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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104763
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】液滴吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240730BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B41J2/14 301
B41J2/01 401
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009099
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】吉野 隆晃
(72)【発明者】
【氏名】垣内 徹
(72)【発明者】
【氏名】水野 泰介
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA01
2C056EC07
2C056EC42
2C056FA04
2C056FC01
2C056HA05
2C056HA20
2C057AF02
2C057AG01
2C057AG31
2C057AG44
2C057AM17
2C057BA04
2C057BA14
2C057BC09
(57)【要約】
【課題】高い駆動周波数で、記録に十分な量の液滴を安定して吐出させる。
【解決手段】ノズルの直径D及び固有周波数Frが、以下の要件(1)、(2)及び(3)を満たすように構成されている。
限界駆動周波数≧100kHz ・・・要件(1)
インク滴の体積≧1.8pl ・・・要件(2)
オーネゾルゲ数≧0.2 ・・・要件(3)
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルと前記ノズルに連通する圧力室とを含む流路を有する流路部材と、
前記流路部材に固定され、前記圧力室内の液体に圧力を付与して前記ノズルから液滴を吐出させるアクチュエータと、を備え、
前記ノズルの直径、及び、前記流路の固有周波数が、以下の要件(1)、(2)及び(3)を満たすように構成されたことを特徴とする、液滴吐出装置。
前記アクチュエータの限界駆動周波数≧100kHz ・・・要件(1)
前記液滴の体積≧1.8pl ・・・要件(2)
オーネゾルゲ数≧0.2 ・・・要件(3)
【請求項2】
以下の式(1)、(2)及び(3)を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【数1】
【数2】
【数3】
[F:前記限界駆動周波数(kHz)、V:前記液滴の体積(pl)、Fr:前記固有周波数(kHz)、D:前記ノズルの直径(μm)、Oh:オーネゾルゲ数、μ:前記液体の粘度(mPa・s)、ρ:前記液体の密度(g/m3))、σ:前記液体の表面張力(mN/m)、]
【請求項3】
前記液体の粘度が3~10mPa・sであることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記液体の表面張力が20~50mN/mであることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記液体の密度が0.8~1.2g/cm3であることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記アクチュエータに駆動信号を付与する制御部を備え、
前記駆動信号は、前記圧力室の容積を所定容積から増大させた後前記所定容積以下に減少させることで前記ノズルから液滴を吐出させる、引き打ち方式によるものであることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記アクチュエータに駆動信号を付与する制御部を備え、
