を圧縮する際の体積効率が低下するという問題がある。
【0022】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、冷媒インジェクションを行なうロータリコンプレッサにおいて、冷媒インジェクション流路と吸引ポートとが連通しないようにすることを課題とし、インジェクション孔の径を大きくしたり、インジェクション孔の位置をクランク角度で手前となるクランク角度の位置にすることを可能にするロータリコンプレッサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は上記課題を考慮してなされたもので、密閉容器内に、電動要素とこの電動要素で駆動される回転圧縮要素とを収容していて、
前記回転圧縮要素は、
シリンダ室で偏心回転するローラとローラに摺接して摺接部分側のシリンダ室を吸引側空間と吐出側空間とに仕切るベーンとを有したシリンダを備えており、
前記シリンダは、
ローラの偏心回転によって吸引側空間が拡大する吸引行程で、吸引側空間に臨む吸引ポートから冷媒を吸引し、ローラの偏心回転によって吐出側空間が縮小する圧縮行程で、吐出側空間に臨む吐出ポートから冷媒を密閉容器内に吐出するものであり、
密閉容器外の冷凍サイクルからの冷媒を通す冷媒インジェクション流路が、シリンダ室に達していて、偏心回転するローラで冷媒インジェクション流路を開閉するロータリコンプレッサにおいて、
シリンダ室の吸引側空間に出入りしてローラに摺接する仕切り板を備え、
前記仕切り板は、
仕切り板摺接位置を境にして吸引側空間を、吸引ポートが連続するローラ回転方向上流側空間と、このローラ回転方向上流側空間に対してローラの偏心回転方向での下流側となるローラ回転方向下流側空間とに仕切るものであることを特徴とするロータリコンプレッサを提供して、上記課題を解消するものである。
【0024】
また、本発明において、仕切り板には、冷媒インジェクション流路の閉鎖状態時に、ローラ回転方向上流側空間とローラ回転方向下流側空間とを連通させる通路孔が設けられていることが良好である。
【0025】
また、本発明において、シリンダ内に、冷媒インジェクション流路のインジェクション孔が臨んでいて、偏心回転するローラがインジェクション孔を開閉しており、
ローラが前記インジェクション孔を開いて冷媒インジェクション流路がシリンダ室に連通するときに、仕切り板の突出先端がローラに摺接していて、
この仕切り板の突出先端は、ローラ回転方向上流側空間とローラ回転方向下流側空間とを連通不能にする遮断部であることが良好である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、シリンダ室を吸引側空間と吐出側空間とに分けるベーンの他に、吸引側空間を、吸引ポートが連続するローラ回転方向上流側空間とローラ回転方向下流側空間とに仕切る仕切り板を備えて、仕切り板がローラに摺接してローラ回転方向上流側空間とローラ回転方向下流側空間とを仕切るので、冷媒インジェクション流路と吸引ポートとの連通を確実に防止することができる。
【0027】
また、本発明によれば、仕切り板には、冷媒インジェクション流路を偏心回転するローラで閉じる閉鎖状態時に、ローラ回転方向上流側空間とローラ回転方向下流側空間とを連通させる通路孔が設けられているので、通常通りに吸引ポートからの冷媒を吸引側空間に取り込むようになる。
【0028】
また、本発明によれば、仕切り板の突出先端は、ローラ回転方向上流側空間とローラ回転方向下流側空間とを連通不能にする遮断部とされているものである。
そして、吸引行程の最初の段階で、ベーンの軸線上にローラとの摺接点を一致するようにベーンにローラを正対させたときには、吸引ポートとローラとの間には隙間が生じている。
つまり、シリンダ室の内径に比べてローラの径は小さいため、ベーン位置から吸引ポートでのローラ回転方向下流側に向けた範囲では隙間が生じる。
【0029】
このベーンにローラが正対したときに、仕切り板は、吸引ポート側の空間とローラ回転方向下流側となる空間とを遮断部で連通不能とするので、冷媒インジェクション流路のインジェクション孔が開口状態となっていても、中圧状態の冷媒が吸引ポートに送り込まれるのを防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】圧縮機のロータリコンプレッサを含む冷凍サイクルの例を示す説明図である。
