(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104705
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】新規微生物、微生物資材、およびコンポスト化方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/14 20060101AFI20240729BHJP
C02F 11/02 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
C12N1/14 A ZNA
C02F11/02 ZAB
C12N1/14 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009065
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】597150795
【氏名又は名称】中部エコテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100224661
【弁理士】
【氏名又は名称】牧内 直征
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】小澤 賢人
(72)【発明者】
【氏名】荒川 友子
(72)【発明者】
【氏名】中崎 清彦
【テーマコード(参考)】
4B065
4D059
【Fターム(参考)】
4B065AA58X
4B065BC41
4B065CA49
4B065CA54
4D059AA01
4D059AA02
4D059AA05
4D059AA07
4D059BA03
4D059BA22
4D059BA27
4D059BA44
4D059BA56
(57)【要約】
【課題】コンポスト化を促進するための新規微生物、該新規微生物が担持された微生物資材、および該新規微生物を用いて有機性廃棄物をコンポスト化する方法を提供する。
【解決手段】本新規微生物は、モナスカス属(Monascus)に属する微生物(NITE AP-03782)であり、本コンポスト化方法は、有機性廃棄物をコンポスト化する方法であって、有機性廃棄物に、モナスカス属(Monascus)に属する新規微生物(NITE AP-03782)を接種する接種工程を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モナスカス属(Monascus)に属する微生物(NITE AP-03782)。
【請求項2】
担体にモナスカス属(Monascus)に属する微生物(NITE AP-03782)が担持されていることを特徴とする微生物資材。
【請求項3】
前記担体がゼオライト、パーライト、バーミキュライト、木質チップ、ピートモス、ふすま、魚粉、骨粉、カニ殻、および油粕から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項2記載の微生物資材。
【請求項4】
有機性廃棄物をコンポスト化する方法であって、
前記方法は、前記有機性廃棄物に、モナスカス属(Monascus)に属する微生物(NITE AP-03782)を接種する接種工程を有することを特徴とするコンポスト化方法。
【請求項5】
前記方法は、前記接種工程後、接種された前記有機性廃棄物を発酵させる発酵工程を有することを特徴とする請求項4記載のコンポスト化方法。
【請求項6】
前記有機性廃棄物が豚糞を含むことを特徴とする請求項4または請求項5記載のコンポスト化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンポスト化を促進する新規微生物、該新規微生物が担持された微生物資材、および該新規微生物を用いて有機性廃棄物をコンポスト化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
畜産経営体から排出される家畜排泄物や食品産業事業所から排出される食品残渣などの有機性廃棄物は、その種類および排出量が近年増大して、その処理が大きな社会的課題となっている。これらの有機性廃棄物は、焼却処理や埋め立て処理する他、有機性廃棄物をコンポスト化(堆肥化)し、循環資源としてリサイクルすることが行なわれている。
【0003】
コンポスト化方法は、敷地に有機性廃棄物を堆積し、切り返しを行なってコンポスト化を行なう「開放型」と、容器内に投入してその中でコンポスト化を行なう「密閉型」に大きく分類される。密閉型は、省スペース、周囲への悪臭被害が少ないなどのメリットがある。密閉型としては、例えば、微生物の発酵作用を利用した密閉型のコンポスト化装置(「コンポ」とも呼ぶ)を用いてコンポスト化する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。このコンポは、円筒縦型のタンク形状であり、密閉容器内に投入された有機性廃棄物に強制通気しつつ発酵と乾燥を行なっている。
【0004】
ところで、有機性廃棄物のコンポスト化では、様々な要因で発酵不良が起こり得る。例えば、コンポを用いた方法において、ひとたび発酵不良が生じると、処理物の廃棄やコンポの清掃などが必要となり、処分費用や、悪臭の発生、作業者の負担増といった不利益を招くことになる。
【0005】
