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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104684
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】動物の健康維持方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 15/02 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
A01K15/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009030
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】598087438
【氏名又は名称】KAATSU JAPAN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100140648
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義昭
(57)【要約】
【課題】きわめて簡便に実現させることができるとともに即効性が期待できる、動物の健康維持方法を提供する。
【解決手段】動物の健康維持方法は、動物(例えばウマ、ヤギ、イヌ等の哺乳類動物)の四肢の少なくとも何れか一つにベルト1を巻き付け特定加圧力を付与することにより動物の筋肉の血流を止めることなく制限しつつ、動物に歩行運動を実施させる工程を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の四肢の少なくとも何れか一つにベルトを巻き付け特定加圧力を付与することにより前記動物の筋肉の血流を止めることなく制限しつつ、前記動物に歩行運動を実施させる、動物の健康維持方法。
【請求項2】
前記動物は、ウマであり、
前記ウマの前脚の付け根に前記ベルトを巻き付け特定加圧力を付与することにより前記ウマの前記前脚の筋肉の血流を止めることなく制限する前脚加圧を実施することを含む、請求項1に記載の動物の健康維持方法。
【請求項3】
前記特定加圧力を、140~230mmHgの範囲に設定する、請求項2に記載の動物の健康維持方法。
【請求項4】
前記前脚加圧を実施しつつ、前記ウマに断続歩行運動を実施させる、請求項3に記載の動物の健康維持方法。
【請求項5】
前記断続歩行運動は、特定速度での歩行運動を特定歩行時間だけ連続して実施する歩行工程と、前記歩行工程の後に特定休止時間だけ前記歩行運動を休止する休止工程と、を含む、請求項4に記載の動物の健康維持方法。
【請求項6】
前記特定速度を、200~300m/分の範囲で設定する、請求項5に記載の動物の健康維持方法。
【請求項7】
前記特定歩行時間を、8~12分の範囲で設定する、請求項5に記載の動物の健康維持方法。
【請求項8】
前記特定休止時間を、3~7分の範囲で設定する、請求項5に記載の動物の健康維持方法。
【請求項9】
前記動物は、ヤギであり、
前記ヤギの後脚の付け根に前記ベルトを巻き付け特定加圧力を付与することにより前記ヤギの前記後脚の筋肉の血流を止めることなく制限する後脚加圧を実施することを含む、請求項1に記載の動物の健康維持方法。
【請求項10】
前記特定加圧力を、60~100mmHgの範囲に設定する、請求項9に記載の動物の健康維持方法。
【請求項11】
前記後脚加圧を実施しつつ、前記ヤギに連続歩行運動を実施させる、請求項10に記載の動物の健康維持方法。
【請求項12】
前記連続歩行運動は、歩行運動を特定歩行時間だけ連続して実施する歩行工程を含む、請求項11に記載の動物の健康維持方法。
【請求項13】