図2】本発明に係るロータリコンプレッサの一例を縦断面で概略的に示す説明図である。
図3】本発明に係るロータリコンプレッサの一例における回転圧縮要素をシリンダ室を示すもので、(A)はベーンで仕切られる吸引側空間と吐出側空間との配置区分を仕切り板不図示にして示す説明図、(B)は仕切り板で仕切られるローラ回転方向上流側空間とローラ回転方向下流側空間との配置区分を示す説明図である。
図4】一例における仕切り板を示す説明図である。
図5】一例においてローラ位置が(a)(b)(c)(d)(e)(f)の順で変わる状態で表現した吸引行程と、ローラ位置が(g)(h)(i)(j)(k)(l)の順で変わる状態で表現した圧縮行程とを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
つぎに本発明を図示の実施の形態に基づいて詳細に説明する。冷凍サイクルAでの圧縮機cとして冷凍サイクルAに組み込まれている本発明のロータリコンプレッサ1は、図2に示すように密閉容器2の内部に電動要素3と、この電動要素3で駆動されて冷媒を圧縮する回転圧縮要素4とを収容してなるものである。
【0032】
(密閉容器、アキュムレータ)
密閉容器2の外面側には、冷凍サイクルAでの蒸発器bを上流側として接続されているアキュムレータ5が取り付けられている。
アキュムレータ5は蒸発器b側から送り込まれてくる冷媒を冷媒と液冷媒と分離する。
また、アキュムレータ5からは配管6を密閉容器2の内部に延設していて、配管6は回転圧縮要素4に接続されており、アキュムレータ5から冷媒を回転圧縮要素4内に送り込みできるように設けられている。
【0033】
(回転圧縮要素)
回転圧縮要素4は、シリンダ室7を有するシリンダ8の片面(上方)にシリンダ室7を覆う主軸受け部材9を重ね合わせて取り付けているとともに、シリンダ8のもう一方の片面(下面)に同じくシリンダ室7を覆う副軸受け部材10を重ね合わせて取り付けている。
【0034】
シリンダ8に開口してシリンダ室7に一端開口が臨む吸引ポート11のもう一方の開口に配管6が接続されている。
アキュムレータ5から前記配管6と吸引ポート11とを通してシリンダ室7に冷媒が送り込みできるように設けられている。
【0035】
(ローラ)
シリンダ室7の内部には、回転軸12の偏心部13を嵌め込んだローラ14が組み入れられていて、電動要素3からの駆動を受けて回転軸12が回転することによってローラ14が偏心回転するように設けられている。
【0036】
また、シリンダ室7には、ローラ14にベーン15の先端が摺接し、回転軸12の回転中心に対してベーン15がシリンダ室7内に出入り(進退移動)する。
このベーン15が出入りしながら摺接するローラ14の偏心回転により、吸引行程によって吸引ポート11から冷媒を取り込みし、圧縮行程によって冷媒を高圧に圧縮して、吐出ポート16から回転圧縮要素の外の密閉容器2に吐出するように設けられている。
【0037】
(吸引側空間、吐出側空間)
前述したように不図示のスプリングなどの付勢手段でシリンダ室7に出入り可能としたベーン15によって、図3(A)に示されているように前記ベーン15とローラ14との摺接部分側のシリンダ室7が吸引側空間17と吐出側空間18とに仕切られている。
【0038】
図5(a)~(f)は吸引行程での冷媒の移動を表していて、この吸引行程での吸引側空間17は、偏心回転するローラ14の移動に伴って拡大する。
また、図5(g)~(l)は圧縮行程での冷媒の移動を表していて、この圧縮行程での吐出側空間18は、偏心回転するローラ14の移動に伴って縮小する。
【0039】
なお、シリンダ室7では、偏心回転するローラ14の移動に伴って吸引側空間17が拡大しながら冷媒を吸引ポート11から取り込む吸引行程と、同じく偏心回転するローラ14の移動に伴って吐出側空間18が縮小しながら冷媒を圧縮して吐出ポート16から密閉容器2に向けて吐出する圧縮行程とが、ベーン15の位置を境にして進行する。
【0040】
(冷媒インジェクション流路)
図2に示すように、回転圧縮要素4の副軸受け部材10には端板19が取り付けられていて、その端板19に設けた開孔20に、密閉容器2の外部からのインジェクション管21が接続されている。
