(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104656
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】生分解性モノフィラメント
(51)【国際特許分類】
D01F 6/62 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
D01F6/62 305Z
D01F6/62 302E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008991
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 正人
(72)【発明者】
【氏名】畑野 貴典
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035DD14
4L035EE08
4L035EE20
4L035HH01
(57)【要約】
【課題】本発明は、土壌中において生分解性に優れるモノフィラメントを提供する。
【解決手段】本発明は、ポリマー成分を含有する生分解性モノフィラメントであって、前記ポリマー成分が、ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)を85重量%以上含有し、前記ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)を構成するヒドロキシカルボン酸のモル比率が、3―ヒドロキシブチレート/3―ヒドロキシヘキサノエート=80/20~99/1の範囲であり、繊度が15~3000dtexの範囲である、生分解性モノフィラメントである。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー成分を含有する生分解性モノフィラメントであって、
前記ポリマー成分が、ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)を85重量%以上含有し、
前記ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)を構成するヒドロキシカルボン酸のモル比率である3―ヒドロキシブチレート/3―ヒドロキシヘキサノエートが、80/20~99/1の範囲であり、
繊度が15~3000dtexの範囲である、生分解性モノフィラメント。
【請求項2】
引張強度が、0.5~6.0cN/dtexである、請求項1に記載の生分解性モノフィラメント。
【請求項3】
ISO17556試験における210日後の分解率が60%以上の範囲である、請求項1又は2に記載の生分解性モノフィラメント。
【請求項4】
温度80℃湿度90%の恒温恒湿試験前後の糸強度比率であって下記式で求められる糸強度比率が、70%以上である、請求項1又は2に記載の生分解性モノフィラメント。
糸強度比率(%) = 前記恒温恒湿試験に82時間晒された後のモノフィラメントの強度/前記恒温恒湿試験前のモノフィラメントの強度×100%
【請求項5】
前記ポリマー成分が、前記ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)以外の他の生分解性樹脂を更に含有し、
前記ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)と前記他の生分解性樹脂とが混合されて紡糸された、請求項1又は2に記載の生分解性モノフィラメント。
【請求項6】
前記他の生分解性樹脂が、ポリカプロラクトンを含有する、請求項5に記載の生分解性モノフィラメント。
【請求項7】
前記ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)100重量部に対して、ペンタエリスリトールを0.1~4重量部、脂肪酸アミドを0.1~4重量部含む、請求項1又は2に記載の生分解性モノフィラメント。
【請求項8】
重量平均分子量が5万~250万の範囲にある、請求項1又は2に記載の生分解性モノフィラメント。
【請求項9】
前記重量平均分子量が10万~40万の範囲にある、請求項8に記載の生分解性モノフィラメント。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の生分解性モノフィラメントで形成された、組紐。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の生分解性モノフィラメントで形成された、テープ。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の生分解性モノフィラメントで形成された、農業用誘引ネット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性モノフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
誘引紐は、蔓性植物(例えば、長芋、きゅうりなど)の栽培に際し、蔓を誘引紐に絡みつかせて蔓性植物の成長を助けるものである。誘引紐は、ポリオレフィン系素材を含むモノフィラメントで形成されている。
蔓は誘引紐に絡みつくため、蔓と誘引紐とを分離ができないことがあり、蔓性植物の収穫後には、従来、誘引紐は蔓とともに野焼きされていた。
しかし、野焼きが条例により禁止されている地域が増加しており、野焼きが禁止されている地域では、誘引紐を焼却場で処分することが必要となる。その結果、処理コストが高額となるという問題がある。
そのようなことから、生分解性のポリ乳酸で形成された誘引紐が開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポリ乳酸は、畑に漉き込んでも十分に分解できないため、コンポスト条件での生分解が必要となり、また、コンポスト中でも生分解に時間がかかってしまう。
そういったことから、土壌中での生分解性に優れるモノフィラメントが求められ得る。
【0005】
そこで、本発明は、土壌中において生分解性に優れるモノフィラメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリマー成分を含有する生分解性モノフィラメントであって、
前記ポリマー成分が、ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)を85重量%以上含有し、
前記ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)を構成するヒドロキシカルボン酸のモル比率が、3―ヒドロキシブチレート/3―ヒドロキシヘキサノエート=80/20~99/1の範囲であり、
