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特開2024-10468スポット溶接継手の製造方法、及びスポット溶接装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010468
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】スポット溶接継手の製造方法、及びスポット溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/24 20060101AFI20240117BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
B23K11/24 336
B23K11/11 540
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111819
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】谷口 大河
(72)【発明者】
【氏名】古迫 誠司
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA02
4E165AB02
4E165BB02
4E165BB12
4E165BB22
4E165CA05
4E165CA24
4E165DA13
(57)【要約】
【課題】後通電の後の溶接部の剥離強度(CTS)を予測可能なスポット溶接継手の製造方法、及びスポット溶接継手の製造装置を提供する。
【解決手段】本発明の第一実施形態に係るスポット溶接継手の製造方法は、重ねられた2枚以上の鋼板を、スポット溶接装置の一対の電極を用いてスポット溶接して、溶接部を形成する工程と、溶接部に、一対の電極を用いて後通電する工程と、を備え、後通電の間に、一対の電極の設定加圧力を一定値とし、一対の電極の実加圧力を測定し、一対の電極の実加圧力の変化量を0.50kN以上とするか、又は一対の電極の間の実加圧力の平均変化速度を0.20kN/秒以上とする。
【選択図】図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ねられた2枚以上の鋼板を、スポット溶接装置の一対の電極を用いてスポット溶接して、溶接部を形成する工程と、
前記溶接部に、一対の前記電極を用いて後通電する工程と、
を備えるスポット溶接継手の製造方法であって、
前記後通電の間に、一対の前記電極の設定加圧力を一定値とし、
前記後通電の間に、一対の前記電極の実加圧力を測定し、
前記後通電の間に、一対の前記電極の前記実加圧力の変化量を0.50kN以上とするか、又は一対の前記電極の間の前記実加圧力の平均変化速度を0.20kN/秒以上とする
スポット溶接継手の製造方法。
【請求項2】
前記後通電の間の前記実加圧力の前記変化量と、前記後通電の後の前記溶接部の剥離強度との相関を特定する工程と、
前記相関に基づき、前記剥離強度が所定値以上になると予測される前記実加圧力の前記変化量の所定範囲を特定する工程と、
前記後通電において測定された前記実加圧力の前記変化量が、前記所定範囲内にあるか否かを判定する工程と、
をさらに備える請求項1に記載のスポット溶接継手の製造方法。
【請求項3】
前記実加圧力の前記変化量が前記所定範囲を超過した時点で、前記後通電を終了させることを特徴とする請求項2に記載のスポット溶接継手の製造方法。
【請求項4】
前記後通電の間の前記実加圧力の前記変化量と、前記後通電の後の前記溶接部の剥離強度との相関を特定する工程と、
前記後通電において測定された前記実加圧力の前記変化量に対応する前記剥離強度を、前記相関を参照して求める工程と、
をさらに備える請求項1に記載のスポット溶接継手の製造方法。
【請求項5】
前記鋼板のうち1枚以上が、引張強さ980MPa以上の高強度鋼板である
ことを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接継手の製造方法。
【請求項6】
一対の電極と、
一対の前記電極の間の実加圧力を測定する、加圧力測定部と、
一対の前記電極の間の設定加圧力に基づいて、一対の前記電極を作動させる制御部と、
を備える請求項1~5のいずれか一項に記載のスポット溶接継手の製造方法を実施するためのスポット溶接装置。
【請求項7】
前記制御部が、前記スポット溶接継手の製造の前に特定された、後通電の間の前記実加圧力の変化量と、前記後通電の後の前記溶接部の剥離強度との相関を記録するように構成されており、
前記制御部が、前記実加圧力に応じて一対の前記電極の通電量を制御するように構成されている
ことを特徴とする請求項6に記載のスポット溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接継手の製造方法、及びスポット溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接とは、重ね合わせた母材を、先端を適正に整形した電極の先端で挟み、比較的小さい部分に電流及び加圧力を集中して局部的に加熱し、同時に電極で加圧して行う抵抗溶接である。スポット溶接において、溶接部に生じる溶融凝固した部分はナゲットと呼ばれる。
【0003】
