(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104657
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】釣糸
(51)【国際特許分類】
A01K 91/00 20060101AFI20240729BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20240729BHJP
D01F 6/92 20060101ALI20240729BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20240729BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20240729BHJP
【FI】
A01K91/00 A
C08L67/04 ZBP
D01F6/92 307A
D01F8/14 B
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008992
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(71)【出願人】
【識別番号】594101466
【氏名又は名称】株式会社シラカワ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑野 貴典
(72)【発明者】
【氏名】白川 雅一
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
4L035
4L041
【Fターム(参考)】
4J002CF18W
4J002CF19X
4J002GC00
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4L035FF01
4L035FF02
4L041BA02
4L041BA05
4L041BA21
4L041BD01
4L041BD02
(57)【要約】
【課題】本発明は、強度が高く、且つ、耐熱性に優れる釣糸を提供する。
【解決手段】本発明は、モノフィラメントである、釣糸であって、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂、及び、ポリカプロラクトンを含有し、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量/前記ポリカプロラクトンの重量が、30/70~50/50であり、引張強度が、4.0cN/dtex以上であり、繊度が、100~3000dtexである、釣糸である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノフィラメントである、釣糸であって、
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂、及び、ポリカプロラクトンを含有し、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量/前記ポリカプロラクトンの重量が、30/70~50/50であり、
引張強度が、4.0cN/dtex以上であり、
繊度が、100~3000dtexである、釣糸。
【請求項2】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、及び、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の釣糸。
【請求項3】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を含む、請求項2に記載の釣糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣糸に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック廃棄物が、生態系への影響、燃焼時の有害ガス発生、大量の燃焼熱量による地球温暖化等、地球環境への大きな負荷を与える原因となっている問題がある。この問題を解決できるものとして、生分解性プラスチックの開発が盛んになっている。
【0003】
このような生分解性プラスチックの中でも植物由来の原料を使用して得られる生分解性プラスチックを燃焼させた際に出る二酸化炭素は、もともと空気中にあったもので、大気中の二酸化炭素は増加しない。このことをカーボンニュートラルと称し、二酸化炭素削減目標値を課した京都議定書の下、重要視され、積極的な使用が望まれている。
【0004】
最近、生分解性及びカーボンニュートラルの観点から、植物由来の原料を炭素源として微生物産生される生分解性プラスチックとして、脂肪族ポリエステル系樹脂が注目されており、特にポリヒドロキシアルカノエート系樹脂が注目されている。
【0005】
特許文献1には、ポリカプロラクトンとポリ(β-ヒドロキシアルカノエート)とを含むフィラメントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
モノフィラメントは、釣糸などとして用いられている。
釣糸は、夏場に車載されること等により高温(例えば、60℃)に晒されることがあるため、耐熱性に優れることが求められ得る。
また、釣糸は、強度が高いことも求められ得る。
すなわち、強度が高く、且つ、耐熱性に優れる釣糸が求められ得る。
しかし、強度が高く、且つ、耐熱性に優れる釣糸について、これまで十分な検討がなされていない。
【0008】
そこで、本発明は、強度が高く、且つ、耐熱性に優れる釣糸を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、モノフィラメントである、釣糸であって、
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂、及び、ポリカプロラクトンを含有し、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量/前記ポリカプロラクトンの重量が、30/70~50/50であり、
引張強度が、4.0cN/dtex以上であり、
繊度が、100~3000dtexである、釣糸に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、強度が高く、且つ、耐熱性に優れる釣糸を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】実施例1の第1の断面の画像(スケールバー:5μm)。
【
図3】
図2よりも拡大倍率を高めた、実施例1の第1の断面の画像(スケールバー:1μm)。
【
図4】実施例1の第2の断面の画像(スケールバー:5μm)。
【
図5】
図4よりも拡大倍率を高めた、実施例1の第2の断面の画像(スケールバー:1μm)。
【
図6】実施例2の第1の断面の画像(スケールバー:5μm)。
【
図7】
図6よりも拡大倍率を高めた、実施例2の第1の断面の画像(スケールバー:1μm)。
【
図8】実施例2の第2の断面の画像(スケールバー:5μm)。
【
図9】
図8よりも拡大倍率を高めた、実施例2の第2の断面の画像(スケールバー:1μm)。
【
図10】比較例1の第1の断面の画像(スケールバー:5μm)。
【
図11】