コンポスト化においては、コンポスト化微生物にとって適正な温度、pH、酸素濃度などを維持することが重要である。特に、pHについては、中性から弱アルカリ性を維持することが有機物の分解促進に有効であるとされている。しかし、コンポスト原料となる有機性廃棄物が酸敗してpHが低下することや、コンポスト化の初期の酸生成に伴ってpHが低下することがしばしば観察される。低pH条件では、コンポスト化微生物の活性が阻害されるため、有機物が活発に分解されず、温度が上昇しにくい。その結果、コンポスト化に長時間を要することになる。そのため、迅速なコンポスト化を実現するためには、コンポスト原料中に蓄積している酸を中和または分解する方法が必要となる。
【0006】
酸を中和する方法として、例えば、水酸化カルシウム(消石灰)などのアルカリ性物質をコンポスト原料に添加する方法が知られている。しかし、この方法は、大量のアルカリ性物質を継続的に添加する必要があり、コスト面や作業面での負担が大きくなりやすい。また、外部から化学物質を添加してコンポストを製造することになり、得られたコンポストは、有機農産物を生産する目的で使用することができない。
【0007】
そのため、アルカリ性物質を添加する方法に代わり、酸分解性の細菌や酵母を接種する方法が検討されている。そして、これらの微生物を接種することで、確かにpHの低下が抑制され、迅速なコンポスト化に有効であることが報告されている。しかし、微生物の種類によってその至適条件や培養条件などが異なることから、コンポスト化の様々な条件やニーズなどに応えるべく、酸分解能力を有する新しい微生物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、コンポスト化を促進するための新規微生物、該新規微生物が担持された微生物資材、および該新規微生物を用いて有機性廃棄物をコンポスト化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の微生物は、モナスカス属(Monascus)に属する微生物(NITE AP-03782)(以下、「QA1株」ともいう)である。
【0011】
本発明の微生物資材は、担体にモナスカス属(Monascus)に属する微生物(NITE AP-03782)が担持されていることを特徴とする。
【0012】
上記担体がゼオライト、パーライト、バーミキュライト、木質チップ、ピートモス、ふすま、魚粉、骨粉、カニ殻、および油粕から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明のコンポスト化方法は、有機性廃棄物をコンポスト化する方法であって、上記方法は、上記有機性廃棄物に、モナスカス属(Monascus)に属する微生物(NITE AP-03782)を接種する接種工程を有することを特徴とする。
【0014】
上記方法は、上記接種工程後、接種された上記有機性廃棄物を発酵させる発酵工程を有することを特徴とする。例えば、上記発酵工程は、接種された上記有機性廃棄物を密閉型のコンポスト化装置に投入して、該装置内で上記有機性廃棄物を通気撹拌しながら発酵させる工程である。
【0015】
上記有機性廃棄物が豚糞を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の新規微生物(NITE AP-03782)によれば、例えば、コンポスト化において、コンポスト原料中に蓄積している有機酸やコンポスト化初期に発生する有機酸などを効率的に分解でき、低pH条件を解消することができる。その結果、コンポスト化微生物の活性を維持でき、迅速なコンポスト化に繋がる。
【0017】
特に、上記新規微生物は糸状菌であり、貧栄養で増殖できることから、培養のための培地コストを低減できる。更に、バクテリアが増殖しにくい酸性条件での増殖も可能であるため、コンタミを防いで培養することも容易である。そのため、従来の酸分解性微生物に比べて、接種剤の準備のためのコストを大幅に低減することができる。
【0018】
本発明の微生物資材は、担体にモナスカス属(Monascus)に属する新規微生物(NITE AP-03782)が担持されているので、コンポスト化の際の接種剤としての取り扱い性などに優れる。
【0019】
本発明のコンポスト化方法は、有機性廃棄物をコンポスト化する方法であって、上記方法は、上記有機性廃棄物に、モナスカス属(Monascus)に属する新規微生物(NITE AP-03782)を接種する接種工程を有するので、コンポスト原料中に蓄積している有機酸やコンポスト化初期に発生する有機酸などを効率的に分解でき、低pH条件を解消することができる。その結果、コンポスト化微生物の活性を維持でき、迅速なコンポスト化を実現できる。
【0020】
近年、悪臭低減を目的とした飼料やリキッドフィードを導入する養豚場が増加しており、それに伴って低pHの豚糞による発酵不良が懸念されている。上記新規微生物を用いることで、豚糞のコンポスト化にも好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】本発明のコンポスト化方法の一例の概略図である。
【
図4】本発明のコンポスト化方法に用いるコンポの一例を示す図である。
【
図5】試験1の新規微生物(QA1株)の培養後の写真である。
【
図6】試験2のコンポスト化試験のシステムの概略図である。
【
図7】試験2の炭酸ガス発生速度などの経時変化を示すグラフである。