【0041】
さらに接続孔20から副軸受け部材10でのシリンダ室7に臨むインジェクション孔23までの通路が形成されており、冷凍サイクルAでバイパスされてインジェクション管21を通る中圧状態の冷媒がシリンダ室7内に送り込まれるようにした冷媒インジェクション流路22が形成されている。
【0042】
上記インジェクション孔23は、圧縮行程に入った領域の冷媒の圧力が、冷媒インジェクション流路22からの冷媒の圧力より高くなるときに、偏心回転するローラ14で閉じる位置となるように設けられている。
【0043】
(仕切り板)
図3に示すように、本実施の形態において、シリンダ8は、シリンダ室7の吸引側空間17に出入りしてローラ14に摺接する仕切り板24を備えている。仕切り板24はベーン15と同じようにスプリングなどの不図示の付勢手段によって回転軸12の回転中心に向けて進退移動できるものである。
【0044】
そして、仕切り板24は偏心回動するローラ14に摺接し、仕切り板摺接位置を境にして吸引側空間17を、ローラ回転方向上流側空間25と、このローラ回転方向上流側空間25に対してローラ14の偏心回転方向での下流側となるローラ回転方向下流側空間26とに仕切る。
【0045】
吸引側空間17内、ローラ回転方向上流側空間25は図示されているようにシリンダ室7(シリンダ室7の内周面)とローラ14(ローラ14の外周面)とベーン15と前記仕切り板24とで囲まれる空間であり、吸引ポート11が連続する空間である。
【0046】
仕切り板24は、上述したように吸引側空間17をローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26とに仕切ることができる部材であるが、吸引行程において吸引側空間17が拡大し、かつインジェクション孔23がローラ14で閉じられているとき(冷媒インジェクション流路の閉鎖状態時)には、吸引ポート11から送り込まれる冷媒をこの吸引側空間17の拡大に伴って取り込むことができるようにした工夫を有している。
【0047】
上記工夫は、図4に示されているように仕切り板24に設けた通路孔27であり、この通路孔27は、冷媒インジェクション流路22の閉鎖状態時に、ローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26とを連通させる開口である。
【0048】
本実施の例において、上述したように吸引行程の最初の段階で、ベーン15の軸線上にローラ14との摺接点を一致するようにベーン15とローラ14とが正対していて、このとき、吸引ポート11がローラ14で閉じられているわけではなく、吸引ポート11がローラ14との間に隙間が生じることになり、且つ、冷媒インジェクション流路22のインジェクション孔23が開口状態となっているので、仕切り板24の突出先端がローラ14に摺接している部分を、ローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26とを連通不能にする遮断部28としている。
【0049】
上述のように本実施の例では、吸引行程の最初の段階で遮断部28で、吸引ポート11が連続するローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26とを連通不能とするので、インジェクション孔23が開口状態となっていても、中圧状態の冷媒が吸引ポート11に送り込まれるのを防止する。
【0050】
(吸引行程、圧縮行程)
上述したように図5は本実施の形態において、吸引行程での冷媒gの移動を表している。また、偏心回転するローラ14の移動に伴って仕切り板24が出入りして、ローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26との間を開閉する点が示されている。
【0051】
また、上述したように図5は圧縮行程での冷媒gの移動も表している。
圧縮行程でもローラ14が偏心回転し、このローラ14の偏心回転に伴なって仕切り板24は出入りする動作を行なうが、ローラ回転方向上流側空間25からローラ回転方向下流側空間26への冷媒の動きについては、説明を容易にするために図示していない。
【0052】
