(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104754
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】水性接着剤および積層体
(51)【国際特許分類】
C09J 123/30 20060101AFI20240730BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240730BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240730BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C09J123/30
C09J11/06
B32B27/00 D
B32B27/32 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009077
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉野 剛正
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】竹内 耕
【テーマコード(参考)】
4F100
4J040
【Fターム(参考)】
4F100AB33A
4F100AH03B
4F100AK01A
4F100AK03B
4F100AL07B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100CB00B
4F100GB07
4F100GB15
4F100GB41
4F100GB71
4F100JB01
4F100JB09B
4F100JB16A
4F100JK06
4F100JL09
4F100YY00B
4J040DA151
4J040GA19
4J040JA03
4J040KA16
4J040KA23
4J040LA08
4J040MA02
4J040MA10
4J040NA06
4J040NA12
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】低温密着性、低温接着性に優れ、また、耐薬品性、耐候性を有する水性接着剤およびそれを用いた積層体を提供する。
【解決手段】酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、アジリジン環を2以上有する化合物(B)とを含有し、質量比(A/B)が100/0.5~100/5であることを特徴とする水性接着剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、アジリジン環を2以上有する化合物(B)とを含有し、質量比(A/B)が100/0.5~100/5であることを特徴とする水性接着剤。
【請求項2】
基材層の少なくとも片面の少なくとも一部に、請求項1記載の水性接着剤を用いて形成された塗膜が積層されてなることを特徴とする積層体。
【請求項3】
基材層が熱可塑性樹脂フィルムまたは金属箔であることを特徴とする請求項2記載の積層体。
【請求項4】
包装用途、靴用途、建材用途、または電子電材用途であることを特徴とする請求項1記載の水性接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性接着剤および積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、様々な材料に対する、ヒートシール剤、ディレードタック剤、繊維処理剤、および接着剤用バインダー等として、幅広い用途に用いられている。これらの用途において、酸変性ポリオレフィン樹脂は、作業性や作業環境の観点から水性分散体として利用されている。
【0003】
食品包装用途では省エネの観点から、靴用途では基材の耐熱性の観点から、建材用途では作業環境の観点から、それぞれ、低温で乾燥しても基材との密着性に優れる(低温密着性に優れる)塗膜が得られ、また、低温で貼り合わせても基材同士の接着性に優れる(低温接着性に優れる)水性接着剤のニーズがある。従来、前記接着剤として、水系ポリオレフィン樹脂の接着剤や、水系ポリオレフィン樹脂に架橋剤を添加した接着剤が用いられてきた。たとえば、特許文献1には、特定のポリオレフィン樹脂と架橋剤を特定の割合で含有する水性分散体が開示され、各種基材への低温密着性、低温接着性が良好であることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された水性分散体においても、用途によっては、さらなる低温密着性、低温接着性が求められることがあった。
本発明の課題は、低温密着性、低温接着性に優れ、また、耐薬品性、耐候性を有する水性接着剤およびそれを用いた積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、酸変性ポリオレフィン樹脂に、アジリジン環を2以上有する化合物を特定量混合した水性接着剤は、低温密着性、低温接着性、耐薬品性、耐候性に優れた塗膜が形成できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、アジリジン環を2以上有する化合物(B)とを含有し、質量比(A/B)が100/0.5~100/5であることを特徴とする水性接着剤。
(2)基材層の少なくとも片面の少なくとも一部に、(1)記載の水性分散体を用いて形成された塗膜が積層されてなることを特徴とする積層体。
(3)基材層が熱可塑性樹脂フィルムまたは金属箔であることを特徴とする(2)記載の積層体。
(4)包装用途、靴用途、建材用途、または電子電材用途であることを特徴とする(1)記載の水性接着剤。
【発明の効果】
