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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104653
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20240729BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
B41J2/165 207
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008986
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風岡 健司
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056EC03
2C056EC24
2C056EC37
2C056EC41
2C056EC54
2C056EE18
2C056FA10
(57)【要約】
【課題】インクジェットプリンタでフラッシングを行う際に、複数のノズル列のうちインクの吐出回数が少ないノズル列で待機時間が長くなってしまうことを抑制する。
【解決手段】第1ノズル列(44W)と、第2ノズル列(44C~44K)と、第1ノズル列(44W)及び第2ノズル列(44C~44K)のフラッシング時におけるインクの吐出回数を記憶する記憶部(61)と、前記吐出回数に基づいて、第1ノズル列(44W)及び第2ノズル列(44C~44K)からインクを吐出させる制御部(60)と、を有する印刷装置(1)であって、第1ノズル列(44W)についての吐出回数は、第2ノズル列(44C~44K)についての吐出回数よりも多く、制御部(60)は、フラッシング時に、第1ノズル列(44W)からインクの吐出を開始するタイミングよりも遅いタイミングで、第2ノズル列(44C~44K)からインクの吐出を開始する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルが並んだ第1ノズル列と、
インクを吐出するノズルが並んだ第2ノズル列と、
前記第1ノズル列のフラッシング時におけるインクの吐出回数、及び、前記第2ノズル列のフラッシング時におけるインクの吐出回数を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された、前記第1ノズル列についての前記吐出回数、及び前記第2ノズル列についての前記吐出回数に基づいて、前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列からインクを吐出させる制御部と、
を有する印刷装置であって、
前記第1ノズル列についての前記吐出回数は、前記第2ノズル列についての前記吐出回数よりも多く、
前記制御部は、フラッシング時に、前記第1ノズル列からインクの吐出を開始するタイミングよりも遅いタイミングで、前記第2ノズル列からインクの吐出を開始する、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記制御部は、前記第2ノズル列からインクの吐出を終了するタイミングが、前記第1ノズル列からインクの吐出を終了するタイミングと同じタイミングになるように、前記第2ノズル列からインクの吐出を開始する、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の印刷装置であって、
前記制御部は、前記第1ノズル列の前記吐出回数を複数回に分けて、前記第1ノズル列からインクを吐出させる、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項3に記載の印刷装置であって、
複数回に分けられた前記第1ノズル列の前記吐出回数のうち、最後の回の前記吐出回数は、前記第2ノズル列の前記吐出回数と等しい、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の印刷装置であって、
前記第1ノズル列から吐出されるインクは、前記第2ノズル列から吐出されるインクよりも比重が大きいインクである、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
請求項5に記載の印刷装置であって、
前記第1ノズル列から吐出されるインクは、酸化チタン顔料を含んだインクである、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載の印刷装置であって、
前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列は、前記ノズルが並んだ方向と交差する方向に隣り合う第1ノズル群と第2ノズル群とをそれぞれ有しており、