高強度鋼板のスポット溶接においては、剥離強度の低下が問題視されている。剥離強度とは、例えば十字引張試験によって測定されるCTS等によって評価される、剥離方向の応力に対する継手強度である。通常、母材の強度が高いほど、溶接継手の接合強度も高くなる。しかしながら、高強度鋼板、特に引張強さ980MPa以上の高強度鋼板(いわゆるハイテン材)に関しては、その強度が高いほど溶接継手の剥離強度が低下する。剥離強度の低下の原因は、ナゲットの脆化であると考えられている。
【0004】
高強度鋼板のナゲットの脆化に起因するCTS低下を抑制するための手段の一つとして、後通電がある。後通電とは、溶接用の電極を用いてナゲットを加熱し、熱処理を行う技術である。これにより、ナゲットの機械特性を改善することができる。なお、後通電の際には、母材及びナゲットの溶融凝固を生じさせない。母材に溶融凝固を生じさせてナゲットを形成するための通電は、一般的に本通電と称される。
【0005】
後通電を含む、スポット溶接継手の製造方法について、様々な提案がされている。例えば特許文献1には、高強度鋼板のスポット溶接方法において、スポット溶接時の電流と電極間電圧を計測し、計測した電流と電極間電圧および材料物性値を用いた計算を行い、溶接通電終了後の冷却中に前記計算結果に基づいて、電極を鋼板から離す時期の決定、溶接通電終了後に継続する後通電における後通電電流と後通電時間の調整、溶接通電を終了した後冷却しその後開始した後通電における後通電電流と後通電時間の調整、電極加圧力の調整のうちの1又は2以上を行うことを特徴とする高強度鋼板のスポット溶接方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、複数枚の金属板を重ね合わせた被溶接材を、一対の電極によって挟み、加圧しながら通電して接合する抵抗スポット溶接方法であって、本溶接と、該本溶接に先立つテスト溶接とを行うものとし、(a)前記テスト溶接では、ナゲットを形成するための本通電および後熱処理のための後通電を行い、前記テスト溶接の本通電では、定電流制御により通電して適正なナゲットを形成する場合の電極間の電気特性から算出される、単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および単位体積当たりの累積発熱量を記憶させ、前記テスト溶接の後通電では、前記テスト溶接における本通電の電極間電圧の平均値をVtm、前記テスト溶接における後通電の電極間電圧の平均値をVtp、前記テスト溶接における本通電と後通電の間の通電休止時間をtcとしたとき、
tc<800msの場合:
0.5≦Vtp/Vtm≦2.0
800ms≦tc<1600msの場合:
0.5-0.3×(tc-800)/800≦Vtp/Vtm≦2.0-0.5×(tc-800)/800
tc≧1600msの場合:
0.2≦Vtp/Vtm≦1.5
の関係を満足する条件で、定電流制御により通電し、(b)ついで、前記本溶接では、ナゲットを形成するための本通電および後熱処理のための後通電を行い、前記本溶接の本通電では、前記テスト溶接の本通電における単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線および単位体積当たりの累積発熱量を目標値に設定し、該目標値に従って通電量を制御する適応制御溶接を行い、前記本溶接の後通電では、前記テスト溶接の後通電の電流値をItp、前記本溶接の後通電の電流値をImpとしたとき、
0.8×Itp≦Imp≦1.2×Itp
の関係を満足する条件で、定電流制御による通電を行う、抵抗スポット溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-103054号公報
【特許文献2】国際公開第2020/004115号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら近年は、スポット溶接継手の機械特性に対する要求が一層高まっている。
その一環として、後通電の後の溶接部の品質のばらつきが、近年は問題視されている。
【0009】
通常のスポット溶接装置においては、母材となる鋼板の成分及び板厚、電流値、及び加圧力が制御パラメータとなる。後通電においては、本通電によって得られたナゲットの径なども制御パラメータとなる。しかしながら、これら制御パラメータを同一にして複数回のスポット溶接を実施したとしても、これにより得られた溶接部の機械特性は必ずしも一定しない。即ち、電流値などの諸条件が同一であっても、後通電の後の溶接継手のCTSが大きくばらつくことがある。この原因は、溶接時の種々の外乱であると考えられているが、特定には至っていない。従って、後通電条件の最適化は困難である。
【0010】
機械部品の製造現場への後通電の適用を推進するためには、少なくとも、後通電の後の溶接部のCTSを容易に予測可能であることが望まれる。CTSが不足していると予測される溶接部に対しては、再度の後通電を行うこと等により、機械特性を改善することができる。
【0011】
上述した特許文献1及び特許文献2に記載された技術においては、剥離強度の向上が課題とされている。しかしながら、これら文献において剥離強度のばらつきについては特段の検討がなされていない。また、後通電の後の溶接部のCTSを予測するための具体的手段も、これら文献には開示されていない。
【0012】