繊度が15~3000dtexの範囲である、生分解性モノフィラメントに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、土壌中において生分解性に優れるモノフィラメントを提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】加水分解促進試験(ジャングルテスト))でのSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0010】
本実施形態に係る生分解性モノフィラメントは、ポリマー成分を含有するモノフィラメントである。
前記ポリマー成分は、ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)を85重量%以上含有する。
前記ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)を構成するヒドロキシカルボン酸のモル比率は、3―ヒドロキシブチレート/3―ヒドロキシヘキサノエート=80/20~99/1の範囲である。
本実施形態に係るモノフィラメントの繊度は、15~3000dtexの範囲である。
【0011】
本実施形態に係るモノフィラメントは、ポリマー成分を含有するポリマー組成物が糸状に形成されたものである。
前記ポリマー組成物は、添加剤を更に含有してもよい。
【0012】
前記ポリマー成分は、ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)(以下、「P3HB3HH」ともいう。)を85重量%以上100重量%以下含有し、好ましくは90重量%以上100重量%以下含有する。
前記ポリマー成分は、P3HB3HHを85重量%以上含有することにより、モノフィラメントが土壌中において生分解性に優れたものとなる。
なお、該土壌は、海、河川、湖沼などの底にある底質も含む概念である。
【0013】
また、前記ポリマー成分は、P3HB3HHを85重量%以上含有することにより、耐加水分解性に優れたものとなる。P3HB3HHは、ポリ乳酸と同様に、加水分解されるエステル結合を有するが、P3HB3HHは、ポリ乳酸に比べて、エステル結合間の炭素数が多いことにより、耐加水分解性に優れたものとなっていると考えられる。
【0014】
前記P3HB3HHは、優れた生分解性と成型加工性を有する。
なお、本実施形態における「生分解性」とは、自然界において微生物によって低分子化合物に分解され得る性質をいう。具体的には、好気条件ではISO 14855(compost)及びISO 14851(activated sludge)、嫌気条件ではISO 14853(aqueous phase)及びISO 15985(solid phase)等、各環境に適合した試験に基づいて生分解性の有無が判断できる。また、海水中における微生物の分解性については、生物化学的酸素要求量(Biochemical oxygen demand)の測定により評価できる。
【0015】
前記P3HB3HHを構成するヒドロキシカルボン酸のモル比率である3―ヒドロキシブチレート/3―ヒドロキシヘキサノエートは、80/20~99/1の範囲であり、好ましくは85/15~98/2の範囲であり、より好ましくは90/10~97/3の範囲である。
3―ヒドロキシヘキサノエートに対する3―ヒドロキシブチレートのモル比率(3―ヒドロキシブチレート/3―ヒドロキシヘキサノエート)が、80/20以上であることにより、本実施形態に係るモノフィラメントの剛性が高くなる。
3―ヒドロキシヘキサノエートに対する3―ヒドロキシブチレートのモル比率(3―ヒドロキシブチレート/3―ヒドロキシヘキサノエート)が、99/1以下であることにより、本実施形態に係るモノフィラメントが加工性に優れたものとなる。
【0016】
前記P3HB3HHの重量平均分子量は、好ましくは5万~250万、より好ましくは7万~100万、さらに好ましくは10万~40万である。
前記P3HB3HHの重量平均分子量が250万以下であることにより、ノズル押出による紡糸によりモノフィラメントを得る際の生産性を向上しやすくなる。
前記P3HB3HHの重量平均分子量が5万以上であることにより、モノフィラメントの物性(モノフィラメントの強度等)が向上される。
求められる「生産性」及び「モノフィラメントの物性」に合わせて、最適な重量平均分子量のP3HB3HHを用いることができる。
【0017】
なお、本実施形態における重量平均分子量は、クロロホルム溶離液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算分子量分布より測定されたものをいう。当該GPCにおけるカラムとしては、前記分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
例えば、カラム温度は40℃とし、対象物質3mgをクロロホルム2mlに溶解したものを10μl注入し、クロロホルム溶離液(移動相)の流量を1.0ml/分にして、重量平均分子量(Mw)を求めることができる。GPC装置としてLC-10Aシステム(島津製作所製)を使用し、カラムとしてGPCK-806M(昭和電工製)を使用することができる。
【0018】
P3HB3HHを製造する方法としては特に限定されないが、例えば、P3HB3HH産生能を有する微生物によりP3HB3HHを産生させる方法が挙げられる。
P3HB3HH生産菌としては、P3HB3HHの生産性を上げるためにP3HA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bacteriol.,179,p4821-4830(1997))が挙げられる。
微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HB3HHを蓄積させ、そのP3HB3HHを回収することでP3HB3HHを製造することができる。用いる微生物にあわせて、基質の種類を含む培養条件を最適化することができる。
【0019】
前記ポリマー成分は、P3HB3HH以外の他の生分解性樹脂を含有してもよい。前記ポリマー成分は、他の生分解性樹脂を、15重量%以下含有し、10重量%以下含有してもよい。また、前記ポリマー成分は、他の生分解性樹脂を、1重量%以上含有してもよく、2重量%以上含有してもよく、5重量%以上含有してもよい。
前記他の生分解性樹脂としては、例えば、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、未変性デンプン、変性デンプン、酢酸セルロース、キトサン、ポリ(4-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂等が挙げられる。
