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特開2024-104651印刷装置、及び、インクドット吐出方法
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  • 特開-印刷装置、及び、インクドット吐出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104651
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】印刷装置、及び、インクドット吐出方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/015 20060101AFI20240729BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008984
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風岡 健司
(72)【発明者】
【氏名】小野村 一輝
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA07
2C056EC08
2C056EC37
2C056EC38
2C056EC72
2C056FA04
2C056FA10
2C056HA22
2C057AF30
2C057AG11
2C057AG47
2C057AM15
2C057AM16
2C057AM17
2C057AM22
2C057AN01
2C057AR08
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】残留振動によってインクドットの着弾位置がずれることを抑制可能な印刷装置を提供する。
【解決手段】インクを吐出するインクノズル(45)を備えたインクヘッド(41)と、基準電圧(Vо)とは異なる電圧を印加して素子(413)を振動させることによってインクノズル(45)からインクドットを吐出させる制御部(60)と、を有する印刷装置(1)であって、電圧の波形として、第1サイズのインクドットを吐出させるための第1電圧波形(VWl)と、第2サイズのインクドットを吐出させるための第2電圧波形(VWs)と、の少なくとも2種類の波形が設定されており、第1電圧波形(VWl)と前記第2電圧波形(VWs)とでは、基準電圧(Vо)から電圧変化を開始するタイミングが異なっている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するインクノズルを備えたインクヘッドと、
基準電圧とは異なる電圧を印加して素子を振動させることによって前記インクノズルからインクドットを吐出させる制御部と、
を有する印刷装置であって、
前記電圧の波形として、第1サイズの前記インクドットを吐出させるための第1電圧波形と、第2サイズの前記インクドットを吐出させるための第2電圧波形と、の少なくとも2種類の波形が設定されており、
前記第1電圧波形と前記第2電圧波形とでは、前記基準電圧から電圧変化を開始するタイミングが異なっている、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記第1サイズのインクドットの方が、前記第2サイズのインクドットよりも大きさが大きく、
前記第2電圧波形の方が、前記第1電圧波形よりも前記基準電圧から電圧変化を開始するタイミングが遅い、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項2に記載の印刷装置であって、
前記第1サイズのインクドットは、前記インクヘッドから吐出される複数種類の前記インクドットのうち、最も大きなインクドットである、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の印刷装置であって、
前記電圧の波形として、第3サイズの前記インクドットを吐出させるための第3電圧波形が更に設定されており、
前記第3サイズのインクドットは、前記第1サイズのインクドットよりも小さく、前記第2サイズのインクドットよりも大きく、
前記第3電圧波形の方が、前記第2電圧波形よりも前記基準電圧から電圧変化を開始するタイミングが遅い、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項2または3に記載の印刷装置であって、
前記第2電圧波形が前記基準電圧から電圧変化を開始するタイミングは、
