(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104795
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】電気自動車用シフトレバー装置
(51)【国際特許分類】
B60K 20/02 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
B60K20/02 A
B60K20/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009151
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000243700
【氏名又は名称】万能工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 三郎
【テーマコード(参考)】
3D040
【Fターム(参考)】
3D040AA03
3D040AA24
3D040AA34
3D040AB01
3D040AC16
3D040AC36
3D040AC58
3D040AC63
3D040AE19
(57)【要約】
【課題】MTシフトレバーを操作する感覚が得られる電気自動車用シフトレバー装置を提供する。
【解決手段】内部に球軸受12を備えたリテーナと、球軸受に保持される球軸13を中心として、シフト方向及びセレクト方向に揺動可能なレバー本体11と、リテーナの下部に配置されたポジションセンサーユニット14とを備える。ポジションセンサーユニットは、ケースの内部をセレクト方向にスライドできるスライダと、このスライダ上をシフト方向にスライドできる磁石18と、ケースの底面に配置されて磁石の位置を検出するセンサー基板と、ケースの上面に配置されたMTシフトパターンのディテントプレート20とを備え、磁石はディテントプレートを貫通してケースの内部に延びるレバー本体の下端に係合している。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に球軸受を備えたリテーナと、
前記球軸受に保持される球軸を中心として、シフト方向及びセレクト方向に揺動可能なレバー本体と、
前記リテーナの下部に配置されたポジションセンサーユニットとを備え、
前記ポジションセンサーユニットは、ケースの内部をセレクト方向にスライドできるスライダと、このスライダ上をシフト方向にスライドできる磁石と、ケースの底面に配置されて前記磁石の位置を検出するセンサー基板と、ケースの上面に配置されたMTシフトパターンのディテントプレートとを備え、
前記磁石は前記ディテントプレートを貫通してケースの内部に延びるレバー本体の下端に係合していることを特徴とする電気自動車用シフトレバー装置。
【請求項2】
前記センサー基板は、前記レバー本体の下端の磁石を検出するセンサーICを配置したものであることを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用シフトレバー装置。
【請求項3】
前記レバー本体は、シフト操作したときシフト面内で揺動するシフト用ベルクランクを備え、その先端に設けられたシフト用節度ピンを、リテーナに固定されたシフト用節度山に当接させてシフト方向のポジション保持を行わせることを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用シフトレバー装置。
【請求項4】
前記レバー本体は、セレクト操作したときセレクト面内で揺動するセレクト用ベルクランクを備え、その先端に設けられたセレクト用節度ピンを、リテーナに固定されたセレクト用節度山に当接させてセレクト方向のポジション保持を行わせることを特徴とする請求項3に記載の電気自動車用シフトレバー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車に搭載されるシフトレバー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動モータを駆動源とする電気自動車においても、前進(D)、後退(R)、パーキング(P)、中立(N)等のポジションを切り替えるために、シフトレバー装置が組み込まれている。その一例が特許文献1に記載されており、この文献にはエンジン車のATシフトレバーと同様のシフトパターンが記載されている。
【0003】
また電気自動車では従来のエンジン車のようにトランスミッション(変速機)を切り替える必要はなく、電気的に電動モータの制御を行えばよいため、従来の装置の形態を廃止して、回転型の電気スイッチのような形態とすることも行われている。
