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特開2024-104718薬物依存症の予防及び/又は治療組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104718
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】薬物依存症の予防及び/又は治療組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240729BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20240729BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240729BHJP
   A61P 25/30 20060101ALI20240729BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20240729BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61K38/18
A61K38/17
A61P25/30
A61K38/22
C07K14/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130550
(22)【出願日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2023008429
(32)【優先日】2023-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「創薬基盤推進研究事業」「薬物依存の治療に資する神経メカニズムの解明」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】金田 勝幸
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084BA08
4C084BA21
4C084BA23
4C084BA44
4C084DB01
4C084DB61
4C084MA55
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZC391
4C084ZC392
4C084ZC412
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】薬物依存症の予防及び/又は治療組成物を提供することである。
【解決手段】アイリシンペプチドが薬物依存症の治療に効果があることを見出して、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海馬歯状回内Integrin αVβ5に結合する化合物を有効成分として含む、薬物依存症の予防及び/又は治療組成物。
【請求項2】
以下の(1)~(4)のいずれか1以上のペプチドを有効成分として含む、薬物依存症の予防及び/又は治療組成物。
(1)アイリシンペプチド、アイリシンペプチドの保護化誘導体、アイリシンペプチドの糖鎖修飾体、アイリシンペプチドのアシル化誘導体、又はアイリシンペプチドのアセチル化誘導体
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつアイリシンペプチドと実質的同質の作用を持つアミノ酸配列からなるポリペプチド
(4)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、40~20個、10~5個又は5~1個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつアイリシンペプチドと実質的同質の作用を持つアミノ酸配列からなるポリペプチド
【請求項3】
前記化合物は、TGF-β、osteopontin、vitronectin、 bone sialic protein、thrombospondin、又はnephroblastoma overexpressedである、請求項1に記載の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物。
【請求項4】
前記薬物はコカインである、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記薬物依存症はストレスに起因する薬物依存症である、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、経鼻投与用組成物である、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
IntegrinαVβ5に結合する化合物を薬物依存症治療組成物の有効成分として選択することを含む、薬物依存症治療組成物の有効成分のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物依存症の予防及び/又は治療組成物、特に、コカイン依存症の予防及び/又は治療組成物、並びに、薬物依存症治療組成物の有効成分のスクリーニング方法に関する。
【0002】
(薬物依存)
コカイン、覚せい剤(メタンフェタミン、アンフェタミン)、合成麻薬MDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)、ヘロイン、ニコチン、アルコール、フェンサイクリジン、ケタミン、大麻、危険ドラッグなどの物質の繰り返し使用は、ヒトにおいて、依存を形成し、様々な精神障害および神経障害を引き起こすことから、世界中で社会問題となっている。
日本では、危険ドラッグの使用に関連する事故や事件が大きな社会問題になっている。また、ラット、マウスなどの動物に覚せい剤を連続投与すると、惹起される異常行動が投与と共に増大する行動感作が観察される。覚せい剤を繰り返し投与すると、ヒトでは強い精神依存および覚せい剤精神病を生じ、断薬後もストレス、飲酒や1回の薬物摂取により、覚せい剤精神病が再燃する。