前記第1サイズのインクドット及び前記第2サイズのインクドットが順番に前記インクノズルから吐出される場合に、
前記第2サイズのインクドットが、前記インクノズルから吐出されてから媒体に着弾するまでの時間が、
前記第1サイズのインクドットが、前記インクノズルから吐出されてから媒体に着弾するまでの時間と同じになるタイミングである、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
請求項5に記載の印刷装置であって、
前記第2電圧波形が前記基準電圧から電圧変化を開始するタイミングは、
前記第2サイズのインクドットが、前記インクノズルから吐出されてから媒体に着弾するまでの時間が、
前記第1サイズのインクドットが、前記インクノズルから吐出されてから媒体に着弾するまでの時間と同じになるタイミングのうち、最も早いタイミングである、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項7】
インクノズル毎に設けられた素子に基準電圧とは異なる電圧を印加して前記素子を振動させる処理と、
前記インクノズルを備えたインクヘッドからインクドットを吐出させる処理と、
を有するインクドット吐出方法であって、
前記電圧の波形として、第1サイズの前記インクドットを吐出させるための第1電圧波形と、第2サイズの前記インクドットを吐出させるための第2電圧波形と、の少なくとも2種類の波形が設定されており、
前記第1電圧波形と前記第2電圧波形とで、前記基準電圧から電圧変化を開始するタイミングとが異なっている、ことを特徴とするインクドット吐出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置、及び、インクドット吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクヘッドに電圧波形を印加して圧電素子等の素子を駆動(振動)させることによって、該インクヘッドに設けられたノズルからインクドットを吐出して、画像等を印刷するインクジェット式の印刷装置が知られている。例えば、特許文献1には、インク液滴(インクドット)を吐出させる第1パルスと第2パルスとを含んだ駆動波形(電圧波形)によって、印刷時における吐出曲がりを抑制しながら、駆動波形の波形長の増大を抑えて高周波駆動を可能とする印刷装置に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-162221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような印刷装置では、インクヘッドに印加される電圧の波形に応じて、各ノズルから大きさの異なるインク液滴を吐出させることが可能である。しかしながら、第1のインク液滴を吐出するために駆動した圧電素子やインクメニスカスの振動の影響が残留することにより(残留振動)、第1のインク液滴に続いて第2のインク液滴を吐出する際の吐出動作が影響を受ける場合がある。例えば、残留振動の影響によって第2のインク液滴の吐出速度が遅くなると、第2のインク液滴が媒体に着弾する位置にずれが生じ、印刷画像が悪化するおそれがある。
【0005】
本発明は、残留振動によってインクドットの着弾位置がずれることを抑制可能な印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、インクを吐出するインクノズルを備えたインクヘッドと、基準電圧とは異なる電圧を印加して素子を振動させることによって前記インクノズルからインクドットを吐出させる制御部と、を有する印刷装置であって、前記電圧の波形として、第1サイズの前記インクドットを吐出させるための第1電圧波形と、第2サイズの前記インクドットを吐出させるための第2電圧波形と、の少なくとも2種類の波形が設定されており、前記第1電圧波形と前記第2電圧波形とでは、前記基準電圧から電圧変化を開始するタイミングが異なっている、ことを特徴とする印刷装置である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、残留振動によってインクドットの着弾位置がずれることを抑制可能な印刷装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1A及び図1Bは、印刷装置1の基本構成の説明図である。
図2】ヘッドユニット40の構成の説明図である。
図3】インクヘッド41の基本構造について説明する概略断面図である。
図4】インクヘッド41からインクドットを吐出させるために印加される電圧信号について説明する図である。