【
図8】試験3のコンポスト化初期のコンポスト化装置の写真である。
【
図9】試験3の炭酸ガス発生速度などの経時変化を示すグラフである。
【
図10】試験3の微生物叢の解析結果を示す図である。
【
図11】試験4の微生物資材の固着試験を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0023】
[微生物]
本発明の微生物は、有機酸の分解能を有する糸状菌(NITE AP-03782)である。この微生物QA1株は、養豚農家から供給された豚糞を分離源として初めて分離された微生物である。
【0024】
QA1株について、リボソームRNA遺伝子の連続するITS-1(内部転写スペーサー領域1)、5.8SrRNAgene、ITS-2(内部転写スペーサー領域2)の3領域の塩基配列を決定した。この塩基配列を配列番号1に示す。また、この塩基配列をもとに、BioEditとMEGA5.1を用いて系統樹を作製したところ、
図1に示すように、QA1株は、ベニコウジカビ(Monascus purpureus)と近縁であり、100%の相同性を有する。ベニコウジカビに代表されるMonascus属でデンプン質食品(主に米)を発酵させたものを紅麹という。紅麹は、古くから中国などにおいて、紅酒や豆腐などの発酵食品に利用されており、QA1株は、病原体ではなく、人体に無害であると推測される。
【0025】
QA1株はモナスカス(Monascus)属に属し、カビの仲間である。QA1株は菌糸体を形成し、
図2に示すように、培養法によって様々な形態をとる。
【0026】
QA1株はpH6.0未満、20℃以上、好気条件で繁殖可能である。例えば、そのような条件下でQA1株が活発に活動することで、有機酸が分解され、低pH条件が解消される。その結果、低pH条件での発酵不良が改善され、コンポスト化の促進に寄与することができる。なお、QA1株はpH5.5未満、さらにはpH5.0未満でも繁殖可能である。このように、バクテリアが増殖しにくい酸性条件でも増殖が可能であるため、コンタミを防いで培養することも容易である。
【0027】
QA1株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation(NITE))の特許微生物寄託センターに、2022年11月21日に受領された(受領番号:NITE AP-03782)。
【0028】
QA1株の培養条件は、特に限定されず、一般的な培養方法を適用することができる。培養温度は、例えば15℃~45℃であり、20℃~40℃が好ましい。培養pHは、例えば5~8であり、6~8が好ましい。培養時間は、例えば2日~14日間であり、2日~7日間が好ましい。
【0029】
QA1株の培養に用いる培地は、微生物が生育しうる通常の組成のものであればよく、例えば、炭素源、窒素源、および無機塩類などの栄養源を含有する培地を用いることができる。炭素源としては、炭水化物、油脂、脂肪酸、有機酸、アルコール類などが挙げられる。窒素源としては、ペプトン、大豆粉、綿実粉、尿素などの有機窒素源、無機窒素源などが挙げられる。無機塩類としては、Na2HPO4、K2HPO4などのリン源、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウムなどの金属塩などが挙げられる。なお、QA1株は糸状菌であり貧栄養でも増殖できる。
【0030】
培養法としては、振とう培養法(回転振とう培養法、横振とう培養など)、静置培養法、通気撹拌培養法などにより連続的または間欠的に行うことができる。
【0031】
QA1株が分解する有機酸は、少なくとも1つのカルボキシ基を含む酸であり、その種類は特に限定されない。例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸などが挙げられる。例えば、豚糞には、酢酸やプロピオン酸が含まれており、豚糞のコンポスト化の際に豚糞を含む有機性廃棄物にQA1株を接種することで、これらの有機酸を分解することができ、結果としてコンポスト化の促進に繋がる。
【0032】
[微生物資材]
本発明の微生物資材は、QA1株が担体に担持されたものである。微生物資材は、例えば、QA1株の菌糸体を担体とミキサーなどで混合することなどで得られる。有機性廃棄物にQA1株を接種する際の取り扱い性や安定性などの観点から、菌単体(乾燥菌体など)を用いるよりも、固体や粉体の形態として取り扱い可能な微生物資材を用いることが好ましい。
【0033】
担体としては、微生物資材の担体として用いられるものであれば、特に限定されない。例えば、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト、木質チップ、ピートモス、ふすま、魚粉、骨粉、カニ殻、油粕などを用いることができる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
[コンポスト化方法]
本発明のコンポスト化方法は、有機性廃棄物をコンポスト化する方法であり、この方法の概略を
図3に示す。
図3では、一例として、有機性廃棄物に豚糞を用いており、また、発酵工程においてコンポを用いる方法を示している。近年、リキッドフィーディングを導入する養豚場の増加に伴い、低pHの豚糞によるコンポスト化不良の報告が増えてきている。本発明のコンポスト化方法は、低pHの有機性廃棄物(特に豚糞)のコンポスト化により適している。