前記制御部は、フラッシング時に、前記第1ノズル群からインクを吐出させるタイミングと異なるタイミングで、前記第2ノズル群からインクを吐出させる、ことを特徴とする印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットプリンタを用いて印刷を行う際に、インクによるノズル列の目詰まり等の影響を抑制するために、ノズル列からインクを所定回数吐出させるフラッシングに関する技術が知られている。例えば、特許文献1には、インクを吐出するノズル列を奇数ノズル列と偶数ノズル列とに区分して、奇数ノズル列と偶数ノズル列とを交互に切り替えながらフラッシングを行うことによって、全体としてフラッシング動作を効率的に行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-262551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フラッシング時にノズル列からインクを吐出する回数(発数)は、ノズル列ごとに異なっている。例えば、沈降しやすい顔料を多く含むインクを吐出するノズル列では、他のインクを吐出するノズル列よりも吐出回数が多く設定される場合がある。そして、そのような複数のノズル列についてフラッシングを行う際に、同じタイミングでフラッシングが開始されると、インクの吐出回数が少なく設定されたノズル列では、インクの吐出回数が多く設定されたノズル列よりも先にフラッシングが終了する。この場合、インクの吐出回数が少なく設定されたノズル列の待機時間が長くなり、待機中にインクが乾燥してノズルの目詰まりやインク液滴の飛翔曲がりが生じる等、インク吐出動作が不安定になるおそれがある。
【0005】
本発明は、インクジェットプリンタでフラッシングを行う際に、複数のノズル列のうちインクの吐出回数が少ないノズル列で待機時間が長くなってしまうことを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、インクを吐出するノズルが並んだ第1ノズル列と、インクを吐出するノズルが並んだ第2ノズル列と、前記第1ノズル列のフラッシング時におけるインクの吐出回数、及び、前記第2ノズル列のフラッシング時におけるインクの吐出回数を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された、前記第1ノズル列についての前記吐出回数、及び前記第2ノズル列についての前記吐出回数に基づいて、前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列からインクを吐出させる制御部と、を有する印刷装置であって、前記第1ノズル列についての前記吐出回数は、前記第2ノズル列についての前記吐出回数よりも多く、前記制御部は、フラッシング時に、前記第1ノズル列からインクの吐出を開始するタイミングよりも遅いタイミングで、前記第2ノズル列からインクの吐出を開始する、ことを特徴とする印刷装置である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクジェットプリンタでフラッシングを行う際に、複数のノズル列のうちインクの吐出回数が少ないノズル列で待機時間が長くなってしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1A及び図1Bは、印刷装置1の基本構成の説明図である。
図2】ヘッドユニット40の構成の説明図である。
図3】インクヘッド41の基本構造について説明する概略断面図である。
図4】インクヘッド41からインクドットを吐出させるために印加される電圧信号の一例について説明する図である。
図5】従来のフラッシング時の動作条件について説明する表である。
図6図6A及び図6Bは、本実施形態におけるフラッシング時の動作条件について説明する表である。
図7】本実施形態におけるフラッシング時の動作条件の変形例について説明する表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
===実施形態===
<基本構成>
本実施形態に係る印刷装置の一例として、インクジェット式の印刷装置1について説明する。図1A及び図1Bは、印刷装置1の基本構成の説明図である。図1Aは、印刷装置1の外観の概略説明図である。図1Bは、印刷装置1のブロック図である。
【0011】
以下の説明では、キャリッジ21の移動方向を「走査方向」と呼ぶことがある。また、媒体Mの移動方向を「搬送方向」と呼び、媒体Mの供給側を「上流(上流側)」と呼び、媒体Mの排出側を「下流(下流側)」と呼ぶことがある。
【0012】
印刷装置1は、媒体M(印刷用紙、印刷フィルムなど)に画像を印刷する装置である。具体的には、印刷装置1は、インクジェットプリンタである。印刷装置1は、キャリッジユニット20と、搬送ユニット30と、ヘッドユニット40と、コントローラー60と、を有する。