前記特定歩行時間を、12~18分の範囲で設定する、請求項12に記載の動物の健康維持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の健康維持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、社会の少子高齢化等に伴い、犬や猫等の動物(ペット)を飼育する家庭が増加している。動物との共生が飼い主の心身に良い影響を与えることは種々の研究で明らかになってきているため、動物の健康状態を維持するための手段(例えば、動物を普段からよく観察して体調にあった食餌を与えたり、感染症のワクチン接種を行ったりする等)が種々実施されている。近年においては、長期的なカロリー制限を実現させることにより、動物に健康上の利益を与える方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2023-2697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、動物は人間よりも早く歳をとることから、飼い主が気付かないうちに体力が落ちてしまったり、怪我が治るのに時間がかかってしまったりすることがあり、そのような事態が生じた場合には、きわめて早期に適切な処置を行うことが必要になる。この点、特許文献1に記載されたような従来の方法では、健康維持効果を得るためにカロリー低減給餌を比較的長期間実施する必要があり、即効性に欠けるという問題があった。
【0005】
本発明は、きわめて簡便に実現させることができるとともに即効性が期待できる、動物の健康維持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明に係る動物の健康維持方法は、動物(例えばウマ、ヤギ、イヌ等の哺乳類動物)の四肢の少なくとも何れか一つにベルトを巻き付け特定加圧力を付与することにより動物の筋肉の血流を止めることなく制限しつつ、動物に歩行運動を実施させるものである。
【0007】
かかる方法を採用すると、動物(例えばウマ、ヤギ、イヌ等の哺乳類動物)の四肢の少なくとも何れか一つにベルトを巻き付け特定加圧力を付与して動物の筋肉の血流を止めることなく制限することにより、動物の成長ホルモンの分泌を促進することができる。また、このように適切な血流制限を行いつつ、動物に歩行運動を実施させることにより、適度な負荷を動物に付与することができる。すなわち、動物の筋肉の血流を制限することにより、動物の成長ホルモンの分泌を促すことができることに加え、歩行運動による適度な負荷を与えることができ、これらの相乗効果により、きわめて容易に動物の筋肉を増強させることができる。また、適度な血流制限と歩行運動との相乗効果により、動物の骨髄間葉系幹細胞の増殖を促すことができる。従って、きわめて簡便な方法で動物の健康維持を実現させることができ、長期間のカロリー低減給餌等が必要であった従来の方法と比較すると即効性が期待できる。なお、骨髄間葉系幹細胞は、骨髄から得られる間葉系幹細胞である。間葉系幹細胞は、中胚葉性組織に由来し、自己複製能及び多分化能を有する多能性幹細胞であって、心筋、神経幹細胞、神経膠細胞(グリア細胞)へと分化でき、相応の組織を修復することができることが知られている。かかる骨髄間葉系幹細胞の増殖を促進することにより、損傷部位(主に血流や酸素が欠乏している部位)を修復することが可能となる。
【0008】
本発明に係る動物の健康維持方法において、動物がウマである場合には、ウマの前脚の付け根にベルトを巻き付け特定加圧力を付与することによりウマの前脚の筋肉の血流を止めることなく制限する前脚加圧を実施することができる。この際、特定加圧力を140~230mmHgの範囲で設定することができる。また、前脚加圧を実施しつつ、ウマに断続歩行運動を実施させることができる。
【0009】
断続歩行運動は、特定速度での歩行運動を特定歩行時間だけ連続して実施する歩行工程と、歩行工程の後に特定休止時間だけ歩行運動を休止する休止工程と、を含むことができる。この際、特定速度を200~300m/分の範囲で設定し、特定歩行時間を8~12分の範囲で設定し、特定休止時間を3~7分の範囲で設定することができる。
【0010】
本発明に係る動物の健康維持方法において、動物がヤギである場合には、ヤギの後脚の付け根にベルトを巻き付け特定加圧力を付与することによりヤギの後脚の筋肉の血流を止めることなく制限する後脚加圧を実施することができる。この際、特定加圧力を60~100mmHgの範囲で設定することができる。また、後脚加圧を実施しつつ、ヤギに連続歩行運動を実施させることができる。