【0035】
図3において、コンポスト化方法は、豚糞に、QA1株を接種する接種工程と、接種工程後、接種された豚糞をコンポに投入して、そのコンポ内で豚糞を通気撹拌しながら発酵させる発酵工程を有する。
【0036】
接種工程におけるQA1株の接種方法は特に限定されず、例えば、QA1株を種菌として豚糞に適量添加し、均一に分散するよう十分撹拌するなどして行う。QA1株は、乾燥菌体や、培養液などの液状物、微生物資材などの形態で添加される。例えば、微生物資材として添加される場合、その添加量は、豚糞に対して0.1質量%以下の添加量で添加されることが好ましい。
【0037】
接種工程において、QA1株の接種後、ある程度の時間をおくことが好ましい。時間をおくことで、QA1株により有機酸が分解され、豚糞のpHが予め改善された状態で発酵工程へ進むことができる。その結果、発酵工程での初期段階の立ち上げ、つまりコンポスト化微生物の有機物分解をスムーズにすることができる。QA1株の接種後、例えば15℃~35℃、好ましくは25℃~35℃の温度下で、例えば1日~7日間、好ましくは3日~7日間、時間をおくことができる。この間、QA1株が接種された豚糞は静置されていてもよく、連続的または間欠的に撹拌されていてもよい。例えば、温度を35℃以下にすることにより、QA1株以外の菌の増殖を抑制しやすくなる。また、豚糞のpHを定期的に測定し、そのpHが所定以上になったことなどに基づいて、発酵工程へ進むようにしてもよい。
【0038】
図3において、発酵工程はコンポを用いて行う。ここで、コンポの一例を
図4に基づいて説明する。
図4はコンポの構成の一例を示す縦断面図である。
図4に示すように、コンポ1は、円筒縦型の容器2と、容器2内に縦方向に設けられた回転軸3と、回転軸3周りに多段に付設された複数枚の撹拌翼4と、容器2内に外気を取り入れるための送気手段6と、容器2内に蓄積する内気を容器外部に排出するための排気手段9とを備えてなる密閉型のコンポスト化装置である。この装置は、容器2の内容積が10m
3以上である業務用の大型の装置を主な対象としている。
【0039】
最下段の撹拌翼の下部に通気孔4aを有し、送気手段6から送られる外気(入気)を回転軸内に設けられた配管6aを介して該通気孔より容器内に導入している。発酵槽である容器2は、金属製外層と断熱層とを有する断熱容器であり、かつ、通気孔から導入される以外の外気とは接触しにくい気密性容器である。また、容器2の上部にコンポスト原料である有機性廃棄物の投入口2aと、排気口2cとを有し、底部にコンポスト(処理後の有機性廃棄物)の取出口2bを有する。排気口2cは排気手段9に連結されている。投入口2aおよび取出口2bには、容器の気密性を確保するための開閉可能な蓋などが設けられている。
【0040】
図4に示す形態では、容器2の下方に機械室5が設けられ、この機械室内に回転軸3の駆動手段8と、上述の送気手段6が設けられている。回転軸3は、機械室5内に貫通しており、駆動手段8により所定回転数で回転させられる。また、必要に応じて、送気手段6から送られる外気を加温するためのヒータ7が設けられている。
【0041】
コンポスト原料である有機性廃棄物としては、豚糞の他、有機質成分を多く含む、家畜排泄物、食品廃棄物、浄化槽汚泥、またはこれらの混合物を用いることができる。具体的には、家畜排泄物として、鶏糞、牛糞、馬糞などが挙げられ、食品廃棄物として生ごみ、食品製造副産物などが挙げられ、浄化槽汚泥として、家庭用浄化槽、食品工場の余剰汚泥浄化槽などから抜き取られる汚泥が挙げられる。また、コンポスト化は、容器内において、好気性発酵菌(コンポスト化微生物)の存在下で通気しながら好気発酵させて行なう。好気性発酵菌としては、30~90℃程度で活性化する発酵菌が好ましく、例えば、ジオバチスル属やバチルス属などが挙げられる。
【0042】
上記のコンポスト化微生物は、低pH条件(例えば6.0未満)で活性が阻害されやすいが、有機性廃棄物にQA1を接種して予め低pH条件を解消することで、コンポスト化微生物による活性を正常に機能させることができる。このような観点から、有機性廃棄物としては、コンポスト化前(初期)のpHが6.0未満のものに特に有効に使用することができる。当該pHは5.5未満のものであってもよい。また、有機性廃棄物のコンポスト化前(初期の)のC/N比は、例えば10.0~25.0である。
【0043】
図4のコンポ1において、投入口2aからコンポスト原料を容器2の内部に投入し、コンポスト化後に容器下部の取出口2bよりコンポストを取り出す。発酵および乾燥は、送気手段6により最下段の撹拌翼の通気孔4aから所定の入気量で外気を導入し、かつ、排気口2cと排気手段9(通気口)から内気を排気しつつ、各撹拌翼4を低速で回転させて、コンポスト原料を通気撹拌し、好気発酵させることで行なう。また、通気により同時に乾燥もされる。排気口2cから排気される空気は、通気孔から容器内に導入されて処理物中を通過しながら上方へ流れてきた空気に、コンポスト原料より生じたガスや水蒸気を含むものである。
【0044】