前記駆動信号に含まれるパルスの幅は、前記流路における圧力波の片道伝搬時間であるAcoustic Length(AL)と等しく、前記固有周波数の逆数の半分であることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記アクチュエータが薄膜圧電素子で構成されたことを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の液滴吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液滴を吐出させる液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インクチャンネルを有するインクジェットヘッドが開示されている。インクチャンネルは、ノズルと、ノズルに連通する圧力室と、圧電アクチュエータとを含む。特許文献1のインクジェットヘッドにおいては、圧電アクチュエータにより圧力室内に圧力を生成させることで、ノズルから液滴を吐出させる。
【0003】
液滴吐出装置において、一般に、高速記録を実現するには、高い駆動周波数で、記録に十分な量の液滴を吐出させる必要がある。特許文献1には、圧力室内に生じる圧力共振の影響に着目し、駆動周波数を高める方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-130953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、駆動周波数が100kHzほどの高周波数の場合、先行の液滴のテールがノズルのメニスカスから分離する前に、後続の液滴が吐出される。その結果、先行の液滴のテールに、後続の液滴が繋がった状態となる。
【0006】
上記のような液滴の繋がりが生じないようにするには、ピンチオフタイム(Pinch-Off-Time)を短くすることが好ましい。ピンチオフタイムとは、液滴吐出に係る駆動信号がアクチュエータに印加された時点から、当該液滴のテールがノズルのメニスカスから分離される時点まで、の時間をいう。本願発明者は、ピンチオフタイムを短くする手段として、ノズルの直径を小さくすること、及び、流路の固有周波数を高めることが有効であることを見出した。
【0007】
しかしながら、ノズルの直径が小さくなるにつれて、ノズルから吐出される液滴の量が減少する。固有周波数を高めるには、アクチュエータの剛性を大きくする必要がある。アクチュエータの剛性が大きいと、所望量の液滴を吐出するために、アクチュエータの変形に大きなエネルギーが必要となる。アクチュエータの耐久性を維持するためには、所定値を超えるような大きなエネルギーをアクチュエータに付与することができない。
【0008】
また、安定した吐出を実現するには、上記のような液滴の繋がりが生じないようにするのみでなく、サテライト滴が生じないようにする必要もある。サテライト滴は、液滴のテールが液滴のメイン滴から分離することで生じるものであり、メイン滴よりも体積が小さい。
【0009】
本発明の目的は、高い駆動周波数で、記録に十分な量の液滴を安定して吐出させることができる、液滴吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る液滴吐出装置は、ノズルと前記ノズルに連通する圧力室とを含む流路を有する流路部材と、前記流路部材に固定され、前記圧力室内の液体に圧力を付与して前記ノズルから液滴を吐出させるアクチュエータと、を備え、前記ノズルの直径、及び、前記流路の固有周波数が、以下の要件(1)、(2)及び(3)を満たすように構成されたことを特徴とする。
前記アクチュエータの限界駆動周波数≧100kHz ・・・要件(1)
前記液滴の体積≧1.8pl ・・・要件(2)
オーネゾルゲ数≧0.2 ・・・要件(3)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、要件(1)及び(2)を満たすことで、高い駆動周波数で、記録に十分な量の液滴を吐出させることができる。また、限界駆動周波数は、ピンチオフタイムと反比例する。限界駆動周波数が高くなるにつれて、ピンチオフタイムは短くなる。そのため、要件(1)において限界駆動周波数が100kHz以上のときのピンチオフタイムは、液滴の繋がりが生じない値である。さらに、要件(3)を満たすことで、液滴のテールがメイン滴から分離せず、サテライト滴が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るプリンタ100の平面図である。
図2図2は、プリンタ100の電気的構成を示すブロック図である。
図3図3は、プリンタ100に含まれるヘッド1の断面図である。
図4A図4Aは、先行のインク滴90のテール92がノズル12Nのメニスカス95から分離した後に、後続のインク滴90が吐出された状態を示す。
