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特開2024-104666自動溶接装置、測定異常検出方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104666
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】自動溶接装置、測定異常検出方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20240729BHJP
   B23K 9/127 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
B23K9/095 515A
B23K9/127 508E
B23K9/095 510E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009003
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】藤本 貴大
(72)【発明者】
【氏名】阿部 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 洋輔
(57)【要約】
【課題】開先部の断面測定の異常に起因する溶接不良の発生を抑制する。
【解決手段】自動溶接装置1のセンサ部5は、溶接トーチ2よりも溶接方向の前側において、母材91,92の溶接方向に直交する断面の形状を測定する。第1検出部802は、溶接方向の各位置において、母材91,92上の特徴点の位置をセンサ部5からの出力に基づいて第1の検出方法により第1検出位置として検出する。第2検出部803は、溶接方向の各位置において、上記特徴点の位置をセンサ部5からの出力に基づいて第1の検出方法とは異なる第2の検出方法により第2検出位置として検出する。判定部804は、溶接方向の各位置において、第1検出位置と第2検出位置との比較結果に基づいてセンサ部5による測定結果の異常を検出する。これにより、開先部93の断面測定の異常に起因する溶接不良の発生を抑制することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動溶接装置であって、
母材において所定の溶接方向に延びる開先部に対して溶接を行う溶接トーチと、
前記溶接トーチを前記母材に対して前記溶接方向に相対的に移動する移動機構と、
前記溶接トーチの前記溶接方向に直交する幅方向における位置を調節する位置調節部と、
前記溶接トーチよりも前記溶接方向の前側において、前記母材の前記溶接方向に直交する断面の形状を測定するセンサ部と、
前記溶接方向の各位置において、前記母材上の特徴点の位置を前記センサ部からの出力に基づいて第1の検出方法により第1検出位置として検出する第1検出部と、
前記溶接方向の各位置において、前記特徴点の位置を前記センサ部からの出力に基づいて前記第1の検出方法とは異なる第2の検出方法により第2検出位置として検出する第2検出部と、
前記溶接方向の各位置において、前記第1検出位置と前記第2検出位置との比較結果に基づいて前記センサ部による測定結果の異常を検出する判定部と、
を備えることを特徴とする自動溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動溶接装置であって、
前記特徴点は、前記断面において前記開先部に含まれる点であることを特徴とする自動溶接装置。
【請求項3】
請求項2に記載の自動溶接装置であって、
前記特徴点は、前記断面において前記溶接トーチによる溶接が行われる予定の点であることを特徴とする自動溶接装置。
【請求項4】
請求項2に記載の自動溶接装置であって、
前記第1の検出方法では、前記センサ部により測定された前記開先部の断面の前記幅方向に対する傾きに基づいて前記第1検出位置が検出され、
前記第2の検出方法では、前記センサ部により測定された前記開先部の断面と予め準備された基準断面とのフィッティングにより前記第2検出位置が検出されることを特徴とする自動溶接装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の自動溶接装置であって、
前記判定部によって前記測定結果の異常が検出された際に、
前記第1検出位置と前記第2検出位置との差が第1閾値以上である場合、警告が発せられ、
前記第1検出位置と前記第2検出位置との差が前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上である場合、前記溶接トーチによる溶接が停止されることを特徴とする自動溶接装置。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の自動溶接装置であって、
前記溶接方向の各位置における前記第1検出位置と前記第2検出位置との比較結果を記憶する記憶部をさらに備えることを特徴とする自動溶接装置。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の自動溶接装置であって、
前記開先部に対する溶接を複数回繰り返す多層溶接を行うことを特徴とする自動溶接装置。
【請求項8】
母材において所定の溶接方向に延びる開先部に対して溶接を行う溶接トーチと、前記溶接トーチを前記母材に対して前記溶接方向に相対的に移動する移動機構と、前記溶接トーチの前記溶接方向に直交する幅方向における位置を調節する位置調節部と、前記溶接トーチよりも前記溶接方向の前側において、前記母材の前記溶接方向に直交する断面の形状を測定するセンサ部と、を備える自動溶接装置において、前記センサ部による測定異常を検出する測定異常検出方法であって、
a)前記溶接方向の各位置において、前記母材上の特徴点の位置を前記センサ部からの出力に基づいて前記第1の検出方法により第1検出位置として検出する工程と、
b)前記溶接方向の各位置において、前記特徴点の位置を前記センサ部からの出力に基づいて前記第1の検出方法とは異なる第2の検出方法により第2検出位置として検出する工程と、
c)前記溶接方向の各位置において、前記第1検出位置と前記第2検出位置との比較結果に基づいて前記センサ部による測定結果の異常を検出する工程と、