【0004】
しかし、モータースポーツが盛んな欧州の国民や、日本国内でもモータースポーツの愛好者の間では、エンジン車のマニュアルトランスミッション(MT)と同様のシフトパターンを持つシフトレバー装置への郷愁が強くあり、電気自動車を運転する際にもMTシフトレバーを操作する感覚を求める傾向がある。しかしそのような電気自動車用シフトレバー装置は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、MTシフトレバーを操作する感覚が得られる電気自動車用シフトレバー装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の電気自動車用シフトレバー装置は、内部に球軸受を備えたリテーナと、前記球軸受に保持される球軸を中心として、シフト方向及びセレクト方向に揺動可能なレバー本体と、前記リテーナの下部に配置されたポジションセンサーユニットとを備え、前記ポジションセンサーユニットは、ケースの内部をセレクト方向にスライドできるスライダと、このスライダ上をシフト方向にスライドできる磁石と、ケースの底面に配置されて前記磁石の位置を検出するセンサー基板と、ケースの上面に配置されたMTシフトパターンのディテントプレートとを備え、前記磁石は前記ディテントプレートを貫通してケースの内部に延びるレバー本体の下端に係合していることを特徴とするものである。
【0008】
前記センサー基板は、前記レバー本体の下端の磁石を検出するセンサーICを配置したものであることが好ましい。
【0009】
また前記レバー本体は、シフト操作したときシフト面内で揺動するシフト用ベルクランクを備え、その先端に設けられたシフト用節度ピンを、リテーナに固定されたシフト用節度山に当接させてシフト方向のポジション保持を行わせるものであることが好ましい。
【0010】
また前記レバー本体は、セレクト操作したときセレクト面内で揺動するセレクト用ベルクランクを備え、その先端に設けられたセレクト用節度ピンを、リテーナに固定されたセレクト用節度山に当接させてセレクト方向のポジション保持を行わせるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電気自動車用シフトレバー装置によれば、レバー本体をMTシフトパターンのディテントプレートにガイドさせつつ操作することにより、ポジションセンサーユニットのセンサー基板が操作ポジションを検知し、その出力によって駆動源である電動モータを制御することができる。このため、MTシフトレバーを操作する感覚で電気自動車を運転することができる。また、シフト方向及びセレクト方向のポジション保持を行わせることができる構造とすることによって、さらにエンジン車のMTシフトレバー操作に近い感覚を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】従来のエンジン車用のMTシフトレバー装置を示す斜視図である。
【
図2】MTシフトレバーのシフトパターン図である。
【
図3】実施形態の電気自動車用シフトレバー装置を示す側面図である。
【
図4】実施形態の電気自動車用シフトレバー装置の内部構造を示す側面図である。
【
図5】実施形態の電気自動車用シフトレバー装置の断面図である。
【
図6】レバー本体とポジションセンサーユニットとの関係を示す斜視図である。
【
図7】ポジションセンサーユニットの分解図である。
【
図8】ポジションセンサーユニットの上面のディテントプレートを示す斜視図である。
【
図10】レバー本体が車両の前方にシフト操作された状態を示す断面図である。
【
図11】レバー本体が車両の左側にセレクト操作された状態を示す断面図である。
【
図12】シフト操作用のポジション保持構造を示す斜視図である。
【
図13】セレクト操作用のポジション保持構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態の説明に先立ち、
図1を参照しつつ従来のエンジン車用のMTシフトレバー装置を簡単に説明する。
図1に示すように、シフト方向(車両前後方向)及びセレクト方向(車両横方向)に揺動可能なレバー本体1が、リテーナ2に保持されている。リテーナ2の内部にはシフトアーム3とセレクトアーム4が設けられており、それらの先端には図示を略したシフトケーブルとセレクトケーブルの一端が取り付けられている。これらのシフトコントロールケーブルの他端は図示を略したトランスミッションに接続されている。レバー本体1をシフト方向やセレクト方向に操作するとシフトアーム3やセレクトアーム4が車両の前後方向に動かされ、シフトコントロールケーブルを介して、レバー本体1の操作がトランスミッションに伝えられる。