図4B図4Bは、先行のインク滴90のテール92に後続のインク滴90が繋がった状態を示す。
図5図5は、アクチュエータ13Xに付与される駆動信号と、ノズル12Nから吐出されるインク滴の状態とを示す。
図6図6は、ノズルの直径D、固有周波数Fr及びピンチオフタイムTpの関係を示すグラフである。
図7図7は、ノズルの直径D、固有周波数Fr、ピンチオフタイムTp、インク滴の体積及び限界駆動周波数の関係を示す表である。
図8図8は、インクの粘度、インクの表面張力、インクの密度、ノズルの直径D、及び、オーネゾルゲ数Ohの関係を示す表である。
図9図9は、ノズルの直径D、固有周波数Fr、限界駆動周波数及びインク滴の体積の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<プリンタ100の全体構成>
本発明の一実施形態に係るプリンタ100は、図1に示すように、筐体100Aと、ヘッド1と、プラテン3と、搬送機構4と、制御部5とを備えている。ヘッド1、プラテン3、搬送機構4及び制御部5は、筐体100A内に配置されている。プリンタ100は、さらに、筐体100Aの外面に配置されたボタンで構成される、入力部を備えている。
【0014】
搬送方向は、搬送機構4が用紙Pを搬送する方向である。紙幅方向は、用紙9の幅に沿った方向である。搬送方向及び紙幅方向は、互いに直交する。搬送方向及び紙幅方向は、鉛直方向と直交する。
【0015】
ヘッド1の紙幅方向の長さは、ヘッド1の搬送方向の長さよりも長い。ヘッド1は、ライン式の構成を有する。つまり、ヘッド1の位置が筐体100Aに対して固定された状態で、用紙9に対してヘッド1からインクが吐出される。
【0016】
プラテン3は、ヘッド1の下方に配置されている。プラテン3の上面に用紙9が支持される。
【0017】
搬送機構4は、ローラ対41,42と、図2に示す搬送モータ43とを含む。搬送方向において、ヘッド1とプラテン3との間に、ローラ対41,42が配置されている。制御部5の制御により搬送モータ43が駆動されると、ローラ対41,42が回転する。ローラ対41が用紙9を挟持しかつローラ対42が用紙9を挟持した状態で、ローラ対41,42が回転することによって、用紙9が搬送方向に搬送される。
【0018】
制御部5は、図2に示すように、CPU51と、ROM52と、RAM53とを含む。
【0019】
CPU51は、外部装置や入力部から入力されたデータに基づいて、ROM52やRAM53に記憶されているプログラム及びデータにしたがい、各種制御を実行する。外部装置は、例えばPCである。
【0020】
ROM52には、CPU51が各種制御を行うためのプログラム及びデータが格納されている。RAM53は、CPU51がプログラムを実行する際に用いるデータを一時的に記憶する。
【0021】
<ヘッド1の構成>
ヘッド1は、図3に示すように、流路部材12と、アクチュエータ部材13とを含む。
【0022】
流路部材12は、共通流路12Aと、個別流路12Bとを有する。共通流路12Aは、インクタンクと、個別流路12Bとに連通している。個別流路12Bは、ノズル12Nと、ノズル12Nに連通する圧力室12Pとを含む。個別流路12Bは、本発明の「流路」に該当する。
【0023】
インクは、共通流路12Aから個別流路12Bに流入し、個別流路12Bにおいて、圧力室12Pからノズル12Nに向かい、ノズル12Nからインク滴として吐出される。
【0024】
流路部材12の下面にノズル12Nが開口し、流路部材12の上面に圧力室12Pが開口している。鉛直方向と直交する平面において、ノズル12Nの開口は略円形状であり、圧力室12Pの開口は略矩形状である。
【0025】
個別流路12Bは複数あってもよい。
【0026】
アクチュエータ部材13は、図4に示すように、流路部材12の上面に固定されている。アクチュエータ部材13は、薄膜圧電素子、いわゆるmicro electro mechanical systems(MEMS)である。アクチュエータ部材13は、金属製の振動板13Aと、圧電層13Bと、個別電極13Cとを含む。アクチュエータ部材13は、振動板13Aの上面に圧電層13Bとして機能する薄膜を有し、圧電層13Bの上面に個別電極13Cとして機能する薄膜を有する。
【0027】