運転手順としては、まず、コンポに、該コンポの内容積に対して10~30%の空間(ヘッドスペース)を残して、コンポスト原料を投入する。10~30%の空間を残してコンポスト原料を投入することにより、コンポスト原料の撹拌が十分になされるため、発酵および乾燥が効率よくなされる。投入は毎日行ない、所定の滞留期間(3日~20日程度)発酵および乾燥して、一定期間(例えば毎日)毎に所定量(例えば20質量%程度)のコンポストを取り出す。上記投入は、コンポストを取り出した後に行なう。このように、一定時間サイクルでコンポスト原料の一部投入とコンポストの一部取り出しを繰り返して、連続的に発酵工程を行なう。
【0045】
上記
図3では、コンポスト化方法として、コンポを用いる方法を説明したが、本発明のコンポスト化方法は、これに限定されない。例えば、本発明のコンポスト化方法は、密閉型のコンポスト化装置を用いる方法に限らず、また、通気撹拌しながら有機性廃棄物を発酵させる方法にも限定されない。例えば、発酵工程において、切り返しを行なって堆肥化を行なう開放型で行ってもよい。
【実施例0046】
[試験1]新規微生物の取得
1-1.新規微生物のスクリーニング
新規微生物のスクリーニングには、TS培地に酢酸を混合し、pH指示薬としてBromocresol purple(BCP)を添加した寒天培地を用いた。培地組成を下記の表1に示す。
【0047】
【0048】
酸分解能力を有する新規微生物の分離源には、市販の微生物資材1種類、市販のコンポスト2種類、養豚農場から採取した豚糞1種類の計4種類を用いた。各分離源に9倍量の滅菌水を加えてホモジナイズした後、適宜希釈して上記の寒天培地上に塗抹し、30℃で7日間培養した。寒天培地にはBCPが添加されているため、初期は酸性を表す黄色であるが、コロニーの生成にともなって酢酸が分解されるとpHは中性付近になり紫色に変化する。そのため、コロニー周辺の色の変化から酸分解性微生物を容易に識別することができる。
【0049】
7日間培養後の寒天培地の写真を
図5に示す。複数のコロニーの周辺および底部が紫色に変色したものが確認されたが、特に、酸分解能力の高いものとして、QA1株の存在が確認された。QA1株は、豚糞中から検出され、コロニー周辺の紫色変色域が広く、酸分解能力が高いことが分かった。なお、市販の微生物資材、市販のコンポスト2種類からも酸分解性微生物は検出されたが、紫色変色域は小さく、酸分解能力は小さいものであった。QA1株は、ポテトデキストロース(PD)寒天培地上で純化し、グリセロールストックを作成して-20℃の条件で保存した。
【0050】
1-2.新規微生物の同定
QA1株について、純化の後、PD培地で培養し、Isoil for Beads Beating(株式会社ニッポンジーン)を用いて遺伝子を抽出した。抽出した遺伝子は、連続するITS-1、5.8S rRNA gene、ITS-2の3領域をプライマー対、SR6R(5’-AAGTAAAAGTCGTAACAAGG-3’;配列番号2)とLR1(5’-GGTTGGTTTCTTTTCCT-3’;配列番号3)で増幅した。PCR増幅には、TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(登録商標) Standard(TP600、タカラバイオ株式会社)を用いた。PCRの条件は、最初に98℃、2分の変性を行なった後に、[98℃、10秒(変性)、50℃、30秒(アニーリング)、72℃、1分(伸長)]を30サイクル、最後に72℃ 、5分の伸長を行なった。
【0051】
PCRで増幅したQA1株の遺伝子断片376bpの配列を測定したところ、配列番号1に示される塩基配列を有することが判明した。
【0052】
得られた塩基配列をもとに、BioEditとMEGA 5.1を用いて系統樹を作成した。
図1に示すように、QA1株は、ベニコウジカビ(Monascus purpureus)と近縁であることが判明した。
【0053】
以上より、酸分解能力の高いものとして、糸状菌に属する株(QA1株)が得られた。この微生物は、有機物濃度が高いTS培地上で増殖することができるため、例えば豚糞のような有機物濃度が高いコンポスト原料中で有機酸の分解能を発揮できるものと期待された。
【0054】
[試験2]酸分解性微生物を用いたコンポスト化試験
2-1.コンポスト混合原料
コンポスト原料である有機性廃棄物には、養豚農場から採取したリキッドフィーディングで飼育されている豚の糞を用いた。この豚糞は、炭素の元素含有率が47.48%、窒素の元素含有率が3.99%であり、C/N比は11.9であった。有機酸として酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸をHPLCで測定したが、プロピオン酸が8.88mg/g、乳酸が47.2mg/gであり、他の酸は検出されなかった。この豚糞に、通気性改良材であるおがくずと、種菌として市販の微生物資材(オーレスG、株式会社松本微生物研究所)とを、乾燥重量比で5:14:1に混合して、コンポスト混合原料を得た。
【0055】
2-2.試験サンプル
コンポスト化試験では、試験サンプルとして、混合原料そのままを用いたRun A(対照実験)、混合原料に酸分解性微生物として酵母Pichia kudriavzevii RB1株(参考文献:Bioresour. Technol.、2013年、Vol.144、p.521-528)を接種したRun B、混合原料をCa(OH)2でpH9付近に調整したRun C、混合原料に酸分解性微生物としてQA1株を接種したRun Dをそれぞれ用いた。下記の表2に各試験サンプルの初期pHを示す。
【0056】
【0057】
