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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104803
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】抗炎症剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/085 20060101AFI20240730BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240730BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALN20240730BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
A61K31/085
A61P29/00
C12N5/0786
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009164
(22)【出願日】2023-01-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年9月 6日掲載 https://europepmc.org/article/ppr/ppr540600
(71)【出願人】
【識別番号】596161031
【氏名又は名称】株式会社渡辺オイスター研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100082658
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 儀一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 貢
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C206
【Fターム(参考)】
4B063QA06
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QQ61
4B063QQ98
4B063QR68
4B063QR77
4B063QS08
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX02
4B065AA92X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BB06
4B065CA44
4B065CA46
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA27
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZB11
(57)【要約】
【課題】本発明は、DHMBAを添加して培養すると、マウス炎症性マクロファージRAW264.7 細胞の増殖を阻害し、細胞死を促し、細胞数を減少させることを明らかとし、さらに、 DHMBAはLPSで培養したRAW264.7細胞の炎症性サイトカイン産生の亢進を抑制することが見出され、特に、LPS刺激によるRAW264.7細胞の破骨細胞形成がDHMBA処理によって抑制されることを明らかとし、DHMBAを用いた炎症性疾患に対する有用な治療手段を提供するものである。
【解決手段】本発明は、3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分とした抗炎症作用を有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分とした抗炎症作用を有する、
ことを特徴とする抗炎症剤。
【請求項2】
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分とした
炎症性マクロファージの活性を抑制する作用を有する、
ことを特徴とする炎症性マクロファージの活性抑制剤。
【請求項3】
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分としたRAW264.7 細胞の増殖を抑制する作用を有する、
ことを特徴とするRAW264.7細胞の増殖抑制剤。
【請求項4】
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分としたLPSで培養したRAW264.7細胞の増殖を抑制する作用を有する、
ことを特徴とするLPSで培養したRAW264.7細胞の増殖抑制剤。
【請求項5】
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分としたRAW264.7細胞の死滅を促進する作用を有する、
ことを特徴とするRAW264.7細胞の死滅促進剤。
【請求項6】
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分としたRAW264.7 細胞における炎症性サイトカイン産生を抑制する作用を有する、
ことを特徴とするRAW264.7細胞における炎症性サイトカイン産生抑制剤。
【請求項7】
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分としたRAW264.7 細胞における炎症性サイトカイン産生を抑制する作用を有する、
ことを特徴とするRAW264.7 細胞における炎症性サイトカイン産生抑制剤。
【請求項8】
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分としたRAW264.7細胞の破骨細胞形成を抑制する作用を有する、
ことを特徴とするRAW264.7細胞の破骨細胞形成抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炎症は、多くの疾患の病因に関与している。炎症性サイトカインは、 リポ多糖(lipopolysaccharide; LPS)の刺激によりマクロファージにより産生され、様々な病態に関与するバイオマーカーとして臨床医学的に利用されている。
海洋因子である3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (以下、DHMBAと称する場合もある)は、マガキ(Crassostrea gigas) から発見された。
DHMBAは、酸化ストレスの軽減、ラジカル消去、細胞における抗酸化タンパク質の誘導という特性を持っている。しかし、DHMBAの薬理学的な役割は、ほとんど理解されていない。
【0003】
本発明は、DHMBAが炎症性マウスマクロファージRAW264.7細胞の増殖、サイトカイン産生および破骨細胞形成を抑制するのかについて検証するために実施された。
【0004】
DHMBA (1-1000 μM)を用いた細胞の培養では、in vitro での 炎症性マウスマクロファージRAW264.7 細胞の増殖を抑制し、その細胞死を誘発し、細胞数を減少させることが明らかになった。DHMBAは、Ras、PI3K、Akt、MAPK、phospho-MAPK、 mTOR といった細胞増殖を促進するシグナル伝達因子の発現レベルを低下させると共に、細胞の増殖を抑制するp53、p21、Rb、レギュカルシンの発現レベルを上昇させることが明らかになった。さらに、DHMBA処理により、カスパーゼ-3 および切断型カスパーゼ-3のレベルが上昇し、細胞死の誘導のメカニズムが示唆された。