これら依存性薬物の繰り返し投与により生じる薬物依存や精神症状の治療薬としては、現在、精神科領域で使用されている抗精神病薬、抗うつ薬などが使用されるが、一部の症状を抑えるだけであり、根本的に治療できる薬剤は無い。現在のところ、薬物依存症に有効な治療法は確立されていない。
【0003】
(ストレスによる薬物欲求増大のメカニズム)
本発明者らは、ストレスによってなぜ薬物(コカイン)に対する欲求が増大するのかを明らかにしている(参照:非特許文献1)。
麻薬や覚醒剤などによる薬物依存症の治療を困難にしているのは、一旦止めても再び薬物を摂取してしまう再燃である。再燃は、さまざまなきっかけによって引き起こされるが、ストレスはその重要な一因であることが分かっている。しかし、ストレスがなぜ再燃を引き起こすのか、つまり、ストレスによってなぜ薬物に対する欲求が増大するのかは従来分かっていなかった。
本発明者らは、薬物欲求に関与することが示唆されている内側前頭前野(medial prefrontalcortex, mPFC)とストレスホルモンとも呼ばれるノルアドレナリン(noradrenaline, NA)に着目し、mPFC神経細胞での情報伝達と細胞の活動に対するNAの影響を調べたところ、NAは興奮性の神経情報伝達を顕著に増大させ,神経活動を上昇させることを発見した。さらに、マウスを用いてストレス負荷によってコカインに対する欲求が増大するモデルを作製し、このマウスのmPFCでNAの作用をブロックしたところ、ストレスによって増大したコカイン欲求が顕著に抑制されることが明らかになった。ストレスにより遊離されたNAがmPFCの過剰な興奮を引き起こし、これにより、コカインに対する欲求が増大されることを示した。
【0004】
(アイリシン(Irisin、イリシン))
アイリシン(アイリシンペプチド)は、膜タンパク質FNDC5が切断されることにより生成され、運動誘発性ペプチドホルモンとして知られている。
アイリシンペプチドは、肥満や糖尿病の予防に効果があることが知られている。
加えて、アイリシンペプチドの脳室投与は、抗うつ効果を示すことが知られている(参照:非特許文献2)
【0005】
(アイリシンの先行特許)
特許文献1は、「アイリシンタンパク質を有効成分として含むことを特徴とする、代謝性疾患の予防又は治療用薬学的組成物」を開示している。
しかし、アイリシンタンパク質を薬物依存治療に使用することは開示又は示唆がされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】NeuropharmacologyVolume166,April 2020, 107968
【非特許文献2】ProgNeuropsychopharmacolBiol Psychiatry. 2018 Jun 8;84(Pt A):294-303
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2022-527981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、薬物依存症(特に、ストレスに起因するコカイン依存症)の予防及び/又は治療組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために、本発明者らが見出した知見を基にして、アイリシンペプチドが薬物依存症(特に、ストレスに起因するコカイン依存症)の治療に効果があることを見出して、本発明を完成した。
加えて、本発明者は、アイリシンペプチドの薬物依存症(特に、ストレスに起因するコカイン依存症)の治療効果のメカニズムを解明し、さらに、該メカニズムに基づく海馬歯状回内Integrin αVβ5に結合する化合物を有効成分として含む薬物依存症の予防及び/又は治療組成物、並びに薬物依存症治療組成物の有効成分のスクリーニング方法も完成した。
【0010】
1.海馬歯状回内Integrin αVβ5に結合する化合物を有効成分として含む、薬物依存症の予防及び/又は治療組成物。
2.以下の(1)~(4)のいずれか1以上のペプチドを有効成分として含む、薬物依存症の予防及び/又は治療組成物。
(1)アイリシンペプチド、アイリシンペプチドの保護化誘導体、アイリシンペプチドの糖鎖修飾体、アイリシンペプチドのアシル化誘導体、又はアイリシンペプチドのアセチル化誘導体
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつアイリシンペプチドと実質的同質の作用を持つアミノ酸配列からなるポリペプチド
(4)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、40~20個、10~5個又は5~1個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつアイリシンペプチドと実質的同質の作用を持つアミノ酸配列からなるポリペプチド
3.前記化合物は、TGF-β、osteopontin、vitronectin、 bone sialic protein、thrombospondin、又はnephroblastoma overexpressedである、前項1に記載の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物。
4.前記薬物はコカインである、前項2に記載の組成物。
5.前記薬物依存症はストレスに起因する薬物依存症である、前項2に記載の組成物。
6.前記組成物は、経鼻投与用組成物である、前項2に記載の組成物。
7.Integrin αVβ5に結合する化合物を薬物依存症治療組成物の有効成分として選択することを含む、薬物依存症治療組成物の有効成分のスクリーニング方法。
8.前記Integrin αVβ5は海馬歯状回内Integrin αVβ5である、前項7に記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の治療組成物は、ストレスに起因するコカイン依存症の治療効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(1)社会的ストレスを負荷した運動ありコカイン条件付けマウスの作製手順。(2)運動が薬物欲求増大に与える影響の確認結果。