を備えることを特徴とする測定異常検出方法。
【請求項9】
母材において所定の溶接方向に延びる開先部に対して溶接を行う溶接トーチと、前記溶接トーチを前記母材に対して前記溶接方向に相対的に移動する移動機構と、前記溶接トーチの前記溶接方向に直交する幅方向における位置を調節する位置調節部と、前記溶接トーチよりも前記溶接方向の前側において、前記母材の前記溶接方向に直交する断面の形状を測定するセンサ部と、を備える自動溶接装置において、前記センサ部による測定異常を検出するプログラムであって、
コンピュータによって前記プログラムが実行されることにより、
a)前記溶接方向の各位置において、前記母材上の特徴点の位置を前記センサ部からの出力に基づいて前記第1の検出方法により第1検出位置として検出する工程と、
b)前記溶接方向の各位置において、前記特徴点の位置を前記センサ部からの出力に基づいて前記第1の検出方法とは異なる第2の検出方法により第2検出位置として検出する工程と、
c)前記溶接方向の各位置において、前記第1検出位置と前記第2検出位置との比較結果に基づいて前記センサ部による測定結果の異常を検出する工程と、
が行われることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動溶接装置、並びに、自動溶接方法においてセンサ部による測定異常を検出する測定異常検出方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動溶接装置として、CCDカメラやレーザ変位計等を用いて母材の開先部の形状を計測し、計測結果に基づいて溶接トーチの狙い位置等を調節する機能(自動倣い機能)を有するものが使用されている(特許文献1および特許文献2)。
【0003】
特許文献2の自動溶接装置では、開先部の断面形状は、母材上の複数の被計測点におけるレーザ変位計の計測データからなる点列によって表される。レーザ変位計による計測では、溶接部の表面の状態が悪い場合等、一部の被計測点において計測データが取得できずに欠落する場合がある。当該自動溶接装置では、レーザ変位計により得られた計測データの数が、本来得られるべき計測データの数よりも所定の割合以上少ない場合、エラー信号が出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3449917号公報
【特許文献2】特許第4131713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献2の自動溶接装置では、レーザ変位計の計測データの欠落は検知できるが、レーザ光の反射不良やレーザ変位計の下方における異物の存在等に起因して生じる異常な計測データを検知することは難しい。したがって、異常な計測データから取得された開先部の誤った断面形状に基づいて溶接が行われるおそれがある。この場合、溶接後の非破壊検査等で溶接不良が発見され、溶接の補修のために工程に大きなロスが生じる可能性が有る。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、開先部の断面測定の異常に起因する溶接不良の発生を抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、自動溶接装置であって、母材において所定の溶接方向に延びる開先部に対して溶接を行う溶接トーチと、前記溶接トーチを前記母材に対して前記溶接方向に相対的に移動する移動機構と、前記溶接トーチの前記溶接方向に直交する幅方向における位置を調節する位置調節部と、前記溶接トーチよりも前記溶接方向の前側において、前記母材の前記溶接方向に直交する断面の形状を測定するセンサ部と、前記溶接方向の各位置において、前記母材上の特徴点の位置を前記センサ部からの出力に基づいて第1の検出方法により第1検出位置として検出する第1検出部と、前記溶接方向の各位置において、前記特徴点の位置を前記センサ部からの出力に基づいて前記第1の検出方法とは異なる第2の検出方法により第2検出位置として検出する第2検出部と、前記溶接方向の各位置において、前記第1検出位置と前記第2検出位置との比較結果に基づいて前記センサ部による測定結果の異常を検出する判定部と、を備える。
【0008】
本発明の態様2は、態様1の自動溶接装置であって、前記特徴点は、前記断面において前記開先部に含まれる点である。
【0009】
本発明の態様3は、態様2の自動溶接装置であって、前記特徴点は、前記断面において前記溶接トーチによる溶接が行われる予定の点である。
【0010】
本発明の態様4は、態様2の自動溶接装置であって、前記第1の検出方法では、前記センサ部により測定された前記開先部の断面の前記幅方向に対する傾きに基づいて前記第1検出位置が検出される。前記第2の検出方法では、前記センサ部により測定された前記開先部の断面と予め準備された基準断面とのフィッティングにより前記第2検出位置が検出される。
【0011】
本発明の態様5は、態様1ないし4のいずれか1つの自動溶接装置であって、前記判定部によって前記測定結果の異常が検出された際に、前記第1検出位置と前記第2検出位置との差が第1閾値以上である場合、警告が発せられ、前記第1検出位置と前記第2検出位置との差が前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上である場合、前記溶接トーチによる溶接が停止される。
【0012】
本発明の態様6は、態様1ないし4のいずれか1つ(態様1ないし5のいずれか1つ、であってもよい。)の自動溶接装置であって、前記自動溶接装置は、前記溶接方向の各位置における前記第1検出位置と前記第2検出位置との比較結果を記憶する記憶部をさらに備える。
【0013】
本発明の態様7は、態様1ないし4のいずれか1つ(態様1ないし6のいずれか1つ、であってもよい。)の自動溶接装置であって、前記開先部に対する溶接を複数回繰り返す多層溶接を行う。
【0014】