本発明は、後通電の後の溶接部の剥離強度(CTS)を予測可能なスポット溶接継手の製造方法、及びスポット溶接継手の製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0014】
(1)本発明の第一実施形態に係るスポット溶接継手の製造方法は、重ねられた2枚以上の鋼板を、スポット溶接装置の一対の電極を用いてスポット溶接して、溶接部を形成する工程と、前記溶接部に、一対の前記電極を用いて後通電する工程と、を備えるスポット溶接継手の製造方法であって、前記後通電の間に、一対の前記電極の設定加圧力を一定値とし、前記後通電の間に、一対の前記電極の実加圧力を測定し、前記後通電の間に、一対の前記電極の前記実加圧力の変化量を0.50kN以上とするか、又は一対の前記電極の間の前記実加圧力の平均変化速度を0.20kN/秒以上とする。
(2)上記(1)に記載のスポット溶接継手の製造方法は、前記後通電の間の前記実加圧力の前記変化量と、前記後通電の後の前記溶接部の剥離強度との相関を特定する工程と、前記相関に基づき、前記剥離強度が所定値以上になると予測される前記実加圧力の前記変化量の所定範囲を特定する工程と、前記後通電において測定された前記実加圧力の前記変化量が、前記所定範囲内にあるか否かを判定する工程と、をさらに備えてもよい。
(3)上記(2)に記載のスポット溶接継手の製造方法では、前記実加圧力の前記変化量が前記所定範囲を超過した時点で、前記後通電を終了させてもよい。
(4)上記(1)に記載のスポット溶接継手の製造方法は、前記後通電の間の前記実加圧力の前記変化量と、前記後通電の後の前記溶接部の剥離強度との相関を特定する工程と、前記後通電において測定された前記実加圧力の前記変化量に対応する前記剥離強度を、前記相関を参照して求める工程と、をさらに備えてもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載のスポット溶接継手の製造方法では、前記鋼板のうち1枚以上が、引張強さ980MPa以上の高強度鋼板であってもよい。
【0015】
(6)本発明の第二実施形態に係るスポット溶接装置は、上記(1)~(5)のいずれか一項に記載のスポット溶接継手の製造方法を実施するためのスポット溶接装置であって、一対の電極と、一対の前記電極の間の実加圧力を測定する、加圧力測定部と、一対の前記電極の間の設定加圧力に基づいて、一対の前記電極を作動させる制御部と、を備える。
(7)上記(6)に記載のスポット溶接装置では、前記制御部が、前記スポット溶接継手の製造の前に特定された、後通電の間の前記実加圧力の変化量と、前記後通電の後の前記溶接部の剥離強度との相関を記録するように構成されており、前記制御部が、前記実加圧力に応じて一対の前記電極の通電量を制御するように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、後通電の後の溶接部の剥離強度(CTS)を予測可能なスポット溶接継手の製造方法、及びスポット溶接継手の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】スポット溶接の終了後、且つ後通電の開始前の段階における、スポット溶接装置及びスポット溶接継手の模式図である。
図2】後通電の間の、スポット溶接装置及びスポット溶接継手の模式図である。
図3A】本実施形態に係るスポット溶接継手の製造方法の後通電の間の、実加圧力の経時変化の例である。
図3B】通常のスポット溶接継手の製造方法の後通電の間の、実加圧力の経時変化の例である。
図4A】本実施形態に係るスポット溶接継手の製造方法における、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFと、当該後通電の後の溶接部のCTSとの相関を示す散布図である。
図4B】通常のスポット溶接継手の製造方法における、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFと、当該後通電の後の溶接部のCTSとの相関を示す散布図である
図5】実加圧力の平均変化速度ΔF/Tが0.44kNである後通電、及び実加圧力の平均変化速度ΔF/Tが0.17kNである後通電における、電流比とCTSとの相関を示すグラフである。
図6A図4Aの後通電条件において、後通電の後の溶接部のCTSを13kNにしうるΔFの範囲を示すグラフである。
図6B図4Bの後通電条件において、後通電の後の溶接部のCTSを13kNにしうるΔFの範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(1.スポット溶接継手の製造方法)
本発明の第一実施形態に係るスポット溶接継手の製造方法は、重ねられた2枚以上の鋼板21を、スポット溶接装置1の一対の電極11を用いてスポット溶接して、溶接部22を形成する工程と、溶接部22に、一対の電極11を用いて後通電する工程と、を備え、後通電の間に、一対の電極11の設定加圧力を一定値とし、後通電の間に、一対の電極11の実加圧力を測定し、後通電の間に、一対の電極11の実加圧力の変化量ΔFを0.50kN以上とするか、又は一対の電極11の間の実加圧力の平均変化速度ΔF/Tを0.20kN/秒以上とする。
【0019】