また、前記他の生分解性樹脂としては、P3HB3HH以外のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂なども挙げられる。
P3HB3HH以外のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂としては、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB4HB、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)等が挙げられる。
ここで、P3HBは、単独重合体たるポリ(3-ヒドロキシブチレート)を意味する。
P3HB3HHは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を意味する。
P3HB3HVは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)を意味する。
P3HB4HBは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)を意味する。
前記ポリマー成分は、他の生分解性樹脂を1種含んでよく、また、2種以上含んでもよい。
【0020】
本実施形態に係るモノフィラメントの強度を高めるという観点から、前記ポリマー成分は、ポリカプロラクトンを含有することが好ましい。前記ポリマー成分は、ポリカプロラクトンを、15重量%以下含有し、10重量%以下含有してもよい。また、モノフィラメントの強度を高めるという観点で、前記ポリマー成分は、ポリカプロラクトンを、好ましくは1重量%以上、より好ましくは2重量%以上、さらに好ましくは5重量%以上含有する。
前記ポリカプロラクトンは、ε-カプロラクトンが開環重合したポリマーである。
また、ポリカプロラクトンは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂と同様に、生分解性を有する。
前記ポリカプロラクトンは、単独重合体及び/又は共重合体であってもよい。
本実施形態に係るモノフィラメントの強度を高めるという観点から、前記ポリカプロラクトンは、単独重合体を含むことが好ましく、単独重合体であることがより好ましい。
さらに、本実施形態に係るモノフィラメントがポリカプロラクトンを含有することにより、本実施形態に係るモノフィラメントは、強度が高いものとなる。
前記ポリカプロラクトンの重量平均分子量は、好ましくは5,000~500,000、より好ましくは10,000~200,000である。
前記ポリカプロラクトンの重量平均分子量が500,000以下であることにより、本実施形態に係るモノフィラメントの成形がしやすくなる。
前記ポリカプロラクトンの重量平均分子量が5,000以上であることにより、本実施形態に係るモノフィラメントの強度を高めることができる。
【0021】
本実施形態に係るモノフィラメントは、モノフィラメントの生分解性速度が制御しやすいという観点や、モノフィラメントの強度を向上できるという観点から、前記P3HB3HHと前記他の生分解性樹脂とが混合されて紡糸されたモノフィラメントであることが好ましい。また、前記他の生分解性樹脂は、ポリカプロラクトンを含有することが好ましい。
【0022】
本実施形態に係るモノフィラメントは、生分解性を有するポリマーを含むことにより、環境中に廃棄されたとしても、環境中で分解されやすいため、環境への負荷を抑制することができる。
【0023】
前記添加剤としては、例えば、結晶核剤(造核剤)、滑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤等)、着色剤(染料、顔料等)、可塑剤、無機充填剤、有機充填剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0024】
前記P3HB3HHの結晶化を促進すべく、前記ポリマー組成物は、結晶核剤を含有することが好ましい。
前記結晶核剤は、前記P3HB3HHの結晶化を促進する効果を有する化合物である。また、前記結晶核剤は、前記P3HB3HHよりも融点が高い。
前記結晶核剤としては、無機物(窒化ホウ素、酸化チタン、タルク、層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、及び金属リン酸塩など);天然物由来の糖アルコール化合物(ペンタエリスリトール、エリスリトール、ガラクチトール、マンニトール、及びアラビトール等);ポリビニルアルコール;キチン;キトサン;ポリエチレンオキシド;脂肪族カルボン酸塩;脂肪族アルコール;脂肪族カルボン酸エステル;ジカルボン酸誘導体(ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、及びジブチルセバケート);C=OとNH、S及びOから選ばれる官能基とを分子内に有する環状化合物(インジゴ、キナクリドン、及びキナクリドンマゼンタなど);ソルビトール系誘導体(ビスベンジリデンソルビトール、及びビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトールなど);窒素含有ヘテロ芳香族核(ピリジン環、トリアジン環、及びイミダゾール環など)を含む化合物(ピリジン、トリアジン、及びイミダゾールなど);リン酸エステル化合物;高級脂肪酸のビスアミド;高級脂肪酸の金属塩;並びに分岐状ポリ乳酸等が例示できる。
また、P3HBは、結晶核剤として使用することも可能である。
これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0025】
前記結晶核剤としては、P3HB3HHの結晶化速度の改善効果の観点、並びに、P3HB3HHとの相溶性及び親和性の観点から、糖アルコール化合物、ポリビニルアルコール、キチン、キトサンが好ましい。
また、該糖アルコール化合物のうち、ペンタエリスリトールが好ましい。
【0026】
本実施形態に係るモノフィラメントは、前記P3HB3HH100重量部に対して、結晶核剤を、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、更に好ましくは0.4重量部以上含有する。
本実施形態に係るモノフィラメントは、前記P3HB3HH100重量部に対して、結晶核剤を0.1重量部以上含有することにより、P3HB3HHの結晶化を促進することができる。
また、本実施形態に係るモノフィラメントは、前記P3HB3HH100重量部に対して、結晶核剤を、好ましくは4重量部以下、より好ましくは3重量部以下、更に好ましくは2.5重量部以下含有する。