【0013】
キャリッジユニット20は、キャリッジ21を走査方向に移動させるユニットである。キャリッジユニット20は、キャリッジ21と、キャリッジ用モーター22とを有する。キャリッジ21は、走査方向に往復移動する部材であり、ヘッド(後述するインクヘッド41)を搭載する。キャリッジ用モーター22は、キャリッジ21を走査方向に移動させるためのモーター(駆動部)である。
【0014】
搬送ユニット30は、媒体Mを搬送方向に搬送するユニットである。搬送対象となる媒体Mは、ロール紙のような長尺状の印刷媒体でも良いし、単票用紙でも良い。また、媒体Mは、紙に限られるものではなく、フィルムや布などでも良い。搬送ユニット30は、例えば搬送ローラー31と搬送用モーター32とを有する。搬送ローラー31は、回転することによって媒体Mを搬送方向に搬送する部材である。搬送用モーター32は、搬送ローラー31を回転させるためのモーター(駆動部)である。なお、搬送ユニット30は、搬送ローラー31を用いた構成に限られるものではない。例えば、搬送ユニット30は、搬送台(フラットベッド)を有し、この搬送台を移動させることによって媒体Mを搬送方向に搬送するように構成されても良い。
【0015】
図2は、ヘッドユニット40の構成の説明図である。ヘッドユニット40は、媒体Mに液体(インク)を吐出するためのユニットである。ヘッドユニット40は、インクヘッド41を有する。
【0016】
インクヘッド41は、インクを吐出する複数のノズル(インクノズル45)を有するヘッドである。インクは、画像(インク画像,カラー画像)を構成するドット(インクドット,インク液滴)を媒体Mに形成するための液体である。インクは、カラーインクやプロセスインクなどと呼ばれることもある液体である。インクヘッド41は、複数のインクノズル列44を有する。複数のインクノズル列44は、走査方向に並んで配置されている。本実施形態の印刷装置1において、インクヘッド41は、例えば、ホワイトインクを吐出するホワイトインクノズル列44Wと、シアンインクを吐出するシアンインクノズル列44Cと、マゼンタインクを吐出するマゼンタインクノズル列44Mと、イエローインクを吐出するイエローインクノズル列44Yと、ブラックインクを吐出するブラックインクノズル列44Kとを有している。これらのインクノズル列44W,44C,44M,44Y,44Kは、図2に示されるように走査方向に並んで配置されている。なお、インクヘッド41から吐出されるインクの色は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色に限られるものでは無い。また、複数のインクヘッド41や複数のインクノズル列44が搬送方向に並んで配置されていてもよい。
【0017】
インクノズル列44は、それぞれ搬送方向に等間隔(2×P)で並ぶ複数のノズル(インクノズル45)を有する。ここでは、各色のインクノズル列44W~44Kは、それぞれ千鳥配置された複数のノズル(インクノズル45W~45K)によって構成されている。そして、各色のインクノズル列44は、それぞれ走査方向の左側から右側に向かって並んで配置された第1~第4ノズル群により構成されている。例えば、ホワイトインクノズル列44Wは、第1ノズル群44Waと、第2ノズル群44Wbと、第3ノズル群44Wcと、第4ノズル群44Wdの4つのノズル群を備えている。第1ノズル群44Waは、搬送方向に所定ピッチ(2×P)で並ぶ複数のノズル(インクノズル45Wa)を有しており、第2ノズル群44Wbは、第1ノズル群44Waのノズル(インクノズル45Wa)に対して搬送方向に半ピッチPだけずれた状態で搬送方向に所定ピッチ(2×P)で並ぶ複数のノズル(インクノズル45Wb)を有している。他のインクノズル列44C,44M,44Y,44Kについても同様である(図2参照)。
【0018】
但し、それぞれのインクノズル列44W~44Kに含まれるノズル群の構成はこの限りでは無い。例えば、一列のノズル群のみによってインクノズル列44が構成されていても良いし、2列のノズル群や6列以上のノズル群によってインクノズル列44が構成されていても良い。
【0019】
図1Bに示すように、ヘッドユニット40は、ヘッド駆動部42を有する。ヘッド駆動部42は、インクヘッド41の各ノズルからの液体(インク)の吐出/非吐出を行わせる駆動部である。本実施形態において、ヘッド駆動部42は、後述する圧電素子413(ピエゾ素子)等によって構成されている。詳細については後で説明するが、コントローラー60は、ヘッド駆動部42を制御することによって、それぞれのノズルからの液体の吐出/非吐出を制御することになる。
【0020】
また、印刷装置1には、インクヘッド41のクリーニングを行うクリーニングユニットや、インクヘッド41やインクノズル45を保護するキャップに滞留したインクを吸引するための吸引機構などが設けられていても良い(何れも不図示)。