図5図4に示される電圧信号に基づいて媒体M上の各画素に形成されるインクドットについて表す図である。
図6】大きさの異なる2種類のインクドットを吐出する際の、電圧信号の電圧変化の開始タイミングとインクドットの着弾時間の変動との関係を表したグラフである。
図7】本実施形態において、インクヘッド41に印加される電圧信号について説明する図である。
図8図8A及び図8Bは、図7に示される電圧信号に基づいて媒体M上に形成されるインクドットについて表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
===実施形態===
<基本構成>
本実施形態に係る印刷装置の一例として、インクジェット式の印刷装置1について説明する。図1A及び図1Bは、印刷装置1の基本構成の説明図である。図1Aは、印刷装置1の外観の概略説明図である。図1Bは、印刷装置1のブロック図である。
【0011】
以下の説明では、キャリッジ21の移動方向を「走査方向」と呼ぶことがある。また、媒体Mの移動方向を「搬送方向」と呼び、媒体Mの供給側を「上流(上流側)」と呼び、媒体Mの排出側を「下流(下流側)」と呼ぶことがある。
【0012】
印刷装置1は、媒体M(印刷用紙、印刷フィルムなど)に画像を印刷する装置である。具体的には、印刷装置1は、インクジェットプリンタである。印刷装置1は、キャリッジユニット20と、搬送ユニット30と、ヘッドユニット40と、コントローラー60と、を有する。
【0013】
キャリッジユニット20は、キャリッジ21を走査方向に移動させるユニットである。キャリッジユニット20は、キャリッジ21と、キャリッジ用モーター22とを有する。キャリッジ21は、走査方向に往復移動する部材であり、ヘッド(後述するインクヘッド41)を搭載する。キャリッジ用モーター22は、キャリッジ21を走査方向に移動させるためのモーター(駆動部)である。
【0014】
搬送ユニット30は、媒体Mを搬送方向に搬送するユニットである。搬送対象となる媒体Mは、ロール紙のような長尺状の印刷媒体でも良いし、単票用紙でも良い。また、媒体Mは、紙に限られるものではなく、フィルムや布などでも良い。搬送ユニット30は、例えば搬送ローラー31と搬送用モーター32とを有する。搬送ローラー31は、回転することによって媒体Mを搬送方向に搬送する部材である。搬送用モーター32は、搬送ローラー31を回転させるためのモーター(駆動部)である。なお、搬送ユニット30は、搬送ローラー31を用いた構成に限られるものではない。例えば、搬送ユニット30は、搬送台(フラットベッド)を有し、この搬送台を移動させることによって媒体Mを搬送方向に搬送するように構成されても良い。
【0015】
図2は、ヘッドユニット40の構成の説明図である。ヘッドユニット40は、媒体Mに液体(インク)を吐出するためのユニットである。ヘッドユニット40は、インクヘッド41を有する。
【0016】
インクヘッド41は、インクを吐出する複数のノズル(インクノズル45)を有するヘッドである。インクは、画像(インク画像,カラー画像)を構成するドット(インクドット,インク液滴)を媒体Mに形成するための液体である。インクは、カラーインクやプロセスインクなどと呼ばれることもある液体である。インクヘッド41は、複数のインクノズル列44を有する。複数のインクノズル列44は、走査方向に並んで配置されている。本実施形態の印刷装置1において、インクヘッド41は、例えば、シアンインクを吐出するシアンインクノズル列44Cと、マゼンタインクを吐出するマゼンタインクノズル列44Mと、イエローインクを吐出するイエローインクノズル列44Yと、ブラックインクを吐出するブラックインクノズル列44Kとを有している。これら4色のインクノズル列44C,44M,44Y,44Kは、図2に示されるように走査方向に並んで配置されている。なお、インクヘッド41から吐出されるインクの色は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色に限られるものでは無い。また、複数のインクヘッド41や複数のインクノズル列44が搬送方向に並んで配置されていてもよい。
【0017】
インクノズル列44は、それぞれ搬送方向に等間隔(2×P)で並ぶ複数のノズル(インクノズル45)を有する。ここでは、各色のインクノズル列44C~44Kは、それぞれ千鳥配置された複数のノズル(インクノズル45C~45K)によって構成されている。つまり、各々のインクノズル列44は、第1ノズル群と第2ノズル群とにより構成されており、第1ノズル群は、搬送方向に所定ピッチ(2×P)で並ぶ複数のノズル(インクノズル45)を有しており、第2ノズル群は、第1ノズル群のノズル(インクノズル45)に対して搬送方向に半ピッチPだけずれた状態で搬送方向に所定ピッチ(2×P)で並ぶ複数のノズル(インクノズル45)を有している。但し、それぞれのインクノズル列44は、搬送方向に1列に並ぶ複数のインクノズル45によって構成されても良い。