【0005】
LPS刺激により、tumor necrosis factor-α, interleukin-6, interleukin-1β または prostaglandin E2 など炎症性サイトカインの産生が増大された。これらの増大は、細胞をDHMBAで培養することにより阻止された。注目すべきことは、NF-κB p65 のレベルが LPS処理によって増加し、この増加はDHMBA処理によって抑制されたことである。さらに、このことと関連して、LPS処理によって RAW264.7 細胞の破骨細胞形成が増進し、この刺激はDHMBA処理によってブロックされた。このように、DHMBAはin vitroで炎症性マクロファージの活性を抑制することが発明され、炎症性疾患に対する治療的有用性が示されたものである。
【0006】
(はじめに)
炎症は、傷害を与える動機に対する体組織の複雑な生物学的反応であり、また、免疫細胞、血管、分子メディエーターが連携した生体防御反応である。インターロイキン(IL)や腫瘍壊死因子(TNF)-αなどの炎症性サイトカインは、慢性的なヒトの筋肉痛や変形性関節症におけるバイオマーカーとして知られている。これらのサイトカインは、炎症状態にあるマクロファージによって産生される。特に、炎症性マクロファージは、癌細胞の進行、転移、血管新生を促進する可能性が注目されている。
【0007】
RAW264.7 細胞は、単球/マクロファージ様細胞系である。この細胞系は、マクロファージが介在する免疫、代謝、貪食機能に関して、特徴づけられている。RAW264.7 細胞は、in vitroの炎症状態におけるマクロファージのモデル細胞として使用されており、この細胞株は破骨細胞形成研究のモデル細胞としても注目されている。破骨細胞は、単球-マクロファージ系から分化した細胞である。リポ多糖(LPS)は、グラム陰性菌のコア抗原であり、宿主の自然免疫系を活性化する。LPSは、組織に持続的な炎症刺激を与えるエンドトキシンである。LPSは、NF-κB 関連シグナル経路と転写活性を調節することにより、RAW264.7細胞の破骨細胞形成を誘導する。
【0008】
新規のフェノール系抗酸化物質である 3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシべンジルアルコール(DHMBA)は、もともとマガキの Crassostrea gigas から同定された。DHMBAは、酸化ストレスの軽減、ラジカル消去、細胞における抗酸化タンパク質の誘導という特性を有している。DHMBAは、ヒドロキシルラジカルを除去することが示されている。また、DHMBAは、ラットとマウスのグルタミン酸ニューロンの過剰な活性に対する予防効果が報告されている。DHMBAは、抗酸化物質として細胞機能の調節に関与している可能性がある。さらに、最近の研究では、DHMBAが転移性前立腺癌細胞の増殖を抑制することが実証され、DHMBAによる前立腺癌治療の新しい戦略を提供している。さらに、DHMBAの薬理作用を解明することは、様々な疾患の治療において重要であると考えられる。
【0009】
本発明は、DHMBAが、炎症性疾患の治療薬として応用できるのかを探索するために、in vitroで炎症性マクロファージの活性に影響を与えるかどうかを明らかにするために実施された。その結果、本発明において、DHMBAを添加して培養すると、マウス炎症性マクロファージRAW264.7 細胞の増殖を阻害し、細胞死を促し、細胞数を減少させることが明らかになった。
【0010】
さらに、 DHMBAはLPSで培養したRAW264.7細胞の炎症性サイトカイン産生の亢進を抑制することが見出された。特に、LPS刺激によるRAW264.7細胞の破骨細胞形成がDHMBA処理によって抑制されることが明らかになった。このように、新規海洋性因子DHMBAはマクロファージに起因する炎症病態に対して薬理効果を発揮する可能性がある。本発明は、DHMBAを用いた炎症性疾患に対する有用な治療手段を提供するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2017-132753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、DHMBAが、炎症性疾患の治療薬として応用できるのかを探索するために、in vitroで炎症性マクロファージの活性に影響を与えるかどうかを明らかにするために実施された。その結果、本発明において、DHMBAを添加して培養すると、マウス炎症性マクロファージRAW264.7 細胞の増殖を阻害し、細胞死を促し、細胞数を減少させることが明らかになった。
【0013】
さらに、 DHMBAはLPSで培養したRAW264.7細胞の炎症性サイトカイン産生の亢進を抑制することが見出された。特に、LPS刺激によるRAW264.7細胞の破骨細胞形成がDHMBA処理によって抑制されることが明らかになった。このように、新規海洋性因子DHMBAはマクロファージに起因する炎症病態に対して薬理効果を発揮する可能性がある。本発明は、DHMBAを用いた炎症性疾患に対する有用な治療手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分とした抗炎症作用を有する、
ことを特徴とし、
または、
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分とした炎症性マクロファージの活性を抑制する作用を有する、
ことを特徴とし、
または、
本発明は、3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分としたRAW264.7 細胞の増殖を抑制する作用を有する、
ことを特徴とし、
または、
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分としたLPSで培養したRAW264.7細胞の増殖を抑制する作用を有する、
ことを特徴とし、
または、
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分としたRAW264.7細胞の死滅を促進する作用を有する、
ことを特徴とし、
または、
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分としたRAW264.7 細胞における炎症性サイトカイン産生を抑制する作用を有する、
ことを特徴とし、
または、
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分としたRAW264.7 細胞における炎症性サイトカイン産生を抑制する作用を有する、
ことを特徴とし、
または、
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)を有効成分としたRAW264.7細胞の破骨細胞形成を抑制する作用を有する、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
DHMBAが、炎症性疾患の治療薬として応用できるのかを探索するために、in vitroで炎症性マクロファージの活性に影響を与えるかどうかを明らかにするために実施された。その結果、本発明において、DHMBAを添加して培養すると、マウス炎症性マクロファージRAW264.7 細胞の増殖を阻害し、細胞死を促し、細胞数を減少させることが明らかになった。
【0016】