図2】(1)アイリシンペプチド投与された社会的ストレスを負荷したコカイン条件付けマウスの作製手順。(2)アイリシンペプチド投与が薬物欲求増大に与える影響の確認結果。
図3】(1)アイリシンペプチド経鼻投与された社会的ストレスを負荷したコカイン条件付けマウスの作製手順。(2)アイリシンペプチド経鼻投与が薬物欲求増大に与える影響の確認結果。
図4】(1)アイリシンペプチド及びCilengitide同時投与された社会的ストレスを負荷したコカイン条件付けマウスの作製手順。(2)アイリシンペプチド及びCilengitide同時投与が薬物欲求増大に与える影響の確認結果。
図5】アイリシンペプチドの薬物依存症(特に、ストレスに起因するコカイン依存症)の治療効果のメカニズム
【発明を実施するための形態】
【0013】
(薬物依存症の予防及び/又は治療組成物)
本発明の対象は、アイリシンペプチドを含有する、又は、海馬歯状回内Integrin αVβ5に結合する化合物を有効成分として含む薬物依存症の予防及び/又は治療組成物である。特に、本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物は、薬物依存症の予防、再発予防、軽減、又は治療に有効なアイリシンペプチドを含有する。以下に詳細に説明する。
また、本発明の組成物とは、各種剤(治療・予防剤)、食品(サプリメント、飲料)、治療組成物、食品組成物等を含む。
【0014】
(薬物依存症)
本発明での薬物依存症は、薬物の精神的な作用(効果)に依存する精神依存を特徴とする。薬物依存症の原因となる薬物としては、コカイン、覚せい剤(メタンフェタミン、アンフェタミン)、合成麻薬MDMA、モルヒネ、ニコチン、アルコール、フェンサイクリジン、ケタミン、ベンゾジアゼピン類、大麻、危険ドラッグ等(各種の塩を含む)を例示できるが、本発明が対象とする薬物依存症はこれらの薬物に関連するものに限られない。
【0015】
(アイリシンペプチド)
本発明でのアイリシンペプチドは、本発明の効果を奏するのであればどのような由来でも対象とするが、ヒト由来のアイリシンペプチドが好ましい。
また、本発明でのアイリシンペプチドは、本発明の効果を奏することを条件にして、以下も含む。
(1)アイリシンペプチド、アイリシンペプチドの保護化誘導体、アイリシンペプチドの糖鎖修飾体、アイリシンペプチドのアシル化誘導体、又はアイリシンペプチドのアセチル化誘導体
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつアイリシンペプチドと実質的同質の作用を持つアミノ酸配列からなるポリペプチド
(4)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、40~20個、10~5個又は5~1個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつアイリシンペプチドと実質的同質の作用を持つアミノ酸配列からなるポリペプチド
さらに、本発明のアイリシン遺伝子は、以下を含む。
(1)アイリシンペプチドのアミノ酸配列(配列番号1)からなるポリペプチドをコードする遺伝子
(2)アイリシンペプチドのアミノ酸配列(配列番号1)において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつアイリシンペプチドと実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子
(3)アイリシンペプチドのアミノ酸配列(配列番号1)と90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の同一性を有し、かつアイリシンペプチドと実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子
【0016】
上記変異を有するタンパク質は、天然に存在するものであってよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して得たものであってもよい。変異を導入する手段は自体公知であり、例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法又はポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと略称する)などを単独で又は適宜組み合わせて使用できる。
例えば、成書に記載の方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社)に準じて、あるいはそれらの方法を改変して実施することができ、ウルマーの技術(ウルマー(Ulmer, K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666-671)を利用することもできる。ペプチドの場合、変異の導入において、当該ペプチドの基本的な性質(物性、機能、生理活性又は免疫学的活性等)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸及び芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。
【0017】
本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物の有効成分は、アイリシンに加え、下記実施例4の結果から明らかなように、Integrin αVβ5に結合する化合物も含まれる。
Integrin αVβ5に結合する化合物は、自体公知の化合物であるTGF-β、osteopontin、 vitronectin、 bone sialic protein、thrombospondin、nephroblastoma overexpressed(参照:https://www.nature.com/articles/s41392-022-01259-6)を含む。
【0018】