【0018】
図1Bに示すように、ヘッドユニット40は、ヘッド駆動部42を有する。ヘッド駆動部42は、インクヘッド41の各ノズルからの液体(インク)の吐出/非吐出を行わせる駆動部である。本実施形態において、ヘッド駆動部42は、後述する圧電素子413(ピエゾ素子)等によって構成されている。詳細については後で説明するが、コントローラー60は、ヘッド駆動部42を制御することによって、それぞれのノズルからの液体の吐出/非吐出を制御することになる。
【0019】
また、印刷装置1には、インクヘッド41のクリーニングを行うクリーニングユニットや、インクヘッド41やインクノズル45を保護するキャップに滞留したインクを吸引するための吸引機構などが設けられていても良い(何れも不図示)。
【0020】
コントローラー60は、印刷装置1の制御を司る制御部であり、少なくとも記憶部61を有している。コントローラー60は、外部のコンピューターからの印刷指令に基づいて、印刷装置1の駆動部(キャリッジ用モーター22、搬送用モーター32等)を制御する。また、後述するように、コントローラー60は、画像印刷を行う際に、インクヘッド41の各インクノズル列44からそれぞれ所定の大きさのインクドットを吐出させる動作を制御する。
【0021】
<インクドットの吐出動作について>
続いて、印刷装置1により画像の印刷を行う際に、インクヘッド41(ヘッドユニット40)からインクドットを吐出する方法について具体的に説明する。図3は、インクヘッド41の基本構造について説明する概略断面図である。
【0022】
インクヘッド41は、ケース411と、インク流路部412と、圧電素子413とを有する。ケース411は圧電素子413を収納し、ケース411の下端部にはインク流路部412が設けられている。
【0023】
インク流路部412は、流路板412aと、弾性板412bと、ノズル板412cと、を有する。流路板412aは、インク流路部412の外装を構成すると共に、図3のように内部に溝や貫通孔が設けられることによって、圧力室412d、ノズル連通口412e、共通インク室412f、インク供給路412gを形成する。弾性板412bは、弾性(可撓性)を有する板状の部材であり、ケース411との境界に設けられている。弾性板412bのケース411側の面の一部は圧電素子413と接合されている。ノズル板412cは、インク流路部412(インクヘッド41)の下側の面を構成し、インクノズル45を形成する複数の貫通孔を有する板部材である。
【0024】
圧電素子413は、櫛歯状の複数のピエゾ素子を有し、複数のインクノズル45,45…の各々に対応して複数設けられている。圧電素子413は、コントローラー60によって所定の波形を有する電圧信号が印加されることにより、当該電圧信号の電位に応じて所定の方向に伸縮する。圧電素子413が伸縮すると、該圧電素子413の下端に接合された弾性板412bが上下に押されたり引かれたりして、圧力室412dの容積が変動し、圧力室412d内の圧力が上昇・下降する。このとき、圧力室412d内の圧力が下降すると、インクカートリッジから供給され共通インク室412fに貯留されているインクが、インク供給路412gを介して各インクノズル45に対応した圧力室412dに流入する。そして、圧力室412d内の圧力が上昇すると、圧力室412d内に充填されたインクがノズル連通口412eを介してインクノズル45から吐出される。
【0025】
図4は、インクヘッド41からインクドットを吐出させるために印加される電圧信号について説明する図である。同図4の例では、異なる3種類の電圧信号VWs,VWm,VWlが設定され、記憶部61に記憶されており、当該電圧信号の波形に応じて、夫々大きさの異なる小インクドット、中インクドット、大インクドットの3種類のインクドット(液滴)が形成される。例えば、小インクドット(以下、「Sドット」とも呼ぶ)を形成する際に印加される電圧信号VWsは、コントローラー60によって時間t=0に印加を開始されてから0.5μs後に基準電圧Vоからプラス側に電圧が上昇し、所定時間経過後に基準電圧Vоよりもマイナス側に電圧が下降している。この電圧の変動に応じて圧電素子413を伸縮させ、圧力室412d内の圧力及びインクメニスカスを制御する。すなわち、基準電圧Voとは異なる電圧を印加して圧電素子413を振動させることによって、インクノズル45から所定量のインクを吐出させ、Sドットを形成させる。