本発明者らは、後通電の後の溶接部の剥離強度(CTS)が安定しない原因が、後通電時の溶接部の温度の不安定性にあると推定した。冶金学的には、成分が同一の金属において生じる機械特性のばらつきは、熱処理温度のばらつきに起因すると考えることが妥当である。また、溶接時の外乱に起因して、通電状態が変化し、後通電時の加熱温度が数十℃程度ばらつく可能性はあると推定される。なお、外乱とは例えば、鋼板の表面状態、電極の打角、鋼板と下側電極との間隔であるクリアランス、及び鋼板同士の間の間隔である板隙などである。これらの外乱を完全に排除することは、特に機械部品の製造現場においては、製造コスト等を考慮すると困難である。
【0020】
しかしながら、後通電中の溶接部の温度を測定する手段は、現時点で存在しない。そのため、後通電時の溶接部の加熱温度にばらつきがあることを、温度測定によって立証することはできない。また、後通電時の溶接部の温度測定をする手段がない以上、後通電時に溶接部の温度制御をすることもできない。そこで本発明者らは、後通電時の温度上昇によって溶接部に生じる熱膨張に着目した。
【0021】
図1は、スポット溶接によってナゲット221が形成された後、且つ後通電の開始前の段階の、スポット溶接装置1及びスポット溶接継手2の模式図である。図2は、後通電中のスポット溶接装置1及びスポット溶接継手2の模式図である。図1に示されるように、スポット溶接装置1は、一対の電極11によって、重ねられた鋼板21の溶接部22を挟持している。即ち、一対の電極11は、溶接部22に加圧している。また、通常のスポット溶接用の電極11は、冷媒が流通する管路を内部に有している。従って、電極11によって挟持されている溶接部22は、常に電極11によって冷却されている。
【0022】
図2に示されるように、後通電が開始すると、溶接部22が加熱され、熱膨張する。すると、溶接部22を挟持する一対の電極11は、互いに離間される方向に移動する。スポット溶接装置1は、電極11の変位を検出し、電極11の変位を相殺するように電極11を移動させる。これにより、電極11が溶接部22に加える加圧力の実測値、即ち実加圧力は増大する。
【0023】
実加圧力の変化量は、溶接部22の熱膨張量に応じた値となる。また、溶接部22の熱膨張量は、溶接部22の温度に応じた値となる。従って、後通電の間に加圧力測定部12によって測定される実加圧力は、溶接部22の温度の指標として用いることができる。本発明者らは、実加圧力を用いることにより、後通電の後の溶接部22のCTSを予測することができると考えた。
【0024】
なお、本実施形態に係るスポット溶接継手2の製造方法において「実加圧力」とは、電極11の間に生じている実際の加圧力のことである。実加圧力は、電極11の間に設けられたロードセルなどの加圧力測定部12によって測定される。一方、通常のスポット溶接装置1は、一対の電極11が鋼板を挟持する力を所定の目標値にするように、加圧機構を制御する機能を有する。本実施形態に係るスポット溶接継手2の製造方法においてスポット溶接装置1の制御部13に入力される加圧力の制御目標値を「設定加圧力」と称する。
【0025】
設定加圧力と実加圧力とは必ずしも一致しない。後通電の際は、入熱が進むにつれて、設定加圧力と実加圧力との間に乖離が生じる。図3A及び図3Bに、後通電の際の実加圧力の経時変化の例を示す。図3A、及び図3Bのいずれにおいても、設定加圧力は3.8kNと設定されているが、後通電の進展とともに実加圧力が増大した。そして、後通電が終了した時点において、実加圧力が最大となった。これは、後通電の完了の時点、即ち入熱の完了の時点において、溶接部の温度が最大になるからであると考えられる。
【0026】
そして本発明者らは、後通電の間の実加圧力の変動を記録しながら種々のスポット溶接継手を作製し、そのCTSを評価した。その結果、後通電の間の実加圧力の変化量と、後通電の後の溶接部のCTSとの間に相関関係があることを確認できた。加えて本発明者らは、加圧力制御の応答性を低くすることにより、後通電の間の実加圧力の変化量と、後通電の後の溶接部のCTSとの相関関係が一層良好になることを見出した。この事項について、本発明者らの実験データを示しながら以下に説明する。
【0027】
一般に、加圧力制御の応答性が低下するほど、設定加圧力と実加圧力との乖離は大きくなる。このことは、例えば図3A及び図3Bのグラフに示されている。図3Aは、本実施形態に係るスポット溶接継手の製造方法の後通電の間の、実加圧力の経時変化を示す。図3Bは、通常のスポット溶接継手の製造方法の後通電の間の、実加圧力の経時変化を示す。図3Aに示される、本実施形態に係る後通電においては、加圧力制御の応答性を、通常好ましいとされているよりも低い水準とした。その結果、図3Aの後通電の間の実加圧力の平均変化速度は、図3Bの後通電のそれよりも高くなった。また、図3Aの後通電の間の実加圧力の変化量もまた、図3Bの後通電のそれよりも高くなった。図3A、及び図3Bのいずれにおいても、設定加圧力は3.8kNと設定されているが、図3Aの後通電における設定加圧力と実加圧力との乖離は、図3Bの後通電のそれよりも大きくなった。
【0028】
これらの事柄によれば、当業者であれば、加圧力制御の応答性の低下は好ましくないと考えるはずである。応答性の低下がもたらす設定加圧力と実加圧力との乖離は、後通電結果に予期せぬ影響を与える外乱因子であると考えられているからである。しかしながら、後通電の間の実加圧力の変化量と、後通電の後の溶接部のCTSとの関係性を本発明者らが調査した結果、以下の事柄が明らかになった。