振動板13Aは、流路部材12の上面に、圧力室12Pを覆うように配置されている。圧電層13Bは、振動板13Aの上面に配置されている。個別電極13Cは、圧電層13Bの上面に、圧力室12Pと鉛直方向に重なるように配置されている。
【0028】
振動板13A及び圧電層13Bにおいて個別電極13Cと圧力室12Pとで挟まれた部分が、アクチュエータ13Xとして機能する。アクチュエータ13Xは、個別電極13Cに付与される電位に応じて独立して変形可能である。
【0029】
アクチュエータ13Xは複数あってもよい。
【0030】
振動板13A及び個別電極13Cは、ドライバIC14と電気的に接続されている。ドライバIC14は、振動板13Aの電位をグランド電位に維持する一方、個別電極13Cの電位を変化させる。振動板13Aは、複数のアクチュエータ13Xに共通の電極である共通電極として機能する。
【0031】
ドライバIC14は、制御部5からの制御信号に基づいて図5に示す駆動信号を生成し、当該駆動信号を個別電極13Cに供給する。駆動信号は、個別電極13Cの電位を所定の駆動電位とグランド電位との間で変化させる。
【0032】
<アクチュエータ13Xの駆動方式>
本実施形態では、アクチュエータ13Xの駆動方式として、「引き打ち方式」を採用している。「引き打ち方式」では、圧力室12Pの容積を所定容積から増大させた後、所定容積以下に減少させることで、ノズル12Nからインク滴を吐出させる。
【0033】
吐出周期における、アクチュエータ13Xの変形について説明する。吐出周期とは、所定サイズのインク滴をノズル12Nから1滴吐出させるための駆動信号の周期である。以下の説明において、面内方向とは、振動板13Aの上面と平行な方向をいう。
【0034】
初期状態では、個別電極13Cに駆動電位が付与されている。このとき、アクチュエータ13Xは、面内方向に収縮することで、圧力室12Pに向かって凸に変形している。そして、個別電極13Cにグランド電位が付与されたタイミングで、アクチュエータ13Xは、面内方向の収縮が解除されて平坦になる。このとき、圧力室12Pの容積が初期状態よりも増大することで、圧力室12P内が負圧となり、共通流路12Aから個別流路12Bにインクが吸い込まれる。
【0035】
さらにその後、個別電極13Cに駆動電位が付与されると、アクチュエータ13Xは、再び面内方向に収縮して圧力室12Pに向かって凸に変形する。このとき、圧力室12Pの容積が減少することで、圧力室12P内が正圧となり、圧力室12P内のインクへの圧力が上昇し、ノズル12Nからインク滴が吐出される。
【0036】
「引き打ち方式」では、個別電極13Cの電位が駆動電位からグランド電位に切り替わって圧力室12Pの容積が増大するタイミングで、圧力室12P内に負の圧力波が生じる。その後、負の圧力波が反転して正の圧力波として圧力室12Pに戻ってきたタイミングで、個別電極13Cの電位をグランド電位から駆動電位に切り替える。このとき、圧力室12Pの容積が減少することで、圧力室12P内に正の圧力波が生じ、これら圧力波が重畳する。このような圧力波の重畳により、圧力室12P内のインクに大きな圧力が付与される。
【0037】
駆動信号に含まれるパルスの幅は、図5に示すように、Acoustic Length(AL)と等しい。ALは、個別流路12Bにおける圧力波の片道伝搬時間である。また、パルスの幅は、個別流路12Bの固有周波数の逆数の半分となるように設定されている。固有周波数は、例えば101.6~340.5kHzとなるように設定されている。
【0038】
<ノズル12Nから吐出されるインク滴90の状態>
インク滴90は、図4Aに示すように、球状のメイン滴91と、メイン滴91から延びる細い柱状のテール92とを含む。テール92は、個別電極13Cにパルスが印加されてからある程度時間が経過した後、ノズル12Nのメニスカス95から分離する。
【0039】
図4Aでは、先行のインク滴90のテール92がメニスカス95から分離した後に、後続のインク滴90が吐出されている。この場合、先行のインク滴90は後続のインク滴90と分離している。
【0040】
図4Bでは、先行のインク滴90のテール92がメニスカス95から分離する前に、後続のインク滴90が吐出されている。その結果、先行のインク滴90のテール92に後続のインク滴90が繋がっている。
【0041】
用紙9上に着弾したインク滴90により形成されるドットのサイズは、先行のインク滴90が後続のインク滴90と分離していることを想定して設計される。用紙9へのインク滴90の着弾位置も、同様に、先行のインク滴90が後続のインク滴90と分離していることを想定して設計される。