2-3.コンポスト化操作
コンポスト化の試験システムを
図6に示す。試験サンプルを容量100mLのコンポスト化装置16(ミニリアクター)に充填し、底部より通気してコンポスト化を行なった。コンポスト化装置16は、ガラス(直径45mm、高さ100mm)製で、その上下に通気用のガラス管を通したシリコン栓を取り付けたものから構成されている。下部のシリコン栓14は、上部がすり鉢状(図示省略)になっており、その上にステンレスの金網15を取り付け、充填物を支持するとともに、通気された空気が装置全体に分散しやすいようになっている。通気速度は流量計11で測定され、好気条件を維持するため5.5mL/minとし、コンポスト化装置16に供給する前に、CO
2トラップ12(水酸化ナトリウム水溶液0.1Mが充填)で空気中に含まれる炭酸ガスが除去され、次にバブラー13を通過させることで通気空気に水分を飽和させている。コンポスト化装置16からの排気ガスは、サンプリングバッグ17(スマートバッグPA、GLサイエンス)で捕集し、炭酸ガス(CO
2)濃度をガス検知管(北川式ガス検知管、光明理化学工業株式会社)により測定した。なお、コンポスト化における有機物分解は、炭酸ガス発生速度と累積炭酸ガス排出量を計算することでモニターした。炭酸ガス発生速度は、単位時間あたりの炭酸ガス発生量と定義した。なお、累積炭酸ガス排出量は有機物分解量に対応する。
【0058】
コンポスト化装置16は、昇温プログラム付きのインキュベータ18に設置して、コンポスト化の温度を任意に調整できるようになっている。温度については、Run AとRun Cでは、実験開始後直ちに2.5℃/hで60℃まで昇温し、その後、60℃を維持した。Run BとRun Dでは、実験開始後からしばらくの間は30℃を維持し、Run Bでは3日目、Run Dでは4日目(一旦増加した炭酸ガス発生速度がこの日に低下し始める)に、2.5℃/hで60℃まで昇温し、その後、60℃を維持した。いずれの試験もコンポスト化期間は、10日間とした。均一なコンポスト化の進行のために1日に1度、コンポスト化装置16のふたを開け、内部を混合撹拌し、サンプルを採取して、pH、有機酸の含有量の経時変化を測定した。pHはサンプルを蒸留水で10倍希釈した後、pHメータで測定した。
【0059】
2-4. コンポスト化に伴う炭酸ガス発生速度、累積炭酸ガス排出量、pH、有機酸濃度の経時変化
コンポスト化試験の結果として、
図7(a)には炭酸ガス発生速度の推移を示し、
図7(b)には累積炭酸ガス排出量の推移を示し、
図7(c)にはpHの推移を示し、
図7(d)には有機酸濃度の推移を示す。なお、Run AとRun CのpHについては初期値と最終値のみを測定した。
【0060】
図7(a)および(b)に示すように、pHを調整しないRun Aでは、炭酸ガス(CO
2)は全く発生せず、有機物が分解されないことが分かった。Run Aでは、pHは初期値の5.43から変化せず、一定の値に維持されており(
図7(c)参照)、低pH条件でコンポスト化微生物の活性が強く阻害されていることが分かった。
【0061】
混合原料にCa(OH)
2を混合して初期pHを9付近に調整したRun Cでは、コンポスト化初期から有機物分解が始まり、累積炭酸ガス排出量はコンポスト化の進行とともに上昇し、有機物が活発に分解されることが分かった(
図7(a)、(b)参照)。Run Cでは、pHは初期値の9からわずかに低下して、8.5付近の値となった(
図7(c)参照)。コンポスト化を担う微生物にとって中性から弱アルカリ性のpHが活発な有機物分解に適していることが知られているが、消石灰を混合した場合にはその条件が維持されていた。
【0062】
一方、酵母RB1株を接種したRun B、QA1株を接種したRun Dでは、pHはこれらの微生物の活性に適した30℃に維持されたコンポスト化初期に上昇している(
図7(c)参照)。この挙動は、豚糞に含まれている有機酸の分解に対応していると考えられる。実際に、Run BおよびRun Dにおいて、乳酸とプロピオン酸の低下が確認された(
図7(d)参照)。Run BとRun Dでは、pHの上昇開始時期とpHの上昇速度に差はみられるものの、コンポスト化中盤以降では、いずれもpH8を越える弱アルカリの条件に保たれた。これらのコンポスト化における累積炭酸ガス排出量は、いずれもCa(OH)
2でpHを調整したRun Cと同等であり(
図7(b)参照)、酵母RB1株およびQA1株を接種することで、十分な有機物分解の促進効果が得られることが明らかになった。
【0063】
[試験3]QA1株を含む微生物資材を用いたコンポスト化試験
3-1.QA1株の乾燥菌体の作製
QA1株をPD液体培地100mLに接種し、30℃で1週間、振とう培養した後、菌糸を回収し、アルミ皿に広げて30℃のインキュベータ内で風乾させて乾燥菌体を作製した。
【0064】
3-2.微生物資材の作製
上記と同様にQA1株を培養した後、その菌糸体1/3を担体50gとミキサーを用いて混合した。担体には、ピートモスまたは魚粉を用い、QA1株を混合後に、さらに担体をそれぞれ160g追加し、合計で210gの微生物資材A、Bをそれぞれ作製した。以上のように作製した乾燥菌体および微生物資材は、室温で保存した。
【0065】
3-3.試験サンプル