【0008】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、アジリジン環を2以上有する化合物(B)とを含有し、質量比(A/B)が100/0.5~100/5である水性接着剤から得られる塗膜は、低温密着性(低温で乾燥した際の基材との密着性)、低温接着性(低温で貼り合わせた際の基材同士の接着性)、また、耐薬品性、耐候性に優れ、さらに実用上十分な接着強度を有している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の水性接着剤は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とアジリジン環を2以上有する化合物(B)とを含有し、質量比(A/B)が100/0.5~100/5である。
【0010】
(酸変性ポリオレフィン樹脂(A))
本発明における酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、ポリオレフィン樹脂を不飽和カルボン酸成分により酸変性してなるものである。
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)における不飽和カルボン酸成分の量は、得られる塗膜と基材との接着性の点から0.1~25質量%であることが好ましく、0.5~15質量%であることがより好ましく、1~8質量%であることがさらに好ましく、1~5質量%であることが特に好ましい。
【0011】
不飽和カルボン酸成分は、不飽和カルボン酸やその無水物により、ポリオレフィン樹脂に導入される。不飽和カルボン酸やその無水物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、アクリル酸、無水マレイン酸がより好ましい。
不飽和カルボン酸成分は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0012】
ポリオレフィン樹脂を構成するオレフィン成分としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のアルケンや、ノルボルネン等のシクロアルケンが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。中でもエチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~6のアルケンが好ましく、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2~4のアルケンがより好ましく、特にエチレン、プロピレンが好ましい。
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)におけるオレフィン成分の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。オレフィン成分の含有量が50質量%未満では、基材密着性等のポリオレフィン樹脂由来の特性が失われることがある。
【0013】
ポリオレフィン樹脂は、熱可塑性樹脂基材、特にポリプロピレン等のポリオレフィン基材との接着性を向上させる理由から、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有していることが好ましい。
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、0.5~40質量%であることが好ましく、様々な熱可塑性樹脂フィルム基材との良好な接着性を持たせるために、1~35質量%であることがより好ましく、3~30質量%であることがさらに好ましく、5~25質量%であることが特に好ましく、10~25質量%であることが最も好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が1質量%未満では、熱可塑性樹脂フィルム基材との接着性が十分でないことがあり、40質量%を超えると、オレフィン由来の樹脂の性質が失われ、基材との密着性が低下するおそれがある。
(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1~30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1~20のアルコールとのエステル化物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、基材フィルムとの接着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~またはメタクリル酸~」を意味する。
【0014】
また、上記成分以外に他の成分を酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の10質量%以下程度、含有していてもよい。他の成分としては、ジエン類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、2-ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、一酸化炭素、二酸化硫黄などが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0015】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)としては、たとえば、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸-無水マレイン酸共重合体、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン、酸変性エチレン-プロピレン樹脂、酸変性エチレン-ブテン樹脂、酸変性プロピレン-ブテン樹脂、酸変性エチレン-プロピレン-ブテン樹脂、あるいはこれらの酸変性樹脂にさらにアクリル酸エステル等でアクリル変性したもの等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂は5~40質量%の範囲で塩素化されていてもよい。