【0042】
図4Bの場合、先行のインク滴90と後続のインク滴90とが繋がった状態で用紙9に着弾する。そのため、ドットのサイズが設計値よりも大きくなってしまう。
【0043】
また、図4Bの場合、図4Aの場合に比べ、ドットを構成するインク滴90の重量が大きいため、インク滴90の飛翔速度が高い。そのため、着弾位置が設計位置からずれてしまう。
【0044】
図4Aの場合、先行のインク滴90が後続のインク滴90と分離しているため、ドットのサイズ及び着弾位置が設計値通りになる。
【0045】
ここで、吐出周期において、駆動信号がアクチュエータ13Xに印加された時点から、テール92がメニスカス95から分離される時点まで、の時間を「ピンチオフタイム」という。駆動信号がアクチュエータ13Xに印加された時点とは、駆動信号の電位が初期状態の駆動電位からグランド電位に切り替わる時点をいう。
【0046】
図5の例では、駆動信号の電位が初期状態の駆動電位からグランド電位に切り替わる時点を0μsとして、時点5μsに駆動信号の電位がグランド電位から駆動電位に切り替わる。即ち、駆動信号のパルス幅は5μsである。そして、時点22.5μsにおいて、ノズル12Nから吐出されたインク滴90のテール92がメニスカス95から分離する。即ち、ピンチオフタイムTpは22.5μsである。
【0047】
例えばインク滴をノズル12Nから2滴連続して吐出させる場合、先行の吐出周期の後、後続の吐出周期が出現する。
【0048】
後続の吐出周期において駆動信号の電位がグランド電位から駆動電位に切り替わるタイミングが、先行の吐出周期のピンチオフタイムの終了時点より前であると、図4Bのようにインク滴90が繋がってしまう。後続の吐出周期において駆動信号の電位がグランド電位から駆動電位に切り替わるタイミングが、先行の吐出周期のピンチオフタイムの終了時点以降であると、図4Aのようにインク滴90が繋がらない。
【0049】
ここで、図5に破線で示すように、前の吐出周期のピンチオフタイムTpの終了時点(22.5μs)と、後続の吐出周期において駆動信号の電位がグランド電位から駆動電位に切り替わる時点と、を一致させる。これにより、後続のインク滴90を最も早く吐出することができ、駆動信号の周波数である駆動周波数を高めることができる。このとき、駆動信号の周期Tは、ピンチオフタイムTpからパルス幅であるALを減じた値となる。即ち、上記のようなインク滴90の繋がりが生じないようにできる駆動周波数のうち、最も高い駆動周波数である限界駆動周波数は、1/(Tp-AL)である。
【0050】
また、上記のようなインク滴90の繋がりが生じないようにするには、ピンチオフタイムTpを短くすることが好ましい。本願発明者は、ピンチオフタイムTpが、ノズル12Nの直径Dと、個別流路12Bの固有周波数Frとに依存することを見出した。固有周波数Frは、少なくとも、アクチュエータ13Xの剛性、圧力室12Pの形状及びサイズによって定まる。
【0051】
図6中のプロットは、ノズル12Nの直径Dが14μm、18μm、22μmの3つのモデルについて、固有周波数Frを変化させ、ピンチオフタイムTpを算出した値である。図6から、ピンチオフタイムTpは、直径Dが減少するにつれて短くなり、固有周波数Frが高くなるにつれて短くなることがわかる。
【0052】
図7は、図6の結果と、以下の条件とに基づいて、ノズル12Nの直径D、固有周波数Fr、ピンチオフタイムTp、インク滴90の体積及び限界駆動周波数の関係を導出したものである。インク滴90の体積は、1吐出周期で吐出されるインクの体積であり、シミュレーションによる計算値である。No.1~15のモデル毎に駆動電位を変化させ、インク滴90の吐出初速度が10m/sの駆動電位での近似を行った。
【0053】
条件は、以下のとおりである。インクの粘度は、約4mPa・sである。インクの表面張力は、約34mN/mである。ノズル12Nの直径Dは、14μm、18μm、22μmの3つのモデルがある。3つのモデルのピンチオフタイムTpは、図6を参照されたい。固有周波数Frは、101.6~340.5kHzである。駆動信号は、図5に示す引き打ち方式である。駆動信号のパルス幅ALは、1/(2×Fr)である。限界駆動周波数は、1/(Tp-AL)である。
【0054】