(i)加圧力制御の応答性が低いほど、後通電の間の実加圧力の変化量と、後通電の後の溶接部のCTSとの相関が高まる。
(ii)加圧力制御の応答性の低下は、後通電の後の溶接部のCTSに悪影響をもたらさない。
【0029】
(i)図4Aは、本実施形態に係るスポット溶接継手の製造方法における、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFと、当該後通電の後の溶接部22のCTSとの相関を示す散布図である。図4Bは、通常のスポット溶接継手の製造方法における、後通電の間の両者の相関を示す散布図である。後通電の間の実加圧力の変化量ΔFとは、以下の式によって得られる値である。
ΔF=F2-F1
ここで、F1とは後通電の開始時の実加圧力であり、F2とは後通電の終了時の実加圧力である。
【0030】
これらのグラフは、先ず、スポット溶接及び後通電を複数回行い、次いで、後通電の後の種々の溶接部のCTSを剥離試験で評価することによって得られた。後通電は、実加圧力の経時変化をモニタリングしながら実施し、これにより後通電の間の実加圧力の変化量を測定した。図4A及び図4Bに記載の破線は、データポイントの多項式近似曲線である。次数は2である。図4A及び図4Bに記載の「R2」とは、多項式近似曲線に基づいて得られる決定係数である。R2が大きいほど、実加圧力の変化量とCTSとの相関が大きい。
【0031】
図4Aの作成のために行われた、本実施形態に係る後通電では、加圧力制御の応答性を低くすることにより、後通電の間の実加圧力の平均変化速度ΔF/Tを0.44kNとした。図4Bの作成のために行われた、通常の後通電では、後通電の間の実加圧力の平均変化速度ΔF/Tを0.17kNとした。なお、後通電の間の実加圧力の平均変化速度ΔF/Tとは、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFを、後通電時間Tで割った値である。
【0032】
その結果、本実施形態に係る後通電の間の実加圧力の変化量ΔFは、通常の後通電よりも大きくなった。一方で、本実施形態に係る後通電における決定係数R2は、通常の後通電よりも顕著に大きい値となった。即ち、加圧力制御の応答性が低いほど、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFと、後通電の後の溶接部のCTSとの相関が高まった。加圧力制御の応答性を低くした本実施形態に係る後通電によれば、通常の後通電よりも、実加圧力の変化量ΔFに基づくCTSの予測精度が高められる。
【0033】
(ii)図5は、実加圧力の平均変化速度ΔF/Tが0.44kNである後通電、及び実加圧力の平均変化速度ΔF/Tが0.17kNである後通電における、電流比とCTSとの相関を示すグラフである。電流比とは、ナゲットを形成するためのスポット溶接(いわゆる本通電)に適用された電流値と、後通電に適用された電流値との比率である。電流比が高いほど、後通電における入熱量が大きい。また、参考のために、後通電されなかった溶接部のCTS、即ち単通電CTSを示す破線を図5に記載した。
【0034】
図5に示されるように、本実施形態に係る後通電によって得られた溶接部のCTSは、通常の後通電によって得られた溶接部のCTSと同水準であり、さらに単通電CTSを上回っていた。即ち、加圧力制御の応答性の低下は、後通電の後の溶接部のCTSに悪影響をもたらさなかった。
【0035】
なお、加圧力制御の応答性を低下させることにより、図6A及び図6Bに示されるように、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFの好ましい範囲を拡大する効果も得られる。
【0036】
図6A及び図6Bは、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFと、後通電の後の溶接部のCTSとの関係を示すグラフである。図6A及び図6Bに記載のデータポイント及び近似曲線は、図4A及び図4Bに記載のものと同一である。図6A及び図6Bに記載の両矢印は、CTSが13kN以上になると予測されるΔFの範囲である。両矢印の両端は、CTS=13kNを示す破線と近似曲線との交点に揃えられている。
【0037】
ΔFが図6A及び図6Bに示される両矢印の範囲内となるように後通電を実施することにより、CTSが13kN以上の溶接部を製造可能であると推定される。また、図6Aに示される両矢印は、図6Bに示される両矢印よりも長い。してみれば、加圧力制御の応答性を低下させることにより、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFを両矢印の範囲内とし、CTSが13kN以上の溶接部を製造することが容易となる。
【0038】
以上の知見に基づいて得られた、本実施形態に係るスポット溶接継手の製造方法について、以下に詳細に説明する。
【0039】
(スポット溶接工程)
本実施形態に係るスポット溶接継手の製造方法では、2枚以上の鋼板21を、一対の電極11を有するスポット溶接装置1を用いてスポット溶接する。これにより、複数の鋼板を接合する溶接部22を形成する。溶接部22とは、ナゲット221、及びその周囲の熱影響部(HAZ)を含んだ部分の総称である。
【0040】