図5(a)は吸引行程の最初の段階である。ベーン15の軸線上にローラ14との摺接点を一致するようにベーン15とローラ14とが正対している状態となる。図に記載しているが、ローラ14の位置をクランク角度で示すと0°で上死点の位置となる。
以降、図5(b)、(c)、(d)、(e)、(f)にてローラ14の位置、仕切り板24が出入りして通路孔27が変化する状態が示されている。吸引行程自体は図5の(f)に示す段階からから再び図5の(a)に示す段階に戻る。
圧縮行程も図5に亘って表されていて、図5(g)、(h)、(i)、(j)(k)、(l)にてローラ14の位置、仕切り板24が出入りして通路孔27が変化する状態が示されている。圧縮行程自体は図5(l)に示す段階からから再び図5(g)に示す段階に戻る。
【0053】
図5(a)吸引行程)
図5(a)は、シリンダ8に上記仕切り板24を備えない一般的な回転圧縮要素4におけるシリンダ室7での通常の吸引行程の始端に相当する状態を示していて、ローラ14の位置がクランク角度0°で、ローラ14が上死点に位置している状態である。(本実施の形態では、この時点では後述のようにローラ14に摺接する仕切り板24があるため、吸引側空間17では吸引開始ができていない。)
【0054】
この時点で仕切り板24は遮断部28が突出し、ローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26との間を遮断している。
【0055】
図5(g)圧縮行程)
また、図5(a)で示される吸引行程の始端となる回転圧縮要素4の状態は、圧縮行程の始端の状態でもあって、この圧縮行程の始端となる状態を、冷媒gをハッチングで表現した図5(g)で示している。
【0056】
このように図5(g)は、圧縮行程の始端となる状態が示されており、先の圧縮行程で圧縮された冷媒gが吐出ポート16から吐出し終わった状態でもある。
上記図5(a)の時点でもあるので、ローラ14の位置がローラ14の位置がクランク角度0°で、ローラ14が上死点に位置している状態である。
【0057】
図5(g)の圧縮行程の始端において、ローラ回転方向下流側空間26ではインジェクション孔23が開いていて(INJ孔:開)、インジェクション孔23からの冷媒の送り込みが行なわれる。
【0058】
仕切り板24は遮断部28が突出し、ローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26との間を遮断しており、仕切り板24の連通孔27は仕切り板24を出し入れする引き込み部分に位置していて閉じられている。(仕切板孔:閉)
【0059】
図5(b)吸引行程)
図5(b)において、ローラ回転方向上流側空間25では、吸入開始のタイミングである状態が示されていて、ローラ14の位置が、上記クランク角度0°から進み、クランク角度90°までには至らない状態である。
【0060】
図5(b)の図示の時点では、仕切り板24はローラ14に押されてシリンダ室7に突出はしていない。仕切り板24の通路孔27は、仕切り板24を出し入れする引き込み部分に位置していて閉じられている。(仕切板孔:閉)
仕切り板24の遮断部28は、当然のことながらローラ14に摺接しており、ローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26との間を遮断している。
【0061】
図5(b)のローラ回転方向上流側空間25において、このローラ回転方向上流側空間25は拡大し始める。そして、吸引ポート11から冷媒gがローラ回転方向上流側空間25に吸引され始める状態となる。
インジェクション孔23は開いているが、このインジェクション孔23からの冷媒gは、ローラ回転方向上流側空間25に送り込まれない。
【0062】
図5(h)圧縮行程)
上記図5(g)から進む圧縮行程を示す図5(h)は、吸引行程の図5(b)と同じ時点であり、図5(h)では、吐出側空間18となる部分が縮小し始める状態を示している。即ち、圧縮開始タイミングの状態が示されている。
【0063】
吐出側空間18ではインジェクション孔23が開いていて(INJ孔:開)、吐出側空間18にインジェクション孔23からの冷媒の送り込みが行なわれる。
【0064】
上述したように仕切り板24の通路孔27は閉じていて(仕切板孔:閉)、遮断部28がローラ14とも摺接した状態が維持されているので、インジェクション孔23からの冷媒が吸引ポート11側に送り込まれることはない。