【0016】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが、通常0.01~5000g/10分、好ましくは0.1~1000g/10分、より好ましくは1~500g/10分、さらに好ましくは2~300g/10分、特に好ましくは2~200g/10分のものを用いることができる。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが0.01g/10分未満の水性接着剤は、基材との密着性が低下することがある。一方、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが5000g/10分を超えると、得られる塗膜は、硬くてもろくなり、接着性や基材フィルムとの密着性が低下することがある。
【0017】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)として、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、アルケマ社製のボンダインHX-8290、TX-8030、HX-8210等が挙げられる、
【0018】
(アジリジン環を2以上有する化合物(B))
次に、アジリジン環を2以上有する化合物(B)について説明する。
【0019】
本発明における、アジリジン環を2以上有する化合物(B)としては、4,4-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン<N,N′-ジフェニルメタン-4,4′-ビス(1-アジリジンカルボキサミド)、ジフェニルメタン-4,4-ビス-N,N′-エチレンウレア)>、N,N′-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキサミド)、ビスイソフタロイル-1-(2-メチルアジリジン)<ビス[1-(2-エチル)アジリジニル]ベンゼン-1,3-カルボン酸アミド>、N,N′-ヘキサメチレン-1,6-ビス(1-アジリジンカルボキサミド)<(1,6-ヘキサメチレンビス-N,N′-エチレンウレア>、2,2′-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]<トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、トリメチロールプロパントリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]>、2,2-ビス({[3-(2-メチル-1-アジリジニル)プロパノイル]オキシ}メチル)ブチル=3-(2-メチル-1-アジリジニル)プロパノアート<トリメチロールプロパントリス[3-(1-(2-メチル)アジリジニル)プロピオネート]>、トリメチロールプロパントリス[3-(1-アジリジニル)ブチレート]、トリメチロールプロパントリス[3-(1-アジリジニル)-2-メチルプロピオネート]、テトラメチロールメタン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、トリ-1-アジリジニルホスフィンオキサイド、トリス-2,4,6-(1-アジリジニル)-1,3,5-トリアジン<2,4,6-(トリエチレンイミノ)-s-トリアジン>、ペンタエリスリトールテトラ[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、アジリジン環含有ポリマー等が挙げられる。
【0020】
アジリジン環を2以上有する化合物として、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、日本触媒社製の「ケミタイトPZ-33」、「同DZ-22E」、スタール・ジャパン社製「Aqualen」、DSM社製の「NeoAdd PAX-523」等が挙げられる。
【0021】
本発明の水性接着剤における、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とアジリジン環を2以上有する化合物(B)との質量比(A/B)は、100/0.5~100/5であることが必要であり、接着性、ヒートシール性の点から、100/1~100/3であることが好ましい。アジリジン環を2以上有する化合物(B)の割合が0.5質量%未満であると、水性接着剤は、接着性向上の効果が小さく、逆に5質量%を超えると、得られる塗膜は、耐薬品性が低下する傾向がある。
【0022】
(水性接着剤の製造)
次に、本発明の水性接着剤を製造する方法を説明する。
本発明の水性接着剤の製造方法は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とアジリジン環を2以上有する化合物(B)とが、水性媒体中に均一に混合・分散される方法であれば、限定されるものではない。例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体と、アジリジン環を2以上有する化合物(B)の水性分散体とを混合したり、さらに必要に応じて水または親水性溶媒などを添加する方法や、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とアジリジン環を2以上有する化合物(B)とを混合し、水や溶媒と共に攪拌・加熱を行って水性分散体を得る方法が挙げられる。前記いずれの方法でも、所望の成分比の水性接着剤を簡便に調製できるが、前者の方法がより簡便であり、好ましい。
【0023】