【0011】
連続歩行運動は、歩行運動を特定歩行時間だけ連続して実施する歩行工程を含むことができる。この際、特定歩行時間を12~18分の範囲で設定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、きわめて簡便に実現させることができるとともに即効性が期待できる、動物の健康維持方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る動物の健康維持方法で使用されるベルトの平面図(外面を表す図)である。
図2図1に示すベルトの底面図(内面を表す図)である。
図3】本発明の実施形態に係る動物の健康維持方法を説明するためのフローチャートである。
図4】本発明の第一実施例に係る動物の健康維持方法を採用した場合の筋肉増強効果と、歩行運動のみを採用した場合の筋肉増強効果と、を比較するためのグラフ(トレーニング前後における筋肉の厚さを示すグラフ)である。
図5】本発明の第一実施例に係る動物の健康維持方法を採用した場合の筋肉増強効果と、歩行運動のみを採用した場合の筋肉増強効果と、を比較するためのグラフ(トレーニング前後における筋肉の周囲長の変化を示すグラフ)である。
図6】本発明の第一実施例に係る動物の健康維持方法を採用した場合の筋肉増強効果と、歩行運動のみを採用した場合の筋肉増強効果と、を比較するためのグラフ(トレーニング前後におけるソマトトロピンの分泌量を示すグラフ)である。
図7】本発明の第二実施例に係る動物の健康維持方法を採用した場合と、歩行運動のみを採用した場合と、における骨髄間葉系幹細胞の成長曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
まず、図1及び図2を用いて、本発明の実施形態に係る動物の健康維持方法(以下、「本方法」又は「加圧トレーニング」と称することがある)で使用されるベルト1について説明することとする。図1は、ベルト1の外面(外側に露出する面)を表す図であり、図2は、ベルト1の内面(筋肉側の面)を表す図である。
【0016】
なお、本発明に係る動物の健康維持方法に用いられるベルトは、本実施形態におけるベルト1に限られるものではなく、動物の四肢の少なくとも何れか一つに巻き付けられ当該四肢に特定加圧力を付与することにより動物の筋肉の血流を止めることなく制限することができるようなものであれば、いかなる構成を採用してもよい。すなわち、本実施形態におけるベルト1のような交差固定型のベルトだけではなく、折り返し固定型のベルトや空圧式ベルトを採用することもできる。
【0017】
ベルト1は、動物(例えばウマやヤギ)の四肢の少なくとも一つに巻き付けられて筋肉に加圧力を付与する帯状の部材であり、例えば伸縮性を有する素材(好ましくはネオプレンゴム)で構成されている。ベルト1が巻き付けられる部分としては、例えば、前脚の付け根の近辺又は後脚の付け根の近辺のうち、外部から締付けを行うことで血流を止めることなく制限するのに適切な部分を採用することができる。
【0018】
本実施形態におけるベルト1は、帯状に形成された第1帯状部材10及び第2帯状部材20と、接続部材30と、を備えて構成されている。接続部材30は、第1帯状部材10の基端側(接続部材30に近い側)及び第2帯状部材20の基端側(接続部材30に近い側)にそれぞれ接続されている。接続部材30は、第1帯状部材10を通すことのできる孔を備えており、必ずしもこの限りではないが、本実施形態では矩形のリング形状に構成されている。第1帯状部材10と第2帯状部材20は、矩形の接続部材30の対向する2辺にそれぞれ取付けられている。
【0019】
第1帯状部材10と第2帯状部材20と接続部材30とを合わせたベルト1の全長は、本方法が適用される動物の加圧部位の外周の長さに応じて決定すればよい。ベルト1の全長は、最低でも動物の加圧部位の外周の長さより長いことが必要となり、例えば、動物の加圧部位の外周の長さの2倍程度(予定される加圧部位の外周の長さの2倍±20%の長さ)となるように設定することができる。想定される全ての動物に対してこのような条件を満足させるべく、全長の異なる複数のサイズのベルト1を準備することができる。動物の加圧部位(例えばウマの前脚)の外周の長さが35cmである場合には、ベルト1の全長を70cm程度に設定することができる。
