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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104674
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】成形用材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/02 20060101AFI20240729BHJP
   C08L 1/10 20060101ALI20240729BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
C08L1/02
C08L1/10
C08L67/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009013
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】藤田 智博
(72)【発明者】
【氏名】平岩 卓
(72)【発明者】
【氏名】横川 忍
(72)【発明者】
【氏名】保刈 宏文
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB011
4J002AB023
4J002CF032
4J002FD011
4J002FD202
4J002FD203
4J002GG01
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】セルロース繊維を所定の範囲の含有量で含み、かつ、衝撃強さおよび曲げ強さの両方に優れる成形体の製造に好適に用いることができる成形用材料を提供すること。
【解決手段】本発明の成形用材料は、セルロース繊維と、脂肪族ポリエステルと、エステル化セルロースとを含み、前記セルロース繊維の含有量が50質量%以上80質量%以下である。本発明の成形用材料中における前記エステル化セルロースの含有量は4質量%以上25質量%以下であることが好ましい。本発明の成形用材料中における、前記脂肪族ポリエステルの含有量をXP[質量%]、前記エステル化セルロースの含有量をXE[質量%]としたとき、1.0≦XP/XE≦4.0の関係を満たすことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維と、脂肪族ポリエステルと、エステル化セルロースとを含み、
前記セルロース繊維の含有量が50質量%以上80質量%以下である、成形用材料。
【請求項2】
前記脂肪族ポリエステルの含有量が12質量%以上40質量%以下である、請求項1に記載の成形用材料。
【請求項3】
前記エステル化セルロースの含有量が4質量%以上25質量%以下である、請求項1または2に記載の成形用材料。
【請求項4】
前記成形用材料中における、前記脂肪族ポリエステルの含有量をXP[質量%]、前記エステル化セルロースの含有量をXE[質量%]としたとき、1.0≦XP/XE≦4.0の関係を満たす、請求項1または2に記載の成形用材料。
【請求項5】
前記脂肪族ポリエステルは、炭素鎖長が2以上6以下のアルキレン基を有するアルキレンジカルボン酸と、炭素鎖長が2以上8以下のアルキレン基を有するアルキレンジオールと、が縮合した化学構造を有するものである、請求項1または2に記載の成形用材料。
【請求項6】
前記エステル化セルロースは、アルキル鎖長が1以上18以下のアシル基でエステル化されたものであり、DS値が1.0以上2.5以下のものである、請求項1または2に記載の成形用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース繊維および樹脂等を含む成形用材料が知られていた。例えば、特許文献1には、紙由来の繊維と生分解性樹脂とを含む複合材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-6142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の複合材では、これを用いて製造される成形体の強度を向上させることが困難であった。詳しくは、成形体の衝撃強さと曲げ強さとの両立が難しいため、成形体に変形や割れ等が生じやすかった。また、セルロース繊維等の繊維の含有量を増やすと、成形体の衝撃強さが低下し易くなる傾向があった。
【0005】
また、特許文献1に記載の複合材では、成形体の耐熱性を十分に優れたものとすることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することができる。
【0007】
本発明の適用例に係る成形用材料は、セルロース繊維と、脂肪族ポリエステルと、エステル化セルロースとを含み、