図10よりも拡大倍率を高めた、比較例1の第1の断面の画像(スケールバー:1μm)。
【
図12】比較例1の第2の断面の画像(スケールバー:5μm)。
【
図13】
図12よりも拡大倍率を高めた、比較例1の第2の断面の画像(スケールバー:1μm)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態に係る釣糸は、モノフィラメントである。
本実施形態に係る釣糸たるモノフィラメントは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂、及び、ポリカプロラクトンを含有し、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量/前記ポリカプロラクトンの重量は、30/70~50/50である。
本実施形態に係る釣糸の引張強度は、4.0cN/dtex以上である。
本実施形態に係る釣糸の繊度は、100~3000dtexである。
【0014】
本実施形態に係る釣糸たるモノフィラメントは、ポリマー成分を含有するポリマー組成物が糸状に形成されたものである。
前記ポリマー組成物は、添加剤を更に含有してもよい。
【0015】
前記ポリマー成分は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂、及び、ポリカプロラクトンを含む。
前記ポリマー成分は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂、及び、ポリカプロラクトン以外に、他のポリマーを含有してもよい。
【0016】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシアルカン酸をモノマーとするポリエステルである。
すなわち、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、構成単位として3-ヒドロキシアルカン酸を含む樹脂である。
また、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、生分解性を有するポリマーである。
なお、本実施形態における「生分解性」とは、自然界において微生物によって低分子化合物に分解され得る性質をいう。具体的には、好気条件ではISO 14855(compost)及びISO 14851(activated sludge)、嫌気条件ではISO 14853(aqueous phase)及びISO 15985(solid phase)等、各環境に適合した試験に基づいて生分解性の有無が判断できる。また、海水中における微生物の分解性については、生物化学的酸素要求量(Biochemical oxygen demand)の測定により評価できる。
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、単独重合体及び/又は共重合体を含む。
【0017】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、下記式(1)で示される構成単位を含むことが好ましい。
[-CHR-CH2-CO-O-] (1)
(前記式(1)中、RはCpH2p+1で表されるアルキル基を示し、pは1~15の整数を示す。)
【0018】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含むことが好ましい。
なお、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、構成単位として3-ヒドロキシブチレートを含む樹脂である。ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。
【0019】
3-ヒドロキシブチレートを構成単位として含むポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂としては、例えば、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB4HB、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)等が挙げられる。
ここで、P3HBは、単独重合体たるポリ(3-ヒドロキシブチレート)を意味する。
P3HB3HHは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を意味する。
P3HB3HVは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)を意味する。
P3HB4HBは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)を意味する。
【0020】
なお、P3HBは、P3HB自体、及び、P3HB以外のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の結晶化を促進する機能を有するので、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、P3HBを含むことが好ましい。
【0021】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂としては、優れた生分解性と成型加工性の両立の観点から、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB4HBなどが好ましいが、特に限定されない。
また、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂としては、本実施形態に係る釣糸たるモノフィラメントの成型加工性を高めるという観点から、P3HB3HHが好ましい。
【0022】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、構成単位としての3-ヒドロキシブチレートを、好ましくは85.0モル%~99.5モル%、より好ましくは85.0モル%~97.0モル%含む。
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が構成単位としての3-ヒドロキシブチレートを85.0モル%以上含むことにより、本実施形態に係る釣糸の剛性が高くなる。
また、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が構成単位としての3-ヒドロキシブチレートを99.5モル%以下含むことにより、本実施形態に係る釣糸たるモノフィラメントが加工性に優れたものとなる。
【0023】
前記ポリマー成分は、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を1種類のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、共重合体(P3HB3HH等)を含む場合には、構成単位の平均組成比が異なる2種類以上の共重合体を含んでもよい。
【0024】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは50,000~3,000,000、より好ましくは100,000~1,500,000である。