【0020】
第1帯状部材10と第2帯状部材20では、前者が後者よりも長くされている。第1帯状部材10は、その長さが、動物の加圧部位を1周以上できる長さに設定されている。動物の加圧部位(例えばウマの前脚)の外周の長さが35cmである場合には、ベルト1の第1帯状部材10の長さを51cm程度に設定することができる一方、ベルト1の第2帯状部材20の長さを17cm程度に設定することができる。なお、ベルト1の第2帯状部材20は、手で掴むのに不都合がない程度の長さがあればよい。
【0021】
本実施形態では、ベルト1の長さ方向の全ての部分で第1帯状部材10の幅が同一となるように設定されており、第2帯状部材20でも同様とされている。また、本実施形態では、ベルト1の第1帯状部材10の幅が第2帯状部材20の幅よりも若干大きくなるように設定されている。第1帯状部材10と第2帯状部材20の幅は、加圧部位を考慮して適宜決定することができる。例えば、ウマの前脚用のベルト1であれば、第1帯状部材10の幅を4cm程度、第2帯状部材20の幅を3.25cm程度に設定することができる。
【0022】
第1帯状部材10と接続部材30の接続はどのようにして行ってもよいが、例えば、接続部材30の孔に通して折り返した第一帯状部材10の基端を、折り返しの手前の部分に重ねて縫合することによって、両部材の接続を行うことができる。第2帯状部材20と接続部材30の接続も、第1帯状部材10と接続部材30の接続と同様に行うことができる。
【0023】
本実施形態における第1帯状部材10は、3mm程度の厚さとされた厚布であり、ある程度の張りを有している。厚布は、その長さ方向に伸縮性を有している。第1帯状部材10の外側面には、後述する第2面ファスナ12及び第4面ファスナ22を着脱可能に固定させる第1面ファスナ11(ループ面)が設けられている。一方、第1帯状部材10の先端側(接続部材30から遠い側)の内側面には、例えば長さが13.5cm程度に設定された第2面ファスナ12(フック面)が取り付けられている。第2面ファスナ12は、基本的には第1面ファスナ11に固定されるが、後述する第3面ファスナ21にも固定され得る。
【0024】
第2帯状部材20は、第1帯状部材10と同様の厚布により構成されている。第2帯状部材20の外側面には、第1帯状部材10の内側面に取り付けられた第2面ファスナ13(フック面)を着脱可能に固定させる第3面ファスナ21(ループ面)が設けられている。一方、第2帯状部材20の内側面には、第1帯状部材10の外側面の第1面ファスナ11(ループ面)に固定される第4面ファスナ22(フック面)が設けられている。
【0025】
次いで、図3のフローチャートを用いて、本方法の各工程について説明する。
【0026】
まず、本方法の実施者(以下、「ユーザ」と称する)は、本方法が適用される動物の四肢の少なくとも一つ(例えばウマの前脚やヤギの後脚)の心臓に近い部位にベルト1を巻き付け、ループ形状を形成する(ベルト巻付工程:S1)。この際、ベルト1の第1帯状部材10の先端を接続部材30の孔に潜らせることによりループ形状を形成するようにする。
【0027】
次いで、ユーザは、ベルト1の第1帯状部材10の先端と第2帯状部材20の先端とを各々反対方向に引っ張ることにより、動物の筋肉に特定加圧力を付与して動物の筋肉の血流を止めることなく制限した状態で、面ファスナを用いてベルト1のループ形状を維持する(加圧力付与工程:S2)。この際、ユーザは、第1帯状部材10の外側面に設けられた第1面ファスナ11(ループ面)に対し、第1帯状部材10の内側面に設けられた第2面ファスナ12(フック面)と、第2帯状部材20の内側面に設けられた第4面ファスナ22(フック面)と、の双方を固定するようにする。特定加圧力の大きさは、動物の種類、大きさ、年齢、性別、等に応じて適宜設定することができる。
【0028】