さらに、 DHMBAはLPSで培養したRAW264.7細胞の炎症性サイトカイン産生の亢進を抑制することが見出された。特に、LPS刺激によるRAW264.7細胞の破骨細胞形成がDHMBA処理によって抑制されることが明らかになった。このように、新規海洋性因子DHMBAはマクロファージに起因する炎症病態に対して薬理効果を発揮する可能性があり、本発明は、DHMBAを用いた炎症性疾患に対する有用な治療手段を提供出来るとの効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)の化学構造を示す説明図である。DHMBAの分子式はC8H10O4で、分子量は170.164である。
図2】海洋因子3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA) はマウスマクロファージRAW264.7 細胞の増殖を抑制することを説明する説明図である。RAW264.7細胞(24ウェルプレートで1ウェルあたり1x105 cells/ml)を、10% FBS (牛胎児血清), 1% P/S (ペニシリン/ストレプトマイシン), 1% fungizoneを含むDMEM培養液中で、対照群(最終濃度として1%エタノール含有、DHMBA 0μM)またはDHMBA(0.1、1、10、100、1000μM)添加群において、1(図A)、2(図B)、3(図C)、および 4(図D)日間培養した。培養後、ディッシュ上に付着した細胞数をカウントした。データは、異なる細胞調製物を用いて、2枚のプレートの合計8ウェルから得られた平均値± SD (標準偏差)として表示されている。*:対照群(グレーバー)とDHMBA添加群を比較して、p<0.001で有意差有り。統計処理は、1-way ANOVA, Tukey-Kramer post-testを用いた。
図3】海洋因子3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA)は、マウスマクロファージRAW264.7細胞の増殖に関連する様々なタンパク質のレベルを調節していることを説明する説明図である。 RAW264.7細胞(1x106 cells/10 ml of medium in 100 mm dish)を、10% FBS, 1% P/S, 1% fungizoneを含むDMEM培養液中で、対照群(最終濃度として1%エタノール含有、DHMBA 0μM)またはDHMBA(10μM)添加群において、3日間培養した。培養後、プロテアーゼ阻害剤を含む細胞溶解バッファー中でセルスクレーパーを用いてディッシュから細胞を除去した。レーンあたり40μgの上清タンパク質をSDS-PAGE(12%)に添加して、泳動分離し、ナイロン膜に転写して、様々なタンパク質に対する抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。図3(A)は代表的なデータを示す。図3(B) バンドは対照の倍数で示した。データは、異なる細胞調製物を用いて4枚のディッシュから得られた値の平均値± SDとして提示されている。*:対照群とDHMBA添加群を比較してp<0.001で有意差ありを説明した。統計処理は、1-way ANOVA, Tukey-Kramer post-testを用いた。
図4】海洋因子3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA) はマウスマクロファージRAW264.7 細胞死を刺激することを説明する説明図である。RAW264.7細胞(24ウェルプレートに1x105 cells/ml/ウェル)を10% FBSと1% P/Sおよび1% fungizoneを含むDMEMで、サブコンフルエンスに達する3日間培養し、さらに細胞を、対照群(最終濃度として1%エタノール含有、DHMBA 0μM)またはDHMBA(0.1、1、10、100、1000μM)添加し、24(図4A)時間または48(図4B)時間培養した。(図4C) サブコンフルエンスに達したRAW264.7細胞を、カスパーゼ3阻害剤(10 μM)と共に、対照群(最終濃度として1%エタノール、DHMBA 0μM)またはDHMBA(1または10 μM)添加し、48時間追加培養した。培養後、ディッシュ上に付着した細胞数をカウントした。データは、異なる細胞調製物を使用した2枚のプレートの合計8ウェルから得られた平均値± SDとして提示されている。(図D)カスパーゼ-3または切断型カスパーゼ-3の発現レベルを測定するために、PC-3細胞(100mmディッシュに1x106 cells/10 mlの培地)を、対照群(最終濃度として1%のエタノール、DHMBA 0μM)またはDHMBA(10μM)添加し、DMEM培養液中で3日間培養した。培養後、ウェスタンブロッティングのアッセイのために細胞溶解物を得た。(図4D) 代表的なデータを示す。(図E) バンドは対照の倍数で示した。データは、異なる細胞調製物を用いて4枚のディッシュから得られた値の平均値± SDとして提示されている。*:対照群とDHMBA添加群を比較してp<0.001で有意差有りを説明した。統計処理は、1-way ANOVA, Tukey-Kramer post-testを用いた。
図5】3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA) のマウスマクロファージRAW264.7 細胞の増殖および死に対する作用は、リポポリサッカライド(LPS) の刺激の有無にかかわらず発現する状態を説明する説明図である。 (図5A) 細胞増殖への影響を調べるため、RAW264.7細胞(1x105 /ml/ウェル)を10% FBSと1% P/Sと1% fungizoneを含むDMEM培養液中で、対照群(最終濃度として1%エタノール含有)またはLPS(1、10、50、100、500 ng/ml)添加し、3日間培養した。(図5B) 細胞(1x105 /ml per well) を、10% FBS と1% P/S と1% fungizone を含むDMEM 培養液中で、DHMBA (1 または10μM) の存在下で、LPS (100 ng/ml) の添加と共に、またはLPS を含まずに、3日間培養した。(図5C)細胞死への影響を調べるために、3日間培養してサブコンフルエンスに達した細胞を、さらに、対照群(1%エタノール)またはリポポリサッカライド(LPS)(1、10、50、100、または500ng/ml)添加群で、48時間培養した。(図5D) サブコンフルエンスに達した細胞を、LPS (100 ng/ml) とともに、またはLPS を含まないDHMBA (1 または10 μM) 存在下で48時間培養した。培養後、ディッシュ上の接着細胞数を数えた。データは、異なる細胞調製物を用いて、2枚のプレートの合計8ウェルから得られた平均値±SDとして示される。*: LPSなし(図Aおよび図5C)(グレーのバー)またはDHMBAなし(図5Bおよび図5D)(グレーのバー)と比較して、p<0.01で有意差有り。統計処理は、1-way ANOVA, Tukey-Kramer post-testを用いた。