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量が3,000,000以下であることにより、本実施形態に係る釣糸たるモノフィラメントの成形がしやすくなる。
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量が50,000以上であることにより、本実施形態に係る釣糸の強度を高めることができる。
なお、本実施形態における重量平均分子量は、クロロホルム溶離液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算分子量分布より測定されたものをいう。当該GPCにおけるカラムとしては、前記分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0025】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂(以下、「P3HA」ともいう。)を製造する方法としては特に限定されないが、例えば、P3HA産生能を有する微生物によりP3HAを産生させる方法が挙げられる。
そのような微生物としては特に限定されないが、例えば、P3HB生産菌としては、1925年に発見されたBacillus megateriumの他、カプリアビダス・ネケイター(Cupriavidus necator)(旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus、ラルストニア・ユートロフア(Ralstonia eutropha))、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)等が挙げられる。
また、3-ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体生産菌としては、P3HB3HHおよびP3HB3HVの生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、P3HB4HB生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が挙げられる。
特に、P3HB3HH生産菌としては、P3HB3HHの生産性を上げるためにP3HA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bacteriol.,179,p4821-4830(1997))が挙げられる。
【0026】
これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HAを蓄積させ、そのP3HAを回収することでP3HAを製造することができる。用いる微生物にあわせて、基質の種類を含む培養条件を最適化することができる。また、上掲した微生物以外にも、生産したいP3HAに合わせて、各種P3HA合成関連遺伝子を導入した遺伝子組換え微生物を培養してP3HAを製造することもできる。
【0027】
前記ポリカプロラクトンは、ε-カプロラクトンが開環重合したポリマーである。
また、ポリカプロラクトンは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂と同様に、生分解性を有する。
前記ポリカプロラクトンは、単独重合体及び/又は共重合体であってもよい。
本実施形態に係る釣糸の強度を高めるという観点から、前記ポリカプロラクトンは、単独重合体を含むことが好ましく、単独重合体であることがより好ましい。
さらに、本実施形態に係る釣糸は、ポリカプロラクトンを含有することにより、強度が高いものとなる。
前記ポリカプロラクトンの重量平均分子量は、好ましくは、5,000~500,000、より好ましくは10,000~200,000である。
前記ポリカプロラクトンの重量平均分子量が500,000以下であることにより、本実施形態に係る釣糸たるモノフィラメントの成形がしやすくなる。
前記ポリカプロラクトンの重量平均分子量が5,000以上であることにより、本実施形態に係る釣糸の強度を高めることができる。
【0028】
他のポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、未変性デンプン、変性デンプン、酢酸セルロース、キトサン、ポリ(4-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂等が挙げられる。
前記ポリマー組成物は、他のポリマーを1種含んでよく、また、2種以上含んでもよい。
【0029】
前記ポリマー成分は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂とポリカプロラクトンとを合計で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有する。
【0030】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の質量/前記ポリカプロラクトンの質量は、30/70~50/50、好ましくは30/70~40/60である。
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の質量/前記ポリカプロラクトンの質量が30/70以上であることにより、本実施形態に係る釣糸の耐熱性に優れるという利点がある。
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の質量/前記ポリカプロラクトンの質量が50/50以下であることにより、本実施形態に係る釣糸の強度が上昇しやすくなるという利点がある。
【0031】
本実施形態に係る釣糸たるモノフィラメントは、マトリックス及びドメインを含むマトリックス-ドメイン構造を有し、前記マトリックスは、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有し、前記ドメインは、前記ポリカプロラクトンを含有することが好ましい。
本実施形態に係る釣糸は、斯かる構成となっていることにより、耐熱性に優れたものとなるという利点を有する。
本実施形態に係る釣糸が斯かる利点を有する理由としては以下の理由が考えられる。
ここで、マトリックス-ドメイン構造は海島構造とも呼ばれている。マトリックス-ドメイン構造においては、マトリックスは連続相となっている。一方で、ドメインは、海に浮かぶ島のように非連続相となっている。
よって、マトリックス側の特性が主として釣糸の特性として発現する。
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、ポリカプロラクトンよりも耐熱性が高い。
従って、本実施形態に係る釣糸は、斯かる構成となっていることにより、より一層耐熱性に優れたものとなると考えられる。
【0032】
なお、「釣糸たるモノフィラメントは、マトリックス及びドメインを含むマトリックス-ドメイン構造を有し、前記マトリックスは、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有し、前記ドメインは、前記ポリカプロラクトンを含有する」ことは、釣糸たるモノフィラメントの第1の断面(釣糸たるモノフィラメントの長手方向に垂直な断面)及び第2の断面(第1の断面に垂直な断面)を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影して、確認することができる。