その後、ベルト1のループ形状を維持したまま(ベルト1が筋肉に付与する特定加圧力を一定に維持したまま)、動物に特定の歩行運動を実施させる(歩行運動工程:S3)。歩行運動の種類や継続時間は、動物の種類、年齢、性別、等に応じて適宜設定することができる。歩行運動は、後の実施例において具体的に説明する断続歩行運動や連続歩行運動を採用することができる。歩行運動工程S3が終了したら、ユーザは、ベルト1を動物から取り外して本方法(加圧トレーニング)を完了する。
【0029】
以上説明した実施形態に係る動物の健康維持方法においては、動物(例えばウマ、ヤギ、イヌ等の哺乳類動物)の四肢の少なくとも何れか一つにベルト1を巻き付け特定加圧力を付与して動物の筋肉の血流を止めることなく制限することにより、動物の成長ホルモンの分泌を促進することができる。また、このように適切な血流制限を行いつつ、動物に歩行運動を実施させることにより、適度な負荷を動物に付与することができる。すなわち、動物の筋肉の血流を制限することにより、動物の成長ホルモンの分泌を促すことができることに加え、歩行運動による適度な負荷を与えることができ、これらの相乗効果により、きわめて容易に動物の筋肉を増強させることができる。また、適度な血流制限と歩行運動との相乗効果により、動物の骨髄間葉系幹細胞の増殖を促すことができる。従って、きわめて簡便な方法で動物の健康維持を実現させることができ、長期間のカロリー低減給餌等が必要であった従来の方法と比較すると即効性が期待できる。
【0030】
<実施例>
次に、本発明の各実施例について説明する。
【0031】
<第一実施例>
最初に、本方法(加圧トレーニング)を「ウマ」に適用した実施例(第一実施例)について説明する。12頭の標準繁殖牝馬(年齢12±4歳、体重518±55kg)を被験体として調達し、これら12頭の被験体を、本方法を適用する「実施グループ」6頭と、本方法を適用しない「比較グループ」6頭と、に分けた。そして、「実施グループ」の6頭の被験体に対して以下のようなトレーニングを実施させた。
【0032】
<順化トレーニング>
加圧トレーニングに先立ち、筋肉の血流制限に順化させるための順化トレーニングを「実施グループ」の6頭の被験体に実施させた。すなわち、「実施グループ」の6頭の被験体の前脚の付け根に、上記実施形態で説明したベルト1を巻き付け、所定の順化期間中、所定の加圧力を付与することにより、被験体の前脚の筋肉の血流を止めることなく制限する予備的な前脚加圧を実施した。この際、加圧力を「130~160mmHg」に設定した。所定の順化期間中、被験体に特に不快な様子はなく、被験体が痛がっている様子も特に見られなかった。
【0033】
<加圧トレーニング>
順化トレーニングを終えた後、「実施グループ」の6頭の被験体の前脚の付け根にベルト1を巻き付け、特定加圧力を付与することにより、被験体の前脚の筋肉の血流を止めることなく制限する前脚加圧を実施した。そして、この前脚加圧を実施しつつ、モータ駆動のトレッドミルを用いて、「実施グループ」の6頭の被験体に断続歩行運動を実施させた。断続歩行運動は、特定速度での歩行運動を特定歩行時間だけ連続して実施する歩行工程と、歩行工程の後に特定休止時間だけ歩行運動を休止する休止工程と、を含むものとした。本実施例においては、特定速度を240m/分に設定し、特定歩行時間を10分に設定し、特定休止時間を5分に設定した。その後、被験体の前脚に巻き付けていたベルト1を取り外して前脚加圧を解除した。この加圧トレーニングを1日1回、週6日間、2週間にわたって実施した。
【0034】
本実施例では、前脚加圧を実施する際に、1日目において、140mmHgを60秒加えた後に10秒間加圧を解除し、次いで150mmHgを60秒加えた後に10秒間加圧を解除し、続いて160mmHgを60秒加えた後に10秒間加圧を解除し、その後同様の手順で180mmHgまで加圧力を段階的に上げることとした。このように1日目に特定加圧力を180mmHgまで上げ、2日目には特定加圧力を190mmHgまで上げ、その後1日あたり10mmHgずつ上げて6日目には特定加圧力が230mmHgになるように設定した。2週目も同様に、1日目の180mmHgから6日目の230mmHgまで特定加圧力を1日あたり10mmHgずつ上げた。