【0065】
図5(c)吸引行程)
図5(c)は、ローラ14の位置がクランク角度90°の状態にあることを示している。
【0066】
ローラ14の位置がクランク角度90°の時点で、仕切り板24は遮断部28のみがシリンダ室7に突出する。
そして、ローラ14の位置がクランク角度90°の時点で、仕切り板24の通路孔27は、仕切り板24を出し入れする引き込み部分に位置していて閉じられている。(仕切板孔:閉)
【0067】
よって、ローラ14の位置がクランク角度90°の時点では、仕切り板24の遮断部28のみが突出してローラ14に摺接し、ローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26との間を遮断している。
【0068】
ローラ回転方向上流側空間25は引き続き拡大し、吸引ポート11から冷媒gがローラ回転方向上流側空間25に送り込まれる。
インジェクション孔23は開いているが、このインジェクション孔23からの冷媒gは、ローラ回転方向上流側空間25に送り込まれない。
【0069】
図5(i)圧縮行程)
図5(i)は、同じローラ14の位置がクランク角度90°のときの圧縮行程となっている吐出側空間18に関わる図であり、吐出側空間18は、引き続き縮小していく状態が示されている。
【0070】
図5(i)で示す上記吐出側空間18ではインジェクション孔23が開いていて(INJ孔:開)、吐出側空間18にインジェクション孔23からの冷媒の送り込みが行なわれる。
【0071】
図5(c)と図5(i)とで示されているように、シリンダ室7の内周面及びシリンダ室7を塞ぐ主軸受け部材9、副軸受け部材10にクランク角度90°の位置のローラ14が接触している。
よって、吐出側空間18にインジェクション孔23からの冷媒の送り込みが行なわれるが、インジェクション孔23からの冷媒が吸引ポート11側に送り込まれない。
なお、仕切り板24の通路孔27は閉じている。
【0072】
図5(d)吸引行程)
図5(d)はINJ孔閉タイミングの時点を示していて、ローラ14の位置が上記クランク角度90°から進んでインジェクション孔23を閉じた状態を示している。(INJ孔:閉)
【0073】
ローラ14が、インジェクション孔23を閉じ終えた位置までに回転し終えた時点で、仕切り板24の通路孔27がシリンダ室7に突出し(仕切板孔:開)、ローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26とが前記通路孔27を介して連通する。
【0074】
吸引側空間17は、拡大するローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26とに吸引ポート11からの冷媒gを送り込んで拡大する。
【0075】
図5(j)圧縮行程)
図5(j)で示すローラ14の位置は図5(d)で示すローラ14の位置と同じである。そして、図5(j)で示す時点は、INJ孔閉タイミングの時点であり、この図5(j)は、ローラ14の位置がクランク角度90°から進んでいるときの圧縮行程となっている吐出側空間18に関わる図であり、吐出側空間18は、引き続き縮小していく状態が示されている。
ローラ14の位置が上記クランク角度90°から進んでいて、ローラ14はインジェクション孔23を閉じ終えた状態である。(INJ孔:閉)
【0076】
上述したように仕切り板24の通路孔27がシリンダ室7に突出し、ローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26とが連通している状態であるが、ローラ回転方向下流側空間26となる領域と吐出側空間18となる領域とは遮断されている。
【0077】
図5(e)吸引行程)
図5(e)はクランク角度270°の状態であり、ローラ14の位置がクランク角度270°の位置にある状態を示している。
【0078】
図5(e)に示される時点でも、図5(d)の時点から引き続き仕切り板24の通路孔27がシリンダ室7に突出している。(仕切板孔:開)そして、ローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26とが前記通路孔27を介して連通する。