前記セルロース繊維の含有量が50質量%以上80質量%以下である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]成形用材料
まず、本発明の成形用材料について説明する。
【0009】
本発明の成形用材料は、セルロース繊維と、脂肪族ポリエステルと、エステル化セルロースとを含む。そして、本発明の成形用材料中におけるセルロース繊維の含有量は、50質量%以上80質量%以下である。
【0010】
このような構成により、セルロース繊維を所定の範囲の含有量、すなわち、50質量%以上80質量%以下という十分に高い含有量で含み、かつ、衝撃強さおよび曲げ強さの両方に優れる成形体の製造に好適に用いることができる成形用材料を提供することができる。
【0011】
このような優れた効果が得られるのは、以下のような理由によると考えられる。すなわち、理論上の強度が高く、形状の保持性に優れたセルロース、バインダーとして機能する脂肪族ポリエステルを含むとともに、セルロース繊維および脂肪族ポリエステルとの相溶性、親和性に優れたエステル化セルロースを含むことにより、これらの成分の機能が相殺してしまうことを防止、抑制して、これらの成分の機能を十分に発揮させることができる。より具体的には、成形用材料を用いた成形体の製造時や、成形用材料を用いて製造される成形体において、セルロース繊維および脂肪族ポリエステルの機能を十分に発揮させつつ、セルロース繊維に対する脂肪族ポリエステルの濡れ性を高めることができ、成形体を構成する異なる成分間での界面剥離を好適に防止、抑制することができる。その結果、上記のような優れた効果が得られるものと考えられる。
【0012】
また、上記のような構成により、成形用材料を用いて製造される成形体の耐熱性も向上させることができる。また、成形体を構成する異なる成分間での界面剥離を好適に防止、抑制することができるため、発塵等の問題が効果的に防止された成形体を得ることができる。
【0013】
また、植物由来で豊富な天然素材であるセルロース繊維を高い含有量で含むことにより、環境問題や埋蔵資源の節約等に好適に対応することができるとともに、成形用材料やそれを用いて製造される成形体の安定供給、コスト低減等の観点からも有利である。また、セルロース繊維は、例えば、バージンパルプ以外にも、古紙、古布等にも多く含まれる成分であり、資源の有効的な再利用を促進する観点からも有利である。
【0014】
また、エステル化セルロースは、上記のようなセルロースを原料として好適に得ることができ、一般に優れた生分解性を有する成分である。また、脂肪族ポリエステルとしては、後に詳述するように、優れた生分解性を有する成分が多くある。これにより、成形用材料全体や成形用材料を用いて製造される成形体全体としても、環境問題等に対して好適に対応することができる。
【0015】
一方、上記のような条件を満たさない場合には、満足のいく結果が得られない。
例えば、セルロース繊維および脂肪族ポリエステルを含んでいても、エステル化セルロースを含んでいないと、セルロース繊維に対する脂肪族ポリエステルの濡れ性を十分に優れたものとすることができず、成形用材料を用いて製造される成形体中において、異なる成分間での界面剥離が生じやすくなり、成形体の強度を十分に優れたものとすることができない。
【0016】
また、セルロース繊維およびエステル化セルロースを含んでいても、バインダーとして機能する脂肪族ポリエステルを含んでいないと、成形体の成形性が著しく低下し、成形体そのものの製造が困難になる。
【0017】
また、脂肪族ポリエステル以外のバインダー成分を含んでいても、脂肪族ポリエステルを含まないと、バインダー成分のセルロース繊維に対する濡れ性を十分に優れたものとすることができず、成形用材料を用いて製造される成形体中において、異なる成分間での界面剥離が生じやすくなり、成形体の強度を十分に優れたものとすることができない。
【0018】
また、セルロース繊維、脂肪族ポリエステルおよびエステル化セルロースを含んでいても、成形用材料中におけるセルロース繊維の含有量が前記下限値未満であると、上述したようなセルロース繊維を含むことによる効果が十分に発揮されない。
【0019】
また、セルロース繊維、脂肪族ポリエステルおよびエステル化セルロースを含んでいても、成形用材料中におけるセルロース繊維の含有量が前記上限値を超えると、脂肪族ポリエステルおよびエステル化セルロースの含有量が相対的に低下し、成形体の成形性や成形体の強度が急激に低下する。
【0020】
[1-1]セルロース繊維
本発明の成形用材料は、セルロース繊維を含んでいる。
セルロース繊維は、本発明の成形用材料の主成分であり、本発明の成形用材料を用いて製造される成形体の形状の保持に大きく寄与するとともに、成形体の強度等の特性に大きな影響を与える成分である。