本発明の水性接着剤において、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)中のカルボキシル基は、塩基性化合物によってその一部が中和されていることが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、塩基性化合物によってカルボキシル基または酸無水物基をアニオン化し、アニオンの静電気的反発力によって、水性媒体中における樹脂微粒子間の凝集が防がれ、良好な分散化が達成される。塩基性化合物の添加量は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)中のカルボキシル基(酸無水物基1モルはカルボキシル基2モルとみなす)に対して0.3~3倍当量であることが好ましく、0.5~2倍当量がより好ましく、0.6~1.5倍当量が特に好ましい。
塩基性化合物は、添加量が0.3倍当量未満では、添加効果が認められず、3倍当量を超えると、接着剤の臭気の問題や塗膜や接着層等を形成する際の乾燥時間が長くなる問題がある。
【0024】
塩基性化合物としては、塗膜の基材密着性の面から、塗膜形成時に揮発するアンモニアまたは有機アミン化合物が好ましく、中でも沸点が30~250℃、さらには50~200℃の有機アミン化合物が好ましい。沸点が30℃未満の塩基性化合物は、後述する樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、樹脂の水性化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超える塩基性化合物は、乾燥によって塗膜から有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、塗膜の基材密着性が低下する場合がある。
【0025】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン等を挙げることができる。
【0026】
水性接着剤を構成する水系のポリオレフィン樹脂として、市販のものを使用することができ、日本製紙ケミカル社製のスーパークロンシリーズ(E-723、E-503など)、住友精化社製のザイクセンシリーズ(ザイクセンA、ザイクセンL)、三井化学社製のケミパールシリーズ(S-100、S-75Nなど)等が挙げられる。
【0027】
水性接着剤における酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の含有率は、成膜条件、目的とする塗膜の厚さや性能等により適宜調整され、特に限定されるものではないが、水性接着剤の粘性を適度に保ち、かつ良好な塗膜形成能を発現させる点で、1~50質量%であることが好ましく、3~50質量%であることがより好ましく、5~45質量%であることがさらに好ましく、5~40質量%であることが特に好ましい。
【0028】
(添加剤)
本発明の、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、アジリジン環を2以上有する化合物(B)とを含有する水性接着剤には、低温造膜性、低温接着性、耐薬品性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、化合物(B)以外の架橋剤を、水性分散体中の樹脂(A)と化合物(B)の合計100質量部に対して、0.1~50質量部、好ましくは0.5~30質量部添加することができる。架橋剤は、添加量が0.1質量部未満の場合は、塗膜性能の向上の程度が小さく、30質量部を超える場合は、水性接着剤の液安定性や加工性等の塗膜性能が低下する傾向がある。
架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができ、このうちメラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。また、これらの架橋剤を組み合わせて使用してもよい。架橋剤の中でも、熱間接着などの各種の塗膜性能向上の点から、エポキシ化合物が特に好ましい。エポキシ化合物の市販品としては、アデカ社製アデカレジンシリーズや、ナガセ化成工業社製デナコールシリーズなどが挙げられる。より具体的には、「アデカレジンEM-101-50」、「アデカレジンEM-107-50L」、「アデカレジンEM-0517」、「アデカレジンEM-051R」、「アデカレジンEM-054R」、「デナコールEM-150」などが挙げられる。
【0029】
本発明の水性接着剤には、さらに他の重合体の水性分散体、粘着付与成分、ブロッキング防止剤等を添加することができる。
【0030】
他の重合体の水性分散体としては、特に限定されない。例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の水性分散体を挙げることができる。これらは、2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
粘着付与成分としては、ロジン類、テルペン類、石油樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂から選ばれる少なくとも1種の成分を用いることができる。
ロジン類としては、重合ロジン、不均化ロジン、水素添加ロジン、マレイン化ロジン、フマル化ロジン、およびこれらのグリセリンエステル、ペンタエリスリトールエステル、メチルエステル、エチルエステル、ブチルエステル、エチレングリコールエステル、ジエチレングリコールエステル、トリエチレングリコールエステルなどが挙げられる。
テルペン類としては、低重合テルペン系、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、テルペンフェノール系、芳香族変性テルペン系、水素添加テルペンなど挙げられる。