【0021】
コントローラー60は、印刷装置1の制御を司る制御部であり、少なくとも記憶部61を有している。コントローラー60は、外部のコンピューターからの印刷指令に基づいて、印刷装置1の駆動部(キャリッジ用モーター22、搬送用モーター32等)を制御する。また、後述するように、コントローラー60は、画像印刷を行う際に、インクヘッド41の各インクノズル列44からそれぞれ所定の大きさのインクドットを吐出させる動作を制御する。
【0022】
<インクドットの吐出動作について>
続いて、印刷装置1により画像の印刷を行う際に、インクヘッド41(ヘッドユニット40)からインクドットを吐出する方法について具体的に説明する。図3は、インクヘッド41の基本構造について説明する概略断面図である。
【0023】
インクヘッド41は、ケース411と、インク流路部412と、圧電素子413とを有する。ケース411は圧電素子413を収納し、ケース411の下端部にはインク流路部412が設けられている。
【0024】
インク流路部412は、流路板412aと、弾性板412bと、ノズル板412cと、を有する。流路板412aは、インク流路部412の外装を構成すると共に、図3のように内部に溝や貫通孔が設けられることによって、圧力室412d、ノズル連通口412e、共通インク室412f、インク供給路412gを形成する。弾性板412bは、弾性(可撓性)を有する板状の部材であり、ケース411との境界に設けられている。弾性板412bのケース411側の面の一部は圧電素子413と接合されている。ノズル板412cは、インク流路部412(インクヘッド41)の下側の面を構成し、インクノズル45を形成する複数の貫通孔を有する板部材である。
【0025】
圧電素子413は、櫛歯状の複数のピエゾ素子を有し、複数のインクノズル45,45…の各々に対応して複数設けられている。圧電素子413は、コントローラー60によって所定の波形を有する電圧信号が印加されることにより、当該電圧信号の電位に応じて所定の方向に伸縮する。圧電素子413が伸縮すると、該圧電素子413の下端に接合された弾性板412bが上下に押されたり引かれたりして、圧力室412dの容積が変動し、圧力室412d内の圧力が上昇・下降する。このとき、圧力室412d内の圧力が下降すると、インクカートリッジから供給され共通インク室412fに貯留されているインクが、インク供給路412gを介して各インクノズル45に対応した圧力室412dに流入する。そして、圧力室412d内の圧力が上昇すると、圧力室412d内に充填されたインクがノズル連通口412eを介してインクノズル45から吐出される。
【0026】
図4は、インクヘッド41からインクドットを吐出させるために印加される電圧信号の一例について説明する図である。印刷装置1では、図4に示さるような波形を有する電圧信号VWが記憶部61に記憶されており、当該電圧信号VWの波形に応じて、所定量のインクが媒体Mに向けて吐出され、吐出されたインクは媒体Mに向かって飛翔しながらドット(液滴)を形成し、媒体Mに着弾することで画像を形成する。例えば、図4の電圧信号VWは、コントローラー60によって時間t=0に印加を開始されてからt=t1(μs)においてに基準電圧Vоからプラス側に電圧が上昇し、t=t2(μs)に基準電圧Vоよりもマイナス側に電圧が下降し、その後、複数回の電圧増減を繰り返す。この電圧の変動に応じて圧電素子413を伸縮させ、圧力室412d内の圧力及びインクメニスカスを制御する。すなわち、基準電圧Voとは異なる電圧を印加して圧電素子413を振動させることによって、インクノズル45から所定量のインクを吐出させる。そして、電圧信号VWの波形を適当に変更することにより、吐出されるインクの量や吐出タイミングを調整することができる。
【0027】
<フラッシング動作について>
インクジェットプリンタを用いて画像の印刷を行う際に、インクヘッドのうち或る色を吐出するノズル列に、異物が付着していた場合、当該ノズル列におけるインクの吐出動作が不安定になって、印刷画像の画質が悪化する場合がある。例えば、ノズル列を構成しているインクノズルに異物が付着する等によってインクノズルの一部が閉塞されている場合、吐出されるインクの量が少なくなったり、吐出後のインクドットの飛翔軌道が曲がって媒体Mへの着弾位置がずれたりして、正確な画像を形成できなくなるおそれがある。そこで、適当なタイミングで、各ノズル列(インクノズル)からインクを吐出させる「フラッシング」を実施し、ノズル列に付着した異物等を取り除き、各ノズル列が正確にインクを吐出することが可能な状態とする必要がある。
【0028】
本実施形態の印刷装置1でフラッシングを実施する場合、コントローラー60(制御部)は、図4で説明したような電圧信号(電圧波形)を各インクノズル列44(インクノズル45)に繰り返し印加することにより、インクノズル列44(インクノズル45)からインクを所定回数吐出させることによって異物等の除去を行う。