【0021】
セルロースは、植物由来で豊富な天然素材である。そのため、セルロース繊維を用いることにより、環境問題や埋蔵資源の節約等に好適に対応することができるとともに、成形用材料やそれを用いて製造される成形体の安定供給、コスト低減等の観点からも好ましい。また、セルロース繊維は、各種繊維の中でも、理論上の強度が特に高いものであり、成形体の強度の向上の観点からも有利である。
【0022】
セルロース繊維としては、バージンパルプを用いてもよいし、古紙、古布等を再利用してもよい。
【0023】
セルロース繊維は、通常、主としてセルロースで構成されたものであるが、セルロース以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、ヘミセルロース、リグニン等が挙げられる。
【0024】
また、セルロース繊維としては、漂白等の処理が施されたものを用いてもよい。
セルロース繊維としては、例えば、コットン、麻、レーヨン、キュプラ等が挙げられる。
【0025】
本発明の成形用材料中におけるセルロース繊維の含有量は、前述したように、50質量%以上80質量%以下であればよいが、50質量%以上75質量%以下であるのが好ましく、50質量%以上70質量%以下であるのがより好ましく、50質量%以上60質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0026】
これにより、前述した本発明による効果がより顕著に発揮される。また、成形体の成形性をより優れたものとすることができ、成形体の生産性を向上させるうえでも有利である。
【0027】
セルロース繊維の平均長さは、特に限定されないが、1μm以上5000μm以下であるのが好ましく、1μm以上400μm以下であるのがより好ましい。
【0028】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の形状の安定性、強度等をより優れたものとすることができる。また、成形用材料を用いて製造される成形体における発塵を、より効果的に防止、抑制することができる。また、成形用材料を用いて製造される成形体の表面に不本意な凹凸が生じることをより効果的に防止することができる。なお、セルロース繊維の繊維長は、ISO 16065-2:2007に準拠した方法にて求められる。
【0029】
セルロース繊維の平均太さは、特に限定されないが、1μm以上100μm以下であるのが好ましく、1μm以上20μm以下であるのがより好ましい。
【0030】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の形状の安定性、強度等をより優れたものとすることができる。また、成形用材料を用いて製造される成形体の表面に不本意な凹凸が生じることをより効果的に防止することができる。
【0031】
セルロース繊維の平均アスペクト比、すなわち、平均太さに対する平均長さは、特に限定されないが、10以上1000以下であるのが好ましく、15以上100以下であるのがより好ましい。
【0032】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の形状の安定性、強度等をより優れたものとすることができる。また、成形用材料を用いて製造される成形体における発塵を、より効果的に防止、抑制することができる。また、成形用材料を用いて製造される成形体の表面に不本意な凹凸が生じることをより効果的に防止することができる。
【0033】
[1-2]脂肪族ポリエステル
本発明の成形用材料は、脂肪族ポリエステルを含んでいる。
脂肪族ポリエステルは、成形体を製造する際に、バインダーとして機能する成分である。
【0034】
脂肪族ポリエステルを含むことにより、本発明の成形用材料を用いて製造される成形体の靭性を高めることができ、成形体の耐衝撃性を十分に優れたものとすることができる。
【0035】
脂肪族ポリエステルは、芳香族性の化学構造を有していないポリエステルであり、構成モノマーとしての多価カルボン酸成分、多価アルコール成分のいずれもが、脂肪族性のアルキレン基を有するものである。
【0036】
特に、脂肪族ポリエステルは、炭素鎖長が2以上6以下のアルキレン基を有するアルキレンジカルボン酸と、炭素鎖長が2以上8以下のアルキレン基を有するアルキレンジオールと、が縮合した化学構造を有するものであるのが好ましい。
【0037】
これにより、バインダーとして機能をより効果的に発揮することができるとともに、エステル化セルロースとの相溶性をより優れたものとすることができ、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0038】