【0014】
図2はMTシフトレバーのシフトパターンの一例を示す図である。中央にNポジションがあり、車両前方側にR、1速、3速、5速の各ポジションが配置され、車両後方側に2速、4速、6速の各ポジションが配置されている。以下に説明する本発明の実施形態においても、
図2と同じシフトパターンが用いられているが、シフトパターンは
図2のパターンに限定されないことはいうまでもない。
【0015】
図3は実施形態の電気自動車用シフトレバー装置を示す側面図、
図4はその内部構造を示す側面図、
図5はその断面図である。これらの図において、10は中空のリテーナであり、11はレバー本体である。
図5に示されるようにリテーナ10の内部には球軸受12が設けられており、レバー本体11の中央よりやや下方位置には、この球軸受12に保持される球軸13が設けられている。レバー本体11はこの球軸13を中心としてシフト方向及びセレクト方向に揺動可能である。
【0016】
リテーナ10の下部には、
図6に示すポジションセンサーユニット14が配置されている。
図7はポジションセンサーユニット14の分解図である。
図7に示されるように、ポジションセンサーユニット14は、上面が開口した四角形のケース15と、センサー基板16と、スライダ17と、磁石18と、カバー19とを備えている。さらにケース15の上面には、
図8に示すようにディテントプレート20が配置されている。ディテントプレート20にはMTシフトパターンに対応する貫通孔が形成されている。
【0017】
レバー本体11の下端には、
図9に示すように細径のロッド21を介してボールジョイント22が設けられており、磁石18の上面に形成された筒状部23がこのボールジョイント22に嵌まっている。細径のロッド21はディテントプレート20の貫通孔を貫通してポジションセンサーユニット14の内部に達している。このため、レバー本体11はディテントプレート20の貫通孔によって動きを規制され、MTシフトパターンに対応する操作のみが可能となる。
【0018】
ポジションセンサーユニット14のケース15のシフト方向の前後両側には、セレクト方向に延びる段部24が形成されている。スライダ17には一方の段部24の上に乗る突部26と、反対側の段部24の上に乗る突部27とが形成されている。このためスライダ17はケース15の内部でセレクト方向にスライドすることができる。さらにスライダ17には、シフト方向に延びる長溝28が形成されており、直方体状の磁石18がこの長溝28の内部をシフト方向にスライドすることができる。この構造により、レバー本体11がディテントプレート20の貫通孔に規制されながら動くと、レバー本体11の下端に取付けられた磁石18がケース15の内部で、シフト方向及びセレクト方向に移動することとなる。
【0019】
ケース15の底面には、センサー基板16が固定されている。
図7に示すように、センサー基板16には前後2列にセンサーIC29が配置されており、磁石18がその直上位置に来ると磁力を感知し、電気信号を出力する。参考のため、
図10にレバー本体11が車両前方側に操作された状態の断面図を示し、
図11にレバー本体11が車両左側のリバースポジションに操作された状態の断面図を示す。
【0020】
図1に示した従来のエンジン車用のMTシフトレバー装置においては、トランスミッションとの間がシフトコントロールケーブルにより接続されているため、トランスミッション側にシフトレバー装置のポジション保持機能を持たせることができた。しかしトランスミッションが存在しない電気自動車においては、シフトレバー装置自体にポジション保持機能を持たせる必要がある。以下にこのポジション保持機能を実現するための構造を説明する。
【0021】
図12に示すように、リテーナ10の片側にシフト用ベルクランク30が支持されている。
図5の断面図に示されるように、リテーナ10の側面に短軸31が設けられており、シフト用ベルクランク30の上部がこの短軸31に軸支されている。短軸31の中心線は前記した球軸受12及び球軸13の中心を通る。また、シフト用ベルクランク30の下部には内側に屈曲された屈曲片32が設けられ、この屈曲片32の貫通孔33にレバー本体11が貫通している。このため、レバー本体11をシフト操作すると、その動きに追従してシフト用ベルクランク30は短軸31を中心としてシフト方向に揺動する。
【0022】