本実施形態に係るモノフィラメントは、前記P3HB3HH100重量部に対して、結晶核剤を4重量部以下含有することにより、モノフィラメントを作製する際に、該溶融物の粘度を低くすることができ、その結果、モノフィラメントの作製がしやすくなるという利点がある。
【0027】
また、本実施形態に係るモノフィラメントは、前記P3HB3HH100重量部に対して、ペンタエリスリトールを、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、更に好ましくは0.4重量部以上含有する。また、本実施形態に係るモノフィラメントは、前記P3HB3HH100重量部に対して、ペンタエリスリトールを、好ましくは4重量部以下、より好ましくは3重量部以下、更に好ましくは2.5重量部以下含有する。
【0028】
前記ポリマー組成物は、前記滑剤を含有することが好ましい。モノフィラメントが滑剤を含むことによりモノフィラメントの滑性が良好となる。
該滑剤としては、例えば、脂肪酸アミドなどが挙げられる。
前記脂肪酸アミドは、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、及び、エルカ酸アミドから選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0029】
本実施形態に係るモノフィラメントは、前記P3HB3HH100重量部に対して、滑剤を、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、更に好ましくは0.4重量部以上含有する。
本実施形態に係るモノフィラメントは、前記P3HB3HH100重量部に対して、滑剤を0.1重量部以上含有することにより、モノフィラメントの滑性に優れるという利点がある。
また、本実施形態に係るモノフィラメントは、前記P3HB3HH100重量部に対して、滑剤を、好ましくは4重量部以下、より好ましくは3重量部以下、更に好ましくは2.5重量部以下含有する。
本実施形態に係るモノフィラメントは、前記P3HB3HH100重量部に対して、滑剤を4重量部以下含有することにより、滑剤がモノフィラメントの表面にブリードアウトするのを抑制できるという利点がある。
【0030】
また、本実施形態に係るモノフィラメントは、前記P3HB3HH100重量部に対して、脂肪酸アミドを、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、更に好ましくは0.4重量部以上含有する。また、本実施形態に係るモノフィラメントは、前記P3HB3HH100重量部に対して、脂肪酸アミドを、好ましくは4重量部以下、より好ましくは3重量部以下、更に好ましくは2.5重量部以下含有する。
【0031】
本実施形態に係るモノフィラメントの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5万~250万の範囲にあり、より好ましくは7万~100万、さらに好ましくは10万~40万である。
前記重量平均分子量が250万以下であることにより、ノズル押出による紡糸によりモノフィラメントを得る際の生産性を向上しやすくなる。
前記重量平均分子量が5万以上であることにより、モノフィラメントの物性(モノフィラメントの強度等)が向上される。
求められる「生産性」及び「モノフィラメントの物性」に合わせて、最適な重量平均分子量の樹脂を用いることができる。
【0032】
本実施形態に係るモノフィラメントの繊度は、15~3000dtexである。
前記繊度が15dtex以上であることにより、モノフィラメントに関し、高い強度が担保されやすくなる。
前記繊度が3000dtex以下であることにより、後加工(例えば、編織りなど)における生産性を向上しやすくなる。
本実施形態に係るモノフィラメントの繊度は、好ましくは100dtex以上、より好ましくは200dtex以上、更に好ましくは300dtex以上である。
本実施形態に係るモノフィラメントの繊度は、好ましくは1500dtex以下、より好ましくは1000dtex以下である。
なお、モノフィラメントの繊度とは、単位長さあたりの質量であり、10,000mあたりの質量(g)を単位(dtex)で表す。モノフィラメントの繊度は、オートバイブロスコープ法により測定することができる。
【0033】
本実施形態に係るモノフィラメントの引張強度は、0.5cN/dtex以上が好ましく、0.8cN/dtex以上がより好ましく、1.0cNcN/dtex以上が更に好ましい。
本実施形態に係るモノフィラメントの引張強度は、高いほうが好ましい。
本実施形態に係るモノフィラメントの引張強度は、用途によって求められる柔軟性及び強靭性を損なわない範囲であれば特に限定されないが、6.0cN/dtex以下であってよい。
本実施形態に係るモノフィラメントの引張強度は、JIS L 1015:2021「化学繊維ステープル試験方法」に基づき、初期長20mm、速度20mm/minで測定した引張強さを意味する。
引張強度の測定には、例えば、引張測定装置(島津製作所社製、オートグラフAG-1)を用いることができる。
【0034】
本実施形態に係るモノフィラメントは、ISO17556試験における210日後の分解率は、好ましくは60%以上、より好ましくは62%以上である。
分解率は、具体的には、後述する方法で求めることができる。
該分解率が60%以上であることにより、本実施形態に係るモノフィラメントは、土壌中において生分解性により一層優れたものとなるという利点を有する。
ポリマー成分におけるP3HB3HHの含有量を高めることにより、前記分解率を高めることができる。
【0035】
本実施形態に係るモノフィラメントは、温度80℃湿度90%の恒温恒湿試験前後の糸強度比率であって下記式で求められる糸強度比率が、好ましくは70%以上、より好ましくは73%以上である。
糸強度比率(%) = 前記恒温恒湿試験に82時間晒された後のモノフィラメントの強度/前記恒温恒湿試験前のモノフィラメントの強度×100%
前記糸強度比率における強度は、引張強度である。
該引張強度は、JIS L 1013:2021「化学繊維フィラメント糸試験方法」、又は、JIS L 1015:2021「化学繊維ステープル試験方法」に準じて求めることができる。
具体的には、JIS L 1015:2021に準じて、引張圧縮試験機(インテスコ社製、INTESCO Model201型)を用いて、モノフィラメントの引張強を測定することができる。
より具体的には、長さ40mmのモノフィラメント1本(単繊維)をとり、モノフィラメントの両端10mmを、接着剤を糊付けした両面テープを貼り付けた台紙(薄紙)で挟み、一晩風乾させて、長さ20mmの試料を作製する。試験機に試料を装着し、温度24℃、相対湿度80%以下、荷重0.038gf×繊度(dtex)、引張速度20mm/分で試験を行い、破断時の引張強度を測定する。