本発明の態様8は、母材において所定の溶接方向に延びる開先部に対して溶接を行う溶接トーチと、前記溶接トーチを前記母材に対して前記溶接方向に相対的に移動する移動機構と、前記溶接トーチの前記溶接方向に直交する幅方向における位置を調節する位置調節部と、前記溶接トーチよりも前記溶接方向の前側において、前記母材の前記溶接方向に直交する断面の形状を測定するセンサ部と、を備える自動溶接装置において、前記センサ部による測定異常を検出する測定異常検出方法に関する。前記測定異常検出方法は、a)前記溶接方向の各位置において、前記母材上の特徴点の位置を前記センサ部からの出力に基づいて前記第1の検出方法により第1検出位置として検出する工程と、b)前記溶接方向の各位置において、前記特徴点の位置を前記センサ部からの出力に基づいて前記第1の検出方法とは異なる第2の検出方法により第2検出位置として検出する工程と、c)前記溶接方向の各位置において、前記第1検出位置と前記第2検出位置との比較結果に基づいて前記センサ部による測定結果の異常を検出する工程と、を備える。
【0015】
本発明の態様9は、母材において所定の溶接方向に延びる開先部に対して溶接を行う溶接トーチと、前記溶接トーチを前記母材に対して前記溶接方向に相対的に移動する移動機構と、前記溶接トーチの前記溶接方向に直交する幅方向における位置を調節する位置調節部と、前記溶接トーチよりも前記溶接方向の前側において、前記母材の前記溶接方向に直交する断面の形状を測定するセンサ部と、を備える自動溶接装置において、前記センサ部による測定異常を検出するプログラムに関する。コンピュータによって前記プログラムが実行されることにより、a)前記溶接方向の各位置において、前記母材上の特徴点の位置を前記センサ部からの出力に基づいて前記第1の検出方法により第1検出位置として検出する工程と、b)前記溶接方向の各位置において、前記特徴点の位置を前記センサ部からの出力に基づいて前記第1の検出方法とは異なる第2の検出方法により第2検出位置として検出する工程と、c)前記溶接方向の各位置において、前記第1検出位置と前記第2検出位置との比較結果に基づいて前記センサ部による測定結果の異常を検出する工程と、が行われる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、開先部の断面測定の異常に起因する溶接不良の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一の実施の形態に係る自動溶接装置の構成を示す正面図である。
図2】自動溶接装置の左側面図である。
図3】制御部を実現するコンピュータの構成を示す図である。
図4】制御部の機能を示すブロック図である。
図5A】自動溶接装置による溶接の流れを示す図である。
図5B】自動溶接装置による溶接の流れを示す図である。
図6】センサ部による測定結果の一例を示す図である。
図7】センサ部による測定結果の一例を示す図である。
図8】センサ部による測定結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る自動溶接装置1の構成を示す正面図である。図2は、自動溶接装置1の左側面図である。自動溶接装置1は、母材91,92の開先部93に沿って溶接位置を移動しつつ開先部93に対する連続的な溶接を行う自動倣い機能付きの溶接装置である。図2では、母材91,92を断面にて示す。
【0019】
図1および図2では、互いに直交する3つの方向をX方向、Y方向およびZ方向として矢印にて示している。図1および図2に示す例では、X方向およびY方向は互いに垂直な水平方向であり、Z方向は鉛直方向であるが、これには限定されない。
【0020】
図1に示す例では、自動溶接装置1は、図1中の左側から右側へと(すなわち、(-Y)側から(+Y)側へと)移動しつつ、母材91,92に設けられた開先部93に対する溶接を行う。当該溶接は、例えば、開先部93の略全長に亘る溶接を複数回繰り返す多層溶接である。なお、当該溶接は単層溶接であってもよい。図2に示す例では、略V形の開先部93が設けられた母材91および母材92を接合する溶接が行われる。開先部93は、例えば、Y方向に略平行に略直線状に延びる。なお、開先部93は必ずしも直線状である必要はなく、湾曲しつつ延びていてもよい。以下の説明では、開先部93の延びる方向を「溶接方向」とも呼ぶ。なお、開先部93の形状はV形には限定されない。
【0021】
自動溶接装置1は、溶接トーチ2と、移動機構3と、位置調節部4と、センサ部5と、制御部8とを備える。溶接トーチ2は、母材91,92の開先部93の上方(すなわち、(+Z)側)においてアーム11によって支持される。溶接トーチ2は、母材91,92において所定の溶接方向(すなわち、Y方向)に延びる開先部93に対して溶接を行う。
【0022】
移動機構3は、溶接トーチ2を母材91,92に対してY方向に相対的に移動する。図1および図2に示す例では、移動機構3は、台車31と、レール32とを備える。レール32は、Y方向に略平行に延びる。台車31は、内部に電動モータ等を備えた自走式の台車であり、レール32に沿ってY方向に移動する。台車31には、アーム11の端部が固定されており、台車31がY方向に移動することにより、溶接トーチ2も台車31と共にY方向に移動する。なお、移動機構3の構造は、上記例には限定されず、様々に変更されてよい。例えば、移動機構3は、リニアモータを備えていてもよい。
【0023】
位置調節部4は、溶接トーチ2のX方向における位置を調節する。X方向は、溶接方向に略直交する方向であり、かつ、母材91,92の上面(すなわち、溶接トーチ2に対向する側の主面)に略平行な方向である。すなわち、X方向は溶接方向に延びる開先部93の幅方向に対応する方向であり、以下の説明では単に「幅方向」とも呼ぶ。位置調節部4は、また、溶接トーチ2のZ方向(すなわち、上下方向)における位置も調節する。
【0024】
自動溶接装置1では、溶接トーチ2が溶接方向の各位置に位置する状態で、位置調節部4により溶接トーチ2の幅方向および上下方向における位置調節がそれぞれ行われる。位置調節部4は、例えば、リニアモータを備えていてもよく、ボールネジ機構および電動モータを備えていてもよい。位置調節部4の構造は、様々に変更されてよい。
【0025】