図8は、インクの粘度を4.3mPa・s、インクの表面張力を24mN/m、インクの密度を1g/cm3として、ノズル12Nの直径Dを15~19.5μmに変化させたときの、オーネゾルゲ数Ohを示す。オーネゾルゲ数Ohが大きくなるにつれて、レイリー不安定性により、ミストが生じ易くなる。オーネゾルゲ数Ohが小さくなるにつれて、サテライト滴が生じ易くなる。具体的には、オーネゾルゲ数Ohが0.2未満であると、サテライト滴が生じ易くなる。図8から、ノズル12Nの直径Dが19μmを超えると、オーネゾルゲ数Ohが0.2未満であり、サテライト滴が生じ易くなることがわかる。
【0055】
図9は、図7の計算結果に基づいて、ノズル12Nの直径Dと固有周波数Frとに対する限界駆動周波数(kHz)とインク滴90の体積(pl)との計算結果をグラフ化したものである。図9において、限界駆動周波数はグレーの等高線、インク滴90の体積は白の等高線で示されている。
【0056】
図9では、限界駆動周波数120kHzにおいて、固有周波数を240kHz、ノズル12Nの直径Dを18.2μmとすると、インク滴90の体積は約2plである。限界駆動周波数100kHzにおいて、固有周波数を200kHz、ノズル12Nの直径Dを19.2μmとすると、インク滴90の体積は約2.5plである。限界駆動周波数80kHzにおいて、固有周波数を150kHz、ノズル12Nの直径Dを21μmとすると、インク滴90の体積は約3.5plである。このように、限界駆動周波数、インク滴90の体積、固有周波数Fr及びノズル12Nの直径Dには、相関関係があることがわかる。インク滴90の体積を最大とする目的は、記録に十分な量のインク滴90をノズル12Nから吐出させるためである。
【0057】
ただし、上述のように、オーネゾルゲ数Ohが0.2未満であると、サテライト滴が生じ易くなる。したがって、サテライト滴の生じないようにするには、オーネゾルゲ数Ohが0.2以上であること、即ちノズル12Nの直径Dが19μm以下であることが好ましい。
【0058】
以上の解析結果を踏まえ、本実施形態のプリンタ100は、ノズル12Nの直径D及び固有周波数Frが、以下の要件(1)、(2)及び(3)を満たすように構成されている。要件(1)は、限界駆動周波数≧100kHzである。要件(2)は、インク滴90の体積≧1.8plである。要件(3)は、オーネゾルゲ数Oh≧0.2である。
【0059】
図9において、要件(1)、(2)及び(3)を満たす範囲をハッチングで示している。
【0060】
限界駆動周波数、ノズル12Nの直径D及び固有周波数Frは、以下の式(1)を満たす。
【数1】
[F:限界駆動周波数(kHz)、D:ノズル12Nの直径(μm)、Fr:固有周波数(kHz)]
【0061】
インク滴90の体積、ノズル12Nの直径D及び固有周波数Frは、以下の式(2)を満たす。
【数2】
[V:インク滴の体積(pl)、D:ノズル12Nの直径(μm)、Fr:固有周波数(kHz)]
【0062】
上記式(1)及び(2)は、本願発明者が解析により導出したものである。
【0063】
オーネゾルゲ数Oh、ノズル12Nの直径D及びインクの物性は、以下の式(3)を満たす。物性は、粘度、密度及び表面張力を含む。
【数3】
[Oh:オーネゾルゲ数、μ:インクの粘度(mPa・s)、ρ:インクの密度(g/m3))、σ:インクの表面張力(mN/m)、D:ノズル12Nの直径(μm)]
【0064】
<本実施形態の効果>
以上に述べたように、本実施形態によれば、要件(1)及び(2)を満たすことで、高い駆動周波数で、記録に十分な量のインク滴90を吐出させることができる。また、限界駆動周波数はピンチオフタイムTpと反比例し、限界駆動周波数が高くなるにつれて、ピンチオフタイムTpは短くなる。そのため、要件(1)において限界駆動周波数が100kHz以上のときのピンチオフタイムTpは、インク滴90の繋がりが生じない値である。さらに、要件(3)を満たすことで、インク滴90のテール92がメイン滴91から分離せず、サテライト滴が生じない。
【0065】
要件(1)に係る限界駆動周波数、ノズル12Nの直径D及び固有周波数Frは、上記式(1)を満たす。要件(2)に係るインク滴90の体積、ノズル12Nの直径D及び固有周波数Frは、上記式(2)を満たす。要件(3)に係るオーネゾルゲ数Oh、ノズル12Nの直径D及びインクの物性(粘度、密度、表面張力)は、上記式(3)を満たす。この場合、ノズル12Nの直径D及び固有周波数Frが要件(1)、(2)及び(3)を満たすというプリンタ100の構成を、より確実に実現できる。