石油樹脂としては、炭素数5個の石油留分を重合した石油樹脂、炭素数9個の石油留分を重合した石油樹脂、及びこれらを水素添加した石油樹脂、マレイン酸変性、フタル酸変性した石油樹脂などが挙げられる。
水性接着剤は、粘着付与成分を含有することにより、初期のヒートシール剥離強度が向上し、特に、ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル系基材と、ポリエチレンまたはポリプロピレンのようなポリオレフィン系基材とをヒートシール接着する際の初期の剥離強度の向上に効果がある。
【0032】
ブロッキング防止剤としては、ステアリン酸アミド、カプリル酸アミド、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、アラギジン酸アミド、ベヘン酸アミド等の飽和脂肪酸モノアミド類、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド等の不飽和脂肪酸モノアミド類、N-ラウリルラウリン酸アミド、N-パルミチルパルミチン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-オレイルオレイン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-ステアリル-12-ヒドロキシステアリン酸アミド、N-オレイル-12-ヒドロキシステアリン酸アミド等の置換アミド類等やメチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサンメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N-ジステアリルアジピン酸アミド、N-ジステアリルセバシン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、m-キシリレンビスステアリン酸アミド等のビスアマイド類、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘン酸アミド等のメチロールアミド類、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ライスワックス、カルナバワックス等のワックス類などが挙げられる。
【0033】
本発明の水性接着剤は、使用目的に応じて顔料または染料を含有してもよいし、塗料やインキに、本発明の水性接着剤を添加してもよい。使用する顔料または染料は特に限定されるものではなく、一般的に使用されているものを塗料やインキの種類によって適宜選択すればよい。
顔料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化クロム、硫化カドミウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、黄鉛、酸化鉄、カーボンブラックなどの無機顔料、アゾ系、ジアゾ系、縮合アゾ系、チオインジゴ系、インダンスロン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ベンゾイミダゾール系、ペリレン系、ペリノン系、フタロシアニン系、ハロゲン化フタロシアニン系、アントラピリジン系、ジオキサジン系などの有機顔料が挙げられる。
また、染料としては直接染料や反応染料、酸性染料、カチオン染料、バット染料、媒染染料などが挙げられる。
上記の顔料または染料は単独もしくは2種類以上が含有されていても差し支えない。
【0034】
さらに、本発明の水性接着剤には、必要に応じて、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤を添加することも可能である。また、水性接着剤の保存安定性を損なわない範囲で上記以外の有機もしくは無機の化合物を添加することも可能である。
【0035】
(積層体)
本発明の積層体は、基材層の少なくとも片面の少なくとも一部に、本発明水性接着剤を用いて形成された塗膜が積層されてなるものである。
本発明の水性接着剤は、塗膜形成能に優れているので、公知の成膜方法、例えば、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により、各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥または乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な塗膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。
このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間は、基材の特性や架橋剤の種類、配合量等により適宜選択されるものであり、特に限定されず、例えば、加熱温度25~100℃程度の範囲で使用できる。本発明の水性接着剤から形成される塗膜は、25~60℃の乾燥でも基材層との十分な密着性が得られる。また、架橋反応を進行させるために20~60℃程度でエージング処理を行ってもよい。
【0036】
本発明の水性接着剤は、各種材料に対する良好な密着性を有することから、前記のようにして水性接着剤から水性媒体を除去することにより、基材との良好な密着性を有する塗膜を形成して積層体を作製することができ、塗膜を接着層として、基材どうしを良好な強度で接着することができる。
【0037】
本発明の積層体を構成する基材層としては、紙、合成紙、各種熱可塑性樹脂のフィルムや成形体、ガラス、金属、アルミ箔などの金属箔、プラスチック等が挙げられ、特に限定されない。本発明の水性接着剤は、比較的低温の条件で熱処理でも優れた密着性が得られるため、耐熱性の比較的低い基材、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンのような融点が180℃以下の熱可塑性樹脂へ適用することができる。また、基材の形状としては、合成紙、熱可塑性樹脂フィルムが好ましく、熱可塑性樹脂フィルムが特に好ましい。