前記アルキレンジカルボン酸が有するアルキレン基の炭素鎖長は、2以上6以下であるのが好ましいが、2以上5以下であるのがより好ましく、2以上4以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0039】
前記アルキレンジカルボン酸が有するアルキレン基は、分岐した構造を有するものであってもよいが、直鎖状のものであるのが好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0040】
前記アルキレンジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
前記アルキレンジオールが有するアルキレン基の炭素鎖長は、2以上8以下であるのが好ましいが、2以上6以下であるのがより好ましく、3以上5以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0042】
前記アルキレンジオールが有するアルキレン基は、分岐した構造を有するものであってもよいが、直鎖状のものであるのが好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0043】
前記アルキレンジオールとしては、例えば、1,2-エタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
脂肪族ポリエステルは、生分解性を有さないものであってもよいが、生分解性を有するものであるのが好ましい。
【0045】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体が、例えば、埋め立て処分された場合や、海中、河川中に流出した場合でも、生分解により、成形体の構成成分が長期間自然界に滞留することがより効果的に防止、抑制される。
【0046】
脂肪族ポリエステルの具体例としては、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリエチレンアジペート、ポロプロピレングルタネート、ポリペンテンスベリネート、ポリへキセンアゼライネート等が挙げられる、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリエチレンアジペートが好ましい。
【0047】
これらは、生分解性を有する材料であり、成形品による環境負荷をより好適に低減することができる。また、これらの材料は、比較的安価で安定的な入手が容易である。したがって、成形用材料や成形体の安定供給、コストの低減などの観点からも有利である。
【0048】
本発明の成形用材料中における脂肪族ポリエステルの含有量は、特に限定されないが、12質量%以上40質量%以下であるのが好ましく、15質量%以上40質量%以下であるのがより好ましく、20質量%以上40質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0049】
本発明の成形用材料中における、セルロースの含有量をXC[質量%]、脂肪族ポリエステルの含有量をXP[質量%]としたとき、0.24≦XP/XC≦0.80の関係を満たすのが好ましく、0.30≦XP/XC≦0.80の関係を満たすのがより好ましく、0.40≦XP/XC≦0.80の関係を満たすのがさらに好ましい。
これにより、前述したような本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0050】
[1-3]エステル化セルロース
本発明の成形用材料は、エステル化セルロースを含んでいる。
エステル化セルロースは、前述したセルロース繊維および脂肪族ポリエステルのいずれとも親和性に優れる成分である。
【0051】
このようなエステル化セルロースは、本発明の成形用材料を用いて成形体を製造する際に相溶化剤として機能し、セルロース繊維と脂肪族ポリエステルとの相溶性を向上させる。これにより、セルロース繊維に対する脂肪族ポリエステルの濡れ性が高まり、本発明の成形用材料を用いて製造される成形体の曲げ強さを向上させることができる。また、エステル化セルロースを含むことにより、本発明の成形用材料を用いて製造される成形体の耐熱性も向上させることができる。
【0052】
エステル化セルロースは、セルロース分子が有する水酸基の少なくとも一部が、エステル化された化学構造を有する化合物である。
【0053】
エステル化セルロースが有するエステル構造は、セルロースが有する水酸基の酸素原子に、アシル基が結合した化学構造である。
【0054】
本発明の成形用材料は、少なくとも1種のエステル化セルロースを含んでいればよく、複数種のエステル化セルロースを含んでいてもよい。
【0055】