図6】3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)のマウスマクロファージRAW264.7細胞数に対する作用は、リポポリサッカライド(LPS)刺激にかかわらずに効果を発現することを説明する説明図である。 RAW264.7細胞(1x105 /ml/ウェル)を、10% FBSおよび1% P/Sと1% fungizoneを含むDMEM培養液中で培養した。対照群(最終濃度として1%のエタノール含有、DHMBA 0μM)あるいはDHMBA(0.1、1、10、100、 1000μM)添加し、5時間培養した(図6A)。 細胞(1x105 /ml per well) を、LPS(全ての培養液中に100 ng/mlを添加)を添加して、10% FBS と1% P/S と1% fungizone を含むDMEM 培養液中で、3 日間培養した。対照群(最終濃度として1%のエタノール含有,DHMBA 0μM)あるいはDHMBA(0.1、1、10、100、 1000μM)添加し、5時間培養した(図6B)。 培養後、ディッシュ上に付着した細胞数を数えた。データは、異なる細胞調製物を用いて、2枚のプレートの合計8ウェルから得られた平均値± SDとして示される。細胞数は、DHMBAおよび/またはLPS処理によって、対照(グレーのバー)と比較して、有意な変化は見られなかった。1-way ANOVA, Tukey-Kramer post-testおよび/またはLPS処理によって、対照(グレーのバー)と比較して、有意な変化は見られなかった。 統計処理は、1-way ANOVA, Tukey-Kramer post-testを用いた。
図7】海洋因子3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA) はマウスマクロファージRAW264.7 細胞のリポ多糖(LPS) 刺激によるTNF-α, IL-6, IL-1β, PGE2 の産生を抑制することを説明する説明図である。 RAW264.7細胞(24ウェルプレートに1ウェルあたり1x105 /ml)をDHMBA非添加で、DMEM培養液中でサブコンフルエンスに達する3日間培養した。その後、細胞培養液に、対照群(1%エタノール含有、DHMBA 0μM)とDHMBA(0.1、1、10、100または1000μM)添加群を、LPS(100 ng/ml)の添加あるいは非添加で、さらにそれらを5時間インキュベーションした。培養後、培養液を回収し、培養液中のTNF-α (図7A), IL-6 (図7B), IL-1β (図7C), PGE2 (図7D)のサイトカイン濃度をELISA Kitで測定した。データは、異なる細胞調製物を用いて、2枚のプレートの合計8ウェルから得られた平均値± SDとして示される。*:DHMBAとLPSを含まない対照(white bar)に対して、P<0.001で有意差有り。#: LPSありで、かつDHMBAなしの対照に対して、P<0.001で有意差有り。統計処理は、1-way ANOVA, Tukey-Kramer post-testを用いた。
図8】マウスマクロファージRAW264.7細胞におけるリポポリサッカライド(LPS)刺激に伴うCOX-1、COX-2、MAPK、リン酸化MAPK、NF-κB p65およびSTAT3の発現レベルに対する海洋因子3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol(DHMBA)の作用を説明する説明図である。 細胞(1x106 cells/10 ml of medium)は、DMEM培養液中で、サブコンフルエンスに達する3日間培養した。その後、LPS(100ng/ml)無添加または添加で、対照群(1%エタノール含有、DHMBA 0μM)またはDHMBA(10μM)添加し、さらに5時間培養した。培養後、細胞溶解物を、図3に記載されているように、COX-1、COX-2、MAPK、phospho-MAPK、NF-κB p65、STAT3およびβ-アクチンに対する特異抗体を用いてウェスタンブロットのアッセイのために得た。 代表データを提示する(図8A)。バンドは、LPSなし(図8B)、LPS(100 ng/ml)単独(図8C)、およびLPS(100 ng/ml)とDHMBA(10μM)を用いた対照の倍数として提示された(図8D)。データは、異なる細胞調製物を用いて4枚のディッシュから得られた値の平均値± SDとして示される。*:LPS無添加の対照に対してp<0.01で有意差有り(図8C)。*:DHMBAを用いずLPSを用いた対照に対してp<0.01 で有意差有り(図8D)。統計処理は、1-way ANOVA, Tukey-Kramer post-testを用いた。
図9】海洋因子 3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol(DHMBA)はマウスマクロファージRAW264.7 細胞のリポポリサッカライド(LPS)刺激により増強される破骨細胞形成を阻害することを説明する説明図である。 細胞(24ウェルプレートで1 x 105 cells/1 ml per well)を、対照群(最終濃度として1%エタノール含有)またはLPS(100 ng/ml)の存在下、DHMBA(0.1、1、10、100μM)添加または無添加で10%FBS、1%P/S、1%ファンギゾンを含むDMEMで3日間培養し、古い培養液をLPSおよび/またはDHMBAを含む新しい調整培養液で置換(0.5ml)して、さらに3日間培養をした(図9A)。細胞(24ウェルプレートで1×105 cells/1 ml per well)をDHMBAを含まないで、LPS(100 ng/ml)を含む上記DMEM培養液中で3日間培養した後、0.5 mlの古い培地をLPS(100 ng/ml)および/またはDHMBA(0.1、1、10または100μM)を含む新鮮な培地(0.5 ml)に交換して3日間追加培養をした(図9B)。培養後、プレートに付着した細胞を固定し、破骨細胞のマーカー酵素であるtartrate-resistant acid phosphatase(TRACP)により染色した。TRACP陽性の多核細胞(MNC)(核が3個以上)を顕微鏡下で破骨細胞様細胞として数えた(40倍)。データは、異なる細胞調製物を用いて、1データセットあたり2プレートの合計8ウェルから得られた平均値± SDとして表示されている。*:対照(white bar)に対してp<0.001で有意差有り。#: LPS(gray bar)に対してp<0.001で有意差有り。統計処理は、1-way ANOVA, Tukey-Kramer post-testを用いた。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本件発明者らは、DHMBAを添加しての細胞の培養を行った。そして、前記培養した細胞は、マウス炎症性マクロファージRAW264.7 細胞の増殖を阻害し、細胞死を促し、細胞数を減少させることが明らかになった。
【0019】
さらに、 DHMBAはLPSで培養したRAW264.7細胞の炎症性サイトカイン産生の亢進を抑制することが見出された。 特に、LPS刺激によるRAW264.7細胞の破骨細胞形成がDHMBA処理によって抑制されることが明らかになった。このように、新規海洋性因子DHMBAはマクロファージに起因する炎症病態に対して薬理効果を発揮する可能性がある。本発明は、DHMBAを用いた炎症性疾患に対する有用な治療手段を提供するものと確信できた。
【0020】
(実験例)
材料と方法
試薬
4.5g/L グルコース、L-グルタミンおよびピルビン酸ナトリウムを含むダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modification of Eagle’s Medium、DMEM)および抗生物質(100 単位/mL ぺニシリンおよび 100μg/mL ストレプトマイシン; 1%P/S)はコーニング(Mediach,Inc,Manassas, VA,USA)より入手した。