【0038】
基材としての熱可塑性樹脂フィルムは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレートポリエチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂またはそれらの混合物よりなるフィルムまたはそれらのフィルムの積層体が挙げられる。
熱可塑性樹脂フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよく、製法も限定されるものではない。熱可塑性樹脂フィルムの厚さも特に限定されるものではないが、通常5~500μmの範囲のものが用いられる。
熱可塑性樹脂フィルムは、フィラーを含有していてもよい。フィラーとしては、無機系のものが好ましく、炭酸カルシウム、クレイ、シリカ、けいそう土、タルク、酸化チタン、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、アルミナ等を挙げることができる。
熱可塑性樹脂フィルムは、様々なバリアコーティング、易接着コーティング、帯電防止コーティング、紫外線遮蔽コーティング等の機能性処理やシリカ、アルミナ、アルミ等の各種蒸着処理が施されていてもよい。本発明の水性接着剤は上記処理が施された面に対する接着性も良好である。
【0039】
本発明の水性接着剤から水性媒体を除去してなる塗膜は、熱可塑性樹脂フィルムなど前述した基材上に設けることが好ましい。塗膜の厚みは、特に限定されないが、0.1~20μmであることが好ましく、0.2~15μmであることがより好ましく、0.3~10μmであることがさらに好ましく、0.5~5μmであることが特に好ましい。厚みが0.1μm未満ではラミネート強度が低くなり接着剤としての効果が小さく、20μmを超えると塗膜の割れや乾燥時間が長くなる。
【0040】
(接着)
本発明の水性接着剤は、水性媒体を除去してなる塗膜を接着層として、異種または同種の基材を貼り合わせて積層することができる。基材としては、前述した基材と同様の材料を使用することができる。
【0041】
貼り合わせ条件は特に限定されないが、温度としては50℃以上かつ基材に用いる熱可塑性樹脂フィルムの樹脂融点以下が好ましい。本発明の水性接着剤から形成される塗膜は、50~80℃で基材を貼り合わせることでも十分な接着強度が得られる。ラミネート方法としては、例えば、熱ロールで圧力をかけながらラミネートする方法が挙げられる。
本発明の水性接着剤は、低温での密着性や接着性に優れることから、積層体を作製するときの温度を低くすることができる。そのため、本発明の水性接着剤は、幅広い用途に用いることができ、特に、包装用途、靴用途、建材用途、または電子電材用途等に好適に用いられる。
【実施例0042】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
なお、各種の特性については以下の方法によって測定または評価した。
1.酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の特性
(1)構成
1H-NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求めた。オルトジクロロベンゼン(d4)を溶媒とし、120℃で測定した。
【0043】
(2)メルトフローレート(MFR)
JIS 6730記載(190℃、2160g荷重)の方法で測定した。
【0044】
(3)融点
DSC(Perkin Elmer社製DSC-7)を用いて昇温速度10℃/分で測定した。
【0045】
(4)重量平均分子量
GPC分析(島津製作所社製、LC-10AD型、カラムはSHODEX社製KF-804L2本、KF805L1本を連結して用いた。)を用い、溶離液としてテトラヒドロフランを用い、流速1ml/min、40℃の条件で測定した。約10mgの共重合体をテトラヒドロフラン5.5mLに溶解し、PTFEメンブランフィルターでろ過したものを測定用試料とした。ポリスチレン標準試料で作成した検量線から重量平均分子量を求めた。
【0046】
2.酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体、水性接着剤の特性
(1)水性分散体の固形分濃度
水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
【0047】
(2)水性分散体の平均粒子径
日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、数平均粒子径(mn)および重量平均粒子径(mw)を求めた。ここで、粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50とした。
【0048】
3.塗膜、積層体の特性
以下の評価においては、基材の熱可塑性樹脂フィルムとして、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製エンブレットS-50、厚み50μm、以下、PETフィルム)を用いた。
【0049】
(1)密着性a(60℃で30秒間乾燥、テープ剥離試験)
PETフィルムの非コロナ処理面に、水性接着剤を乾燥後の膜厚が3μmになるようにマイヤーバーを用いて塗布した後、60℃で30秒間、乾燥させた。
得られた乾燥直後の積層フィルムの塗膜面にセロハンテープ(ニチバン社製TF-12)を貼り付け、テープを一気に剥がした場合の剥がれの程度を、次の基準で目視評価した。
○:全く剥がれなし
△:一部剥離
×:全て剥離
【0050】
(2)密着性b(低温密着性、25℃で12時間乾燥、テープ剥離試験)