【0026】
同様に、中インクドット(以下、「Mドット」とも呼ぶ)を形成する際に印加される電圧信号VWmは、時間t=0に印加を開始されてから0.5μs後に基準電圧Vоからプラス側に電圧が上昇し、その後、複数回の電圧増減を繰り返す。これにより、インクノズル45からSドットよりも多い量のインクを吐出させ、Mドットを形成させる。また、大インクドット(以下、「Lドット」とも呼ぶ)を形成する際に印加される電圧信号VWlは、時間t=0に印加を開始されてから0.5μs後に基準電圧Vоからプラス側に電圧が上昇し、その後、複数回の電圧増減を繰り返す。これにより、インクノズル45からMドットよりもさらに多い量のインクを吐出させ、Lドットを形成させる。
【0027】
なお、図4では、説明の簡略化のため、電圧信号VWs,VWm,VWlが夫々類似した波形を有するものとしているが、各電圧信号の波形はこの限りではない。また、形成可能なインクドットの種類(サイズ)は3種類には限られない。例えば、4種類以上の電圧信号が設定され、4種類以上の大きさのインクドットが形成されるのであっても良い。
【0028】
図5は、図4に示される電圧信号に基づいて媒体M上の各画素に形成されるインクドットについて表す図である。図5Aは、インクヘッド41を走査方向の一方側から他方側に移動させながら、第1列目及び第2列目の画素にLドットを形成した直後に、第3~第5列目の画素にSドットを形成した場合について表している。すなわち、Lドットを形成した直後にSドットを形成した場合について表している。図5Bは、インクヘッド41を走査方向の一方側から他方側に移動させながら、第1列目及び第2列目の画素にLドットを形成した直後に、第3~第5列目の画素にMドットを形成した場合について表している。すなわち、Lドットを形成した直後にMドットを形成した場合について表している。
【0029】
図5Aにおいて、第3列目の画素に形成されたSドットの位置が、画素の中心から走査方向の他方側にズレている。すなわち、第2列目の画素に形成されたLドットの直後に第3列目の画素に向けて吐出されたSドットは、画素の中心からズレた位置に着弾している。同様に、図5Bにおいて、第3列目の画素に形成されたMドットの位置が、画素の中心から走査方向の他方側にズレている。すなわち、Lドットの直後に吐出されたMドットは、画素の中心からズレた位置に着弾している。
【0030】
これは、インクノズル45からLドットを吐出した際のインクメニスカスや圧電素子413の振動が残留していることによって、直後に吐出されるSドットやMドットの吐出動作が影響を受けるためである。例えば、Lドットを吐出する際には、インクメニスカス等が大きく振動することにより残留振動が生じ易くなる。そのため、SドットやMドットを吐出するために制御されるインクメニスカスの振動に、Lドットの残留振動が共振・干渉すると、SドットやMドットの吐出速度が通常よりも速くなったり遅くなったりする場合がある。この場合、電圧信号が印加されてから、インクノズル45から吐出されたインクドットが媒体Mに着弾するまでの時間(以下、「着弾時間」とも呼ぶ)が変動することによって、インクドットの着弾位置にズレを生じやすくなり、印刷画像の画質が悪化するおそれがある。
【0031】
通常、図4に示される電圧信号VWsに基づいてSドットを形成する場合、Sドットの着弾時間は約300μsである。一方、電圧信号VWlに基づいてLドットを形成(吐出)させた直後に電圧信号VWsに基づいてSドットを形成する場合、Sドットの着弾時間は約350μsとなる(後述する図6A参照)。この50μs分の遅れが、図5Aの第3列目の画素に形成されるSドットの着弾位置のズレとなる。なお、インクドットの着弾時間は、市販の飛滴観測装置(例えば、imageXpert社製jetXpert)を用いて測定することができる。
【0032】
これに対して、本実施形態では、第1サイズのインクドット(例えばLドット)を吐出させるための第1電圧波形(電圧信号VWl)と、第2サイズのインクドット(例えばSドット)を吐出させるための第2電圧波形(電圧信号VWs)とで、基準電圧Voから電圧変化を開始するタイミングを異ならせるようにしている。これにより、第1サイズのインクドットを吐出する際の残留振動が、第2サイズのインクドットの吐出動作に影響を与えることを抑制している。
【0033】