ウシ胎児血清(fetal bovine serum; FBS)は、Hyclone (Logan,UT,USA) から購入した。アンフォテリシン B(ファンギゾン)、カスパーゼ-3 阻害剤(CAS 169332-60-9-Calbiochem)、リポポリサッカライト(lipopolysaccharide; LPS)、および他のすべての 試薬は、特に指定しない限り、 Sigma-Aldrich(セントルイス、MO、USA)より購入した。
カスパーゼ-3阻害剤は滅菌リン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline; PBS)で希釈した。その他の試薬は 100%エタノールに溶解し、使用時まで-20°Cで保存した。
3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール:
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA) は、新規な両親媒性フェノール化合物で、例えば、マガキ(Crassostrea gigas)から抗酸化物質としての特徴を持つものとして単離された。しかしながら、本発明では、合成されたDHMBAを使用している。合成されたDHMBA であっても前記マガキ(Crassostrea gigas)から抽出されたDHMBA と同等の効果を有する。
ここで、DHMBAの化学構造式を図1に示す。
尚、合成されたDHMBAの純度は100%であった。そして、該DHMBAは、例えば100%エタノールに溶解し、使用するまで、-20 oCで、保存した。
【0021】
RAW264.7 細胞
RAW264.7細胞は、BALB/cマウス由来のアべルソン白血病ウイルス形質転換細胞系に由来する単球/マクロファーシ様細胞系である。マウスマクロファージRAW264.7 細胞は、American Type Culture Collection (Rockville, MD, USA)から入手した。RAW264.7 細胞は、10% FBS、1% P/Sおよび1% fungizoneを含む Dulbecco’s Modification of Eagle’s Medium (DMEM) 中で培養した。
【0022】
細胞増殖のアッセイ
RAW264.7細胞(24 ウェルプレートで1x105 /ml/ウェル)を、10% FBS、1% P/S および1% fungizone を含む DMEM培養液中で3日間、24ウェルプレートを用いて培養した。サブゴンフルエンスに到達した細胞を、対照群(最終濃度としてPBSまたは1%エタノールを含む、DHMBA 0μM)または DHMBA(0.1、1、10、100 または 1000μM含有)添加し、さらに24時間または48時間培養した。
他の実験において、上記のように、3日間培養してサブコンフルエンスに達した細胞(1x105 /ml/ウェル)を、カスパーゼ-3阻害剤(10μM)と共に、または、なしで、対照群 (最終濃度として1%エタノール含有、DHMBA 0μM)または DHMBA(1または10μM)添加群のいずれかの存在下でさらに48時間培養した。
また、追加の実験では、RAW264.7細胞の死に対するDHMBAの効果を確立するために、RAW264.7細胞をLPS 存在下で培養し、その細胞(1x105 /ml per well、24 穴プレート)を DMEM培養液(10%FBS、1%P/S、1%fungizone 含有)中でサブコンフルエンスに達する3日間培養した。さらに、細胞をDHMBA(1または 10μM含有)添加または無添加で、対照群(最終濃度として1%エタノール含有)または LPS(1、10、50、100 または 500 ng/ml 培養液中に添加)のいずれかで、48時間培養した。培養後、「細胞増殖のアッセイ」の項で説明したように、1ウェルあたり Ca2+ /Mg2+ -free PBS に 0.05%トリプシン + EDTA溶液(0.1 ml)を加えて細胞を剥がし、下記の「細胞数の測定」の項で説明したようにして、細胞数を計数した。
【0023】
細胞数の測定
培養後、各ウェル上の細胞を剥離するために、培養皿にCa2+ /Mg2+ -free PBSに 0.05%トリプシン+EDTAを展開した溶液(各ウェルあたり 0.1 ml)を加えて 37°Cで2分間インキュベートし、先行研究で説明したように10% FBSおよび1% P/S を含むDMEM(0.9 ml)を加えて細胞を剥がした。
顕微鏡(Olympus MTV-3)を用い、Hemocytometer(Sigma-Aldrich)を 用いて、セルカウンター(Line Seiki H-102P、東京、日本)により生細胞数を計数した。
各ディッシュについて、2回のカウントの平均をとった。細胞数はウェルあたりの数で示した。
【0024】
サイトカイン産生量の測定
RAW264.7細胞(1x105 /ml per well)を10%FBSおよび1%P/Sを含むDMEM培養液中で24ウェルプレートを用いてサブコンフルエンスに達した状態の3日間培養し、さらに、LPS(100 ng/ml)添加または無添加で、 対照群(最終濃度として1%エタノールを含有、DHMBA 0μM)または DHMBA(0.1、1、10、100、1000μM含有)処理後に、細胞を5時間培養した。培養後、サイトカインを測定するために、培養液を回収した。その後、各培養皿から細胞を剥離し、「細胞数の測定」に記載の方法で細胞数を測定した。培養液中の TNF-α、IL-6、IL-1β または PGE2 の濃度は、ELISA kitを用いて測定した。TNF-α(カタログ番号(cat.no.BM)、KHC301)]およびIL-1β(cat.no,BMS6002)は、ThermoFisher Scientific (Waltham, MA, USA)から入手したものを用いて、また、IL-6(cat.no. 583371)およびPGE2(cat.no. 514010) は、Cayman Chemical (Ann Arbor, MI, USA)から購入したもので測定した。各サイトカインの産生量は、培養液(ml) 中に分泌されたピクトグラム(pg)で示した。
また、サイトカインシグナルに関与する Cox-1、Cox-2、NF-κB p65、STAT3 の発現レベルを測定するために、RAW264.7 細胞(1x106 cells/10 ml of 100 mm dish) を、10% FS、1% P/S、1% fungizoneを含むDMEM培養液中でサブコンフルエンスに達する3 日間培養し、さらに、LPS(培地中に100 ng/ml)添加または無添加において、対照群(最終濃度として1%のエタノール含有、DHMBA 0μM)または DHMBA(10μM含有)添加群のいずれかで、5 時間培養をした。培養後、「ウェスタンブロッティング」の項に記載したように、ディッシュに付着している細細胞溶解バッファーを用いて掻き取り、回収し、測定に用いた。
【0025】
ウェスタンブロッティング