【0029】
ところで、インクヘッド41には複数のインクノズル列44W~44Kが設けられていることを説明したが、フラッシングを実施する際に各インクノズル列44W~44Kからインクを吐出させる回数(「発数」とも言う)は、インクノズル列44毎にそれぞれ設定されており、予め記憶部61に記憶されている。例えば、CMYKインクを吐出するCMYKインクノズル列44C~44Kの吐出回数(発数)は、それぞれ8000発程度に設定される。
【0030】
これに対して、ホワイトインクを吐出するホワイトインクノズル列44Wの吐出回数(発数)は、CMYKインクノズル列44C~44Kの吐出回数(発数)よりも多く設定され、例えば160000発程度に設定される。これは、ホワイトインクとCMYKインクとの物性の違いによる。一般に、ホワイトインクには「白色」の顔料として酸化チタンが含まれる場合が多い。酸化チタンは、CMYKインクに含まれる色材よりも比重が大きいため、インクヘッド41のノズル連通口412e等の内部に沈降したり増粘したりして、インクノズル45Wの詰まりの原因となりやすい(図3参照)。そのため、CMYKインクノズル列44C~44Kよりも発数を多くすることによって、ホワイトインクノズル列44W(ホワイトインクノズル45W)の詰まりを抑制する必要がある。
【0031】
なお、ホワイトインクノズル列44Wを例に挙げて説明したが、ホワイトインク以外の液体(例えば、プライマーや処理液等)を吐出するインクノズル列44が設けられており、当該インクノズル列44についてもフラッシングを実施する必要がある場合は、各インクノズル列44について最適な吐出回数(発数)が設定される。
【0032】
図5は、従来のフラッシング時の動作条件について説明する表である。上述したように、ホワイトインクノズル列44Wにおけるフラッシング発数を160000発とする場合、発数が多いため、複数回に分けてホワイトインクノズル列44Wのフラッシングを行う。図5では、4回に分けてフラッシング動作を行っている。具体的に、第1回目の動作では、ホワイトインクノズル列44Wのうち、第1ノズル群44Wa及び第3ノズル群44Wcの2列のノズル群から40000発のインク吐出を行う。次いで、第2回目の動作で、ホワイトインクノズル列44Wのうち、第2ノズル群44Wbと第4ノズル群44Wdの2列のノズル群から40000発のインク吐出を行う。そして、第3回目及び第4回目では、それぞれ第1回目及び第2回目の動作を繰り返す。
【0033】
なお、本実施形態のインクヘッド41のように、或るインクノズル列44が、複数のノズル群を備えている場合には、走査方向に隣り合う2つのノズル群(例えば、図2における第1ノズル群44Wa及び第2ノズル群44Wb)から、同じタイミングでインクが吐出されないようにすると良い。仮に、走査方向に隣り合うノズル群から同時にインクが吐出された場合、当該隣り合うノズル群の間の狭い空間で気流が乱れやすくなり、吐出されたインクがミスト化してしまう場合がある。この場合、ミスト化したインクがインクノズル等に付着して新たなノズル詰まりの原因となるおそれがある。これに対して、第1ノズル群44Waからインクを吐出させるタイミングと、隣り合う第2ノズル群Wbからインクを吐出させるタイミングとを異ならせることで、両ノズル群の間で気流の乱れが生じ難くなり、ミストの発生を抑制することができる。
【0034】
また、図5では、ホワイトインクノズル列44W以外の他のインクノズル列44C~44Kについて、2回に分けてフラッシング動作を行っている。具体的に、第1回目の動作では、CMYKインクノズル列44C~44Kについて、それぞれノズル群44Ca~44Ka及びノズル群44Cc~44Kcの2列のノズル群から4000発ずつインク吐出を行う。次いで、第2回目の動作で、それぞれノズル群44Cb~44Kb及びノズル群44Cd~44Kdの2列のノズル群から4000発ずつインク吐出を行う。
【0035】
このような動作により、インクヘッド41に含まれる各色インクノズル列44W,44C~44Kについて、フラッシングが実施される。しかしながら、図5の方法では、CMYKインクノズル列44C~44Kのフラッシングが、ホワイトインクノズル列44Wのフラッシングよりも早く終了するため、CMYKインクノズル列44C~44Kは、ホワイトインクノズル列44Wのフラッシングが終了するまで待機している時間長くなる。例えば、図5の場合、CMYKインクノズル列44C~44Kのうち、a列及びc列のノズル群は、第1回目の動作で4000発のインクを吐出した後、第2~3回目の動作でホワイトインクノズル列44Wから合計120000発のインクが吐出されるまで、長時間(例えば8秒以上)待機している必要がある。
【0036】