図6は、大きさの異なる2種類のインクドットを吐出する際の、電圧信号の電圧変化の開始タイミングとインクドットの着弾時間の変動との関係を表したグラフである。図6Aは、Lドットを吐出させた直後にSドットを吐出する場合に、Sドットを吐出させる電圧信号VWsにおける電圧変化の開始タイミングと、Sドットの着弾時間の変動との関係を表している。同図6Aでは、Sドットを形成する電圧信号VWsがt=0において印加開始されてからt1(μs)後に基準電圧Voから電圧変化を開始させた場合における、Sドットの着弾時間(μs)の変化の様子を表している。例えば、図4に示される電圧信号VWsと同じ波形が印加された場合(すなわち、電圧信号VWsがt1=0.5μs後に電圧変化を開始した場合)、Sドットの着弾時間は350μsとなり、通常の着弾時間300μsよりも遅くなる。一方、電圧信号VWsがt1=4.0μs後に電圧変化を開始した場合には、Sドットの着弾時間は300μsとなり、通常の着弾時間と同等となる。
【0034】
つまり、Lドットを吐出させた直後にSドットを吐出する場合、Sドットを吐出させる電圧信号VWsが印加開始されてから基準電圧Voから電圧変化を開始するまでの時間t1を所定時間(図6Aの場合4.0μs)だけ遅らせるようにする。これにより、Sドットの吐出動作が、Lドットを形成する際の残留振動の影響を受けにくくなるようにすることができる。
【0035】
なお、図6Aでは、t1=7.5μs及び10.0μsの場合にも、Sドットの着弾時間は300μsとなり、通常の着弾時間と同等となる。すなわち、Lドットを形成する際の残留振動の影響を受けにくくすることができる。ただし、t1=7.5μs,10.0μsとした場合、t1=4.0μsの場合よりもインクノズル45からSドットを吐出開始する時間が遅れるため、着弾位置がわずかにずれやすくなるおそれがある。そのため、電圧信号VWsが印加開始されてから基準電圧Voから電圧変化を開始するまでの時間t1はなるべく小さい方が好ましい。
【0036】
同様に、図6Bは、Lドットを吐出させた直後にMドットを吐出する場合に、Mドットを吐出させる電圧信号VWmにおける電圧変化の開始タイミングと、Mドットの着弾時間の変動との関係を表したグラフである。同図6Bでは、Mドットを形成する電圧信号VWmがt=0において印加開始されてからt1(μs)後に基準電圧Voから電圧変化を開始させた場合における、Mドットの着弾時間(μs)の変化の様子を表している。例えば、図4に示される電圧信号VWmと同じ波形が印加された場合(すなわち、電圧信号VWmがt1=0.5μs後に電圧変化を開始した場合)、Mドットの着弾時間は350μsとなり、通常の着弾時間300μsよりも遅くなる。一方、電圧信号VWmがt1=6.0μs後に電圧変化を開始した場合、Mドットの着弾時間は300μsとなり、通常の着弾時間と同等となる。
【0037】
つまり、Lドットを吐出させた直後にMドットを吐出する場合、Mドットを吐出させる電圧信号VWmが印加開始されてから基準電圧Voから電圧変化を開始するまでの時間t1を所定時間(図6Bの場合6.0μs)だけ遅らせるようにする。これにより、Mドットの吐出動作がLドットを形成する際の残留振動の影響を受けにくくすることができる。
【0038】
図7は、本実施形態において、インクヘッド41に印加される電圧信号について説明する図である。上述したように、種類の異なるL,M,Sドットを用いて画像を印刷する場合、Lドット吐出時の残留振動の影響により、Lドットの直後に吐出されるSドット、Mドットの吐出動作が乱れて着弾位置(着弾時間)がずれるおそれがある。そこで、Sドットを吐出させる電圧信号VWs、及びMドットを吐出させる電圧信号VWmでは、印加開始されてから基準電圧Voから電圧変化を開始するまでの時間t1を適当に調整することで、Lドット吐出時の残留振動の影響によってSドット及びMドットの吐出動作が乱されてしまうことを抑制する。具体的に、Sドットを形成する電圧信号VWsでは、基準電圧Voから電圧変化を開始する時間を電圧信号VWlより4.0μsだけ遅らせる。(t1=4.0μs)。また、Mドットを形成する電圧信号VWmでは、基準電圧Voから電圧変化を開始する時間を電圧信号VWlより6.0μsだけ遅らせる。(t1=6.0μs)。これにより、Sドット、Mドットの着弾時間のずれが抑制され、着弾位置がずれにくくなる。
【0039】