すなわち、釣糸たるモノフィラメントの第1の断面及び第2の断面の超薄切片を四酸化ルテニウム(RuO4)で染色し、染色した超薄切片を前記透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影して、確認することができる。
「前記マトリックスは、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する」とは、「前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が前記ドメインよりも前記マトリックスに多く含まれる」ことを意味する。また、「前記ドメインは、前記ポリカプロラクトンを含有する」とは、「前記ポリカプロラクトンが前記マトリックスよりも前記ドメインに多く含まれる」ことを意味する。
【0033】
また、釣糸の強度をより一層高め、且つ、釣糸の耐熱性をより一層高めるという観点から、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂であることが好ましい。
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、ポリカプロラクトンと適度な親和性を有する。
そのため、本実施形態に係る釣糸は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂及びポリカプロラクトンの一方の量が他方の量よりも体積比で多くても、海島構造を有する。また、本実施形態に係る釣糸は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂とポリカプロラクトンとが体積比で等量である場合には、前記海島構造に加えて、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の連続相とポリカプロラクトンの連続相とを含む共連続構造を有する。
その結果、本実施形態に係る釣糸は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂及びポリカプロラクトンを含むことにより、強度がより一層高くなり、且つ、耐熱性に一層優れたものとなる。
【0034】
本実施形態に係る釣糸は、生分解性を有するポリマーを含むことにより、環境中に廃棄されたとしても、環境中で分解されやすいため、環境への負荷を抑制することができる。
【0035】
前記添加剤としては、例えば、結晶核剤、滑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤等)、着色剤(染料、顔料等)、可塑剤、無機充填剤、有機充填剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0036】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の結晶化を促進すべく、前記ポリマー組成物は、結晶核剤を含有することが好ましい。
前記結晶核剤は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の結晶化を促進する効果を有する化合物である。また、前記結晶核剤は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂よりも融点が高い。
前記結晶核剤としては、無機物(窒化ホウ素、酸化チタン、タルク、層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、及び金属リン酸塩など);天然物由来の糖アルコール化合物(ペンタエリスリトール、エリスリトール、ガラクチトール、マンニトール、及びアラビトール等);ポリビニルアルコール;キチン;キトサン;ポリエチレンオキシド;脂肪族カルボン酸塩;脂肪族アルコール;脂肪族カルボン酸エステル;ジカルボン酸誘導体(ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、及びジブチルセバケート);C=OとNH、S及びOから選ばれる官能基とを分子内に有する環状化合物(インジゴ、キナクリドン、及びキナクリドンマゼンタなど);ソルビトール系誘導体(ビスベンジリデンソルビトール、及びビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトールなど);窒素含有ヘテロ芳香族核(ピリジン環、トリアジン環、及びイミダゾール環など)を含む化合物(ピリジン、トリアジン、及びイミダゾールなど);リン酸エステル化合物;高級脂肪酸のビスアミド;高級脂肪酸の金属塩;並びに分岐状ポリ乳酸等が例示できる。
また、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂であるP3HBは、結晶核剤として使用することも可能である。
これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0037】
前記結晶核剤としては、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の結晶化速度の改善効果の観点、並びに、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂との相溶性及び親和性の観点から、糖アルコール化合物、ポリビニルアルコール、キチン、キトサンが好ましい。
また、該糖アルコール化合物のうち、ペンタエリスリトールが好ましい。
【0038】
ポリマー組成物における結晶核剤の含有量は、ポリマー成分100質量部に対し、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。ポリマー組成物における結晶核剤の含有量がポリマー成分100質量部に対し0.05質量部以上であることにより、ポリマー成分の結晶化をより促進できるという利点がある。
また、ポリマー組成物における結晶核剤の含有量は、ポリマー成分100質量部に対し、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。ポリマー組成物における結晶核剤の含有量がポリマー成分100質量部に対し10質量部以下であることにより、釣糸たるモノフィラメントを作製する際に、該溶融物の粘度を低くすることができ、その結果、釣糸たるモノフィラメントの作製がしやすくなるという利点がある。
なお、P3HBは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂であり、且つ、結晶核剤としても機能し得るので、ポリマー組成物がP3HBを含む場合には、P3HBの量は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の量にも、結晶核剤の量にも含まれる。
【0039】
前記ポリマー組成物は、前記滑剤を含有することが好ましい。釣糸が滑剤を含むことにより釣糸の滑性が良好となる。
該滑剤としては、例えば、アミド結合を有する化合物などが挙げられる。
前記アミド結合を有する化合物は、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、及び、エルカ酸アミドから選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0040】