また、本発明の成形用材料中に含まれるエステル化セルロースは、分子内に1種のアシル基を含むものであってもよいし、複数種のアシル基を含むものであってもよい。
【0056】
前記アシル基は、例えば、芳香族性の炭化水素基を有するものであってもよいが、脂肪族性の炭化水素基を有するものであるのが好ましい。
【0057】
これにより、エステル化セルロースのセルロース繊維や脂肪族ポリエステルに対する親和性、相溶性をより優れたものとすることができ、成形用材料を用いて製造される成形体の衝撃強さおよび曲げ強さをより優れたものとすることができる。
【0058】
また、前記アシル基は、例えば、直鎖状の炭化水素基を有するものであってもよいが、分岐鎖状の炭化水素基を有するものであるのが好ましい。
【0059】
これにより、エステル化セルロースの、セルロース繊維や脂肪族ポリエステルとの親和性、相溶性をより優れたものとすることができ、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0060】
前記アシル基がアルキル基を有するものである場合、このアルキル基の炭素鎖長は、1以上18以下であるのが好ましく、2以上12以下であるのがより好ましく、2以上6以下であるのがさらに好ましい。
【0061】
これにより、エステル化セルロースのセルロース繊維や脂肪族ポリエステルに対する親和性、相溶性をより優れたものとすることができ、成形用材料を用いて製造される成形体の衝撃強さおよび曲げ強さをより優れたものとすることができる。
【0062】
なお、本発明の成形用材料中に含まれるエステル化セルロースが、分子内に複数種のアシル基を含むものである場合、これら複数種のアシル基を構成するアルキル基の炭素鎖長の加重平均値が上記の条件を満たしているのが好ましい。以下、このようなアルキル基の炭素鎖長の加重平均値を「アルキル基の平均炭素鎖長」という。
【0063】
前記アシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチロイル基、ステアロイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0064】
前述したように、エステル化セルロースは、セルロース分子が有する水酸基の少なくとも一部が、エステル化された化学構造を有する化合物であるが、エステル化セルロースのDS値、すなわち、セルロースが有する全水酸基のうちアシル基でエステル化されたものの割合である置換度は、1.0以上2.5以下であるのが好ましく、1.2以上2.4以下であるのがより好ましく、1.4以上2.3以下であるのがさらに好ましい。
【0065】
これにより、エステル化セルロースのセルロース繊維や脂肪族ポリエステルに対する親和性、相溶性をより優れたものとすることができ、成形用材料を用いて製造される成形体の衝撃強さおよび曲げ強さをより優れたものとすることができる。
【0066】
特に、エステル化セルロースは、アルキル鎖長が1以上18以下のアシル基でエステル化されたものであり、かつ、DS値が1.0以上2.5以下のものであるのが好ましい。
【0067】
これにより、エステル化セルロースのセルロース繊維や脂肪族ポリエステルに対する親和性、相溶性をより優れたものとすることができ、成形用材料を用いて製造される成形体の衝撃強さおよび曲げ強さをより優れたものとすることができる。
【0068】
エステル化セルロースの数平均分子量は、10,000以上400,000以下であるのが好ましく、20,000以上300,000以下であるのがより好ましく、35,000以上200,000以下であるのがさらに好ましい。
【0069】
これにより、エステル化セルロースのセルロース繊維や脂肪族ポリエステルに対する親和性、相溶性をより優れたものとすることができ、成形用材料を用いて製造される成形体の衝撃強さおよび曲げ強さをより優れたものとすることができる。
【0070】
エステル化セルロースのガラス転移温度は、80℃以上200℃以下であるのが好ましく、90℃以上180℃以下であるのがより好ましく、100℃以上170℃以下であるのがさらに好ましい。
【0071】
これにより、エステル化セルロースのセルロース繊維や脂肪族ポリエステルに対する親和性、相溶性をより優れたものとすることができ、成形用材料を用いて製造される成形体の衝撃強さ、曲げ強さおよび耐熱性をより優れたものとすることができる。
【0072】
本発明の成形用材料中におけるエステル化セルロースの含有量は、4質量%以上25質量%以下であるのが好ましく、6質量%以上25質量%以下であるのがより好ましく、8質量%以上25質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0073】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の衝撃強さおよび曲げ強さをより優れたものとすることができる。