前記糸強度比率が70%以上であることにより、本実施形態に係るモノフィラメントは、雨などの水分による影響を受け難いという利点を有する。
ポリマー成分におけるP3HB3HHの含有量を高めることにより、前記糸強度比率を高めることができる。
【0036】
本実施形態に係るモノフィラメントの断面(長手方向に垂直な断面)の形状としては、例えば、円形状(楕円形状も含む概念)、Y字状、X字状、H字状、多葉形状などが挙げられる。
【0037】
また、本実施形態に係るモノフィラメントは、複合繊維となっていてもよい。
複合繊維は、JIS L0204-3:1998の3.2.10に規定されている。
前記複合繊維は、例えば、芯部と鞘部とを有する芯鞘複合繊維となっていてもよい。前記芯部がP3HB3HHを含み、前記鞘部が他の生分解性樹脂を含んでもよい。また、前記芯部が他の生分解性樹脂を含み、前記鞘部がP3HB3HHを含んでもよい。
【0038】
本実施形態に係るモノフィラメントは、例えば、海洋資材、農業用資材、土木用資材、医療用資材などとして用いることができる。
具体的には、本実施形態に係るモノフィラメントは、例えば、組紐、テープ、農業用誘引ネット、釣糸、漁網、養殖用網、海藻類種苗糸、人工芝用芝材、歯ブラシ用毛材、飲料抽出用フィルター(ティーバッグ用織物)、防虫ネット、防獣ネット、縫合糸、外科手術用ネット、ステント、補綴材、3Dプリント用フィラメント、テニス用ガット、面ファスナー(例えば、マジックテープ(登録商標))、タイヤコード、印刷用スクリーン、鬘、ホース補強材、衣料用緯編地、草刈り用コード(線材)、網戸用ネット、織布、ターボリン、フィラメントコア紡績糸のコアフィラメント、リボンなどとして用いることができる。
【0039】
本実施形態に係る組紐は、前記生分解性モノフィラメントで形成された、組紐である。
本実施形態に係るテープは、前記生分解性モノフィラメントで形成された、テープである。
本実施形態に係る農業用誘引ネットは、前記生分解性モノフィラメントで形成された、農業用誘引ネットである。
【0040】
本実施形態に係るモノフィラメントを製造する製造方法では、溶融紡糸法によりモノフィラメントを製造する。
前記製造方法は、溶融物を紡糸ノズルから吐出して得られた原糸を水浴に通過させる工程(A)と、前記水浴を通過した前記原糸を延伸ロール部で延伸する工程(B)とを有する。
【0041】
以下では、
図1に示すモノフィラメントの製造装置1を用いてモノフィラメントを製造する方法を例に挙げて、前記製造方法について説明する。
【0042】
(工程(A))
前記工程(A)は、溶融物を紡糸ノズルから吐出して得られた原糸を水浴に通過させる工程である。
【0043】
図1に示すように、前記工程(A)では、まず、前記溶融物の材料を材料投入部2aに投入する。
次に、該材料投入部2aから投入された材料を混練押出機2bで加熱しながら混練することにより、前記溶融物を得る。
前記混練押出機2bは、スクリュー押出機である。該混練押出機2bは、単軸押出機であっても、二軸押出機であってもよい。
【0044】
そして、吐出孔を有する紡糸ノズル2dを用いて、前記混練押出機2dで得られた溶融物を前記吐出孔から吐出することで溶融状態の原糸Aを得る。
なお、紡糸ノズル2dの吐出孔から吐出する溶融物の流量は、ギアポンプ2cで調整する。
【0045】
前記紡糸ノズル2dの温度は、例えば150~190℃、より具体的には160~180℃である。
【0046】
前記紡糸ノズル2dは、吐出孔を1つ以上有し、吐出孔を複数有してもよい。
前記紡糸ノズル2dが吐出孔を複数有することにより、複数本のモノフィラメントを同時に作製することができる。
【0047】
前記吐出孔の形状としては、例えば、円形状(楕円形状も含む概念)、Y字状、X字状、H字状、多葉形状などが挙げられる。
吐出孔の大きさとしては、例えば、吐出孔の形状が円形の場合、吐出孔の直径が、好ましくは0.5mm~20mm、より好ましくは1.0mm~10mmである。
また、吐出孔の形状が円形の場合、吐出孔の長さ(L)/吐出孔の直径(D)、言い換えればL/Dは、好ましくは1~10、より好ましくは2~5である。
【0048】
1つの吐出孔から溶融物が吐出される吐出量は、好ましくは0.20~2.0kg/hr、より好ましくは0.40~1.2kg/hrである。
【0049】
前記工程(A)では、前記原糸Aを水浴に通過させることにより、原糸Aを冷却する。
また、前記工程(A)では、前記原糸Aの固化温度よりも高い温度の前記原糸Aを水浴3aに通過させる。
【0050】
前記水浴3aの温度は、好ましくは15~35℃、より好ましくは18~34℃である。
前記工程(A)では、前記原糸Aを35℃以下の水浴3aに通過させることにより、原糸Aが軟化状態のまま引取ロール部4に接触して粘着してしまうのを抑制することができる。
また、前記工程(A)では、前記原糸Aを35℃以下の水浴3aに通過させることにより、原糸Aを構成するポリマー成分が結晶化する温度領域内となる時間を短くすることができ、ポリマー成分の結晶化の進行を抑制できる。これにより、原糸Aが硬くなるのを抑制できる。よって、前記工程(B)での原糸Aの延伸が実施しやすくなる。その結果、モノフィラメントの強度を高めやすくなる。
また、前記水浴3aが15℃以上であることにより、原糸Aを構成するポリマー成分が結晶化する温度領域内となる時間をある程度確保できるため、原糸Aが十分に結晶化しないまま水浴用ロール部3cに接触して粘着してしまうのを抑制することができる。
【0051】
前記水浴3aは、水槽3b内に配された水である。
【0052】
モノフィラメントの製造装置1は、前記原糸Aを前記水浴3aに通過させるように前記原糸Aを搬送する水浴用ロール部3cを備える。
前記工程(A)では、前記原糸Aを水浴用ロール部3cで搬送することで、前記原糸Aを前記水浴3aに通過させる。
【0053】
前記工程(A)では、前記原糸Aを、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下に冷却する。前記工程(A)では、前記原糸Aを、例えば0℃以上、より具体的には10℃以上に冷却する。
前記工程(A)では、前記原糸Aを15~35℃の水浴に通過させることで、前記原糸Aを50℃以下まで冷却してもよい。また、前記工程(A)では、前記原糸Aを15~35℃の水浴に通過させることで、前記原糸Aをある程度まで冷却し、そして、前記延伸するまでの間に周囲の空気で冷却させて、前記原糸Aを50℃以下まで冷却してもよい。
【0054】
(工程(B))