ポリマー組成物における滑剤の含有量は、前記ポリマー成分100質量部に対し、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。ポリマー組成物における滑剤の含有量がポリマー成分100質量部に対し0.05質量部以上であることにより、釣糸の滑性に優れるという利点がある。
また、ポリマー組成物における滑剤の含有量は、ポリマー成分100質量部に対し、12質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、8質量部以下がさらに好ましく、5質量部以下が最も好ましい。ポリマー組成物における滑剤の含有量がポリマー成分100質量部に対し12質量部以下であることにより、滑剤が釣糸たるモノフィラメントの表面にブリードアウトするのを抑制できるという利点がある。
【0041】
本実施形態に係る釣糸の繊度は、100~3000dtexである。
本実施形態に係る釣糸の繊度は、好ましくは200dtex以上である。
本実施形態に係る釣糸の繊度は、好ましくは1500dtex以下、より好ましくは1000dtex以下である。
なお、釣糸の繊度とは、単位長さあたりの質量であり、10,000mあたりの質量(g)を単位(dtex)で表す。釣糸の繊度は、オートバイブロスコープ法により測定することができる。
【0042】
本実施形態に係る釣糸の引張強度は、4.0cN/dtex以上である。
本実施形態に係る釣糸の引張強度は、4.5cNcN/dtex以上が好ましい。
本実施形態に係る釣糸の引張強度は、高いほうが好ましい。
本実施形態に係る釣糸の引張強度は、用途によって求められる柔軟性及び強靭性を損なわない範囲であれば特に限定されないが、10cN/dtex以下であってよい。
本実施形態に係る釣糸の引張強度は、JIS L 1015:2021「化学繊維ステープル試験方法」に基づき、初期長20mm、速度20mm/minで測定した引張強さを意味する。
引張強度の測定には、例えば、引張測定装置(島津製作所社製、オートグラフAG-1)を用いることができる。
【0043】
本実施形態に係る釣糸の断面(長手方向に垂直な断面)の形状としては、例えば、円形状(楕円形状も含む概念)、Y字状、X字状、H字状、多葉形状などが挙げられる。
【0044】
本実施形態に係る釣糸たるモノフィラメントでは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂と、ポリカプロラクトンとが混合された状態となっていてもよい。
【0045】
また、本実施形態に係る釣糸たるモノフィラメントは、複合繊維となっていてもよい。
複合繊維は、JIS L0204-3:1998の3.2.10に規定されている。
前記複合繊維は、例えば、芯部と鞘部とを有する芯鞘複合繊維となっていてもよい。前記芯部がポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含み、前記鞘部がポリカプロラクトンを含んでもよい。また、前記芯部がポリカプロラクトンを含み、前記鞘部がポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含んでもよい。
また、前記複合繊維は、長手方向に垂直な断面における、一方の半円部分が、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含み、他方の半円部分が、ポリカプロラクトンを含んでもよい。
【0046】
本実施形態に係る釣糸は、上記の如く構成されているが、次に、本実施形態に係る釣糸たるモノフィラメントの製造方法について説明する。
【0047】
本実施形態に係る釣糸たるモノフィラメントの製造方法では、溶融紡糸法により釣糸たるモノフィラメントを製造する。
また、本実施形態に係る釣糸の製造方法は、溶融物を紡糸ノズルから吐出して得られた原糸を15~35℃の水浴に通過させる工程(A)と、前記水浴を通過した前記原糸を延伸ロール部で延伸する工程(B)とを有する。
前記溶融物は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂、及び、ポリカプロラクトンを含有する。
【0048】
以下では、
図1に示すモノフィラメントの製造装置1を用いて、釣糸たるモノフィラメントを製造する方法を例に挙げて、本実施形態に係る釣糸たるモノフィラメントの製造方法について説明する。
【0049】
(工程(A))
前記工程(A)は、溶融物を紡糸ノズルから吐出して得られた原糸を15~35℃の水浴に通過させる工程である。
【0050】
図1に示すように、前記工程(A)では、まず、前記溶融物の材料を材料投入部2aに投入する。
次に、該材料投入部2aから投入された材料を混練押出機2bで加熱しながら混練することにより、前記溶融物を得る。
前記混練押出機2bは、スクリュー押出機である。該混練押出機2bは、単軸押出機であっても、二軸押出機であってもよい。
【0051】
そして、吐出孔を有する紡糸ノズル2dを用いて、前記混練押出機2dで得られた溶融物を前記吐出孔から吐出することで溶融状態の原糸Aを得る。
なお、紡糸ノズル2dの吐出孔から吐出する溶融物の流量は、ギアポンプ2cで調整する。
【0052】
前記紡糸ノズル2dの温度は、例えば150~190℃、より具体的には160~180℃である。
【0053】
前記紡糸ノズル2dは、吐出孔を1つ以上有し、吐出孔を複数有してもよい。
前記紡糸ノズル2dが吐出孔を複数有することにより、複数本のモノフィラメントを同時に作製することができる。
【0054】
前記吐出孔の形状としては、例えば、円形状(楕円形状も含む概念)、Y字状、X字状、H字状、多葉形状などが挙げられる。
吐出孔の大きさとしては、例えば、吐出孔の形状が円形の場合、吐出孔の直径が、好ましくは0.5mm~20mm、より好ましくは1.0mm~10mmである。
また、吐出孔の形状が円形の場合、吐出孔の長さ(L)/吐出孔の直径(D)、言い換えればL/Dは、好ましくは1~10、より好ましくは2~5である。
【0055】
1つの吐出孔から溶融物が吐出される吐出量は、好ましくは0.20~2.0kg/hr、より好ましくは0.40~1.2kg/hrである。
【0056】
前記工程(A)では、前記原糸Aを15~35℃の水浴に通過させることにより、原糸Aを冷却する。
また、前記工程(A)では、前記原糸Aの固化温度よりも高い温度の前記原糸Aを15~35℃の水浴3aに通過させる。
【0057】
前記工程(A)では、前記原糸Aを35℃以下の水浴3aに通過させることにより、原糸Aが軟化状態のまま引取ロール部4に接触して粘着してしまうのを抑制することができる。
また、前記工程(A)では、前記原糸Aを35℃以下の水浴3aに通過させることにより、原糸Aを構成するポリカプロラクトン及びポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が結晶化する温度領域内となる時間を短くすることができ、ポリカプロラクトン及びポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の結晶化の進行を抑制できる。これにより、原糸Aが硬くなるのを抑制できる。よって、前記工程(B)での原糸Aの延伸が実施しやすくなる。その結果、釣糸の強度を高めやすくなる。
【0058】