図8A及び図8Bは、図7に示される電圧信号に基づいて媒体M上に形成されるインクドットについて表す図であり、それぞれ図5A及び図5Bに対応する図である。図8Aにおいて、Sドットを吐出させる電圧信号VWsが印加開始されてから基準電圧Voから電圧変化を開始するまでの時間t1を、電圧信号VWlよりも4.0μs遅らせることにより(図7参照)、図5Aの場合と比較して第3列目の画素に形成されるSドットの位置ズレが解消されている。同様に、図8Bにおいて、Mドットを吐出させる電圧信号VWsが印加開始されてから基準電圧Voから電圧変化を開始するまでの時間t1を、電圧信号VWlよりも6.0μs遅らせることにより(図7参照)、図5Bの場合と比較して第3列目の画素に形成されるMドットの位置ズレが解消されている。
【0040】
このように、本実施形態では、第1電圧波形(例えば図7の電圧信号VWl)と第2電圧波形(例えば図7の電圧信号VWs)とで基準電圧Vоから電圧変化を開始するタイミングをずらすことによって、第1電圧波形によるインクドット吐出時の残留振動が、第2電圧波形によるインクドット吐出動作に影響し難くする。これにより、第2電圧波形によって形成されるインクドットの着弾位置がずれてしまうことが抑制され、良好な画質の画像を印刷することができる。
【0041】
そして、第1電圧波形によって形成されるインクドット(例えばLドット)が、第2電圧波形によって形成されるインクドット(例えばS,Mドット)よりも大きい場合、大きなインクドットを吐出するために、第1電圧波形によってインクメニスカス等が大きく振動する。そのため、当該大きなインクドットを吐出した後も振動が残留しやすく、後続の小さなインクドットを吐出する動作に影響を及ぼしやすい。この場合、第2電圧波形の電圧変化の開始タイミングが、第1電圧波形の電圧変化の開始タイミングよりも遅くなるようにずらすことで、第1電圧波形によるインクドット吐出時の残留振動が、第2電圧波形によるインクドット吐出動作に影響を及ぼすことを抑制できる。これにより、大きなインクドットを形成した直後に、当該大きなインクドットよりもサイズの小さいインクドットを形成する場合であっても、インクドットの着弾位置ずれが抑制され、良好な画質の画像を印刷することができる。
【0042】
特に、本実施形態では、印刷装置1によって形成される複数種類のインクドット(S,M,Lドット)のうち、第1電圧波形(図7の電圧信号VWl)によって最もサイズが大きいLドットが形成される。つまり、第1電圧波形(電圧信号VWl)によるLドット吐出時の残留振動の影響も大きくなりやすい。そのため、コントローラー60は、第2電圧波形(図7の電圧信号VWs,VWm)の電圧変化の開始タイミングを第1電圧波形よりも遅らせることで、最もサイズが大きいLドット吐出による大きな残留振動が、Lドットよりも小さなサイズのインクドットの吐出動作に影響し難くなるようにしている。これにより、各サイズのインクドットの着弾位置ずれが抑制され、良好な画質の画像を印刷することができる。
【0043】
なお、本実施形態では、Sドットを吐出させる電圧信号VWs及びMドットを吐出させる電圧信号VWmが電圧変化を開始するタイミングt1を、4.0~6.0μs遅らせていることにより、S,Mドットがインクヘッド41から吐出されるタイミングがわずかに遅くなっている。したがって、厳密に言えば、吐出が遅れる分、S,Mドットが媒体Mへ着弾する位置にずれが生じるはずである。しかしながら、4.0~6.0μs程度の遅れであれば、吐出遅れによる各ドットの着弾位置のずれは無視できる程度となる。したがって、図8のようにS,Mドットは、画素のほぼ中央部に着弾し、ユーザーが肉眼で認識できるような画質の悪化は生じ難い。
【0044】
また、第1電圧波形によってLドット(第1サイズのインクドットとする)を吐出させ、第2電圧波形によってSドット(第2サイズのインクドットとする)を吐出させ、第3電圧波形によってMドット(第3サイズのインクドットとする)を吐出させる場合、コントローラー60は、第3電圧波形の方が、第2電圧波形より基準電圧Vоから電圧変化を開始するタイミングが遅くなるようにしている。SドットとMドットとでは、着弾時間を所定の時間(300μs)に揃えるための、電圧変化の開始タイミングが異なっている。具体的に、Sドットを形成する第2電圧波形(電圧信号VWs)は、印加開始から電圧変化を開始するまでの時間を4.0μs(図6においてt1=4.0μs)としたときに、着弾時間が300μsとなる。一方、Mドットを形成する第3電圧波形(電圧信号VWm)は、印加開始から電圧変化を開始するまでの時間を6.0μs(図6においてt1=6.0μs)としたときに、着弾時間が300μsとなる。したがって、本実施形態では、第3電圧波形の方が第2電圧波形よりも基準電圧Vоから電圧変化を開始するタイミングが遅くなるようにしている。これにより、L,M,Sの各サイズのインクドットの各々について着弾時間(着弾位置)のずれが生じ難くなり、良好な画質の画像を印刷しやすくすることができる。