スポット溶接の条件、及び電極の種類は特に限定されない。鋼板の種類、厚さ、枚数、及び求められるナゲット径等に応じて、好適なスポット溶接条件及び電極を適宜選択することができる。スポット溶接を実施するためのスポット溶接装置1の好適な形態については後述する。なお、後通電を含むスポット溶接継手の製造方法においては、スポット溶接する工程及び後通電をする工程をまとめて「スポット溶接工程」と称する場合がある。しかし本実施形態において、用語「スポット溶接」は後通電を含まない。
【0041】
スポット溶接は、通常、本通電及びクールタイムを含む。本通電とは、鋼板を溶融させるための通電である。クールタイムとは、本通電の終了後に、一対の電極を用いて鋼板を冷却する時間である。通常、スポット溶接用の電極の内部には、冷媒が流通されている。そのため、一対の電極で鋼板を挟持したまま電極間の通電を停止することにより、鋼板の溶融部を冷却し、凝固させ、ナゲットを有する溶接部を形成することができる。
【0042】
スポット溶接に供される、重ねられた複数の鋼板の枚数は特に限定されない。また、鋼板の種類、及び板厚等も限定されない。また、複数の鋼板のうち1枚以上が、引張強さ980MPa以上又は1500MPa以上の高強度鋼板であることがさらに好ましい。
【0043】
(後通電工程)
本実施形態に係るスポット溶接継手の製造方法では、スポット溶接によって形成された溶接部22を、一対の電極11を用いて後通電する。後通電及びスポット溶接の両方を、同じ電極11を用いて行うことができる。
【0044】
後通電においては、一対の電極11の間の設定加圧力を一定とする。さらに、後通電においては、スポット溶接装置の加圧力制御の応答性を低下させる。具体的には、後通電の間に、一対の電極11の間の実加圧力の平均変化速度を0.20kN/秒以上とするか、又は、一対の電極11の間の実加圧力の変化量を0.50kN以上とする。実加圧力の変化量とは、以下の式によって得られる値ΔFである。
ΔF=F2-F1
ここで、図3Aに示されるように、F1とは後通電の開始時の実加圧力であり、F2とは後通電の終了時の実加圧力である。実加圧力の平均変化速度とは、ΔFを後通電時間Tで割った値である。
【0045】
実加圧力の変化量又は平均変化速度を上述の範囲内とするように、加圧力制御の応答性を設定することにより、例えば図4Aに示されるように、後通電の間の実加圧力の変化量と、後通電の後の溶接部のCTSとの相関関係が大きくなり、後通電の後の溶接部の剥離強度(CTS)を高精度に予測可能となる。なお、後通電の間に設定加圧力を増大させることによっても、実加圧力の変化量又は平均変化速度を上述の範囲内とすることができるが、この場合は、CTSの予測精度を向上させる効果は得られない。
【0046】
後通電の間の実加圧力の変化量に基づいて、後通電の後の溶接部のCTSを予測するための手段は特に限定されないが、以下に具体的手段を例示的に説明する。
【0047】
CTSを予測するための第一の手段では、
(a)図6Aのようなグラフを作成し、
(b)グラフに基づいて、後通電の間の実加圧力の合格範囲を定め、
(c)後通電の間の実加圧力の合否に基づいて、溶接部のCTSの合否を予測する。
即ち、CTSを予測するための第一の手段が適用された製造方法は、(a)後通電の間の実加圧力の変化量ΔFと、後通電の後の溶接部22の剥離強度との相関を特定する工程と、(b)相関に基づき、剥離強度が所定値以上になると予測される実加圧力の変化量ΔFの所定範囲を特定する工程と、(c)後通電において測定された実加圧力の変化量ΔFが、所定範囲内にあるか否かを判定する工程と、をさらに備える。
【0048】
CTSを予測するための第一の手段を、図6Aを参照しながら説明する。図6Aは、通電の間の実加圧力の変化量ΔFと、後通電の後の溶接部22の剥離強度(CTS)との相関を示すグラフである。
CTSの「所定値」は、図6Aに示されるグラフにおいて、13kNである。CTSが13kN以上の溶接部が、CTSに関して合格とみなされる。
図6Aにおいて、CTSが所定値以上になると予測される実加圧力の変化量ΔFの所定範囲とは、両矢印で示された実加圧力の変化量の範囲である。両矢印の左端及び右端は、CTS=13kNを示す直線と近似曲線との交点に揃えられている。
【0049】
本実施形態に係るスポット溶接継手の製造方法においては、加圧力制御の応答性を低くしているので、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFと、後通電の後の溶接部のCTSとの相関が高い。従って、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFが、図6Aのグラフに示された量矢印範囲内にある場合、後通電の後の溶接部のCTSが13kN以上になる蓋然性が高い。従って、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFが所定範囲内にあるか否かに基づいて、後通電の後の溶接部の合否判断をすることができる。
【0050】
上述の実加圧力の変化量ΔFの所定範囲、即ち合格範囲に基づいた通電制御を行ってもよい。例えば、実加圧力の変化量ΔFが所定範囲を超過した時点で、後通電を終了させてもよい。
【0051】