シフト用ベルクランク30の先端には、シフト用節度ピン34が設けられている。このシフト用節度ピン34の基部はシフト用ベルクランク30の内部に収納され、図示を略したスプリングによって突出方向に弾発されている。
図3に示すように、リテーナ10の側方にはシフト用節度山35が設けられている。シフト用節度山35は中央と上下の3か所がくぼんだ形状であり、シフト用節度ピン34がシフト用節度山35にスプリングの弾発力により当接している。
【0023】
図3に示すようにレバー本体11がNポジションにあるときにはシフト用節度ピン34はシフト用節度山35の中央のくぼみ36に入っているが、レバー本体11を前方又は後方にシフト操作すると、シフト用節度ピン34は上下のくぼみ37、38に入る。その途中の位置ではシフト用節度ピン34はスプリングを圧縮しながらシフト用節度山35の山を乗り越えることとなる。このためレバー本体11はこれらのくぼみに対応する中央、前方、後方の3か所で安定に保持され、シフトレバーのシフト操作に節度感を得ることができる。次に、セレクト方向のポジション保持機能を説明する。
【0024】
図4と
図13に示すように、リテーナ10の片側にセレクト用ベルクランク40が回転軸41を中心として回転できるように軸支されている。セレクト用ベルクランク40はシフト用ベルクランク30の反対側にある。
図5の断面図に示されるように、前記した球軸13は側方に延びるアーム42を備えており、その先端の球状部43がセレクト用ベルクランク40の中間位置にある係合孔44に係合している。
図11に示すようにレバー本体11をセレクト操作すると、アーム42は球軸13を中心として上下方向に揺動するので、セレクト用ベルクランク40は回転軸41を中心として上下に揺動する。
【0025】
セレクト用ベルクランク40の先端にはセレクト用節度ピン45が設けられている。このセレクト用節度ピン45もシフト用節度ピン34と同様、図示を略したスプリングによって突出方向に弾発されている。
図4に示すように、リテーナ10の側方にはセレクト用節度山46が設けられている。このセレクト用節度山46は中央がくぼんだ形状であり、その上方は斜面47となっており、下方は中央がやや膨らんだ斜面48,49となっている。
【0026】
レバー本体11がNポジションにあるときには、
図4に示すようにセレクト用節度ピン45はセレクト用節度山46の中央のくぼみ50に入っているが、5速、6速に入れるためにレバー本体11を車両の右方向にセレクト操作すると、セレクト用節度ピン45は上方はなだらかな斜面47に当接し、スプリングの弾発力によって中央に押し戻す反力を生ずる。このためNポジションから右方向にセレクト操作を行った状態でレバー本体11から手を離すと、Nポジションの方向に戻される。しかし5速または6速にシフト操作すれば、それらの位置でポジションが保持される。
【0027】
またレバー本体11をNポジションから車両の左方向にセレクト操作すると、セレクト用節度ピン45は斜面48に当接し、やはりスプリングの弾発力によって中央に押し戻す反力を生ずる。しかし1速又は2速に入れるためにシフト操作すれば、それらの位置でポジションが保持される。なお、Rポジションに入れるためにさらに車両の左方向にセレクト操作すると、セレクト用節度ピン45は斜面48を乗り越えて斜面49に当接する。このため中央に押し戻す反力はなくなり、Rポジションにシフト操作すればRポジションで安定的に保持される。
【0028】
以上に説明したように、本発明の電気自動車用シフトレバー装置によれば、エンジン車のマニュアルトランスミッションと同様のシフトパターンでレバー本体11を操作することができ、MTシフトレバーを操作する感覚を得ることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 レバー本体(従来技術)
2 リテーナ
3 シフトアーム
4 セレクトアーム
10 リテーナ(以下、本発明)
11 レバー本体
12 球軸受
13 球軸
14 ポジションセンサーユニット
15 ケース
16 センサー基板
17 スライダ
18 磁石
19 カバー
20 ディテントプレート
21 ロッド
22 ボールジョイント
23 筒状部
24 段部
26 突部
27 突部
28 長溝
29 センサーIC
30 シフト用ベルクランク
31 短軸
32 屈曲片
33 貫通孔
34 シフト用節度ピン
35 シフト用節度山
36 中央のくぼみ
37 上方のくぼみ
38 下方のくぼみ
40 セレクト用ベルクランク
41 回転軸
42 アーム
43 球状部
44 係合孔
45 セレクト用節度ピン
46 セレクト用節度山
47 斜面
48 斜面
49 斜面