また、前記水浴3aが15℃以上であることにより、原糸Aを構成するポリカプロラクトン及びポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が結晶化する温度領域内となる時間をある程度確保できるため、原糸Aが十分に結晶化しないまま水浴用ロール部3cに接触して粘着してしまうのを抑制することができる。
【0059】
前記水浴3aは、水槽3b内に配された水である。
【0060】
モノフィラメントの製造装置1は、前記原糸Aを前記水浴3aに通過させるように前記原糸Aを搬送する水浴用ロール部3cを備える。
前記工程(A)では、前記原糸Aを水浴用ロール部3cで搬送することで、前記原糸Aを前記水浴3aに通過させる。
【0061】
前記水浴3aの温度は、15~35℃であり、好ましくは18~34℃である。
【0062】
前記工程(A)では、前記原糸Aを、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下に冷却する。前記工程(A)では、前記原糸Aを、例えば0℃以上、より具体的には10℃以上に冷却する。
前記工程(A)では、前記原糸Aを15~35℃の水浴に通過させることで、前記原糸Aを50℃以下まで冷却してもよい。また、前記工程(A)では、前記原糸Aを15~35℃の水浴に通過させることで、前記原糸Aをある程度まで冷却し、そして、前記延伸するまでの間に周囲の空気で冷却させて、前記原糸Aを50℃以下まで冷却してもよい。
【0063】
(工程(B))
前記工程(B)では、冷却された前記原糸Aを延伸ロール部で延伸する。
前記工程(B)では、前記原糸Aを延伸させることにより、原糸に含まれるポリマー成分の配向性を高めることができ、これにより、釣糸の強度を高めることができる。
【0064】
前記工程(B)では、冷却された前記原糸Aを加熱して延伸ロール部で延伸することが好ましい。
ここで、ポリマー成分の配向性を高めるには、ポリマー成分の配向性を高めるのに適した温度領域で延伸させることが望ましい。該温度領域よりも高い温度で原糸を延伸させると、ポリマー成分が溶融状態となり、その結果、延伸してもポリマー成分の配向性があまり高くならないからである。また、該温度領域よりも低い温度で原糸を延伸させようとすると、ポリマー成分が固まり過ぎて原糸が延伸し難くなり、また、原糸を延伸させようとして原糸を無理に引っ張ると原糸が切れて釣糸たるモノフィラメントを製造できなくなるからである。
本実施形態では、冷却された前記原糸Aを加熱して前記延伸ロール部で延伸することにより、周囲の空気で原糸を冷却しながら延伸する態様に比べて、原糸を延伸する際に、ポリマー成分の配向性を高めるのに適した温度領域内となるように原糸の温度を調整するのが容易となり、その結果、原糸のポリマー成分の配向性を高めやすくなる。
よって、本実施形態では、釣糸の強度を高めやすくなる。
【0065】
前記工程(B)では、前記水浴3aで冷却された原糸Aを引取ロール部4で引き取る。
引取ロール部4は、前記原糸Aを前記水浴3aから引き取るためのロール部である。
次に、前記引取ロール部4で引き取った原糸Aを第1の延伸ロール部6で延伸する。
そして、前記第1の延伸ロール部6で延伸した原糸Aを第2の延伸ロール部8で延伸する。
次に、前記第2の延伸ロール部8で延伸した原糸Aを巻取ロール部9で巻き取ることにより、釣糸たるモノフィラメントを得る。
【0066】
前記工程(B)では、前記第1の延伸ロール部6で延伸した原糸Aを第2の延伸ロール部8で延伸している。すなわち、前記工程(B)では、前記原糸Aを2段で延伸する。
なお、前記工程(B)では、多段(2段以上)で延伸してもよく、また、一段で延伸してもよい。
前記工程(B)では、多段(2段以上)で延伸することにより、原糸が延伸で切れるのを抑制しつつ、総延伸倍率を高めることができる。その結果、釣糸の強度をより一層高めやすくなる。
多段(2段以上)で延伸するとは、複数の延伸ロール部を用いて延伸し、後段の延伸ロール部の速度が前段の延伸ロール部の速度よりも速くなっていることを意味する。
延伸ロール部の速度とは、延伸ロール部で搬送する原糸の単位時間当たりの長さである。
【0067】
前記工程(B)における総延伸倍率は、5.0倍以上であり、好ましくは7.0倍を超え、より好ましくは8.0倍以上であり、特に好ましくは9.0倍以上である。
前記工程(B)における総延伸倍率は、例えば、13.0倍以下である。
前記工程(B)における総延伸倍率が5.0倍以上であることにより、釣糸たるモノフィラメントのポリマー成分の配向性が高くなり、その結果、釣糸の強度が高くなる。
前記工程(B)における総延伸倍率は、下記式によって求めることができる。
前記工程(B)における総延伸倍率 = 巻取ロール部9の速度(m/min) / 引取ロール部4の速度(m/min)
【0068】
なお、巻取ロール部の速度(m/min)は、巻取ロール部に巻き取られる原糸の単位時間当たりの長さである。
また、引取ロール部の速度(m/min)は、引取ロール部に引き取られる原糸の単位時間当たりの長さである。
【0069】
前記工程(B)では、原糸Aを前記第1の延伸ロール部6で延伸する前に、前記引取ロール部4を通過した原糸Aを温水槽5で加熱することが好ましい。
前記工程(B)では、原糸Aを前記第1の延伸ロール部6で延伸する前に、前記引取ロール部4を通過した原糸Aを温水槽5で加熱することにより、原糸Aに含まれるポリマー成分の配向性を延伸によって高めるのに適した温度領域内となるように原糸Aの温度を延伸前に調整するのが容易となり、その結果、原糸Aのポリマー成分の配向性を延伸によって高めやすくなる。
前記温水槽5内の温水の温度は、好ましくは25~65℃、より好ましくは30~60℃である。
【0070】
前記工程(B)では、延伸された原糸Aを熱処理槽7の加熱された空気で加熱してもよい。
前記工程(B)では、延伸された原糸Aを熱処理槽7の加熱された空気で加熱することにより、原糸Aに含まれるポリマー成分の結晶化を促進することができる。その結果、釣糸の強度を高くすることができる。
前記熱処理槽7の空気の温度は、好ましくは50~120℃、より好ましくは60~110℃である。
【0071】
〔開示項目〕
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
【0072】
〔項目1〕
モノフィラメントである、釣糸であって、
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂、及び、ポリカプロラクトンを含有し、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量/前記ポリカプロラクトンの重量が、30/70~50/50であり、
引張強度が、4.0cN/dtex以上であり、
繊度が、100~3000dtexである、釣糸。
【0073】
〔項目2〕
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、及び、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項目1に記載の釣糸。
【0074】
〔項目3〕
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を含む、項目2に記載の釣糸。