前記工程(B)では、冷却された前記原糸Aを延伸ロール部で延伸する。
前記工程(B)では、前記原糸Aを延伸させることにより、原糸に含まれるポリマー成分の配向性を高めることができ、これにより、モノフィラメントの強度を高めることができる。
【0055】
前記工程(B)では、冷却された前記原糸Aを加熱して延伸ロール部で延伸することが好ましい。
ここで、ポリマー成分の配向性を高めるには、ポリマー成分の配向性を高めるのに適した温度領域で延伸させることが望ましい。該温度領域よりも高い温度で原糸を延伸させると、ポリマー成分が溶融状態となり、その結果、延伸してもポリマー成分の配向性があまり高くならないからである。また、該温度領域よりも低い温度で原糸を延伸させようとすると、ポリマー成分が固まり過ぎて原糸が延伸し難くなり、また、原糸を延伸させようとして原糸を無理に引っ張ると原糸が切れてモノフィラメントを製造できなくなるからである。
本実施形態では、冷却された前記原糸Aを加熱して前記延伸ロール部で延伸することにより、周囲の空気で原糸を冷却しながら延伸する態様に比べて、原糸を延伸する際に、ポリマー成分の配向性を高めるのに適した温度領域内となるように原糸の温度を調整するのが容易となり、その結果、原糸のポリマー成分の配向性を高めやすくなる。
よって、本実施形態では、モノフィラメントの強度を高めやすくなる。
【0056】
前記工程(B)では、前記水浴3aで冷却された原糸Aを引取ロール部4で引き取る。
引取ロール部4は、前記原糸Aを前記水浴3aから引き取るためのロール部である。
次に、前記引取ロール部4で引き取った原糸Aを第1の延伸ロール部6で延伸する。
そして、前記第1の延伸ロール部6で延伸した原糸Aを第2の延伸ロール部8で延伸する。
次に、前記第2の延伸ロール部8で延伸した原糸Aを巻取ロール部9で巻き取ることにより、モノフィラメントを得る。
【0057】
前記工程(B)では、前記第1の延伸ロール部6で延伸した原糸Aを第2の延伸ロール部8で延伸している。すなわち、前記工程(B)では、前記原糸Aを2段で延伸する。
なお、前記工程(B)では、多段(2段以上)で延伸してもよく、また、一段で延伸してもよい。
前記工程(B)では、多段(2段以上)で延伸することにより、原糸が延伸で切れるのを抑制しつつ、総延伸倍率を高めることができる。その結果、モノフィラメントの強度をより一層高めやすくなる。
多段(2段以上)で延伸するとは、複数の延伸ロール部を用いて延伸し、後段の延伸ロール部の速度が前段の延伸ロール部の速度よりも速くなっていることを意味する。
延伸ロール部の速度とは、延伸ロール部で搬送する原糸の単位時間当たりの長さである。
【0058】
前記工程(B)における総延伸倍率は、好ましくは5.0倍以上であり、より好ましくは6.0倍以上、更に好ましくは6.5倍以上である。
前記工程(B)における総延伸倍率は、例えば、13.0倍以下である。
前記工程(B)における総延伸倍率が5.0倍以上であることにより、モノフィラメントのポリマー成分の配向性が高くなり、その結果、モノフィラメントの強度が高くなる。
前記工程(B)における総延伸倍率は、下記式によって求めることができる。
前記工程(B)における総延伸倍率 = 巻取ロール部9の速度(m/min) / 引取ロール部4の速度(m/min)
【0059】
なお、巻取ロール部の速度(m/min)は、巻取ロール部に巻き取られる原糸の単位時間当たりの長さである。
また、引取ロール部の速度(m/min)は、引取ロール部に引き取られる原糸の単位時間当たりの長さである。
【0060】
前記工程(B)では、原糸Aを前記第1の延伸ロール部6で延伸する前に、前記引取ロール部4を通過した原糸Aを温水槽5で加熱することが好ましい。
前記工程(B)では、原糸Aを前記第1の延伸ロール部6で延伸する前に、前記引取ロール部4を通過した原糸Aを温水槽5で加熱することにより、原糸Aに含まれるポリマー成分の配向性を延伸によって高めるのに適した温度領域内となるように原糸Aの温度を延伸前に調整するのが容易となり、その結果、原糸Aのポリマー成分の配向性を延伸によって高めやすくなる。
前記温水槽5内の温水の温度は、好ましくは25~65℃、より好ましくは30~60℃である。
【0061】
前記工程(B)では、延伸された原糸Aを熱処理槽7の加熱された空気で加熱してもよい。
前記工程(B)では、延伸された原糸Aを熱処理槽7の加熱された空気で加熱することにより、原糸Aに含まれるポリマー成分の結晶化を促進することができる。その結果、モノフィラメントの強度を高くすることができる。
前記熱処理槽7の空気の温度は、好ましくは50~120℃、より好ましくは60~110℃である。
【0062】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明は、上記した作用効果によって限定されるものでもない。さらに、本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0063】
〔開示項目〕
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
【0064】
〔項目1〕
ポリマー成分を含有する生分解性モノフィラメントであって、
前記ポリマー成分が、ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)を85重量%以上含有し、
前記ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)を構成するヒドロキシカルボン酸のモル比率である3―ヒドロキシブチレート/3―ヒドロキシヘキサノエートが、80/20~99/1の範囲であり、
繊度が15~3000dtexの範囲である、生分解性モノフィラメント。
【0065】
〔項目2〕
引張強度が、0.5~6.0cN/dtexである、項目1に記載の生分解性モノフィラメント。
【0066】
〔項目3〕
ISO17556試験における210日後の分解率が60%以上の範囲である、項目1又は2に記載の生分解性モノフィラメント。
【0067】
〔項目4〕
温度80℃湿度90%の恒温恒湿試験前後の糸強度比率であって下記式で求められる糸強度比率が、70%以上である、項目1~3の何れか1項に記載の生分解性モノフィラメント。
糸強度比率(%) = 前記恒温恒湿試験に82時間晒された後のモノフィラメントの強度/前記恒温恒湿試験前のモノフィラメントの強度×100%
【0068】
〔項目5〕
前記ポリマー成分が、前記ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)以外の他の生分解性樹脂を更に含有し、