センサ部5は、溶接トーチ2よりも(+Y)側(すなわち、溶接方向の前側)に配置される。溶接方向の前側とは、開先部93に対する自動溶接が行われる際に、移動機構3によって溶接トーチ2が移動する際の移動方向の前側である。図1に示す例では、センサ部5は、母材91,92の開先部93の上方においてアーム11によって支持される。したがって、センサ部5は溶接トーチ2に対して相対的に固定されている。センサ部5は、開先部93の溶接方向に直交する断面(すなわち、XZ平面における断面)の形状を測定する。センサ部5は、移動機構3によって溶接トーチ2と共にY方向に移動され、Y方向の各位置において、開先部93および開先部93近傍の部位の溶接方向に直交する断面の形状(以下、単に「断面形状」とも呼ぶ。)を測定する。
【0026】
センサ部5は、例えば、光切断センサを備える。当該光切断センサは、X方向に延びる帯状のレーザ光を母材91,92の表面に照射し、当該表面にて拡散反射した反射光を撮像素子にて受光することにより、開先部93を含む母材91,92の断面形状を取得する。センサ部5では、X方向に配列された複数の測定点に対応する複数の点の集合(すなわち、点列)として、開先部93および開先部93近傍の部位の断面形状が取得される。当該複数の測定点は、例えば、X方向に関して略等間隔にて配列される。
【0027】
図3は、制御部8を実現するコンピュータ80の構成を示す図である。コンピュータ80は、プロセッサ81と、メモリ82と、入出力部83と、バス84とを備える通常のコンピュータである。バス84は、プロセッサ81、メモリ82および入出力部83を接続する信号回路である。メモリ82は、各種情報を記憶する。メモリ82は、例えば、記憶媒体95に予め記憶されているプログラム89を読み出して記憶する。記憶媒体95は、例えば、USBメモリやCD-ROMである。
【0028】
プロセッサ81は、メモリ82に記憶されるプログラム89等に従って、メモリ82等を利用しつつ様々な処理(例えば、数値計算)を実行する。入出力部83は、操作者からの入力を受け付けるキーボード85およびマウス86、プロセッサ81からの出力等を表示するディスプレイ87、並びに、プロセッサ81からの出力等を送信する送信部等を備える。なお、制御部8は、プログラマブルロジックコントローラ(PLC:Programmable Logic Controller)、または、回路基板等により実現されてもよい。制御部8は、コンピュータ、PLCおよび回路基板等のうち、任意の複数の構成により実現されてもよい。
【0029】
図4は、上述のコンピュータ80によってプログラム89が実行されることにより実現される制御部8の機能を示すブロック図である。制御部8は、自動溶接装置1の各構成の様々な動作を制御する。図4では、制御部8以外の構成も併せて示す。
【0030】
制御部8は、記憶部801と、第1検出部802と、第2検出部803と、判定部804と、溶接制御部805とを備える。記憶部801は、主にメモリ82(図3参照)により実現され、自動溶接装置1に係る様々な情報を記憶する。第1検出部802、第2検出部803および判定部804は、主にプロセッサ81(図3参照)により実現され、開先部93の断面形状の測定に係る様々な演算等を行う。溶接制御部805は、主にプロセッサ81により実現され、開先部93の溶接に係る様々な演算等を行い、溶接トーチ2、移動機構3および位置調節部4等を制御する。
【0031】
次に、自動溶接装置1による溶接の流れについて、図5Aおよび図5Bを参照しつつ説明する。自動溶接装置1により母材91,92の溶接が行われる際には、まず、移動機構3によって溶接トーチ2およびセンサ部5がY方向に移動され、センサ部5が開先部93の(-Y)側の端部(すなわち、始端部)の上方に位置する。続いて、溶接トーチ2およびセンサ部5の(+Y)方向への移動が開始される。センサ部5は、移動機構3によって(+Y)方向へと移動しつつ、Y方向(すなわち、溶接方向)の各位置における開先部93および開先部93近傍の部位の断面形状を連続的に取得する。また、溶接トーチ2は、移動機構3によって(+Y)方向へと移動しつつ、Y方向の各位置において開先部93に対する溶接を連続的に行う。
【0032】
以下の説明では、開先部93のY方向における一の位置に注目し、当該一の位置に対する自動溶接装置1の動作について説明する。まず、センサ部5が当該一の位置の上方を通過する際に、当該一の位置における開先部93および開先部93近傍の部位の断面形状(すなわち、母材91,92のうち開先部93を含む部位の断面形状)がセンサ部5により取得される(ステップS11)。ステップS11では、図6に示すように、開先部93の略V形の断面形状が、X方向の所定の複数位置における点の集合(すなわち、点列90)として取得される。センサ部5により取得された点列90は、センサ部5から記憶部801(図4参照)へと出力されて記憶部801に格納される。
【0033】
開先部93の具体的な断面形状は、上辺よりも下辺が短い略台形状である。開先部93の断面は、第1屈曲点931と、第2屈曲点932と、第3屈曲点933と、第4屈曲点934とを備える。第1屈曲点931、第2屈曲点932、第3屈曲点933および第4屈曲点934は、開先部93の断面形状を規定する複数の点である。
【0034】
第1屈曲点931は、母材91の表面が母材91の上面から開先部93の内部に向かって図6中の右斜め下方(すなわち、(+X)側かつ(-Z)側)へと屈曲する点である。すなわち、第1屈曲点931は、母材91の上面と開先部93の内面との境界である。第2屈曲点932は、母材91において第1屈曲点931から図6中の右斜め下方へと延びる開先側面が略右方(すなわち、略(+X)側)へと屈曲する点である。
【0035】
第3屈曲点933は、第2屈曲点932から図6中の右方へと延びる面(すなわち、開先底面)が、母材91と母材92との境界を超えて、母材92において右斜め上方(すなわち、(+X)側かつ(+Z)側)へと屈曲する点である。第3屈曲点933のZ方向の位置は、第2屈曲点932のZ方向の位置と略同じである。図6に示す例では、母材91と母材92との境界は、第2屈曲点932と第3屈曲点933とのX方向における略中央に位置する。第4屈曲点934は、母材92において第3屈曲点933から図6中の右斜め上方へと延びる面(すなわち、開先側面)が略右方へと屈曲する点である。すなわち、第4屈曲点934は、開先部93の内面と母材92の上面との境界である。第4屈曲点934のZ方向の位置は、第1屈曲点931のZ方向の位置と略同じである。
【0036】