コンポスト化試験のコンポスト混合原料には、上記試験2と同様のコンポスト混合原料を用いた。このコンポスト化試験では、試験サンプルとして、混合原料をCa(OH)2でpH8付近に調整したPM01、混合原料にQA1株の乾燥菌体のみを添加したPM02、混合原料に微生物資材A(担体:ピートモス)を添加したPM03、混合原料に微生物資材B(担体:魚粉)を添加したPM04をそれぞれ用いた。下記の表3に各試験サンプルの初期pHを示す。
【0066】
【0067】
3-4.コンポスト化操作
上記試験2と同様に、
図6に示す試験システムを用いて、同様の操作でコンポスト化試験を行なった。このコンポスト化試験では、炭酸ガス発生速度と累積炭酸ガス排出量に加えて、累積炭酸ガス排出量と有機物分解率に対応する炭素変化率を計算した。
【0068】
また、温度条件については、QA1株を含む種菌を接種したPM02~PM04では、コンポスト化の開始6日間、接種したQA1株の活性が高い30℃を維持し、その後は2.5℃/hで昇温し、温度が60℃に達した後は、コンポスト化終了まで60℃を維持した。なお、酸分解性微生物を接種していないPM01においても、PM02~PM04と温度条件を同一とした。いずれの試験もコンポスト化期間は、活発な有機物分解が終了する14日間とした。均一なコンポスト化の進行のために1日に1度、コンポスト化装置のふたを開け、内部を混合撹拌し、サンプルを採取して、含水率、pH、微生物叢の経時変化を測定した。含水率は、105℃で3日間、乾燥器中で乾燥させた後の重量変化から算出した。また、コンポスト化期間中、含水率が最適条件の40%~60%の範囲に維持されるように、必要に応じて蒸留水を添加した。pHはサンプルを蒸留水で10倍希釈した後、pHメータで測定した。
【0069】
3-5.コンポスト化初期におけるQA1株の増殖
コンポスト化初期のPM02~PM04のコンポスト化装置の写真を
図8に示す。QA1株は糸状成長し、接種後に明らかな増殖が確認された。コンポスト化において、微生物を接種する操作はしばしば用いられるが、多くは顕著な効果が見られない。これは、接種した微生物が接種されたコンポスト環境で増殖できないためと考えられる。QA1株がコンポスト化初期に増殖することができたのは、コンポスト原料が有機酸を含む酸性条件であることから、他の競合微生物の生育が抑制されたためと考えられる。
【0070】
3-6.コンポスト化に伴う炭酸ガス発生速度、累積炭酸ガス排出量、炭素変化率の経時変化
コンポスト化試験の結果として、
図9(a)には炭酸ガス発生速度の推移を示し、
図9(b)には累積炭酸ガス排出量の推移を示し、
図9(c)には炭素変化率の推移を示す。
【0071】
豚糞に含まれる有機酸の中和剤としてCa(OH)
2を添加したPM01は、試験開始時にpHを調整しているため、他の試験例に比べて短いラグタイムで活発な有機物分解が開始した。コンポスト化2日後には、炭酸ガス発生速度は最大となった(
図9(a)参照)。その後、炭酸ガス発生速度は低下したが、コンポスト化6日後の昇温操作にともなって再びピーク(第2のピーク)を生じた。
【0072】
一方、種菌を接種したPM02~PM04では、QA1株によって豚糞のpHが改善されることで発酵が始まり、炭酸ガスが排出されていることが確認された。化学的な中和反応を原理とするPM01に比べてラグタイムは長くなるが、菌体の乾燥物そのものを用いたPM02で、ラグタイムは最も短くなった(
図9(a)参照)。また、PM02~PM04においても昇温操作に対応して、第2のピークが観察された。
【0073】
図9(b)に示すように、コンポスト化直後はPM01のみ炭酸ガスの排出が確認されるが、6日後にはPM01とPM02はほぼ同等になっている。また、8日後にはPM01~PM04に大きな差はなく、最終的には、QA1株を添加すると、Ca(OH)
2添加時と同様以上の炭酸ガスの排出が確認された。つまり、発酵効果がみられることが明らかになった。加えて、累積炭酸ガス排出量と連動している炭素変化率においても同様の挙動が見られた。いずれの試験例の炭素変化率は90%以上に達し、良好な有機物分解が進行したことを示している。
【0074】
以上より、QA1株を含む種菌を接種することで、Ca(OH)
2添加時と同様に良好な有機物分解の促進効果が発揮され、コンポスト化促進に有効であることが確認された。なお、実用性を考慮すると、乾燥菌体のみに比べて取り扱い性などにより優れる微生物資材が好ましいといえる。
図9の結果より、担体に固着させたPM03およびPM04でも十分なコンポスト化促進能を有するといえる。
【0075】
3-7.次世代シーケンスによる微生物叢の解析
上記コンポスト化試験において、各試験サンプル中の微生物のDNAを抽出するため、採取したサンプル1gからIsoil for Beads Beating(株式会社ニッポンジーン)を用いてDNAを抽出した。PCR増幅には、TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(登録商標) Standard(TP600、タカラバイオ株式会社)を用いた。PCRの条件は、最初に94℃、1分の変性を行なった後に、[98℃、10秒(変性)、55℃、30秒(アニーリング)、72℃、1分(伸長)]を30サイクル、最後に72℃ 、2分の伸長を行なった。
【0076】