【0045】
なお、インクヘッド41に印加される電圧信号が基準電圧から電圧変化を開始するタイミングは、当該電圧信号に基づいてインクヘッド41から吐出されるインクドットの着弾時間を測定することによって予め決定され、所定の電圧波形として記憶部61に記憶されている。本実施形態では、上述したように、サイズの異なる複数種類のインクドットを形成する際に、各々のインクドットの着弾時間がいずれも300μsとなるように、電圧信号の電圧変化タイミングが決定されている。例えば、図6において、電圧信号VWl(第1電圧波形)に基づいてインクヘッド41から吐出されるLドットの着弾時間が300μsである場合、電圧信号VWs(第2電圧波形)に基づいてインクヘッド41から吐出されるSドットの着弾時間が300μsとなるように、電圧信号VWs(第2電圧波形)が電圧変化を開始するタイミング(t1=4.0μs)が決定される。
【0046】
すなわち、第2サイズのインクドット(SドットやMドット)の着弾時間が、第1サイズのインクドット(Lドット)の着弾時間と同じになるように、電圧信号VW(第2電圧波形)が基準電圧Vоから電圧変化を開始するタイミングを決定する。これにより、第1サイズのインクドット(例えばLドット)の直後に第2サイズのインクドット(例えばSドット)を形成する場合であっても、第2サイズのインクドット(例えばSドット)の着弾位置のずれが生じ難くなり、良好な画質の画像を印刷することができる。
【0047】
その際、電圧信号VW(第2電圧波形)が基準電圧Vоから電圧変化を開始するタイミングは、第2サイズのインクドット(例えばSドット)の着弾時間が、第1サイズのインクドット(例えばLドット)の着弾時間と同じとなる複数のタイミングのうち、最も早いタイミングであることが好ましい。例えば、図6Aにおいて、Sドットの着弾時間が300μsとなるタイミングは、t1=4.0μs,7.5μs,10.0μs…と複数存在する。このうち、最も早いタイミングであるt1=4.0μsとすることで、インクヘッド41からSドットが吐出されるタイミングの遅れの影響を最小にすることができる。これにより、Sドットの着弾位置ずれが最小となり、画質の悪化をより抑制し易くすることができる。
【0048】
なお、図6A及び図6Bでは、Sドットの着弾時間が300μsとなるタイミング(t1=4.0μs)の方が、Mドットの着弾時間が300μsとなるタイミング(t1=6.0μs)よりも早くなっているが、必ずしもこの限りでは無い。例えば、使用するインクヘッド41の構造や、インク種類及び組合せによってはMドットの方がSドットよりもタイミングが早くなる場合もある。すなわち、第1サイズのインクドット(Lドット)の残留振動等が与える影響が、第2サイズのインクドット(Sドット)及び第3サイズのインクドット(Mドット)で、それぞれどのような波形(図6で説明したようなタイミングと着弾時間の関係)になるかによって着弾時間が同じになるタイミングは異なる。したがって、コントローラー60は、Sドットを形成する電圧信号VWsの方が、Mドットを形成する電圧信号VWmよりも、基準電圧Vоから電圧変化を開始するタイミングが遅くなるようにする場合もある。
【0049】
===その他の実施形態===
上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定するものではない。上記の構成は、適宜組み合わせて実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1 印刷装置、
20 キャリッジユニット、21 キャリッジ、22 キャリッジ用モーター、
30 搬送ユニット、31 搬送ローラー、32 搬送用モーター、
40 ヘッドユニット、
41 インクヘッド、
411 ケース、
412 インク流路部、412a 流路板、412b 弾性板、412c ノズル板、
412d 圧力室、412e ノズル連通口、412f 共通インク室、
412g インク供給路、
413 圧電素子(素子)、
42 ヘッド駆動部、
44 インクノズル列、
44C シアンインクノズル列、44M マゼンタインクノズル列、
44Y イエローインクノズル列、44K ブラックインクノズル列、
45 インクノズル、
44C シアンインクノズル、44M マゼンタインクノズル、
44Y イエローインクノズル、44K ブラックインクノズル、
60 コントローラー、61 記憶部、
M 媒体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8