この場合、CMYKインクノズル列44C~44Kでは、待機している間にインクノズル45の内部でインクが乾燥したり増粘したりしやすくなり、インクノズル45の詰まりが生じるおそれがある。すなわち、インクの吐出回数(発数)が少なく、先にフラッシングを終了したインクノズル列(44C~44K)では、インクの吐出回数(発数)が多いノズル列(44W)のフラッシングが完了するまでの待機時間が長くなることにより、インク吐出が不安定になるおそれがある。
【0037】
これに対して、本実施形態では、ホワイトインクノズル列44Wと、それ以外のインクノズル列44C~44Kとで、フラッシングを開始するタイミングを異ならせることにより、ホワイトインクノズル列44W以外のインクノズル列において待機時間が長くなってしまうことを抑制している。図6A及び図6Bは、本実施形態におけるフラッシング時の動作条件について説明する表である。
【0038】
図6Aでは、第1回目及び第2回目の動作において、ホワイトインクノズル列44W(以下「第1ノズル列」とも呼ぶ)のみからインクが吐出され、ホワイトインクノズル列44W以外のインクノズル列44C~44K(以下「第2ノズル列」とも呼ぶ)からはインクが吐出されない。そして、第3回目及び第4回目の動作において、ホワイトインクノズル列44W(第1ノズル列)、及び、それ以外のインクノズル列44C~44K(第2ノズル列)からインクが吐出される。つまり、コントローラー60は、インクの吐出回数(発数)が多い第1ノズル列からインクの吐出を開始するタイミングよりも遅いタイミングで、インクの吐出回数(発数)が少ない第2ノズル列からインクの吐出を開始させるようにする。
【0039】
図6Aの場合、第1回目及び第2回目の動作において第1ノズル列から80000発分のインク吐出が終了した後で、第2ノズル列のインク吐出が開始されることになる。したがって、図5のフラッシング動作と比較して、第2ノズル列のフラッシングが終了してから、第1ノズル列のフラッシングが終了するまで待機している時間を短くすることができる。
【0040】
また図6Bでは、第1回目の動作において、第1ノズル列(a列及びc列のノズル群)からインクの吐出を開始するタイミングに遅れて、第2ノズル列(a列及びc列のノズル群)からインクの吐出を開始する。同様に、第2回目の動作において、第1ノズル列(b列及びd列のノズル群)からインクの吐出を開始するタイミングに遅れて、第2ノズル列(b列及びd列のノズル群)からインクの吐出を開始する。図6Bの場合でも、図5のフラッシング動作と比較して、第2ノズル列のフラッシングが終了してから、第1ノズル列のフラッシングが終了するまで待機している時間を短くすることができる。
【0041】
なお、各ノズル列からインクの吐出を開始するタイミングは、コントローラー60によって、各ノズル列に設けられた圧電素子413(ヘッド駆動部42)に印加される電圧信号の印加タイミングを変更することによって(図3及び図4参照)、調整することができる。
【0042】
このような動作により、インクヘッド41のフラッシングを行う際に、第1ノズル列と、第1ノズル列よりもインクの吐出回数が少ない第2ノズル列とで、フラッシング終了時の時間差を小さくすることができる。したがって、第2ノズル列では、フラッシングが終了してから、第1ノズル列のフラッシングが終了するまで待機している時間が短くなり、インクが乾燥したり増粘したりし難くなり、インク吐出が不安定になってしまうことを抑制できる。
【0043】
図7は、本実施形態におけるフラッシング時の動作条件の変形例について説明する表である。図7の変形例では、インクヘッド41のフラッシングを6回の動作に分けて行っている。第1回目~第4回目の動作では、ホワイトインクノズル列44W(第1ノズル列)から合計152000発のインクドットを吐出して、第5回目及び第6回目の動作で、ホワイトインクノズル列44W(第1ノズル列)及びCMYKインクノズル列44C~44K(第2ノズル列)から、それぞれ8000発のインクドットを吐出する。この吐出動作では、第5回目及び第6回目の動作において、第1ノズル列と第2ノズル列とが同じタイミングでフラッシングを終了することになる。すなわち、第1ノズル列からインク吐出を開始するタイミングに遅れて第2ノズル列からインク吐出を開始するのに加えて、第1ノズル列からインクの吐出を終了するタイミングと、第2ノズル列からインクの吐出を終了するタイミングとが同じになるように、インク吐出タイミングが調整される。
【0044】
これにより、第1ノズル列と、第1ノズル列よりもインクの吐出回数が少ない第2ノズル列とで、フラッシング終了時の時間差をより小さくすることができる。したがって、第2ノズル列では、フラッシングが終了してから、第1ノズル列のフラッシングが終了するまで待機している時間がより短くなり、インク吐出が不安定になることをより抑制しやすくすることができる。
【0045】