前記ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)と前記他の生分解性樹脂とが混合されて紡糸された、項目1~4の何れか1項に記載の生分解性モノフィラメント。
【0069】
〔項目6〕
前記他の生分解性樹脂が、ポリカプロラクトンを含有する、項目5に記載の生分解性モノフィラメント。
【0070】
〔項目7〕
前記ポリ(3―ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート)100重量部に対して、ペンタエリスリトールを0.1~4重量部、脂肪酸アミドを0.1~4重量部含む、項目1~6の何れか1項に記載の生分解性モノフィラメント。
【0071】
〔項目8〕
重量平均分子量が5万~250万の範囲にある、項目1~7の何れか1項に記載の生分解性モノフィラメント。
【0072】
〔項目9〕
前記重量平均分子量が10万~40万の範囲にある、項目8に記載の生分解性モノフィラメント。
【0073】
〔項目10〕
項目1~9の何れか1項に記載の生分解性モノフィラメントで形成された、組紐。
【0074】
〔項目11〕
項目1~9の何れか1項に記載の生分解性モノフィラメントで形成された、テープ。
【0075】
〔項目12〕
項目1~9の何れか1項に記載の生分解性モノフィラメントで形成された、農業用誘引ネット。
【0076】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明は、上記した作用効果によって限定されるものでもない。さらに、本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例0077】
次に、実施例、比較例、及び、参考例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0078】
<実施例1>
(工程(A))
まず、
図1に示すように、下記材料を混練押出機2bたる単軸押出機(スクリューの直径D:30mm、スクリューの長さL/スクリューの直径D=24)で165℃で混合することにより、溶融物を作製した。
・ポリマー成分:ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(3-ヒドロキシヘキサノエートの割合=6mol%、Mw=55万)(P3HB3HH)
・脂肪酸アミドたる滑剤:ベヘン酸アミド
・脂肪酸アミドたる滑剤:エルカ酸アミド
・結晶核剤:ペンタエリスリトール
また、P3HB3HH100重量部に対して、エルカ酸アミドを0.5重量部とし、ベヘン酸アミドを0.5重量部とし、ペンタエリスリトールを1.0重量部とした。
【0079】
次に、前記溶融物を紡糸ノズル2dの吐出孔から吐出することにより、原糸Aを5本得た。
前記紡糸ノズル2dは、吐出孔を5つ有していた。吐出孔は、全て円形であった。また、吐出孔の直径(φ)は、全て1.5mmであった。さらに、吐出孔の長さ(L)/吐出孔の直径(D)、言い換えればL/Dは、3であった。
また、紡糸ノズル2dの温度は、160℃とした。
また、全吐出孔から溶融物が吐出される吐出の合計量は、4.5kg/hrとした。言い換えれば、1つの吐出孔から溶融物が吐出される吐出量は、0.90kg/hrとした。
【0080】
そして、前記原糸Aの固化温度よりも高い温度の前記原糸Aを30℃の水浴3aに36秒間通して、前記原糸Aを冷却した。
【0081】
(工程(B))
工程(B)では、冷却した前記原糸Aを引取ロール部4(速度:5.0m/min)で引き取り、温水槽5(温水の温度:50℃)で2.9秒間加熱し、第1の延伸ロール部6で延伸した。
そして、第1の延伸ロール部6で延伸した原糸Aを熱処理槽7(熱風(空気)の温度:100℃)で4.0秒間加熱し、第2の延伸ロール部8で延伸し、巻取ロール部9で巻き取ることにより、モノフィラメントを得た。
1段目の延伸倍率を7.0倍にし、総延伸倍率を7.0倍とした。
【0082】
なお、総延伸倍率は、上述した方法で求めた。
また、1段目の延伸倍率は、下記式によって求めた。
1段目の延伸倍率 = 第1の延伸ロール部6の速度(m/min) / 引取ロール部4の速度(m/min)
ここで、第1の延伸ロール部の速度は、第1の延伸ロール部で搬送される原糸Aの単位時間当たりの長さである。
【0083】
(実施例2、比較例1~7)
ポリマー成分として、下記PCLも用い、各条件を下記表1に記載のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、モノフィラメントを得た。
・ポリカプロラクトン(PCL)(Ingevity社製の「CAPA6800」)
なお、表1のP3HB3HHの比率は、ポリマー成分におけるP3HB3HHの含有量を意味する。
また、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、ペンタエリスリトールの量は、P3HB3HH100重量部に対して、それぞれ0.5重量部、0.5重量部、1.0重量部とした。
【0084】
(モノフィラメントの繊度、引張強度、及び、重量平均分子量)
モノフィラメントの繊度、引張強度(後述する「加熱前のモノフィラメントの引張強度」)、及び、重量平均分子量(Mw)は、上述した方法で求めた。測定値を下記表1に示す。
なお、表1の重量平均分子量(Mw)の「K」は、「×103」を意味する。
【0085】
(耐熱性試験)
加熱前に、モノフィラメントの長さを測定した。
モノフィラメントを緊張状態で60℃で24時間加熱した。
次に、加熱したモノフィラメントの長さ、及び、引張強度を測定した。
そして、下記式により寸法保持率を求めた。
寸法保持率(%)=〔1-(加熱前のモノフィラメントの長さ-加熱後のモノフィラメントの長さ)/加熱前のモノフィラメントの長さ〕×100%
また、下記式により強度低下率を求めた。
強度低下率(%)=〔(加熱前のモノフィラメントの引張強度-加熱後のモノフィラメントの引張強度)/加熱前のモノフィラメントの引張強度〕×100%
結果を下記表1に示す。
【0086】
【0087】
(比較例8)
水浴の温度を10℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、モノフィラメントを得ようと試みたところ、原糸Aが水浴用ロール部3cに粘着してしまい、モノフィラメントを得ることが出来なかった。
水浴の温度を10℃とすると、原糸Aが水浴用ロール部3cに粘着してしまうのは、原糸Aが水浴で急激に冷却したことで原糸Aが十分に結晶化しないまま水浴用ロール部3cに接触して粘着してしまったものと考えられる。
【0088】
(比較例9)
水浴の温度を40℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、モノフィラメントを得ようと試みたところ、原糸Aが引取ロール部4に粘着してしまい、モノフィラメントを得ることが出来なかった。