【0035】
<歩行トレーニング>
一方、「比較グループ」の6頭の被験体については、順化トレーニング及び前脚加圧を行うことなく、モータ駆動のトレッドミルを用いた断続歩行運動のみを実施させた。断続歩行運動は、「実施グループ」の6頭の被験体が実施したものと同様に、特定速度での歩行運動を特定歩行時間だけ連続して実施する歩行工程と、歩行工程の後に特定休止時間だけ歩行運動を休止する休止工程と、を含むものとした(特定速度:240m/分、特定歩行時間:10分、特定休止時間:5分)。
【0036】
<筋肉厚さ及び前脚周囲長の測定>
トレーニングの初日と、トレーニングの最終日から2日後と、において、超音波装置を用いて、各グループの被験体の骨格筋(総指伸筋:以下「EDC」と称する)の厚さと、各グループの被験体の前脚の周囲長と、を測定して各々の平均値を算出した。超音波装置は、対象界面に対して垂直に配置される植物油塗布済の5MHz走査ヘッドを有するものとし、EDCは、各被験体の肘頭と副手根骨の間に位置する部位を測定した。超音波測定により、皮下脂肪組織筋肉界面と、筋肉間界面と、を特定し、前者から後者までの距離をEDCの厚さとした。
【0037】
<血液サンプルの採取>
トレーニングの初日において、トレーニング前(安静時)、トレーニング中(断続歩行運動の休止工程の間)、トレーニング後5分経過時点、トレーニング後15分経過時点、トレーニング後60分経過時点、の各時点で、各グループの被験体から静脈血サンプルを採取し、市販のウマ用ELISAキットを用いて、採取した静脈血サンプルから成長ホルモン(血清ソマトトロピン)濃度を測定して各々の平均値を算出した。なお、トレーニングの中日(1週目と2週目の間)と、トレーニングの最終日から2日後と、においても安静時の静脈血サンプルを各グループの被験体から採取した。
【0038】
<結果:筋肉厚さ及び前脚周囲長>
図4に示すように、加圧トレーニングを実施した「実施グループ」の6頭の被験体の筋肉(EDC)の厚さ(平均値)は、トレーニング前と比較して3.5%増加したのに対し、加圧トレーニングを実施しなかった「比較グループ」の6頭の被験体の筋肉(EDC)の厚さ(平均値)は、トレーニング前と比較して殆ど(0.7%程度しか)増加しなかった。また、図5に示すように、加圧トレーニングを実施した「実施グループ」の6頭の被験体の前脚の周囲長(平均値)は、加圧トレーニングを実施しなかった「比較グループ」の6頭の被験体の前脚の周囲長(平均値)と比較して、格段に増加した。以上のように、加圧トレーニングを実施した「実施グループ」の6頭の被験体においては、有意な筋肉の増大(筋力の向上)がみられた。
【0039】
<結果:成長ホルモン濃度>
また、図6に示すように、加圧トレーニングを実施した「実施グループ」の6頭の被験体の成長ホルモン(血清ソマトトロピン)濃度(平均値)は、トレーニング前(安静時)と比較して、トレーニング後5分経過時点、トレーニング後15分経過時点、トレーニング後60分経過時点、の各時点で増加した。特に、トレーニング後5分経過時点においては、トレーニング前と比較して成長ホルモン濃度が約2.2倍となった。これに対し、加圧トレーニングを実施しなかった「比較グループ」の6頭の被験体の成長ホルモン濃度(平均値)は、トレーニング後5分経過時点で若干増加したものの、その増分は「実施グループ」のものより小さいものとなった。また、「比較グループ」の被験体の成長ホルモン濃度は、トレーニング後15分経過時点ではトレーニング前とそれほど変わらない値まで減少し、トレーニング後60分経過時点に至ってはトレーニング前よりも低い値まで減少した。以上のように、加圧トレーニングを実施した「実施グループ」の6頭の被験体においては、成長ホルモンの分泌の有意な増加がみられた。
【0040】
<第二実施例>
次に、本方法(加圧トレーニング)を「ヤギ」に適用した実施例(第二実施例)について説明する。60頭のボア種ヤギ(月齢24~30月、体重30~35kg)を被験体として調達し、これら60頭の被験体を、本方法を適用する「実施グループ」30頭と、本方法を適用しない「比較グループ」30頭と、に分けた。そして、「実施グループ」の30頭の被験体に対して以下のようなトレーニングを実施させた。