開先部93の断面形状が取得されると、第1検出部802により、センサ部5からの出力に基づいて、開先部93の断面に含まれる特徴点の位置が第1の検出方法により求められる(ステップS12)。当該特徴点は、例えば、第1屈曲点931、第2屈曲点932、第3屈曲点933および第4屈曲点934のうち1つの点である。あるいは、特徴点は、第2屈曲点932と第3屈曲点933との間に位置する母材91と母材92との境界を示す点(すなわち、溶接トーチ2の狙い位置であり、以下、「溶接点94」とも呼ぶ。)であってもよい。特徴点の上述の位置は、例えば、X方向およびZ方向のそれぞれにおける位置(すなわち、X座標およびZ座標)である。当該特徴点の位置は、X座標のみ、または、Z座標のみであってもよい。以下では、第2屈曲点932が特徴点であり、特徴点の位置は第2屈曲点932のX座標およびZ座標であるものとして説明する。
【0037】
上述の第1の検出方法は、例えば、公知の様々な検出方法から選択可能である。第1の検出方法では、例えば、センサ部5により測定された開先部93の断面の幅方向に対する傾きに基づいて上記特徴点の位置が検出される。以下の説明では、当該検出方法を「微分検出法」とも呼ぶ。
【0038】
微分検出法では、例えば、開先部93の断面を示す点列90(図6参照)の各点について、当該各点から次の点(例えば、(+X)側に隣接する点))に向かう直線の幅方向に対する傾き(すなわち、dZ/dX)が求められる。そして、点列90のうち、dZ/dXまたは(dZ/dX)等が急激に変化する4つの点(すなわち、屈曲点)が、上述の第1屈曲点931、第2屈曲点932、第3屈曲点933および第4屈曲点934として抽出され、(-X)側から2番目の屈曲点のX座標およびZ座標が、特徴点である第2屈曲点932の位置として取得される。
【0039】
あるいは、第1の検出方法では、センサ部5により測定された開先部93の断面と、予め準備された設計上の開先部93の断面(すなわち、基準となる形状の断面であり、以下、「基準断面」とも呼ぶ。)とのフィッティングにより、上記特徴点の位置が検出されてもよい。以下の説明では、当該検出方法を「フィッティング法」とも呼ぶ。
【0040】
フィッティング法では、例えば、センサ部5により測定された開先部93の断面を示す点列90のうち、略中央部にてX方向に沿って並ぶ点群が開先底面として選択され、開先底面の(-X)側および(+X)側にてX方向およびZ方向に対して傾斜して並ぶ点群が一対の開先側面として選択される。続いて、図7中に細線にて示すように、開先底面を構成する点群から最小二乗法等により近似直線が求められ、一対の開先側面をそれぞれ構成する点群から最小二乗法等により近似直線が求められる。次に、これらの近似直線にて形成される近似断面の形状と、上述の基準断面の形状とが比較されて、両断面の重複度が取得される。その後、上述の開先底面および一対の開先側面にそれぞれ対応する点群に含まれる点の変更(例えば、一対の開先側面の最下端の点を開先底面の点群へと移動させる等の変更)が行われ、上述の近似断面と基準断面との重複度を取得することが繰り返される。そして、重複度が最も高い近似断面における第2屈曲点932のX座標およびZ座標が、特徴点の位置として取得される。
【0041】
また、第1の検出方法では、予め機械学習により作成された学習モデルを用いて、センサ部5により測定された開先部93の断面から上記特徴点の位置が検出されてもよい。以下の説明では、当該検出方法を「機械学習検出法」とも呼ぶ。機械学習検出法では、例えば、予め準備された開先部93の断面形状を示す点列や画像等に基づいて学習用データセットが生成され、当該学習用データセットを用いたディープラーニング等の機械学習により、上記断面形状と特徴点の位置との関係を示す学習済みモデルが生成される。そして、センサ部5により測定された開先部93の断面を示す点列90と上記学習済みモデルとが比較され、第2屈曲点932のX座標およびZ座標が、特徴点の位置として取得される。
【0042】
ステップS12が終了すると、第2検出部803により、センサ部5からの出力に基づいて、開先部93の断面に含まれる上述の特徴点(すなわち、第2屈曲点932)の位置が第2の検出方法により求められる(ステップS13)。第2の検出方法は、上述の第1の検出方法とは異なる検出方法である。第2の検出方法は、例えば、公知の様々な検出方法から選択可能である。第2の検出方法は、例えば、上述の微分検出法、フィッティング法および機械学習検出法のうちの1つであってもよい。
【0043】
本実施の形態では、第1の検出方法は微分検出法であり、第2の検出方法はフィッティング法である。また、本実施の形態では、ステップS12において、第1屈曲点931、第3屈曲点933および第4屈曲点934の位置も、第1の検出方法によって求められる。ステップS13では、第1屈曲点931、第3屈曲点933および第4屈曲点934の位置も、第2の検出方法によって求められる。なお、第1の検出方法および第2の検出方法はそれぞれ、上述の微分検出法、フィッティング法および機械学習検出法以外の方法であってもよい。
【0044】
ステップS12,S13が終了すると、ステップS12およびステップS13において求められた上述の特徴点の位置が、判定部804により比較される。以下の説明では、ステップS12において第1の検出方法により求められた特徴点の位置を「第1検出位置」とも呼ぶ。また、ステップS13において第2の検出方法により求められた特徴点の位置を「第2検出位置」とも呼ぶ。判定部804では、第1検出位置と第2検出位置との比較結果に基づいて、センサ部5による測定結果が正常か異常かが判断される。また、当該比較結果は、記憶部801に格納され、オペレータの指示等に応じてディスプレイ87に表示される。
【0045】
例えば、図6に示すように、センサ部5により測定された開先部93の断面形状(すなわち、点列90の形状)が、実際の開先部93の断面形状(図2参照)と略同じまたは近い場合、第1検出位置と第2検出位置とは略同じである。このため、第1検出位置と第2検出位置との差は、所定の第1閾値未満となり(ステップS14)、判定部804において、センサ部5による測定結果は正常であると判断される(ステップS15)。
【0046】