【0074】
本発明の成形用材料中における、脂肪族ポリエステルの含有量をXP[質量%]、エステル化セルロースの含有量をXE[質量%]としたとき、1.0≦XP/XE≦4.0の関係を満たすのが好ましい。
【0075】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の衝撃強さおよび曲げ強さをより優れたものとすることができる。
【0076】
本発明の成形用材料中におけるセルロースの含有量をXC[質量%]、エステル化セルロースの含有量をXE[質量%]としたとき、0.05≦XE/XC≦0.70の関係を満たすのが好ましく、0.10≦XE/XC≦0.60の関係を満たすのがより好ましく、0.20≦XE/XC≦0.55の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0077】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の衝撃強さおよび曲げ強さをより優れたものとすることができる。
【0078】
[1-4]難燃剤
本発明の成形用材料は、さらに難燃剤を含んでいてもよい。
難燃剤としては、例えば、アンチモン化合物、金属水酸化物、窒素化合物、ホウ素化合物等の無機系難燃剤、臭素化合物、リン化合物等の有機系難燃剤が挙げられる。
【0079】
成形用材料が難燃剤を含む場合、難燃剤の含有量は、セルロース繊維、脂肪族ポリエステルおよびエステル化セルロースの合計の含有量を100質量部としたとき、1質量部以上20質量部以下とすることができる。
【0080】
これにより、前述した本発明による効果をより効果的に発揮させつつ、本発明の成形用材料を用いて製造される成形体の難燃性をより優れたものとすることができる。
【0081】
[1-5]その他の成分
本発明の成形用材料は、上記以外の成分を含んでいてもよい。以下、この項目内において、このような成分を「その他の成分」とも言う。
【0082】
その他の成分としては、例えば、着色剤、防虫剤、防カビ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、凝集抑制剤、離型剤、上記以外の樹脂材料等が挙げられる。
【0083】
ただし、本発明の成形用材料中におけるその他の成分の含有量は、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0084】
[2]成形用材料の製造方法
次に、本発明の成形用材料の製造方法について説明する。
本発明の成形用材料は、例えば、上述した各成分を混合することにより、製造することができる。この場合、各成分を混合するタイミングは同一であってもよいし、異なるタイミングであってもよい。
【0085】
本発明の成形用材料は、例えば、上述した成分を混錬して製造してもよい。各成分の混練は、例えば、一軸混錬機や二軸混錬機、多軸混練機、ミキサー、ロールバンバリー機を用いることができる。
【0086】
混練により得られたストランド状の成形用材料は、例えば、ストランド方式やウォータリングホットカット方式等のペレタイザーを用いてペレタイズ加工を施してペレット状の成形用材料としてもよい。
【0087】
また、成形用材料の製造方法として以下の方法を適用してもよい。すなわち、上述した成分の混練物をシート状に成形し、その後、例えば、シュレッダー装置を用いて、所望の形状に裁断して、ペレット状の成形用材料としてもよい。混練物をシート状に成形する方法は、特に限定されないが、例えば、まず、混錬物を空気中にて堆積させてシート状の堆積物とし、当該堆積物をカレンダー装置にて圧縮して空気を排除して密度を高め、次に、加熱炉を用いて非接触にて加熱し、その後、ヒートプレス装置にて加熱プレスする方法等が挙げられる。裁断により得られるペレットの形状、大きさは、特に限定されないが、例えば、一片の長さが2mm以上5mm以下の略直方体とすることができる。
【0088】
本発明の成形用材料の製造に用いるセルロース繊維は、予め、解繊処理が施されたものであってもよい。特に、古紙等のセルロース繊維を含むセルロース繊維源を解繊したものを用いてもよい。
【0089】
[3]成形体
次に、本発明の成形用材料を用いて製造される成形体について説明する。
本発明に係る成形体は、セルロース繊維と、脂肪族ポリエステルと、エステル化セルロースとを含み、前記セルロース繊維の含有量が50質量%以上80質量%以下である。
【0090】
本発明に係る成形体は、前述した成形用材料を用いて製造することができる。