RAW264.7 細胞(1x106 cells/10 ml of 100 mm dish)を、10%FBS、1%P/Sして1%エタノールを含有)または DHMBA (10μM含有)添加群のいずれで3日間培養した。培養後、浮遊細胞および死細胞を除くために冷PBS(10ml)で、ディッシュを洗浄し、以前の研究で説明したように、プロテアーゼおよびタンパク質ホスフ ァターゼ阻害剤(Roche Diagnostics, Indianapolis, IN, USA)を補充した細胞溶解バッファー(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA)を添加して、付着細胞の細胞溶解液を回収した。その細胞溶解液は、17,000xg, 4°Cで、10分間遠心分離した。上清中のタンパク質濃度は、Bio-Rad Protein Assay Dye (Bio-Rad Laboratories, Inc., Hercules, CA, USA) を用いて、ウシ血清アルブミンを標準物質として、測定した。細胞溶解液は使用するまで-80°Cで保存した。上記の上清タンパク質(40μg/レーン)をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(12%SDS-PAGE)で分離し、PVDF膜に転写した。転写した膜を、Ras(cat.no. 3339、ウサギ)、Akt(cat.no.9272、ウサギ)、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ (MAPK; cat.no.4695、ウサギ)、リン酸化MAPK(cat.no.4370、ウサギ)、ラパマイシン機構的標的(mTOR、cat.no.4517、マウス), Rb (cat.no.9309、マウス)、p21 (cat.no.2947、ウサギ)、STAT3(cat.no.12640、ウサギ)、COX-1(cat.no.48415)、COX-2(cat.no.4842)、およびβ-アクチン(cat.no.3700、マウス)などは、Cell Signaling Technology (Danvers, MA, USA)から購入した種々のタンパク質に対する特異抗体を用いて免疫ブロットした。一方、p53 (cat.no. sc-126、マウス)およびNF-κB p65( cat.no. sc-109、ウサギ)の特異抗体は、Santa Cruz Biotechnology (Santa Cruz, CA, USA)から、購入したものえお用いた。さらに、ウサギの抗レギュカルシン抗体は、 Sigma-Aldrich から入手した(cat.no.HPA029103、ウサギ)ものを使用した。標的タンパク質を、 上記のように一次抗体のうちの1つ(1:1,000)と共に 4°Cで一晩インキュベートした。インキュベーション後、膜をさらに西洋わさびペルオキシダーゼ標識二次 抗体(Santa Cruz Biotechnology、マウス cat.no.sc-2005 またはウサギsc- 2305; 希釈 1:2000)中で室温で、60分間インキュベートし、X線フィルム上のケミルミネセンス基質(cat.no. 34577、Thermo Scientific, Rockford, IL, USA)を使用してタンパク質バンドを検出した。別々の膜を用いて、4つの独立した実験からの合計3または4フィルムをEpson Perfection 1660 Photo スキャナーでスキャンし、バンドをImage J2 ソフトウェア(National Institutes of Health, Bethesda, MD, USA)用いて、定量化した。さらに、追加抗体を用いたイムノブロットでは、restore Western blot stripping buffer (cat. no. 21059; Thermo Scientific, Rockford, IL, USA) を用いて、室温で30分間インキュベートして、付着したChemiluminescence substrate (Thermo Scientific)を除去して、さらに他のタンパク分子の測定に使用した。
【0026】
破骨細胞形成の測定
RAW264.7 細胞(24ウェルプレートで1×105 cells/1 ml per well)を、対照群(培養液中に最終濃度として1%エタノールを含む)または LPS(培養液中に100 ng/mlを含む)添加群にDHMBA(0.1、1、10、or 100 μM含有)を含むかあるいは含まない 10% FBS, 1% P/S, 1% fungizone 含有DMEM培養液中で3日間培養し、古い培地を上記 LPSまたは DHMBA を含む新鮮培地で置換(0.5ml) し、さらに細胞を3日間培養した。別の実験においては、RAW264.7細胞(24 ウェルプレートで 1×105 cells/1 ml per well)を、DHMBAを含まない対照群(培養液中に最終濃度として1%エタノールを含む)またはLPS (培養液中に100 ng/mlを含む)添加群を含む 10%の FBS、1%の P/S および1%のファンジゾーンを含む DMEM で、3日間培養した。さらに、0.5ml の古い培地を、DHMBA(最終濃度 0.1、1、10、100μM含有)を含む対照群 (最終濃度 1%エタノール)またはLPS(培 地 100ng/ml)添加群のいずれかを含む新しい培地(0.5ml)に置き換え、3日間培養した。プレートに接着した RAW264.7 細胞を固定し、破骨細胞のマーカー酵素である tartrate-resistant acid phosphatase (TRACP) を染色した 。染色は、培養後、細胞をPBS溶液で洗浄し、10%中和ホルマリン-リン酸塩(pH7.2)で1分間固定した。固定した細胞は,10 mM 酒石酸ナトリウムの存在下,反応生成物の染色としてナフトール AS-MX リン酸塩(シグマアルドリッチ)を含む酢酸 バッファー(pH5.0)中で、室温において10 時間インキュベートした。3 個以上の核を含むTRACP陽性多核細胞(MNC)を破骨細胞様細胞として顕微鏡(40 倍)(Olympus MTV-3; Olympus Corporation, Tokyo, Japan)下で計数した。破骨細胞様TRACP陽性 MNCの数を評価するために、1ウェルあたり1フィールドを写真撮影し、ImageJ2 ソフトウェアを用いて測定した。破骨細胞様TRACP陽性 MNCの数は、光学顕微鏡(40x)(Olympus MTV-3; Olympus Corporation, Tokyo, Japan)下で無作為に5フィールドにおいて計数し、平均を算出した。
【0027】
統計解析
統計的有意性は、GraphPad InStat version 3 for Windows XP (GraphPad Software Inc. La Jolla, CA)を用いて推定した。データは平均値±標準偏差(SD)で示した。2群間 の統計的有意差を計算するためにStudent-t-testを用いた。多重比較は、示されたようにパラメトリックデータに対してTukey-Kramer多重比較後検定を用いた一元配置分散分析(ANOVA)により行った。p値<.05は統計的に有意であるとみなした。
【0028】
結 果
DHMBAは RAW264.7 細胞の増殖を抑制する。
まず、DHMBAがマウスマクロファージRAW264.7細胞の増殖に影響を与えるかどうかを究明した(図2)。RAW264.7 細胞を対照群(最終濃度 1%エタノー ルを含有、DHMBA 0μM)または DHMBA(0.1、1、10、100、1000μM)添加群で1、2、 3、および4 日間培養した。RAW264.7 細胞の増殖は、DHMBA(1、10、100、または 1000μM)添加で1-4日間培養することにより阻止された。このように、DHMBAは、in vitroで、RAW264.7細胞の増殖を抑制することが見出された。
DHMBAがRAW264.7細胞の増殖を抑制する基本的なメカニズムをよりよく理解するために、DHMBAがRAW264.7 細胞の増殖に関連する主要なタンパク質の発現を制御しているかどうかを調べた(図3)。DHMBA(10μM)で細胞を培養すると、RAW264.7 細胞の増殖促進に関与するRas、PI3 キナーゼ、Akt、MAPK、 phospho-MAPK、mTOR のレベルが低下し、また、細胞増殖の抑制につながるレギュカルシンの発現レべルが増加することが見出された。これらの結果は、DHMBAがRAW264.7細胞の増殖を抑制するメカニズムには、シグナル伝達タンパク質と細胞増殖抑制因子の変化が関与していることを示唆している。