(本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物の投与方法)
本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物は、非経口的に投与することができる。非経口投与は、注射による脳内(脳室内)、静脈内、筋肉内、または皮下への投与、スプレーやエアロゾルなどを用いた経鼻腔や口腔などの経粘膜投与、坐剤などを用いた直腸投与、パッチやリニメントやゲルなどを用いた経皮投与などを挙げることができる。好ましくは、経鼻腔投与、注射による脳内(脳室内)を挙げることができる。
なお、局所投与である経鼻投与は、全身投与と比較して、副作用が少ないと考えられる。
【0019】
(本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物の構成)
本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物は、薬物依存症の予防及び/又は治療用サプリメント、薬物依存症の予防及び/又は治療用等として、利用されることができる。
本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物は、有効成分に加え、薬物依存の治療効果がある他の薬効成分も含んでも良い。
また、これら薬効成分の他に、適宜、投与形態などに応じて、当業者によく知られた適切な薬学的に許容される担体を含有していてもよい。薬学的に許容される担体としては、抗酸化剤、安定剤、防腐剤、矯味剤、着色料、溶解剤、可溶化剤、界面活性剤、乳化剤、消泡剤、粘度調整剤、ゲル化剤、吸収促進剤、分散剤、賦形剤、およびpH調整剤などを例示できる。
【0020】
(本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物の調製方法)
本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物を注射用製剤として調製する場合は、溶液剤または懸濁剤の製剤の形態が好ましい。
経鼻腔や口腔などの経粘膜投与用の場合は、粉末、滴剤、またはエアロゾル剤の製剤の形態が好ましい。直腸投与用の場合は、クリ-ムまたは坐薬のような半固形剤の製剤の形態が好ましい。
注射用製剤は担体として、例えば、アルブミンなどの血漿由来タンパク、グリシンなどのアミノ酸、およびマンニトールなどの糖を加えることができ、さらに緩衝剤、溶解補助剤、および等張剤などを添加することもできる。また、水溶製剤または凍結乾燥製剤として使用する場合、凝集を防ぐためにTween(登録商標)80、Tween(登録商標)20などの界面活性剤を添加するのが好ましい。
さらに、注射用製剤以外の非経口投与剤形は、蒸留水または生理食塩液、ポリエチレングリコ-ルのようなポリアルキレングリコ-ル、植物起源の油、および水素化したナフタレンなどを含有してもよい。
例えば、坐薬のような直腸投与用の製剤は、一般的な賦形剤として、例えば、ポリアキレングリコ-ル、ワセリン、およびカカオ油脂などを含有する。膣用製剤では、胆汁塩、エチレンジアミン塩、およびクエン酸塩などの吸収促進剤を含有してもよい。吸入用製剤は固体でもよく、賦形剤として、例えば、ラクト-スを含有してもよく、さらに、経鼻腔滴剤は水または油溶液であってもよい。
【0021】
(本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物の投与形態)
本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物の正確な投与量および投与計画は、個々の治療対象毎の所要量、治療方法、疾病または必要性の程度などに依存して調整できる。投与量は、具体的には年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事、投与時間、投与方法、排泄速度、薬物の組合せ、および患者の病状などに応じて決めることができ、さらに、その他の要因を考慮して決定してもよい。
本発明の薬物依存症の予防及び/又は治療組成物中に含まれる有効成分の1日の投与量は、患者の状態や体重、化合物の種類、投与経路などによって異なるが、例えば、有効成分量として、非経口投与の場合は、約0.01~100mg/人/日、好ましくは0.1~50mg/人/日、より好ましくは約0.5~1.0mg/人/日で投与されることが望ましい。
また、経鼻投与の場合は、約0.01~100mg/人/日、好ましくは0.1~50mg/人/日、より好ましくは約0.2~1.0mg/人/日で投与されることが望ましい。
【0022】
(本発明の薬物依存症治療組成物の有効成分のスクリーニング方法)
本発明の薬物依存症治療組成物の有効成分のスクリーニング方法は、候補化合物がIntegrin αVβ5(特に、海馬歯状回内Integrin αVβ5)に結合するかどうかを判定する工程を含む。
候補化合物がIntegrin αVβ5(特に、海馬歯状回内Integrin αVβ5)に結合するかどうかを判定する工程は、以下を例示することができる。
(a-1)候補化合物の存在下において、哺乳類(ヒトを除く)由来の海馬歯状回内試料のIntegrin αVβ5に対する結合能を測定する工程、及び
(a-2)上記(a-1)の結果に基づいて、海馬歯状回内IntegrinαVβ5に結合する候補化合物を選択する工程。
上記方法の工程(a-1)における結合能の測定は、自体公知の方法、例えば、Integrin αVβ5に結合する抗体等を使用して行われ得る。
上記方法の工程(a-1)は、さらに、候補化合物の存在下において測定した結合能と、Integrin αVβ5結合能を有しない対照物質存在下において測定したIntegrinαVβ5結合能とを比較すること、及び/又は、複数の候補化合物及び公知のIntegrin αVβ5に結合する化合物について測定した結合能を比較することを含んでもよい。
【0023】
(候補化合物)
上記スクリーニングで使用する候補化合物としては任意の物質を使用することができる。候補化合物の種類は特に限定されず、個々の低分子合成化合物(例えばsiRNA)でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、合成ペプチドでもよい。