【0066】
本実施形態では、インクの粘度が3~10mPa・sである。当該数値は、水系インク及びUVインクの粘度の一般的な数値である。この場合、図8の解析条件に合致し、ノズル12Nの直径D及び固有周波数Frが要件(1)、(2)及び(3)を満たす構成を、より確実に実現できる。
【0067】
本実施形態では、インクの表面張力が20~50mN/mである。当該数値は、水系インク及びUVインクの表面張力の一般的な数値である。この場合、図8の解析条件に合致し、ノズル12Nの直径D及び固有周波数Frが要件(1)、(2)及び(3)を満たすというプリンタ100の構成を、より確実に実現できる。
【0068】
本実施形態では、インクの密度が0.8~1.2g/cm3である。当該数値は、水系インク及びUVインクの密度の一般的な数値である。この場合、図8の解析条件に合致し、ノズル12Nの直径D及び固有周波数Frが要件(1)、(2)及び(3)を満たすというプリンタ100の構成を、より確実に実現できる。
【0069】
駆動信号は、図5に示すように、「引き打ち方式」に適したものである。「引き打ち方式」では、圧力室12Pの容積を所定容積から増大させた後、所定容積以下に減少させることで、ノズル12Nからインク滴を吐出させる。駆動信号が「引き打ち方式」に適したものであるの場合、駆動信号が「押し打ち方式」に適したものである場合に比べ、個別流路12B内に効率的に圧力波が生成され、小さなエネルギーで所望量のインク滴が吐出される。なお、「押し打ち方式」では、初期状態で平坦なアクチュエータ13Xを、所定のタイミングで圧力室12Pに向かって凸に変形させる。これにより、圧力室12Pの容積を減少させることで、ノズル12Nからインク滴を吐出させる。
【0070】
駆動信号に含まれるパルスの幅は、ALと等しく、固有周波数Frの逆数の半分である。この場合、インク滴90の吐出速度が最大であり、ピンチオフタイムが短いため、高周波駆動を実現できる。
【0071】
アクチュエータ13Xは、薄膜圧電素子で構成されている。薄膜圧電素子で構成されたアクチュエータ13Xは、厚みが薄いため変形し易く、圧力室12Pが小さくても十分に変形できる。したがって、この場合、圧力室12Pを小さくすることで固有周波数Frを高めて要件(1)を実現すると共に、アクチュエータ13Xを十分に変形させることができる。
【0072】
<変形例>
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0073】
上述の実施形態において、アクチュエータを構成する電極は、個別電極及び共通電極を含む2層構成であるが、3層構成であってもよい。例えば、3層構成とは、高電位及び低電位が選択的に付与される駆動電極と、高電位に保持される高電位電極と、低電位に保持される低電位電極とを含む構成である。
【0074】
ノズルの開口は、上述の実施形態では略円形状であるが、矩形状であってもよい。ノズルの開口が正方形の場合、正方形の一辺を直径とする円をノズルの開口とみなし、当該一辺の長さをノズルの直径Dとする。ノズルの開口が長方形の場合、長方形の短辺を直径とする円をノズルの開口とみなし、当該短辺の長さをノズルの直径Dとする。
【0075】
ヘッドは、ライン式に限定されず、シリアル式であってもよい。
【0076】
液滴を吐出する対象は、用紙に限定されない。例えば、液滴を吐出する対象は、布、基板又はプラスチックであってもよい。
【0077】
ノズルから吐出される液滴は、インク滴に限定されない。例えば、液滴は、インク中の成分を凝集又は析出させる処理液の液滴であってもよい。
【0078】
本発明は、プリンタに限定されず、ファクシミリ、コピー機及び複合機にも適用可能である。また、本発明は、画像の記録以外の用途で使用される液滴吐出装置にも適用可能である。例えば、本発明は、基板に導電性の液体を吐出して導電パターンを形成する液滴吐出装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 ヘッド
5 制御部
12 流路部材
12B 個別流路(流路)
12N ノズル
12P 圧力室
13X アクチュエータ
90 インク滴(液滴)
100 プリンタ(液滴吐出装置)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9