後通電の間に実加圧力を測定することにより、実加圧力の変化量ΔFが、実加圧力に関する所定範囲の上限値に至ったことを検出可能である。その時点で、後通電を中止してもよい。後通電を中止すると、溶接部が電極によって冷却され収縮するので、実加圧力は低下する。これにより、実加圧力の変化量ΔFを上述の所定範囲内に制御することができる。これにより、CTSが所定値以上となる溶接部を安定的に得ることができる。このような制御を行うために、スポット溶接装置1は、実加圧力の変化量ΔFが所定範囲の上限値を超過した時点で、後通電を中止するように構成された制御部13を有することが好ましい。
【0052】
CTSを予測するための第二の手段では、
(A)図6Aのようなグラフを作成し、
(B)後通電の間の実加圧力の変化量ΔFをグラフにあてはめて、溶接部のCTSを予測する。
即ち、CTSを予測するための第二の手段が適用された製造方法は、(A)後通電の間の実加圧力の変化量ΔFと、後通電の後の溶接部の剥離強度との相関を特定する工程と、(B)後通電において測定された実加圧力の変化量ΔFに対応する剥離強度を、相関を参照して求める工程と、をさらに備える。
【0053】
CTSを予測するための第二の手段においても、第一の手段と同じく、図6Aに示されるようなグラフを作成する。一方、第二の手段においては、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFをグラフにあてはめることにより、後通電の後の溶接部の剥離強度(CTS)の具体的な値を予測する。例えば後通電の間の実加圧力の変化量ΔFが0.80kNであった場合、図6Aの近似曲線によれば、当該後通電の後の溶接部のCTSは約13.5kNであると予測される。
【0054】
後通電の間の実加圧力の変化量ΔFとCTSとの相関は、スポット溶接継手の製造の前に特定されていることが好ましい。これにより、後通電が適正に行われているか否かを、迅速に判断することができる。一方、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFとCTSとの相関を、スポット溶接継手の製造の後に特定してもよい。この場合も、製造された溶接部の合否を、破壊検査に供することなく判断することができる。
【0055】
図6Aに例示されるような、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFとCTSとの相関を特定するための方法は特に限定されない。例えば、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFとCTSとの相関を予め特定するための1回以上のテスト製造をすることによって、相関を特定することができる。以下、相関を特定するためのスポット溶接継手の製造を「テスト製造」と称し、当該相関に基づいたCTS予測の対象となるスポット溶接継手の製造を「本製造」と称し、両者を区別する。
【0056】
テスト製造は、重ねられた複数の鋼板を、一対の電極を有するスポット溶接装置を用いてスポット溶接して、テスト溶接部を形成し、次いで実加圧力を測定しながら、テスト溶接部を一対の電極を用いて後通電することにより行われる。複数の鋼板、一対の電極、及びスポット溶接装置は、本製造において用いられるものと同一とすることが好ましい。テスト製造の回数は1回でもよいが、相関を正確に得るためには、2回以上とすることが好ましい。
【0057】
次いで、テスト製造によって得られたテスト溶接部のCTSを測定する。そして、テスト製造の後通電の間の実加圧力の変化量ΔFと、テスト製造後に測定されたCTSとを照合し、その相関を特定する。これにより、図6Aに示されるようなグラフが得られる。
【0058】
一方、テスト製造に代えて、後通電の間の溶接部の熱膨張をシミュレートすることにより、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFとCTSとの相関を特定してもよい。溶接部の熱膨張係数は、熱影響部の化学成分(即ち母材となる鋼板の化学成分)、ナゲットの化学成分、及びナゲットの形状などに応じて定まる。従って、鋼板の化学成分、板厚、及びスポット溶接条件などのパラメータを用いることにより、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFとCTSとの相関を予測することが可能である。テスト製造とシミュレーションとを組み合わせることも可能である。これにより、テスト製造の回数を減らしながら、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFとCTSとの相関を高精度に予測することが可能となる。
【0059】
テスト製造、又はシミュレーション等によって後通電の間の実加圧力の変化量ΔFとCTSとの相関を特定する際に、スポット溶接条件及び後通電条件は特に限定されない。実加圧力に影響しうる溶接条件を適宜選択し、変更させながら、実加圧力の変化量とCTSとの相関を特定することが好ましい。本発明者らのこれまでの検討によれば、溶接部の継手強度試験時の破断形態、溶接部の炭素当量、複数の鋼板の平均板厚、及び溶接部におけるナゲットの径からなる群から選択される一種以上の条件を一定として、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFとCTSとの相関を特定することが好ましいと考えられる。
【0060】
(2.スポット溶接装置)