乾燥を、60℃で30秒間の条件から、室温(25℃)で12時間の条件に変更した以外は、「密着性a」と同じ条件で、積層フィルムの塗膜面剥がれの程度を目視し、60℃より低い常温での乾燥後の密着性を評価した。
【0051】
(3)接着性a(60℃で30秒間乾燥、120℃でプレス、剥離強度測定)
PETフィルムの非コロナ処理面に、水性接着剤を乾燥後の膜厚が3μmになるようにマイヤーバーを用いて塗布した後、60℃で30秒間、乾燥させた。
得られた積層フィルムの塗膜面同士を、ヒートプレス機(シール圧0.3MPaで2秒間)にて120℃でプレスして貼り合わせた。貼り合わされたPETフィルムを15mm幅で切り出し、1日後、引張試験機(インテスコ株式会社製インテスコ精密万能材料試験機2020型)を用い、25℃の雰囲気下で、引張速度100mm/分、引張角度90度で、貼り合わされたPETフィルム間の剥離強度を測定した。剥離強度4.0N/15mmを合格ラインとした。
【0052】
(4)接着性b(低温接着性、60℃で30秒間乾燥、50℃でプレス、剥離強度測定)
プレス温度を、120℃から50℃に変更した以外は、「接着性a」と同じ条件で、貼り合わされたPETフィルム間の剥離強度を測定し、低温貼り合わせ時の接着性を評価した。剥離強度4.0N/15mmを合格ラインとした。
【0053】
(5)接着性c(40℃で5秒間乾燥、80℃でドライラミネート、剥離強度測定)
PETフィルムの非コロナ処理面に、水性接着剤を乾燥後の膜厚が3μmになるようにマイヤーバーを用いて塗布した後、40℃で5秒間、乾燥させた。
得られた積層フィルムの塗膜面同士を、ロールプレス機(圧力0.3MPa、ラインスピード10m/分)にて80℃で貼り合わせ、次いで80℃で1時間の処理を行なった以外は、「接着性a」と同じ条件で、貼り合わされたPETフィルム間の剥離強度を測定した。剥離強度5.0N/15mmを合格ラインとした。
【0054】
(6)接着性d(熱間接着性、40℃で5秒間乾燥、80℃でドライラミネート、60℃で剥離強度測定)
剥離強度測定時の雰囲気温度を25℃から60℃に変更した以外は、「接着性c」と同じ条件で、貼り合わされたPETフィルム間の剥離強度を測定し、耐熱性(熱間接着性)を評価した。剥離強度3.0N/15mmを合格ラインとした。
【0055】
(7)耐薬品性
PETフィルムの非コロナ処理面に、水性接着剤を乾燥後の膜厚が3μmになるようにマイヤーバーを用いて塗布した後、40℃で5秒間、乾燥させた。
得られた積層フィルムをトルエンに40℃で96時間浸漬し、塗膜の変化を目視にて評価した。
○:変化なく、透明のままである。
△:塗膜の一部に、剥がれが見られるかまたは白色になっている
×:塗膜のすべてが、剥がれるかまたは白色になっている
【0056】
(8)耐候性
上記「耐薬品性」に記載された条件で作製した積層フィルムを、WS型促進暴露装置(スガ試験機社製、サンシャインウェザーメーター)を用い、積層フィルムの塗膜面に、63℃、100時間の条件で、紫外線を照射した。照射後の塗膜面にセロハンテープ(ニチバン社製TF-12)を貼り付け、テープを一気に剥がした場合の剥がれの程度を次の基準で目視評価した。
○:全く剥がれなし
△:一部剥離
×:全て剥離
【0057】
(9)混合安定性
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体と、アジリジン環を2以上有する化合物または架橋剤の水溶液とを所定の混合比率で混合して得られた水性接着剤を1日放置して、外観を確認した。
○:変化なし
△:1日後に固化・ゲル化・凝集物発生
×:添加直後に固化・ゲル化・凝集物発生
【0058】
水性接着剤の原料として下記のものを使用した。
1.酸変性ポリオレフィン樹脂(A)
A1(HX-8290):アルケマ社製 ボンダインHX-8290
A2(TX-8030):アルケマ社製 ボンダインTX-8030
A3(HX-8210):アルケマ社製 ボンダインHX-8210
【0059】
A4:
プロピレン-ブテン共重合体(プロピレン/ブテン=80/20質量%)280gを4つ口フラスコ中、窒素雰囲気下で加熱溶融させた後、系内温度を170℃に保って攪拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸25.0gとラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド6.0gをそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥して酸変性ポリオレフィン樹脂(A4)を得た。
【0060】
A5:
プロピレン-ブテン共重合体(プロピレン/ブテン=65/35質量%)を用いた以外は酸変性ポリオレフィン樹脂(A4)と同様の方法で酸変性ポリオレフィン樹脂(A5)を得た。
【0061】
A6:
プロピレン-エチレン共重合体(プロピレン/エチレン=92/8質量%)を用いた以外は酸変性ポリオレフィン樹脂(A4)と同様の方法で酸変性ポリオレフィン樹脂(A6)を得た。
【0062】
A7:
プロピレン-ブテン-エチレン共重合体(プロピレン/ブテン/エチレン=68/22/10質量%)を用いた以外は酸変性ポリオレフィン樹脂(A4)と同様の方法で酸変性ポリオレフィン樹脂(A7)を得た。
【0063】
A8:
プロピレン-ブテン-エチレン-アクリル酸エチル共重合体(プロピレン/ブテン/エチレン/アクリル酸エチル=60/23/10/7質量%)を用いた以外は酸変性ポリオレフィン樹脂(A4)と同様の方法で酸変性ポリオレフィン樹脂(A8)を得た。
【0064】
2.酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体
A1の水性分散体:
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂(A1)、60.0gのイソプロパノール(IPA)、2.2gのトリエチルアミン(TEA)、および177.8gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を120℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂(A1)の水性分散体を得た。
【0065】
A2の水性分散体:
ヒーター付きの密閉できる耐圧1Lガラス容器を備えた撹拌機を用いて、100.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂(A2)、150.0gのIPA、6.0gのTEAおよび244.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を130℃に保ってさらに30分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂(A2)の水性分散体を得た。
【0066】
A3の水性分散体:
酸変性ポリオレフィン樹脂(A3)を用いた以外は、「A1の水性分散体」と同様の操作で酸変性ポリオレフィン樹脂(A3)の水性分散体を得た。
【0067】
A4の水性分散体:
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂(A4)、45.0gのエチレングリコール-n-ブチルエーテル、8.0gのN,N-ジメチルエタノールアミンおよび137.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を160℃に保ってさらに60分間撹拌した。その後、空冷にて内温が80℃になるまで冷却した後、開封して、45.0gのテトラヒドロフラン、5.0gのN,N-ジメチルエタノールアミンおよび30.0gの蒸留水を添加した後、密閉し、撹拌翼の回転速度を300rpmとして系内温度を140℃に保ってさらに60分間撹拌した。その後、空冷にて回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、微白濁の酸変性ポリオレフィン樹脂(A4)の水性分散体を得た。この際、フィルター上に樹脂は殆ど残っていなかった。
【0068】
A5~A8の水性分散体:
酸変性ポリオレフィン樹脂としてA5~A8を用いた以外は「A4の水性分散体」と同様の方法で水性分散体を得た。
【0069】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A1)~(A8)の構成と物性、またそれらの水性分散体の物性を表1、表2に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
3.アジリジン環を2以上有する化合物(B)の水溶液
AKU:
スタール・ジャパン社製Aqualen AKU(2,2-ビス({[3-(2-メチル-1-アジリジニル)プロパノイル]オキシ}メチル)ブチル=3-(2-メチル-1-アジリジニル)プロパノアート、有効成分99%)を10質量%になるように水で希釈して使用した。
PZ-33:
日本触媒社製ケミタイトPZ-33(2,2′-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、有効成分100%)を10質量%になるように水で希釈して使用した。
DZ―22E:
日本触媒社製DZ-22E(4,4-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、有効成分25%)を10質量%になるように水で希釈して使用した。
【0073】
4.架橋剤の水溶液
SP-003:
日本触媒社製エポミン SP-003(ポリエチレンイミン水溶性ポリマー、固形分濃度98質量%)を10質量%になるように水で希釈して使用した。
WS-700:
日本触媒社製エポクロスWS-700(2-イソプロペニル-2-オキサゾリン含有オキサゾリン化合物水性溶液、固形分濃度40質量%)を使用した。
HW-100:
BASF社製バソナートHW-100(非ブロック型の多官能イソシアネート化合物、イソシアネート含有率約17%)を水で希釈し10質量%になるように希釈して使用した。
【0074】
実施例1
酸変性ポリオレフィン樹脂(A1)の水性分散体と、アジリジン環を2以上有する化合物(AKU)とを、固形分質量比が100/0.5になるように配合し、室温で5分間、混合攪拌し、水性接着剤を得た。
【0075】
実施例2~26、比較例1~14
表3、4に示すように、酸変性ポリオレフィン樹脂の種類と、アジリジン環2以上を有する化合物または架橋剤の種類および質量比を変えた以外は、実施例1と同様の操作を行って、水性接着剤を得た。
【0076】
実施例、比較例の水性分散体の組成と、特性を表3~4に示す。
【0077】
【0078】
【0079】
実施例1~26に示すように、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とアジリジン環を2以上有する化合物(B)とを含有する水性接着剤は、アジリジン環を2以上有する化合物(B)を含有しない比較例1~8の水性接着剤に比べて、低温での乾燥でも基材との密着性bに優れる塗膜が得られ、また、低温での貼り合わせでも基材同士の接着性bが大きく向上しており、また、得られる塗膜は、耐薬品性にも優れていた。
比較例9、10の水性接着剤は、アジリジン環を2以上有する化合物の含有量が、本発明の範囲外であるため、常温乾燥後の密着性b、耐薬品性、接着性が劣っていた。
比較例11、12の水性接着剤は、ポリエチレンイミンを含有するため、密着性は良好であったものの、熱間接着性d、耐薬品性、耐候性、混合安定性が劣っていた。
比較例13、14の水性接着剤は、本発明の規定外の架橋剤を含有するため、常温乾燥後の密着性b、熱間接着性dが劣っていた。