候補化合物は、化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリー又はコンビナトリアルライブラリーでもよい。化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリー及びコンビナトリアルライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
【0024】
以下、本実施例にて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。また、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
全ての動物実験は金沢大学動物実験委員会の承認(承認番号:AP-204167号)を得て実施した。
【実施例0025】
(材料及び方法)
マウス(雄性C57BL/6Jマウス、8-12週齢)を、三協ラボサービス株式会社北陸営業所から入手して飼育した。
コカインは、武田薬品工業株式会社から入手した。
アイリシンペプチドは、(Phoenix Pharmaceuticals, INC.)から入手した。なお、アイリシンペプチドのアミノ酸配列は、配列番号1(DSPSAPVNVTVRHLKANSAVVSWDVLEDEVVIGFAISQQKKDVRMLRFIQEVNTTTRSCALWDLEEDTEYIVHVQAISIQGQSPASEPVLFKTPREAEKMASKNKDEVTMKE)に記載されている。
その他の試薬は、市販品を使用した。
【0026】
CPP scoreを測定するためのコカイン条件付け場所嗜好性試験は、文献(Neuropharmacology,166, 107968, doi:10.1016/j.neuropharm.2020.107968.)の記載を基にして、実施された。
【実施例0027】
(運動が薬物欲求増大に与える影響の確認)
ストレスが薬物(コカイン)欲求を増大させることが知られている(参照:文献「NeuropharmacologyVolume166,April 2020, 107968」)。そこで、本実施例では、運動がストレスによる薬物欲求増大に与える影響を確認した。
【0028】
図1(1)に記載の工程に従って、社会的ストレスを負荷した運動ありコカイン条件付けマウス並びに社会的ストレスを負荷した運動なしコカイン条件付けマウスのCPP scoreを測定した。測定結果を図1(2)に示す。
【0029】
図1(2)の結果により、運動は、社会的ストレスに起因する薬物欲求増大を抑制することを確認した。
【実施例0030】
(アイリシンペプチド投与が薬物欲求増大に与える影響の確認)
本実施例では、運動誘発性ペプチドであるアイリシンペプチドが薬物欲求増大に与える影響を確認した。
【0031】
図2(1)に記載の工程に従って、アイリシンペプチド投与された社会的ストレスを負荷したコカイン条件付けマウス、社会的ストレスを負荷したコカイン条件付けマウス(生理食塩水投与)並びに社会的ストレスを負荷していないマウス(生理食塩水投与)のCPP scoreを測定した。測定結果を図2(2)に示す。
図2(2)の結果により、アイリシンペプチド投与は、社会的ストレスに起因する薬物欲求増大(特に、コカイン)を抑制することを確認した。
【実施例0032】
(アイリシンペプチド経鼻投与が薬物欲求増大に与える影響の確認)
本実施例では、アイリシンペプチドの経鼻投与が薬物欲求増大に与える影響を確認した。
【0033】
図3(1)に記載の工程に従って、アイリシンペプチド経鼻投与された社会的ストレスを負荷したコカイン条件付けマウス、社会的ストレスを負荷したコカイン条件付けマウス(生理食塩水投与)、社会的ストレスを負荷していないマウス(生理食塩水投与)並びにアイリシンペプチド経鼻投与された社会的ストレスを負荷していないマウスのCPP scoreを測定した。測定結果を図3(2)に示す。
図3(2)の結果により、アイリシンペプチド経鼻投与は、社会的ストレスに起因する薬物欲求増大(特に、コカイン)を抑制することを確認した。
【実施例0034】
(アイリシンペプチドの薬物依存症(特に、ストレスに起因するコカイン依存症)の治療効果のメカニズムの解明)
本発明者は、Integrin αVβ5阻害薬であるCilengitideがRW回転運動による社会的ストレス誘発性CPPスコア増大の抑制を阻害することを確認している。
さらに、本実施例では、海馬歯状回内へのアイリシン及びCilengitide同時投与はアイリシンによる社会的ストレス誘発性CPPスコア増大の抑制を阻害するかどうかを確認した。
【0035】
図4(1)に記載の工程に従って、海馬歯状回内へのアイリシン及びCilengitide(Selleck Chemicals, Houston, TX, USA)同時投与されたマウスのCPP scoreを測定した。測定結果を図4(2)に示す。
図4(2)の結果により、海馬歯状回内へのアイリシン及びCilengitide同時投与はアイリシンによる社会的ストレス誘発性CPPスコア増大の抑制を阻害することを確認した。
【0036】
実施例1~本実施例の結果により、運動によって末梢から遊離したアイリシンが海馬歯状回内Integrin αVβ5に結合することで、社会的ストレスによる薬物欲求(特に、コカイン欲求)の増大を抑制すると考えられる(参照:図5)。
これにより、海馬歯状回内Integrin αVβ5に結合する化合物は、アイリシン同様に、薬物依存症(特に、ストレスに起因するコカイン依存症)の治療効果を有する。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、薬物依存症の予防及び/又は治療組成物並びに薬物依存症治療組成物の有効成分のスクリーニング方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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