【0029】
DHMBA は RAW264.7細胞の死滅を促進する。
さらに、DHMBAがマウスマクロファージRAW264.7細胞の死滅に影響を与えるかどうかを明らかにした。細胞をサブコンフルエンスに達した時点で3日間培養し、さらに対照群 (最終濃度 1%エタノールを含有、DHMBA 0μM)または DHMBA(0.1、1、 10、100、1000μM)添加群のいずれかで24時間または48時間培養した。 RAW264.7細胞の死滅は、DHMBA(1、10、100、または 1000 μM)で 24時間(図4A)または48時間(図4B)培養することで促進された。RAW264.7 細胞の死に対するDHMBA(1 または 10 μM)の刺激効果は、カスパーゼー3阻害剤 (10 μM)の存在によってブロックされた(図4C)。ウェスタンブロッティングの結果、DHMBA(10 μM)と共に培養することにより、細胞内のカスパーゼ-3および切断型カスパーゼ-3のレベルが増加することが示された(図4D)。これらの結果は、DHMBAがマウスマクロファージ RAW264.7 細胞のアポトーシス細胞死を刺激することを示唆している。
【0030】
LPSで培養した RAW264.7 細胞に対する DHMBAの効果
次に、LPS処理した炎症性マクロファージRAW264.7細胞に対するDHMBAの抑制効果について検討した。LPSは、マウスマクロファージRAW264.7細胞の炎症活性を高めることがよく知られている。LPS存在下で培養したRAW264.7細胞に対して、DHMBAがin vitroで増殖抑制作用または死滅促進作用を減弱させるかどうかを検討した(図5)。RAW264.7細胞をLPS(1、10、50、100、500 ng/ml 含有培養液)存在下で3日間培養した。LPS(1、10、50、100 ng/ml)添加で培養してもRAW264.7細胞の増殖は変化しなかったが、より高濃度のLPS(500 ng/ml)で培養すると、増殖が抑制された(図5A)。LPS(100 ng/ml)存在下、DHMBA (1または10 μM)でも RAW264.7 細胞の増殖が抑制された(図 5B)。
このように、DHMBAの細胞増殖抑制効果は、LPSの存在下においても、発現された。
LPS存在下で培養した細胞死に対するDHMBAの影響を調べるため、さらに、3 日間培養してサブコンフルエンスに達したRAW264.7細胞をLPS(1、10、50、100、500 ng/ml)培養液に含め、48時間追加培養した(図 5C)。LPS(1、10、50、100 ng/ml)添加を持っての培養は、細胞数に優位な影響を与えなかったが、より高濃度のLPS(500 ng/ml)添加はRAW264.7細胞の死を促進させた。LPS(100 ng/ml) 存在下では、DHMBA(1 または 10 μM)の RAW264.7 細胞死作用が発現された(図 5D)。これらの結果は、DHMBAがLPS(100 ng/ml)存在下でRAW264.7 細胞の数を減少させる活性を保持していることを示した。
【0031】
DHMBA は RAW264.7 細胞における炎症性サイトカイン産生を抑制する。
さらに、LPS(100 ng/ml)存在下で培養したマウスマクロファージ RAW264.7 細胞において、DHMBAが in vitro で炎症性サイトカインの産生に影響を与えるかどうかを究明した。
RAW264.7細胞をサブコンフルエンスに達する3日間培養し、さらに LPS(100 ng/ml)添加後、5時間、DHMBA(0.1、1、10、100、 1000μM)添加または非添加でインキュベートした。LPS を添加しない場合 (図6A)、LPS(培養液中に100 ng/mlを添加)を添加した場合(図6B)、RAW264.7 細胞の数 は変化しなかった。
細胞数の変化が生じない同じ培養条件で、RAW264.7 細胞を培養して得られた培養液中のTN F-α(図 7A)、IL-6(図 7B)、IL-1β(図 7C)、またはPGE2 (図 7D)などの主要な炎症性サイトカインの産生を測定した。LPS 非存在下において、RAW264.7 細胞における IL-6、または IL-1β の産生は、DHMBA(100 または 1000μM)の添加により抑制された(図 7B およびC)。注目すべきは、LPS の処理により、TNF-α(図7A)、IL-6(図7B)、IL-1β(図7C)またはPGE2 (図 7D)の産生が著しく増加したことである。これらの増加は、DHMBA(1、10、100 または 1000μM)の添加によって抑制された。このように、RAW264.7 細胞における炎症性サイトカインの産生は、DHMBAにより抑制されることが判明した。
【0032】
DHMBAがサイトカイン産生に関与し、サイトカインの細胞内シグナル伝達過程に関連するタンパク質の発現レべルを調節するかどうかを解明した(図 8)。
RAW264.7 細胞を LPS(100 ng/ml)存在下で、DHMBA(10 μM)添加または無添加で5時間 in vitro インキュべートした。LPSなしのRAW264.7細胞の培養では、COX-1、COX-2、MAPK、phospho-MAPK、NF-κB p65 およびSTAT3のレべルは、対照と比較して、DHMBAによる処理により変化しなかった(図 8A および B)。RAW264.7 細胞の MAPK、phospho-MAPK、NF-κB p65 およびSTAT3のレべルは、LPS(100 ng/ml)添加で培養することにより増加した(図 8A およびC)。 これらの増加は、DHMBA(10μM)処理によって抑制された(図 8A および D)。 これらの結果は、DHMBA 処理が炎症性 RAW264.7 細胞におけるサイトカイン産生に関与するシグナル伝達因子のレベルを抑制することを示唆している。
【0033】
DHMBA は RAW264.7細胞の破骨細胞形成を抑制する。
RAW264.7細胞は破骨細胞形成研究のモデル細胞としてよく使われている。破骨細胞は単球-マクロファージ系から分化した細胞である。LPSはNF-κB シグナル経路を活性化することにより、RAW264.7 細胞の破骨細胞形成を刺激することが示されている。そこで、DHMBAがLPS で培養した RAW264.7 細胞の破骨細胞形成に影響を与えるかどうかを調べた。RAW264.7 細胞(24 ウェルプレートにおいて、 1 x 105 cells/1 ml per well)を 10% FBS, 1% P/S, 1% fungizone を含む DMEM 培養液中で3日間培養した。対照群(最終濃度として 1%エタノールを含有)または LPS(培養液中に100 ng/mlを含有)添加群に、 DHMBA (0.1、1、10、100μM) を添加または非添加で3日間培養後、古い培地 0.5 ml を LPS (100 ng/ml) または DHMBA (0.1、1、10、または 100 μM) を含む新しい培養液 (0.5 ml) に交換し、さらに 3 日間培養した。 LPS と DHMBA の両方を添加して、6 日間培養したところ(図 9A およびC)、LPS は RAW264.7 細胞の破骨細胞形成を亢進させた。この亢進は DHMBA(0.1、1、10、100μM)の添加を持って培養すると、抑制された(図 9A およびC)。