これにより、セルロース繊維を所定の範囲の含有量、すなわち、50質量%以上80質量%以下という十分に高い含有量で含み、かつ、衝撃強さおよび曲げ強さの両方に優れる成形体を提供することができる。また、成形体の耐熱性も向上させることができる。
【0091】
また、植物由来で豊富な天然素材であるセルロース繊維を高い含有量で含むことにより、環境問題や埋蔵資源の節約等に好適に対応することができるとともに、成形体の安定供給、コスト低減等の観点からも有利である。また、セルロース繊維は、例えば、バージンパルプ以外にも、古紙、古布等にも多く含まれる成分であり、資源の有効的な再利用を促進する観点からも有利である。
【0092】
また、エステル化セルロースは、上記のようなセルロースを原料として好適に得ることができ、一般に優れた生分解性を有する成分である。また、脂肪族ポリエステルとしては、後に詳述するように、優れた生分解性を有する成分が多くある。これにより、成形体全体としても、環境問題等に対して好適に対応することができる。
【0093】
成形体を構成する各成分は、上記[1-1]~[1-5]で述べた条件を満たすものであるのが好ましい。
【0094】
成形体の形状は、特に限定されず、例えば、シート状、ブロック状、球状、三次元立体形状等、いかなるものであってもよい。
【0095】
成形体は、いかなる用途のものであってもよいが、例えば、プリンターの筐体等の各種筐体、インクカートリッジ、各種容器等が挙げられる。
【0096】
特に、本発明に係る成形体は、セルロース繊維とバインダーとの親和性が高く、発塵が効果的に防止されているため、発塵の発生が特に問題となるインクカートリッジ等に好適に適用することができる。
【0097】
本発明に係る成形体は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、例えば、前述したような本発明の成形用材料を用いた射出成形、プレス成形等により、好適に製造することができる。
【0098】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【実施例0099】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[4]成形用材料の調製
(実施例1)
セルロース繊維(CMPC社製、Guaiba BEKP):50.0質量部、脂肪族ポリエステルとしてのポリブチレンサクシネート(三菱ケミカル社製、バイオPBS FZ71PB):40.0質量部、および、エステル化セルロースとしてのセルロースアセテートブチレート(イーストマンケミカル社製、CAB-381-20):10.0質量部を秤量した。その後、これらを、二軸混錬機(テクノベル社製、KZW15TW-45MG)に投入して混錬した。混錬条件は、最高加熱温度を180℃とし、押出吐出量を1kg/hrとした。次に、ストランド状に加工してから、ペレタイザーにてペレット状の成形用材料とした。
【0100】
(実施例2~12)
脂肪族ポリエステル、エステル化セルロースの種類、各成分の配合比率を表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にしてペレット状の成形用材料を調製した。
【0101】
(比較例1~5)
混練に供する成分の種類、各成分の配合比率を表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にしてペレット状の成形用材料を調製した。
【0102】
[5]成形体の製造
前記実施例1~10および前記比較例1~5の各成形用材料について、それぞれ、射出成形機(日精樹脂工業社製、THX40-5V)を用いて、射出成形を行い、後述するシャルピー衝撃強さ評価用の成形体、曲げ強さ評価用、曲げ弾性率評価用、荷重たわみ温度評価用の成形体の製造を試みた。射出成形時における成形用材料の加熱温度は、200℃とした。シャルピー衝撃強さ評価用の成形体は、長辺80mm±2mm、短辺4.0mm±0.2mm、厚さ10.0mm±0.2mmの長方形の板状の成形体とし、曲げ強さ評価用、曲げ弾性率評価用、荷重たわみ温度評価用の成形体は、長辺80mm±2mm、短辺10.0mm±0.2mm、厚さ4.0mm±0.2mmの長方形の板状の成形体とした。前記実施例1~10および前記比較例1、2については、成形体を製造することができたが、前記比較例3~5については、成形体を製造することができなかった。
【0103】
また、前記実施例11、12の各成形用材料について、それぞれ、プレス加工装置(東和精機社製、油圧プレス PHKS-40ABS)を用いて、プレス成形を行い、後述するシャルピー衝撃強さ評価用の成形体、曲げ強さ評価用、曲げ弾性率評価用、荷重たわみ温度評価用の成形体を製造した。プレス成形時における成形用材料の加熱温度は、200℃とした。シャルピー衝撃強さ評価用の成形体は、長辺80mm±2mm、短辺4.0mm±0.2mm、厚さ10.0mm±0.2mmの長方形の板状の成形体とし、曲げ強さ評価用、曲げ弾性率評価用、荷重たわみ温度評価用の成形体は、長辺80mm±2mm、短辺10.0mm±0.2mm、厚さ4.0mm±0.2mmの長方形の板状の成形体とした。