上述の第1検出位置と第2検出位置との差は、例えば、第1の検出方法により求められた特徴点と、第2の検出方法により求められた特徴点との間の距離である。あるいは、第1検出位置と第2検出位置との差は、第1の検出方法により求められた特徴点と、第2の検出方法により求められた特徴点との間のX方向における距離であってもよく、Z方向における距離であってもよい。また、センサ部5による測定結果が正常であるか異常であるかの判断は、第1検出位置と第2検出位置との比較結果に基づいて行われるのであれば、必ずしも、第1検出位置と第2検出位置との差と第1閾値との大小関係による必要はない。
【0047】
Y方向における一の位置におけるセンサ部5による測定結果が正常である場合、当該測定結果に基づいて溶接点94の位置(すなわち、X座標およびZ座標)が求められる。例えば、ステップS12において第1の検出方法により求められた第2屈曲点932および第3屈曲点933のX座標の算術平均が、溶接点94のX座標として求められる。また、第1の検出方法により求められた第2屈曲点932および第3屈曲点933のZ座標の算術平均が、溶接点94のZ座標として求められる。なお、溶接点94のX座標およびZ座標は、ステップS13において第2の検出方法により求められた第2屈曲点932および第3屈曲点933のX座標およびZ座標のそれぞれの算術平均として求められてもよい。
【0048】
あるいは、溶接点94の位置は、第1の検出方法により求められた第2屈曲点932および第3屈曲点933の位置、並びに、第2の検出方法により求められた第2屈曲点932および第3屈曲点933の位置に基づいて求められてもよい。すなわち、溶接点94の位置は、第1の検出方法により求められた開先部93の断面形状、および/または、第2の検出方法により求められた開先部93の断面形状に基づいて求められる。なお、溶接点94の位置は、上記以外の様々な方法により求められてもよい。
【0049】
そして、溶接トーチ2が(+Y)方向に移動して当該一の位置に到達すると、溶接制御部805によって位置調節部4が制御され、溶接トーチ2のX方向およびZ方向における位置が、溶接点94のX座標およびZ座標に基づいて調節される(ステップS16)。そして、溶接トーチ2により、溶接点94に対する溶接が行われる(ステップS17)。自動溶接装置1では、開先部93のY方向(すなわち、溶接方向)の各位置において、上述のステップS11~S17が連続的に行われ、開先部93に対する自動倣い溶接がY方向に進行する。なお、溶接点94のZ方向における位置の変動がほとんど生じない開先部93に対する溶接が行われる場合、溶接トーチ2のZ方向における位置調節は行われず、X方向における位置調節のみが行われてもよい。この場合、ステップS12,S13では、特徴点の位置として特徴点のX座標のみが検出され、Z座標は検出されなくてよい。
【0050】
一方、図8に示すように、センサ部5により測定された開先部93の断面形状(すなわち、点列90の形状)が、実際の開先部93の断面形状(図2参照)と比較的大きく異なっている場合、第1の検出方法による特徴点の位置である第1検出位置951と、第2の検出方法による特徴点の位置である第2検出位置952とも比較的大きく異なる。図8では、第1検出位置951を点列90を構成する点よりも大きい円にて囲んで示し、第2検出位置952を三角形にて囲んで示している。判定部804では、第1検出位置951と第2検出位置952との差が上述の第1閾値以上である場合(ステップS14)、センサ部5による測定結果が異常であると判断される(ステップS18)。
【0051】
センサ部5による測定の異常は、実際の開先部93の断面形状と、センサ部5により測定された開先部93の断面形状とが大きく異なる状態、および、センサ部5により測定された開先部93の断面形状は実際の開先部93の断面形状と近いにも関わらず、センサ部5の出力から求められた特徴点の位置が実際の特徴点の位置と大きく異なる状態を含む。センサ部5による測定の異常は、例えば、センサ部5から照射されるレーザ光の二次反射光の影響、センサ部5におけるセンサ条件の不適合、自動溶接装置1の意図しない急激な動作、制御部8におけるバグ、センサ部5と母材91,92との間に存在する異物、開先部93の内面上に存在するバリ等の異物等、様々な原因によって発生する可能性がある。
【0052】
ステップS18にて測定結果が異常であると判断されると、制御部8により図示省略の警告部が制御され、オペレータに対して警告音や警告灯等による警告が発せられる(ステップS19)。オペレータは、目視等により開先部93やセンサ部5等を確認し、必要に応じて適切な処置を講じる。例えば、測定結果の異常の原因が許容範囲のものである場合、オペレータは警告音や警告灯等を停止し、溶接トーチ2による開先部93に対する溶接を続行させつつ(ステップS16~S17)、異常が生じないかを観察する。なお、当該警告は、警告音および警告灯以外の様々な手段によりオペレータに報知されてもよい。
【0053】
また、第1検出位置951と第2検出位置952との差が、第1閾値よりも大きい第2閾値以上である場合(ステップS20)、ステップS19で警告が発生されるだけでなく、制御部8により溶接トーチ2や移動機構3等が制御され、開先部93に対する溶接が非常停止される(ステップS21)。これにより、誤って求められた溶接点94の位置に基づいて溶接が行われて溶接不良が生じることを抑制することができる。また、溶接不良状態で溶接が継続されることを抑制することにより、後工程における溶接の補修(すなわち、手直し)を抑制することができる。
【0054】
上述のように、自動溶接装置1では、開先部93のY方向(すなわち、溶接方向)の各位置において、ステップS11~S14が連続的に行われ、センサ部5による測定結果が正常であるか異常であるかが継続的に判断される。このとき、センサ部5におけるノイズ等により、センサ部5の測定結果が正常であるにもかかわらず、第1検出位置と第2検出位置との差が、瞬間的に第1閾値以上または第2閾値以上となる可能性がある。
【0055】