【0079】
図5(k)圧縮行程)
図5(k)で示すローラ14の位置は図5(e)で示すローラ14の位置と同じであるので、この図5(k)で示す圧縮行程はクランク角度270°の状態であり、ローラ14の位置がクランク角度270°の位置にある状態を示している。
【0080】
そして、図5(k)で示す時点は、吐出側空間18が引き続き縮小していく状態が示されており、ローラ14はインジェクション孔23を引き続き閉じている。(INJ孔:閉)
【0081】
引き続き仕切り板24の通路孔27がシリンダ室7に突出し、ローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26とが連通している状態であるが、吐出側空間18の縮小によって冷媒が昇圧されても、その昇圧された冷媒は、ローラ回転方向上流側空間25やローラ回転方向下流側空間26には送り込まれない。
【0082】
図5(f)吸引行程)
図5(f)はINJ孔開タイミングの状態であり、図5(e)でのローラ14の位置からクランク角度が進んで、そのローラ14がインジェクション孔23を開く直前の状態を示している。(INJ孔:閉)
【0083】
ローラ14が、インジェクション孔23を開く直前の位置までに回転した時点で仕切り板24を押し、この仕切り板24の通路孔27を出し入れ部分に位置するように押し込む。(仕切板孔:閉)
また、仕切り板24の遮断部28はシリンダ室7に突出していて、遮断部28にてローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26とが分断され、このローラ回転方向上流側空間25とローラ回転方向下流側空間26とは非連通の状態になる。
【0084】
図5(l)圧縮行程)
図5(l)に示すローラ14の位置は、上記吸引行程の図5(f)のローラ14の位置よりさらにクランク角度が進んだ位置が示されていて、ローラ14がクランク角度0°の位置にある状態が示されている。
【0085】
圧縮行程の吐出側空間18が縮小して、ローラ14が、図5(k)で示す位置からこの図5(l)のクランク角度0°の位置に進む過程で、冷媒gが吐出ポート16から密閉容器2側に送り出され、クランク角度0°の位置にローラ14が達したときには、冷媒gの吐出が完了する。(吐出完了)
【0086】
なお、図5(l)に示すように、次の圧縮行程に入る吐出側空間18に対応する領域ではインジェクション孔23は開放されている。
図5(l)の時点は上記図5(g)の圧縮行程の始端の状態と同じであり、圧縮行程は再び図5(g)から始まることになる。
【0087】
上記実施の例のロータリコンプレッサ1では、インジェクション孔23を副軸受け部材10のシリンダ室に臨む部分に設けたが、インジェクション孔23を設ける位置はこの実施の例に限定されるものでなく、シリンダや主軸受け部材に設けるようにすることも可能である。
そして、上記実施の例の回転圧縮要素4は一つのシリンダ8を備える形態として示されているが、本発明はこの実施の例に限定されるものではなく、回転圧縮要素4は二つのシリンダを備えるものとすることも可能であり、二つのシリンダを備える構成の場合、この二つのシリンダの間の中間板にインジェクション孔23を設けてもよい。
【0088】
なお、図1で示す冷凍サイクルAは冷凍サイクルの代表例であって、冷媒の液相ないし気液相から圧縮室内にインジェクションするサイクルに適用するものである。一般的に、能力アップを目的としたガスインジェクションサイクルでは、過冷却を高めるために、減圧機構d直後の部分と減圧機構e直前の部分とを熱交換させたり、二段膨張回路で気液分離させるものなどがあって、本発明のロータリコンプレッサを組み入れることができる冷凍サイクルは図1に示す冷凍サイクルAに限らず、あらゆるインジェクションに適用可能である。
【符号の説明】
【0089】
1…ロータリコンプレッサ
2…密閉容器
4…回転圧縮要素
7…シリンダ室
8…シリンダ
11…吸引ポート
14…ローラ
15…ベーン
16…吐出ポート
17…吸引側空間
18…吐出側空間
22…冷媒インジェクション流路
23…インジェクション孔
24…仕切り板
25…ローラ回転方向上流側空間
26…ローラ回転方向下流側空間
27…通路孔
28…遮断部
A…冷凍サイクル
g…冷媒
図1
図2
図3
図4
図5