【0041】
<加圧トレーニング>
「実施グループ」の30頭の被験体の後脚の付け根に、上記実施形態で説明したベルト1を巻き付け、特定加圧力を付与することにより、被験体の後脚の筋肉の血流を止めることなく制限する後脚加圧を実施した。この際、特定加圧力を60~100mmHgに設定した。そして、この後脚加圧を実施しつつ、モータ駆動のトレッドミルを用いて、「実施グループ」の30頭の被験体に連続歩行運動を実施させた。連続歩行運動は、歩行運動を特定歩行時間だけ連続して実施する歩行工程を含むものとした。本実施例においては、特定歩行時間を15分に設定した。その後、被験体の後脚に巻き付けていたベルト1を取り外して後脚加圧を解除した。この加圧トレーニングを週2回、6ヵ月間にわたって実施した。
【0042】
<歩行トレーニング>
一方、「比較グループ」の30頭の被験体については、後脚加圧を行うことなく、モータ駆動のトレッドミルを用いた連続歩行運動のみを実施させた。連続歩行運動は、「実施グループ」の30頭の被験体が実施したものと同様に、歩行運動を特定歩行時間だけ連続して実施する歩行工程を含むものとした(特定歩行時間:15分)。
【0043】
<骨髄間葉系幹細胞の分離・培養>
6ヵ月のトレーニングを終えた後に、各グループの被験体の骨髄を採取し、骨髄間葉系幹細胞を分離させた。すなわち、無菌操作で被験体の後脚の大腿骨と脛骨を採取し、骨幹部を切開し、IMDM培養液で骨髄を流し出した。分離された骨髄は、比重が1.082g/mlのPercoll細胞分離液を用いて、500g/分の速度で密度勾配を用いた遠心分離を25分間行った。分離した骨髄間葉系幹細胞を10%ウシ胎児血清含有のIMDM培地で培養し、24時間毎に倒立顕微鏡で観察し細胞を計数した。検体ごとに3回ずつカウントし、その平均値で「実施グループ」と「比較グループ」の全検体平均値の平均数を算出した。連続で12日間観察し、生存細胞数(万/ml)対培養時間(日数)でグラフを作成し、生存曲線を得た(図7)。
【0044】
<結果>
細胞計数の結果によると、図7に示すように、培養の1~2日目時点では細胞数が変わらず増殖の潜伏期間であったが、培養の3~9日目には細胞数が急速に増え、指数関数的成長期に入った。一方、9~12日目の細胞成長速度は低下していた。図7に示すように、加圧トレーニング条件下に置かれた「実施グループ」の被験体の骨髄間葉系幹細胞は、非加圧トレーニング条件下に置かれた「比較グループ」の被験体の細胞よりも増殖し易いことが明らかとなった。
【0045】
<考察>
第二実施例は、加圧トレーニング下における骨髄間葉系幹細胞が比較的増殖し易いことを示唆する。ヤギは、ヒト、ウマ、ウシ、イヌ、ウサギ、ラット等の哺乳類動物に類似するため、今後、骨髄間葉系幹細胞を用いた胚胎発育の研究の基礎となり、将来的に幅広く応用出来る可能性がある。骨髄間葉系幹細胞は、主に骨髄由来である。骨髄は、典型的な低酸素環境であるが、「実施グループ」の動物も加圧トレーニングにより低酸素代謝状態に置かれていたことが推察される。低酸素環境下におけるフィードバック刺激によって骨髄基質幹細胞の増殖能力が強まった可能性がある。
【0046】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、この実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。すなわち、前記実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前記実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。なお、動物には「ヒト」も含まれる。すなわち、本発明に係る方法は、ヤギ、ウマ、ウシ、イヌ、ウサギ、ラット等の哺乳類動物の健康維持のためだけではなく、「ヒト」の健康維持のためにも使用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…ベルト
図1
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図7