そこで、判定部804では、第1検出位置と第2検出位置との差が第1閾値以上である状態が第1の所定時間以上継続された場合にのみ、センサ部5による測定結果が異常であると判断され、第1検出位置と第2検出位置との差が第1閾値以上である状態が第1の所定時間継続されなかった場合は、センサ部5による測定結果は正常であると判断されてもよい。また、制御部8による溶接の非常停止は、第1検出位置と第2検出位置との差が第2閾値以上である状態が第2の所定時間以上継続された場合にのみ行われ、第1検出位置と第2検出位置との差が第2閾値以上である状態が当第2の所定時間継続されなかった場合は、溶接の非常停止は行われなくてもよい。なお、第1の所定時間と第2の所定時間とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0056】
ステップS12では、第1の検出方法により検出された特徴点の位置(すなわち、第1検出位置)が、所定の補正方法によって補正されてもよい。当該補正方法の一例として、センサ部5の現在の測定位置(すなわち、センサ部5によって開先部93の断面が取得されているY方向の位置)よりも(-Y)側において既に検出されている開先部93の断面形状を用いる方法が挙げられる。具体的には、例えば、センサ部5の測定位置よりも(-Y)側の所定範囲において検出された第1屈曲点931、第2屈曲点932、第3屈曲点933および第4屈曲点934のそれぞれの座標群の統計値(例えば、平均値、最大値、最小値等)を用いて、現在の測定位置における第1屈曲点931、第2屈曲点932、第3屈曲点933および第4屈曲点934の座標が、当該統計値から大きくずれないように補正が行われる。
【0057】
ステップS12では、上記補正方法に代えて、または、上記補正方法に加えて、他の補正方法により特徴点の位置が補正されてもよい。ステップS13でも同様に、第2の検出方法により検出された特徴点の位置(すなわち、第2検出位置)が補正されてもよい。ステップS12およびステップS13にて用いられる特徴点の位置の補正方法は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0058】
また、自動溶接装置1では、上述の特徴点は、必ずしも開先部93に含まれる必要はなく、開先部93の外側において母材91上または母材92上に設けられていてもよい。例えば、母材91上の開先部93近傍に、開先部93と略平行に延びる線状凸部または線状凹部が設けられている場合、当該線状凸部の頂部、または、当該線状凹部の底部や上部エッジが特徴点とされてもよい。
【0059】
以上に説明したように、自動溶接装置1は、溶接トーチ2と、移動機構3と、位置調節部4と、センサ部5と、第1検出部802と、第2検出部803と、判定部804とを備える。溶接トーチ2は、母材91,92において所定の溶接方向(上記例では、Y方向)に延びる開先部93に対して溶接を行う。移動機構3は、溶接トーチ2を母材91,92に対して溶接方向に相対的に移動する。位置調節部4は、溶接方向の各位置において、溶接トーチ2の溶接方向に直交する幅方向(上記例では、X方向)における位置を調節する。センサ部5は、溶接トーチ2よりも溶接方向の前側(上記例では、(+Y)側)において、母材91,92の溶接方向に直交する断面の形状を測定する。第1検出部802は、溶接方向の各位置において、母材91,92上の特徴点の位置をセンサ部5からの出力に基づいて第1の検出方法により第1検出位置として検出する。第2検出部803は、溶接方向の各位置において、上記特徴点の位置をセンサ部5からの出力に基づいて第1の検出方法とは異なる第2の検出方法により第2検出位置として検出する。判定部804は、溶接方向の各位置において、第1検出位置と第2検出位置との比較結果に基づいてセンサ部5による測定結果の異常を検出する。
【0060】
これにより、上述のように、様々な原因によって生じるセンサ部5の断面測定における異常を、各原因に合わせた検出方法を個別に準備することなく、容易に検出することができる。その結果、自動倣い機能付きの自動溶接装置1において、開先部93の断面測定の異常に起因する溶接不良の発生を抑制することができる。
【0061】
自動溶接装置1では、上記特徴点は、上述の断面において開先部93に含まれる点であることが好ましい。このように、センサ部5による測定の正常・異常の判断の基礎となる特徴点の位置を開先部93上に配置することにより、開先部93の断面測定の異常を精度良く検出することができる。
【0062】
また、上記特徴点は、開先部93の形状を規定する一の点(上記例では、第1屈曲点931、第2屈曲点932、第3屈曲点933および第4屈曲点934のうち、1つの屈曲点)であることがさらに好ましい。これにより、センサ部5による測定結果から特徴点の位置を容易に求めることができる。また、求められた特徴点の位置に基づいて、溶接点94の位置を精度良く、かつ、容易に求めることができる。
【0063】
自動溶接装置1では、上記特徴点は、上述の断面において溶接トーチ2による溶接が行われる予定の点(すなわち、溶接点94)であることも好ましい。この場合、特徴点の位置を検出することにより、溶接トーチ2の狙い位置も検出することができるため、自動溶接装置1における自動倣い溶接の制御を簡素化することができる。
【0064】
上述のように、溶接点94の位置は、第1の検出方法により求められた開先部93の断面形状、および/または、第2の検出方法により求められた開先部93の断面形状に基づいて求められることが好ましい。これにより、自動溶接装置1における自動倣い溶接の制御を簡素化することができる。
【0065】
自動溶接装置1では、判定部804によって測定結果の異常が検出された際に、第1検出位置と第2検出位置との差が第1閾値以上である場合、警告が発せられることが好ましい。これにより、センサ部5による断面測定の異常発生を、オペレータが容易に認識することができる。また、第1検出位置と第2検出位置との差が第1閾値よりも大きい第2閾値以上である場合、溶接トーチ2による溶接が停止されることがさらに好ましい。これにより、溶接不良状態で溶接が継続されることを抑制することができる。その結果、後工程における溶接の補修を抑制することができる。
【0066】
上述のように、自動溶接装置1は、溶接方向の各位置における第1検出位置と第2検出位置との比較結果を記憶する記憶部801をさらに備えることが好ましい。オペレータは、当該比較結果をディスプレイ87等に出力させて確認することにより、開先部93の断面形状の測定においてどのような異常が生じたか(すなわち、測定異常の態様)を容易に把握することができる。その結果、異常原因の特定や異常の修正を容易に行うことができる。