次に、本発明の第二実施形態に係るスポット溶接装置について説明する。第二実施形態に係るスポット溶接装置は、第一実施形態に係るスポット溶接継手の製造方法を実施するための装置であって、図1及び図2に例示されるように、一対の電極11と、一対の電極11の間の実加圧力を測定する、加圧力測定部12と、一対の電極11の間の設定加圧力に基づいて、一対の電極11を作動させる制御部13と、を備える。電極11の作動とは、鋼板21に加圧及び通電することである。
【0061】
本実施形態に係るスポット溶接装置1によれば、制御部13を用いて、後通電の間に一対の電極11の設定加圧力を一定値とすることが可能であり、さらに、加圧力測定部12を用いて、後通電の間に、一対の電極11の実加圧力を測定することが可能である。また、制御部13に入力された制御パラメータを適切な値としたり、電極11に備えられたばねのばね定数を適切な値としたりすることにより、後通電の間の実加圧力の変化量を0.50kN以上とするか、又は、実加圧力の平均変化速度を0.20kN/秒以上とすることができる。
【0062】
通常のスポット溶接装置の制御部は、実加圧力に基づいて溶接条件を変更する機能を有しない。一方、本実施形態に係るスポット溶接装置1においては、制御部13が、スポット溶接継手2の製造の前に特定された、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFと後通電の後の溶接部22のCTSとの相関を記録するように構成されていてもよい。換言すると、制御部13が、スポット溶接継手2の製造の前に特定された、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFと後通電の後の溶接部22のCTSとの相関を記録する相関記録部を有してもよい。さらに、制御部13が、実加圧力に応じて一対の電極11の通電量を制御するように構成されていてもよい。換言すると、制御部13が、実加圧力に応じて一対の電極11の通電量を制御する通電量制御部を有してもよい。このような制御部13によれば、後通電の間の実加圧力の変化量ΔFが所定範囲を超過した時点で、後通電を終了させることができる。後通電の間の実加圧力の変化量ΔFの所定範囲とは、例えば、CTSが所定値以上になると予測される実加圧力の変化量ΔFの所定範囲のことであり、上述の相関に基づき特定される。このような制御部13を有するスポット溶接装置1は、CTSが所定値以上となる溶接部22を安定的に得るための製造方法を実行することができる。
【実施例0063】
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0064】
様々な加圧力制御の応答性をスポット溶接装置に適用して、種々のスポット溶接継手を作成した。スポット溶接継手は、スポット溶接及び後通電を連続的に行うことにより製造した。また、後通電の間の実加圧力変化量、及び実加圧力の平均変化速度を測定した。加えて、スポット溶接継手の溶接部のCTSを測定した。そして、実加圧力の平均変化速度とCTSとの間の2次関数近似のR2値を算出した。R2値が0.75以上である場合、実加圧力の平均変化速度とCTSとの相関関係が高いので、実加圧力に基づくCTS予測を高精度に行うことができる。
【0065】
さらに、後通電の間の加圧力範囲を評価した。本実施例における加圧力範囲とは、ピークCTSから1kN以内の実加圧力の範囲のことである。ピークCTSとは、実加圧力変化量とCTSとの間の2次関数近似曲線において、CTSが最大となる実加圧力変化量のことである。加圧力範囲は、後通電の後の溶接部のCTSを、(ピークCTS-1)kN以上にすることができると予測される、実加圧力の範囲である。加圧力範囲が大きいほど、後通電の間の実加圧力を合格範囲内とすることが容易となる。
【0066】
溶接条件は以下の通りとした。
・溶接機:サーボモータ加圧式溶接機
・スクイズ時間:0.60秒
・本通電時間:0.36秒
・本通電電流値:6.5kA
・クール時間:1.98秒
・後通電時間:1.98秒
・後通電電流値:4.3kA
・保持時間:0.20秒
溶接後の、上述の評価結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
条件1~3においては、スポット溶接装置の加圧力制御の応答性が高く、平均加圧力変化速度が小さかった。そのため、R2値が不足し、また、加圧力範囲も狭かった。
【0069】
一方、スポット溶接装置の加圧力制御の応答性を低く設定した条件4~7によれば、平均加圧力変化速度が適正な範囲内であった。これらの条件においては、R2値が高かった。従って、これらの条件のスポット溶接継手の製造方法によれば、後通電の後の溶接部の剥離強度(CTS)を高精度に予測可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 スポット溶接装置
11 電極
12 加圧力測定部
13 制御部
2 スポット溶接継手
21 鋼板
22 溶接部
221 ナゲット
F1 後通電の開始時の実加圧力
F2 後通電の終了時の実加圧力
ΔF 後通電の間の実加圧力の変化量
T 後通電時間
ΔF/T 後通電の間の実加圧力の平均変化速度
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6A
図6B