【0075】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明は、上記した作用効果によって限定されるものでもない。さらに、本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例0076】
次に、実施例、比較例、及び、参考例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0077】
<実施例1>
(工程(A))
まず、
図1に示すように、下記材料を混練押出機2bたる単軸押出機(スクリューの直径D:30mm、スクリューの長さL/スクリューの直径D=24)で165℃で混合することにより、溶融物を作製した。
・ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂:ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(3-ヒドロキシヘキサノエートの割合=6mol%、Mw=55万)(P3HB3HH)
・ポリカプロラクトン(PCL)(Ingevity社製の「CAPA6800」)
・アミド結合を有する滑剤:ベヘン酸アミド
・アミド結合を有する滑剤:エルカ酸アミド
・結晶核剤:ペンタエリスリトール
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量/前記ポリカプロラクトンの重量(P3HB3HH/PCL)を50/50とした。言い換えれば、ポリマー成分におけるP3HB3HHの含有量(以下、「P3HB3HHの比率」ともいう。)を50重量%とした。
また、ポリマー成分(P3HB3HH及びPCLの合計)100重量部に対して、エルカ酸アミドを0.5重量部とし、ベヘン酸アミドを0.5重量部とし、ペンタエリスリトールを1.0重量部とした。
【0078】
次に、前記溶融物を紡糸ノズル2dの吐出孔から吐出することにより、原糸Aを5本得た。
前記紡糸ノズル2dは、吐出孔を5つ有していた。吐出孔は、全て円形であった。また、吐出孔の直径(φ)は、全て1.5mmであった。さらに、吐出孔の長さ(L)/吐出孔の直径(D)、言い換えればL/Dは、3であった。
また、紡糸ノズル2dの温度は、160℃とした。
また、全吐出孔から溶融物が吐出される吐出の合計量は、4.5kg/hrとした。言い換えれば、1つの吐出孔から溶融物が吐出される吐出量は、0.90kg/hrとした。
【0079】
そして、前記原糸Aの固化温度よりも高い温度の前記原糸Aを30℃の水浴3aに36秒間通して、前記原糸Aを冷却した。
【0080】
(工程(B))
工程(B)では、冷却した前記原糸Aを引取ロール部4(速度:5.0m/min)で引き取り、温水槽5(温水の温度:45℃)で2.9秒間加熱し、第1の延伸ロール部6で延伸した。
そして、第1の延伸ロール部6で延伸した原糸Aを熱処理槽7(熱風(空気)の温度:80℃)で4.0秒間加熱し、第2の延伸ロール部8で延伸し、巻取ロール部9で巻き取ることにより、釣糸たるモノフィラメントを得た。
1段目の延伸倍率を7.0倍にし、総延伸倍率を9.0倍とした。
【0081】
なお、総延伸倍率は、上述した方法で求めた。
また、1段目の延伸倍率は、下記式によって求めた。
1段目の延伸倍率 = 第1の延伸ロール部6の速度(m/min) / 引取ロール部4の速度(m/min)
ここで、第1の延伸ロール部の速度は、第1の延伸ロール部で搬送される原糸Aの単位時間当たりの長さである。
【0082】
(実施例2、比較例1~5)
各条件を下記表1に記載のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、釣糸たるモノフィラメントを得た。
【0083】
(釣糸の繊度、及び、引張強度)
釣糸の繊度、及び、引張強度(後述する「加熱前の釣糸の引張強度」)は、上述した方法で求めた。測定値を下記表1に示す。
【0084】
(耐熱性試験)
加熱前に、釣糸の長さを測定した。
釣糸を緊張状態で60℃で24時間加熱した。
次に、加熱した釣糸の長さ、及び、引張強度を測定した。
そして、下記式により寸法保持率を求めた。
寸法保持率(%)=〔1-(加熱前の釣糸の長さ-加熱後の釣糸の長さ)/加熱前の釣糸の長さ〕×100%
また、下記式により強度低下率を求めた。
強度低下率(%)=〔(加熱前の釣糸の引張強度-加熱後の釣糸の引張強度)/加熱前の釣糸の引張強度〕×100%
結果を下記表1に示す。
【0085】
【0086】
表1に示すように、本発明の範囲内である実施例1、2では、P3HB3HHの比率が70重量%以上である比較例1、3、4、総延伸倍率が実施例よりも小さい比較例2に比べて、釣糸の引張強度が高かった。
また、本発明の範囲内である実施例1、2では、P3HB3HHの比率が10重量%である比較例5に比べて、耐熱性試験において、寸法保持率が高かった。
なお、比較例5では、加熱後の釣糸が脆すぎて引張強度が測定できず、強度低下率(%)を求めることが出来なかった。
従って、本開示によれば、強度が高く、且つ、耐熱性に優れる釣糸を提供し得ることが分かる。
【0087】
(比較例6)
水浴の温度を10℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、釣糸たるモノフィラメントを得ようと試みたところ、原糸Aが水浴用ロール部3cに粘着してしまい、釣糸たるモノフィラメントを得ることが出来なかった。
水浴の温度を10℃とすると、原糸Aが水浴用ロール部3cに粘着してしまうのは、原糸Aが水浴で急激に冷却したことで原糸Aが十分に結晶化しないまま水浴用ロール部3cに接触して粘着してしまったものと考えられる。
【0088】
(比較例7)
水浴の温度を40℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、釣糸たるモノフィラメントを得ようと試みたところ、原糸Aが引取ロール部4に粘着してしまい、釣糸たるモノフィラメントを得ることが出来なかった。
水浴の温度を40℃とすると、原糸Aが引取ロール部4に粘着してしまうのは、原糸Aが水浴で十分に冷却しないことで原糸Aが軟化状態のまま引取ロール部4に接触して粘着してしまったものと考えられる。
【0089】
(参考例1)
各条件を下記表2に記載のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、釣糸たるモノフィラメントを得た。
【0090】
【0091】
(参考例2~4)
参考例2として、基準物質たるセルロースを用意した。
参考例3として、綿糸(60/2:60番手双糸、200dtex相当)を用意した。
また、参考例4の釣糸たるモノフィラメントとして、高密度ポリエチレン(HDPE)の釣糸たるモノフィラメントを用意した。
【0092】
(土壌中における生分解性の評価試験)
実施例1、2、比較例2、3、及び、参考例1の釣糸たるモノフィラメントを用いて織物を作製した。
次に、織物に対して、「土壌中におけるプラスチックの好気性生分解評価(ISO 17556)」を実施し、51日目までの理論的二酸化炭素発生量から生分解度百分率を算出した。
また、参考例2の基準物質たるセルロースに対して、「土壌中におけるプラスチックの好気性生分解評価(ISO 17556)」を実施し、51日目までの理論的二酸化炭素発生量から生分解度百分率を算出した。
理論値については、以下のようにして求めた。
まず、120mgの釣糸を120gの土壌に添加し、釣糸を入れた土壌から発生する二酸化炭素をガスバックで51日間捕集した。