【0104】
[6]評価
前記各実施例および各比較例に係る成形体について、以下の評価を行った。
[6-1]シャルピー衝撃強さ
上記[5]で説明したようにして製造した、前記各実施例および各比較例に係るシャルピー衝撃強さ評価用の成形体について、それぞれ、東洋精機製作所社製のインパクトテスタITを用いて、ISO 179(JIS K7111)に準拠して、シャルピー衝撃強さの測定を行った。シャルピー衝撃強さの測定では、ハンマー重量を4J(WR2.14N/m)、持上角度を150°、ノッチ残り幅を8.0mm±0.2mm、ノッチ角度を45°とした。
【0105】
[6-2]曲げ強さ
上記[5]で説明したようにして製造した、前記各実施例および各比較例に係る曲げ強さ評価用の成形体について、それぞれ、インストロン社製の68TM-30を用いて、ISO 178(JIS K7171)に準拠して、曲げ強さの測定を行った。曲げ強さの測定では、支点間距離を64mmとした。
【0106】
[6-3]曲げ弾性率
上記[5]で説明したようにして製造した、前記各実施例および各比較例に係る曲げ弾性率評価用の成形体について、それぞれ、インストロン社製の68TM-30を用いて、ISO 178(JIS K7171)に準拠して、曲げ弾性率の測定を行った。曲げ弾性率の測定では、支点間距離を64mmとした。
【0107】
[6-4]荷重たわみ温度
上記[5]で説明したようにして製造した、前記各実施例および各比較例に係る荷重たわみ温度評価用の成形体について、それぞれ、東洋精機製作所社製のHDTテスター3M-2:フラットワイズ方式を用いて、ISO 75(JIS K7191)に準拠して、荷重たわみ温度の測定を行った。支点間距離を64mm、加熱開始温度を30℃、昇温速度を120℃/hr、加熱終了温度を220℃という条件で、支点間距離64mm、曲げ応力1.8MPaの3点曲げを恒温槽内で実施し、変位0.34mmに達した時点での温度を荷重たわみ温度とした。荷重たわみ温度が90℃以上のものを「〇」、荷重たわみ温度が90℃未満のものを「×」とした。
【0108】
[6-5]複合評価
前記各実施例および各比較例について、それぞれ、上記[6-1]でのシャルピー衝撃強さの測定結果、および、上記[6-3]での曲げ弾性率の測定結果から、以下の基準に従い複合評価を行った。
【0109】
A:シャルピー衝撃強さが7kJ/m以上であり、かつ、曲げ弾性率が3.5GPa以上である。
B:シャルピー衝撃強さが4kJ/m以上7kJ/m未満であり、かつ、曲げ弾性率が3.5GPa以上である。
C:「シャルピー衝撃強さが4kJ/m以上」、「曲げ弾性率が3.5GPa以上」の条件のうち、一方は満たすものの他方は満たさない。
D:シャルピー衝撃強さが4kJ/m未満であり、かつ、曲げ弾性率が3.5GPa未満である。
E:荷重たわみ温度が90℃未満である。
F:成形体の製造そのものが不可である。
【0110】
これらの結果を、前記各実施例および各比較例で得られた成形用材料の組成とともに、表1にまとめて示す。
【0111】
なお、表1中、セルロース繊維(CMPC社製、Guaiba BEKP)を「セルロース繊維」、脂肪族ポリエステルとしてのポリブチレンサクシネート(三菱ケミカル社製、バイオPBS FZ71PB)を「PBS」、脂肪族ポリエステルとしてのポリブチレンサクシネート・アジペート(三菱ケミカル社製、バイオPBS FD92PB)を「PBSA」、エステル化セルロースとしてのセルロースアセテートブチレート(イーストマンケミカル社製、CAB-381-20、DS値:1.5~2.0、アルキル基の平均炭素鎖長:2.0~2.2、数平均分子量:70,000、ガラス転移温度:141℃)を「CAB」、エステル化セルロースとしてのセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製、CAP-482-20、DS値:1.0~1.5、アルキル基の平均炭素鎖長:1.9~2.1、数平均分子量:75,000、ガラス転移温度:147℃)を「CAP」、エステル化セルロースとしてのセルロースアセテート(アルキル基の炭素鎖長:1)とセルロースステアレート(アルキル基の炭素鎖長:18)との質量比で80:20の混合物(DS値:1.5~2.0)を「C1/C18」と示した。
【0112】
【表1】
【0113】
表1から明らかなように、前記各実施例では優れた結果が得られた。これに対し、前記各比較例では、満足のいく結果が得られなかった。