また、フラッシングを行う際に、第1ノズル列のインクの吐出回数(発数)が第2ノズル列のインクの吐出回数(発数)よりも多く設定されている場合には、図6A図7で説明したように、第1ノズル列のインクの吐出回数(発数)を複数回に分けて吐出することにより、第2ノズル列のインク吐出開始タイミングを調整しやすくすることができる。例えば、図6Aでは、ホワイトインクノズル列44W(第1ノズル列)のうちa列及びc列のノズル群の発数を2回(図6Aの第1回目及び第3回目の動作)に分けてフラッシングを行っている。この場合、CMYKインクノズル列44C~44K(第2ノズル列)のインク吐出開始タイミングを第1ノズル列の2回目(図6Aの第3回目の動作)の吐出タイミングに合わせることで、第1ノズル列の1回目(図6Aの第1回目の動作)の吐出タイミングに合わせるよりも簡単かつ効率的に第2ノズル列の待機時間を短くすることができる。
【0046】
さらに、図7では、ホワイトインクノズル列44W(第1ノズル列)のうちa列及びc列のノズル群の発数を3回(図7の第1回目、第3回目、及び第5回目の動作)に分けてフラッシングを行っている。このとき、複数に分けられた吐出回数(発数)のうち最後の回(図7の第5回目の動作)の吐出回数(発数)を、CMYKインクノズル列44C~44K(第2ノズル列)のうちa列及びc列のノズル群の発数と等しくすると良い。すなわち、発数が多い第1ノズル列と、発数が少ない第2ノズル列とで、最後の回の発数が等しくなるようにすると良い。このようにすれば、第1ノズル列からインクの吐出を終了するタイミングと、第2ノズル列からインクの吐出を終了するタイミングとを正確に揃えやすくなり、第2ノズル列の待機時間をゼロに近づけることができる。
【0047】
このような吐出動作は、第1ノズル列から吐出されるインクが、第2ノズル列から吐出されるインクよりも比重が大きい場合に好適である。比重の大きいインクは、比重の小さいインクと比較して、インクノズル45の内部で顔料等の成分が沈降しやすく、インクノズル45を閉塞させやすい。そのため、比重の大きいインクを吐出する第1ノズル列では、比重の小さいインクを吐出する第2ノズル列よりもフラッシング時の発数を多くする必要が生じ、第1ノズル列と第2ノズル列とでフラッシングを開始してから完了するまでの時間差が大きくなり、第2ノズル列の待機時間が長くなやすい。そこで、本実施形態のように、それぞれ比重の異なる2種類以上のインクを吐出する第1ノズル列と第2ノズル列とを備えたインクヘッド41において、第2ノズル列のフラッシング開始タイミングを第1ノズル列よりも遅らせることで、第2ノズル列の待機時間が長くなることが抑制され、印刷画像の画質悪化等の問題を生じ難くすることができる。
【0048】
特に、本実施形態の第1ノズル列から吐出されるインクは、酸化チタン顔料を含んだ白インクであり、第2ノズル列から吐出されるCMYKインクと比較して、比重が重くインクノズル45内で顔料が沈降しやすい。そのため、第1ノズル列に設定されるフラッシング時の発数(図6においては、160000発)と、第2ノズル列に設定されるフラッシング時の発数(図6においては、8000発)との差が大きくなり、第1ノズル列と第2ノズル列とでフラッシングを開始してから完了するまでの時間差がより大きくなる。そこで、本実施形態のように第2ノズル列のフラッシング開始タイミングを第1ノズル列よりも遅らせることで、第2ノズル列の待機時間が長くなることが抑制され、印刷画像の画質悪化等の問題を生じ難くすることができる。
【0049】
===その他の実施形態===
上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定するものではない。上記の構成は、適宜組み合わせて実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1 印刷装置、
20 キャリッジユニット、21 キャリッジ、22 キャリッジ用モーター、
30 搬送ユニット、31 搬送ローラー、32 搬送用モーター、
40 ヘッドユニット、
41 インクヘッド、
411 ケース、
412 インク流路部、412a 流路板、412b 弾性板、412c ノズル板、
412d 圧力室、412e ノズル連通口、412f 共通インク室、
412g インク供給路、
413 圧電素子(素子)、
42 ヘッド駆動部、
44 インクノズル列、
44M ホワイトインクノズル列(第1ノズル列)、
44C シアンインクノズル列(第2ノズル列)、44M マゼンタインクノズル列、
44Y イエローインクノズル列、44K ブラックインクノズル列、
45 インクノズル、
44C シアンインクノズル、44M マゼンタインクノズル、
44Y イエローインクノズル、44K ブラックインクノズル、
60 コントローラー、61 記憶部、
M 媒体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7