次に、ガスバックで捕集した二酸化炭素の量(測定値)をNDIR法で測定した。
また、釣糸を入れていない土壌から51日間発生する二酸化炭素の量(ブランク値)も同様に測定した。
そして、測定値からブランク値を引くことで理論的二酸化炭素発生量を求めた。
生分解度百分率が大きい程、土壌において生分解が進んだことを意味する。
結果を下記表3に示す。
【0093】
【0094】
表3に示すように、実施例1、2では、生分解性度が6.7~8.9%であった。
また、実施例1、2では、P3HB3HHの比率が70重量%以上である比較例1、3、P3HB3HHの比率が0質量%である参考例1、及び、セルロースの参考例2に比べて、生分解性度が低かった。
以上より、実施例1、2の釣糸は、生分解性を有しつつ、寿命が長いことがわかる。
【0095】
(海水における生分解性の評価)
実施例1、2、比較例1、3、及び、参考例1、4の釣糸たるモノフィラメントを海水に浸漬させた。
次に、浸漬前、浸漬から4週間後、浸漬から8週間後、浸漬から12週間後、及び、浸漬から16週間後の釣糸の引張強度を測定した。
そして、下記式により強度保持率を求めた。
強度保持率(%)=〔1-(浸漬前の釣糸の引張強度-浸漬後の釣糸の引張強度)/浸漬前の釣糸の引張強度〕×100%
また、釣糸の代わりに、参考例3の綿糸を用いて、浸漬前、浸漬から4週間後、浸漬から8週間後、浸漬から12週間後、及び、浸漬から16週間後の綿糸の引張強度を測定し、強度保持率を求めた。
結果を下記表4に示す。
なお、比較例3では、浸漬から8週間後の釣糸が脆すぎて引張強度が測定出来なかった。
また、参考例3では、浸漬から8週間後に綿糸が消失してしまい、引張強度が測定出来なかった。
【0096】
【0097】
表4に示すように、実施例1、2では、浸漬から4週間後の強度保持率が67~69%であり、また、浸漬から8週間後の強度保持率が52~63%、さらに、浸漬から12週間後の強度保持率が52~65%、また、浸漬から20週間後の強度保持率が43~46%であった。
表4に示すように、釣糸が高密度ポリエチレン(HDPE)で形成された参考例4では、強度保持率が100%以上であった。よって、実施例1、2の釣糸は、参考例4と異なり、生分解性を有することがわかる。
また、表4に示すように、実施例1、2では、P3HB3HHの比率が100重量%である比較例3、P3HB3HHの比率が0質量%である参考例1、及び、綿糸である参考例3に比べて、強度保持率が高かった。よって、実施例1、2の釣糸は、寿命が長いことがわかる。
さらに、表4に示すように、実施例1、2では、P3HB3HHの比率が70重量%である比較例1に比べて、浸漬から20週間後の引張強度が高かった。
以上より、実施例1、2の釣糸は、生分解性を有しつつ、寿命が長いことがわかる。
【0098】
(釣糸の断面での構造)
実施例1(P3HB3HH/PCL=50/50)、実施例2(P3HB3HH/PCL=30/70)、及び、比較例1(P3HB3HH/PCL=70/30)の釣糸の第1の断面(釣糸の長手方向に垂直な断面)及び第2の断面(第1の断面に垂直な断面)を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した。
具体的には、実施例1、2、及び、比較例1の釣糸の第1の断面及び第2の断面の超薄切片を四酸化ルテニウム(RuO4)で染色し、染色した超薄切片を前記透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した。
【0099】
図2には、実施例1の第1の断面の画像(スケールバー:5μm)を示す。
図3には、
図2よりも拡大倍率を高めた、実施例1の第1の断面の画像(スケールバー:1μm)を示す。
図4には、実施例1の第2の断面の画像(スケールバー:5μm)を示す。
図5には、
図4よりも拡大倍率を高めた、実施例1の第2の断面の画像(スケールバー:1μm)を示す。
図6には、実施例2の第1の断面の画像(スケールバー:5μm)を示す。
図7には、
図6よりも拡大倍率を高めた、実施例2の第1の断面の画像(スケールバー:1μm)を示す。
図8には、実施例2の第2の断面の画像(スケールバー:5μm)を示す。
図9には、
図8よりも拡大倍率を高めた、実施例2の第2の断面の画像(スケールバー:1μm)を示す。
図10には、比較例1の第1の断面の画像(スケールバー:5μm)を示す。
図11には、
図10よりも拡大倍率を高めた、比較例1の第1の断面の画像(スケールバー:1μm)を示す。
図12には、比較例1の第2の断面の画像(スケールバー:5μm)を示す。
図13には、
図12よりも拡大倍率を高めた、比較例1の第2の断面の画像(スケールバー:1μm)を示す。
図4、5、8、9、12、13における矢印の方向は、釣糸の長手方向を意味する。
明るい部分は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)の部分であり、薄暗い部分は、ポリカプロラクトン(PCL)の部分であり、黒色部分は、その他の成分(菌、添加剤など)であると考えられる。
【0100】
図2、3に示すように、実施例1(P3HB3HH/PCL=50/50)の第1の断面(釣糸の長手方向に垂直な断面)では、ドメインたるP3HB3HHがマトリックスたるPCL中に分散したマトリックス-ドメイン構造(海島構造)となっていることが確認された。また、ドメインは、不定形であり、また、数百nm程度の大きさであった。
図4、5に示すように、実施例1(P3HB3HH/PCL=50/50)の第2の断面(第1の断面に垂直な断面)では、ドメインたるPCLがマトリックスたるP3HB3HH中に分散したマトリックス-ドメイン構造(海島構造)となっていることが観察された。ドメインは、釣糸の長手方向に長い楕円形状となっていた。
図6、7に示すように、実施例2(P3HB3HH/PCL=30/70)の第1の断面(釣糸の長手方向に垂直な断面)では、ドメインたるP3HB3HHがマトリックスたるPCL中に分散したマトリックス-ドメイン構造(海島構造)となっている部分と、P3HB3HHの連続相とPCLの連続相とを含む共連続構造となっている部分とが観察された。
図8、9に示すように、実施例2(P3HB3HH/PCL=30/70)の第2の断面(第1の断面に垂直な断面)では、ドメインたるP3HB3HHがマトリックスたるPCL中に分散したマトリックス-ドメイン構造(海島構造)となっていることが確認された。ドメインは、釣糸の長手方向に配向していた。
図10、11に示すように、比較例1(P3HB3HH/PCL=70/30)の第1の断面(釣糸の長手方向に垂直な断面)では、ドメインたるPCLがマトリックスたるP3HB3HH中に分散したマトリックス-ドメイン構造(海島構造)となっている部分と、P3HB3HHの連続相とPCLの連続相とを含む共連続構造となっている部分とが観察された。
図12、13に示すように、比較例1(P3HB3HH/PCL=70/30)の第2の断面(第1の断面に垂直な断面)では、P3HB3HH及びPCLが何れとも、釣糸の長手方向に配向した相分離構造となっていることが確認された。
1:モノフィラメントの製造装置、2a:材料投入部、2b:混練押出機、2c:ギアポンプ、2d:紡糸ノズル、3a:水浴、3b:水槽、3c:水浴用ロール部、4:引取ロール部、5:温水槽、6:第1の延伸ロール部、7:熱処理槽、8:第2の延伸ロール部、9:巻取ロール部