別の実験では、RAW267.4 細胞を DHMBA なしで LPS(100 ng/ml)存在下で3日間培養し、さらにLPS(100 ng/ml)を含む新鮮な培地に交換し、DHMBA(0.1、 1、10、100 μM)を添加して、 3 日間培養した。DHMBA は、LPS によって増強された破骨細胞形成の後期段階においても、抑制効果を発揮した(図 9B およびD)。これらの結果は、DHMBA がRAW264.7細胞のLPS刺激による破骨細胞形成を抑制することを支持するものであった(図 9B およびD)。
【0034】
考 察
新規フェノール系抗酸化物質である 3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (DHMBA) は、細胞内でラジカルを消去し、酸化ストレスを弱めるという2つの特性を持っている。DHMBAは、抗酸化物質として細胞機能の調節に関与している可能性がある。以前の研究で、DHMBAが多様なシグナル伝達経路を標的として転移性前立腺癌細胞の成長と活性を抑制することを示し、前立腺癌治療の新しい戦略を提供した。さらに本件発明者はDHMBAが抗炎症作用を示すかどうかを、in vitro のマウスマクロファージRAW264.7 細胞を用いて究明した。その結果、DHMBA は RAW264.7 細胞において、炎症性マクロファージの細胞数の減少、炎症性サイトカインの産生の抑制、破骨細胞形成の抑制といった抗炎症作用を示すことが見出された。DHMBAは、炎症性疾患の治療に有用であることが確認された。
【0035】
DHMBAによる培養は、RAW264.7 細胞の増殖を抑制し、細胞死を促進し、マクロファージの数を減少させた。DHMBAは、RAW264.7 細胞の増殖を促進することができるとの見解が知られている、 Ras、PI3 キナーゼ、Akt、MAPK、phospho-MAPK、mTOR の発現レベルを低下させ、またさらに、細胞増殖を抑制することが知られている、 p53、Rb、p21の発現レベルを上昇させた。DHMBAによるこれらの細胞シグナル関連タンパク質レベルの低下と細胞増殖抑制因子の増加は、この化合物がRAW264.7 細胞の増殖を阻害する基本的なメカニズムとして寄与しているものと考えられる。
【0036】
このことから、DHMBAは、細胞シグナル伝達や転写活性に関連する様々なタンパク質の発現を調節している可能性がある。さらに、アポトーシス細胞死に関与するカスパーゼー3および切断型カスパーゼー3のレベルがDHMBA処理により増加した。これらの増強は、アポトーシス細胞死を誘導する核DNA断片化の活性化を引き起こす可能性がある。このように、DHMBAは、細胞数の制御に関連する多様なタンパク質のレベルに影響を与える可能性がある。
【0037】
また、マクロファージRAW264.7 細胞の炎症活性を刺激するLPS の処理で、DHMBAはTNF-α、IL-6、IL-1βあるいはPGE2などの炎症性サイトカインの産生を強力に抑制することが見出された。これらの減少は、LPSとDHMBAの両方で培養しても RAW264.7 細胞の数が減少しない培養条件下で観察された。なお、DHMBAは、RAW264.7 細胞の数の変化とは無関係にサイトカイン産生を抑制することが明らかになった。LPS処理により、RAW264.7 細胞は、TNF-α、IL-6、IL- 1β または PGE2 の産生が増進されることが示されている。
本件発明者らはLPS処理により増強されたこれらのサイトカインの産生が、DHMBAを用いた in vitro の RAW264.7 細胞の培養により抑制されることを見出した。DHMBA 処理は、炎症条件下のサイトカイン産生抑制に有用なツールになり得るとの知見を得た。
【0038】
さらに、DHMBAが、LPS刺激による炎症性RAW264.7 細胞のサイトカイン産生を抑制する基本的なメカニズムを理解するために、さらなる研究を行った。LPSは、マクロファージRAW264.7 細胞の細胞膜上の Toll-like receptor 4 (TLR4) に結合し、そのLPS/TLR4 経路のシグナルが細胞内に伝達される。特に、TLR4 シグナルは、RAW264.7 細胞の NF-κB および MAPKシグナルを活性化する。また、LPSは、細胞内に内在するタンパク質や受容体に結合するという知見が集積されている。LPS処理による TNF-α,IL-6,IL-1β あるいは PGE2 の産生は、RAW264.7 細胞における細胞内シグナル伝達 NF-κB p65やMAPKに関与していると考えられる。COX-1とCOX-2は、RAW264.7 細胞における PGE2 の産生に関与している。 RAW264.7 細胞を LPS で培養すると、NF-κB p65、MAPK およびリン酸化 MAPK のレベルが上昇することが明らかになった。これらの増加は、DHMBA 処理 により抑制された。この抑制は、RAW264.7 細胞の LPS による炎症性サイトカイン産生を抑制することに関連していると考えられる。さらに、DHMBA は、LPSとTLR4や細胞内受容体タンパク質との結合を阻害し、RAW264.7 細胞における炎症性サイトカインの産生を弱めている可能性がある。 また、DHMBA は RAW264.7 細胞における炎症性サイトカインの産生に関連する転写活性を調節していると推測されている。さらに、DHMBAは抗酸化物質としてサイトカイン産生の抑制にも関与している可能性がある。
【0039】
興味深いことに、STAT3のレベルはLPS処理によって上昇し、この増加は RAW264.7 細胞をDHMBAと共に培養することによって抑制された。STAT3は IL-6 の細胞内シグナル伝達に関与している。LPS刺激により、RAW264.7 細胞では IL-6 と IL-1βが産生された。これらのサイトカインは、オートクライン作用でRAW264.7 細胞の活性に影響を与える可能性がある。 DHMBA処理により、RAW264.7 細胞で産生された IL-6 と IL-1β を介したシグナル伝達過程が阻害される可能性がある。
【0040】
LPSはRAW264.7 細胞において NF-κB シグナルの活性化を介して破骨細胞形成を刺激する。LPS処理により、マクロファージは TLR4 シグナルが増進され、NF-κB 関連シグナル伝達系が活性化される。LPSでの培養により亢進した破骨細胞形成は、RAW264.7 細胞にDHMBAを投与することにより抑制されることが見出された。この抑制は破骨細胞形成の初期および後期段階でも DHMBA処理により観察された。破骨細胞形成に対するDHMBAの抑制効果は、DHMBA処理による NF-κB p65 レベルの低下に関与する NF-κB シグナルの抑制に関連すると推定される。
【0041】
結 論
本発明は、DHMBAがRAW264.7 細胞の増殖を抑制し、細胞死を促進することで、炎症性マクロファージの数を減少させることを実証している。また、DHMBAは、炎症性サイトカインの産生を抑制することも実証された。さらに、DHMBA処理は, LPS刺激によるRAW264.7細胞の破骨細胞形成を抑制した。DHMBAが生体内で抗炎症作用を示すかどうかはまだ解明されていないが、本発明により、in vitro のモデルマウスマクロファージRAW264.7 細胞において、DHMBAは抗炎症作用が発揮されることが見出された。DHMBAは、非常に低い毒性を持つ機能性因子である。DHMBAは、炎症の予防と治療における新しい戦略を提供し、炎症病態の治療において、薬物的に重要であると考える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9