水浴の温度を40℃とすると、原糸Aが引取ロール部4に粘着してしまうのは、原糸Aが水浴で十分に冷却しないことで原糸Aが軟化状態のまま引取ロール部4に接触して粘着してしまったものと考えられる。
【0089】
(比較例10、参考例1~4)
比較例10として、ポリ乳酸(PLA)のモノフィラメント(特開2007-314899に記載の方法で作製したモノフィラメント)を用意した。
また、参考例1~4として、麻、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、及び、ポリ塩化ビニル(PVC)それぞれを用意した。
【0090】
(土壌分解簡易試験)
目開き2mmのPPメッシュ袋にサンプルを投入し、該袋に入れた状態でサンプルをタキイ種苗製含水セル培土(土壌)に埋設した。試験開始前に十分な水を土壌にかけて吸水させた。土壌のPHは6~7、環境温度は33℃、湿度60%で推移した。試験期間中には土壌表面が乾いた場合に土壌に水を加えた。サンプルを土壌に入れてから1か月間経過の後、サンプルを取り出してサンプルの状態を目視観察した。
結果を下記表2に示す。
表中、〇は完全分解して消失、△は一部分解、×は分解していないことを示す。
【0091】
【0092】
表2に示すように、実施例1では、ポリマー成分がP3HB3HHを50重量%含有する比較例2、ポリマー成分がポリ乳酸である比較例10、参考例1~4に比べて、土壌での生分解性に優れることがわかる。
従って、本発明によれば、土壌中において生分解性に優れるモノフィラメントを提供し得ることがわかる。
【0093】
(土壌分解詳細試験:ISO 17556)
モノフィラメントを用いて織物を作製した。
次に、織物に対して、「土壌中におけるプラスチックの好気性生分解評価(ISO 17556)」を実施し、51日目及び210日目までの理論的二酸化炭素発生量から生分解度百分率(分解率)を算出した。
理論値については、以下のようにして求めた。
まず、120mgのモノフィラメントを120gの土壌に添加し、モノフィラメントを入れた土壌から発生する二酸化炭素をガスバックで51日間捕集した。
次に、ガスバックで捕集した二酸化炭素の量(測定値)をNDIR法で測定した。
また、モノフィラメントを入れていない土壌から51日間及び210日間発生する二酸化炭素の量(ブランク値)も同様に測定した。
そして、測定値からブランク値を引くことで理論的二酸化炭素発生量を求めた。
分解率が大きい程、土壌において生分解が進んだことを意味する。
結果を下記表3に示す。
また、実施例1(P3HB3HHの比率:100重量%)及び比較例1(P3HB3HHの比率:70重量%)のデータから、P3HB3HHの比率をx、分解率をyとする近似式を求めた(y=0.8454x-7.7463)。
そして、この近似式を基に、P3HB3HHの比率が90%、85%となる時の分解率の推測値を算出した。算出値を下記表3に示す。
【0094】
【0095】
表3に示すように、P3HB3HHの比率が高いほど、土壌中での分解率が高い傾向を示した。
また、分解率の推測値から、ポリマー成分におけるP3HB3HHの比率が85重量%以上であれば、210日後の分解率が60%以上であった。
従って、本発明によれば、土壌中において生分解性に優れるモノフィラメントを提供し得ることがわかる。
【0096】
(参考例5)
参考例5のモノフィラメントとして、高密度ポリエチレン(HDPE)のモノフィラメントを用意した。
【0097】
(海水における生分解性の評価)
モノフィラメントを海水に浸漬させた。
次に、浸漬前、浸漬から4週間後、浸漬から8週間後、浸漬から12週間後、及び、浸漬から16週間後のモノフィラメントの引張強度を測定した。
そして、下記式により強度保持率を求めた。
強度保持率(%)=〔1-(浸漬前のモノフィラメントの引張強度-浸漬後のモノフィラメントの引張強度)/浸漬前のモノフィラメントの引張強度〕×100%
結果を下記表4に示す。
なお、実施例1では、浸漬から8週間後のモノフィラメントが脆すぎて引張強度が測定出来なかった。
【0098】
【0099】
表4に示すように、実施例1は、海水における生分解性にも優れることがわかる。
【0100】
(参考例6)
参考例6として、ポリマー成分がP3HB3HHを100重量%含有するマルチフィラメントを用意した。
【0101】
(恒温恒湿試験)
露地栽培の畑でフィラメントを用いた場合には、フィラメントは、雨などの水分による影響を受ける。フィラメントの水による影響を確認するため、水分による影響を加速試験にて確認した。
具体的には、温度80℃湿度90%の恒温恒湿試験前後の糸強度比率であって下記式で求められる糸強度比率を求めた。
糸強度比率(%) = 前記恒温恒湿試験に82時間晒された後のフィラメントの強度/前記恒温恒湿試験前のモノフィラメントの強度×100%
前記強度は、上述した方法で測定した。
結果を下記表5に示す。
【0102】
(加水分解促進試験(ジャングルテスト))
温度70℃湿度95%の加水分解促進試験(ジャングルテスト)に7日間、21日間晒されたフィラメントをSEMで撮影した。
また、ジャングルテスト前のフィラメントもSEMで撮影した。
SEM写真を
図2に示す。
【0103】
(耐光試験)
温度40℃湿度50%のもとで48W/m2の光を60時間照射した後のフィラメントの強度(照射後のモノフィラメントの強度)と、照射前のフィラメントとの強度を測定し、下記式で求められる糸強度変化率を算出した。
糸強度変化率(%)=(照射後のフィラメントの強度-照射前のフィラメントの強度)/照射前のフィラメントの強度×100%
また、強度は、上記恒温恒湿試験と同様にして求めた。
結果を下記表5に示す。
【0104】
【0105】
表5に示すように、参考例6(P3HB3HH)は、比較例10(ポリ乳酸)に比べて、恒温恒湿試験での強度保持率が高かった。
また、
図2に示すように、参考例6(P3HB3HH)では、加水分解促進試験による劣化は見られなかったが、比較例10(ポリ乳酸)では、加水分解促進試験によって劣化して糸が切れていた。
従って、P3HB3HHは、ポリ乳酸よりも雨などの水分による影響を受けにくいことがわかる。
【0106】
表5に示すように、参考例6は、耐光試験での強度変化率は、19%であった。
従って、P3HB3HHは、光による影響を受けにくいことがわかる。
1:モノフィラメントの製造装置、2a:材料投入部、2b:混練押出機、2c:ギアポンプ、2d:紡糸ノズル、3a:水浴、3b:水槽、3c:水浴用ロール部、4:引取ロール部、5:温水槽、6:第1の延伸ロール部、7:熱処理槽、8:第2の延伸ロール部、9:巻取ロール部