【0067】
上述のように、自動溶接装置1では、開先部93に対する溶接を複数回繰り返す多層溶接が行われる。多層溶接では、溶接不良が発生した場合、後工程における溶接の補修作業が多大となる。自動溶接装置1では、上述のように、開先部93の断面測定の異常に起因する溶接不良の発生を抑制し、後工程における溶接の補修を抑制することができる。このため、自動溶接装置1の構造は、多層溶接を行う自動溶接装置に特に適している。
【0068】
上述のように、第1の検出方法では、センサ部5により測定された開先部93の断面の幅方向に対する傾きに基づいて第1検出位置が検出され、第2の検出方法では、センサ部5により測定された開先部93の断面と予め準備された基準断面とのフィッティングにより第2検出位置が検出されることが好ましい。これにより、センサ部5の断面測定を比較的容易に行うことができる。また、断面測定の異常を好適に検出することができる。
【0069】
上述の自動溶接装置1においてセンサ部5による測定異常を検出する測定異常検出方法は、溶接方向の各位置において、母材91,92上の特徴点の位置をセンサ部5からの出力に基づいて第1の検出方法により第1検出位置として検出する工程(ステップS12)と、溶接方向の各位置において、上記特徴点の位置をセンサ部5からの出力に基づいて第1の検出方法とは異なる第2の検出方法により第2検出位置として検出する工程(ステップS13)と、溶接方向の各位置において、第1検出位置と第2検出位置との比較結果に基づいてセンサ部5による測定結果の異常を検出する工程(ステップS14)と、を備える。これにより、上述のように、開先部93の断面測定の異常に起因する溶接不良の発生を抑制することができる。
【0070】
上述のように、プログラム89は、自動溶接装置1においてセンサ部5による測定異常を検出するプログラムである。コンピュータ80によってプログラム89が実行されることにより、溶接方向の各位置において、母材91,92上の特徴点の位置をセンサ部5からの出力に基づいて第1の検出方法により第1検出位置として検出する工程(ステップS12)と、溶接方向の各位置において、上記特徴点の位置をセンサ部5からの出力に基づいて第1の検出方法とは異なる第2の検出方法により第2検出位置として検出する工程(ステップS13)と、溶接方向の各位置において、第1検出位置と第2検出位置との比較結果に基づいてセンサ部5による測定結果の異常を検出する工程(ステップS14)と、が行われる。これにより、上述のように、開先部93の断面測定の異常に起因する溶接不良の発生を抑制することができる。
【0071】
上述の自動溶接装置1、測定異常検出方法およびプログラム89では、様々な変更が可能である。
【0072】
例えば、移動機構3は、溶接トーチ2を支持するブームであってもよい。また、6軸ロボットアームにより、移動機構3および位置調節部4が兼用されてもよい。あるいは、6軸ロボットアームと、6軸ロボットアームをY方向に移動させるスライダにより、移動機構3および位置調節部4が兼用されてもよい。
【0073】
移動機構3は、必ずしも溶接トーチ2を移動させる必要はなく、例えば、位置が固定された溶接トーチ2の下方において、母材91,92をY方向に移動させるスライダやターニングローラであってもよい。母材91,92は、略平板状や略円筒状等、様々な形状を有していてよい。
【0074】
センサ部5は、必ずしも溶接トーチ2と共にアーム11に固定される必要はなく、また、移動機構3によって溶接トーチ2と共に移動される必要もない。例えば、センサ部5は、アーム11とは異なる支持部によって支持され、移動機構3とは異なる他の移動機構によって、溶接トーチ2とは独立してY方向に移動可能とされてもよい。この場合、センサ部5の(+Y)方向への移動は、溶接トーチ2の(+Y)方向への移動と同期して行われてもよく、同期することなく行われてもよい。例えば、溶接トーチ2による開先部93の溶接が開始されるよりも前に、センサ部5が開先部93に沿って溶接方向へと移動され、開先部93の略全長に亘って開先部93等の断面形状が取得されてもよい。
【0075】
センサ部5は、必ずしも光切断センサを備える必要はなく、様々な構造を採用し得る。例えば、センサ部5は、(-Z)側に位置する母材91,92の表面を撮像するカメラと、当該カメラにより撮像された画像を解析して開先部93の形状を取得する画像解析部と、を備えていてもよい。あるいは、センサ部5は、X方向に配列される複数の測定点において、母材91,92の表面までのZ方向における距離を測定するレーザ変位計を備えていてもよい。
【0076】
ステップS14にて第1検出位置と第2検出位置とが比較される特徴点は、必ずしも1つには限定されず、2つ以上であってもよい。
【0077】
自動溶接装置1では、センサ部5による測定結果が異常であると判断された場合、必ずしも警告が発せられたり、溶接の非常停止が行われる必要はなく、適宜必要な処理が行われればよい。
【0078】
自動溶接装置1では、必ずしも、溶接方向の各位置における第1検出位置と第2検出位置との比較結果が記憶される必要はない。
【0079】
溶接点94の位置は、第1の検出方法および第2の検出方法とは異なる第3の検出方法により求められた開先部93の断面形状(例えば、第2屈曲点932および第3屈曲点933の位置)に基づいて求められてもよい。
【0080】
母材91,92の開先部93の形状は、V形には限定されず、U形、X形またはJ形等、様々な形状であってよい。
【0081】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0082】
1 自動溶接装置
2 溶接トーチ
3 移動機構
4 位置調節部
5 センサ部
80 コンピュータ
89 プログラム
91,92 母材
93 開先部
94 溶接点
801 記憶部
802 第1検出部
803 第2検出部
804 判定部
931 第1屈曲点
932 第2屈曲点
933 第3屈曲点
934 第4屈曲点
951 第1検出位置
952 第2検出位置
S11~S21 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8