PCRにより目的配列が増幅されたことを確認するために、PCR増幅物を1.0×Tris-borate-EDTA(TBE)アガロースゲル(寒天濃度2%)を用いて電気泳動し、バンド位置を測定した。増幅したPCR産物は、Wizard(登録商標) SV Gel and PCR Clean-Up System(プロメガ株式会社)を用いて精製した。引き続いて、精製したPCR産物に対して、Nextera XT Index kit(イルミナ株式会社)ならびにTaKaRa EX Taq(登録商標) Hot Start Version(タカラバイオ株式会社)を用いてIndex PCRを行なった。その後、PCRサンプルを再び精製し、分析会社(株式会社北海道システムサイエンス)に送付し、塩基配列の決定を依頼した。
【0077】
データの解析はMacQIIMEを使用して行なった。Paired-End法で得られた約300塩基の配列を、FASTQ-Joinツール(Erik Aronesty、2011.ea-utils)を使用し、オーバーラップしている部分を結合させ、約465bpの長い塩基配列に調整した。その結果得られた465塩基の配列を類似度が97%以上のものを1つのOTUに分類した。分類結果から、各OTUの相対存在度を計算した。
【0078】
コンポスト原料である豚糞と、PM01~PM04のコンポスト終了時の微生物叢を
図10に示す。豚糞(図中の「PM」)中には、温血動物の腸管にしばしば観察されるTerrisporobacter属細菌(Clostridia目のPeptostreptococcaceae科に含まれるグラム陽性細菌)、Romboutsia属細菌(Peptostreptococcaceae科に属す)、Clostridium_sensu_stricto_1細菌(Clostridiaceae科に含まれ、ほとんどが絶対嫌気性の発酵微生物で芽胞形成能を有する)が優勢な菌として特徴的に検出された。これらClostridia目の菌は、存在度が90%を越えていた。
【0079】
コンポスト化が行われたPM01~PM04では、嫌気性菌のClostridia目の割合が大幅に減少し、代わりにコンポスト化発酵で代表的にみられる好気性菌のBacillales目の増殖が確認された。Bacillales目に含まれるOceanobacillus属は、周べん毛を持つグラム陽性棒菌で、しばしば塩濃度の高い環境で観察される。コンポスト化後半では炭酸アンモニウムのような塩が蓄積するために、この微生物が選択された可能性が考えられる。Bacillales目の細菌の増殖は、コンポスト化が良好に行なわれたことを裏付けている。
【0080】
なお、初期豚糞、およびQA1株を含む種菌を用いたコンポスト(PM02~PM04)では、Lactobacillus属細菌の存在が確認されたが、Ca(OH)2を添加したPM01では検出限界以下であった。Ca(OH)2の添加により、Lactobacillus属細菌は死滅したものと考えられる。このように、PM01とPM02~PM04では、コンポスト化自体は良好に進行するものの、得られるコンポストの微生物叢には違いが生じる結果になった。Lactobacillus属細菌は、乳酸菌の一種であり、施肥性を向上させる細菌として知られている。そのため、QA1株を用いたコンポスト化方法により得られたコンポストは、有機物を積極的に分解し、土壌を肥沃にする効果が期待される。
【0081】
[試験4]微生物資材における担体の選定
4-1.担体への固着
QA1株をPD液体培地100mLに接種し、30℃にて培養を3日間行った。培養後、菌糸体を回収した。菌糸体は、クリーンベンチ内で細かく刻んだ後、3つに分けて、各担体(魚粉、ピートモス、カニ殻)15mLと混合し、シャーレに入れたものを室温にて保存した。
【0082】
4-2.固着させた担体の評価に用いる培地の作製
評価を行うための培地プレートを作製した。培地は、PDB24gとブロモクレゾールパープル60mgをミリQ水800mLに入れて30分間スターラーで撹拌した後、溶液が紫色になるまで水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。その後、溶液が黄色になるまで酢酸を滴下し培地を調製した。また、寒天2gをミリQ水200mLに入れてかき混ぜた。調製した培地溶液と寒天溶液をそれぞれ三角フラスコに入れて、オートクレーブ滅菌(121℃、2気圧)した。オートクレーブ後、クリーンベンチ内で培地溶液と寒天溶液を混ぜてよく撹拌し、滅菌シャーレに注ぎ込み、固まるまでそのまま静置したものをPDA培地とし、4℃で保存した。PDA培地は、培地成分のpHが5.2以下の場合は黄色、6.8以上の場合は紫色を示すため、酢酸が分解されているか否かを評価することができる。
【0083】
4-3.評価
作製したPDA培地の中心にQA1株を固着させた担体1mLを置いて、30℃のインキュベータ内で3日間培養し、培地の色の変化を確認した。その結果、
図11に示すように、各担体の周辺が紫色に変化した。特に、担体にピートモスおよび魚粉を用いた場合、周辺の紫色の変色域が広く、良好に固着することが明らかとなった。
【0084】
上述した各試験により、酸分解性微生物を接種する方法で豚糞の酸性pH条件を改善し、コンポスト化における有機物分解を促進できる微生物として、糸状菌Monascus purpureus QA1株を新たに単離することができた。また、QA1株の乾燥菌体およびQA1株を担体に固着した微生物資材を用いてコンポスト化を行なうことで、良好なコンポスト化促進効果が得られることが分かった。